説明

ICタグ対応金属材と金属対応ICタグ、ICタグ対応金属容器及びICタグ対応金属材の製造方法

【課題】 タグ側に金属専用の特殊な構成等を何等必要とすることなく、既存のICタグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信を可能とする。
【解決手段】 リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグ20が取り付けられる金属材10であって、基材となる金属層11と、金属層11に積層される、ICタグ20を金属層11から離間させるPET樹脂等の熱可塑性プラスチックからなる樹脂層13と、樹脂層13に積層される、ICタグ20の磁界を金属層11まで通過させない酸化金属材料を含む電磁波シールド塗料からなる電磁波遮蔽層14と、電磁波遮蔽層14に積層される、ICタグ20を金属層11から更に離間させる不織布からなる空洞層15を備え、空洞層15上にICタグ20が実装される構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶やスチール缶、パウチ容器等の金属製容器の基材となる金属材に関し、特に、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグを取り付け可能なICタグ対応金属材とこの金属材からなるICタグ対応金属容器及びこの金属材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム缶やスチール缶等の金属製容器は、例えば、ビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料や果汁飲料、各種お茶類等の飲料用の容器、缶詰食品の容器、各種液体製品の容器等に広く使用されている。
また、樹脂フィルム等の軟包材にAl箔等の金属層を積層した包装材料からなるパウチ容器は、軽量で柔軟性、耐久性、ガスバリア性等に優れ、加工も容易で安価に製造できることから、食品や飲料のみならず、洗剤、化粧品等の主に液体製品の容器として広く使用されている。
そして、このような各種の金属容器には、例えば商品名や内容物の成分、生産者、生産地、賞味期限等、所定の商品情報を表示した文字やバーコード等が付されている。この種の商品情報の表示は、通常、金属容器の外面に直接印刷されたり、ラベルに印刷されて貼付されるようになっている。
【0003】
ところが、商品情報等を表示するラベルや印刷は、容器のデザイン等を損なわないよう小さく表示されるのが一般的であり、その結果、表示面積や表示される文字の大きさ、文字数等が限られたものとなり、充分な商品情報が表示できないという問題があった。
また、バーコード表示の場合、リーダで読み取るためにバーコード自体を容器表面に平面状に表示等しなければならず、また、傷や汚れ等があると読み取り不能となってしまい、しかも、バーコードでコード化できる情報量は限られていることから、文字による表示の場合と同様に、商品情報を表示、認識する手段としては一定の限界があった。
【0004】
そこで、このような従来の商品情報表示の不利・不便を解消し、必要かつ十分な商品情報を簡易かつ正確に表示等する手段として、最近ではICタグが利用されるようになってきている。
ICタグは、非接触ICタグ、RFID(Radio Frequency Identification)タグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを樹脂やガラス等で封止してタグ(荷札)状に形成した超小型の通信端末で、ICチップに所定の情報を記録して対象物にタグを取り付け、記録した情報を無線通信により読取装置(リーダ・ライタ)側でピックアップすることにより、ICチップに記録された情報を認識、表示するものである。
【0005】
このようなICタグは、ICチップのメモリに数百バイトのデータが記録可能であり、十分な情報等を記録でき、また、読取装置側と非接触であるため接点の磨耗や傷、汚れ等の心配もなく、さらに、タグ自体は無電源にすることができるため対象物に合わせた加工や小型化・薄型化が可能となる。
そして、このようなICタグを用いることで、商品に関する種々の情報、例えば商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限・賞味期限等の種々の情報が記録可能となり、従来の文字やバーコードによる商品表示では不可能であった多種多様な商品情報であっても、小型・薄型化されたタグを商品に装着するだけで利用することが可能になった。
【0006】
ところが、このようなICタグをアルミニウム缶やスチール缶あるいはパウチ容器のような金属容器に取り付けた場合、金属容器の導電性によってICタグが影響を受けてしまい、正確な無線通信が行えなくなるという問題が発生した。
ICタグを容器に取り付けると、ICタグが発生する磁束は容器を貫通する方向に生じることになる。このため、タグを金属容器に取り付けた場合、アンテナ部が発する磁波・電磁波が金属容器側に吸収される熱損失等が生じてしまい、タグの通信特性が損なわれる事態が生じる。
【0007】
例えば、図7(a)に示すように、ICタグ120を金属容器110に取り付けると、図7(b)に示すように、タグ120が発する磁束により金属容器110の表面に渦電流が誘起され、この渦電流によって、ICタグ120の磁束が打ち消されて熱損失が生じる
また、金属容器110の影響によりタグ120のアンテナコイル部のインダクタンス等が変化してしまい、これによりアンテナの共振回路の共振周波数もずれてしまう。
このようにして、通常の汎用されているICタグをそのまま金属容器に取り付けると、タグが誤動作したり、リーダ・ライタとの無線通信が行えないという問題が発生した。
【0008】
そこで、これまで、アルミニウム缶やスチール缶のような金属容器にICタグを取り付ける場合には、ICタグの構成を金属容器専用のものに変更して、金属容器からの影響を回避しようとする提案がなされている(例えば、特許文献1−3参照。)。
具体的には、図8に示すように、従来提案されている金属容器専用のICタグ220は、タグ内部の金属容器110と対向する側に、シート形状等に形成した磁性体(高透磁率体)221や誘電体が配設されるようになっており、これによって、ICタグ220が発する磁束を磁性体221内に通過させて、金属容器110側に渦電流が発生することを防止するようになっていた。
