IGF結合タンパク質由来のペプチドまたは低分子
IGF結合タンパク質配列に基づく新規組成物が提供される。ハイスループットな研究のための新規手段が提供される。ヒト疾患の治療のための新規の方法を提供する。IGF結合タンパク質由来のペプチドまたは低分子は、疾病を有する被験者に投与され、これにより疾患の症状を緩和する。本発明のIGFBP−3由来のペプチドは、鉄代謝に重く関与する器官(例えば、心臓および腎臓)へと分子を送達するために特に有用であると考えられる。これらの知見はまた、鉄を運ぶ分子の細胞内取込みを調節する試薬が、IGFBP−3およびこれから誘導されたペプチドの活性を調節するために使用され得ることを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国特許出願第10/264,672号(2002年10月4日出願)の一部継続出願であり、この一部継続出願は、米国特許出願第10/215,759号(2002年8月9日出願)の一部継続出願であり、この後者の一部継続出願は、米国仮特許出願第60/323,267号(2001年9月18日出願)に対して米国特許法第119条(e)項の下で優先権を主張している。これらはともに、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、疾患の処置ならびにハイスループットスクリーニングならびにその他の発見および研究適用におけるペプチドまたは低分子の組成物および使用方法に関し、特にインスリン様増殖因子結合タンパク質−3(IGFBP−3)のCD74相同性ドメイン中に存在する配列由来の金属結合ペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
規定された標的細胞の増殖因子は、集団における広範囲にわたる生物学的応答(例えば、DNA合成、細胞分裂、特定の遺伝子の発現など)を刺激するポリペプチドである。種々の増殖因子が同定され、これらの増殖因子としては以下が挙げられる:トランスフォーミング増殖因子βファミリー(TGF−β)、上皮細胞増殖因子およびトランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、血小板由来増殖因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)ならびに、IGF−IおよびIGF−IIを含むインスリン様増殖因子ファミリー(IGF)。多くの増殖因子が癌の病因に関係する。
【0004】
IGF−IおよびIGF−II(「IGF」)は、アミノ酸配列および構造において関
連し、それぞれのポリペプチドが約7.5キロダルトン(kDa)の分子量を有する。IGF−Iは成長ホルモンの主作用を媒介し、従って出生後の一次成長メディエーターである。IGF−Iはまた、種々の他の増殖因子の作用に関係する。これは、このような増殖因子による細胞の処置がIGF−Iの産生の増加をもたらすからである。対照的に、IGF−IIは胎児の成長において重要な役割を有すると考えられる。相対的に、IGF−IおよびIGF−IIの両方がインスリン様活性(従ってこれらの名前がある)を有し、そして分裂促進性である(細胞分裂を刺激する)。
【0005】
IGF−Iが、多数の異なる種の癌由来の細胞の増殖を刺激することが見出された(Butlerら、1998 Cancer Res.58(14):3021−3027;Favoni REら、1998、Br.J.Cancer 77(12):2138−2147)。IGF−Iは、さらに腫瘍細胞を含む多数の異なる細胞型に対して抗アポトーシス作用を発揮することが見出された(Giuliano Mら、1998 Invest Ophthalmol.Vis.Sci.39(8):1300−1311;Za
wada WMら、1998、Brain Res.786(1−2):96−103;Kelley KWら、1998、Ann.N.Y.Acad.Sci.840:518−524;Toms SAら、1998、J.Neurosurg.88(5):884−889;Xu Fら、1997、Br.J.Haematol.97(2):429−440)。前向きな研究はIGF−Iを前立腺、胸部および結腸の癌に対する危険因子として示されており、一方で、IGFに対する主要な循環性結合タンパク質であるIGFBP−3は、保護効果を有するように見える(10〜12、28、29)。種々の他の観察は、さらに、IGFBP−3と他のIGF−結合タンパク質(特にIGFBP−2)との相対的なバランスは、インビトロおよびインビボの両方での腫瘍細胞の増殖の制御において何らかの形で役立つという考えを支持する(7〜9)。最近の証拠はまた、IGFBP−3がIGF非依存性の様式での腫瘍細胞の増殖(13〜17)およびアポトーシス(14)において中心的な役割を果たし得ることを示唆する。
【0006】
米国において毎年癌と診断される1300万人の患者の約半数は、全身性疾患を有する(または、罹患の危険がある)。化学療法が、これらの患者に対する最も一般的な治療アプローチである(34)。ほとんどの化学療法剤は主として分裂細胞に対して有効であり、そしてしばしば、骨髄抑制が用量を制限する毒性である。化学薬品はいくつかの範疇に
分類され、異なる作用機構を有するが、有効量では多くが、患者の生活の質に深刻な影響を与える副作用を有する。ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標))、イリノテカン(CPT−11)、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、シスプラチン、タモキシフェン、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシルは、種々の癌処置に使用される、一般的な薬剤で、これらは時々併用される。骨髄抑制に加え、胃腸管作用、粘膜炎、脱毛症および(ドキソルビシンの場合は)心毒性もまた、これらの薬剤とともに認められる(34)。明らかに、これらの化学薬品に対して選択的に感受性のある腫瘍細胞を作製する方法を見出すことが目的である。
【0007】
ほとんど全てのIGFは、非常に小さな遊離型IGF−Iが検出可能なように、IGF−I、インスリン様増殖因子結合タンパク質3(IGFBP−3)および、酸不安定性サ
ブユニット(ALS)と称されるより大きいタンパク質サブユニットの非共有結合的に結合した複合体として循環する。三元複合体は、それぞれ等モル量の3つの成分から構成される。いくつかの報告がIGFBP−3はIGFの非存在下でラットALSと結合し得ることを示唆しているにも拘らず(Leeら、Endocrinology 136:4982−4989,1995)、ALSは、IGF結合活性が検出されず、IGF/IGFBP−3複合体とのみ結合するように見える(Baxterら,J.Biol.Chem.264(20):11843−11848;1989)。IGF/IGFBP−3/ALSの三元複合体は、約150kDaの分子量を有し、二元IGF/IGFBP−3複合体またはIGF単体と比較される場合、実質的に増加した循環中半減期を有する(Adamsら、Prog.Growth Factor Res.6(2−4):347−356;1995年10月に提出され、1996年に出版された)。この三元複合体は、「IGF−IおよびIGF−IIが遊離型IGFの濃度の急激な変化を防止するためのレザバーおよび緩衝液として」働くと考えられる(MODERN CONCEPTS OF INSULIN−LIKE GROWTH FACTORSにおける、Blumら、(1991)「Plasma IGFBP−3 Levels as Clinical Indicators」、pp.381−393、E.M.Spencer編、Elsevier、New York)。本質的に余剰の(非結合性の)循環中IGFBP−3が存在しない一方で、実質的に余剰の遊離型ALSは実際に存在する(Baxter,J.Clin.Endocrinol.Metab.67:265−272、1988)。
【0008】
p53(よく特徴づけられた腫瘍抑制因子)のいくつかの作用を媒介することを示唆する間接的な証拠が存在するにも拘らず(Ferryら、(1999)Horm Metab Res 31(2−3):192−202)、IGFBP−3がその細胞作用をどのように媒介するかはよく分らない。IGFBP−3は、急速に増殖する細胞の核に移動される(Schedlichら、(1998)J.Biol.Chem.273(29):18347−52;Jaquesら、(1997)Endocrinology 138(4):1767−70)。IGFBP−3の機能的相互作用を規定するための有用な工程は、IGFBP−3の細胞内標的および細胞外標的の驚くほど大きなアレイに特異的に結合する能力に関係するタンパク質ドメインを同定することである。既知の標的は以下を含む:IGF−I、IGF−II、インスリン(いくつかの条件下で)、酸不安定性サブユニット(ALS)、プラスミノーゲン、フィブリノーゲン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コラーゲンIa型、プレカリクレイン、RXR−α、ウイルスの腫瘍性タンパク質、ヘパリン、特異的プロテアーゼ、細胞レセプター、ツーハイブリッドスクリーニングで同定された多くの細胞内標的、および核局在化輸送機構の構成成分(Mohseni−ZadehおよびBinoux(1997)Endocrinology 138(12):5645−8;Collett−Solbergら、(1998)J.Clin.Endocrinol Metab.83(8):2843−8;Rajahら、(1995)Prog.Growth Factor Res.6(2−4):273−84;FowlkesおよびSerra(1996)J.Biol.Chem 271:146
76−14679;Campbellら、(1999)J.Biol.Chem.274(42):30215−21;Durhamら、(1999)Horm Metab Res 31(2−3):216−25;Campbellら、(1998)Am J Physiol.275(2Pt 1):E321−31)。
【0009】
IGFBP−3は、おおよそIGFBP−3遺伝子のエキソン1、2および3+4にそれぞれ相当する3つの主要ドメインを有する。CD74(インバリアント鎖)に見出されるモチーフおよび多数の他のタンパク質に相同的な配列を含むIGFBP−3のC末端ドメイン(ドメイン3)は、IGFBP−3の、血清、細胞外マトリックスおよび細胞表面成分と相互作用する能力に関係しているように見える。この領域中の配列に対して作製されたペプチドは、RXR−α、トランスフェリン、ALS,プラスミノーゲン、フィブリノーゲンおよびプレカリクレインを含む、多くのその既知のリガンドへのIGFBP−3の結合を干渉することが以前に示されている(Liuら、J.Biol.Chem.275:33607−13、2000;Weinzimerら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:1806−13、2001;Campbellら、Am.J.Physiol.275:E321−31、1998;Campbellら、J.Biol.Chem.274:30215−21、1999;Firthら、J.Biol.Chem.273:2631−8、1998)。しかし、現在までに、IGFBP−3由来ペプチドは、これらのいかなるリガンドに対しても選択的で、高親和性な結合に十分であることが示されていない。
【0010】
本分子のこの領域はまた、核トランスロケーションに関係するが、IGFBP−3が標的細胞内へインターナリゼーションする機構はよく理解されない(Schledlichら、J.Biol.Chem.273:18347−52、1998;Jaquesら、Endocrinology 138:1767−70,1997)。最近記載された、IGFBP−3のドメイン3の228−232残基が、対応するIGFBP−1(密接に関係するタンパク質)由来の残基に置換された変異体は、ALS、RXR−αおよびプラスミノーゲンに対して弱められた結合を示す(Campbellら、(1998)Am.J.Physiol.275(2 Pt 1):E321−31;Firthら、(1998)J.Biol.Chem.273:2631−2638)。妊娠および重症疾病のような特定の生理条件下でのIGFBP−3の特異的なタンパク分解は、結合の変更およびそのIGFリガンドの遊離を生じ得る。IGFBP−3とIGF−IまたはIGF−II(両方の増殖因子がIGFBP−3と同様の親和性で結合する)との二元複合体は、IGFBP−3がグリコサミノグリカン、特異的プロテアーゼおよび細胞表面タンパク質と特異的に相互作用し得る細胞内環境に、内皮結合部を横切って溢出し得る。研究報告は、IGFBP−4のタンパク分解を阻害し得るIGFBP−3中のC末端ドメインの存在を言及する(Fowlkesら、J.Biol.Chem.270:27481−8、1995;Fowlkesら、Endocrinology 138:2280−5、1997)。しかし、この推定プロテアーゼインヒビタードメインの正確な位置は、まだ記載されていない。IGFBP−4タンパク分解は、妊娠、血管形成後の平滑筋細胞増殖、骨形成および卵胞優位(ovarian follicular dominance)を含む多くの生物学的プロセスの中で重要な事象である(Byunら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:847−54、2001;Bayes_Genisら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.21:335−41、2001;Miyakoshiら、Endocrinol.142:2641−8、2001;Conoverら、Endocrinol.142:2155、2001;Riveraら、Biol.Reprod.65:102−11、2001)。
【0011】
IGFBP−3が最も豊富なIGF結合タンパク質(「IGFBP」)である一方で、少なくとも5つの他の異なるIGFBPが種々の組織および体液中で同定されていること
は注目されるべきである。これらのタンパク質は、IGFを結合するにも拘らず、別個の遺伝子から由来し、異なるアミノ酸配列を有する。IGFBP−3と異なり、他の循環IGFBPはIGFで飽和されない。IGFBP−3およびIGFBP−5は、IGFおよびALSと150kDaの三元複合体を形成し得る最適の既知のIGFBPである。血清から単離された当該タンパク質のN末端フラグメントがIGF結合活性を保持するので、IGFBP−3のIGF結合ドメインは、当該タンパク質のN末端部分にあると考えられている。しかし、他のIGFBPのいくつかは、治療としてIGF−Iと組み合せた使用がまた示唆されている。
【0012】
血清における主要なIGFキャリアータンパクとしての役割に加え、IGFBP−3は最近、多くの異なる活性を有することが示されている。IGFBP−3は、外因的に添加されたIGF−Iの活性を阻害し得る場合、細胞表面上のまだ同定されていない分子に結合し得る(Karasら、1997、J.Biol.Chem 272(26):16514−16520)。細胞表面へのIGFBP−3の結合がヘパリンによって阻害され得るにも拘らず、同定されていない細胞表面結合分子は、ヘパリン様細胞表面グルコサミノグリカンとは考えられない。これは、ヘパリングリコサミノグリカンの酵素学的な除去がIGFBP−3細胞表面結合に影響がないからである(Yangら、1996、Endocrinology 137(10):4363−4371)。細胞表面結合分子が、Lealら(1997、J.Biol.Chem.272(33):20572−20576)によって同定されたIGFBP−3レセプターと同じであるか、または異なるかは明らかでない。このIGFBP−3レセプターは、V型トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)レセプターと同一である。
【0013】
インビトロアッセイにおいて単独で使用される場合、IGFBP−3はまた、アポトーシスを促進することが報告されている。興味深いことに、IGFBP−3は、機能的な1型IGFレセプターを有する細胞および機能的な1型IGFレセプターを有さない細胞においてアポトーシスを促進することが示されている(Nickersonら、1997、Biochem.Biophys.Res.Comm.237(3):690−693;Rajahら、1997、J.Biol.Chem.272(18):12181−12188)。しかし、アポトーシスが全長IGFBP−3またはIGFBP−3のタンパク分解フラグメントによって誘導されるかどうかに関しては、矛盾する報告がある(Rajahら、同書;Zadehら、1997、Endocrinology 138(7):3069−3072)。より最近、多数の研究室で集められた多数の未発表のデータが、上記の出版物で作成された特許請求の範囲のいくつかを支持しない。現在までに検定されたインビボモデルにおいて、注入されたIGFBP−3タンパク質単体は、腫瘍増殖の制限において、入り混じった結果を示している。
【0014】
米国特許第5,681,818号は、癌の処置におけるソマトメジン依存性腫瘍の増殖を制御するためのIGFBP−3の投与に関する。米国特許第5,840,673はまた、腫瘍増殖を制御するための方法としてIGFBP−3レベルの間接的な細胞内調節を記載する。米国特許第6,015,786号は、IGF依存性腫瘍の処置のための、IGF変異体と複合体化されたIGFBP−3の使用を開示する。しかし、これらの特許のいずれも、投与されたIGFBP−3タンパク質の腫瘍増殖に対する直接的なインビボ効果を開示する。これらの特許はすべて、インタクトなIGFBP−3(そのIGF結合ドメインを含む)の使用を予見する。多数の出版(Williamsら、Cancer Res
60(1):22−7,2000;Perksら、J Cell Biochem 75(4):652−64,1999;Maileら、Endocrinology 140(9):4040−5,1999;Gillら、J Biol Chem 272(41):25602−7,1997)はさらに、培養細胞に対するIGF結合タンパク質、放射線およびセラミドの併用効果を示す。1つの報告(Porteraら、Growth
Hormone & IGF Research 2000、補遺A、S49−S50、2000)において、CPT−11と併用されたIGFBP−3は、インビボおよびインビトロ両方の結腸癌において相加的な効果を示した。上記の研究はすべて、IGF(抗アポトーシス性である)を細胞に運ぶことが可能である一方、自身が保有するIGF依存性のプロアポトーシス作用も発揮し得る多機能分子である、インタクトなIGFBP−3を使用して行われた。明らかに、これらの2つの活性を分子レベルで分離することが目的であるが、インタクトなIGFBP−3の活性の所望のサブセットを示す分子は、記載されていない。
【0015】
IGF−IおよびIGFBP−3は、天然供給源から精製され得るか、または組換え手段により作製され得る。例えば、ヒト血清からのIGF−Iの精製は、当該分野で周知である(Rinderknechtら、(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 73:2365−2369)。組換えプロセスによるIGF−Iの産生は、1984年12月に発行されたEP 0 128 733に示される。IGFBP−3は、Baxterら(1986、Biochem.Biophys.Res.Comm.139:1256−1261)に示されるようなプロセスを使用して、天然供給源から精製され得る。あるいは、IGFBP−3は、Sommerら、pp.715−728、MODERN CONCEPTS OF INSULIN−LIKE GROWTH FACTORS(E.M.Spencer編、Elsevier、New York、1991)で議論されるように、組換え的に合成され得る。組換えIGFBP−3は、IGF−Iと1:1の分子比で結合する。
【0016】
ラットおよびブタの創傷に対するIGF−I/IGFBP−3複合体の局所投与は、IGF−I単独投与(Id.)よりも顕著により効果的である。下垂体切除されたラット、卵巣摘出されたラットおよび正常なラットに対するIGF−I/IGFBP−3複合体の皮下投与、ならびにカニクイザルに対する静脈内投与は、単独で投与された(Id.)IGF−Iの「低血糖作用を実質的に阻害する」。
【0017】
IGF/IGFBP−3複合体の使用は、多種多様の障害(例えば、米国特許第5,187,151号、同5,527,776号、同5,407,913号、同5,643,8
67号、同5,681,818号および同5,723,441号、ならびに国際特許出願番号WO 95/03817、WO 95/13823、およびWO 96/02565を参照のこと)の処置について示唆されている。IGF−I/IGFBP−3複合体はまた、糖尿病および股関節骨折手術からの復帰を含む、複数の適応症に対する処置として、Insmed Pharmaceuticals、Inc.によって開発中である。
【0018】
当業者にとって、IGF−IおよびIGFBP−3の複合体は通常、異なる化合物であるとみなされ、そして、IGFBP−3単独と比して異なる生物学的効果を有するとみなされる。
【0019】
癌の処置に対して利用可能な膨大数の細胞傷害性薬物が存在する一方で、これらの薬物は一般的に、脱毛症、白血球減少症、粘膜炎を含む、種々の深刻な副作用と関連する。従って、当該分野において、従来の細胞傷害性化学療法に付随する深刻な副作用を誘導しない癌治療に対する必要性がある。この目的を達成するための1つの方法は、細胞傷害薬物に選択的に感受性な標的細胞(例えば、腫瘍細胞)を作製し、それによって深刻な副作用を付随しないより低用量での、このような薬物の効果的な使用を可能にすることである。IGF結合タンパク質由来のプロアポトーシスペプチドは、化学療法および他の薬剤に対する腫瘍細胞のアポトーシス応答を促進することが可能であり得る(2001年9月18日に提出された、D.Mascarenhasによる「インビボにおける標的細胞の選択的な感作のためのIGF結合タンパク質の使用方法」と題された米国同時係属出願を参照
のこと)。
【0020】
現代の西側社会における生活様式の変化は、より長い寿命、よりこってりした食事、変化した睡眠パターン、増大したストレス誘導性の挙動および座っての挙動に関連すると考えられる、多発する疾患を誘発しているようである。生じ得るウイルス補因子(特に、エプスタイン−バーウイルスおよび他のヘルペスウイルス)の関与もまた、推測されている。この疾患群としては、癌、心脈管疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症)、自己免疫疾患(例えば、関節炎)、喘息、および炎症性腸疾患、変性疾患(例えば、骨粗鬆症)、増殖性/炎症性疾患(例えば、網膜症)、ならびに代謝疾患(例えば、糖尿病)が挙げられる(Grimble RF,Curr Opin Clin Nutr Metab Care 5:551〜559,2002)。
【0021】
これらの疾患のうちの(全てではないにしても)ほとんどの発症の増加に共通する要因は、免疫系(特に、細胞レベルでの慢性炎症応答)の役割変化である。そのような応答の細胞内分子特徴としては、しばしば、全般的な細胞内調節因子および細胞外調節因子(例えば、NF−κB、STAT3(Niu Gら、Oncogene 21:2000〜2008,2002)、VEGFおよびシクロオキシゲナーゼ2(COX−2))の活性化が挙げられる。NF−κBは、固形腫瘍におけるHIFの生存促進誘導の主要媒介因子である(Talks KLら、Am.J.Pathol.157:411〜421,2000)。COX−2インヒビターは、現在、種々の自己免疫適応症(例えば、関節炎および癌)を処置するために使用されている(Crofford LJ,Curr Opin Rheumatol 14:225〜30,2002)。抗炎症剤であるラパマイシン(シロリムス)は、心脈管疾患の処置のために主に関係して、ステントをコーティングするために首尾良く使用されている(Degertekin Mら、Circulation 106:1610〜3,2002)。C反応性タンパク質(CRP)(これは、慢性炎症についての代理マーカーである)の循環レベルが、現在、心臓病リスクの主要予測因子として使用されている(Futterman LGおよびLemberg L.,Am J Crit Care 11:482〜6,2002;Libby Pら、Circulation 105:1135〜43,2002)。肥満(これは、以前には、糖尿病および心臓病におけるリスクファクターとして関係付けられていた)は、これらの疾患に対する因果関係を提供するようである。なぜなら、脂肪細胞は、炎症促進性サイトカインを分泌することが公知である(Coppack SW,Proc Nutr Soc 60:349〜56,2001)からである。
【0022】
上記の病因において主要な役割を果たす細胞の別の一般的分子特徴は、表面接着分子(特に、インテグリン)の提示である。研究により、α(v)インテグリンおよびβインテグリンは、転移(Felding−Habermann Bら、PNAS 98:1853〜8,2001)、心脈管形成(Eliceiri BPおよびCheresh DA,Cancer J 3:S245〜9,2000)、アテローム性動脈硬化症(Nichols TCら、Circ Res 85:1040〜5,1999)、骨粗鬆症(Pfaff MおよびJurdic J,J.Cell Sci.114:2775〜2786,2001)および自己免疫疾患のような多岐にわたるプロセスに関係付けられている。明らかに、これらのインテグリンを提示する細胞を特異的に標的とすることが可能な全身薬剤を使用することに対する利点が、存在する。この利点は、同じ薬剤が、標的細胞内の主要な全般的炎症促進性調節因子(例えば、NF−κB)のレベルもまた調節し得る場合には、特に大きい。
【0023】
IGFBP−3および本発明のMBDペプチドは、これらの望ましい特性の両方ともを、明らかに示す。実施例の節において示されるように、マウス腫瘍モデル(乳癌16C)において、IGFBP−3タンパク質の一日一回の皮下注射により処置された動物における腫瘍は、ドキソルビシン(アドリアマイシン)に対する感受性の増加を示した。腫瘍組織の後の実際の分析によって、NF−κBは、IGFBP−3+アドリアマイシンで処置された動物の腫瘍において、アドリアマイシン単独で処置された動物の腫瘍に対して4分の1〜5分の1にダウンレギュレートされたことが示された。別の実験において、本発明者らは、IGFBP−3およびMBDペプチドは、特定の表面インテグリンを発現する細胞上で優先的に活性であることを示した。特に、α(V)インテグリンに対する抗体および特定のβインテグリンに対する抗体は、核によるMBDペプチドの取り込みとその後の共アポトーシス性生化学事象とを防止し得る。従って、IGFBP−3およびMBDペプチドは、上記に列挙される疾患群と、α(v)インテグリンもしくはβインテグリンおよび/または炎症促進性分子に依存するかあるいはそれらにより刺激される、細胞侵襲性により特徴付けられる他の任意の生物学的プロセスとを処置するための薬剤として、独特の機会を提示する。後者の例は、受精の間の栄養膜細胞層着床のプロセスである(Illera MJら、Biol.Reprod.62:1285〜1290,2000)。
【0024】
IGFBP−3、IGFBP由来のペプチドおよび本発明の関連分子についての他の適用は、調節因子または炎症の診断レポーター、および以下における侵襲性プロセスを含むことを予見され得る:癌転移、腫瘍間質活性化、全身性エリテマトーデス(SLE)のような自己免疫疾患、多発性硬化症、糖尿病、強直性脊椎炎、潰瘍性結腸炎、クローン病および他の炎症性腸疾患、関節炎、喘息およびアレルギー、骨吸収性疾患、増殖性疾患、創傷治癒、網膜症を含む眼科系疾患、繊維性疾患、生殖性生物学、アテローム性動脈硬化症および他の心臓血管適応症;ゲノム学関連適用、およびプロテオミクス関連適用において有用な、薬物発見およびその他の研究プログラムにおけるハイスループットスクリーニング手段を含む研究手段、早期発現および新規遺伝子配列のスクリーニングのための現存の技術を強化することが可能な試薬およびベクター、遺伝子治療、診断およびナノテクノロジー適用;ならびに幹細胞関連の適用において有用な研究手段。
【0025】
多数の天然プロセスおよび病理学的なプロセスが「炎症侵襲性の」または「炎症遊走性の」状態を含む。例としては以下が挙げられる:侵襲性腫瘍、胚盤胞移植/栄養膜細胞層移植、アテローム性プラ−ク沈着、骨交替、関節炎状態における関節腫脹、多発性硬化症、SLEなどのような再発軽減性(relapsing−remitting)自己免疫状態、増殖性網膜疾患および喘息における気道上皮の活性化。これらの生物学的プロセスの通常の特徴は、疾患状態に関連する局所的なクロストークに関与する、細胞型の活性化状態である。例えば、侵襲性の上皮腫瘍としては一般的に、(自身の腫瘍細胞に加えて)活性型間質細胞、微小血管上皮細胞および炎症性免疫細胞が挙げられる。これらの細胞型のいずれかの標的化の介入は、全ての疾患パターンに劇的に影響することが予想され得る。本発明者は、予期せずしてIGFBP−3およびIGFBP由来のペプチドが、このような活性化されていない同じ細胞型と比べて、活性化されている細胞において優先的に、細胞死/細胞アポトーシスをトリガーするということを見出している。確実な観察は、活性化された細胞および遊走細胞によって(Bolesら、2000、Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.278:L703−L712;Laukaitisら、2001、J.Cell Biol.153:1427−1440)、および上皮腫瘍由来の骨髄微小転移巣において優先的に示されることが公知であり(Putzら、1999、Cancer Res.59:241−248)、α−5インテグリンおよびβ−1インテグリンに対する共アポトーシス効果に依存する。
【0026】
これらの効果を、IGF−I依存性増殖作用の排除に関連する作用と区別することが重要である。文献が、乾癬のようなIGF−I依存性の炎症性プロセスに十分に言及する。例えば、米国特許第5,929,040号は、IGF−Iレセプターを標的化し、それによって皮膚炎症を縮小するインヒビターの使用を教示する。IGFBPは、結合することによってこのレセプターを介するシグナル伝達を減少させ得、従ってIGF−Iを隔離し得る。しかし、本発明のIGFBP由来のペプチドは、IGF−Iに結合せず、IGF−Iレセプターを経由してこれらの効果を発揮するとは考えられない。
【0027】
本発明ならびに、免疫不全および貧血を罹患する患者を治療するためのインタクトなIGFBP−3/IGF−I複合体の使用を示す米国特許第5,527,776号の間にも
また区別がなされるべきである。本発明は、免疫不全ではなく、免疫刺激によって特徴付けられる状態を処置するためにIGFBP−3由来の非IGF−I結合フラグメントを単独で使用する。
【0028】
結果として、IGFBP−3、IGFBP由来のペプチドおよび本発明に関連する分子は、脈管形成性の、破骨細胞形成性の(osteoclastogenic)生物学的プロセス、アテローム生成的な生物学的プロセス、侵襲的な生物学的プロセス、転移性の生
物学的プロセス、生殖性の生物学的プロセス、関節炎性の生物学的プロセス、喘息性の生物学的プロセス、繊維性の生物学的プロセス、網膜症性の生物学的プロセス、感染性の生物学的プロセス、炎症性の生物学的プロセス、神経変性の生物学的プロセス、ストレス関連の生物学的プロセス、細胞再構築の生物学的プロセス、または不死化関連の生物学的プロセス、調節因子または診断レセプターとして予見され得る。
【0029】
