説明

IB−QX様株に由来する伝染性気管支炎ワクチン

本発明は、IB−QXとして公知である最近確認された遺伝子型のIBウイルス、または本明細書においてIB−QX様ウイルスと呼ぶ、IB−QXに遺伝的に関係のあるウイルスに由来する、伝染性気管支炎(IB)ウイルスに関する。本発明のIBウイルスは、生きており弱毒化されたものでも、不活化されたものでもよい。本発明の弱毒化生IBウイルスは、IB−QX様ウイルスの連続的継代によって作製することができる。本発明のIBウイルスは、特に、IB−QXウイルスおよびIB−QX様ウイルスに対するワクチンに有用である。これまで、IBウイルスの公知のワクチン株は、IB−QXウイルスおよびIB−QX様ウイルスによって引き起こされる伝染性気管支炎から保護するには不十分であることが分かっていた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、2008年8月8日に出願された仮出願第61/087,228号の優先権を米国特許法119条(e)項に基づいて主張する。
【0002】
本発明は、鳥類感染症に対するワクチンの分野に関する。より具体的には、本発明は、伝染性気管支炎(IB)ウイルスに対する新規なワクチンに関する。
【背景技術】
【0003】
伝染性気管支炎(IB)ウイルスは、家禽(例えば、ニワトリ)の呼吸器疾患を引き起こすコロナウイルスである。IB疾患の症状としては、例えば、呼吸困難、体重減少、産卵低下、異常卵の出現率上昇、および死亡率上昇が挙げられる。
【0004】
いくつかの異なる遺伝子型および血清型のIBウイルスが確認されている。IBウイルスの遺伝子型解析は、一般に、そのウイルスのS1(スパイク)タンパク質をコードする遺伝子の全体または一部分を配列決定することによって遂行される。S1タンパク質は、IBウイルスのゲノムにコードされる大型S糖タンパク質のN末端切断産物である。S糖タンパク質のC末端切断産物は、S2タンパク質と呼ばれる。S1タンパク質は細胞付着を担っており、IBウイルスの主要な抗原決定基である。IBウイルスの例示的な遺伝子型(または「株」)としては、793B、マサチューセッツ(Massachusetts)、イタリア(Italy)02、D274、アーカンソー(Arkansas)、B1648、およびD1466が挙げられる。(例えば、Worthingtonら(2008年6月)、Avian Pathology 37:247〜257を参照されたい)。
【0005】
「QX」と名付けられた(「QXIBV」とも呼ばれる)新規な遺伝子型のIBウイルスは、1990年代の終わりに中国で最初に確認された。(Liuら(2006)、Archives of Virology 151:1133〜1148を参照されたい)。最初のQX遺伝子型が確認されて以来、S1ヌクレオチド配列レベルでQXとの高度な類似性/同一性を有する多数のIBウイルス遺伝子型が世界中で確認されている。これらの「IB−QX様」ウイルス(本明細書においてさらに定義される)は、例えば、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、イギリス、イタリア、およびポーランドで確認されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
明らかに、IB−QX様ウイルスは家禽産業に深刻な脅威をもたらす。このタイプのIBウイルスが急速に出現していることの重要性にもかかわらず、これまで、IB−QX様ウイルスに特異的なワクチンは、当技術分野において利用可能でもなく、説明されてもいなかった。市販されているIBワクチン(弱毒化生株)は、IB−QX様ウイルスからニワトリを保護するのには効果がないことが判明している。したがって、IB−QXウイルスおよびIB−QX様ウイルスからの特異的保護を実現する新しいワクチン組成物およびワクチン接種方法が当技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、IB−QXウイルスおよびIB−QX様ウイルスによる感染から保護するワクチン組成物中の抗原性成分としてとりわけ有用であるIBウイルスを提供することによって、当技術分野における前述の必要を満たす。本発明は、IB−QX様ウイルスの生きており弱毒化された種類を含む。このような弱毒化生株は、例えば、十分な弱毒化が得られるまでIB−QX様ウイルスを連続的に継代することによって作製することができる。本発明はまた、IB−QX様ウイルスの不活化された種類も含む。本発明において使用するためのIB−QX様ウイルスは、例えば、IB−QX様ウイルスの寄託株、IB−QX様ウイルス感染の野外症例から、または特定のS1遺伝子配列など所定の予め定められた遺伝子セグメントを発現する組換えIBウイルスを構築することによって、得ることができる。
【0008】
本発明はまた、IB−QX様ウイルスの弱毒化生株または死滅株を含むワクチン組成物、ならびにIB−QX様ウイルスの弱毒化生株および/または死滅株を作出するための方法も提供する。本発明はまた、IB−QX様ウイルスの弱毒化生株または死滅株を含むワクチン組成物を鳥に投与することによって、鳥に伝染性気管支炎のワクチン接種をするための方法も提供する。本発明の他の態様は、本明細書において下記に説明する発明を実施するための形態および実施例から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、IB−QX様ウイルスに由来する単離されたIBウイルスを提供する。
【0010】
本明細書において使用される場合、「IB−QX様ウイルス」という用語は、元のIB−QX株のS1タンパク質をコードするヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列にコードされたS1タンパク質を有する任意のウイルスを意味する。元のIB−QX株のS1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号1(表1を参照されたい)によって表され、NCBI Genbank受託番号AF193423のもとで利用可能である。
【0011】
【表1】

【0012】
したがって、配列番号1と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列にコードされたS1タンパク質を有する任意のウイルスが、本発明の目的のための「IB−QX様」ウイルスである。IB−QX様ウイルスの例は、Worthingtonら(2008年6月)、Avian Pathology 37:247〜257において説明されており、L−1148(Worthingtonらの文献において「NL/L−1148/04」とも呼ばれる)、1449−2(Worthingtonらの文献において「NL/L−1449K/04」とも呼ばれる)、1449−10(Worthingtonらの文献において「NL/L−1449T/04」とも呼ばれる)、およびRoberton(Worthingtonらの文献においてFR/L−1450T/05とも呼ばれる)と名付けられたIBウイルス遺伝子型が挙げられる。本発明のIBウイルスが由来し得る例示的なIB−QX様株は、下記の表2において説明する。本発明の目的において、IB−QX様ウイルスという用語は、特に、元のQX IBウイルスを含む。
【0013】
【表2】

【0014】
S1コード配列の配列比較のほかに、他の方法を用いてIB−QX様ウイルスを同定することもできる。このような方法は、例えば、ウイルス試料の大きな集団(pool)から候補のIB−QX様ウイルスを同定するための予備スクリーニングとして使用され得る。これらの予備スクリーニングの内の1つによって、ウイルスがIB−QX様陽性であると判定される場合、次いで、本明細書において別の箇所で説明するようにS1ヌクレオチド遺伝子の配列決定および比較をすることによって、そのウイルスの遺伝子型を確認することができる。IB−QX様ウイルス(または推定上のIB−QX様ウイルス)を同定するための例示的な「予備の」方法は、IB−QXウイルスまたはIB−QX様ウイルスに感染した動物に由来する抗血清を、候補ウイルスを中和する能力に関して試験する血清中和である。中和結果が陽性である場合、候補ウイルスがIB−QX様ウイルスであることが示唆され得る。
【0015】
IB−QX様ウイルスの別の例示的な予備スクリーニング方法は、制限断片長多型(RFLP)である。この場合、候補ウイルス由来のS1遺伝子のDNAコピーが、RT−PCRによって作製される。次いで、このDNAコピーが、非IB−QX様株のS1遺伝子では切断されない位置でIB−QX様株のS1遺伝子を切断する(または逆の場合も同じ)ことが公知である制限酵素に曝露される。制限断片消化の差は、例えばゲル電気泳動により、結果として生じる消化されたDNAをサイズに基づいて分離することによって可視化することができる。
【0016】
本発明の単離されたIBウイルスは、本明細書において言及するIB−QX様ウイルスのいずれか、ならびに野外から単離され得る他の任意のIB−QX様ウイルスに由来してよい。その他のIB−QX様ウイルスは、当業者に公知の方法によって得ることができる。例えば、IB−QX様ウイルスは、IBウイルスに感染していると疑われるか、またはそうでなければ伝染性気管支炎の1つもしくは複数の症状を示しているニワトリから採取された試料(例えば、口腔咽頭スワブ)をスクリーニングすることによって得ることができる。このような試料からRNAが単離され、S1遺伝子またはその一部分のDNAコピーが、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって作製される。次いで、S1 DNAコピーが配列決定され、このようにして得られたヌクレオチド配列がIB QXのS1遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)と比較され、これら2つの配列間の同一性パーセントが決定される。
【0017】
いくつかの例示的な実施形態において、本発明は、IB−QX様ウイルスL−1148のS1タンパク質(配列番号2)、1449−2のS1タンパク質(配列番号3)、または1449−10のS1タンパク質(配列番号4)と同じアミノ酸配列を有するS1タンパク質を有するIB−QX様ウイルスに由来する単離されたIBウイルスを含む。これらの株に由来するS1タンパク質のアミノ酸配列を表3に示す。
【0018】
【表3−1】

