ICP分析方法
【課題】低純度シリコンに含まれるエレメントの濃度を精確に分析するためのICP分析方法を提供する。
【解決手段】本発明のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを溶解させてターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加してエレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過してICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なって発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、該内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【解決手段】本発明のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを溶解させてターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加してエレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過してICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なって発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、該内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP分析方法に関し、特にシリコンの精製工程における不純物測定に好適に用いられるICP分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に用いられるシリコンは、ボロン、リン、およびその他金属群を不純物として含んでいる。シリコンを太陽電池などの各種用途に用いるためには、シリコンを精製して高純度化する。シリコンの精製法には、大別して化学法と冶金法とがある。
【0003】
化学法は、塩素系ガスを用い気相成長させることで高純度ポリシリコンを精製する技術である。一方、冶金法は、金属級シリコンに含まれる天然由来の混入不純物の濃度を徐々に減少させて、最終的にソーラーグレードの高純度シリコンまで精製するという技術である。
【0004】
冶金法は、III族エレメントの濃度を減少させる工程と、V族エレメントの濃度を減少させる工程と、金属系エレメントの濃度を減少させる工程とにより、ソーラーグレードの高純度のシリコンを得るというものである。
【0005】
たとえば特許文献1には、金属級シリコンにスラグを添加し、このスラグへの分配比率の差により、III族エレメントの主にボロン、アルミニウムの濃度を低下させる技術が開示されている。また、たとえば特許文献2では、真空蒸発法を用いて蒸気圧力差を利用することにより、V族エレメントの濃度を低下させる技術が開示されている。また、たとえば特許文献3では、偏析係数の差を利用することにより、金属系エレメントの濃度を低下させる技術が開示されている。
【0006】
金属級シリコンに含まれる不純物は、一方向凝固などの偏析法により偏析して除去される。偏析法は、不純物の偏析係数に基づいて偏析を行なうものである。金属級シリコンに含まれる金属群は、10-3〜10-6程度の偏析係数を有するため偏析法により比較的除去しやすい。一方、偏析係数が0.80のボロンや、偏析係数が0.35のリンは偏析係数が大きいことから除去しにくい傾向にある。
【0007】
ところで、たとえば特許文献4には、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析により、シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する方法が開示されている。ICP分析では、各エレメントがプラズマからエネルギーを受け取って励起され、それが基底状態に戻るときに特定の発光波長の光を発光する。この発光強度に基づいて、各エレメントの濃度を分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−247623号公報
【特許文献2】特開2005−231956号公報
【特許文献3】特開2007−326749号公報
【特許文献4】特開平11−295225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリコンの精製工程において、低純度シリコンに含まれるボロンやリンなどの不純物濃度を精確に分析することは、精製の精度を高める上で極めて重要である。一方、特許文献4の分析方法によれば、太陽電池、半導体、電子材料などに用いる高純度シリコンに含まれる不純物をppm〜ppbレベルの精度で分析することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献4のICP分析方法を用いて低純度シリコンを分析すると、シリコン中に存在するミクロな異物によりICP分析が阻害されて、安定して不純物の濃度を検出することができないという問題があった。
【0011】
また、ICP分析は、プラズマトーチ内に導入した際の各エレメントの電離率により発光のし易さが異なり、エレメントの電離率が低いほど固体の異物の影響を受けて発光しにくい。このため、ボロンおよびリンのように極端に電離率の低いエレメントは、エネルギーが十分伝わらないうちにプラズマ部を通過してしまい、実際のエレメントの濃度よりも濃度が低くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低純度シリコンに含まれるエレメントの濃度を精確に分析するためのICP分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記のような問題点を種々検討した結果、各エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの相関関係を利用することを検討した。図1は、エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの関係を示すグラフである。図1からも明らかなように、各エレメントの電離率とイオン化エネルギーとは相関関係があり、特に7.5eV以上8eV以下の範囲でイオン化エネルギーが増加すると、そのエレメントの電離率はほぼ一次関数的に減少する関係がある。
【0014】
よって、エレメントのイオン化エネルギーが大きいほど、エレメントの電離率が小さく、ICP分析で発光しにくいエレメントということができる。本発明者らは、このような一次関数の関係に基づいて、ICP分析によるエレメントの濃度の測定結果を該エレメントのイオン化エネルギーにより補正することを検討した。その結果、補正ファクターとしてイオン化エネルギーを用いることにより、ICP分析による濃度測定値をより高精度に補正し得ることを見い出した。
【0015】
すなわち、本発明のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、該内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
内部標準エレメントの回収率を得るステップの後に、2種以上の内部標準エレメントの回収率と、該内部標準エレメントのイオン化エネルギーとを線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップと、該一次関数式に対し、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップと、発光スペクトルに基づいて、ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップと、該ターゲットエレメントの濃度測定値を、ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップとを含むことが好ましい。
【0017】
ICP回収液を得るステップの後に、ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、鉄およびチタンの濃度に基づいて、内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含むことが好ましい。
【0018】
ターゲットエレメントは、ボロンまたはリンのいずれか一方もしくは両方であり、内部標準エレメントは、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
内部標準エレメントは、ストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方であることが好ましい。鉄の濃度が5ppm以下であり、かつチタンの濃度が10ppm以下である場合、発光スペクトルの234.830nmまたは313.038nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0020】
鉄の濃度が5ppmを超え、かつチタンの濃度が10ppm以下である場合、発光スペクトルの313.107nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0021】
鉄の濃度が5ppmを超え、かつチタンの濃度が10ppmを超える場合、内部標準エレメントは、ストロンチウムを含むことが好ましい。
【0022】
内部標準エレメントの回収率に基づいて、シリコンに含まれる異物量を推定するステップを含むことが好ましい。
【0023】
ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、ターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加するステップを含み、糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下であることが好ましい。
【0024】
上記の糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0025】
ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、ターゲットエレメント含有液に対し、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖を添加するステップを含むことが好ましい。
【0026】
一次関数式は、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0027】
Y=−0.011×X+1.01 ・・・式(1)
上記のICP回収液は、ネブライザーを介してプラズマトーチ内に導入するものであり、かかるICP分析方法により得られる内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点でネブライザーを交換する、ネブライザーの交換時期の推定方法でもある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、シリコンに含まれるターゲットエレメントの補正係数を各サンプルごとに求めることができ、ターゲットエレメントの濃度を真値により近い値に補正することができる。また、シリコンのみならずシリカ塊やシリカ粉などのSiO2を測定対象物にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図2】(a)は、ボロンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフであり、(b)は、リンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフであり、(c)は、一般金属を除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフである。
【図3】ICP発光分光法の測定原理を説明するための模式的な図である。
【図4】内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を示すグラフである。
【図5】ICP回収液中の鉄の濃度が0.09ppm、23.4ppm、58.8ppm、および143ppmのときのICP発光スペクトルである。
【図6】ICP回収液中のチタンの濃度が5.0ppm、12.4ppm、35.7ppm、および132.5ppmのときのICP発光スペクトルである。
【図7】実験例1〜13における、ボロン濃度の測定値と、ストロンチウム補正後のボロンの濃度推定値と、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値との棒グラフである。
【図8】(a)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られた内部標準エレメントの回収率を示すグラフであり、(b)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたストロンチウム、リチウム、およびベリリウムの回収率を示すグラフであり、(c)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたボロンの濃度を示すグラフである。
【図9】添加する糖とボロンの回収率との関係を示す棒グラフである。
【図10】糖の分子量に対するボロンの回収率を示すグラフである。
【図11】(a)は、BP品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフであり、(b)は、IIS脱P品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフであり、(c)は、D2品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のICP分析方法を説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わすものではない。なお、以下において、「エレメント」とは、シリコン中に含まれるSi以外の元素のことを意味し、いわゆるシリコン中の不純物を意味する。
【0031】
図2は、低純度シリコンに含まれるエレメントを除去した後であって、フィルターろ過する前のICP回収液に含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフである。
【0032】
図2(a)は、ボロンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布であり、図2(b)は、リンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布であり、図2(c)は、一般金属を除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布である。図2(a)〜(c)のいずれも、縦軸に異物の個数を示し、横軸に異物の粒子の直径を示している。
【0033】
なお、図2に示される結果は、20μmのアパーチャーを用いて異物を測定したため、0.4μm以下の粒径の異物は測定していないが、連続的な振舞いをすると仮定すると、0.4μm以下の異物も相当数あるものと推察される。
【0034】
図2に示されるように、シリコンを酸性の溶媒に溶解して得られたICP回収液には多数の固体の異物が存在する。このように固体の異物が多いと、フィルターを通しても、シリコンに含まれる固体の異物を完全には除去することができず、フィルターの孔径を通る微細な異物が多数存在する。
【0035】
かかる微細な異物により、電離度の低いエレメントが発光しにくくなる。このため、低純度シリコンをICP分析すると、低純度シリコンに含まれるエレメントの濃度よりもエレメントの濃度が低く検出される傾向がある。このようにICP分析により濃度が低めに検出されて、精確な濃度の値を得ることができないエレメントのことを「ターゲットエレメント」という。
【0036】
【表1】
【0037】