特に、本明細書中に開示されるIGFBP−3由来のペプチドまたはより小さい誘導体分子は、プロテアーゼインヒビター、金属キレート剤、抗増殖性分子、抗転移性分子、または抗血管形成分子として使用され得る。これらはまた、血漿キャリア剤、細胞外マトリックス成分への結合の促進剤、標的化剤、細胞内への大化合物もしくは小化合物の輸送剤(細胞インターナリゼーション剤)、アフィニティー精製タグ、スクリーニングタグ、転写剤もしくはDNA結合剤、細胞標識化剤、調節モジュレーターとして、または上記の性質のいずれかの組み合せを示す薬剤として有用であり得る。特に、このような誘導体分子は、IGFBP−3のカルボキシ末端のCD74相同性ドメイン配列由来であり得、そしてこれらの活性の多くは、これまでIGFBP−3分子のこの領域に局在化しなかった。この領域の配列を作るペプチドは、これまでに、RXR−α、トランスフェリン、ALS、プラスミノーゲン、フィブロネクチンおよびプレカリクレインを含む、多数のその公知のリガンドとIGFBP−3との結合を妨害することが示されている(Liuら、J.Biol.Cnem.275:33607−13、2000;Weinzimerら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:1806−13、2001;Campbellら、Am.J.Physiol.275:E321−31、1998;Campbellら、J.Biol.Chem.274:30215−21、1999;Firthら、J.Biol.Chem.273:2631−8、1998)。しかし、現在まで、IGFBP−3由来のペプチドは、これらのリガンドのいずれかに対する選択的な高アフィニティー結合に十分であることが示されていない。
【0030】
本明細書中で開示されるIGFBP−3由来の金属結合ドメインペプチドは、IGF−Iに結合できないこと、独特な抗原性および、IGFBP−3のIGFBP−3推定デスレセプター(P4.33)相互作用ドメイン(いわゆる「中央領域」;アミノ酸88−148)の欠如を含む、多数の重要な方法において、以前に開示されたIGFBP−3由来分子と異なる。P4−33推定デスレセプターは、国際特許出願番号WO 01/87238(Genbank登録番号BC031217;gi:21411477)に記載される。例えば、国際特許出願番号WO 02/34916は、IGF−Iへの結合が障害性であるIGFBP−3の点変異体の使用を教示する。しかし、記載される分子は、IGFBP−3の中央領域を含み、P4.33推定レセプターと相互作用することによって生物学的効果を発揮することが予想される。国際特許出願番号WO 01/87238は、疾患の処置に対するP4.33モジュレーターの使用を教示する。本発明の金属結合ペプチドは、P4.33推定相互作用ドメイン(IGFBP−3の中央領域)を含まない。米国特許第6,417,330号は、加水分解に耐性であるように改変されたIGFBP−3改変体の使用を教示する。ネイティブIGFBP−3中の核局在化シグナル(NLS)が変更される改変IGFBP−3もまた開示される。さらに、種々のN末端伸長を含む、アミノ末端伸長IGFBP−3が開示される。全てのこれらの分子は、本発明の金属結合ドメインペプチドと2つの重要な点において異なる:これらの分子はIGF−Iに結合し、そしてこれらの分子は、P4.33推定デスレセプターと相互作用すると考えられているIGFBP−3の中央領域を含む。いくつかの最近の刊行物は、培養中の細胞を処理するためのIGFBP−3ペプチドの使用を記載する。胸部癌細胞に有効であることが見出された唯一のペプチドは、IGFBP−3の中央領域由来である(McCaigら、2002、Br.J.Cancer 86:1963−1969;Perksら、Bioch.Biophys.Res.Comm.294:988−994、2002)。この領域は、本発明の金属結合ドメインペプチドの配列中には存在しない。
【0031】
鉄の代謝(特に、第1鉄)は、疾患の進行において、本発明に多くの可能性を提供する。例えば、新生物細胞は、高レベルのトランスフェリンレセプター(TfR1)を発現し、非常に高い割合でトランスフェリン(Tf)から鉄(Fe)を吸収する。アンチセンスフェリチンオリゴヌクレオチドは、ヒト乳癌細胞において、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する(Yangら、2002,Anticancer Res.22(3):1513−24)。アルテミシニン(artemisinin)は、第1鉄の存在下で細胞傷害性になる。鉄の流入は癌細胞内で高いので、アルテミシニンおよびそのアナログは、細胞内鉄濃度を増加させる条件下では、癌細胞を選択的に殺傷する(Singhら、2001,Life Sci.70(1):49−56)。鉄キレート剤は、癌細胞において、アポトーシス作用を生じ得る(Simonartら、2002,Gynecol Oncol.85(1):95−102;Greenら、2001,Clin.Cancer Res.7(11):3574−9)。癌のリスクはまた、身体の鉄貯蔵に関連することが知られている(Katoら、1999,Int.J.Cancer 80(5):693−8)。
【0032】
新生物の条件に加え、多くの他の疾患状態が、鉄のホメオスタイスにおいて特徴的な不均衡を示すことが知られている:これらの中でもとりわけ、パーキンソン病(Logroscinoら、1997,Neurology 49(3):714−7)、慢性関節リウマチ(Weberら、1988,Ann.Rheum.Dis.47(5):404−9)、炎症(Morrisら、1995,Int.J.Biochem.Cell.Biol.27(2):109−22)およびアテローム性動脈硬化症(Schmizら、2001,J.Magn.Reson.Imaging 14(4):355−61)である。急性鉄毒および慢性鉄過負荷は、心筋不全の周知の原因である。正確な機構は知られていないが、過剰な鉄に触媒されたフリーラジカルの生成が、心筋を損傷し、心機能を変更することにおいて役割を果たしていると推測されている(Bartfayら、1999,Cardiovasc.Pathol.8(6):305−14;Parksら、1997,Toxicology 117(2−3):141−51)。第1鉄は、ミトコンドリアDNAを損傷し得る(Asinら、2000,FEBS Lett.480(2−3):161−4)。虚血器官への血流の再導入の際に生じる再還流傷害は、心臓発作および心臓拍動におけるかなりの損傷を担う。再還流傷害の主要な原因は、鉄媒介性のヒドロキシラジカル(・OH)の生成である(Horwitzら、1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95(9):5263−8)。Mycobacterium tuberculosisにより分泌される高度に拡散性の親油性鉄キレート剤の使用は、培養物において平滑筋細胞の増殖を阻害し(Rosenthalら、2001,Circulation 104(18):2222−7)、インビボにおいて再狭窄を阻害する。
【0033】
鉄粒子は、超常磁性酸化鉄(SPIO)粒子(Ferucci,1991,Keio J.Med.40(4):206−14;Taupitzら、1993,Acta Radiol.34(1):10−5;Mackら、2002,Radiology 222(1):239−44)の形態で、磁気共鳴画像化においてコントラストを増強するために使用されている。より最近、これらの粒子は、鉄リッチな癌細胞において局所的な作用を生成するために、交流磁場と合わせられ、この手順は、「磁気熱切除」(Hilgerら、2002,Invest.Radiol.37(10):580−6;Shinkeiら、2001,Jpn.J.Cancer Res.92(10):1138−45)と呼ばれている。
【0034】
この背景の節中におけるいかなる特許、特許出願、または刊行物に対するいかなる参照も、このような特許、特許出願、または刊行物が、本発明に対する先行技術を構成することを承認しないことを注意すべきである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0035】
(発明の開示)
本発明者は、驚いたことに、ヒトIGFBP−3配列の一部を含むIGFBP−3またはペプチドが、多数の有用な物理的性質および生物学的性質を示し得ることを見出している。特に、本発明者は、驚くべきことに、IGFBP−3由来のペプチドの細胞内局在化が、鉄の輸送、特に第1鉄(Fe++)の輸送に関与する経路により媒介されることを発見した。従って、本発明のIGFBP−3由来のペプチドは、鉄代謝に重く関与する器官(例えば、心臓および腎臓)へと分子を送達するために特に有用であると考えられる。これらの知見はまた、鉄を運ぶ分子の細胞内取込みを調節する試薬が、IGFBP−3およびこれから誘導されたペプチドの活性を調節するために使用され得ることを示す。
【0036】
本発明者らは、驚くべきことに、「コア」MBDの14マー配列(OCRPSKGRKRGFCW)のカルボキシ末端へ6つのアミノ酸配列を付加し、カベオリン(caveolin)のコンセンサス結合配列を作製することにより、核トランスロケーション活性の実質的な上昇を生じることをまた見出した。MBDの14マーコア配列+カベオリンコンセンサス結合配列を含むペプチドは、治療用分子の核トランスロケーションを指向するために有用である。
【0037】
本発明は、IGFBP−3のC末端ドメイン由来の、ほんの12〜22アミノ酸を含む短ペプチドが、全分子の共アポトーシス性質、細胞貫通性性質、および金属結合性質を模倣し得ることを明らかにする。これらのペプチド(「MBDペプチド」)は、以下に列挙する理由に対して、全長IGFBP−3の使用の魅力的な代替法を提供する。
【0038】
効能:IGFBP−3のアミノ末端ドメインは、循環中でIGFと結合し、かつIGFを輸送し、多くの細胞型についてのIGFの筋肉増強効果および抗アポトーシス効果を増強する一方、カルボキシ末端ドメインは、IGFBP−3のIGF非依存性の効果を媒介すると考えられる。従って、この分子の治療剤としての効力は、その機能の二重性により本質的に緩衝され得る。MBDペプチドは、共アポトーシスアッセイにおいて、全長IGFBP−3よりも、最大で3倍より活性であり、そしてIGFBP−3と異なり、MBD活性は、細胞外マトリックスおよび血漿タンパク質によって激しく抑制されない。
【0039】
処方:IGFBP−3の中央ドメインは、タンパク質分解に対し精巧に感受性である。IGFBP−3の有限の溶解性、その低い安定性および明白な凝集傾向に起因して、インタクトなIGFBP−3に対する適切な処方および都合の良い送達経路の開発は魅力的である。例えば、70kgの成人IGFBP−3に対する1mg/kg/日の投与量のIGFBP−3(7mg/ml、リン酸緩衝食塩水中の最大溶解度)は、10ml(皮下ボーラス注射に適さない)である一方、70kgの成人に対して0.5mg/kg/日で与えられるMBDペプチド(PBS中35mg/ml)は、たった1ml(皮下ボーラス注射に適する)である。
【0040】
安定性:MBDペプチドは、熱(95℃、10分間)に安定であり、そしてサイズが小さく、このことがMBDペプチドを全長IGFBP−3よりも、経皮または吸入剤に基づく送達経路としてより受け入れられやすくする。
【0041】
費用:IGFBP−3分子が生物学的に活性であるために、IGFBP−3分子の全18システイン残基は分子内ジスルフィド結合を形成しなければならない。このことは、細
菌性システムまたは酵母のシステムでの臨床グレードのIGFBP−3の十分な量の産生を、非常に魅力的にする。哺乳動物のシステムは、この分子の産業的生産には高価すぎる。ヒトIGFBP−3 cDNAが1988年にクローン化されて以来、たった一つのグループがグラム量の臨床グレードの組換えIGFBP−3をうまく生産した。単4mg/kg皮下投与量のIGFBP−3の計画された販売価格は、12年間にわたって開発、洗練されたIGFBP−3のための生産技術に基づいて、そして産業標準の原価(Cost
of Goods)(COG)に対する価格比を使用して、数千ドルの範囲であることが多い。払い戻しおよび他の考慮に基づいて、この価格は禁止され得る。一方、MBDペプチドは、当業者に周知の合成化学的方法または高度に効率的な生物学的生産システムのいずれかを使用して、IGFBP−3よりも安くかつ簡単に生産されることが予想される。
【0042】
いくつかの実験室からのデータを組み合わせた配列アラインメントは、構造的に自律性である一方、分子の腫瘍細胞に対するプロアポトーシス効果を特定するのに十分であることが多いIGFBP−3の領域への洞察を提供し得る。他の研究は、この同じドメインの他の配列が核局在化、RXR−α結合、ならびに血清およびECM成分との結合に関与することを示している(21,23〜25,35,40)。我々は、この分子のこれらの領域を、動物界(哺乳動物、カエル、魚、ハエ、線虫)にまたがる、タンパク質の本質的に異なる群に見られるCD74相同性モチーフと配列比較した。本発明の目的のために、IGFBP−3のCD74相同性ドメインは、成熟IGFBP−3タンパク質のカルボキシ末端のおよそ60アミノ酸残基、またはこれらの任意のサブセットを含むと規定される。
【0043】
図2は、CD74モチーフを含む、選択されたヒトタンパク質のアラインメントを示す。保存された残基は、太字で示される。IGFBP−3中のイタリック体の残基は、核局在化およびコラーゲン結合に要求されるが、IGF−I結合には要求されない。アスタリスクはIGFBP−3のHBD変異体における残基置換を示し、プラスミノーゲン、プレカリクレイン、ALSおよびRXR−αへの結合が損なわれる。#で示されるこのペプチド領域は、緑色蛍光タンパク質と結合された場合に、細胞インターナリゼーションを促進するのに十分である。予備データは、この領域の一部を表現するペプチドが、培養中の細胞においてアポトーシスを促進するのに十分であり得ることをさらに示唆する。
【0044】
本明細書中に開示されるのは、疾患の症状を緩和するための方法である。特定の実施形態は、目的の組織(例えば、心臓組織、脈管組織、筋肉組織、免疫組織、肝臓組織、脳組織および腎臓組織)に、特に、鉄代謝に重く関与する器官(例えば、心臓および腎臓)に治療用分子を送達するためにMBDペプチドおよびその誘導体を利用する。このような実施形態において、MBFペプチドおよび治療用分子の結合体は、これらを必要とする被験体(例えば、心臓障害、脈管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、神経障害または腎臓障害)に投与され、処置されると考えられる障害の少なくとも1つの症状の緩和を生じる。
【0045】
本発明は、新生物、パーキンソン病およびアテローム性動脈硬化症のような変更された鉄代謝に関連する障害を処置する方法をさらに提供する。MBDペプチドおよび治療用分子を含む結合体は、変更された代謝に関連する障害を有する被験体に投与され、これらの障害のすくなくとも1つの症状の緩和を生じる。
【0046】
特定の実施形態において、MBDペプチドは、MBDペプチド配列に加えて、またはこれと重なって、カベオリンコンセンサス結合配列(#x#xxxx#、ここで、「#」は、芳香族アミノ酸である)を含む。カベオリンコンセンサス配列は、ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端にあり得る。特定の好ましい実施形態において、カベオリンコンセンサス結合配列は、ペプチドのカルボキシ末端にあり、MBDのコア14マー配列と重なっている。カベオリンコンセンサス結合配列を有する例示的なMBDペプチドは、配列QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGまたはKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGを含むペプチドを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明は、種々の有用な性質(細胞インターナリゼーションの方向付けを含む)を有する多数の新規ペプチド(およびペプチドの構造を模倣する低分子)に関連する。
【0048】
疾患の処置のための新規方法が、本明細書中で開示される。本発明のペプチドの種々の活性は、ある種類の障害(心臓血管適応症、腎適応症を含む)を処置するために利用され得る。
【0049】
(定義)
本明細書中で使用される場合、用語「IGF結合タンパク質」および「IGFBP」は、6つのヒトインスリン様増殖因子結合タンパク質1〜6のいずれかに基づく天然分子および誘導体分子をいう。「誘導体ペプチドまたは低分子」は、本発明に適切なIGFBPの構造的性質を保持するか、あるいは模倣する、ペプチドまたはペプチドも模倣物をいう。本明細書中の誘導体ペプチドは、IGFBP−3の全長よりも短い配列を含む。本明細書中で使用される場合、その配列または構造がIGFBPに対して同一であるか、または相同的である場合、ペプチドまたは低分子はIGFBP「由来」である。
【0050】
「CD74相同性ドメインペプチドまたは低分子」は、IGFBP−3のカルボキシ末
端の60アミノ酸配列の一部を含む誘導体ペプチドまたは低分子を意味する。
【0051】
「金属結合ドメインペプチド」または「MBDペプチド」は、約12〜約60アミノ酸長の、好ましくは約13〜40アミノ酸長のIGFBP由来のペプチドまたはポリペプチドを意味し、IGFBP−3のカルボキシ末端60アミノ酸中にCD−74相同性ドメイン配列のセグメントを含み、配列CRPSKGRKRGFCを含み、そして金属結合性質を示すが、別個の抗原性性質を示すことでインタクトなIGFBP−3とは異なり、IGF−I結合性質を欠如し、そして中央領域配列(IGFBP−3配列のアミノ酸88〜148)を欠如する。例えば、ペプチドGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWは、金属結合ドメインペプチドの例である。これは、金属イオンに結合するが、IGF−Iには結合せず、そしてこのペプチドに対するポリクローナル抗体はインタクトなIGFBP−3と実質的に交差反応せず、そしてその逆もまた真である。
【0052】
「伸長金属結合ドメインペプチド」は、天然のIGFBP−3配列とは異なって、さらなる残基と連結された金属結合ドメインペプチドである。例えば、トリペプチドであるアスパラギン−グリシン−アルギニン(NGR)のような伸長、または大きいタンパク質の配列が、薬物動態学的な標的化目的のためにか、または脂肪および核酸のような他の分子との結合体(「伸長金属結合ドメインペプチド結合体」)を調製する目的のために、付加され得る。
【0053】
「改変金属ドメインペプチド」は、天然のアミノ酸配列が改変された金属結合ドメインペプチドまたは伸長金属結合ドメインペプチドであり、このような改変としては、以下が挙げられる:配列の任意の位置における天然のアミノ酸残基の保存的な置換、天然の状況においてIGFBP−3の対応する配列位置で生じることが見出されたリン酸化、アセチル化、グリコシル化もしくは他の化学的状態の変化、配列におけるL−アミノ酸のD−アミノ酸での置換、またはタンパク質−核酸(PNA)のような鎖骨格化学の改変。
【0054】
「コア金属結合ドメインペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含む、14アミノ酸長未満のペプチドである。例えば、CRPSKGRKRGFC、QCRPSKGRKRGFCおよびCRPSKGRKRGFCWは、コア金属結合ドメインペプチドである。
【0055】
「伸長コア金属結合ドメインペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含むが、以下の天然IGFBP−3の14マー配列:QCRPSKGRKRGFCWを含まない、伸長金属結合ドメインペプチドである。
【0056】
「改変コア金属結合ペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含むが、以下の天然IGFBP−3の14マー配列:QCRPSKGRKRGFCWを含まない、改変金属結合ドメインペプチドである。
【0057】
「レトロ金属結合ドメインペプチド」は、逆転した順序でD−アミノ酸またはL−アミノ酸のいずれかを含む、金属結合ドメインペプチドの誘導体である。
【0058】
「細胞インターナリゼーションペプチド」は、IGFBP−3のCD74相同性ドメインに存在する配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたはその一部を含む、ペプチドまたは他のタンパク質性分子、あるいはその変異体または他の誘導体を意味する。
【0059】
「血漿循環ペプチド」は、IGFBP−3の循環血漿タンパク質結合特性のいくらかまたは全てを保持する、CD74相同性ドメインペプチドを意味する。プラスミノーゲン、
トランスフェリン、カリクレイン、酸不安定性サブユニットまたはフィブリノーゲンへの結合は、この範疇の例である。
【0060】
「ECM結合ペプチド」は、IGFBP−3の細胞外マトリックス成分結合特性のいくらかまたは全てを保持する、CD74相同性ドメインペプチドを意味する。ヘパリン、コラーゲンおよび細胞表面成分への結合は、この範疇の例である。
【0061】
用語「処置レジメン」は、治療の過程をいう。処置レジメンは、単一の化学薬剤のような単一の薬剤を使用し得るが、より代表的には、2つ以上の異なる薬剤(例えば、複数の異なる細胞傷害性化学療法剤を用いる併用療法)を含み得、そして2つ以上の異なる型の薬剤(例えば、電離放射線のような物理薬剤と組み合わせた、パクリタキセルのような化学薬剤の投与)を含み得る。処置レジメンはまた、栄養レジメン、ストレスレジメンまたは運動レジメンをいい得る。
【0062】
本明細書中で使用される場合、用語「緩和する」は、疾患の症状の改善、減殺(lessening)、安定化または減少をいう。「緩和する」はまた、症状の進行の緩徐化、または停止を含む。例えば、癌の症状を緩和することとしては、腫瘍増殖を遅らせることもしくは安定化させること、腫瘍サイズを減少させること、または腫瘍を完全に除去することが挙げられる。
【0063】
本明細書中で使用される場合、用語「被験体」は、鳥類および哺乳動物個体を含み、より具体的には、スポーツ動物(sport animal)(例えば、犬、猫など)、農業用動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジなど)および霊長類(例えばヒト)を含む、脊椎動物個体をいう。
【0064】
本明細書中で参照される場合、配列「同一性」および配列「相同性」は、BLSAT(Altschulら、1990、J.Mol.Biol.215(3):403−410)、特に、デフォルトパラメーター(例えば、Matrix 0 BLOSUM62、それぞれギャップオープンペナルティ11および伸長ペナルティ1、ギャップX_ドロップオフ50ならびにワードサイズ3)を使用する、National Center for Biotechnology Information(NCBI)によって実行されているBLASTP 2を使用して決定され得る。「連続した」アミノ酸といわれない限りは、配列は、必要に応じて、アラインメントを向上する適切な数のギャップまたは挿入を含み得る。
【0065】
本明細書中で使用される場合、用語「結合体」は、ペプチドと第2の分子(例えば、転写調節因子または治療用分子)との間の共有結合体および非共有結合体の両方を包含する。非共有結合体は、結合対(例えば、ビオチンとアビジン、またはストレプトアビジン、または抗体(Fabフラグメント、scFv、ならびに他の抗体フラグメント/改変体))とその同族の抗原を使用することによって作製され得る。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprising)」およびその同族は、その包含的意味で使用される;すなわち、用語「含む(inclding)」およびその対応する同族と同等である。
【0067】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、別に指示されない限り、複数形の言及を含む。
【0068】
(IGF結合タンパク質誘導体ペプチドおよび低分子組成物)
本発明の方法に従う使用のためのIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、任意の種由来であり得るが、種が一致したIGF結合タンパク質(すなわち、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子を投与するべき被験体と同じ種由来のネイティブ配列に基づいた、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子)が、好ましい(例えば、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子がヒト被験体に投与されることが意図される場合、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、ヒトIGFBP由来であることが好ましい)。本発明における使用のためのIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、非複合体化IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子であり、すなわち、IGFの非存在下で投与され(例えば、IGF−I複合体として投与されない)、そして、好ましくはいかなるIGFタンパク質も含まないで投与される。好ましくは、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、IGFBP−3由来である。
【0069】
IGFBP−3についての天然に存在するタンパク質配列の1つは、図1に示される。ヒトIGFBP−3は、2つの天然に存在する対立遺伝子改変体として見出される;アラニンが成熟なタンパク質の位置5で見出され得る(図1Aに示される)か、あるいはグリ
シンがこの位置に見出され得る。さらに、IGFBP−3の他の改変体が作製され得る。例えば、[N109D]−IGFBP−3は、成熟配列の位置109にアミノ酸配列変更を有するが、現在までに試験されている多くのアッセイにおいて、野生型のIGFBP−3と非常に類似して振る舞うIGFBP−3の誘導体である。点変異誘導体はまた、IGF−I、IGF−IIまたはIGFBPの他の公知のリガンドのいずれかに結合する能力において選択的に衰弱された変異体を含む。例えば、IGFBP−5の保存的残基または半保存的残基Val49、Tyr50、Pro62、Lys68、Pro69、Leu70、Ala72、Leu73およびLeu74の1つ以上に対応する位置の点変異が、IGF−I結合を衰弱させ得ることが示されている。これらの残基の多くは、他のIGF結合タンパク質でもまた、よく保持されている。IGFBP−3の成熟配列の位置228および230における変異は、核移行および、コラーゲンのような細胞外マトリックスタンパク質との結合に影響すると考えられる。
【0070】
IGFBP−3またはIGFBP−3配列の一部に基づくペプチド誘導体の欠質変異体もまた、誘導体ペプチドおよび低分子の設計のための鋳型として使用され得る。IGFBP−3分子は、264アミノ酸からなり、3つの主要な構造ドメインを有する。システインリッチなアミノ末端ドメイン(おおまかに成熟配列の最初の100アミノ酸)が、IGFの高親和性結合に必須であることが公知である。中央ドメイン(約80アミノ酸)は、システイン残基を有さず、そしてプロテアーゼに対して非常に敏感である。この部分はまた、特異的な細胞レセプターとの結合において重要な役割を果たし得る。カルボキシ末端ドメイン(約80アミノ酸)はまた、システインリッチであり、そして、細胞外マトリックス分子(例えば、ヘパリンおよびコラーゲン)、血清分子(例えば、ALS、プラスミノーゲンおよびフィブリノーゲン)、核レセプター(例えば、RXRおよびインポーティン(importin))との結合に必須の配列を含む。欠失変異体または点変異体を得るための核酸操作、タンパク質発現およびタンパク質精製の方法は、当該分野で公知である。
【0071】
一旦、IGFBP−3のドメインが、必要に応じて点変異分析または欠失分析によって決定され、そして特定の生物学的活性(例えば、標的細胞の感作)に十分である場合、IGFBP配列の一部からなる、ペプチドのようなより低分子を設計することが可能である。例えば、配列
(H2N)...DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号1);
(H2N)...GFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号2);
(H2N)...QCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号3);および
(H2N)...CRPSKGRKRGFC...(COOH)(配列番号4)
のうちの1つ以上は、IGFBP−3の生物学的効果のいくつかを模倣するのに十分であり得るが、本発明の特定の実施形態は、配列DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよび配列QCRPSKGRKRGFCWを含むか、または配列DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよび配列QCRPSKGRKRGFCWからなるペプチドを排除し得る。
【0072】
IGFBP−3の三次元構造は知られていないが、IGFBP−3分子の関連領域とかなりの相同性を共有する、CD74インバリアント鎖の構造は記載されている(Ghoshら、Nature 378:457−462、1995)。IGFBP(好ましくはIGFBP−3)配列由来のペプチド模倣物分子は、当該分野で公知の技術を使用して、CD74インバリアント鎖の三次元構造を参照して生成され得る。これらの誘導体分子のいずれもが、化学処置に対して標的細胞を感作する能力を含む、所望の生物学的活性につい
てアッセイされ得る。これらのアッセイの結果に基づき、変更された特性を有する、少ない数のIGFBP−3変異体またはIGFBP−3誘導体が、ヒト疾患の状況において、臨床試験のために選択され得る。
【0073】
本発明は、MBDペプチドコア14マー配列およびカベオリンコンセンサス結合部位を組み込むペプチドを提供する。カベオリンコンセンサス配列は、ペプチドの上流に(すなわち、アミノ末端に向かって)または下流に(すなわち、カルボキシ末端に向かって)配置され得、MBDコア14マー配列と重複し得る。例示的な実施形態として、ペプチドMBD20(QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびMBD21(KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYG)が挙げられる。
【0074】
(IGF結合タンパク質誘導体ペプチド生成)
IGF結合タンパク質または誘導体は、通常、IGFBP配列における全ての可能な改変体の生成を可能にする組換え法によって生成される。組換えDNAの操作に関する技術は、当該分野で周知であるタンパク質の組換え生成に関する技術とも同様である(例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、1〜3巻(Cold Spring Harbor Laboratory Press、第2版、(1989);または、F.Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing and Wiley−Interscience:New York、1987)および定期的な最新情報を参照のこと)。公知の組成の誘導体ペプチドまたは低分子はまた、当該分野で周知の方法を使用して、化学合成によっても生成され得る。
