説明

ICタグの固定具

【課題】ICタグを電線に設置するための固定具として、電線に組み付ける際の作業性や組み付け後の設置性に優れたものを提供する。
【解決手段】ある態様の固定具は、樹脂材からなるクリップ1として構成され、円筒状の本体10と、本体10の一端から他端にかけて側部を開放するように形成され、電線を導入するための開口部14と、本体10の開口部14と異なる位置に設けられ、ICタグを支持可能なフック部12と、を備える。開口部14は、本体10の長手方向中間部に形成されて電線を交わるように受け入れるための切欠き部31と、切欠き部31から本体10の一端にかけて延びる切欠き部32と、切欠き部31から本体10の他端にかけて延びる切欠き部33とを有し、本体10における周方向の開口位置が、切欠き部32と切欠き部33とで互いに異なるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線にICタグを固定するための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、配線設備の電線にICタグを取り付け、そのICタグから送信される識別情報に基づいて電線の種別やメンテナンス情報等を判別するシステムが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。このようなシステムを構築する場合、ICタグを電線に安定に固定できることはもちろん、配線設備の規模によってICタグの設置数が増大してもその作業負担が大きくならないことが望ましい。
【0003】
ところで、ICタグを対象物に固定する技術としては、バンドを介して固定する技術(例えば特許文献3参照)、粘着テープにより固定する技術(例えば特許文献4参照)、クリップを介して固定する技術(例えば特許文献5参照)など、様々な形態が知られている。したがって、ICタグを電線に固定する用途にも、これらの技術を適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−38583号公報
【特許文献2】特開2001−69625号公報
【特許文献3】特開2004−112886号公報
【特許文献4】特開2007−328378号公報
【特許文献5】特開2002−140669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献3の技術を採用する場合には、バンドを電線に巻き付けて締結するといった煩雑な作業を要する。また、特許文献4の技術を採用する場合には、材質面から耐久性に問題が生じる可能性がある。さらに、特許文献5の技術を採用する場合には、クリップを電線に装着する際にその開口部を押し広げる必要があり、比較的大きな力を要する。その場合、電線の挿入容易性を高めるために、クリップの開口部にテーパ状に拡開するガイド部を突設することも考えられる。しかし、そのようなガイド部を設ける場合、クリップを電線への組み付ける際の作業性は高まるものの、その組み付け後にガイド部が邪魔になることが想定される。例えば複数の電線が並設されるような場合、ガイド部が隣接する電線に干渉するなどしてスペース上の問題を発生させる可能性がある。このため、いずれの固定技術を採用するにしても改善の余地がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ICタグを電線に設置するための固定具として、電線に組み付ける際の作業性や組み付け後の設置性に優れたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のICタグの固定具は、電線にICタグを設置するための固定具であって、樹脂材からなり、C字状の断面を有する円筒状の本体と、本体の一端から他端にかけて側部を開放するように形成され、電線を導入するための開口部と、本体の開口部と異なる位置に設けられ、ICタグを支持可能な支持部と、を備える。開口部は、本体の長手方向中間部に形成されて電線を本体に対して交わるように受け入れるための第1の切欠き部と、第1の切欠き部から本体の一端にかけて延びる第2の切欠き部と、第1の切欠き部から本体の他端にかけて延びる第3の切欠き部とを有し、本体における周方向の開口位置が、第2の切欠き部と第3の切欠き部とで互いに異なるように形成されている。
