説明

III族窒化物半導体成長用基板、III族窒化物半導体自立基板、III族窒化物半導体素子、ならびに、これらの製造方法

【課題】成長温度が1050℃以下のAlGaNやGaNやGaInNだけでなく、成長温度が高い高Al組成のAlxGa1-xNにおいても結晶性の良いIII族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体自立基板およびこれらを製造するためのIII族窒化物半導体成長用基板、ならびに、これらを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板と、前記表面部分上に形成されたSc(スカンジウム)を窒化処理したスカンジウム窒化物膜を具えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体成長用基板、III族窒化物半導体自立基板、III族窒化物半導体素子、ならびに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、Al、Ga、InなどとNとの化合物からなるIII族窒化物半導体で構成される例えばIII族窒化物半導体素子は、発光素子または電子デバイス用素子として広く用いられている。このようなIII族窒化物半導体は、現在、例えばサファイアからなる結晶成長基板上に、MOCVD法により形成されるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、III族窒化物半導体と結晶成長基板(一般にはサファイア)とは、格子定数が大きく異なるため、この格子定数の差に起因する転位が生じ、結晶成長基板上に成長させたIII族窒化物半導体層の結晶品質が低下してしまうという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、従来技術としては、例えばサファイア基板上に、低温多結晶または非晶質状態のバッファ層を介してGaN層を成長させる方法があり、広く用いられている。しかし、サファイア基板の熱伝導率が小さいこと、絶縁性で電流を流せないため、サファイア基板の片面にn電極とp電極とを形成させ、電流を流す構成を取るため、この構成では、大電流を流しにくく、また放熱性が悪いため高出力の発光ダイオード(LED)の作成には不適である。
このため、縦方向に電流を流すために導電性で熱伝導率が大きい別の支持基板に貼り替えて、GaNのエネルギーギャップよりも大きな量子エネルギーを持つレーザー光を、サファイア基板上に形成されているGaN層に照射してGaと窒素に熱分解させ、サファイア基板とIII族窒化物半導体層とを剥がすレーザーリフトオフ法などの方法が採られている。
【0005】
また、他の従来技術としては、特許文献1〜3に、サファイア基板上に、金属窒化物層を介してGaN層を成長させる技術が開示されている。この方法によれば、GaN層の転位密度を上記技術と比較して低減することができ、高品質のGaN層を成長させることが可能である。これは、金属窒化物層であるCrN層等とGaN層との格子定数および熱膨張係数の差が比較的小さいためである。また、このCrN層は、化学エッチング液で選択的にエッチングす
ることができ、ケミカルリフトオフ法を用いるプロセスにおいて有用である。
【0006】
いずれの場合も、デバイス製造のエピタキシャル成長用にIII族窒化物の自立基板が無い或いは非常に高価であるため、サファイア基板を使わざるを得ないことによる。現状、GaNの自立基板は青紫LD(レーザーダイオード)用途、或いは縦型構造のショットキーバリアダイオードなどの特殊用途の使用に限定されている。LEDの高出力化に対しても自立基板が低価格化が図れるならば、縦型構造化が図れることのメリットは大きい。
例えば、従来のIII族窒化物の自立基板の製造方法としては、特許文献4および非特許文献1に開示されるように、GaN自立基板の場合、
1)サファイア基板上にMOCVD法で数μm程度のGaN層を形成したのち、HVPE法で厚膜を成長し、レーザーリフトによって剥離させる方式
2)GaAs(111)基板を成長用の基板として用いてHVPE法で厚膜GaNを成長し、成長後GaAs基板自身をエッチング除去してGaN自立基板を得る方式
3)サファイア基板上にMOCVD法で数μm程度のGaN層を形成したのち、Tiをその上に成膜して加熱窒化処理・GaN分解処理を行い、TiNの網目状マスクとボイドを形成し、網目の開口部の下地のGaNを種としてGaNをHVPE法で厚膜成長し、冷却過程で成長界面にあるボイドが剥離を促進させる方式
などがある。
上記1)の方式の場合、レーザー照射で剥離した部分と、密着部間で応力が加わり、クラック等が入りやすく、大面積で歩留まり良くGaN厚膜を分離することが困難であるという問題がある。また、上記2)の方式の場合、結晶中に有害物質であるAsが混入するという問題がある。また、上記3)の場合、界面で剥離を行うために結晶成長開始部分をある意味で不完全な状態としているため、得られるGaN厚膜の結晶欠陥密度が高くなるという問題がある。
そのため、いずれの方式においても品質・製造コスト面の課題をかかえている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/126330号公報
【特許文献2】特開2008−91728号公報
【特許文献3】特開2008−91729号公報
【特許文献4】特開2003−178984号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.Motoki他、“Preparation of Large Freestanding GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using GaAs as a Starting Substrate”、Jpn. J. Appl. Phys. 40 (2001) pp. L140-L143
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に従う窒化物半導体用基板の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明に従う窒化物半導体素子構造体の製造工程を示す模式図である。
【図3】本発明に従う試料の窒化・成長シーケンスを示す図である。
【図4】本発明に従う試料の窒化・成長シーケンスを示す図である。
