説明

III族窒化物半導体とその製造方法

【課題】III族窒化物半導体の転位密度の更なる低減と同時に特に自立基板製造時のケミカルリフトオフ所要時間の大幅な短縮が可能な手法を提供する。
【解決手段】サファイア、SiC、Siのいずれかからなる基板上にAlN単結晶層を0.1μm以上10μm以下の厚みで形成したAlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の上に金属層を成膜する工程と、該金属層をアンモニア混合ガス雰囲気で加熱窒化処理を行ない、略三角錐ないし三角台形状の複数の微結晶を有する金属窒化物層を形成する工程と、該金属窒化層上にIII族窒化物半導体層を成膜する工程を有することを特徴とするIII族窒化物半導体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転位密度が低減されたIII族窒化物半導体とその製造方法に関し、更に、下地基板から分離されたIII族窒化物自立基板に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、発光デバイス及び電子デバイスなどを製造する為の材料として実用化がなされ、さらには従来の半導体材料でカバーできなかった領域への適用などで注目されている。
【0003】
それらのデバイスを製造するにあたり、通常基板結晶上にIII族窒化物半導体層のエピタキシャル成長を実施している。SiやGaAsなどの場合、前記基板結晶として大口径で低欠陥密度なウエハが工業的に製造されており、格子整合系のデバイス製造がなされている。しかしながらIII族窒化物半導体の場合、良質で安価なホモエピタキシャル用基板が存在しない為、通常サファイア基板など格子定数や熱膨張係数などが異なる異種基板で代用せざるをえないのが現状である。その為、サファイア基板上に成長したIII族窒化物半導体結晶には通常転位密度で109乃至1010/cm2程度導入されてしまう。
【0004】
青色LED(Light Emitting Diode)の場合、特異的に前記高転位密度な状況下においても高効率な発光が実現されているが、この場合発光層中のInの組成揺らぎが幸いしている事が判明している。しかしながら次世代DVD用光源として用いらる発光波長405nmの青紫レーザにおいては前記LEDに比べ桁違いに高い電流注入密度で動作させる為、発光ストライプ中に存在し非発光中心となる転位が増殖してしまい、発光効率が急速に低下してしまうという寿命劣化問題がある。また、紫外領域の発光素子においては混晶組成の都合上Inの添加量に制限があり、短波長素子ほど非発光中心となる転位による効率・寿命低下の問題が生じている。さらに、バイポーラ型の電子デバイス素子においても転位の存在でリーク電流の増加や素子特性の劣化などが問題となっている。したがって、転位密度の低減が大きな課題となっている(非特許文献1)。
【0005】
一方、前記各種デバイスの特性向上、例えば高出力化の為には放熱性の向上などをはかる必要がある。特に照明用途や車のヘッドランプ用途のLEDや高周波・ハイパワーデバイスにおいては今後の重要検討課題となる。すなわち動作部での効率を向上し発熱量を低減すると伴に、生じる発熱は効率良く放散させる必要がある。前者に対しては結晶欠陥の低減や素子構造の適正化、後者に対しては同じく素子構造の適正化や下地基板の研削による薄片化、低熱伝導率な基板から結晶層を分離して高熱伝導率な基板に移し変える、あるいは熱伝導率の高い基板を用いるなどの対策がある。
【0006】
代表的な半導体用基板材料の室温付近での熱伝導率は、150W/mK(Si)、50W/mK(GaAs)、
42W/mK(サファイア)、450W/mK(SiC)であり、通常III族窒化物半導体として用いるサファイア基板は熱伝導率が低い為、前記の対策としてレーザリフトオフ法でサファイア基板から成長した結晶層を分離する方法が提案されている。また、熱伝導率の良好なGaN(230W/mK)やAlN(330W/mK)を基板として用いる事ができれば結晶欠陥の低減効果と同時に放熱上も有利となる事が期待されるが、現状は良質で安価な基板が存在しないという問題がある(非特許文献2、3)。
【0007】
サファイア基板上に成長するIII族窒化物半導体結晶の転位密度の低減については、III族窒化物バッファ層の改良、ELO(Epitaxial Lateral
Overgtowth)と称する絶縁膜上の横方向成長による下地基板からの貫通転位の伝播抑制、PENDEOエピタキシー法と称する凹凸加工基板の凸部上面にIII族窒化物種層を配置し、その側面から中空を横方向に成長することで下地基板からの貫通転位の伝播抑制などが提案されている。成長膜厚にもよるがそれらの方法によって転位密度を1〜2桁程度低下させる事ができている。また、GaNでは結晶層の進行とともに転位同士の反応によって転位の消滅が起こり転位密度が低下するので、高速エピタキシーが可能なHVPE(Hidride
Vapor Phase Epitaxiy)法で低転位密度な厚膜結晶の開発がなされている。数百μmないし1mm程度の厚みまで成長すると転位密度が107乃至106/cm2の桁まで低減できるので、特に自立基板やテンプレート基板用途をターゲットとし開発製造がなされている。ただし、自立基板を得る為には前記に示したレーザリフトオフ法、すなわちサファイア基板裏面側から界面のGaNを248nmのエキシマレーザのナノ秒パルス照射でGaNを分解し基板と分離させている。この場合、全面を完全に剥離できなかったり、クラックが発生するなど歩留面での課題も多いためコストアップ要因となっている(非特許文献4〜7)。
【非特許文献1】高橋清監修、長谷川文夫・吉川明彦編著「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」森北出版(2006年3月)
【非特許文献2】W.S.Wongら「Damage-free separation of GaN thin films from sapphire substrates」Appl.Phys. Lett.72(1998)P.599
【非特許文献3】「IMEC improves GaN HEMTs」Compound Semiconductor, October(2005)P.16
【非特許文献4】天野ら「サファイア基板上III族窒化物半導体成長における低温堆積層の効果と機構」応用物理68(1999)P.768
【非特許文献5】A.Sakaiら「Defect structure in selectively grown GaN films with lowthreading dislocation density」Appl.Phys.Lett.71(1997)P.2259
