説明

ICカード・タグ用アンテナ回路構成体とその製造方法

【課題】回路パターン層の一部同士の接合部の信頼性を高めることが可能なICカード・タグ用アンテナ回路構成体とその製造方法を提供する。
【解決手段】ICカード・タグ用アンテナ回路構成体1は、基材11と、基材11の一方表面の上に形成されたアルミニウム箔からなる第1の回路パターン層13と、基材11の他方表面の上に形成されたアルミニウム箔からなる第2の回路パターン層13と、回路パターン層部分131aと、基材11を介して回路パターン層部分131aに対向する回路パターン層部分132aとを接続し、かつ、基材11の貫通孔を形成する内壁面の少なくとも一部の上に形成された、アルミニウム箔と同じ組成を有する導通層133aとを備える。レーザー光を照射することにより、回路パターン層部分131aと回路パターン層部分132aとを接続する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体とその製造方法に関し、特定的には、非接触ICカード、万引き防止センサ等に代表されるRFID(Radio Frequency Identification)のためのアンテナ回路を備えたICカード・タグ用アンテナ回路構成体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ICタグ、ICカード等の機能カードは、目覚しい発展を遂げ、盗難防止用タグ、出入者チェック用タグ、テレフォンカード、クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード、IDカード、カードキー、各種会員カード、図書券、診察券、定期券等に使用され始めている。これらの機能カード用アンテナ回路構成体は、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムからなる基材と、基材の表面上に形成されたアルミニウム箔または銅箔の金属箔からなるアンテナ回路パターン層とから構成される。アンテナ回路パターン層は、基材の片面または両面に接着剤を介在して金属箔をドライラミネート法等によって接着した後、その金属箔にエッチング処理を施すことにより、基材の表面上に形成される。
【0003】
上記のような構成の従来のアンテナ回路構成体とその製造方法は、特開2002−7990号公報(特許文献1)に記載されている。
【0004】
従来のRFID用アンテナ回路構成体では、一般的に、樹脂フィルムからなる基材の両面に回路のパターン層が形成されている。基材の一方の面にはコイル状のアンテナ回路のパターン層が形成されている。このアンテナ回路のパターン層が、電子回路のコイルに相当し、同時に電磁波を受け取るアンテナの役割を果たし、いわゆるコイルパターンと呼ばれる。基材の反対側の他方の面には、上記のアンテナ回路のジャンパーの役割を果たす回路のパターン層が形成されている。この回路のパターン層は、いわゆるブリッジパターンと呼ばれる。
【0005】
このようなアンテナ回路構成体における複数の回路パターン層の電気的接続方法としては、静電接続方式のアンテナ以外では、以下の方法がある。
【0006】
(1)アンテナコイルパターン層が形成された基材の一方面側と反対側の他方面側に回路パターン層を形成し、基材を貫通するスルーホールを形成し、メッキまたは銀塗料でスルーホールを充填することによって、基材の一方面側に形成されたアンテナコイルパターン層と基材の他方面側に形成された回路パターン層とを接続する。
【0007】
(2)特開2002−7990号公報(特許文献1)に開示されているように、アンテナコイルパターン層が形成された基材の一方面側と反対側の他方面側に回路パターン層を形成し、クリンピング加工によって、基材の一方面側に形成されたアンテナコイルパターン層と基材の他方面側に形成された回路パターン層とを接続する。ここで、クリンピング加工とは、たとえば、超音波等により、基材の両面に接着剤を介在して形成されたアンテナ回路パターン層の少なくとも一部同士を押圧することによって、接着剤、基材等を構成する樹脂を部分的に破壊し、両側の回路パターン層の一部同士を物理的に接触させることをいう。
【0008】
(3)特開2008−269161号公報(特許文献2)に開示されているように、アンテナコイルパターン層が形成された基材の一方面側と反対側の他方面側に回路パターン層を形成し、抵抗溶接によって、基材の一方面側に形成されたアンテナコイルパターン層と基材の他方面側に形成された回路パターン層とを接続する。この場合、溶接電極を回路パターン層の表側と裏側に接触させて圧力を加えた状態で、溶接電極に所定の電流を流すことによって加熱することにより、表側と裏側の回路パターン層の間に介在する基材の一部を溶融させるとともに、互いに対向する表側と裏側の回路パターン層の一部を接触させる。接触させられた表側と裏側の回路パターン層の一部に所定の溶接電流を流すことにより、互いに対向する表側と裏側の回路パターン層の一部を接合する。
【0009】
なお、特開昭61−256695号公報(特許文献3)には、金属ベースプリント配線板の接続方法において金属基板と導体回路とを抵抗溶接により電気的に接続する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−7990号公報
【特許文献2】特開2008−269161号公報
