説明

ICモジュール及びこれを使用したICカード

【課題】ボンディングワイヤを完全に被覆したICモジュール及びこれを使用したICカードを提供する。
【解決手段】非導電性の基板の一方の面に金属の薄板による独立した外部端子が接着剤を介して複数形成され、他方の面に接着剤を介してICチップが搭載され、前記ICチップの接続端子と前記基板を貫通する孔から表出した前記外部端子の裏側の金属面がボンディングワイヤで接続され、前記ICチップが搭載された側の前記基板上に、前記ICチップと前記ボンディングワイヤを内包するように封止樹脂が形成されたICモジュールにおいて、前記ICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離が、前記ICチップの表出面から前記封止樹脂の上端までの距離の1/2以下としたICモジュール及びこれを使用したICカードを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部端子付きICカードのICモジュール及びこれを使用したICカードに関し、詳しくは外部端子面からの圧力に対する強度を高めたICモジュール及びこれを使用したICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
ICカードには、カード表面に露出した端子と外部装置とを接続して交信する接触型ICカード(JISでは外部端子付きICカード)と、ICカードに内蔵したアンテナで外部装置と交信する非接触型ICカード(JISでは外部端子なしICカード)と、前記両方に対応する接触非接触両用型ICカードがある。
前記接触型ICカードのICモジュールには、近年、単価が安いCOT(Chip On Tape)が使用されている。
COTは、薄いフィルム状の基板に金属薄板を貼り合わせ、金属薄板を腐食することによって独立端子(外部端子)を形成し、前記基板の裏側にICチップを搭載し、基板に形成された基板を貫通する開口部で外部端子とICチップの接続端子(以下、パッド電極ともいう)とをボンディングワイヤで電気的に接続したICモジュールで、ICカードに使用する場合は、ICチップの割れ等による破壊,ボンディングワイヤの外れ,酸化等による接続部の劣化を防止するために樹脂で被覆処理(封止)をして使用する。
【0003】
樹脂による封止方式には、トランスファーモールド方式、ポッティング方式、印刷方式などがある。
トランスファーモールド方式は、ICチップの電極と外部端子電極を接続したICモジュール基板を射出成形装置の金型内に装着し、高温高圧で樹脂を注入する封止方式である。
この方法で作製されたICモジュールは形状安定性に優れるが、チップサイズが変更される度に封止形状を変更する必要があり、そのための金型作製費用が大きい。また、射出成形装置が高価である。
【0004】
ポッティング方式は、ICチップの電極と外部端子電極を接続したICモジュール基板の上に低粘度の樹脂を垂らして樹脂を固化させる封止方式である。
精密なポッティング装置を使用することによって細かい形状に対応できるが、樹脂粘度の管理が難しい。例えば、樹脂の粘度が高すぎることにより発生する樹脂内部の残留気泡や、ディスペンサーの目詰まりによる樹脂切れ等、品質面の問題が課題である。
この方式では、低粘度の樹脂を使用し、樹脂を垂らした後、熱または紫外線等によって樹脂を硬化させるが、硬化までの僅かな時間で形状がくずれ、封止樹脂の外周部が外側にはみ出す場合がある。
【0005】
印刷方式は、スクリーン印刷に近い方法で行うもので、高粘度の樹脂に対応できないという課題がある。また、一回で印刷される封止樹脂の厚さにも限界があり、封止樹脂を厚く形成しなければならない仕様に対しては繰り返し印刷を行って樹脂を厚くする必要がある。
【0006】
前述のポッティング方式や印刷方式は、装置面でトランスファーモールド方式よりも安価であり、チップサイズが変わっても柔軟に対応できるというメリットがある。
【0007】
そこで、モジュール基板にICチップを接着してICモジュールとする際に、モジュール基板とICチップの間に接着剤を介して補強板を形成したICモジュールが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−123809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の特許文献1の発明は、ステンレスなどの薄板をICチップとモジュール基板の間に貼り合せるという構造によって曲げに対する強度補強と、外部端子面からの衝撃に対応させたもので、出来上がったICモジュールのコストが高くなるという課題があった。
