説明

I型アレルギー抑制剤及びI型アレルギーの抑制方法

【課題】安全性が高く、手軽に経口摂取でき、摂取することでI型アレルギーを特異的に抑制し、花粉症や炎症やアレルギー疾患の治療または予防に好適なI型アレルギー抑制剤、および該I型アレルギー抑制方法を提供すること。
【解決手段】有効成分としてサラシア属植物、特にサラシア レティキュラータ(S. reticulata)或いはサラシア オブロンガ(S. oblonga)等の葉および幹などの微粉砕物、或いはこれらの溶媒抽出物を含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤であり、また該I型アレルギー抑制剤を経口投与することからなるI型アレルギー抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物を利用したI型アレルギー抑制剤及び該抑制剤を含有するI型アレルギーの発症予防食品に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等のアレルギー疾患は、I型アレルギー(アナフィラキシー型)に分類される疾患であり、該疾患の発症までのアレルギー反応において、IgE抗体が肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球という白血球に結合し、そこに抗原が結合するとこれらの細胞がヒスタミンなどの生理活性物質(ケミカルメディエーター)を放出し、それにより血管の拡張・透過性亢進などがおこり、浮腫、掻痒などの症状があらわれることが知られている。
【0003】
すなわち、I型アレルギー疾患の発症は、抗原(アレルゲン)の侵入により、該抗原(アレルゲン)に特異的な抗体の産生が開始される段階と、再度の抗原(アレルゲン)の進入によって抗原抗体反応が惹起され、ヒスタミンなどのケミカルメディエーター、並びにIL(インターロイキン)−4、IL−5、IL−6及びIL−13等のTh2型サイトカインが放出され、好酸球浸潤等を誘導して標的組織に炎症を引惹き起こす段階とからなる。
【0004】
従来、I型アレルギーの治療法としては、アレルゲンを主成分とする注射剤を定期的に投与する減感作療法等が知られているが、該治療法は2〜3年の長期間の通院が必要となり、負担が大きいという問題がある。またI型アレルギー症状の抑制剤としては、IgE抗体産生のケミカルメディエーターであるヒスタミン拮抗剤、遊離抑制剤、及び合成阻害剤、自律神経作用薬、並びにステロイド剤等が知られているが、これらは抗コリン作用や眠気等の副作用を生じるという問題があり、まだ、充分とは言えない。
【0005】
このような背景のもとで副作用のないI型アレルギー症状の抑制剤が広く求められており、特に、従来から経口的に摂取されており、また手軽に摂取することができる天然の素材であってこのような機能を持つものがあれば、その効果は大きいものといえる。
したがって、例えば、アレルゲンが侵入してもIgE抗体の産生量を抑えられれば、I型アレルギーが抑制されるという考えから、安全性の高い天然の植物由来の抽出物からなるIgE抗体産生抑制剤が提案されている(特許文献1〜3)。
また、I型アレルギーによって惹起される症状は多くあるが、とくに花粉症の抑制に効果のある安全性の高い天然物や食品の提案(特許文献4〜9)、或いはアトピー性皮膚炎の抑制に効果のある安全性の高い天然物や食品の提案(特許文献10)などがなされている。
【0006】
しかしながら、天然由来であり、安全な食経験のある素材であってI型アレルギーを抑制する素材は、数の面でも、また活性の面でもいまだ充分なものとはいえない。更に、I型アレルギー抑制活性が認められた天然素材でも、その抑制活性の機構について明らかになっているものも多くはない。
【0007】
かかる現状下で、本発明者等は天然由来の素材について種々検討した結果、古くから保健作用があり、愛用されてきたサラシア属植物の葉又は/及び幹の成分がI型アレルギー、特に花粉症およびアトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の発症を抑制することを明らかにした。また、その抑制効果のメカニズムはヒスタミンによる血管透過性亢進作用を抑制することを介していることを明らかにし、これらの発見に基づいて、本発明を完成するに至った。
インド、スリランカ地方で古くから愛用されてきたサラシア属植物の抽出液、特に葉および幹の抽出液にI型アレルギー抑制効果、さらに花粉症およびアトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の治療または予防に効果のあることは従来、報告されていない。その点で、本発明は極めて特異的なものである。
【0008】
【特許文献1】特開2003−002811号公報
【特許文献2】特開2004−043359号公報
【特許文献3】特開2006−265115号公報
【特許文献4】特開平09−056364号公報
【特許文献5】特開平11−032265号公報
【特許文献6】特開2003−159028号公報
