説明

ICカード運用プラットフォームを構築する方法、装置、プログラム及びプログラム媒体、並びに、ICカード運用システム

【課題】 本発明は、仕様の異なるプラットフォームを追加可能なシステムの構築技術を提案することにより、複数のプラットフォームへの対応、プラットフォームの仕様変更への対応を容易化、低コスト化することを目的とする。
【解決手段】 ICカード運用プラットフォーム間で差異のある部分は、オプショナルな「実現機能」部分、機能を実現するためのADPUコマンドの「実行手順」部分、個々の「APDUコマンド」部分、「権利情報取得方式」部分及び「権利情報発行者」部分の5つに分類される。本発明は、この認識に基づいて、上記の五つのICカード運用プラットフォーム毎に固有の独自仕様部分の差異を吸収するためのレイヤを用意し、独自仕様に対応した実装クラスを追加することにより、独自仕様部分の差異を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ICカード運用プラットフォームの構築技術に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、公共、金融、通信、交通、医療の分野、そしてインターネット上の電子商取引において、大きなデータ容量と演算能力を有するICカードの利用が広まっている。現在、ICカードを運用するためのプラットフォームは、金融分野や公共分野などでそれぞれ仕様策定を行っている。これらの分野では、互いに仕様の共通化を図るための努力が行われているが、複数のICカード運用プラットフォーム仕様が共存しているのが現状である。
【0003】また、ICカード技術の進歩により、ICカードは著しいスピードで高機能化、高容量化が進んでおり、ICカードを用いて実現できる機能も多様化してきている。このため、新しいICカード機能に対応するためにバージョンアップするICカードプラットフォームや、全く新規に設計されるICカード運用プラットフォームなどによって、さらに仕様が多様化する傾向にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のICカード運用プラットフォームは、特定の仕様に準拠して設計されているため、上記のように異なる仕様のICプラットフォームに対応することが困難である。複数のプラットフォーム上でサービスを提供したい事業者は、複数のICカード運用システムを運用する必要がある。
【0005】また、特定のICカード運用プラットフォームでも、そのICカード運用プラットフォーム自体の仕様をバージョンアップする時には、旧バージョンと新バージョンのICカード運用プラットフォームを同時運用しなければならない時期がある。このような場合に、旧バージョンと新バージョンのそれぞれに対応したICカード運用システムを持つことは、運用コスト、及び、システムのコストの両面で不利である。
【0006】このような現状に対し、本発明では、仕様の異なるプラットフォームを追加可能なシステムの構築技術を提案することにより、複数のプラットフォームへの対応、プラットフォームの仕様変更への対応を容易化、低コスト化することを目的とする。
【0007】そのため、本発明は、ICカード運用プラットフォーム構築方法、構築装置、構築プログラム及び構築プログラム媒体、並びに、ICカード運用システムの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】ICカード運用プラットフォームの仕様には複数の種類があるが、ICカードを運用するために必要な基本機能は、各種のICカード運用プラットフォームの間で略一致している。ICカード運用プラットフォーム間で差異のある部分は、オプショナルな「実現機能」部分、機能を実現するためのADPUコマンドの「実行手順」部分、個々の「APDUコマンド」部分、「権利情報取得方式」部分及び「権利情報発行者」部分の5つに分類される。
【0009】本発明は、この認識に基づいて、上記の五つのICカード運用プラットフォーム毎に固有の独自仕様部分の差異を吸収するためのレイヤを用意し、独自仕様に対応した実装クラスを追加することにより、独自仕様部分の差異を吸収する。
【0010】請求項1に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、ICカードを運用するための新たな機能を追加する場合に、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加し、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能の呼び出し及び実行が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法である。
【0011】請求項2に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、ICカード操作の実行手順がプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加し、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順が実行されることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法である。
【0012】請求項3に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するためのコマンドがプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドの処理が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法である。
【0013】請求項4に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報のフォーマット及び権利情報の要求インタフェースがプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たな権利情報のフォーマットに対応した権利情報処理用の権利情報クラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報の処理が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法である。
【0014】請求項5に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者がプラットフォームの種別毎に異なる場合に、権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報の発行者が判定されることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法である。
