説明

III族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置

【課題】 アクセス抵抗およびオン抵抗が低いIII族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置を提供する。
【解決手段】
障壁層902は、チャネル層901上方にヘテロ接合され、
チャネル層901の上部の一部およびその上方の障壁層902が除去されて凹部が形成され、
チャネル層901および障壁層902の一部にn型導電層領域904が形成され、
n型導電層領域904は、前記凹部の表面を含み、
n型導電層領域904の深さTimpが、n型導電層領域904表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上であり、
オーミック電極906および907は、前記凹部の表面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触していることを特徴とする、III族窒化物半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、GaN系ヘテロ接合電界効果トランジスタでは、アクセス抵抗、オン抵抗等の低減のために、オーミック電極下の半導体構造(例えば、AlGaN/GaN構造)に、Si等のドーパントをイオン注入し、選択的にn型層を形成することが試みられている。
【0003】
図4の断面図に、この種のGaN系ヘテロ接合電界効果トランジスタ(通称、HEMT:High Electron Mobility Transistor)の構造の一例を概略的に示す。なお、電界効果トランジスタをFETと略称することがあり、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HEMT)は、電界効果トランジスタの一種である。図示の通り、このHEMTは、基板(図示せず)上に、バッファ層(図示せず)を介してGaN層901が形成されており、GaN層901上面にAlGaN層902がヘテロ接合されている。GaN層901は、AlGaN層902よりも電子親和力が大きく、小さなバンドギャップを有する。AlGaN層902上には、ゲート電極905、ソース電極906およびドレイン電極907(オーミック電極)が形成され、ソース電極906およびドレイン電極907は、ゲート電極905を挟むように配置されている。GaN層901の上部およびAlGaN層におけるソース電極906の下方の部分は、n型不純物注入領域904を形成している。同様に、GaN層901の上部およびAlGaN層902におけるドレイン電極907の下方の部分も、n型不純物注入領域904を形成している。このHEMTがオン状態のとき、AlGaN層902およびGaN層901のヘテロ接合界面およびその近傍に2次元電子ガス層903のチャネルが形成され、この2次元電子ガス層903に電流が流れる。このようなGaN系HEMTに関する先行技術文献としては、例えば、特許文献1(特開2007−335768号公報)が挙げられる。
【0004】
また、オーミック・コンタクト抵抗値の低減目的で、オーミック電極部におけるトレンチ(メサ)形成とn型不純物拡散を用いることが行われている。図6に、このようなHEMTの構造の一例を示す。図示の通り、このHEMTは、基板(図示せず)上に、GaN層901が形成されており、GaN層901上方に、障壁層909およびAlGaN層902が、前記順序で積層されている。障壁層909およびAlGaN層902は、GaN層901にヘテロ接合されている。GaN層901は、AlGaN層902よりも電子親和力が大きく、小さなバンドギャップを有する。ソース電極906およびドレイン電極907は、ゲート電極905を挟むように配置されている。このHEMTにおいては、オーミック電極(ソース電極906、ドレイン電極907)形成に際し、まず、オーミック電極形成部付近に、GaN層901上部まで達するトレンチ(メサ)101を形成する。次に、トレンチ(メサ)101上に不純物の拡散ソースを堆積し、さらに、アニールによるn型不純物の拡散と活性化を行い、n型不純物注入領域904を形成する。前記不純物拡散ソースを除去した後、n型不純物注入領域904上にオーミック電極(ソース電極906、ドレイン電極907)を形成する。このようなGaN系HEMTに関する先行技術文献としては、例えば、特許文献2(特開2007−329350号)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−335768
【特許文献2】特開2007−329350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
III族窒化物半導体素子において、より高性能を得るためには、アクセス抵抗およびオン抵抗をさらに低減することが求められる。
【0007】
そこで、本発明は、アクセス抵抗およびオン抵抗が低いIII族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のIII族窒化物半導体素子は、
チャネル層と、障壁層と、オーミック電極とを含み、
前記チャネル層および前記障壁層は、III族窒化物半導体から形成され、
前記障壁層は、前記チャネル層上方にヘテロ接合され、
前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層が除去されて凹部が形成され、
前記チャネル層および前記障壁層の一部にn型導電層領域が形成され、
前記n型導電層領域は、前記凹部の表面を含み、
前記n型導電層領域の深さが、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上であり、
前記オーミック電極は、前記凹部の表面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触していることを特徴とする。
【0009】
本発明のIII族窒化物半導体素子の製造方法は、
III族窒化物半導体によりチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、