【0019】
【表3−2】

【0020】
また、本発明の単離されたIBウイルスは、組換え方法または「逆遺伝学(reverse
genetics)」方法を用いて当業者が作製することもできる。例えば、Casaisら(2003)J.Virol.77:9084〜9089では、異種スパイク遺伝子を発現する組換えIBウイルスの構築を説明している。(Hodgsonら(2004)J.Virol.78:13804〜13811も参照されたい)。この系は、IBウイルス感染性クローン、すなわち、例えば、ワクシニアウイルスベクターなどのベクター中にクローニングされた完全長IBウイルスcDNAの使用を伴う。(例えば、Casaisら(2001)J.Virol.75:12359〜12369を参照されたい)。IBウイルス感染性クローンを出発材料として、他の任意のIBウイルスのS1タンパク質を発現する組換えIBウイルスを構築することができる。したがって、Casaisらの系またはその変形を用いて、任意のIB−QX様ウイルスに由来するS1タンパク質(すなわち、配列番号1と少なくとも95%同一であるポリヌクレオチド配列にコードされるS1タンパク質)を発現する組換えIBウイルスを容易に作り、それによって、組換えIB−QX様ウイルスを作製することができる。このようにして作製された組換えIB−QX様ウイルスは、本明細書において詳細に説明するように、天然に得られるIB−QX様ウイルス(例えば、野外での単離物)が使用されるのと同じ様式で、本発明において使用され得る。
【0021】
本明細書において使用される場合、「同一性パーセント」とは、対象配列(またはその指定された部分)中のヌクレオチドと同一の参照ヌクレオチド配列中のヌクレオチドの百分率を意味し、これは、すべての検索パラメーターを初期設定値に設定したプログラムWU−BLAST−2.0a19(Altschulら(1997)J.Mol.Biol.215:403〜410、以下、「BLAST」と呼ぶ)によって求められる配列同一性パーセントを最大にするために、これらの配列を整列させ、必要であれば、ギャップを導入した後の百分率である。ヌクレオチドの配列同一性パーセントの値は、一致する同一ヌクレオチドの数を同一性パーセントが報告される配列の長さで割ることによって決定される。
【0022】
IB−QX様ウイルスは当技術分野において公知であるが、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスは当技術分野において説明も提案もされておらず、したがって、本発明の主題である。本明細書において使用される場合、IBウイルスに関する「由来する」という用語は、IBウイルスが次のいずれかであることを意味する:(1)IB−QX様ウイルスの連続的に継代された子孫、または(2)ウイルスを不活化するか、もしくはウイルスの病原性を低下させる条件に供されたIB−QX様ウイルス。したがって、IB−QX様ウイルスに「由来する」ウイルスは、生きている/弱毒化されたもの、または不活化された/死滅させられたもののいずれでもよい。
【0023】
上述したように、いくつかの実施形態において、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスは、IB−QX様ウイルスの連続的に継代された子孫である。「IB−QX様ウイルスの連続的に継代された子孫」は、本明細書において、ウイルス複製の助けとなる環境でIB−QX様ウイルスを増殖させ、前記環境から取り出し、次いで、同じまたは同様の環境において少なくともさらに1回増殖させた後に得られるウイルスと定義される。増殖および分離の各サイクルは、1回の「継代」とみなされる。IB−QX様ウイルスの連続的に継代された子孫は、好ましくは弱毒化され、例えば、弱毒化は、連続的な継代の結果である。
【0024】
IBウイルス(IB−QX様ウイルスを含む)を連続的に継代する例示的な方法は、ウイルス複製の助けとなる環境として家禽(例えば、ニワトリ)の発育卵の使用を伴う。例えば、発育鶏卵に、尿膜腔を介してある量のIB−QX様ウイルスを接種する。接種した卵を、例えば37℃で24時間(または他の適切なインキュベーション条件、時間、および温度のもとで)、インキュベートする。これらの卵から尿膜腔液を回収する。この時点で、ウイルスは「1回」継代された。第1の継代物から回収した尿膜腔液を適切に希釈し、次いで、新しい発育卵に接種する。これらの発育卵を例えば37℃で24時間インキュベートし、この第2の卵セットから尿膜腔液を回収する。この時点で、ウイルスは「2回」継代された。この様式で継続される継代は、無期限に続けることができる。IBウイルスを継代するのに使用され得る、ウイルス複製の助けとなる代替の環境としては、例えば、ニワトリ腎臓細胞培養物またはニワトリ胎仔線維芽細胞培養物などの細胞培養物が挙げられる。
【0025】
IBウイルスを継代するための例示的なインキュベーションステップとして、37℃で24時間のインキュベーションを本明細書において挙げるが、他のインキュベーション温度および/またはインキュベーション時間を使用できることを当業者は理解するであろう。例えば、発育卵は、20℃〜42℃の範囲の温度でインキュベートしてよい。ウイルス継代のためのインキュベーション時間は、4時間〜4日、より好ましくは、16〜36時間の範囲でよい。
【0026】
各継代の後(または、2回毎、4回毎、5回毎、10回毎などの継代後)、ウイルス試料をビルレンスの程度に関して試験してよい。ビルレンスの程度は、例えば、継代されたウイルスをヒヨコに投与し、伝染性気管支炎を示す様々なパラメーターを評価することによって決定することができる。例示的なパラメーターとしては次のものが挙げられる。(i)気管外植片の繊毛活動、(ii)例えば、眼もしくは鼻からの水様滲出液、喘ぎ、または下痢などの臨床徴候、(iii)例えば、上気道、腎臓、脾臓、および/または腸の肉眼による病理学的検査、ならびに(iv)気管、肺および腎臓の組織像。これらの各パラメーターの例示的な測定値を下記の実施例2において提示する。連続的継代によるIB−QX様ウイルス由来IBウイルスは、伝染性気管支炎を示すこれらのパラメーターの内の1つまたは複数が、親(継代されていない)IB−QX様ウイルスに感染したヒヨコにおいて観察される対応するパラメーターと比べて減少、消失、または改善している場合、「弱毒化」されているとみなされる。比較は、他の公知のビルレントIBウイルス株に感染したヒヨコに対して行ってもよい。
【0027】
IB−QX様ウイルスに由来する連続的に継代されたIBウイルスのビルレンスを評価するための非限定的な例示的方法を実施例2において示す。手短に言えば、IB−QX様ウイルスに由来する連続的に継代されたIBウイルスを接種されたヒヨコに、(i)気管外植片の繊毛活動、(ii)臨床徴候、および(iii)病理学的検査を反映する数値的スコアを与える。合計スコア[(i)+(ii)+(iii)]を決定する。ビルレンス分類を次のように確立する。
・「非ビルレント」:合計スコアが、チャレンジされていない対照群の合計スコア以下である場合。
・「軽度」:合計スコアが、チャレンジされていない対照群の合計スコアを上回るが、公知の軽度のIBウイルス株(例えば、POULVAC IB H120(マサチューセッツ(Massachusetts)株)、Fort Dodge Animal Health、Fort Dodge、IA)をチャレンジされた群の合計スコア以下である場合。
・「中程度のビルレント」:合計スコアが、公知の軽度のIBウイルス株をチャレンジされた群の合計スコアを上回るが、公知のビルレントIBウイルス株(例えば、親IB−QX様株またはIB−M41株など他の公知のビルレント株)をチャレンジされた群の合計スコア以下である場合。
・「ビルレント」:合計スコアが、公知のビルレントIBウイルス株をチャレンジされた群の合計スコア以上である場合。
【0028】
前述の分類スキームに従って「非ビルレント」または「軽度」と分類されるIBウイルスは、弱毒化生ワクチン株として適切である。いくつかの状況において、「中程度のビルレント」IBウイルスもまた、弱毒化生ワクチン株として適切であり得る。
【0029】
連続的に継代されたIB−QX様ウイルスのワクチン株としての適性を評価するための代替方法は当技術分野において公知であり、本明細書において別の場所で、例えば実施例3において例示する。実施例3に示すように、繊毛スコアならびに腎臓および気管の形態を利用して、複数回継代後の弱毒化の程度を判定する。これらのパラメーターは、次に、所与の株がワクチン目的に適しているか(例えば、安全性は十分であるか)どうかを判定するために使用され得る。
【0030】
上述したように、IB−QX様ウイルスに「由来する」IBウイルスの他の範ちゅうは、ウイルスを不活化するか、またはウイルスの病原性を低下させる条件に供されたIB−QX様ウイルスである。典型的には弱毒化生ウイルスである、連続的に継代されたIBウイルスとは対照的に、この第2の範ちゅうに入るIBウイルスは、典型的には不活化されるかまたは死滅させられていると考えられる。IBウイルスを含むウイルスを不活化する方法は、当技術分野において公知である。
【0031】
したがって、上記の考察が示すように、IB−QX様ウイルスに由来する本発明のIBウイルスは、不活化されるか、または弱毒化されてよい。不活化される場合、本発明のIBウイルスは、例えばβ−プロピオラクトンまたはホルマリンなどの不活化化合物にウイルスを接触させることによって、不活化され得る。弱毒化される場合、本発明のIBウイルスは、IB−QX様ウイルスの最初の継代から始める連続的継代によって弱毒化され得る。これらのIBウイルスは、ウイルス複製の助けとなる任意の環境で継代してよい。このような環境としては、例えば、家禽の発育卵が挙げられる。家禽の発育卵としては、例えば、特定病原体除去(SPF)鶏卵などの発育鶏卵が挙げられる。他の適切な環境としては、例えば、細胞培養物が挙げられる。
【0032】
本発明のIBウイルスを弱毒化するために、これらのウイルスを任意の回数継代してよい。いくつかの実施形態において、ウイルスは、結果として生じるウイルスが、本明細書の別の場所で言及した分類方法によって「非ビルレント」、「軽度」、または(いくつかの状況において)「軽度ビルレント」のいずれかとして特徴付けられるように、少なくとも十分な回数、継代される。いくつかの例示的な実施形態において、本発明のIBウイルスは、5〜400回継代される。例えば、IBウイルスは、5回、10回、15回、20回、25回、30回、35回、40回、45回、50回、55回、60回、65回、70回、75回、80回、85回、90回、95回、100回、105回、110回、115回、120回、125回、130回、135回、140回、145回、150回、155回、160回、165回、170回、175回、180回、185回、190回、195回、200回、205回、210回、215回、220回、225回、230回、235回、240回、245回、250回、255回、260回、265回、270回、275回、280回、285回、290回、295回、300回、305回、310回、315回、320回、325回、330回、335回、340回、345回、350回、355回、360回、365回、370回、375回、380回、385回、390回、395回、400回、または必要もしくは所望の場合には、それより多い回数、継代してよい。
【0033】
本発明のIBウイルスは、好ましくは単離される。本明細書において使用される場合、「単離される」という用語は、ウイルスが、生きた動物の組織内に含有されないことを意味する。
【0034】
本発明は、IB−QX様ウイルスに由来する単離された伝染性気管支炎ウイルスのいくつかの非限定的な実施例を含む。例えば、IB−QX様ウイルスL−1148を、10〜11日目の特定病原体除去(SPF)発育鶏卵において64回継代した。65回目の継代のために、継代レベル64から得た尿膜腔液の1000倍希釈物0.2mLをSPF卵に接種した。37℃で24時間のインキュベーション後、尿膜腔液の分取物(pool)を回収した。65回継代された材料は、本明細書においてL−1148(p65)と呼ばれる(実施例3を参照されたい)。滅菌したL−1148(p65)分取物を選択し、まとめ、安定化剤と混合し、3mLバイアルに入れ(バイアル1本当たり1mL)、凍結乾燥して、マスターシードウイルスIB QX L1148 MSV65を作った。さらに15回の継代を実施して、合計80回の継代を行って、L−1148(p80)を作製した(実施例3を参照されたい)。65回継代された材料と同様に、80回継代物から尿膜腔液の分取物を回収した。滅菌した分取物を選択し、まとめ、安定化剤と混合し、3mLバイアルに入れ(バイアル1本当たり1mL)、凍結乾燥して、マスターシードウイルスIB QX L1148A MSV80を作った。IB QX L1148 MSV65およびIB QX L1148A MSV80をさらに5回それぞれ継代して、それぞれIB QX L1148A MSV65 X+5およびIB QX L1148A MSV80 X+5を得た。
【0035】
IB QX L1148 MSV65は、Fort Dodge Animal Healthの名義で2009年6月10日にEuropean Collection of Cell Cultures、Porton Down、UK(ECACC)に寄託され、仮の受託番号09061002を割り付けられた。
【0036】
IB QX L1148A MSV80は、Fort Dodge Animal Healthの名義で2009年6月10日にEuropean Collection of Cell Cultures、Porton Down、UK(ECACC)に寄託され、仮の受託番号09061004を割り付けられた。
【0037】
IB QX L1148A MSV65 x+5は、Fort Dodge Animal Healthの名義で2009年6月10日にEuropean Collection of Cell Cultures、Porton Down、UK(ECACC)に寄託され、仮の受託番号09061003を割り付けられた。
【0038】
IB QX L1148A MSV80 x+5は、Fort Dodge Animal Healthの名義で2009年6月10日にEuropean Collection of Cell Cultures、Porton Down、UK(ECACC)に寄託され、仮の受託番号09061001を割り付けられた。