【0075】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子をコードする配列を含む核酸ベクターは、研究、ハイスループットスクリーニングまたは他のゲノム科学関連技術およびプロテオミクス関連技術の実行を促進するためにこれらの分子の改変された性質を利用し得る。特に、いくつかのCD74様ペプチドの金属結合特性は、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)樹脂(例えば、His−Bind樹脂(Novagen Inc.、Madison、WI)、ニッケル−NTA樹脂(Qiagen Inc.、Carlsbad、CA)およびTalon樹脂(Clontech Inc.、Palo Alto、CA))を使用し、このような樹脂の製造業者によって推奨されるプロトコールを使用する、粗抽出物からの発現遺伝子産物の迅速なアフィニティー精製に役立ち得る。同様に、いくつかのCD74様ペプチドのプロテアーゼインヒビター特性は、精製の間の発現遺伝子産物の安定性に役立ち得る。いくつかのCD74様ペプチドの細胞インターナリゼーション性質は、特に細胞核への輸送が生物学的性質のスクリーニングを促進し得る場面において、哺乳動物細胞における、特定の遺伝子産物の迅速なスクリーニングに役立ち得る。ベクター内のIGF結合タンパク質由来配列の選択的タンパク質分解切断部位の使用は、IGFBPまたはそのペプチド誘導体の適切に折り畳まれたドメインの発見に役立ち得る。このような配列を含む遺伝子産物の発現後切断をもたらすためのヒトライノウイルス 3Cプロテイナーゼの使用は、特に推奨される(参照)。
【0076】
好ましくは、IGF結合タンパク質または誘導体は、組換え宿主細胞として細菌細胞株を使用して産生される。発現構築物(すなわち、宿主細胞における適切な発現に必須のDNA配列と実施可能に連結された、所望のIGF結合タンパク質または誘導体をコードする配列を含むDNA配列(例えば、構築物の5’末端のプロモーターエレメントおよび/またはエンハンサーエレメント、ならびに構築物の3’末端のターミネーターエレメント))が、宿主細胞に導入される。IGF結合タンパク質または誘導体をコードするDNA配列は、必要な場合、別のタンパク質(「融合パートナー」)をコードする配列と連結され、融合タンパク質を形成し得る。好ましくは、IGF結合タンパク質または誘導体をコードするDNA配列は、米国特許第5,914,254号に記載されるような融合パートナーをコードする配列と連結される。発現構築物は、プラスミドあるいはコスミドのような染色体外構築物であり得るか、または、例えば、米国特許第5,861,273号に記載されるように、宿主細胞の染色体に組み込まれ得る。
【0077】
(IGFBP由来のペプチドを組み込んだ結合体および融合物)
本明細書中で開示するように、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWは、無関係のタンパク質の細胞インターナリゼーションを方向付けることが可能であり、心臓組織および腎臓組織への細胞インターナリゼーションを方向付けることに特に有用である。従って、本発明は、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドおよび低分子と、細胞内に内部移行されることが所望される分子との、融合物ならびに/または結合体を提供する。融合物パートナー分子は、通常(例えば、大きいサイズ、親水性などの理由で)内部移行されないポリペプチド、核酸、または低分子であり得る。当業者に明らかであるように、このような融合/結合体は、医薬品(通常は内部移行されない治療分子のインターナリゼーションを促進するため)、遺伝子治療(遺伝子治療構築物のインターナリゼーションを促進するため)、および研究(インターナリゼーションマーカータンパク質を用いる細胞の「マーキング」を可能にする)を含む、多数の異なる分野において有用である。好ましいIGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドは、配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたは上記配列と少なくとも80、85、90、95、98、もしくは99%の相同性を有する配列を含むペプチドであり、ここで、このペプチドは、IGFBP−3の完全配列を含まない。IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドとポリペプチドとの融合物は、好ましくは、融合タンパク質をコードするDNA構築物の作製によって生成されるが、このような融合物はまた、インターナリゼーションペプチドと目的のポリペプチドとの化学連結反応によって作製され得る。IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドと核酸または低分子との結合体は、当該分野で公知の化学架橋技術を使用して作製され得る。好ましくは、結合体は、ヘテロ二官能性架橋剤を使用して生成され、インターナリゼーションペプチドのマルチマーの生成を回避する。
【0078】
IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと転写調節因子(例えば、転写因子)との結合体が、本発明によって提供される。ほとんど全ての転写因子は、通常は細胞外の環境から内部移行されることができず、そのために、そのネイティブの型では薬剤として不適切である、細胞内タンパク質である。しかし、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと融合または結合体化される場合、転写因子は、内部移行され得、そして細胞の転写に影響し得る。例えば、T−bet(Szaboら、2000、Cell 100 (6):655−69)、すなわち、Tリンパ球をTh1系統に方向付けるように見える転写因子は、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと融合され、免疫調節に有用な分子を作製し得る。
【0079】
細胞インターナリゼーションペプチドおよび治療分子の結合体もまた提供される。細胞インターナリゼーションペプチドは、細胞の内部に送達されるように方向付けられる任意の治療分子(アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド構築物(例えば、増殖因子などのようなコード治療分子)を含む)と結合体化され得る。
【0080】
細胞インターナリゼーションペプチド(例えば、MBDコア14マー)およびカベオリンコンセンサス結合配列(MBD/カベオリンペプチド)を含むペプチドもまた、結合体に組み込まれ得る。MBD/カベオリンペプチドは、細胞の内部に送達されるように方向付けられる任意の治療分子(アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド構築物(例えば、増殖因子などのようなコード治療分子)を含む)と結合体化され得る。
【0081】
マーカー部分およびIGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む融合分子/結合体分子もまた、提供される。このような融合/結合体分子に有用なマーカー部分としては、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、および、酵素活性の効力により検出され得る他のタンパク質(例えば、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなど)のようなタンパク質、ならびに、二次検出システム(例えば、特異的な抗体)によって検出され得る「発現タグ」部分が挙げられる。発現タグ部分は周知であり、そしてmycおよび他のタンパク質由来のペプチドを含む。急速に分裂する細胞の核へのIGFBP−3の局在化に起因して、配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたは上記配列に少なくとも80、85、90、95、98、もしくは99%の相同性を有する配列を含む、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む融合分子/結合体分子は、細胞標識用途、および診断用途に、特に有用であると考えられる。IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む、このような融合/結合体分子の他の企図される用途としては、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを組み込む薬学的分子の薬物動態学的な研究が挙げられる。
【0082】
実施例3で開示されるように、発明者は、IGFBP−3分子中の金属結合モチーフの存在を発見し、これによってこのモチーフを含むドメインの実用的な回収を可能にした。IGFBP由来のペプチドDKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよびペプチドQCRPSKGRKRGFCWは各々、ニッケルを充填されたアフィニティーカラムに結合する。このような金属結合性質は、複合混合物(例えば、細菌細胞溶解物)からの所望のペプチドの精製に使用され得る。代表的に、各ペプチドをコードするDNA配列(または金属結合活性および少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%の配列相同性を有するそのホモログ)は、目的のポリペプチドをコードするDNA配列と融合され、ここで、このペプチドはIGFBP−3の完全配列を含まない。金属結合ペプチドをコードする配列は、目的のポリペプチドをコードするDNA配列の5’末端または3’末端に融合され得、そして、目的の配列内に挿入さえされ得る(このことはあまり好ましくないが)。好ましくは、エンドプロテアーゼについての認識部位をコードするDNAは、金属結合ペプチドをコードする配列と目的のポリペプチドをコードする配列との間に挿入され、金属結合ペプチドの除去を可能にする。有用なプロテアーゼ認識部位としては、ヒトライノウイルス 3Cプロテアーゼの認識部位、エンテロキナーゼの認識部位、Xa因子の認識部位、およびユビキチンの認識部位(ユビキチナーゼの認識部位)が挙げられる。次いで、融合ポリペプチド(IGFBP由来の金属結合ペプチドおよび目的のポリペプチド、ならびに必要な場合プロテアーゼ認識部位を含む)をコードするDNAは、コードされた融合ポリペプチドの転写および翻訳に必須のDNA配列を含む都合よい任意の発現ベクターに挿入される。DNA発現構築物は、組換え宿主(例えば、E.coliまたはS.cerevisiae)に形質転換され、そして当該分野で公知の標準の方法を使用して回収される。次いで、融合ポリペプチドは、当該分野で周知のように、二価のカチオン(例えば、亜鉛またはニッケル)を充填されたアフィニティーカラムを使用して精製され得る。融合ポリペプチドがプロテアーゼ認識部位を含む場合、同族のプロテアーゼが、精製プロセスの適切な時点において、目的のポリペプチドから金属結合ペプチドを切断するのに使用され得る。
【0083】
(治療的な投与)
本発明は、さらに、アテローム性動脈硬化症を含む心血管疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)を含む自己免疫疾患、多発性硬化症(MS)、糖尿病(特に、I型糖尿病)、強直性脊椎炎、潰瘍性結腸炎、クローン病を含む炎症性腸疾患、関節炎(特に、慢性関節リウマチ)、喘息およびアレルギー、骨吸収性障害、網膜症を含む眼科系疾患、および繊維性疾患を含む障害を処置する(例えば、その症状を軽減する)方法を提供する。上記の背景において考察されるように、これらの障害は、細胞レベルでの慢性炎症性応答によって媒介される。本発明に従って、これらの障害は、有効量の本発明のMBDペプチドの投与によって処置される。
【0084】
転写調節因子とIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドとの融合物または結合体を含む、組成物の投与を含む治療的な方法もまた提供される。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらに、カベオリンコンセンサス結合配列を含む。いくつかの実施形態において、その融合物または結合体は、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドと、T−betのような転写因子とを含む。T−betを含む結合体は、Th1応答に対する免疫応答を変更するか、または偏らせる、免疫調節に有用であり、この免疫調節は、アレルギー、自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチ)および他のTh2媒介性障害のような障害の症状を緩和し得る。
【0085】
心臓障害、脈管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、脳障害および腎臓障害を処置する方法がさらに提供され、この方法は、治療分子およびIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの結合体を投与する工程を包含する。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらにカベオリンコンセンサス結合配列を含む。これらの実施形態は、心臓組織、骨格筋組織、脾臓組織および腎臓組織へのIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの差示的取り込み、治療分子の標的組織中の細胞の内部への送達を利用する。治療分子は、標的器官での活性のために細胞インターナリゼーションを必要とする任意の分子であり得る。これらの実施形態における使用のための好ましい治療分子の1つのクラスは、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。小さな阻害性RNA(siRNA)もまた好ましいクラスの治療分子である。心臓障害および腎臓障害の処置のため、結合体は、一般的に、非経口経路によって、単純に投与され得る。特定の実施形態において、結合体の投与よりも、治療分子の非存在下でのIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの投与が先立つ。このような前処置は、治療分子/IGFBP由来のインターナリゼーションペプチド結合体の投与の前に、任意の従来の期間(例えば、約2日〜約4週間、または4日〜3週間、または1週間〜18日間)行われ得る。例えば、心筋梗塞の直後に、心臓細胞の死を妨げるように設計された分子(例えば、適切なプロサバイバル(pro−survival)遺伝子(例えば、bax−αまたはカスパーゼ−3の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはbcl−2の発現を指向するポリヌクレオチド)が、全身投与され得る。他の実施形態において、このような結合体は、腎臓障害(例えば、虚血)、肝臓障害(例えば、薬物過服用(例えば、アセトミノフェンまたはアルコールと組み合わせたアセトミノフェン))、肝臓毒性化合物への曝露(例えば、Amanita phalloidesのような毒性キノコの接種による)の影響を改善するために投与され得る。本発明の結合体はまた、骨格筋および免疫系の細胞へ治療分子を送達するために使用され得、MBDペプチドの筋肉および脾臓それぞれへの局在化を利用する。
【0086】
本発明はまた、変化した鉄代謝(例えば、新生物形成、パーキンソン病、およびアテローム性動脈硬化症)と関連する障害を処置する方法を提供する。治療分子に結合体化されたIGFBP由来のインターナリゼーションペプチド(例えば、MBDペプチド)は、変化した鉄代謝と関連する障害を有する被験体に投与され、障害の少なくとも1つの症状の改善を生じる。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらに、カベオリンコンセンサス結合配列を含む。例えば、新生物細胞、パーキンソン病およびアテローム性動脈硬化症での増加した鉄の取り込みは、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチド(例えば、MBDペプチド)との結合体の形態で、これらの障害における影響を受けた細胞へ治療分子を送達するために利用され得る。
【0087】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む分子は、好ましくは経口投与を介してか、または非経口投与を介して投与される。非経口投与には以下が含まれるが、これらに限定されない:静脈内(IV)経路、腹腔内(IP)経路、筋肉内(IM)経路、皮下(SC)経路、皮内(ID)経路、経皮経路、吸入経路、および鼻腔内経路。IV投与、IP投与、IM投与およびID投与は、ボーラス投与によってか、または注入投与によってであり得る。SC投与については、投与は、ボーラス投与によってか、注入によってか、あるいは移植可能なミニポンプ(例えば、浸透圧性ミニポンプもしくは機械的ミニポンプ)または徐放性の移植片のような移植可能なデバイスによって、であり得る。IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子はまた、IV投与、IP投与、IM投与、ID投与またはSC投与に適合された徐放性処方物中で送達され得る。吸入されるIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子は、好ましくは、分散した用量で送達される(例えば、タンパク質送達に適合された定用量吸入器によって)。経皮経路を経由する、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む分子の投与は、連続的であるか、または拍動性であり得る。誘導体ペプチドまたは誘導体低分子の投与はまた、経口的に起こり得る。
【0088】
非経口投与について、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、乾燥粉末処方物、半固形処方物または液体処方物中にあり得る。吸入以外の経路による非経口投与について、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、好ましくは、液体処方物にて投与される。IGF結合タンパク質誘導体ペプチド処方またはIGF結合タンパク質誘導体低分子処方物を含む組成物は、塩、緩衝液、膨張性薬剤、オスモライト(osmolyte)、酸化防止剤、洗剤、界面活性剤、および当該分野で公知の他の薬学的賦形剤のような付加的な成分を含み得る。
【0089】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドおよびIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、約0.001〜約40mg/kg/日の用量で、より好ましくは約0.01〜約10mg/kg/日の用量で、より好ましくは、約0.05〜約4mg/kg/日の用量で、なおより好ましくは、約0.1〜約1mg/kg/日の用量で、被験体に投与される。
【0090】
IGFBP誘導体ペプチドまたはIGFBP誘導体低分子を含む組成物の投与の代替法としては、IGFBP誘導体ペプチドまたはIGFBP誘導体低分子を含む組成物をコードする核酸構築物が投与され得る。この構築物は、IGFBP誘導体ペプチドを含む組成物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、そして、通常、細胞におけるIGFBP誘導体ペプチド配列を含む組成物の発現および翻訳を生じるIGFBP誘導体ペプチド配列に作動可能に連結された配列(例えば、プロモーター/エンハンサー、翻訳開始部位、ポリアデニル化シグナルなど)を含むが、細胞染色体中に組み込むように設計された構築物もまた、企図される(例えば、その構築物がIGFBP誘導体ペプチド配列に隣接するレシピエント細胞の染色体に相同な配列のような、宿主の染色体への組み込みを促進する配列を含む場合)。
【0091】
遺伝子移入の方法は、当該分野で周知であり、インビトロ法(例えば、培養細胞(好ましくは被験体に再導入される自己細胞)の形質転換)、エキソビボ法(例えば、インビボで培養されていない細胞(好ましくは被験体に再導入される自己細胞)の形質転換)およびインビボ法(例えば、被験体への核酸構築物の投与によるインサイチュでの細胞の形質転換)が挙げられる。このような遺伝子移入を達成するための方法は、当該分野で周知であり、リン酸カルシウム形質転換、バリスティック(ballistic)形質転換、エレクトロポレーション、脂質媒介性形質転換、裸のDNA移入、およびウイルス媒介性移入(例えば、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター)を含む、標準の形質転換法が挙げられる。
【0092】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、以下の同時投与剤のうちの1つ以上と一緒に被験体に投与される:化学療法剤;抗体;物理的ストレス(例えば放射線);処置レジメン(例えば、栄養上のレジメン);または標的細胞上に存在するレセプター(例えば、レチノイドレセプターおよび甲状腺レセプター)のリガンド。被験体が、同時に両方の薬剤に対する曝露を経験する限りは、2つの薬剤の投与は、同時であっても、重なっていても、または時間的に別々であってもよい。2つの薬剤が同じ投与経路および同じ投与スケジュールのために処方される場合、投与は、好ましくは同時であるか、またはほぼ同時である(例えば、同時注入または連続注入)。しかし、いくつかの実施形態において、2つの薬剤についての投与経路および投与スケジュールは異なり、このことが同時投与を不都合にする。化合物がいつ、どのようにして投与されるかにかかわらず、被験体が両方の化合物に対して同時かつ全身性の暴露を経験する場合、被験体は両方の薬剤を投与されたとみなされる。
【0093】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子を含む組成物との同時投与剤の投与を必要とする方法において、この同時投与剤の用量は通常、その薬剤について当該分野で公知のように、個々の被験体について力価測定される。同時投与剤は、非経口および経口の投薬形態を含む、当該分野で公知の任意の処方物において作製され得る。経口処方物が好ましいが、非経口処方物もまた受容可能であり、そして入院の場面においてより簡便であり得る。非経口投与のための処方は、通常液体として処方されるが、ゲル形態または固形デポー形態でもあり得る。経口投与のための処方物は、通常錠剤またはカプセルの形態であるが、シロップまたは液体もまた受容可能である。同時投与剤の処方は通常、賦形剤(例えば、塩、緩衝液、バルキング剤、洗浄剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤、保存剤、酸化防止剤、潤滑剤、コーティング剤、および当該分野で公知の他の薬学的に受容可能な賦形剤)を含む。
【0094】
同時投与剤の投薬量および投与形態は、当該分野に公知であるように、同一性、処方、投与経路および同時投与剤に関する他の関連特性に従って、調節されるべきである。
【0095】
誘導物質およびアンタゴニストは、同様の方法で投与される。例として:アンタゴニストがプロピルチオウラシルである場合、プロピルチオウラシルの用量は、1〜400mg/日であり得る。被験体は通常、50〜400mg/日の用量(代表的には3回の等用量に分けられる)で開始され、2回または3回の等用量に分けて50〜100mg/日で維持される。メチマゾールおよびカルビマゾ−ルについては、用量は、0.1〜50mg/日であり得る。代表的には、被験体は5〜50mg/日で開始され、1〜5mg/日で維持される。
【0096】
当業者に理解されるように、本方法ならびに症状を測定するために使用される方法によって緩和される疾患の症状は、特定の疾患および個々の患者によって変化する。
【0097】
本発明の方法に従って処置される患者は、彼らの疾患の症状のいずれかの緩和を経験しうる。例えば、MBDペプチドおよび同時投与剤で処置される癌患者は、腫瘍安定化(例えば、進行しないようにし得る)、腫瘍縮小、または腫瘍の排除を経験しうる。MBDペプチドおよび同時投与剤での処置はまた、転移の発生率の減少または減少した数の転移性腫瘍を生じうる。MBDペプチドで処理される心臓血管疾患患者は、彼らの症状(血管狭窄およびアンギナ、ならびに/またはアテローム硬化性斑の数、サイズまたは形成の減少を含む)のいずれかの減少または排除を経験しうる。MBDペプチドで処置される自己免疫疾患を有する患者は、彼らの症状(例えば、腎性発赤(renal flare)、疲労による体重減少、関節痛、蝶型紅斑、貧血(SLE)または虚弱、感覚異常、硬化脳病変の数もしくはサイズ(MS)、あるいは疼痛、硬直(stiffness)、腫脹または運動範囲の(関節炎、特に慢性関節リウマチ)改善または安定化、あるいは腹部/上腹部疼痛、痙攣、下痢(クラウン病を含む炎症性腸疾患)、あるいは絶食時血清グルコースレベルもしくはインスリン要件(糖尿病)、あるいは喘鳴、咳き込み、最大呼気流量またはβアゴニスト(喘息)のような緊急的な投薬の必要性、またはアレルギー性鼻炎(アレルギー)を含む)のいずれかの減少、排除または安定化を経験しうる。MBDペプチドで処置される網膜症患者は、視力における改善または安定化を経験しうる。骨再吸収疾患(例えば、骨粗鬆症)を有する患者は、骨折の危険性または割合の減少として現れうる、骨量の損失の速度の改善、安定化、または減少を経験しうる。
【0098】
(キット)
本発明は、IGFBP由来のペプチドまたは低分子を備えるキットを提供する。このキットは、IGFBP由来のペプチドまたは低分子を含む組成物を含む少なくとも1つのパッケージを備える。必要に応じて、キットはまた、組成物の使用に関する説明書のセットを備える。
【0099】
キットに含まれる組成物は、IGFBP由来のペプチドもしくは低分子、またはIGFBP由来のペプチドもしくは低分子を含む融合体/結合体であり得る。特定の実施形態において、キットはまた、細胞傷害性化学療法薬剤(例えば、パクリタキセルまたはドキソルビシン)のような同時投与剤の少なくとも1パッケージを含み得る。IGFBP由来のペプチドまたは低分子(および任意の、同時投与剤)を含む組成物の容器は、単位用量であるか、バルクパッケージ(例えば、多用量パッケージ)であるか、またはサブユニット用量であり得る。
【0100】
説明書を含む実施形態において、この説明書は通常、包含される組成物の意図した使用のための(例えば、癌、過剰増殖障害、または動脈再狭窄の処置のための)、投薬量、投薬スケジュール、および投与経路に関する情報を含む。本発明のキットに提供される説明書は、代表的に、ラベルまたはパッケージ挿入物(例えば、キットに含まれる紙の書面)に書かれた説明書であるが、機械で読み取り可能な説明書(例えば、磁気記憶ディスクまたは光学記憶ディスクで実行される説明書)もまた受容可能である。
【0101】
本開示を通して引用された特許、特許出願、および出版物は、それら全体が、本明細書中で参考として援用される。
【実施例】
【0102】
(実施例1:IGFBP−3を用いた、栄養的ストレスを与えられたHEK293肝細胞の処置)
ヒト胚性肝臓293(HEK293)細胞を、2%、4%、6%または8%のウシ胎児血清を補充したダルベッコの改変イーグル培地(D−MEM)中で増殖させた。細胞が80〜85%コンフルエンシー(細胞の力価:1プレートあたりおよそ2.1×106細胞)に到達したとき、5μgのIGFBP−3または緩衝液コントロールを各プレートに添加した。細胞を、37℃で一晩培養した。次の日、培地を除去し、細胞をトリプリン−EDTA(0.25%トリプシン、1mM EDTA)+1×リン酸緩衝生理食塩水でリンスした。細胞を遠心分離し、そして上清を除去した。Clontech Inc(Palo Alto,CA)製のApoAlertカスパーゼ3アッセイキットを使用して、アポトーシスを測定した。細胞を50μlの冷却した細胞溶解緩衝液に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートした。得られた細胞溶解物をBeckman マイクロ遠心分離機中、14000rpmで4℃にて3分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、50μlの2×反応緩衝液/DTT+5μlの1mMカスパーゼ3基質を各チューブに添加した。水浴中37℃で1時間インキュベートした後、サンプルをマイクロプレートリーダーの405nmで読んだ。この実験の結果を、図3に示す。
【0103】
(実施例2:プロアポトーシスペプチド配列の同定)
図4Aに示すように、そして共有に係る米国特許出願番号09/956,508に開示されるように、IGFBP−3は、アポトーシス促進活性を有する。IGFBP−3由来のペプチドを、本質的に実施例1に記載されるように、アポトーシス促進活性について試験した。
【0104】
試験したペプチドを、表1に記載する(*で印を付けたペプチドは、ヘキサヒスチジンタグを含む)。
【0105】
【表1】
図4Bに要約されるこの実験からのデータは、最初に、インタクトなIGFBP−3自体より大きいアポトーシス促進活性(重量ベースに基づく)を示すIGFBP−3由来のペプチドを生成することが可能であることを示した。ペプチドHとペプチドIのアポトーシス促進活性を比較すると、ペプチドIが重量ベースでインタクトなIGFBP−3(B、C)または長いペプチド(G、H)よりも3〜4倍高いアポトーシス促進活性を示したことは注目すべきである。すなわち、ペプチドIと比較して、ペプチドHの9つのさらなるアミノ酸の存在が、劇的に低いアポトーシス促進活性をもたらした。
【0106】
(実施例3:IGFBP−3および誘導体ペプチドの金属結合特性)
図5に示すように、インタクトなIGFBP−3は、固定化されたニッケルおよび亜鉛に結合し、60mMイミダゾールで樹脂から溶出され得る。このIGFBP−3の以前まで知られていなかった特性は、魅力的であり、そして多数の実用的な意味を有し、その中で、固定化金属アフィニティー(IMAC)樹脂を使用して産物を捕捉する能力が、治療、ハイスループットな発見、および他の研究領域における多数の潜在的な用途をもたらす。
【0107】
図5は、Ni++(パネルa)IMACおよびZn++(パネルb)IMACを使用する、IGFBP−3のIMAC精製からのSDS−PAGEの結果を示す。IGFBP−3は、両方のIMAC樹脂に効率的に結合する。
【0108】
本発明者らは、金属に結合するIGFBP−3由来のサブドメインおよびペプチドの能力をさらに試験した。以下の実施例5に示すように、インビボで生成されたIGFBP−3の規定されたフラグメントは、IMAC上に捕捉され得る。2つの短いペプチドがNi−His結合カラムを通過した:
ペプチド1:(H2N)...DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH);
ペプチド2:(H2N)...QCRPSKGRKRGFCW...(COOH)。
【0109】
両方のペプチドが、カラムに特異的に結合した。ペプチド1は60mMイミダゾールで溶出されたのに対し、より高濃度のイミダゾール(1M)がペプチド2の溶出に必要であった。それゆえ、ペプチド2はペプチド1が結合するよりも、より密接に金属に結合するようである。
【0110】
(実施例4:IGBP−3および同時投与剤を用いるLAPC−4前立腺腫瘍細胞の処置)
IGFBP−3のTAXOL(登録商標)との併用の、LAPC−4移植片モデルを利用する前立腺癌細胞の増殖および死に対する効果を分析するための研究を実施した。100万個の細胞(100μl中)をSCIDマウスにSQ注入した。4週間後に、蝕知可能な腫瘍が観察された。4群を処置した(1群あたり6マウス):1)生理食塩水コントロール;2)IGFBP−3(4mg/kg/日で腹腔内);3)TAXOL(登録商標)(2mg/kg/日で5〜8日目に腹腔内);4)TAXOL(登録商標)とIGFBP−3の併用。毎週の触診により、腫瘍をサイズについて分析し、血清を採取した。動物を21日目に屠殺し、腫瘍重量を評価した。この実験の結果は、併用治療による減少した腫瘍サイズ(40%)の傾向を示した。この生物学的作用は、IGFBP−3のアポトーシス促進活性に起因すると考えられる。
