説明

II−III−V化合物半導体

【課題】新規のII−III−V化合物半導体を提供する。
【解決手段】本願は、Zn−(II)−III−Nにて示される新規の化合物半導体の形態の新たな組成物を提供する。このとき、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つ以上の元素であり、上記(II)は、任意の元素であって、周期表のII族に属する1つ以上の元素である。上記化合物半導体の例としては、ZnGaN、ZnInN、ZnInGaN、ZnAlN、ZnAlGaN、ZnAlInN、および、ZnAlGaInNを挙げることができる。このタイプの化合物半導体は、従来、知られていないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機の化合物半導体材料の分野における新たな組成物に関する。特に、II−III−Vのタイプの新たな化合物半導体ファミリーが、初めて製造された。なお、当該新たな化合物半導体ファミリーでは、1つ以上の構成成分が周期表のII族に属する元素であり、1つ以上の構成成分が周期表のIII族に属する元素であり、かつ、1つ以上の構成成分が周期表のV族に属する元素である。
【背景技術】
【0002】
このような材料は、幅広い用途(例えば、太陽電池、発光ダイオード、発光型ELディスプレイまたはバイオイメージング)に用いられ得る。
【0003】
化合物半導体とは、周期表における2つ以上の族に由来する元素によって構成されている半導体材料を意図する。これらの元素は、2元化合物(binary:2つの元素)、3元化合物(ternary:3つの元素)、4元化合物(quaternary:4つの元素)または5元化合物(penternary:5つの元素)を形成し得る。最も一般的な化合物半導体の群は、III−V(例えば、GaAs、AlGaAs、GaN、GaInP)およびII−VI(例えば、ZnS、CdTe、ZnO)である。しかしながら、他の多くの化合物半導体の群(例えば、I−VII、IV−VI、V−VI、II−Vなど)が研究されている。周知の無機半導体の基本的なデータに関する総合的な情報が、非特許文献1に記載されている。
【0004】
III−V半導体は多数存在する。III−V半導体のなかの最も興味深いクラスの1つは、III−窒化物(III-nitrides)(例えば、AlN、GaN、InN、および、各々の合金)である。これらは、青色発光ダイオード、レーザーダイオード、および、パワーエレクトロニックデバイスの製造に用いられる。窒化物は、化学的に不活性であり、放射線に対して耐性を有している。窒化物は、また、大きな破壊電界(large breakdown fields)、高い熱伝導率、および、大きな高電界電子ドリフト移動度(large high-field electron drift mobilities)を有している。それ故に、窒化物は、腐食をまねく環境下において高出力を必要とする用途に適している(例えば、Neumayer at. al., Chem., Mater., 1996, 8, 25参照)。窒化アルミニウムのバンドギャップ(6.2eV)、窒化ガリウムのバンドギャップ(3.5eV)および窒化インジウムのバンドギャップ(0.7eV)(非特許文献2参照)は、窒化物が、電磁スペクトルの紫外領域、可視領域および赤外領域の大半に及ぶことを示している。
【0005】
II−V化合物半導体(例えば、ZnNおよびZnAs)も周知である(例えば、非特許文献3、および、非特許文献4参照)。しかしながら、これらの2成分のII−V化合物へIII族に属する元素を加えることは知られていない。また、III−IV−V半導体(例えば、SiGaAs)は、薄膜状のものとしては報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
固−液GaN/ZnOナノ粒子が報告されており(非特許文献5)、当該固−液GaN/ZnOナノ粒子は、結晶状の固体として、GaNとZnOとを組み合わせることによって形成されている。GaNに対するZnOの割合は、GaZnO前駆体の窒化物形成時間を変えることによって制御される。
【0007】
T.Suskiらは、非特許文献6で、マグネシウムを含む液状のガリウム溶解物中において、窒素溶液から、高圧および高温にてGaMgNを成長させることを提案している。
【0008】
特許文献2は、一言だけ「p−ZnGaAs電極層」を有する半導体成分について言及しているが、当該半導体成分の製造方法については何一つ開示していない。電極層に関する他の全ての文献は、「p−InGaAs」について言及している。
【0009】
特許文献3は、超格子アバランシェフォトダイオードを提案している。当該文献は、上記フォトダイオードの層構造が「p−ZnGaAs」フィルムを含んでいることを開示しているが、当該フィルムの製造方法については何一つ詳細を開示していない。
【0010】
特許文献4は、AlGaAsシステム中に作製された半導体レーザーを提案している。当該技術では、拡散領域を形成するために亜鉛をドーピングしている。
【0011】
特許文献5は、異なるイオンが表面に向かって移動する速度(rate)または表面から離れるように移動する速度(rate)を異ならせるように電流を加えることによって、三成分半導体合金中に接合部を形成すると同時に、表面を不動態化させる方法を提案している。可能な化合物のリストの中にはHgGaAsが含まれている。しかしながら、当該文献は、HgGaAsの製造方法については何一つ開示していない。
【0012】
特許文献6は、一般式A2x+yにて示される半導体を提案しており、ここで、Aは、II族に属する元素を示し、Bは、IV族に属する元素を示し、Cは、III族に属する元素を示し、xは、0<x≦1であり、yは、0≦y<1である。当該化合物はIV族に属する元素を含んでいる必要がある。その理由は、IV族に属する元素(B)のモル分率(x)は、ゼロではないからである。
【0013】
特許文献7は、ZnO単結晶を製造する方法を提案している。当該製造方法では、窒素原子(p−タイプのドーパントとして)およびガリウム原子(n−タイプのドーパントとして)と共に、亜鉛原子および酸素原子を、成長チェンバーへ供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US4213781
【特許文献2】JP06−077605
【特許文献3】JP04−152579
【特許文献4】JP01−239983
【特許文献5】US4,454,008
【特許文献6】JP−7−249821
【特許文献7】US6,527,858
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconductors:Data Handbook by Madelung, Springer-Verlag press; 3rd ed. edition(Nov 2003)
【非特許文献2】Gillan et. al., J. Mater. Chem., 2006, 38, 3774
【非特許文献3】Paniconi et al. J. Solid State Chem 181 (2008) 158-165
【非特許文献4】Chelluri et al. APL 49 24 (1986) 1665-1667
【非特許文献5】Han et al. APL. 96,(2010)183112
