説明

ICカード

【目的】カード基材の凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、これが曲げられたり衝撃を受けることがあってもIC機能が破壊されないようにする。
【構成】カード基材1に形成された樹脂モールド部用凹部2bの内周面に段部22を介して環状凹部23を形成し、樹脂モールド部用凹部2b底面にアクリル系接着剤を、環状凹部23にウレタン系接着剤をそれぞれ滴下,塗布したのちICモジュール11を接着埋設する。樹脂モールド部20の上方部外周面が弾性接着剤層24で当接囲繞される結果、ICカードに加わる曲げ力や衝撃力は弾性接着剤層24により分散,吸収されるので、ICチップ16の機能が破壊されることはなくなる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ICモジュールをカード基材の凹部に接着埋設したICカードに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上記ICカードは、従来の磁気カードに比べて記憶容量が大きいことから、銀行関係では預金通帳の代わりに預貯金の履歴を、またクレジット関係では買物などの取引履歴を記憶させるのに使用されている。
【0003】
従来、上記ICカードとしては、例えば図6,7に示すようにカード基材1に形成された凹部2にICモジュール11を接着埋設して構成されたものが広く使用されている。
前記ICモジュール11では、長方形の基板12の表面側に外部端子13を設け、裏面側に回路パターン14と、ダイボンディングパッド15を設け、前記外部端子13、基板12及び回路パターン14を貫通して形成された複数のスルーホール17の内面に外部端子13と回路パターン14とを導通させる導電メッキ18を形成したのち、ダイボンディングパッド15にICチップ16をダイボンディングし、次にICチップ16と回路パターン14との間をワイヤボンディングし、さらにこのICチップ16及びボンディングワイヤ19を含む配線部の周囲を、前記基板12の大きさよりも小さい範囲で絶縁性樹脂により樹脂モールドし、直方体状の樹脂モールド部20を形成して、断面凸状のICモジュール11を構成したものである。
一方、前記カード基材1の凹部2は、ICモジュール11の基板12嵌挿用の基板用凹部2aと、該基板用凹部2aの底面中心部に穿設された、樹脂モールド部20嵌挿用の樹脂モールド部用凹部2bとから形成されており、前記基板用凹部2aの底面には、該凹部2aの内周面に沿って接着剤収納用の環状溝部2cが穿設され、前記基板用凹部2a,樹脂モールド部用凹部2bと、これに嵌挿される前記各部材とは同一の形状・寸法(但し、0.03〜0.05mm程度のすき間がある)に形成されている。
【0004】
そして、ICカードの製造に当たっては、前記カード基材1の基板用凹部2a底面及び樹脂モールド部用凹部2bに、接着剤として例えば熱硬化型接着剤を滴下したのち、ICモジュール11を嵌挿し、熱プレス等で加熱加圧し固着する。
この場合、図6に示すように接着剤層211 ,212 が形成されるが、前記基板用凹部2aまたは樹脂モールド部用凹部2bに接着剤が過剰に滴下されていたときには、該過剰分は、前記環状溝部2cに流入して収納されるので、該過剰分が前記スルーホール17を通って外部端子13側に流出し外観上及びIC機能上の問題を発生させることはないものである。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、一般的にICカードは使用中、曲げ作用を受けることになるが、この曲げ作用はカード基材1から基板用凹部2aの接着層211 領域を介してICモジュール20に伝達され、さらにの曲げ作用はICチップ16に伝達される。
この場合、カード基材1は一般にISO規格で0.76mmと極めて薄く定められているので、ICカードに加わる曲げ作用が大きくなるとICチップ16部分が損傷してICカードの機能が破壊されてしまうことがあった。
また、このような問題は、ICカードを落下させること等による衝撃によって生じる可能性もあった。
【0006】
本考案は、カード基材の樹脂モールド部用凹部または基板用凹部に弾性接着剤を充填し、弾性接着剤層により前記曲げ作用を分散,吸収するように構成して、上記従来の問題点を解決したものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案は、カード基材にICモジュールの基板用凹部を形成し、該基板用凹部の底面にはICモジュールの樹脂モールド部用凹部と、該樹脂モールド部用凹部の周囲にかつ前記基板用凹部の内周面に沿って環状溝部とを穿設し、これら基板用凹部及び樹脂モールド部用凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、前記樹脂モールド部用凹部の内周面に段部を介して環状凹部を形成すると共に、該環状凹部に弾性接着剤を充填したことを特徴とするICカード(請求項1)である。