【0111】
(実施例5:3Cプロテアーゼ標的部位をタンパク質の一次配列中に操作することによるIGFBP−3の定義されたサブドメインの生成)
規定されたIGFBP−3サブドメインを、E.coli発現系において可溶性融合タンパク質として発現される構築物から生成した。この融合体の一般的な構造は、以下である:
IVS−1:DsbA(mut)...[3C]...ドメイン1...[3C]...ドメイン2/3
IVS−2:DsbA(mut)...[3C]...ドメイン1/2...[3C]...ドメイン3。
【0112】
ここで、[3C]は、HRV 3Cプロテアーゼによって認識されるペプチド配列である。規定されたドメインを生成するための一般的なストラテジーを、図5に示す。収量は、野生型に匹敵し、実質的な分画は、IGF−Iに結合するタンパク質の実証された能力に基づいて、正確に折り畳まれると考えられる。切断の後、IVS−1構築物(ドメイン1、2/3)から生成されたIGFBP−3のサブドメインを、疎水性相互作用樹脂(例えば、フェニル−SEPHAROSE(登録商標))上または(あまり所望されないが)カチオン交換樹脂(例えば、SP−SEPHAROSE(登録商標))上で捕捉する。他の樹脂(例えば、固定化ヘパリン)もまた使用され得る。3CプロテイナーゼとのIVS−1融合のカラム上での効果的な切断は、1:10(プロテアーゼ対基質)の割合を使用して4℃または室温で示されている。完全な切断は、20分未満で見られている。過去に、切断産物のアミノ酸配列は、酵素が異常にきれいな様式(<5%「でこぼこした」末端)で切断することを示している。さらに、ほとんど均質までの精製が、ニッケルアフィニティクロマトグラフィーまたは亜鉛アフィニティークロマトグラフィーにより達成され得る。明らかに、金属結合は、IGFBP−3分子においてIGF−I結合のための初期ドメインを構成すると考えられるタンパク質のアミノ末端の約100アミノ酸を必要としない。
【0113】
(実施例6:細胞インターナリゼーションペプチドの同定)
3つのペプチド伸長を、緑色蛍光タンパク質(gfp;Clontech)に関する遺伝子とインフレームでそれぞれクローン化し、E.coli(JM109)中に発現させた。各構築物は、6Hタグをさらに含む。産物をHis−Bind Resin(Novagen)で捕捉し、60mMイミダゾール、0.5M NaClで溶出し、次いで、HIC(フェニルSEPHAROSE(登録商標)高性能樹脂、Amersham)樹脂でさらに精製し、50mMリン酸緩衝生理食塩水で溶出した。精製されたペプチド−gfpを、HEK293(ヒト胚性肝細胞株)上の細胞インターナリゼーションについて試験した。HEK293細胞を、80〜85%コンフルエント(1プレートあたり約2.1×106細胞)になるまでダルベッコの改変イーグル培地中で培養した。各ペプチド(1プレートあたり11μg)を含む新鮮な培地をプレートに添加した。細胞を、およそ30分間37℃でインキュベートした。培地を除去し、細胞をトリプシン処理し、1×リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。蛍光を測定するために、細胞を長波長UVランプ下で維持した。サンプルの写真を図7に示す。サンプル「d」が、強い蛍光を示した唯一のサンプルであった。従って、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWが、大きい無関係のタンパク質の、HEK293細胞内へのインターナリゼーションを指示するのに必須の全配列情報を含むようである。この同じ配列の部分に属すると考えられる公知の核トランスロケーション特性と組み合わされ、このペプチドは、細胞取り込みならびに種々の分子(例えば、タンパク質、核酸および小さな化学成分)に関する核トランスポーターとして有用であり得る。従来のおよび遺伝子治療、細胞画像化、研究、ならびにハイスループットスクリーニングへの適用が、予見される。
【0114】
(実施例7:IGFBP−3の金属結合特性)
種々の金属で荷電された固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)樹脂へのIGFBP−3の結合を測定した。約1mgのIGFBP−3を、各カラム(NTA樹脂、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)に充填した。充填、フロースルー(flowthrough)、洗浄、および60mMイミダゾールでの溶出のOD280を測定することによって、「結合割合」を算出した。代表的な回収率は、85〜95%であった。結果を表2にまとめる。
【0115】
【表2】
(実施例8:IGFBP−3およびパクリタキセルの共アポトーシス活性)
パクリタキセルと組み合わせたIGFBP−3の共アポトーシス活性を、実施例1で記載したHEK293アッセイで測定した。HEK293細胞を、DMEM+8%FCS中で増殖させ、次いで、0.3ng/mlのパクリタキセル(TAXOL(登録商標))中か、50ng/mlのIGFBP−3中か、またはこの2つの組み合せにおいてインキュベートした。いくつかの培養物を、200ng/mlの抗−β−1−インテグリン抗体(Pharmingen)で30分間、前処置した。Clontech Inc.製のApoAlertカスパーゼ−3キットを使用して、カスパーゼ−3をアッセイした。
【0116】
この実験の結果を図8に示す。図8Aに示す結果は、HEK293細胞にパクリタキセルとIGFBP−3の強力な共アポトーシス相乗効果を実証する。図8Bに示すように、抗−β−1−インテグリン抗体による前処置は、このアッセイにおけるIGFBP−3の共アポトーシス活性を非常に阻害する。しかし、IGFBP−3は、MDA−MB−231細胞およびシスプラチンを使用して行われた同様の実験において、いかなる共アポトーシス活性も実証できなかった(図8C)。
【0117】
(実施例9:MBD2ペプチドによって方向付けられるGFPの迅速な細胞取り込み)
ペプチドKKGHAKDSQRYKVDYESQS(無関係なペプチドGFP31)、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW(長いペプチドGFP32)、ペプチドKKGFYKKK(上流ペプチドGFP34)、およびペプチドQCRPSKGRKRGFCW(MBD2を含む下流ペプチドGFP35)をコードするポリヌクレオチドを、pGFPuvベクター(Clontech Inc.、Palo Alto、CA)中のGFPコード配列の5’末端へのインフレーム融合としてクローン化した。発現するタンパク質を金属アフィニティークロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーを通して精製した。
【0118】
各タンパク質を、80%コンフルエントのHEK293細胞に、0.5μg/mlで添加した。図9Aは上から下に、精製タンパク質のクマシー染色したゲル、添加1時間後の処置細胞のGFP蛍光および同じ細胞由来の抽出物のウェスタンブロット(二連の実験)を示す。ウェスタンは、抗GFP抗体で探索した。図9Bはさらに、これらの細胞へのGFP32の取り込みが、細胞を抗フィブロネクチン抗体ではなく、200ng/mlの抗インテグリン抗体で前処理することによって選択的に抑制され得ることを示す、GFP32処理細胞の蛍光を示す。
【0119】
(実施例10:MBDペプチドとパクリタキセルの共アポトーシス活性)
ペプチド(50ng/ml)を、ペプチドと併用して0.3ng/mlパクリタキセルを補填したDMEM中で増殖させた、80%コンフルエントのHEK293細胞に添加した。カスパーゼ−3活性を、添加8時間後の細胞抽出物において測定した。
【0120】
結果を表3にまとめる。アポトーシス活性を、モルベース(MBD2活性を100単位(3つの実験の平均)として規定した)でMBD2に対して正規化した、任意のカスパーゼ−3単位で表す;「nd」は「実施せず」を示し、;「ps」はホスホセリンを示す。金属結合を、Ni−NTA樹脂に結合する充填したペプチドの割合として表す;約1〜1.5mgのペプチドを、カラム上に充填した。細胞取り込みを、実施例9に記載されるように、GFPとの遺伝的融合を使用して決定した。
【0121】
【表3】
(実施例11:MBDペプチドの抗原性プロファイリング)
MBDペプチドの抗原性プロファイルを、ELISAによってアッセイした。MBDペプチドまたはIGFBP−3を、96ウェルNi−NTAプレート(Qiagen Inc.、Carlsbad、CA)のウェルに15分間添加し、PBS Tween緩衝液で2回洗浄し、次いで、同じ緩衝液中3%BSAで4時間ブロックした。西洋ワサビペルオキシダーゼと結合体化した二次抗体を使用して、検出を比色定量分析的に(colorimetrically)(吸光度単位で記録して)行った。
【0122】
図10に示すように、MBDペプチドは、全長IGFBP−3と抗原性で異なる。パネル(a)に示すように、試験したMBDペプチドのいずれもが、ポリクローナル抗IGFBP−3抗体と反応しなかった。パネル(b)は、MBD5ペプチドに対して産生されるポリクローナル抗体を使用して得られた吸光度単位を示し、ここでポリクローナル抗体は、MBDペプチドに結合するが、IGFBP−3には結合しない。
【0123】
(実施例12:MBD共アポトーシス活性は、血漿タンパク質による阻害に対して抵抗性である。)
パクリタキセルと、MBDペプチドまたはIGFBP−3との共アポトーシス活性を、2つの血漿タンパク質;フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの存在下または非存在下で試験した。MBDペプチドまたはIGFBP−3、(50ng/ml)、0.3ng/mlパクリタキセル、および血漿タンパク質(200ng/ml)を、本質的に実施例8に記載されるように、DMEM中で増殖させた80%コンフルエントのHEK293細胞に添加した。カスパーゼ−3を、8時間のインキュベーション後に測定した。
【0124】
アポトーシス活性を、MBD2に対して正規化した(MBD2活性を100単位として規定した)、任意のカスパーゼ−3単位で算出した。結果を表4にまとめる(3つの実験の平均)。フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの、阻害IGFBP−3共アポトーシス活性は、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの両方によって本質的に排除される一方、MBD2共アポトーシス活性は、本質的に影響を受けないか(フィブロネクチン)、または、適度に減少するだけか(フィブリノーゲン)のいずれかである。
【0125】
【表4】
(実施例13:IGFBP−3とドキソルビシンまたは5−フルオロウラシルでの処置は、腫瘍サイズを減少する)
MA−16C乳腺腺癌腫瘍の断片を、メスC3Hマウス(8〜11匹の動物/群)に皮下移植した。その動物を、ビヒクル単独、IGFBP−3(21日間、皮下注射により4mg/kg/日)、ドキソルビシン(1日目および8日目に、静脈注射により2mg/kg)、またはIGFBP−3とドキソルビシンで処置した。別個の研究を行った。この研究において、動物を、ビヒクル単独、5−フルオロウラシル(1〜5日目に腹腔内注射により10mg/kg)、またはIGFBP−3と5−フルオロウラシルで処置した。腫瘍サイズを18日目に測定し、マウスを21日目に屠殺し、移植した腫瘍を、カスパーゼ−3活性(DOX群に対して行われるアポトーシスのみのマーカー)を決定するために取り出した。
【0126】
ドキソルビシン(DOX)または5−フルオロウラシル(5FU)のいずれかと組み合わせたIGFBP−3での処置は、ビヒクルまたはIGFBP−3のみでの処置と比較して、腫瘍サイズを有意に減少させた(p<0.01)。さらに、IGFBP−3とDOXによる腫瘍縮小は、DOX単独の群と比較した場合、有意であった(p<0.02)。DOX群についての結果を、表5にまとめ、5FU群についての結果を表6にまとめる。
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
(実施例14:MBDペプチドによるアポトーシスの刺激は、IGF非依存性である)
HEK 293細胞を、ストレス負荷条件下で(低血清またはパクリタキセルの存在下で)、IGFBP−3(50ng/ml)またはMBD2(50ng/ml)ありまたはなしで培養した。アポトーシスを、実施例1に記載されるように、カスパーゼ−3アッセイを使用してアッセイした。図11Aおよび11Bに示されるように、IGFBP−3およびMBD2のアポトーシス促進活性(pro−apoptotic activity)は、ほぼ同一である。
【0129】
IGF依存性を、HEK 293細胞を使用して調査し、IGFBP−3またはMBD2の存在下で(ともに単独か、またはY60L−IGF−I(IGFレセプターに結合しないIGF−I変異体)と組み合わせて)、0.3ng/mlのパクリタキセルで処理した。図11Cに示されるように、IGFBP−3およびMDB2のアポトーシス促進活性は、IGFの存在とは無関係である。
【0130】
(実施例15:MBDペプチドのアポトーシス促進活性および細胞インターナリゼーション活性は、インテグリン依存性である)
HEK 293細胞を、パクリタキセルを含めて、実施例10に記載されるように培養した。細胞を、MDB2単独で、またはMDB2と抗接着タンパク質抗体とを組み合わせてかのいずれかでインキュベートした。抗体は、インテグリン関連タンパク質(IAP)、フィブロネクチン(Fn)、トランスフェリンレセプター(TfnR)、α5インテグリン、α6インテグリン、αvインテグリン、β1インテグリン、およびβ5インテグリンに対するものであった。カスパーゼ−3活性を、実施例1に記載のようにアッセイした。
【0131】
結果を、図12Aにまとめる。MBD2のアポトーシス促進活性は、インテグリンおよびインテグリン関連タンパク質に対する抗体によって阻害される。
【0132】
(実施例16:MBDペプチドのアポトーシス促進活性は、配列特異的である)
HEK 293細胞を、実施例10に記載のように培養し、アッセイした。MBD2および6MBD2(MBD2(ps)は、5位にホスホセリンを有する)改変体を、共アポトーシス活性についてアッセイした。結果を図13にまとめる。図13は、MDBペプチドの共アポトーシス活性が、コア配列に対して非常に配列特異的であることを示す。
【0133】
(実施例17:Bax−αの発現は、IGFBP−3ペプチドおよびMBDペプチドにより刺激される)
HEK 293細胞を、パクリタキセル(0.3ng/ml)および50ng/mlのIGFBP−3またはMBD2のいずれかとを加えて、実施例1に記載のように、培養した。Bax−αおよびbcl−2のmRNAおよびカスパーゼ3活性をアッセイした。図14Aにまとめるように、IGFBP−3は、bax−α発現を刺激する。Bax−α発現は、図14Bに示されるように、カスパーゼ−3活性と相関する。
【0134】
(実施例18:MBD共アポトーシス活性は、PI3K/ILKシグナル伝達に依存する)
HEK 293細胞を、pUSEamp、またはAktドミナントネガティブ(AktDN)、PTEN、ILKドミナントネガティブ(ILKdn)もしくはラットドミナントネガティブ(rafDN)挿入物を有するpUSEamp(Upstate Biotechnologies)でトランスフェクトした。その細胞を、MBD2ありまたはなしで、実施例10に記載のように培養した(場栗田季節を含む)。図15にまとめるように、MBD2アポトーシス促進活性は、PI3K/ILKキナーゼシグナル伝達経路がブロックされる細胞において阻害されるが、MAPKシグナル伝達経路がブロックされる細胞においては阻害されない。
【0135】
(実施例18:MBDペプチドは、低用量の細胞傷害性化学療法剤に癌細胞を感受性にする)
MA16C細胞を、MDB2および低用量のドキソルビシン(75ng/ml)の存在下で培養した。アポトーシスを、実施例1に記載のようにカスパーゼ−3アッセイを使用してアッセイした。図16Aにまとめるように、MDB2は、MA16C乳腺腺癌細胞を低用量のドキソルビシンに対して感受性にする。
【0136】
MDA−MB−231細胞を、低用量のパクリタキセル(100ng/ml)の存在下で、MDB2(50ng/ml)ありまたはなしで、培養した。アポトーシスを、NMPレベルを測定することによってアッセイした。図16Bにまとめるように、MDB2は、MDA−MB−231細胞を低用量のパクリタキセルに対して感受性にする。
【0137】
(実施例19:鉄(II)イオンは、MBDペプチドエピトープをマスクしない)
1mgの純粋IGFBP−3を、(a)PBS、(b)PBS中の100μM塩化鉄(II)、(c)PBS中の100μM 塩化鉄(III)、または(d)PBS中の100μM 塩化亜鉛において、200ng IGF−1の存在下または非存在下のいずれかで、室温にてインキュベートした。アリコートを、0分、20分、40分および60分で除去し、次いで、抗MBD抗体を用いてELISAによってアッセイした。
【0138】
アッセイ結果(図17にまとめる)は、indicate that incubation of IGFBP−3と鉄(II)イオン(Fe++)とのインキュベーションは、全長IGFBP−3上の通常は検出可能でないMBDペプチドエピトープの非マスキングを生じたが、鉄(III)イオン(Fe4+++)でも亜鉛イオン(Zn++)でも非マスキングを生じなかった。
【0139】
(実施例20:MBDペプチドの差次的局在化)
1mg/ml MBD−GFP32タンパク質は、(a)PBS、(b)PBS中中の100μM 塩化鉄(II)、(c)PBS中の100μM 塩化鉄(III)、または(d)PBS中の100μM 塩化亜鉛において60分間プレインキュベートした。500ng/ml MBD−GFP32を細胞培養培地に添加して20分後、HEK293細胞の各抽出物を、SigmaのNuclear Extract Kitを用いて製造業者の説明書に従って、調整した。抽出物を、抗GFP ELISAによってアッセイした。
【0140】
アッセイ結果は、MBD−GFP32の鉄(II)イオンとのプレインキュベーション(鉄(III)イオンまたは亜鉛イオンではない)が、タンパク質の核局在化を阻害することを示す。結果を図18にまとめる。
【0141】
(実施例21:MBDペプチドの核トランスロケーションは、カベオリン媒介性経路およびクラスリン媒介性経路に関連する)
HEK293細胞を、インヒビター、すなわち、ナイスタチン(カベオリン経路のインヒビター)またはクロルプロマジン(クラスリン経路のインヒビター)10μg/mlとともに1時間プレインキュベートした。500ng/ml MBD−GFP32を細胞培養培地に添加して20分後、細胞の核抽出物を、実施例20に記載のように調製した。抽出物を、抗GFP ELISAによりアッセイした。
【0142】
図19にまとめるように、ナイスタチンおよびクロルプロマジンはともに、MBDペプチドの核トランスロケーションを阻害し、このことは、MBDペプチドの核トランスロケーションが、カベオリン媒介性経路およびクラスリン媒介性経路の両方によって媒介されることを示唆する。示される結果は、データ点あたりの3つのプレートの平均である。
【0143】
さらなるセットの実験において、HEK293細胞を、インヒビターなし(コントロール)で、またはナイスタチンもしくはクロルプロマジン(10μg/ml)とともに60分間プレインキュベートし、次いで、4℃に冷却した。細胞を、トリプシンの非存在かでプレートから穏やかに取り出し、500ng/ml MBD−GFP32中でインキュベートした。架橋剤B3を、細胞にMBD−GFP32を添加した後に種々の時間で、10分間パルスの間に添加した。架橋反応を、100mM Tris緩衝液(pH 8.0)で終了させた。細胞抽出物を、ニッケル−NTAコーティングした96ウェルプレートで捕捉し、次いで、GFPに対する抗体(サンプルに対する標準化のために)、トランスフェリンレセプターに対する抗体、またはα5インテグリンに対する抗体を用いて、ELISAによりアッセイした。
【0144】
アッセイ結果を、図20および21にまとめる。これらは、show that ナイスタチン(カベオリン媒介性エンドサイトーシス経路のインヒビター)およびクロルプロマジン(クラスリン媒介性エンドサイトーシス経路のインヒビター)の両方が、MBDペプチドと細胞表面マーカーとの間の会合を阻害することを示す。結果は、三連の平均である。
【0145】
(実施例22:MBDペプチドの差次的局在化)
メスC3Hマウスを、MBD7ペプチド(2mg/kg/日)または生理食塩水いずれかの皮下注射により、18日間予備処理した。MBD−GFP32タンパク質またはMBD−GFP37(MBD37ペプチド、GFPに連結されたKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWNGR)タンパク質の単一の静脈内ボーラスを、2mg/kg投与し、その2時間後に、屠殺して組織を採取した。
【0146】
組織抽出物を、調製し、そして抗GFP ELISAにより分析した。図22および図23において要約されるように、MBDペプチドの分布は、非常に以上であり、MBDペプチドで事前処理することにより変化する。心臓および腎臓への優先的標的化は、鉄ローディング研究において得られたデータと良く相関する。この研究において、心臓毒性および腎毒性が、観察された。
【0147】
(実施例23:高分子のMBD−ペプチド媒介性核トランスロケーションは、カベオリン結合コンセンサス配列の存在によって、大いに増強される)
ビオチニル化MBDペプチドであるMBD9、MBD20(
【0148】
【化1】
:MBDコア14マーに下線を付しており、カベオリンコンセンサス結合配列は、太字である)またはMBD21(
【0149】
【化2】
:MBDコア14マーに下線を付しており、カベオリンコンセンサス結合配列は、太字である)を、各々、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体と混合し(3〜6倍モル過剰のMBDペプチド)、HEK293細胞に添加した。20分間後、核抽出物および細胞質抽出物を、実施例20において記載されるように調製し、ペルオキシダーゼ活性についてアッセイした。
【0150】
図24において要約したアッセイ結果は、この大きな(約90Kd)結合体の効率的な核移行が、MBD20またはMBD21を使用した場合には、MBD9に対してはるかに効率的に進行したことを示す。これらのペプチド配列間の顕著な差異は、MBD20およびMBD21の両方にはあるがMDB9にはない、コアMBD 14マー配列(標準MBD2ペプチド中に存在する)のC末端部位のさらなる6アミノ酸の存在である。この配列の存在は、カベオリンに結合するタンパク質中に存在することが公知であるモチーフ(#X#XXXX#であり、「#」は、芳香族アミノ酸である)を完成する。生細胞の外側から核中へと直接大きな分子を迅速に取り込むことを動員するためのMBD20配列の使用は、特に、核酸を含む適用(例えば、遺伝子治療)ならびに核酸活性の調節因子において、潜在的に非常に有意である。
【0151】
本発明は、直接的な記載および実施例の両方によって詳述されている。本発明の等価物または本発明の改変は、当業者に明らかであり、そして本発明の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1A〜図1Bは、IGFBP−3配列を1文字表記のアミノ酸コードで示す。図1Aは、ネイティブヒトIGFBP−3(Ala5対立遺伝子改変体)のアミノ酸配列を示す。図1Bは、[N109D]−hIGFBP−3誘導体(Ala5対立遺伝子改変体)を示す。
【図2】図2は、CD74モチーフを含む選択されたヒトタンパク質のアミノ酸配列アラインメントを示す。
【図3】図3は、実施例1に記載される実験の結果を示す。
【図4】図4A〜図4Bは、実施例2に記載される実験の結果を示す。
【図5】図5A〜図5Bは、Ni++IMACおよびZn++IMACを使用する、IGFBP−3のIMAC精製の結果を示す。パネルaおよびb(図5Aおよび図5B)は、それぞれNi++IMACおよびZn++IMACからのサンプルのSDS−PAGE分析を示す。FTはカラムに吸着しなかった物質を示す;Wは洗浄(画分)を示す;50は50mMイミダゾール洗浄(画分)を示す;60は60mMイミダゾール洗浄(画分)を示す;Eは1Mイミダゾール溶出緩衝液(画分)を示す;Sは1M EDTA緩衝液(画分)を示す。
【図6】図6は、融合タンパク質を使用するIGFBP−3ドメインの生成に関するスキームを示す。下パネルは、精製物のSDS−PAGE分析を示す。レーン1は、3Cタンパク質分解酵素(10:1希釈)で消化した粗抽出物を示す;レーン2は、フェニルセファロースHICクロマトグラフィー後を示す;レーン3は、ニッケル金属アフィニティークロマトグラフィー後を示す。
【図7】図7は、ペプチド−gfp融合体とともにインキュベートした後の細胞の蛍光を示す。a=細胞単独(gfpの添加なし);b=細胞+SYGRKKRRQRRRAHQNSQT−gfp;c=細胞+KKGHAKDSQRYKVDYESQS−gfp;d=細胞+KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW−gfp。
【図8】図8A〜図8Cは、実施例8に記載される共アポトーシスアッセイの結果をまとめたグラフを示す。
【図9】図9A〜図9Bは、実施例9に記載される細胞インターナリゼーション実験の結果を示す。
【図10】図10A〜図10Bは、実施例11に記載される抗原性プロファイリング研究の結果を示す。
【図11】図11A〜図11Cは、IGFBP−3およびMDB2の両方の共アポトーシス活性に関するIGF非依存性を確認する実験の結果を要約する。
【図12】図12A〜図12Bは、MDB2の共アポトーシス活性がインテグリン依存性であることを示す実験の結果を要約する。
【図13】図13A〜図13Bは、MDB2の共アポトーシス活性が配列特異的であることを示す実験の結果を要約する。
【図14】図14A〜図14Bは、IGFBP−3がbax−α発現を刺激すること、およびこのbax−α発現がカスパーゼ−3活性に関連することを示す実験の結果を示す。
【図15】図15は、MDBペプチドの共アポトーシス活性がPI3K/ILKに依存性であるが、MAPK、シグナル伝達経路に非依存性であることを示す実験の結果を要約する。
【図16】図16A〜図16Bは、MDBペプチドが細胞障害性化学療法剤の用量を低下させるように癌細胞を感作することを示す実験の結果を要約する。
【図17】図17は、実施例19に記載される実験の結果を要約する。白四角は、生理食塩水中でインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;白丸は、塩化第一鉄と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;黒丸は、IGF−Iおよび塩化第一鉄と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;白菱形は、塩化亜鉛と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す。
【図18】図18は、実施例20に記載される実験の結果を要約する。実施例20は、核トランスロケーションにおける特定の金属とのMBD−GFP32のプレインキュベートの効果を測定する。各々のバーは、3回測定の平均を示す。
【図19】図19は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドの核トランスロケーションにおけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。各々のバーは、3つのプレートの平均を示す。
【図20】図20は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドのα5インテグリンとの関連におけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。クロルプロマジンで処理された細胞に由来するデータは、白菱形で示されている。ナイスタチンで処理された細胞に由来するデータは、白丸で示されている。コントロール(未処理)細胞に由来するデータは、白四角で示されている。
【図21】図21は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドのトランスフェリンレセプターとの関連におけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。クロルプロマジンで処理された細胞に由来するデータは、白菱形で示されている。ナイスタチンで処理された細胞に由来するデータは、白丸で示されている。コントロール(未処理)細胞に由来するデータは、白四角で示されている。
【図22】図22は、MBD−GFP結合体の分布を研究する実験の結果を要約する。各組織について、データは、左から右へ、生理食塩水、MBD−GFP−32、およびMBD−GFP37について示されている。各々のバーは、3匹の動物からの測定の平均を示す。
【図23】図23は、mMBD7で前処理の18日後にMBD−GFP結合体の分布を研究する実験の結果を要約する。各組織について、データは、左から右へ、生理食塩水、MBD−GFP−32、およびMBD−GFP37について示されている。各々のバーは、3匹の動物からの測定の平均を示す。
【図24】図24は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を複合体化されたビオチン化ペプチドMBD9、MBD20およびMBD21の核トランスロケーションを測定する。カラム1は、コントロール(ペプチドなし)からの結果を示す;カラム2は、MBD9/HRP結合体からの結果を示す;カラム3は、MBD20/HRPからの結果を示す;カラム4は、MBD21/HRP結合体からの結果を示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国特許出願第10/264,672号(2002年10月4日出願)の一部継続出願であり、この一部継続出願は、米国特許出願第10/215,759号(2002年8月9日出願)の一部継続出願であり、この後者の一部継続出願は、米国仮特許出願第60/323,267号(2001年9月18日出願)に対して米国特許法第119条(e)項の下で優先権を主張している。これらはともに、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、疾患の処置ならびにハイスループットスクリーニングならびにその他の発見および研究適用におけるペプチドまたは低分子の組成物および使用方法に関し、特にインスリン様増殖因子結合タンパク質−3(IGFBP−3)のCD74相同性ドメイン中に存在する配列由来の金属結合ペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
規定された標的細胞の増殖因子は、集団における広範囲にわたる生物学的応答(例えば、DNA合成、細胞分裂、特定の遺伝子の発現など)を刺激するポリペプチドである。種々の増殖因子が同定され、これらの増殖因子としては以下が挙げられる:トランスフォーミング増殖因子βファミリー(TGF−β)、上皮細胞増殖因子およびトランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、血小板由来増殖因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)ならびに、IGF−IおよびIGF−IIを含むインスリン様増殖因子ファミリー(IGF)。多くの増殖因子が癌の病因に関係する。
【0004】
IGF−IおよびIGF−II(「IGF」)は、アミノ酸配列および構造において関