【0039】
IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスのその他の非限定的な例は、本明細書の別の場所で説明する。
【0040】
本発明は、(i)IB−QX様ウイルスに由来する単離されたIBウイルスおよび(ii)薬学的に許容できる担体を含むワクチン組成物を含む。薬学的に許容できる担体は、例えば、水、安定化剤、保存剤、培地、もしくは緩衝剤、または前記のものの任意の組合せでよい。本発明のワクチン組成物は、懸濁液の形態もしくは凍結乾燥した形態、または別法として、凍結した形態で調製することができる。凍結する場合には、凍結時の安定性を向上させるために、グリセロールまたは他の同様な作用物質を添加してよい。
【0041】
本発明のワクチン組成物は、特に、組成物内に含有されるIBウイルスを不活化する(すなわち、死滅させる)場合には、アジュバントを含んでよい。アジュバントは、アクリルポリマー、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、またはアクリルポリマーおよびDDAの組合せでよい。本明細書において使用される場合、アクリルポリマーとは、アクリル部分を含有する任意のポリマーまたはコポリマーである。例示的なアクリルポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、メタクリル酸、メタクリラート、アクリルアミド、アクリラート、アクリルニトリル、およびポリアクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。アクリルコポリマーの例としては、例えば、ポリ(アクリルアミド−coブチル、メタクリラート)、アクリル−メタクリル酸、アクリル−アクリルアミド、およびポリ(メタクリラート)が挙げられる。市販されているアクリルポリマーの例としては、カーボポール(Carbopol)(B.F.Goodrich Co.、Cleveland、Ohio)、カーボセット(Carboset)、(B.F.Goodrich Co.、Cleveland、Ohio)、ネオクリル(Neocryl)(Avecia,Inc.、Wilmington、Del.)、およびユードラジット(Eudragit)(Rohm Tech,Inc.、Malden、Mass.)が挙げられる。本発明のエマルジョンにおいて使用するために特に好ましいアクリルポリマーはカーボポールであり、これは、ポリアリールスクロースで架橋されたアクリル酸の水溶性ポリマーとも呼ばれる。アジュバントは、水溶性アジュバントでも水分散性アジュバントでもよい。アジュバントは、油エマルジョン、例えば、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、または水中油中水型エマルジョンでよい。油中水型エマルジョンはさらに、1つもしくは複数の油溶性界面活性剤、1つもしくは複数の水溶性界面活性剤、付加的なアジュバント、付加的な水相成分、エマルジョン安定化剤、またはそれらの組合せを含んでよい。
【0042】
本発明のワクチン組成物は、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスに加えて、他の抗原性成分も含んでよい。ワクチン組成物中に含まれる他の抗原性成分は、感染病原体、例えば、ニワトリの感染病原体に由来してよい。例えば、本発明のワクチン組成物は、非IB−QX様ウイルスに由来する少なくとも1つの付加的な弱毒化生IBウイルスをさらに含んでもよい。本明細書において使用される場合、「非IB−QX様ウイルス」とは、元のIB−QX株のS1タンパク質をコードするヌクレオチド配列に対する同一性が95%未満であるヌクレオチド配列にコードされたS1タンパク質を有する任意のIBウイルスを意味する。元のIB−QX株のS1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号1によって表され、NCBI Genbank受託番号AF193423のもとで利用可能である。したがって、配列番号1に対する同一性が95%未満であるヌクレオチド配列にコードされたS1タンパク質を有する任意のウイルスが、本発明の目的のための「非IB−QX様」ウイルスである。例示的な非IB−QX様ウイルスとしては、マサチューセッツ(Massachusetts)、アーカンソー(Arkansas)、ジョージア(Georgia)−98、イタリア(Italy)−02、793−B、D274、D1466、または前述の非IB−QX様ウイルスのいずれかのS1遺伝子型を有する株などの株が挙げられる。本発明のワクチン組成物は、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスに加えて、1つまたは複数の市販されているIBワクチン株も含有してよい。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、ワクチン組成物は、IBウイルスではない感染病原体に由来する付加的な抗原性成分を含有してよい。例えば、本発明のワクチン組成物は、弱毒化生トリウイルスまたは不活化トリウイルス、例えば、ニューカッスル病ウイルス、マレック病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、レオウイルス、トリインフルエンザウイルス、ニワトリ貧血ウイルス、またはトリ脳脊髄炎ウイルスをさらに含んでよい。
【0044】
本発明はまた、弱毒化生IBウイルスを調製するための方法も含む。本発明のこの態様に従って調製した弱毒化生ウイルスは、特に、IBウイルスに対してニワトリにワクチン接種をするのに有用である。本発明のこの態様に従う方法は、IB−QX様ウイルスを継代するステップを含む。例えば、IB−QX様ウイルスは、家禽の発育卵(例えば、発育鶏卵)において、または細胞培養物(例えば、ニワトリ腎臓細胞培養物)において継代することができる。弱毒化させるためにIB−QX様ウイルスを継代しなければならない回数は、本明細書において説明する教示に基づいて決定することができる。例えば、IB−QX様ウイルスを継代した後に、結果として生じるIBウイルスをニワトリに投与することができ、次いで、例えば、気管外植片の繊毛活動、臨床徴候、肉眼的病理、および/または伝染性気管支炎の組織学的徴候についてニワトリを評価する。由来元である親IB−QX様ウイルスと比べて(または他の公知の参照IB株と比べて)、少ないかまたは重症度の低いIB徴候をもたらす継代されたIBウイルスは、本発明の目的のための弱毒化株とみなされる。いくつかの実施形態によれば、本発明の方法は、得られたウイルスが本明細書の別の場所で説明した分類方法論に従って「非ビルレント」または「軽度」に分類されるまで、IB−QX様ウイルスを継代するステップを含む。
【0045】
本発明はまた、鳥に伝染性気管支炎のワクチン接種をするための方法も含む。本発明のこの態様に従う方法は、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスを鳥に投与するステップを含む。本発明のこの態様に従う方法は、本明細書の別の場所で説明するように、IB−QX様ウイルスに由来する任意のIBウイルスを含む任意のワクチン組成物を投与するステップを含んでよい。本発明のワクチン組成物は、活性成分または抗原性成分が鳥の呼吸器粘膜と直ちにまたは最終的に接触するような任意の様式で、投与することができる。したがって、ワクチン組成物は、例えば、鼻腔内、経口、および/または眼内経由で鳥に投与することができる。鳥類に投与するためのワクチン組成物は、前述したように、および/またはエアロゾル(鼻腔内投与用)を含むスプレーによるか、もしくは飲料水(経口投与用)による投与に適した形態で製剤化することができる。本発明のワクチン組成物はまた、皮下、筋肉内、または卵内に投与することもできる。(米国特許第7,208,164号を参照されたい)。本発明のこの態様に従って、IB−QX様ウイルスに由来するIBウイルスを含むワクチン組成物は、1日齢〜18週齢の鳥に投与することができる。卵内に投与する場合、ワクチン組成物は、例えば、抱卵期間の後半に投与することができる。例えば、ニワトリの場合、一般に、抱卵約12日目〜抱卵約20日目に卵に接種する。好ましくは、接種は、14日目〜約19日目に行われる。より好ましくは、約15〜18日目に鶏卵に接種する。
【0046】
以下の実施例は例示的であるが、本発明の方法および組成物を限定しない。本開示に鑑みて当業者には明らかである、分子生物学および化学において普通に出くわす様々な条件およびパラメーターの他の適切な修正および改変は、本発明の精神および範囲に含まれる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
IB−QX様ウイルスの同定
本実施例は、候補IBウイルスがIB−QX様ウイルスであるか判定するための方法を提供する。候補IBウイルスは、例えば、伝染性気管支炎の1つもしくは複数の症状を示している動物から、または公共の寄託機関から得た組織スワブを含めて、様々な供給源から得ることができる。
【0048】
本明細書において使用される場合、「IB−QX様ウイルス」とは、最初に確認されたIB−QX株のS1ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるS1ヌクレオチド配列を有する伝染性気管支炎ウイルスである。元のIB−QX株のS1ヌクレオチド配列は配列番号1であり、NCBI Genbank受託番号AF193423のもとで見出すことができる。
【0049】
候補ウイルスがIB−QX様ウイルスであるかどうか確認するために、標準的なRNA単離方法を用いて、候補ウイルス粒子を含有する試料(例えば、組織スワブ)からRNAを単離する。例えば、RNAは、グアニジウムイソチオシアナート、フェノール−クロロホルム法を用いて抽出することができる。(ChomcznskiおよびSacchi(1987)、Analytical Biochemistry 162:156〜159、Liら(1993)、Avian Pathology 22:771〜783)。さらに、いくつかのRNA単離キットが市販されており、この目的に適している。次いで、このRNAを逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)で用いて、完全なS1遺伝子またはS1遺伝子のいわゆる「超可変領域」の増幅されたDNAコピーを生じさせる。RT−PCRで使用されるプライマーは、好ましくは、IBウイルスの大半の公知株に対して共通なものである。例示的なプライマーは、候補IBウイルスのS1遺伝子の超可変領域を増幅するために使用され得る対応するRT−PCR法と共に、例えば、Worthingtonら(2008年6月)、Avian Pathology 37:247〜257、およびJonesら(2005)、Veterinary Record 156:646〜647に説明されている。Worthingtonらの文献では、RT反応に続いてネステッドPCRを実施して、約393塩基対を有するS1超可変領域のDNAコピーを作製する。完全長S1の配列決定は、Adzharら(1996)、Avian Pathology 25:817〜836の方法を用いて実施することができる。IBウイルスの公的に入手可能な配列情報を用いて、当業者は、S1遺伝子またはその一部分を増幅するために適した代替えのプライマーおよびRT−PCR条件を容易に設計することができる。
【0050】
候補IBウイルスのS1遺伝子全体またはその一部分(例えば、超可変領域)のヌクレオチド配列を決定した後、この配列をIB−QX株のS1遺伝子配列(配列番号1)と比較して、同一性パーセントを決定する。候補IBウイルスのS1遺伝子またはその超可変領域のヌクレオチド配列がIB−QXのS1遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)と少なくとも95%同一である場合、候補IBウイルスはIB−QX様ウイルスとみなされる。
【0051】
候補IBウイルスがIB−QX様ウイルスであるかどうかを判定するための例示的な方法はまた、例えば、Goughら(2008)、Veterinary Record 162:99〜100、およびDomanska−Blicharzら(2006)、Veterinary Record 158:808において説明されており、これらは両方とも、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
(実施例2)
IB−QX様ウイルスの弱毒化
導入
本実施例では、IB−QX様ウイルスを発育鶏卵中で複数回継代し、結果として生じるウイルスの弱毒化をニワトリにおいて実証した実験を要約する。
【0053】
材料および方法
伝染性気管支炎ウイルス
L−1148、1449−2、および1449−10と名付けられたIB−QX様ウイルスの3種の株を本実施例において使用した。S1遺伝子の配列決定ならびにIB−QXウイルスおよび他のIB−QX様ウイルスとのヌクレオチド比較により、これらの株は3種ともすべて、IB−QX様であることが確認されていた(Worthingtonら(2008年6月)、Avian Pathology 37:247〜257を参照されたい)。
【0054】
L−1148株および1449−10株はそれぞれ、発育鶏卵中で50回継代し、1449−2株は、発育鶏卵中で5回継代した。これらの複数回継代から得た株をそれぞれL−1148(p50)、1449−10(p50)、および1449−2(p5)と名付けた。すなわち、L−1148(p50)はL−1148に由来し、1449−10(p50)は1449−10に由来し、1449−2(p5)は1449−2に由来した。
【0055】
試験計画
L−1148(p50)ウイルス、1449−10(p50)ウイルス、および1449−2(p5)ウイルス、ならびに公知の軽度IB株(IB−H120、ワクチン株)およびビルレントIB株(IB−M41)をヒヨコにチャレンジした。チャレンジされていない対照群もまた、試験に含めた。試験計画を表4に要約する。
【0056】
【表4】

