説明

ICタグを用いた排尿検知システム

【課題】誤動作が少なく信頼性の高い排尿検知システムを提供する。
【解決手段】UHF帯またはHF帯のICタグからなる尿センサ10と、このICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュール11を介して、このアンテナモジュール11から離れた位置にある尿センサ10と通信するリーダー12と、このリーダー12が読み出した尿センサ10の信号情報を記録する記録手段(13)と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段(13)と、リーダー12から電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、リーダー12と尿センサ10との間の通信状態が変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段13と、を備える排尿検知システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF(極超短波)帯ICタグまたはHF(短波)帯ICタグを用いた排尿検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療施設や介護施設、老人養護施設等において、非接触型のタグやラベル等を尿センサとして利用した排尿検知システムが運用されている(特許文献1を参照)。
【0003】
この排尿検知システムは、おむつ等の内面に貼り付けられて尿センサとなる使い捨ての共振タグ等と、このタグの近傍に配置されたアンテナモジュール等を介して上記タグと通信するリーダーと、このリーダーを制御するコンピュータ等の制御手段とからなり、排尿の検知時や異常時等には、患者や被介護者等の位置や状態が、通信回線等の連絡手段を通じて、上記制御手段から医療関係者や介護者等に通知(通報)されるようになっている。
【0004】
このような従来の排尿検知システムにおいて、タグをプローブとして利用した尿の検知はつぎのような原理により行われる。すなわち、上記共振タグを尿センサに用いた排尿検知システムの場合、この共振タグの巻き線状アンテナの間に、尿や電解質等が入り込むことにより、アンテナの共振波長が変化することを利用している。これにより、所定の波長の電波を発信して走査するリーダーによるタグの検出(読み取り)が困難になる。そして、上記共振タグの信号レベルが、検出可能から検出不能(一定のしきい値未満)に転じた時を、排尿のタイミングとして捕らえ、予め決められた通知様式(光信号や音声信号の発信あるいは上位サーバーへの通知等)に従って、注意や警報等の信号を発信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−139545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような共振タグ等を尿センサに用いた排尿検知システムには、誤動作(誤報)が多いという問題がある。この誤動作は、排尿が起こっていないのに、排尿を検知した信号が発せられるもので、その原因は、尿センサとして用いられている上記共振タグ等が、水分に対して過敏に反応しているためと考えられる。
【0007】
すなわち、共振タグは、その共振波長の最適帯域(バンドピーク)が急峻で狭いため、尿センサとして人体の周辺に密着して配置されると、体格の個人差,(尿以外の)皮膚の湿気や発汗等により、簡単に共振波長のシフトを起こしてしまう。そのため、上記共振タグから返ってくる信号の変化を検知している従来の排尿検知システムは、排尿が起こったと勘違いして誤動作するおそれがあり、その改善が望まれている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、UHF帯ICタグまたはHF帯ICタグを尿センサとして使用することにより、誤動作が少なく信頼性の高い排尿検知システムの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記(a)に記載のUHF帯ICタグからなる尿センサと、このUHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える排尿検知システムを第1の要旨とする。
(a)ICチップとUHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、ループ状のインピーダンス整合用の回路が設けられ、このインピーダンス整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているUHF帯ICタグ。
【0010】
また、本発明は、下記(b)に記載のUHF帯ICタグからなる尿センサと、このUHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信可能から通信不能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える排尿検知システムを第2の要旨とする。
(b)ICチップとUHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の回路と、ループ状のインピーダンス不整合用の回路とが設けられ、上記インピーダンス不整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているUHF帯ICタグ。
【0011】
さらに、前記目的を達成するため、本発明は、下記(c)に記載のHF帯ICタグからなる尿センサと、このHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える排尿検知システムを第3の要旨とする。
(c)ICチップとHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、ループ状のインピーダンス整合用の回路が設けられ、このインピーダンス整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているHF帯ICタグ。
【0012】
そして、本発明は、下記(d)に記載のHF帯ICタグからなる尿センサと、このHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーはから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信可能から通信不能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える排尿検知システムを第4の要旨とする。