【図5】窒化処理温度とシート抵抗との関係を示すグラフである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した問題を解決し、レーザーリフトオフ、ケミカルリフトオフを必要とせず、III族窒化物半導体層と結晶成長基板とを分離することが可能である結晶性の良いIII族窒化物半導体自立基板、III族窒化物半導体素子、およびこれらを製造するためのIII族窒化物半導体成長用基板、ならびに、これらを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気ガス中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程とを具えることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【0012】
(2)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気ガス中で、前記金属層を加熱して、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程とを具え、前記窒化処理の最高温度は、500℃以上で、かつ1000℃未満の範囲であることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【0013】
(3)前記アンモニアガスを含む雰囲気ガスが、不活性ガスおよび水素ガスから選ばれる1種以上を更に含む混合ガスである上記(1)または(2)に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【0014】
(4)前記金属層の加熱は、500℃以上での加熱時間が0.1〜120分である上記(1)、(2)または(3)に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【0015】
(5)前記窒化処理を施す工程の後、前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層を形成する工程をさらに具える上記(1)〜(4)のいずれか一に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【0016】
(6)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製し、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と、前記少なくとも一層のIII族窒化物半導体層を素子分離してIII族窒化物半導体素子を得る工程とを具えることを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【0017】
(7)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、最高温度が、500℃以上で、かつ1000℃未満の条件で窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製し、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と、前記少なくとも一層のIII族窒化物半導体層を素子分離してIII族窒化物半導体素子を得る工程とを具えることを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【0018】
(8)前記窒化処理を施した後、前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層を形成する工程をさらに具える上記(6)または(7)に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【0019】
(9)前記初期成長層が、第1バッファ層および該第1バッファ層上に成長された第2バッファ層からなり、前記第1バッファ層の成長温度が900〜1260℃の範囲で、前記第2バッファ層の成長温度が1030〜1300℃の範囲で、かつ前記第1バッファ層の成長温度が前記第2バッファ層の成長温度と等しいか低い上記(8)に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【0020】
(10)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を得、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程とを具えることを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板の製造方法。
【0021】
(11)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、最高温度が、500℃以上で、かつ1000℃未満の条件で窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を得、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程とを具えることを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板の製造方法。
【0022】
(12)少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板と、前記表面部分上に形成されたスカンジウム窒化物膜とを具え、該スカンジウム窒化物膜はシート抵抗が1×104Ω/□より大きいIII族窒化物半導体成長用基板。
【0023】
(13)前記スカンジウム窒化物膜は、一部に金属スカンジウムを含有する上記(12)に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【0024】
(14)前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層をさらに具える上記(12)または(13)に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【0025】
(15)前記スカンジウム窒化物膜の厚さは、3〜100nmである上記(12)、(13)または(14)に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【0026】
(16)前記結晶成長基板のベース基板が、サファイア、Si、SiC、GaNのいずれかであることを特徴とする上記(12)〜(15)のいずれか一に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【0027】