また、封止樹脂とボンディングワイヤとの接着は考慮されていないためにICモジュール部にたわみが加えられると、封止樹脂がボンディングワイヤの部分で離れてしまいその部分から亀裂が入るという問題があった。
そこで本発明のICモジュール及びこれを使用したICカードは、ボンディングワイヤを完全に被覆したICモジュール及びこれを使用したICカードを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の目的を達成するために本発明の第一の態様は、非導電性の基板の一方の面に金属の薄板による独立した外部端子が接着剤を介して複数形成され、他方の面に接着剤を介してICチップが搭載され、前記ICチップの接続端子と前記基板を貫通する孔から表出した前記外部端子の裏側の金属面がボンディングワイヤで接続され、前記ICチップが搭載された側の前記基板上に、前記ICチップと前記ボンディングワイヤを内包するように封止樹脂が形成されたICモジュールにおいて、前記ICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離が、前記ICチップの表出面から前記封止樹脂の上端までの距離の1/2以下となっていることを特徴とするものである。
【0011】
また、第二の態様は、第一の態様において、ICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離が50〜100μmであることを特徴とするものである。
【0012】
また、第三の態様は、第一の態様または第二の態様のICモジュールを使用したICカードであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のICモジュールおよびこれを使用したICカードによって下記の効果が期待できる。
外部端子とICチップをボンディングワイヤで接続する方式のICモジュールにおいて、従来は、封止樹脂はボンディングワイヤを固定もしくは被覆していればよいとの前提に立っていた。しかし実際は、封止樹脂でボンディングワイヤを固定するだけでは効果が薄く、特にトランスファーモールド方式による封止方式においては封止樹脂でボンディングワイヤの動きを完全に止める必要があることがわかり、本発明に至ったわけである。
本発明のようにICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離を、ICチップの表出面から封止樹脂の上端までの距離の1/2以下、具体的には100μm程度、好ましくは50μmとし、封止樹脂でボンディングワイヤの動きを完全に止める。
その結果、外部端子面から圧力が加わった場合や、カードを湾曲させたときに、ICモジュールの破壊頻度が極めて低く抑えることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態のICモジュールを封止樹脂側から見た透し図の一例である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】適切なワイヤの高さの一例について説明するための図である。
【図4】ICモジュールの破壊強度試験方法の一例について説明するための図である。
【図5】本発明のICモジュールを使用したICカードの外部端子面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明のICモジュール及びこのモジュールを使用(以下、搭載ともいう)したICカードについて説明する。
本実施の形態のICモジュールは、図1に示すように、非導電性の基板2の一方の面に金属の薄板による独立した外部端子(図示せず)が接着剤を介して複数形成され、他方の面に接着剤を介してICチップ3が搭載されている。
また、ICチップ3の接続端子31と基板2を貫通する孔21から表出した外部端子の裏側の金属面がボンディングワイヤ(以下、単にワイヤともいう)4で接続されている。
【0016】
ICチップ3が搭載された側の基板2の上に、ICチップ3とワイヤ4を内包するように封止樹脂5が形成されている。
後述するが、ICチップ3の表出面からワイヤ4の上端までの距離を、ICチップ3の表出面から封止樹脂5の上端までの距離の1/2以下とする。
以下の説明で、「ICチップの表出面」とは、ICチップの基板に接着されている面と逆の面すなわちICチップのパッド電極が表出した面をいう。
【0017】
ここでICモジュールの作製手順について説明する。
基板2には、30〜300μmの厚さのガラスエポキシやポリイミド、二軸延伸されたポリエステルなど、耐熱性の樹脂フィルムを使用する。
