説明

Helicobacter種による感染症の予防および治療用経口製剤

【課題】Helicobacter種(特に、H.pylori)の感染によって引起される哺乳動物の消化管(特に、ヒトの胃)の粘膜の炎症の予防および/または治療用の経口製剤の提供。
【解決手段】少なくとも1種類のキサントフィルの予防上および/または治療上の有効量を含んでなる。最も好ましいキサントフィルは、油に可溶性のアスタキサンチンであり、好ましくは脂肪酸でエステル化されている天然アスタキサンチンである。経口製剤は、生産藻類Haematococcus種の細胞壁から誘導されるような炭水化物構造をさらに含んでなることがある。この製剤は、予防上および/または治療上の有効量の水溶性酸化防止剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)、を含んでなることもできる。経口製剤は、分離した単位投与量でまたは食物と混合して提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物の消化管の粘膜の炎症の予防および/または治療用の経口製剤に関する。この製剤は、少なくとも1種類のキサントフィル、好ましくは天然アスタキサンチン、を含んでなる。
【0002】
発明の背景
この数年間に、Helicobacter pyloriは、ヒト胃炎の主因として分類されている。
【0003】
様々なHelicobacter種が様々な動物に感染するが、胃粘膜や粘膜下組織にコロニー形成するには[Wadstroem T et al., Aliment Pharmacol Ther 1996, 10 (suppl 1): 17-28; Valkonen KH et al., Infect immun 1994, 62:3640-3648; Moran AP et al., J Appl Bacteriol 1993, 75: 184-189; Wadstroem T et al., Eur J Gastroenterol Hepatol 1993, 5 (suppl 2):512-515]、胃表面粘膜層を通り抜けなければならない[O'Toole PW et al., Mol Microbiol 1994, 14:691-703]。Helicobacterは鞭毛運動性生物であり、この病原菌の独特な螺旋形に伴う螺旋運動によって胃粘膜層を速やかにかつ効率的に通過すると考えられる(Helicobacterは、螺旋状を意味するラテン語のHelixに由来している)。
【0004】
Helicobacter pyloriは、初期感染時に胃粘膜のバリヤー機能を劇的に変化させ(すなわち、B型胃炎)、胃上皮の疎水性被膜を破壊することがある。これにより、酸やペプシンが内腔から粘膜へ逆流し、胃や十二指腸に消化性潰瘍を引起すことがある。この粘膜バリヤーの破壊は、ある種の食物関連の発癌性物質のような食物中の多数の物質の胃粘膜への吸収にも影響を及ぼすと考えられる。
【0005】
アスタキサンチンなどのキサントフィルは、炭素および水素の他に分子中に酸素を含むカロチノイドの大きな群である。カロチノイドは、植物、真菌および幾つかの細菌によって新たに産生される[Johnson E.A. and Schroeder W.A., 1995, Adv in Biochem Engin. Biotechn., 53: 119-178]。生物学的試験において、アスタキサンチンは、他のカロチノイドと比較して明らかに最良の酸化防止特性を有することが示されている[Miki W., 1991, Pure and Appl Chem 63 (1): 141-146]。
【0006】
現在では、Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物の消化管粘膜の炎症の治療には、Losec(オメプラゾール)のようないわゆるプロトンポンプ阻害薬が主として用いられ、また胃潰瘍の場合には、様々な抗生物質(これは耐性菌株の発生を引起すことがある)が用いられる。
【0007】
発明の説明
本発明は、Helicobacter種の感染によって引起された哺乳動物消化管粘膜の炎症の予防および/または治療を目的とする経口製剤であって、予防上および/または治療上の有効量の少なくとも1種類のキサントフィルを含んでなる、経口製剤を提供する。
【0008】
本発明による経口製剤は、様々な種類のキサントフィルまたは同じキサントフィルの異なる形態の混合物、例えば合成アスタキサンチンと天然アスタキサンチンの混合物、を含んでなることができる。
【0009】
本発明の具体的態様では、哺乳動物消化管はヒトの胃であり、Helicobacter種はH. pyloriである。
【0010】
Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物消化管粘膜の炎症の治療におけるキサントフィルの予防および治療作用の機序は知られていないが、油脂に可溶性のキサントフィルの酸化防止特性が、Helicobacter種がコロニー形成することができないように粘膜の疎水性被膜の保護に重要な役割を果たしていると考えられる。
【0011】
本発明の好ましい態様では、キサントフィルは食物等級の油に溶解される。
【0012】
もう一つの好ましい態様では、キサントフィルの種類はアスタキサンチンであり、特に脂肪酸によってエステル化した形態のアスタキサンチンである。
【0013】
更にもう一つの好ましい態様では、アスタキサンチンは、天然供給源、特に藻類のHaematococcus種の培養物に由来している[Renstroem B. et al., 1981, Phytochem 20 (11): 2561-2564]。
【0014】
本発明による経口製剤は、更に炭水化物構造、例えばリポ多糖類、多糖類および糖タンパク質を含んでなることもできる。
【0015】
現在は、本発明の最も好ましい態様は、脂肪酸でエステル化した形態のアスタキサンチンを含む藻類粉を、部分的に破壊された細胞壁中の天然油や天然炭水化物構造の小滴に溶解したものを含んでなる。
【0016】
本発明の経口製剤は、風味料や、予防および/または治療上の有効量の水溶性酸化防止剤、特にアスコルビン酸(ビタミンC)のような予防および/または治療に用いる薬理学上許容可能な不活性または活性な添加成分を含んでなることもできる。
【0017】
経口製剤は、分離された単位投与量で、または食物と混合して提供される。分離した単位投与量の例は、錠剤、ゼラチンカプセル、および所定量の溶液、例えば油溶液、またはエマルション、例えば油中水または水中油エマルションである。本発明の製剤を配合することができる食物の例は、ヨーグルト、チョコレートおよびシーリアルのような酪農製品である。
【0018】
本発明のもう一つの態様は、上記哺乳動物に本発明による経口製剤を投与することを含んでなる、Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物消化管粘膜の炎症の予防および/または治療方法、に関する。
【0019】
本発明の活性成分の一日投与量は、通常はアスタキサンチンについて計算すれば、ヒトに対して0.01〜10mg/kg体重の範囲であるが、実際の投与量は哺乳動物種や個々の種特異的生物学的作用によって変化する。
【0020】
実験
実験に用いられる経口製剤は、AstaCarotene AB(スウェーデン、Gustavsberg)製の藻類Haematococcus種の培養によって商業的に生産されているキサントフィルアスタキサンチンである。
【0021】
他の供給源からのアスタキサンチンや他のキサントフィルも同様に、本発明の目的に有用であることが期待される。しかしながら、藻類由来のアスタキサンチンを用いる利点は、アスタキサンチンが脂肪酸でエステル化した形態で存在し[Renstroem B. et al.,同上]、このエステル化アスタキサンチンは遊離アスタキサンチンよりも操作や保存の際により安定である。
【0022】
天然アスタキサンチンは、藻類の他に真菌および甲殻類からも得ることができる[Johnson E.A. and Schroeder W.A., 同上]。
【0023】
Balb/cAマウス(56〜8週齢、体重28〜30g)に、H. pyloriを108cfuをリン酸緩衝液に溶解したものを胃内挿入管を介して胃に投与することによって感染させた。治療は、1日置きに3回行った[Aleljung P. et al., 1996, FEMS Immunol Med Microbiol., 13: 303-309]。
【0024】
14日後に、10匹のマウスを屠殺し、胃生験材料上で培養を行い、H. pyloriを単離した。培養には7日間かかる。
【0025】
H. pyloriを感染させてから21日後に、残りの動物の半数に動物当たり、1日当たり0.3mgアスタキサンチンに相当する藻類粉を補足した試料を10日間投与した。
【0026】
30日目に、それぞれの群の動物の半数を屠殺し、上記と同様にして培養を行った。
【0027】
40日目に、残りの動物を屠殺し、上記と同様にして培養を行った。
【0028】
結果を第1表に示す。
【表1】