【非特許文献6】K.Linthicumら「Pendeoepitaxy of gallium nitride thin films」Appl.Phys.Lett.75(1999)P.196
【非特許文献7】S.K.Mathisら「Modering of threading dislocation in growing GaN layer」J.Crystal Growth 231(2001)P.371
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本発明者らはサファイア基板上に特定の金属種の金属窒化物バッファー層を所定の条件で形成した場合その上に成長したGaN単結晶層の結晶性が、従来のAlNあるいはGaN低温バッファー層を用いたサファイア基板上のGaNの結晶性と比べて同等もしくは良好な結晶性を有し、かつ金属窒化物バッファー層を選択的に化学エッチングして下地サファイア基板と成長層を分離し、自立基板もしくは個別半導体チップが製造できる技術を提案している。サファイア(0001)基板上に、金属Cr層を10nm乃至40nm成膜し、アンモニア含有ガス雰囲気で1040℃以上の温度で窒化する、もしくはMOCVD法でCrNを形成しその上にHVPE法でGaNを成長させた場合、C軸の揺らぎ(Tilt:チルト)の指標となるXRD(X−Ray Diffuraction)の(0002)回折の半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)は240秒乃至560秒程度、またC面の面内回転ゆらぎ(Twist:ツイスト)の指標となる(10−11)もしくは(11−20)回折での半値幅は370秒乃至650秒程度の範囲のものが得られている。成長後のCrNバッファ層は例えば過塩素酸と硝酸2セリウムアンモニウムの混合液で選択的にエッチングできるので、自立基板もしくは個別の半導体チップをサファイア基板から分離すること、すなわちケミカルリフトオフが可能である。
【0009】
前記のごとく、サファイア基板上に選択エッチングが可能で、III族窒化物半導体結晶の成長に供することのできる手法を見出したが、結晶欠陥の更なる低減及び選択エッチングによる下地基板と成長層の分離にかかる時間短縮が課題として挙げられる。すなわち、結晶欠陥に関しては素子特性や寿命などの信頼性の更なる向上が望まれ、継続的に転位密度を下げていく必要がある。特許文献1ならびに特許文献2に示したようにサファイア基板上の金属窒化物バッファー層がCrNの場合、金属Crの膜厚が15乃至30nmの場合に結晶性についての最適値が有り、45nm程度まではGaNの単結晶層を得ることができるももの、50nmを越えると窒化処理後のCrN層の結晶性が大幅に低下し、その上に成長したGaNはモザイク状乃至多結晶化してしまう。
【0010】
ケミカルリフトオフの所要時間はCrN膜厚が厚いほうが有利であるが、結晶性の確保とのトレードオフであり、特に自立基板の大面積化においては改善すべき課題である。エッチング速度は、液組成や液温、攪拌条件などに影響を受ける為一概に数値表記するのは難しいが、Cr成膜厚みが20nmの場合、300μm角のチップでは10〜15分程度、2インチ口径の自立基板をケミカルリフトオフする場合には数十時間を要する。前者についてはプロセス時間として許容できる範囲と考えられるが、後者については改善を要する。大面積化の際には、成膜するCr膜厚の面内分布が大きくなる傾向にあるため、部分的なピット発生や多結晶化を回避する為に、プロセスマージンを考慮してCr厚み条件は安全サイド(適正条件の中心乃至若干薄め)に設定することになってしまう点が問題であり、より厚い金属窒化物バッファー層であっても結晶性の維持向上を実現することが課題である。青色LEDのように、Inの組成ゆらぎが幸いして転位による発光効率の低下を大幅に封じ込めることができる用途については、結晶性が劣悪とならなければむしろ転位密度よりも剥離性を最重要視する場合もあるが、サファイア基板上ではCr層が厚い場合GaN層が多結晶化してしまうと言う大きな課題が有る。
【0011】
本発明の目的は、III族窒化物半導体の転位密度の更なる低減と同時に特に自立基板製造時のケミカルリフトオフ所要時間の大幅な短縮が可能な手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、サファイア、SiC、Siのいずれかからなる基板上にAlN単結晶層を0.1μm以上10μm以下の厚みで形成したAlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の上に金属層を成膜する工程と、該金属層をアンモニア混合ガス雰囲気で加熱窒化処理を行ない、略三角錐ないし三角台形状の複数の微結晶を有する金属窒化物層を形成する工程と、該金属窒化層上にIII族窒化物半導体層を成膜する工程を有することを特徴とするIII族窒化物半導体の製造方法が提供される。
【0013】
この製造方法において、更に、前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去して、前記テンプレート基板又はAlN単結晶基板と、前記III族窒化物層とを分離することによって、III族窒化物半導体の自立基板もしくは半導体素子を形成する工程を有しても良い。また、前記AlNテンプレート基板又は前記AlN単結晶基板の(0002)X線ロッキングカーブの半値幅が200秒以下、(11−20)の半値幅が2500秒以下であっても良い。また、前記金属層はCr、V、Zr、Nb、Tiから選択された少なくとも1種類以上を含む、単層膜・多層膜・合金膜のいずれかであっても良い。また、前記アンモニア混合ガス雰囲気での加熱窒化温度が900〜1200℃の範囲であり、窒化時間が1分以上90分以下であっても良い。また、前記加熱窒化処理前の金属層の平均厚さが4〜300nmの範囲であっても良い。
【0014】
また、本発明によれば、金属窒化層上に成膜されたIII族窒化物半導体層からなるIII族窒化物半導体であって、前記金属窒化物層が、略三角錐ないし三角台形状の複数の微結晶を有する金属窒化物層であり、前記金属窒化物層は、サファイア、SiC、Siのいずれかからなる基板上にAlN単結晶層を0.1μm以上10μm以下の厚みで形成したAlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の上に成膜された金属層を、アンモニア混合ガス雰囲気で加熱窒化処理を行なうことにより形成されていることを特徴とするIII族窒化物半導体が提供される。
【0015】