【非特許文献6】(GaMg)N new semiconductor grown at high pressure of nitrogen” Journal of Crystal Growth Vol 207,pp27-29 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、新規のII−III−V化合物半導体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、一般式II−III−Nにて示される半導体材料であって、上記IIは、周期表のII族に属する1つ以上の元素であり、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つ以上の元素であり、上記Nは、窒素であり、上記周期表のII族に属する1つ以上の元素には、亜鉛が含まれている半導体材料である。
【0018】
本発明は、一般式Zn−(II)−III−Nにて示される化合物半導体の形態の新規な組成物を提供する。なお、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つ以上の元素であり、上記(II)は、周期表のII族に属する任意の更なる1つ以上の元素である。上記材料が、II族に属する元素として唯一亜鉛のみを含む場合には、当該材料の一般式は、一般式Zn−III−Nと記載され得る。一般式Zn−(II)−III−Nまたは一般式Zn−III−Nにて示される化合物半導体が、これまでに、製造または研究がなされていたことは知られていない。
【0019】
上述したように、II族に属する元素(例えば、Mg)またはIV族に属する元素(例えば、Si)を用いたIII−V半導体のドーピングは、当該III−V半導体の伝導率を変化させるために一般的に用いられる。一般的にIII−V半導体をドーピングするために必要な、極微量のII族に属する元素は、II−III−V化合物を形成しない(例えば、Pankove et al. J.Appl. Phys. 45, 3, (1974) 1280-1286参照)。
【0020】
「Semiconductor Materials(ISBN-08493-8912-7)」という本の第5頁および第6頁において、Bergerは、論理的に可能な3成分の化合物半導体のリストを挙げており、II−III−Vは、当該リストに含まれている。しかしながら、Bergerは、3成分の化合物の特定の例を大量に挙げるのみであって、何れの特定のII−III−V化合物についても、製造した例を示していない。
【0021】
III−V半導体ナノ結晶の分野では、ABC半導体ナノ結晶の製造について述べられている(US7399429B2 パラグラフ5)。なお、上記Aは、II族、III族またはIV族に属する元素であり、上記Bは、II族、III族またはIV族に属する元素であり、上記Cは、V族またはVI族に属する元素である。しかしながら、II−III−V化合物のナノ粒子を実際に製造したという事実は、報告されたことは無く、明確に提案されたことも無い。
【0022】
上述したように、Hanらによって、固−液GaN/ZnOナノ粒子が報告されている。しかしながら、ZnNまたはZnGaNのナノ結晶を製造したことについては報告されていない。
【0023】
III−V窒化物半導体ナノ結晶の分野については、UK patent application 0901225.3にて、ナノ結晶を合成する間に亜鉛前駆体が用いられる、発光性の窒化物ナノ結晶が開示されている。当該文献は、Zn−III−N化合物を製造したという事実を示していないし、記載してもいない。
【0024】
Zn−(II)−III−N化合物半導体の例としては、ZnGaN、ZnInN、ZnInGaN、ZnAlN、ZnAlGaN、ZnAlInN、ZnAlGaInN, MgInNおよびZnGaPを挙げることが可能である。従来技術では、現在までにZn−(II)−III−N化合物半導体が製造されたという事実は無い。
【0025】
より具体的には、本発明の化合物半導体は、一般式Znx1(IIax2IIbx3IIcx4)IIIax5IIIbx6IIIcx7Nにて示される。ここで、Znは、亜鉛であり、IIa、IIbおよびIIcは、任意の成分であるとともに、II族に属する亜鉛以外の異なる元素であり、IIIa、IIIb、IIIc・・・は、III族に属する、異なる元素であり、x1、x2、x3、x4・・・の数は、合金における各元素の相対量を示しているとともに、化学量論と電荷とのバランスをとるように設定されている。しかしながら、便宜上、x1、x2、x3、x4・・・の数は、本明細書中に記載されている一般式において、通常は省略されている。
【0026】
上記材料は、少なくとも1体積%の亜鉛を含み得る。本発明のZn−(II)−III−N化合物では、亜鉛、II族に属するあらゆる他の元素(存在する場合)、III族に属する元素、および、窒素の各々が、化合物の結晶構造中に組み込まれている。例えば、本発明のZnInN化合物またはMgInN化合物では、Zn原子またはMg原子、In原子、および、N原子が、ZnInN結晶構造中に規則的に配列されている。対照的に、III−V化合物中のドーパントとしてII族に属する元素(例えば、Mg)が用いられる従来技術では、II族に属する元素は、極めて微量(III族に属する元素の量またはV族に属する元素の量と比較して)しか存在せず、II族に属する元素は、III−V化合物の結晶構造中に適切に取り込まれない。それ故に、結果的に形成されるものは、少量のII族に属する元素を不純物として含むIII−V化合物である。一般的な法則として、本発明のZn−(II)−III−N材料またはZn−III−N材料は、II族に属する元素、III族に属する元素、および、V族に属する元素の各々を、少なくとも1体積%(1% by volume)含むが、II族に属する元素をIII−V化合物中のドーパントとして用いる場合には、当該化合物中には、1体積%未満のII族に属する元素が含まれている。
【0027】
上記半導体材料としては特に限定されないが、例えば、ZnGaN、ZnInN、ZnAlNおよびZnGaInNを挙げることが可能である。
【0028】
上記半導体材料は、結晶構造、多結晶構造またはアモルファス構造を有し得る。
【0029】
上記半導体材料は、発光性であり得る。
【0030】
上記半導体材料は、少なくとも1つのドーパント材料を含むように、意図的にドーピングされ得る。用いられるドーパントに応じて、pタイプのドーパント材料にてドーピングされた半導体材料またはnタイプのドーパント材料にてドーピングされた半導体材料の何れかを実現することが可能である。上記半導体材料は意図的にドーピングされなくてもよく、この場合には、半絶縁性材料(semi-insulating material)となる。
【0031】
上記ドーパントは、ケイ素、マグネシウム、炭素、ベリリウム、カルシウム、ゲルマニウム、スズおよび鉛からなる群より選択され得る。
【0032】
本発明の第2の態様は、第1の態様の半導体材料を含む半導体ナノ粒子である。用語「ナノ粒子」は、少なくとも1つの次元の寸法がナノスケールの寸法である粒子を意図する。なお、当該ナノスケールの寸法とは、例えば、1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜30nmである。好ましい実施形態では、本発明のナノ粒子は、3つの次元の寸法がナノスケールの寸法であり、当該寸法は、例えば1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜30nmである。本発明のナノ粒子は、結晶構造または多結晶構造を有してナノ結晶を形成するか、または、アモルファス構造を有し得る。