(d)ICチップとHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の回路と、ループ状のインピーダンス不整合用の回路とが設けられ、上記インピーダンス不整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているHF帯ICタグ。
【0013】
すなわち、本発明の発明者らは、排尿検知システムの尿センサとして、上記湿気等に対して過敏な従来の共振タグ等に代えて、比較的ブロードで広い最適帯域(バンドピーク)を有するUHF(極超短波:波長1m〜10cm,周波数300MHz〜3GHz)帯域を用いて通信するICタグ(UHF帯ICタグ)、および、HF(短波:波長100m〜10m,周波数3〜30MHz)帯域を用いて通信するICタグ(HF帯ICタグ)に着目した。しかしながら、これらUHF帯ICタグおよびHF帯ICタグは、人体周辺に配置しても皮膚の湿気や発汗等の影響を受けにくい反面、尿や電解質等が付着しても、共振波長のシフトが不充分で、そのまま利用したのでは、排尿の検知が不確実になってしまうおそれがある。そこで、本発明者らは、これらICタグの尿センサとしての検知精度を向上させるために鋭意研究を重ね、その結果、UHF帯およびHF帯ICタグのアンテナ回路のインピーダンス整合用部位(インダクタンス回路)に、尿センサ部となる切り欠きを設けることにより、尿や電解質等によって共振波長(帯域)が大きく変動するタグを作製することに成功した。そして、この改良された尿センサ用UHF帯ICタグまたはHF帯ICタグを使用することにより、尿以外の湿気等には反応せず、尿や電解質等のみを確実に検知できる排尿検知システムを構築できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明の第1の要旨の排尿検知システムおよび第3の要旨の排尿検知システムは、尿センサとして、アンテナ回路のインピーダンス整合用の回路の一部に、この回路を電気的に断絶する切り欠き部(尿センサ部)が形成されたUHF帯ICタグまたはHF帯ICタグを使用している。そして、これらのICタグからなる尿センサと、尿センサと通信するリーダーと、上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、上記記録手段に記録された信号情報にもとづいて、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間(前回の発信と今回の発信の間)に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合に、この状態の変化を尿の検知と判断して、予め決められた検知信号を、上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える。上記排尿検知システムによれば、これらの尿センサ用ICタグは、尿や電解質等が周囲に充分存在しない乾燥時には、上記インピーダンス整合用の回路が完成せず、共振波長がリーダーの通信波長と一致しないため、リーダーと通信することができない。そして、尿や電解質等が上記切り欠き部に入り込んで短絡し、上記インピーダンス整合用の回路が導通状態となった湿潤時のみ、共振波長がリーダーの通信波長と一致し、リーダーと通信することができる。その結果、本発明の第1の要旨および第3の要旨の排尿検知システムは、このタグの周囲に尿や電解質等が存在するか否か、すなわち排尿が起きたがどうかを、上記ICタグとリーダーとの通信が不能か可能かによって、明確に識別することができる。また、これらの排尿検知システムは、尿センサを人体に密着して配置しても、皮膚の湿気や発汗等による誤動作がなく、排尿のみを確実に検知することができる。これにより、医療関係者や介護者等の負担を軽減することができるとともに、排尿されていないおむつを交換してしまう等の無駄も省くことができる。
【0015】
また、本発明の第2の要旨の排尿検知システムおよび第4の要旨の排尿検知システムでは、尿センサとして、アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の回路と、ループ状のインピーダンス不整合用の回路とが設けられ、上記インピーダンス不整合用の回路の一部に、この回路を電気的に断絶する切り欠き部(尿センサ部)が形成されたUHF帯ICタグまたはHF帯ICタグを使用している。そして、これらのICタグからなる尿センサと、尿センサと通信するリーダーと、上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、上記記録手段に記録された信号情報にもとづいて、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間(前回の発信と今回の発信の間)に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信可能から通信不能に変化した場合に、この状態の変化を尿の検知と判断して、予め決められた検知信号を、上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備える。上記排尿検知システムによれば、上記第1および第3の要旨の排尿検知システムとは逆に、尿や電解質等が周囲に充分存在しない乾燥時には、上記インピーダンス不整合用の回路が完成せず、その共振波長がリーダーの通信波長と一致しているため、リーダーと通信できる。そして、尿や電解質等が上記切り欠き部に入り込んで短絡し、上記インピーダンス不整合用の回路が完成(導通)状態となった湿潤時のみ、共振波長がリーダーとの通信波長より大幅にシフトし、リーダーと通信することができない。その結果、本発明の第2の要旨および第4の要旨の排尿検知システムも、このタグの周囲に尿や電解質等が存在するか否か、すなわち排尿が起きたがどうかを、上記ICタグとリーダーとの通信が可能か不能かによって、明確に識別することができる。また、これらの排尿検知システムも、尿センサを人体に密着して配置しても、皮膚の湿気や発汗等による誤動作がなく、排尿のみを確実に検知することができる。これにより、医療関係者や介護者等の負担を軽減することができるとともに、排尿されていないおむつを交換してしまう等の無駄も省くことができるという点は同様である。