前記基板用のフィルムには感熱性の接着剤、または、易接着剤が塗布され巻き取られる。
図示しないが、樹脂フィルムは所定の幅、例えば、外部端子4〜12列分の幅にスリットされ、ガイドホールと前述の基板を貫通する孔21が4〜12列分開けられる。
【0018】
次に、外部端子面側のガイドホール部を除いた全面に前記感熱性の接着剤によって、または、新たに接着剤が塗布されて金属の薄板が貼り合わされる。
金属の薄板には、銅、ニッケル、ステンレス、真鍮などが使用される。
次に、貼り合わされた金属面全面に感光樹脂(以下、レジストともいう)が塗布され、前述のガイドホールに連動するようにエッチングパターンが焼きこまれる。
【0019】
レジスト面の感光していない部分(外部端子を独立した端子に分離するための溝となる部分)を水で洗い流し、金属の地肌を露出させる。
酸またはアルカリ液を吹き付けて金属が露出した部分の金属薄板をエッチングによって除去する。残ったレジストは、加熱されたアルカリ液などによって除去される。
前述の外部端子面の金属表出面は金、銀、ニッケルなどによって1〜3μmの厚さのメッキが施され防錆処理される。
【0020】
以下、図1、図2を参照してICチップ搭載手順について説明する。
前述の防錆処理された多面付け基板は、1〜2列、または、2〜4列にスリットされ、ICチップ搭載工程に移される。
一又は多列状態の外部端子付き基板は、ICチップ搭載・ワイヤボンディング装置にセットされ、ICチップ3が基板の裏面23に接着剤(図示せず)によって固定される。基板2のICチップ3が搭載されるエリアには、除電のために金属層が設けられる場合もある。
【0021】
ICチップ3が搭載された基板2は搬送されてワイヤボンディング装置に移送され、ICチップのパッド電極31と基板を貫通する孔21から表出する金属面がワイヤ4で接続される。
ICモジュールの外部端子24は、前述のように金属の薄板をエッチングによって形成した溝22によって8個の独立した端子に分離する。
図1に示す例では三つの外部端子は使用されていないが、使用される分野によっては、アンテナなどの中継端子として使用される。
【0022】
ワイヤボンディング工程が終わると、ICチップを搭載した基板はワイヤ部分を保護するための樹脂封止工程に移送される。
ワイヤボンディングされた全領域にトランスファーモールド方式、ポッティング方式、または、印刷方式によって封止樹脂5が形成される。
トランスファーモールド方式ではボンディングワイヤによって接続されたICチップと外部端子が射出成形装置の金型部分に導かれ、封止樹脂5が射出成形によって充填される。
ポッティング方式や印刷方式では封止樹脂5が所定のエリアに留まるように、封止樹脂の粘度を高めに設定するか、基板の裏面23にダム(流れ防止柵)を形成して封止樹脂を注入する。このときに、封止樹脂中に空気の泡を残さないように調整する。
【0023】
図3を参照して、適切なワイヤの高さの一例について説明する。
ワイヤボンディング装置は、外部端子の金属面からICチップのパッド電極31へ(または、ICチップのパッド電極31から外部端子の金属面へ)一箇所ずつワイヤで結線してゆく。このときのICチップ3の表出面からワイヤ4の頂点までの高さaは、ICチップ3の厚さが低いほど、また、ICチップ3のパッド電極から外部端子の裏側の基板を貫通する孔に表出した金属面(図示せず)までの距離が長いほど、また、ワイヤボンディングのスピードが遅いほど低く設定することができる。
【0024】
そこで本実施形態のICモジュール1は、前述のICチップ3の厚さ、ICチップ3のパッド電極から外部端子の前述の金属面までの距離を勘案し、ICチップの表出面からワイヤの上端までの距離aが、ICチップの表出面から封止樹脂の上端までの距離bの1/2以下となるようにワイヤボンディングのスピードを設定する。
その結果、ワイヤ4は完全に封止樹脂5に被覆され、ICモジュール1がICカード基体に搭載されたときに外部応力に対して強固なICカードが実現する。
【0025】
図4、図5を参照して、ICモジュールの破壊強度試験方法の一例について説明する。
図4は、図5に示す本実施形態のICモジュール1を搭載したICカード100のICモジュール部に破壊強度試験機の加圧ヘッドをセットした状態を断面で表した模式図である。
ICモジュール1が接着剤8を介してカード基体7に固定される。
ICモジュール1の封止樹脂5の突端は、カード基体7に形成された凹部の底に接触しない程度に接近した状態で固定されている。前述のように、ICチップ3のパッド電極と外部端子はボンディングワイヤ4で接続されている。