【特許文献3】特開昭61−256695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アンテナ回路構成体における複数の回路パターン層の電気的接続方法として(1)の方法は、信頼性が高い接続方法であるが、製造工程が複雑になるため、製造コストが高くなるという問題があった。
【0012】
また、(2)の方法は、生産性が高い方法であり、製造コストを低くするのに有効であるが、回路パターン層の一部同士を物理的に接合する方法であるので、局所的な変形が生じやすいという問題があった。このため、後工程で行われるICカード・タグ表面への印刷等に影響を与える場合があった。特に、回路パターン層を構成する金属箔が硬質アルミニウム箔や銅箔の場合、金属箔自身が硬く、相対的に高い強度を有するので、時間が経過すると、クリンピングによる接合部が分離してしまうという問題があった。すなわち、回路パターン層を構成する金属箔が硬質アルミニウム箔や銅箔の場合、クリンピングによる接合部の持続性がなく、耐久性も得ることができないので、信頼性の点で問題があった。
【0013】
さらに、(3)の方法では、抵抗溶接による基材の溶融に時間がかかること、溶接電極の繰り返し使用によって電極板が劣化すること等により、アンテナ回路構成体を安定して生産することができないという問題があった。
【0014】
なお、特開昭61−256695号公報(特許文献3)に記載されているように、一般的な抵抗溶接法は、通常2つの電極の間に被接続部を挟み、その2つの電極で被接続部を押圧することによって対向する被接続部を接触させた後、通電し、その接触部にて発生したジュール熱によって被接続部を溶融して接続する方法である。この方法は、金属ベースプリント配線板のように絶縁層を介在して対向する被接続部が十分に厚い場合には可能であるが、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体のように絶縁層を介在して対向する被接続部が絶縁層の厚みに対して十分な厚みを持たない場合には、押圧によって被接続部が破壊されるおそれがあった。
【0015】
そこで、この発明の目的は、回路パターン層の一部同士の接合部の信頼性を高めることが可能なICカード・タグ用アンテナ回路構成体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体は、貫通孔が形成された樹脂を含む基材と、この基材の一方表面の上に形成された、主成分として金属を含む導電体からなる第1の回路パターン層と、基材の他方表面の上に形成された、主成分として金属を含む導電体からなる第2の回路パターン層と、第1の回路パターン層の一部と、基材を介して第1の回路パターン層の一部に対向する第2の回路パターン層の一部とを接続し、かつ、基材の貫通孔を形成する内壁面の少なくとも一部の上に形成された、導電体と同じ組成を有する導通層とを備える。
【0017】
この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体においては、対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士が、回路パターン層の導電体と同じ組成を有する導通層によって接合されているので、回路パターン層と異なる材料のメッキ層等で充填されたスルーホールによる接合や、クリンピングによる接合に比べてより強固な接合を得ることができるので、接合部の安定性と信頼性を高めることができる。
【0018】
この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体において、導通層は、第1と第2の回路パターン層の一部がレーザー光の照射により溶融した後、凝固した金属を含むことが好ましい。
【0019】
この場合、レーザー光の照射という簡単な工程で、回路パターン層の導電体と同じ組成を有する導通層によって、対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士を接合することができる。
【0020】
また、この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体において、導電体がアルミニウム箔であることが好ましい。
【0021】
さらに、この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体において、樹脂がポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0022】
この発明に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法は、次の工程を備える。
【0023】
(a)樹脂を含む基材の一方表面の上に第1の回路パターン層と、基材の他方表面の上に第2の回路パターン層とを形成する工程。
【0024】
(b)第1の回路パターン層の一部と第2の回路パターン層の一部とが基材を介して対向する部分に、レーザー光を照射することにより、第1の回路パターン層の一部と第2の回路パターン層の一部とを接続する工程。
【0025】
