説明

ICタグを備えている管理対象物の加熱装置、および加熱方法

【課題】冷凍されたマイクロチューブ内の試料を、適正な解凍条件で短時間に解凍して分析や試験を迅速に行なうことができ、とくに緊急に分析や試験を行う際に即応できる、ICタグを備えている管理対象物の加熱装置を提供する。
【解決手段】試料等を収容するマイクロチューブ(管理対象物)1と、マイクロチューブ1に配置したICタグ2と、ICタグ2に対して情報信号を送受するリーダライタ3と、リーダライタ3の作動状態を制御するコンピュータとからなる。コンピュータの指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立して、ICタグ2のアンテナ14およびICチップに電流が流れるときの熱で、マイクロチューブ1および試料を加熱する。ICタグ2は、ICチップの表面にアンテナが形成してある1チップ構造のICタグで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグを備えている管理対象物を加熱するための加熱装置とその方法に関する。管理対象物としては、医療、生化学、分子生物学などの分野において分析、試験などを行なう際に使用されるマイクロチューブ、あるいは恒温状態で保存する必要がある物質を収容する容器、食品容器などがある。
【背景技術】
【0002】
本発明に関して、ICタグを備えているマイクロチューブは特許文献1に公知である。そこでは、容器本体を成形する際にICチップを肉壁内に埋設している。あるいは、ICチップが埋設されたプラスチック片を容器本体に貼着している。同様に、ICタグを埋設した食品容器が特許文献2に公知である。そこでは、プラスチックシートの上面にICタグを仮接着し、その外面に別のプラスチックシートを積層して食品容器の形成素材とする。得られた積層シートを加熱しながらプレスして食品容器としている。
【0003】
本発明に関して、例えば凍結製剤の解凍装置が公知である(特許文献3)。そこでは、恒温水槽と、温水温度などを管理するコントロールユニットと、凍結製剤を支持するラックと、凍結製剤をラックごと振盪する振盪装置などで解凍装置を構成している。この解凍装置によれば、凍結保存された多数個の凍結製剤を適正な温度で効率よく解凍できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−340426号公報(段落番号0010、図1)
【特許文献2】特開2004−238030号公報(段落番号0014、図1)
【特許文献3】特開2009−050316号公報(段落番号0014、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、環境温度の変化で変質しやすい試料は、マイクロチューブに収容した状態のままで冷凍して保管することが多い。冷凍された試料を分析や試験に供する場合には、マイクロチューブを常温環境に放置して自然解凍し、あるいは、マイクロチューブを流水中に浸漬して解凍する。しかし、いずれの場合にも解凍に多くの時間が掛かるため、緊急に分析や試験を行わねばならないような場合に対応できない。
【0006】
その点、特許文献3のように凍結製剤を振盪しながら温水で加熱する湯煎式の解凍装置を用いると、より短い時間で試料を解凍できる。しかし、この種の解凍装置は導入コストに加えて、解凍処理すべき容器の大きさや構造に応じて、専用のラックを用意しなければならず全体コストが嵩む。また、解凍対象が1個の場合でも、多数個の解凍対象を解凍するときと同じ条件で解凍装置を作動させる必要があるため、エネルギーロスが多い。さらに、種類が異なる試料ごとに異なる解凍条件で解凍を行う必要があるので、異質の試料を同時に解凍することが難しい。マイクロチューブ内の試料を解凍する場合には、温水中にマイクロチューブを浸漬しなければならず、チューブ表面にラベルが貼り付けてある場合に、剥がれ落ちてしまう不利もある。
【0007】
本発明の目的は、マイクロチューブなどの管理対象物に収容した試料等を、適正な条件で加熱して冷凍された試料を解凍でき、あるいは恒温状態に保持できる、ICタグを備えている管理対象物の加熱装置とその方法を提供することにある。
本発明の目的は、ラックに装填した一群の管理対象物を同時に加熱でき、あるいは一群の管理対象物の中から選択された管理対象物を無駄なく加熱できる、ICタグを備えている管理対象物の加熱装置とその方法を提供することにある。
