説明

ICタグを使用した書籍と書籍情報設定システム

【課題】書籍のまま搬送することによるデータ書き込み時の手間を簡略化することと、バーコードとそのバーコードを有する書籍の紐付けをICタグを用いて行なうシステムを提供すること。
【解決手段】書籍本体とカバーとからなる書籍であって、カバーにマッチング用ループ回路とICチップとを備え、書籍の背部分の表、または裏のいずれかに放射素子を配置したことを特徴とするICタグ付き書籍とマッチング用ループ回路とICチップを配置したカバーを作成するときに、カバーに印刷されている書籍JANコードデータを読み取ってICへ書籍JANコードのデータを含む必要データを書き込むことを特徴とする書籍情報設定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグを使用した書籍に関するものであり、特に安価に提供できる書籍用ICタグ、ICタグ付き書籍とそれを使用した書籍情報設定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外部処理装置との通信を非接触で行うICタグが一般に広く知られるようになってきた。このICタグは、情報を発信するために電池を内蔵しているアクティブ型と、電池を内蔵せずに受けた電波で電力を得て発信するパッシブ型に分類される。
【0003】
このうちパッシブ型のICタグは、リーダライタが電波を使って電力を送り込み、その電力でICが起動するもので、その電波には指示や要求も載っており、リーダライタから電力と命令を同時に受け取るようになっている。
そして、ICタグはその指示に対する答えを搬送波と呼ばれる電波に載せて送り出す。電波の到達距離は最大で数メートルと短いが、小型かつ軽量で、アクティブ型に比べると非常に安価に製造できる。そのため、今後はパッシブ型のICタグが多くの商品などに搭載されることが期待されている。
【0004】
このパッシブ型のICタグは、ICチップとアンテナを備えていさえすればどんな形状であってもよい。例えば、円盤型、円筒型、カード型、箱型などがあるが、いずれも長い方向で数センチほどの大きさである。また、研究開発が進み、価格についても安価になることが見えてきたことから、様々な商品にICタグをつけて物流過程、保管時等における情報管理を可能にすることが提案されている。
例えば、書籍、雑誌等の本にICタグを付けることにより、万引き防止機能を付与するのみならず、流通過程において必要な情報の管理を行うようにしたものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
上記の特許文献1に記載されている書籍、雑誌等の本は、背部の表紙内側にICタグを備えた構造をしており、ICタグが隠れて見えないという利点を有している。しかしながら、取扱い時や流通時においては、本の背側に外力が掛かることが多々あり、このように背部に外力が掛かると、その中のICタグにも圧力が掛かって破損する恐れがあり、ICタグの信頼性が損なわれるという問題点がある。
【0006】
また、特許文献2には、合紙絵本における本文の背部にICタグ用インレットを貼着し、その上から表紙を被せる方法が提案されている。
この方法によれば、ICタグ用インレットは外部から見えない状態になっているのみならず、表紙用のシートが本文の背部に接着しておらず、背部との間に僅かな隙間が生じており、圧力を受けにくい状態になっているため、乱暴に取り扱っても破損することがなく、ICタグの信頼性が高いものとなっている。
しかも、大量生産による安価なICタグ用インレットを本文の背部に貼着するだけであるので、コスト的にも有利である。
【0007】
図8には、従来の同一構成部材上に配置されたICタグ付き書籍の構造の一例の略図を示した。図8の(1)はICタグが書籍の背表紙と綴じ部の間に装着されている場合、図8の(2)は書籍本体の背表紙の表面に放射素子とマッチング用ループ回路が配置されている場合の書籍本体(右側)とカバー(左側)である。
【0008】
図8の(1)には書籍の背表紙内側にICタグを備えた構造の一例を示した。この書籍
(135)は、本文(104)の綴じ部(202)の背のり部(208)にICタグ(136)を接着して、表表紙(203)及び裏表紙とそれらに連接された背表紙(201)でくるんだ状態で構成されている。
【0009】
しかしながら、上記の方法においては書籍の背表紙と綴じ部の間にICタグを装着する工程で製本工程内のプレス工程でかかる圧力により破損の危険があるのみならず、ICタグ基材により、比誘電率が変化するので通信距離がICタグ単体に比べて劣化するという問題があった。通信距離の劣化は書籍管理の状態を不安定にするので、ICタグに近接させた放射素子(ブースターアンテナ)を併設することが必要になるが、書籍の背表紙の位置にICタグと放射素子を正確に近接させて正確に配置することは困難であった。