【0015】図1は、本発明の原理構成図である。請求項6に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおけるICカード運用プラットフォーム構築装置200である。このICカード運用プラットフォーム構築装置200は、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する手段211と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する手段221と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する手段231と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する手段241と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する手段251と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する手段210と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する手段220と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する手段230と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する手段240と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する手段250と、を有することを特徴とする。
【0016】請求項7に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、コンピュータに請求項6に記載されるようなICカード運用プラットフォーム構築装置の機能を実行させるためのプログラムである。
【0017】請求項8に係る発明は、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、請求項7に記載されるようなICカード運用プラットフォーム構築装置の機能を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0018】図2は、本発明のICカード運用システムの構成図である。請求項9に係る発明は、ICカード1と、ユーザ端末2と、サービス提供者サーバ3と、少なくとも1台の管理サーバ7とを含み、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカード1を運用するICカード運用システムにおいて、管理サーバ7は、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する手段211と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する手段221と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する手段231と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する手段241と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する手段251と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する手段210と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する手段220と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する手段230と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する手段240と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する手段250と、を有するICカード運用プラットフォーム構築装置200を具備することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】図3は、ICカード運用システムの基本的な構成図である。同図に示されるようにICカード運用システムは、ICカード1と、ICカード1と接続されたユーザ端末2と、サービス提供者側のサービス提供者サーバ3及びサービス提供者管理サーバ4と、カード発行者管理サーバ5と、サービス提供者側とユーザ端末2を接続するネットワーク6とにより構成される。ICカード運用システムの構成は、同図に示された基本的な構成に限定されるものではなく、付加的な構成要素を加えてもよく、或いは、権利情報をカード発行者以外が発行するように構成しても構わない。権利情報とは、ICカード操作が正当な操作であることを証明するための情報であり、カード発行者、或いは、その他の第三者機関によって発行される情報である。以下では、説明のために図3の基本的なICカード運用システムの例について考える。
【0020】図3において、ICカード1は、一つ若しくは複数のカードアプリケーション12を搭載可能なICカードであり、カードアプリケーション12と、カード管理モジュール11とを含む。カード管理モジュール11は、実行するカードアプリケーションの選択や、カードアプリケーションの追加の実行制御などを行う。
【0021】ユーザ端末2は、ICカード使用者がICカード1を操作するための端末であり、ICカード使用者に対するGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)機能と、ICカード1と通信するためのICカード通信機能と、サービス提供者サーバ3及びサービス提供者管理サーバ4と通信するためのサービス提供者通信機能とを有する。
【0022】サービス提供者側のサーバは、ICカードを用いたサービスを提供する事業者(サービス・プロバイダ)のサーバであり、たとえば、ICカードを用いたサービスをICカード利用者へ提供する機能を有するサービス提供サーバ3と、サービスを提供する際に使用するカードアプリケーションをICカード1へダウンロードする機能を有するサービス提供者管理サーバ4とにより構成される。
【0023】カード発行者管理サーバ5は、ICカード1を発行した事業者のサーバであり、サービス提供者管理サーバ4がICカード1上にサービス・プロバイダのカードアプリケーションをダウンロードしてよいかどうかを制御するために、権利情報を発行する。サービス提供者管理サーバ4が、カードアプリケーションをICカード1へダウンロードする際には、ICカード1に対し、権利情報を提示する。ICカード1のカード管理モジュール11は、権利情報を検証し、正しい権利情報である場合にのみ、カードアプリケーションのダウンロードを許可する。本例の場合、この権利情報の発行者は、ICカード1の発行者であるが、権利情報の発行者は、ICカード1の発行者とは別の事業者によって発行される場合がある。