この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法では、レーザー光を照射することにより、第1の回路パターン層の一部と第2の回路パターン層の一部とを接続するので、対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士が、回路パターン層の導電体と同じ組成を有する導通層によって接合される。このため、回路パターン層と異なる材料のメッキ層等で充填されたスルーホールによる接合や、クリンピングによる接合に比べてより強固な接合を簡単な工程で得ることができるので、接合部の安定性と信頼性を低コストで高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のようにこの発明によれば、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体において対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士の接合部の安定性と信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線の方向から見た部分断面図である。
【図3】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第1の製造工程を示す部分断面図である。
【図4】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第2の製造工程を示す部分断面図である。
【図5】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第3の製造工程を示す部分断面図である。
【図6】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第4の製造工程を示す部分断面図である。
【図7】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第5の製造工程を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図8】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第6の製造工程を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図9】この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第7の製造工程を拡大して示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、この発明の1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の平面図、図2は図1のII−II線の方向から見た部分断面図である。
【0030】
図1と図2に示すように、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体の一例としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体1は、樹脂を含むフィルムからなる基材11と、基材11の両面に形成された接着剤層12と、接着剤層12の表面上に所定のパターンに従って形成された、主成分としてアルミニウムを含むアルミニウム箔からなる回路パターン層13とから構成されている。図1において実線で示されるように、基材11の一方表面の上に形成された第1の回路パターン層の一例としての回路パターン層13は、基材11の表面上に渦巻状のパターン(コイルパターン)で形成されている。この回路パターン層13の端部には、ICチップを搭載するための領域13cと13dが形成されている。図1において点線で示されるように、基材11の他方表面の上に形成された第2の回路パターン層の一例としての回路パターン層13(ブリッジパターン)は、基材11の裏面上に配置される。基材11の表面に形成された回路パターン層13は、基材11の裏面に形成された回路パターン層13に、接触部13aと13bのそれぞれで互いに電気的に導通するように接触している。この接触は、レーザー照射によって、基材11と接着剤層12を部分的に溶融させて貫通孔を形成するとともに、回路パターン層13を形成するアルミニウム箔の一部を溶融させた後、その貫通孔の内壁面を通じて凝固させることにより達成されている。
【0031】
具体的には、図2に示すように、第1の回路パターン層の一部としての回路パターン層部分131aと、基材11を介して回路パターン層部分131aに対向する第2の回路パターン層の一部としての回路パターン層部分132aとが、導通層133aによって接続されている。導通層133aは、基材11の貫通孔を形成する内壁面の少なくとも一部の上に形成されており、回路パターン層部分131a、132aを形成するアルミニウム箔と同じ組成を有する。
【0032】
上記の1つの実施の形態において回路パターン層13に使用されるアルミニウム箔は、厚みが9μm以上50μm以下であるのが好ましい。アルミニウム箔の厚みが9μm未満の場合には、ピンホールが多く発生するとともに製造工程において破断するおそれがある。一方、アルミニウム箔の厚みが50μmを超える場合には、回路パターン層13を形成するためのエッチング処理に時間がかかるとともに、材料コストの上昇を招く。なお、回路パターン層13を形成するためにアルミニウム箔の代わりに銅箔を用いてもよい。
【0033】