【0009】
【特許文献1】特開2002−207980号公報(第2−4頁、第1図)
【特許文献2】特開2004−127057号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献3】特開2004−164055号公報(第4−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されている金属容器用のICタグは、タグ自体が金属専用に設計、構成されたもので、既存のICタグを金属容器用に使用可能とするものではなかった。
すなわち、通常の汎用タグについて金属容器に使用した場合の問題点を解決するものではなかった。
【0011】
しかも、このように金属専用に構成されたICタグでは、内部に磁性体や誘電体が配設された複雑な構成となっており、タグが大型化、大重量化してしまい、小型・薄型で軽量であるICタグの最大の利点が損なわれるという問題も生じた。
ICタグは、安価で大量生産される汎用タグを使用してこそ、低コストで小型軽量かつ大記憶容量の無線通信手段として使用できるという特徴を最大限に生かすことができるものであり、金属容器専用の大型で複雑なタグは、このような汎用タグのメリットを著しく減殺するものであった。
【0012】
本発明は、以上のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、ICタグ側の変更ではなく、金属容器側の対応によって、汎用のICタグをそのまま使用でき、かつ、タグの通信特性が損なわれずに、ICタグ本来の適正な通信範囲で正確な無線通信が可能となるICタグ対応金属材と、金属対応ICタグ、ICタグ対応金属容器及びICタグ対応金属材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のICタグ対応金属材は、請求項1に記載するように、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられる金属材であって、基材となる金属層と、ICタグの磁界を金属層まで通過させない電磁波遮蔽層と、ICタグを金属層から離間させる距離層とを備える構成としてある。
また、本発明のICタグ対応金属材は、請求項2に記載するように、ICタグを金属層から離間させる、距離層と異なる材質からなる第二の距離層を更に備える構成としてある。
【0014】
このような構成からなる本発明のICタグ対応金属材によれば、金属容器の基材となる金属層に、ICタグの磁界を金属材まで到達させない電磁波遮蔽層と、ICタグを金属層から離間させる距離層、必要に応じて第二の距離層を積層することで、金属の影響による通信利得の熱損失と共振周波数のズレを確実に防止することができる。
これにより、既存のどのようなICタグであっても、本実施形態の金属容器に取り付けてタグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信が行えるようになる。
【0015】
すなわち、電磁波シールド塗料等からなる電磁波遮蔽層を備えることで、金属容器側に生じる渦電流の発生を抑制することができるとともに、ICタグを金属層から離間させる距離層として、不織布等かなる空洞層やPET樹脂等からなる樹脂層を備えることで、ICタグを金属層から十分に離間させて金属容器の影響によるICタグのインダクタンスの変化を防止することができ、ICタグのアンテナの共振周波数のズレを効果的に防止することができるようになる。
これにより、本発明の金属材にどのようなICタグを取り付けても、そのICタグの通信利得を良好に確保することができ、正確な無線通信が可能となり、既存の汎用タグであってもそのまま使用するこができる。
【0016】
そして、具体的には、本発明のICタグ対応金属材は、請求項3に記載するように、距離層又は第二の距離層が、不織布又は発泡樹脂からなる空洞層である構成としてある。
このような構成からなる本発明のICタグ対応金属材によれば、ICタグを金属層から離間させる距離層(又は第二の距離層)として不織布や発泡樹脂等の空洞層を積層することができる。
ICタグに対する金属層の影響を低減するには、理想的には実効比誘電率を1.0(空気)とすることが望ましいが、これではICタグを空気中に浮揚させることを意味し、現実には不可能である。
【0017】
不織布は、例えばPET樹脂からなる不織布であれば内部に多数の空洞ができるので、実効比誘電率をPET樹脂そのものよりも更に小さくでき、1.0により近い値に設定することが可能であり、ICタグを金属層から離間させる空洞層を構成する物質として最適である。同様に、発泡樹脂の場合にも、内部に空気や窒素,二酸化炭素等の気体が充填され、実行比誘電率を1.0に近い値にすることができる。
また、不織布や発泡樹脂の特長は設計の自由度にあり、所望の厚みと大きさの空洞層を容易かつ低コストで形成することが可能となる。
【0018】
そこで、本発明では、ICタグを金属層から離間させる距離層として不織布又は発泡樹脂を採用し、これによって、ICタグが金属に接触・近接することで生じる共振周波数のズレや金属による熱損失を有効に防止することができる。
なお、同様の観点から、不織布や発泡樹脂以外にも、例えば樹脂塗料を格子状に塗布することで内部に空洞を有する空洞層を形成することができ、これを本発明の空洞層として採用することもできる。
【0019】
また、本発明のICタグ対応金属材は、請求項4に記載するように、第二の距離層層又は距離層が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドを含む熱可塑性プラスチックからなる樹脂層である構成としてある。
このような構成からなる本発明のICタグ対応金属材によれば、金属層をPET樹脂等のプラスチックで樹脂コーティングすることにより、ICタグを金属層から離間させる距離層(又は第二の距離層)となる樹脂層を形成することができる。
【0020】
PET樹脂等からなる樹脂層は、金属層の表面に所定の厚みを有する層状に形成することができ、この樹脂層によって、ICタグは金属層と直接に接触することなく樹脂層の厚み分だけ金属層から離間することになる。