【0024】上記のICカード運用システムの構成において、ICカード運用プラットフォームによって独自仕様となる部分は、上述の通り、オプショナルな「実現機能」部分、機能を実現するためのADPUコマンドの「実行手順」部分、個々の「APDUコマンド」部分、「権利情報取得方式」部分及び「権利情報発行者」部分の5つに分類される。
【0025】オプショナルな「実現機能」は、各個のICカード運用プラットフォームの特色を最も顕著に表す部分であり、それぞれのICカード運用プラットフォームの独自機能を実現するための機能が実装される。新しいICカード運用プラットフォームが開発された場合や、ICカード運用プラットフォームがバージョンアップされた場合には、機能追加されたオプショナルな「実現機能」部分が追加される可能性がある。
【0026】また、APDUコマンドの「実行手順」は、それぞれのICカード運用プラットフォームで、基本機能やオプショナルな機能を実行するための手順である。プラットフォームによっては、コマンドの実行前に特別な前処理が必要な場合や、コマンドの実行手順が全く異なる場合がある。この「実行手順」も新しいICカード運用プラットフォームへの対応や、ICカード運用プラットフォームのバージョンアップへの対応のため、追加される場合がある。
【0027】APDUコマンドは、ICカードを操作するためのコマンドである。APDUコマンドのフォーマットは、ISOにより規定されているため、ある程度規格化されているが、各機能へのインストラクションナンバーの割振りや、インストラクションパラメータのフォーマットは、プラットフォームによって異なる。このAPDUコマンドも、新しいICカード運用プラットフォームへの対応や、ICカード運用プラットフォームのバージョンアップへの対応のため、追加される要素である。
【0028】「権利情報取得方式」は、権利情報の要求機能と、要求された事業者側での権利情報生成機能である。権利情報のフォーマット及び権利情報の要求インタフェース、すなわち、権利情報発行者への権利情報要求メソッドのインタフェースやプロトコルは、ICカード運用プラットフォーム毎に異なる。また、権利情報のフォーマットもICカード運用プラットフォームによって異なるので、権利情報生成機能はICカード運用プラットフォーム毎に異なる。したがって、「権利情報取得方式」は、新規ICカード運用プラットフォームへの対応や、ICカード運用プラットフォームのバージョンアップ時に追加される場合がある。
【0029】「権利情報発行者」もICカード運用プラットフォームによって異なる。図3の例では、権利情報発行者はICカード発行者である。しかし、ICカード発行者が権利情報の発行業務を他の事業者に依頼するICカード運用プラットフォームや、元のICカード発行者とは別の事業主体が権利情報の発行権利を有するICカード運用プラットフォームもある。このため、権利情報の要求先は、ICカード運用プラットフォームによって異なる。新規のICカード運用プラットフォームが追加された場合や、ICカード運用プラットフォームがバージョンアップされた場合には、権利情報の要求先判定ロジックを追加しなければならない場合がある。
【0030】本発明の一実施例では、上記のようなICカード運用プラットフォームに依存する処理の違いを解決し、ICカード運用プラットフォームを構築するためのセレクタ(Selector)をICカード運用システムに新たに設ける。セレクタは、好ましくは、ICカード運用システム内でユーザ端末2を介してICカード1とデータの授受を行う管理サーバに設けられる。図3の例では、セレクタは、サービス提供者管理サーバ4に設けられる。また、カード発行者管理サーバ5のような他の管理サーバがユーザ端末2を介してICカード1と情報を交換する場合には、カード発行者管理サーバ5にもセレクタを設けることができる。
【0031】図4は、本発明の一実施例によるセレクタの構成図である。セレクタ100は、セレクト判定部111と、クラステーブル管理部112とを含む。セレクト判定部111は、指定された条件に応じて、実際の処理を行う適切なクラスを判定する。クラステーブル管理部112は、セレクト判定部111が選択する実際の処理クラス120を管理する。
【0032】図5は、本発明の一実施例による処理クラスの選択の説明図である。同図に示されるように、たとえば、処理要求元130から処理クラスを要求されたセレクタ100は、要求時に指定された条件に応じて、クラステーブル管理部112に登録されたクラスから適切なクラスを選択する。セレクタ100は、選択したクラス、たとえば、処理クラス1 120を生成し、生成したクラスの参照情報を、処理要求元130に返却する機能を有する。
【0033】次に、セレクタ100を用いて、ICカード運用プラットフォームに依存して独自仕様となる上記の五つの部分に対応するための処理について説明する。
【0034】図6は、本発明の一実施例によるセレクタ100のコマンドアダプタの構成図である。第1のオプショナルな「実現機能」は、図6の最上段に示されるような実現機能セレクタ101を用いて、プラットフォームに依存する処理の違いに対応する。実現機能セレクタ101は、指定された要求機能IDに応じて、たとえば、AP(アプリケーション)ダウンロードクラス141、AP削除クラス142、或いは、カードロッククラス143のようなプラットフォームの実現機能を選択する。指定された要求IDに応じて新たに実現機能を追加する場合には、実現機能セレクタ101に新機能1クラス144を追加し、追加した新機能1クラス144を読み出すための要求機能IDを規定する。実現機能セレクタ101は、新機能1クラス144が指定された場合には、追加された新機能1クラス144を呼び出すので、新プラットフォームに対応する場合や、プラットフォームバージョンアップ時の実現機能追加が容易に行える。
【0035】第2の「ADPUコマンドの実行手順」についても、同様にセレクタ100を使用することによって、プラットフォームに依存する処理の違いに対応する。図6には、実現機能セレクタ101によって、APダウンロードクラス141が選択された場合の例が示されている。APダウンロードクラス141は、APダウンロードコマンド手順セレクタ102を用いて指定されたPF(プラットフォーム)IDに対応するAPダウンロードの処理手順クラス151、152、153を選択する。また、実現機能セレクタ101がAP削除クラス142などの別のクラスを選択している場合には、その処理に対応したコマンド手順セレクタ(図示されない)が使用される。たとえば、AP削除クラス142が選択された場合、AP削除コマンド手順クラス(図示されない)が使用される。このように、セレクタ100を利用することによって、コマンドの実行手順についても、実現機能やプラットフォームの変化に容易に対応することができる。
