説明

ICチップ、ICチップにおける処理方法、及びICチップ用処理プログラム

【課題】処理中断によりトランザクションが行われた場合であっても、処理時間制約が厳しい方のインターフェイスを用いた処理を正常に行うことが可能なICチップ、ICチップにおける処理方法、及びICチップ用処理プログラムを提供する。
【解決手段】ICチップは複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のインターフェイスに対応した処理手段を備えるICチップにおける処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、接触型IC(Integrated Circuit)チップが搭載されたUIM(User Identity Module)が搭載された携帯端末が普及している。近年、このような携帯端末に非接触型ICチップを搭載することにより、UIMに、従来の機能(例えば加入者認証処理等)に加えて、非接触通信用インターフェイスを使って様々な機能(サービス)を提供するためのグローバルな仕組みの整備が進められている。携帯端末に搭載される非接触型ICチップには、例えば、FeliCa(登録商標)の通信方式を採用した所謂FeliCaチップや、NFC(Near Field Communication)の規格で規定されるCLF(ContactLess Front-end)などがある。そして、このような非接触型ICチップを、UIMが備える既存の接触通信用インターフェイスとは別のインターフェイスに接続することにより、UIM内で接触通信用アプリケーションに加え、非接触通信用アプリケーションを利用することができる。
【0003】
ところで、UIM等のICチップは、不揮発性メモリへの書き込み処理中の引き抜き等による電源供給の中断に対処するため、トランザクション(Transaction)という仕組みが利用されている。トランザクションとは、特定の一連の処理の開始前もしくは終了後のどちらかの状態のみを取り得る仕組みのことをいう。この仕組みにより、不揮発性メモリに記憶されるデータが中途半端な内部状態とならないようにしている。特許文献1には、電源供給が中断した場合に、データの書き込み前の状態に戻すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4195822号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、書き込み処理が中断された際、トランザクションにより開始前の状態に戻すためのバックアップが有効であるか否かの判断を実施するのみであった。この方法によれば、接触通信用インターフェイスと非接触通信用インターフェイスに対応した処理手段を備えるICチップにおいて、例えば電源断で中断が起きた後の初動時に、接触通信用インターフェイスを用いた処理と非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータ領域が異なるにも関わらず、双方のデータ領域について区別すること無くトランザクションが実行される。このとき、互いの要求される処理時間制約に十分な余裕があれば良いが、一般には非接触通信用インターフェイスで要求される処理時間制約の方が厳しい場合が多い。そのため、従来の方法では、非接触通信用インターフェイスを用いた処理が正常に行われない可能性があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような点等に鑑みてなされたものであり、処理中断によりトランザクションが行われた場合であっても、処理時間制約が厳しい方のインターフェイスを用いた処理を正常に行うことが可能なICチップ、ICチップにおける処理方法、及びICチップ用処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のICチップにおいて、前記第1の前記インターフェイスは、接触通信用インターフェイスであり、前記第2の前記インターフェイスは、非接触通信用インターフェイスであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のICチップにおいて、前記制御手段は、前記データをバックアップする際に、前記バックアップ対象となる前記データを優先して書き戻すか否か示す情報を含むログデータを前記不揮発性メモリに記憶しておき、前記制御手段は、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、前記不揮発性メモリに記憶されている前記ログデータを参照して優先して書き戻すデータが前記バックアップ領域にバックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載のICチップにおいて、前記ICチップは、UIM(User Identity