前記チャネル層上方に、III族窒化物半導体をヘテロ接合させて障壁層を形成する障壁層形成工程と、
前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層を除去して凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の表面を含む領域に、n型不純物イオンを、前記領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上の深さに達するように、電位差により加速してドーピングし、アニール処理により活性化してn型導電層領域を形成するn型導電層領域形成工程と、
前記凹部の表面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触するオーミック電極を形成するオーミック電極形成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電子装置は、前記本発明のIII族窒化物半導体素子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクセス抵抗およびオン抵抗が低いIII族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のIII族窒化物半導体素子の一例を示す断面図である。
【図2】図1のIII族窒化物半導体素子におけるオーミック電極周囲の抵抗成分を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のIII族窒化物半導体素子における凹部(リセス部)の他の形状を例示する断面図である。
【図4】本発明と関連するIII族窒化物半導体素子の一例を示す断面図である。
【図5】本発明と関連するIII族窒化物半導体素子の別の一例を示す断面図である。
【図6】本発明と関連するIII族窒化物半導体素子のさらに別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のIII族窒化物半導体素子において、「オン抵抗」は、電圧オン時(電圧印加時)における、正バイアス印加側と負バイアス印加側との間(例えば、ソース電極とドレイン電極との間、またはアノード電極とカソード電極との間)の電気抵抗を言う。「アクセス抵抗」は、オーミック電極と2次元電子ガス(2DEG)との間の電気抵抗を言う。「コンタクト抵抗」は、直接接触する2つの部分の間の抵抗を言い、例えば、「オーミック・コンタクト抵抗」は、オーミック電極(ソース電極、ドレイン電極、アノード電極、カソード電極等)が障壁層と直接接触している場合に、前記オーミック電極と前記障壁層との間の電気抵抗を言う。
【0014】
本発明において、「上に」および「上方に」は、特に断らない限り、他の構成要素を介さずに上面に直接接触した状態でも良いし、間に他の構成要素が存在していても良い。「下に」および「下方に」も同様とする。また、「上面に」は、他の構成要素を介さずに上面に直接接触した状態とする。「下面に」も同様とする。
【0015】
本発明において、n型不純物(ドナー不純物)濃度等を、体積密度(cm−3等)で表す場合、特に断らない限りは、原子数についての体積密度を表す。n型不純物イオンの実効ドーズ量等を、面積密度(cm−2等)で表す場合も同様に、特に断らない限りは、原子数についての面積密度を表す。また、「実効ドーズ量」は、前記スルー膜による吸収等のロスを差し引いた後の、前記電子吸収層上面に到達した実際のドーズ量を言う。
【0016】
本発明において、イオン化ドナー不純物濃度(イオン化されたn型不純物の濃度)は、特に断らない限り、III族窒化物半導体素子のいずれの電極にも電圧を印加しない状態における濃度をいうものとする。
【0017】
本発明において、「組成」および「組成比」とは、例えば、AlGa1−xNの組成で表される半導体層において、xの数値を「Al組成比」という。また、本発明において、半導体層の組成または組成比を規定する場合、導電性等を発現させる不純物(ドーパント)は、半導体層を構成する元素として考慮しないものとする。例えば、p型GaN層とn型GaN層とは、不純物(ドーパント)が異なるが、組成は同一であるものとする。また、例えば、n型GaN層と、不純物濃度がさらに高いnGaN層とがあった場合、それらの組成は同一であるものとする。
【0018】
以下、本発明について、図面を参照しつつさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、重複する部分の説明は適宜省略する場合がある。また、断面図において、各部の寸法比等は、説明の便宜のため、実物とは異なる。
【0019】
[第1の実施形態]
図1(a)の断面図に、本発明のIII族窒化物半導体素子の一例の構造を示す。同図のIII族窒化物半導体素子は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HEMT)である。図示のとおり、このHEMTは、チャネル層901と、複数の障壁層909および902と、オーミック電極906および907とを含む。906は、ソース電極であり、907は、ドレイン電極である。前記チャネル層901、前記障壁層909および前記障壁層902は、III族窒化物半導体から形成されている。前記チャネル層901、前記障壁層909および前記障壁層902は、基板(図示せず)上に前記順序で積層されている。前記障壁層909および902は、チャネル層901上方にヘテロ接合されている。チャネル層901は、例えば、GaN等により形成されている。障壁層909は、例えば、AlN等により形成されている。障壁層902は、例えば、AlGaN等により形成されている。チャネル層901において、障壁層902とのヘテロ接合界面近傍には、ヘテロ接合チャネル(2次元電子ガス層)903が形成されている。チャネル層901の左右の両端部分と、その上方の障壁層909および902は、除去され、凹部が形成されている。同図においては、前記凹部の表面は、側面および底面を有する。また、同図において、前記凹部の側面は、前記ヘテロ接合界面に対して傾斜角度を有する。