【0008】
この態様によれば、本体を第1の切欠き部を介して電線に斜めに装着し、その本体を電線と平行になる方向に回転させるという簡易な作業により、固定具を電線に組み付けることができる。すなわち、第2の切欠き部および第3の切欠き部が開口する側に本体を回転させることで、その本体の回転方向とは反対側の開口縁に電線からの反力を作用させることができる。その結果、本体の開口部が第2の切欠き部および第3の切欠き部の位置において押し広げられる。このようにして拡開した開口部を介して電線を本体の内方に導入して両者を組み付けることができる。また、第1の切欠き部が電線に装着する際のガイドとしても機能するため、本体の開口部にガイド部を突設する必要もない。つまり、固定具を電線に組み付けた後の外部への干渉部分を少なくすることができ、優れた設置性が得られるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ICタグを電線に設置するための固定具として、電線に組み付ける際の作業性や組み付け後の設置性に優れたものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施例に係る固定具の構成を表す斜視図である。
【図2】固定具を電線に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図3】クリップの構成を表す説明図である。
【図4】クリップの具体的構成を表す説明図である。
【図5】クリップのケーブルへの固定方法を示す説明図である。
【図6】クリップのケーブルへの固定方法を示す説明図である。
【図7】クリップのケーブルへの固定方法を示す説明図である。
【図8】第2実施例に係るクリップの構成を表す説明図である。
【図9】クリップの具体的構成およびケーブルへの固定方法を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る固定具は、樹脂材からなり、C字状の断面を有する円筒状の本体と、本体の一端から他端にかけて側部を開放するように形成され、電線を導入するための開口部と、本体の開口部と異なる位置に設けられ、ICタグを支持可能な支持部と、を備える。開口部は、本体の長手方向中間部に形成されて電線を本体に対して交わるように受け入れるための第1の切欠き部と、第1の切欠き部から本体の一端にかけて延びる第2の切欠き部と、第1の切欠き部から本体の他端にかけて延びる第3の切欠き部とを有し、本体における周方向の開口位置が、第2の切欠き部と第3の切欠き部とで互いに異なる。
【0012】
「本体」は、樹脂材からなることで、一定以上の負荷をかけることにより開口部が拡開方向に弾性変形可能なものでよい。第1の切欠き部は、受け入れられる電線の軸線方向にみて、対向する開口縁により凹形状のプロフィルが形成されるものでもよい。その場合、固定具を電線に取り付ける際の安定性から、そのプロフィルが例えば円弧状など電線の側面に沿った形状であるのが好ましい。第2の切欠き部と第3の切欠き部とが第1の切欠き部から互いに反対方向に延び、これらの切欠き部により本体の一端から他端にかけて延びる開口部が形成される。第2の切欠き部と第3の切欠き部とは、第1の切欠き部を平面視でみた場合に、本体の軸線に対して互いに反対側に偏るように開口するものでよい。さらに言えば、第2の切欠き部と第3の切欠き部とは、第1の切欠き部を平面視でみた場合に、本体の中心(第1の切欠き部の中心)に対して点対称となる位置に形成されてもよい。
【0013】
この態様によれば、本体を第1の切欠き部の位置にて電線に斜めに載置し、続いて本体を電線に平行となる方向に回転させることにより、本体の開口部が第2の切欠き部および第3の切欠き部の位置で電線に回転モーメントによる力を作用させる。その結果、本体の開口部が電線からその反力を受け、第2の切欠き部および第3の切欠き部のそれぞれが拡開される方向に弾性変形する。それにより開口部が拡開した状態を利用して、電線を本体の内方に容易に導くことができる。すなわち、本体を第1の切欠き部を中心に回転させることで、電線に容易に取り付けられるようになる。