【0010】
また、ICタグを備えた書籍を用いて書籍情報の管理を行なう技術としては、特許文献3に書籍の状態にて複数の書籍のICタグへデータ書き込みを行なう装置が開示されている。
【0011】
特許文献3に記載されている装置は、積み重ねて載置された複数の書籍に取り付けられたICタグの情報を精度良く読み取るICタグ読取書込装置および製本加工装置であって、同一の位置にICタグを取り付けた本を、コンベア上に積み重ねて搬送し、積み重ねられた本のすべてのICタグの情報を同時にICタグ・リーダ/ライタで読み書きする製本加工ラインにおいて、コンベアが成す面と鋭角を成すように設置された傾斜突き当てガイドに積み重ねられた本を突き当てることにより、各本をコンベアの進行方向にずらし、ずれて積み重なった状態でICタグ・リーダ/ライタにより情報の読取書込を行う装置である。
【0012】
また、特許文献4には書籍のバーコードを読み取り、書棚及び操作者のタグラベルへデータ書き込みを行なう装置が開示されている。
【0013】
特許文献4に記載されている装置は、高価なデータベースや通信インフラ等を使うことなく、比較的安価に物品の管理を行うために、無線タグ通信装置は、書籍を載せる書棚及び操作者に設けられるタグラベルにそれぞれ備えられる無線タグ回路素子の間で無線通信により信号の授受を行うアンテナ及び高周波回路と、書籍に設けられたバーコードの情報を光学的に検出するバーコードリーダと、制御回路とを有する。
【0014】
制御回路は、バーコードリーダによるバーコード情報の検出結果に応じて、アンテナ及び高周波回路を介し、書籍の管理用に設けた無線タグ回路素子のIC回路部に対し書籍の各種作業情報を書き込む機能を有している装置である。
【0015】
上記の特許文献3に記載された装置では、データの読み取りと書き込み時に書籍のまま重ねてコンベア上を搬送するので、書籍がかさばってデータ書き込みに手間がかかるという問題があった。また、特許文献4に記載された装置では、タグラベルはバーコードを有する書籍には装着されていないので、バーコード(書籍JANコード)とそのバーコードを有する書籍とを直接紐付けることが出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−63655号公報
【特許文献2】特開2006−297771号公報
【特許文献3】特開2008−158933号公報
【特許文献4】特開2008−052454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって本発明の課題は、書籍のまま搬送することによるデータ書き込み時の手間を簡略化することと、バーコードとそのバーコードを有する書籍の紐付けをICタグを用いて行なう方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記の課題について鋭意検討の結果、書籍への取り付けを想定して放射素子(アンテナ)とIC付きマッチング用ループ回路(IC付きストラップ)を分離した構成のICタグとし、放射素子を印刷で構成することにより、安価に書籍用ICタグを提供することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【0019】
ここでは書籍に適用した場合を説明するが、本発明の技術は書籍以外にも応用できるものである。
すなわち、本発明はIC付きストラップを有するカバーを作成するときに、カバーに印刷されている書籍JANコード(ISBN、分類コード、定価コードを示すバーコード)データを読み取ってICへ書籍JANコードのデータを含む、必要データを書き込むことを特徴とする書籍情報設定システムである。
【0020】
上記の課題を解決するための本発明の請求項1に係る発明は、構成部材の一面にマッチング用ループ回路とICチップを備え、別の構成部材の一面に放射素子を備えていることを特徴とするICタグである。
【0021】
本発明の請求項1に係る発明は、書籍本体とカバーとからなる書籍であって、カバーにマッチング用ループ回路とICチップとを備え、書籍の背部分の表、または裏のいずれかに放射素子を配置したことを特徴とするICタグ付き書籍である。
【0022】