また、PET樹脂は実効誘電率が2.7程度で、他の物質と比較しても十分に小さい値であり、金属層とICタグの間にPET樹脂が介在することでICタグ側のインダクタンス等が変化することも抑制できる。
これによって、ICタグが金属に接触・近接することで生じる共振周波数のズレや金属による熱損失を有効に防止することができる。
また、PET樹脂等の樹脂層は、簡易な工程により迅速に、所望の厚みの樹脂層を積層形成できるので、使用するICタグの出力や周波数特性に対応した好適な厚みを有する樹脂層を備えた金属材を、容易かつ低コストで提供することが可能となる。
【0021】
ここで、アルミニウム缶やスチール缶等の金属容器の分野では、基材となる金属にPET樹脂等のプラスチック樹脂を被覆した樹脂被覆缶容器が使用されることがある。このような樹脂被覆缶容器は、通常の缶容器と比較して、製缶工程での廃棄物の排出や消費エネルギーが格段に少なく、低コストかつ省資源で製造可能な経済性と環境保全性に優れた缶容器として知られている。
また、パウチ容器の場合には、例えば、基材となる金属層(アルミニウム層)を中間層とし、外層をポリエチレンテレフタレート(PET)層、内層を未延伸ポリプロピレン(CPP)層等とした多層フィルムが使用される。
本発明の金属材は、ICタグを金属層から離間させる距離層となる樹脂層として金属層上にPET樹脂等のプラスチックを積層することで、このような樹脂被覆缶容器やパウチ容器の金属材として使用することができる。
【0022】
また、本発明のICタグ対応金属材は、請求項5に記載するように、電磁波遮蔽層が、酸化金属材料からなる構成としてある。
具体的には、請求項6に記載するように、酸化金属材料は、Mn−Zn、Ni−Zn又はMg−Zn系の軟式フェライトからなる構成とすることができる。
また、請求項7に記載するように、酸化金属材料は、Al、C、Cu、Ag、Nb、Co、Cr又はPdのフレーク又は粒子を含む磁性材料からなる構成とすることもできる。
【0023】
このような構成からなる本発明のICタグ対応金属材によれば、ICタグの磁界を金属層に通過させない電磁波遮蔽層として、任意の酸化金属材料を選択して使用することができる。
これにより、使用するICタグの出力や周波数特性に対応した好適な透磁率等を備えた電磁波遮蔽層を設定することができ、汎用性、拡張性に優れたICタグ対応型の金属材を提供することができる。
【0024】
また、本発明のICタグ対応金属材は、請求項8に記載するように、電磁波遮蔽層が、金属層の表面に塗布により積層される構成としてある。
このような構成からなる本発明のICタグ対応金属材によれば、電磁波シールド塗料を金属層の表面(距離層を積層した金属層の場合には距離層の表面)に塗布することによって電磁波遮蔽層を形成することができる。
特に、ICタグを取り付ける実装部分のみに電磁波シールド塗料を塗布することにより、使用するICタグの大きさや装着部位等に合わせて、金属材の任意の部位に任意の大きさ・形状の電磁波遮蔽層を容易かつ迅速に塗布形成することができる。
一方、例えば、小売店において缶製品にICタグを後から取り付けるような場合には、ICタグは金属容器の任意の部位に無作為に取り付けられるので、金属材の全体に電磁波シールド塗料を塗布して電磁波遮蔽層を形成する。
これにより、低コストで、任意のICタグに対応可能な汎用性、拡張性の高い金属材を実現することができる。
【0025】
一方、本発明の金属対応ICタグは、請求項9に記載するように、ICチップと、アンテナと、これらICチップ及びアンテナが実装される基材とを備え、金属材に取り付けられてリーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグであって、基材が、ICチップ及びアンテナを金属材から離間させる距離層を備える構成としてある。
【0026】
このように、本発明では、ICタグを金属材から離間させる距離層をICタグ側に備えることもできる。ICタグに備えられる距離層は、上述した金属材に備えられる距離層と同様に、不織布や発泡樹脂により構成することができ、容易かつ低コストでICタグに距離層を形成することができる。
特に、生産性等を考慮した場合、距離層はICタグ側に備えるようにすることが有利であり、タグの通信特性が損なわれずにタグ本来の適正な通信範囲で正確な無線通信を可能とする本発明の特徴を、より低コストに生産性良く実現することができる。
【0027】
そして、本発明のICタグ対応金属容器は、請求項10に記載するように、内部に内容物を収納可能な金属製の容器であって、容器の全部又は一部が、請求項1〜9記載のICタグ対応金属材からなる構成としてある。
このように、本発明のICタグ対応金属容器は、本発明に係る金属材を使用して、アルミニウム缶やスチール缶、パウチ容器等の任意の金属容器を形成することができる。
金属容器は、容器全体を本発明に係る金属材で形成することもでき、また、容器中のICタグを実装する部位のみに金属材を使用して形成することもできる。
このようにして、本発明によれば、任意の形状、大きさ、用途等の金属容器について、どのようなICタグを取り付けても、そのICタグの通信利得を良好に確保することができるIC対応金属容器として提供することができる。
【0028】
また、本発明のICタグ対応金属材の製造方法は、請求項11に記載するように、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられる金属材の製造方法であって、基材となる金属層の表面の全部又は一部に、ICタグの磁界を金属層まで通過させない電磁波遮蔽層を積層する工程を有し、電磁波遮蔽層を、電磁波シールド塗料を塗布することにより積層する方法としてある。
さらに、請求項12に記載するように、本発明のICタグ対応金属材の製造方法は、電磁波遮蔽層の表面に、ICタグを金属層から離間させる距離層を積層する工程を更に有し、距離層を、樹脂塗料を塗布することにより積層する方法としてある。
【0029】
このような本発明のICタグ対応金属材の製造方法によれば、金属層や金属層に積層された距離層の表面の任意の部位に電磁波シールド塗料を塗布することによって電磁波遮蔽層を形成することができる。