【0057】
動物および飼育
SPFヒヨコ60匹を本実施例において使用した。15日齢の時点で、ヒヨコ50匹を5群(1〜5)に分け、隔離飼育器に入れた。対照として使用したヒヨコ10匹は鶏小屋にとどまった。順化させるために、隔離飼育器に移したこれらのヒヨコを、3日間単独で放置した。食物および水は自由に入手可能であった。試験期間の全体を通して、全ヒヨコのIB臨床徴候を観察した。
【0058】
ウイルス投与
1ml注射器を用い、全ヒヨコの各眼に0.1mlを投与することによって、連続してヒヨコ5匹にIBウイルスをチャレンジした。IB−M41の場合、眼1つ当たり0.25mlをヒヨコに与えた。18日齢の時点で、約106.0EID50のIBウイルスを全ヒヨコにチャレンジした。ウイルスストックは−70℃で保存し、投与前に栄養ブロス中で希釈して適切な濃度にした。
【0059】
これらのウイルスをヒヨコに投与した直後に、使用したウイルスの試料は再度力価測定するために−70℃、滅菌瓶中で保存した。
【0060】
気管外植片の繊毛活動
チャレンジ後4日目に、気管外植片の繊毛活動を検査した。34%Oおよび66%COのガス混合物でヒヨコを気絶させた。完全な麻酔状態に達したら、100%COを吸入させることによってこれらのヒヨコを屠殺した。死亡直後に、気管(頭部の基部〜鳴管から0.5cm基部寄りの位置)を摘出した。気管を摘出した直後に、無針注射器を用いて37℃のPBSでそれをすすぎ、さらに処理するまで37℃のPBS中で保存した。McIlwain組織裁断器(McIlwain Tissue Chopper)(Mickle Laboratory Engineering Co.Ltd.、Surrey、United Kingdom)を用いて、気管の0.6mm横断切片を作った。これらの気管横断切片を37℃のPBS 2mlと共にペトリ皿に入れ、4分以内に顕微鏡下で検査した。気管の上部の切片3つ、中央部の切片4つ、および下部の切片3つの繊毛活動を低倍率(400倍)顕微鏡観察によって検査した。鳥を屠殺してから20分以内に、各気管切片の繊毛活動を検査した。
【0061】
0(100%の繊毛活動)〜4(0%の繊毛活動)の尺度に基づいて、繊毛活動を採点した。次いで、停止を示した気管切片の合計を1群当たりのヒヨコ数で割ることによって、各群の繊毛静止(ciliostasis)平均値を算出した。算出した1群当たりの繊毛静止平均値を、Poulvac IB 120およびIB−M41をチャレンジした群、ならびに非ワクチン接種群の繊毛静止平均値と比較した。IB−M41はビルレントに分類されており、Poulvac IB H120のIBウイルスは軽度に分類されている。
【0062】
臨床徴候
試験期間の全体を通して、動物技術者がこれらの鳥の臨床徴候を毎日観察した。IB感染に帰される臨床徴候を以下のように採点した。
【0063】
【表5】

【0064】
肉眼による病理学的検査
各ヒヨコの剖検を実施して、IB感染の結果であり得る任意の異常を判定した。これらの異常(deviation)を以下のように採点した。
・上気道:正常な外観=0、粘液=1、気管支炎/気管炎=2
・腎臓:正常な外観=0、腫大または色が薄く尿酸結晶が認められる=1
・脾臓:正常な外観=0、腫大=1
・腸:正常な外観=0、異常=2
【0065】
気管、肺、および腎臓の組織像
ウイルス投与後4日目に、気管、肺、および腎臓の試料を採取した。試料はすべて、組織学的検査に供した。IBVを検出するために、IBVエピトープ48.4(核タンパク質)に関する免疫組織化学的染色を全試料に適用した。
【0066】
評価
SPFヒヨコ中のIBウイルスのビルレンスを下記に基づいて決定した。
・気管外植片の繊毛活動
・臨床徴候の存在および重篤性
・病理学的検査で判明した異常
【0067】
SPFヒヨコ中のIBVのビルレンスを下記のように分類した。
・非ビルレント:その群の合計スコアが、チャレンジされていない群の合計スコア以下である場合。
・軽度:その群の合計スコアが、対照群の合計スコアを上回り、かつ、Poulvac IB H120をチャレンジされた群の合計スコア以下である場合。
・中程度のビルレント:その群の合計スコアが、Poulvac IB H120をチャレンジされた群の合計スコアを上回り、かつ、IB M4をチャレンジされた群の合計スコア以下である場合。
・ビルレント:その群の合計スコアが、IB−M41をチャレンジされた群の合計スコア以上である場合。
【0068】
10%超のヒヨコがワクチンウイルスに帰すことができない原因で死んだ場合は、試験を有効とみなさなかった。本実施例において、以下の場合には、ワクチンウイルスは十分に安全とみなした。
・鳥類伝染性気管支炎の顕著な臨床徴候を示すニワトリも、ワクチンウイルスに帰すことができる原因で死ぬニワトリもいなかった場合。
・繊毛静止平均スコアが25以下であった場合。
・腎臓の組織学的検査の間に認められた炎症病変がせいぜい中程度であった場合。
【0069】
中程度のビルレントまたはビルレントに分類され、かつ、前述の要件に従わないウイルスは、それでもなお、チャレンジ用ウイルスとして使用するのに適する可能性がある。
【0070】
結果
ヒヨコへの投与後のIBウイルスの力価測定
ヒヨコにチャレンジした後の様々なIBウイルスの力価を表5に示す。この表に示すように、すべての場合において、106.0EID50を超えるIBウイルスをヒヨコにチャレンジした。
【0071】
【表6】