【0014】
具体的には、第1の切欠き部は、その長手方向に沿って対向する開口縁のそれぞれに、電線の受け入れ方向の導入端となる頂部と、電線を受け止める底部と、その頂部と底部とをつなぐ連結部とを有する。そして、本体に電線の径方向半部を超えて受け入れ可能となるように、頂部を基準とする底部の深さが設定されている。第2の切欠き部は、その対向する開口縁の一方が第1の切欠き部の一方の開口縁の底部に連設され、他方が第1の切欠き部の他方の開口縁の頂部に連設され、その対向する開口縁の間隔が電線の直径よりも小さく形成されている。第3の切欠き部は、その対向する開口縁の一方が第1の切欠き部の一方の開口縁の頂部に連設され、他方が第1の切欠き部の他方の開口縁の底部に連設され、その対向する開口縁の間隔が電線の直径よりも小さく形成されている。
【0015】
ここでいう「切欠き部の対向する開口縁」は、本体にて開口部を形成する。第2の切欠き部と第3の切欠き部とは、開口部を形成する位置が本体の周方向に異なっている。「第1の切欠き部の底部」は、電線を受け入れ方向に係止する部分、つまり電線を挿入する際にその挿入方向の最も奥方に位置する部分が該当する。「第1の切欠き部の頂部」は、電線が導入される受け入れ口の先端を構成する部分であり、第1の切欠き部において電線の挿入方向に底部から最も離間した部分が該当する。
【0016】
この態様によれば、固定具を電線に取り付けるに際し、本体を電線に乗せる段階で電線の径方向の半分以上を第1の切欠き部に受け入れることができる。つまり、本体を回転させる際に弾性変形の基点となる電線との接点を、その電線の最大径の部分を超えた位置とすることができる。その結果、本体から電線に作用する力を本体の内方に向けることができる。つまり、本体を回転させる動作により電線を自律的に収容できるようになり、固定具を電線に取り付ける作業性が向上する。
【0017】
また、本体を軸線方向にみた場合に、その軸線方向に垂直な投影面において、第1の切欠き部の一方の底部から延びる第2の切欠き部の開口縁と軸線とを結ぶ直線と、第1の切欠き部の他方の底部から延びる第3の切欠き部の開口縁と軸線とを結ぶ直線とのなす角度が、180度よりも小さくなるように構成されていてもよい。
【0018】
この態様によれば、固定具を電線に取り付ける際、その固定具を第1の切欠き部の位置にて電線に乗せる際に、その電線の本体に対する径方向の挿入深さをその半径よりも大きくすることができる。つまり、本体を電線に装着する段階で電線の径方向の半分以上を第1の切欠き部に受け入れることができる。その結果、上述のように、固定具を電線に取り付ける作業性が向上する。
【0019】
第2の切欠き部は、第1の切欠き部の一方の底部から本体の一端に向けて延びる開口縁が本体の軸線に平行となるように形成されてもよい。同様に、第3の切欠き部は、第1の切欠き部の他方の底部から本体の他端に向けて延びる開口縁が本体の軸線に平行となるように形成されていてもよい。
【0020】
この態様によれば、第2の切欠き部の一方の開口縁と第3の切欠き部の他方の開口縁とを、第1の切欠き部の底部を通る同一平面上に配置することができるため、本体を回転させる際にその開口縁が凸凹しておらず、本体の回転をスムーズに行うことができ、固定具を電線に取り付ける際の作業性が良好となる。一方、このように障害とならない範囲でその開口縁の高さが最大となる。このため、本体が電線に組み付けられた後に第2の切欠き部および第3の切欠き部の位置において必要な剛性を確保することができ、電線における固定具の保持力を高くすることができる。
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明を具体化した実施例について詳細に説明する。
[第1実施例]
図1は、第1実施例に係る固定具の構成を表す斜視図である。
クリップ1は、配線設備の電線にICタグ2を設置するための固定具であり、本体10とフック部12を有する。本体10は円筒状をなし、フック部12は本体10の側面に設けられている。フック部12は、ICタグ2を固定して支持する「支持部」として機能する。本体10の片側側部には、その一端から他端にかけて開口部14が延設されている。