なお、これら凹部を形成する、チャネル層901の左右の両端部分およびその上方の部分101を、以下、「メサ」ということがある。メサ101の深さは、ヘテロ接合チャネル903より深い以外は特に制限されないが、通常は、450Å以上であれば十分である。なお、1Åは、1×10−10m(0.1nm)に等しい。チャネル層901、障壁層909および障壁層902の一部には、n型導電層領域904が形成されている。n型導電層領域904は、前記凹部の側面および底面を含む。n型導電層領域904の深さTimpは、n型導電層領域904表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上である。前記オーミック電極(ソース電極906およびドレイン電極907)は、前記凹部の側面および底面を介してn型導電層領域904にオーミック接触している。また、同図のHEMTは、さらに、ゲート電極905を含む。ゲート電極905は、障壁層902上(上方)に設けられ、ソース電極906とドレイン電極907の間に配置されている。なお、本発明において、前記n型導電層領域は、半導体である前記障壁層(例えばAlGaN)、および前記チャネル層(例えばGaN)の伝導帯下端エネルギーレベルが、n型不純物によってフェルミレベル以下になって縮退状態となることにより、高い導電性を有する。前記障壁層上面から前記上面と垂直方向に測定した前記n型導電層領域の深さは、前記障壁層上面から前記ヘテロ接合チャネル(2次元電子ガス)までの深さよりも深いことが好ましい。本発明では、前記n型導電層領域の深さは、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で、15nm以上必要である。前記n型導電層領域の深さは、好ましくは20nm以上、さらに好ましくは45nm以上である。前記深さの上限値は特に制限されないが、例えば300nm以下である。
【0020】
また、図1(b)に、本発明のIII族窒化物半導体素子の別の一例の構造を示す。同図のIII族窒化物半導体素子は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HEMT)である。このHEMTの構造は、障壁層が、902の一層のみであり、チャネル層901の上面に障壁層902が直接接触していること以外は、図1(a)のHEMTと同様である。図1(c)に、本発明のIII族窒化物半導体素子のさらに別の一例の構造を示す。このIII族窒化物半導体素子の構造は、ゲート電極905を有さない以外は、図1(b)と同様である。
【0021】
前記の通り、本発明のIII族窒化物半導体素子は、前記チャネル層および前記障壁層の一部にn型導電層領域が形成されている。前記n型導電層領域は、前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層が除去された前記凹部の表面(例えば側面および底面)を含む。前記n型導電層領域の深さは、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上である。前記オーミック電極は、前記凹部の表面(例えば側面および底面)を介して前記n型導電層領域にオーミック接触している。これにより、本発明のIII族窒化物半導体素子は、前記オーミック電極と、前記チャネル層中における2次元電子ガス(2DEG)との間のアクセス抵抗が低減されており、ひいては、オン抵抗が低減されている。また、本発明のIII族窒化物半導体素子は、これら以外の構成要素を適宜含んでいても良いし、含んでいなくても良い。例えば、本発明のIII族窒化物半導体素子は、図1(a)および(b)のように、ゲート電極を含んでいてもよいし、図1(c)のように、ゲート電極を含んでいなくても良い。また、前記ゲート電極は、図1(a)および(b)では、障壁層902上面に直接接触した形態を図示しているが、これに限定されない。例えば、本発明のIII族窒化物半導体素子は、さらに、ゲート絶縁膜を含み、前記ゲート電極が、前記ゲート絶縁膜を介して、前記障壁層の上方に形成されていても良い。また、例えば、前記障壁層と前記チャネル層の間には、図1(a)〜(c)のように、他の構成要素がなくても良いが、他の構成要素が存在しても良い。
【0022】
また、前記オーミック電極と、前記2DEGとの間のアクセス抵抗をさらに効果的に低減するために、前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅が、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に50nm以上であることが好ましい。前記へテロ接合界面において、「前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向」の幅とは、例えば、図1(a)〜(c)において、符号Wで示す幅である。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅は、好ましくは、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に100nm以上である。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅の上限値は、特に制限されないが、アクセス抵抗低減の観点から、例えば、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に、3μm以下である。詳しくは後述する。
【0023】
