説明

ICカード及びその製造方法

【課題】 環境配慮適性に優れ、焼却可能で割れやカールを発生しにくく、表面平滑性、チップの耐剥離強度、印刷適性、耐熱性及び意匠性にも優れ製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、製造効率及び製造作業性が良好であり、かつ、安価なICカードの提供。
【解決手段】 この課題は、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、熱プレス処理した厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーを基板とし、該基板の表面に形成された凹部にチップを埋設・固着したか、又は前記基板に形成された全厚に渡る貫通部分にチップを填め込んだことを特徴とするICカードによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードに関し、更に詳しくは、環境配慮適性に優れ、焼却可能で割れやカールを発生しにくく、表面平滑性、チップの耐剥離強度、印刷適性、耐熱性及び意匠性にも優れ製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、製造効率及び製造作業性が良好であり、かつ、安価なICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICカードとしては、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネイト、ABSなどのプラスチック材料を基板とし、該基板にチップを埋め込んだものが使用されている。
しかるに、プラスチック材料を基板としたICカードは、次に示す難点などがあった。
(1)その製造工程において、基板にチップをホットメルト接着などで固着する場合に、基板が熱損傷を受けやすい。
(2)使用時に基板が欠けたり割れたりしやすく、欠けや割れを生じたICカードを使用すると手を傷付けやすく危険である。
(3)使用済みとなったICカードを焼却処理することができない。すなわち、基板であるプラスチック材料に起因する焼却時の排ガス及び焼却炉の損傷の問題のために、事実上、焼却処理することができない。
かかる難点を解決するために、特定の厚さをもつバルカナイズド・ファイバーを3層以上、相接し合う層の繊維配向方向が互いに直角をなす構成で積層・固着せしめてなる所定厚の積層板を基板とし、断裁又は打抜によってICカードに切り取るときに該バルカナイズド・ファイバー基板の繊維配向軸と切り取るICカードの長軸又は短軸とが成す角度の内の小さい方の角度が特定の範囲内となるように切り抜いた該基板の表面に凹部を形成し、該凹部にチップを埋設・固着することにより、凹部を形成するときの切削加工性に優れ、基板にチップをホットメルト接着などで固着するときの基板の熱損傷がほとんどなく、また、印刷適性にも優れ、得られたICカードの耐割裂性、耐カール性、表面平滑性、チップの耐剥離強度などが良好で、かつ、使用済となったICカードを焼却できるという技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−109483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、基板の製造工程が煩雑で、かつ、工程数が多く製造効率及び製造作業性が悪いと共に、その影響でコストが高くなるという難点が発生した。また、バルカナイズド・ファイバーには、その製造工程上の問題で若干量の亜鉛が残留するが、環境問題に対する一段と厳格な対応が求められる中、排水中又は産業廃棄物中の亜鉛含有量が規制されていることから、生分解性などの環境対応を考えると亜鉛含有量を極力低く抑える必要がある。一方、ICカード分野においては技術革新が更に進展し、ICカードの読取方式も、従来の挿入方式に加え、タッチ方式も加わり、該タッチ方式の場合、カールの発生し難さに対する要求性能は若干緩和される傾向にある。さらに、基板へのチップの取付方式も、従来の基板表面に形成された凹部にチップを埋設・固着する方式に加え、基板の全厚に渡る貫通部分にチップを填め込む方式なども加わり、該填込方式は、携帯電話機用のSIMカードなどに比較的多く使用されている。
【0005】
本発明者等は、かかるICカード分野における技術革新の進展状況及び環境配慮要求の高度化に鑑み、前記した難点を解決すべく鋭意検討したところ、有害物質含有量が極めて少なく特定の厚さをもつ熱プレス処理したバルカナイズド・ファイバーを基板とし、該基板の表面に凹部を形成し、該凹部にチップを埋設・固着するか、又は前期基板に形成された全厚に渡る貫通部分にチップを填め込むことにより、凹部又は貫通部分を形成するときの切削加工性又は打抜加工性に優れ、基板にチップをホットメルト接着剤などで固着するときの基板の熱損傷がほとんどなく、また、印刷適性にも優れ、得られたICカードの耐割裂性、耐カール性、表面平滑性、チップの耐剥離強度などが良好で、かつ、使用済となったICカードを焼却できると共に、製