【特許文献7】特開2003−235509号公報
【特許文献8】特開2005−041807号公報
【特許文献9】特開2004−187593号公報
【特許文献10】特開2006−022121号公報
【0009】
【非特許文献1】Yoshikawa M., Murakami T., Shimada H., Matsuda H., Yamahara J., Tanabe G., Muraoka O., Tetrahedron Lett., 38, 8367-8370 (1997)
【非特許文献2】Yoshikawa M., Murakami T., Yashiro K., Matsuda H., Chem. Pharm. Bull., 46, 1339-1340 (1998)
【非特許文献3】Yoshikawa M., Nishida N., Shimoda H., Takada M., Kawahara Y., Matsuda H., Yakugaku Zasshi, 121, 371-378 (2001)
【非特許文献4】Matsuoka O., Ying S., Yoshikai K., Matsuura Y., Yamada E., Minematsu T., Tanabe G., Matsuda H., Yoshikawa M., Chem. Pharm. Bull., 49, 1503-1505 (2001)
【非特許文献5】Yoshikawa M., Ninomiya K., Shimoda H., Nishida N., Matsuda H., Biol. Pharm. Bull., 25, 72-76 (2002)
【非特許文献6】Yoshikawa M., Morikawa T., Matsuda H., Tanabe G., Muraoka O., Bioorg. Med. Chem., 10, 1547-1554 (2002)
【非特許文献7】Yoshikawa M., Shimoda H., Nishida N., Takada M. Matsuda H., J. Nutr., 132, 1819-1824 (2002)
【非特許文献8】Matsuda H., Murakami T., Yashiro K., Yoshikawa M., Chem. Pharm. Bull., 47, 1725-1729 (1999)
【非特許文献9】Kishi A., Morikawa T., Matsuda H., Yshikawa M., Chem. Pharm. Bull., 51, 1051-1055 (2003)
【非特許文献10】Morikawa T., Kishi A., Pongpiriyadacha Y., Matsuda H., Yshikawa M., J. Nat. Prod., 66, 1191-1196 (2003)
【非特許文献11】Yoshikawa M., Pongpiriyadacha Y.、Kishi A., Kageura T., Wang T., Matsuda H., Yakugaku Zasshi, 123, 871-880 (2003)
【非特許文献12】古賀、金高、芳野、第一回サラシア属植物シンポジウム講演要旨集、50-56頁 (2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明は、前記した従来における問題を解決し、安全性が高く、経口摂取が容易であり、摂取することによりI型アレルギーを抑制するためにヒスタミンによる血管透過性亢進作用を特異的に抑制し、花粉症やアトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の治療又は予防に好適なI型アレルギー抑制剤、及び該I型アレルギー症状抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明の一つの基本的態様は、サラシア属植物の葉及び/又は幹の微粉砕物を有効成分として含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤である。
【0012】
また、別の態様としての本発明は、サラシア属植物の葉及び/又は幹の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤である。
【0013】
より具体的には、本発明は、サラシア属植物の葉及び/又は幹の抽出物が、水、温〜熱水、或いはエタノール溶液による抽出物であることを特徴とするI型アレルギー抑制剤である。
【0014】
更に具体的には、本発明は、サラシア属植物が、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(S. oblonga)、サラシア プリノイデス(S. prinoides)、サラシア チネンシス(S. chinensis)、サラシア マクロスペルマ(S. macrosperma)及びサラシア フルチコーサ(S. fruticosa)から選択される1種又は複数種であるI型アレルギー抑制剤である。
【0015】