(17)前記少なくとも表面部分が、AlNからなる上記(12)〜(16)のいずれか一に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【0028】
(18)上記(12)〜(17)のいずれか一に記載のIII族窒化物半導体成長用基板を用いて作製することを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板。
【0029】
(19)上記(12)〜(17)のいずれか一に記載のIII族窒化物半導体成長用基板を用いて作製することを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【0030】
(20)結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、前記金属層に窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程と、前記スカンジウム窒化物膜上に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた後、50℃以下の温度まで降温する工程とを具えることを特徴とする結晶成長基板からのIII族窒化物半導体層の剥離方法。
【0031】
(21)前記降温する工程の後、前記結晶成長基板から前記III族窒化物半導体層をスライドさせる上記(20)に記載のIII族窒化物半導体層の剥離方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明のIII族窒化物半導体成長用基板は、少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板と、前記表面部分上に形成されたSc層を窒化して得られるスカンジウム窒化物膜とを具えることにより、その後形成されるIII族窒化物半導体層AlxGayIn1-x-yN(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0≦x+y≦1)の結晶性を大きく損なうことなく、かつ、結晶成長基板からIII族窒化物半導体層を前記III族窒化物半導体層の成長温度から50℃以下に降温することにより容易に剥離することができる。
さらに、前記スカンジウム窒化物膜を形成する際に使用するガスは、アンモニアガスと不活性ガスまたは水素ガスのいずれかであり、色々な成長法でIII族窒化物半導体層の成長用ガスとして一般的に用いられるものであり、特別な設備を必要とせず、工程も簡略である。
【0033】
また、本発明によれば、上記III族窒化物半導体成長用基板を用いることにより、ケミカルリフトオフやレーザーリフトオフを必要とせずに基板除去が可能であり、III族窒化物半導体材料でカバーできる波長帯全域(200nm〜1.5μm)をカバーする、言い換えれば、1200℃以上の高温での成長されるAlNから500℃前後で成長されるInNまでを含むAlxGayIn1-x-yN (0≦x≦1, 0≦y≦1, 0≦x+y≦1)の全組成域の成長温度帯をカバーできる、結晶性が良好なIII族窒化物半導体自立基板、III族窒化物半導体素子を提供することができる。
【0034】
さらに、本発明によれば、少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、前記金属層に対して窒化処理を施す工程とを具えることにより、その後形成されるIII族窒化物半導体層AlxGayIn1-x-yN (0≦x≦1, 0≦y≦1, 0≦x+y≦1)の結晶性を大きく損なうことなく、かつ、結晶成長基板からIII族窒化物半導体層をケミカルリフトオフやレーザーリフトオフを必要とせずに容易に剥離することができるIII族窒化物半導体成長用基板を製造することができる。
【0035】
加えて、本発明は、上記III族窒化物半導体成長用基板を用いて、ケミカルリフトオフやレーザーリフトオフを必要とせず、III族窒化物半導体材料でカバーできる波長帯全域(200nm〜1.5μm)をカバーする、結晶性が良好なIII族窒化物半導体自立基板、III族窒化物半導体素子を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明のIII族窒化物半導体成長用基板の実施形態について図面を参照しながら説明する。ここで、本発明におけるIII族窒化物半導体自立基板とは、50μm以上の厚さのIII族窒化物半導体層を上記III族窒化物半導体成長用基板上に成長させた後、このIII族窒化物半導体成長用基板を剥がして得られたものをいう。図1は、この発明に従うIII族窒化物半導体成長用基板の断面構造を模式的に示したものである。
【0037】
図1に示すIII族窒化物半導体成長用基板1は、少なくとも表面部分、図1では表面部分2が少なくともAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板3と、表面部分2上に窒化が制限された条件で形成されたスカンジウム窒化物からなる窒化物膜4とを具え、かかる構成を採用することにより、スカンジウム窒化物膜4の上方に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を大きく損なわず、かつ、III族窒化物半導体層から結晶成長基板3を前記III族窒化物半導体層の成長温度から50℃以下に冷却することにより剥離することを可能にしたものである。なお、図中のハッチングは、説明のため、便宜上施したものである。
【0038】
III族窒化物半導体成長用基板1は、前記窒化物膜4上に形成された、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層、図1では2層のバッファ層5a,5bからなる初期成長層5をさらに具えるのが好ましい。その上に成長させる窒化物半導体層結晶性を向上させるためである。これらバッファ層のAl組成は、その上に形成される材料に応じて適宜選択することができる。
【0039】
結晶成長基板3は、例えば、サファイア、Si、SiC若しくはGaNのようなベース基板6上に少なくともAlを含むIII族窒化物半導体2を有するテンプレート基板、AlN単結晶基板、または、サファイアの表面を窒化して形成される表面窒化サファイア基板とすることができる。図1は、結晶成長基板3が、サファイア基板6上にAlN単結晶層2を有するAlNテンプレート基板である場合を示したものである。この少なくともAlを含むIII族窒化物半導体からなる表面部分2は、この上方に成長させるAlGaN層の結晶欠陥を低減させる効果を有する。