表1は、シリコンに含まれる代表的なエレメントを示している。表1に示されるように、リンおよびホウ素は、電離率が他のエレメントに比べて低いため、ICP分析によっても精確な濃度を得にくい。このことから、リン、ホウ素等のようなエレメントをターゲットエレメントとすることが好ましい。
【0038】
一方、表1に示されるクロム、マンガン、鉄等のようなエレメントは、電離率が比較的高いため、ICP分析によってもある程度精確な濃度を得ることができる。このようにある程度精確に濃度を測定し得るエレメントのことを「内部標準エレメント」という。内部標準エレメントとしては、クロム、マンガン、鉄等のようなエレメントを用いることが好ましい。本発明は、このような内部標準エレメントの濃度に基づいて、ターゲットエレメントの濃度を真値により近くなるように補正する。以下、本発明のICP分析方法の各ステップを説明する。
【0039】
(実施の形態1)
本実施の形態のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値をそれぞれ得るステップと、内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【0040】
本実施の形態のようにして算出される内部標準エレメントの回収率は、低純度シリコンに含まれるターゲットエレメントの精確な濃度を得る補正ファクターとして用いることができる他、シリコンに含まれる異物数の大小の評価にも用いることができる。また、回収率の測定ごとの計時変化を追跡することにより、ICP装置に用いられるネブライザーの交換時期を推定することもできる。以下においては、本実施の形態のICP分析の各ステップを説明する。
【0041】
<ターゲットエレメント含有液を得るステップ>
まず、ターゲットエレメントを含むシリコンウェハを粉砕する。粉砕したシリコン粉末を目開0.93mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ20)と、目開4.31mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ5)とにより選別する。メッシュ20のふるいの上には、粉砕サイズが1mm〜5mm程度のシリコン粉末が残る。
【0042】
次に、超音波洗浄を行なったテフロン(登録商標)ビーカー内に、1.00〜1.05gのシリコン粉末と、酸性の溶液とを混入する。このようにしてシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得る。ここで、シリコンの溶解に用いる酸性の溶液としては、たとえば60質量%以上61質量%以下の硝酸水溶液を挙げることができ、このような酸性の溶液を30ml程度用いることが好ましい。
【0043】
<糖を添加するステップ>
上記で得られたターゲットエレメント含有液に対し、たとえば0.4質量%の濃度の糖を含む水溶液を0.3ml混合することが好ましい。ここで、ターゲットエレメント含有液に混合する糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖を添加することが好ましい。
【0044】
このような糖は、エレメント混合液中でターゲットエレメントを錯体化して大分子状態になる。そして、ターゲットエレメントの蒸発を抑制することにより、ターゲットエレメントの回収率を高めることができる。このような糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下であることが好ましい。糖の分子量が大きいほど大分子状態の錯体を形成し、もってターゲットエレメントの回収率を向上させることができる。このように分子量の大きい糖は、錯体を形成することにより、ターゲットエレメントの揮散を防止する効果があり、特に有効である。ちなみに、キシリトールの分子量は152.15g/molであり、グルコースおよびフルクトースの分子量は180.16g/molであり、マンニトールの分子量は182.17g/molであり、マルトースの分子量は342.3g/molである。
【0045】
なお、このような糖を添加するステップを必ずしも含まなくてもよく、上記で得られたターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加することなく、後述するエレメント混合液を得るステップを行なってもよい。
【0046】
<ターゲットエレメント含有液を滴化回収するステップ>
次に、ターゲットエレメント含有液を入れたテフロン(登録商標)ビーカーをホットプレート上に設置する。そして、テフロン(登録商標)ビーカーに46質量%以上51質量%以下のフッ化水素酸を8ml混入する。これによりテフロン(登録商標)ビーカーに沈んでいるシリコンとフッ化水素酸とが反応する。この反応が落ち着いたところで、再度フッ化水素酸を8ml混入すると、テフロン(登録商標)ビーカー内の溶液が褐色から無色に変化し始める。無色になり始めたときにターゲットエレメント含有液を滴化回収法により濃縮することが好ましい。なお、ターゲットエレメント含有液の酸を蒸発させる方法は、滴化回収法に限られるものではない。
【0047】
滴化回収法は、ホットプレートを200℃以上に昇温して、フッ化水素酸、水、および硝酸をそれぞれ蒸発させることにより行なわれる。滴化回収法は、ターゲットエレメントを揮散させることなく、高回収率で回収することができる。特にターゲットエレメントがボロンのときに高回収率となる。しかも、化学処理マージンが確保されており、安定して化学処理を行なうことができる。
【0048】
滴化回収法中に蒸発させた酸の一部は、テフロン(登録商標)ビーカーの胴部に付着するが、この付着した酸は、テフロン(登録商標)ビーカーの底に衝撃を与えて、テフロン(登録商標)ビーカーの底に落下させることが好ましい。これによりターゲットエレメントの回収率を高めることができる。
【0049】
このようにしてテフロン(登録商標)ビーカー内のエレメント含有液が徐々に蒸発して、テフロン(登録商標)ビーカーの底に液滴が残る。この液滴が、Φ2mm(約2.1μlの体積)以上Φ5mm以下(約33μlの体積)の大きさのときに回収する。回収時の液滴がΦ2mm未満であると、上記で添加した糖が焦げ始めることにより、ターゲットエレメントの一部が回収できなくなるため好ましくない。このようにしてテフロン(登録商標)ビーカーの底にΦ2mm以上Φ5mm以下の液滴が残るようにする。
【0050】
<エレメント混合液を得るステップ>
上記の液滴に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を過剰量添加することにより、エレメント混合液を得る。すなわち、上記ターゲットエレメントを含む液滴の体積に対し、40倍以上の内部標準溶液を添加することが好ましい。これにより後のICP回収液に対する液滴の体積が2.5%以下となり、誤差許容範囲となる。
【0051】
ここで、内部標準エレメントを含む内部標準溶液としては、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上の元素を酸に溶解させたものを用いることができる。このような内部標準溶液は、たとえばベリリウムを含む硝酸溶液と、ストロンチウムを含む硝酸溶液と、リチウムを含む硝酸溶液とを混合することにより得られる。ベリリウムは、高イオン化エネルギーを有するため、高精度に補正するための内部標準エレメントとして特に好適に用いられる。ストロンチウムおよびリチウムは、発光波長が長いため、一般金属の発光干渉を受けず、しかも、ストロンチウムおよびリチウムは、シリコン精製工程において蒸発するのでシリコン中には微量しか内在しないため内部標準エレメントに好適に用いられる。
【0052】
ここで、内部標準溶液に含まれる内部標準エレメントは、精確に定量されて濃度が把握できるものを用いる必要がある。このような内部標準溶液は、100ppm以上1000ppm以下の内部標準エレメントを含むことが好ましい。代表的には、1000ppmのリチウムと、1000ppmのベリリウムと、1000ppmのストロンチウムとを含む0.01mol/LのHNO3水溶液を挙げることができる。
【0053】
上記の内部標準エレメントは、少なくともベリリウムを含み、さらにストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方を含むことが好ましい。このように高イオン化エネルギーを有するベリリウムを必須として含み、かつ低イオン化エネルギーを有するストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方を含むことが好ましい。後述するが、ベリリウムは鉄またはチタンの発光波長と近似するため、分光波長が生じて濃度測定値が誤測定される場合がある。一方、ストロンチウムまたはリチウムは、このような分光干渉が生じる可能性が極めて低く好適に用いることができる。
【0054】
<ICP回収液を得るステップ>
上記で得られたエレメント混合液を親水性PTFEフィルターによってろ過することにより得られたろ液がICP回収液となる。このようなろ過を行なうことにより、シリコンに含まれる異物のうちの径が大きいものを除去する。
【0055】
ここで、エレメント混合液のろ過は、自然落下方式と、強制ろ過方式とのいずれを用いてもよいが、強制ろ過方式でろ過することが好ましい。強制ろ過方式は、ろ過フィルターの孔径を極端に小さくすることができる。この場合、ろ過フィルターとしては、ディスミックフィルターを用い、シリンジをルアーロックする。一方、自然落下方式のろ過は、ろ過に要する時間が長く、しかも目詰まりすることもあるため好ましくない。
【0056】
<発光スペクトルを得るステップ>
図3は、ICP発光分光法の測定原理を説明するための模式的な図である。ICP分析装置は、図3に示されるように、サンプルチューブ10、Arガスチューブ11、ネブライザー12、チャンバー13、プラズマトーチ20、RFコイル21、および分光器19を備えるものである。
【0057】
そして、異物を含むシリコンを対象とするICP測定では、図3に示されるプラズマトーチ20に、ターゲットエレメントや異物16を含むICP回収液を導入する。そして、Arプラズマにより、ボロン14、リン15、さらにその他の金属エレメントを発光させる。
【0058】
上記で得られたICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより、発光スペクトルを得る。このようにして得られた発光スペクトルは、ICP回収液に含まれる各エレメントに対応する発光波長があり、かかる発光波長の発光線に基づいて、各エレメントの濃度を算出する。
【0059】
ただし、ターゲットエレメントは、ICP分析により発光しにくいことにより、発光スペクトルに一部反映されない。このため、ターゲットエレメントの濃度は、真値よりも低めに算出される傾向がある。すなわち、図3を用いて説明すると、ボロン17およびリン18は、イオン化エネルギーが一般金属よりも高いため、エネルギーを多量に受ける必要があるが、異物にプラズマのエネルギーを奪われることにより、ボロンおよびリンに対し十分にエネルギーを与えることができず、未発光のまま通過することになる。このようにボロンおよびリンは、異物16の影響により発光しきれないため、発光スペクトルに反映されず、低めの濃度に検出される。そこで、本発明によって算出される回収率を用いることにより、若干低めに算出された濃度を真値に近くなるように補正する。
【0060】
<内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記で得られたICP分析による発光スペクトルに基づいて、内部標準エレメントの濃度測定値を得ることができる。内部標準エレメントの濃度測定値を得る方法は、従来公知の方法により行なうことができる。
【0061】
<内部標準エレメントの回収率を得るステップ>
上記で得られた内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得ることができる。すなわちたとえば、ICP回収液に含まれるベリリウムの濃度が100ppbであって、かつ発光スペクトルに基づくベリリウムの濃度測定値が90ppbであるとき、ストロンチウムの回収率は0.9となる。このようにして得られる回収率は、ICP分析の精度が高いほど1に近づき、回収率1が理想的であるが、シリコン中の異物によるICP分析の阻害により現実的には0.9前後の回収率になる。
【0062】
<イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップ>
図4は、内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を示すグラフである。図4に示されるように、内部標準エレメントのイオン化エネルギーが大きくなるほど、内部標準エレメントの回収率は低下する傾向にある。図4では、たとえばリチウムとストロンチウムとベリリウムとを内部標準エレメントとして用い、これらのそれぞれの回収率を◇でプロットしている。なお、かかる回収率の値は、±0.02程度の誤差を含み得るため、誤差バーを◇プロットの上下に示している。
【0063】
このように内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得ることができる。図4では、リチウム、ストロンチウム、およびベリリウムのイオン化エネルギーと回収率とに基づいて線形近似して得られる一次関数式を点線で示している。
【0064】
このようにして得られる一次関数式の精度を高めるためには、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントを2種以上用いることが必須であるが、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントは多いほど好ましいというわけではなく、高精度に測定したいターゲットエレメントのイオン化エネルギーに着目し、かつ、測定しようとしているサンプルの中には測定に影響しない程度しか存在しない内部標準エレメントを用いることが好ましい。
【0065】
すなわち、内部標準エレメントとしては、ボロンおよびリンのイオン化エネルギーに近いベリリウムを少なくとも含み、かつ一般金属のイオン化エネルギーに近いストロンチウムおよびリチウムを含むことが好ましい。ただし、低イオン化エネルギーの内部標準エレメントとしては、ストロンチウムおよびリチウムに代えて、たとえばイットリウム、モリブデン、ルビジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、イッテルビウム、およびトリウムからなる群より選択される1種以上を用いることができる。中でも、希土類系のイットリウム、アルカリ系のルビジウムは安価であるため好ましい。一方、ランタノイド系およびアクチノイド系の内部標準エレメントは、内部標準液が高価であるため経済的ではない。
【0066】
内部標準エレメントとしてモリブデンを用いる場合、モリブデンはシリコン精製装置のパーツに用いられていることにより、コンタミとなる可能性があるため、内部標準エレメントの濃度を最適化する必要がある。一方、銀はシリコン精製装置にも精製材料にも含まれておらず、しかも安価であるため内部標準エレメントとして好適に用いることができる。
【0067】
通常3種の内部標準エレメントを用いて一次関数式を得るが、4種以上の内部標準エレメントを用いて一次関数式を得ることが好ましい。一次関数式を得るための計算は従来公知の方法により行なわれる。
【0068】
<ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップ>
上記の一次関数式に対し、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、ターゲットエレメントの回収率の推定値を得ることができる。なお、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーは、たとえば表1に示される周知の値を採用するものとする。たとえば図4中の点線で示された一次関数式に対し、たとえばボロンのイオン化エネルギーの値を代入すると、ボロンの回収率は、0.91程度となる。