【0022】
図2は、固定具を電線に取り付けた状態を示す斜視図である。(A)は前方からみた斜視図を示し、(B)は後方からみた斜視図を示している。
クリップ1は、電線として断面円形状の丸形ケーブル3を取り付け対象としている。図示の例では、ケーブル3に対してクリップ1のみが取り付けられた状態が示されている。この状態からフック部12にICタグ2を取り付けることができる。あるいは、予めフック部12にICタグ2を取り付けておき、ICタグ2が固定されたクリップ1をケーブル3に取り付けるようにしてもよい。
【0023】
図3は、クリップの構成を表す説明図である。(A)は平面図、(B)は左側面図、(C)は正面図、(D)は右側面図、(E)は底面図、(F)は(C)のA−A矢視断面図をそれぞれ示している。
クリップ1は、樹脂の射出成形により本体10とフック部12とが一体に形成されて得られる。本体10は、全体として円筒状をなすが、側面に沿って長手方向に開放される開口部14が設けられたことにより、その全長にわたってC字状の断面を有している。本体10の片側面にフック部12が設けられ、その反対側面に開口部14が設けられている。
【0024】
フック部12は、本体10の長手方向に延びる一対の側壁部16と、その一対の側壁部16の長手方向中間部を周方向に架橋する係止部18と、係止部18から前方に延びる係止片20を有する。一対の側壁部16の対向面によって直方体状の収容空間が形成され、その底部には対向する側に突出するフラットな載置面22が形成されている。係止片20は、一対の側壁部16の間に平行に延び、その先端に載置面22側(本体10の外周面側)に突出する爪部24を有する。本実施例のICタグ2は、長方形板状をなし、フック部12の前方から挿入され、爪部24を外方に弾性変形させつつ載置面22に沿って押し込まれる。ICタグ2は、その爪部24を超えたところまで押し込まれると、弾性復帰した爪部24と係止部18とに挟持されるように支持される。
【0025】
開口部14は、本体10の長手方向中央に形成された切欠き部31(「第1の切欠き部」に該当する)と、切欠き部31から本体10の一端にかけて延びる切欠き部32(「第2の切欠き部」に該当する)と、切欠き部31から本体10の他端にかけて延びる切欠き部33(「第3の切欠き部」に該当する)とを有する。すなわち、切欠き部31,32,33によって、本体10の一端から他端に延びる開口部14が形成されている。
【0026】
図4は、クリップの具体的構成を表す説明図である。(A)は正面図、(B)は斜め前方からみた左側面図、(C)は底面図である。図4は、クリップ1をケーブル3に取り付けるに際して本体10をケーブル3の設定位置に乗せたときの状態を仮想的に示し、図中の二点鎖線はケーブル3を示している。図4(B)は、本体10をケーブル3に乗せた状態においてケーブル3の軸線方向にみた状態を示している。
【0027】
クリップ1をケーブル3に取り付ける際には、図示のように、クリップ1をケーブル3に対して斜めに乗せ、その状態からクリップ1をケーブル3上で回転させるようにして取り付ける。クリップ1は、このような取り付け方法に適した形状を有する。
【0028】
すなわち、図4(B)に示すように本体10をケーブル3の軸線方向からみた場合、そのケーブル3の受け入れ部となる切欠き部31は、ケーブル3の外形に沿った円弧状を呈している。すなわち、切欠き部31は、その対向する開口縁の一方(開口縁31a)と他方(開口縁31b)とにより半円形状の投影形状を形成し、その形状に沿ってケーブル3の設定位置を受け入れる。図4(C)にも示すように、本体10をケーブル3に乗せた際には、本体10とケーブル3とが斜めに交わるようになる。その結果、図4(B)に示すように、本体10に導入されたケーブル3の軸線方向から見た場合、クリップ1は、下方に開いて導入端31cと導入端31dとの間をケーブル3の導入口とし、上方に底部34,35を有する形状を呈する。
【0029】