【0016】
そして、上記制御手段または通知手段が、上記尿の検知信号に、上記記録手段に記録された尿センサの信号情報を付加して発信するようになっている場合は、個々の患者や被介護者等に素早く対応することが可能になる。さらに、個々の患者や被介護者等の排尿回数やパターン等を把握することが可能になるとともに、信号情報に応じて、検知信号の発信先や連絡方法を選択することができ、その結果、予め決められた連絡先等に、PHS,携帯電話や携帯情報端末等を通じた、確実な情報発信が可能になり、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における排尿検知システムの概略構成(システムイメージ)を示す説明図である。
【図2】実施の形態の排尿検知システムにおける尿センサを、おむつに取り付けた状態を示す説明図である。
【図3】実施の形態の排尿検知システムのアンテナモジュールおよびリーダーを、ベッドに取り付けた例を示す説明図である。
【図4】実施の形態の排尿検知システムのアンテナモジュールおよびリーダーを、車椅子に取り付けた例を示す説明図である。
【図5】(a)は、本発明の第1の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用UHF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを模式的に示す平面図であり、(b)は、本発明の第2の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用UHF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを模式的に示す平面図である。
【図6】(a)は第1の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用UHF帯ICタグのアンテナ回路のパターンの変形例を示す平面図であり、(b)は第2の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用UHF帯ICタグのアンテナ回路のパターンの変形例を示す平面図であり、(c)はUHF帯ICタグのアンテナ回路のパターンの参考例(従来例)を示す平面図である。
【図7】(a)は本発明の第3の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用HF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを示す平面図であり、(b)はセンサ部以外をマスキングした状態を示す平面図である。
【図8】(a)は本発明の第4の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用HF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを示す平面図であり、(b)はセンサ部位以外をマスキングした状態を示す平面図である。
【図9】本発明の実施例における尿センサ用UHF帯ICタグの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。
【0019】
本発明の実施の形態における排尿検知システムは、医療施設や介護施設等で利用されることを想定したものであり、尿センサ用UHF帯ICタグ1〔図5(a)〕または尿センサ用UHF帯ICタグ2〔図5(b)〕、あるいは、尿センサ用HF帯ICタグ7,8(図7,8参照)等を、図2に示すような尿センサ10としておむつ5の所定位置に貼り付け、このおむつ5を、施設内の患者や被介護者等が装用する。そして、施設内には、図1に示すように、病室や居室等の必要個所に、尿センサ10と通信するためのアンテナモジュール11およびリーダー12のセットが、複数組配設されるとともに、管理する側のナースセンター等に、これら複数のリーダー12を統合して制御するコンピュータ等からなる制御手段13(記録手段および通知手段を含む)が配置される。そして、上記リーダー12と尿センサ10との間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合、あるいは、通信可能から通信不能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号が上記制御手段13から外部に向けて発信される。これが、本発明の排尿検知システムの特徴である。
【0020】
まず、これらUHF帯ICタグまたはHF帯ICタグからなる尿センサを用いた排尿検知システムの概要と全体の構成について説明する。
【0021】
先に述べたように、本発明の実施の形態の排尿検知システムは、図1のように、施設内の複数個所に配置されたアンテナモジュール11およびリーダー12と、ナースセンター等に配置されたコンピュータ等からなる制御手段13と、を主体として構成されている。これら各機器の間は、有線LAN(実線)または無線LAN(一点鎖線)等を介して接続されており、相互に信号(情報)を交換可能なネットワークが形成されている。
【0022】
なお、上記制御手段13は、上記尿センサ10の信号情報を記録する機能(記録手段)と、尿の検知を外部に向けて発信する機能(通知手段)とを兼ね備えている。また、図中の符号Rはルーター(無線LANルーター)、符号Cはコーディネーター(エッジ・ルーター)であり、符号Sは上記外部に向けて発信される尿検知信号の内容(情報)に応じて、その配信先や配信内容(音声情報や文字情報等)を適宜選択する機能を有するサーバー(SIPサーバー等)、符号MはPHS,携帯電話等の携帯情報端末を示す。
【0023】
このような排尿検知システムにおいて、各リーダー12は、上記尿センサ10の通信状態の変化(通信不能から通信可能へ、または、通信可能から通信不能へ)を捕らえるために、尿センサ10の共振波長(帯域)に応じた所定波長の電波を、予め決められた所定の時間間隔で発信しており、それに用いるタイマ回路を備えている。
【0024】
そして、上記制御手段13は、上記リーダー12と尿センサ10との間の通信状態が変化した際に、予め決められた尿の検知信号を外部に向けて発信するように構成されており、その検知信号に、上記制御手段13のコンピュータ等に記録された尿センサ10の信号情報(その位置や回数、装用している人を特定するためのID情報等)を付加して発信するようになっている。
【0025】