また、電磁波遮蔽層の表面の任意の部位に、樹脂塗料を塗布することで距離層を形成することができる。距離層は、樹脂塗料を格子状に塗布することで内部に空洞を有する空洞層として形成することができる。
これによって、使用するICタグの大きさや装着部位等に合わせて、金属材の任意の部位に任意の大きさ・形状の電磁波遮蔽層や距離層を容易かつ迅速に塗布形成することができる。特に、ICタグを取り付ける実装部分のみに電磁波シールド塗料や距離層を塗布することにより、低コストで、任意のICタグに対応可能な金属材を提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のICタグ対応金属材によれば、既存のどのようなICタグであっても、タグ側には金属対策用の特殊な構成等を必要とすることなく、金属容器に装着して使用することができ、タグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信が可能となる。
これにより、小型・薄型で軽量であるという汎用のICタグの利点を何等損なうことなく、各種の金属容器について使用してもICタグ本来の良好な通信特性を得ることができる、特にアルミニウム缶やスチール缶、パウチ容器等に好適な金属容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係るICタグ対応金属材と金属対応ICタグ、ICタグ対応金属材からなる金属容器及び金属材の製造方法の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
[金属材]
図1は、本発明の一実施形態に係るICタグ対応金属材を模式的に示す要部斜視図であり、(a)はICタグを実装する前の状態を、(b)はICタグを実装した状態を示している。
図1に示すように、本実施形態の金属材10は、リーダ・ライタ(図示せず)との間で無線通信を行うICタグ20が取り付けられる金属材であって、基材となる金属層11と、この金属層11の両面に積層される容器内面層12及び樹脂層13と、樹脂層13に積層される電磁波遮蔽層14と、電磁波遮蔽層14に積層される空洞層15を備え、空洞層15の任意の箇所にICタグ20が実装されるようになっている。
【0032】
[金属層]
金属層11は、アルミニウム缶やスチール缶、パウチ容器等の金属容器の基材となるもので、板状に形成された任意の金属材料からなる。
この金属層11としては、例えば、Al、銅、鉄、スチール、銀、金等、金属材の用途等に応じて任意の金属を選択できる。
また、金属層11の厚みとしては、例えば、パウチ容器用の数nm単位の蒸着金属層から、アルミ缶やスチール缶用の数mm単位の金属板等まで、金属材10で形成される容器や製品等の用途や大きさ等に応じて任意の厚みに設定できる。
そして、この金属層11の両面に、それぞれ、容器内面層12及び樹脂層13が積層形成されるようになっている。
【0033】
[容器内面層]
容器内面層12は、金属材10で缶容器等を形成した場合に容器の内面を構成する層であり、例えば、PET樹脂層等で形成される。
アルミニウム缶やスチール缶等の缶容器では、基材となる金属層にPET樹脂等のプラスチック樹脂を被覆した樹脂被覆缶容器が使用されることがあり、また、パウチ容器の場合には、基材となるアルミニウム層を中間層とし、外層をポリエチレンテレフタレート(PET)層、内層を未延伸ポリプロピレン(CPP)層等とした多層フィルムが使用される。
容器内面層12は、このような樹脂被覆缶容器やパウチ容器における容器内側の樹脂層となるものである。
従って、金属材10を樹脂被覆缶容器やパウチ容器の基材として使用しない場合には、容器内面層12については適宜省略することが可能である。
なお、容器内面層12は、後述する樹脂層13と同一材料で、樹脂層13と同時に積層形成されることが、製造工程や製造コストの効率化の点から好ましい。
【0034】
[樹脂層]
樹脂層13は、上述した容器内面層12と反対側の金属層11の表面に積層されて、金属材10に実装されるICタグ20を金属層10から離間させるための距離層(又は第二の距離層)であり、PET樹脂等で形成されるようになっている。
具体的には、樹脂層13は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の熱可塑性プラスチックにより形成される。
PET等の樹脂層は、金属層11の表面に所定の厚みで形成でき、この樹脂層によって、ICタグ20を金属層11と直接に接触することなく樹脂層の厚み分だけ金属層11から離間させることができる。また、PET樹脂は実効比誘電率が2.7程度であり、他の物質と比較しても十分に小さい値であり、金属層とICタグの間にPET樹脂が介在することでICタグ側のインダクタンス等の変化も十分に抑制可能となる。
従って、PET樹脂等からなる樹脂層13を備えることで、ICタグ20を金属層10から十分に離間させることができ、ICタグ20が金属層11に接触・近接することで生じる共振周波数のズレや金属層11による熱損失を有効に防止することができる。
【0035】
この樹脂層13は、上述した容器内面層12とともに、金属層11の両面を、例えば、熱可塑性ポリエステル系樹脂被膜で被覆することにより積層形成される。
熱可塑性ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートを主成分とする共重合体またはブレンド等で、融点が約200〜260℃のものを使用でき、また、ポリエステル系樹脂被膜の厚みは、通常約5〜40μm程度である。
【0036】
ここで、熱可塑性ポリエステル系樹脂被膜は、進行する帯状の金属板(金属層11)の両面に、押出しラミネート法や無延伸キャストフィルム・ラミネート法等により熱接着後急冷された非晶質で無延伸のものが好ましい。無延伸で非晶質の熱可塑性ポリエステル系樹脂被膜は、展伸性と密着性に優れており、基材となる金属層11を薄肉化することによる延びや収縮変形に対しても、剥離や亀裂等の損傷を生ずることなく追従することができる。
なお、この樹脂層13(及び容器内面層12)は、単層(1層)であってもよく、また、2層、3層等の多層であってもよい。多層の場合、延伸フィルムを熱接着や接着剤層を介して接着することで形成できる。