【0072】
臨床徴候、繊毛活動、および病理学的検査
試験期間中に死んだヒヨコはいなかった。IB 1449−10(p50)をチャレンジした一部のヒヨコにおいて、ヒヨコへの処置後に、極めて軽度の眼鼻からの滲出性分泌物(鼻の穴に小さな液滴)および喘ぎが観察されただけであった。
【0073】
繊毛静止は、対照ヒヨコのいずれにおいても観察されなかったが、IB−M41をチャレンジしたヒヨコでははっきりと示された。Poulvac IB H120ウイルスをチャレンジしたヒヨコ10匹の内の3匹は、完全な繊毛静止を示した。繊毛静止を示す気管切片の数は、IBV 1148(p50)(切片6個)、IBV 1449−2(p5)(切片20個)、およびIBV 1449−10(p50)(切片41個)をヒヨコにチャレンジした場合に増加した。
【0074】
ヒヨコの病理学的検査の間に、IB 1449−2(p5)、Poulvac IB H120、またはIB−M41をチャレンジしたヒヨコでは、カタル性の滲出液が気管中に存在することが判明した。IB 1449−2(p5)をチャレンジした1匹のヒヨコでは、腫大した色の薄い腎臓が見出された。
【0075】
表6に要約する繊毛活動、臨床徴候、および死後所見に基づいて、IB−QX様由来ウイルスの分類を行った。Poulvac IB H120およびIB−M41と比べて、L−1148(p50)株を軽度に分類し、IBV 1449−10(p50)を中程度のビルレントに分類し、IBV 1449−2(p5)をわずかなビルレントに分類した。
【0076】
【表7】

【0077】
気管、肺、および腎臓の組織像
L−1148(p50)、1449−2(p5)、およびIB−H120をチャレンジしたヒヨコの気管には異常は認められなかった。1449−10(p50)をチャレンジした後に、壊死を伴う局所的気管炎が、気管4つの内の1つで認められた。IB−M41をチャレンジしたヒヨコの気管はすべて、急性気管炎を示した。IBVは、IB−M41に感染したヒヨコの気管においてのみ検出することができた。
【0078】
どのヒヨコの肺においても、異常は見出されず、IBVは検出されなかった。
【0079】
L−1148(p50)および1449−10(p50)をチャレンジされたヒヨコの腎臓の組織像から、一部の場合において、単核細胞および形質細胞性細胞のわずかな浸潤が実証された。管上皮は罹患していなかった。感染後4日目に採取された腎臓試料の管上皮細胞において、免疫組織化学によってIBV−抗原は検出されなかった。免疫組織化学的染色後に、どの群の腎臓においても、IBVを検出することができなかった。
【0080】
考察
IBVは、気管粘膜に最初に感染し、次いで、他の器官の上皮、例えば、腎臓の管上皮細胞および輸卵管の上皮において複製する。上皮細胞におけるIBVの複製は、細胞の変性をもたらす可能性があり、続いて、器官/組織の病理学的変化が起こり得る。臨床徴候が発生するかどうかは、IBVのビルレンス、感染した器官、二次感染の発生、およびヒヨコの全体的健康状態などいくつかの因子に依存する。これは、IBVをチャレンジしたヒヨコの気管において認められ、その際、繊毛活動は、これらの動物のすべて(IBV−M41)、40%(1449−10(p50))、20%(1449−2(p5))、および10%(IBV L−1148(p50))において損なわれている。IBV 1449−2(p5)、Poulvac IB H120、およびIB−M41をチャレンジしたヒヨコの気管には、カタル性の滲出液が存在した。IBV 1449−10(p50)をヒヨコにチャレンジした場合のみ、軽度の臨床徴候が認められた。これらは、繊毛静止およびそれに続く粘液増大の結果であったようである。高用量のIBVをヒヨコにチャレンジしたということを念頭におくと、本実施例の結果は有望である。IBV L−1148(p50)およびIBV 1449−2(p5)をヒヨコにチャレンジした後に臨床徴候がなかったことは、対応する野外株によって引き起こされる臨床徴候が軽度であることを反映している可能性が高い。IBV 1449−10の野外株はビルレントであったため、IBV 1449−10(p50)をSPFヒヨコにチャレンジした後に軽度の呼吸器徴候のみが認められたことは、この株が弱毒化されていることを実証する。
【0081】
結論
本実施例に示すように、IB−QX様ウイルスは、複数回の継代によって弱毒化させることができる。結果として生じる、IB−QX様ウイルス由来の弱毒化株は、伝染性気管支炎に対する新しいワクチン株として大いに有望である。ニワトリに投与した場合に中程度のビルレント作用を引き起こす、IB−QX様ウイルス由来の継代ウイルスは、新規なIBワクチン、特にIB−QX様ウイルスに対するワクチンを研究し、さらに開発するために、チャレンジ材料として有用であると思われる。
【0082】
(実施例3)
IB−QX様株L−1148のさらなる継代および安全性
導入
本実施例では、IB−QX様ウイルス株L−1148を発育鶏卵中で複数回継代した。ニワトリの繊毛静止の程度および腎臓形態を測定することによって、様々な継代レベルにおけるこのウイルスの安全性を評価した。下記に示すように、L−1148株の複数回継代の結果、IB−QX様ウイルスによる感染症に対するワクチンとして適切な弱毒化株が得られた。
【0083】
SPF発育鶏卵におけるL−1148の継代
ウイルス継代のために、10〜11日目の特定病原体除去(SPF)発育鶏卵を使用した。SPF鶏卵中でL−1148株を最初に7回継代した。最初の5回の継代の間、希釈されていない尿膜腔液を接種した。継代は、胚が生きている卵から得た尿膜腔液を用いてのみ、行った。この結果、約50%の死亡胚が生じた。生理的塩類溶液中で100倍希釈した尿膜腔液を用いて継代を継続することに決めたところ、死亡胚の数は減った。継代73回まで、継代を継続した。73回継代物の回収の際、IB L−1148株にニューカッスル病(ND)ウイルスが混入していることが分かった。IB L−1148株の50回継代物をワクチン接種したニワトリから得た血液試料は、NDウイルスに対する抗体を含有していた。8回継代物の試料のRT−PCR解析により、IB L−1148株には最初からこのウイルスが混入していたことが明らかになった。継代を中止し、IB L−1148ウイルス株の汚染を浄化することに決めた。
【0084】
L−1148継代物の汚染除去
22回、47回、および73回継代物から試料を採取し、ND特異的抗血清で処理した。手短に言えば、尿膜腔液:血清の体積比1:2で、尿膜腔液試料をND特異的ポリクローナル抗血清の試料と混合した。この混合物を37℃で1時間インキュベートし、続いて、4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、10倍希釈系列を調製し、希釈物1つ当たり5個の卵に、0.1mlをそれぞれ接種した。2日後、尿膜腔液を回収し、RT−PCRによってIBに対して依然として陽性であることが確認された内で最も高濃度の希釈物に由来する試料を集めた。胚が死んでいる卵は廃棄した。尿膜腔液を前述のND抗血清で再び処理し、希釈系列を卵に再び接種した。インキュベーション後、RT−PCRによってIBに対して依然として陽性であることが確認された内で最も高濃度の希釈物を再び集め、分割して容器に入れ(filled)、凍結し、−70℃で保存した。
【0085】
前述の汚染除去プロセスにより、浄化されクローニングされた24回継代物、49回継代物、および75回継代物が得られた。卵1個当たり0.2mlの10倍希釈物を卵に接種し、37℃で48時間インキュベートした後に回収することによって、継代レベル25のバッチを作った。尿膜腔液を少量ずつ分割して容器に入れ、−70℃で保存した。同じ手順に従って、50回継代物のバッチを作った。75回継代物を継代80回までさらに継代した。80回継代物の尿膜腔液を集め、少量ずつ分割して容器に入れ、凍結し、−70℃で保存した。
【0086】
安全性試験
様々な継代レベルのIB L−1148株のニワトリにおける安全性を数回試験した。ビルレントなマサチューセッツ(Massachusetts)様株IB−M41および軽度ワクチン株Poulvac IB H120と共に、弱毒化されていないIB−QX様株1449−10も、試験に含めた。
【0087】
1日齢のSPFニワトリを各試験に使用した。試験は、標準手順に従って実施した。手短に言えば、1ml注射器を用い、すべてのヒヨコの各眼に0.1mlを投与することによって、連続してヒヨコ5匹にIBウイルスをチャレンジした。IB−M41の場合、眼1つ当たり0.25mlをヒヨコに与えた。凍結乾燥したウイルスを注射用水に溶解して復元し、さらなる希釈物は栄養ブロスに溶かして調製した。続いて、これらの鳥の臨床徴候を毎日観察した。
【0088】
ウイルス投与後5日目に、5匹のニワトリの気管外植片の繊毛活動を検査した。安楽死させたニワトリから気管を摘出し、気管の0.6mm横断切片、すなわち、気管の上部の切片3つ、中央部の切片4つ、および下部の切片3つを作った。これらの気管横断切片を37℃のPBS 2mlを入れたペトリ皿に入れ、4分以内に顕微鏡下で検査した。
【0089】
0(100%の繊毛活動)〜4(0%の繊毛活動)の尺度に基づいて、顕微鏡によって繊毛活動を採点した。停止を示す気管切片の合計を1群当たりのヒヨコ数で割ることによって、各群の繊毛静止平均値を算出した。
【0090】
気管、肺、および腎臓の試料を、安楽死させた動物から採取した。全試料を組織学的に検査した。IBウイルスを検出するために、IBVエピトープ48,4(核タンパク質)に関する免疫組織化学的染色を実施した。
【0091】
これらの結果を表7に要約する。
【0092】
【表8】