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、基板の環境配慮適性にも優れ、かつ、安価であるというきわめて良好なICカードとすることができ、前記した難点を解消できることをつきとめ、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るICカードは、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、熱プレス処理した厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーを基板とし、該基板の表面に形成された凹部にチップを埋設・固着したか、又は該基板に形成された全厚に渡る貫通部分にチップを填め込んだことを特徴とするものである。また、本発明に係るICカードは、前記熱プレス処理に際し、水分5〜12%に調整したバルカナイズド・ファイバーを、温度80〜110℃、面圧0.2〜5MPa、時間20〜500秒にて熱プレス処理することで、十分な耐カール性及び表面平滑性を確保しやすくなる。また、本発明に係るICカードは、前記バルカナイズド・ファイバーからなる基板表面にUV硬化性アンカーコート剤層を形成するとともに該アンカーコート剤層上にUVオフセット印刷層を形成することで、十分な意匠性を確保しやすくなる。
【0007】
本発明に係るICカードの製造方法は、バルカナイズド・ファイバーの水洗工程の内、水洗液の塩化亜鉛濃度が5質量%以下である水洗工程の少なくとも一部において、酸を添加し水洗液のpHを2〜4に調整して得たバルカナイズド・ファイバーを熱プレス処理し、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーから成る基板とし、次いで、該基板の表面に凹部を形成せしめ、該凹部にチップを埋設・固着するか、又は前記基板に全厚に渡る貫通部分を形成せしめ、該貫通部分にチップを填め込むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るICカードは、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、熱プレス処理した厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーを基板とし、該基板の表面に形成された凹部にチップを埋設・固着せしめるか、又は該基板に形成された全厚に渡る貫通部分にチップを填め込むこととしたので、チップ埋設用凹部又はチップ填込用貫通部分を形成するときの切削加工性又は打抜加工性に優れ、基板にチップをホットメルト接着などで固着するときの基板の熱損傷がほとんどなく、また、印刷適性及び意匠性にも優れ、得られたICカードの耐割裂性、耐カール性、表面平滑性、チップの耐剥離強度などが良好で、かつ、使用済みとなったICカードを焼却することが可能であると共に、基板を廃棄したときの環境への影響がほとんどなく環境配慮適性に優れ、製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、かつ、安価であるという多くの利点をもつという特有の効果を奏するものである。
【0009】
さらに具体的に説明すれば、
(A)従来のプラスチック材料を基板としたICカードでは、その製造工程において、基板にチップをホットメルト接着などで固着するときに、基板が熱損傷を受けやすかった。しかし、本発明に係るICカードでは、耐熱性に優れたバルカナイズド・ファイバーを基板としているため、かかる熱損傷を受けることがない。
【0010】
(B)従来のプラスチック材料を基板としたICカードでは、使用時に基板が欠けたり割れたりしやすく、欠けや割れを生じたICカードを使用すると手を傷付けやすく危険であった。これに対し、本発明に係るICカードでは、諸強度に優れたバルカナイズド・ファイバーを基板としているため、耐割裂性に優れ使用時の安全性が高い。
【0011】
(C)従来のプラスチック材料を基板としたICカードでは、基板であるプラスチック材料に起因する焼却時の排ガス及び焼却炉の損傷の問題のために、事実上、焼却処理することができなかった。しかし、本発明に係るICカードは、天然繊維質材料であるバルカナイズド・ファイバーを基板としており、該基板の構成物質がセルロース繊維から成る天然繊維であるため、プラスチック材料に特有の焼却時の排ガス及び焼却炉の損傷という問題を発生する心配がなく安心して焼却処理することができる。
【0012】
(D)従来のプラスチック材料を基板としたICカードには、鉛筆、ボールペン、万年筆などの筆記具による文字記入が不可能であるため、ICカード使用上不可欠であるICカード所有者(使用者)特定のための署名欄を、プラスチックカード裏面に貼り付ける紙様資材と工程とが必要であった。しかし、本発明にかかるICカードでは、基板自体が良好な文字記入適性をもつため、かかる署名欄形成のための資材と工程とを必要としない。
【0013】