【0040】
結晶成長基板3は、少なくとも表面部分2が、Al組成が50原子%以上のAlxGa1-xN(0.5≦x≦1)からなるのが好ましく、80原子%以上のAlxGa1-xN(0.8≦x≦1)からなるのがより好ましい。上方に成長させるIII族窒化物半導体層のAl組成と同等程度の場合、ホモエピタキシャル成長となり、転位欠陥密度の少ない良好な結晶性を持つ層を成長させることができるためである。また、上方に成長させるIII族窒化物半導体層のAl組成よりも高くすると、圧縮応力によりさらに転位低減の効果を期待できること、および、III族窒化物半導体材料の中で成長温度が最も高く、その上に成長させるIII族窒化物半導体層の成長時に劣化しないことから、少なくとも表面部分2はAlNからなるのが好ましい。
【0041】
スカンジウム窒化物膜4は、金属Sc膜を窒化処理して、ScN膜を得ることができる。前記窒化処理は、窒化を制限した条件でおこなうことが肝要である。前記の窒化を制限する方法としては、(1)窒化処理温度を調整する、(2)窒化処理雰囲気中のアンモニア濃度を調整する、(3)窒化処理雰囲気の圧力、ガス流量を調整する、(4)窒化処理時間を調整する、が挙げられる。
【0042】
上記のスカンジウム(Sc)層の窒化を制限する条件で窒化処理することで、成長用基板の結晶方位に合う形でスカンジウム窒化物が形成されるものの、剥離の状態から考察するに、金属層表面は十分に窒化されるが、少なくとも成長用基板と金属層との界面付近には、窒化が不十分な金属スカンジウムが残存すると考えられる。
金属Scの線膨張係数は、10.2×10-6という値であり、窒化物半導体のGaN、AlNやサファイア基板、ScNの膨張係数の2倍程度の値であるため、残存Sc金属とその上のScNとの界面、あるいは下地であるIII族窒化物半導体層との界面で、降温過程で応力が発生し、炉から取り出したときには、成長用基板から剥離あるいはスライドさせる程度で簡単に剥離されたIII族窒化物半導体層が得られるものと予想される。
【0043】
スカンジウム窒化物膜4の厚さは、3〜100nmとするのが好ましい。3nm未満であると、スカンジウム窒化物膜4が薄すぎて、金属Sc層の厚さが窒化処理によって不連続状態となり、下地基板である結晶成長基板表面が露出して、結晶成長基板上にIII族窒化物半導体層が直接成長したりして、剥離が困難となる場合がある。一方、100nmを超えると、スカンジウム窒化物膜自体の固相エピによる高結晶化が望めず、その上のIII族窒化物半導体層の結晶性が悪化し、欠陥が増加する可能性があるためである。また、このスカンジウム窒化物膜4は、スパッタ法や真空蒸着法などの方法を用いて結晶成長基板3上に金属Sc層を形成し、窒化処理することにより形成させることができる。
【0044】
図1には示されないが、上述した構成を有するIII族窒化物半導体成長用基板1上に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層を具えることにより、本発明に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル成長基板を得ることができる。
【0045】
同様に、図1には示されないが、上述した構成を有するIII族窒化物半導体成長用基板1を用いて、本発明に従うIII族窒化物半導体自立基板およびIII族窒化物半導体素子を得ることができる。
【0046】
次に、本発明のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0047】
本発明のIII族窒化物半導体成長用基板1は、図1に示すように、少なくとも表面部分2がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板3上にSc材料からなる単一金属層を形成する工程と、前記金属層の窒化を制限した条件で窒化処理することにより、スカンジウム窒化物膜4を形成する工程とを具え、かかる構成を採用することにより、その上方に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を大きく損なうことなくかつ、III族窒化物半導体層から結晶成長基板3を、前記III族窒化物半導体層の成長温度から50℃以下に降温することにより剥離することを可能にしたものである。前記窒化処理は、窒化を制限した条件でおこなうことが肝要である。前記の窒化を制限する方法としては、(1)窒化処理温度を調整する、(2)窒化処理雰囲気中のアンモニア濃度を調整する、(3)窒化処理雰囲気の圧力、ガス流量を調整する、(4)窒化処理時間を調整する、が挙げられる。
【0048】
ベース基板6は、サファイア、Si、SiC、GaN等を使用することができる。基板調達コストの観点から、特にサファイアが好適に使用できる。
Sc材料からなる金属層は、スパッタ法で形成することができる。
Sc材料の窒化処理は、アンモニアガス、あるいは、アンモニアガスと水素ガスおよび/または1種以上の不活性ガスとの混合ガス中で加熱することにより行うことが出来る。ここで、不活性ガスとしては、例えばN2、Ar、He、Ne等の希ガスが挙げられる。Sc材料は昇華性をもつため、昇温過程において、昇華温度よりも低い温度から前記混合ガスまたはアンモニアガスを流し始めることが好ましい。これによりScが窒化されてScNとなることにより高温でも安定した材料となる。また、室温から前記混合ガスまたはアンモニアガスを流し始めても良いが、アンモニアの分解温度である500℃付近から前記混合ガスまたはアンモニアガスを流し始めると、アンモニアガスの浪費を防ぐことができてコスト低下に繋がり好ましい。加熱温度(ベース基板表面温度)は、最高温度が500〜1300℃とすることが好ましい。500℃未満の場合、アンモニアの分解が不十分であり、窒化ができない場合があり、1300℃超の場合には、高温とすることにより、設備寿命が短くなる場合がある。ただし、1000℃以上の場合には、窒化を制限するために、窒化処理雰囲気のアンモニア分圧を小さくする、または窒化処理時間を短くすることが必要となり、窒化処理の最高温度は、500℃以上、1000℃未満とすることが更に好ましい。前記加熱は、500℃以上である時間が、0.1〜120分の範囲であることが好ましい。0.1分未満では、窒化が十分にできない場合があり、120分超としても特に効果はなく、生産性の点で不利になる。不活性ガスの種類は特に限定なく、N2、Ar等を使用することができる。アンモニアガスの濃度は、0.01〜100容量%の範囲とすることができる。前記下限値未満では、窒化が十分にできない場合がある。アンモニアガスの高すぎる場合、窒化処理後の表面の表面粗さが大きくなる場合があり、アンモニアガスの濃度は、0.01〜90容量%が更に好ましい。また、前記混合ガスには、水素を20容量%以下含んでもよい。
