説明

ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤

【課題】耐熱性、接着性及び固化性能等の総合的な性能に優れ、製造されるICカードの品質および生産性を低下させない湿気硬化型ホットメルト接着剤、及びそのような湿気硬化型ホットメルト接着剤が塗布されて得られるICカードを提供する。
【解決手段】イソシアネート基を末端に有し、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を有する(A)ウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、未湿気硬化時のせん断弾性率は、40℃で(1×10)〜(1×10)Paであり、80℃で(1×10)〜(1×10)Paである、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤及び該ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られるICカード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードの製造に用いられる湿気硬化型ホットメルト接着剤及びその湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗布して得られるICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
身分証明書カード、キャッシュカード及びクレジットカード等のIDカードに、ICチップを内蔵したICカードが普及している。このようなICカード製造に用いられる接着剤の一種として、湿気硬化型ホットメルト接着剤がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、加熱溶融した接着剤が、温度低下によって物理的に固化した後、湿気によって化学的に硬化するという特徴を有する。従って、本明細書では、「固化」とは、温度低下によって接着剤が溶融状態から固体状態に物理的に変化することを意味し、「硬化」とは、湿気によって接着剤が化学変化してより硬くなることを意味する。
【0004】
ICカードは、磁気カードに比べて記憶容量が大きくセキュリティ性も高いので、例えば、身分証明カード、キャッシュカード及びクレジットカード等として、更に利用されることが予想される。従って、湿気硬化型ホットメルト接着剤には、得られるICカードの品質を維持し、ICカードの生産性を低下させないことが望まれている。
【0005】
特許文献1等に記載されているように、ICカードを製造するためには、まず、通常、ICチップが埋め込まれた成形樹脂や樹脂フィルム等を基材として準備する。樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)フィルム等の化粧材に、加熱溶融した湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗布して、上述の基材と上記化粧材を貼り付ける。その後、湿気硬化型ホットメルト接着剤は温度低下によって物理的に固化して、基材と化粧材との積層体が得られる。基材と化粧材が長尺シート状である場合、得られた長尺シート状積層体を適当な大きさに切断して枚葉シート状の積層体を得る。得られた積層体は、一定期間、複数の積層体が重ね合わさった状態で保管される。この保管中に、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、更に湿気により硬化して強度等が増加する。積層体は、個々のICカードに打ち抜かれる。
【0006】
湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いてICカードを製造すると、湿気硬化型ホットメルト接着剤の温度低下による固化後のタック消失が遅い(即ち、タックフリータイムが長い)ので、重ね合わされた積層体が、それらの切断箇所同士で接着し、生産効率上好ましくない。更に、温度低下による湿気硬化型ホットメルト接着剤の熱収縮率(「固化収縮率」ともいう)が大き過ぎるため、カードが収縮し、表面が均一にならないことがある。即ち、カード表面に凹凸が発生し、ICチップ実装部分が盛り上がったICカードが生産され、ICカードの品質上好ましくない。
【0007】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は比較的低温で塗布することができるが、タックフリータイムが比較的長いので、上述したように積層体を適当な大きさの枚葉状積層体に裁断したり、ICカードを打ち抜いて製造することを考慮すると、湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いることで、積層体の裁断性及びICカードの生産性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−148959号公報
【特許文献2】特開2005−036128号公報
【特許文献3】特開2005−332384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、耐熱性、接着性及び固化性能等、湿気硬化型ホットメルト接着剤としての総合的な性能に優れ、製造されるICカードの品質および生産性を低下させない湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供することである。更に、そのような湿気硬化型ホットメルト接着剤が塗布されて得られるICカードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の化学構造を有する湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、未湿気硬化時のせん断弾性率を特定の範囲に調節すると、驚くべきことに上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、一の要旨において、
(A)イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー、を含むICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
(A)ウレタンプレポリマーは、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を有し、
未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)は、(1×10)〜(1×10)Paであり、
未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)は、(1×10)〜(1×10)Paである、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0012】
本発明では、(A1)化学構造は、ジオールとアジピン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来することが好ましい。
【0013】