上記アンテナモジュール11およびリーダー12について、より具体的に説明すると、例えば、動くことのできない患者や被介護者等の排尿をベッド上で検知しようとする場合は、図3に示すように、ふとんまたはマットレス等の上に、比較的幅広のマット状あるいはシート状等の薄形アンテナモジュール11を載置する。そして、その近傍にリーダー12を設置してこれらの間を配線等で接続することにより、このベッド上に横たわる患者や被介護者等が装用したおむつ5に取り付けられた尿センサ10(図2参照)の信号を検知することができる。
【0026】
なお、上記のように、ベッド等の固定物上で尿センサ10の信号を受信しようとする際は、排尿前にその尿センサ10の位置を常時特定する必要がないことから、尿センサ10には、尿検知時にのみ信号を返す、後記する図5(a)に示すようなアンテナ回路(パターンA)を有するUHF帯ICタグ1、または、図7(a)に示すようなアンテナ回路(パターンC)を有するHF帯ICタグ7が、好適に用いられる。リーダー12との通信が可能になった場合(尿の検知時)には、上記ICタグ1,7から、そのICチップに予め書き込まれたID情報(RFID情報)がリーダー12に送信されるため、信号を受信したリーダー12に繋がるルーターRの設置場所を特定するだけで、この尿センサ10が使用されている部屋番号やベッド(患者)番号等を特定することが可能である。もちろん、このような際に、尿を検知していない時に信号を返す、UHF帯ICタグ2またはHF帯ICタグ8を用いてもよい。
【0027】
また、例えば、車椅子で移動する患者や被介護者等の排尿を検知しようとする場合は、図3に示すように、車椅子の座面の上等に、マット状あるいはシート状等のアンテナモジュール11を載置し、その近傍にリーダー12を設置してこれらの間を配線等で接続する。必要であれば、アンテナモジュール11は、車椅子の座面の下(裏側)や背もたれ部に、設置や内蔵させることもできる。
【0028】
なお、上記のように、自立して移動可能な患者や被介護者等が装用したおむつ5に取り付けられた尿センサ10の信号を受信しようとする際は、排尿前でもその尿センサ10の位置を常時特定できる方が好ましい。そのため、尿センサ10には、尿を検知していない時に信号を返す、後記する図5(b)に示すようなアンテナ回路(パターンB)を有するUHF帯ICタグ2、または、図8(a)に示すようなアンテナ回路(パターンD)を有するHF帯ICタグ8が、好適に用いられる。そして、ICタグ2,8のICチップに予め書き込まれたID情報が、所定の時間間隔でリーダー12に送信されるため、この信号を受信したリーダー12に繋がるルーターRの設置場所を特定するだけで、この尿センサ10が位置しているエリアを特定することが可能である。もちろん、尿検知時にのみ信号を返す、UHF帯ICタグ1〔図5(a)〕またはHF帯ICタグ7〔図7(a)〕も使用できる。その場合は、排尿が起きたエリアおよびその後の行動を把握することができる。
【0029】
このように、本実施形態の排尿検知システムは、上記UHF帯ICタグ1,2またはHF帯ICタグ7,8を尿センサ10に使用しているため、この尿センサ10を人体に密着して配置しても、皮膚の湿気や発汗等による誤動作がなく、排尿のみを確実に検知することができる。そして、この確実な排尿情報により、施設等を管理する医療関係者や介護者等の負担を軽減することができるとともに、排尿されていないおむつを交換してしまう等の無駄も省くことができる。
【0030】
また、この排尿検知システムは、排尿情報をリアルタイムで取得できることから、個々の患者や被介護者等の状態に応じて素早く対応することが可能になる。さらに、個々の患者や被介護者等の排尿回数やパターン等を、容易に把握することができるとともに、その情報に応じて、予め決められた連絡先等に、PHS,携帯電話や携帯情報端末等を通じた、きめ細やかな情報発信が可能になる。
【0031】
つぎに、患者や被介護者等が装着する尿センサについて、各実施の形態におけるアンテナパターンの図を参照しながら、詳細に説明する。
【0032】
まず、本発明の第1実施形態の排尿検知システムでは、上記おむつ5に貼り付ける尿センサ用UHF帯ICタグとして、図5(a)に示すようなアンテナ回路(パターンA)を有するUHF帯ICタグ1、もしくは、図5(b)に示すようなアンテナ回路(パターンB)を有するUHF帯ICタグ2を使用する。
【0033】
上記アンテナ回路(パターンA)を有するUHF帯ICタグ1について詳しく説明すると、このUHF帯ICタグ1のアンテナ回路A〔図5(a)〕は、フィルム状またはシート状の基材3の表面に、例えば、フレキソ印刷やスクリーン印刷等の印刷手法を用いて、導電性ペースト(導電性インク)を所定パターンに塗布するか、あるいは、型抜きした金属箔の貼り付け,蒸着,エッチング等の方法を用いて形成されている。このアンテナ回路Aは、所定波長の電波を送受信する2つのアンテナ部1a,1aと、ループ状のインピーダンス整合用の回路(以下、「インピーダンス整合部」という)1bと、これらの間を接続するブリッジ部1cとから構成され、上記インピーダンス整合部1bには、ICチップ4(二点鎖線)を実装するためのICチップ接続部1dと、このインピーダンス整合部1bのインピーダンス整合構造を電気的に断絶する切り欠き部1eとが形成されている。
【0034】
上記切り欠き部1eは、互いに平行する直線状に形成されており、平行(対向)する部位のパターン幅(線幅)は通常0.1mm以上、その対向部位の長手方向の延長は通常0.1mm以上になっている。そして、これらの間には幅0.1mm以上の溝(アンテナパターンの無い部分)が形成されている。
【0035】
そして、上記パターンのアンテナ回路Aは、そのICチップ接続部1dにICチップ4が実装され、このICチップ4と上記アンテナ部1a,ブリッジ部1c、および、上記インピーダンス整合部1bのうち、切り欠き部1eとその近傍を除く領域が、樹脂シートや防水紙等により封止されて、尿センサ用UHF帯ICタグ1(尿センサ10)が作製される。
【0036】
なお、上記尿センサ用UHF帯ICタグ1は、患者や被介護者等の皮膚に密着することから、尿センサ10として使用する場合、その上に不織布や紙等の吸湿性を有する素材からなる袋(包装)あるいは上紙が被せられる(図2参照)。この吸湿性を有する素材からなる袋あるいは上紙は、尿や電解質等の水分を、上記封止されていない切り欠き部1eに導く作用も奏する。また、上記吸湿性を有する素材からなる袋の裏面側(基材3におけるUHF帯ICタグ1の形成されていない面側)には、この尿センサ10の位置を固定するための粘着剤や両面テープ等が配置される。