本発明のIII族窒化物半導体素子は、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、5℃以上35℃以下の温度条件下で1×1019cm−3以上であることが好ましい。本発明のIII族窒化物半導体素子の動作温度が室温すなわち5℃以上35℃以下である場合、前記イオン化された前記n型不純物の濃度が前記条件を満たせば、前記オーミック電極と2次元電子ガス(2DEG)との間のアクセス抵抗等を低減しやすいためである。ただし、本発明のIII族窒化物半導体素子の用途によっては、動作温度が室温と大きく異なる場合がある。例えば、自動車のエンジンルームにおいて本発明のIII族窒化物半導体素子を動作させる場合が挙げられる。このような場合、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、5℃以上35℃以下の温度条件下で1×1019cm−3以上であることが好ましい。本発明のIII族窒化物半導体素子の動作温度は特に制限されず、例えば室温であるが、前記自動車のエンジンルームで動作させる場合は、例えば、5℃以上250℃以下である。また、本発明のIII族窒化物半導体素子の動作環境としては、自動車のエンジンルーム以外に、例えば、北極圏や南極圏などの極地等の寒冷地が挙げられる。極地等の寒冷地の環境で動作させる場合の動作温度は、例えば−60℃〜20℃、好ましくは−40℃〜20℃、より好ましくは−30℃〜20℃である。なお、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分は、好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ10nm以上にわたって、より好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ20nm以上にわたって、さらに好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ30nm以上にわたって、前記イオン化されたn型不純物を1×1019cm−3以上の濃度で含むものとする。この場合、イオン化されたn型不純物濃度の測定温度条件は、前記の通り、5℃以上35℃以下、または本発明のIII族窒化物半導体素子の動作温度条件下である。これらの深さの範囲において前記イオン化されたn型不純物が1×1019cm−3以上の濃度であれば、前記オーミック電極と2次元電子ガス(2DEG)との間のアクセス抵抗等を、さらに効果的に低減できる。また、これらの深さの範囲において前記イオン化されたn型不純物が1×1019cm−3以上の濃度であれば、前記へテロ接合界面における前記イオン化されたn型不純物の濃度(体積密度)が1×1019cm−3以上となる。また、前記アクセス抵抗等をさらに低減させる観点から、5℃以上35℃以下の温度条件下または本発明のHEMTの動作温度条件下におけるイオン化ドナー不純物濃度(イオン化された前記n型不純物の濃度)は、前記n型導電層領域全体にわたって(前記チャネル層上部から前記障壁層上面にわたって)1×1019cm−3以上であることが特に好ましい。
【0024】
本発明のIII族窒化物半導体素子は、前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層が除去された前記凹部が、側面および底面を有し、前記凹部側面が、前記へテロ接合界面に対して45度±15度の範囲内の傾斜角度を有することが好ましい。後述するように、前記傾斜角度が大きすぎずかつ小さすぎないことが、前記オーミック電極と前記2DEGとの間のアクセス抵抗低減のために好ましい。前記傾斜角度は、より好ましくは35〜55度、さらに好ましくは40〜50度である。なお、図1における前記凹部(リセス部)は、側面および底面を有し、前記側面が、前記へテロ接合界面に対し、90度未満の傾斜角度を有する。ただし、本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記凹部(リセス部)の形状は、特に制限されない。例えば、前記凹部(リセス部)は、図3(a)のように、前記側面の傾斜角度が90度でも良い。また、前記凹部(リセス部)は、図3(b)のように、前記側面の傾斜角度が90度を超え、前記側面がオーバーハングしている形状でも良い。また、例えば、前記凹部(リセス部)は、図3(c)のように、その表面が曲面を有し、側面および底面が明確に分かれていない形状でも良い。なお、図3(a)〜(c)は、前記凹部(リセス部)の形状を示す図面であるため、簡略化のために、ヘテロ接合チャネル、オーミック電極等は図示を省略している。
【0025】
なお、前記n型導電層領域におけるイオン化された前記n型不純物(イオン化ドナー不純物)濃度の上限値は、特に限定されないが、不純物濃度の固溶限界の観点から、例えば、1022cm−3以下である。すなわち、前記n型導電層領域の結晶品質の劣化防止の観点から、前記n型不純物(イオン化ドナー不純物)濃度が、不純物濃度の固溶限界を超えないことが好ましい。
【0026】
本発明のIII族窒化物半導体素子は、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面における前記n型不純物の濃度が、1×1020cm−3以上であることが好ましい。これによれば、前記n型導電層領域におけるイオン化された前記n型不純物(イオン化ドナー不純物)濃度が、1×1019cm−3以上という条件を満たしやすい。
【0027】
なお、前記n型導電層領域において、n型不純物濃度の分布は、特に制限されないが、深さの関数となる。深さの基準は、特に制限されず、例えば、障壁層表面からの深さで表しても良い。また、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面近傍におけるn型不純物濃度すなわちn型不純物の体積密度は、例えば、前記へテロ接合界面からの深さzを変数とした場合の体積密度、すなわちzの関数で表すことができる。この場合、「前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるn型不純物濃度」は、z=0におけるn型不純物濃度となる。この値は、通常の測定機器により測定できる。イオン化されたn型不純物濃度も、通常の測定機器により測定可能である。また、本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分は、好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ10nm以上にわたって、より好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ20nm以上にわたって、さらに好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ30nm以上にわたって、n型不純物を1×1020cm−3以上の濃度で含むものとする。これらの深さの範囲においてn型不純物が1×1020cm−3以上の濃度であれば、前記オーミック電極と2次元電子ガス(2DEG)との間のアクセス抵抗等を、さらに効果的に低減できる。また、これらの深さの範囲においてn型不純物が1×1020cm−3以上の濃度であれば、前記へテロ接合界面におけるn型不純物濃度(体積密度)が1×1020cm−3以上となる。