本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の基材11として用いられる樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。この樹脂フィルムの厚みは15〜50μmの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは20〜40μmの範囲内である。基材の厚みが15μm未満では、回路パターン層を形成するアルミニウム箔との積層体の剛性が不足するため、各製造工程での作業性に問題が生じる。一方、基材の厚みが50μmを超える場合には、後述するレーザー照射による接合を確実に行なうことができないおそれがある。
【0034】
回路パターン層13を形成するためのアルミニウム箔と、基材11としての樹脂フィルムとの間の接着は、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン(PU)系接着剤を用いたドライラミネーションによるのが好ましい。エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤としては東洋モートン社製AD506、AD503、AD76−P1等を採用することができ、硬化剤としては同社製CAT−10を接着剤:硬化剤=2〜12:1の比率で配合して使用すればよい。通常のエポキシ樹脂を含有しないポリウレタン系接着剤を用いた場合には、回路パターン層を形成するためのエッチング処理中や、ICチップを実装するときにデラミネーション(剥離)が生じやすくなる。これは、エポキシ樹脂を含有しないポリウレタン系接着剤が耐薬品性や耐熱性に劣るからである。
【0035】
基材11としての樹脂フィルムの上に回路パターン層を形成するためのアルミニウム箔を接着させるためには、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤を乾燥後において重量で1〜15g/m2程度塗布するのが好ましい。この塗布量が1g/m2未満では、アルミニウム箔の接着力が不足する。
【0036】
次に、この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法の1つの実施の形態について説明する。図3〜図6はこの発明に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造工程を示す部分断面図、図7〜図9は図6において回路パターン層部分が接合される箇所を拡大して示す部分拡大断面図である。なお、図3〜図6は、図1のII−II線の方向から見た部分断面を示している。
【0037】
図3に示すように、基材11の両面に接着剤層12を形成し、この接着剤層12によって基材11の両面にアルミニウム箔130を固着する。このようにして、アルミニウム箔130と基材11との積層体を準備する。
【0038】
図4に示すように、基材11の表面側には、アンテナコイルの仕様に従った所定のコイルパターンを有するようにレジストインク層14をアルミニウム箔130の上に印刷する。基材11の裏面側には、アンテナ回路のジャンパーの役割を果たす所定のブリッジパターンを有するようにレジストインク層14をアルミニウム箔130の上に印刷する。印刷後、レジストインク層14の硬化処理を行なう。
【0039】
図5に示すように、レジストインク層14をマスクとして用いてアルミニウム箔130をエッチングすることにより、回路パターン層13を形成する。
【0040】
その後、図6に示すように、レジストインク層14を剥離する。
【0041】
最後に、図7〜図9に示すように、回路パターン層13の所定領域にレーザー光を照射することにより、図2に示すように回路パターン層の接触部13aを形成する。このようにして本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体1が完成する。具体的には、以下で説明されるようにして接触部13aが形成される。
【0042】
まず、図7に示すように、基材11を介して互いに対向する回路パターン層13の導通させるべき領域において、基材11の一方表面側から、レーザー光を矢印Lで示す方向に照射する。
【0043】
次に、レーザー光を照射することにより、図8に示すように、回路パターン層13に貫通孔が形成されるとともに、基材11と接着剤層12に貫通孔が形成される。このとき、基材11を形成する樹脂フィルムは、レーザー光の照射によって与えられるエネルギーで部分的に溶融し、焼き切れて落下してしまうことにより、基材11と接着剤層12に貫通孔が形成される。これに対して、回路パターン層13を形成するアルミニウム箔の一部は、レーザー光の照射によって与えられるエネルギーにより部分的に溶融した状態で貫通孔の周りに残留する。使用されるレーザー光としては、アルミニウム箔にエネルギーを吸収させやすい波長を作り出すことが可能な半導体レーザーを用いるのが好ましい。
【0044】
このとき、レーザー光の照射のエネルギーや照射面積を調整することにより、溶融したアルミニウム箔の一部分が貫通孔の内壁面に沿って流動するようにすることができる。その結果、貫通孔の内壁面に沿って流動した溶融アルミニウム箔の一部分が貫通孔の内壁面の上で凝固することにより、導通層133aが貫通孔の内壁面の上に形成される。これにより、図9に示すように、回路パターン層部分131aと回路パターン層部分132aとが導通層133aによって接続される。以上のようにして、図2に示すように接触部13aが形成される。