【0037】
また、この樹脂層13は、適宜省略しても良い。
後述するように、本実施形態の金属材10は、ICタグ20を金属層11から離間させる距離層として空洞層15が備えられるようになっており、この空洞層15からなる距離層に対して、樹脂層13は第二の距離層となる。従って、空洞層15によってICタグ20が金属層11から十分に離間されて良好な通信特性が得られるようになっていれば、第二の距離層となる樹脂層13は省略することができる。ICタグ20側に空洞層15aが備えられる場合も同様である(図2参照)。勿論、空洞層15とともに樹脂層13が備えられることで、ICタグ20は距離層及び第二の距離層によって更に十分に金属層11から離間されることになるので、樹脂層13は空洞層15ともに併設するようにしてもよい。
【0038】
[電磁波遮蔽層]
電磁波遮蔽層14は、樹脂層13に積層される、ICタグ20の磁界を金属層11まで通過させない層である。後述する空洞層15が省略される場合には、この電磁波遮蔽層14上にICタグ20が実装されることになる。
この電磁波遮蔽層14は、酸化金属材料からなり、具体的には、Mn−Zn、Ni−Zn又はMg−Zn系の軟式フェライトで構成することができる。また、Al、C、Cu、Ag、Nb、Co、Cr又はPdのフレーク又は粒子を含む磁性材料により構成することができる。
このように、本実施形態では、ICタグ20の磁界を金属層11に通過させない電磁波遮蔽層14として、任意の酸化金属材料を選択して使用することができ、使用するICタグ20の出力や周波数特性に対応した好適な透磁率等を備えた電磁波遮蔽層14を形成できるようになっている。
【0039】
そして、以上のような成分からなる電磁波遮蔽層14は、酸化金属材料が液体化されており、樹脂層13の表面に塗布される導電性塗料などの電磁波シールド塗料となっている。すなわち、電磁波遮蔽層14は、塗料が塗布されることにより樹脂層13の表面に積層されるようになっている。これにより、電磁波遮蔽層14の製造工程はきわめて容易かつ迅速に行えるようになっている。
また、このように電磁波シールド塗料を塗布するだけで電磁波遮蔽層14を形成できるので、ICタグ20を取り付ける実装部分のみに塗料を塗布することで、使用するICタグ20の大きさや装着部位等に合わせて、金属材10の任意の部位に任意の大きさ・形状の電磁波遮蔽層14を容易かつ迅速に塗布形成することができる。
なお、ICタグ20が金属材10の任意の部位に無作為に取り付けられるような場合には、樹脂層13の表面全体に電磁波シールド塗料を塗布して電磁波遮蔽層14を形成する。
【0040】
[電磁波シールド塗料の作成]
電磁波シールド塗料の作成方法としては、Fe−Siなどの磁性体粉末を、ニス,プライマー,エポキシなどの樹脂の溶媒に混入して作成することができる。磁性体の粉末はフレーク状が好ましいがパウダー状のものでもかまわない。また、磁性体フレークとパウダーを混合してもかまわない。
使用する磁性体フレークの扁平形状の長径は、例えば15μmから40μmの範囲のものが好ましく、磁性体パウダーの場合は、粒径が15μmから30μmの範囲のものが好ましい。
溶媒には、油性又は水性の塗料を使用することができ、熱乾燥タイプやUV硬化タイプなど、特に限定はされない。
また、磁性体と溶媒の混合比としては、電磁波シールド効果や金属に塗布可能な粘度を考慮すると、溶媒が40%から75%の範囲が好適である。
【0041】
[電磁波シールド塗料の塗布方法]
電磁波シールド塗料を金属へ塗布するには、バーコーター,ロールコート,刷毛などを用いることができる。また、塗料を直接金属へ塗布してもよいが、密着性を考慮すると、金属の上にプライマーなどの接着剤を塗布した後に、その上に電磁波シールド塗料を塗布するのが好ましい。
また、金属上に電磁波シールド塗料とニス,プライマー又は樹脂などを交互に塗布し、積層させても良い。この場合、最上層は電磁波シールド塗料でないことが好ましい。
塗料の塗布厚は、磁性体粉末の溶媒への混入濃度及び粉末の大きさにもよるが、0.1mmから1.0mm程度が好ましく、缶に塗布することを考慮に入れた場合、0.5mm程度が望ましい。
【0042】
[空洞層]
空洞層15は、電磁波遮蔽層14に積層される、ICタグ20を金属層11から離間させる層であり、ICタグ20は、この空洞層15上に実装されることになる。
この空洞層15には、不織布や発泡樹脂等が使用できる。
ICタグ20に対する金属層11の影響を低減するには、理想的には実効比誘電率を1.0(空気)とすることが望ましいが、これではICタグを空気中に浮揚させることを意味し、現実には不可能である。
【0043】
不織布は、例えばPET樹脂からなる不織布であれば内部に多数の空洞ができるので、実効比誘電率をPET樹脂そのものよりも更に小さくでき、1.0により近い値に設定することが可能となる。同様に、発泡樹脂の場合にも、内部に空気や窒素,二酸化炭素等の気体が充填され、実行比誘電率を1.0に近い値にすることができる。
また、不織布や発泡樹脂の特長は設計の自由度にあり、所望の厚みと大きさの空洞層を容易かつ低コストで形成することが可能となる。
【0044】
そこで、本実施形態では、ICタグ20を金属層11から離間させる空洞層15として不織布あるいは発泡樹脂を採用し、これによって、ICタグが金属に接触・近接することで生じる共振周波数のズレや金属による熱損失を防止するようにしてある。
なお、同様の観点から、不織布や発泡樹脂以外にも、例えば樹脂塗料を格子状に塗布することで内部に空洞を有する空洞層を形成することができ、これを空洞層15として採用することもできる。
【0045】
不織布は、例えば、合成繊維製、天然繊維製等の任意の材質のものを選択可能であり、厚みや大きさ、形状等は、実装するICタグ20に対応して任意に設定することができる。
また、空洞層15に好適な発泡樹脂としては、種々の方法に形成することができるが、例えば、発泡剤を用いる方法、ポリマーを混合(混練)する際に空気や窒素ガスを注入する方法、化学反応を利用する方法等がある。
この空洞層15を構成する不織布や発泡樹脂は、樹脂層13に積層された電磁波遮蔽層14の上面に接着剤や熱融着等で接着・積層される。
【0046】