本発明の一の態様において、(A)ウレタンプレポリマーは、さらに、炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られる(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造、及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造を含むICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0014】
本発明の別の態様において、未湿気硬化時において、融点は40〜90℃であり、120℃での溶融粘度は1500〜30000mPa・sであり、イソシアネート基含有率は0.5重量%〜8.0重量%であるICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0015】
本発明は、他の要旨において、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られるICカードを提供する。
【0016】
本発明は、一の態様において、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、化粧材と基材とを貼り合わせることで得られるICカードを提供する。
【0017】
本発明の好ましい態様において、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を、上記化粧材に100〜130℃で塗工し、放冷後、化粧材と基材を重ね合わせ、60〜90℃に再び加熱することで得られるICカードを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
(A)イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含むICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
(A)ウレタンプレポリマーは、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を有し、
未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)は、(1×10)〜(1×10)Paであり、未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)は、(1×10)〜(1×10)Paであるので、
耐熱性、接着性及び固化性能等、湿気硬化型ホットメルト接着剤としての総合的な性能に優れ、タック消失が早く、製造されるICカードの品質および生産性を低下させることがない。
【0019】
本発明のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、(A1)化学構造が、ジオールとアジピン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来するので、より優れた固化性能を有する。従って、得られるICカードの生産性は、より向上する。
【0020】
上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、(A)ウレタンプレポリマーが、更に、炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られる(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造、及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造を含むことで、固化性能がさらに向上し、耐熱性、接着性等、総合的により優れた接着剤となる。従って、得られるICカードの性能および生産性が高いレベルで維持される。
【0021】
上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、未湿気硬化時において、融点は40〜90℃であり、120℃での溶融粘度は1500〜30000mPa・sであり、イソシアネート基含有率は0.5重量%〜8.0重量%であることで、固化性能、耐熱性、接着性により優れるだけでなく、塗工性もより向上し、ICカードの性能および生産性をより向上させることができる。
【0022】
本発明に係るICカードは、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られるので、製造されるICカードの品質および生産性が低下することがない。
【0023】
本発明に係るICカードは、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、化粧材と基材とを貼り合わせることで得られるので、より均一な表面を有し、積層体の裁断性に優れる。本発明に係るICカードは、固化性能が優れた湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、化粧材と基材とを貼り合わせることで得られるので、長尺状積層体を裁断後、枚葉状積層体を重ね合わせて放置することができ、ICカードの生産効率により優れる。
【0024】
上記ICカードは、上記ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を、上記化粧材に100〜130℃で塗工し、放冷後、化粧材と基材を重ね合わせ、60〜90℃に再び加熱することで得られるので、より均一な表面を有し、積層体の裁断性により優れる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、「(A)イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー」(以下、「(A)ウレタンプレポリマー」ともいう)とは、一般にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーであって、「ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造」(以下、「(A1)化学構造」ともいう)を含んで成り、本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。このような(A)ウレタンプレポリマーは、「(a1)ポリエステルポリオール」を含むポリオールとイソシアネート化合物とを従来既知の方法を用いて反応させることで得ることができる。
【0026】
本発明では、(A)ウレタンプレポリマーは、必須成分として(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を含んで成り、(a1)ポリエステルポリオールは、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得ることができる。(A1)化学構造は、その(a1)ポリエステルポリオールに由来する。
【0027】
「ジオール」として、例えば、エチレングリコール、1−メチルエチレングリコール、1−エチルエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール等を例示できる。
【0028】
エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール及びデカンジオールから選択される少なくとも一種が好ましい。(a1)ポリエステルポリオールを得るために用いられるジオールは、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0029】
「炭素数10以下のジカルボン酸」とは、そのジカルボン酸分子中の炭素原子数がカルボキシル基も含めて10以下であることを意味し、脂肪族ジカルボン酸であっても、脂環式ジカルボン酸であっても、芳香族ジカルボン酸であってもよい。具体的には、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、シクロヘキサン−トランス−1,4−ジカルボン酸及びテレフタル酸を例示できる。本発明では、アジピン酸を用いることが好ましい。炭素数10以下のジカルボン酸は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0030】
ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる「(a1)ポリエステルポリオール」に由来する「(A1)化学構造」として、下記化学式(I)に示す構造を繰り返し単位として有する化学構造を例示することができる。
【0031】
【化1】

[Rは、任意の位置が任意の置換基で置換されていても良い、炭素数の合計が8以下であるアルキレン基、シクロアルキレン基、及びフェニレン基から選択され、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい、鎖状及び環状のアルキレン基から選択される。]
【0032】
化学式(I)において、
は、炭素数が2、4、6及び8の直鎖アルキレン基、シクロヘキシル基、及び1,4−フェニレン基から選択され、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい鎖状及び環状のアルキレン基から選択されることが好ましい。
【0033】
化学式(I)において、
は、炭素数が4の直鎖アルキレン基であり、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい鎖状及び環状のアルキレン基から選択されることがより好ましい。
【0034】
化学式(I)において、
は、炭素数が2、4、6及び8の直鎖アルキレン基、シクロヘキシル基、及び1,4−フェニレン基から選択され、
は、炭素数が2、4、6、8及び10の直鎖アルキレン基から選択されることがより好ましい。
【0035】
化学式(I)において、
は、炭素数が4の直鎖アルキレン基であり、
は、炭素数が2、4、6、8及び10の直鎖アルキレン基から選択されることが特に好ましい。
(A1)化学構造は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明の好ましい態様として、(A)ウレタンプレポリマーは、さらに、「炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られる(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造」(以下、「(A2)化学構造」ともいう)及び/又は「(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造」(以下、「(A3)化学構造」ともいう)を有してよい。
【0037】
本発明では、(A)ウレタンプレポリマーは、場合により、(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造を含んで成ってよく、(a2)ポリエステルポリオールは、ジオールと炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸との反応で得ることができる。(A2)化学構造は、その(a2)ポリエステルポリオールに由来する。
【0038】
「炭素数が11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸」とは、脂肪族ジカルボン酸分子中に含まれる炭素原子数がカルボキシル基も含めて11以上18以下であることを意味し、例えば、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸及びオクタデカン二酸を例示することができる。本発明では、ドデカン二酸を用いることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。炭素数が11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0039】
(a2)ポリエステルポリオールと反応させる「ジオール」は、本発明に係る(A2)ウレタンプレポリマーを得られる限り特に限定されるものではなく、例えば、(a1)ポリエスエルポリオールと反応させるジオールとして既に例示したジオールと同様であってよい。ジオールは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0040】
ジオールと炭素数11以下18以下の脂肪族ジカルボン酸との反応で得られる「(a2)ポリエステルポリオール」に由来する「(A2)化学構造」として、下記化学式(II)に示す構造を繰り返し単位として有する化学構造を例示することができる。
【0041】
【化2】

[Rは、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよい、炭素数9以上16以下のアルキレン基から選択され、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい、鎖状及び環状のアルキレン基から選択される。]
【0042】
化学式(II)において、
は、炭素数が10、12、14及び16の直鎖アルキレン基から選択され、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい鎖状及び環状のアルキレン基から選択されることが好ましい。
【0043】
化学式(II)において、
は、炭素数が10の直鎖アルキレン基であり、
は、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい鎖状及び環状のアルキレン基から選択されることがより好ましい。
【0044】
化学式(II)において、
は、炭素数が10、12、14及び16の直鎖アルキレン基から選択され、
は、炭素数が2、4、6、8及び10の直鎖アルキレン基から選択されることがより好ましい。
【0045】
化学式(II)において、
は、炭素数が10の直鎖アルキレン基であり、
は、炭素数が2、4、6、8及び10の直鎖アルキレン基から選択されることが特に好ましい。
(A2)化学構造は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0046】
本発明では、(A)ウレタンプレポリマーは、場合により、(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造を含んで成ってよい。