連し、それぞれのポリペプチドが約7.5キロダルトン(kDa)の分子量を有する。IGF−Iは成長ホルモンの主作用を媒介し、従って出生後の一次成長メディエーターである。IGF−Iはまた、種々の他の増殖因子の作用に関係する。これは、このような増殖因子による細胞の処置がIGF−Iの産生の増加をもたらすからである。対照的に、IGF−IIは胎児の成長において重要な役割を有すると考えられる。相対的に、IGF−IおよびIGF−IIの両方がインスリン様活性(従ってこれらの名前がある)を有し、そして分裂促進性である(細胞分裂を刺激する)。
【0005】
IGF−Iが、多数の異なる種の癌由来の細胞の増殖を刺激することが見出された(Butlerら、1998 Cancer Res.58(14):3021−3027;Favoni REら、1998、Br.J.Cancer 77(12):2138−2147)。IGF−Iは、さらに腫瘍細胞を含む多数の異なる細胞型に対して抗アポトーシス作用を発揮することが見出された(Giuliano Mら、1998 Invest Ophthalmol.Vis.Sci.39(8):1300−1311;Za
wada WMら、1998、Brain Res.786(1−2):96−103;Kelley KWら、1998、Ann.N.Y.Acad.Sci.840:518−524;Toms SAら、1998、J.Neurosurg.88(5):884−889;Xu Fら、1997、Br.J.Haematol.97(2):429−440)。前向きな研究はIGF−Iを前立腺、胸部および結腸の癌に対する危険因子として示されており、一方で、IGFに対する主要な循環性結合タンパク質であるIGFBP−3は、保護効果を有するように見える(10〜12、28、29)。種々の他の観察は、さらに、IGFBP−3と他のIGF−結合タンパク質(特にIGFBP−2)との相対的なバランスは、インビトロおよびインビボの両方での腫瘍細胞の増殖の制御において何らかの形で役立つという考えを支持する(7〜9)。最近の証拠はまた、IGFBP−3がIGF非依存性の様式での腫瘍細胞の増殖(13〜17)およびアポトーシス(14)において中心的な役割を果たし得ることを示唆する。
【0006】
米国において毎年癌と診断される1300万人の患者の約半数は、全身性疾患を有する(または、罹患の危険がある)。化学療法が、これらの患者に対する最も一般的な治療アプローチである(34)。ほとんどの化学療法剤は主として分裂細胞に対して有効であり、そしてしばしば、骨髄抑制が用量を制限する毒性である。化学薬品はいくつかの範疇に
分類され、異なる作用機構を有するが、有効量では多くが、患者の生活の質に深刻な影響を与える副作用を有する。ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標))、イリノテカン(CPT−11)、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、シスプラチン、タモキシフェン、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシルは、種々の癌処置に使用される、一般的な薬剤で、これらは時々併用される。骨髄抑制に加え、胃腸管作用、粘膜炎、脱毛症および(ドキソルビシンの場合は)心毒性もまた、これらの薬剤とともに認められる(34)。明らかに、これらの化学薬品に対して選択的に感受性のある腫瘍細胞を作製する方法を見出すことが目的である。
【0007】
ほとんど全てのIGFは、非常に小さな遊離型IGF−Iが検出可能なように、IGF−I、インスリン様増殖因子結合タンパク質3(IGFBP−3)および、酸不安定性サ
ブユニット(ALS)と称されるより大きいタンパク質サブユニットの非共有結合的に結合した複合体として循環する。三元複合体は、それぞれ等モル量の3つの成分から構成される。いくつかの報告がIGFBP−3はIGFの非存在下でラットALSと結合し得ることを示唆しているにも拘らず(Leeら、Endocrinology 136:4982−4989,1995)、ALSは、IGF結合活性が検出されず、IGF/IGFBP−3複合体とのみ結合するように見える(Baxterら,J.Biol.Chem.264(20):11843−11848;1989)。IGF/IGFBP−3/ALSの三元複合体は、約150kDaの分子量を有し、二元IGF/IGFBP−3複合体またはIGF単体と比較される場合、実質的に増加した循環中半減期を有する(Adamsら、Prog.Growth Factor Res.6(2−4):347−356;1995年10月に提出され、1996年に出版された)。この三元複合体は、「IGF−IおよびIGF−IIが遊離型IGFの濃度の急激な変化を防止するためのレザバーおよび緩衝液として」働くと考えられる(MODERN CONCEPTS OF INSULIN−LIKE GROWTH FACTORSにおける、Blumら、(1991)「Plasma IGFBP−3 Levels as Clinical Indicators」、pp.381−393、E.M.Spencer編、Elsevier、New York)。本質的に余剰の(非結合性の)循環中IGFBP−3が存在しない一方で、実質的に余剰の遊離型ALSは実際に存在する(Baxter,J.Clin.Endocrinol.Metab.67:265−272、1988)。
【0008】
p53(よく特徴づけられた腫瘍抑制因子)のいくつかの作用を媒介することを示唆する間接的な証拠が存在するにも拘らず(Ferryら、(1999)Horm Metab Res 31(2−3):192−202)、IGFBP−3がその細胞作用をどのように媒介するかはよく分らない。IGFBP−3は、急速に増殖する細胞の核に移動される(Schedlichら、(1998)J.Biol.Chem.273(29):18347−52;Jaquesら、(1997)Endocrinology 138(4):1767−70)。IGFBP−3の機能的相互作用を規定するための有用な工程は、IGFBP−3の細胞内標的および細胞外標的の驚くほど大きなアレイに特異的に結合する能力に関係するタンパク質ドメインを同定することである。既知の標的は以下を含む:IGF−I、IGF−II、インスリン(いくつかの条件下で)、酸不安定性サブユニット(ALS)、プラスミノーゲン、フィブリノーゲン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コラーゲンIa型、プレカリクレイン、RXR−α、ウイルスの腫瘍性タンパク質、ヘパリン、特異的プロテアーゼ、細胞レセプター、ツーハイブリッドスクリーニングで同定された多くの細胞内標的、および核局在化輸送機構の構成成分(Mohseni−ZadehおよびBinoux(1997)Endocrinology 138(12):5645−8;Collett−Solbergら、(1998)J.Clin.Endocrinol Metab.83(8):2843−8;Rajahら、(1995)Prog.Growth Factor Res.6(2−4):273−84;FowlkesおよびSerra(1996)J.Biol.Chem 271:146
76−14679;Campbellら、(1999)J.Biol.Chem.274(42):30215−21;Durhamら、(1999)Horm Metab Res 31(2−3):216−25;Campbellら、(1998)Am J Physiol.275(2Pt 1):E321−31)。
【0009】
IGFBP−3は、おおよそIGFBP−3遺伝子のエキソン1、2および3+4にそれぞれ相当する3つの主要ドメインを有する。CD74(インバリアント鎖)に見出されるモチーフおよび多数の他のタンパク質に相同的な配列を含むIGFBP−3のC末端ドメイン(ドメイン3)は、IGFBP−3の、血清、細胞外マトリックスおよび細胞表面成分と相互作用する能力に関係しているように見える。この領域中の配列に対して作製されたペプチドは、RXR−α、トランスフェリン、ALS,プラスミノーゲン、フィブリノーゲンおよびプレカリクレインを含む、多くのその既知のリガンドへのIGFBP−3の結合を干渉することが以前に示されている(Liuら、J.Biol.Chem.275:33607−13、2000;Weinzimerら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:1806−13、2001;Campbellら、Am.J.Physiol.275:E321−31、1998;Campbellら、J.Biol.Chem.274:30215−21、1999;Firthら、J.Biol.Chem.273:2631−8、1998)。しかし、現在までに、IGFBP−3由来ペプチドは、これらのいかなるリガンドに対しても選択的で、高親和性な結合に十分であることが示されていない。
【0010】
本分子のこの領域はまた、核トランスロケーションに関係するが、IGFBP−3が標的細胞内へインターナリゼーションする機構はよく理解されない(Schledlichら、J.Biol.Chem.273:18347−52、1998;Jaquesら、Endocrinology 138:1767−70,1997)。最近記載された、IGFBP−3のドメイン3の228−232残基が、対応するIGFBP−1(密接に関係するタンパク質)由来の残基に置換された変異体は、ALS、RXR−αおよびプラスミノーゲンに対して弱められた結合を示す(Campbellら、(1998)Am.J.Physiol.275(2 Pt 1):E321−31;Firthら、(1998)J.Biol.Chem.273:2631−2638)。妊娠および重症疾病のような特定の生理条件下でのIGFBP−3の特異的なタンパク分解は、結合の変更およびそのIGFリガンドの遊離を生じ得る。IGFBP−3とIGF−IまたはIGF−II(両方の増殖因子がIGFBP−3と同様の親和性で結合する)との二元複合体は、IGFBP−3がグリコサミノグリカン、特異的プロテアーゼおよび細胞表面タンパク質と特異的に相互作用し得る細胞内環境に、内皮結合部を横切って溢出し得る。研究報告は、IGFBP−4のタンパク分解を阻害し得るIGFBP−3中のC末端ドメインの存在を言及する(Fowlkesら、J.Biol.Chem.270:27481−8、1995;Fowlkesら、Endocrinology 138:2280−5、1997)。しかし、この推定プロテアーゼインヒビタードメインの正確な位置は、まだ記載されていない。IGFBP−4タンパク分解は、妊娠、血管形成後の平滑筋細胞増殖、骨形成および卵胞優位(ovarian follicular dominance)を含む多くの生物学的プロセスの中で重要な事象である(Byunら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:847−54、2001;Bayes_Genisら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.21:335−41、2001;Miyakoshiら、Endocrinol.142:2641−8、2001;Conoverら、Endocrinol.142:2155、2001;Riveraら、Biol.Reprod.65:102−11、2001)。
【0011】
IGFBP−3が最も豊富なIGF結合タンパク質(「IGFBP」)である一方で、少なくとも5つの他の異なるIGFBPが種々の組織および体液中で同定されていること
は注目されるべきである。これらのタンパク質は、IGFを結合するにも拘らず、別個の遺伝子から由来し、異なるアミノ酸配列を有する。IGFBP−3と異なり、他の循環IGFBPはIGFで飽和されない。IGFBP−3およびIGFBP−5は、IGFおよびALSと150kDaの三元複合体を形成し得る最適の既知のIGFBPである。血清から単離された当該タンパク質のN末端フラグメントがIGF結合活性を保持するので、IGFBP−3のIGF結合ドメインは、当該タンパク質のN末端部分にあると考えられている。しかし、他のIGFBPのいくつかは、治療としてIGF−Iと組み合せた使用がまた示唆されている。
【0012】
血清における主要なIGFキャリアータンパクとしての役割に加え、IGFBP−3は最近、多くの異なる活性を有することが示されている。IGFBP−3は、外因的に添加されたIGF−Iの活性を阻害し得る場合、細胞表面上のまだ同定されていない分子に結合し得る(Karasら、1997、J.Biol.Chem 272(26):16514−16520)。細胞表面へのIGFBP−3の結合がヘパリンによって阻害され得るにも拘らず、同定されていない細胞表面結合分子は、ヘパリン様細胞表面グルコサミノグリカンとは考えられない。これは、ヘパリングリコサミノグリカンの酵素学的な除去がIGFBP−3細胞表面結合に影響がないからである(Yangら、1996、Endocrinology 137(10):4363−4371)。細胞表面結合分子が、Lealら(1997、J.Biol.Chem.272(33):20572−20576)によって同定されたIGFBP−3レセプターと同じであるか、または異なるかは明らかでない。このIGFBP−3レセプターは、V型トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)レセプターと同一である。
【0013】
インビトロアッセイにおいて単独で使用される場合、IGFBP−3はまた、アポトーシスを促進することが報告されている。興味深いことに、IGFBP−3は、機能的な1型IGFレセプターを有する細胞および機能的な1型IGFレセプターを有さない細胞においてアポトーシスを促進することが示されている(Nickersonら、1997、Biochem.Biophys.Res.Comm.237(3):690−693;Rajahら、1997、J.Biol.Chem.272(18):12181−12188)。しかし、アポトーシスが全長IGFBP−3またはIGFBP−3のタンパク分解フラグメントによって誘導されるかどうかに関しては、矛盾する報告がある(Rajahら、同書;Zadehら、1997、Endocrinology 138(7):3069−3072)。より最近、多数の研究室で集められた多数の未発表のデータが、上記の出版物で作成された特許請求の範囲のいくつかを支持しない。現在までに検定されたインビボモデルにおいて、注入されたIGFBP−3タンパク質単体は、腫瘍増殖の制限において、入り混じった結果を示している。
【0014】
米国特許第5,681,818号は、癌の処置におけるソマトメジン依存性腫瘍の増殖を制御するためのIGFBP−3の投与に関する。米国特許第5,840,673はまた、腫瘍増殖を制御するための方法としてIGFBP−3レベルの間接的な細胞内調節を記載する。米国特許第6,015,786号は、IGF依存性腫瘍の処置のための、IGF変異体と複合体化されたIGFBP−3の使用を開示する。しかし、これらの特許のいずれも、投与されたIGFBP−3タンパク質の腫瘍増殖に対する直接的なインビボ効果を開示する。これらの特許はすべて、インタクトなIGFBP−3(そのIGF結合ドメインを含む)の使用を予見する。多数の出版(Williamsら、Cancer Res
60(1):22−7,2000;Perksら、J Cell Biochem 75(4):652−64,1999;Maileら、Endocrinology 140(9):4040−5,1999;Gillら、J Biol Chem 272(41):25602−7,1997)はさらに、培養細胞に対するIGF結合タンパク質、放射線およびセラミドの併用効果を示す。1つの報告(Porteraら、Growth
Hormone & IGF Research 2000、補遺A、S49−S50、2000)において、CPT−11と併用されたIGFBP−3は、インビボおよびインビトロ両方の結腸癌において相加的な効果を示した。上記の研究はすべて、IGF(抗アポトーシス性である)を細胞に運ぶことが可能である一方、自身が保有するIGF依存性のプロアポトーシス作用も発揮し得る多機能分子である、インタクトなIGFBP−3を使用して行われた。明らかに、これらの2つの活性を分子レベルで分離することが目的であるが、インタクトなIGFBP−3の活性の所望のサブセットを示す分子は、記載されていない。
【0015】
IGF−IおよびIGFBP−3は、天然供給源から精製され得るか、または組換え手段により作製され得る。例えば、ヒト血清からのIGF−Iの精製は、当該分野で周知である(Rinderknechtら、(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 73:2365−2369)。組換えプロセスによるIGF−Iの産生は、1984年12月に発行されたEP 0 128 733に示される。IGFBP−3は、Baxterら(1986、Biochem.Biophys.Res.Comm.139:1256−1261)に示されるようなプロセスを使用して、天然供給源から精製され得る。あるいは、IGFBP−3は、Sommerら、pp.715−728、MODERN CONCEPTS OF INSULIN−LIKE GROWTH FACTORS(E.M.Spencer編、Elsevier、New York、1991)で議論されるように、組換え的に合成され得る。組換えIGFBP−3は、IGF−Iと1:1の分子比で結合する。
【0016】
ラットおよびブタの創傷に対するIGF−I/IGFBP−3複合体の局所投与は、IGF−I単独投与(Id.)よりも顕著により効果的である。下垂体切除されたラット、卵巣摘出されたラットおよび正常なラットに対するIGF−I/IGFBP−3複合体の皮下投与、ならびにカニクイザルに対する静脈内投与は、単独で投与された(Id.)IGF−Iの「低血糖作用を実質的に阻害する」。
【0017】
IGF/IGFBP−3複合体の使用は、多種多様の障害(例えば、米国特許第5,187,151号、同5,527,776号、同5,407,913号、同5,643,8
67号、同5,681,818号および同5,723,441号、ならびに国際特許出願番号WO 95/03817、WO 95/13823、およびWO 96/02565を参照のこと)の処置について示唆されている。IGF−I/IGFBP−3複合体はまた、糖尿病および股関節骨折手術からの復帰を含む、複数の適応症に対する処置として、Insmed Pharmaceuticals、Inc.によって開発中である。
【0018】
当業者にとって、IGF−IおよびIGFBP−3の複合体は通常、異なる化合物であるとみなされ、そして、IGFBP−3単独と比して異なる生物学的効果を有するとみなされる。
【0019】
癌の処置に対して利用可能な膨大数の細胞傷害性薬物が存在する一方で、これらの薬物は一般的に、脱毛症、白血球減少症、粘膜炎を含む、種々の深刻な副作用と関連する。従って、当該分野において、従来の細胞傷害性化学療法に付随する深刻な副作用を誘導しない癌治療に対する必要性がある。この目的を達成するための1つの方法は、細胞傷害薬物に選択的に感受性な標的細胞(例えば、腫瘍細胞)を作製し、それによって深刻な副作用を付随しないより低用量での、このような薬物の効果的な使用を可能にすることである。IGF結合タンパク質由来のプロアポトーシスペプチドは、化学療法および他の薬剤に対する腫瘍細胞のアポトーシス応答を促進することが可能であり得る(2001年9月18日に提出された、D.Mascarenhasによる「インビボにおける標的細胞の選択的な感作のためのIGF結合タンパク質の使用方法」と題された米国同時係属出願を参照
のこと)。
【0020】
現代の西側社会における生活様式の変化は、より長い寿命、よりこってりした食事、変化した睡眠パターン、増大したストレス誘導性の挙動および座っての挙動に関連すると考えられる、多発する疾患を誘発しているようである。生じ得るウイルス補因子(特に、エプスタイン−バーウイルスおよび他のヘルペスウイルス)の関与もまた、推測されている。この疾患群としては、癌、心脈管疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症)、自己免疫疾患(例えば、関節炎)、喘息、および炎症性腸疾患、変性疾患(例えば、骨粗鬆症)、増殖性/炎症性疾患(例えば、網膜症)、ならびに代謝疾患(例えば、糖尿病)が挙げられる(Grimble RF,Curr Opin Clin Nutr Metab Care 5:551〜559,2002)。
【0021】
これらの疾患のうちの(全てではないにしても)ほとんどの発症の増加に共通する要因は、免疫系(特に、細胞レベルでの慢性炎症応答)の役割変化である。そのような応答の細胞内分子特徴としては、しばしば、全般的な細胞内調節因子および細胞外調節因子(例えば、NF−κB、STAT3(Niu Gら、Oncogene 21:2000〜2008,2002)、VEGFおよびシクロオキシゲナーゼ2(COX−2))の活性化が挙げられる。NF−κBは、固形腫瘍におけるHIFの生存促進誘導の主要媒介因子である(Talks KLら、Am.J.Pathol.157:411〜421,2000)。COX−2インヒビターは、現在、種々の自己免疫適応症(例えば、関節炎および癌)を処置するために使用されている(Crofford LJ,Curr Opin Rheumatol 14:225〜30,2002)。抗炎症剤であるラパマイシン(シロリムス)は、心脈管疾患の処置のために主に関係して、ステントをコーティングするために首尾良く使用されている(Degertekin Mら、Circulation 106:1610〜3,2002)。C反応性タンパク質(CRP)(これは、慢性炎症についての代理マーカーである)の循環レベルが、現在、心臓病リスクの主要予測因子として使用されている(Futterman LGおよびLemberg L.,Am J Crit Care 11:482〜6,2002;Libby Pら、Circulation 105:1135〜43,2002)。肥満(これは、以前には、糖尿病および心臓病におけるリスクファクターとして関係付けられていた)は、これらの疾患に対する因果関係を提供するようである。なぜなら、脂肪細胞は、炎症促進性サイトカインを分泌することが公知である(Coppack SW,Proc Nutr Soc 60:349〜56,2001)からである。
【0022】
上記の病因において主要な役割を果たす細胞の別の一般的分子特徴は、表面接着分子(特に、インテグリン)の提示である。研究により、α(v)インテグリンおよびβインテグリンは、転移(Felding−Habermann Bら、PNAS 98:1853〜8,2001)、心脈管形成(Eliceiri BPおよびCheresh DA,Cancer J 3:S245〜9,2000)、アテローム性動脈硬化症(Nichols TCら、Circ Res 85:1040〜5,1999)、骨粗鬆症(Pfaff MおよびJurdic J,J.Cell Sci.114:2775〜2786,2001)および自己免疫疾患のような多岐にわたるプロセスに関係付けられている。明らかに、これらのインテグリンを提示する細胞を特異的に標的とすることが可能な全身薬剤を使用することに対する利点が、存在する。この利点は、同じ薬剤が、標的細胞内の主要な全般的炎症促進性調節因子(例えば、NF−κB)のレベルもまた調節し得る場合には、特に大きい。
【0023】
IGFBP−3および本発明のMBDペプチドは、これらの望ましい特性の両方ともを、明らかに示す。実施例の節において示されるように、マウス腫瘍モデル(乳癌16C)において、IGFBP−3タンパク質の一日一回の皮下注射により処置された動物における腫瘍は、ドキソルビシン(アドリアマイシン)に対する感受性の増加を示した。腫瘍組織の後の実際の分析によって、NF−κBは、IGFBP−3+アドリアマイシンで処置された動物の腫瘍において、アドリアマイシン単独で処置された動物の腫瘍に対して4分の1〜5分の1にダウンレギュレートされたことが示された。別の実験において、本発明者らは、IGFBP−3およびMBDペプチドは、特定の表面インテグリンを発現する細胞上で優先的に活性であることを示した。特に、α(V)インテグリンに対する抗体および特定のβインテグリンに対する抗体は、核によるMBDペプチドの取り込みとその後の共アポトーシス性生化学事象とを防止し得る。従って、IGFBP−3およびMBDペプチドは、上記に列挙される疾患群と、α(v)インテグリンもしくはβインテグリンおよび/または炎症促進性分子に依存するかあるいはそれらにより刺激される、細胞侵襲性により特徴付けられる他の任意の生物学的プロセスとを処置するための薬剤として、独特の機会を提示する。後者の例は、受精の間の栄養膜細胞層着床のプロセスである(Illera MJら、Biol.Reprod.62:1285〜1290,2000)。
【0024】
IGFBP−3、IGFBP由来のペプチドおよび本発明の関連分子についての他の適用は、調節因子または炎症の診断レポーター、および以下における侵襲性プロセスを含むことを予見され得る:癌転移、腫瘍間質活性化、全身性エリテマトーデス(SLE)のような自己免疫疾患、多発性硬化症、糖尿病、強直性脊椎炎、潰瘍性結腸炎、クローン病および他の炎症性腸疾患、関節炎、喘息およびアレルギー、骨吸収性疾患、増殖性疾患、創傷治癒、網膜症を含む眼科系疾患、繊維性疾患、生殖性生物学、アテローム性動脈硬化症および他の心臓血管適応症;ゲノム学関連適用、およびプロテオミクス関連適用において有用な、薬物発見およびその他の研究プログラムにおけるハイスループットスクリーニング手段を含む研究手段、早期発現および新規遺伝子配列のスクリーニングのための現存の技術を強化することが可能な試薬およびベクター、遺伝子治療、診断およびナノテクノロジー適用;ならびに幹細胞関連の適用において有用な研究手段。
【0025】
多数の天然プロセスおよび病理学的なプロセスが「炎症侵襲性の」または「炎症遊走性の」状態を含む。例としては以下が挙げられる:侵襲性腫瘍、胚盤胞移植/栄養膜細胞層移植、アテローム性プラ−ク沈着、骨交替、関節炎状態における関節腫脹、多発性硬化症、SLEなどのような再発軽減性(relapsing−remitting)自己免疫状態、増殖性網膜疾患および喘息における気道上皮の活性化。これらの生物学的プロセスの通常の特徴は、疾患状態に関連する局所的なクロストークに関与する、細胞型の活性化状態である。例えば、侵襲性の上皮腫瘍としては一般的に、(自身の腫瘍細胞に加えて)活性型間質細胞、微小血管上皮細胞および炎症性免疫細胞が挙げられる。これらの細胞型のいずれかの標的化の介入は、全ての疾患パターンに劇的に影響することが予想され得る。本発明者は、予期せずしてIGFBP−3およびIGFBP由来のペプチドが、このような活性化されていない同じ細胞型と比べて、活性化されている細胞において優先的に、細胞死/細胞アポトーシスをトリガーするということを見出している。確実な観察は、活性化された細胞および遊走細胞によって(Bolesら、2000、Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.278:L703−L712;Laukaitisら、2001、J.Cell Biol.153:1427−1440)、および上皮腫瘍由来の骨髄微小転移巣において優先的に示されることが公知であり(Putzら、1999、Cancer Res.59:241−248)、α−5インテグリンおよびβ−1インテグリンに対する共アポトーシス効果に依存する。
【0026】
これらの効果を、IGF−I依存性増殖作用の排除に関連する作用と区別することが重要である。文献が、乾癬のようなIGF−I依存性の炎症性プロセスに十分に言及する。例えば、米国特許第5,929,040号は、IGF−Iレセプターを標的化し、それによって皮膚炎症を縮小するインヒビターの使用を教示する。IGFBPは、結合することによってこのレセプターを介するシグナル伝達を減少させ得、従ってIGF−Iを隔離し得る。しかし、本発明のIGFBP由来のペプチドは、IGF−Iに結合せず、IGF−Iレセプターを経由してこれらの効果を発揮するとは考えられない。
【0027】
本発明ならびに、免疫不全および貧血を罹患する患者を治療するためのインタクトなIGFBP−3/IGF−I複合体の使用を示す米国特許第5,527,776号の間にも
また区別がなされるべきである。本発明は、免疫不全ではなく、免疫刺激によって特徴付けられる状態を処置するためにIGFBP−3由来の非IGF−I結合フラグメントを単独で使用する。
【0028】
結果として、IGFBP−3、IGFBP由来のペプチドおよび本発明に関連する分子は、脈管形成性の、破骨細胞形成性の(osteoclastogenic)生物学的プロセス、アテローム生成的な生物学的プロセス、侵襲的な生物学的プロセス、転移性の生
物学的プロセス、生殖性の生物学的プロセス、関節炎性の生物学的プロセス、喘息性の生物学的プロセス、繊維性の生物学的プロセス、網膜症性の生物学的プロセス、感染性の生物学的プロセス、炎症性の生物学的プロセス、神経変性の生物学的プロセス、ストレス関連の生物学的プロセス、細胞再構築の生物学的プロセス、または不死化関連の生物学的プロセス、調節因子または診断レセプターとして予見され得る。
【0029】
特に、本明細書中に開示されるIGFBP−3由来のペプチドまたはより小さい誘導体分子は、プロテアーゼインヒビター、金属キレート剤、抗増殖性分子、抗転移性分子、または抗血管形成分子として使用され得る。これらはまた、血漿キャリア剤、細胞外マトリックス成分への結合の促進剤、標的化剤、細胞内への大化合物もしくは小化合物の輸送剤(細胞インターナリゼーション剤)、アフィニティー精製タグ、スクリーニングタグ、転写剤もしくはDNA結合剤、細胞標識化剤、調節モジュレーターとして、または上記の性質のいずれかの組み合せを示す薬剤として有用であり得る。特に、このような誘導体分子は、IGFBP−3のカルボキシ末端のCD74相同性ドメイン配列由来であり得、そしてこれらの活性の多くは、これまでIGFBP−3分子のこの領域に局在化しなかった。この領域の配列を作るペプチドは、これまでに、RXR−α、トランスフェリン、ALS、プラスミノーゲン、フィブロネクチンおよびプレカリクレインを含む、多数のその公知のリガンドとIGFBP−3との結合を妨害することが示されている(Liuら、J.Biol.Cnem.275:33607−13、2000;Weinzimerら、J.Clin.Endocrinol.Metab.86:1806−13、2001;Campbellら、Am.J.Physiol.275:E321−31、1998;Campbellら、J.Biol.Chem.274:30215−21、1999;Firthら、J.Biol.Chem.273:2631−8、1998)。しかし、現在まで、IGFBP−3由来のペプチドは、これらのリガンドのいずれかに対する選択的な高アフィニティー結合に十分であることが示されていない。
【0030】
本明細書中で開示されるIGFBP−3由来の金属結合ドメインペプチドは、IGF−Iに結合できないこと、独特な抗原性および、IGFBP−3のIGFBP−3推定デスレセプター(P4.33)相互作用ドメイン(いわゆる「中央領域」;アミノ酸88−148)の欠如を含む、多数の重要な方法において、以前に開示されたIGFBP−3由来分子と異なる。P4−33推定デスレセプターは、国際特許出願番号WO 01/87238(Genbank登録番号BC031217;gi:21411477)に記載される。例えば、国際特許出願番号WO 02/34916は、IGF−Iへの結合が障害性であるIGFBP−3の点変異体の使用を教示する。しかし、記載される分子は、IGFBP−3の中央領域を含み、P4.33推定レセプターと相互作用することによって生物学的効果を発揮することが予想される。国際特許出願番号WO 01/87238は、疾患の処置に対するP4.33モジュレーターの使用を教示する。本発明の金属結合ペプチドは、P4.33推定相互作用ドメイン(IGFBP−3の中央領域)を含まない。米国特許第6,417,330号は、加水分解に耐性であるように改変されたIGFBP−3改変体の使用を教示する。ネイティブIGFBP−3中の核局在化シグナル(NLS)が変更される改変IGFBP−3もまた開示される。さらに、種々のN末端伸長を含む、アミノ末端伸長IGFBP−3が開示される。全てのこれらの分子は、本発明の金属結合ドメインペプチドと2つの重要な点において異なる:これらの分子はIGF−Iに結合し、そしてこれらの分子は、P4.33推定デスレセプターと相互作用すると考えられているIGFBP−3の中央領域を含む。いくつかの最近の刊行物は、培養中の細胞を処理するためのIGFBP−3ペプチドの使用を記載する。胸部癌細胞に有効であることが見出された唯一のペプチドは、IGFBP−3の中央領域由来である(McCaigら、2002、Br.J.Cancer 86:1963−1969;Perksら、Bioch.Biophys.Res.Comm.294:988−994、2002)。この領域は、本発明の金属結合ドメインペプチドの配列中には存在しない。