このIII族窒化物半導体において、前記AlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の(0002)X線ロッキングカーブの半値幅が200秒以下、(11−20)の半値幅が2500秒以下であっても良い。また、前記金属窒化物はCr、V、Zr、Nb、Tiから選択された少なくとも1種類以上を含んでも良い。また、前記金属窒化物層の平均厚さが6〜450nmの範囲であっても良い。
【0016】
また、本発明によれば、前記III族窒化物半導体において前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去したIII族窒化物自立基板であって、(000−1)N(窒素)極性面に略三角錐もしくは三角台状のピットもしくは窪みを有することを特徴とするIII族窒化物自立基板が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記III族窒化物半導体において、前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去した面である(000−1)N(窒素)極性面に、略三角錐もしくは三角台状のピットもしくは窪みを有することを特徴とするIII族窒化物半導体素子が提供される。III族窒化物半導体素子として、例えば発光素子などが例示される。
【0018】
本発明者らは、サファイア基板上に金属窒化物層を形成し、ケミカルリフトオフ可能なIII族窒化物半導体を得る方法を発見した。本発明者らが、上記方法をAlN上に応用させたところ、予想を超える結果が得られた。
【0019】
金属がCrの場合を例にとって述べると、
(1)サファイア(0001)基板上のCrを窒化してCrNとした場合に比べ、AIN(0001)上のCrを窒化してCrNとした場合にはCrN自身の結晶性が格段に向上した。一例として初期のCr膜厚が20nm、窒化温度1080℃、窒化時間が30分の場合の比較を図1に示す。XRDのCr(111)回折の半値幅はサファイア基板上(図1−a))の4,059secからAlN上(図1−b))では347secと1桁以上半値幅が低減できている。
【0020】
(2)Crを窒化し、さらには原子配列の再配列によってCrNの結晶性を所定レベル以上にするのに必要な処理時間は、サファイア(0001)基板上に対し、AlN(0001)上では非常に短時間で済む。一例として、窒化処理時間を3分としたこと以外前記と同じ条件で処理した場合のAlN(0001)上のXRDのCr(111)回折(図1−c))結果を示すが、半値幅は624secと1/10の窒化処理時間であってもサファイア基板上よりも結晶性が良好となっている。学術的な理由は明確ではないが、下地基板からの固相エピ成長(原子再配列)への駆動力(影響力)がAlN(0001)面のほうが大きいことを示すものと考えられる。
【0021】
(3)サファイア(0001)基板上では、Cr膜厚が50nm以上となると窒化後のCrNの結晶性がHVPE法でのGaN単結晶成長に必要な結晶性に至らず、モザイク状乃至多結晶となってしまう。ところが、AlN(0001)面上においてはCr膜厚を300nm程度まで厚くしても、GaNの単結晶成長が可能である事が分かった。これは、前記のようにCrN固相エピ成長への駆動力がサファイア基板に比べ大きいことに関連するものと考えられる。Cr膜厚すなわち窒化後のCrN膜厚を厚くすることが可能であるため、ケミカルリフトオフのエッチング時間の大幅な短縮が可能となる。
【0022】
(4)AlN(0001)上のCr膜厚ならびに窒化条件を適正化することによって、その上にHVPE法で成長したGaN結晶のXRD半値幅は、C軸の揺らぎの指標である(0002)回折の半値幅で150sec以下、C面内内の回転揺らぎの指標である(11−20)回折の半値幅で250sec以下と言う良好な結晶性を得ることができた。これらは、サファイア(0001)基板上のCrNバッファー層上に同様な条件で成長したGaNにおけるXRD半値幅の1/3程度まで低減されている。また、HVPE法でAlN(0001)上に直接GaN層を成長する場合に比べCr膜厚を300nm程度まで厚くしてもXRD(11−20)回折の半値幅を低減できる。
【発明の効果】
【0023】
AlNテンプレートまたはAlN単結晶基板を用いて、低転位密度のIII族窒化物半導体が大量生産可能となるとともに、ケミカルリフトオフが可能な製造方法により、低転位密度なIII族窒化物半導体の自立基板、半導体素子を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
金属窒化物をIII族窒化物半導体層形成のためのバッファ層として用いる場合の製造工程を簡単に示し、次いで最良の実施形態について説明する。なお、ここで半導体層とは単層または積層された状態を含む。
【0026】
まず初めに成長用の下地基板上に所定の金属をスパッタリング法や真空蒸着法などで所定厚みで金属層を成膜する。次いでIII族窒化物半導体成長装置、例えばHVPE成長装置に導入し高純度水素もしくは窒素ガス雰囲気中で昇温を開始する。所定の温度、すなわち用いる金属が窒化反応を生じる始める温度付近から窒素水素化物例えばアンモニアガスやヒドラジンガスの供給を開始し、さらに窒化処理温度まで昇温しその温度で所定時間窒化処理を実施しIII族窒化物半導体層を成膜するための金属窒化物バッファ層に転化させる。通常サファイア基板、SiC基板、Si基板上にIII族窒化物半導体層を成膜する場合には、III族窒化物半導体の低温バッファ層を形成するが、本方式ではその必要は無い。
【0027】
次いで、III族窒化物半導体の成長温度に調整し、III族原料ガスの供給を開始して成膜を開始する。成長する層構造に応じて成長途中で成膜温度や供給ガス種・流量比などを適宜変更し、目的の成膜が終了した段階で冷却を開始する。冷却途中の所定温度に至ったならば、アンモニアガスやヒドラジンガスの供給を停止し、高純度水素または窒素ガス雰囲気中で冷却を行い成長工程を終了する。
【0028】
III族窒化物半導体、およびIII族窒化物半導体の自立基板または半導体素子の製造の一例として、サファイア基板(Al)の上に、第1の層としてAlN単結晶層を設けた(以降、AlNテンプレートという)。前記サファイア基板のほかに、SiC基板、Si基板など、所望半導体に応じて適用可能な基板を用いることが出来る。さらにはAlN単結晶基板を用いても良い。また、AlN以外にIII族窒化物半導体との間の格子不整合の割合が小さい層として、AlGaN、GaNを選択することも可能である。本実施例では、サファイア(0001)面上にMOCVD法によってAlN単結晶層を約1μm成膜したテンプレート基板を用いた。AlNテンプレートのXRDの半値幅は(0002)回折では約100sec、(11−20)回折の半値幅は約1200sec乃至1400secのものを用いた。
【0029】