「(a3)ポリエーテルポリオール」とは、通常、ポリエーテルポリオールと理解されるものをいい、本発明が目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。そのような(a3)ポリエーテルポリオールとして、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)等を例示できる。(a3)ポリエーテルポリオールは、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0047】
「(a3)ポリエーテルポリオール」に由来する「(A3)化学構造」として、下記化学式(III)に示す構造を繰り返し単位として有する化学構造を例示することができる。
【0048】
【化3】

[Rは、任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい、鎖状及び環状のアルキレン基から選択される。]
【0049】
化学式(III)において、
は、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基から選択されることが好ましく、炭素数2〜3の鎖状のアルキレン基から選択されることがより好ましい。
(A3)化学構造は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0050】
本発明に係る(A)ウレタンプレポリマーは、(A1)化学構造と、場合により(A2)化学構造及び/又は(A3)化学構造を、一分子中に含んでよい。従って、(A)ウレタンプレポリマーは、(A1)化学構造を含むプレポリマーであっても、(A1)及び(A2)化学構造を含むプレポリマーであっても、(A1)及び(A3)化学構造を含むプレポリマーであっても、(A1)〜(A3)化学構造を含むプレポリマーであってもよい。更に、(A)ウレタンプレポリマーは、これらのプレポリマーの組み合わせであってよい。
【0051】
(A)ウレタンプレポリマーの製造方法は、本発明が目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り特に限定されることはない。(A)ウレタンプレポリマーは、通常、ウレタンプレポリマーを製造することができる方法を用いて製造することができる。
【0052】
一般的には、(a1)ポリエステルポリオール、場合により(a2)ポリエステルポリオール及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールを準備し、これらを適宜含むポリオールと(b)イソシアネート化合物とを反応させて目的とする(A)ウレタンポリマーを得ることができる。尚、(a1)ポリエステルポリオール、場合により(a2)ポリエステルポリオール及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールを準備し、これらの(a1)〜(a3)ポリオールを別々に(b)イソシアネート化合物と反応させた後、得られた各々のプレポリマーを適宜混合して目的とする(A)ウレタンプレポリマーを得ることもできる。
【0053】
(A)ウレタンプレポリマーは末端にイソシアネート基を有さなければならないので、(b)イソシアネート化合物とポリオールの合計とのモル比(NCO/OHのモル比)は1より大きくなければならず、1.4〜2.2であることが好ましい。ない。ここで、「ポリオールの合計」とは、(a1)ポリオールと、場合により(a2)ポリオール及び/又は(a3)ポリオールを含むポリオールの合計である。
【0054】
本発明に係る(b)イソシアネート化合物は、本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に限定されるものではなく、通常のポリウレタン製造に使用されるものを用いることができる。(b)イソシアネート化合物は、単独でもしくは組み合わせて用いることができる。
【0055】
(b)イソシアネート化合物として、具体的には、例えば、エチレンジイソシアネート、エチリデン−ジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレン−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−ジイソシアネート、トルエン−ジイソシアネート、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4−ナフチレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、アゾベンゼン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、ジクロロヘキサメチレンジイソシアネート、フルフリデンジイソシアネート、1−クロロベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示できる。(b)イソシアネート化合物は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0056】
本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ポリオールと(b)イソシアネート化合物との反応に悪影響を与えず、本発明の目的に反しない程度であれば、(c)その他の成分を含むことができる。(c)その他の成分を、湿気硬化型ホットメルト接着剤に添加する時期は、特に制限されるものではない。(c)その他の成分は、例えば、(A)ウレタンプレポリマーを合成する際に(a)ポリオール、(b)イソシアネート化合物と共に添加しても良いし、先に(a)ポリオールと(b)イソシアネート化合物とを反応させて(A)ウレタンプレポリマーを合成し、その後、添加しても良い。
【0057】
「(c)その他の成分」として、例えば、粘着付与樹脂、酸化防止剤、顔料、光安定剤、難燃剤、触媒及びワックス等を例示することができる。
「粘着付与樹脂」として、例えば、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、ロジンエステル、アクリル樹脂、ポリオールタイプではないポリエステル樹脂等を例示できる。
「可塑剤」として、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルアジペート、ジオクチルアジペート、ミネラルスピリット等を例示できる。
【0058】
「酸化防止剤」として、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を例示できる。
「顔料」として、例えば、酸化チタン、カーボンブラック等を例示できる。
「光安定剤」として、例えば、ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン、ベンゾエート、ベンゾトリアゾール等を例示できる。
「難燃剤」として、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤等を例示できる。
【0059】