なお、空洞層15については、上述した樹脂層13及び電磁波遮蔽層14によってICタグの通信利得が十分確保される場合には適宜省略することが可能である。
また、空洞層15は、図1に示したように、金属材10側に積層されるだけでなく、ICタグ20側に備えることもできる。
図2は、金属材10側の空洞層15に代えて、ICタグ20側に空洞層15aを備えた場合を模式的に示す要部斜視図である。
図2に示すように、ICタグ20に備えられる空洞層15aは、金属材10に備えられる空洞層15と同様、不織布や発泡樹脂により構成され、ICタグ20のICチップ及びアンテナの下面側、すなわち、ICチップ及びアンテナと金属材10との間に位置するように配設される。これによって、金属材10側に空洞層15が備えられるのと同様、ICタグ20を金属材から離間させる距離層として機能させることができる。このようにICタグ側に空洞層15aを備えることは、特に生産性等を考慮した場合に有利となる。なお、図2に示す例では、ICタグ20側の空洞層15aは、金属材10側の空洞層15に代えて備えるようにしてあるが、これを、金属材10側の空洞層15とともに併設するようにしてもよい。
【0047】
[ICタグ]
ICタグ20は、ICチップとアンテナを有し、これらICチップとアンテナが樹脂やガラス等からなる基材に搭載されて一体的に封止されて一つのICタグを構成している。
そして、このICタグ20が、図1に示すように、上述した金属材10の空洞層15の表面に実装されるようになっている。
なお、空洞層15が省略される場合や、図2に示すように、ICタグ側に空洞層15aが備えられる場合には、ICタグ20は、電磁波遮蔽層14の表面に実装されるようになっている。
【0048】
このICタグ20は、金属材10により形成される金属容器の製造工程において、予め金属材10に実装することもでき、また、製造・出荷された金属材10や金属容器に対して、後から取り付けることもできる。
その際、ICタグ20が空洞層15aを備える場合には、空洞層15a側が金属材10に接触するように実装する。
図1及び図2に示す例では、ICタグ20が金属材10の製造工程において予め実装される場合であり、空洞層15の表面に実装されたICタグ20は、さらにカバーフィルム層16で覆われるようになっている。
【0049】
ここで、ICタグ20に備えられるICチップは、メモリ等の半導体チップからなり、例えば数百バイトのデータが記録可能となっている。
そして、アンテナを介してリーダ・ライタとの間で無線通信によって読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)が行われ、ICチップに記録されたデータが認識されるようになっている。
ICチップに記録されるデータとしては、例えば、商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限等、任意の情報、データが記録可能であり、また、書換も可能である。データの記録や書換は専用のリーダ・ライタにより行える。
【0050】
また、ICタグ20で使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯がある。
そして、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長が異なってくる。
【0051】
図3は、図1に示す金属材10にICタグ20を実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属材に実装されたICタグの状態を、(b)は(a)に示すICタグが発する磁束の状態を示している。
同図に示すように、ICタグ20が無線通信を行うとアンテナコイル部に磁波・電磁波が発生する。従来は、この磁波・電磁波が金属容器側に吸収される熱損失等が生じてしまい、タグの通信特性が損なわれていた。また、金属容器の影響によりアンテナコイル部のインダクタンス等が変化してしまい、アンテナの共振周波数もずれてしまった。
本実施形態の金属材10は、電磁波シールド塗料等からなる電磁波遮蔽層14によって金属層11に渦電流等が発生することを防止できる。また、PET樹脂等からなる樹脂層13と、不織布等かなる空洞層15(又は空洞層15a)を備えることで、ICタグ20を金属層11から十分に離間させることができるので、金属層11の影響によるタグ側のインダクタンス等の変化も防止でき、これによって、ICタグ20のアンテナの共振周波数のズレも防止することができる。
【0052】
図4は、共振周波数13.65MHzのICタグを本実施形態の金属材10及び従来の金属容器に実装した場合のICタグの共振周波数と無線信号の強度の関係を示すグラフである。
同図において、実線は、既存の汎用タグを、空洞層15(又は空洞層15a)の厚みを0.5mmに設定した本実施形態の金属材10に取り付けた場合であり、ICタグは共振周波数13.65MHz帯域で30dB以上の出力で駆動している。
二点鎖線は、既存の汎用タグを、既存のアルミニウム缶に取り付けた場合であり、出力が15dB程度まで大きく低下してしまい、タグの共振周波数もずれてしまう。
【0053】
一点鎖線は、既存の汎用タグを、空洞層15(又は空洞層15a)の厚みを0.1mmに設定した本実施形態の金属材10に取り付けた場合であり、出力は25dB程度確保されているものの、タグの共振周波数が13.4MHz帯域にずれてしまう。
破線は、内部にフェライトシート等の磁性体(高透磁率体)を備えた汎用電磁波シールド材上にタグを取り付けた場合であり、出力は25dB程度確保されているものの、タグの共振周波数が13.3MHz帯域に大きくずれてしまっている。
以上より、本実施形態の金属材10を使用し、空洞層15の厚みを最適な値に設定することで、既存の汎用タグであっても、本来の通信特性を良好に確保して金属容器等に使用することができるようになる。
【0054】
[製造方法]
次に、以上のような本実施形態の金属材10の製造方法について説明する。
金属材10は、まず、基材となる金属層11の表面にPET樹脂等のプラスチック樹脂を積層し、容器内面層12及び樹脂層13を形成する。
次に、金属層11に積層された樹脂層13の表面に上述した酸化金属材料からなる電磁波シールド塗料を塗布して電磁波遮蔽層14を形成する。