所定の金属層としては、アンモニアガス・ヒドラジンガスなどの窒素水素化物によって窒化された段階で、III族窒化物半導体層を成長するためのバッファ層としての条件を満たすものである必要がある。具体的には窒化された段階で、下地層もしくは下地基板面に垂直な方向に対してランダムではなく所定の方位に揃った状態であること、かつ下地層もしくは下地基板の面内に対しねじれの無い状況であることが必要である。すなわち下地に垂直な方向に単に配向するだけでは意味が無く、面内のドメイン回転ゆらぎも抑制されたものでなければならない。AlN(0001)c面上においては金属窒化物が岩塩型もしくは六方晶構造となり、下地に垂直な方向が前者では<111>方向、後者では<0001>方向となるとともに、下地の面内に対して前者は三角形の底辺が、後者は後者のa軸がAlN(0001)面内のa軸方向に平行並行となることが必要である。好ましくは原子間隔がAlN(0001)面内のa軸の格子定数に近接するものが良く、更にはIII族窒化物半導体の成長温度において耐熱を有し、相互拡散や合金化どが生じにくいこと、熱膨張係数も近接することが好ましい。以上はIII族窒化物半導体結晶の結晶性を向上するために必要な要件である。
【0030】
また、下地層もしくは下地基板とIII族窒化物半導体層をケミカルリフトオフ法によって分離する場合には、III族窒化物半導体層および転写用に使用する接合金属または合金にはダメージを与えずに、バッファ層である金属窒化物層のみを選択的に化学エッチングする薬液が存在するかも重要な選定要件となる。
【0031】
それらを満たす金属として、Cr、V、Zr、Nb、Tiが良く、これらのうち少なくとも1種類以上を選択し、単層、多層膜、合金などの形態で用いる。なお、これらの金属は窒化処理後岩塩型結晶構造となる。CrNは過塩素酸もしくは硝酸と硝酸2セリウムアンモニウム溶液がIII族窒化物半導体ならびにAu−Sn合金ハンダにはダメージを与えること無しに選択エッチングが可能である。VN、ZnN、NbNについてはフッ酸と硝酸の混合液、TiNについてはフッ酸系のエッチング液がそれぞれ使用可能である。
【0032】
AlNテンプレート基板もしくはAlN単結晶基板への金属層の成膜方法としては、スパッタリング法もしくは真空蒸着法などを用いる。成膜の際の基板温度は好ましくは50℃以上でより高温とするのが金属膜の配向性の向上面で好ましいが、冷却時間が長くなり生産性を低下させてしまうので上限は800℃程度である。金属層は所定の平均厚み、すなわち4nm〜300nmの範囲で成膜する。さらに好ましくは30nm〜200nmである、ケミカルリフトオフの生産性が高いからである。
【0033】
平均膜厚が4nm未満の場合、窒化処理後に下地のAlN表面の露呈比率が高く、III族窒化物半導体層の成長開始時にAlN下地と金属窒化物微結晶の両者から成長が開始されてしまい結晶性の向上効果が少ない点と、III族窒化物半導体層とAlN下地層との直接接触比率が増え、後にケミカルリフトオフを実施する場合にエッチング液が浸透し難く分離が困難となるためである。また300nmを越えた場合には窒化処理時間が長くなってしまい生産性が著しく低下してしまうこと、ならびにAlN下地からの固相エピタキシャル成長の駆動力が低下するため金属窒化物層の結晶性が十分でなく、その上に形成するIII族窒化物半導体層の結晶性も十分なものが得られないためである。なおこの点については窒化処理条件とも密に関連するため別途併せて説明する。
【0034】
前記金属層を成膜した後、III族窒化物半導体層の成長装置に導入し高純度水素または窒素あるいはHe、Arガスの単体もしくは混合ガス雰囲気中で昇温し、金属層が窒化を開始する温度よりも若干低い温度から例えば高純度アンモニアガスの供給を開始する。アンモニアガスは前記ガスをキャリアガスとして混合ガスの状態で供給する。窒化処理の最高温度を窒化温度、その温度での保持時間を窒化時間と定義する。
【0035】
温度が低い場合、窒化反応が遅い為、処理時間を長くとる必要があり、高温の場合には、時間を短時間とする他、それだけでなく下地層からの固相エピタキシャル成長の駆動力によって、原子の再配列によって金属窒化物バッファとして結晶構造、配向、面内のドメイン回転揺らぎの抑制された状態を制御する必要が有る。HVPE法の例で言うと、反応管口径が約φ80mmの場合アンモニアガスの流量は1000sccm程度で行う。金属がCrの場合窒化温度 約600℃の温度から供給を開始する。炉の昇温速度は約30℃/分であり、窒化温度としては900℃以上1200℃以下の温度で、窒化時間としては1分以上90分以下が好ましい。窒化時間に関しては金属の膜厚が薄い場合には短時間、厚い場合には長めに適宜この範囲内で調整すれば良い。
【0036】
図2はサファイア基板上にCrを20nm成膜した段階のX線回折の結果を示したものであるが(図2−a))、成膜した段階ではCr表面が<110>方向でありこの状態にIII族窒化物半導体層を成長させても、前述の要件を満たさず単結晶膜は得られない。次いで窒化温度1080℃で3分の窒化処理を行った後のX線回折の結果を図2−bに示す。窒化処理による原子の再配列でCrN表面が<111>方向となって始めてIII族窒化物半導体層の単結晶が得られる状況になる。ただし、この場合窒化が不十分でCrの<110>状態が残留している事も分かる。
【0037】
一方、AlN(0001)テンプレート基板上に前記と同一厚みのCrを成膜後、同一条件の窒化処理を施し、引き続きその上にGaNを成長した試料のX線回折の結果を図2−cに示す。この場合、CrN(111)ピークのみが観測されCr(110)ピークは観測されず、窒化及び窒化後の原子再配列がAlN(0001)上のほうがサファイア基板上の場合に比べ早く進行することが示唆される。また、AlNテンプレート基板に200nmのCrを成膜し1080℃で30分窒化処理を施した後、引き続きGaNを成長した試料のX線回折の結果を図2−dに示す。この場合、Cr層の層厚が前記に比べ厚いのでCrメタルの状態で残留した事が分かる。
【0038】
以上のように、金属層の厚みに応じて窒化処理時間を設定することになるが、AlN(0001)テンプレート基板に成膜するCrの平均層厚を4nmから300nmの範囲、窒化処理時間を3分から120分の範囲で変化させた窒化処理段階までの試料を準備した。なお、窒化温度は1080℃の場合である。試料表面のSEM観察を行った結果を図3に示す。Cr層をこの温度条件で時間を変えて窒化処理した場合、初期のCrの層厚および処理時間によってCr窒化物の結晶形態が変化することが分かる。層が薄い場合には三角錐形状の微結晶が形成されるのが分かる。また、三角錐の底辺の向きが揃っていることも確認できる、さらには底辺がAlN(0001)の3つのa軸方向と平行である。