最も具体的には、本発明は対象となるI型アレルギーが、花粉症、アトピー性皮膚炎或いはアレルギー性鼻炎であるI型アレルギー抑制剤である。
【0016】
さらに本発明は、別の態様として前記したI型アレルギー抑制剤を含有するI型アレルギーの予防食品であり、またこれらのI型アレルギー抑制剤及び/又は食品の使用であり、更にI型アレルギーを抑制する方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明により安全性が高く、経口摂取が容易であり、経口摂取することによりI型アレルギーを特異的に抑制し、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー鼻炎などの疾患の治療又は予防に好適なI型アレルギー抑制剤が提供される。
また、本発明が提供するI型アレルギー抑制剤を用いることにより、安全であり且つ簡便な手段によるI型アレルギー抑制方法が提供される点で、本発明は極めて特異的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は上記したようにその基本は、サラシア属植物の葉及び/又は幹の微粉砕物、或いは、サラシア属植物の葉及び/又は幹の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤である。
【0019】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、サラシア属(Salacia属)の抽出物、特に葉及び幹の抽出物が、ヒスタミンによる血管透過性亢進作用の亢進を特異的に抑制するとの新知見を得た。
ところで、デチンムル科(Hippocrateaceae)のサラシア属植物は、スリランカ、インド、タイ、インドネシア、マレーシアなどの熱帯地方に分布し、世界に約120種が知られている。スリランカには、サラシア レティキュラータ(S. reticulata)とサラシア プリノイデス(S. prinoides、syn.:S. chinensis)の2種類が存在する。インドには10種類のサラシア属植物の存在が知られているが、とくに、サラシア プリノイデス、サラシア マクロスペルマ(S. macrosperma)、サラシア フルチコーサ(S. fruticosa)および主にインド南西部に生育するサラシア オブロンガ(S. oblonga)に薬効があることで知られている。また、タイにはS. chinensisが広く分布している。
【0020】
これらサラシア属植物の薬効は古くから知られており、スリランカの薬用植物書には、S. reticulataの根皮をリュウマチや淋病および皮膚病の治療に用いるほか、糖尿病の初期の治療にしばしば用いると記載されている。また、S. prinoidesの根を煎じたものは、無月経や月経困難の治療、堕胎薬として効果があると言われている。
インドのアーユル・ヴェーダ医学では、S. chinensis、S. fruticosa、S. macrospermaの根を煎じた液を糖尿病の治療に用いると共に、無月経・月経困難・性病の治療にも用いられている。また、S. oblongaの根を煎じた液やその粉末物、および胡麻油での抽出物は、リュウマチ、淋病、掻痒などの病気の治療に用いられる。タイでも、S. chinensisの煎じた液は緩下剤や筋肉痛、糖尿病の改善剤に用いられるほか、駆風や強壮効果があると伝承されている。
【0021】
これらの永年の伝承をもとに、サラシア属植物の抽出試料を対象にして多くの機能研究が行われ、多くの活性成分が葉、幹、根などの様々な部位の抽出試料に含まれていることが明らかになった。
たとえば、S. reticulataの根および幹の水抽出エキスの血糖上昇抑制作用および活性成分が報告されている(非特許文献1及び2)。さらに、S. reticulataの根および幹の水抽出エキスに体重増加の抑制作用、内臓脂肪量抑制作用、血清中性脂質減少作用、膵リパーゼおよびリポプロテインリパーゼ阻害作用とその活性成分が報告されている(非特許文献3〜7)。
また、インド産S. oblongaとタイ産S. chinensis の根や幹の抽出エキスに、糖尿病合併症と関わりのあるアルドース還元酵素に対する阻害活性とその活性成分が明らかにされている(非特許文献8〜11)。
【0022】
サラシア属植物は、通常は根や幹部が薬用とされてきたが、インドの薬物書には葉部の煎じ液も糖尿病の治療に用いられていると記載されている。
事実S. reticulataおよびS.oblonga葉部の水およびアルコール抽出エキスには、血糖値抑制効果およびアルドース還元酵素阻害活性が認められている(非特許文献12)。
【0023】
このように、サラシア属植物の葉、幹、根のそれぞれの部位の抽出エキスには、様々な活性が認められている。
しかしながら、サラシア属植物の葉や幹の成分にI型アレルギーに対する抑制効果、さらには、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などに対する抑制効果のあることについては全く知られておらず、本発明者らの新たな知見であり、本発明はこの知見に基づいている。