【0037】
このようなUHF帯ICタグ1を尿センサ10として用いた場合、先に述べたように、アンテナ回路Aのインピーダンス整合部1bの一部に、このインピーダンス整合部1bを電気的に断絶する切り欠き部1eが形成されていることから、尿や電解質等が周囲に存在しない乾燥時には、上記インピーダンス整合用の回路(ループ)が完成せず、アンテナの共振波長(ある程度の幅を持った帯域)は、上記リーダー12等から発信される電波の波長(予め決められている)から大幅にシフトして離れている。そのため、この状態では、尿センサ用UHF帯ICタグ1は、リーダー12等と通信不能である。
【0038】
そして、尿や電解質等が上記切り欠き部1eに形成された溝に入り込んでこの部位が短絡し、上記インピーダンス整合用の回路(ループ)が完成する湿潤時のみ、このアンテナの共振波長(帯域)が、上記リーダー12等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲に大きくシフトして、リーダー12等と通信可能になる。なお、このようなアンテナの共振波長(帯域)の大幅なシフトは、皮膚の湿気や発汗等に起因するアンテナ周辺の誘電率の変化では生じないことが確認されている。
【0039】
これらのことから、尿センサ10として上記UHF帯ICタグ1を利用した、第1の実施の形態の排尿検知システムは、皮膚の湿気や発汗等に左右されず、リーダー12等との通信が不能な状態から可能な状態に変化することによって、このタグ1の周囲に尿や電解質等が存在するか否か、すなわち、排尿が起こったかどうかを、明確に識別することができる。
【0040】
上記第1の実施の形態においては、このようなパターンのアンテナ回路Aを有する尿センサ用UHF帯ICタグ1が、リーダー12等との通信が不能から可能に変化することにより、排尿を検知しているのに対し、図5(b)に示すようなアンテナ回路(パターンB)を有する尿センサ用UHF帯ICタグ2は、リーダー12等との通信が可能から不能に変化することにより、排尿を検知する。以下に、アンテナ回路Bを有するUHF帯ICタグ2を使用する第2の実施の形態の排尿検知システムについて説明する。
【0041】
この実施の形態の排尿検知システムにおけるUHF帯ICタグ2のアンテナ回路B〔図5(b)〕が、上記UHF帯ICタグ1のアンテナ回路Aと異なる点は、上記アンテナ回路Aと同等のインピーダンス整合部(第1ループ部)2bに加え、このアンテナのインピーダンスを乱す(不整合にする)ためのループ状のインピーダンス不整合用の回路(以下、「インピーダンス不整合部」という)2eが形成されており、上記インピーダンス不整合部(第2ループ部)2eの一部に、このインピーダンス不整合部2eを電気的に断絶する切り欠き部2fが設けられている点である。
【0042】
なお、図5(b)の符号2aはアンテナ部、2cはブリッジ部、2dはICチップ接続部である。また、切り欠き部2fは、上記アンテナ回路Aの切り欠き部1e同様、互いに平行する直線状に形成されており、平行(対向)する部位のパターン幅(線幅)は通常0.1mm以上、その対向部位の長手方向の延長は通常0.1mm以上になっている。そして、これらの間には幅0.1mm以上の溝(アンテナパターンの無い部分)が形成されている。
【0043】
そして、上記第1実施の形態のUHF帯ICタグ1と同様にして、切り欠き部2fとその近傍を除く領域が樹脂シートや防水紙等により封止され、尿センサ用UHF帯ICタグ2(尿センサ10)が作製される。さらに、その上から吸湿性を有する袋(包装)あるいは上紙が被せられ、この袋の裏面側に、尿センサ10の位置を固定するための両面テープ等が配置される点も同様である。
【0044】
このようなパターンのアンテナ回路Bを有するUHF帯ICタグ2を尿センサ10として用いた場合、アンテナ回路Bの一部に、インピーダンス不整合部2eが設けられ、上記インピーダンス不整合部2eの一部に、このインピーダンス不整合部2eのループを電気的に断絶する切り欠き部2fが形成されていることから、尿や電解質等が周囲に存在しない乾燥時には、上記インピーダンス不整合用の回路(第2ループ)が完成せず、アンテナの共振波長(帯域)は、上記リーダー12等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲にある。そのため、この状態では、尿センサ用UHF帯ICタグ2は、リーダー12等と通信可能である。
【0045】
そして、尿や電解質等が上記切り欠き部2fに形成された溝に入り込んでこの部位が短絡し、上記インピーダンス不整合用の回路(第2ループ)が完成する湿潤時のみ、このアンテナの共振波長(帯域)が、上記リーダー等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲から大きくシフトして逸脱し、リーダー12等との通信が不能になる。なお、UHF帯ICタグ2においても、上記UHF帯ICタグ1と同様、このようなアンテナの共振波長(帯域)の大幅なシフトは、皮膚の湿気や発汗等に起因するアンテナ周辺の誘電率の変化では生じないことが分かっている。
【0046】
その結果、尿センサ10として上記UHF帯ICタグ2を利用した、第2の実施の形態の排尿検知システムも、皮膚の湿気や発汗等に左右されず、リーダー12等との通信が可能な状態から不能な状態に変化することによって、排尿が起こったかどうかを、明確に識別することができる。
【0047】
なお、上記第1および第2の実施の形態においては、UHF帯ICタグ用のアンテナ回路パターンとして、その特徴を理解し易くするため、図5(a),(b)のような、左右の各アンテナ部1a,1a同士をブリッジ部1cで繋いだ、単純化されたパターンのアンテナ回路A,Bを例示したが、UHF帯用のアンテナ回路パターンとしては、上記方形(ベタ)状の他、渦巻きコイル状や、その他特殊な波型形状等、その採用する共振理論に応じて種々のバリエーションが存在する。また、実際に作製されるアンテナ回路のパターンは、人体近傍における湿気や汗等の影響や、人体そのものの誘電率,遮蔽効果、リーダー側の最適波長や出力等、種々の環境因子を考慮して、おむつの中に配置された時に最適な通信条件を得られるように、事前の調整(共振波長のチューニング等)が行われる。そのため、アンテナ回路のパターンとして、一見した印象が、本発明の排尿検知システムに使用されるUHF帯ICタグ用のアンテナ回路パターンと異なるように思える場合がある〔参考例として、図6(c)の従来のICタグ6を参照〕。