【0029】
第1表の結果から、アスタキサンチンを含む藻類粉は治療効果を有し、予防目的に用いることができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物消化管粘膜へのHelicobacter種の感染の予防および/または治療用の経口製剤であって、少なくとも1種類のキサントフィルの予防上および/または治療上の有効量を含んでなる、経口製剤。
【請求項2】
哺乳動物消化管粘膜へのHelicobacter種の感染を予防および/または治療することによる、Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物消化管粘膜の炎症の予防および/または治療用の経口製剤であって、少なくとも1種類のキサントフィルの予防上および/または治療上の有効量を含んでなる、経口製剤。
【請求項3】
哺乳動物消化管がヒトの胃であり、Helicobacter種がH. pyloriである、請求項1または2に記載の経口製剤。
【請求項4】
キサントフィルの種類がアスタキサンチンおよび/またはアスタキサンチンの脂肪酸エステルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項5】
アスタキサンチンが藻類Haematococcus種の培養物である、請求項4に記載の経口製剤。
【請求項6】
炭水化物構造および/または水溶性酸化防止剤のいずれか1種以上をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項7】
水溶性酸化防止剤がアスコルビン酸(ビタミンC)である、請求項6に記載の経口製剤。
【請求項8】
分離した単位投与量でまたは飲食物と混合して提供される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の経口製剤。
【請求項9】
錠剤、カプセル、または溶液の形態であって、飲食物と混合して提供される、請求項8に記載の経口製剤。
【請求項10】
一日投与量がアスタキサンチン換算でヒトに対して0.01〜10mg/kg体重となるものであって、飲食物と混合して提供される、請求項8または9に記載の経口製剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の経口製剤を含んでなる、飲食物。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の経口製剤を、ヒトを除く哺乳動物に投与することを含んでなる、Helicobacter種の感染によって引起される哺乳動物消化管粘膜の炎症の予防および/または治療方法。

【公開番号】特開2010−111689(P2010−111689A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295816(P2009−295816)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2006−32853(P2006−32853)の分割
【原出願日】平成10年2月5日(1998.2.5)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】