(E)従来のプラスチック材料を基板としたICカードでは、耐熱温度は90℃程度であり、100℃以上の耐熱性を求められるGSM仕様携帯電話用ICカード製造に問題があった。しかしながら、本発明に係るICカードでは、基板は比較的短時間の処理においては200℃以上の耐熱性があり、問題なく使用することができる。
【0014】
(F)従来の特定の厚さをもつバルカナイズド・ファイバーを所定の構成で積層・固着せしめてなる所定厚の積層板を基板とし、断裁又は打抜によってICカードに切り取るときに該バルカナイズド・ファイバー基板の繊維配向軸と切り取るICカードの長軸又は短軸とが成す角度の内の小さい方の角度が特定の範囲内となるように切り抜いたICカードでは、基板の製造工程が煩雑で、かつ、工程数が多く製造効率及び製造作業性が悪いと共に、その影響でコストが高くなるという難点があった。一方、本発明にかかるICカードでは、煩雑な接着積層作業が不要であり、製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、製造効率及び製造作業性が良好であり、安価とすることが可能である。
【0015】
(G)従来のプラスチック材料から成る基板は生分解性に乏しく廃棄したときの環境への影響が大きい。これに対して、本発明に係る基板の構成物質はセルロース繊維から成る天然繊維であり、亜鉛含有量は1400mg/kg未満であるので、廃棄したときの環境への影響がほとんどなく環境配慮適性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るICカードの基板として使用するバルカナイズド・ファイバーは、木材又は綿繊維で作られた原紙を塩化亜鉛溶液に浸漬・積層・水洗・乾燥して板状に仕上げたもので、天然繊維質材料としては最も機械的強度に優れ、切削、打抜、折曲げなどの加工が可能で、かつ、耐衝撃性、耐摩耗性、耐油性、電気絶縁性などにも優れた材料である。
【0017】
本発明に係るバルカナイズド・ファイバーによって構成する基板は、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、所定厚さをもつバルカナイズド・ファイバーを熱プレス処理したものでなければならない。また、十分な耐カール性及び表面平滑性を確保しやすくするためには、前記熱プレス処理に際し、水分5〜12%、更に好ましくは7〜10%に調整したバルカナイズド・ファイバーを、温度80〜110℃、更に好ましくは90〜100℃、面圧0.2〜5MPa、更に好ましくは0.3〜3MPa、時間20〜500秒、更に好ましくは30〜300秒にて熱プレス処理するのが好ましい。水分5%未満、温度80℃未満、面圧0.2MPa未満又は時間20秒未満では、時として十分な耐カール性及び表面平滑性を確保し難くなることがある。また、水分12%超え、温度110℃超え、面圧5MPa超え又は時間500秒超えでは、時として熱変色又は冷却時の波打ち変形を生じやすくなることがある。水分7〜10%、温度90〜100℃、面圧0.3〜3MPa又は時間30〜300秒とすることにより、十分な耐カール性及び表面平滑性を一段と確保しやすくなる。
【0018】
本発明に係るバルカナイズド・ファイバーによって構成する基板の厚さは、0.5〜2mm、好ましくは0.5〜1.5mmである。0.5mm未満では、機械的強度が不足し、実用に十分には耐えられない。2mm超えでは、ICカードが厚くなり過ぎ、挿入方式のICカード読取装置に適用できなくなり不適である。
【0019】
本発明に係るバルカナイズド・ファイバーを製造するには、水洗工程の内、水洗液の塩化亜鉛濃度が5質量%以下である水洗工程の少なくとも一部において、酸を添加し水洗液のpHを2〜4に調整すればよい。水洗液の塩化亜鉛濃度が5質量%以下である水洗工程の水洗液のpHは、通常4.5〜6程度であるが、酸の添加という極めて簡便な方法で、そのpHを2〜4、好ましくは2〜3.5、更に好ましくは2.5〜3.5に調整することにより、得られるバルカナイズド・ファイバー中の亜鉛含有量を1400mg/kg未満に減少せしめることができる。
【0020】
前記pHが2未満では、水洗槽などが酸劣化しやすくなり、4を超えると、バルカナイズド・ファイバー中の亜鉛含有量減少効果が不十分となりやすい。前記pHを2〜3.5とすることにより、バルカナイズド・ファイバー中の亜鉛含有量を減少せしめやすくなり、2.5〜3.5とすることにより、バルカナイズド・ファイバー中の亜鉛含有量を一段と減少せしめやすくなる。なお、前記した酸としては、希塩酸、希硫酸などの任意の酸を用いることができる。
【0021】
このようにして得たバルカナイズド・ファイバーを所定寸法に断裁又は打抜くことにより、本発明に係るバルカナイズド・ファイバーによって構成する基板が得られる。
【0022】
次いで、得られた基板に、切削機でチップ埋設用の凹部を形成せしめ、該凹部にホットメルト接着などによってチップを固着せしめるか、又は切削機若しくは打抜機でチップ填め込み用の全厚に渡る貫通部分を形成せしめ、該貫通部分にチップを填め込むことによって本発明のICカードが得られる。また、基板表面に印刷を施すことにより、意匠性に優れたICカードとすることができる。なお、各種印刷方法について試験した結果、本発明に係るバルカナイズド・ファイバーによって構成された基板表面に印刷を施す場合、該基板表面に、まず、UV硬化性アンカーコート剤層を設け、しかる後にUVオフセット印刷すると印刷面品質が一段と向上し、一層意匠性に優れたICカードを得ることができることがわかった。