【0069】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記のICP分析の発光スペクトルの結果に基づいて、ターゲットエレメントの濃度測定値を得る。ここで得られたターゲットエレメントの濃度測定値は、上述したように実際にシリコン中に混入されているターゲットエレメントの濃度(真値)よりもやや低い値である。このため、後のターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップにより補正する。
【0070】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップ>
上記で得られたターゲットエレメントの濃度測定値を、ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、ターゲットエレメントの濃度測定値を補正することができる。このようにして補正されたターゲットエレメントの濃度測定値は、ターゲットエレメントの濃度測定値よりも真値に近いものとなる。以上で述べたICP分析方法により、ターゲットエレメントの濃度をより正確な値に補正することができる。
【0071】
上記のICP回収液を得るステップの後に、ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、鉄およびチタンの濃度に基づいて、内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含むことが好ましい。このような各ステップを含むことにより、上記ターゲットエレメントの濃度を補正する精度を高めることができる。
【0072】
すなわち、ICP回収液において、鉄およびチタンの発光波長とベリリウムの発光波長とが近似しているため、鉄の発光線がベリリウムの発光線に対し分光干渉を起こしやすい。かかる分光干渉によりベリリウムの真の濃度値よりも高い濃度測定値を算出されてしまうという問題がある。
【0073】
よって、予めICP回収液中の鉄およびチタンの濃度を算出し、鉄およびチタンの濃度が高い場合には、たとえば内部標準エレメントのうちのベリリウムを除外する等のように内部標準エレメントの種類を選択するか、またはベリリウムの発光波長のうちの鉄またはチタンと重複する発光波長を除外してベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0074】
このように内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択することにより、鉄およびチタンの分光干渉の影響を受けることなく、内部標準エレメントの濃度測定値を得ることができる。以下、ベリリウムの発光線と、鉄およびチタンの発光線との関係を詳述する。
【0075】
ICP分析によるベリリウムの発光線の波長は、234.861nmおよび313.107nmである。一方、ICP分析による鉄の発光線の波長は、様々あるがそのうち234.830nmがベリリウムの発光線に近接し分光干渉する。よって、ICP回収液中の鉄の濃度が高くなると、鉄の234.830nmの発光波長の発光線がベリリウムの234.861nmの発光線に分光干渉し、ベリリウムの濃度測定値を正確に得ることはできない。
【0076】
図5は、ICP回収液中の鉄の濃度が0.09ppm、23.4ppm、58.8ppm、および143ppmのときのICP発光スペクトルである。図5のICP発光スペクトルでは、234.811nm〜234.904nmの発光波長における発光スペクトルを示している。
【0077】
図5からも明らかなように、鉄の濃度が高いほど、ベリリウムの234.861nmの発光波長の発光線が分光干渉を受けて、ICP発光スペクトルにおけるベリリウムの積分開始テール波長強度が高くなり、濃度測定値は低く算出される。
【0078】
よって、鉄の濃度が5ppmを超える場合には、234.861nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することは好ましくなく、313.107nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することが好ましい。
【0079】
図6は、ICP回収液中のチタンの濃度が5.0ppm、12.4ppm、35.7ppm、および132.5ppmのときのICP発光スペクトルである。図6のICP発光スペクトルでは、312.973nm〜313.175nmの発光波長における発光スペクトルを示している。
【0080】
図6からも明らかなように、チタンの濃度が高いほど、ベリリウムの313.107nmの発光波長の発光線が分光干渉を受けて、ICP発光スペクトルにおけるベリリウムの積分開始テール波長強度が高くなり、濃度測定値は低く算出される。
【0081】
よって、チタンの濃度が10ppmを超える場合には、313.107nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することは好ましくなく、234.861nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することが好ましい。
【0082】
以上の結果から、ICP回収液中に鉄およびチタンをいずれも高濃度に含む場合、すなわち鉄を5ppmを超え、かつチタンを10ppmを超える場合、内部標準エレメントとしてベリリウムを用いることは好ましくなく、たとえば内部標準エレメントとしてストロンチウムを用いることが好ましい。
【0083】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で算出された内部標準エレメントの回収率に基づいて、シリコンに含まれる異物量を推定することを特徴とする。このようにして得られるシリコン中の異物量は、工程管理手法、または品質管理法として極めて有効に運用することができる。
【0084】
すなわち、シリコン精製工程の各段階でICP分析を行なうことにより、シリコンに含まれる異物量を把握し、規定よりも異物が多いシリコンに対して、速やかに現場にフィードバックすることができる。なお、ICP回収液中の固体の異物は、酸性の溶液によって溶解されない異物であり、この異物が多いことは、そのままシリコン中の異物が多いことを示す。
【0085】
図11(a)は、BP品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示し、図11(b)は、IIS脱P品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示し、図11(c)は、D2品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示している。図11において、BP品とは、天然出発材料(低グレード金属シリコン:石英還元材料)であり、IIS脱P品とは、低グレード金属シリコンを脱ボロン処理した後電子ビーム溶融法により脱P処理したものであり、D2品とは、シリコンウェハ主体の再精製品である。図11(a)、図11(b)、および図11(c)に示される棒グラフは、以下の表2に示される各データに基づいて作成したものである。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示される結果から、内部標準エレメントの回収率が異なることが明らかである。すなわち、BP品およびIIS脱P品においては、平均92%程度の回収率でBeを回収するのに対し、D2品は、平均95%程度の回収率でBeを回収する。Beと同様にSrおよびLiの内部標準エレメントに関しても、BP品およびIIS脱P品は、回収率が低くなっている。
【0088】
脱金属処理は、シリコンを再溶融させてそれを再結晶化させるものであるため、シリコン中の金属は偏析原理により濃度が低下し、同時にシリコン中の異物も異物比重差により沈殿して、異物濃度が減少する。しかし、再結晶化したシリコンの異物は、溶融するシリコンに含まれる異物濃度の高低が反映される。すなわち、化学法で精製されたケミカルポリシリコンを使用して結晶化されたD2のようなウェハであると異物は少なくなる一方、天然出発材料からスタートしたシリコンは鉱物中に含まれる高融点結晶SiCの微結晶を含み、かかるSiCの微結晶が異物となる。
【0089】
したがって、天然材料から還元して得られるシリコンは、既にウェハになっているシリコンよりも高濃度の異物を含むこととなる。このようなことから、ICP回収液中の異物SiC(フィルターろ過後であるから孔径0.50μm以下の異物)濃度が比較できるということになる。
【0090】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で算出された内部標準エレメントの回収率に基づいて、ICP測定装置のプラズマトーチにICP回収液を導入するためのネブライザーの交換時期を推定することを特徴とする。すなわち、内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点により、ネブライザーを交換するタイミングを把握する。
【0091】
ここで、ネブライザーは、ICP回収液をプラズマトーチに導入するごとに、通常の酸洗浄では除去しきれない付着物が堆積して次第に劣化する。このように劣化したネブライザーを用いると、内部標準エレメントがネブライザーに付着することにより、内部標準エレメントの濃度測定値が低下し、内部標準エレメントの回収率が低下する。
【0092】
従来は、ICP回収液のショット回数に基づいてネブライザーを交換していたため、ネブライザーの劣化に応じて適切に交換することができなかった。そこで、本発明のように内部標準エレメントの回収率に基づいて、ネブライザーを交換することにより、ネブライザーの劣化に応じてネブライザーを新しいものに交換することができる。しかも、大して劣化していないネブライザーを交換することもなくなり、コスト低減にも寄与する。たとえば内部標準エレメントとしてベリリウムを用いる場合、ベリリウムの回収率が0.9未満になったときにネブライザーを交換することが好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
<実施例1>
<ターゲットエレメント含有液を得るステップ>
まず、10質量%程度の電子工業用グレードの硝酸水溶液を50℃以上60℃以下に昇温した。そして、この硝酸水溶液にテフロン(登録商標)ビーカーを浸漬させて、超音波洗浄を3時間以上行なった。次に、テフロン(登録商標)ビーカーを超純水およびバブリング超純水により洗浄した。
【0095】
一方、シリコンウェハを、タングステンカーバイド製の乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。ここで、比抵抗率の計算に基づいてシリコンウェハ中のボロン濃度を測定したところ0.38ppmであった。上記で粉砕したシリコンウェハを目開0.93mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ20)、および目開4.31mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ5)により選別した。メッシュ20のふるいの上には、粉砕サイズが1mm〜5mm程度のシリコンが残った。
【0096】
次に、イオナイザーによりテフロン(登録商標)ビーカーの帯電を除去した上で、テフロン(登録商標)ビーカーを電子天秤にセットした。そして、電子天秤をゼロ調整した後に、洗浄済のプラスチックさじで1.00〜1.05gのシリコン粉末をテフロン(登録商標)ビーカーに秤量した。そして、テフロン(登録商標)ビーカーをホットプレートに設置し、マクロピペットで60質量%以上61質量%以下の原子吸光分析用の硝酸水溶液(関東化学株式会社製)30mlを注入することにより、ターゲットエレメント含有液を得た。
【0097】
<糖を添加するステップ>
次に、マンニトール(製品番号:特級[000-47582](キシダ化学株式会社製))を純水で希釈して得た0.4質量%のマンニトール水溶液0.3mlを、ターゲットエレメント含有液に混合した。
【0098】
<ターゲットエレメント含有液を滴化回収するステップ>
上記のターゲットエレメント含有液に対し、マクロピペットを用いて46質量%以上51質量%以下のフッ化水素酸(製品名:Ultrapur-100:製品番号:18083-3B(関東化学株式会社製))を8ml注入した。このとき、フッ化水素酸が次第に硝酸水溶液に拡散し、シリコンビーカーに沈殿しているシリコン粉末と反応した。この反応により褐色のNOxガスが発生し、10分後に反応が落ち着いた。このときに再度フッ化水素酸を8ml注入した。1回目の注入と同様にNOxガスが発生したが、しばらくするとガスが発生しなくなった。
【0099】
このときのテフロン(登録商標)ビーカーの内部を観察し、褐色の溶液から透明な状態に変化し始めたときに、ホットプレートを250℃に昇温した。これによりフッ化水素酸、水、および硝酸を蒸発させた。弗化水素酸の沸点は86℃であり、水の沸点は100℃であり、硝酸の沸点は130℃である。このため、ホットプレートを用いてテフロン(登録商標)ビーカーを昇温すると、沸点の低い弗化水素酸から順に、水、および硝酸が蒸発した。
【0100】
ホットプレートでテフロン(登録商標)ビーカーを加熱すると、テフロン(登録商標)ビーカーの胴部に温度ムラが発生し、その胴部に蒸発した酸が玉状に付着した。この玉状の酸をテフロン(登録商標)ビーカーの底面に落とすために、テフロン(登録商標)ビーカーの底に軽く衝撃を与え、玉状に付着した酸をビーカー底に落とし、最終的にビーカー底の液玉の大きさがΦ2mm以上Φ5mm以下になるまで蒸発を行なった。
【0101】
<エレメント混合液を得るステップ>
次に、100mlの広口容器に1000mg/Lのベリリウムを含み0.5mol/LのHNO3水溶液(製品番号:04869-1B(関東化学株式会社製))を10ml分取した。そして、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。同様に、1000mg/Lのストロンチウムを含み0.1mol/LのHNO3水溶液(製品番号37876-1B(関東化学株式会社製))10mlを100mlの広口容器に分取し、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。
【0102】
また、1000mg/Lのリチウムを含み0.01mol/LのHNO3水溶液(製品番号:24245-1B(関東化学株式会社製))10mlを100mlの広口容器に分取し、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。このようにして3種の内部標準溶液の原液を準備した。
【0103】
次に、100mg/Lのベリリウムを含む硝酸水溶液と、100mg/Lのリチウムを含む硝酸水溶液と、100mg/Lのストロンチウムを含む硝酸水溶液とをそれぞれ広口容器から1mlずつを分取し、1000ml用の洗浄済広口容器に入れた。そして、Ultrapur-100グレード硝酸を1%まで希釈した溶液を洗浄済広口容器に入れて、全量を1000mlとした。このようにして100ppbの濃度のベリリウムと、100ppbの濃度のリチウムと、100ppbの濃度のストロンチウムとを含む硝酸水溶液の内部標準溶液を作製した。このようにして作製した内部標準溶液2mlを、上記で得られた液玉に混合することにより、エレメント混合液を作製した。
【0104】
<ICP回収液を得るステップ>
上記で得られたエレメント混合液を親水性PTFEろ過フィルターで強制ろ過することにより、ICP回収液を硝酸で洗浄した遠沈管に保管した。ここで、ろ過フィルターはディスミックフィルターとして、孔径0.45μmのろ過フィルター(製品名:HP045AN(ADVANTEC東洋社製))、または孔径0.20μmのろ過フィルター(製品名:HP020AN(ADVANTEC東洋社製))を用いた。強制ろ過においては、シリンジおよびフィルターの両方に圧力がかかるため、ルアーロックタイプを使用し、強制ろ過中の液漏れを防いだ。
【0105】
<発光スペクトルを得るステップ>
上記で得られたICP回収液をICP分析装置のプラズマトーチ内に導入し、ICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得た。
【0106】
<内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記で得られた発光スペクトルに基づいて、ベリリウム、リチウム、およびストロンチウムの濃度を測定したところ、ベリリウムの濃度測定値は、98ppbであり、リチウムの濃度測定値は、62ppbであり、ストロンチウムの濃度測定値は、87ppbであった。