このとき、樹脂層13に塗布する電磁波シールド塗料は、樹脂層13の表面全体に塗布することができ、また、ICタグ20を実装する部分のみに塗布することもできる。
その後、電磁波シールド塗料を塗布した部分に不織布からなる空洞層15を積層する。不織布は接着剤や熱融着等の手段によって電磁波遮蔽層14の表面に剥離しないように固着する。
また、空洞層15は、電磁波遮蔽層14の表面に樹脂塗料を塗布することによっても形成できる。すなわち、電磁波遮蔽層14の表面の任意の部位に、樹脂塗料を格子状に塗布することで、内部に空洞を有する空洞層15を形成することができる。
以上によって、本実施形態の金属材10が完成する。
【0055】
[金属容器]
次に、以上のような本実施形態の金属材10で形成される金属容器の一例を図5及び図6に示す。
図5に示す金属容器30は、本実施形態の金属材10により形成したアルミニウム缶又はスチール缶である。
また、図6に示す金属容器40は、本実施形態の金属材10により形成したパウチ容器である。
このように、本実施形態に係る金属材10を用いて任意の金属容器を形成することができる。なお、金属容器は、少なくともICタグ20が実装される部位について、本実施形態の金属材10が備えられていればよい。すなわち、金属容器の全部を本実施形態の金属材10で形成することもできるが、金属容器の一部(ICタグの実装部)のみを金属材10で形成し、その他の部位は、例えば、電磁波シールド塗料や不織布等を省略することもできる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係るICタグ対応金属材によれば、電磁波シールド塗料等からなる電磁波遮蔽層14を備えることで、金属容器側に生じる渦電流の発生を抑制することができるとともに、PET樹脂等からなる樹脂層13を備え、さらに、不織布等かなる空洞層15を備えることで、ICタグを金属層から離間させて金属容器の影響によるICタグのインダクタンスの変化を防止することができ、これによって、ICタグのアンテナの共振周波数のズレを効果的に防止することができる。
これにより、本実施形態に係る金属材10で形成した金属容器にどのようなICタグ20を取り付けても、そのICタグの通信利得を良好に確保することができ、タグ本来の正確な無線通信が可能となり、既存の汎用タグであってもそのまま使用するこができる。
【0057】
[実施例1]
東洋アルミニウム(株)製 ケイ素鋼ペーストRFS54CM(90.5Fe−5.5Si−4Cr、形状:フレーク、フレーク長径:20μm〜30μm)を油性塗料に約70%混入し、電磁波シールド塗料を作成した。この塗料を、次の各金属板の表側に、塗料厚みが0.15mmとなるようにバーコータを用いて塗布した。
【0058】
[金属板]
樹脂被覆金属板A:厚さ0.25mmのティンフリースチール(TFS)に、表側を厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で、裏側を厚さ30μmのPET樹脂で被覆した樹脂被覆金属板(厚さ0.3mm)。
金属板B:厚さ0.3mmのティンフリースチール(TFS)板。
樹脂被覆金属板C:厚さ0.20mmのアルミニウム(AL)板に、表側を厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で、裏側を厚さ30μmのPET樹脂で被覆した樹脂被覆金属板(厚さ0.25mm)。
金属板D:厚さ0.25mmのアルミニウム(AL)板。
【0059】
[ICタグラベル]
ICタグ(テキサス・インスツルメンツ社製、動作周波数:13.56MHz)をPETフィルム(フィルム厚:45μm)とPET製不織布(厚さ:約100μm)の間に挟み、ラミネータより接着させラベルを作成した。
【0060】
A〜D各金属板にICタグラベルを、塗料を塗布した樹脂被覆金属板の上に不織布側が金属板側になるように貼り合わせて、ICタグ付き金属材を作成した。
このICタグ付き金属材を用いて、ほぼ接触に近い形でリーダ・ライタ間との通信試験を行った結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
[比較例1]
樹脂を被覆していない厚さ0.3mmのTFS板(金属板E)と厚さ0.25mmのアルミ板(金属板F)に、実施例と同様に電磁波シールド塗料を厚み0.15mmとなるように塗布し、実施例1と同じICタグをPETフィルム(フィルム厚:45μm)で挟んだICタグラベルを貼り付けた。
このICタグ付き金属材を用いて、ほぼ接触に近い形でリーダ・ライタ間との通信試験を行った結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
電磁波シールド塗料を塗料厚みが035mmとなるように塗布した以外は、実施例1と同条件でICタグ付き金属材を作成した。
このICタグ付き金属材を用いて、リーダ・ライタ間との通信試験を行い最大通信距離を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
[比較例2]
樹脂を被覆していない厚さ0.3mmのTFS板(金属板E)と厚さ0.25mmのアルミ板(金属板F)に、実施例と同様に電磁波シールド塗料を厚み0.35mmとなるように塗布し、実施例1と同じICタグをPETフィルム(フィルム厚:45μm)で挟んだICタグラベルを貼り付けた。
このICタグ付き金属材を用いて、リーダ・ライタ間との通信試験を行い最大通信距離を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
以上、本発明のICタグ対応金属材とこの金属材からなるICタグ対応金属容器及び金属材の製造方法について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るICタグ対応金属材、金属容器、金属材の製造方法は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0067】
例えば、上述した実施形態では、本発明の金属材により形成される金属容器として、飲料や食品の容器として用いられる缶容器やパウチ容器を例にとって説明したが、本発明の金属材を適用できる容器としては、容器の用途や収納する内容物、容器の構成成分等は特に限定されるものではない。すなわち、金属製の容器であれば、どのような大きさ、形状、材質等の容器であってもよく、また、容器に収納される内容物がどのようなものであってもよい。