【0039】
膜厚が厚く、窒化時間が短い場合例えば平均膜厚が200nmで3分の窒化時間の場合には、まだ窒化および原子の再配列が開始された段階であり不定形な状況にあることが分かる。層が厚めな場合、窒化時間を長くとると底辺の方向がAlN(0001)の3つのa軸方向に平行に揃った三角台形状が形成されるようになるが、過度に窒化処理時間をとる、例えば120分の窒化処理では表面マイグレーションで凝集・肥大化するとともに三角台形状が不定形化してしまう。なお、初期Cr平均層厚が4nmの場合のSEM像は微結晶粒子のサイズが微小であるため、状態が分かるように拡大している。更に詳しくは図4に初期Cr層平均層厚が4nmの場合の窒化時間による形状変化を、図5にCr層平均層厚が20nmの場合の変化を示す。
【0040】
両Cr平均層厚とも短時間で三角錐形状のCrN(111)微結晶が形成されているが、窒化処理時間が30分経過するとその間の表面マイグレーションによって、凝集して肥大化したり三角錐形状が崩れていることが分かる。さらに120分まで窒化処理を継続すると、再び三角形の微結晶構造が形成されることが分かった。ただしこれは図5で分かるように台形状のものであり、短時間で形成された微結晶とは異なる物である。エネルギー分散型EPMA分析の結果、三角台微結晶はその表面がCrNで土台部はAl組成リッチなAlCrN混晶であることが判明している。(硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液に土台部が溶解しないことも確認している。)
【0041】
図6はCr平均層厚が100nmの場合、図7にはCr平均層厚が200nmの場合を示すが、この場合の三角台形状のものCrNであって、硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液で溶解できる。
【0042】
以上のように三角錐形状もしくは三角台形状の形状が得られ、その底辺の方向がAlN(0001)の3つのa軸に平行となり、更には不定形化を避けるための窒化条件は金属層の厚みによって適宜条件設定を行えばよい。なお、本発明による窒化後の金属窒化物はここに示したように凹凸を有する三次元的な構造であるため、層厚は断面の凹凸の積分面積を測定距離で割って求めた平均層厚で定義する。
【0043】
次に、III族窒化物半導体層の成長について説明する。前述の金属層の窒化処理を行い、AlN(0001)テンプレート基板表面に複数の略三角錐または三角台形状の微結晶を形成した後、例えばGaNの成長では第1層目の成長を実施するため、HVPE法の例では基板温度を900℃まで降下させる。この場合、キャリアガスの流量は、V/III比や成長速度設定の為に適宜条件を変更する。成長開始準備が整ったならば、850℃に加熱した金属Gaの上流側からキャリアガスと伴に塩酸ガスを流し始め、GaCl含有原料ガスを生成する。生成されたGaCl含有原料ガスを基板近傍でアンモニア混合ガスと混合して、金属窒化物バッファ層上に供給し、GaNの結晶成長を開始させる。標準的には900℃まで降温後15分経過した時点で成長を開始する。この時、塩酸ガスの流量は80sccmとし例えば5分間の成長を行う。成長の中断は一旦塩酸ガスの供給を停止すればよい。
【0044】
引き続き、第2層目の成長条件である1050℃まで基板温度を上昇させ、ガス流量その他の条件設定を行い前記と同様塩酸ガスの供給を例えば40sccmの流量で行うことで第2層目のGaN層を成長させた。所望の成長厚みとなった段階で塩酸ガスの供給を停止し、冷却を開始する。アンモニアガスの供給は基板温度が600℃以下となった段階で停止し、窒素雰囲気で冷却を行う。取り出し可能な温度まで冷却した後、基板を装置から取り出して成長を終了する。
【0045】
2インチ口径のAlN(0001)テンプレート基板上のCr層の厚みを4nmから300nmの範囲、窒化時間を1分から120分の範囲でCrNの構造形態を変化させたバッファー層上に、前記の製造条件でGaN層を成長させた。GaNの成長膜厚は13μm乃至15μmとした。成長後の結晶はc軸方向のゆらぎの指標である(0002)X線回折の半値幅、c面面内の回転ゆらぎ(ツイスト)の指標である(11−20)回折の半値幅で評価を行った。(0002)回折の結果を図8−a)に、(11−20)回折の結果を図8−b)に示す。なおCr層厚が零の場合は、AlN(0001)テンプレート上にCr層を成膜せずに直接GaN層を成長したものである。
【0046】
まず、(0002)回折の結果であるが、Cr平均膜厚がおよそ100nmまでの厚さでは半値幅は緩やかに増加にするが、100nmを越えると半値幅の増加傾向が顕著になることが分かる。100nmを越える領域では窒化時間が短いとその傾向が顕著となる。これは、図2でも示したように金属層の窒化が充分でなくCrN(111)だけでなくCr(110)が残留するためと解釈される。Cr層の平均層が厚い場合、(0002)回折の半値幅低減には窒化時間を長目に設定する必要が有る。
【0047】
次に、(11−20)回折の場合はCr平均層厚が50nm以下で短時間の窒化処理の場合に半値幅が大幅に低減できている。三角錐形状の複数のCrN微結晶上にGaN成長した場合、成長開始時にこれらの微結晶のファセット面(三角錐の面)からの横方向成長されるため、CrN微結晶からの貫通転位がGaN結晶に伝播されにくいため半値幅(転位密度と符号する)が低減できる。Cr平均層厚が100nmを越えた場合、短時間の窒化処理では半値幅が大きく、中間で最小値をとり、逆に長時間の窒化処理でも半値幅が大きくなるが、これは先に図6、図7で示した窒化処理時間の進行に伴うCrNの形状・形態変化と対応して説明できる。
【0048】
図9はAlN(0001)テンプレート基板に直接GaN層をHVPE法で成長した場合と、AlN(0001)テンプレート基板上に20nmのCr層を成膜し窒化時間3分としたCrNバッファー層上に同じくGaN層を成長した試料の断面TEM像の比較である。直接GaNを成長した場合、AlNからならびに界面で発生した転位がGaN層に伝播していることが分かる。一方CrNバッファー層上に成長したGaN層にはAlN中の貫通転位は殆ど伝播せずに遮蔽されていることが分かる。AlNテンプレート基板のXRD半値幅は(0002)回折で100sec程度、(11−20)回折で1200sec乃至1400secであり、図8に示したように直接GaN層を成長した場合GaN層のXRD半値幅(0002)回折で129sec、(11−20)回折で1364secであるためほぼ同じ数値(転位密度)となっている。一方、CrNバッファー層上のGaN層のXRD半値幅は(0002)回折で
139sec、(11−20)回折で230secと、特に面内ツイスト低減に多大な効果があることがわかる。