【0048】
しかしながら、本発明の排尿検知システムに使用される尿センサ用UHF帯ICタグは、そのアンテナ回路のパターンの全体形状に左右されるものではなく、アンテナ回路Aに代表される、アンテナ回路のインピーダンス整合用の部位(インダクタンス部)に、これを電気的に断絶する構造(形状)を有するUHF帯ICタグと、アンテナ回路Bに代表される、アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の部位(インダクタンス部)を備えるとともに、このアンテナ回路の別部分に、インピーダンスを乱すための別の部位が設けられ、この別の部位に、これを電気的に断絶する構造(形状)が形成されたUHF帯ICタグとを、全て包含する。
【0049】
例えば、基本となるアンテナパターンが図6(c)であった場合、アンテナ回路のインピーダンス整合部1bの一部に、このインピーダンス整合部1bを電気的に断絶する切り欠き部1eが形成されているパターンのアンテナ回路A〔図5(a)〕の変形例として、図6(a)のようなパターンのアンテナ回路A’をあげることができる。このようなパターンのアンテナ回路A’を、上記第1の実施の形態の排尿検知システムの尿センサ用UHF帯ICタグに採用しても、尿センサ10は、同様の作用を奏する。
【0050】
また、例えば、アンテナ回路の一部に、インピーダンス不整合部2eが設けられ、上記インピーダンス不整合部2eの一部に、このインピーダンス不整合部2eを電気的に断絶する切り欠き部2fが形成されているパターンのアンテナ回路B〔図5(b)〕の変形例として、図6(b)のようなパターンのアンテナ回路B’を、上記第2の実施の形態の排尿検知システムの尿センサ用UHF帯ICタグに採用した場合でも、尿センサ10は、同様の効果を奏することが可能である。
【0051】
いずれの場合も、アンテナを電気的に断絶する構造(切り欠き形状)の上面は、尿センサとして機能させるために、樹脂等による封止やラミネート等は行われず、露出した状態、もしくは、尿等の水分が透過可能な外装で保護された状態に保たれる。
【0052】
つぎに、患者や被介護者等が装着する尿センサに、HF帯ICタグ7を用いた第3の実施の形態の排尿検知システムについて説明する。図7(a)は、本発明の第3の実施の形態の排尿検知システムで使用する尿センサ用HF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを示す平面図であり、図7(b)は、そのセンサ部以外を樹脂シートでマスキングした、使用前の状態を示す平面図である。
【0053】
この実施の形態における尿センサ用HF帯ICタグ7も、図7(a)に示すように、そのアンテナ回路(パターンC)は、印刷手法や型抜きした金属箔の貼り付け,蒸着,エッチング等により、フィルム状またはシート状の基材3の表面に積層して形成されている。そして、このアンテナ回路Cには、上記第1の実施の形態におけるUHF帯ICタグ1のアンテナ回路Aと同様、コイル状のアンテナ部7aの一部に、このアンテナ部7aのインピーダンス整合構造(インピーダンス整合部7d)を電気的に断絶する切り欠き部7bと、ICチップ4を実装するためのICチップ接続部7cとが形成されている。
【0054】
上記切り欠き部7bは、コイル(インピーダンス整合部7d)の一部を断絶する溝状に形成されており、この中のアンテナパターンの無い部分の幅(溝幅)は0.05mm以上に形成されている。なお、尿センサ10として使用する前に、センサ部となる切り欠き部7bとその近傍を除く領域は、図7(b)のように、樹脂シート9や防水紙等により封止される。また、尿センサ10として使用する場合、その上からさらに不織布や紙等の吸湿性を有する素材からなる袋(包装)あるいは上紙が被せられる(図2参照)。
【0055】
上記HF帯ICタグ7を尿センサ10として利用した場合も、第1の実施の形態の排尿検知システムで使用されるUHF帯ICタグ1と同様、尿や電解質等が周囲に存在しない乾燥時には、インピーダンス整合用の回路(7d)が完成せず、この状態では、リーダー等と通信することができない。そして、尿や電解質等が上記切り欠き部7bに形成された溝に入り込んでこの部位が短絡し、上記インピーダンス整合用の回路(7d)が完成する湿潤時のみ、このアンテナの共振波長(帯域)が、上記リーダー等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲に大きくシフトして通信可能になる。ちなみに、この実施形態の構成の場合、乾燥時の共振周波数44MHzが、湿潤時に13.8MHzまでシフトすることが観測されている。
【0056】
したがって、このHF帯ICタグ7を使用した第3の実施の形態の排尿検知システムは、皮膚の湿気や発汗等に左右されず、リーダー等との通信が不能な状態から可能な状態に変化することによって、このタグの周囲に尿や電解質等が存在するか否か、すなわち、排尿が起こったかどうかを、明確に識別することができる。
【0057】
つぎに、患者や被介護者等が装着する尿センサに、HF帯ICタグ8を用いた第4の実施の形態について説明する。図8(a)は、本発明の第4の実施の形態の排尿検知システムに使用する尿センサ用HF帯ICタグのアンテナ回路のパターンを示す平面図であり、図8(b)は、そのセンサ部以外を樹脂シートでマスキングした、使用前の状態を示す平面図である。
【0058】
この実施の形態における尿センサ用HF帯ICタグ8も、図8(a)に示すように、そのアンテナ回路(パターンD)は、印刷手法や型抜きした金属箔の貼り付け,蒸着,エッチング等により、フィルム状またはシート状の基材3の表面に積層して形成されている。そして、このアンテナ回路Dには、第1実施形態におけるUHF帯ICタグ2のアンテナ回路Bと同様、このアンテナ部8aのインピーダンスを乱す(不整合にする)ためのインピーダンス不整合部(第2ループ部)8bが形成されており、上記インピーダンス不整合部8bの一部に、このインピーダンス不整合部8bを電気的に断絶する切り欠き部8dが設けられている。なお、図8において符号8eは、インピーダンス整合用の回路(第1ループ部)である。
【0059】
上記切り欠き部8dは、前記アンテナ回路Bの切り欠き部同様、互いに平行する直線状に形成されており、平行(対向)する部位のパターン幅(線幅)は通常0.1mm以上、その対向部位の長手方向の延長は通常0.1mm以上になっている。そして、これらの間には幅0.05mm以上の溝(アンテナパターンの無い部分)が形成されている。