このようにマッチング用ループ回路とICチップの両者を放射素子(アンテナ)とは別の構成部材に形成することによって、マッチング用ループ回路とICチップと放射素子の各部材への形成を容易にすることが出来る。さらにマッチング用ループ回路とICチップを放射素子に近接させて重ねて電磁的に結合することによって、通信距離が長く、商品の流通管理等の分野に広く使用出来るICタグを構成することが出来る。
【0023】
カバーには通常書名や絵柄等の印刷とともに、ISBN、分類コード、定価コードを示すバーコードである書籍JANコードが施されている。
カバー表面にマッチング用ループ回路とICチップを装着して、放射素子を導電性インキの印刷によって書籍の背となる部分に形成した場合でも、単にカバーでくるむことによって、マッチング用ループ回路とICチップ及び放射素子を近接して重なる位置に配置することが容易である。
【0024】
本発明の請求項2に係る発明は、ICタグの放射素子は導電性インキの印刷によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICタグ付き書籍である。
【0025】
本発明の請求項3に係る発明は、マッチング用ループ回路はカバーの背部分の高さ方向の略中央部を対称軸として対称となっており、放射素子は書籍の背部分の中央より外側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のICタグ付き書籍である。
【0026】
本発明の請求項4に係る発明は、マッチング用ループ回路の線幅はこれに対応して配置される放射素子の線幅を覆う幅であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍である。
【0027】
本発明の請求項5に係る発明は、放射素子は書籍の高さ方向に直交するように表表紙もしくは裏表紙、もしくは表表紙から裏表紙にかけての書籍表紙に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍である。
【0028】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍の作成において、マッチング用ループ回路とICチップを配置したカバーを作成するときに、カバーに印刷されている書籍JANコード(ISBN、分類コード、定価コードを示すバーコード)データを読み取ってICへ書籍JANコードのデータを含む必要データを書き込むことを特徴とする書籍情報設定システムである。
【0029】
本発明の請求項7に係る発明は、書籍本体の背表紙に放射素子を配置して、カバーにマッチング用ループ回路とICチップを配置する工程と、カバーを作成するときにカバーに印刷されている書籍JANコードを読み取る工程と、読み取った書籍JANコードと付加したい情報をマッチング用ループ回路とICチップへ書き込む工程と、カバーに印刷されている書籍JANコードを読み取り、マッチング用ループ回路とICチップ情報も読み取り、両者を照合する工程と、照合結果をIC固有番号に紐付けして書き込みデータをログに残す工程と、書籍本体にデータ書き込み済みIC付きカバーを取り付ける工程と、の各工程を備えたことを特徴とする請求項6に記載の書籍情報設定システムである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るICタグ付き書籍はマッチング用ループ回路とICチップがカバーに形成されているので、リーダ/ライタを近接させれば放射素子なしでも書き込みが可能である。一方で放射素子は書籍本体にあるためカバーを密集させて書き込みを行っても、競合せずに書き込みが可能である。これによって、ICチップへの書き込み作業が省スペースで可能になる。
【0031】
本発明に係るICタグ付き書籍は棚への陳列や保管することを想定した際に、カバーの背にマッチング用ループ回路とICチップを配置し、書籍の背に放射素子を配置する構造とすることで、実運用の際に従来の陳列方法、すなわち、書名の入った背表紙側を正面にして書棚に並べる方法を変更しないでもICタグが読み取り易い。
【0032】
本発明に係るICタグ付き書籍によれば、マッチング用ループ回路がカバーの背部分の高さ方向の略中央部を対称軸として対称となっており、放射素子は書籍の背部分の中央より外側に配置されていることによってカバーを上下に付け替えてもマッチング用ループ回路の書籍に対する位置と放射素子に対する相対位置は変わらず同じように通信が可能となる。
【0033】
導電性インキの印刷によって放射素子を設ける場合でも、放射素子の印刷ずれによって書籍にカバーをセットした場合に放射素子とマッチング用ループ回路間の距離が離れるとインピーダンスが低下して通信距離が短くなるあるいは通信品質が劣化してしまうということが起こる。
【0034】