【0028】
さらに、本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記アクセス抵抗等をさらに低減させる観点から、前記n型不純物濃度は、前記n型導電層領域全体にわたって(前記チャネル層上部から前記障壁層上面にわたって)1×1020cm−3以上であることが好ましい。なお、前記n型導電層領域における前記n型不純物(ドナー不純物)濃度の上限値は、結晶品質の良好性の観点から、1022cm−3以下であることが好ましい。
【0029】
なお、本発明のIII族窒化物半導体素子の前記チャネル層の上部および前記障壁層において、前記n型導電層領域以外の部分は、例えば、ノンドープであるが、これに限定されない。前記n型導電層領域以外の部分は、n型不純物を全く含んでいなくても良いし、例えば、若干のn型不純物を含んでいてもよい。また、例えば、前記障壁層にn型不純物が導入(ドーピング)されており、これにより、前記障壁層と前記チャネル層とのヘテロ接合界面およびその近傍に2次元電子ガス層が形成されていても良い。前記n型導電層領域以外の部分におけるn型不純物濃度は、前記障壁層では、特に制限されない。前記チャネル層においても、前記n型不純物濃度は、特に制限されないが、例えば1×1017cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、より好ましくは1×1015cm−3以下である。なお、前記チャネル層上部および前記障壁層における前記n型導電層領域以外の部分では、前記n型導電層領域との境界において、n型不純物の濃度は、通常、ステップ状に減少するのではなく、徐々に減少する。より具体的には、例えば、前記n型導電層領域以外の部分は、前記n型導電層領域との境界に遷移領域を有し、前記遷移領域内で、前記n型不純物濃度が徐々に減少する。なお、前記チャネル層の層平面方向における前記遷移領域の幅は、通常、イオン注入における注入イオンの飛程距離にほぼ比例して変化し、例えば、前記飛程距離の半分程度の値となる。
【0030】
本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記オーミック電極の形成材料は、特に制限されず、例えば、一般的なIII族窒化物半導体素子等と同様でも良い。前記オーミック電極は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)、それらの酸化物、およびそれらの窒化物からなる群から選択される少なくとも一つから形成されていることが好ましい。また、前記n型不純物も特に制限されないが、28Siおよび29Siの少なくとも一方であることが好ましい。
【0031】
また、本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記チャネル層は、窒化ガリウム(GaN)、または窒化インジウムガリウム(InGaN)から形成されていることが好ましい。前記障壁層は、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウム(AlN)、または窒化インジウムアルミニウム(InAlN)から形成されていることが好ましい。前記チャネル層と前記障壁層の組み合わせは特に制限されず、例えば、一般的なHEMT等を参考に、前記障壁層のバンドギャップが前記チャネル層よりも大きくなる組み合わせを適宜選択すれば良い。前記障壁層が複数の場合は、前記複数の障壁層が、異なる材料から形成されていても良い。例えば、前記複数の障壁層が、前記チャネル層上方に積層され、前記チャネル層に最も近接した前記障壁層が、他の障壁層よりもAl組成比が高いことが好ましい。前記チャネル層に最も近接した前記障壁層は、AlNから形成されていることが特に好ましい。または、前述のように、前記障壁層にn型不純物をドーピングしても良い。
【0032】
本発明のIII族窒化物半導体素子の用途は特に制限されないが、例えば、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HEMT)として好ましく用いることができる。このような本発明のHEMTは、例えば図1(a)または(b)のように、前記凹部および前記オーミック電極が、それぞれ複数形成され、前記オーミック電極が、1以上のソース電極と1以上のドレイン電極とを含み、さらに、ゲート電極を含み、前記ゲート電極が、前記障壁層上に形成されていることが好ましい。
【0033】
本発明のIII族窒化物半導体素子の製造方法は、特に制限されないが、前記本発明の製造方法により製造することが好ましい。また、前記本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体素子は特に制限されないが、前記本発明のIII族窒化物半導体素子であることが好ましい。以下、図1(a)のHEMTを例として、本発明のIII族窒化物半導体素子の製造方法について具体的に説明する。
【0034】