【0024】
本発明が提供するI型アレルギー抑制剤における有効成分としてのサラシア属植物は、サラシア属植物であればどの種類に属するものでもよいが、とくにサラシア レティキュラータ(S. reticulata)、サラシア オブロンガ(S. oblonga)、サラシア プリノイデス(S. prinoides、syn.:S. chinensis)、サラシア マクロスペルマ(S. macrosperma)、サラシア フルチコーサ(S. fruticosa)が望ましい。
また、その部位としては、従来から食品素材として広く用いられている葉や幹が望ましいが、必要に応じて根も用いることができる。I型アレルギー抑制活性の面からは、特に葉の部分が望ましい。さらに、必要に応じて、これらの部位を混合して用いることができる。また更に、必要に応じて、他の植物成分と混合して用いることもできる。
【0025】
本発明が提供するI型アレルギー抑制剤としては、上記したサラシア属植物の葉或いは幹の部位を細かく微粉砕し、その微粉砕物をそのまま用いることができる。
微粉砕物の粉砕粒度は、粒子径として1μmから10mm程度でよいが、とくに10μmから1mm程度が、粉砕に要するエネルギーと摂取しやすさの面から望ましい。また、葉や幹を荒粉砕して、お湯で濾して飲む飲茶形式でもよい。その際に、他の茶葉とブレンドして用いることもできる。
【0026】
また、本発明が提供するI型アレルギー抑制剤としては、サラシア属植物の葉或いは幹の部位を水、温〜熱水、或いはエタノールの溶媒で抽出した抽出成分を用いてもよい。抽出液を液状のまま摂取しても、乾燥して粉末化したものを粉末状、顆粒状、カプセル状にして摂取してもよい。その際、根の部分も併せて摂取しても構わない。また、必要に応じて、抽出残渣もあわせて摂取することもできる。
【0027】
抽出は、サラシア属植物の試料を1に対して水、温〜熱水、或いはエタノール溶液を1〜100の範囲で混合することができるが、5〜20の割合で溶媒を混合することが特に望ましい。保持する際の温度は、10℃〜110℃が好ましいが、50℃〜100℃の範囲がより好ましい。保持時間は、10分以上が好ましく、30分〜24時間がより好ましい。
サラシア属植物試料は、例えば前記サラシア属植物の葉或いは幹の切断物、粉砕物、乾燥物、および乾燥粉砕物でよい。
【0028】
抽出した後には、遠心分離、ろ過などの操作によって、抽出液を得ることができる。抽出残渣は液から分離しやすいので通常の温和な条件で分離可能である。抽出残渣も必要に応じて、抽出成分とともに摂取可能である。
得られた抽出液の濃縮液、希釈液、或いは該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、これらの粗精製物、及び精製物などをI型アレルギー抑制剤として用いることができる。
【0029】
抽出成分は減圧濃縮、凍結乾燥或いは真空乾燥などによって乾燥・粉末化することもできるし、一般的な粉末化基剤とともに混合し、粉末化することもできる。また、顆粒化、粒状化、錠剤化、さらにはカプセル化して摂取することができる。これらの製剤化は、いずれも定法に従って行うことができる。また、これらの製剤化をする際に、他の有効成分を混合することもできる。
【0030】
本発明が提供するI型アレルギー抑制剤としては、前記サラシア属植物の葉或いは幹の微粉砕物、或いはその抽出成分を有効成分として含む限り、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記サラシア属植物の葉或いは幹を熱水抽出して得た抽出液の茶飲料であってもよく、前記サラシア属植物の葉或いは幹抽出物の濃縮物や乾燥物等であってもよく、前記サラシア属植物の葉或いは幹抽出物を公知の方法により製剤化したものであってもよい。
【0031】
前記サラシア属植物の葉或いは幹抽出物を製剤化してなる前記I型アレルギー抑制剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、液剤などが挙げられる。
前記固形剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、コーティング法により腸溶性コーティング剤などが挙げられる。前記固形剤としては、経口固形製剤の製造時に用いられる添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。前記添加剤としては、例えば、カリウム塩、酢酸、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、増量剤、被覆剤、酸味料、pH調整剤、品質改良剤、増粘安定剤、及び保存料などが挙げられる。
【0032】
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記サラシア属植物の葉抽出物を濃縮したもの、乳化剤を用いて水に溶解・分散させたもの、エチルアルコール等の可溶性溶媒に溶解させた後水に溶解させたもの、などが挙げられる。