本発明に係るICタグ付き書籍においては、マッチング用ループ回路の線幅をこれに対応して配置される放射素子の線幅を覆うように広く形成することによって、放射素子の印刷ずれが多少あっても、放射素子がマッチング用ループ回路に重なった位置から外れることがない。そのためにインピーダンスが低下して通信距離が短くなるあるいは通信品質が劣化するという障害が防止できる。
【0035】
本発明に係るICタグ付き書籍によれば、放射素子を書籍の高さ方向に直交するよう表
表紙もしくは裏表紙、もしくは表表紙から裏表紙にかけて配置することによって、高さ方向に平行に配置した場合と偏波面が変わりその結果読み取り方向を変えることが可能になる。
また、カバーのマッチング用ループ回路近傍にあたる書籍表紙上に、素子長の異なる放射素子を2個以上配置することで複数の周波数帯での通信に対応することが可能となる。
【0036】
本発明に係る書籍情報設定システムによれば、書籍本体へ装着する前のカバーの状態でICへのデータ書き込みを行なうことが出来るため、書籍本体にカバーを装着した状態での書き込みに比べて、書籍の搬送や取り扱いに手間をかけずにカバーに配置されたICへのデータ書き込みが出来る。
【0037】
カバーには同一書籍に関する共通情報として、書籍JANコードとして規定されるISBN、分類コード、定価コード等が印刷される。
ICタグを付加することにより、カバーに印刷された共通情報に加えて、出版社独自で追加したい情報(書籍1冊ごとに付与する固有番号や販売条件識別情報等)や、カバー印刷時には未定であるために印刷できない情報や、刷り分けるには困難な情報(出荷先、用途、書籍本体の版や刷等)を、書籍装着前のICチップを配置したカバーへ書き込むことで付加することが出来る。
【0038】
また、ICチップ内の出荷先情報をリーダー/ライターで読み取ることで、同一物流センター内に保管されている書籍の自動仕分けが可能になる。
【0039】
ICチップ内に版や刷の正確な情報を記録できることにより、同一書籍であっても、初版や再版等の正確な情報、あるいは固有番号による識別が可能になり、早期購入読者への付加サービスや販売店独自のサービスへつなげることが出来るようになる。
【0040】
読み取った書籍JANコードと付加したい情報(販売条件、固有番号等)をマッチング用ループ回路を介してICチップへ書き込むときには、放射素子(アンテナ)を介在させなくとも通信は可能であるため、カバーのみで書き込みが可能である。
【0041】
カバーに配置されている書籍JANコードのバーコードを読み取るときに、カバーと一体となっているICチップへデータを書き込むため、ICチップ内のデータとデータに紐付く対象(カバー)の一致の信頼性を高めることが出来る。
【0042】
マッチング用ループ回路とICチップはカバーに貼付等の方法で配置されているため、書籍本体の背表紙に配置される場合に比べて、書籍本体を作成するための製本工程を通らないので製本工程内のプレス工程を通ることによるICチップの破損を避けることが出来る。
【0043】
カバーへのマッチング用ループ回路とICチップの装着をカバー製造工程で行なう場合に連続した巻取りの状態から巻取り状態の形態で製造可能であり、書籍本体とは独立して行うことが出来るために製造が容易である。また、必要に応じて、ロールから巻きだした状態で連続してデータ書き込みを行うことも可能であり搬送が容易である。
【0044】
上記の巻取りを断裁してカバーを枚葉にした状態であっても、書籍本体へ装着前のカバーでのICチップへのデータ書き込みであるため、ICチップへのデータ書き込み時には対象となる複数のカバーは,書籍の状態と違って端部を重ねた状態で搬送することが出来る。これにより、データ書き込み工程のスペースを減らして搬送距離を短く出来るので工程としての処理スピードを速めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のICタグ付き書籍の基本構造略図
【図2】本発明のICタグ付き書籍の要素の設置箇所略図
【図3】本発明のICタグに用いるマッチング用ループ回路とICチップの例
【図4】本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路とICチップ及び放射素子設置位置例
【図5】本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路とICチップ及び放射素子設置位置例
【図6】本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路とICチップ及び放射素子設置位置例