また、本発明の金属材は、容器以外の金属製品の基材としても使用することができ、例えば、電子機器の筐体等に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明した本発明のICタグ対応金属材、金属対応ICタグ、金属容器、金属材の製造方法は、例えば、アルミニウム缶やスチール缶、パウチ容器及びその製造方法の分野に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係るICタグ対応金属材とICタグを模式的に示す要部斜視図であり、(a)はICタグを実装する前の状態を、(b)はICタグを実装した状態を示している。
【図2】本発明の他の実施形態に係るICタグ対応金属材とICタグを模式的に示す要部斜視図であり、(a)はICタグを実装する前の状態を、(b)はICタグを実装した状態を示している。
【図3】図1に示す金属材にICタグを実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属材に実装されたICタグの状態を、(b)は(a)に示すICタグが発する磁束の状態を示している。
【図4】本発明の一実施形態に係るICタグ対応金属材に実装されたICタグの共振周波数と無線信号の強度の関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るICタグ対応金属で形成された金属容器の一実施形態を示す斜視図であり、金属容器がアルミニウム缶又はスチール缶の場合を示している。
【図6】本発明に係るICタグ対応金属で形成された金属容器の一実施形態を示す斜視図であり、金属容器がパウチ容器の場合を示している。
【図7】従来の一般的な金属容器にICタグを実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装されたICタグの状態を、(b)は(a)に示すICタグが発する磁束の状態を示している。
【図8】従来の金属専用ICタグを金属容器に実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装された金属専用ICタグの状態を、(b)は(a)に示す金属専用ICタグが発する磁束の状態を示している。
【符号の説明】
【0070】
10 金属材
11 金属層
12 容器内面層
13 樹脂層
14 電磁波遮蔽層
15 空洞層
15a 空洞層
16 カバーフィルム層
20 ICタグ
30 金属容器
40 金属容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられる金属材であって、
基材となる金属層と、
ICタグの磁界を前記金属層まで通過させない電磁波遮蔽層と、
ICタグを前記金属層から離間させる距離層と、
を備えることを特徴とするICタグ対応金属材。
【請求項2】
リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられる金属材であって、
基材となる金属層と、
ICタグの磁界を前記金属層まで通過させない電磁波遮蔽層と、
ICタグを前記金属層から離間させる距離層と、
ICタグを前記金属層から離間させる、前記距離層と異なる材質からなる第二の距離層と、
を備えることを特徴とするICタグ対応金属材。
【請求項3】
前記距離層又は第二の距離層が、不織布又は発泡樹脂からなる空洞層である請求項1又は2記載のICタグ対応金属材。
【請求項4】
前記第二の距離層層又は距離層が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドを含む熱可塑性プラスチックからなる樹脂層である請求項1,2又は3に記載のICタグ対応金属材。
【請求項5】
前記電磁波遮蔽層が、酸化金属材料からなる請求項1乃至4のいずれかに記載のICタグ対応金属材。
【請求項6】
前記酸化金属材料は、Mn−Zn、Ni−Zn又はMg−Zn系の軟式フェライトからなる請求項5記載のICタグ対応金属材。
【請求項7】
前記酸化金属材料は、Al、C、Cu、Ag、Nb、Co、Cr又はPdのフレーク又は粒子を含む磁性材料からなる請求項5記載のICタグ対応金属材。
【請求項8】
前記電磁波遮蔽層が、前記金属層の表面に塗布により積層される請求項1乃至7のいずれかに記載のICタグ対応金属材。
【請求項9】
ICチップと、アンテナと、これらICチップ及びアンテナが実装される基材とを備え、金属材に取り付けられてリーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグであって、
前記基材が、前記ICチップ及びアンテナを前記金属材から離間させる距離層を備えることを特徴とする金属対応ICタグ。
【請求項10】
内部に内容物を収納可能な金属製の容器であって、
容器の全部又は一部が、請求項1乃至9のいずれかに記載のICタグ対応金属材からなることを特徴とするICタグ対応金属容器。
【請求項11】
リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられる金属材の製造方法であって、
基材となる金属層の表面の全部又は一部に、ICタグの磁界を前記金属層まで通過させない電磁波遮蔽層を積層する工程を有し、
前記電磁波遮蔽層を、電磁波シールド塗料を塗布することにより積層することを特徴とするICタグ対応金属材の製造方法。
【請求項12】
前記電磁波遮蔽層の表面に、ICタグを前記金属層から離間させる距離層を積層する工程を更に有し、
前記距離層を、樹脂塗料を塗布することにより積層する請求項12記載のICタグ対応金属材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−178638(P2006−178638A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369559(P2004−369559)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】