まず、基板(図示せず)上に、III族窒化物半導体によりチャネル層901を形成する(チャネル層形成工程)。次に、チャネル層901上に、AlN等により、障壁層909を形成する。さらに、障壁層909上面(チャネル層901上方)に、III族窒化物半導体をヘテロ接合させてもう一層の障壁層902を形成する(障壁層形成工程)。なお、図1(a)では、障壁層は、909と902の二層であるが、本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記障壁層は、一層のみでも良いし、三層以上でも良い。前記基板としては、例えば、シリコン基板、サファイア基板、炭化シリコン基板等が使用できる。チャネル層901、障壁層909および障壁層902は、例えば、エピタキシャル成長により形成できる。エピタキシャル成長法としては、例えば、有機金属気相成長(Metal−Organic Vapor Phase Epitaxy;MOVPE)法、分子線エピタキシャル成長(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法等が挙げられる。なお、有機金属気相成長法は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法ということもある。前記チャネル層形成工程において、前記チャネル層を、窒化ガリウム(GaN)、または窒化インジウムガリウム(InGaN)から形成することが好ましい。前記障壁層形成工程において、前記障壁層を、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、または窒化インジウムアルミニウム(InAlN)から形成することが好ましい。前記チャネル層と前記障壁層の組み合わせは特に制限されず、例えば、一般的なHEMT等を参考に、前記障壁層のバンドギャップが前記チャネル層よりも大きくなる組み合わせを適宜選択すれば良い。または、前述のように、前記障壁層にn型不純物をドーピングしても良い。また、例えば、前記基板上にバッファ層(図示せず)をエピタキシャル成長させた後に、チャネル層901および障壁層902を連続的にエピタキシャル成長させてもよい。前記基板とチャネル層901との間に介在する前記バッファ層としては、例えば、AlN、GaN、AlGaN等のIII族窒化物系化合物半導体が挙げられる。また、例えば、シリコン基板、サファイア基板、炭化シリコン基板等に代えて、GaN、AlN等のIII族窒化物半導体基板を用い、前記バッファ層を省略してもよい。
【0035】
次に、チャネル層901の上部の一部(図1(a)では、チャネル層の上部の左右両端部分)ならびにその上方の障壁層909および902を除去して凹部を形成する(凹部形成工程)。この凹部形成工程は、例えば、ウェットエッチング、ドライエッチング等により行うことができる。前記ドライエッチングは、例えば、SF(六フッ化硫黄)、CF(四フッ化メタン)、CHF(三フッ化メタン)、C(六フッ化エタン)等のプラズマ状のガスを用いて行うことができる。前記凹部(メサ101)の深さは、前述のように、ヘテロ接合チャネル(2次元電子ガス層)903より深い以外は特に制限されないが、通常は、450Å以上であれば十分である。また、前記凹部形成工程においては、例えば、前記凹部が側面および底面を有するように前記凹部を形成する。この場合において、前記凹部側面が、前記へテロ接合界面に対して、好ましくは45度±15度の範囲内、より好ましくは35〜55度、さらに好ましくは40〜50度の範囲内の傾斜角度を有するように前記凹部を形成する。前記傾斜角度が前記範囲内であると、後述のイオン注入でn型導電層を形成した際に、側壁(前記傾斜面)のすぐ奥にも導電層が形成されやすく、かつ、オーミック金属を堆積した場合に、金属が側壁にしっかりとコンタクトされやすい。なお、本発明のIII族窒化物半導体素子のオーミック構造では、例えば、図1(a)に示すように、メサの側面(前記傾斜面)を介して通電経路908(908’)が形成されると考えられる。また、前記傾斜角度を小さくするには、例えば、エッチングマスク材に窒化膜SiNを用い、エッチングガスにBClのみを用いてドライエッチングすることができる。この場合、SiNのエッチングは等方的であり、GaN等のIII族窒化物半導体とエッチング速度が比較的近いために、前記傾斜面を有するエッチング形状を形成しうる。例えば、図1(a)〜(c)のように、素子の両端に前記傾斜面を形成すると、エッチング形状は、テーパ付き(先細り形状)となる。
【0036】
次に、前記凹部の表面(例えば側面および底面)を含む領域に、n型不純物イオンを、前記領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上の深さに達するように、電位差により加速してドーピングし、アニール処理により活性化してn型導電層領域を形成する(n型導電層領域形成工程)。前記深さは、前述のように、好ましくは20nm以上、さらに好ましくは45nm以上である。前記深さの上限値は特に制限されないが、例えば300nm以下である。また、前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅が、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に50nm以上となるように前記n型導電層形成工程を行うことが好ましい。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅は、前述のように、好ましくは、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に100nm以上である。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅の上限値は、特に制限されないが、アクセス抵抗低減の観点から、例えば、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に、3μm以下である。前記n型不純物イオンを、前記所定の深さに達するまでドーピングするための加速エネルギーは、特に限定されず、適宜設定すれば良い。前記加速エネルギーは、例えば、20keV以上、好ましくは25keV以上、より好ましくは30keV以上である。前記加速エネルギーの上限値は、特に制限されないが、例えば、200keV以下である。
【0037】