【0049】
図5は、(0001)面方位のAlNテンプレート上にSc膜厚が100Å(10nm)、200Å(20nm)となるようスパッタ成膜を施した後、窒化処理温度を変えた場合のシート抵抗値の測定結果を示すものである。なお、窒化処理時間はそれぞれの温度で10分とした。この時のアンモニアガス:窒化ガスの流量比は3:7とし、圧力は200Torrとした。膜の色に関しては、初期はメタリックな色(銀白色)であるが、500℃からは若干灰色みがかってはいるが透明性を有するようになり、1000℃からはオレンジないし黄色となることが分かった。これとほぼ連動した形で、シート抵抗値は、図5に示すように、500℃で初期の抵抗値よりも高くなり始め、900℃までの間はシート抵抗が大幅に増加し、1×104Ω/□より大きくなり、更に5×105Ω/□以上と成る。さらに窒化処理温度を高くすると、1000℃から再びシート抵抗値は低下に転じ、ほぼ所定の値に漸近した。
【0050】
図5における500℃以上1000℃未満の窒化処理温度帯では、窒化を制限した条件での窒化処理とすることができたため、窒素欠乏したScNが形成されこれが絶縁性と可視光透過性を有する。灰色みがかったのは一部に残存した金属Scが離散して混在するためと考えられる。このような窒化を制限した条件で窒化されたScNの上にエピタキシャル成長をすることにより、成長温度から降温した後に、エッチングに因らずにリフトオフすることができる。
さらに温度を上げて窒化処理を行うと、黄色ないしオレンジ色を呈するとともに抵抗値が下がるのは、完全にScNに転化されるため(ScNは導電性を持つ窒化物とされている)と解釈された。このように完全なScNとなる条件では、自然には剥離せず、エッチングによるケミカルリフトオフが必要となる。
なお、上記は代表的な例を示したものである。Sc厚みや窒化処理時間、雰囲気など他の条件によって、状態は変化する場合がある。
【0051】
スカンジウム窒化物膜4上に、AlxGa1-xN材料(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層5を形成する工程をさらに具えるのが好ましい。その後形成されるIII族窒化物半導体厚膜層7の結晶性向上のためであって、その成長温度は、900〜1300℃の範囲とするのが好ましい。尚、前記初期成長層は、MOCVD法、HVPE法(ハイドライドベーパーフェーズエピタキシー法)、PLD法(パルス レーザー ディポジション法)等の公知の成長法で成長することができる。
【0052】
本発明に従うIII窒化物半導体成長用基板1は、上述した方法を用いて製造することができる。
【0053】
次に、図2(a)に示すように、本発明のIII族窒化物半導体自立基板の製造方法は、上述した方法で作製されたIII族窒化物半導体成長用基板1の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体厚膜層7をエピタキシャル成長させる工程を具える。
【0054】
III族窒化物半導体厚膜層7は、最高温度900〜1300℃の範囲で、MOCVD法、HVPE法、PLD法、MBE法等を用いて成長させることを含むのが好ましい。
【0055】
スカンジウム窒化物膜4上に、AlxGa1-xN材料(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層5を形成する工程をさらに具えるのが好ましい。その後形成されるIII族窒化物半導体厚膜層7の結晶性向上のためであって、その成長温度は、900〜1300℃の範囲とするのが好ましい。
【0056】
初期成長層5は、一層とすることもできるが、二層以上とすることがその後形成されるIII族窒化物半導体厚膜層7の結晶性向上の観点からは好ましい。初期成長層5を二層とする場合、第1バッファ層5aおよびこの第1バッファ層5a上に成長された第2バッファ層5bからなり、第1バッファ層5aの成長温度が900〜1260℃の範囲で、第2バッファ層5bの成長温度が1000〜1300℃の範囲で、かつ第1バッファ層5aの成長温度が第2バッファ層5bの成長温度よりも小さいのが好ましい。第1のバッファ層5aを成長させる成長初期の段階において、比較的低い温度で成長させることにより多数の成長初期核の形成を促して結晶性の向上を図り、その後の第2のバッファ層5bを成長させる際に成長温度を高くすることにより多数の初期核の間にできた溝・窪みを埋めることにより、結晶性の向上とともに平坦性を向上させるためである。また、バッファ層は3層以上としてもよく、その場合は、成長温度を順次高くしていくのが好ましい。初期成長層5を一層とする場合には、成長温度を1000〜1300℃の範囲とすることが好ましい。
【0057】
また、本発明のIII族窒化物半導体自立基板の製造方法は、上述した方法で作製されたIII族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、前記III族窒化物半導体層の成長温度から50℃以下に冷却することにより、III族窒化物半導体層と結晶成長基板とを分離して、III族窒化物半導体自立基板を得る工程とを具え、かかる構成を採用することにより、結晶成長用基板3をケミカルリフトオフにより除去するためにCrN材料を用いた場合の温度制限(波長制限)を超えて、全組成域のIII族窒化物半導体材料の成長温度帯をカバーする、結晶性が良好なIII族窒化物半導体自立基板を効率よく製造することができる。
【0058】
III族窒化物半導体層の厚さは、50μm以上とする。ハンドリング性確保のためである。
【0059】
本発明に従うIII族窒化物半導体自立基板は、上述した方法を用いて製造することができる。
【0060】
なお、上述したところは、代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
サファイア上に、MOCVD法を用いてAlN単結晶層(厚さ:1μm)を成長させて、窒化物半導体成長用基板としてAlN(0001)テンプレート基板を作製した。
【0062】
前述のようにして得られたAlNテンプレート基板を用いて、表1に示す条件により試料1−1を作製した。以下に手順を説明する。