【0049】
また、Cr層の平均層厚が4〜300nmのいずれであっても、各層厚に応じて適正な窒化処理条件を選べば直接GaN層を成長する場合に比べ(11−20)回折の半値幅の値を低減することが可能であることが図8−b)から示される。青色LED用途などでは、転位が発光効率低下の悪影響を及ぼさない場合があるので、生産性向上のためケミカルリフト性を重視して最大限のCr層厚みとしても良いことになる。Cr層の平均厚みの許容範囲がサファイア基板上の場合に比べ約7倍にも広がる。
【0050】
以上のように、Cr層の平均厚みや窒化時間によるCrNの形態変化、ならびにその上のGaN層成長条件が把握されたので、用いるAlN(0001)テンプレートの結晶性がGaN層の結晶性に与える影響を調べた。
比較のため用いたAlNテンプレートは全てサファイア(0001)面上に成長したもので、AlN層の厚みは
0.1から12.5μmの範囲であり、AlN層のXRD半値幅は(0002)回折で50secから280secの範囲、(11−20)回折では550秒から2850secの範囲であった。AlN(0001)テンプレート上にスパッタリング法によりCr層を平均層厚35nm成膜し、HVPE装置に導入後、窒化処理時間を5分とした以外前述と同じ条件としてGaN層を12乃至14μm成長した。
【0051】
図10に用いたAlNテンプレートのXRD半値幅と成長したGaN層のXRD半値幅の関係を示す。まず、c軸の揺らぎの指標である(0002)回折では、図10−a) のように用いたAlN層の半値幅にほぼ比例したものとなった。(20〜50sec程度半値幅が増加)。したがって、c軸の揺らぎを低減するためには、XRD半値幅の狭いAlNを用いるのが好ましい。次いで、面内のドメイン回転の指標である(11−20)回折の半値幅では、先に示した三角推形状のCrNの貫通転位の抑制効果によってGaN 層の半値幅は大幅に低減されるが、用いたAlNの半値幅が2500secを越えると抑制効果が薄れることが分かった。
【0052】
以上のように、結晶性の良好なGaN層を成長するたには用いるAlN(0001)テンプレート基板もしくは単結晶のXRD半値幅は(0002)回折、(11−20)回折の半値幅はそれぞれ200sec以下、2500sec以下であることが好ましい。
【0053】
また、図11にAlN層の断面TEM写真を示すが、サファイア基板上のAlN層の厚みが0.1μm未満の場合、AlN成長界面で生じた多量の転位が、転位同士の反応による転位消滅現象の途中であるため、CrNバッファ層の導入効果が薄れるので0.1μm以上のAlN層であることが好ましい。また、テンプレートの場合のAlN層の厚みが10μmを越える場合はテンプレート製造の生産性が著しく低下してしまうので、10μm以下が好ましい。
【0054】
最後に、上記段落で説明した試料のケミカルリフトオフ性について説明する。Cr層を導入しないで直接GaNを成長した場合には当然のこととしてエッチングされないが、Cr層が薄い場合には金属の窒化は短時間で完了しさらに固相エピタキシャル成長での三角錐形状の形成も短時間で終了し、また個々の三角錐
のサイズも小さい。しかしながら過度の窒化を継続すると表面マイグレーションによって結晶粒子の肥大化が生じる。肥大化にする為には周囲の微結晶が原子を供給することになるわけでであり、その部分のAlN表面は露呈される。したがって、CrNの微結晶のファセット面からGaNの成長が横方向に成長するとしても、直接AlN表面とGaN層が接触するので両者がくっついてしまい、エッチング液の回り込みが著しく阻害されて、エッチングによる分離に時間がかかったり、場合によってはエッチングによる分離が出来なくなる。したがって、AlNの露呈率は所定の面積比以下であることが好ましいが、露呈部の状態が変われば、すなわち個々の露呈部の大きさや連続・不連続状況や間隔など要因は多岐に渡たり一概に数値化するのは難しい。Cr層の平均膜厚と1080℃の窒化温度における窒化処理時間を変えてその上にGaN層を成長したサンプルにつき、ケミカルエッチでGaN層とAlNテンプレート基板とが分離可能な領域を図3の
斜線網ガケ領域で示した。また、結晶性が良好な領域を灰色領域で示した。これは、窒化温度が1080℃の
場合であって、個々の層厚や金属種に応じて窒化温度や窒化処理時間を請求項の範囲で調整すれば、より薄い膜厚においてもエッチングによる分離が可能であり、逆に厚い金属層厚であっても結晶性の向上を図ることができる。これについては、後段の実施例の中で説明する。
【0055】
以上、サファイア基板上のAlN(0001)上のCrについての結果を説明したが、金属層がテンプレート基板もしくは基板上に成膜された段階で面心立方の(110)配向を示し、窒化処理を施すことで岩塩型構造に転化され(111)配向がなされるV、Nb、成膜段階で六方最密充填構造から窒化処理によって岩塩型構造に転化され(111)配向がなされるZr、TiもCrと同様な効果がみられる。
【0056】
以下、上記段落で説明したIII族窒化物半導体層及びIII族窒化物半導体の自立基板もしくは半導体とその製造方法についての実施例につき説明する。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
サファイア基板上のAlN(0001)テンプレートのXRD(0002)回折の半値幅が約100sec、(11−20)回折の半値幅が約1200sec乃至1400secのものを用いた。AlN層の厚みは1.0μmであった。AlN(0001)面上にCr層を平均層厚35nm成膜し後、HVPE装置に導入し窒化処理温度が1095℃、窒化時間が1分としてCrN層を形成した後、GaN層を12μm成長した。得られた結晶のXRD(0002)回折の半値幅は121sec、(11−20)回折の半値幅は210secと結晶性は非常に良好であった。300μm角にスクライブ線を入れて、80℃の硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液でCrN層をエッチングしたところ、約8分でエッチングが完了しGaN層が分離できた。GaN層の(000−1)N(窒素)面には辺の長さが約20nmから約400nmのサイズの逆三角錐状を主体とするピットが観察された。
【0058】
(実施例2)
実施例1に対し、Cr層の平均膜厚を50nm、窒化温度を1110℃とした以外他の条件を同一としてGaN層を成長した。得られた結晶のXRD(0002)回折の半値幅は128sec、(11−20)回折の半値幅は250secと、図8に示した1080℃でのCr層の平均膜厚50nmの結晶性に比べて結晶性は改善して非常に良好であった。300μm角にスクライブ線を入れて、80℃の硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液でCrN層をエッチングしたところ、約5分でエッチングが完了しGaN層が分離できた。GaN層の(000−1)N(窒素)面には辺の長さが約30nmから約500nmの逆三角錐状を主体とするピットが観測された。