ICカード100が破壊強度試験機に装着され、破壊強度試験機の加圧ヘッド6を図に示すように、ICモジュール1の中央部に軽く接触させ、徐々に加圧してゆく。
加圧が破壊強度に到達すると、ICモジュール1に実装されたICチップ3が破壊するか、ボンディングワイヤ4が断線するか、ボンディングワイヤが基板又はICチップ3のパッド電極から外れてしまう。前記何れかの原因によって外部装置とICチップの間で交信ができなくなってしまう。この段階を外圧による耐圧強度としている。
【0026】
図2を参照して本実施形態のICモジュール1の実施例について説明する。
基材2としてガラスエポキシ(利昌工業製、厚さ110μm)を使用した。
前記基材2の片側(外部端子形成面)に銅の薄板(厚さ35μm)を貼り付け、端子電極をパターン状に形成した後、ニッケルで表面をメッキした(メッキの厚さは2μm)。
ICチップは、3mm角(厚さ180μm)のICカード用チップ(ルネサステクノロジ社製)を使用した。接着剤を介してICチップを基板2の裏面に搭載した。
ボンディング装置でICチップのパッド電極と基板を貫通する孔21に露出した外部端子をボンディングワイヤ4(25μmφ)で接続した。
(実施例1)
射出成形装置(トランスファモールド方式)によって、ICチップ3の表出面からボンディングワイヤ4の上端までの距離がICチップ3の表出面から封止樹脂5の頂上までの距離の1/2以下となるようにモールド樹脂を注入して封止樹脂を形成した。
(実施例2)
ポッティング装置を使用し、封止樹脂5として絶縁性エポキシ樹脂(パナシーラーCV5780A)をボンディングワイヤ4の内側に、ICチップ3の表出面からボンディングワイヤ4の上端までの距離が、ICチップ3の表出面から封止樹脂5の頂上までの距離の1/2以下となるように滴下した。
乾燥炉を150度に設定し、2時間乾燥させてICモジュールを完成させた。
【0027】
前述の実施例1及び2では、ICチップ3の表出面からボンディングワイヤ4の上端までの距離が100μm以下、好ましくは50〜60μmとなるようにボンディング装置を調整し、封止樹脂のICチップ3の表出面から封止樹脂5の頂上までの距離を200μm以下、好ましくは150μmとした。
実施例1及び2によって作製したICモジュールをカード基体に実装し、耐圧試験を行い、何れも良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
外部応力に対して強い外部端子付きICカード用ICモジュールとして利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 ICモジュール
2 基板
3 ICチップ
4 ボンディングワイヤ
5 封止樹脂
6 破壊強度試験器加圧ヘッド
7 カード基体
8 接着剤
21 基板を貫通する孔
22 溝
23 基板裏面
24 外部端子
31 接続端子、パッド電極
100 ICカード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性の基板の一方の面に金属の薄板による独立した外部端子が接着剤を介して複数形成され、他方の面に接着剤を介してICチップが搭載され、
前記ICチップの接続端子と前記基板を貫通する孔から表出した前記外部端子の裏側の金属面がボンディングワイヤで接続され、
前記ICチップが搭載された側の前記基板上に、前記ICチップと前記ボンディングワイヤを内包するように封止樹脂が形成されたICモジュールにおいて、
前記ICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離が、前記ICチップの表出面から前記封止樹脂の上端までの距離の1/2以下となっていることを特徴とするICモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のICモジュールにおいて、
ICチップの表出面から前記ボンディングワイヤの上端までの距離が50〜100μmであることを特徴とするICモジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載のICモジュールを使用したことを特徴とするICカード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−237967(P2011−237967A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108070(P2010−108070)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】