「触媒」として、金属触媒、例えば、錫触媒(トリメチルチンラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレエート等)、鉛系触媒(オレイン酸鉛、ナフテン酸鉛、オクテン酸鉛等)、そのほかの金属触媒(ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等)、及びアミン系触媒、例えばトリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルへキシレンジアミン、ジアザビシクロアルケン類、ジアルキルアミノアルキルアミン類等を例示できる。
「ワックス」として、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等のワックスが好ましい。
【0060】
このようにして得られる本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、反応性ホットメルト型接着剤の一種であり、室温では固体であり、反応性ホットメルト型接着剤として、常套の方法を用いて使用することができる。一般的に加熱溶融して使用する。
【0061】
本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ICカード用に好適に使用することができ、未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)が、(1×10)〜(1×10)Paであり、かつ、未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)が、(1×10)〜(1×10)Paである。
【0062】
本明細書における「未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)」とは、本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤を、湿気から遮断した条件下で、室温(20℃前後)から所定の昇温速度で昇温させて40℃になった直後のせん断弾性率をいう。「未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)」とは、本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤を、湿気から遮断した条件下で、室温(20℃前後)から所定の昇温速度で昇温させて80℃になった直後のせん断弾性率をいう。尚、いずれもせん断弾性率の測定は、1Hzで行った。
【0063】
未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)が(1×10)Pa未満であるか、未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)が(1×10)Pa未満である場合、湿気硬化型ホットメルト接着剤の固化性能が著しく低下する。未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)が(1×10)Paを超えるか、未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)が(1×10)Paを超える場合、耐熱性が著しく低下し、熱再活性も低下し、更にはICカードの裁断性も低下する。
【0064】
本発明では、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤の融点は、40〜90℃であることが好ましい。融点が40℃未満の場合、接着剤の固化性能が低下し得、初期強度の発現が遅延し、ホットメルト接着剤としての性能を有さなくなり得る。融点が90℃を超えると、接着剤の溶融粘度が高くなり得、安全に取り扱える100〜130℃で十分な塗工性を有さなくなり得る。
尚、本明細書では、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤の融点は、示差走査熱量計(DSC)、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のDSC6220(商品名)を用いて行った。具体的には、アルミ容器に試料を10mg秤量し、昇温速度10℃/minで測定し、融解ピークの頂点を融点とした。
【0065】
本発明のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、120℃での溶融粘度が1500〜30000mPa・sであることが好ましい。120℃での溶融粘度が1500mPa・s未満の場合、ICカードを製造する際、化粧材と基材との密着性が低くなり得る。120℃での溶融粘度が30000mPa・sを超える場合、基材又は化粧材への塗工性が低下し得る。
ここで、120℃での溶融粘度とは、ブルックフィールド型粘度計を用い、ローターNo.27を用いて測定した値をいう。
【0066】
本発明では、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、未湿気硬化時のイソシアネート含有率が0.5〜8.0重量%であることが好ましい。イソシアネート含有率が0.5重量%未満の場合、耐熱性が低下し得、得られたICカードの裁断性が低下し得る。
イソシアネート含有率が8.0重量%を超える場合、環境衛生的に好ましくない。
【0067】
このようにして得られる本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、反応性ホットメルト型接着剤の一種であって、室温では固体であり、反応性ホットメルト型接着剤に関して常套の方法を用いて、使用することができる。一般的に加熱溶融して使用する。
【0068】
本発明に係るICカードは、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を使用して得ることができる。ICカードは、本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、「基材」の表面に「化粧材」をラミネートすることで製造される。ICカードを製造する際、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、基材側に塗布しても良いし、化粧材側に塗布しても良い。
【0069】
「基材」とは、目的とするICカードを製造することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを例示できる:
ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック材料。
「基材」の形態についても、特に限定されず、成形樹脂状、フィルム状、シート状であっても差し支えない。
【0070】
「化粧材」は、無色であっても着色されていても、透明であっても不透明であってもよいが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂を例示できる。ポリオレフィン樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンを例示でき、ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレートを例示できる。
【0071】