【0036】第3の「APDUコマンド」についてもセレクタ100を使用する。図6には、APダウンロードPF1用コマンドセレクタ103が示されている。APダウンロードPF1用コマンドセレクタ103は、実現機能がAPダウンロードであり、プラットフォームがPF1である場合に使用されるセレクタである。本例の場合、APダウンロードPF1用手順クラス151は、既にPF1用に設計済みのクラスであるため、必ずしもAPダウンロードPF1用コマンドセレクタ103を使用しなくてもよい。しかし、ICカード1に対するADPUコマンドの数は、それほど多くはなく、幾つかの実現機能で同じADPUコマンドが重複して使用される場合がある。また、幾つかのADPUコマンドは、ISOなどの標準機関によって規定されているので、ADPUコマンドの部分はプラットフォームに依存せずに再利用できる場合が多い。したがって、ADPUコマンドセレクタ103を使用することによって、他の実現機能やプラットフォーム用に作成されたADPUコマンドクラスを容易に再利用することができるようになる。
【0037】次に、第4の「権利情報取得方式」及び第5の「権利情報発行者」のプラットフォーム依存部分に対応する処理について説明する。図7は、本発明の一実施例によるセレクタ100の権利情報アダプタの構成図である。同図に示された権利情報アダプタは、図6に示されたAPダウンロードPF1用手順クラス151のような手順クラス、又は、APダウンロードPF1用コマンドクラス161のようなAPDUコマンドクラスから呼び出される。手順クラスとAPDUコマンドクラスのどちらのクラスも、実現機能とプラットフォーム毎に用意されるクラスであるため、どちらのクラスから呼び出されても機能的な差異は生じない。ただし、APDUコマンドクラスの再利用性を高めるためには、プラットフォーム依存性がある部分は、一般的にできるだけ上位のクラス(本例の場合は、手順クラス)に持たせる方がよい。
【0038】権利情報アダプタは、権利情報種別セレクタ104と、権利情報生成セレクタ105と、権利情報発行者判定セレクタ106とにより構成される。権利情報種別セレクタ104は権利情報の種別を選択し、権利情報生成セレクタ105はプラットフォームの種別を選択する。この二つのセレクタ104及び105を使用することにより、権利情報の種別とプラットフォームに適った権利情報クラス、本例の場合には、たとえば、権利情報生成クラス181、182又は183が選択される。権利情報生成クラスは、権利情報発行者自体である場合には、権利情報を生成して権利情報アダプタの呼出元へ返却する。権利情報生成クラスが、それ自体では、権利情報を生成できない場合には、権利情報発行者判定セレクタ106を用いて権利情報発行者判定クラス191、192又は193を選択し、権利情報の発行者を判定する。権利情報生成クラスは、判定された権利情報発行者に対して、権利情報を要求し、取得した権利情報を権利情報アダプタの呼出元へ返却する。
【0039】なお、権利情報生成クラス181、182又は183は、権利情報種別とプラットフォーム毎に実装されるため、権利情報生成クラス内に権利情報発行者判定クラスを実装しても構わない。しかし、権利情報発行者の判定ロジックは、プラットフォーム内で一意であることも多く、この部分は再利用できることが多いので、権利情報発行者判定クラスとして別個に切り出して再利用できるようにする方が有利である。
【0040】上記の本発明の実施例によるICカード運用プラットフォームの構築方法は、ソフトウェア(プログラム)で構築することが可能であり、コンピュータのCPUによってこのプログラムを実行することにより本発明の実施例によるICカード運用プラットフォームの構築方法を実現することができる。構築されたプログラムは、ディスク装置等に記録しておき必要に応じてコンピュータにインストールされ、フロッピー(登録商標)ディスク、メモリカード、CD−ROM等の可搬記録媒体に格納して必要に応じてコンピュータにインストールされ、或いは、通信回線等を介してコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPUによって実行することができる。
【0041】以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【0042】
【発明の効果】本発明によれば、ICカード運用プラットフォームのプラットフォーム依存部分に対応するため、セレクタを階層的に配置したアダプタをICカード運用システムに適用する。これにより、プラットフォームに適した「実現機能」、「実行手順」、「APDUコマンド」、「権利情報取得方式」、及び、「権利情報発行者」の処理クラスを選択し、処理を実行することにより、プラットフォームの要求に応じた処理を実現することができる。
【0043】また、セレクタへ機能を追加する機能によって、新規プラットフォームへの対応時や、プラットフォームのバージョンアップ時に、新規のクラスを追加することによって、容易に対応することができる。これらの追加を行った後でも、既存のプラットフォームや旧バージョンのプラットフォームを運用できる。
【0044】以上の通り、本発明によれば、仕様の異なるプラットフォームの処理機能を追加可能なICカード運用システムが構築され、複数のプラットフォームへの対応や、プラットフォームの仕様変更への対応を容易化、低コスト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理構成図である。
【図2】本発明のICカード運用システムの構成図である。
【図3】本発明の一実施例によるICカード運用システムの構成図である。
【図4】本発明の一実施例によるセレクタの構成図である。
【図5】本発明の一実施例による処理クラスの選択の説明図である。
【図6】本発明の一実施例によるコマンドアダプタの構成図である。
【図7】本発明の一実施例による権利情報アダプタの構成図である。
【符号の説明】
1 ICカード
2 ユーザ端末
3 サービス提供者サーバ
7 管理サーバ
100 セレクタ
111 セレクト判定部
112 クラス管理テーブル
120 処理クラス1
130 処理要求元
200 ICカード運用プラットフォーム構築装置
210 機能クラス選択・実行手段
211 機能クラス追加手段
220 手順クラス選択・実行手段
221 手順クラス追加手段
230 コマンドクラス選択・実行手段
231 コマンドクラス追加手段
240 権利情報クラス選択・実行手段
241 権利情報クラス追加手段
250 権利情報発行者判定クラス選択・実行手段
251 権利情報発行者判定クラス追加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、ICカードを運用するための新たな機能を追加する場合に、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加し、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能の呼び出し及び実行が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法。