また、本考案は、カード基材にICモジュールの基板用凹部を形成し、該基板用凹部の底面にはICモジュールの樹脂モールド部用凹部を穿設し、これら基板用凹部及び樹脂モールド部用凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、前記基板用凹部の底面に、前記樹脂モールド部用凹部の上方部四角部に連通する凹溝を互いに直交するように形成すると共に、該凹溝に弾性接着剤を充填したことを特徴とするICカード(請求項2)である。
【0008】
【作用】
請求項1の考案では、前記環状凹部に弾性接着剤層が形成され、この弾性接着剤層がICモジュールの樹脂モールド部上方部外周面を当接囲繞しているから、ICカードに加わる曲げまたは落下等による衝撃の向きがどのようなものであっても、これを的確に分散,吸収することができるので、ICチップが損傷を受けてIC機能が破壊されることはなくなる。
また、前記環状凹部の直下に段部が形成されているため、弾性接着剤は樹脂モールド部用凹部の底面側に流入することはないので、弾性接着剤に起因する、カード基材裏面の波うち発生の問題も回避されるものである。
請求項2の考案では、ICモジュールの樹脂モールド部上方部の四つの角部のそれぞれに、互いに直交して形成された弾性接着剤層の先端部が当接しているため、ICカードに加わる曲げまたは落下等による衝撃の向きがどのようなものであっても、これを前記四つの角部の接着剤層のいずれかで分散,吸収することができる。
【0009】
【実施例】
本考案の一実施例を図1及び図2に基づいて説明すると、ICモジュール11の構造は図6の従来例と同様であって、柔軟性及び強度にすぐれた材料、例えばガラスエポキシ樹脂からなる長方形の基板12の表面側に、パターニング形成された外部端子13を設け、基板12の裏面側に回路パターン14と、ダイボンディングパッド15を設ける。前記外部端子13,基板12及び回路パターン14を貫通して形成された複数のスルーホール17の内面に外部端子13と回路パターン14とを導通させる導電メッキ18を形成したのち、ダイボンディングパッド15にICチップ16をダイボンディングし、次にICチップ16と回路パターン14との間をワイヤボンディングし、さらにこのICチップ16及びボンディングワイヤ19を含む配線部の周囲を、前記基板12の大きさよりも小さい範囲で絶縁性樹脂、例えばエポキシ樹脂により樹脂モールドし、直方体状の樹脂モールド部20を形成して、断面凸状のICモジュール11を構成したものである。
【0010】
一方、カード基材1にはICモジュール11を接着埋設するための凹部を次の順序で形成する。すなわち、カード基材1の表面側に、前記基板12を嵌挿するための基板用凹部2aを形成したのち、該基板用凹部2a底面の中心部に前記樹脂モールド部20を嵌挿するための樹脂モールド部用凹部2bを穿設すると共に、該基板用凹部2aの底面に該凹部2a内周面に沿って接着剤収納用の環状溝部2cを穿設する。さらに、前記樹脂モールド部用凹部2bの内周面に段部22を介して幅0.05〜1.5mmの環状凹部23を形成する。この場合、前記凹部や溝部は、エンドミル等による切削加工で形成される。
【0011】
そして、ICカードの製造に当たっては、カード基材1の樹脂モールド部用凹部2bの底面に常温硬化型接着剤として例えばアクリル系接着剤を滴下,塗布すると共に、前記環状凹部23の底面すなわち前記段部22、該環状凹部23の内周面のいずれか少なくとも一方に弾性接着剤として例えばウレタン系接着剤を滴下,塗布したのち、ICモジュール11を嵌挿しICモジュール11を押圧して常温下、数時間で接着する。この場合、前記環状凹部23に弾性接着剤が過剰に塗布されたときには、この過剰分は前記環状溝部2cに流入し収納される。
【0012】
このようにして製造されたICカードの断面構造は、図1に示すとおりであり、樹脂モールド部20の上方部外周面が、環状に形成された弾性接着剤層24により当接囲繞されるものである。
そして、このICカードでは、種々の向きに大きな曲げ力や衝撃力が加わっても、該曲げ力等は弾性接着剤層24で分散,吸収されるから、ICチップ16が損傷を受けることはないものであり、また、前記段部22の存在により、弾性接着剤が樹脂モールド部用凹部2bの底面側に流入することはないから、カード基材1の裏面に波うちが発生することもない。
【0013】
次に、他の実施例を図3乃至図5に基づいて説明すると、ICモジュール11の構造は図1実施例と同様であるが、カード基材1のICモジュール接着埋設用の凹部の形体が相違している。