【0031】
鉄の代謝(特に、第1鉄)は、疾患の進行において、本発明に多くの可能性を提供する。例えば、新生物細胞は、高レベルのトランスフェリンレセプター(TfR1)を発現し、非常に高い割合でトランスフェリン(Tf)から鉄(Fe)を吸収する。アンチセンスフェリチンオリゴヌクレオチドは、ヒト乳癌細胞において、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する(Yangら、2002,Anticancer Res.22(3):1513−24)。アルテミシニン(artemisinin)は、第1鉄の存在下で細胞傷害性になる。鉄の流入は癌細胞内で高いので、アルテミシニンおよびそのアナログは、細胞内鉄濃度を増加させる条件下では、癌細胞を選択的に殺傷する(Singhら、2001,Life Sci.70(1):49−56)。鉄キレート剤は、癌細胞において、アポトーシス作用を生じ得る(Simonartら、2002,Gynecol Oncol.85(1):95−102;Greenら、2001,Clin.Cancer Res.7(11):3574−9)。癌のリスクはまた、身体の鉄貯蔵に関連することが知られている(Katoら、1999,Int.J.Cancer 80(5):693−8)。
【0032】
新生物の条件に加え、多くの他の疾患状態が、鉄のホメオスタイスにおいて特徴的な不均衡を示すことが知られている:これらの中でもとりわけ、パーキンソン病(Logroscinoら、1997,Neurology 49(3):714−7)、慢性関節リウマチ(Weberら、1988,Ann.Rheum.Dis.47(5):404−9)、炎症(Morrisら、1995,Int.J.Biochem.Cell.Biol.27(2):109−22)およびアテローム性動脈硬化症(Schmizら、2001,J.Magn.Reson.Imaging 14(4):355−61)である。急性鉄毒および慢性鉄過負荷は、心筋不全の周知の原因である。正確な機構は知られていないが、過剰な鉄に触媒されたフリーラジカルの生成が、心筋を損傷し、心機能を変更することにおいて役割を果たしていると推測されている(Bartfayら、1999,Cardiovasc.Pathol.8(6):305−14;Parksら、1997,Toxicology 117(2−3):141−51)。第1鉄は、ミトコンドリアDNAを損傷し得る(Asinら、2000,FEBS Lett.480(2−3):161−4)。虚血器官への血流の再導入の際に生じる再還流傷害は、心臓発作および心臓拍動におけるかなりの損傷を担う。再還流傷害の主要な原因は、鉄媒介性のヒドロキシラジカル(・OH)の生成である(Horwitzら、1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95(9):5263−8)。Mycobacterium tuberculosisにより分泌される高度に拡散性の親油性鉄キレート剤の使用は、培養物において平滑筋細胞の増殖を阻害し(Rosenthalら、2001,Circulation 104(18):2222−7)、インビボにおいて再狭窄を阻害する。
【0033】
鉄粒子は、超常磁性酸化鉄(SPIO)粒子(Ferucci,1991,Keio J.Med.40(4):206−14;Taupitzら、1993,Acta Radiol.34(1):10−5;Mackら、2002,Radiology 222(1):239−44)の形態で、磁気共鳴画像化においてコントラストを増強するために使用されている。より最近、これらの粒子は、鉄リッチな癌細胞において局所的な作用を生成するために、交流磁場と合わせられ、この手順は、「磁気熱切除」(Hilgerら、2002,Invest.Radiol.37(10):580−6;Shinkeiら、2001,Jpn.J.Cancer Res.92(10):1138−45)と呼ばれている。
【0034】
この背景の節中におけるいかなる特許、特許出願、または刊行物に対するいかなる参照も、このような特許、特許出願、または刊行物が、本発明に対する先行技術を構成することを承認しないことを注意すべきである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0035】
(発明の開示)
本発明者は、驚いたことに、ヒトIGFBP−3配列の一部を含むIGFBP−3またはペプチドが、多数の有用な物理的性質および生物学的性質を示し得ることを見出している。特に、本発明者は、驚くべきことに、IGFBP−3由来のペプチドの細胞内局在化が、鉄の輸送、特に第1鉄(Fe++)の輸送に関与する経路により媒介されることを発見した。従って、本発明のIGFBP−3由来のペプチドは、鉄代謝に重く関与する器官(例えば、心臓および腎臓)へと分子を送達するために特に有用であると考えられる。これらの知見はまた、鉄を運ぶ分子の細胞内取込みを調節する試薬が、IGFBP−3およびこれから誘導されたペプチドの活性を調節するために使用され得ることを示す。
【0036】
本発明者らは、驚くべきことに、「コア」MBDの14マー配列(OCRPSKGRKRGFCW)のカルボキシ末端へ6つのアミノ酸配列を付加し、カベオリン(caveolin)のコンセンサス結合配列を作製することにより、核トランスロケーション活性の実質的な上昇を生じることをまた見出した。MBDの14マーコア配列+カベオリンコンセンサス結合配列を含むペプチドは、治療用分子の核トランスロケーションを指向するために有用である。
【0037】
本発明は、IGFBP−3のC末端ドメイン由来の、ほんの12〜22アミノ酸を含む短ペプチドが、全分子の共アポトーシス性質、細胞貫通性性質、および金属結合性質を模倣し得ることを明らかにする。これらのペプチド(「MBDペプチド」)は、以下に列挙する理由に対して、全長IGFBP−3の使用の魅力的な代替法を提供する。
【0038】
効能:IGFBP−3のアミノ末端ドメインは、循環中でIGFと結合し、かつIGFを輸送し、多くの細胞型についてのIGFの筋肉増強効果および抗アポトーシス効果を増強する一方、カルボキシ末端ドメインは、IGFBP−3のIGF非依存性の効果を媒介すると考えられる。従って、この分子の治療剤としての効力は、その機能の二重性により本質的に緩衝され得る。MBDペプチドは、共アポトーシスアッセイにおいて、全長IGFBP−3よりも、最大で3倍より活性であり、そしてIGFBP−3と異なり、MBD活性は、細胞外マトリックスおよび血漿タンパク質によって激しく抑制されない。
【0039】
処方:IGFBP−3の中央ドメインは、タンパク質分解に対し精巧に感受性である。IGFBP−3の有限の溶解性、その低い安定性および明白な凝集傾向に起因して、インタクトなIGFBP−3に対する適切な処方および都合の良い送達経路の開発は魅力的である。例えば、70kgの成人IGFBP−3に対する1mg/kg/日の投与量のIGFBP−3(7mg/ml、リン酸緩衝食塩水中の最大溶解度)は、10ml(皮下ボーラス注射に適さない)である一方、70kgの成人に対して0.5mg/kg/日で与えられるMBDペプチド(PBS中35mg/ml)は、たった1ml(皮下ボーラス注射に適する)である。
【0040】
安定性:MBDペプチドは、熱(95℃、10分間)に安定であり、そしてサイズが小さく、このことがMBDペプチドを全長IGFBP−3よりも、経皮または吸入剤に基づく送達経路としてより受け入れられやすくする。
【0041】
費用:IGFBP−3分子が生物学的に活性であるために、IGFBP−3分子の全18システイン残基は分子内ジスルフィド結合を形成しなければならない。このことは、細
菌性システムまたは酵母のシステムでの臨床グレードのIGFBP−3の十分な量の産生を、非常に魅力的にする。哺乳動物のシステムは、この分子の産業的生産には高価すぎる。ヒトIGFBP−3 cDNAが1988年にクローン化されて以来、たった一つのグループがグラム量の臨床グレードの組換えIGFBP−3をうまく生産した。単4mg/kg皮下投与量のIGFBP−3の計画された販売価格は、12年間にわたって開発、洗練されたIGFBP−3のための生産技術に基づいて、そして産業標準の原価(Cost
of Goods)(COG)に対する価格比を使用して、数千ドルの範囲であることが多い。払い戻しおよび他の考慮に基づいて、この価格は禁止され得る。一方、MBDペプチドは、当業者に周知の合成化学的方法または高度に効率的な生物学的生産システムのいずれかを使用して、IGFBP−3よりも安くかつ簡単に生産されることが予想される。
【0042】
いくつかの実験室からのデータを組み合わせた配列アラインメントは、構造的に自律性である一方、分子の腫瘍細胞に対するプロアポトーシス効果を特定するのに十分であることが多いIGFBP−3の領域への洞察を提供し得る。他の研究は、この同じドメインの他の配列が核局在化、RXR−α結合、ならびに血清およびECM成分との結合に関与することを示している(21,23〜25,35,40)。我々は、この分子のこれらの領域を、動物界(哺乳動物、カエル、魚、ハエ、線虫)にまたがる、タンパク質の本質的に異なる群に見られるCD74相同性モチーフと配列比較した。本発明の目的のために、IGFBP−3のCD74相同性ドメインは、成熟IGFBP−3タンパク質のカルボキシ末端のおよそ60アミノ酸残基、またはこれらの任意のサブセットを含むと規定される。
【0043】
図2は、CD74モチーフを含む、選択されたヒトタンパク質のアラインメントを示す。保存された残基は、太字で示される。IGFBP−3中のイタリック体の残基は、核局在化およびコラーゲン結合に要求されるが、IGF−I結合には要求されない。アスタリスクはIGFBP−3のHBD変異体における残基置換を示し、プラスミノーゲン、プレカリクレイン、ALSおよびRXR−αへの結合が損なわれる。#で示されるこのペプチド領域は、緑色蛍光タンパク質と結合された場合に、細胞インターナリゼーションを促進するのに十分である。予備データは、この領域の一部を表現するペプチドが、培養中の細胞においてアポトーシスを促進するのに十分であり得ることをさらに示唆する。
【0044】
本明細書中に開示されるのは、疾患の症状を緩和するための方法である。特定の実施形態は、目的の組織(例えば、心臓組織、脈管組織、筋肉組織、免疫組織、肝臓組織、脳組織および腎臓組織)に、特に、鉄代謝に重く関与する器官(例えば、心臓および腎臓)に治療用分子を送達するためにMBDペプチドおよびその誘導体を利用する。このような実施形態において、MBFペプチドおよび治療用分子の結合体は、これらを必要とする被験体(例えば、心臓障害、脈管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、神経障害または腎臓障害)に投与され、処置されると考えられる障害の少なくとも1つの症状の緩和を生じる。
【0045】
本発明は、新生物、パーキンソン病およびアテローム性動脈硬化症のような変更された鉄代謝に関連する障害を処置する方法をさらに提供する。MBDペプチドおよび治療用分子を含む結合体は、変更された代謝に関連する障害を有する被験体に投与され、これらの障害のすくなくとも1つの症状の緩和を生じる。
【0046】
特定の実施形態において、MBDペプチドは、MBDペプチド配列に加えて、またはこれと重なって、カベオリンコンセンサス結合配列(#x#xxxx#、ここで、「#」は、芳香族アミノ酸である)を含む。カベオリンコンセンサス配列は、ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端にあり得る。特定の好ましい実施形態において、カベオリンコンセンサス結合配列は、ペプチドのカルボキシ末端にあり、MBDのコア14マー配列と重なっている。カベオリンコンセンサス結合配列を有する例示的なMBDペプチドは、配列QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGまたはKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGを含むペプチドを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明は、種々の有用な性質(細胞インターナリゼーションの方向付けを含む)を有する多数の新規ペプチド(およびペプチドの構造を模倣する低分子)に関連する。
【0048】
疾患の処置のための新規方法が、本明細書中で開示される。本発明のペプチドの種々の活性は、ある種類の障害(心臓血管適応症、腎適応症を含む)を処置するために利用され得る。
【0049】
(定義)
本明細書中で使用される場合、用語「IGF結合タンパク質」および「IGFBP」は、6つのヒトインスリン様増殖因子結合タンパク質1〜6のいずれかに基づく天然分子および誘導体分子をいう。「誘導体ペプチドまたは低分子」は、本発明に適切なIGFBPの構造的性質を保持するか、あるいは模倣する、ペプチドまたはペプチドも模倣物をいう。本明細書中の誘導体ペプチドは、IGFBP−3の全長よりも短い配列を含む。本明細書中で使用される場合、その配列または構造がIGFBPに対して同一であるか、または相同的である場合、ペプチドまたは低分子はIGFBP「由来」である。
【0050】
「CD74相同性ドメインペプチドまたは低分子」は、IGFBP−3のカルボキシ末
端の60アミノ酸配列の一部を含む誘導体ペプチドまたは低分子を意味する。
【0051】
「金属結合ドメインペプチド」または「MBDペプチド」は、約12〜約60アミノ酸長の、好ましくは約13〜40アミノ酸長のIGFBP由来のペプチドまたはポリペプチドを意味し、IGFBP−3のカルボキシ末端60アミノ酸中にCD−74相同性ドメイン配列のセグメントを含み、配列CRPSKGRKRGFCを含み、そして金属結合性質を示すが、別個の抗原性性質を示すことでインタクトなIGFBP−3とは異なり、IGF−I結合性質を欠如し、そして中央領域配列(IGFBP−3配列のアミノ酸88〜148)を欠如する。例えば、ペプチドGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWは、金属結合ドメインペプチドの例である。これは、金属イオンに結合するが、IGF−Iには結合せず、そしてこのペプチドに対するポリクローナル抗体はインタクトなIGFBP−3と実質的に交差反応せず、そしてその逆もまた真である。
【0052】
「伸長金属結合ドメインペプチド」は、天然のIGFBP−3配列とは異なって、さらなる残基と連結された金属結合ドメインペプチドである。例えば、トリペプチドであるアスパラギン−グリシン−アルギニン(NGR)のような伸長、または大きいタンパク質の配列が、薬物動態学的な標的化目的のためにか、または脂肪および核酸のような他の分子との結合体(「伸長金属結合ドメインペプチド結合体」)を調製する目的のために、付加され得る。
【0053】
「改変金属ドメインペプチド」は、天然のアミノ酸配列が改変された金属結合ドメインペプチドまたは伸長金属結合ドメインペプチドであり、このような改変としては、以下が挙げられる:配列の任意の位置における天然のアミノ酸残基の保存的な置換、天然の状況においてIGFBP−3の対応する配列位置で生じることが見出されたリン酸化、アセチル化、グリコシル化もしくは他の化学的状態の変化、配列におけるL−アミノ酸のD−アミノ酸での置換、またはタンパク質−核酸(PNA)のような鎖骨格化学の改変。
【0054】
「コア金属結合ドメインペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含む、14アミノ酸長未満のペプチドである。例えば、CRPSKGRKRGFC、QCRPSKGRKRGFCおよびCRPSKGRKRGFCWは、コア金属結合ドメインペプチドである。
【0055】
「伸長コア金属結合ドメインペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含むが、以下の天然IGFBP−3の14マー配列:QCRPSKGRKRGFCWを含まない、伸長金属結合ドメインペプチドである。
【0056】
「改変コア金属結合ペプチド」は、コア12マー配列CRPSKGRKRGFCを含むが、以下の天然IGFBP−3の14マー配列:QCRPSKGRKRGFCWを含まない、改変金属結合ドメインペプチドである。
【0057】
「レトロ金属結合ドメインペプチド」は、逆転した順序でD−アミノ酸またはL−アミノ酸のいずれかを含む、金属結合ドメインペプチドの誘導体である。
【0058】
「細胞インターナリゼーションペプチド」は、IGFBP−3のCD74相同性ドメインに存在する配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたはその一部を含む、ペプチドまたは他のタンパク質性分子、あるいはその変異体または他の誘導体を意味する。
【0059】
「血漿循環ペプチド」は、IGFBP−3の循環血漿タンパク質結合特性のいくらかまたは全てを保持する、CD74相同性ドメインペプチドを意味する。プラスミノーゲン、
トランスフェリン、カリクレイン、酸不安定性サブユニットまたはフィブリノーゲンへの結合は、この範疇の例である。
【0060】
「ECM結合ペプチド」は、IGFBP−3の細胞外マトリックス成分結合特性のいくらかまたは全てを保持する、CD74相同性ドメインペプチドを意味する。ヘパリン、コラーゲンおよび細胞表面成分への結合は、この範疇の例である。
【0061】
用語「処置レジメン」は、治療の過程をいう。処置レジメンは、単一の化学薬剤のような単一の薬剤を使用し得るが、より代表的には、2つ以上の異なる薬剤(例えば、複数の異なる細胞傷害性化学療法剤を用いる併用療法)を含み得、そして2つ以上の異なる型の薬剤(例えば、電離放射線のような物理薬剤と組み合わせた、パクリタキセルのような化学薬剤の投与)を含み得る。処置レジメンはまた、栄養レジメン、ストレスレジメンまたは運動レジメンをいい得る。
【0062】
本明細書中で使用される場合、用語「緩和する」は、疾患の症状の改善、減殺(lessening)、安定化または減少をいう。「緩和する」はまた、症状の進行の緩徐化、または停止を含む。例えば、癌の症状を緩和することとしては、腫瘍増殖を遅らせることもしくは安定化させること、腫瘍サイズを減少させること、または腫瘍を完全に除去することが挙げられる。
【0063】
本明細書中で使用される場合、用語「被験体」は、鳥類および哺乳動物個体を含み、より具体的には、スポーツ動物(sport animal)(例えば、犬、猫など)、農業用動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジなど)および霊長類(例えばヒト)を含む、脊椎動物個体をいう。
【0064】
本明細書中で参照される場合、配列「同一性」および配列「相同性」は、BLSAT(Altschulら、1990、J.Mol.Biol.215(3):403−410)、特に、デフォルトパラメーター(例えば、Matrix 0 BLOSUM62、それぞれギャップオープンペナルティ11および伸長ペナルティ1、ギャップX_ドロップオフ50ならびにワードサイズ3)を使用する、National Center for Biotechnology Information(NCBI)によって実行されているBLASTP 2を使用して決定され得る。「連続した」アミノ酸といわれない限りは、配列は、必要に応じて、アラインメントを向上する適切な数のギャップまたは挿入を含み得る。
【0065】
本明細書中で使用される場合、用語「結合体」は、ペプチドと第2の分子(例えば、転写調節因子または治療用分子)との間の共有結合体および非共有結合体の両方を包含する。非共有結合体は、結合対(例えば、ビオチンとアビジン、またはストレプトアビジン、または抗体(Fabフラグメント、scFv、ならびに他の抗体フラグメント/改変体))とその同族の抗原を使用することによって作製され得る。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprising)」およびその同族は、その包含的意味で使用される;すなわち、用語「含む(inclding)」およびその対応する同族と同等である。
【0067】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、別に指示されない限り、複数形の言及を含む。
【0068】
(IGF結合タンパク質誘導体ペプチドおよび低分子組成物)
本発明の方法に従う使用のためのIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、任意の種由来であり得るが、種が一致したIGF結合タンパク質(すなわち、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子を投与するべき被験体と同じ種由来のネイティブ配列に基づいた、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子)が、好ましい(例えば、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子がヒト被験体に投与されることが意図される場合、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、ヒトIGFBP由来であることが好ましい)。本発明における使用のためのIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、非複合体化IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子であり、すなわち、IGFの非存在下で投与され(例えば、IGF−I複合体として投与されない)、そして、好ましくはいかなるIGFタンパク質も含まないで投与される。好ましくは、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子は、IGFBP−3由来である。
【0069】
IGFBP−3についての天然に存在するタンパク質配列の1つは、図1に示される。ヒトIGFBP−3は、2つの天然に存在する対立遺伝子改変体として見出される;アラニンが成熟なタンパク質の位置5で見出され得る(図1Aに示される)か、あるいはグリ
シンがこの位置に見出され得る。さらに、IGFBP−3の他の改変体が作製され得る。例えば、[N109D]−IGFBP−3は、成熟配列の位置109にアミノ酸配列変更を有するが、現在までに試験されている多くのアッセイにおいて、野生型のIGFBP−3と非常に類似して振る舞うIGFBP−3の誘導体である。点変異誘導体はまた、IGF−I、IGF−IIまたはIGFBPの他の公知のリガンドのいずれかに結合する能力において選択的に衰弱された変異体を含む。例えば、IGFBP−5の保存的残基または半保存的残基Val49、Tyr50、Pro62、Lys68、Pro69、Leu70、Ala72、Leu73およびLeu74の1つ以上に対応する位置の点変異が、IGF−I結合を衰弱させ得ることが示されている。これらの残基の多くは、他のIGF結合タンパク質でもまた、よく保持されている。IGFBP−3の成熟配列の位置228および230における変異は、核移行および、コラーゲンのような細胞外マトリックスタンパク質との結合に影響すると考えられる。
【0070】
IGFBP−3またはIGFBP−3配列の一部に基づくペプチド誘導体の欠質変異体もまた、誘導体ペプチドおよび低分子の設計のための鋳型として使用され得る。IGFBP−3分子は、264アミノ酸からなり、3つの主要な構造ドメインを有する。システインリッチなアミノ末端ドメイン(おおまかに成熟配列の最初の100アミノ酸)が、IGFの高親和性結合に必須であることが公知である。中央ドメイン(約80アミノ酸)は、システイン残基を有さず、そしてプロテアーゼに対して非常に敏感である。この部分はまた、特異的な細胞レセプターとの結合において重要な役割を果たし得る。カルボキシ末端ドメイン(約80アミノ酸)はまた、システインリッチであり、そして、細胞外マトリックス分子(例えば、ヘパリンおよびコラーゲン)、血清分子(例えば、ALS、プラスミノーゲンおよびフィブリノーゲン)、核レセプター(例えば、RXRおよびインポーティン(importin))との結合に必須の配列を含む。欠失変異体または点変異体を得るための核酸操作、タンパク質発現およびタンパク質精製の方法は、当該分野で公知である。
【0071】
一旦、IGFBP−3のドメインが、必要に応じて点変異分析または欠失分析によって決定され、そして特定の生物学的活性(例えば、標的細胞の感作)に十分である場合、IGFBP配列の一部からなる、ペプチドのようなより低分子を設計することが可能である。例えば、配列
(H2N)...DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号1);
(H2N)...GFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号2);
(H2N)...QCRPSKGRKRGFCW...(COOH)(配列番号3);および
(H2N)...CRPSKGRKRGFC...(COOH)(配列番号4)
のうちの1つ以上は、IGFBP−3の生物学的効果のいくつかを模倣するのに十分であり得るが、本発明の特定の実施形態は、配列DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよび配列QCRPSKGRKRGFCWを含むか、または配列DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよび配列QCRPSKGRKRGFCWからなるペプチドを排除し得る。
【0072】
IGFBP−3の三次元構造は知られていないが、IGFBP−3分子の関連領域とかなりの相同性を共有する、CD74インバリアント鎖の構造は記載されている(Ghoshら、Nature 378:457−462、1995)。IGFBP(好ましくはIGFBP−3)配列由来のペプチド模倣物分子は、当該分野で公知の技術を使用して、CD74インバリアント鎖の三次元構造を参照して生成され得る。これらの誘導体分子のいずれもが、化学処置に対して標的細胞を感作する能力を含む、所望の生物学的活性につい
てアッセイされ得る。これらのアッセイの結果に基づき、変更された特性を有する、少ない数のIGFBP−3変異体またはIGFBP−3誘導体が、ヒト疾患の状況において、臨床試験のために選択され得る。
【0073】
本発明は、MBDペプチドコア14マー配列およびカベオリンコンセンサス結合部位を組み込むペプチドを提供する。カベオリンコンセンサス配列は、ペプチドの上流に(すなわち、アミノ末端に向かって)または下流に(すなわち、カルボキシ末端に向かって)配置され得、MBDコア14マー配列と重複し得る。例示的な実施形態として、ペプチドMBD20(QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびMBD21(KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYG)が挙げられる。
【0074】
(IGF結合タンパク質誘導体ペプチド生成)
IGF結合タンパク質または誘導体は、通常、IGFBP配列における全ての可能な改変体の生成を可能にする組換え法によって生成される。組換えDNAの操作に関する技術は、当該分野で周知であるタンパク質の組換え生成に関する技術とも同様である(例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、1〜3巻(Cold Spring Harbor Laboratory Press、第2版、(1989);または、F.Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing and Wiley−Interscience:New York、1987)および定期的な最新情報を参照のこと)。公知の組成の誘導体ペプチドまたは低分子はまた、当該分野で周知の方法を使用して、化学合成によっても生成され得る。
【0075】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子をコードする配列を含む核酸ベクターは、研究、ハイスループットスクリーニングまたは他のゲノム科学関連技術およびプロテオミクス関連技術の実行を促進するためにこれらの分子の改変された性質を利用し得る。特に、いくつかのCD74様ペプチドの金属結合特性は、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)樹脂(例えば、His−Bind樹脂(Novagen Inc.、Madison、WI)、ニッケル−NTA樹脂(Qiagen Inc.、Carlsbad、CA)およびTalon樹脂(Clontech Inc.、Palo Alto、CA))を使用し、このような樹脂の製造業者によって推奨されるプロトコールを使用する、粗抽出物からの発現遺伝子産物の迅速なアフィニティー精製に役立ち得る。同様に、いくつかのCD74様ペプチドのプロテアーゼインヒビター特性は、精製の間の発現遺伝子産物の安定性に役立ち得る。いくつかのCD74様ペプチドの細胞インターナリゼーション性質は、特に細胞核への輸送が生物学的性質のスクリーニングを促進し得る場面において、哺乳動物細胞における、特定の遺伝子産物の迅速なスクリーニングに役立ち得る。ベクター内のIGF結合タンパク質由来配列の選択的タンパク質分解切断部位の使用は、IGFBPまたはそのペプチド誘導体の適切に折り畳まれたドメインの発見に役立ち得る。このような配列を含む遺伝子産物の発現後切断をもたらすためのヒトライノウイルス 3Cプロテイナーゼの使用は、特に推奨される(参照)。
【0076】
好ましくは、IGF結合タンパク質または誘導体は、組換え宿主細胞として細菌細胞株を使用して産生される。発現構築物(すなわち、宿主細胞における適切な発現に必須のDNA配列と実施可能に連結された、所望のIGF結合タンパク質または誘導体をコードする配列を含むDNA配列(例えば、構築物の5’末端のプロモーターエレメントおよび/またはエンハンサーエレメント、ならびに構築物の3’末端のターミネーターエレメント))が、宿主細胞に導入される。IGF結合タンパク質または誘導体をコードするDNA配列は、必要な場合、別のタンパク質(「融合パートナー」)をコードする配列と連結され、融合タンパク質を形成し得る。好ましくは、IGF結合タンパク質または誘導体をコードするDNA配列は、米国特許第5,914,254号に記載されるような融合パートナーをコードする配列と連結される。発現構築物は、プラスミドあるいはコスミドのような染色体外構築物であり得るか、または、例えば、米国特許第5,861,273号に記載されるように、宿主細胞の染色体に組み込まれ得る。
【0077】
(IGFBP由来のペプチドを組み込んだ結合体および融合物)