【0033】
本発明の第3の態様は、第1の態様の半導体材料を含む半導体薄膜である。
【0034】
本発明の第4の態様は、Zn−(II)−III−N化合物によって構成されている半導体材料の製造方法であって、当該製造方法は、亜鉛の少なくとも1つの供給源と、III族に属する元素の少なくとも1つの供給源と、窒素の少なくとも1つの供給源と、を反応させる工程を有している(上記半導体材料が、亜鉛に加えて、II族に属する1つ以上の別の元素を含んでいる場合には、亜鉛の供給源、および、II族に属する1つ以上の別の元素の供給源が必要である)。
【0035】
上記製造方法は、亜鉛の少なくとも1つの供給源と、III族に属する元素の少なくとも1つの供給源と、窒素の少なくとも1つの供給源とを、溶媒中で反応させる工程を含み得る。
【0036】
上記亜鉛の少なくとも1つの供給源は、カルボン酸亜鉛を含み得る。
【0037】
Zn−(II)−III−N化合物における亜鉛を供給するための初発材料としてカルボン酸塩(例えば、ステアリン酸塩)を使用すれば、発光性のZn−(II)−III−N材料が効果的に得られること、特に、発光性のナノ結晶が効果的に得られることが見出された。
【0038】
上記窒素の少なくとも1つの供給源は、アミド(例えば、ナトリウムアミド)を含み得る。窒素の供給源としてアミドを用いるとともに、亜鉛の供給源としてカルボン酸塩(例えば、ステアリン酸塩)を用いれば、Zn−(II)−III−N化合物のナノ結晶を作製する場合に、特に有利である。その理由は、ステアリン酸塩は、アミドが反応混合物中へ溶解することを助けて、より均一な溶液を形成させ、当該均一な溶液は、より制御されたナノ結晶の成長を可能にすると考えられているからである。しかしながら、本発明では、II族に属する元素の供給源は、カルボン酸塩に限定されず、別の供給源(例えば、アミン、アセト酢酸、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、チオカルバメート、チオレート)を用いることも可能である。
【0039】
本発明のZn−(II)−III−N化合物またはZn−III−N化合物は、潜在的に多くの用途を有している。半導体のバンドギャップエネルギーまたはエネルギーギャップは、半導体材料の価電子帯と伝導帯との間の、室温における最小のエネルギーギャップとして規定される。本発明は、エネルギーギャップがどこでも0.6eV〜6.2eVである、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体の形成を可能にする。所望のバンドギャップエネルギーは、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体の所望の用途に依存するが、本発明の重要な用途の1つは、0.6eV〜4.0eVのエネルギーバンドギャップを有する化合物を製造することである。当該エネルギーバンドギャップの範囲は、非常に高い性能を有する太陽電池中に用いられて太陽光スペクトルの略全部を吸収する材料に対して要求される範囲である。
【0040】
より詳細には、Zn−(II)−III−N化合物半導体は、以下の合金材料を含み得る。つまり、
・亜鉛(周期表のII族に属する元素);
・任意で、周期表のII族に属する、亜鉛とは異なる1つ以上の元素;
・周期表のIII族に属する1つ以上の元素(例えば、Ga、In、Al、B、Tl);および、
・窒素(周期表のV族に属する1つ以上の元素)。
【0041】
Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体は、基板の上に堆積された、1つまたは複数の薄膜の形態にて存在し得る。
【0042】
上述した形態とは別に、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体は、ナノ粒子(例えば、ナノメートルの寸法を有するナノ結晶)の形態にて存在し得る。
【0043】
本発明の別の重要な用途としては、発光性のZn−(II)−III−N化合物半導体または発光性のZn−III−N化合物半導体の製造が期待される(例えば、発光性のZn−(II)−III−N半導体ナノ粒子、発光性のZn−(II)−III−N半導体ナノ結晶、発光性のZn−III−N半導体ナノ粒子、または、発光性のZn−III−Nナノ結晶)。
【0044】
「発光性」材料とは、適切な光源からの照射を受けた時に光を放射する材料を意図する。材料が発光性であることの1つの基準は、「フォトルミネッセンス量子収量(photoluminescence quantum yield:PLQY)」である。半導体材料のPLQYとは、材料に光ルミネセンスを生じさせるために光源にて材料を照らした場合の、材料によって吸収される光子の数に対する材料によって放射される光子の数の比率を意図する。(用語「フォトルミネッセンス量子収量」と、従来しばしば用いられていた用語「フォトルミネッセンス量子効率(photoluminescence quantum efficiency)」とを混同すべきではない。「フォトルミネッセンス量子効率」は、材料によって吸収および放射された光子のエネルギーを考慮している。励起波長と放射波長とが似ている場合には、フォトルミネッセンス量子収量とフォトルミネッセンス量子効率とは、似た値を有している。放射波長よりも励起波長の方が短く、それ故に、放射波長よりも励起波長の方がエネルギーが高い場合、フォトルミネッセンス量子効率は、フォトルミネッセンス量子収量よりも低い。)。この用途を目的とした場合、「発光性」材料は、1%以上のPLQYを有する材料である。
【0045】
本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、特に電磁スペクトルの可視領域において、顕著なルミネセンス特性を有している。後述するように、Zn−(II)−III−N半導体ナノ結晶またはZn−III−N半導体ナノ結晶は、容易に10%よりも大きなPLQY値を示し、ZnAlNナノ結晶の場合には、55%のPLQY値を示すように製造される。
【0046】
本発明は、光電子装置(例えば、太陽電池、発光ダイオード、レーザーダイオード、LEDやELディスプレイのための発光性リン光体材料)の構成として有用である。
【発明の効果】
【0047】
本願は、Zn−(II)−III−Nにて示される新規の化合物半導体の形態の新たな組成物を提供する。このとき、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つ以上の元素であり、上記(II)は、任意の元素であって、周期表のII族に属する1つ以上の元素である。上記化合物半導体の例としては、ZnGaN、ZnInN、ZnInGaN、ZnAlN、ZnAlGaN、ZnAlInN、および、ZnAlGaInNを挙げることができる。このタイプの化合物半導体は、従来、知られていないものである。
【0048】
新規のZn−(II)−III−N化合物半導体材料の組成は、そのバンドギャップおよび発光特性を調整するために、調節され得る。紫外−可視−赤外の波長領域に及ぶ効果的な光の放射が実現される。
【0049】