【0107】
<内部標準エレメントの回収率を得るステップ>
上記で得られたベリリウムの濃度測定値0.09ppmを、ICP回収液に含まれる既知のベリリウムの濃度0.097ppmで除することにより、ベリリウムの回収率を得た。ベリリウムの回収率は、0.928であった。同様にしてリチウムおよびストロンチウムの回収率を算出した。リチウムの回収率は0.951であり、ストロンチウムの回収率は0.978であった。
【0108】
<イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップ>
上記のようにして得られたリチウム、ベリリウム、およびストロンチウムの回収率と、それぞれのイオン化エネルギーとを図4に◇でプロットした。このようなプロットに基づいて、線形近似することにより、イオンエネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得た。かかる一次関数式は、内部標準エレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、Y=−0.014×X+1.06であった。このようにして得られた一次関数式を図4中に点線で示した。
【0109】
<ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップ>
上記の一次関数式に対し、ボロンのイオン化エネルギー8.3eVを代入することにより、ボロンの回収率の推定値を得た。このボロンの回収率の推定値は0.944であった。また、リンのイオン化エネルギーであるX=10.49を代入したところ、リンの回収率の推定値は0.911であった。
【0110】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップ>
上記の発光スペクトルを得るステップにより発光スペクトルに基づき、ボロンの濃度を測定したところ、ボロンの濃度測定値は0.367ppmであることがわかった。このボロンの濃度測定値をボロンの回収率の推定値で除することにより、ボロンの濃度測定値を補正した。その結果、シリコンに含まれるボロンの濃度推定値は、0.391ppmであった。
【0111】
以上のようにして得られたボロンの濃度推定値は、実際のボロンの濃度0.38ppmにより近い値となっていることから、本発明のICP分析方法による補正が有効であることが示された。
【0112】
以下の表3には、上記と同一のシリコンウェハに対し、さらに上記と同様のICP分析を12回行なった結果を示している。
【0113】
【表3】
【0114】
表3に示されるように、ベリリウムの内部標準エレメントの回収率は平均で約0.9強であった。ボロンはベリリウムよりもイオン化エネルギーが低いため、内部標準液エレメントの回収率は約0.92であった。一方、リンはボロンよりもイオン化エネルギーが高いため、内部標準エレメントの回収率は約0.89強であった。
【0115】
また、表3において、「補正前」は、ICP発光スペクトルに基づいて得られたボロンの濃度測定値であり、「Sr補正」は、ボロンの濃度測定値をストロンチウムの回収率(約0.94)で補正したときのボロンの濃度推定値であり、「一次関数補正」は、ボロンの濃度測定値を、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値である。
【0116】
なお、上記の13回の測定に基づくイオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式はY=−0.011×X+1.01であった。この一次関数式によると、イオン化エネルギーが1eV上昇するごとに回収率が約0.01ほど低下する傾向が導き出せた。
【0117】
表3に示されるように、補正前のボロンの濃度の平均は0.354ppmであり、ボロンの真の濃度0.38ppmよりも低い値であった。一方、ストロンチウム補正(Sr%補正)によるボロンの濃度推定値の平均は、0.373ppmであり、一次関数式に基づくボロンの濃度推定値の平均は、0.388ppmであり、いずれもボロンの真の濃度に近い値となった。
【0118】
以上の結果から、2種以上のエレメントを内部標準エレメントとして含むICP回収液によるICP分析方法は、ボロンやリンのようにイオン化エネルギーの高いターゲットエレメントの濃度を高精度に補正できることがわかった。
【0119】
図7は、実験例1〜13における、ボロン濃度の測定値と、ストロンチウム補正後のボロンの濃度推定値と、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値との棒グラフである。図7に示されるように、実験例1〜13において、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値は、ボロンの濃度の真値である0.38ppmに極めて近くなっている。このことから、本発明のICP分析方法は、ボロンの濃度をより精確に分析することができることが明らかとなった。
【0120】
<実施例2>
図11において、BP品とは、天然出発材料(低グレード金属シリコン:石英還元材料)であり、IIS脱P品とは、低グレード金属シリコンを脱ボロン処理した後電子ビーム溶融法により脱P処理したものであり、D2品とは、シリコンウェハ主体の再精製品である。これらを脱金属処理した後の精製塊の不純物濃度を測定した結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
表4に示される結果から、内部標準エレメントの回収率が異なることが明らかである。すなわち、BP品およびIIS脱P品においては、平均92%程度の回収率でBeを回収するのに対し、D2品は、平均95%程度の回収率でBeを回収する。Beと同様にSrおよびLiの内部標準エレメントに関しても、BP品およびIIS脱P品は、回収率が低くなっている。
【0123】
脱金属処理は、シリコンを再溶融させてそれを再結晶化させるものであるため、シリコン中の金属は偏析原理により濃度が低下し、同時にシリコン中の異物も異物比重差により沈殿して、異物濃度が減少する。しかし、再結晶化したシリコンの異物は、溶融するシリコンに含まれる異物濃度の高低が反映される。すなわち、化学法で精製されたケミカルポリシリコンを使用して結晶化されたD2のようなウェハであると異物は少なくなる一方、天然出発材料からスタートしたシリコンは鉱物中に含まれる高融点結晶SiCの微結晶を含み、かかるSiCの微結晶が異物となる。
【0124】
したがって、天然材料から還元して得られるシリコンは、既にウェハーになっているシリコンよりも高濃度の異物を含むこととなる。このようなことから、ICP回収液中の異物SiC(フィルターろ過後であるから孔径0.50μm以下の異物)濃度が比較できるということになる。
【0125】
<実施例3>
本発明の方法により得られる回収率は、ICP分析装置のキーパーツであるネブライザーの交換時期を推定するのに好適に用いられる。図8(a)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られた内部標準エレメントの回収率を示すグラフである。図8(a)では、初めて使用したときのネブライザーによる内部標準エレメントの回収率と、使用を開始してから2月後のネブライザーによる内部標準エレメントの回収率と、使用を開始してから3月後のネブライザーによる内部標準エレメントの回収率とを示した。
【0126】
図8(a)に示されるように、初めて使用するネブライザーを用いると、内部標準エレメントの回収率は0.95〜0.98となった。一方、使用を開始してから一定期間経過したネブライザーを用いると、回収率は0.85〜0.92となった。
【0127】
図8(a)の結果から、ネブライザーは使っていくうちにどんどん劣化し、内部標準エレメントの付着によるロスに起因して内部標準エレメントの回収率が低くなることが明らかとなった。このような回収率の低下を把握することにより、ネブライザー交換時期を見極めることができる。すなわち、内部標準エレメントの回収率が0.9未満となると、ネブライザーを交換する。
【0128】
図8(b)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたストロンチウム、リチウム、およびベリリウムの回収率を示すグラフである。図8(b)において、たとえばストロンチウムの3本の棒グラフはそれぞれ、ネブライザーが新しい順に左側から3本の棒グラフを示した。図8(b)に示されるように、ネブライザーが新しいほど回収率が高く、ネブライザーが古くなるにつれて、次第に回収率が低下することが導かれる。
【0129】
図8(c)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたボロンの濃度を示すグラフである。図8(c)において、たとえばストロンチウムの3本の棒グラフはそれぞれ、ネブライザーが新しい順に左側から3本の棒グラフを示した。図8(c)に示されるように、ネブライザーが新しいほどボロンの濃度が真値である0.38ppmに近い値となることがわかった。このことから、ネブライザーが古くなるにつれて、ボロンの精確な濃度を得にくくなることが導かれた。
【0130】
<実施例4>
本発明のICP分析方法において、糖を添加するステップの有効性を検証した。すなわち、ICP回収液として、1000mg/Lのボロンを含む市販標準溶液を超純水で1mg/Lに希釈したボロン溶液を用い、このICP回収液に対し、糖を添加しない場合と、マンニトール(分子量182.17)を糖として添加する場合と、キシリトール(分子量152.15)を糖として添加する場合との3つの場合のボロンの回収率を測定した。この測定結果を図9に示す。
【0131】
図9は、添加する糖とボロンの回収率との関係を示す棒グラフである。図9に示されるように、マンニトールを用いたときにはボロンの回収率が1であったのに対し、キシリトールを用いたときにはボロンの回収率が0.93であり、糖を添加しない場合はボロンの回収率が0.77であった。
【0132】
次に、糖の分子量とボロンの回収率との関係を調べた。図10は、糖の分子量に対するボロンの回収率を示すグラフであり、縦軸は、ボロンの回収率を示し、横軸は、糖の分子量を示している。図10に示される結果から、糖の分子量が大きいほどボロンの回収率を高められることが明らかとなった。このようにボロンの回収率が高められたのは、ボロンの錯体は熱的に安定であり、ボロンが揮散しにくくなったことによるものと考えられる。
【0133】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0134】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のICP分析方法は、シリコンウェハ、太陽電池用シリコン、金属級シリコン、天然石英、および人工石英における不純物濃度の測定、品質管理、および製造工程管理に利用することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 チューブ、11 アルゴンガス、12 ネブライザー、13 チャンバー、14 発光したボロン・燐、15 プラズマトーチ部、16 異物、17 発光できなかったボロン・燐、18 発光した金属群、19 分光器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP分析方法に関し、特にシリコンの精製工程における不純物測定に好適に用いられるICP分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に用いられるシリコンは、ボロン、リン、およびその他金属群を不純物として含んでいる。シリコンを太陽電池などの各種用途に用いるためには、シリコンを精製して高純度化する。シリコンの精製法には、大別して化学法と冶金法とがある。
【0003】
化学法は、塩素系ガスを用い気相成長させることで高純度ポリシリコンを精製する技術である。一方、冶金法は、金属級シリコンに含まれる天然由来の混入不純物の濃度を徐々に減少させて、最終的にソーラーグレードの高純度シリコンまで精製するという技術である。
【0004】
冶金法は、III族エレメントの濃度を減少させる工程と、V族エレメントの濃度を減少させる工程と、金属系エレメントの濃度を減少させる工程とにより、ソーラーグレードの高純度のシリコンを得るというものである。
【0005】
たとえば特許文献1には、金属級シリコンにスラグを添加し、このスラグへの分配比率の差により、III族エレメントの主にボロン、アルミニウムの濃度を低下させる技術が開示されている。また、たとえば特許文献2では、真空蒸発法を用いて蒸気圧力差を利用することにより、V族エレメントの濃度を低下させる技術が開示されている。また、たとえば特許文献3では、偏析係数の差を利用することにより、金属系エレメントの濃度を低下させる技術が開示されている。
【0006】
金属級シリコンに含まれる不純物は、一方向凝固などの偏析法により偏析して除去される。偏析法は、不純物の偏析係数に基づいて偏析を行なうものである。金属級シリコンに含まれる金属群は、10-3〜10-6程度の偏析係数を有するため偏析法により比較的除去しやすい。一方、偏析係数が0.80のボロンや、偏析係数が0.35のリンは偏析係数が大きいことから除去しにくい傾向にある。
【0007】
ところで、たとえば特許文献4には、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析により、シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する方法が開示されている。ICP分析では、各エレメントがプラズマからエネルギーを受け取って励起され、それが基底状態に戻るときに特定の発光波長の光を発光する。この発光強度に基づいて、各エレメントの濃度を分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−247623号公報
【特許文献2】特開2005−231956号公報
【特許文献3】特開2007−326749号公報
【特許文献4】特開平11−295225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリコンの精製工程において、低純度シリコンに含まれるボロンやリンなどの不純物濃度を精確に分析することは、精製の精度を高める上で極めて重要である。一方、特許文献4の分析方法によれば、太陽電池、半導体、電子材料などに用いる高純度シリコンに含まれる不純物をppm〜ppbレベルの精度で分析することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献4のICP分析方法を用いて低純度シリコンを分析すると、シリコン中に存在するミクロな異物によりICP分析が阻害されて、安定して不純物の濃度を検出することができないという問題があった。
【0011】
また、ICP分析は、プラズマトーチ内に導入した際の各エレメントの電離率により発光のし易さが異なり、エレメントの電離率が低いほど固体の異物の影響を受けて発光しにくい。このため、ボロンおよびリンのように極端に電離率の低いエレメントは、エネルギーが十分伝わらないうちにプラズマ部を通過してしまい、実際のエレメントの濃度よりも濃度が低くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低純度シリコンに含まれるエレメントの濃度を精確に分析するためのICP分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記のような問題点を種々検討した結果、各エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの相関関係を利用することを検討した。図1は、エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの関係を示すグラフである。図1からも明らかなように、各エレメントの電離率とイオン化エネルギーとは相関関係があり、特に7.5eV以上8eV以下の範囲でイオン化エネルギーが増加すると、そのエレメントの電離率はほぼ一次関数的に減少する関係がある。