ICカードの製造方法は、目的とするICカードを製造することができる限り、特に制限されるものではない。ICカードは、例えば、背景技術の特許文献1等に記載される製造方法で製造することができるが、例えば、下記の方法で製造することが好ましい。ICカードの製造には、特別な装置を使う必要はなく、搬送機、コーター、プレス機、ヒーター及び裁断機等からなる一般的に知られた製造ラインで差し支えない。
【0072】
化粧材を搬送機で流しながら、本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤を、コーターを用いて化粧材に塗工する。湿気硬化型ホットメルト接着剤をヒーターで加熱して、塗工温度を100〜130℃に制御することが好ましい。化粧材を(室温:約20℃〜25℃に)放冷し、湿気硬化型ホットメルト接着剤を一旦固化させる。化粧材と基材を重ねて積層体を得、この積層体を湿気硬化接着剤の融点を考慮しながら60〜90℃に再加熱して、湿気硬化型ホットメルト接着剤(未湿気硬化状態)を再流動させながら、積層体を搬送機で流して、湿気硬化型ホットメルト接着剤を湿気硬化させる。湿気硬化型ホットメルト接着剤の湿気硬化が完了した頃、積層体を裁断機で適当な大きさの個々のICカードに切断する。
【0073】
本発明に係るICカードは、表面が均一で裁断性が優れているので、積層体から打ち抜かれて製造されても化粧材と基材とが剥れない。固化性能に優れるICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤が塗工されているから、タックが早く消失するので、積層体を積み重ねた状態で放置することが可能になり、ICカードの生産効率が向上する。
【0074】
以下に、本発明の主な態様を記載する。
1.(A)イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含むICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
(A)ウレタンプレポリマーは、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を有し、
未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)は、(1×10)〜(1×10)Paであり、
未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)は、(1×10)〜(1×10)Paである、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
2.(A1)化学構造は、ジオールとアジピン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する上記1に記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
3.(A)ウレタンプレポリマーは、さらに、炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られる(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造、及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造を含む上記1又は2に記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
4.未湿気硬化時において、融点は40〜90℃であり、120℃での溶融粘度は1500〜30000mPa・sであり、イソシアネート基含有率は0.5重量%〜8.0重量%である上記1〜3のいずれかに記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
5.上記1〜4のいずれかに記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られるICカード。
6.上記1〜4のいずれかに記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、化粧材と基材を貼り合わせることで得られる上記5に記載のICカード。
7.上記1〜4のいずれかに記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を、上記化粧材に100〜130℃で塗工し、放冷後、化粧材と基材を重ね合わせ、60〜90℃に再び加熱することで得られる上記6に記載のICカード。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例の湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物の製造に用いた、ポリオール(a)、イソシアネート化合物(b)、その他の成分(c)を以下に示す。
【0076】
ポリエステルポリオール(a1)として、下記のものを用いた。
(a1−1):アジピン酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=31mgKOH/g、豊国製油社製のHS 2H−351A(商品名))、
(a1−2):アジピン酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=13mgKOH/g、豊国製油社製のHS 2H−851A(商品名))、
(a1−3):アジピン酸、テレフタル酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=25mgKOH/g、豊国製油社製のHS 2H−458T(商品名))、
(a1−4):アジピン酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=112mgKOH/g、日本ポリウレタン工業社製のニッポラン164(商品名))、
(a1−5):セバシン酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=32mgKOH/g、豊国製油社製のHS 2H−350S(商品名))、及び
(a1−6):コハク酸とブタンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=32mgKOH/g、エボニックデグサジャパン社製のダイナコール7390(商品名))。
【0077】
ポリエステルポリオール(a2)として、下記のものを用いた。
(a2−1):ドデカン二酸とヘキサンジオールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=32mgKOH/g、宇部興産社製のエテルナコール3010(商品名))、及び
(a2−2):ドデカン二酸とエチレングリコールから得られた結晶性ポリエステルポリオール(水酸基価=32mgKOH/g、エボニックデグサジャパン社製のダイナコール7330(商品名))。
【0078】
ポリエーテルポリオール(a3)として、下記のものを用いた。
(a3−1):ポリプロピレングリコール(重量平均分子量=1000、和光純薬工業社製のPPG1000(商品名))、
(a3−2):ポリプロピレングリコール(重量平均分子量=2000、和光純薬工業社製のPPG2000(商品名))、
(a3−3):ポリエチレングリコール(重量平均分子量=400、和光純薬工業社製のPEG400(商品名))、及び