本発明は、光電子デバイス(例えば、太陽電池、発光ダイオード、レーザーダイオード)の構成として、また、LEDおよび発光型ELディスプレイの発光性のリン光体(phosphor)材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】1つの反応において異なる反応時間に得られた亜鉛ガリウム窒化物ナノ結晶の、一連のPL発光スペクトルを示している。
【図2】ガリウム:亜鉛のモル比が、3:1、1:1、1:3であるZnGaNナノ結晶の、室温におけるPL発光スペクトルを示している。
【図3】異なる反応時間および異なる亜鉛対ガリウム比にて得られるZnGaNナノ結晶の、PL発光波長のピークの変化を示している。
【図4】1つの反応において異なる反応時間に得られた、一連の亜鉛インジウム窒化物ナノ結晶の、PL発光スペクトルを示している。
【図5】異なる反応時間および異なる亜鉛対インジウム比にて得られるZnInNナノ結晶の、PL発光波長のピークの変化を示している。
【図6】1つの反応において異なる反応時間に得られた、一連の亜鉛アルミニウム窒化物ナノ結晶の、室温におけるPL発光スペクトルを示している。
【図7】(a)および(b)は、本発明の方法によって得られたZnAlNナノ粒子の、透過電子顕微鏡の像である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、新規な半導体化合物に関する。より具体的には、本発明は、一般式IIIIIにて示される新規な化合物半導体に関し、ここで、上記IIは、周期表のII族に属する1つまたは複数の元素であり、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つまたは複数の元素であり、上記周期表のII族に属する1つの元素は亜鉛(Zn)であるか又は上記周期表のII族に属する複数(1つよりも多い)の元素のうちの1つが亜鉛(Zn)であり、x、yおよびzは、化学量論と電荷とのバランスをとるために必要な正の整数である。
【0052】
好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、基板上に形成された1つ以上の薄膜の形態にて存在し得る。
【0053】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、複数のナノ結晶の形態にて存在し得る。
【0054】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、粉末の形態にて存在し得る。
【0055】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、あらゆる形、または、あらゆるサイズにて存在し得る。
【0056】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、単結晶材料の形態にて存在し得る。
【0057】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、多結晶材料の形態にて存在し得る。
【0058】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体材料またはZn−III−N半導体材料は、アモルファス材料の形態にて存在し得る。
【0059】
別の好ましい実施形態では、本発明の半導体材料は、亜鉛、ガリウムおよび窒化物からなっている。当該合金材料は、Zn:Gaの比に依存して、1.0eV〜3.4eVのエネルギーギャップを有しており、当該エネルギーギャップは、可視スペクトル領域を横断している。
【0060】
別の好ましい実施形態では、本発明の半導体材料は、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、窒化物からなっている。当該材料は、正確に組成に依存して、0.6eV〜4.0eVのエネルギーギャップを有しており、当該エネルギーギャップは、太陽のスペクトル領域を横断している。
【0061】
別の好ましい実施形態では、本発明の半導体材料は、亜鉛、アルミニウム、窒化物からなっている。当該合金材料は、6.2eVまでの幅広いエネルギーギャップを実現できるので、電流を遮断する用途に適している。
【0062】
別の好ましい実施形態では、本発明の半導体材料は、亜鉛、インジウム、窒化物からなっている。当該合金材料は、0.6eVという小さなエネルギーギャップを実現できるので、電気的に接続する用途に適している。
【0063】
別の好ましい実施形態では、本発明の半導体材料は、1つ以上の不純物元素によってドーピングされ得る。上記不純物元素の例としては、ケイ素、マグネシウム、炭素、ベリリウム、カルシウム、ゲルマニウム、スズおよび鉛を挙げることができる。
【0064】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体またはZn−III−N半導体は、1つ以上の不純物元素が添加され得る。
【0065】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体またはZn−III−N半導体は、p型の伝導性を有し得る。
【0066】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体またはZn−III−N半導体は、n型の伝導性を有し得る。
【0067】
別の好ましい実施形態では、本発明のZn−(II)−III−N半導体またはZn−III−N半導体は、半絶縁性であり得る。
【0068】
本発明の新規な材料の用途は、太陽電池中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0069】
本発明の新規な材料の別の用途は、光起電装置中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0070】
本発明の新規な材料の別の用途は、発光ダイオード中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0071】
本発明の新規な材料の別の用途は、発光デバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0072】
本発明の新規な材料の別の用途は、レーザーダイオードデバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0073】
本発明の新規な材料の別の用途は、レーザー中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0074】
本発明の新規な材料の別の用途は、電子デバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0075】
本発明の新規な材料の別の用途は、トランジスタデバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0076】
本発明の新規な材料の別の用途は、マイクロプロセッサデバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0077】
本発明の新規な材料の別の用途は、増幅デバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0078】
本発明の新規な材料の別の用途は、電力スイッチングデバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0079】