【0014】
よって、エレメントのイオン化エネルギーが大きいほど、エレメントの電離率が小さく、ICP分析で発光しにくいエレメントということができる。本発明者らは、このような一次関数の関係に基づいて、ICP分析によるエレメントの濃度の測定結果を該エレメントのイオン化エネルギーにより補正することを検討した。その結果、補正ファクターとしてイオン化エネルギーを用いることにより、ICP分析による濃度測定値をより高精度に補正し得ることを見い出した。
【0015】
すなわち、本発明のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、該内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
内部標準エレメントの回収率を得るステップの後に、2種以上の内部標準エレメントの回収率と、該内部標準エレメントのイオン化エネルギーとを線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップと、該一次関数式に対し、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップと、発光スペクトルに基づいて、ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップと、該ターゲットエレメントの濃度測定値を、ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップとを含むことが好ましい。
【0017】
ICP回収液を得るステップの後に、ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、鉄およびチタンの濃度に基づいて、内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含むことが好ましい。
【0018】
ターゲットエレメントは、ボロンまたはリンのいずれか一方もしくは両方であり、内部標準エレメントは、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
内部標準エレメントは、ストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方であることが好ましい。鉄の濃度が5ppm以下であり、かつチタンの濃度が10ppm以下である場合、発光スペクトルの234.830nmまたは313.038nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0020】
鉄の濃度が5ppmを超え、かつチタンの濃度が10ppm以下である場合、発光スペクトルの313.107nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0021】
鉄の濃度が5ppmを超え、かつチタンの濃度が10ppmを超える場合、内部標準エレメントは、ストロンチウムを含むことが好ましい。
【0022】
内部標準エレメントの回収率に基づいて、シリコンに含まれる異物量を推定するステップを含むことが好ましい。
【0023】
ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、ターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加するステップを含み、糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下であることが好ましい。
【0024】
上記の糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0025】
ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、ターゲットエレメント含有液に対し、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖を添加するステップを含むことが好ましい。
【0026】
一次関数式は、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0027】
Y=−0.011×X+1.01 ・・・式(1)
上記のICP回収液は、ネブライザーを介してプラズマトーチ内に導入するものであり、かかるICP分析方法により得られる内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点でネブライザーを交換する、ネブライザーの交換時期の推定方法でもある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、シリコンに含まれるターゲットエレメントの補正係数を各サンプルごとに求めることができ、ターゲットエレメントの濃度を真値により近い値に補正することができる。また、シリコンのみならずシリカ塊やシリカ粉などのSiO2を測定対象物にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】エレメントの電離率とイオン化エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図2】(a)は、ボロンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフであり、(b)は、リンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフであり、(c)は、一般金属を除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフである。
【図3】ICP発光分光法の測定原理を説明するための模式的な図である。
【図4】内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を示すグラフである。
【図5】ICP回収液中の鉄の濃度が0.09ppm、23.4ppm、58.8ppm、および143ppmのときのICP発光スペクトルである。
【図6】ICP回収液中のチタンの濃度が5.0ppm、12.4ppm、35.7ppm、および132.5ppmのときのICP発光スペクトルである。
【図7】実験例1〜13における、ボロン濃度の測定値と、ストロンチウム補正後のボロンの濃度推定値と、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値との棒グラフである。
【図8】(a)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られた内部標準エレメントの回収率を示すグラフであり、(b)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたストロンチウム、リチウム、およびベリリウムの回収率を示すグラフであり、(c)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたボロンの濃度を示すグラフである。
【図9】添加する糖とボロンの回収率との関係を示す棒グラフである。
【図10】糖の分子量に対するボロンの回収率を示すグラフである。
【図11】(a)は、BP品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフであり、(b)は、IIS脱P品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフであり、(c)は、D2品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のICP分析方法を説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わすものではない。なお、以下において、「エレメント」とは、シリコン中に含まれるSi以外の元素のことを意味し、いわゆるシリコン中の不純物を意味する。
【0031】
図2は、低純度シリコンに含まれるエレメントを除去した後であって、フィルターろ過する前のICP回収液に含まれる異物の粒径および個数をベックマンコールターにより測定した結果を示すグラフである。
【0032】
図2(a)は、ボロンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布であり、図2(b)は、リンを除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布であり、図2(c)は、一般金属を除去した後のシリコンに含まれる異物の粒径分布である。図2(a)〜(c)のいずれも、縦軸に異物の個数を示し、横軸に異物の粒子の直径を示している。
【0033】
なお、図2に示される結果は、20μmのアパーチャーを用いて異物を測定したため、0.4μm以下の粒径の異物は測定していないが、連続的な振舞いをすると仮定すると、0.4μm以下の異物も相当数あるものと推察される。
【0034】
図2に示されるように、シリコンを酸性の溶媒に溶解して得られたICP回収液には多数の固体の異物が存在する。このように固体の異物が多いと、フィルターを通しても、シリコンに含まれる固体の異物を完全には除去することができず、フィルターの孔径を通る微細な異物が多数存在する。
【0035】
かかる微細な異物により、電離度の低いエレメントが発光しにくくなる。このため、低純度シリコンをICP分析すると、低純度シリコンに含まれるエレメントの濃度よりもエレメントの濃度が低く検出される傾向がある。このようにICP分析により濃度が低めに検出されて、精確な濃度の値を得ることができないエレメントのことを「ターゲットエレメント」という。
【0036】
【表1】
【0037】
表1は、シリコンに含まれる代表的なエレメントを示している。表1に示されるように、リンおよびホウ素は、電離率が他のエレメントに比べて低いため、ICP分析によっても精確な濃度を得にくい。このことから、リン、ホウ素等のようなエレメントをターゲットエレメントとすることが好ましい。
【0038】
一方、表1に示されるクロム、マンガン、鉄等のようなエレメントは、電離率が比較的高いため、ICP分析によってもある程度精確な濃度を得ることができる。このようにある程度精確に濃度を測定し得るエレメントのことを「内部標準エレメント」という。内部標準エレメントとしては、クロム、マンガン、鉄等のようなエレメントを用いることが好ましい。本発明は、このような内部標準エレメントの濃度に基づいて、ターゲットエレメントの濃度を真値により近くなるように補正する。以下、本発明のICP分析方法の各ステップを説明する。
【0039】
(実施の形態1)
本実施の形態のICP分析方法は、ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、該ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、該エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、該ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、該発光スペクトルに基づいて、2種以上の内部標準エレメントの濃度測定値をそれぞれ得るステップと、内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含むことを特徴とする。
【0040】
本実施の形態のようにして算出される内部標準エレメントの回収率は、低純度シリコンに含まれるターゲットエレメントの精確な濃度を得る補正ファクターとして用いることができる他、シリコンに含まれる異物数の大小の評価にも用いることができる。また、回収率の測定ごとの計時変化を追跡することにより、ICP装置に用いられるネブライザーの交換時期を推定することもできる。以下においては、本実施の形態のICP分析の各ステップを説明する。
【0041】
<ターゲットエレメント含有液を得るステップ>
まず、ターゲットエレメントを含むシリコンウェハを粉砕する。粉砕したシリコン粉末を目開0.93mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ20)と、目開4.31mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ5)とにより選別する。メッシュ20のふるいの上には、粉砕サイズが1mm〜5mm程度のシリコン粉末が残る。
【0042】
次に、超音波洗浄を行なったテフロン(登録商標)ビーカー内に、1.00〜1.05gのシリコン粉末と、酸性の溶液とを混入する。このようにしてシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得る。ここで、シリコンの溶解に用いる酸性の溶液としては、たとえば60質量%以上61質量%以下の硝酸水溶液を挙げることができ、このような酸性の溶液を30ml程度用いることが好ましい。
【0043】
<糖を添加するステップ>
上記で得られたターゲットエレメント含有液に対し、たとえば0.4質量%の濃度の糖を含む水溶液を0.3ml混合することが好ましい。ここで、ターゲットエレメント含有液に混合する糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上の糖を添加することが好ましい。
【0044】
このような糖は、エレメント混合液中でターゲットエレメントを錯体化して大分子状態になる。そして、ターゲットエレメントの蒸発を抑制することにより、ターゲットエレメントの回収率を高めることができる。このような糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下であることが好ましい。糖の分子量が大きいほど大分子状態の錯体を形成し、もってターゲットエレメントの回収率を向上させることができる。このように分子量の大きい糖は、錯体を形成することにより、ターゲットエレメントの揮散を防止する効果があり、特に有効である。ちなみに、キシリトールの分子量は152.15g/molであり、グルコースおよびフルクトースの分子量は180.16g/molであり、マンニトールの分子量は182.17g/molであり、マルトースの分子量は342.3g/molである。
【0045】
なお、このような糖を添加するステップを必ずしも含まなくてもよく、上記で得られたターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加することなく、後述するエレメント混合液を得るステップを行なってもよい。
【0046】
<ターゲットエレメント含有液を滴化回収するステップ>
次に、ターゲットエレメント含有液を入れたテフロン(登録商標)ビーカーをホットプレート上に設置する。そして、テフロン(登録商標)ビーカーに46質量%以上51質量%以下のフッ化水素酸を8ml混入する。これによりテフロン(登録商標)ビーカーに沈んでいるシリコンとフッ化水素酸とが反応する。この反応が落ち着いたところで、再度フッ化水素酸を8ml混入すると、テフロン(登録商標)ビーカー内の溶液が褐色から無色に変化し始める。無色になり始めたときにターゲットエレメント含有液を滴化回収法により濃縮することが好ましい。なお、ターゲットエレメント含有液の酸を蒸発させる方法は、滴化回収法に限られるものではない。
【0047】
滴化回収法は、ホットプレートを200℃以上に昇温して、フッ化水素酸、水、および硝酸をそれぞれ蒸発させることにより行なわれる。滴化回収法は、ターゲットエレメントを揮散させることなく、高回収率で回収することができる。特にターゲットエレメントがボロンのときに高回収率となる。しかも、化学処理マージンが確保されており、安定して化学処理を行なうことができる。
【0048】
滴化回収法中に蒸発させた酸の一部は、テフロン(登録商標)ビーカーの胴部に付着するが、この付着した酸は、テフロン(登録商標)ビーカーの底に衝撃を与えて、テフロン(登録商標)ビーカーの底に落下させることが好ましい。これによりターゲットエレメントの回収率を高めることができる。
【0049】