【0059】
(実施例3)
実施例1に対し、Cr層の平均膜厚を100nm、窒化時間を4分としたこと以外の条件を同一としてGaN層を成長した。得られた結晶のXRD(0002)回折の半値幅は162sec、(11−20)回折の半値幅は420secと、図8に示した1080℃でのCr層の平均膜厚100nmの結晶性に比べて結晶性は改善して非常に良好であった。300μm角にスクライブ線を入れて、80℃の硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液でCrN層をエッチングしたところ、約3分でエッチングが完了しGaN層が分離できた。GaN層の(000−1)N(窒素)面には辺の長さが約30nmから約500nmの逆三角錐状のピットを主体に逆三角台状の窪みが観測された。
【0060】
(実施例4)
実施例1に対し、Cr層の平均膜厚を150nm、窒化時間を7分、GaN層の成長厚みを530μmとした以外他の条件を同一としてGaN層を成長した。得られた2インチ口径の基板を80℃の硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液によって基板側面からCrN層の選択エッチングを実施したところ、8時間でエッチングが完了し、クラックフリーで2インチ口径のGaN自立基板を得ることができた。サファイア基板が取り去られた状態でのGaN層のXRD(0002)回折の半値幅は73sec、(11−20)回折の半値幅は82secと、非常に良好な結晶性を示した。また、GaN層の(000−1)N(窒素)面は辺の長さが約50nmから約700nmの逆三角錐状ピットもしくは逆三角台状の窪みが生じていた。
【0061】
(実施例5)
実施例3に対し、GaN層の成長膜厚を165μmとしたこと以外の条件を同一としてGaN層を成長した。得られたGaN層のXRD(0002)回折の半値幅は94sec、(11−20)回折の半値幅は98secと非常に良好であった。さらにGaN層の上にMOCVD法によりInGaN系LED構造を想定した犠牲エピタキシャル成長を行った。GaNバッファ層を含めた積層部の厚みは約5μmであった。剥離性のみの確認試験であったため、デバイス電極加工は実施しなかったが、80℃の硝酸2セリウムアンモニウム系エッチング液で2インチ基板の側面からCrN層をエッチングしたところ、約11時間でGaN層がクラックフリーで分離できた。GaN層の(000−1)N(窒素)面には辺の長さが約30nmから約600nmの逆三角錐状のピットを主体に逆三角台状の窪みが観測された。
【0062】
(比較例1)
実施例1に対し、AlNテンプレート上にCrを成膜せず、窒化処理工程なしに直接III族窒化物(例えば、GaN)を成長させた。GaN成長開始からの条件は実施例1と同じである。得られたGaN層の結晶性をXRD(0002)および(11−20)回折の半値幅で評価したところ、(0002)回折で129sec、(11−20)回折では1364seであった。これにより、実施例1〜5はともに(11−20)回折の半値幅が大幅に低減され結晶性が改善されることが分かる。またCrN層が無い為、ケミカルエッチングによるGaN層の分離は不能である。
【0063】
(比較例2)
サファイア(0001)基板上にCrをスパッタリング法で成膜させ窒化温度1080℃で30分の窒化処理を行った後、GaN成長を行った。初期のCr平均層厚は10〜40nmが好ましく、10nm未満では結晶性の悪化が見られ、50nm以上ではCrN層およびその上に成長させるGaNは、図12に示すようにモザイク状ないし多結晶化してしまった(本発明者を含む特願2006−272321より)。したがって本願の実施範囲に比べて、三角錘形状のCrNが好適に形成される厚さ範囲が狭く、必要とされる窒化時間も長い。(0002)回折の半値幅は240sec乃至560sec程度、また(10−11)もしくは(11−20)回折での半値幅は370sec乃至650sec程度の範囲であり、最良のものでも実施例の約2乃至4倍の半値幅である。単結晶膜が得られるCr層の上限膜厚も本願に比べ1/7程度であり、結晶性向上や大口径化、量産化への対応で問題が有る。
【0064】
実施例1〜5及び比較例1から明らかなように、AlN上にCrN層を介することで、実施例の全てにおいて(11−20)回折の半値幅が大幅に低減され、結晶性が改善されることが分かる。また、そもそも金属窒化物層が無い場合、選択化学エッチングは原理的にできずGaN層の分離は不能である。また、比較例2と実施例から明らかなように、サファイア上に比べAlN上のCr層は窒化後結晶性が良好でかつ単結晶膜が成長できる上限も7倍ほど厚くできる。そのため、結晶欠陥の低減とケミカルエッチングによるIII族窒化物層の分離が容易に行える。
【0065】
以上、実施の形態および実施例において具体例を示しながら本発明を詳細に説明したが、本発明は上記発明の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない範囲であらゆる変更や変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、III族窒化物半導体の製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)サファイア基板上のCr(20nm)を1080℃30分窒化処理した後の試料のXRDのCrN(111)回折パターンを示すグラフである。(b)AlNテンプレート上のCr(20nm)を1080℃30分窒化処理した後の試料のXRDのCrN(111)回折パターンを示すグラフである。(c)AlNテンプレート上のCr(20nm)を1080℃3分窒化処理した後の試料のXRDのCrN(111)回折パターンを示すグラフである。
【図2】(a)サファイア(0001)基板上にCrを20nm成膜した試料のXRDパターンを示すグラフである。(b)同上の試料を1080℃3分窒化処理した後のXRDパターンを示すグラフである。(c)AlN(0001)上にCr膜厚20nm成膜、1080℃3分の窒化処理後GaNを成長した試料のXRDパターンを示すグラフである。(d)AlN(0001)上にCr膜厚200nm成膜、1080℃30分の窒化処理後GaNを成長した試料のXRDパターンを示すグラフである。
【図3】AlN(0001)上のCr層平均厚みと窒化温度1080℃で窒化時間を変えた場合のCrN微結晶の形態SEM観察結果の説明図である。