AlNテンプレート基板上に、スパッタ法を用いて、Scを20nmの厚さで成膜し、その後、MOCVD装置内に設置して、窒素パージし、200Torrに減圧後に50℃/分のレートで昇温を開始した。図3(a)は昇温・成長における窒化・成長シーケンスを示す。横軸は経過時間、縦軸はプロセス温度(基板表面温度)である。図3(a)に示すように、温度500℃までは、窒素ガスを3.5SLMの流量で流し、昇温途中の500℃からアンモニアガスを流し始めてSc膜の窒化を行った。この時の窒素ガス:アンモニアガスの流量比は表1の値に設定した。引き続き昇温し、900℃に到達した時点でアンモニアガスの供給を停止し、アンモニアガスの流量と同流量の窒素ガスに置き換えて全流量を一定とした。引き続き1140℃まで昇温し、1140℃へ到達後に圧力を200Torrから10Torrへ減圧し、雰囲気を窒素ガスから水素ガスへ置換し、ガス流量をAlNの成長に適する条件へ変更した後、TMAlとアンモニアガスを供給してAlNエピ成長を開始した。自立基板を得るために厚膜とするために成長時間を24時間とした。成長終了後、30℃/分のレートで降温し、室温まで低下し、試料1−1を得た。
MOCVD装置から試料1−1を取り出した所、スカンジウム窒化物膜と下地基板として用いたAlNテンプレートとの界面で自然に剥離が起きており、厚さ約50μmのAlN(0001)自立基板を得ることができた。
【0063】
【表1】

【0064】
(比較例1)
実施例1と同様にAlN(0001)テンプレート基板を用いて、表1に示す条件により、図3(b)に示す窒化・成長シーケンスにより試料1−2を作製した。以下に手順を説明する。
AlNテンプレート基板上に、スパッタ法を用いて、Scを10nmの厚さで成膜し、その後、MOCVD装置内に設置して、窒素パージし、200Torrに減圧後に50℃/分のレートで昇温を開始した。温度500℃までは、窒素ガスを3.5SLMの流量で流し、昇温途中の500℃からアンモニアガスを流し始めてSc膜の窒化を行った。この時の窒素ガス:アンモニアガスの流量比は試料1−1と同じであるが、図3(b)のように引き続き、アンモニアと窒素の混合ガスを流した状態で、1200℃まで昇温し、1200℃にて10分間保持してさらに窒化処理を行った。その後、1140℃へ2分間で降温し、圧力を200Torrから10Torrへ減圧し、雰囲気を窒素とアンモニアの混合ガスから水素とアンモニアの混合ガスへ置換し、ガス流量をAlNの成長に適する条件へ変更した後、更にTMAlを供給してAlNエピ成長を開始した。試料1−1と同様に成長時間を24時間とした。成長終了後、30℃/分のレートで降温し、室温まで低下し、試料1−2を得た。
MOCVD装置から試料1−2を取り出した所、AlNテンプレート基板上にスカンジウム窒化物膜とAlN厚膜が形成された一体物が得られ、自然に剥離したAlN自立基板を得ることはできず、剥離には塩酸等を用いたスカンジウム窒化物膜のエッチングが必要であった。
【0065】
(実施例2)
2インチ口径のサファイア基板上に面方位(0001)の厚み1μmのAlN単結晶層をMOCVD法で作製した(AlNテンプレート)。次いで、表2(試料2−1)に示すように、AlNテンプレート表面上にスパッタ法により20nmのSc金属膜を成膜した。Sc金属膜を成膜した試料をHVPE(ハイドライド ベーパー フェーズ エピタキシー)装置にセットした。図4(a)に示すシーケンスならびに表2の成長条件レシピにより、窒化・成長をおこなった。Sc金属膜を成膜した試料を窒素雰囲気中(流量は300sccmで昇温開始から冷却終了まで流し続ける)で22℃/分のレートで900℃まで昇温した。基板温度が500℃となった時点で、アンモニアガスを1000sccmの流量で流し始め、900℃で10分間保持して、Scを窒化してScNに転化させた。この間、基板加熱と並行してGaソース部の温度を850℃まで加熱しておく。なお、Gaソース部は100sccmの流量で水素ガスで昇温開始から冷却終了までパージしている。
900℃で10分間保持した後、Gaソース部に80sccmの流量でHClガスを流し始め、生成されたGaClを基板表面に供給することで、GaN初期成長層の成長を開始した。初期成長層の成長時間は10分間とした。一旦HClガスの供給を停止し、アンモニアと窒素の混合ガス雰囲気中で基板温度を1040℃まで22℃/分のレートで再昇温を行った。温度安定を待ち、再びGaソース部に40sccmの流量でHClガスを流し、GaN成長を開始し2時間の厚膜成長を行った。
その後、30℃/分の冷却速度で冷却を行い、600℃まで基板温度が下がった時点でアンモニアガスの供給を停止し、窒素雰囲気中で室温まで冷却し、試料2−1を得た。
試料2−1の窒化・成長シーケンスを図4(a)に示す。
HVPE炉から試料2-1を取り出した際に、試料2−1を傾けただけでは、成長用基板とGaN厚膜層は分離しなかったが、軽微な力でGaN厚膜層をスライドさせただけでクラック等の発生も無い状態で、成長用基板から剥離することができた。剥離した界面の状態を観察したところ、AlNテンプレートとScN間で剥離しておりScN層はGaN厚膜側に付着した状態であった。
ScNは各種酸性溶液に溶解するので、ここでは塩酸(36wt%)に試料2−1のGaN厚膜側を5分間浸漬して、ScN層を完全に除去し、GaN自立基板を得た。GaN自立基板の中心部の厚みを測定した結果、157μmであった。
【0066】
【表2】

【0067】
(比較例2)
2インチ口径のサファイア基板上に面方位(0001)の厚み1μmのAlN単結晶層をMOCVD法で作製した(AlNテンプレート)。次いで、表2(試料2−2)に示すように、AlNテンプレート表面上にスパッタ法により20nmのSc金属膜を成膜した。Sc金属膜を成膜した試料を実施例2と同様に準備し、HVPE装置にセットした。図4(b)に示すシーケンスならびに表2の成長装条件レシピにより、窒化・成長をおこなった。
窒素雰囲気中(流量は300sccmで昇温開始から冷却終了まで流し続ける)で22℃/分のレートで1200℃まで昇温した。基板温度が500℃となった時点で、アンモニアガスを1000sccmの流量で流し始め、1200℃で10分間保持して、Scを窒化してScNに転化させた。この間、基板加熱と並行してGaソース部の温度を850℃まで加熱しておく。なお、Gaソース部は100sccmの流量で水素ガスで昇温開始から冷却終了までパージしている。
1200℃で10分間保持した後、900℃まで降温した後、5分間程度温度の安定するのを待ち、Gaソース部に80sccmの流量でHClガスを流し始め、生成されたGaClを基板表面に供給することで、GaN初期成長層の成長を開始した。初期成長層の成長時間は10分間とした。一旦HClガスの供給を停止し、アンモニアと窒素の混合ガス雰囲気中で基板温度を1040℃まで22℃/分のレートで再昇温を行った。温度安定を待ち、再びGaソース部に40sccmの流量でHClガスを流し、GaN成長を開始し2時間の厚膜成長を行った。