【0093】
これらの結果から、IB−M41(ビルレント株)が高い繊毛スコアを有していたことが示され、達成され得る最大スコアは40である。IB 1449−10株もまた、高い繊毛スコアを有していた。ワクチン株IB H120は、規制要件を満たす低スコア(例えば、25未満)を有していた。IB L−1148株の8回継代物は、試験Aにおいて39という高スコアを有していた。継代レベル25では、18まで大幅に減少していた。継代レベル40および50では、試験Aにおいて繊毛静止スコアが増加し、p50では31まで増加していた。試験Aにおいて試験したIB L−1148株の試料はすべて、NDウイルスに汚染されていた。ND汚染を浄化した後、継代レベル25および50を再び試験した。この時、繊毛静止スコアは明らかに低く、ワクチン株として許容できる範囲内であった。試験Bでは、80回継代物も試験した。この継代物は、IB H120よりもはるかに低い、非常に低い繊毛静止スコアを与えるようであった。継代レベル80は、安全なワクチン株のために必要である程度を超えて弱毒化されている可能性があることが予想された。
【0094】
表7はまた、腎臓および気管の検査結果も示す。軽度〜中程度の腎炎は、一過性である限り、許容できるとみなした。気管炎は、一過性である場合のみ、許容できるとみなし、気管中の粘液に関しても同じとした。これらの結果から、IB L−1148の8回、25回、40回、および50回継代物は、参照ワクチン株IB H120とちょうど同じように腎臓を冒したが、IB株1449−10ほど重症ではなかったことが示される。80回継代物もまた、腎臓に対していくらか影響を与えた。
【0095】
試験AおよびBの結果を解析した後、継代レベル65のIB L−1148のバッチ(すなわち、L−1148(p65))を作製し、結果として得られるウイルスの安全性を評価することに決めた。それ以前の継代物に由来する尿膜腔液から集めた上清の100倍希釈物0.1mlをそれぞれ継代レベル64まで卵に接種することによって、継代50回〜継代64回の継代物を調製した。GMPのもとで、継代レベル65の大きなバッチを作製した。継代レベル64から得た尿膜腔液の1000倍希釈物0.2mlをそれぞれ卵に接種した。37℃で24時間のインキュベーション後、尿膜腔液を分取物として回収した。これらの分取物の内の1つから試料を採取し、力価測定し、安全性試験に供した。これらの結果を表7(試験C)に要約する。これらの結果から、平均繊毛静止スコアが18であったことが示され、これは、IB H120に関する以前の試験で判明した結果と類似している。腎炎は観察されず、ニワトリ15匹の内の1匹のみで、いくらかの粘液が気管中に存在した。
【0096】
結論
本実施例は、発育鶏卵において複数回IB−QX様株を継代することによって、IB−QX様ウイルスに対する安全なワクチン株を作製できることを実証する。本実施例において、25〜80の継代レベルは、公知の許容できるIBワクチンと同等の安全性プロファイルを有する弱毒化ウイルスをもたらした。
【0097】
(実施例4)
IB−QX様株L−1148に由来するワクチンの有効性
本実施例において、IB−QX様株L−1148に由来する2種のワクチン株の有効性を評価した。試験したワクチン株は、L−1148(p65)およびL−1148(p80)であった(実施例3を参照されたい)。
【0098】
1日齢のSPF産卵ニワトリに、スプレーによって(1用量当たり0.5ml)ワクチン接種した。ワクチン接種後3週目に、104.0EID50のIB株D388(オランダで単離されたビルレントIB−QX様株)の1用量をこれらのニワトリにそれぞれチャレンジした。
【0099】
チャレンジ後5日目に、気管外植片の繊毛活動を検査した。死亡直後に、気管を摘出し、37℃の生理食塩水ですすぎ、さらに処理するまで37℃の生理食塩水中で保存した。気管の小さな横断切片を手作業で作った。気管の上部の切片3つ、中央部の切片4つ、および下部の切片3つの繊毛活動を低倍率顕微鏡観察によって検査した。
【0100】
下記の分類基準を用いて、繊毛活動を採点した。
【0101】
【表9】

【0102】
所与の気管切片に関して、内輪(internal ring)の少なくとも50%(スコア0)が力強い繊毛運動を示す場合、繊毛活動は正常とみなした。輪10個の内の9個以上が正常な繊毛活動を示す場合、ニワトリは疾患に冒されていないとみなした。気管試料採取後2時間目よりも後に気管切片を顕微鏡によって検査した場合、試験は有効ではなかった。
【0103】
結果を表8に要約する。
【0104】
【表10】

【0105】
ワクチン接種されず、かつチャレンジされていない対照群では、ニワトリ20匹の内の1匹が、繊毛活動の低下を示したが、理由は特定されなかった。他のニワトリでは、繊毛運動は正常であった。ワクチン接種されず、チャレンジされた群では、すべてのニワトリが、繊毛活動の低下を示した。L−1148(p65)およびL1148(p80)をワクチン接種された群では、保護が観察されなかった102.4EID50のL−1148(p65)をワクチン接種された群を除いて、規制当局によって規定されているよりも優れた保護が認められた(例えば、少なくとも80%が保護された)。
【0106】
本実施例は、連続的継代によってIB−QX様株から誘導したワクチン株の有効性を実証する。
【0107】
(実施例5)
その他のIB−QX様ワクチン株の安全性評価
導入
本実施例では、ニワトリにおけるIB−QX様株L−1148(p80)(本明細書において「マスターシードウイルス」または「MSV−p80」とも呼ばれる)の安全性を、継代レベル101のL−1148株(「L−1148(p101)」)および継代レベル18の1449−2株(「1449−2(p18)」)と共に評価した。
【0108】
健常な雌の白色レグホーンヒヨコ250匹を各50匹の5群に分け、表9に示す試験計画に従って本実施例で使用した。
【0109】
【表11】

【0110】
眼鼻経路によってワクチン接種を実施した。各ヒヨコに、体積0.2mL(各眼に0.1mL)の対応するワクチンを与えた。ワクチンはすべて、105.0EID50/鳥の用量で投与した。
【0111】
試験の間、鳥の臨床症状を毎日観察した。いかなる臨床徴候または死亡も記録した。試験中に死亡した鳥は、死後検査にかけた。
【0112】
12週齢で検査した第2群の若い雌鶏を除いて、11週齢に輸卵管を検査した。若い雌鶏を安楽死させ、体腔を開き、嚢胞、狭窄、変形、または形成不全の存在について、輸卵管全体の外面および内面を(輸卵管をハサミで縦方向に開いて)巨視的に検査した。
【0113】
結果
死亡率の結果を表10に要約する。
【0114】
【表12】

【0115】
輸卵管検査の結果を表11に要約する。
【0116】
【表13】

【0117】
第1群では、ニワトリ48匹中6匹(12.5%)が嚢胞性輸卵管および上部区域の形成不全を示した。1匹のニワトリが、直径4.4mmの小さな嚢胞を有していた。これは、壁の近くに位置し、輸卵管の管状構造に影響を与えなかった。
【0118】
第2群では、生き残ったニワトリ49匹すべてが、正常な卵巣および輸卵管を有していた。1匹のニワトリが、2.4×4.1mmの小さな嚢胞を有していた。これは、卵巣の近くに位置したが、輸卵管の管状構造に影響を与えなかった。
【0119】
第3群では、ニワトリ43匹中4匹(9.3%)が嚢胞性輸卵管および上部区域の形成不全を示した。
【0120】
第4群では、ニワトリ39匹中2匹(5.13%)が嚢胞性輸卵管および上部区域の形成不全を示した。
【0121】
考察
試験ワクチンをワクチン接種した鳥において、死亡率が相対的に低く、観察される嚢胞性かつ形成不全性の輸卵管の発生率が低かったことから、これらのワクチンが通常安全であることが示される。7日齢の若い雌鶏に投与されたMSV−p80ワクチンは、特に優れた安全性プロファイルを有していると思われ、欧州薬局方(European Pharmacopoeia)の安全要件を満たす。
【0122】
(実施例6)
ビルレンス復帰試験
導入
実施例5で上述したように、IB−QX様株L−1148(p80)をマスターシードウイルスまたは「MSV−p80」と名付けた。本実施例において、MSV−p80およびビルレンスに復帰させるために戻し継代した派生体「MSV+1BP」の性質を評価した。
【0123】
下記のワクチンを本実施例において使用した:
(A)ニワトリ1匹当たり106.0EID50の用量のIB−QX MSV−p80(すなわち、L−1148(p80))。
(B)1回のニワトリ戻し継代の後に回収した、ニワトリ1匹当たり106.0EID50の用量の戻し継代IB−QX MSV−p80(「MSV+1BP」)。戻し継代の手順は次の通りである。(i)1用量当たり104.0EID50のMSV−p80を含有する0.1mLを点眼することによって、14日齢SPFニワトリ5匹にワクチン接種した。(ii)ワクチン接種後4日目にこれらのニワトリを安楽死させ、気管粘膜の懸濁液を調製した。(iii)14日齢SPFニワトリ5匹の第2の群にこの気管懸濁液を接種した。RT−PCRおよび卵接種によって、気管粘膜試料をウイルスの存在について試験した。最初のニワトリ戻し継代の段階では、PCRおよび卵接種によってウイルスが検出されたが、2回目のニワトリ戻し継代の段階では、ウイルスを検出することができなかった。最初のニワトリ継代の段階の気管粘膜試料から得たウイルスを増幅し、MSV+1BPと名付けた。
【0124】
1日齢のSPFニワトリ合計51匹を3群に分け、表12に示す試験計画に従ってワクチン接種した。
【0125】
【表14】