【図4】AlN(0001)上のCr層平均膜厚4nmのものを1080℃で窒化した場合の窒化時間による形態変化であり、微結晶の形状(三角錘形状)とAlN格子に対する配列関係の説明図である。
【図5】AlN(0001)上のCr層平均膜厚20nmのものを1080℃で窒化した場合の窒化時間による形態変化の説明図である。
【図6】AlN(0001)上のCr層平均膜厚100nmのものを1080℃で窒化した場合の窒化時間による形態変化と、微結晶の形状(三角台形状)とAlN格子に対する配列関係の説明図である。
【図7】AlN(0001)上のCr層平均膜厚200nmのものを1080℃で窒化した場合の窒化時間による形態変化の説明図である。
【図8】(a)Cr層の平均膜厚とGaNのXRD(0002)回折の半値幅の関係の窒化処理時間依存性を示すグラフである。(b)Cr層の平均膜厚とGaNのXRD(11−20)回折の半値幅の関係の窒化処理時間依存性を示すグラフである。
【図9】(A)AlN(0001)上に直接GaN層を成長した場合の断面TEMによる転位の観察結果の説明図である。(a)(b)(c)は測定方向(g値)を変えて観察した結果である。(B)AlN(0001)上にCr層を成膜し窒化処理でCrNとした上にGaN層を成長した場合の断面TEMによる転位の観察結果の説明図である。(d)(e)(f)は測定方向(g値)を変えて観察した結果である。
【図10】(a)AlN (0002)回折の半値幅とGaN(0002)半値幅の関係を示すグラフである。(b)AlN (11-20)回折の半値幅とGaN(11-20)半値幅の関係を示すグラフである。
【図11】サファイア基板上のAlN層の断面TEM写真である。
【図12】GaN結晶のXRD半値幅とサファイア(0001)基板上のCr層の平均厚み依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア、SiC、Siのいずれかからなる基板上にAlN単結晶層を0.1μm以上10μm以下の厚みで形成したAlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の上に金属層を成膜する工程と、該金属層をアンモニア混合ガス雰囲気で加熱窒化処理を行ない、略三角錐ないし三角台形状の複数の微結晶を有する金属窒化物層を形成する工程と、該金属窒化層上にIII族窒化物半導体層を成膜する工程を有することを特徴とするIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
更に、前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去して、前記テンプレート基板又はAlN単結晶基板と、前記III族窒化物層とを分離することによって、III族窒化物半導体の自立基板もしくは半導体素子を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記AlNテンプレート基板又は前記AlN単結晶基板の(0002)X線ロッキングカーブの半値幅が200秒以下、(11−20)の半値幅が2500秒以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記金属層はCr、V、Zr、Nb、Tiから選択された少なくとも1種類以上を含む、単層膜・多層膜・合金膜のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニア混合ガス雰囲気での加熱窒化温度が900〜1200℃の範囲であり、窒化時間が1分以上90分以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱窒化処理前の金属層の平均厚さが4〜300nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のIII族窒化物半導体の製造方法。
【請求項7】
金属窒化層上に成膜されたIII族窒化物半導体層からなるIII族窒化物半導体であって、
前記金属窒化物層が、略三角錐ないし三角台形状の複数の微結晶を有する金属窒化物層であり、
前記金属窒化物層は、サファイア、SiC、Siのいずれかからなる基板上にAlN単結晶層を0.1μm以上10μm以下の厚みで形成したAlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の上に成膜された金属層を、アンモニア混合ガス雰囲気で加熱窒化処理を行なうことにより形成されていることを特徴とするIII族窒化物半導体。
【請求項8】
前記AlNテンプレート基板又はAlN単結晶基板の(0002)X線ロッキングカーブの半値幅が200秒以下、(11−20)の半値幅が2500秒以下であることを特徴とする請求項7に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項9】
前記金属窒化物はCr、V、Zr、Nb、Tiから選択された少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする請求項7または8に記載のIII族窒化物半導体。
【請求項10】
前記金属窒化物層の平均厚さが6〜450nmの範囲であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のIII族窒化物半導体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載のIII族窒化物半導体において前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去したIII族窒化物自立基板であって、(000−1)N(窒素)極性面に略三角錐もしくは三角台状のピットもしくは窪みを有することを特徴とするIII族窒化物自立基板。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれかに記載のIII族窒化物半導体において、前記金属窒化物層を化学エッチングにより溶解除去した面である(000−1)N(窒素)極性面に、略三角錐もしくは三角台状のピットもしくは窪みを有することを特徴とするIII族窒化物半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−54888(P2009−54888A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221774(P2007−221774)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】