【0033】
さらに、本発明が提供するI型アレルギー抑制剤には、その抑制効果を高める目的で、その他の成分を配合することができる。
そのような他の成分としては、例えば、ポリフェノール、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタン酸)、プロポリス、アガリクス抽出物、クロレラ原末、スピルリナ原末、ビフィズス菌、乳酸菌、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類(亜鉛、カルシウム、マグネシウム等)などが挙げられる。
【0034】
本発明のI型アレルギー抑制剤は、投与後、被投与個体のケミカルメディエーターであるヒスタミンによる血管透過性亢進作用を抑制する作用を有する。
前記血管透過性亢進作用を測定する方法としては、例えばマウス腹壁色素浸潤法[H. Kataoka, A. Tsuda, et al., Biol. Pharm. Bull., 20, 714 (1997)]がある。
【0035】
本発明が提供するI型アレルギー抑制剤の使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、健康食品、医薬品、及び医薬部外品などとして使用することができ、これらのものは、後述の本発明のI型アレルギー抑制方法に使用することができる。
また、必要に応じて他の成分を配合してなる後述の抗炎症剤、及び抗アレルギー剤の成分として使用することができる。
【0036】
さらに、前記サラシア属植物の葉或いは幹の熱水抽出物を、茶飲料として使用することにより、また、一般食品や一般飲料に含有させることにより、後述するI型アレルギー抑制用飲食物の成分として好適に使用することができる。
本発明のI型アレルギー抑制方法は、前記本発明のI型アレルギー抑制剤を経口投与することにより、I型アレルギーを抑制する方法である。
【0037】
本発明のI型アレルギー抑制剤の摂取量としては、アレルギー症状等のレベルに応じて適宜選択することができるが、前記サラシア属植物の葉抽出物の原料である前記サラシア属植物の葉の乾燥物重量として、被投与個体の体重1kgあたり0.02g/日以上が好ましく、0.2g/日以上がより好ましい。
【0038】
本発明のI型アレルギー抑制剤の経口投与方法としては、前記I型アレルギー抑制剤の剤型等に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料又は液剤として飲用する方法、食品や飲料に含有させて該食品や該飲料を飲食する方法、固形剤として飲料等とともに服用する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明のI型アレルギー抑制方法は、前記の本発明による血管透過性亢進作用を抑制するI型アレルギー抑制剤を経口投与することにより、容易にヒスタミンによる血管透過性亢進作用を抑制することが可能であり、花粉症、アトピー性皮膚疾患、アレルギー性鼻炎等を容易に改善することができる。
【0040】
本発明のI型アレルギー抑制剤は、本剤に必要に応じて適宜選択したその他成分を混合した抗炎症剤としても使用することができる。その他の成分としては、抗炎症効果を高める目的で、公知の抗炎症剤を添加してもよい。
また、本発明のI型アレルギー抑制剤は、本剤に必要に応じて適宜選択したその他成分を混合した抗アレルギー剤としても使用することができる。その他の成分としては、抗アレルギー効果を高める目的で、公知の抗アレルギー剤を添加してもよい。
【0041】
本発明のI型アレルギー抑制用飲食物は、前記I型アレルギー抑制剤を含有している飲食物である。前記I型アレルギー抑制剤を含有する前記飲食物としては、サラシア属植物の葉或いは幹の粉末物を熱水抽出した飲茶の形が最も好ましい。しかし、摂取形式に特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば清涼飲料(発泡性飲料、果実飲料、着香飲料、着香シロップ、乳酸飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、豆乳類等)、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;ソース、たれ、スパイス等の調味料;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;そば、うどん、はるさめ、餃子の皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の飲料及び食品、並びに健康・栄養補助食品などが挙げられる。
【0042】
I型アレルギー抑制用飲食物における本発明のI型アレルギー抑制剤の添加量は、対象となる飲食物の種類に応じて異なり一概には規定することができないが、飲食物本来の味を損なわない範囲で添加すれば良い。