本明細書中で開示するように、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWは、無関係のタンパク質の細胞インターナリゼーションを方向付けることが可能であり、心臓組織および腎臓組織への細胞インターナリゼーションを方向付けることに特に有用である。従って、本発明は、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドおよび低分子と、細胞内に内部移行されることが所望される分子との、融合物ならびに/または結合体を提供する。融合物パートナー分子は、通常(例えば、大きいサイズ、親水性などの理由で)内部移行されないポリペプチド、核酸、または低分子であり得る。当業者に明らかであるように、このような融合/結合体は、医薬品(通常は内部移行されない治療分子のインターナリゼーションを促進するため)、遺伝子治療(遺伝子治療構築物のインターナリゼーションを促進するため)、および研究(インターナリゼーションマーカータンパク質を用いる細胞の「マーキング」を可能にする)を含む、多数の異なる分野において有用である。好ましいIGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドは、配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたは上記配列と少なくとも80、85、90、95、98、もしくは99%の相同性を有する配列を含むペプチドであり、ここで、このペプチドは、IGFBP−3の完全配列を含まない。IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドとポリペプチドとの融合物は、好ましくは、融合タンパク質をコードするDNA構築物の作製によって生成されるが、このような融合物はまた、インターナリゼーションペプチドと目的のポリペプチドとの化学連結反応によって作製され得る。IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドと核酸または低分子との結合体は、当該分野で公知の化学架橋技術を使用して作製され得る。好ましくは、結合体は、ヘテロ二官能性架橋剤を使用して生成され、インターナリゼーションペプチドのマルチマーの生成を回避する。
【0078】
IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと転写調節因子(例えば、転写因子)との結合体が、本発明によって提供される。ほとんど全ての転写因子は、通常は細胞外の環境から内部移行されることができず、そのために、そのネイティブの型では薬剤として不適切である、細胞内タンパク質である。しかし、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと融合または結合体化される場合、転写因子は、内部移行され得、そして細胞の転写に影響し得る。例えば、T−bet(Szaboら、2000、Cell 100 (6):655−69)、すなわち、Tリンパ球をTh1系統に方向付けるように見える転写因子は、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドと融合され、免疫調節に有用な分子を作製し得る。
【0079】
細胞インターナリゼーションペプチドおよび治療分子の結合体もまた提供される。細胞インターナリゼーションペプチドは、細胞の内部に送達されるように方向付けられる任意の治療分子(アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド構築物(例えば、増殖因子などのようなコード治療分子)を含む)と結合体化され得る。
【0080】
細胞インターナリゼーションペプチド(例えば、MBDコア14マー)およびカベオリンコンセンサス結合配列(MBD/カベオリンペプチド)を含むペプチドもまた、結合体に組み込まれ得る。MBD/カベオリンペプチドは、細胞の内部に送達されるように方向付けられる任意の治療分子(アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド構築物(例えば、増殖因子などのようなコード治療分子)を含む)と結合体化され得る。
【0081】
マーカー部分およびIGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む融合分子/結合体分子もまた、提供される。このような融合/結合体分子に有用なマーカー部分としては、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、および、酵素活性の効力により検出され得る他のタンパク質(例えば、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなど)のようなタンパク質、ならびに、二次検出システム(例えば、特異的な抗体)によって検出され得る「発現タグ」部分が挙げられる。発現タグ部分は周知であり、そしてmycおよび他のタンパク質由来のペプチドを含む。急速に分裂する細胞の核へのIGFBP−3の局在化に起因して、配列KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWまたは上記配列に少なくとも80、85、90、95、98、もしくは99%の相同性を有する配列を含む、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む融合分子/結合体分子は、細胞標識用途、および診断用途に、特に有用であると考えられる。IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを含む、このような融合/結合体分子の他の企図される用途としては、IGFBP由来のインターナリゼーション促進ペプチドを組み込む薬学的分子の薬物動態学的な研究が挙げられる。
【0082】
実施例3で開示されるように、発明者は、IGFBP−3分子中の金属結合モチーフの存在を発見し、これによってこのモチーフを含むドメインの実用的な回収を可能にした。IGFBP由来のペプチドDKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWおよびペプチドQCRPSKGRKRGFCWは各々、ニッケルを充填されたアフィニティーカラムに結合する。このような金属結合性質は、複合混合物(例えば、細菌細胞溶解物)からの所望のペプチドの精製に使用され得る。代表的に、各ペプチドをコードするDNA配列(または金属結合活性および少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%の配列相同性を有するそのホモログ)は、目的のポリペプチドをコードするDNA配列と融合され、ここで、このペプチドはIGFBP−3の完全配列を含まない。金属結合ペプチドをコードする配列は、目的のポリペプチドをコードするDNA配列の5’末端または3’末端に融合され得、そして、目的の配列内に挿入さえされ得る(このことはあまり好ましくないが)。好ましくは、エンドプロテアーゼについての認識部位をコードするDNAは、金属結合ペプチドをコードする配列と目的のポリペプチドをコードする配列との間に挿入され、金属結合ペプチドの除去を可能にする。有用なプロテアーゼ認識部位としては、ヒトライノウイルス 3Cプロテアーゼの認識部位、エンテロキナーゼの認識部位、Xa因子の認識部位、およびユビキチンの認識部位(ユビキチナーゼの認識部位)が挙げられる。次いで、融合ポリペプチド(IGFBP由来の金属結合ペプチドおよび目的のポリペプチド、ならびに必要な場合プロテアーゼ認識部位を含む)をコードするDNAは、コードされた融合ポリペプチドの転写および翻訳に必須のDNA配列を含む都合よい任意の発現ベクターに挿入される。DNA発現構築物は、組換え宿主(例えば、E.coliまたはS.cerevisiae)に形質転換され、そして当該分野で公知の標準の方法を使用して回収される。次いで、融合ポリペプチドは、当該分野で周知のように、二価のカチオン(例えば、亜鉛またはニッケル)を充填されたアフィニティーカラムを使用して精製され得る。融合ポリペプチドがプロテアーゼ認識部位を含む場合、同族のプロテアーゼが、精製プロセスの適切な時点において、目的のポリペプチドから金属結合ペプチドを切断するのに使用され得る。
【0083】
(治療的な投与)
本発明は、さらに、アテローム性動脈硬化症を含む心血管疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)を含む自己免疫疾患、多発性硬化症(MS)、糖尿病(特に、I型糖尿病)、強直性脊椎炎、潰瘍性結腸炎、クローン病を含む炎症性腸疾患、関節炎(特に、慢性関節リウマチ)、喘息およびアレルギー、骨吸収性障害、網膜症を含む眼科系疾患、および繊維性疾患を含む障害を処置する(例えば、その症状を軽減する)方法を提供する。上記の背景において考察されるように、これらの障害は、細胞レベルでの慢性炎症性応答によって媒介される。本発明に従って、これらの障害は、有効量の本発明のMBDペプチドの投与によって処置される。
【0084】
転写調節因子とIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドとの融合物または結合体を含む、組成物の投与を含む治療的な方法もまた提供される。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらに、カベオリンコンセンサス結合配列を含む。いくつかの実施形態において、その融合物または結合体は、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドと、T−betのような転写因子とを含む。T−betを含む結合体は、Th1応答に対する免疫応答を変更するか、または偏らせる、免疫調節に有用であり、この免疫調節は、アレルギー、自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチ)および他のTh2媒介性障害のような障害の症状を緩和し得る。
【0085】
心臓障害、脈管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、脳障害および腎臓障害を処置する方法がさらに提供され、この方法は、治療分子およびIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの結合体を投与する工程を包含する。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらにカベオリンコンセンサス結合配列を含む。これらの実施形態は、心臓組織、骨格筋組織、脾臓組織および腎臓組織へのIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの差示的取り込み、治療分子の標的組織中の細胞の内部への送達を利用する。治療分子は、標的器官での活性のために細胞インターナリゼーションを必要とする任意の分子であり得る。これらの実施形態における使用のための好ましい治療分子の1つのクラスは、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。小さな阻害性RNA(siRNA)もまた好ましいクラスの治療分子である。心臓障害および腎臓障害の処置のため、結合体は、一般的に、非経口経路によって、単純に投与され得る。特定の実施形態において、結合体の投与よりも、治療分子の非存在下でのIGFBP由来のインターナリゼーションペプチドの投与が先立つ。このような前処置は、治療分子/IGFBP由来のインターナリゼーションペプチド結合体の投与の前に、任意の従来の期間(例えば、約2日〜約4週間、または4日〜3週間、または1週間〜18日間)行われ得る。例えば、心筋梗塞の直後に、心臓細胞の死を妨げるように設計された分子(例えば、適切なプロサバイバル(pro−survival)遺伝子(例えば、bax−αまたはカスパーゼ−3の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはbcl−2の発現を指向するポリヌクレオチド)が、全身投与され得る。他の実施形態において、このような結合体は、腎臓障害(例えば、虚血)、肝臓障害(例えば、薬物過服用(例えば、アセトミノフェンまたはアルコールと組み合わせたアセトミノフェン))、肝臓毒性化合物への曝露(例えば、Amanita phalloidesのような毒性キノコの接種による)の影響を改善するために投与され得る。本発明の結合体はまた、骨格筋および免疫系の細胞へ治療分子を送達するために使用され得、MBDペプチドの筋肉および脾臓それぞれへの局在化を利用する。
【0086】
本発明はまた、変化した鉄代謝(例えば、新生物形成、パーキンソン病、およびアテローム性動脈硬化症)と関連する障害を処置する方法を提供する。治療分子に結合体化されたIGFBP由来のインターナリゼーションペプチド(例えば、MBDペプチド)は、変化した鉄代謝と関連する障害を有する被験体に投与され、障害の少なくとも1つの症状の改善を生じる。特定の実施形態において、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチドは、さらに、カベオリンコンセンサス結合配列を含む。例えば、新生物細胞、パーキンソン病およびアテローム性動脈硬化症での増加した鉄の取り込みは、IGFBP由来のインターナリゼーションペプチド(例えば、MBDペプチド)との結合体の形態で、これらの障害における影響を受けた細胞へ治療分子を送達するために利用され得る。
【0087】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む分子は、好ましくは経口投与を介してか、または非経口投与を介して投与される。非経口投与には以下が含まれるが、これらに限定されない:静脈内(IV)経路、腹腔内(IP)経路、筋肉内(IM)経路、皮下(SC)経路、皮内(ID)経路、経皮経路、吸入経路、および鼻腔内経路。IV投与、IP投与、IM投与およびID投与は、ボーラス投与によってか、または注入投与によってであり得る。SC投与については、投与は、ボーラス投与によってか、注入によってか、あるいは移植可能なミニポンプ(例えば、浸透圧性ミニポンプもしくは機械的ミニポンプ)または徐放性の移植片のような移植可能なデバイスによって、であり得る。IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子はまた、IV投与、IP投与、IM投与、ID投与またはSC投与に適合された徐放性処方物中で送達され得る。吸入されるIGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子は、好ましくは、分散した用量で送達される(例えば、タンパク質送達に適合された定用量吸入器によって)。経皮経路を経由する、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む分子の投与は、連続的であるか、または拍動性であり得る。誘導体ペプチドまたは誘導体低分子の投与はまた、経口的に起こり得る。
【0088】
非経口投与について、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、乾燥粉末処方物、半固形処方物または液体処方物中にあり得る。吸入以外の経路による非経口投与について、IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、好ましくは、液体処方物にて投与される。IGF結合タンパク質誘導体ペプチド処方またはIGF結合タンパク質誘導体低分子処方物を含む組成物は、塩、緩衝液、膨張性薬剤、オスモライト(osmolyte)、酸化防止剤、洗剤、界面活性剤、および当該分野で公知の他の薬学的賦形剤のような付加的な成分を含み得る。
【0089】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドおよびIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、約0.001〜約40mg/kg/日の用量で、より好ましくは約0.01〜約10mg/kg/日の用量で、より好ましくは、約0.05〜約4mg/kg/日の用量で、なおより好ましくは、約0.1〜約1mg/kg/日の用量で、被験体に投与される。
【0090】
IGFBP誘導体ペプチドまたはIGFBP誘導体低分子を含む組成物の投与の代替法としては、IGFBP誘導体ペプチドまたはIGFBP誘導体低分子を含む組成物をコードする核酸構築物が投与され得る。この構築物は、IGFBP誘導体ペプチドを含む組成物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、そして、通常、細胞におけるIGFBP誘導体ペプチド配列を含む組成物の発現および翻訳を生じるIGFBP誘導体ペプチド配列に作動可能に連結された配列(例えば、プロモーター/エンハンサー、翻訳開始部位、ポリアデニル化シグナルなど)を含むが、細胞染色体中に組み込むように設計された構築物もまた、企図される(例えば、その構築物がIGFBP誘導体ペプチド配列に隣接するレシピエント細胞の染色体に相同な配列のような、宿主の染色体への組み込みを促進する配列を含む場合)。
【0091】
遺伝子移入の方法は、当該分野で周知であり、インビトロ法(例えば、培養細胞(好ましくは被験体に再導入される自己細胞)の形質転換)、エキソビボ法(例えば、インビボで培養されていない細胞(好ましくは被験体に再導入される自己細胞)の形質転換)およびインビボ法(例えば、被験体への核酸構築物の投与によるインサイチュでの細胞の形質転換)が挙げられる。このような遺伝子移入を達成するための方法は、当該分野で周知であり、リン酸カルシウム形質転換、バリスティック(ballistic)形質転換、エレクトロポレーション、脂質媒介性形質転換、裸のDNA移入、およびウイルス媒介性移入(例えば、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター)を含む、標準の形質転換法が挙げられる。
【0092】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたはIGF結合タンパク質誘導体低分子を含む組成物は、以下の同時投与剤のうちの1つ以上と一緒に被験体に投与される:化学療法剤;抗体;物理的ストレス(例えば放射線);処置レジメン(例えば、栄養上のレジメン);または標的細胞上に存在するレセプター(例えば、レチノイドレセプターおよび甲状腺レセプター)のリガンド。被験体が、同時に両方の薬剤に対する曝露を経験する限りは、2つの薬剤の投与は、同時であっても、重なっていても、または時間的に別々であってもよい。2つの薬剤が同じ投与経路および同じ投与スケジュールのために処方される場合、投与は、好ましくは同時であるか、またはほぼ同時である(例えば、同時注入または連続注入)。しかし、いくつかの実施形態において、2つの薬剤についての投与経路および投与スケジュールは異なり、このことが同時投与を不都合にする。化合物がいつ、どのようにして投与されるかにかかわらず、被験体が両方の化合物に対して同時かつ全身性の暴露を経験する場合、被験体は両方の薬剤を投与されたとみなされる。
【0093】
IGF結合タンパク質誘導体ペプチドまたは低分子を含む組成物との同時投与剤の投与を必要とする方法において、この同時投与剤の用量は通常、その薬剤について当該分野で公知のように、個々の被験体について力価測定される。同時投与剤は、非経口および経口の投薬形態を含む、当該分野で公知の任意の処方物において作製され得る。経口処方物が好ましいが、非経口処方物もまた受容可能であり、そして入院の場面においてより簡便であり得る。非経口投与のための処方は、通常液体として処方されるが、ゲル形態または固形デポー形態でもあり得る。経口投与のための処方物は、通常錠剤またはカプセルの形態であるが、シロップまたは液体もまた受容可能である。同時投与剤の処方は通常、賦形剤(例えば、塩、緩衝液、バルキング剤、洗浄剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤、保存剤、酸化防止剤、潤滑剤、コーティング剤、および当該分野で公知の他の薬学的に受容可能な賦形剤)を含む。
【0094】
同時投与剤の投薬量および投与形態は、当該分野に公知であるように、同一性、処方、投与経路および同時投与剤に関する他の関連特性に従って、調節されるべきである。
【0095】
誘導物質およびアンタゴニストは、同様の方法で投与される。例として:アンタゴニストがプロピルチオウラシルである場合、プロピルチオウラシルの用量は、1〜400mg/日であり得る。被験体は通常、50〜400mg/日の用量(代表的には3回の等用量に分けられる)で開始され、2回または3回の等用量に分けて50〜100mg/日で維持される。メチマゾールおよびカルビマゾ−ルについては、用量は、0.1〜50mg/日であり得る。代表的には、被験体は5〜50mg/日で開始され、1〜5mg/日で維持される。
【0096】
当業者に理解されるように、本方法ならびに症状を測定するために使用される方法によって緩和される疾患の症状は、特定の疾患および個々の患者によって変化する。
【0097】
本発明の方法に従って処置される患者は、彼らの疾患の症状のいずれかの緩和を経験しうる。例えば、MBDペプチドおよび同時投与剤で処置される癌患者は、腫瘍安定化(例えば、進行しないようにし得る)、腫瘍縮小、または腫瘍の排除を経験しうる。MBDペプチドおよび同時投与剤での処置はまた、転移の発生率の減少または減少した数の転移性腫瘍を生じうる。MBDペプチドで処理される心臓血管疾患患者は、彼らの症状(血管狭窄およびアンギナ、ならびに/またはアテローム硬化性斑の数、サイズまたは形成の減少を含む)のいずれかの減少または排除を経験しうる。MBDペプチドで処置される自己免疫疾患を有する患者は、彼らの症状(例えば、腎性発赤(renal flare)、疲労による体重減少、関節痛、蝶型紅斑、貧血(SLE)または虚弱、感覚異常、硬化脳病変の数もしくはサイズ(MS)、あるいは疼痛、硬直(stiffness)、腫脹または運動範囲の(関節炎、特に慢性関節リウマチ)改善または安定化、あるいは腹部/上腹部疼痛、痙攣、下痢(クラウン病を含む炎症性腸疾患)、あるいは絶食時血清グルコースレベルもしくはインスリン要件(糖尿病)、あるいは喘鳴、咳き込み、最大呼気流量またはβアゴニスト(喘息)のような緊急的な投薬の必要性、またはアレルギー性鼻炎(アレルギー)を含む)のいずれかの減少、排除または安定化を経験しうる。MBDペプチドで処置される網膜症患者は、視力における改善または安定化を経験しうる。骨再吸収疾患(例えば、骨粗鬆症)を有する患者は、骨折の危険性または割合の減少として現れうる、骨量の損失の速度の改善、安定化、または減少を経験しうる。
【0098】
(キット)
本発明は、IGFBP由来のペプチドまたは低分子を備えるキットを提供する。このキットは、IGFBP由来のペプチドまたは低分子を含む組成物を含む少なくとも1つのパッケージを備える。必要に応じて、キットはまた、組成物の使用に関する説明書のセットを備える。
【0099】
キットに含まれる組成物は、IGFBP由来のペプチドもしくは低分子、またはIGFBP由来のペプチドもしくは低分子を含む融合体/結合体であり得る。特定の実施形態において、キットはまた、細胞傷害性化学療法薬剤(例えば、パクリタキセルまたはドキソルビシン)のような同時投与剤の少なくとも1パッケージを含み得る。IGFBP由来のペプチドまたは低分子(および任意の、同時投与剤)を含む組成物の容器は、単位用量であるか、バルクパッケージ(例えば、多用量パッケージ)であるか、またはサブユニット用量であり得る。
【0100】
説明書を含む実施形態において、この説明書は通常、包含される組成物の意図した使用のための(例えば、癌、過剰増殖障害、または動脈再狭窄の処置のための)、投薬量、投薬スケジュール、および投与経路に関する情報を含む。本発明のキットに提供される説明書は、代表的に、ラベルまたはパッケージ挿入物(例えば、キットに含まれる紙の書面)に書かれた説明書であるが、機械で読み取り可能な説明書(例えば、磁気記憶ディスクまたは光学記憶ディスクで実行される説明書)もまた受容可能である。
【0101】
本開示を通して引用された特許、特許出願、および出版物は、それら全体が、本明細書中で参考として援用される。
【実施例】
【0102】
(実施例1:IGFBP−3を用いた、栄養的ストレスを与えられたHEK293肝細胞の処置)
ヒト胚性肝臓293(HEK293)細胞を、2%、4%、6%または8%のウシ胎児血清を補充したダルベッコの改変イーグル培地(D−MEM)中で増殖させた。細胞が80〜85%コンフルエンシー(細胞の力価:1プレートあたりおよそ2.1×106細胞)に到達したとき、5μgのIGFBP−3または緩衝液コントロールを各プレートに添加した。細胞を、37℃で一晩培養した。次の日、培地を除去し、細胞をトリプリン−EDTA(0.25%トリプシン、1mM EDTA)+1×リン酸緩衝生理食塩水でリンスした。細胞を遠心分離し、そして上清を除去した。Clontech Inc(Palo Alto,CA)製のApoAlertカスパーゼ3アッセイキットを使用して、アポトーシスを測定した。細胞を50μlの冷却した細胞溶解緩衝液に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートした。得られた細胞溶解物をBeckman マイクロ遠心分離機中、14000rpmで4℃にて3分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、50μlの2×反応緩衝液/DTT+5μlの1mMカスパーゼ3基質を各チューブに添加した。水浴中37℃で1時間インキュベートした後、サンプルをマイクロプレートリーダーの405nmで読んだ。この実験の結果を、図3に示す。
【0103】
(実施例2:プロアポトーシスペプチド配列の同定)
図4Aに示すように、そして共有に係る米国特許出願番号09/956,508に開示されるように、IGFBP−3は、アポトーシス促進活性を有する。IGFBP−3由来のペプチドを、本質的に実施例1に記載されるように、アポトーシス促進活性について試験した。
【0104】
試験したペプチドを、表1に記載する(*で印を付けたペプチドは、ヘキサヒスチジンタグを含む)。
【0105】
【表1】
図4Bに要約されるこの実験からのデータは、最初に、インタクトなIGFBP−3自体より大きいアポトーシス促進活性(重量ベースに基づく)を示すIGFBP−3由来のペプチドを生成することが可能であることを示した。ペプチドHとペプチドIのアポトーシス促進活性を比較すると、ペプチドIが重量ベースでインタクトなIGFBP−3(B、C)または長いペプチド(G、H)よりも3〜4倍高いアポトーシス促進活性を示したことは注目すべきである。すなわち、ペプチドIと比較して、ペプチドHの9つのさらなるアミノ酸の存在が、劇的に低いアポトーシス促進活性をもたらした。
【0106】
(実施例3:IGFBP−3および誘導体ペプチドの金属結合特性)
図5に示すように、インタクトなIGFBP−3は、固定化されたニッケルおよび亜鉛に結合し、60mMイミダゾールで樹脂から溶出され得る。このIGFBP−3の以前まで知られていなかった特性は、魅力的であり、そして多数の実用的な意味を有し、その中で、固定化金属アフィニティー(IMAC)樹脂を使用して産物を捕捉する能力が、治療、ハイスループットな発見、および他の研究領域における多数の潜在的な用途をもたらす。
【0107】
図5は、Ni++(パネルa)IMACおよびZn++(パネルb)IMACを使用する、IGFBP−3のIMAC精製からのSDS−PAGEの結果を示す。IGFBP−3は、両方のIMAC樹脂に効率的に結合する。
【0108】
本発明者らは、金属に結合するIGFBP−3由来のサブドメインおよびペプチドの能力をさらに試験した。以下の実施例5に示すように、インビボで生成されたIGFBP−3の規定されたフラグメントは、IMAC上に捕捉され得る。2つの短いペプチドがNi−His結合カラムを通過した:
ペプチド1:(H2N)...DKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW...(COOH);
ペプチド2:(H2N)...QCRPSKGRKRGFCW...(COOH)。
【0109】
両方のペプチドが、カラムに特異的に結合した。ペプチド1は60mMイミダゾールで溶出されたのに対し、より高濃度のイミダゾール(1M)がペプチド2の溶出に必要であった。それゆえ、ペプチド2はペプチド1が結合するよりも、より密接に金属に結合するようである。
【0110】
(実施例4:IGBP−3および同時投与剤を用いるLAPC−4前立腺腫瘍細胞の処置)
IGFBP−3のTAXOL(登録商標)との併用の、LAPC−4移植片モデルを利用する前立腺癌細胞の増殖および死に対する効果を分析するための研究を実施した。100万個の細胞(100μl中)をSCIDマウスにSQ注入した。4週間後に、蝕知可能な腫瘍が観察された。4群を処置した(1群あたり6マウス):1)生理食塩水コントロール;2)IGFBP−3(4mg/kg/日で腹腔内);3)TAXOL(登録商標)(2mg/kg/日で5〜8日目に腹腔内);4)TAXOL(登録商標)とIGFBP−3の併用。毎週の触診により、腫瘍をサイズについて分析し、血清を採取した。動物を21日目に屠殺し、腫瘍重量を評価した。この実験の結果は、併用治療による減少した腫瘍サイズ(40%)の傾向を示した。この生物学的作用は、IGFBP−3のアポトーシス促進活性に起因すると考えられる。
【0111】
(実施例5:3Cプロテアーゼ標的部位をタンパク質の一次配列中に操作することによるIGFBP−3の定義されたサブドメインの生成)
規定されたIGFBP−3サブドメインを、E.coli発現系において可溶性融合タンパク質として発現される構築物から生成した。この融合体の一般的な構造は、以下である:
IVS−1:DsbA(mut)...[3C]...ドメイン1...[3C]...ドメイン2/3
IVS−2:DsbA(mut)...[3C]...ドメイン1/2...[3C]...ドメイン3。
【0112】
ここで、[3C]は、HRV 3Cプロテアーゼによって認識されるペプチド配列である。規定されたドメインを生成するための一般的なストラテジーを、図5に示す。収量は、野生型に匹敵し、実質的な分画は、IGF−Iに結合するタンパク質の実証された能力に基づいて、正確に折り畳まれると考えられる。切断の後、IVS−1構築物(ドメイン1、2/3)から生成されたIGFBP−3のサブドメインを、疎水性相互作用樹脂(例えば、フェニル−SEPHAROSE(登録商標))上または(あまり所望されないが)カチオン交換樹脂(例えば、SP−SEPHAROSE(登録商標))上で捕捉する。他の樹脂(例えば、固定化ヘパリン)もまた使用され得る。3CプロテイナーゼとのIVS−1融合のカラム上での効果的な切断は、1:10(プロテアーゼ対基質)の割合を使用して4℃または室温で示されている。完全な切断は、20分未満で見られている。過去に、切断産物のアミノ酸配列は、酵素が異常にきれいな様式(<5%「でこぼこした」末端)で切断することを示している。さらに、ほとんど均質までの精製が、ニッケルアフィニティクロマトグラフィーまたは亜鉛アフィニティークロマトグラフィーにより達成され得る。明らかに、金属結合は、IGFBP−3分子においてIGF−I結合のための初期ドメインを構成すると考えられるタンパク質のアミノ末端の約100アミノ酸を必要としない。
【0113】
(実施例6:細胞インターナリゼーションペプチドの同定)