【0023】
[実施例]
次に、本発明を次に示す実施例に基づいて更に具体的に説明する。本実施例中の各項目の測定は、次の方法によった。
(1)基板の環境配慮適性・・・ICカードの基板について、分析元素範囲Be〜92Uの走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus II製造元:(株)リガク)を用いて、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で亜鉛含有量を測定した。ここで「簡易定量分析法」とは、蛍光X線の強度を理論的に計算するファンダメンタル法によってあらかじめ計算された装置附属の換算因子と測定データとを用いて測定する方法である。分析対象元素のそれぞれについてチューニングを行い換算因子の精度向上が図られ、高精度測定が可能とされている。
測定した亜鉛含有量により、次に示す評価を行った。
◎ 1000mg/kg未満で、極めて優良。
〇〜◎ 1000mg/kg以上、1400mg/kg未満で、優良。
○ 1400mg/kg以上、2500mg/kg未満で、現時点で実用性あり。
【0024】
(2)基板製作時の作業性・・・接着積層作業の有無により、次に示す評価を行った。
〇 接着積層作業がなく、工程短縮できる。
× 接着積層作業があり、工程短縮できない。
【0025】
(3)チップ埋設用凹部の切削加工性(切削加工性)・・・切削加工部位の状態を目視観察し、次に示す評価を行った。
〇 毛羽立ち、欠けなどの発生がなく良好。
△ わずかに毛羽立ち、欠けなどの発生があり、実用性に劣る。
× 毛羽立ち、欠けなどが発生し、実用性がない。
【0026】
(4)チップ接着時耐熱性・・・接着後の基板裏面の状態を目視観察し、次に示す評価を行った。
〇 膨れ、窪み、変色などの損傷の発生がなく良好。
△ わずかに毛羽立ち、膨れ、窪み、変色などの損傷の発生がある。
× 膨れ、窪み、変色などの損傷が発生する。
【0027】
(5)耐割裂性・・・ISO 7816−1に規定される繰返し曲げ試験を行い、割れ、折れなどの不具合が発生するまでの繰返し回数により、次に示す評価を行った。
◎ 1500回以上で、優良。
〇 1000〜1499回で、良好。
△ 700〜999回で、実用性に劣る。
× 699回以下で、実用性がない。
【0028】
(6)耐カール性・・・50℃、95RH%、24hr加湿後に60℃、24hr乾燥し、その直後において、ICカードの長辺の一端を水平面上に押し当てたときに他端が水平面から浮き上がる高さを測定し、該高さにより、次に示す評価を行った。
〇 2mm以下で、良好。
× 2mm超えで、実用性がない。
【0029】
(7)焼却適性・・・陶磁器製の皿にICカードを載せ、900℃に調整した電気炉中で焼却したときの発煙量及び皿への溶融物の付着状態を目視観察し、次に示す評価を行った。
◎ 発煙はほとんどなく、溶融物の付着も全くなく、優良。
〇 発煙は少しあるが、溶融物の付着は全くなく、良好。
× 発煙及び溶融物の付着が共に顕著に認められ、実用性がない。
【実施例1】
【0030】
17基の水洗槽から成る連続水洗工程の内、6番目から12番目の水洗槽中に希塩酸を添加し該水洗層中の水洗液のpHを2.5に調整(6番目以降の水洗槽中の水洗液の塩化亜鉛濃度は1.2質量%以下であった。)して得たバルカナイズド・ファイバーを、水分8%に調整し、温度98℃、面圧0.8MPa、時間60秒にて熱プレス処理した後、断裁機にて断裁し8.5cm×5.3cm厚さ0.8mmの基板を得た。該基板に切削機にて12mm角、1段目深さ200μm、2段目深さ600μmの二段構造のチップ埋設用の凹部を形成せしめ、かかる凹部にホットメルト接着(ポリウレタン系接着剤を使用し、接着剤量は固形分で60g/m、加熱条件は200℃×1秒、加圧条件は0.15MPa×1秒)によって12mm角、厚さ200μmのチップ搭載済みICチップモジュールの基板であるガラスエポキシ製モジュールテープ部分を固着せしめICカードAを得た。
【0031】
ただし、バルカナイズド・ファイバーの繊維配向軸と断裁によって得られる基板の長軸とが平行となるようにした。ICカードAの基板の環境配慮適性、ICカードAの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードAの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。また、ICカードAの斜視図を図1に示した。符号の1は基板で、2はチップである。
【実施例2】
【0032】