本発明の目的は、冷凍されたマイクロチューブ内の試料を、適正な解凍条件で短時間に解凍して分析や試験を迅速に行なうことができ、とくに緊急に分析や試験を行う際に即応できる、ICタグを備えているマイクロチューブの加熱装置とその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るICタグを備えている管理対象物の加熱装置は、試料等を収容する管理対象物1と、管理対象物1の任意の位置に配置したICタグ2と、ICタグ2に対して情報信号を送受するリーダライタ3と、リーダライタ3の作動状態を制御するコンピュータ4とからなる。コンピュータ4の指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立して、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱で、管理対象物1および試料を加熱することを特徴とする。
【0009】
管理対象物はマイクロチューブ1からなる。ICタグ2は、ICチップ13の表面にアンテナ14が形成してある1チップ構造のICタグで構成する。
【0010】
マイクロチューブ1を構成するチューブ本体5の底壁外面に臨んでICタグ2を配置する。チューブ本体5の温度状態を検出する温度センサー18を、マイクロチューブ1を支持するチューブラック7に設ける。温度センサー18の出力信号に基づき、コンピュータ4がリーダライタ3の作動状態を制御して、冷凍されたチューブ本体5および試料を加熱して解凍できるようにする。
【0011】
一群のマイクロチューブ1をチューブラック7に装填する。リーダライタ3に、チューブラック7に装填した個々のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を設けて、チューブラック7に装填したマイクロチューブ1の一群を同時に加熱する。あるいは選択されたマイクロチューブ1のみを加熱できるようにする。
【0012】
本発明に係るICタグを備えている管理対象物の加熱方法においては、試料等を収容する管理対象物1にICタグ2が設けてある。ICタグ2に対して情報信号を送受するリーダライタ3の作動状態をコンピュータ4で制御して、コンピュータ4の指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立し、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱で、管理対象物1および試料を加熱することを特徴とする。
【0013】
管理対象物は、マイクロチューブ1からなり、ICタグ2は、ICチップ13の表面にアンテナ14が形成してある1チップ構造のICタグで構成する。マイクロチューブ1を支持するチューブラック7に設けた温度センサー18の出力信号に基づき、コンピュータ4がリーダライタ3の作動状態を制御して、冷凍されたチューブ本体5および試料を加熱して解凍する。
【0014】
リーダライタ3に、チューブラック7に装填した一群のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を設ける。チューブラック7に装填したマイクロチューブ1の一群を同時に加熱できる。あるいは選択されたマイクロチューブ1のみを加熱できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、管理対象物1に設けたICタグ2と、ICタグ2用のリーダライタ3と、リーダライタ3の作動状態を制御するコンピュータ4などで管理対象物の加熱装置を構成した。また、コンピュータ4の指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立して、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱で、管理対象物1および試料を加熱できるようにした。
【0016】
このように、本発明の加熱装置は、元来、管理対象物1を管理するためのICタグ2、リーダライタ3、およびコンピュータ4をそのまま利用して、管理対象物1を加熱できる。したがって、湯煎式の解凍装置などの新たな設備を導入するためのコストを負担する必要もなく、管理対象物1および試料を所定の状態に加熱することができる。また、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱を利用して、管理対象物1を積極的に加熱するので、例えば冷凍された管理対象物1を自然解凍する場合に比べて、管理対象物1を適正な解凍条件で短時間に解凍することができる。したがって、冷凍保存していた試料の分析や試験を迅速に行なうことができ、とくに緊急に分析や試験を行う際にも即応できる。空気中で管理対象物1を加熱するので、管理対象物1に貼り付けたラベルが剥がれ落ちることもない。
【0017】
ICタグ2が、ICチップ13の表面にアンテナ14が形成してある1チップ構造のICタグで構成してあると、一般的なICタグに比べて、アンテナ14のインピーダンスを大きくすることができる。したがって、ICタグ2とリーダライタ3との間で通信を確立してアンテナ14に電流が流れるときの発熱量を増強して、マイクロチューブ1を効果的に加熱できる。