【図7】本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路とICチップ及び放射素子設置位置例
【図8】同一構成部材上に配置されたICタグ付き書籍の構造の一例の略図。(1)はICタグが書籍の背表紙と綴じ部の間に装着されている場合、(2)は書籍本体の背表紙の表面に放射素子とマッチング用ループ回路が配置されている場合の書籍本体とカバー。
【図9】本発明の書籍情報設定システムのフローチャート例
【図10】本発明の書籍情報設定システムのカバー参考図
【図11】本発明の書籍情報設定システムの読み取り/書き込み参考図
【図12】本発明の書籍情報設定システムの搬送工程参考図
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の実施の形態を必要に応じて図面を用いて説明する。図1は本発明のICタグ付き書籍の基本構造略図であり、図2は本発明のICタグ付き書籍の要素の設置箇所の略図である。図3には本発明のICタグに用いるマッチング用ループ回路の一例の略図を示した。
【0047】
本発明のICタグ付き書籍(1)は、図1の右側に示した書籍本体(2)と、左側に示したそれをくるんで用いられるカバー(3)とからなる。
書籍本体(2)の背表紙(7)の部分には、カバー(3)でくるんだ時にマッチング用ループ回路(4)と重なる位置に、導電性インキの印刷によって形成された、たとえばダイポールアンテナのような放射素子(6)が設けられている。この放射素子(6)は図2の右側に示したように本文(204)をくるむ表紙の背表紙(7)の部分の裏側の綴り部(202)と背表紙の間に配置されている。
【0048】
カバー(3)の書籍の背に該当する部分には、ICチップ(5)を備えたマッチング用ループ回路(4)が装着されている。このマッチング用ループ回路(4)は例えば図3に示したようにプラスチックフィルム等のフレキシブル基材(図示せず)上にICチップ(5)に接合された略矩形の導電体のパターンにより形成されている。
【0049】
マッチング用ループ回路(4)はエッチングにより作成され、その外寸長さ(W)と外寸幅(H)は、ICチップ虚数成分と整合するように決められ、たとえばW20mm×H6mm、線幅1mmのパターンを厚み1μmでエッチングにて絶縁性基材フィルム上に形成することが出来る。また、マッチング用ループ回路(4)は放射素子(6)と同様に導電性インキの印刷により形成することも可能である。
【0050】
本発明のICタグ付き書籍に用いる、書籍本体(2)の背表紙(7)の部分に設けた放射素子(6)の素子長は通信周波数に対してλ/2程度が好ましい。周波数が953MHzの場合の素子長はλ/2程度の150mm程度とする。放射素子(6)は通常の導電性インキを用いてグラビア印刷等の周知の印刷方法で形成することが出来る。
【0051】
放射素子(6)の印刷に用いる導電性インキは焼成前金属粒子の粒径が60nm以下、望ましくは20nm以下の銀インキが好ましく使用される。焼成後の放射素子(6)の厚みを2μm以下が適当である。
【0052】
放射素子(6)の印刷にあたっては、被印刷体にはアクリルウレタン系樹脂入りアンカー剤を使用することが好ましい。アンカー剤を使用することにより紙面が平滑になり紙自体に沁みこむことがないため、アンカー剤による処理を行なわない場合に比べ抵抗値が減少して通信性能の向上に寄与する。
【0053】
この放射素子(6)はカバー(3)の書籍本体(2)の背表紙(7)の表裏どちら側に設けることも可能である。通常の絵柄印刷と同じ背表紙の表側に導電性インキの印刷によって設けることが作成方法としては簡便であるが、書籍の外観を損なうという意匠性の問題および取り扱い時の耐性の点から見て、放射素子(6)は書籍本体(2)の背表紙(7)の裏側に設けることが望ましい。
【0054】
図4は本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路及び放射素子の設置位置を示す一例である。
図4(1)の左側に示したようにマッチング用ループ回路(4)はカバー(3)の背表紙(7)部分の高さ(2w)方向の略中央部に取り付けられてこの取り付けた中心の位置を対称軸として上下に対称となっている。これによって図4(1)の左側に示したようなカバー(3)の上下方向を、図4(2)の左側に示したような逆の方向に変えた場合でもマッチング用ループ回路(4)と放射素子(6)の電磁的な結合状態は変わらないようにすることが出来る。したがってカバー(3)を上下逆さに書籍本体(2)に付けてしまったとしても通信が可能となる。
【0055】