Module)に搭載されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のICチップにおいて、前記UIMは、携帯端末に装着されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備えるICチップにおける処理方法であって、前記制御手段が、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載のICチップ用処理プログラムの発明は、複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備えるICチップに含まれるコンピュータを、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うように機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理中断によりトランザクションが行われた場合であっても、処理時間制約が厳しい方のインターフェイスを用いた処理を正常に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る携帯端末の概要構成例を示すブロック図である。
【図2】UIM13の概要構成例を示すブロック図である。
【図3】トランザクションにおいて、データ記憶領域、バックアップ領域、及びログ記憶領域に記憶されるデータの遷移例を示す図である。
【図4】UIM13のCPU131におけるトランザクションが中断された場合の優先処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、携帯端末に対して本発明を適用した場合の実施の形態である。
【0017】
先ず、図1を参照して、本実施形態に係る携帯端末の構成及び機能概要について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る携帯端末の概要構成例を示すブロック図である。図1に示すように、携帯端末1は、携帯端末1の機能を担うコントローラ11、CLF12、及びUIM13(本発明のICチップの一例)等を備えて構成されている。なお、携帯端末1には、例えば操作キー、ディスプレイ、スピーカ、及び移動体通信部等を備える携帯電話機やPDA等を適用できる。
【0019】
コントローラ11は、図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、各種プログラム及びデータを記憶するROM(Read Only Memory)、データの書き換え可能な不揮発性メモリ、データを一時記憶するRAM(Random Access Memory)、及びUIM13との間のインターフェイスを担うI/Oポート等を備えている。なお、不揮発性メモリは、例えばフラッシュメモリやEEPROM(Electrical Erasable Programmable Read Only Memory)から構成される。コントローラ11は、UIM13との間でインターフェイスを介して通信可能になっている。そして、コントローラ11は、携帯端末1の通信(移動体通信網やインターネットを介して行われる通信)処理や携帯端末1のユーザからの操作キーを介した操作指示に応じて各種処理を実行する。このような処理の中で、コントローラ11は、例えば暗号化処理や認証処理等に係るコマンド信号をインターフェイスを介してUIM13へ送信する。また、コントローラ11は、例えば、電源ON、又はUIM13との間で通信エラーが発生した場合に、インターフェイスのリセット信号をUIM13へ送信するようになっている。
【0020】
CLF12は、NFCの規格で規定される非接触通信を行う非接触型ICチップであり、図示しないが、CPU、各種プログラム及びデータを記憶するROM、データの書き換え可能な不揮発性メモリ、データを一時記憶するRAM、及びUIM13との間のインターフェイスを担うI/Oポート(SWIO)等を備えている。また、CLF12は、非接触通信のフィールド内で非接触リーダ2との間で各種信号の送受信を行うためのアンテナ12aに接続されている。そして、ユーザが携帯端末1を非接触リーダ2に翳すと、非接触リーダ2から送信されたサービス要求に係るコマンド信号をインターフェイスを介してUIM13へ送信するようになっている。
【0021】
UIM13は、UICC(Universal Integrated Circuit Card)の一つであり、従来のSIM(Subscriber Identity Module)をベースに機能を拡張された接触型ICチップを搭載する。図2は、UIM13の概要構成例を示すブロック図である。UIM13は、図1に示すように、CPU131、各種プログラム及びデータを記憶するROM132、データの書き換え可能な不揮発性メモリ133、データを一時記憶するRAM134、コントローラ11との間の接触通信用インターフェイス(第1のインターフェイスの一例)を担うI/Oポート、及びCLF12との間の非接触通信用インターフェイス(第1のインターフェイスとは異なる第2のインターフェイスの一例)を担うI/Oポート等を備えている。なお、CLF12とUIM13間の非接触通信用インターフェイスには、SWP(Single Wire Protocol)が適用される。また、非接触通信用インターフェイスは、プログラム間でデータをやり取りする手順や形式を定めたものであり、ソフトウェアとして動作するものである。