このようにしてテフロン(登録商標)ビーカー内のエレメント含有液が徐々に蒸発して、テフロン(登録商標)ビーカーの底に液滴が残る。この液滴が、Φ2mm(約2.1μlの体積)以上Φ5mm以下(約33μlの体積)の大きさのときに回収する。回収時の液滴がΦ2mm未満であると、上記で添加した糖が焦げ始めることにより、ターゲットエレメントの一部が回収できなくなるため好ましくない。このようにしてテフロン(登録商標)ビーカーの底にΦ2mm以上Φ5mm以下の液滴が残るようにする。
【0050】
<エレメント混合液を得るステップ>
上記の液滴に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を過剰量添加することにより、エレメント混合液を得る。すなわち、上記ターゲットエレメントを含む液滴の体積に対し、40倍以上の内部標準溶液を添加することが好ましい。これにより後のICP回収液に対する液滴の体積が2.5%以下となり、誤差許容範囲となる。
【0051】
ここで、内部標準エレメントを含む内部標準溶液としては、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上の元素を酸に溶解させたものを用いることができる。このような内部標準溶液は、たとえばベリリウムを含む硝酸溶液と、ストロンチウムを含む硝酸溶液と、リチウムを含む硝酸溶液とを混合することにより得られる。ベリリウムは、高イオン化エネルギーを有するため、高精度に補正するための内部標準エレメントとして特に好適に用いられる。ストロンチウムおよびリチウムは、発光波長が長いため、一般金属の発光干渉を受けず、しかも、ストロンチウムおよびリチウムは、シリコン精製工程において蒸発するのでシリコン中には微量しか内在しないため内部標準エレメントに好適に用いられる。
【0052】
ここで、内部標準溶液に含まれる内部標準エレメントは、精確に定量されて濃度が把握できるものを用いる必要がある。このような内部標準溶液は、100ppm以上1000ppm以下の内部標準エレメントを含むことが好ましい。代表的には、1000ppmのリチウムと、1000ppmのベリリウムと、1000ppmのストロンチウムとを含む0.01mol/LのHNO3水溶液を挙げることができる。
【0053】
上記の内部標準エレメントは、少なくともベリリウムを含み、さらにストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方を含むことが好ましい。このように高イオン化エネルギーを有するベリリウムを必須として含み、かつ低イオン化エネルギーを有するストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方を含むことが好ましい。後述するが、ベリリウムは鉄またはチタンの発光波長と近似するため、分光波長が生じて濃度測定値が誤測定される場合がある。一方、ストロンチウムまたはリチウムは、このような分光干渉が生じる可能性が極めて低く好適に用いることができる。
【0054】
<ICP回収液を得るステップ>
上記で得られたエレメント混合液を親水性PTFEフィルターによってろ過することにより得られたろ液がICP回収液となる。このようなろ過を行なうことにより、シリコンに含まれる異物のうちの径が大きいものを除去する。
【0055】
ここで、エレメント混合液のろ過は、自然落下方式と、強制ろ過方式とのいずれを用いてもよいが、強制ろ過方式でろ過することが好ましい。強制ろ過方式は、ろ過フィルターの孔径を極端に小さくすることができる。この場合、ろ過フィルターとしては、ディスミックフィルターを用い、シリンジをルアーロックする。一方、自然落下方式のろ過は、ろ過に要する時間が長く、しかも目詰まりすることもあるため好ましくない。
【0056】
<発光スペクトルを得るステップ>
図3は、ICP発光分光法の測定原理を説明するための模式的な図である。ICP分析装置は、図3に示されるように、サンプルチューブ10、Arガスチューブ11、ネブライザー12、チャンバー13、プラズマトーチ20、RFコイル21、および分光器19を備えるものである。
【0057】
そして、異物を含むシリコンを対象とするICP測定では、図3に示されるプラズマトーチ20に、ターゲットエレメントや異物16を含むICP回収液を導入する。そして、Arプラズマにより、ボロン14、リン15、さらにその他の金属エレメントを発光させる。
【0058】
上記で得られたICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより、発光スペクトルを得る。このようにして得られた発光スペクトルは、ICP回収液に含まれる各エレメントに対応する発光波長があり、かかる発光波長の発光線に基づいて、各エレメントの濃度を算出する。
【0059】
ただし、ターゲットエレメントは、ICP分析により発光しにくいことにより、発光スペクトルに一部反映されない。このため、ターゲットエレメントの濃度は、真値よりも低めに算出される傾向がある。すなわち、図3を用いて説明すると、ボロン17およびリン18は、イオン化エネルギーが一般金属よりも高いため、エネルギーを多量に受ける必要があるが、異物にプラズマのエネルギーを奪われることにより、ボロンおよびリンに対し十分にエネルギーを与えることができず、未発光のまま通過することになる。このようにボロンおよびリンは、異物16の影響により発光しきれないため、発光スペクトルに反映されず、低めの濃度に検出される。そこで、本発明によって算出される回収率を用いることにより、若干低めに算出された濃度を真値に近くなるように補正する。
【0060】
<内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記で得られたICP分析による発光スペクトルに基づいて、内部標準エレメントの濃度測定値を得ることができる。内部標準エレメントの濃度測定値を得る方法は、従来公知の方法により行なうことができる。
【0061】
<内部標準エレメントの回収率を得るステップ>
上記で得られた内部標準エレメントの濃度測定値を、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントの濃度で除することにより、内部標準エレメントの回収率を得ることができる。すなわちたとえば、ICP回収液に含まれるベリリウムの濃度が100ppbであって、かつ発光スペクトルに基づくベリリウムの濃度測定値が90ppbであるとき、ストロンチウムの回収率は0.9となる。このようにして得られる回収率は、ICP分析の精度が高いほど1に近づき、回収率1が理想的であるが、シリコン中の異物によるICP分析の阻害により現実的には0.9前後の回収率になる。
【0062】
<イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップ>
図4は、内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を示すグラフである。図4に示されるように、内部標準エレメントのイオン化エネルギーが大きくなるほど、内部標準エレメントの回収率は低下する傾向にある。図4では、たとえばリチウムとストロンチウムとベリリウムとを内部標準エレメントとして用い、これらのそれぞれの回収率を◇でプロットしている。なお、かかる回収率の値は、±0.02程度の誤差を含み得るため、誤差バーを◇プロットの上下に示している。
【0063】
このように内部標準エレメントのイオン化エネルギーと回収率との関係を線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得ることができる。図4では、リチウム、ストロンチウム、およびベリリウムのイオン化エネルギーと回収率とに基づいて線形近似して得られる一次関数式を点線で示している。
【0064】
このようにして得られる一次関数式の精度を高めるためには、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントを2種以上用いることが必須であるが、ICP回収液に含まれる内部標準エレメントは多いほど好ましいというわけではなく、高精度に測定したいターゲットエレメントのイオン化エネルギーに着目し、かつ、測定しようとしているサンプルの中には測定に影響しない程度しか存在しない内部標準エレメントを用いることが好ましい。
【0065】
すなわち、内部標準エレメントとしては、ボロンおよびリンのイオン化エネルギーに近いベリリウムを少なくとも含み、かつ一般金属のイオン化エネルギーに近いストロンチウムおよびリチウムを含むことが好ましい。ただし、低イオン化エネルギーの内部標準エレメントとしては、ストロンチウムおよびリチウムに代えて、たとえばイットリウム、モリブデン、ルビジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、イッテルビウム、およびトリウムからなる群より選択される1種以上を用いることができる。中でも、希土類系のイットリウム、アルカリ系のルビジウムは安価であるため好ましい。一方、ランタノイド系およびアクチノイド系の内部標準エレメントは、内部標準液が高価であるため経済的ではない。
【0066】
内部標準エレメントとしてモリブデンを用いる場合、モリブデンはシリコン精製装置のパーツに用いられていることにより、コンタミとなる可能性があるため、内部標準エレメントの濃度を最適化する必要がある。一方、銀はシリコン精製装置にも精製材料にも含まれておらず、しかも安価であるため内部標準エレメントとして好適に用いることができる。
【0067】
通常3種の内部標準エレメントを用いて一次関数式を得るが、4種以上の内部標準エレメントを用いて一次関数式を得ることが好ましい。一次関数式を得るための計算は従来公知の方法により行なわれる。
【0068】
<ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップ>
上記の一次関数式に対し、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、ターゲットエレメントの回収率の推定値を得ることができる。なお、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーは、たとえば表1に示される周知の値を採用するものとする。たとえば図4中の点線で示された一次関数式に対し、たとえばボロンのイオン化エネルギーの値を代入すると、ボロンの回収率は、0.91程度となる。
【0069】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記のICP分析の発光スペクトルの結果に基づいて、ターゲットエレメントの濃度測定値を得る。ここで得られたターゲットエレメントの濃度測定値は、上述したように実際にシリコン中に混入されているターゲットエレメントの濃度(真値)よりもやや低い値である。このため、後のターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップにより補正する。
【0070】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップ>
上記で得られたターゲットエレメントの濃度測定値を、ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、ターゲットエレメントの濃度測定値を補正することができる。このようにして補正されたターゲットエレメントの濃度測定値は、ターゲットエレメントの濃度測定値よりも真値に近いものとなる。以上で述べたICP分析方法により、ターゲットエレメントの濃度をより正確な値に補正することができる。
【0071】
上記のICP回収液を得るステップの後に、ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、鉄およびチタンの濃度に基づいて、内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含むことが好ましい。このような各ステップを含むことにより、上記ターゲットエレメントの濃度を補正する精度を高めることができる。
【0072】
すなわち、ICP回収液において、鉄およびチタンの発光波長とベリリウムの発光波長とが近似しているため、鉄の発光線がベリリウムの発光線に対し分光干渉を起こしやすい。かかる分光干渉によりベリリウムの真の濃度値よりも高い濃度測定値を算出されてしまうという問題がある。
【0073】
よって、予めICP回収液中の鉄およびチタンの濃度を算出し、鉄およびチタンの濃度が高い場合には、たとえば内部標準エレメントのうちのベリリウムを除外する等のように内部標準エレメントの種類を選択するか、またはベリリウムの発光波長のうちの鉄またはチタンと重複する発光波長を除外してベリリウムの濃度測定値を得ることが好ましい。
【0074】
このように内部標準エレメントの種類および発光スペクトルの発光波長を選択することにより、鉄およびチタンの分光干渉の影響を受けることなく、内部標準エレメントの濃度測定値を得ることができる。以下、ベリリウムの発光線と、鉄およびチタンの発光線との関係を詳述する。
【0075】
ICP分析によるベリリウムの発光線の波長は、234.861nmおよび313.107nmである。一方、ICP分析による鉄の発光線の波長は、様々あるがそのうち234.830nmがベリリウムの発光線に近接し分光干渉する。よって、ICP回収液中の鉄の濃度が高くなると、鉄の234.830nmの発光波長の発光線がベリリウムの234.861nmの発光線に分光干渉し、ベリリウムの濃度測定値を正確に得ることはできない。
【0076】
図5は、ICP回収液中の鉄の濃度が0.09ppm、23.4ppm、58.8ppm、および143ppmのときのICP発光スペクトルである。図5のICP発光スペクトルでは、234.811nm〜234.904nmの発光波長における発光スペクトルを示している。
【0077】
図5からも明らかなように、鉄の濃度が高いほど、ベリリウムの234.861nmの発光波長の発光線が分光干渉を受けて、ICP発光スペクトルにおけるベリリウムの積分開始テール波長強度が高くなり、濃度測定値は低く算出される。
【0078】
よって、鉄の濃度が5ppmを超える場合には、234.861nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することは好ましくなく、313.107nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することが好ましい。
【0079】
図6は、ICP回収液中のチタンの濃度が5.0ppm、12.4ppm、35.7ppm、および132.5ppmのときのICP発光スペクトルである。図6のICP発光スペクトルでは、312.973nm〜313.175nmの発光波長における発光スペクトルを示している。
【0080】
図6からも明らかなように、チタンの濃度が高いほど、ベリリウムの313.107nmの発光波長の発光線が分光干渉を受けて、ICP発光スペクトルにおけるベリリウムの積分開始テール波長強度が高くなり、濃度測定値は低く算出される。
【0081】
よって、チタンの濃度が10ppmを超える場合には、313.107nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することは好ましくなく、234.861nmの発光波長の発光線に基づいて、ベリリウムの濃度を算出することが好ましい。
【0082】
以上の結果から、ICP回収液中に鉄およびチタンをいずれも高濃度に含む場合、すなわち鉄を5ppmを超え、かつチタンを10ppmを超える場合、内部標準エレメントとしてベリリウムを用いることは好ましくなく、たとえば内部標準エレメントとしてストロンチウムを用いることが好ましい。
【0083】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で算出された内部標準エレメントの回収率に基づいて、シリコンに含まれる異物量を推定することを特徴とする。このようにして得られるシリコン中の異物量は、工程管理手法、または品質管理法として極めて有効に運用することができる。
【0084】
すなわち、シリコン精製工程の各段階でICP分析を行なうことにより、シリコンに含まれる異物量を把握し、規定よりも異物が多いシリコンに対して、速やかに現場にフィードバックすることができる。なお、ICP回収液中の固体の異物は、酸性の溶液によって溶解されない異物であり、この異物が多いことは、そのままシリコン中の異物が多いことを示す。