【0126】
眼鼻経路によってワクチン接種を実施した。各ニワトリに、体積0.1mL(各眼に0.05mL)の対応するワクチンを与えた。
【0127】
ワクチン接種後5日目、7日目、および10日目に、気管外植片の繊毛活動を検査した。100%COを吸入させることによってニワトリを安楽死させた。死亡直後に、気管を摘出し、37℃の生理食塩水ですすぎ、さらに処理するまで37℃の生理食塩水中で保存した。McIlwain組織裁断器(Mickle Laboratory Engineering Co.,Ltd.、Surrey、UK)を用いて、気管の0.6mm横断切片を作った。ペトリ皿中で、これらの気管横断切片を37℃の生理食塩水2.0mLと混合した。気管の上部の切片3つ、中央部の切片4つ、および下部の切片3つの繊毛活動を低倍率顕微鏡観察によって検査した。気管外植片はすべて、試料採取後2時間以内に検査した。下記の定義を用いて、繊毛の活動を0〜4の尺度に基づいて採点した:
【0128】
スコア定義
0 気管切片全体の繊毛が活動を示した。
1 気管切片の67%を超えるが100%未満の繊毛が活動を示した。
2 気管切片の33%〜67%の繊毛が活動を示した。
3 気管切片の33%未満であるが0%を超える繊毛が活動を示した。
4 気管切片全体の繊毛が活動を示さなかった。
【0129】
各群のニワトリを、(a)気管外植片の繊毛活動、(b)肉眼による病理学的検査、(c)腎臓の組織像、および(d)血清学的検査について評価した。停止を示した気管切片のスコアの合計を群当たりのニワトリ数で割ることによって、繊毛静止を算出した。肉眼による病理学的検査のために、各ニワトリの剖検を実施して、ワクチンに関連し得る任意の異常を判定した。ホルマリン固定した腎臓組織の組織学的検査を実施し、調査結果を次のように記録した。腎炎なし、軽度の腎炎、中程度の腎炎、または重度の腎炎。血清学解析のために、1日齢ニワトリ10匹から採取した血清において血清中和試験およびELISA試験を実施した。
【0130】
結果
1.臨床徴候
試験期間中、MSV−p80またはMSV+1BPに帰すことができる臨床徴候は、観察されなかった。しかし、MSV−p80をワクチン接種したニワトリ1匹が、ワクチン接種後2日目に死んでいるのが発見された。剖検時に、気管炎および肺炎が観察された。死因は、気管中の多量の粘液に起因する窒息であると判定した。他のニワトリのどれも全く臨床徴候を示さず、かつ、IBのためのインキュベーション期間(4日)よりはるかに短い期間である、ワクチン接種後たった2日目の時点で死亡が起こったため、伝染性気管支炎が死因である見込みは少ないと考えた。
【0131】
2.繊毛活動
ワクチン接種後5日目、7日目、および10日目の繊毛静止スコアを表13に示す。1つの気管試料である1つの切片を除いて、ワクチン接種後5日目に採取した気管試料のいずれにおいても繊毛活動停止は認められなかった。しかし、7日目および15日目に、比較的小規模の繊毛活動停止が両群で観察された。MSV−p80およびMSV+1BPの平均繊毛静止スコアはそれぞれ15および10であった。
【0132】
3.病理学的検査ならびに気管および腎臓の組織像
腎臓のいくらかの非特異的な色の薄さのほかには、気管および腎臓において、巨視的異常は全く観察されなかった。(表13を参照されたい)。いくらかの間質内リンパ細胞浸潤が、腎臓試料の組織病理学的検査中に観察された。他の病変(顆粒状変性、管上皮の空胞形成および剥離、ならびに大量のヘテロフィル浸潤)がないことから、観察されるリンパ球浸潤は免疫応答の開始に起因する可能性が高いことが示唆された。
【0133】
【表15】

【0134】
4.血清学的検査
伝染性気管支炎ウイルスに対する抗体は、免疫前血清中では検出されなかった(データ不掲載)。
【0135】
考察および結論
MSV−p80およびMSV+1BPの両方をワクチン接種したニワトリの平均繊毛静止スコアは25未満であり、鳥類伝染性気管支炎の顕著な臨床徴候を示したニワトリはいなかった。MSV−p80(すなわちL−1148(p80))は気道および腎臓にとって安全であり、標準要件を満たすと結論付けた。さらに、ニワトリにおける戻し継代後にMSV−p80のビルレンスが増大する徴候はない。
【0136】
(実施例7)
IB−QX様ワクチンの有効性および最小保護用量
導入
本実施例において、4種の異なるIB−QX様ワクチンの最小保護用量を、ビルレントIB−QX様ウイルスをチャレンジしたニワトリにおいて決定した。
【0137】
下記の生ワクチンを本実施例において使用した。
(1)本明細書において「MSV−p80 X+2」と呼ぶ、さらに2回継代したMSV−p80(したがって、合計82回継代されている)。
(2)本明細書において「MSV−p80 X+5」と呼ぶ、さらに5回継代したMSV−p80(合計85回継代されている)。
(3)本明細書においてL−1148(p101)と呼ぶ、101回継代したL−1148株。
(4)本明細書において1449−2(p19)と呼ぶ、19回継代した1449−2株。
【0138】
合計208匹の健常な1日齢SPFニワトリをこの試験において使用した。(市販されている花用噴霧器を用いて)粗いスプレーによって、様々な用量の前述のワクチンをニワトリにワクチン接種した。ワクチン接種後21日目に、104.0EID50のビルレントIB−QX様株D388を点眼(各眼に0.05mL)することによって、これらのニワトリにチャレンジした。チャレンジ後5日目に、ニワトリ20匹において、気管外植片の繊毛活動を判定した。ワクチン接種実施日およびワクチン接種後21日目に、血液を採取した。実験計画を表14に要約する。
【0139】
【表16】

【0140】
チャレンジ後5日目に、ニワトリ20匹において、気管外植片の繊毛活動を検査した。ニワトリを安楽死させ、死亡直後に、気管を摘出し、37℃の生理食塩水ですすぎ、さらに処理するまで37℃の生理食塩水中で保存した。気管の小さな横断切片を手作業で作った。気管の上部の切片3つ、中央部の切片4つ、および下部の切片3つの繊毛活動を低倍率顕微鏡観察によって検査した。下記の分類基準を用いて、繊毛活動を採点した:
【0141】
スコア判定基準
0 気管切片の少なくとも50%が繊毛活動を示した。
1 気管切片の50%未満が繊毛活動を示した。
【0142】
所与の気管切片に関して、内輪の少なくとも50%(スコア0)が力強い繊毛運動を示す場合、繊毛活動は正常とみなした。輪10個の内の9個以上が正常な繊毛活動を示す場合、ニワトリは疾患に冒されていないとみなした。気管試料採取後2時間目よりも後に気管切片を顕微鏡によって検査した場合、試験は有効ではないとみなした。
【0143】
チャレンジ後5日目に各ニワトリの剖検を実施して、IBV感染の結果であり得る腎臓の任意の異常を判定した。次の判定基準を用いて、腎臓における巨視的所見を採点した。正常=正常な外観(n.a.)。腫大、色が薄い、または尿酸結晶=1。
【0144】
結果
1.ワクチン接種後の臨床徴候
繊毛の検査結果および肉眼による病理学的検査の結果を表15に要約する。
【0145】
【表17】

【0146】
表15に示す結果から、MSV−p80ワクチンは、103.0EID50以上の用量が使用される限り、有効であることが示される。102.7EID50の用量では保護を誘導しなかった。MSV−p80 X+2およびMSV−p80 X+5によってもたらされた保護には有意ではない少しの差があった。この試験において、X+2の方がX+5よりいくらか優れた保護を与えた。L−1148(p101)株が与えた保護は、それより継代レベルが少ないものよりも劣っていた。
【0147】
概要
本実施例では、IB−QX MSV−p80に由来するワクチンの安全性および有効性をさらに実証する。
【0148】
(実施例8)
ニワトリ間での弱毒化IB QXの伝播および体内での拡散
導入
本実施例では、弱毒化IB QXワクチン株IB−QX MSV−p80の体内での拡散およびワクチン接種されていないニワトリへのIB−QX MSV−p80の伝播を調査した。
【0149】
実験計画
1.動物
SPFニワトリ合計165匹を表16に示す群に分けた。通常の手順に従ってニワトリを飼育した。食物および水は自由に入手可能であった。試験期間の全体を通して、すべてのニワトリの臨床徴候を観察した。
【0150】
【表18】

【0151】
2.方法
2.1 ワクチン接種
108.2EID50を有するIB−QX MSV−p80を入れた1つのバイアルを緩衝液157.5ml中で希釈し、調製後2時間以内に使用した。第1群の1日齢ニワトリに、希釈したウイルス0.1mlを点眼によって(ニワトリ1匹当たり105.0EID50のIB−QX MSV−p80)ワクチン接種した。ワクチン接種後、使用したワクチンの試料を−50℃で保存した。逆滴定を実施して、投与したワクチン中のウイルスの力価を測定した。投与したワクチンは、1ml当たり106.07EID50のIB QXを含有することが判明した。これは、ニワトリ1匹当たり105.07EID50の用量に相当する。
【0152】
2.2 実験計画
第1群のニワトリに、IB−QX MSV−p80をワクチン接種した。ワクチン接種後3日目に、ワクチン接種された第1群のニワトリ30匹を、同じ鳥齢および起源の第2群のワクチン接種されていないニワトリ35匹を入れた封じ込め施設(containment unit)に追加した。ワクチン接種後7日目に、第4群のワクチン接種されていないニワトリ30匹からなる群をこの封じ込め施設に追加した。ワクチン接種後14日目に、ワクチン接種されたニワトリと同じ鳥齢および起源の第3群のワクチン接種されていないニワトリ35匹をこの封じ込め施設に追加した。一定の間隔で、100%COを吸入させることによって、第2〜4群の各群のニワトリ2匹を屠殺し、嚢(bursa)、十二指腸、肺、腎臓、膵臓、および気管から試料を採取して、IBVの存在を判定した。
【0153】
ホルマリン固定した試料のIBVエピトープ48.4(核タンパク質)に関する免疫組織化学的染色によって、器官試料中のIBVを検出した。ニワトリを屠殺した後、排泄腔および口腔咽頭からスワブを採取した。
【0154】
Invitrogen社製のSuperScript(商標)IIIワンステップqRT−PCRキットを用いたPCRによって、スワブ中のIB QXの存在を検出した。PCR混合物は、2倍ミックス25μl、水18μl、Taqプラチナ1μl、フォワードプライマー2μl、リバースプライマー2μl、および鋳型(RNA)2μlを含有した。以下のプライマーを使用した。
IBV共通プライマー
SX3+A/B フォワード5’−TAATACTGGYAATTTTTCAGATGG−3’(配列番号5)
SX4− リバース5’−AATACAGATTGCTTACACCACC−3’(配列番号6)
IB QX特異的プライマー
Alg−QX−139 フォワード5’−GCTTATGCAGTAGTCAAT−3’(配列番号7)
Alg−QX−394− リバース5’−CACGTGGAATCATGCCTGTTAT−3’(配列番号8)
【0155】
気管RNAを鋳型として使用した。ウイルスを陽性対照として使用した。
【0156】
下記のプログラムに従ってRT−PCRを実施した。
1.50℃で30分
2.95℃で10分
3.95℃で30秒
4.50℃で30秒
5.72℃で45秒、ステップ3〜5を40サイクル
6.72℃で7分
7.4℃で5分
【0157】
アガロースゲル電気泳動によってRT−PCR産物を解析した。
【0158】
1日齢ニワトリ10匹から血液試料を採取した。これは、試験の21日目に、第1群、第2群、第3群、および第4群のそれぞれのニワトリ10匹から採取した。1日齢ニワトリの断頭または翼静脈の穿刺によって血液を採取した。IDEXX、USから入手可能なFlockchek(商標)IBV抗体試験キットまたはX−Ovo、France社製のFlockscreen(商標)IB−HIキットを用いて、抗体力価を測定した。
【0159】
3.結果
結果を表17に要約する。
【0160】
【表19−1】