【0018】
チューブ本体5の底壁外面に臨んでICタグ2を配置すると、ICタグ2のアンテナ14とリーダライタ3のアンテナ15とを近接した状態で正対させて、ICタグ2とリーダライタ3との間の通信を安定した状態で適正に行なえる。また、チューブラック7に温度センサー18を設けて、温度センサー18でチューブ本体5の温度状態を検知しながら、でリーダライタ3の作動状態をコンピュータ4で制御すると、チューブ本体5を過不足のない状態で的確に目標温度に加熱できる。
【0019】
リーダライタ3に、チューブラック7に装填した個々のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を設けると、マイクロチューブ1の一群を同時に加熱することができる。さらに、選択されたマイクロチューブ1のみを、エネルギーロスのない状態で無駄なく加熱することができる。特定した複数のマイクロチューブ1を、指定した順番で指定した時間差ごとに加熱することもできる。
【0020】
本発明に係る管理対象物の加熱方法においては、コンピュータ4の指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立して、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱で管理対象物1および試料を加熱する。
【0021】
上記のように、本発明の加熱方法においては、元来、管理対象物1を管理するためのICタグ2、リーダライタ3、およびコンピュータ4をそのまま利用して、管理対象物1を加熱できる。したがって、湯煎式の解凍装置などの新たな設備を導入するためのコストを負担する必要もなく、管理対象物1および試料を所定の状態に加熱することができる。また、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱を利用して、管理対象物1を積極的に加熱するので、例えば冷凍された管理対象物1を自然解凍する場合に比べて、管理対象物1を適正な解凍条件で短時間に解凍することができる。したがって、冷凍保存していた試料の分析や試験を迅速に行なうことができ、とくに緊急に分析や試験を行う際にも即応できる。空気中で管理対象物1を加熱するので、管理対象物1に貼り付けたラベルが剥がれ落ちることもない。
【0022】
上記の加熱方法において、チューブラック7に温度センサー18を設けて、温度センサー18でチューブ本体5の温度状態を検知しながら、でリーダライタ3の作動状態をコンピュータ4で制御すると、チューブ本体5を過不足のない状態で的確に目標温度に加熱できる。
【0023】
上記の加熱方法において、リーダライタ3に、チューブラック7に装填した一群のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を設ける場合には、チューブラック7に装填したマイクロチューブ1の一群を同時に加熱できる。さらに、選択されたマイクロチューブ1のみを、エネルギーロスのない状態で無駄なく加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るマイクロチューブとリーダライタの関係を示す断面図である。
【図2】本発明に係る加熱装置の概略を示す説明図である。
【図3】本発明に係るマイクロチューブの正面図と、ICタグの斜視図である。
【図4】本発明に係る加熱方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】別の実施例に係るマイクロチューブの正面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例) 図1ないし図4は本発明に係るICタグを備えている管理対象物の加熱装置の実施例を示す。図2において加熱装置は、試料等を収容するマイクロチューブ(管理対象物)1と、マイクロチューブ1に設けたICタグ2と、ICタグ2に対して情報信号を送受するリーダライタ3と、リーダライタ3の作動状態を制御するコンピュータ4などで構成する。
【0026】
図1および図3に示すようにマイクロチューブ1は、円筒状のチューブ本体5と、チューブ本体5の上面の開口を塞ぐキャップ6とからなる。チューブ本体5およびキャップ6は、透明なポリプロピレンを素材とする射出成形品からなる。チューブ本体5の上部周面には、チューブラック7の装填穴の開口周縁壁で受止められるフランジ8が張出してあり、チューブ本体5の底部には、ICタグ2を装填するための装填部9と、チューブ本体5の筒壁に連続する脚壁10とが一体に形成してある。図示していないが、キャップ6の内面にはシールリングが設けてあり、キャップ6をチューブ本体5の開口周囲壁にねじ込むことにより開口を密閉できる。マイクロチューブ1の内容量は2mlと4mlとがあるが、両者はチューブ本体5の上下寸法が異なるだけである。