【請求項2】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、ICカード操作の実行手順がプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加し、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順が実行されることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法。
【請求項3】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するためのコマンドがプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドの処理が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法。
【請求項4】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報のフォーマット及び権利情報の要求インタフェースがプラットフォームの種別毎に異なる場合に、新たな権利情報のフォーマットに対応した権利情報処理用の権利情報クラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報の処理が行われることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法。
【請求項5】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者がプラットフォームの種別毎に異なる場合に、権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加し、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報の発行者が判定されることを特徴とする、ICカード運用プラットフォームの構築方法。
【請求項6】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する手段と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する手段と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する手段と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する手段と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する手段と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する手段と、を有することを特徴とするICカード運用プラットフォーム構築装置。
【請求項7】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する機能と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する機能と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する機能と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する機能と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する機能と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する機能と、を実行させるためのICカード運用プラットフォーム構築プログラム。
【請求項8】 仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する機能と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する機能と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する機能と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する機能と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する機能と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する機能と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する機能と、を実行させるためのICカード運用プラットフォーム構築プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
【請求項9】 ICカードと、ユーザ端末と、管理サーバとを含み、仕様の異なる複数のプラットフォーム上でICカードを運用するICカード運用システムにおいて、管理サーバは、新たな機能に対応した新しい機能IDを定義し、機能IDに対応した機能クラスを追加する手段と、ICカード操作の新たな実行手順に対応した手順を管理する手順クラスを追加する手段と、機能IDで指定される機能をICカードを操作して実現するための新たなコマンドに対応したコマンド処理用のコマンドクラスを追加する手段と、正当なICカード操作であることを証明するための新たな権利情報のフォーマットに対応する権利情報処理の権利情報クラスを追加する手段と、正当なICカード操作であることを証明するための権利情報の発行者を判定する機能に対応した権利情報発行者判定クラスを追加する手段と、新たな機能に対応した機能IDを指定することにより、追加された新たな機能クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別に応じて手順クラスを使い分けることにより、新たな実行手順に対応した手順クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じてコマンドクラスを使い分けることにより、新たなコマンドに対応したコマンドクラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報クラスを使い分けることにより、新たな権利情報に対応した権利情報クラスを選択、実行する手段と、プラットフォームの種別及び機能IDに応じて権利情報発行者判定クラスを使い分けることにより、権利情報発行者判定クラスを選択、実行する手段と、を有するICカード運用プラットフォーム構築装置を具備することを特徴とするICカード運用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−328805(P2002−328805A)
【公開日】平成14年11月15日(2002.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−132720(P2001−132720)
【出願日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】