本発明の新規な材料の別の用途は、電力レギュレータデバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0080】
本発明の新規な材料の別の用途は、光検出デバイス中にZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0081】
本発明の新規な材料の別の用途は、光源(例えば、発光ダイオードまたはレーザーダイオード)によって励起される広い面積のイルミネーションパネルを提供するために、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0082】
本発明の新規な材料の別の用途は、蛍光を発するファイバー、ロッド、ワイヤおよび別の形状のものを提供するために、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0083】
本発明の新規な材料の別の用途は、励起状態を形成するために電流を用いることである。なお、上記励起状態は、発光ダイオードが、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体に対して直接的に電気を注入するために、光を放射することによって減衰する。
【0084】
本発明の新規な材料の別の用途は、液晶ディスプレイ中に用いられるバックライトの一部として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0085】
本発明の新規な材料の別の用途は、ディスプレイ中の発光部材(例えば、プラズマディスプレイパネル、電界放出ディスプレイ、または、ブラウン管)として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0086】
本発明の新規な材料の別の用途は、有機発光ダイオード中の発光部材として、Zn−(II)−III−N化合物またはZn−III−N化合物を用いることである。
【0087】
本発明の新規な材料の別の用途は、太陽集光器中の発光部材として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。このとき、太陽集光器によって放射された光は、集められた光を電流へ変換するために用いられる太陽電池へ合わせられる。1つ以上のこのような太陽集光器は、分離された太陽電池に対して各々が合わせられた、様々な波長の光を提供する。
【0088】
本発明の新規な材料の別の用途は、有機太陽電池中または光検知器中の集光部材として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0089】
本発明の新規な材料の別の用途は、色素増感太陽電池中または光検知器中の集光部材として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0090】
本発明の新規な材料の別の用途は、太陽電池内または光検知器内における複数エキシトン生成の工程を介して、1つの光子の吸収から複数のエキシトンを形成するために、Zn−(II)−III−N化合物またはZn−III−N化合物を用いることである。
【0091】
本発明の新規な材料の別の用途は、戦闘中の識別を助けるために、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0092】
本発明の新規な材料の別の用途は、トラッキングおよびマーキングをアサートするために、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0093】
本発明の新規な材料の別の用途は、カウンターフィットインク(counterfeit inks)として、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0094】
本発明の新規な材料の別の用途は、in−vivoおよびin−vitroの両方におけるバイオマーカーとして、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0095】
本発明の新規な材料の別の用途は、光線力学療法へ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0096】
本発明の新規な材料の別の用途は、例えば、癌の診断、フローサイトメトリーまたはイムノアッセイにおけるバイオマーカーとして、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0097】
本発明の新規な材料の別の用途は、フラッシュメモリへ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0098】
本発明の新規な材料の別の用途は、量子計算へ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0099】
本発明の新規な材料の別の用途は、ダイナミックホログラフィーへ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0100】
本発明の新規な材料の別の用途は、熱電素子へ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0101】
本発明の新規な材料の別の用途は、遠隔通信に用いられるデバイスへ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0102】
本発明の新規な材料の別の用途は、あらゆる用途へ、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を用いることである。
【0103】
以下に記載する方法によって、1nm〜100nmのオーダーの三次元寸法を有するナノ粒子、または、1nm〜30nmのオーダーの三次元寸法を有するナノ粒子が効率的に得られることが見出された。得られたナノ粒子のサイズは、あらゆる適切な方法によって決定され得る。例えば、ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)の像を撮り、当該TEM像からナノ粒子のサイズを決定することができる。
【実施例】
【0104】
以下の実施例では、本発明のZn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体の製造方法を、幾つか記載している。しかしながら、本実施例は、Zn−(II)−III−N化合物半導体またはZn−III−N化合物半導体を製造し得る全ての方法を記載しているわけではなく、本発明は、本実施例に限定されない。本発明は、Zn−(II)−III−N半導体またはZn−III−N半導体を製造し得る他の製造方法(例えば、有機金属気相成長法(MOVPE)、化学蒸着(CVD)、スパッタリング、プラズマアシスト真空蒸着、溶液化学合成(solution chemistry synthesis)、パルスレーザー堆積法(PLD)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、凝華、熱分解および凝縮、アニーリング、粉末または金属の窒化物形成、ナノ粒子の噴霧堆積)も含むが、これらに限定されない。
【0105】