図3に戻り、切欠き部31は、本体10の長手方向に対して斜め方向に延びるように設けられている。図3(F)に示すように、切欠き部31の開口端縁31aは、図示左側においてはフック部12から最も短い周長さでつながる底部34、図示右側においてはフック部12に最も長い周長さでつながる頂部(図4に示す導入端31c)となる。このように、開口端縁31aの図示右側と左側とでその位置がずれて表示されることから判るとおり、開口端縁31aの頂部と底部とは本体10の周方向にずれるように位置している。同様に、開口端縁31bの頂部と底部についても、両者は本体10の周方向にずれるように位置している。
【0030】
また、切欠き部32の対向する開口縁の一方(開口縁32a)は、切欠き部31の一方の開口縁31aの底部34から本体10の一端に向けて延びている。一方、切欠き部33の開口縁の一方(開口縁33a)は、切欠き部31の他方の開口縁31bの底部35から本体10の他端に向けて延びている。その結果、図3(E)に示すように、本体10における切欠き部32と切欠き部33との周方向の開口位置(開口範囲)が互いに異なっている(周方向の開口範囲の中央位置が互いに異なっている)。具体的には、切欠き部32の開口縁32aと開口縁32bとの隙間と、切欠き部33の開口縁33aと開口縁33bとの隙間とが、本体10の底面側からみた軸線Lに対して相対的に反対側に位置している。さらに言えば、切欠き部32の隙間と切欠き部33の隙間とは、切欠き部31を平面視にてみた中心Oに対して点対称となる位置に設けられている。また、開口縁32aおよび開口縁33aが、それぞれ本体10の軸線Lに対して平行に延び、本体10をケーブル3に組み付ける作業性を高める構造となっているが、その説明については後述する。
【0031】
より詳しくは、図4(A)に示すように、本体10の軸線c1と開口縁32aとを結ぶ直線l1と、軸線c1と開口縁33aとを結ぶ直線l2とのなす角度のうち実体側(本体10を形成する側)の角度θ1が、180度よりも小さくなるように構成されている(本実施例では170度)。また、図4(C)に示すように、本体10の軸線c1とケーブル3の軸線c2とのなす角度θ2が45度となるように設定されている。
【0032】
ここで、切欠き部31において、開口端縁33bとの接続点でもある導入端31cが「切欠き部の一方の頂部」に該当し、開口端縁32bとの接続点でもある導入端31dが「切欠き部の他方の頂部」に該当する。そして、導入端31cと底部34とをつなぐ連結部と、導入端31dと底部35とをつなぐ連結部とにより、上述した半円形状が形成される。一方、図4(A)にも示すように、切欠き部32の対向する開口縁32a,32bの間隔w2と、切欠き部33の対向する開口縁33a,33bの間隔w3が、いずれもケーブル3の直径dよりも小さくなるように形成されている。一方、図4(B)に示すように、切欠き部31におけるケーブル3の導入端の幅w1が、ケーブル3の直径dよりやや大きく、切欠き部31の導入端を基準とする底部までの深さhが、ケーブル3の半径rよりもやや大きくなるように設定されている。
【0033】
その結果、本体10を切欠き部31を介してケーブル3に乗せる際には、ケーブル3が切欠き部31の底部34,35に当接するまで導入され、その軸線c2が本体10の内方に位置するようになる。すなわち、クリップ1をケーブル3に乗せる段階で、ケーブル3の径方向の半分以上を切欠き部31にて受け入れることができる。言い換えれば、本体10の開口縁32b,33bを、ケーブル3の最大径(直径)の位置を超えるところまでオーバーハングさせることができる。このような形状が、本体10をケーブル3に組み付ける作業性を高める構造となっているが、その説明については後述する。
【0034】
次に、クリップ1のケーブル3への固定方法について説明する。
図5〜図7は、クリップのケーブルへの固定方法を示す説明図である。図5はその平面視を示し、図6は側面視を示し、図7は底面視を示している。各図において、(A)はクリップをケーブルに乗せた状態を示し、(B)はクリップを回転させてケーブルへ取り付ける途中過程の状態を示し、(C)はクリップのケーブルへの固定が完了した状態を示している。
【0035】