前記n型導電層領域形成工程においては、試料表面すなわち前記n型導電層領域が縮退状態(イオン化ドナー不純物濃度Nde1が1×19cm−3以上)となるように、比較的ヘビーな(高濃度の)イオン注入条件を選択することが好ましい。これにより、例えば、前記n型導電層領域(n層)と、これに隣接する2DEGとの間の接続抵抗を低減することができる。前記n型導電層形成工程においては、n型不純物イオンを、前記チャネル層上部における前記障壁層とのヘテロ接合界面で1×1020cm−3以上の濃度となるようにドーピングすることが好ましい。より具体的には、例えば、前記n型導電層領域形成工程において、前記ソース電極形成予定領域および前記ドレイン電極形成予定領域の少なくとも一部に、前記n型不純物イオンを5×1015cm−2以上の実効ドーズ量でドーピングすることが好ましい。前記実効ドーズ量が5×1015cm−2以上であると、前記チャネル層の上部および前記障壁層において、n型不純物イオンを1×1020cm−3以上の濃度としやすい。結晶品質を良好にする観点からは、前記のとおり、注入ドナー不純物濃度の上限は1022cm−3であることが望ましい。前記n型導電層領域形成工程において、前記n型不純物は特に制限されないが、28Siおよび29Siの少なくとも一方を前記n型不純物としてドーピングすることが好ましい。なお、n型導電層領域904において、チャネル層901の上面すなわちヘテロ接合界面(またはヘテロ接合チャネル903)におけるn型不純物の最適注入濃度は、例えば、1×21cm−3であるが、これには限定されない。前記最適注入濃度またはそれに近い濃度を実現するための好適イオン注入条件は、例えば、加速エネルギー100keV、ドーズ量1×1016cm−2であるが、これには限定されない。
【0038】
前記アニール処理は、例えば、窒素雰囲気下で、RTA(Rapid Thermal Annealing)などにより行うことができる。前記アニール処理は、高濃度のイオン化ドナー不純物濃度(イオン化されたn型不純物濃度)を得るために、1,100℃以上1,300度以下の温度で行うことが好ましい。前記アニール処理温度は、より好ましくは1,100℃以上1,300℃未満、さらに好ましくは1,125℃以上1,250℃以下、さらに好ましくは1,150℃以上1,250℃以下、特に好ましくは1,150℃以上1,225℃以下である。より具体的には、イオン注入されたn型不純物の活性化率を高い値とするために、前記アニール処理温度の下限値は、好ましくは1,100℃以上、より好ましくは1,125℃以上、さらに好ましくは1,150℃以上である。また、III族窒化物半導体層表面からの窒素の脱離を抑制し、これにより前記III族窒化物半導体層表面の変質を抑制する観点から、前記アニール処理温度の上限値は、好ましくは1,300℃以下、より好ましくは1,300℃未満、さらに好ましくは1,250℃以下、特に好ましくは1,225℃以下である。前記アニール処理の時間は、特に制限されないが、加熱に用いる熱処理装置の性能等に応じて、例えば30秒から5分程度とする。
【0039】
なお、例えば、シリコン(Si)基板などの、高温において塑性変形しやすい基板を用いた場合は、前記活性化アニール温度より低い温度、例えば1,000℃で前記n型不純物の活性化アニールを行っても良い。比較的低温でアニール処理することで、ウエハの反りの低減やエピタキシャル膜中の欠陥生成の低減、ひいてはリーク電流を低減(デバイス動作耐圧を確保)することも可能である。ただし、比較的低温でアニール処理する場合、比較的長時間のアニール処理が必要である。例えば、1,000℃においてアニール処理する場合、アニール処理時間は20分以上が好ましい。
【0040】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、5℃以上35℃以下の温度条件下で1×1019cm−3以上となるように、前記n型導電層領域形成工程における前記アニール処理を行うことが好ましい。または、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、前記III族窒化物半導体素子の動作温度条件下で1×1019cm−3以上となるように、前記n型導電層領域形成工程における前記アニール処理を行うことが好ましい。これにより、例えば、図1に示すn型導電層領域904と、ゲート電極905の下方のチャネル領域(2DEG層)903との接続部において、低い接続抵抗を得ることができる。より好ましくは、前記n型導電層領域の前記チャネル層部分が、前記へテロ接合界面から深さ10nm以上にわたって、さらに好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ20nm以上にわたって、さらに好ましくは、前記へテロ接合界面から深さ30nm以上にわたって、前記イオン化されたn型不純物を1×1019cm−3以上の濃度で含むように前記アニール処理を行うものとする。この場合、イオン化されたn型不純物濃度の測定温度条件は、前記の通り、5℃以上35℃以下、または本発明のIII族窒化物半導体素子の動作温度条件下である。これらの深さの範囲において前記イオン化されたn型不純物が1×1019cm−3以上の濃度であれば、前記接続部における接続抵抗等を、さらに効果的に低減できる。また、これらの深さの範囲において前記イオン化されたn型不純物が1×1019cm−3以上の濃度であれば、前記へテロ接合界面における前記イオン化されたn型不純物の濃度(体積密度)が1×1019cm−3以上となる。なお、前記アクセス抵抗等をさらに低減させる観点から、5℃以上35℃以下の温度条件下またはIII族窒化物半導体素子の動作温度条件下におけるイオン化ドナー不純物濃度(イオン化された前記n型不純物の濃度)が、前記n型導電層領域全体にわたって(前記チャネル層上部から前記障壁層上面にわたって)1×1019cm−3以上となるように前記アニール処理を行うことが特に好ましい。
【0041】
さらに、前記凹部の側面および底面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触するオーミック電極(ソース電極906およびドレイン電極907)を形成する(オーミック電極形成工程)。前記オーミック電極の形成材料は特に制限されないが、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)、それらの酸化物、およびそれらの窒化物からなる群から選択される少なくとも一つから形成することが好ましい。例えば、Ti/Al/Nb/Au構造またはTi/Mo/Au構造など、前記金属の積層体により、オーミック電極を形成しても良い。オーミック・アロイ条件はノンアロイでも比較的良好なオーミック接触特性を得ることができるが、オーミック・アロイを行えば、さらに低抵抗化し、かつ熱安定性に関して信頼性の高いオーミック電極を得ることが出来る。前記オーミック・アロイは、例えば、550℃未満の低温条件で行っても良い。