すなわち、カード基材1の表面側に基板用凹部2aを形成したのち、該基板用凹部2a底面の中心部に樹脂モールド部用凹部2bを穿設して基板用凹部2aを環状に残し、該環状凹部に、その内周壁部に始まり前記樹脂モールド部用凹部2bに至る深さ0.05〜0.1mmの凹溝25を多数穿設したものであり、これらの凹溝25はいずれも前記樹脂モールド部用凹部2b上方部の四つの角部A,B,C,Dのいずれかに連通しており、しかも、これら各角部に2本の凹溝25,25が互いに直交して連通している。
【0014】
そして、ICカードの製造に当たっては、カード基材1の樹脂モールド部用凹部2bの底面に常温硬化型接着剤として例えばアクリル系接着剤を滴下,塗布すると共に、前記凹溝25には弾性接着剤として例えばウレタン系接着剤を滴下,塗布し以下図1実施例と同様の作業を行ってICカードを製造する。
なお、場合によっては、2種類の接着剤を使用せずに弾性接着剤のみで接着することもできる。
【0015】
このようにして製造されたICカードの断面構造は図3に示すとおりで、樹脂モールド部20の上方部の四つの角部のいずれもが、互いに直交して形成された弾性接着剤層24と当接しているものである。
そして、このICカードでは、種々の向きに大きな曲げ力や衝撃力が加わっても、該曲げ力等は樹脂モールド20のいずれか少なくとも一つの前記角部において、前記互いに直交する弾性樹脂剤層24,24により分散,吸収されるから、ICチップ16が損傷を受けることはない。
【0016】
【考案の効果】
本考案(請求項1)では、カード基材に形成した凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、カード基材の樹脂モジュール部用凹部の内周面に段部を介して環状凹部を形成し、この環状凹部に弾性接着剤層を形成して樹脂モールド部の上方部を当接囲繞せしめたから、ICカードに加わる種々の向きの曲げ力や衝撃力を的確に分散,吸収することができるので、ICチップ損傷によりIC機能が不良に陥ることはないものであり、また前記段部を形成したことにより、カード基材裏面に接着剤に起因する波うちが発生する問題も回避されるものである。
また、本考案(請求項2)では、カード基材に形成した基板用凹部に凹溝を、互いに直交させて、かつ樹脂モールド部用凹部の各上方部角部に連通させて形成し、該凹溝に弾性接着剤層を形成して樹脂モールド部の上方部角部に当接せしめたから、ICカードに加わる種々の向きの曲げ力や衝撃力を的確に分散,吸収することができるので、IC機能が不良となる問題点は確実に解決されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例の縦断面図である。
【図2】図1実施例に係るカード基材の平面図である。
【図3】他の実施例の縦断面図である。
【図4】図3実施例に係るカード基材の平面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】従来例の縦断面図である。
【図7】図6従来例に係るカード基材の平面図である。
【符号の説明】
1 カード基材
2 凹部
2a 基板用凹部
2b 樹脂モールド部用凹部
2c 環状溝部
11 ICモジュール
12 基板
13 外部端子
14 回路パターン
15 ダイボンディングパッド
16 ICチップ
17 スルーホール
18 導電メッキ
19 ボンディングワイヤ
20 樹脂モールド部
211 接着剤層
212 接着剤層
22 段部
23 環状凹部
24 弾性接着剤層
25 凹溝
A 角部
B 角部
C 角部
D 角部

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 カード基材にICモジュールの基板用凹部を形成し、該基板用凹部の底面にはICモジュールの樹脂モールド部用凹部と、該樹脂モールド部用凹部の周囲にかつ前記基板用凹部の内周面に沿って環状溝部とを穿設し、これら基板用凹部及び樹脂モールド部用凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、前記樹脂モールド部用凹部の内周面に段部を介して環状凹部を形成すると共に、該環状凹部に弾性接着剤を充填したことを特徴とするICカード。
【請求項2】 カード基材にICモジュールの基板用凹部を形成し、該基板用凹部の底面にはICモジュールの樹脂モールド部用凹部を穿設し、これら基板用凹部及び樹脂モールド部用凹部にICモジュールを接着埋設したICカードにおいて、前記基板用凹部の底面に、前記樹脂モールド部用凹部の上方部四角部に連通する凹溝を互いに直交するように形成すると共に、該凹溝に弾性接着剤を充填したことを特徴とするICカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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