その後、30℃/分の冷却速度で冷却を行い、600℃まで基板温度が下がった時点でアンモニアガスの供給を停止し、窒素雰囲気中で室温まで冷却し、試料2−2を得た。
HVPE装置から試料2−2を取り出したところ、GaN厚膜は試料基板と完全密着状態であり剥離はできず、剥離には塩酸等を用いたスカンジウム窒化物膜のエッチングが必要であった。
なお、試料2−2の厚さを測定し、サファイア基板の厚みを差し引きGaN厚膜部の厚みを算出したところ、153μmであった。
【0068】
(比較例3)
AlNテンプレート上の金属種がCrであること、ならびにHVPE炉でのアンモニアガス供給開始温度が600℃である事以外は、実施例2と同様の条件にてGaNの厚膜を成長して、試料2−3を得た。試料2−3の窒化・成長条件を表2に、シーケンスを図4(a)に示す。
冷却後にHVPE装置から取り出した試料2−3のGaN厚膜は試料基板と密着状態で、エッチングに因らずには剥離はできなかった。
これは、従来の報告例(特開2008−110912)とも一致する。
【0069】
(比較例4)
AlNテンプレート上の金属種がCrであること、ならびにHVPE炉でのアンモニアガス供給開始温度が600℃である事、窒化処理の最高温度が1080℃であること以外は比較例2と同様の条件にてGaNの厚膜を成長して、試料2−4を得た。試料2−4の窒化・成長条件を表2に、シーケンスを図4(b)に示す。
冷却後にHVPE装置から取り出した試料2−4のGaN厚膜は試料基板と密着状態で、エッチングに因らずには剥離はできなかった。
これは硝酸二セリウムアンモニウム系エッチング液を用いたケミカルリフトオフでのみ剥離が可能であるという前記報告例とも一致する。
以上、本発明は、高速で化合物半導体層の成長が可能なHVPE法でのGaNの厚膜成長にも適用することができ、実施例2ならびに比較例2〜比較例4より本発明による自立基板製造技術はコスト的にも優れた技術であるといえる。
【0070】
以上、実施の形態および実施例において具体例を示しながら本発明を詳細に説明したが、本発明は上記発明の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない範囲であらゆる変更や変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のIII族窒化物半導体成長用基板は、少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板と、前記表面部分上に形成されたSc(スカンジウム)を窒化処理したスカンジウム窒化物膜その上方に形成されるIII族窒化物半導体層AlxGayIn1-x-yN(0≦x≦1, 0≦y≦1, 0≦x+y≦1)の結晶性を向上させ、かつ、III族窒化物半導体層成長後に、基板温度をIII族窒化物半導体層成長温度から50℃以下にすることにより、III族窒化物半導体層から結晶成長基板を容易に剥離することができる。
【0072】
また、本発明によれば、上記III族窒化物半導体成長用基板を用いることにより、CrN材料を用いた場合の温度制限を超えて、全組成域のIII族窒化物半導体材料の成長温度帯をカバーする、結晶性が良好なIII族窒化物半導体エピタキシャル基板、III族窒化物半導体素子およびIII族窒化物半導体自立基板をレーザーリフトオフおよびケミカルリフトオフを必要としない製法により提供することができる。
【0073】
さらに、本発明によれば、少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に形成されたSc(スカンジウム)を窒化処理したスカンジウム窒化物膜を具えることにより、その後形成されるIII族窒化物半導体層AlxGayIn1-x-yN (0≦x≦1, 0≦y≦1, 0≦x+y≦1)の結晶性を向上させ、かつ、III族窒化物半導体層から結晶成長基板をIII族窒化物半導体層成長後に、基板温度をIII族窒化物半導体層成長温度から50℃以下に
することにより、容易に剥離することができるIII族窒化物半導体成長用基板を製造することができる。
【0074】
加えて、本発明は、上記III族窒化物半導体成長用基板を用いて、CrN材料を用いた場合の温度制限を超えて、全組成域のIII族窒化物半導体材料の成長温度帯をカバーする、結晶性が良好なIII族窒化物半導体エピタキシャル基板、III族窒化物半導体素子およびIII族窒化物半導体自立基板を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 III族窒化物半導体成長用基板
2 表面部分
3 結晶成長基板
4 スカンジウム窒化物膜
5 初期成長層
5a 第1バッファ層
5b 第2バッファ層
6 ベース基板
7 III族窒化物半導体厚膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気ガス中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程と
を具えることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【請求項2】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気ガス中で、前記金属層を加熱して、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程と
を具え、前記窒化処理の最高温度は、500℃以上で、かつ1000℃未満の範囲であることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【請求項3】
前記アンモニアガスを含む雰囲気ガスが、不活性ガスおよび水素ガスから選ばれる1種以上を更に含む混合ガスである請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属層の加熱は、500℃以上での加熱時間が0.1〜120分である請求項1、2または3に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【請求項5】
前記窒化処理を施す工程の後、前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層を形成する工程をさらに具える請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用基板の製造方法。