(a3−4):ビスフェノールAエチレンオキサイド変性物(液状、水酸基価=168mgKOH/g、三洋化成工業社製のニューポールBPE−100(商品名))。
【0079】
イソシアネート化合物(b)として、(b−1):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製のミリオネートMTF(商品名))を用いた。
【0080】
その他の成分(c)として、下記のものを用いた。
(c−1)粘着付与樹脂:メチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体(ガラス転移温度=75℃、重量平均分子量=30000、三菱レイヨン社製のBR−113(商品名))、
(c−2)粘着付与樹脂:メチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体(ガラス転移温度=50℃、重量平均分子量=60000、三菱レイヨン製社製のBR−106(商品名))、
(c−3)粘着付与樹脂:テレフタル酸とポリオールの反応で得られたポリエステル(東洋紡社製のGA6400(商品名))、及び
(c−4)可塑剤:イソノニルアルコール(炭素数9)のアジピン酸エステル(和光純薬工業社製のDINA(商品名))。
【0081】
<湿気硬化型ホットメルト接着剤の製造>
表1及び表2に示される重量部にて、ポリオール(a)、その他の成分(c)をセパラブルフラスコに入れ、125℃で90分間減圧撹拌して脱水した。温度を105℃に下げた後、イソシアネート化合物(b)をフラスコに投入し、ウレタンプレポリマーを調製した。ウレタンプレポリマーをそのまま、105℃で2時間(約1mmHg以下に)減圧して攪拌した。その後、フラスコからプレポリマーを取り出して、ガラス瓶に入れて密閉し、実施例及び比較例の湿気硬化型ホットメルト接着剤とした。いずれの湿気硬化型ホットメルト接着剤も120℃で塗工可能な粘度を有するものであった。
【0082】
実施例および比較例の湿気硬化型ホットメルト接着剤について、各物性を測定した。測定方法、評価基準を以下に記載する。
【0083】
<未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃及び80℃)の測定>
動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製のAR−G2(商品名))を用い、未硬化時の湿気硬化型ホットメルト接着剤の40℃及び80℃のせん断弾性率(G’)を求めた。2枚のプレートを湿気硬化型ホットメルト接着剤で貼り合わせ、せん断弾性率(G’)を測定した。
具体的には、検出器に25mm径のアルミニウム製のパラレルプレートを用い、別のパラレルプレートを120℃に加温し、加温されたプレート上に、密閉容器内で120℃に加温して溶融状態の湿気硬化型ホットメルト接着剤を垂らした。湿気硬化型ホットメルト接着剤を介して検出器のプレートと加熱されたプレートとを挟み込み、プレート間の距離が1500μmになるように調整した。2枚のプレートを一旦室温(20〜25℃)まで冷却後、5℃/分の昇温速度で、湿気硬化型ホットメルト接着剤の温度を40℃及び80℃まで各々昇温した。各々の温度に到達した直後のせん断弾性率(G’)を、1Hzの周波数で測定した。
【0084】
<融点測定>
示差走査熱量計(DSC)(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のDSC6620(商品名))を用いて融点を測定した。10mgのサンプルを精秤し、そのサンプルをチャンバー内にセットし、チャンバー内を一旦−70℃に冷却した。その後、5℃/分の昇温速度でサンプルを120℃まで加熱した。得られた吸熱ピークのピークトップを融点とした。尚、複数の吸熱ピークが見られた場合は、最も吸熱ピーク面積の大きいピークのピークトップを融点とした。
【0085】
<120℃での粘度測定方法>
密閉容器内に保管した湿気硬化型ホットメルト接着剤を120℃に加熱して溶融した。10.5〜11.5gの試料を摂取して、ブルックフィールド型粘度計の粘度缶に入れた。温度を120℃に30分間保った後、No.27スピンドルを用いて粘度を測定した。
【0086】
<NCO基含有量測定方法>
ホットメルト接着時の未湿気硬化時のNCO基含有率は、ジブチルアミンを用いる逆滴定法を用いて測定した。具体的には、以下の操作により行い、下記計算式(I)を用いて、NCO基含有量を求めた。
(i)共栓付三角フラスコに、約3gの試料(湿気硬化型ホットメルト接着剤)を取り、その重さを精密に秤量する。
(ii)20mlの酢酸エチルを加えて、試料を溶解する。
(iii)これに1Nのn−ジブチルアミンのトルエン溶液25mlを正確に加えて、よく振り混ぜた後、約30分間放置する。
(iv)100mlのイソプロピルアルコールを加えた後、0.8mlのブロムクレゾールグリーン指示薬を添加し、よく振盪する。
(v)0.5Nの塩酸標準溶液で滴定する。特に終点付近では、0.5N塩酸標準溶液を1滴ずつ加え、その都度溶液を十分にかき混ぜながら滴定する。色が青から黄色に変わる点を終点とする。
(vi)同一条件で空試験を行なう。
【0087】
計算式(I):NCO基含有量(%)=2.101×(A−B)×f/S
A:空試験に要した0.5Nの塩酸標準溶液の量(ml)
B:滴定に要した0.5Nの塩酸標準溶液の量(ml)
S:試料の重量(g)
f:0.5N塩酸標準溶液のファクター
【0088】
<湿気硬化型ホットメルト接着剤を評価するために使用した材料>
「化粧材」として、易接着処理が施された100μm厚のPETシート(三菱樹脂社製のO300EW36(商品名))を用いた。
「基材」として、片面にICモジュールが接着剤で接着されているポリエチレンテレフタレートフィルムであって、フィルムの繰り出し方向にICモジュールが間隔をおいて積層されているポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。これを、接着剤層の間に使用するインレットシートとして用いた。
【0089】
<評価方法>
(1)固化性能
密閉容器内で120℃に加熱し溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を開封し、直ちに室温(20〜25℃)下の上記基材に、厚さ100μmになるように塗工した。1時間後、指触により固化の状態を確認した。
評価基準は、下記のとおりである。
◎:接着剤層は指触によって変形することなく、接着剤層表面はタックがない。
○:接着剤層は指触によって変形することなく、接着剤層表面はわずかなタックが認められる。
×:接着剤層表面にタックが認められ、接着剤層は指触によって変形する
【0090】
(2)熱再活性性能
上記化粧材上に、120℃で溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を厚みが100μmになるように塗工して塗工シートを作成した。同様の手順で更にもう一枚の塗工シートを作成した。
両者をそのまま60分間室温で放冷した。その後、一方の塗工シートの塗工層上に上記基材をインレットシートとしてかぶせ、さらにその上からもう一方の塗工シートを塗工面がインレットシートと合わさるようかぶせて、化粧材/接着剤層/基材/接着剤層/化粧材から構成された積層体を得た。