【0085】
図11(a)は、BP品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示し、図11(b)は、IIS脱P品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示し、図11(c)は、D2品に含まれる内部標準エレメントおよびその回収率を示している。図11において、BP品とは、天然出発材料(低グレード金属シリコン:石英還元材料)であり、IIS脱P品とは、低グレード金属シリコンを脱ボロン処理した後電子ビーム溶融法により脱P処理したものであり、D2品とは、シリコンウェハ主体の再精製品である。図11(a)、図11(b)、および図11(c)に示される棒グラフは、以下の表2に示される各データに基づいて作成したものである。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示される結果から、内部標準エレメントの回収率が異なることが明らかである。すなわち、BP品およびIIS脱P品においては、平均92%程度の回収率でBeを回収するのに対し、D2品は、平均95%程度の回収率でBeを回収する。Beと同様にSrおよびLiの内部標準エレメントに関しても、BP品およびIIS脱P品は、回収率が低くなっている。
【0088】
脱金属処理は、シリコンを再溶融させてそれを再結晶化させるものであるため、シリコン中の金属は偏析原理により濃度が低下し、同時にシリコン中の異物も異物比重差により沈殿して、異物濃度が減少する。しかし、再結晶化したシリコンの異物は、溶融するシリコンに含まれる異物濃度の高低が反映される。すなわち、化学法で精製されたケミカルポリシリコンを使用して結晶化されたD2のようなウェハであると異物は少なくなる一方、天然出発材料からスタートしたシリコンは鉱物中に含まれる高融点結晶SiCの微結晶を含み、かかるSiCの微結晶が異物となる。
【0089】
したがって、天然材料から還元して得られるシリコンは、既にウェハになっているシリコンよりも高濃度の異物を含むこととなる。このようなことから、ICP回収液中の異物SiC(フィルターろ過後であるから孔径0.50μm以下の異物)濃度が比較できるということになる。
【0090】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で算出された内部標準エレメントの回収率に基づいて、ICP測定装置のプラズマトーチにICP回収液を導入するためのネブライザーの交換時期を推定することを特徴とする。すなわち、内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点により、ネブライザーを交換するタイミングを把握する。
【0091】
ここで、ネブライザーは、ICP回収液をプラズマトーチに導入するごとに、通常の酸洗浄では除去しきれない付着物が堆積して次第に劣化する。このように劣化したネブライザーを用いると、内部標準エレメントがネブライザーに付着することにより、内部標準エレメントの濃度測定値が低下し、内部標準エレメントの回収率が低下する。
【0092】
従来は、ICP回収液のショット回数に基づいてネブライザーを交換していたため、ネブライザーの劣化に応じて適切に交換することができなかった。そこで、本発明のように内部標準エレメントの回収率に基づいて、ネブライザーを交換することにより、ネブライザーの劣化に応じてネブライザーを新しいものに交換することができる。しかも、大して劣化していないネブライザーを交換することもなくなり、コスト低減にも寄与する。たとえば内部標準エレメントとしてベリリウムを用いる場合、ベリリウムの回収率が0.9未満になったときにネブライザーを交換することが好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
<実施例1>
<ターゲットエレメント含有液を得るステップ>
まず、10質量%程度の電子工業用グレードの硝酸水溶液を50℃以上60℃以下に昇温した。そして、この硝酸水溶液にテフロン(登録商標)ビーカーを浸漬させて、超音波洗浄を3時間以上行なった。次に、テフロン(登録商標)ビーカーを超純水およびバブリング超純水により洗浄した。
【0095】
一方、シリコンウェハを、タングステンカーバイド製の乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。ここで、比抵抗率の計算に基づいてシリコンウェハ中のボロン濃度を測定したところ0.38ppmであった。上記で粉砕したシリコンウェハを目開0.93mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ20)、および目開4.31mmのポリエチレン製ふるい(メッシュ5)により選別した。メッシュ20のふるいの上には、粉砕サイズが1mm〜5mm程度のシリコンが残った。
【0096】
次に、イオナイザーによりテフロン(登録商標)ビーカーの帯電を除去した上で、テフロン(登録商標)ビーカーを電子天秤にセットした。そして、電子天秤をゼロ調整した後に、洗浄済のプラスチックさじで1.00〜1.05gのシリコン粉末をテフロン(登録商標)ビーカーに秤量した。そして、テフロン(登録商標)ビーカーをホットプレートに設置し、マクロピペットで60質量%以上61質量%以下の原子吸光分析用の硝酸水溶液(関東化学株式会社製)30mlを注入することにより、ターゲットエレメント含有液を得た。
【0097】
<糖を添加するステップ>
次に、マンニトール(製品番号:特級[000-47582](キシダ化学株式会社製))を純水で希釈して得た0.4質量%のマンニトール水溶液0.3mlを、ターゲットエレメント含有液に混合した。
【0098】
<ターゲットエレメント含有液を滴化回収するステップ>
上記のターゲットエレメント含有液に対し、マクロピペットを用いて46質量%以上51質量%以下のフッ化水素酸(製品名:Ultrapur-100:製品番号:18083-3B(関東化学株式会社製))を8ml注入した。このとき、フッ化水素酸が次第に硝酸水溶液に拡散し、シリコンビーカーに沈殿しているシリコン粉末と反応した。この反応により褐色のNOxガスが発生し、10分後に反応が落ち着いた。このときに再度フッ化水素酸を8ml注入した。1回目の注入と同様にNOxガスが発生したが、しばらくするとガスが発生しなくなった。
【0099】
このときのテフロン(登録商標)ビーカーの内部を観察し、褐色の溶液から透明な状態に変化し始めたときに、ホットプレートを250℃に昇温した。これによりフッ化水素酸、水、および硝酸を蒸発させた。弗化水素酸の沸点は86℃であり、水の沸点は100℃であり、硝酸の沸点は130℃である。このため、ホットプレートを用いてテフロン(登録商標)ビーカーを昇温すると、沸点の低い弗化水素酸から順に、水、および硝酸が蒸発した。
【0100】
ホットプレートでテフロン(登録商標)ビーカーを加熱すると、テフロン(登録商標)ビーカーの胴部に温度ムラが発生し、その胴部に蒸発した酸が玉状に付着した。この玉状の酸をテフロン(登録商標)ビーカーの底面に落とすために、テフロン(登録商標)ビーカーの底に軽く衝撃を与え、玉状に付着した酸をビーカー底に落とし、最終的にビーカー底の液玉の大きさがΦ2mm以上Φ5mm以下になるまで蒸発を行なった。
【0101】
<エレメント混合液を得るステップ>
次に、100mlの広口容器に1000mg/Lのベリリウムを含み0.5mol/LのHNO3水溶液(製品番号:04869-1B(関東化学株式会社製))を10ml分取した。そして、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。同様に、1000mg/Lのストロンチウムを含み0.1mol/LのHNO3水溶液(製品番号37876-1B(関東化学株式会社製))10mlを100mlの広口容器に分取し、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。
【0102】
また、1000mg/Lのリチウムを含み0.01mol/LのHNO3水溶液(製品番号:24245-1B(関東化学株式会社製))10mlを100mlの広口容器に分取し、1質量%に希釈したUltrapur-100グレード硝酸水溶液で全量100mlとした。このようにして3種の内部標準溶液の原液を準備した。
【0103】
次に、100mg/Lのベリリウムを含む硝酸水溶液と、100mg/Lのリチウムを含む硝酸水溶液と、100mg/Lのストロンチウムを含む硝酸水溶液とをそれぞれ広口容器から1mlずつを分取し、1000ml用の洗浄済広口容器に入れた。そして、Ultrapur-100グレード硝酸を1%まで希釈した溶液を洗浄済広口容器に入れて、全量を1000mlとした。このようにして100ppbの濃度のベリリウムと、100ppbの濃度のリチウムと、100ppbの濃度のストロンチウムとを含む硝酸水溶液の内部標準溶液を作製した。このようにして作製した内部標準溶液2mlを、上記で得られた液玉に混合することにより、エレメント混合液を作製した。
【0104】
<ICP回収液を得るステップ>
上記で得られたエレメント混合液を親水性PTFEろ過フィルターで強制ろ過することにより、ICP回収液を硝酸で洗浄した遠沈管に保管した。ここで、ろ過フィルターはディスミックフィルターとして、孔径0.45μmのろ過フィルター(製品名:HP045AN(ADVANTEC東洋社製))、または孔径0.20μmのろ過フィルター(製品名:HP020AN(ADVANTEC東洋社製))を用いた。強制ろ過においては、シリンジおよびフィルターの両方に圧力がかかるため、ルアーロックタイプを使用し、強制ろ過中の液漏れを防いだ。
【0105】
<発光スペクトルを得るステップ>
上記で得られたICP回収液をICP分析装置のプラズマトーチ内に導入し、ICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得た。
【0106】
<内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップ>
上記で得られた発光スペクトルに基づいて、ベリリウム、リチウム、およびストロンチウムの濃度を測定したところ、ベリリウムの濃度測定値は、98ppbであり、リチウムの濃度測定値は、62ppbであり、ストロンチウムの濃度測定値は、87ppbであった。
【0107】
<内部標準エレメントの回収率を得るステップ>
上記で得られたベリリウムの濃度測定値0.09ppmを、ICP回収液に含まれる既知のベリリウムの濃度0.097ppmで除することにより、ベリリウムの回収率を得た。ベリリウムの回収率は、0.928であった。同様にしてリチウムおよびストロンチウムの回収率を算出した。リチウムの回収率は0.951であり、ストロンチウムの回収率は0.978であった。
【0108】
<イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップ>
上記のようにして得られたリチウム、ベリリウム、およびストロンチウムの回収率と、それぞれのイオン化エネルギーとを図4に◇でプロットした。このようなプロットに基づいて、線形近似することにより、イオンエネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得た。かかる一次関数式は、内部標準エレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、Y=−0.014×X+1.06であった。このようにして得られた一次関数式を図4中に点線で示した。
【0109】
<ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップ>
上記の一次関数式に対し、ボロンのイオン化エネルギー8.3eVを代入することにより、ボロンの回収率の推定値を得た。このボロンの回収率の推定値は0.944であった。また、リンのイオン化エネルギーであるX=10.49を代入したところ、リンの回収率の推定値は0.911であった。
【0110】
<ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップ>
上記の発光スペクトルを得るステップにより発光スペクトルに基づき、ボロンの濃度を測定したところ、ボロンの濃度測定値は0.367ppmであることがわかった。このボロンの濃度測定値をボロンの回収率の推定値で除することにより、ボロンの濃度測定値を補正した。その結果、シリコンに含まれるボロンの濃度推定値は、0.391ppmであった。
【0111】
以上のようにして得られたボロンの濃度推定値は、実際のボロンの濃度0.38ppmにより近い値となっていることから、本発明のICP分析方法による補正が有効であることが示された。
【0112】
以下の表3には、上記と同一のシリコンウェハに対し、さらに上記と同様のICP分析を12回行なった結果を示している。
【0113】
【表3】
【0114】
表3に示されるように、ベリリウムの内部標準エレメントの回収率は平均で約0.9強であった。ボロンはベリリウムよりもイオン化エネルギーが低いため、内部標準液エレメントの回収率は約0.92であった。一方、リンはボロンよりもイオン化エネルギーが高いため、内部標準エレメントの回収率は約0.89強であった。
【0115】
また、表3において、「補正前」は、ICP発光スペクトルに基づいて得られたボロンの濃度測定値であり、「Sr補正」は、ボロンの濃度測定値をストロンチウムの回収率(約0.94)で補正したときのボロンの濃度推定値であり、「一次関数補正」は、ボロンの濃度測定値を、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値である。
【0116】
なお、上記の13回の測定に基づくイオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式はY=−0.011×X+1.01であった。この一次関数式によると、イオン化エネルギーが1eV上昇するごとに回収率が約0.01ほど低下する傾向が導き出せた。
【0117】
表3に示されるように、補正前のボロンの濃度の平均は0.354ppmであり、ボロンの真の濃度0.38ppmよりも低い値であった。一方、ストロンチウム補正(Sr%補正)によるボロンの濃度推定値の平均は、0.373ppmであり、一次関数式に基づくボロンの濃度推定値の平均は、0.388ppmであり、いずれもボロンの真の濃度に近い値となった。
【0118】
以上の結果から、2種以上のエレメントを内部標準エレメントとして含むICP回収液によるICP分析方法は、ボロンやリンのようにイオン化エネルギーの高いターゲットエレメントの濃度を高精度に補正できることがわかった。
【0119】
図7は、実験例1〜13における、ボロン濃度の測定値と、ストロンチウム補正後のボロンの濃度推定値と、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値との棒グラフである。図7に示されるように、実験例1〜13において、ボロンの回収率の推定値で補正したときのボロンの濃度推定値は、ボロンの濃度の真値である0.38ppmに極めて近くなっている。このことから、本発明のICP分析方法は、ボロンの濃度をより精確に分析することができることが明らかとなった。
【0120】
<実施例2>
図11において、BP品とは、天然出発材料(低グレード金属シリコン:石英還元材料)であり、IIS脱P品とは、低グレード金属シリコンを脱ボロン処理した後電子ビーム溶融法により脱P処理したものであり、D2品とは、シリコンウェハ主体の再精製品である。これらを脱金属処理した後の精製塊の不純物濃度を測定した結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
表4に示される結果から、内部標準エレメントの回収率が異なることが明らかである。すなわち、BP品およびIIS脱P品においては、平均92%程度の回収率でBeを回収するのに対し、D2品は、平均95%程度の回収率でBeを回収する。Beと同様にSrおよびLiの内部標準エレメントに関しても、BP品およびIIS脱P品は、回収率が低くなっている。
【0123】