実施例1において、6番目から12番目の水洗槽中に希塩酸を添加し該水洗層中の水洗液のpHを3.0に調整した以外は実施例1と同様にしてICカードAと同型のICカードBを得た。ICカードBの基板の環境配慮適性、ICカードBの製造工程におけるチップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードBの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を試験し、その結果を表1に示した。
【実施例3】
【0033】
実施例1において、基板表面にアンカーコート処理(処理条件は、UV硬化性アンカーコート剤を中圧水銀灯UV光源、出力1500Watt、波長200〜380nm、照射距離約80nmにて、基板を連続的に搬送しつつ約0.5秒照射)した後にUVオフセット印刷を施した以外は実施例1と同様にしてICカードAと同型のICカードCを得た。ICカードCの基板の環境配慮適性、ICカードCの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードCの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、6番目から12番目の水洗槽中に希塩酸を添加せず(このとき、該水洗層中の水洗液のpHは4.5〜5.0であった。)、断裁機にて断裁するときに、バルカナイズド・ファイバーの繊維配向軸と断裁によって得られる基板の長軸とが成す角度の内の小さい方の角度が30度となるようにした以外は実施例1と同様にしてICカードAと同型のICカードDを得た。ICカードDの基板の環境配慮適性、ICカードDの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードDの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0035】
[比較例2]
比較例1において、バルカナイズド・ファイバーに熱プレス処理をしない以外は比較例1と同様にしてICカードAと同型のICカードEを得た。ICカードEの基板の環境配慮適性、ICカードEの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードEの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0036】
[比較例3]
比較例2において、熱プレス処理していないバルカナイズド・ファイバーに代えて、水洗槽中の水洗液に希塩酸を添加せずに(このとき、水洗工程の内、水洗液の塩化亜鉛濃度が5質量%以下である水洗工程において、該水洗液のpHは4.5〜5.0であった。)得た厚さ0.25mmで1m角のバルカナイズド・ファイバー3枚を、相接し合う層の繊維配向方向が互いに直角をなすようにして尿素・メラミン系接着剤を介して積層(接着剤塗布量は接着層毎に固形分で22g/m)し、熱圧プレスによって加熱圧締(温度98℃、圧力2.0MPa、時間60分)して固着せしめたバルカナイズド・ファイバー積層板を比較例2と同様にして基板に断裁した以外は比較例2と同様にしてICカードAと同型のICカードFを得た。ICカードFの基板の環境配慮適性、ICカードFの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードFの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0037】
[比較例4]
比較例2において、熱プレス処理していないバルカナイズド・ファイバーに代えて、円網4層抄の厚さ0.8mmの板紙を比較例2と同様にして基板に断裁した以外は比較例2と同様にしてICカードAと同型のICカードGを得た。ICカードGの基板の環境配慮適性、ICカードGの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードGの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0038】
[比較例5]
比較例3において、1m角の0.25mm厚バルカナイズド・ファイバーに代えて、円網4層抄の厚さ0.3mmの板紙を1m角に断裁したもの3枚を、相接し合う層の繊維配向方向が互いに直角をなすようにして比較例3と同様にして積層・固着せしめた以外は比較例3と同様にしてICカードAと同型のICカードHを得た。ICカードHの基板の環境配慮適性、ICカードHの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードHの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。
【0039】
[比較例6]
比較例2において、熱プレス処理していないバルカナイズド・ファイバーに代えて、0.8mm厚のPVC板を比較例2と同様にして基板に断裁した以外は比較例2と同様にしてICカードAと同型のICカードIを得た。ICカードIの基板の環境配慮適性、ICカードIの製造工程における基板製作時の作業性、チップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードIの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性を評価し、その結果を表1に示した。なお、ICカードIの基板については、亜鉛含有量は測定しなかったが、該基板はPVC板であり、生分解性に乏しく廃棄したときの環境での影響が大きいと考えられるため、該基板の環境配慮適性を×とした。
