説明

II型コラーゲン産生促進剤

【課題】本発明は、効果的で安全性の高いII型コラーゲン産生促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アカショウマの抽出物を含有することを特徴とする。製剤形態は種々のものが選択できる。投与量は、使用目的、年齢、体重、症状、治療効果等によって異なるが、好ましくは体重1kg当り0.02〜20mg、特に好ましくは、0.1〜10mgである。本発明は、軟骨組織減少の予防・改善を目的とする医薬品、医薬部外品及び食品等に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカショウマの抽出物を含有することを特徴とするII型コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、代表的な微繊維状のタンパク質で、皮膚、骨、軟骨、血管などの結合組織の主成分をなす細胞外マトリックスタンパク質である。哺乳類、特にヒトでは体の総タンパク質の30%近くをコラーゲンが占める。多種類のコラーゲン分子が発見されており、これらは互いに遺伝子が異なる。最も多いI型は、主に皮膚、骨、腱に、II型は軟骨に、III型は血管に、IV型は基底膜に存在する。
【0003】
軟骨は、軟骨細胞と軟骨基質で構成されており、軟骨基質は、高分子のプロテオグリカンとII型コラーゲンから出来ている。II型コラーゲンは、軟骨湿重量の15〜22%、乾燥重量の約80〜90%を占める軟骨の主要構成成分である。コラーゲン線維は、支持体としての役割の他に、軟骨細胞の伸展、増殖及び分化を決定する重要な役割を果たしている。
【0004】
従って、軟骨の若さを保ち健康を維持する上で、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を促進して、加齢などによるコラーゲンの減少を抑えることが望ましい。又、軟骨細胞におけるコラーゲン産生を促進させることは、変形性関節症を予防する上でも有効である。
【0005】
上記に鑑み、軟骨の減少を予防する技術として、豚の皮膚から煮沸抽出したコラーゲンを更に精製抽出したコラーゲン(ゼラチン)を摂取する方法(特許文献1)や、軟骨形成を促進させる技術として、II型コラーゲンの生合成に必要な成分である必須アミノ酸、ビタミンC、鉄、コラーゲン、α−ケトグルタル酸を摂取する方法(特許文献2)がある。又、特許文献3には、ベンゾチエピン誘導体に、特許文献4には、新規ポリペプチドにII型コラーゲン合成促進作用が示されている。
【0006】
しかし、前述した特許文献1及び2は、II型コラーゲンの産生を直接促進するものではない。特許文献3に記載されたベンゾチエピン誘導体は、化学合成による新規な化学物質である。又、特許文献4に記載されたポリペプチドは、遺伝子組み換え微生物を利用した新規なポリペプチドである。従って、何れも長期摂取における安全性に不安があり、又、容易に入手できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開第2005−089435号公報
【特許文献2】特開第2007−161688号公報
【特許文献3】特開第2000−72678号公報
【特許文献4】特開表2002−042448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、直接II型コラーゲン産生を促進するもので、容易に入手することが出来かつ長期摂取が可能な天然物由来の素材の提供を目的とする。
【0009】
本発明に関わるアカショウマとは、ユキノシタ科チケダサシ属の植物で、学名を「Astilbe thunbergii(Sieb. et Zucc.)Miq.Var.thunbergii」という。日本では本州、四国、九州各地の山地に自生する高さ40〜80cmの多年草である。古来より、下熱、解毒、消炎等の目的で漢方として用いられてきた。既に、むくみ予防剤(特許文献5)、血中コレステロール低減剤(特許文献6)、TNF−α産生抑制剤及び一酸化窒素産生抑制剤(特許文献7)等が開示されている。
【0010】
【特許文献5】特開第2010−001279号公報
【特許文献6】特開第2009−102419号公報
【特許文献7】特開第2007−008817号公報
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アカショウマエキスが、II型コラーゲン産生促進効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に関わるアカショウマの抽出物は、アカショウマの根を抽出することによって得られる。抽出に用いるアカショウマは、生及び乾燥物の何れも用いることができる。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出、常温抽出等を適宜選択することができる。又、アカショウマの抽出物は、市販品を用いることもできる。
【0013】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。これらの溶媒は、1種でも2種以上を混合して用いても良い。好ましくは、水、低級アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、含水エタノールである。
【0014】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて濃縮、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭等の処理をして用いても良い。更に、濃縮乾固物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物等として用いることもできる。
【0015】
本発明に関わるII型コラーゲン産生促進剤は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内において、他の成分を配合することもできる。他の成分としては、固体、液体、半固体でも良く、例えば、次のものが挙げられる。すなわち、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤、溶剤等である。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース又はその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、界面活性剤、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、オリーブ油、ワセリン、パラフィン、高級アルコール等である。
【0016】
本発明に用いるII型コラーゲン産生促進剤は、医薬品、医薬部外品及び食品等として用いることができる。製剤形態は、種々のものを選択でき、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤等である。非経口用としては、注射薬、座薬等の剤型が挙げられる。
【0017】