フォトルミネッセンス量子収量(PLQY)の測定は、「Analytical Chemistry, Vol. 81, No. 15, 2009, 6285-6294」に記載されている方法を用いて行われ得る。吸光度が0.04〜0.1である、シクロヘキサン中に希釈された窒化物ナノ結晶のサンプルが用いられる。1,4−ジオキサン中のNile red PLQY 70%(Analytical Biochemistry, Vol. 167, 1987, 228-234)が、標準物質として用いられた。
【0106】
実施例は、あくまでも例として示されるものであり、本発明は、これらの実施例に限定されない。例えば、実施例1〜5では、亜鉛の供給源としてカルボン酸塩(特に、ステアリン酸塩)を使用しているが、本発明はこれに限定されず、亜鉛の前駆体(例えば、アミン、アセト酢酸、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、チオカルバメートまたはチオレートなど)も用いられ得る。更に、実施例1〜5では、溶媒として1−オクタデセンまたはジフェニルエーテルを用いているが、本発明は、これら特定の溶媒に限定されない。
【0107】
〔実施例1〕コロイド状のII−III−V(ZnGaN)化合物半導体ナノ結晶サンプル
ヨウ化ガリウム(270mg、0.6mmol)、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、ヘキサデカンチオール(308μL、10mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)および1−オクタデセン(20mL)を250℃まで急速に加熱し、250℃にて維持した。上記反応において、ヨウ化ガリウムは、III族に属する金属(ガリウム)を供給し、ナトリウムアミドは、V族に属する原子(窒素)を供給し、ヘキサデカンチオールは、電子供与基を有するキャッピング試薬として機能し、ステアリン酸亜鉛は、II族に属する金属(亜鉛)を供給し、1−オクタデセンは、溶媒として機能する。60分間の反応時間の間に、反応混合物の一部からなるサンプルを複数個分取した(1サンプルあたり、0.25mL)。トルエン(3mL)を用いて上記サンプルを希釈した後、遠心分離によって、不溶性物質を除去した。得られた透明の溶液について、発光分光(emission spectroscopy)を解析したところ、図1に示すように、反応が進行するにしたがって、450nm−600nmの発光波長のピークが変化した。発光スペクトルのピークは、最大強度の半分における全幅が、100nmのオーダーである。
【0108】
得られたZnGaNナノ粒子は、Ga:Znの比が、略1:1.3であった。
【0109】
このような反応系から回収したサンプルに対してUV光源を用いて光を照射したところ、サンプルが可視領域の光を発しているので、裸眼にて容易に発光を観察することができた。このことは、本発明によって得られたZnGaNが高い量子収量を有していることを示している。
【0110】
これらのサンプルに対応する発光スペクトルを図1に示す。最も左側の発光スペクトル(破線にて示している)は、反応を開始してから2、3分後(当該実施例では、反応を開始してから10分後)に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。最も右側の発光スペクトル(点線にて示している)は、反応を開始してから略1時間後に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。最も左側の発光スペクトルと最も右側の発光スペクトルとの間の発光スペクトルは、複数の中間の時間に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。
【0111】
発光スペクトルのピーク波長が、時間にともなって均一に変化する訳ではないことに注意すべきである。はじめに、発光波長のピークが時間にともなって急激に増加するが、反応が進むにしたがって、発光波長のピークの増加率が減少する。
【0112】
図1から明らかなように、略1時間までの時間に回収したサンプルの発光スペクトルは、青色から橙赤色までの可視領域の大半に広がっている。この反応から回収したサンプルのフォトルミネッセンス量子収量の値を測定したところ、30%よりも高い値であった。
【0113】
同様の合成方法を用いて、幾つかの別の、ナノ結晶の形態のZnGaN化合物を製造した。例えば、異なる量のガリウムと亜鉛とを含む亜鉛ガリウム窒化物の化合物を製造するために、ステアリン酸亜鉛に対するヨウ化ガリウムの比率を変えた。図2に、ガリウムに対する亜鉛の比率を変えて製造したサンプルのPLスペクトルを示す。反応を開始してから略90分後に反応混合物を回収して得たサンプルによって、Ga:Znの比率が3:1であるナノ粒子の発光スペクトルを得た。また、反応を開始してから略90分後に反応混合物を回収して得たサンプルによって、Ga:Znの比率が1:1であるナノ粒子の発光スペクトルを得た。反応を開始してから略20分後に反応混合物を回収して得たサンプルによって、Ga:Znの比率が1:3であるナノ粒子の発光スペクトルを得た。略90分後までに回収したサンプルの発光スペクトルは、紫外線−可視光線−赤外線の領域に広がっていることが見出された。この結果は、合成反応における亜鉛およびガリウムの量を適切に選択することによって、特定の光学特性(例えば、所望の発光波長のピーク)を有するZnGaNを得ることが可能であることを示している。
【0114】
図3は、異なる反応時間と、ガリウムに対する亜鉛の3つの異なる比率とを用いて得られたZnGaNナノ結晶について、PL発光波長のピークの変化を示している。この結果は、特定の光学特性(例えば、所望の発光波長のピーク)を有するナノ結晶が、溶液からナノ結晶を回収する前の反応時間を適切に選択すること、および、合成反応系中の亜鉛およびガリウムの量を適切に選択することによって得られることを示している。一例として、略450nmの発光波長のピーク(青色領域のスペクトル)を有するナノ粒子を製造したいと考えている人は、図3から、実施例1に記載されているようにZnGaNナノ粒子を製造することによって所望のナノ粒子を実現し得ることが理解できる。つまり、ナノ粒子におけるGa:Znの比率が3:1になるように構成成分の量を選択するとともに、反応を開始してから略35分後に反応混合物からサンプルを回収すればよい。
【0115】
反応成分におけるGa:Znの比率を4:1として製造されたZnGaNサンプルでは、フォトルミネッセンス量子収量の値が45%であった。
【0116】
それ故に、本発明は、極めて発光特性が良い亜鉛ガリウム窒化物、または、より一般的に極めて発光特性が良いZn−(II)−III−N化合物半導体ファミリーの製造することを可能にする。
【0117】
カルボン酸亜鉛(例えば、ステアリン酸亜鉛)を亜鉛前駆体(亜鉛を供給するもの)として機能する初発材料として使用すれば、高いPLQYを有し、かつ、ZnをII族の成分として有する発光性II−III−Vナノ結晶を得ることに役立つことが見出された。
【0118】
加えて、ステアリン酸亜鉛は、アミド(本実施例においては、ナトリウムアミド)が反応混合物中へ溶解することを助けて、より均一な溶液を形成させ、当該均一な溶液は、より制御されたナノ結晶の成長を可能にすると考えられている。
【0119】
しかしながら既に述べたように、本発明では、II族に属する元素の前駆体はカルボン酸塩に限定されず、II族に属する元素の前駆体として、別の材料を用いることも可能である。