図3に示したような形状のマッチング用ループ回路(4)を用いた場合には、放射素子(6)の重なり位置はマッチング用ループ回路(4)の中心よりも中心からやや外れた位置のほうが適切である。図4(1)及び(2)の右側には上下方向に走る放射素子(6)が書籍の背表紙(7)の中心よりも外側に設けられている場合を示した。
【0056】
図5は本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路及び放射素子の設置位置を示す他の一例である。いままでの説明では書籍本体(2)に設ける放射素子(6)の数が一本の場合を取り上げてきたが、放射素子(6)の本数は複数であっても良く、異なる通信周波数帯を用いる場合にあっては印刷パターンの変更だけで容易に対応が可能なので便利である。ここでは放射素子(6)の数が二本の場合を示した。
【0057】
図6は本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路及び放射素子の設置位置の関係を示す一例である。左側が放射素子(6)の数が一本の場合、右側が放射素子(6)の数が二本の場合を示した。
【0058】
図6の左側の図において、マッチング用ループ回路(4)の上下方向に走行している部分の線幅wはこれに対応して配置される放射素子(6)の線幅を覆う状態であり、放射素子(6)は左右方向に十分な余裕を持ってマッチング用ループ回路(4)との重なりを確保している。図6の右側の図は放射素子(6)が平行な二本の場合を示しており、二本とも左右方向に十分な余裕を持ってマッチング用ループ回路(4)との重なりを確保している。
これによって、放射素子(6)をマッチング用ループ回路(4)に重ねた時の位置ずれが多少あってもマッチング用ループ回路(4)と放射素子(6)の電磁的結合は安定した状態に保たれる。
【0059】
これまでの例では、放射素子(6)は書籍の高さ方向に平行になるように書籍の背表紙部分に配置されている場合を示したが、放射素子(6)は書籍の高さ方向に直交するように表表紙もしくは裏表紙、もしくは表表紙から裏表紙にかけて配置することも出来る。
【0060】
図7には本発明のICタグ付き書籍のマッチング用ループ回路及び放射素子の設置位置の他の例を示した。図7の(1)には書籍の背表紙部分に相当する位置にマッチング用ループ回路(4)を備えたカバー(3)を示した。
【0061】
図7の(2)には書籍本体(2)の背表紙部分に書籍の高さ方向に直交するよう表表紙から裏表紙にかけて放射素子(6)を配置した状態を、図7の(3)には同じく表表紙にかけて放射素子(6)を配置した状態を、図7の(4)には同じく裏表紙にかけて放射素子(6)を配置した状態をそれぞれ示した。
【0062】
これによって、放射素子(6)を書籍の高さ方向に平行に配置した場合と偏波面が変わりその結果読み取り方向を変えることが可能になる。また、放射素子を書籍の背表紙の部分だけでなく表表紙や裏表紙に配置することによって最適な読み取り位置を選択することが可能になる。
【0063】
上記に記載したICタグ付き書籍の作成において、マッチング用ループ回路とICチップを配置したカバーを作成するときに、カバーに印刷されている書籍JANコード(ISBN、分類コード、定価コードを示すバーコード)データを読み取ってICへ書籍JANコードのデータを含む必要データを書き込む書籍情報設定システムの実施形態の例を以下に説明する。
【0064】
本発明の書籍情報設定システムは、少なくとも、書籍本体の背表紙に放射素子を配置して、カバーにマッチング用ループ回路とICチップを配置する工程と、カバーを作成するときにカバーに印刷されている書籍JANコードを読み取る工程と、読み取った書籍JANコードと付加したい情報をマッチング用ループ回路とICチップへ書き込む工程と、カバーに印刷されている書籍JANコードを読み取り、マッチング用ループ回路とICチップ情報も読み取り、両者を照合する工程と、照合結果をIC固有番号に紐付けして書き込みデータをログに残す工程及び、書籍本体にデータ書き込み済みICチップ付きカバーを取り付ける工程、の各工程からなる書籍情報設定システムである。
図9に本発明の書籍情報設定システムの運用フローチャート例を示した。
【0065】
書籍本体の背表紙に放射素子を配置して、カバーにマッチング用ループ回路とICチップを配置する工程は、図1に示したように書籍本体の背表紙裏側に導電性インキを用いたグラビア印刷等の周知の印刷方法により形成する放射素子の配置と、カバーの背表紙部分の裏側に、エッチングにて絶縁性基材フィルム上に形成したICチップとマッチング用ループ回路の貼付によって行われる。
【0066】