【0027】
図1に想像線で示すように、溶融加工が施される前の装填部9は、脚壁10と同心状の筒壁として形成されている。装填部9の内部にICタグ2を装填したのち、装填部9の筒壁を溶融して筒内に充満させることにより、ICタグ2の外面を溶融樹脂で覆うことができ、これにより図1に実線で示すように、ICタグ2が装填部9の内部に埋設する状態で固定される。ICタグ2は、そのアンテナ14が下向きになる状態で装填部9に埋設してある。
【0028】
図3に示すようにICタグ2は、一辺の長さが2.5mmの正方形状のICチップ13の表面に、渦巻状のアンテナ14を形成した1チップ構造(コイルオンチップ構造)のICタグからなり、非接触式の近接型のRFIDとして構成してある。アンテナ14は、ICチップ13の表面に形成した銅のメッキ層にエッチングを施して形成してあり、実際には、線幅が11μmのアンテナコイル14aを四角渦巻状に配置して高い配置密度で形成してある。内外に隣接するアンテナコイル14aは4μmの隙間を介して形成してある。このように、高い配置密度で形成したアンテナ14は、一般的なICタグに比べてインピーダンスが高く、リーダライタ3のアンテナ15と磁束結合する状態では、アンテナコイル14aを流れる電流によって抵抗熱を発生する。因みに、一般的なICタグのアンテナのレジスタンスが10Ω程度であるのに対し、本実施例に係る1チップ構造のICタグ2のアンテナ14のレジスタンスは約100Ωとなる。
【0029】
図示していないが、チューブラック7は平面視が長方形状に形成してあり、短辺に沿って6個、長辺に沿って8個の装填穴が配置してあり、合計48個のマイクロチューブ1を装填できる。図2に示すように、各装填穴の内部には、チューブ本体5の周面の温度を検出する温度センサー18が設けてある。温度センサー18は、箔状の熱電対を絶縁シートの片面に固定したシート状のセンサーからなり、マイクロチューブ1を装填穴に差込み装填することにより、温度センサー18がチューブ本体5の周面に密着できるように、センサーホルダーで支持してある。マイクロチューブ1を装填穴に差込んだ装填状態において、チューブ本体5の下面は、図1に示すように、チューブラック7の載置面よりも僅かに上側に位置している。
【0030】
リーダライタ3は、上面にチューブラック7の載置面を備えた箱状の装置からなり、載置面には、チューブラック7に装填した個々のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群が、装填穴の配置パターンに対応して設けてある。リーダライタ3と各マイクロチューブ1との間で情報信号を送受することにより、マイクロチューブ1および試料の固有情報や関連情報などをICタグ2に記録し、あるいはICタグ2に記録された固有情報や履歴情報等を読み取ることができる。
【0031】
マイクロチューブ1には血液、血清、細菌、細胞、DNA、RNAなどの試料が収容されるが、試料の変質を防ぐために−80℃に冷凍した状態で保管することがある。このように冷凍された試料を解凍するために、本発明では、ICタグ2を利用してマイクロチューブ1を加熱する。詳しくは、冷凍されたマイクロチューブ1が装填されたチューブラック7をリーダライタ3の上面に載置して、ICタグ2に設けたアンテナ14と、リーダライタ3のアンテナ15とを図1に示すように上下に正対させる。このとき、チューブラック7には1個以上、48個以下のマイクロチューブ1を装填することができる。
【0032】
以上のようにして解凍準備が整った状態で、図4に示すようにコンピュータ4に必要なパラメータを入力して解凍条件を設定する(ステップ1)。次ぎに、コンピュータ4からリーダライタ3に発した指令信号に基いて、リーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立して、リーダライタ3のアンテナ15とICタグ2のアンテナ14を磁束結合させて、ICタグ2側のアンテナ14に電流を流す(ステップ2)。コンピュータ4の内部では、リーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立した時点でタイマーを起動させ、発熱開始から経過した時間が所定時間に達したか否かを判定する(ステップ3)。並行して、発熱開始から経過した時間と、ICタグ2のアンテナ14の発熱量、およびICチップ13の発熱量から総発熱量を計算する。さらに、チューブ本体5の比熱および熱伝導特性と先の総発熱量から、チューブ本体5の推定温度を算出する。
【0033】