3つのペプチド伸長を、緑色蛍光タンパク質(gfp;Clontech)に関する遺伝子とインフレームでそれぞれクローン化し、E.coli(JM109)中に発現させた。各構築物は、6Hタグをさらに含む。産物をHis−Bind Resin(Novagen)で捕捉し、60mMイミダゾール、0.5M NaClで溶出し、次いで、HIC(フェニルSEPHAROSE(登録商標)高性能樹脂、Amersham)樹脂でさらに精製し、50mMリン酸緩衝生理食塩水で溶出した。精製されたペプチド−gfpを、HEK293(ヒト胚性肝細胞株)上の細胞インターナリゼーションについて試験した。HEK293細胞を、80〜85%コンフルエント(1プレートあたり約2.1×106細胞)になるまでダルベッコの改変イーグル培地中で培養した。各ペプチド(1プレートあたり11μg)を含む新鮮な培地をプレートに添加した。細胞を、およそ30分間37℃でインキュベートした。培地を除去し、細胞をトリプシン処理し、1×リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。蛍光を測定するために、細胞を長波長UVランプ下で維持した。サンプルの写真を図7に示す。サンプル「d」が、強い蛍光を示した唯一のサンプルであった。従って、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWが、大きい無関係のタンパク質の、HEK293細胞内へのインターナリゼーションを指示するのに必須の全配列情報を含むようである。この同じ配列の部分に属すると考えられる公知の核トランスロケーション特性と組み合わされ、このペプチドは、細胞取り込みならびに種々の分子(例えば、タンパク質、核酸および小さな化学成分)に関する核トランスポーターとして有用であり得る。従来のおよび遺伝子治療、細胞画像化、研究、ならびにハイスループットスクリーニングへの適用が、予見される。
【0114】
(実施例7:IGFBP−3の金属結合特性)
種々の金属で荷電された固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)樹脂へのIGFBP−3の結合を測定した。約1mgのIGFBP−3を、各カラム(NTA樹脂、Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO)に充填した。充填、フロースルー(flowthrough)、洗浄、および60mMイミダゾールでの溶出のOD280を測定することによって、「結合割合」を算出した。代表的な回収率は、85〜95%であった。結果を表2にまとめる。
【0115】
【表2】
(実施例8:IGFBP−3およびパクリタキセルの共アポトーシス活性)
パクリタキセルと組み合わせたIGFBP−3の共アポトーシス活性を、実施例1で記載したHEK293アッセイで測定した。HEK293細胞を、DMEM+8%FCS中で増殖させ、次いで、0.3ng/mlのパクリタキセル(TAXOL(登録商標))中か、50ng/mlのIGFBP−3中か、またはこの2つの組み合せにおいてインキュベートした。いくつかの培養物を、200ng/mlの抗−β−1−インテグリン抗体(Pharmingen)で30分間、前処置した。Clontech Inc.製のApoAlertカスパーゼ−3キットを使用して、カスパーゼ−3をアッセイした。
【0116】
この実験の結果を図8に示す。図8Aに示す結果は、HEK293細胞にパクリタキセルとIGFBP−3の強力な共アポトーシス相乗効果を実証する。図8Bに示すように、抗−β−1−インテグリン抗体による前処置は、このアッセイにおけるIGFBP−3の共アポトーシス活性を非常に阻害する。しかし、IGFBP−3は、MDA−MB−231細胞およびシスプラチンを使用して行われた同様の実験において、いかなる共アポトーシス活性も実証できなかった(図8C)。
【0117】
(実施例9:MBD2ペプチドによって方向付けられるGFPの迅速な細胞取り込み)
ペプチドKKGHAKDSQRYKVDYESQS(無関係なペプチドGFP31)、ペプチドKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW(長いペプチドGFP32)、ペプチドKKGFYKKK(上流ペプチドGFP34)、およびペプチドQCRPSKGRKRGFCW(MBD2を含む下流ペプチドGFP35)をコードするポリヌクレオチドを、pGFPuvベクター(Clontech Inc.、Palo Alto、CA)中のGFPコード配列の5’末端へのインフレーム融合としてクローン化した。発現するタンパク質を金属アフィニティークロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーを通して精製した。
【0118】
各タンパク質を、80%コンフルエントのHEK293細胞に、0.5μg/mlで添加した。図9Aは上から下に、精製タンパク質のクマシー染色したゲル、添加1時間後の処置細胞のGFP蛍光および同じ細胞由来の抽出物のウェスタンブロット(二連の実験)を示す。ウェスタンは、抗GFP抗体で探索した。図9Bはさらに、これらの細胞へのGFP32の取り込みが、細胞を抗フィブロネクチン抗体ではなく、200ng/mlの抗インテグリン抗体で前処理することによって選択的に抑制され得ることを示す、GFP32処理細胞の蛍光を示す。
【0119】
(実施例10:MBDペプチドとパクリタキセルの共アポトーシス活性)
ペプチド(50ng/ml)を、ペプチドと併用して0.3ng/mlパクリタキセルを補填したDMEM中で増殖させた、80%コンフルエントのHEK293細胞に添加した。カスパーゼ−3活性を、添加8時間後の細胞抽出物において測定した。
【0120】
結果を表3にまとめる。アポトーシス活性を、モルベース(MBD2活性を100単位(3つの実験の平均)として規定した)でMBD2に対して正規化した、任意のカスパーゼ−3単位で表す;「nd」は「実施せず」を示し、;「ps」はホスホセリンを示す。金属結合を、Ni−NTA樹脂に結合する充填したペプチドの割合として表す;約1〜1.5mgのペプチドを、カラム上に充填した。細胞取り込みを、実施例9に記載されるように、GFPとの遺伝的融合を使用して決定した。
【0121】
【表3】
(実施例11:MBDペプチドの抗原性プロファイリング)
MBDペプチドの抗原性プロファイルを、ELISAによってアッセイした。MBDペプチドまたはIGFBP−3を、96ウェルNi−NTAプレート(Qiagen Inc.、Carlsbad、CA)のウェルに15分間添加し、PBS Tween緩衝液で2回洗浄し、次いで、同じ緩衝液中3%BSAで4時間ブロックした。西洋ワサビペルオキシダーゼと結合体化した二次抗体を使用して、検出を比色定量分析的に(colorimetrically)(吸光度単位で記録して)行った。
【0122】
図10に示すように、MBDペプチドは、全長IGFBP−3と抗原性で異なる。パネル(a)に示すように、試験したMBDペプチドのいずれもが、ポリクローナル抗IGFBP−3抗体と反応しなかった。パネル(b)は、MBD5ペプチドに対して産生されるポリクローナル抗体を使用して得られた吸光度単位を示し、ここでポリクローナル抗体は、MBDペプチドに結合するが、IGFBP−3には結合しない。
【0123】
(実施例12:MBD共アポトーシス活性は、血漿タンパク質による阻害に対して抵抗性である。)
パクリタキセルと、MBDペプチドまたはIGFBP−3との共アポトーシス活性を、2つの血漿タンパク質;フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの存在下または非存在下で試験した。MBDペプチドまたはIGFBP−3、(50ng/ml)、0.3ng/mlパクリタキセル、および血漿タンパク質(200ng/ml)を、本質的に実施例8に記載されるように、DMEM中で増殖させた80%コンフルエントのHEK293細胞に添加した。カスパーゼ−3を、8時間のインキュベーション後に測定した。
【0124】
アポトーシス活性を、MBD2に対して正規化した(MBD2活性を100単位として規定した)、任意のカスパーゼ−3単位で算出した。結果を表4にまとめる(3つの実験の平均)。フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの、阻害IGFBP−3共アポトーシス活性は、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの両方によって本質的に排除される一方、MBD2共アポトーシス活性は、本質的に影響を受けないか(フィブロネクチン)、または、適度に減少するだけか(フィブリノーゲン)のいずれかである。
【0125】
【表4】
(実施例13:IGFBP−3とドキソルビシンまたは5−フルオロウラシルでの処置は、腫瘍サイズを減少する)
MA−16C乳腺腺癌腫瘍の断片を、メスC3Hマウス(8〜11匹の動物/群)に皮下移植した。その動物を、ビヒクル単独、IGFBP−3(21日間、皮下注射により4mg/kg/日)、ドキソルビシン(1日目および8日目に、静脈注射により2mg/kg)、またはIGFBP−3とドキソルビシンで処置した。別個の研究を行った。この研究において、動物を、ビヒクル単独、5−フルオロウラシル(1〜5日目に腹腔内注射により10mg/kg)、またはIGFBP−3と5−フルオロウラシルで処置した。腫瘍サイズを18日目に測定し、マウスを21日目に屠殺し、移植した腫瘍を、カスパーゼ−3活性(DOX群に対して行われるアポトーシスのみのマーカー)を決定するために取り出した。
【0126】
ドキソルビシン(DOX)または5−フルオロウラシル(5FU)のいずれかと組み合わせたIGFBP−3での処置は、ビヒクルまたはIGFBP−3のみでの処置と比較して、腫瘍サイズを有意に減少させた(p<0.01)。さらに、IGFBP−3とDOXによる腫瘍縮小は、DOX単独の群と比較した場合、有意であった(p<0.02)。DOX群についての結果を、表5にまとめ、5FU群についての結果を表6にまとめる。
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
(実施例14:MBDペプチドによるアポトーシスの刺激は、IGF非依存性である)
HEK 293細胞を、ストレス負荷条件下で(低血清またはパクリタキセルの存在下で)、IGFBP−3(50ng/ml)またはMBD2(50ng/ml)ありまたはなしで培養した。アポトーシスを、実施例1に記載されるように、カスパーゼ−3アッセイを使用してアッセイした。図11Aおよび11Bに示されるように、IGFBP−3およびMBD2のアポトーシス促進活性(pro−apoptotic activity)は、ほぼ同一である。
【0129】
IGF依存性を、HEK 293細胞を使用して調査し、IGFBP−3またはMBD2の存在下で(ともに単独か、またはY60L−IGF−I(IGFレセプターに結合しないIGF−I変異体)と組み合わせて)、0.3ng/mlのパクリタキセルで処理した。図11Cに示されるように、IGFBP−3およびMDB2のアポトーシス促進活性は、IGFの存在とは無関係である。
【0130】
(実施例15:MBDペプチドのアポトーシス促進活性および細胞インターナリゼーション活性は、インテグリン依存性である)
HEK 293細胞を、パクリタキセルを含めて、実施例10に記載されるように培養した。細胞を、MDB2単独で、またはMDB2と抗接着タンパク質抗体とを組み合わせてかのいずれかでインキュベートした。抗体は、インテグリン関連タンパク質(IAP)、フィブロネクチン(Fn)、トランスフェリンレセプター(TfnR)、α5インテグリン、α6インテグリン、αvインテグリン、β1インテグリン、およびβ5インテグリンに対するものであった。カスパーゼ−3活性を、実施例1に記載のようにアッセイした。
【0131】
結果を、図12Aにまとめる。MBD2のアポトーシス促進活性は、インテグリンおよびインテグリン関連タンパク質に対する抗体によって阻害される。
【0132】
(実施例16:MBDペプチドのアポトーシス促進活性は、配列特異的である)
HEK 293細胞を、実施例10に記載のように培養し、アッセイした。MBD2および6MBD2(MBD2(ps)は、5位にホスホセリンを有する)改変体を、共アポトーシス活性についてアッセイした。結果を図13にまとめる。図13は、MDBペプチドの共アポトーシス活性が、コア配列に対して非常に配列特異的であることを示す。
【0133】
(実施例17:Bax−αの発現は、IGFBP−3ペプチドおよびMBDペプチドにより刺激される)
HEK 293細胞を、パクリタキセル(0.3ng/ml)および50ng/mlのIGFBP−3またはMBD2のいずれかとを加えて、実施例1に記載のように、培養した。Bax−αおよびbcl−2のmRNAおよびカスパーゼ3活性をアッセイした。図14Aにまとめるように、IGFBP−3は、bax−α発現を刺激する。Bax−α発現は、図14Bに示されるように、カスパーゼ−3活性と相関する。
【0134】
(実施例18:MBD共アポトーシス活性は、PI3K/ILKシグナル伝達に依存する)
HEK 293細胞を、pUSEamp、またはAktドミナントネガティブ(AktDN)、PTEN、ILKドミナントネガティブ(ILKdn)もしくはラットドミナントネガティブ(rafDN)挿入物を有するpUSEamp(Upstate Biotechnologies)でトランスフェクトした。その細胞を、MBD2ありまたはなしで、実施例10に記載のように培養した(場栗田季節を含む)。図15にまとめるように、MBD2アポトーシス促進活性は、PI3K/ILKキナーゼシグナル伝達経路がブロックされる細胞において阻害されるが、MAPKシグナル伝達経路がブロックされる細胞においては阻害されない。
【0135】
(実施例18:MBDペプチドは、低用量の細胞傷害性化学療法剤に癌細胞を感受性にする)
MA16C細胞を、MDB2および低用量のドキソルビシン(75ng/ml)の存在下で培養した。アポトーシスを、実施例1に記載のようにカスパーゼ−3アッセイを使用してアッセイした。図16Aにまとめるように、MDB2は、MA16C乳腺腺癌細胞を低用量のドキソルビシンに対して感受性にする。
【0136】
MDA−MB−231細胞を、低用量のパクリタキセル(100ng/ml)の存在下で、MDB2(50ng/ml)ありまたはなしで、培養した。アポトーシスを、NMPレベルを測定することによってアッセイした。図16Bにまとめるように、MDB2は、MDA−MB−231細胞を低用量のパクリタキセルに対して感受性にする。
【0137】
(実施例19:鉄(II)イオンは、MBDペプチドエピトープをマスクしない)
1mgの純粋IGFBP−3を、(a)PBS、(b)PBS中の100μM塩化鉄(II)、(c)PBS中の100μM 塩化鉄(III)、または(d)PBS中の100μM 塩化亜鉛において、200ng IGF−1の存在下または非存在下のいずれかで、室温にてインキュベートした。アリコートを、0分、20分、40分および60分で除去し、次いで、抗MBD抗体を用いてELISAによってアッセイした。
【0138】
アッセイ結果(図17にまとめる)は、indicate that incubation of IGFBP−3と鉄(II)イオン(Fe++)とのインキュベーションは、全長IGFBP−3上の通常は検出可能でないMBDペプチドエピトープの非マスキングを生じたが、鉄(III)イオン(Fe4+++)でも亜鉛イオン(Zn++)でも非マスキングを生じなかった。
【0139】
(実施例20:MBDペプチドの差次的局在化)
1mg/ml MBD−GFP32タンパク質は、(a)PBS、(b)PBS中中の100μM 塩化鉄(II)、(c)PBS中の100μM 塩化鉄(III)、または(d)PBS中の100μM 塩化亜鉛において60分間プレインキュベートした。500ng/ml MBD−GFP32を細胞培養培地に添加して20分後、HEK293細胞の各抽出物を、SigmaのNuclear Extract Kitを用いて製造業者の説明書に従って、調整した。抽出物を、抗GFP ELISAによってアッセイした。
【0140】
アッセイ結果は、MBD−GFP32の鉄(II)イオンとのプレインキュベーション(鉄(III)イオンまたは亜鉛イオンではない)が、タンパク質の核局在化を阻害することを示す。結果を図18にまとめる。
【0141】
(実施例21:MBDペプチドの核トランスロケーションは、カベオリン媒介性経路およびクラスリン媒介性経路に関連する)
HEK293細胞を、インヒビター、すなわち、ナイスタチン(カベオリン経路のインヒビター)またはクロルプロマジン(クラスリン経路のインヒビター)10μg/mlとともに1時間プレインキュベートした。500ng/ml MBD−GFP32を細胞培養培地に添加して20分後、細胞の核抽出物を、実施例20に記載のように調製した。抽出物を、抗GFP ELISAによりアッセイした。
【0142】
図19にまとめるように、ナイスタチンおよびクロルプロマジンはともに、MBDペプチドの核トランスロケーションを阻害し、このことは、MBDペプチドの核トランスロケーションが、カベオリン媒介性経路およびクラスリン媒介性経路の両方によって媒介されることを示唆する。示される結果は、データ点あたりの3つのプレートの平均である。
【0143】
さらなるセットの実験において、HEK293細胞を、インヒビターなし(コントロール)で、またはナイスタチンもしくはクロルプロマジン(10μg/ml)とともに60分間プレインキュベートし、次いで、4℃に冷却した。細胞を、トリプシンの非存在かでプレートから穏やかに取り出し、500ng/ml MBD−GFP32中でインキュベートした。架橋剤B3を、細胞にMBD−GFP32を添加した後に種々の時間で、10分間パルスの間に添加した。架橋反応を、100mM Tris緩衝液(pH 8.0)で終了させた。細胞抽出物を、ニッケル−NTAコーティングした96ウェルプレートで捕捉し、次いで、GFPに対する抗体(サンプルに対する標準化のために)、トランスフェリンレセプターに対する抗体、またはα5インテグリンに対する抗体を用いて、ELISAによりアッセイした。
【0144】
アッセイ結果を、図20および21にまとめる。これらは、show that ナイスタチン(カベオリン媒介性エンドサイトーシス経路のインヒビター)およびクロルプロマジン(クラスリン媒介性エンドサイトーシス経路のインヒビター)の両方が、MBDペプチドと細胞表面マーカーとの間の会合を阻害することを示す。結果は、三連の平均である。
【0145】
(実施例22:MBDペプチドの差次的局在化)
メスC3Hマウスを、MBD7ペプチド(2mg/kg/日)または生理食塩水いずれかの皮下注射により、18日間予備処理した。MBD−GFP32タンパク質またはMBD−GFP37(MBD37ペプチド、GFPに連結されたKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWNGR)タンパク質の単一の静脈内ボーラスを、2mg/kg投与し、その2時間後に、屠殺して組織を採取した。
【0146】
組織抽出物を、調製し、そして抗GFP ELISAにより分析した。図22および図23において要約されるように、MBDペプチドの分布は、非常に以上であり、MBDペプチドで事前処理することにより変化する。心臓および腎臓への優先的標的化は、鉄ローディング研究において得られたデータと良く相関する。この研究において、心臓毒性および腎毒性が、観察された。
【0147】
(実施例23:高分子のMBD−ペプチド媒介性核トランスロケーションは、カベオリン結合コンセンサス配列の存在によって、大いに増強される)
ビオチニル化MBDペプチドであるMBD9、MBD20(
【0148】
【化1】
:MBDコア14マーに下線を付しており、カベオリンコンセンサス結合配列は、太字である)またはMBD21(
【0149】
【化2】
:MBDコア14マーに下線を付しており、カベオリンコンセンサス結合配列は、太字である)を、各々、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体と混合し(3〜6倍モル過剰のMBDペプチド)、HEK293細胞に添加した。20分間後、核抽出物および細胞質抽出物を、実施例20において記載されるように調製し、ペルオキシダーゼ活性についてアッセイした。
【0150】
図24において要約したアッセイ結果は、この大きな(約90Kd)結合体の効率的な核移行が、MBD20またはMBD21を使用した場合には、MBD9に対してはるかに効率的に進行したことを示す。これらのペプチド配列間の顕著な差異は、MBD20およびMBD21の両方にはあるがMDB9にはない、コアMBD 14マー配列(標準MBD2ペプチド中に存在する)のC末端部位のさらなる6アミノ酸の存在である。この配列の存在は、カベオリンに結合するタンパク質中に存在することが公知であるモチーフ(#X#XXXX#であり、「#」は、芳香族アミノ酸である)を完成する。生細胞の外側から核中へと直接大きな分子を迅速に取り込むことを動員するためのMBD20配列の使用は、特に、核酸を含む適用(例えば、遺伝子治療)ならびに核酸活性の調節因子において、潜在的に非常に有意である。
【0151】
本発明は、直接的な記載および実施例の両方によって詳述されている。本発明の等価物または本発明の改変は、当業者に明らかであり、そして本発明の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1A〜図1Bは、IGFBP−3配列を1文字表記のアミノ酸コードで示す。図1Aは、ネイティブヒトIGFBP−3(Ala5対立遺伝子改変体)のアミノ酸配列を示す。図1Bは、[N109D]−hIGFBP−3誘導体(Ala5対立遺伝子改変体)を示す。
【図2】図2は、CD74モチーフを含む選択されたヒトタンパク質のアミノ酸配列アラインメントを示す。
【図3】図3は、実施例1に記載される実験の結果を示す。
【図4】図4A〜図4Bは、実施例2に記載される実験の結果を示す。
【図5】図5A〜図5Bは、Ni++IMACおよびZn++IMACを使用する、IGFBP−3のIMAC精製の結果を示す。パネルaおよびb(図5Aおよび図5B)は、それぞれNi++IMACおよびZn++IMACからのサンプルのSDS−PAGE分析を示す。FTはカラムに吸着しなかった物質を示す;Wは洗浄(画分)を示す;50は50mMイミダゾール洗浄(画分)を示す;60は60mMイミダゾール洗浄(画分)を示す;Eは1Mイミダゾール溶出緩衝液(画分)を示す;Sは1M EDTA緩衝液(画分)を示す。
【図6】図6は、融合タンパク質を使用するIGFBP−3ドメインの生成に関するスキームを示す。下パネルは、精製物のSDS−PAGE分析を示す。レーン1は、3Cタンパク質分解酵素(10:1希釈)で消化した粗抽出物を示す;レーン2は、フェニルセファロースHICクロマトグラフィー後を示す;レーン3は、ニッケル金属アフィニティークロマトグラフィー後を示す。
【図7】図7は、ペプチド−gfp融合体とともにインキュベートした後の細胞の蛍光を示す。a=細胞単独(gfpの添加なし);b=細胞+SYGRKKRRQRRRAHQNSQT−gfp;c=細胞+KKGHAKDSQRYKVDYESQS−gfp;d=細胞+KKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCW−gfp。
【図8】図8A〜図8Cは、実施例8に記載される共アポトーシスアッセイの結果をまとめたグラフを示す。
【図9】図9A〜図9Bは、実施例9に記載される細胞インターナリゼーション実験の結果を示す。
【図10】図10A〜図10Bは、実施例11に記載される抗原性プロファイリング研究の結果を示す。
【図11】図11A〜図11Cは、IGFBP−3およびMDB2の両方の共アポトーシス活性に関するIGF非依存性を確認する実験の結果を要約する。
【図12】図12A〜図12Bは、MDB2の共アポトーシス活性がインテグリン依存性であることを示す実験の結果を要約する。
【図13】図13A〜図13Bは、MDB2の共アポトーシス活性が配列特異的であることを示す実験の結果を要約する。
【図14】図14A〜図14Bは、IGFBP−3がbax−α発現を刺激すること、およびこのbax−α発現がカスパーゼ−3活性に関連することを示す実験の結果を示す。
【図15】図15は、MDBペプチドの共アポトーシス活性がPI3K/ILKに依存性であるが、MAPK、シグナル伝達経路に非依存性であることを示す実験の結果を要約する。
【図16】図16A〜図16Bは、MDBペプチドが細胞障害性化学療法剤の用量を低下させるように癌細胞を感作することを示す実験の結果を要約する。
【図17】図17は、実施例19に記載される実験の結果を要約する。白四角は、生理食塩水中でインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;白丸は、塩化第一鉄と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;黒丸は、IGF−Iおよび塩化第一鉄と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す;白菱形は、塩化亜鉛と共にインキュベートされたIGFBP−3に由来するデータを示す。
【図18】図18は、実施例20に記載される実験の結果を要約する。実施例20は、核トランスロケーションにおける特定の金属とのMBD−GFP32のプレインキュベートの効果を測定する。各々のバーは、3回測定の平均を示す。
【図19】図19は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドの核トランスロケーションにおけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。各々のバーは、3つのプレートの平均を示す。
【図20】図20は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドのα5インテグリンとの関連におけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。クロルプロマジンで処理された細胞に由来するデータは、白菱形で示されている。ナイスタチンで処理された細胞に由来するデータは、白丸で示されている。コントロール(未処理)細胞に由来するデータは、白四角で示されている。
【図21】図21は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、MBDペプチドのトランスフェリンレセプターとの関連におけるナイスタチンおよびクロルプロマジンの効果を測定する。クロルプロマジンで処理された細胞に由来するデータは、白菱形で示されている。ナイスタチンで処理された細胞に由来するデータは、白丸で示されている。コントロール(未処理)細胞に由来するデータは、白四角で示されている。
【図22】図22は、MBD−GFP結合体の分布を研究する実験の結果を要約する。各組織について、データは、左から右へ、生理食塩水、MBD−GFP−32、およびMBD−GFP37について示されている。各々のバーは、3匹の動物からの測定の平均を示す。
【図23】図23は、mMBD7で前処理の18日後にMBD−GFP結合体の分布を研究する実験の結果を要約する。各組織について、データは、左から右へ、生理食塩水、MBD−GFP−32、およびMBD−GFP37について示されている。各々のバーは、3匹の動物からの測定の平均を示す。
【図24】図24は、実施例21に記載される実験の結果を要約する。実施例21は、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を複合体化されたビオチン化ペプチドMBD9、MBD20およびMBD21の核トランスロケーションを測定する。カラム1は、コントロール(ペプチドなし)からの結果を示す;カラム2は、MBD9/HRP結合体からの結果を示す;カラム3は、MBD20/HRPからの結果を示す;カラム4は、MBD21/HRP結合体からの結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGF結合タンパク質由来のペプチドを含む組成物であって、ここで、該ペプチドは、重量基準で、全長の成熟IGF結合タンパク質と同等またはそれより大きい程度の生物学的特性を示し、該生物学的特性は、細胞インターナリゼーションであり、該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、カベオリンコンセンサス結合部位をさらに含む、組成物。
【請求項2】
前記IGF結合タンパク質由来のペプチドは、QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGからなる群より選択される配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
心臓障害、血管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、脳障害、および腎臓障害からなる群より選択される障害の処置のための医薬の製造のための、IGF結合タンパク質由来のペプチドを含む組成物の使用であって、ここで該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、重量基準で、全長の成熟IGF結合タンパク質と同等またはそれより大きい程度の生物学的特性を示し、該生物学的特性は、細胞インターナリゼーションであり、該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、カベオリンコンセンサス結合部位をさらに含む、使用。
【請求項4】
前記IGF結合タンパク質由来のペプチドは、QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGからなる群より選択される配列を含む、請求項3に記載の使用。
【請求項1】
IGF結合タンパク質由来のペプチドを含む組成物であって、ここで、該ペプチドは、重量基準で、全長の成熟IGF結合タンパク質と同等またはそれより大きい程度の生物学的特性を示し、該生物学的特性は、細胞インターナリゼーションであり、該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、カベオリンコンセンサス結合部位をさらに含む、組成物。
【請求項2】
前記IGF結合タンパク質由来のペプチドは、QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGからなる群より選択される配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
心臓障害、血管障害、筋肉障害、免疫障害、肝臓障害、脳障害、および腎臓障害からなる群より選択される障害の処置のための医薬の製造のための、IGF結合タンパク質由来のペプチドを含む組成物の使用であって、ここで該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、重量基準で、全長の成熟IGF結合タンパク質と同等またはそれより大きい程度の生物学的特性を示し、該生物学的特性は、細胞インターナリゼーションであり、該IGF結合タンパク質由来のペプチドは、カベオリンコンセンサス結合部位をさらに含む、使用。
【請求項4】
前記IGF結合タンパク質由来のペプチドは、QCRPSKGRKRGFCWAVDKYGおよびKKGFYKKKQCRPSKGRKRGFCWAVDKYGからなる群より選択される配列を含む、請求項3に記載の使用。
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2007−524588(P2007−524588A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506946(P2006−506946)
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/007019
【国際公開番号】WO2004/080405
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(504107465)バイオエキスパータイズ, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/007019
【国際公開番号】WO2004/080405
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(504107465)バイオエキスパータイズ, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
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