【0022】
本発明についてコントローラ11、CLF12より受信されたデータは、UIM13の接触用端子を介して通信される。例えば、コントローラ11より受信したデータは、UIM13の金属端子におけるコントローラ11受信用のI/Oポートを介して受信される。そして、UIM13のCPU131が接触通信用インターフェイスに対応した処理手段として、接触通信用インターフェイス処理を実行することとなる。また、CLF12より受信したデータは、UIM13の金属端子におけるコントローラ11受信用のI/Oポートとは別のCLF12受信用のI/Oポートを介して受信される。そして、UIMのCPU131が非接触通信用インターフェイスに対応した処理手段として、非接触通信用インターフェイス処理を実行することとなる。
【0023】
また、UIM13のROM132又は不揮発性メモリ133に記憶されるプログラムの例としては、オペレーティングシステム(以下、「OS」という)、ミドルウェア、及び複数種類のアプリケーションプログラム、及び本発明のICチップ用処理プログラムがある。なお、ミドルウェアは、OSとアプリケーションプログラムの中間的な処理を行う。なお、本発明のICチップ用処理プログラムは、OS、ミドルウェアまたはアプリケーションプログラムの一機能として組み込まれてもよい。また、ミドルウェア、及びアプリケーションプログラム(以下、「アプリケーション」という)は、CPU131により実行される複数のコマンド(命令)及びそれらの実行順序を規定するプログラムである。アプリケーションには、接触通信用アプリケーションと非接触通信用アプリケーションとがある。同様に、ミドルウェアにも、接触通信用ミドルウェアと非接触通信用ミドルウェアとがある。なお、本発明のICチップ用処理プログラムは、OS、ミドルウェア、アプリケーションレベルの何れでも利用することが可能である。
【0024】
また、UIM13の不揮発性メモリ133には、データを記憶するデータ記憶領域と、データをバックアップするためのバックアップ領域と、バックアップに関するログを記憶するためのログ記憶領域と、を有する。なお、データ記憶領域には、電話番号や加入者ID等の個人情報、及び電子マネーの残高情報等のデータが記憶されている。
【0025】
UIM13のCPU131は、本発明のICチップ用処理プログラムを実行することにより本発明における「制御手段」として機能する。また、UIM13のCPU131は、OS実行の下、接触通信用インターフェイスを用いた処理と、非接触通信用インターフェイスを用いた処理を行う。接触通信用インターフェイスを用いた処理では、例えば、コントローラ11から接触通信用インターフェイスを介して受信されたコマンド信号が示すコマンド(接触通信用アプリケーションで規定されたコマンド)に対応するコマンド処理が行われる。一方、非接触通信用インターフェイスを用いた処理では、例えば、CLF12から非接触通信用インターフェイスを介して受信されたコマンド信号が示すコマンド(非接触通信用アプリケーションで規定されたコマンド)に対応するコマンド処理が行われる。
【0026】
ここで、上記コマンド処理の例としては、接触通信用インターフェイス又は非接触通信用インターフェイスを介して受信されたデータをデータ記憶領域に書き込む書き込み処理が挙げられる。なお、この書き込み処理は、OS、ミドルウェアまたはアプリケーションで行われる。この書き込み処理では、例えば、複数の情報を含むデータブロック(例えば、数十〜数百バイト)の単位でデータ記憶領域にデータが書き込まれる。また、この書き込み処理では、上述したトランザクションが行われる。このトランザクションにおいて、CPU131は、データ記憶領域にデータを書き込む際に当該データ記憶領域に記憶されているデータをバックアップ領域にバックアップする。更に、CPU131は、データをバックアップする際に、バックアップ対象となるデータの当該バックアップに関するログデータをログ記憶領域に記憶する。このログデータには、例えばバックアップ元(書き戻し先)のアドレス、バックアップ先(書き戻し元)のアドレス、書き戻すデータ量(固定値で処理する場合は不要)、優先度フラグ、状態フラグ、及び検証用のデータ(例えば、CRC(巡回冗長検査)データ、ただし、改ざん検出の必要がなければ不要)等が含まれる。ここで、バックアップ元のアドレスは、バックアップ対象となるデータが記憶されているデータ記憶領域のアドレスである。また、バックアップ先のアドレスは、データがバックアップされているバックアップ領域のアドレスである。また、優先度フラグは、バックアップされたデータを優先して書き戻すか否か示す情報である。例えば、優先度フラグは、優先して書き戻す(言い換えれば、ただちに書き戻す)ことを示す”0”、または優先して書き戻さない(言い換えれば、あとで書き戻す)ことを示す”1”で表される。或いは、優先度フラグは、バックアップ元の種別や分類を示す値等であってもよい。また、状態フラグは、トランザクションが正常終了したか否かを示す情報である。例えば、状態フラグは、トランザクションが未終了であることを示す”00”、またはトランザクションが正常終了したことを示す”FF”で表される。なお、このログデータは、バックアップ対象となるデータが複数ある場合、当該データ毎に区別されて記憶されてもよいし、区別されずに一つのログデータとして記憶されてもよい。