発熱開始から経過した時間が所定時間に達した時点で、リーダライタ3とICタグ2との間の通信を遮断して、アンテナ14による発熱を停止する(ステップ4)。この時点までにコンピュータ4が算出した総発熱量は、チューブ本体5を目標温度にまで加熱できる理論熱量に一致している。しかし、チューブ本体5の形状や肉厚の僅かなばらつきによって熱伝導状態は一様ではないので、加熱したチューブ本体5の表面温度を温度センサー18で確認し、チューブ本体5が目標温度に達している場合には解凍処理を終了する。また、チューブ本体5が目標温度に達していない場合には、再度ステップ2へ移行して加熱を行う(ステップ5)。以後は、チューブ本体5の表面温度が目標温度に達していることを温度センサー18が検知した時点で、加熱を強制的に終了して解凍処理を終了する。
【0034】
本発明者は、内容量が2mlのマイクロチューブ1について加熱実験を行なった。加熱開始時のマイクロチューブ1の温度は20℃とした。その結果、発熱開始から100秒が経過した時の装填部9の底面の温度は50℃となった。また、アンテナ14に電流を連続して流し続けると、装填部9の底面の温度が150℃になることを確認した。この加熱実験から、−80℃に冷凍されたマイクロチューブ1を解凍して、20℃まで昇温させるのには、チューブ本体5を約7分間加熱すればよいことが判った。
【0035】
以上の加熱装置によれば、元来、マイクロチューブ1を管理するためのICタグ2、リーダライタ3、およびコンピュータ4をそのまま利用して、マイクロチューブ1を解凍して所定の温度まで加熱できる。したがって、湯煎式の解凍装置を導入する必要もなく、冷凍したマイクロチューブ1の解凍を少ないコストで行える。また、チューブラック7に装填した一群のマイクロチューブ1を同時に加熱処理することはもちろん、選択されたマイクロチューブ1のみを明確に識別した状態で加熱処理することができるので、エネルギーロスを伴うこともなく無駄なく解凍を行える。必要があれば、選択した複数のマイクロチューブ1を、所定の時間が経過するごとに順次解凍して分析あるいは試験に供することができる。
【0036】
上記の加熱装置は、解凍処理以外に、マイクロチューブ1を恒温状態に保持するために使用することができる。また、密封し冷凍された酵母が収容してある食品容器(管理対象物)の場合には、食品容器に埋設されたICタグのアンテナを発熱させて酵母を活性化し、発酵を開始させることができる。
【0037】
本発明に係るICタグを備えている管理対象物の加熱方法は、以下の形態で実施することができる。
試料等を収容する管理対象物1にICタグ2が設けられており、ICタグ2に対して情報信号を送受するリーダライタ3の作動状態をコンピュータ4で制御して、コンピュータ4の指令信号に基づきリーダライタ3とICタグ2との間で通信を確立し、ICタグ2のアンテナ14およびICチップ13に電流が流れるときの熱で、管理対象物1および試料を加熱する。
【0038】
上記の製造方法においては、管理対象物としてマイクロチューブ1を適用できる。また、ICタグ2は、ICチップ13の表面にアンテナ14が形成してある1チップ構造のICタグで構成することができる。冷凍したマイクロチューブ1を解凍する場合には、マイクロチューブ1を支持するチューブラック7に設けた温度センサー18の出力信号に基づき、コンピュータ4がリーダライタ3の作動状態を制御して、冷凍されたチューブ本体5および試料を加熱して解凍する。
【0039】
上記の製造方法において、リーダライタ3に、チューブラック7に装填した一群のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を設ける場合には、チューブラック7に装填したマイクロチューブ1の一群を同時に加熱し、あるいは選択されたマイクロチューブ1のみを加熱することができる。
【0040】
図5はマイクロチューブ1の別の実施例を示す。そこでは、チューブ本体5の底開口に底キャップ21を固定し、底キャップ21の内部にICタグ2を埋設するようにした。チューブ本体5の底壁22は下すぼまりテーパー状に形成してある。チューブ本体5の脚壁10に嵌合する底キャップ21の軸部23の中央には、上向きに開口する接合座24が形成してあり、先の軸部23を脚壁10に嵌合した状態においては、テーパー面状の接合座24が底壁22の周面に密着する。したがって、ICタグ2で発生した熱を接合座24から底壁22へと効果的に伝導できる。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0041】
リーダライタ3は、チューブラック7に装填した個々のマイクロチューブ1に対応するアンテナ15の一群を備えている必要はない。例えば、縦一列、あるいは横一列のマイクロチューブ1の数に対応するアンテナ15を備えたアンテナユニットを設けておき、アンテナユニットを横方向、あるいは縦方向へ移動させて、個々のマイクロチューブ1と通信を確立することができる。また、チューブラック7を複数の区画に区分しておき、各区分に対応して設けた1個のアンテナ15を縦横に移動させて、各区分に配置した個々のマイクロチューブ1と通信を確立することができる。