【0120】
〔実施例2〕コロイド状のII−III−V(ZnInN)半導体ナノ結晶サンプル
ヨウ化インジウム(300mg、0.6mmol)、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、ヘキサデカンチオール(308μL、10mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)およびジフェニルエーテル(20mL)を250℃まで急速に加熱し、当該温度にて維持した。上記反応において、ヨウ化インジウムは、III族に属する金属(インジウム)を供給し、ナトリウムアミドは、V族に属する元素(窒素)を供給し、ヘキサデカンチオールは、電子供与基を有するキャッピング試薬として機能し、ステアリン酸亜鉛は、II族に属する金属(亜鉛)を供給し、ジフェニルエーテルは、溶媒として機能する。60分間の反応時間の間に、反応混合物の一部からなるサンプルを複数個分取した(1サンプルあたり、0.25mL)。シクロヘキサン(3mL)を用いて上記サンプルを希釈した後、遠心分離によって、不溶性物質を除去した。得られた透明の溶液について、PL発光分光(PL emission spectroscopy)を解析したところ、図4に示すように、反応が進行するにしたがって、500nm−850nmの最大発光波長が変化した。(図4の最も左側の発光スペクトルは、反応を開始してから略5分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。他の発光スペクトルは、反応を開始してから略10分後、略15分後、略20分後、略25分後、略35分後および略60分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。)発光スペクトルのピークは、最大強度の半分における全幅が、100nmのオーダーである。
【0121】
このような反応系から回収したサンプルに対してUV光源を用いて光を照射したところ、サンプルが可視領域の光を発しているので、裸眼にて容易に発光を観察することができた。このことは、本発明によって得られたZnInNナノ構造体が高いフォトルミネッセンス量子収量を有していることを示している。この反応系から回収したサンプルのフォトルミネッセンス量子収量を測定したところ、10%の値であった。
【0122】
同様の合成方法を用いて、幾つかの別のZnInN化合物を製造した。例えば、異なる量のインジウムと亜鉛とを含む亜鉛インジウム窒化物の化合物を製造するために、ステアリン酸亜鉛に対するヨウ化インジウムの比率を変えた。図5に、インジウムに対する亜鉛の比率を変えるとともに、反応時間を変えて製造したZnInNナノ結晶における、PL発光波長のピークの変化を示す。当該結果は、合成反応における亜鉛の量とインジウムの量とを適切に選択することによって、特定の光学特性(例えば、所望の発光波長のピーク)を有するZnInNを得ることが可能になることを示している。In:Znの比率を1:4として製造されるZnInNでは、フォトルミネッセンス量子収量の値が30%であった。
【0123】
それ故に、本発明は、極めて発光特性が良い亜鉛インジウム窒化物、または、より一般的に極めて発光特性が良いZn−(II)−III−N化合物半導体ファミリーを製造することを可能にする。
【0124】
〔実施例3〕コロイド状のII−III−V(ZnAlN)半導体ナノ結晶サンプル
ヨウ化アルミニウム(102mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(468mg、12mmol)、ヘキサデカンチオール(259μL、10mmol)、ステアリン酸亜鉛(474mg、0.75mmol)および1−オクタデセン(25mL)を250℃まで急速に加熱し、当該温度にて維持した。上記反応において、ヨウ化アルミニウムは、III族に属する金属(アルミニウム)を供給し、ナトリウムアミドは、V族に属する元素(窒素)を供給し、ヘキサデカンチオールは、電子供与基を有するキャッピング試薬として機能し、ステアリン酸亜鉛は、II族に属する金属(亜鉛)を供給し、1−オクタデセンは、溶媒として機能する。60分間の反応時間の間に、反応混合物の一部からなるサンプルを複数個分取した(1サンプルあたり、0.25mL)。トルエン(3mL)を用いて上記サンプルを希釈した後、遠心分離によって、不溶性物質を除去した。得られた透明の溶液を、吸光光度法および発光分光法によって解析したところ、図5に示すように、反応が進行するにしたがって、420nm−950nmの最大発光波長が変化した。発光スペクトルのピークは、最大強度の半分における全幅が、100nmのオーダーである。
【0125】
このような反応系から回収したサンプルに対してUV光源を用いて光を照射したところ、サンプルが可視領域の光を発しているので、裸眼にて容易に発光を観察することができた。このことは、本発明によって得られたZnAlNナノ構造体が高いフォトルミネッセンス量子収量を有していることを示している。
【0126】
これらのサンプルに対応する発光スペクトルを図6に示す。図6の最も左側の発光スペクトルは、反応を開始してから2、3分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。図6の最も右側の発光スペクトルは、反応を開始してから略60分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。最も左側の発光スペクトルと最も右側の発光スペクトルとの間の発光スペクトルは、複数の中間の時間に回収した反応混合物のサンプルから得られた発光スペクトルである。反応開始後略1時間までの時間に回収したサンプルの発光スペクトルは、紫外領域から可視領域に広がっているとともに、赤外領域にまで及んでいる。この反応系から回収したサンプルのフォトルミネッセンス量子収量を測定したところ、55%の値であった。
【0127】
図7の(a)は、当該実施例に記載の方法によって得られたZnAlNナノ粒子の透過電子顕微鏡の像である。当該ナノ粒子は、略3nmの寸法(dimension)を有している。図7の(a)に示す像は、反応を開始してから略12分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた像である。
【0128】
図7の(b)は、当該実施例に記載の方法によって得られたZnAlNナノ粒子の透過電子顕微鏡の第2の像である。図7の(b)に示す像は、反応を開始してから略60分後に回収した反応混合物のサンプルから得られた像である。図7の(b)に示すナノ粒子は、略5nmの寸法を有しており、図7の(a)に示す略3nmの寸法を有するナノ粒子と比較して大きい。
【0129】
本明細書に記載した方法は、反応時間を長くすることによって、5nmよりも大きな寸法を有するナノ粒子の製造にも用いられ得る。しかしながら、本発明のナノ粒子の多くの用途を考慮すれば、ナノ粒子は、可視領域のスペクトルの光を放射することが好ましく、そのためには、ナノ粒子の寸法は一般的に5nm以下である。5nmよりも大きな寸法を有するナノ粒子は、多くの場合、発光波長のピークが750nm以上である。また、5nmよりも大きな寸法を有するナノ粒子を製造するためには、より長い反応時間を必要とするのみならず、より多くの化学原料を必要とする。
【0130】