クリップ1をケーブル3に固定する際には、まず、図5(A)に示すように、クリップ1をケーブル3の設定位置に乗せる。このとき、図6(A)および図7(A)にも示すように、本体10が切欠き部31にてケーブル3を受け入れるように装着され、本体10が切欠き部31に対して斜めに置かれる。また、上述のように、本体10の開口縁32b,33bが、ケーブル3の最大径(直径)の位置を超えるところまでオーバーハングした状態となる。
【0036】
続いて、図5(B)に示すように、クリップ1を図中矢印のようにその法線方向に指先で力を加えて本体10がケーブル3と平行になるまで(本体10の軸線がケーブル3の軸線と平行になるまで)回転させる。このとき、本体10の開口縁32b,33bが、ケーブル3との当接位置にてそのケーブル3の側面を押圧する負荷を作用させるようになる。このため、図6(B)および図7(B)にも示すように、逆に開口縁32b,33bがケーブル3の側面から反力を受け(実線矢印参照)、切欠き部32および切欠き部33に拡開方向の力が作用する(二点鎖線矢印参照)。その結果、本体10が、切欠き部32および切欠き部33の位置で開口部14を拡開するように弾性変形する。その際、開口縁32b,33bとケーブル3との当接位置がケーブル3の最大径(直径)の位置を超えたところにあるため、ケーブル3には、本体10の内方に引き込まれるような力が作用する(一点鎖線矢印参照)。このため、クリップ1を回転させるという作業により、クリップ1を特にケーブル3に押し付けなくとも、本体10が自律的にケーブル3を導入するようになる。
【0037】
このようにして、図5(C)に示すように、本体10がケーブル3に対して平行となる位置まで回転されると同時に、クリップ1がケーブル3に固定される。このとき、図6(C)および図7(C)にも示すように、本体10が弾性変形された状態から復帰する。ただし、例えば図4(A)と図6(C)との対比からも分かるように、本体10の内径よりもケーブル3の外径のほうがやや大きいため、ケーブル3には、切欠き部32および切欠き部33の位置で適度な締め付け力が作用する。このため、クリップ1がケーブル3に対して安定に固定される。すなわち、ICタグ2がクリップ1を介してケーブル3に安定に固定されるようになる。また、本実施例では図6(C)に示すように、クリップ1がケーブル3に固定された状態では、開口部に従来よく見られるような案内突起は設けられていない。このため、クリップ1を設置するときに周辺部位との干渉を抑えることができる。
【0038】
[第2実施例]
次に、第2実施例に係る固定具について説明する。なお、本実施例の固定具は、開口部(切欠き部)の構成が異なる以外は第1実施例とほぼ共通する。このため、第1実施例と同様の構成部分については同一の符号を付すなどしてその説明を省略する。
図8は、第2実施例に係るクリップの構成を表す説明図である。(A)は平面図、(B)は左側面図、(C)は正面図、(D)は右側面図、(E)は底面図、(F)は(C)のA−A矢視断面図をそれぞれ示している。
クリップ201は、配線設備の電線にICタグ2を設置するための固定具であり、樹脂の射出成形により本体210とフック部12とが一体に形成されて得られる。すなわち、クリップ201は、支持部として第1実施例と同様のフック部12を有するが、本体210の形状が第1実施例の本体10とは異なっている。
【0039】
すなわち、本体210は、その片側側部にて一端から他端にかけて延びる開口部214を有する。開口部214は、本体210の長手方向中央に形成された切欠き部231(第1の切欠き部)と、切欠き部231から本体210の一端にかけて延びる切欠き部232(第2の切欠き部)と、切欠き部231から本体210の他端にかけて延びる切欠き部233(第3の切欠き部)とを有する。切欠き部232の一方の開口縁232aは、切欠き部231の一方の開口縁231aの底部34から本体210の一端に向けて延びている。一方、切欠き部233の一方の開口縁233aは、切欠き部231の他方の開口縁231bの底部35から本体210の他端に向けて延びている。
【0040】
そして、切欠き部232の開口縁232aと開口縁32bとの隙間と、切欠き部233の開口縁233aと開口縁33bとの隙間とが、本体210の底面側からみた軸線Lに対して相対的に反対側に位置している。ただし、第1実施例と比較して各切欠き部の隙間が小さく、開口部214の開口幅は開口部14よりも小さい。