本発明に関わる抽出物の配合量は、製剤形態、使用目的等によって異なるが、通常、乾燥固形分として0.001〜100重量%、好ましくは0.01〜50.0重量%である。本発明に関わる抽出物の1日の投与量は、使用目的、年齢、体重、症状、治療効果等によって異なるが、体重1kg当り0.02〜20mg、特に好ましくは、0.1〜10mgである。製剤への添加法は、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明に関わるII型コラーゲン産生促進剤は、優れたII型コラーゲン産生促進効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は、これに限定されるものではない。実施例に示す配合量の部とは、重量部を示し、%は重量%を示す。
【実施例1】
【0020】
製造例1 アカショウマの熱水抽出物
アカショウマの乾燥根100gに精製水2kgを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して熱水抽出物を5.0g得た。
【0021】
製造例2 アカショウマの50%エタノール抽出物
アカショウマの乾燥根100gに精製水1kg及びエタノール1kgを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して50%エタノール抽出物を4.2g得た。
【0022】
製造例3 アカショウマのエタノール抽出物
アカショウマの乾燥根100gにエタノール2kgを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してエタノール抽出物を3.1g得た。
【実施例2】
【0023】
散剤
処方 配合量(部)
1.アカショウマの熱水抽出物(製造例1) 20
2.乾燥コーンスターチ 30
3.微結晶セルロース 50
[製法]成分1〜3を混合し、散剤とする。
【実施例3】
【0024】
錠剤
処方 配合量(部)
1.アカショウマのエタノール抽出物(製造例3) 1
2.乾燥コーンスターチ 29
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20
4.微結晶セルロース 40
5.ポリビニルピロリドン 7
6.タルク 3
[製法]成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後、乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し、打錠する。1錠0.52gとする。
【実施例4】
【0025】
錠菓
処方 配合量(部)
1.アカショウマの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.5
2.乾燥コーンスターチ 50.0
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.4
6.香料 0.1
[製法]成分1〜4を混合し、全量に対して10%の水を噴霧して流動層造粒する。成形した顆粒に成分5及び6を加えて混合し、打錠する。1粒1.0gとする。
【実施例5】
【0026】
飲料
処方 配合量(部)
1.アカショウマの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水 93.85
[製法]成分1〜4を成分5の一部の精製水に撹拌溶解する。次いで、成分5の残りの精製水を加えて混合し、90℃に加熱して50mLのガラス瓶に充填する。
【0027】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0028】
実験例 アカショウマにおけるII型コラーゲン産生促進効果の確認
軟骨前駆細胞ATDC5をDMEM/F−12(1:1)(GIBCO社製)+5%FBS中に懸濁し、5×10cells/ウェルの濃度にて、12ウェルプレートに播種した。細胞播種2日後、培養液を分化誘導培地(DMEM/F−12(1:1)(GIBCO社製)+5%FBS+1%ITS(GIBCO社製))に置換え、分化を開始した。ITSとは、Insulin−Transferrin−Selenium−GSupplement(100×)のことである。分化開始7日目に無血清のDMEM/F−12(1:1)培地に交換し、水溶性アカショウマエキス(ビーエイチエヌ社製)を添加した。水溶性アカショウマエキスとは、アカショウマの50%エタノール抽出物から、水不溶性の成分を除去したエキスである。比較として、変形性関節症に対する効果が確認されているSAMe、及びI型コラーゲンの産生促進効果が認められているコラーゲントリペプチド(ゼライス社製)の添加群を設けた。試料添加24時間後、TRIZOL(Invitrogen社製)を用いて総RNAを抽出し、総RNAを基に、RT−PCR法によりII型コラーゲンmRNAの発現量を測定した。RT−PCR法には、SuperScriptIII Platinum Two−Step qRT−PCR Kit with SYBR Green(Invitrogen社製)を用いた。II型コラーゲンmRNAの発現量は、GAPDHの発現量にて規格化し、比較を行った。尚、各遺伝子の発現の測定に使用したプライマーは、次の通りである。
【0029】
II型コラーゲン用のプライマーセット
GAGCAGCAAGAGCAAGGAAAA (配列番号1)
TCGCCATAGCTGAAGTGGAA (配列番号2)
GAPDH用のプライマーセット
TGGAGAAACCTGCCAAGTATG (配列番号3)
CCCTCAGATGCCTGCTTCA (配列番号4)
【0030】
定量化は、ΔΔCt法にて行い、試料未添加時のII型コラーゲンmRNA発現量に対するアカショウマエキス添加時のII型コラーゲンmRNA発現量を算出した。表1に示す通り、アカショウマエキスを添加することにより、軟骨前駆細胞ATDC5におけるII型コラーゲンmRNA発現の上昇が認められた。II型コラーゲンmRNAの発現は、添加するアカショウマエキスの濃度に依存しており、未添加時と比較して、30μg/mL添加時には約1.6倍の発現上昇が認められた。又、変形性関節症改善物質として既知であるSAMeや線維芽細胞にてI型コラーゲンの産生促進効果が認められているコラーゲントリペプチドよりも効果が高く、アカショウマエキスが、II型コラーゲン産生促進剤として極めて優れることが判明した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に関わるアカショウマの抽出物を含有することを特徴とするII型コラーゲン産生促進剤は、各剤の目的に対して優れた改善効果を発揮する。よって、軟骨組織減少の予防・改善を目的とする医薬品、医薬部外品及び食品等に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカショウマの抽出物を含有することを特徴とするII型コラーゲン産生促進剤。



【公開番号】特開2011−213694(P2011−213694A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85960(P2010−85960)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】