脱金属処理は、シリコンを再溶融させてそれを再結晶化させるものであるため、シリコン中の金属は偏析原理により濃度が低下し、同時にシリコン中の異物も異物比重差により沈殿して、異物濃度が減少する。しかし、再結晶化したシリコンの異物は、溶融するシリコンに含まれる異物濃度の高低が反映される。すなわち、化学法で精製されたケミカルポリシリコンを使用して結晶化されたD2のようなウェハであると異物は少なくなる一方、天然出発材料からスタートしたシリコンは鉱物中に含まれる高融点結晶SiCの微結晶を含み、かかるSiCの微結晶が異物となる。
【0124】
したがって、天然材料から還元して得られるシリコンは、既にウェハーになっているシリコンよりも高濃度の異物を含むこととなる。このようなことから、ICP回収液中の異物SiC(フィルターろ過後であるから孔径0.50μm以下の異物)濃度が比較できるということになる。
【0125】
<実施例3>
本発明の方法により得られる回収率は、ICP分析装置のキーパーツであるネブライザーの交換時期を推定するのに好適に用いられる。図8(a)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られた内部標準エレメントの回収率を示すグラフである。図8(a)では、初めて使用したときのネブライザーによる内部標準エレメントの回収率と、使用を開始してから2月後のネブライザーによる内部標準エレメントの回収率と、使用を開始してから3月後のネブライザーによる内部標準エレメントの回収率とを示した。
【0126】
図8(a)に示されるように、初めて使用するネブライザーを用いると、内部標準エレメントの回収率は0.95〜0.98となった。一方、使用を開始してから一定期間経過したネブライザーを用いると、回収率は0.85〜0.92となった。
【0127】
図8(a)の結果から、ネブライザーは使っていくうちにどんどん劣化し、内部標準エレメントの付着によるロスに起因して内部標準エレメントの回収率が低くなることが明らかとなった。このような回収率の低下を把握することにより、ネブライザー交換時期を見極めることができる。すなわち、内部標準エレメントの回収率が0.9未満となると、ネブライザーを交換する。
【0128】
図8(b)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたストロンチウム、リチウム、およびベリリウムの回収率を示すグラフである。図8(b)において、たとえばストロンチウムの3本の棒グラフはそれぞれ、ネブライザーが新しい順に左側から3本の棒グラフを示した。図8(b)に示されるように、ネブライザーが新しいほど回収率が高く、ネブライザーが古くなるにつれて、次第に回収率が低下することが導かれる。
【0129】
図8(c)は、劣化状態が異なる3種のネブライザーを用いて得られたボロンの濃度を示すグラフである。図8(c)において、たとえばストロンチウムの3本の棒グラフはそれぞれ、ネブライザーが新しい順に左側から3本の棒グラフを示した。図8(c)に示されるように、ネブライザーが新しいほどボロンの濃度が真値である0.38ppmに近い値となることがわかった。このことから、ネブライザーが古くなるにつれて、ボロンの精確な濃度を得にくくなることが導かれた。
【0130】
<実施例4>
本発明のICP分析方法において、糖を添加するステップの有効性を検証した。すなわち、ICP回収液として、1000mg/Lのボロンを含む市販標準溶液を超純水で1mg/Lに希釈したボロン溶液を用い、このICP回収液に対し、糖を添加しない場合と、マンニトール(分子量182.17)を糖として添加する場合と、キシリトール(分子量152.15)を糖として添加する場合との3つの場合のボロンの回収率を測定した。この測定結果を図9に示す。
【0131】
図9は、添加する糖とボロンの回収率との関係を示す棒グラフである。図9に示されるように、マンニトールを用いたときにはボロンの回収率が1であったのに対し、キシリトールを用いたときにはボロンの回収率が0.93であり、糖を添加しない場合はボロンの回収率が0.77であった。
【0132】
次に、糖の分子量とボロンの回収率との関係を調べた。図10は、糖の分子量に対するボロンの回収率を示すグラフであり、縦軸は、ボロンの回収率を示し、横軸は、糖の分子量を示している。図10に示される結果から、糖の分子量が大きいほどボロンの回収率を高められることが明らかとなった。このようにボロンの回収率が高められたのは、ボロンの錯体は熱的に安定であり、ボロンが揮散しにくくなったことによるものと考えられる。
【0133】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0134】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のICP分析方法は、シリコンウェハ、太陽電池用シリコン、金属級シリコン、天然石英、および人工石英における不純物濃度の測定、品質管理、および製造工程管理に利用することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 チューブ、11 アルゴンガス、12 ネブライザー、13 チャンバー、14 発光したボロン・燐、15 プラズマトーチ部、16 異物、17 発光できなかったボロン・燐、18 発光した金属群、19 分光器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、
前記ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、
前記エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、
前記ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、
前記発光スペクトルに基づいて、2種以上の前記内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、
前記内部標準エレメントの濃度測定値を、前記ICP回収液に含まれる前記内部標準エレメントの濃度で除することにより、前記内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含む、ICP分析方法。
【請求項2】
前記内部標準エレメントの回収率を得るステップの後に、
2種以上の前記内部標準エレメントの回収率と、該内部標準エレメントのイオン化エネルギーとを線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップと、
前記一次関数式に対し、前記ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、前記ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップと、
前記発光スペクトルに基づいて、前記ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップと、
前記ターゲットエレメントの濃度測定値を、前記ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、前記ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップとを含む、請求項1に記載のICP分析方法。
【請求項3】
前記ICP回収液を得るステップの後に、
前記ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、
前記鉄および前記チタンの濃度に基づいて、前記内部標準エレメントの種類および前記発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含む、請求項1または2に記載のICP分析方法。
【請求項4】
前記ターゲットエレメントは、ボロンまたはリンのいずれか一方もしくは両方であり、
前記内部標準エレメントは、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項5】
前記内部標準エレメントは、ストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方である、請求項1〜4のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項6】
前記鉄の濃度が5ppm以下であり、かつ前記チタンの濃度が10ppm以下である場合、
前記発光スペクトルの234.830nmまたは313.038nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得る、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項7】
前記鉄の濃度が5ppmを超え、かつ前記チタンの濃度が10ppm以下である場合、
前記発光スペクトルの313.107nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得る、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項8】
前記鉄の濃度が5ppmを超え、かつ前記チタンの濃度が10ppmを超える場合、
前記内部標準エレメントは、ストロンチウムを含む、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項9】
前記内部標準エレメントの回収率に基づいて、前記シリコンに含まれる異物量を推定するステップを含む、請求項1〜8のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項10】
前記ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、
前記ターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加するステップを含み、
前記糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下である、請求項1〜9のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項11】
前記糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上である、請求項10に記載のICP分析方法。
を添加する、請求項10に記載のICP分析方法。
【請求項12】
前記一次関数式は、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、下記式(1)を満たす、請求項3に記載のICP分析方法。
Y=−0.011×X+1.01 ・・・式(1)
【請求項13】
請求項1に記載の前記ICP回収液は、ネブライザーを介してプラズマトーチ内に導入するものであり、
前記内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点で前記ネブライザーを交換する、ネブライザーの交換時期の推定方法。
【請求項1】
ターゲットエレメントを含有するシリコンを酸性の溶液に溶解させることにより、ターゲットエレメント含有液を得るステップと、
前記ターゲットエレメント含有液に対し、2種以上の内部標準エレメントを含む内部標準溶液を添加することにより、エレメント混合液を得るステップと、
前記エレメント混合液をろ過することにより、ICP回収液を得るステップと、
前記ICP回収液をプラズマトーチ内に導入してICP分析を行なうことにより発光スペクトルを得るステップと、
前記発光スペクトルに基づいて、2種以上の前記内部標準エレメントの濃度測定値を得るステップと、
前記内部標準エレメントの濃度測定値を、前記ICP回収液に含まれる前記内部標準エレメントの濃度で除することにより、前記内部標準エレメントの回収率を得るステップとを含む、ICP分析方法。
【請求項2】
前記内部標準エレメントの回収率を得るステップの後に、
2種以上の前記内部標準エレメントの回収率と、該内部標準エレメントのイオン化エネルギーとを線形近似することにより、イオン化エネルギーと回収率との関係を示す一次関数式を得るステップと、
前記一次関数式に対し、前記ターゲットエレメントのイオン化エネルギーを代入することにより、前記ターゲットエレメントの回収率の推定値を得るステップと、
前記発光スペクトルに基づいて、前記ターゲットエレメントの濃度測定値を得るステップと、
前記ターゲットエレメントの濃度測定値を、前記ターゲットエレメントの回収率の推定値で除することにより、前記ターゲットエレメントの濃度測定値を補正するステップとを含む、請求項1に記載のICP分析方法。
【請求項3】
前記ICP回収液を得るステップの後に、
前記ICP回収液に含まれる鉄およびチタンの濃度を測定するステップと、
前記鉄および前記チタンの濃度に基づいて、前記内部標準エレメントの種類および前記発光スペクトルの発光波長を選択するステップとを含む、請求項1または2に記載のICP分析方法。
【請求項4】
前記ターゲットエレメントは、ボロンまたはリンのいずれか一方もしくは両方であり、
前記内部標準エレメントは、ベリリウム、ストロンチウム、およびリチウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項5】
前記内部標準エレメントは、ストロンチウムまたはリチウムのいずれか一方もしくは両方である、請求項1〜4のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項6】
前記鉄の濃度が5ppm以下であり、かつ前記チタンの濃度が10ppm以下である場合、
前記発光スペクトルの234.830nmまたは313.038nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得る、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項7】
前記鉄の濃度が5ppmを超え、かつ前記チタンの濃度が10ppm以下である場合、
前記発光スペクトルの313.107nmの波長の観測線に基づいて、ベリリウムの濃度測定値を得る、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項8】
前記鉄の濃度が5ppmを超え、かつ前記チタンの濃度が10ppmを超える場合、
前記内部標準エレメントは、ストロンチウムを含む、請求項3〜5のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項9】
前記内部標準エレメントの回収率に基づいて、前記シリコンに含まれる異物量を推定するステップを含む、請求項1〜8のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項10】
前記ターゲットエレメント含有液を得るステップの後に、
前記ターゲットエレメント含有液に対し、糖を添加するステップを含み、
前記糖の分子量は、152.15g/mol以上342.3g/mol以下である、請求項1〜9のいずれかに記載のICP分析方法。
【請求項11】
前記糖は、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される1種以上である、請求項10に記載のICP分析方法。
を添加する、請求項10に記載のICP分析方法。
【請求項12】
前記一次関数式は、ターゲットエレメントのイオン化エネルギーをXとし、ターゲットエレメントの回収率をYとすると、下記式(1)を満たす、請求項3に記載のICP分析方法。
Y=−0.011×X+1.01 ・・・式(1)
【請求項13】
請求項1に記載の前記ICP回収液は、ネブライザーを介してプラズマトーチ内に導入するものであり、
前記内部標準エレメントの回収率が、あらかじめ設定した値よりも低下した時点で前記ネブライザーを交換する、ネブライザーの交換時期の推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−32171(P2012−32171A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169476(P2010−169476)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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