【0161】
【表19−2】

【0162】
試験期間中、呼吸器徴候も、IBを示唆する他の臨床徴候も、観察されなかった。第2群のニワトリ1匹が、卵黄嚢の炎症が原因で死亡した。第1群のニワトリ1匹は、共食いが原因で死亡した。IB QX抗原は十分な赤血球凝集を与えないため、血清学的試験のために、IB 793B抗原を用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した。どの血清中にも、HI試験またはELISAによってIB抗体は検出されなかった。
【0163】
IHT染色により、ウイルスへの最初の曝露後4〜11日目のニワトリの気管中ならびに4日目および11日目の膵臓中でIB QXが検出された。嚢、十二指腸、肺、および腎臓では、IHT染色によってIB QXが検出されなかった。
【0164】
IB QXの存在は、すべての群から得た喉頭スワブおよび排泄腔スワブのIHT染色およびPCRによって検出した。PCRにより、IB QXへの最初の曝露後2〜15日目に得た排泄腔スワブおよび喉頭スワブにおいてIBが検出された。IB QX陽性である頻度は、喉頭スワブの方が排泄腔スワブよりも高かった。
【0165】
4.考察
4.1 拡散
上気道はIBV複製の主要部位であるため、気管中でIB QXが検出されることは予想された。続いて、ウイルス血症が起こり、ウイルスが他の組織に拡散する。膵臓中のIB QXの検出によって、このことが実証された。IBVは、主として上皮親和性のウイルスであるが、継代レベル80のIB QXは腎臓でも肺でも検出できなかったことから、ニワトリ1匹当たり105.0EID50のワクチン用量を投与した際、これらの器官からウイルスが除去されたことが示唆される。ニワトリ1匹当たり106.0EID50のIB QXをニワトリにワクチン接種した、同じ継代レベルのIB QXを用いた安全性試験では、ワクチン接種後10日間、腎臓および肺においてウイルスが検出された。本発明の試験では、気管中では11日間、喉頭では15日間、IB QXが検出された。文献にある報告では、IBは、臨床段階の間、感染後5〜10日間、気管中で、また、感染後最長で28日間、気管中で検出され得ることが発見されていた。IB QXは膵臓において検出されたが、肉眼による病理学的検査の間に異常は観察されなかった。
【0166】
4.2 伝播
ワクチン接種されていない群のすべてにおいてIB QXの存在が検出されたため、IB QXの伝播が明らかに実証された。
【0167】
4.3 安全性
点眼により、ニワトリ1匹当たり105.07EID50の用量で継代レベル80のIB QXを投与したところ、ワクチンに関連したいかなる臨床徴候も、ワクチン接種後に引き起こされなかった。ワクチン接種されたニワトリへの接触後にIB QXに感染させた、ワクチン接種されていないニワトリにおいて、IBの臨床徴候は観察されなかった。
【0168】
5.結論
ワクチン接種後、IB−QX MSV−p80ウイルスの増殖が気管中で起こり、IB QXは他の器官に拡散した。IB−QX MSV−p80は少なくとも1回、ニワトリ間で伝播した。IB−QX MSV−p80および群間で継代したワクチンは安全であった。
【0169】
(実施例9)
IB MMワクチンおよびIB QXワクチンを用いた混合ワクチン接種
IB MMワクチンおよびIB QXワクチンを用いた混合ワクチン接種の有効性をSPFニワトリにおいて試験した。0日目および14日目に、IB QX生ワクチンと共にPoulvac IBMMワクチン(Fort Dodge Animal Health)をニワトリにワクチン接種した。14日目の時点でIB株IT02を、また、35日目の時点でIB株793Bを、ワクチン接種された系統にチャレンジした。ワクチン接種の結果は、気管切片の繊毛静止試験(CST)の解析および腎臓病理の判定に基づいて判定した。ワクチン接種されたニワトリは、IT02株および793株によるチャレンジから完全に保護された。
【0170】
各ワクチン接種プロトコルおよび結果の要約を表18に示す。
【0171】
【表20】

【0172】
前述の本発明は、理解を明確にするために、例示および例としていくらか詳しく説明してきたが、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の精神および範囲に入るあらゆる変更および修正を包含すると意図される。
【0173】
本明細書において言及されるすべての刊行物および特許は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示している。すべての刊行物および特許は、あたかも個々の刊行物または特許出願のそれぞれが参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されたかのように、同じように参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IB−QX様ウイルスに由来する単離された伝染性気管支炎(IB)ウイルス。
【請求項2】
不活化されている、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項3】
生きており、かつ弱毒化されている、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項4】
継代することによって弱毒化されている、請求項3に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項5】
少なくとも5回継代することによって弱毒化されている、請求項4に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項6】
少なくとも50回継代することによって弱毒化されている、請求項5に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項7】
株の呼称がL−1148であるIB−QX様ウイルスに由来する、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項8】
株の呼称が1449−2または1449−10であるIB−QX様ウイルスに由来する、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項9】
配列番号2のアミノ酸配列を含むS1タンパク質を有するIB−QX様ウイルスに由来する、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項10】
配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列を含むS1タンパク質を有するIB−QX様ウイルスに由来する、請求項1に記載の単離されたIBウイルス。
【請求項11】
(i)IB−QX様ウイルスに由来する単離された伝染性気管支炎(IB)ウイルスおよび(ii)薬学的に許容できる担体を含むワクチン組成物。
【請求項12】
前記単離されたIBウイルスが不活化されている、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
少なくとも1種のアジュバントをさらに含む、請求項12に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記単離されたIBウイルスが生きており、かつ弱毒化されている、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
非IB−QX様ウイルスに由来する少なくとも1種の付加的な弱毒化生IBウイルスをさらに含む、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1種の付加的な弱毒化生IBウイルスが、793B、マサチューセッツ(Massachusetts)、イタリア(Italy)−02、D274、アーカンソー(Arkansas)、D1466、B1648、およびジョージア(Georgia)−98からなる群より選択される非IB−QX様ウイルスに由来する、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
IBウイルス以外の感染病原体に由来する1つまたは複数の付加的な抗原性成分をさらに含む、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記付加的な抗原性成分が、ニューカッスル病ウイルス、マレック病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、レオウイルス、トリインフルエンザウイルス、ニワトリ貧血ウイルス、またはトリ脳脊髄炎ウイルスに由来する、請求項17に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
家禽の発育卵においてIB−QX様ウイルスを継代するステップを含む、弱毒化生伝染性気管支炎(IB)ウイルスを調製するための方法。
【請求項20】
前記IB−QX様ウイルスを家禽の発育卵において5〜400回継代する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記IB−QX様ウイルスを家禽の発育卵において10〜100回継代する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項11に記載のワクチン組成物を鳥に投与するステップを含む、鳥に伝染性気管支炎(IB)のワクチン接種をするための方法。
【請求項23】
伝染性気管支炎(IB)QXウイルスまたはIB QX様ウイルスからトリ宿主を保護するための方法であって、前記トリ宿主にワクチンを投与するステップを含み、前記ワクチンが、前記トリ宿主1匹当たり約10TCID50〜前記トリ宿主1匹当たり約10TCID50のおおよその範囲である免疫原的に有効な量の弱毒化生株IB QXウイルスまたはIB QX様ウイルスから本質的になる、方法。
【請求項24】
前記トリ宿主1匹当たり約10TCID50を投与するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記トリ宿主がニワトリである、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記ワクチンを点眼またはスプレーによって投与する、請求項23から25に記載の方法。
【請求項27】
前記QXウイルスまたはQX様ウイルスを、卵を介して継代することによって弱毒化する、請求項23から26に記載の方法。
【請求項28】
前記弱毒化されたウイルスが少なくとも30回継代されている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記弱毒化されたウイルスが少なくとも65回継代されている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記弱毒化されたウイルスが少なくとも70回継代されている、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記弱毒化されたウイルスが少なくとも80回継代されている、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記弱毒化されたウイルスが少なくとも85回継代されている、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
European Collection of Cell Cultures(ECACC)に仮の受託番号09061002で寄託されているIB QX L1148 MSV65と名付けられた株、ECACCに仮の受託番号09061004で寄託されているIB QX L1148A MSV80と名付けられた株、ECACCに仮の受託番号09061003で寄託されているIB QX L1148A MSV65 x+5と名付けられた株、またはECACCに仮の受託番号09061001で寄託されているIB QX L1148A MSV80 x+5と名付けられた株の内の1つまたは複数を投与するステップを含む、請求項23から32に記載の方法。
【請求項34】
IBウイルス以外の1つまたは複数の付加的な感染病原体に対するワクチン接種をするステップをさらに含む、請求項23から33に記載の方法。
【請求項35】
European Collection of Cell Cultures(ECACC)に仮の受託番号09061002で寄託されているIB QX L1148 MSV65と名付けられた株、ECACCに仮の受託番号09061004で寄託されているIB QX L1148A MSV80と名付けられた株、ECACCに仮の受託番号09061003で寄託されているIB QX L1148A MSV65 x+5と名付けられた株、またはECACCに仮の受託番号09061001で寄託されているIB QX L1148A MSV80 x+5と名付けられた株から選択される、IB−QX様ウイルスに由来する単離された弱毒化伝染性気管支炎(IB)ウイルス。

【公表番号】特表2011−530294(P2011−530294A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522261(P2011−522261)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053085
【国際公開番号】WO2010/017440
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】