【0041】
図9は、クリップの具体的構成およびケーブルへの固定方法を表す説明図である。(A)〜(C)はクリップをケーブルに乗せた状態を示し、(D)〜(F)はクリップのケーブルへの固定が完了した状態を示している。
クリップ201をケーブル3に固定する際には、まず、図9(A)〜(C)に示すように、クリップ201をケーブル3の設定位置に乗せるように装着する。このとき、本体210が切欠き部231にてケーブル3を受け入れるように装着され、本体210が切欠き部231に対して斜めに置かれる。ただし、本実施例では図9(B)に示すように、切欠き部231の開口端の幅がケーブル3の直径よりも小さくなり、切欠き部231の底部の開口端を基準とする深さがケーブル3の半径よりも小さくなるように設定されている。その結果、本体210を切欠き部231を介してケーブル3に乗せた際には、図示のように、ケーブル3が切欠き部231の底部34,35に当接するものの、ケーブル3の径方向の半分以上を切欠き部31にて受け入れるようにはなっていない。
【0042】
続いて、この状態からクリップ201を図中矢印のようにその法線を中心に、本体210がケーブル3と平行になるまで回転させる。このとき、本体210の開口縁32b,33bが、ケーブル3との当接位置にてそのケーブル3の側面を押圧する負荷を作用させるようになる。このため、開口縁32b,33bがケーブル3の側面から反力を受けるが、開口縁32b,33bとケーブル3との当接位置がケーブル3の最大径(直径)の位置の手前側にあるため、ケーブル3には、本体210の外方に押し出されるような力が作用する。
【0043】
したがって、本実施例の構成において本体210内にケーブル3を引き込むためには、作業者がクリップ201をケーブル3側に押圧する必要がある。そのような押圧力を付与しながら本体210を回転させることにより、切欠き部232および切欠き部233に拡開方向の力を作用させ、ケーブル3を本体210の内方へ導入することができる。
【0044】
このようにして、図9(D)〜(F)に示すように、クリップ201がケーブル3に固定される。このとき、本実施例においても本体210の内径よりケーブル3の外径のほうがやや大きいため、ケーブル3には、切欠き部232および切欠き部233の位置で適度な締め付け力が作用する。このため、クリップ201ひいてはICタグ2が、ケーブル3に安定に固定されるようになる。
【0045】
以上に説明したように、本実施例においては、切欠き部231の開口幅と深さを小さくしたため、第1実施例のようにクリップ201を回転させるだけではケーブル3に固定するのは難しい。しかし、クリップ201にある程度の押圧力を付与しながら回転させることで、その回転モーメントによる力が開口部214を拡開させる方向に作用する。したがって、このような回転をさせずにケーブル3をクリップ201に押し込むよりはその作業効率は向上する。言い換えれば、第1実施例のように、中央の切欠き部の開口幅および深さを適度に大きく設定することで、クリップ1をケーブル3に低荷重にて組み付けることができ、作業効率を顕著に向上させることができる。
【0046】
本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【0047】
第1実施例では、図4(B)に示したように、切欠き部31の深さhをケーブル3の半径rよりもやや大きくする例を示した。変形例においては、深さhをケーブル3の半径rと同一としてもよい。あるいは、深さhをケーブル3の半径よりも相当大きくしてもよい。切欠き部31が本体10を斜めに貫通するような構成であるため、その深さhには設計上の自由度がある。ただし、深さhを必要以上に大きくすると、本体10の剛性が小さくなるため、クリップの耐久性を十分に確保可能な範囲で設定するようにする。
【0048】
各実施例では、本体の長手方向中間部の切欠き部を、本体の軸線に対して約45度の角度で交わるように構成したが、例えば約30度あるいは60度とするなど、その他の角度で交わるように構成してもよい。また、各実施例では、その切欠き部を半円形状に形成したが、長方形状その他の形状に形成してもよい。その場合にも、上述した深さhをケーブル3の半径以上とするのが好ましい。