【0060】
さらに、上記第3の実施の形態におけるHF帯ICタグ7と同様、図8(b)のように、切り欠き部8dとその近傍を除く領域が樹脂シート9や防水紙等により封止され、尿センサ用HF帯ICタグ8(尿センサ10)が作製されている。なお、その上からさらに、吸湿性を有する袋(包装)あるいは上紙が被せられ、この袋の裏面側に、尿センサ10の位置を固定するための両面テープ等が配置される点も同様である(図2参照)。
【0061】
上記HF帯ICタグ8を尿センサ10として利用した場合も、前記第2の実施の形態の排尿検知システムにおけるUHF帯ICタグ2と同様、尿や電解質等が周囲に存在しない乾燥時には、上記インピーダンス不整合用の回路(8b)が完成せず、アンテナの共振波長(帯域)は、リーダー等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲にある。そのため、この状態では、尿センサ用HF帯ICタグ8はリーダー等と通信可能である。
【0062】
そして、尿や電解質等が上記切り欠き部8dに形成された溝に入り込んでこの部位が短絡し、上記インピーダンス不整合用の回路(8b)が完成する湿潤時のみ、このアンテナの共振波長(帯域)が、上記リーダー等から発信される特定波長の電波と通信可能な範囲から大きくシフトして逸脱し、リーダー等との通信が不能になる。この実施の形態の構成の場合、乾燥時の共振周波数(通常13.2〜20MHz程度)が、湿潤時に100MHz以上にまでシフトし、通信不能になることが観測されている。
【0063】
したがって、尿センサ10として上記HF帯ICタグ8を利用した、第4の実施の形態の排尿検知システムも、皮膚の湿気や発汗等に左右されず、リーダー等との通信が可能な状態から不能な状態に変化することによって、排尿が起こったかどうかを、明確に識別することができる。
【0064】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
この実施例においては、先に述べた、おむつの中に配置された時に最適な通信条件を得られるように波長のチューニングを行った尿センサ用UHF帯ICタグとして、図6(b)に記載のアンテナ回路B’を採用した「実施例1」のUHF帯ICタグを作製し、アンテナ回路内にインピーダンス不整合部2e(および切り欠き部2f)が設けられていないUHF帯ICタグ〔図6(c)参照〕を「比較例1」として、乾燥時と水に濡れた後の湿潤時における、波長特性(周波数特性,水分による共振波長シフトの度合い)と、通信可能距離(cm)を比較した。
【0066】
まず、実施例1,比較例1ともに、基材3上にフレキソ印刷法によりアンテナ回路を作製した。なお、上記したように、その回路パターンが異なること以外、同じ条件で2種類のUHF帯ICタグ用アンテナを作製した。
【0067】
(基材)
PETフィルム 東レ社製 ルミラー(登録商標)U34
厚さ−75μm 両面にコロナ処理
(導電性インク)
InkTec Co.,Ltd.社(韓国)製 TEC−PR−030
成分 銀粒子−平均粒径:20〜50nm 含有率:40wt%以下
バインダ(有機錯体化合物)含有率−35wt%以下
2−プロパノール−10wt%以下
粘度−500mPa・s
【0068】
(フレキソ印刷機)
MTテック社製 FC−33S
(フレキソ印刷版)
コムラテック社製 版厚み−2.25mm
アンテナ部印刷用インク保持部のインク保持量:0.1〜1.5ml/m2
ICチップ接続部印刷用インク保持部のインク保持量:2〜3ml/m2
【0069】
〈アンテナ回路パターンの作製〉
[実施例1のアンテナ回路]
上記フレキソ印刷機により、導電性インクをPET基材(3)上に印刷転写し、120℃×2分乾燥させた後、実施例1用のアンテナ回路を得た。なお、アンテナ回路パターンは、上記のように図6(b)と同様のB’であり、そのパターンの一部に、インピーダンス不整合部2eが設けられ、上記インピーダンス不整合部2eの一部に、このインピーダンス不整合部2eを電気的に断絶する切り欠き部2fが形成されている。上記切り欠き部2fにおける平行(対向)する部位の線幅1mm、その間の溝(アンテナパターンの無い部分)の幅1mm、その対向部位の長手方向の延長は6mmであった。
【0070】
[比較例1のアンテナ回路]
アンテナ回路パターンが異なる〔図6(c)の従来例〕こと以外、上記実施例1と同様にして、比較例1用のアンテナ回路を得た。
【0071】
つぎに、得られたICタグ用アンテナ回路を用いて、UHF帯ICタグを作製した。
〈UHF帯ICタグの作製〉
上記実施例1,比較例1のICタグ用アンテナ回路のICチップ接続部に、AlienTechnology社製のICストラップ(EPC GenII Higgs3)を実装し、その上に、このICストラップとその近傍を保護する防水紙(保護紙)をラミネート(インレット)して、実施例1,比較例1のUHF帯ICタグを作製した。なお、アンテナ回路パターンの大部分(上記インピーダンス不整合部2eの切り欠き部2fを含む)は、この防水紙に覆われておらず、露出している。また、各UHF帯ICタグは、人体への貼り付けを考慮して、乾燥時の共振波長(帯域)が、約0.33〜0.3m(周波数:900MHz〜1GHz)に調整されている。
【0072】
まず、得られた尿センサ用UHF帯ICタグ「実施例1」,「比較例1」を用いて、乾燥時と、水に濡らした後の湿潤時における波長特性(周波数特性)を測定した。
〈波長特性(周波数特性)の測定〉
供試用UHF帯ICタグを、人体(腕の皮膚)に貼り付けた状態で、Voyantec社製タグテスター(Field Engineer Accessory Kit および Reference Tag)を用いて、周波数特性を測定した。なお、「湿潤時」とは、水に濡らした状態で腕に貼り付け、測定したものをいう。また、「乾燥時」とは、水に濡らさない状態で腕に貼り付け、測定したものをいうが、この乾燥時は、実施例1,比較例1とも差がなく、同じ結果となったため、実験のブランク(乾燥時)として表した。その結果を「図9」のグラフに示す。
【0073】
このグラフより、人体に取り付けるのに最適化された尿センサ用UHF帯ICタグは、ブランク(乾燥時)において、4〜6m程度の通信距離を有していることが分かる。そして、インピーダンス不整合部がない「比較例1」は、湿潤時に、上記ブランク(乾燥時)の半分程度の通信可能距離となることが分かる。ただし、共振波長のシフトは見られない。これに対して、インピーダンス不整合部2eに切り欠き部2fを有する「実施例1」は、その湿潤時に、上記ブランク(乾燥時)の1/4程度の通信可能距離となり、共振波長もシフトしていることが分かる。