本発明のI型アレルギー抑制用飲食物は、日常的に経口摂取することが可能であり、摂取することにより、添加した前記I型アレルギー抑制剤の作用により、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等のアレルギー症状、特に、アレルギー疾患による炎症等を改善することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
実施例1:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の葉の微粉砕物水懸濁液について、I型アレルギー抑制活性の評価
[評価資料]
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の乾燥葉を、通常の方法で約30メッシュの粒度に粉砕した微粉砕物の水縣濁液。
[方法]
マウスI型アレルギーモデルとしてマウス腹壁色素浸潤法[Biol. Pharm. Bull., 20, 714 (1997)]を用い、分泌されたヒスタミンによる血管透過性亢進作用の程度を評価した。まず、初期感作として、初期感作溶液(シグマ社製オブアルブミンの2mg/mL水溶液と三光純薬社製のフロイントの不完全アジュバントを1:1で混合した溶液)50μLをマウスに腹腔内注射した。
初期感作から9日後、評価試料を0.5%トラガカントゴム溶液500μLに溶解し、マウスに経口投与した。投与量は、100、200及び400mg/kg/体重を用いた。試料を投与しなかった群をコントロール群とし、初期感作を行わなかった群を健常群とした。
陽性対照としては、抗ヒスタミン剤(ヒスタミンH1受容体拮抗剤)として知られるジフェンヒドラミンを1mg/kg/体重の投与量で用いた。各グループのマウスの匹数は6〜8匹ずつとした。
【0045】
評価試料を投与して1時間後、マウスの尾静脈に2%エバンスブルー水溶液0.1mLを注射した。ジエチルエーテル麻酔下で腹部を切開し、腹壁内にチャレンジ溶液(100μg/mLオブアルブミン水溶液)50μLを注射(腹壁皮下注射)した。7分後、頚椎脱臼によりマウスを安楽死させて腹壁を切除した。腹壁の画像をスキャナーでパソコンに取り込み、血管から浸潤した色素(エバンスブルー)の面積を測定した。
なお、データは、平均値±標準偏差で表した。コントロール群の平均値に対する他の群の平均値の差の検定には、パラメトリック法であるステューデントのt−検定を用い、p<0.05を統計学的に有意差有りとした。
【0046】
[結果]
その結果を、下記表1に示した。
表1:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の葉の微粉砕物水懸濁液についてのI型アレルギー抑制活性評価結果
【0047】
【表1】

【0048】
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の葉粉砕物の水懸濁液を経口投与した場合、100mg/kg/体重の投与量では効果が見られなかったが、200及び400mg/kg/体重の投与量では、有意な抗マウスI型アレルギー作用を示していた。
【0049】
実施例2:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の幹水抽出液のI型アレルギー抑制活性評価
[評価資料]
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の幹微粉砕物の水抽出液の粉末。
その調製:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の幹微粉末を9倍容の水で50℃、2時間抽出した後、5000rpmで20分間遠心分離した上清を抽出液とした。この抽出液の抽出成分を粉末化するために、デキストリンを粉末基剤として通常の方法により粉末化した。なお、この粉末試料のうち50%が抽出成分である。
[方法]
実施例1の方法と同様の方法で評価した。
【0050】
[結果]
その結果を、下記表2に示した。
表2:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の幹の水抽出成分の粉末試料のI型アレルギー抑制活性評価結果
【0051】
【表2】

【0052】
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の幹水抽出成分の粉末試料を経口投与した場合、100mg/kg/体重の投与量では効果が見られなかったが、200及び400mg/kg/体重の投与量では、ほぼ葉の微粉砕物と同様に、有意な抗マウスI型アレルギー作用を示していた。
【0053】
実施例3:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)及びサラシア オブロンガ(S. oblonga)の葉微粉砕物の水抽出液のI型アレルギー抑制活性評価
[評価資料]
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)及びサラシア オブロンガ(S. oblonga)の葉微粉末を、実施例2の評価試料の水抽出で述べたのと同じ条件で抽出して葉抽出液を得た。