【0049】
各実施例では、クリップを樹脂の射出成形にて形成するものとした。変形例においては、円筒状の樹脂材を切削加工して各部を形成してもよい。フック部については本体とは別体で製作し、後に本体に組み付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 クリップ、 2 ICタグ、 3 ケーブル、 10 本体、 12 フック部、 14 開口部、 31 切欠き部(第1の切欠き部)、 31a,31b 開口縁、
31c,31d 導入端となる頂部 32 切欠き部(第2の切欠き部)、 32a,32b 開口縁、 33 切欠き部(第3の切欠き部)、 33a,33b 開口縁、 34,35 底部、 201 クリップ、 210 本体、 214 開口部、 231,232 切欠き部、 232a 開口縁、 233 切欠き部、 233a 開口縁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線にICタグを設置するための固定具であって、
樹脂材からなり、C字状の断面を有する円筒状の本体と、
前記本体の一端から他端にかけて側部を開放するように形成され、前記電線を導入するための開口部と、
前記本体の前記開口部と異なる位置に設けられ、前記ICタグを支持可能な支持部と、
を備え、
前記開口部は、前記本体の長手方向中間部に形成されて前記電線を前記本体に対して交わるように受け入れるための第1の切欠き部と、前記第1の切欠き部から前記本体の一端にかけて延びる第2の切欠き部と、前記第1の切欠き部から前記本体の他端にかけて延びる第3の切欠き部とを有し、前記本体における周方向の開口位置が、前記第2の切欠き部と前記第3の切欠き部とで互いに異なるように形成されていることを特徴とするICタグの固定具。
【請求項2】
前記第1の切欠き部は、その長手方向に沿って対向する開口縁のそれぞれに、前記電線の受け入れ方向の導入端となる頂部と、前記電線を受け止める底部と、その頂部と底部とをつなぐ連結部とを有し、前記本体に前記電線の径方向半部を超えて受け入れ可能となるように、前記頂部を基準とする前記底部の深さが設定され、
前記第2の切欠き部は、その対向する開口縁の一方が前記第1の切欠き部の一方の開口縁の底部に連設され、他方が前記第1の切欠き部の他方の開口縁の頂部に連設され、その対向する開口縁の間隔が前記電線の直径よりも小さく形成され、
前記第3の切欠き部は、その対向する開口縁の一方が前記第1の切欠き部の一方の開口縁の頂部に連設され、他方が前記第1の切欠き部の他方の開口縁の底部に連設され、その対向する開口縁の間隔が前記電線の直径よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICタグの固定具。
【請求項3】
前記本体を軸線方向にみた場合に、その軸線方向に垂直な投影面において、前記第1の切欠き部の一方の底部から延びる前記第2の切欠き部の開口縁と前記軸線とを結ぶ直線と、前記第1の切欠き部の他方の底部から延びる前記第3の切欠き部の開口縁と前記軸線とを結ぶ直線とのなす角度が、180度よりも小さくなることを特徴とする請求項2に記載のICタグの固定具。
【請求項4】
前記第2の切欠き部は、前記第1の切欠き部の一方の底部から前記本体の一端に向けて延びる開口縁が前記本体の軸線に平行となるように形成され、
前記第3の切欠き部は、前記第1の切欠き部の他方の底部から前記本体の他端に向けて延びる開口縁が前記本体の軸線に平行となるように形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のICタグの固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−199997(P2011−199997A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63028(P2010−63028)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】