【0074】
〈通信可能距離の測定〉
つぎに、本発明の排尿検知システムのより実用的な試験として、「実施例1」,「比較例1」の供試用UHF帯ICタグを、人体(腕)に貼り付け、その上に吸水性のパッドを被せた状態で、Alien Technology社製パッシブ開発キットを用いて、波長0.315m(周波数953MHz,出力200mW)における通信可能距離を測定した。
【0075】
実験1:腕の上に乾燥した状態の尿センサ用UHF帯ICタグを貼り付け、その上に乾燥した状態の吸水性パッドを被せた。(乾燥時に相当)
実験2:腕の上に濡れた状態の尿センサ用UHF帯ICタグを貼り付け、その上に乾燥した状態の吸水性パッドを被せた。(発汗時等に相当)
実験3:腕の上に濡れた状態の尿センサ用UHF帯ICタグを貼り付け、その上に吸水した状態の吸水性パッドを被せた。(排尿時に相当)
これらの結果を以下の「表1」に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
この表1より、インピーダンス不整合用の回路がない「比較例1」のICタグを用いた排尿検知システムは、排尿時に相当する実験3の際にも、リーダーと通信できてしまうことが分かる。これに対して、インピーダンス不整合部2eに切り欠き部2fを有する「実施例1」のICタグを用いた本発明の排尿検知システムは、発汗時に相当する実験2の際は通信可能を維持しており、排尿時に相当する実験3の際にのみ、リーダーとの通信が不能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
尿センサ用UHF帯ICタグまたは尿センサ用HF帯ICタグを用いた、本発明の排尿検知システムは、排尿を誤検知なく検出することができ、医療施設や介護施設、老人養護施設等において、排尿の検知時や異常時等に、患者や被介護者等の位置や状態を、通信回線等の連絡手段を通じて、医療関係者や介護者等に正確に通知(通報)することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 尿センサ
11 アンテナモジュール
12 リーダー
13 制御手段
C コーディネーター
M 携帯情報端末
R ルーター
S サーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)に記載のUHF帯ICタグからなる尿センサと、このUHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備えることを特徴とする排尿検知システム。
(a)ICチップとUHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、ループ状のインピーダンス整合用の回路が設けられ、このインピーダンス整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているUHF帯ICタグ。
【請求項2】
下記(b)に記載のUHF帯ICタグからなる尿センサと、このUHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信可能から通信不能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備えることを特徴とする排尿検知システム。
(b)ICチップとUHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の回路と、ループ状のインピーダンス不整合用の回路とが設けられ、上記インピーダンス不整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているUHF帯ICタグ。
【請求項3】
下記(c)に記載のHF帯ICタグからなる尿センサと、このHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信不能から通信可能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備えることを特徴とする排尿検知システム。
(c)ICチップとHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、ループ状のインピーダンス整合用の回路が設けられ、このインピーダンス整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているHF帯ICタグ。
【請求項4】
下記(d)に記載のHF帯ICタグからなる尿センサと、このHF帯ICタグに対応した所定波長の電波を発信・受信するアンテナモジュールを介して、このアンテナモジュールから離れた位置にある上記尿センサと通信するリーダーと、このリーダーが読み出した上記尿センサの信号情報を記録する記録手段と、尿の検知を外部に向けて発信する通知手段と、上記リーダーはから上記電波を所定の時間間隔で発信させるためのタイマ回路と、このタイマ回路による所定の時間間隔の電波の発信の間に、上記リーダーと尿センサとの間の通信状態が、通信可能から通信不能に変化した場合に、予め決められた尿の検知信号を上記通知手段を介して外部に向けて発信する制御手段と、を備えることを特徴とする排尿検知システム。
(d)ICチップとHF帯用のアンテナ回路とを備え、上記アンテナ回路の一部に、インピーダンス整合用の回路と、ループ状のインピーダンス不整合用の回路とが設けられ、上記インピーダンス不整合用の回路の一部に、尿センサ部として、この回路を電気的に断絶する切り欠き部が形成されているHF帯ICタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235083(P2011−235083A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27789(P2011−27789)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2010−226849(P2010−226849)の分割
【原出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(509178161)
【Fターム(参考)】