得られた葉抽出液を減圧蒸留することによって抽出エキスを得、この抽出エキスを評価試料として用いた。
[方法]
実施例1の実験方法と同様の方法で評価した。
[結果]
その結果を下記表3に示した。
表3:S. reticulataおよびS. oblongaの葉の水抽出エキスの粉末試料のI型アレルギー抑制活性評価結果
【0054】
【表3】

【0055】
S. reticulata 及びS. oblongaの葉微粉末の水抽出物を経口投与した場合、200及び400mg/kg/体重の投与量で有意な抗マウスI型アレルギー作用を示し、特にS. reticulataの葉微粉末の水抽出物では400mg/kg/体重の投与量で特に強い効果が見られた。
これらのS. reticulataやS. oblongaの効果は、陽性対照として用いたジフェンヒドラミンの効果よりは弱かったが、試料が安全な天然複合成分であることから考えると、非常に効果のあるI型アレルギー抑制剤ということができる。
【0056】
実施例4:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)葉の熱湯抽出茶の花粉症に対する効果
以下の要領で、サラシア レティキュラータ(S. reticulata)葉の熱湯抽出茶のヒトに対する効果を評価した。
[評価試料]
サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の乾燥葉3g/袋を1リットルの熱湯に加えて、約20分保持後に袋を取り出して得た茶を冷蔵庫に保管して、評価試料として使用に供した。
[摂取方法]
上記の評価試料を必要に応じて、冷蔵庫から取り出して飲用に供した。1日で1リットルを飲みきるようにして、2週間継続して飲用した。
[評価方法]
花粉症に悩む男女108名を対象に行い、2週間経過後に質問に回答してもらい、集計し、評価した。
【0057】
[評価結果]
表4に、評価対象者像として、評価対象者の花粉症に対するプロフィールを示し、表5にその結果を示した。何らかの形で「効果を感じた」という人が約80%であった。
表4:評価対象者の花粉症に対するプロフィール
【0058】
【表4】

【0059】
表5:評価試料の花粉症抑制効果に関する評価対象者による総合評価
【0060】
【表5】

【0061】
評価試料摂取によって効果があった症状は、下記表6に示すように、特に鼻炎関係の改善であった。
表6:評価試料の効果があった症状
【0062】
【表6】

【0063】
実施例5:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)葉の熱湯抽出茶のアレルギー性鼻炎に対する効果
以下の要領で、サラシア レティキュラータ(S. reticulata)葉の熱湯抽出茶のヒトに対する効果を評価した。
[評価試料]
実施例4と同様の試料を使用した。すなわち、サラシア レティキュラータ(S. reticulata)の乾燥葉3g/袋を1リットルの熱湯に加えて、約20分保持後に袋を取り出して得た茶を冷蔵庫に保管して、評価試料として使用に供した。
[摂取方法]
実施例4と同様にして行った。すなわち、上記の評価試料を必要に応じて、冷蔵庫から取り出して飲用に供した。1日で1リットルを飲みきるようにして、2週間継続して飲用した。
【0064】
[評価方法]
実施例4記載の花粉症とともに、アレルギー性鼻炎に悩む男女108名を対象に上記の評価試料を摂取して貰い、2週間経過後に特にアレルギー性鼻炎に対する質問に回答してもらい、集計した。
[評価結果]
(1)評価試料摂取前後の鼻をかむ回数での評価
一日に鼻をかむ回数を指標に、評価試料の摂取前後でのアレルギー性鼻炎の症状を評価した。その結果を下記表7に示した。表中の結果からも判明するように、評価試料を摂取することによって、重度の症状の人は1/3に減り、軽度の症状の人が4倍に増加していた。
表7:評価試料の「鼻をかむ回数」への効果
【0065】
【表7】

【0066】
(2)評価試料摂取前後の鼻水が出てきた回数での評価
一日に鼻水が出てきた回数を指標に、評価試料の摂取前後でのアレルギー性鼻炎の症状を評価した。結果を下記表8に示す。表中の結果からも判明するように、評価試料を摂取することによって、最重度、重度の症状の人は1/2に減り、中度、軽度の症状の人が2倍に増加した。
表8:評価試料の「鼻水が出てきた回数」への効果
【0067】
【表8】

【0068】
(3)評価試料摂取前後の鼻つまり症状の変化での評価
一日に鼻つまり症状になった回数を指標に、評価試料の摂取前後でのアレルギー性鼻炎の症状を評価した。結果を下記表9に示す。表中の結果からも判明するように、評価試料を摂取することによって、最重度、重度の症状の人は約60%に減り、中度、軽度の症状の人に移行していた。
表9:評価試料の「鼻つまり症状」への効果
【0069】
【表9】

【0070】
(4)評価試料摂取による効果の現れた時期での評価
その結果を下記表10に示した。表中に示した結果から判明するように、約65%の人が2週間以内に効果が現れたことを確認しており、本評価試料[サラシア レティキュラータ(S. reticulata)葉微粉末の熱湯抽出液;茶]の効果は、かなり即効性があることが判明した。