【0042】
ICタグ2は、1チップ構造(コイルオンチップ構造)のICタグであることが好ましいが、一般的なICタグであっても適用できる。温度センサー18は熱電対である必要はなく、例えばCMOS温度センサーを適用することができる。また、温度センサー18をリーダライタ3の側に設けて、チューブラック7をリーダライタ3に載置した状態において、温度センサー18をチューブ本体5の表面に接触させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 マイクロチューブ(管理対象物)
2 ICタグ
3 リーダライタ
4 コンピュータ
5 チューブ本体
7 チューブラック
13 ICチップ
14 ICタグのアンテナ
15 リーダライタのアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料等を収容する管理対象物(1)と、管理対象物(1)の任意の位置に配置したICタグ(2)と、ICタグ(2)に対して情報信号を送受するリーダライタ(3)と、リーダライタ(3)の作動状態を制御するコンピュータ(4)とからなり、
コンピュータ(4)の指令信号に基づきリーダライタ(3)とICタグ(2)との間で通信を確立して、ICタグ(2)のアンテナ(14)およびICチップ(13)に電流が流れるときの熱で、管理対象物(1)および試料を加熱することを特徴とするICタグを備えている管理対象物の加熱装置。
【請求項2】
管理対象物がマイクロチューブ(1)からなり、
ICタグ(2)が、ICチップ(13)の表面にアンテナ(14)が形成してある1チップ構造のICタグで構成してある請求項1に記載のICタグを備えている管理対象物の加熱装置。
【請求項3】
マイクロチューブ(1)を構成するチューブ本体(5)の底壁外面に臨んでICタグ(2)が配置されており、
チューブ本体(5)の温度状態を検出する温度センサー(18)が、マイクロチューブ(1)を支持するチューブラック(7)に設けられており、
温度センサー(18)の出力信号に基づき、コンピュータ(4)がリーダライタ(3)の作動状態を制御して、冷凍されたチューブ本体(5)および試料を加熱して解凍する請求項2に記載のICタグを備えている管理対象物の加熱装置。
【請求項4】
一群のマイクロチューブ(1)がチューブラック(7)に装填されており、
リーダライタ(3)に、チューブラック(7)に装填した個々のマイクロチューブ(1)に対応するアンテナ(15)の一群が設けられており、
チューブラック(7)に装填したマイクロチューブ(1)の一群を同時に加熱でき、あるいは選択されたマイクロチューブ(1)のみを加熱できることを特徴とする、請求項2または3に記載のICタグを備えている管理対象物の加熱装置。
【請求項5】
試料等を収容する管理対象物(1)にICタグ(2)が設けられており、
ICタグ(2)に対して情報信号を送受するリーダライタ(3)の作動状態をコンピュータ(4)で制御して、
コンピュータ(4)の指令信号に基づきリーダライタ(3)とICタグ(2)との間で通信を確立し、
ICタグ(2)のアンテナ(14)およびICチップ(13)に電流が流れるときの熱で、管理対象物(1)および試料を加熱することを特徴とするICタグを備えている管理対象物の加熱方法。
【請求項6】
管理対象物がマイクロチューブ(1)からなり、ICタグ(2)が、ICチップ(13)の表面にアンテナ(14)が形成してある1チップ構造のICタグで構成してある管理対象物の加熱方法であって、
マイクロチューブ(1)を支持するチューブラック(7)に設けた温度センサー(18)の出力信号に基づき、コンピュータ(4)がリーダライタ(3)の作動状態を制御して、冷凍されたチューブ本体(5)および試料を加熱して解凍する請求項5に記載のICタグを備えている管理対象物の加熱方法。
【請求項7】
リーダライタ(3)に、チューブラック(7)に装填した一群のマイクロチューブ(1)に対応するアンテナ(15)の一群が設けられており、
チューブラック(7)に装填したマイクロチューブ(1)の一群を同時に加熱し、あるいは選択されたマイクロチューブ(1)のみを加熱する請求項5または6に記載のICタグを備えている管理対象物の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220459(P2012−220459A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89777(P2011−89777)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】