【0027】
図3は、トランザクションにおいて、データ記憶領域、バックアップ領域、及びログ記憶領域に記憶されるデータの遷移例を示す図である。なお、図3(A)に示す例において、3つのデータD1x〜D3x(1つのデータは例えば128バイトのデータブロックからなる)がデータ記憶領域に既に記憶されており、このうち、データD1x及びデータD3xが書き換え対象のデータであるものとする。トランザクション開始命令があるとトランザクションが開始され、先ず、図3(B)に示すように、データD1xがバックアップ領域にバックアップされ(一旦、RAM134に記憶された後、バックアップ領域に記憶)、当該バックアップに関するログデータLog1がログ記憶領域に記憶される。そして、データ記憶領域に既に記憶されているデータD1xが新しいデータD1yに書き換えられる。次いで、図3(C)に示すように、データD3xがバックアップ領域にバックアップされ(一旦、RAM134に記憶された後、バックアップ領域に記憶)、当該バックアップに関するログデータLog3がログ記憶領域に記憶される。そして、データ記憶領域に既に記憶されているデータD3xが新しいデータD3yに書き換えられる。そして、トランザクション終了命令があると、図3(D)に示すように、ログデータLog3に含まれる状態フラグが、トランザクションが正常終了したことを示す情報(コミット済)に書き換えられ(トランザクションが未終了であることを示す情報が上書きされる)、バックアップ領域にバックアップされていたデータD1x及びデータD3xが削除される。このようなトランザクションが正常に終了せず中断された場合において、上述した状態フラグがトランザクションが正常終了したことを示していないとき、CPU131は、バックアップ領域にバックアップされているデータをデータ記憶領域に書き戻す処理を行う。ところで、接触通信用インターフェイスを用いた処理が中断され、当該処理においてバックアップ領域にバックアップされたデータをデータ記憶領域に書き戻す処理中に、非接触通信用インターフェイスを用いた処理が起動した場合に(つまり、接触通信用インターフェイスを用いた処理で用いられたデータを書き戻す処理と非接触通信用インターフェイスを用いた処理が重なった場合に)、通常通り書き戻し処理を行っていると、処理時間制約の厳しい非接触通信用インターフェイスを用いた処理が正常に行われない可能性がある。
【0028】
そこで、本実施形態に係るUIM13のCPU131は、接触通信用インターフェイスを用いた処理が中断された場合にバックアップ領域にバックアップされたデータをデータ記憶領域に書き戻す処理において、非接触通信用インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、当該処理に必要なデータがバックアップされていない場合には、上記書き戻す処理より非接触通信用インターフェイスを用いた処理を優先して行う。このような処理を、優先処理という。
【0029】
以下に、トランザクションが中断された場合の優先処理を、図4を参照して詳しく説明する。図4は、UIM13のCPU131におけるトランザクションが中断された場合の優先処理を示すフローチャートである。図4に示す処理は、接触通信用インターフェイスを用いた処理が中断されログデータ中の状態フラグが例えば”FF”である場合において、非接触通信用インターフェイスを用いた処理が起動したときに開始される。このようなケースとしては、例えば、ユーザによる携帯端末1の操作中(操作指示に応じた書き込み処理が行われているとき)に電源がOFF状態(例えば携帯端末のバッテリー残量が無くなることによる)になり、この直後にユーザが携帯端末1を、例えば、改札機又は非接触認証ゲートに備えられる非接触リーダ2に翳した(非接触通信用インターフェイスを用いた処理開始)場合が考えられる。
【0030】
図4に示す処理が開始されると、UIM13のCPU131は、ログ記憶領域に記憶されているログデータを確認し(ステップS1)、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、CPU131は、ログデータに含まれる優先度フラグを参照して、優先して書き戻すデータがバックアップ領域にバックアップされているか否かを判定する。例えば、優先度フラグが優先して書き戻すことを示す”0”である場合、優先して書き戻すデータがバックアップ領域にバックアップされていると判定される。つまり、この場合、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていると判定される。一方、例えば、優先度フラグが優先して書き戻さないことを示す”1”である場合、優先して書き戻すデータがバックアップ領域にバックアップされていないと判定される。つまり、この場合、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていないと判定される。