【0045】
このようにして得られた本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体においては、対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士がレーザー光の照射によって接合されるので、対向する第1と第2の回路パターン層の一部同士が、回路パターン層の導電体と同じ組成を有する導通層によって接合される。このため、回路パターン層と異なる材料のメッキ層等で充填されたスルーホールによる接合や、クリンピングによる接合に比べてより強固な接合を簡単な工程で得ることができるので、接合部の安定性と信頼性を低コストで高めることができる。特にレーザー光の照射によって接合された第1と第2の回路パターン層の一部同士の接合力は、クリンピングのように接触による接合力に比べて強固である。場合によっては、第1と第2の回路パターン層の一部同士の接合状態は、連続した金属箔そのものと同じ状態にすることが可能となる。また、本発明の方法では、レーザー光を照射する工程を行うだけで、第1と第2の回路パターン層の一部同士を導通させることができるので、メッキ層等で充填されたスルーホールによる接合のように貫通孔明け・下地処理・メッキ層形成という一連の複雑な工程を行う方法に比べて、第1と第2の回路パターン層の一部同士の接合を比較的低コストで実現することができる。
【0046】
この発明の製造方法において用いられるレジストインクは特に限定されないが、分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するアクリルモノマーとアルカリ可溶性樹脂とを主成分とする紫外線硬化型レジストインクを用いるのが好ましい。このレジストインクは、グラビア印刷が可能であり、耐酸性を有し、かつアルカリによって容易に剥離除去することが可能であるので、連続大量生産に適している。このレジストインクを用いてアルミニウム箔に所定の回路パターンでグラビア印刷を施し、紫外線を照射して硬化させた後、通常の方法に従って、たとえば塩化第二鉄等によるアルミニウム箔の酸エッチング、水酸化ナトリウム等のアルカリによるレジストインク層の剥離除去を行なうことによって、回路パターン層を形成することができる。
【0047】
分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するアクリルモノマーとしては、たとえば、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられ、これらのうち、単独のアクリルモノマー、またはいくつかのアクリルモノマーを混合したものを使用することができる。上記のアルカリ可溶性樹脂としては、たとえば、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ロジン−マレイン酸樹脂等が挙げられる。
【0048】
レジストインクには、上記の成分の他に、アルカリ剥離性を阻害しない程度に通常の単官能アクリルモノマー、多官能アクリルモノマー、プレポリマーを添加することができ、光重合開始剤、顔料、添加剤、溶剤等を適宜添加して作製することができる。光重合開始剤としては、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ベンジル、ベンゾイン、およびそのアルキルエーテル、チオキサントンおよびその誘導体、ルシリンPTO、チバスペシャリティケミカルズ製イルガキュア、フラッテリ・ランベルティ製エサキュア等が挙げられる。顔料としては、パターンが見やすいように着色顔料を添加する他、シリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料を併用することができる。特にシリカは、紫外線硬化型レジストインクを付けたまま、アルミニウム箔を巻き取る場合には、ブロッキング防止に効果がある。添加剤としては、2−ターシャリーブチルハイドロキノン等の重合禁止剤、シリコン、フッ素化合物、アクリル重合物等の消泡剤、レベリング剤があり、必要に応じて適宜添加する。溶剤としては酢酸エチル、エタノール、変性アルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、MEK等が挙げられ、これらのうち、溶剤を単独、または混合して用いることができる。溶剤は、グラビア印刷の後、熱風乾燥等でレジストインク層から蒸発させることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下にこの発明の実施例について説明する。
【0050】
厚みが38μmのPETフィルムからなる基材の一方表面には厚みが30μmの圧延されたアルミニウム箔、基材の他方表面には厚みが10μmの圧延されたアルミニウム箔を、それぞれ、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤を用いてドライラミネーション法により接着して積層体を作製した。このようにして得られた積層体の両面に、以下に示す組成のレジストインクとヘリオクリッショグラビア版を用いて図1に示すような印刷パターンを印刷した。印刷後、照射線量が480W/cm2の紫外線ランプで15秒間照射し、レジストインクを硬化させることによりレジストインク層を形成した。