この積層体を80℃に加熱した回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるように通過させた。
評価基準を以下に示す。
○ :接着剤層が熱的に再活性され再流動した後、積層体にウキや剥れがない。
× :接着剤層が再流動しながらも、積層体に部分的なウキや剥れが見られる。
××:金属ロール間で圧締する際、接着剤層が再流動せず積層体が得られない。
【0091】
(3)接着性能
(2)に記載した方法と同様の方法を用いて積層体を得た。
この積層体を80℃に加熱した回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。得られた積層体を15℃、50%RH環境下で1週間養生した後、25mm幅にカットして短冊状の試験片を作成した。この試験片の長さ方向の一端の上下のPETシートを手でつかみ、手で剥離する試験を行った。
評価基準を以下に示す。
○:PETシートが破断したもの。
×:接着剤剤層の界面剥離が生じたもの。
−:金属ロール間で圧締する際、接着剤層が再流動せず積層体が得られなかった。
【0092】
(4)耐熱接着性能
(2)に記載した方法と同様の方法を用いて積層体を得た。
この積層体を80℃に加熱した回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。それにより得られた積層体を15℃、50%RH環境下で1週間養生した後、10cm角にカットして試験片を作成した。
この試験片を80℃のオーブン内に1日放置した。1日後に80℃でその状態を確認した。
評価基準は、以下のとおりである。
○ :80℃オーブン投入前と変化のなかったもの。
× :接着剤層とシート界面の密着力が弱く、積層体にウキやはがれが見られたもの。
××:接着剤層が再流動し、積層体にウキや剥れが見られたもの。
− :金属ロール間で圧締する際、接着剤層が再流動せず積層体が得られなかったもの。
【0093】
(5)打ち抜き特性
(2)に記載した方法と同様の方法を用いて積層体を得た。
この積層体を80℃に加熱した回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。得られた積層体を15℃、50%RH環境下で1週間養生した後、硬度計(アスカーC)による硬度値が70である15mm厚のシリコンゴム基板の上に、積層体を置き、JIS K6251ダンベル試験で参照される3号ダンベルの刃枠を用いて積層体を打ち抜いた。
評価基準を以下に示す。
○ :破断面にバリがなく、きれいに打ち抜けたもの。
× :破断面にバリがでたもの。
××:破断面に一部はがれがみられたもの。
− :金属ロール間で圧締する際、積層体を得られなかったもの。
【0094】
(6)外観(意匠性、耐発泡性)
(2)に記載した方法と同様の方法を用いて積層体を得た。
この積層体を80℃に加熱した回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。それにより得られた積層体を15℃、50%RH環境下で1週間養生した。
評価基準は以下のとおりである。
○:積層体にウキがみられなかったもの。
×:接着剤層の発泡により積層体にウキがみられたものを×とした。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
本実施例で作製された積層体は、基材にICモジュールを含む。積層体をICカード代替品と仮定して、湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗工して、評価した。
【0098】
表1から明らかなように、実施例1〜10のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、(A1)化学構造を含み、未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)が(1×10)〜(1×10)Paであり、未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)が(1×10)〜(1×10)Paであるから、本願請求項1に記載した要件を全て満足する。実施例1〜10の湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られた積層体は、評価項目の全てに良好で、特に固化性能に優れているので、効率良く生産可能であることが明らかである。
【0099】
これに対し、比較例1〜7のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、表2から理解されるように、本願請求項1に記載した要件のいずれかを満たさない。即ち、比較例1〜7のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、は、(A1)化学構造を含まないか、若しくは、未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)又は(80℃)が本願請求項1に記載した値の範囲から外れている。比較例1〜7の湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られた積層体は、評価項目のいずれかが不良である。
【0100】
これらを考慮すると、本願請求項1に係るICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ICカードの性能を維持しつつ、生産効率を向上させるために非常に有用であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含むICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
(A)ウレタンプレポリマーは、ジオールと炭素数10以下のジカルボン酸との反応で得られる(a1)ポリエステルポリオールに由来する(A1)化学構造を有し、
未湿気硬化時のせん断弾性率(40℃)は、(1×10)〜(1×10)Paであり、
未湿気硬化時のせん断弾性率(80℃)は、(1×10)〜(1×10)Paである、ICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項2】
(A)ウレタンプレポリマーは、さらに、炭素数11以上18以下の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られる(a2)ポリエステルポリオールに由来する(A2)化学構造、及び/又は(a3)ポリエーテルポリオールに由来する(A3)化学構造を含む請求項1に記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のICカード用湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて得られるICカード。

【公開番号】特開2010−275409(P2010−275409A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128647(P2009−128647)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】