【0031】
なお、優先度フラグがバックアップ元の種別や分類を示す値等である場合、UIM13のCPU131は、当該値に基づき、バックアップされたデータのデータ記憶領域(バックアップ元)が優先して書き戻す必要があるデータ記憶領域(接触通信用アプリケーションだけでなく非接触通信用アプリケーションでも使用されるデータ領域)であるか否かを判定する。そして、バックアップされたデータのデータ記憶領域が優先して書き戻す必要があるデータ記憶領域である場合、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていると判定される。一方、バックアップされたデータのデータ記憶領域が優先して書き戻す必要があるデータ記憶領域でない場合、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていないと判定される。
【0032】
そして、UIM13のCPU131は、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていると判定した場合には(ステップS2:YES)、当該判定されたデータをバックアップ領域からデータ記憶領域に書き戻して(ステップS3)、ステップS4に進む。例えば、図3に示すデータD1xが非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータであるとすると、図3(E)に示すように、当該データD1xがデータ記憶領域に書き戻されバックアップ領域から削除される。一方、UIM13のCPU131は、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていないと判定した場合には(ステップS2:NO)、当該データの書き戻しは行わずにステップS4に進む。例えば、図3に示すデータD3xが非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータでないとすると、図3(E)に示すように、当該データD3xがデータ記憶領域に書き戻されず、バックアップ領域にバックアップされたままとなる。
【0033】
ステップS4では、UIM13のCPU131は、書き戻す処理を終了するか否かを判定し、書き戻す処理を終了しないと判定した場合には(ステップS4:NO)、ステップS1に戻る。例えば、バックアップ領域に記憶されているデータのうち、上記ステップS2で未だ判定されていないデータがある場合には、書き戻す処理を終了せずに、ステップS1に戻り、未だ判定されていないデータについて上記と同様の処理を行う。
【0034】
一方、UIM13のCPU131は、書き戻す処理を終了すると判定した場合には(ステップS4:YES)、図4に示す処理を終了し、非接触通信用インターフェイスを用いた処理に移行する。なお、上記ステップS3で書き戻されなかった例えばデータD3xは、図3(F)に示すように、例えば接触通信用インターフェイスの再起動時にデータ記憶領域に書き戻されることになる。つまり、非接触通信用インターフェイスを用いた処理の起動時に元に戻せなかったデータについては例えば応答時間の余裕があるとき、もしくは当該データが必要となったときに元に戻せばよい。
【0035】
以上説明したように、上記実施形態によれば、接触通信用インターフェイスを用いた処理が中断された場合にバックアップ領域にバックアップされたデータをデータ記憶領域に書き戻す処理において、非接触通信用インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該非接触通信用インターフェイスを用いた処理に必要なデータがバックアップ領域にバックアップされていなければ、上記書き戻す処理より非接触通信用インターフェイスを用いた処理を優先して行うように構成したので、処理時間制約が厳しい非接触通信用インターフェイスを用いた処理を正常に行うことができる(エラーが生じない)。
【0036】
なお、上記実施形態においては、本発明における第1のインターフェイスが接触通信用インターフェイスであり、本発明における第2のインターフェイスが非接触通信用インターフェイスである場合を例にとって説明したが、処理時間制約が所定値以上厳しい第2のインターフェイスであれば非接触通信用インターフェイスでなくとも本発明を適用可能であり同様の効果を奏することができる。また、別の例として、本発明における第1のインターフェイスと第2のインターフェイスが共に非接触通信用インターフェイスであっても本発明を適用可能であり同様の効果を奏することができる。
【0037】