【請求項6】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、
前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製し、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と、
前記少なくとも一層のIII族窒化物半導体層を素子分離してIII族窒化物半導体素子を得る工程と
を具えることを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、最高温度が、500℃以上で、かつ1000℃未満の条件で窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、
前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製し、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と、
前記少なくとも一層のIII族窒化物半導体層を素子分離してIII族窒化物半導体素子を得る工程と
を具えることを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記窒化処理を施した後、前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層を形成する工程をさらに具える請求項6または7に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記初期成長層が、第1バッファ層および該第1バッファ層上に成長された第2バッファ層からなり、前記第1バッファ層の成長温度が900〜1260℃の範囲で、前記第2バッファ層の成長温度が1030〜1300℃の範囲で、かつ前記第1バッファ層の成長温度が前記第2バッファ層の成長温度と等しいか低い請求項8に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、窒化を制限した条件下で、窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、
前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を得、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と
を具えることを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項11】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
アンモニアガスを含む雰囲気中で、前記金属層を加熱して、最高温度が、500℃以上で、かつ1000℃未満の条件で窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成し、III族窒化物半導体成長用基板を作製する工程と、
前記III族窒化物半導体成長用基板の上方に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を得、前記III族窒化物半導体エピタキシャル基板を50℃以下の温度として、前記III族窒化物半導体層と前記結晶成長基板とを分離する工程と
を具えることを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項12】
少なくとも表面部分がAlを含むIII族窒化物半導体からなる結晶成長基板と、
前記表面部分上に形成されたスカンジウム窒化物膜と
を具え、該スカンジウム窒化物膜はシート抵抗が1×104Ω/□より大きいIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項13】
前記スカンジウム窒化物膜は、一部に金属スカンジウムを含有する請求項12に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項14】
前記スカンジウム窒化物膜上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる少なくとも一層のバッファ層からなる初期成長層をさらに具える請求項12または13に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項15】
前記スカンジウム窒化物膜の厚さは、3〜100nmである請求項12、13または14に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項16】
前記結晶成長基板のベース基板が、サファイア、Si、SiC、GaNのいずれかであることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項17】
前記少なくとも表面部分が、AlNからなる請求項12〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用基板。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用基板を用いて作製することを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板。
【請求項19】
請求項12〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用基板を用いて作製することを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項20】
結晶成長基板上に、Sc材料からなる金属層を形成する工程と、
前記金属層に窒化処理を施してスカンジウム窒化物膜を形成する工程と、
前記スカンジウム窒化物膜上に、少なくとも一層のIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた後、50℃以下まで降温する工程と
を具えることを特徴とする結晶成長基板からのIII族窒化物半導体層の剥離方法。
【請求項21】
前記降温する工程の後、前記結晶成長基板から前記III族窒化物半導体層をスライドさせる請求項20に記載のIII族窒化物半導体層の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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