放射素子の形成に用いる導電性インキとしては含まれる金属粒子の平均粒径が60μm以下望ましくは20μm」以下のものが使用出来る。放射素子パターンの乾燥後の厚みは2μm以下、1μm程度が適当であり、放射素子の素子長は通信周波数に953MHzを用いる場合にはλ/2程度の150mmが適当である。
【0067】
マッチング用ループ回路の外寸長さ(W)と外寸幅(H)は、ICチップ虚数成分と整合するように決められ、たとえば、外寸長さは20mm、外寸幅は6mm、線幅は1mmとしてエッチングにて絶縁性基材フィルム上に形成される。
【0068】
放射素子の配置を書籍本体に、マッチング用ループ回路とICチップの配置をカバーに
とそれぞれ別の部材に行うことによって、製造が効率的に出来る。のみならず、ICチップへの情報書き込みをリーダ/ライターを近接させて放射素子を介在しないで行うことが可能であることによって、書籍の状態になる前の段階のカバー単独の状態で効率的な書き込みを行い、書籍の状態になった後では、書籍に配置された放射素子の効果で遠距離からの通信を利用した書籍管理が出来るという本発明の書籍情報設定システムの効用を十分に生かすことが出来る。
【0069】
このようにして準備されたカバーを用いて、ICチップに必要な情報の記録されたカバーを作成するときにカバーに印刷されている書籍JANコードを読み取る工程は、通常の光学的読み取り式のバーコードリーダを用いて行うことが出来る。
図10には本発明の書籍情報設定システムのカバー参考図を示した。
【0070】
書籍本体(2)の表表紙(9)と裏表紙(10)に両端の折込部(11)を折込んでセットする前のカバー(3)には、この段階では未だ情報書き込み前のICチップ(5)とマッチング回路(4)をカバーの背表紙部分に装着した状態であり、表紙表面には書籍JANコードのバーコード(12)が印刷されている。
【0071】
この段階ではカバー(3)は連続的に巻き取りから繰り出された状態でありこれから、バーコードリーダー(14)による書籍JANコード(12)の読み取り、と読み取った書籍JANコード(12)の情報と、書籍の流通管理に必要となる販売条件や固有番号等の付加したい情報をマッチング用ループ回路(4)からICチップ(5)へ書き込む工程と、カバー(3)に印刷されている書籍JANコード(12)を読み取り、マッチング用ループ回路(4)とICチップ(5)に記録されている情報も読み取り、両者を照合する工程と、照合結果をIC固有番号に紐付けして書き込みデータをログに残す工程までを連続して実行することが出来る。
【0072】
図11には本発明の書籍情報設定システムの読み取りと書き込みの参考図を示した。
カバー(3)の表紙に印刷された書籍JANコード(12)に記録されたISBN、分類コード、定価コード等の情報をバーコードリーダ(14)によって光学的に読み取り、別途作成した書籍の流通管理に必要となる販売条件や固有番号等の付加したい情報を付加してリーダ/ライタアンテナ(13)から無線でマッチング用ループ回路(4)を介してICチップ(5)へ書き込む。
【0073】
照合結果をIC固有番号に紐付けして書き込みデータをログに残す工程までのこれらの工程は、個別断裁前のカバー作成の工程で巻き取りロールから巻き取りロールへの連続した作業としてリーダ/ライターアンテナ(13)を移動するカバーの表面に近接させながら行うことが出来る。
【0074】
また、これらの工程は書籍本体の作成とは別にカバー作成の工程のみで実行されるので個別に断裁した場合の搬送においても書籍の状態の対象物に書き込む場合と違って、少ないスペースで効率的に行うことが出来る。
図12には、本発明の書籍情報設定システムのカバー断裁後に上記の工程を実行する場合の搬送工程の参考図を示した。
【0075】
個別に断裁された書籍本体へ装着前の複数のカバー(3)をその端部を重ねて矢印方向へ搬送しながらICチップ(5)へのデータ書き込みと読み出しをリーダ/ライタアンテナ(13)から行うことが出来る。これにより、データ書き込み工程のスペースを減らして搬送距離を短く出来るので工程としての処理スピードを速めることが出来る。
【0076】
最後に、書籍本体にデータ書き込み済みICチップ付きカバーを取り付ける工程でシス
テムは完了する。
【実施例】
【0077】
<実施例1>
図1に示した構成の、本発明のICタグ付き書籍を作成した。
カバーの背表紙部分にICチップとマッチング用ループ回路を備えた書籍を作成した。マッチング用ループ回路の外寸長さは20mm、外寸幅は6mm、線幅は1mmとしてエッチングにて絶縁性基材フィルム上に形成した。
【0078】
書籍の背表紙の裏面に放射素子を印刷した書籍本体を作成した。