【0051】
インクの組成は以下のとおりである。
【0052】
ベッカサイトJ−896(大日本インキ化学工業社製ロジン−マレイン酸樹脂):21重量部
2−アクリロイロヘキシエチルヘキサヒドロフタル酸:25重量部
ユニディックV−5510(大日本インキ化学工業社製プレポリマー、モノマーの混合物):8重量部
イルガキュア184:3重量部
酢酸エチル:28重量部
変性アルコール:12重量部
フタロシアニンブルー:1重量部
シリカ:2重量部
上記のようにしてレジストインク層が形成された積層体を35%の塩化第二鉄水溶液に温度45℃で5分間浸漬することにより、アルミニウム箔のエッチングを行ない、所定のパターンに従った回路パターン層を形成した。その後、その積層体を1%の水酸化ナトリウム水溶液に温度20℃で10秒間浸漬することにより、レジストインク層を剥離した。そして、温度70℃の温風で積層体を乾燥することにより、図6に示すような積層体を作製した。
【0053】
このようにして得られた積層体の所定の位置で、具体的には図1に示す接触部13a、13bにおいてレーザー光の照射を行った。具体的には、東海東洋アルミ販売株式会社製の半導体レーザー加熱装置を用いて、波長が850nm、エネルギー密度が20W/mmのレーザー光を0.5秒間照射することによって、接触部13a、13bにおいて基材11を介在して対向する回路パターン層13の一部同士を接合した。このようにして、図1と図2に示されるような形状の本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体を作製することができた。ここで、レーザー光の波長は、700〜3000nmの範囲内であるのが好ましく、730〜1000nmの範囲内であるのがさらに好ましい。レーザー光の波長が700nm未満になると、溶融したアルミニウム箔の一部が回路パターン層13の一部同士を接合することなく、飛散してしまうおそれがある。また、レーザー光の波長が3000nmを超えると、アルミニウム箔の一部がエネルギーを吸収するのに時間がかかる。
【0054】
なお、図1に示されるように得られた回路パターン層13は、全体の大きさが45mm×45mmの正方形状であった。基材11の表側に形成された回路パターン層において線幅が1.2mm、接触部13aが4mm×3mmの矩形状、接触部13bは長さ10mmの二等辺を有する直角三角形状の形状を有し、ICチップを搭載するための領域13cと13dのそれぞれの大きさは6mm×6mmの正方形状であった。また、基材11の裏側に形成された回路パターン層13において線幅が0.6mm、接触部13aが3mm×2mmの矩形状、接触部13bは長さ5mmの二等辺を有する直角三角形状の形状を有していた。
【0055】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1:ICカード・タグ用アンテナ回路構成体、11:基材、12:接着剤層、13:回路パターン層、13a,13b:接触部、14:レジストインク層、130:アルミニウム箔、131a,132a:回路パターン層部分、133a:導通層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成された樹脂を含む基材と、
前記基材の一方表面の上に形成された、主成分として金属を含む導電体からなる第1の回路パターン層と、
前記基材の他方表面の上に形成された、主成分として金属を含む導電体からなる第2の回路パターン層と、
前記第1の回路パターン層の一部と、前記基材を介して前記第1の回路パターン層の一部に対向する前記第2の回路パターン層の一部とを接続し、かつ、前記基材の貫通孔を形成する内壁面の少なくとも一部の上に形成された、前記導電体と同じ組成を有する導通層とを備えた、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体。
【請求項2】
前記導通層は、前記第1と第2の回路パターン層の一部がレーザー光の照射により溶融した後、凝固した金属を含む、請求項1に記載のICカード・タグ用アンテナ回路構成体。
【請求項3】
前記導電体がアルミニウム箔である、請求項1または請求項2に記載のICカード・タグ用アンテナ回路構成体。
【請求項4】
前記樹脂がポリエチレンテレフタレートである、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のICカード・タグ用アンテナ回路構成体。
【請求項5】
樹脂を含む基材の一方表面の上に第1の回路パターン層と、前記基材の他方表面の上に第2の回路パターン層とを形成する工程と、
前記第1の回路パターン層の一部と前記第2の回路パターン層の一部とが前記基材を介して対向する部分に、レーザー光を照射することにより、前記第1の回路パターン層の一部と前記第2の回路パターン層の一部とを接続する工程とを備えた、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−271803(P2010−271803A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121512(P2009−121512)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】