表10:評価試料による効果が現れた時期
【0071】
【表10】

【0072】
実施例6:サラシア レティキュラータ(S. reticulata)幹の水抽出成分錠剤化試料のアトピー性皮膚炎に対する効果
以下の、要領でサラシア レティキュラータ(S. reticulata)幹の水抽出成分錠剤化試料のヒトに対する効果を評価した。
[評価試料]
実施例2で用いた方法と同様の方法で調製したサラシア レティキュラータ(S. reticulata)幹の水抽出エキスを、乳糖セルロース、デキストリン、菜種硬化油脂、二酸化ケイ素を製剤基剤として、定法に従って錠剤化した。一錠の重量は300mg、一錠中に50mgの抽出エキスを含有せしめた。
[摂取方法]
上記の評価試料である錠剤を1回3錠、一日3回、3ヵ月から5ヵ月摂取した。評価試料を摂取したことを除いて、他の生活は、食生活も含めて通常の生活を行った。
[評価方法]
アトピー性皮膚炎に悩む男性3人(22歳、27歳、35歳)、女性1人(55歳)を対象に評価を行った。上記の評価試料(錠剤)を摂取して貰い、3〜5カ月経過後にアトピー性皮膚炎に対する質問に回答してもらい、集計した。
[結果]
評価試料のアトピー性皮膚炎に対する総合評価を下記表11に記した。評価者全員が、何らかの効果を認めていた。とくに3年間通院していた重度の症状を持つ評価者には、本人がビックリするほどの効果を示した。また、喘息の症状を併せ持つアトピー性皮膚炎の評価者にも著しい効果を示した。
表11:評価試料のアトピー性皮膚炎に関する評価対象者による総合評価
【0073】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0074】
以上記載のように、本発明により、安全性が高く、経口摂取が容易であり、経口摂取することによりI型アレルギーを特異的に抑制し、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー鼻炎などの疾患の治療又は予防に好適なI型アレルギー抑制剤が提供される。
また、本発明が提供するI型アレルギー抑制剤は、安全であり且つ簡便な手段によるI型アレルギー抑制方法が提供される点でその産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サラシア属植物の葉及び/又は幹の微粉砕物を有効成分として含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤。
【請求項2】
サラシア属植物の葉及び/又は幹の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするI型アレルギー抑制剤
【請求項3】
サラシア属植物の葉及び/又は幹の抽出物が、水、温〜熱水、あるいはエタノール溶液による抽出物であることを特徴とする請求項2に記載のI型アレルギー抑制剤。
【請求項4】
サラシア属植物が、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(S. oblonga)、サラシア プリノイデス(S. prinoides)、サラシア チネンシス(S. chinensis)、サラシア マクロスペルマ(S. macrosperma)及びサラシア フルチコーサ(S. fruticosa)から選択される1種又は複数種である請求項1〜3のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤。
【請求項5】
I型アレルギーが花粉症である請求項1〜4のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤。
【請求項6】
I型アレルギーがアトピー性皮膚炎である請求項1〜4のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤。
【請求項7】
I型アレルギーがアレルギー性鼻炎である請求項1〜4のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤を含有するI型アレルギー予防食品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤及び/又は請求項8に記載の食品を用いることによるI型アレルギーを抑制する方法。
【請求項10】
I型アレルギーの抑制のため請求項1〜7のいずれかに記載のI型アレルギー抑制剤及び/又は請求項8に記載の食品の使用。

【公開番号】特開2010−120905(P2010−120905A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298059(P2008−298059)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(502365977)株式会社盛光 (10)
【Fターム(参考)】