それ故に、本発明は、極めて発光特性が良い亜鉛アルミニウム窒化物ナノ結晶、または、より一般的に極めて発光特性が良いZn−III−N化合物半導体ファミリーを製造することを可能にする。
【0131】
〔実施例4〕薄膜であるII−III−V(ZnGaN)半導体サンプル
Zn−(II)−III−N半導体の薄膜を製造するために、分子線エピタキシャル成長法を用いた。具体的に、亜鉛ガリウム窒化物の薄膜を製造するために、以下の方法を用いた。
【0132】
i)ラジオ周波数プラズマセルに由来する、プラズマによって活性化された窒素の分子線を作用させた状態で、分子線エピタキシャル成長法用のチェンバー内で、ガリウム 窒化物である基材を100℃〜500℃へ加熱した。
【0133】
ii)次いで、亜鉛窒化物の薄膜層を形成するために、高温になった基材に対して、プラズマによって活性化された窒素の分子線と、亜鉛金属成分の分子線と、を同時に照射した(当該工程は、任意の工程であって、省略してもよい)。
【0134】
iii)次いで、亜鉛ガリウム窒化物の薄膜層を形成するために、高温になった基材に対して、プラズマによって活性化された窒素の分子線と、亜鉛金属成分の分子線と、ガリウム金属成分の分子線と、を同時に照射した。
【0135】
iv)プラズマによって活性化された窒素の分子線を照射した状態で、上記基材を冷却した。
【0136】
亜鉛窒化物の薄層を形成するii)工程は、任意の工程であって、省略されてもよい。
【0137】
亜鉛インジウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、ガリウム金属成分が、インジウム金属成分に置換される。
【0138】
亜鉛アルミニウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、ガリウム金属成分が、アルミニウム金属成分に置換される。
【0139】
亜鉛インジウムガリウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、亜鉛成分、インジウム成分およびガリウム成分が供給される。
【0140】
亜鉛アルミニウムガリウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、亜鉛成分、アルミニウム成分およびガリウム成分が供給される。
【0141】
亜鉛アルミニウムインジウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、亜鉛成分、アルミニウム成分およびインジウム成分が供給される。
【0142】
亜鉛アルミニウムガリウムインジウム窒化物の薄膜を製造するためには、iii)工程において、亜鉛成分、アルミニウム成分、ガリウム成分およびインジウム成分が供給される。
【0143】
異なるタイプの光電子デバイスおよび電子デバイス(例えば、発光ダイオード、太陽電池、レーザーダイオードおよびトランジスタ)を製造するために、Zn−(II)−III−N半導体材料からなる複数の薄膜を用いることも可能である。
【0144】
上述した実施例は、Zn−III−N材料の製造に関するものであるが、Zn−II−III−N材料を製造するために、同様の方法を用いることが可能である。例えば、ZnMgInNナノ結晶は、初発材料としてステアリン酸マグネシウムとステアリン酸亜鉛との両方を用いることによって、実施例2に記載した方法と同様の方法にて製造され得る。
【0145】
上述した方法と同様の方法によって、別のII−III−V材料を製造することも可能である。例えば、MgInNナノ結晶は、初発材料としてステアリン酸亜鉛の代わりにステアリン酸マグネシウムを用いることを除いて、実施例2に記載の方法と同様の方法によって製造され得る。別の例として、ZnGaPナノ結晶は、ナトリウムアミドをリン原子の供給源(例えば、リン化ナトリウム(NaP))に置換することを除いて、実施例1に記載の方法と同様の方法によって製造され得る。リン原子の別の供給源としては、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンを挙げることができる。
【0146】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、光電子デバイス(例えば、太陽電池、発光ダイオード、レーザーダイオード)の構成として、また、LEDおよび発光型ELディスプレイの発光性のリン光体(phosphor)材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式II−III−Nにて示される半導体材料であって、
上記IIは、周期表のII族に属する1つ以上の元素であり、上記IIIは、周期表のIII族に属する1つ以上の元素であり、上記Nは、窒素であり、
上記周期表のII族に属する1つ以上の元素には、亜鉛が含まれている半導体材料。
【請求項2】
少なくとも1体積%の亜鉛を含んでいる請求項1に記載の半導体材料。
【請求項3】
ZnGaNによって構成されている請求項1または2に記載の半導体材料。
【請求項4】
ZnInNによって構成されている請求項1または2に記載の半導体材料。
【請求項5】
ZnAlNによって構成されている請求項1または2に記載の半導体材料。
【請求項6】
ZnGaInNによって構成されている請求項1または2に記載の半導体材料。
【請求項7】
単結晶構造である請求項1〜6の何れか1項に記載の半導体材料。
【請求項8】
多結晶構造である請求項1〜6の何れか1項に記載の半導体材料。
【請求項9】
アモルファス構造である請求項1〜6の何れか1項に記載の半導体材料。
【請求項10】
光を放射するものである請求項1〜9の何れか1項に記載の半導体材料。
【請求項11】
更に、少なくとも1つのドーパント材料を含んでいる請求項1〜10の何れか1項に記載の半導体材料。
【請求項12】
上記少なくとも1つのドーパント材料は、ケイ素、マグネシウム、炭素、ベリリウム、カルシウム、ゲルマニウム、スズおよび鉛からなる群より選択される請求項11に記載の半導体材料。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の半導体材料を含む半導体ナノ粒子。
【請求項14】
請求項1〜12の何れか1項に記載の半導体材料を含む半導体薄膜。
【請求項15】
一般式II−III−Nにて示される半導体材料の製造方法であって、
亜鉛の少なくとも1つの供給源と、III族に属する元素の少なくとも1つの供給源と、窒素の供給源と、を反応させる工程を有する製造方法。
【請求項16】
上記亜鉛の供給源と、族IIIに属する元素の少なくとも1つの供給源と、窒素の供給源と、を反応させる工程が、溶媒中で行われる請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
上記亜鉛の供給源がカルボン酸亜鉛を含んでいる請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項18】
上記窒素の供給源がアミドを含んでいる請求項15〜17の何れか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−33936(P2012−33936A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165930(P2011−165930)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】