【0040】
【表1】

実施例1〜3、比較例1〜6及び表1から、本発明に係るICカードは、基板の環境配慮適性、基板製作時の作業性、ICカードの製造工程におけるチップ埋設用凹部の切削加工性及びチップ接着時耐熱性並びにICカードの耐割裂性、耐カール性及び焼却適性のすべての評価項目において優れていることがわかる。なお、焼却できるという点においては、基板として通常の板紙を用いても目的を達せられるが、比較例4で得たICカードG及び比較例5で得たICカードHは、手で簡単に引裂ける程度の強度しかなく、この点からも実用に供し得るものではない。
【0041】
一方、実施例1、実施例2又は実施例3で得た本発明にかかるICカードA、ICカードB又はICカードCは、何れも従来のプラスチック製基板のICカードと同等の強度をもつとともに、基板が天然繊維質材料から成るバルカナイズド・ファイバーであるため、プラスチック材料にはない柔軟性があり、プラスチック製基板のICカードに比べ、衝撃に対し欠け、割れなどを発生しにくい。
【0042】
また、従来のバルカナイズド・ファイバーを積層・固着せしめてなる積層板から成る基板(比較例3)では、バルカナイズド・ファイバー3枚を相接し合う層の繊維配向方向が互いに直角をなす構成で積層・固着せしめて積層板とする必要があり、製造工程が煩雑で、かつ、工程数が多く製造効率及び製造作業性が悪いと共に、その影響でコストが高くなるのに対し、実施例1、実施例2又は実施例3で得た本発明にかかる基板は、何れも煩雑な接着積層作業なしに得られるので、製造工程が簡素化され、製造工程数も少なく、製造効率及び製造作業性が良好であり、安価とすることが可能である。
【0043】
さらに、従来のバルカナイズド・ファイバーから成る基板(比較例2)、従来のバルカナイズド・ファイバーを熱プレス処理して得たバルカナイズド・ファイバーから成る基板(比較例1)又は従来のバルカナイズド・ファイバーの接着積層板から成る基板(比較例3)では、亜鉛含有量が1400mg/kg以上、2500mg/kg未満であり、廃棄したときの環境への影響は現時点で、問題とされない範囲にあるが、実施例1、実施例2又は実施例3で得た本発明にかかる基板では、亜鉛含有量が、実施例1と実施例3で1000mg/kg未満、実施例2で1000mg/kg以上、1400mg/kg未満であるので、廃棄したときの環境への影響がほとんどなく環境配慮適性において極めて優れており、将来での要求にも対応している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るICカードの斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
2 チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、熱プレス処理した厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーを基板とし、該基板の表面に形成された凹部にチップを埋設・固着したか、又は前記基板に形成された全厚に渡る貫通部分にチップを填め込んだことを特徴とするICカード。
【請求項2】
熱プレス処理に際し、水分5〜12%に調整したバルカナイズド・ファイバーを、温度80〜110℃、面圧0.2〜5MPa、時間20〜500秒にて熱プレス処理することを特徴とする請求項1記載のICカード。
【請求項3】
基板表面にUV硬化性アンカーコート剤層を形成するとともに該アンカーコート剤層上にUVオフセット印刷層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のICカード。
【請求項4】
バルカナイズド・ファイバーの水洗工程の内、水洗液の塩化亜鉛濃度が5質量%以下である水洗工程の少なくとも一部において、酸を添加し水洗液のpHを2〜4に調整して得たバルカナイズド・ファイバーを熱プレス処理し、走査型蛍光X線分析の簡易定量分析法で測定した亜鉛含有量が1400mg/kg未満であり、厚さ0.5〜2mmのバルカナイズド・ファイバーから成る基板とし、次いで、該基板の表面に凹部を形成せしめ、該凹部にチップを埋設・固着するか、又は前記基板に全厚に渡る貫通部分を形成せしめ、該貫通部分にチップを填め込んだことを特徴とするICカードの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−123646(P2012−123646A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274243(P2010−274243)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】