また、上記実施形態においては、本発明のICチップを携帯端末1に搭載されたUIM13に適用した場合の例を説明したが、プリペイドカード、クレジットカード、キャッシュカード、社員用カード、又は交通用カード等の所謂、ICカードに搭載されるICチップ(複数のインターフェイスに対応した処理手段を有する)に対しても適用可能である。この場合の優先処理も上記と同様であるが、ケースとしては、例えば、ICカードによる認証機能を有するパーソナルコンピュータ等(例えば、パーソナルコンピュータに接続されたICカード装着機器)からユーザがICカードを引き抜き(これにより、接触通信用インターフェイスを用いた処理が中断)、当該ユーザがそのICカードを用いてドア等の非接触認証ゲートを通過するために、当該ICカードを非接触認証ゲートに備えられる非接触リーダに翳した(非接触通信用インターフェイスを用いた処理開始)場合が考えられ、これにより、図4に示す処理が行われることになる。
【符号の説明】
【0038】
1 携帯端末
2 非接触リーダ
11 コントローラ
12 CLF
13 UIM
131 CPU
132 ROM
133 不揮発性メモリ
134 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインターフェイスに対応した処理手段と、
データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、
第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とするICチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のICチップにおいて、
前記第1の前記インターフェイスは、接触通信用インターフェイスであり、
前記第2の前記インターフェイスは、非接触通信用インターフェイスであることを特徴とするICチップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のICチップにおいて、
前記制御手段は、前記データをバックアップする際に、前記バックアップ対象となる前記データを優先して書き戻すか否か示す情報を含むログデータを前記不揮発性メモリに記憶しておき、
前記制御手段は、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、前記不揮発性メモリに記憶されている前記ログデータを参照して優先して書き戻すデータが前記バックアップ領域にバックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とするICチップ。
【請求項4】
前記ICチップは、UIM(User Identity Module)に搭載されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のICチップ。
【請求項5】
前記UIMは、携帯端末に装着されていることを特徴とする請求項4に記載のICチップ。
【請求項6】
複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備えるICチップにおける処理方法であって、
前記制御手段が、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うことを特徴とするICチップにおける処理方法。
【請求項7】
複数のインターフェイスに対応した処理手段と、データを記憶するデータ記憶領域と前記データをバックアップするためのバックアップ領域と、を有する不揮発性メモリと、第1の前記インターフェイスを用いた処理により受信されたデータを前記データ記憶領域に書き込む際に前記データ記憶領域に記憶されているデータを前記バックアップ領域にバックアップし、前記第1の前記インターフェイスを用いた処理が中断された場合には、前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記記憶領域に書き戻す処理を行う制御手段と、を備えるICチップに含まれるコンピュータを、
前記バックアップ領域にバックアップされている前記データを前記データ記憶領域に書き戻す処理において、前記第1の前記インターフェイスとは異なる第2の前記インターフェイスを用いた処理が起動したとき、当該第2の前記インターフェイスを用いた処理に必要なデータが前記バックアップ領域にバックアップされているか否かを判定し、前記バックアップされていない場合には、前記書き戻す処理より前記第2の前記インターフェイスを用いた処理を優先して行うように機能させることを特徴とするICチップ用処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−37430(P2013−37430A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170969(P2011−170969)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】