放射素子は東洋インキ製の導電性インキを用いて、アクリル系アンカー剤にて処理した背表紙表面にグラビア印刷により形成した。導電性インキとしては含まれる金属粒子の平均粒径が20nmの銀インキを用い、放射素子パターンの乾燥後の厚みを1μmとした。
放射素子の素子長は通信周波数に953MHzを用いることを考慮してλ/2程度の150mmとした。
【0079】
実施例1で作成した、書籍の背表紙に重なる位置の裏面にマッチング用ループ回路が配置されたカバーを放射素子を印刷した書籍に取り付け本発明のICタグ付き書籍の通信特性の実測を行なった。
【0080】
通信周波数953MHzにおいて、本発明のICタグの通信距離は2.8m程度となり物流センター等の場所での遠隔管理に使用出来る性能を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のICタグとそれを使用した書籍情報設定システムは、書籍などの印刷物を取り扱う業界(製造業者、流通業者、書店)にてその商品管理をICタグで運用する場合のデータ書き込み方法として特に有用である。書店での棚卸や在庫管理、セルフレジ等への応用や図書館での書籍管理にとどまらず、物流管理一般にも利用することが出来る。
【符号の説明】
【0082】
1…書籍
2…書籍本体
3…カバー
4…マッチング用ループ回路
5…ICチップ
6…放射素子(アンテナ)
7…背表紙
8…カバー背表紙対応部分
9…カバーの表表紙対応部分
10…カバーの裏表紙対応部分
11…カバー折込み
12…書籍JANコード
13…リーダ/ライタアンテナ
14…バーコードリーダ
W…マッチング用ループ回路全長
H…マッチング用ループ回路全幅
w…マッチング用ループ回路線幅
w1…マッチング用ループ回路距離
w2…マッチング用ループ回路距離
135…書籍
136…ICタグ
201…背表紙
202…綴じ部
203…表表紙
204…本文
208…背のり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
書籍本体とカバーとからなる書籍であって、カバーにマッチング用ループ回路とICチップとを備え、書籍の背部分の表、または裏のいずれかに放射素子を配置したことを特徴とするICタグ付き書籍。
【請求項2】
ICタグの放射素子は導電性インキの印刷によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のICタグ付き書籍。
【請求項3】
マッチング用ループ回路はカバーの背部分の高さ方向の略中央部を対称軸として対称となっており、放射素子は書籍の背部分の中央より外側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のICタグ付き書籍。
【請求項4】
マッチング用ループ回路の線幅はこれに対応して配置される放射素子の線幅を覆う幅であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍。
【請求項5】
放射素子は書籍の高さ方向に直交するように表表紙もしくは裏表紙、もしくは表表紙から裏表紙にかけての書籍表紙に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のICタグ付き書籍の作成において、マッチング用ループ回路とICチップを配置したカバーを作成するときに、カバーに印刷されている書籍JANコードデータを読み取ってICへ書籍JANコードのデータを含む必要データを書き込むことを特徴とする書籍情報設定システム。
【請求項7】
書籍本体の背表紙に放射素子を配置して、カバーにマッチング用ループ回路とICチップを配置する工程と、カバーを作成するときにカバーに印刷されている書籍JANコードを読み取る工程と、読み取った書籍JANコードと付加したい情報をマッチング用ループ回路とICチップへ書き込む工程と、カバーに印刷されている書籍JANコードを読み取り、マッチング用ループ回路とICチップ情報も読み取り、両者を照合する工程と、照合結果をIC固有番号に紐付けして書き込みデータをログに残す工程及び、書籍本体にデータ書き込み済みICチップ付きカバーを取り付ける工程、の各工程を備えたことを特徴とする請求項6に記載の書籍情報設定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−254572(P2012−254572A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129091(P2011−129091)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】