【0042】
さらに、障壁層902上に、金属材料を形成し、さらにアロイ処理を施すことにより、T字状の断面形状を有するゲート電極905を形成する(ゲート電極形成工程)。ゲート電極905は、特に制限されないが、例えば、W、Mo、Si、Ti、Pt、Nb、AlもしくはAuなどの金属材料、または、これらのうちの2種以上の金属層の積層体から形成することができる。このようにして、図1(a)に示すHEMT(III族窒化物半導体素子)を製造することができる。なお、前記ゲート電極形成工程と、前記n型導電層形成工程および前記オーミック電極形成工程との順序は前後させてもよい。また、例えば、前記n型不純物のドーピングと前記アニール処理との間に前記ゲート電極形成工程を行ってもよい。ゲート電極は、例えば、チャネル層上に、絶縁膜を介して形成しても良い。また、本発明のIII族窒化物半導体素子は、例えば図1(c)のように、ゲート電極がなくても良く、この場合は、前記ゲート電極形成工程を行わなくても良い。さらに、前記のとおり、本発明のIII族窒化物半導体素子は、例えば図1(b)または(c)のように、障壁層が一層のみでも良い。これらは、例えば、前記障壁層形成工程において、前記障壁層を一層のみ形成する以外は図1(a)のIII族窒化物半導体素子と同様にして製造できる。
【0043】
なお、前記本発明の製造方法においては、例えば、n型導電層領域形成工程における前記n型不純物イオンのドーピングが、n型不純物イオンドーピング第1工程と、n型不純物イオンドーピング第2工程とを含む2段階のドーピングであっても良い。前記n型不純物イオンドーピング第2工程におけるドーピング領域は、前記n型不純物イオンドーピング第1工程におけるドーピング領域の末端を含んで前記末端から突出していても良い。前記末端とは、HEMTの場合はゲート電極側末端であっても良い。また、前記n型不純物イオンドーピング第1工程における前記n型不純物イオンドーピングの加速エネルギーEと、前記n型不純物イオンドーピング第2工程における前記n型不純物イオンドーピングの加速エネルギーEとの関係は、例えば、E>Eである。加速エネルギーEは、例えば数百keV程度の比較的高いエネルギーとしても良い。なお、第1段階のイオン注入(前記n型不純物イオンドーピング第1工程)と第2段階のイオン注入(前記n型不純物イオンドーピング第2工程)の順序は、デバイス作製(HEMT製造)の事情等に応じて入れ替えても良い。
【0044】
また、例えば、前記本発明の製造方法は、前記n型導電層領域形成工程後、前記n型導電層領域上面をプラズマ状のガスに曝してドライ表面処理するドライ表面処理工程をさらに含んでいても良い。前記ドライ表面処理工程は、前記オーミック電極形成工程に先立ち行うことが好ましい。また、前記ドライ表面処理工程において、前記ドライ表面処理を行う領域が、前記n型導電層領域上面を全て含み、前記オーミック電極形成工程において、前記n型導電層領域上面を全て覆うように前記オーミック電極を形成することが好ましい。
【0045】
例えば、前記n型導電層領域形成のためn型不純物イオン注入を行う際に、障壁層にダメージが生ずることがある。これに対し、前記n型導電層領域上面にドライ表面処理することで、前記障壁層のダメージが軽減され、良好な結晶構造を得て、さらにコンタクト抵抗を低減することができる。なお、本発明において「ドライ表面処理」は、液体を表面に接触させずに処理することを言い、例えば、ドライエッチング、プラズマ中への暴露等が挙げられる。また、前記プラズマ状のガスは、特に制限されず、例えば、ドライエッチング等で一般的に用いるガスでも良い。前記プラズマ状のガスは、具体的には、例えば、SF(六フッ化硫黄)、CF(四フッ化メタン)、CHF(三フッ化メタン)、C(六フッ化エタン)等が挙げられる。
【0046】
以下、本発明のIII族窒化物半導体素子において、アクセス抵抗およびオン抵抗が低減可能な原理を、本発明と関連するIII族窒化物半導体素子との対比により説明する。ただし、以下の説明は、推定可能な機構(メカニズム)の一例であって、本発明を何ら限定するものではない。
【0047】
本発明者らは、独自に研究を重ねた結果、本発明と関連する図4〜6の構造の電界効果トランジスタ(FET)に関し、以下のことを見出した。
【0048】
Ga面成長でのAlGaN/GaNへテロ接合電界効果トランジスタ(HEMT)などのIII族窒化物半導体HEMTにおいては、例えば図4のように、リセスを掘らずにプレーナ構造でオーミック電極(906および907)を形成する。この場合、例えば、オーミック金属(Ti/Al/Mo/Auなど)を半導体下地に蒸着などの手段で堆積した後、850℃付近の温度のオーミック・アロイを行う。この方法で、比較的良好な実用的レベルの接触抵抗R値を得ることが出来る。この場合の前記接触抵抗R値は、典型的には0.3〜0.5Ωmmなどの範囲である。しかし、ヘテロ接合2DEGキャリアのモビリティ向上等の目的により、例えば図5に示すように、エピにおいて、障壁層902(AlGaN)とチャネル層901(GaN)の間に、さらに、AlNなどの薄い障壁層909を配置する場合がある。また、同様の目的で、前記AlNなどの障壁層909を設ける代わりに、障壁層902のAlGaNのAl組成比を大きくすることがある。前記チャネル層に近接する前記障壁層のAl組成比が大きいほど、前記チャネル層においてヘテロ接合チャネル(2DEG層)キャリヤが形成されやすくなる(濃度が増加する)傾向があるためである。これらの場合、前記AlNなどの障壁層909またはAl組成比が大きい障壁層902のために、オーミック電極からヘテロ接合チャネル(2DEG層)903に至るアクセス抵抗が増大し、ひいてはオン抵抗も増大する。前記障壁層のAl組成比が大きいほど、前記障壁層の層平面に垂直な方向の電気抵抗値が大きくなる傾向があるためである。
【0049】
図6のような構造のHEMTによれば、前記のようにAlNなどの障壁層909が存在する場合においても、良好なオーミック接触抵抗が得られるとされている(特許文献2)。図6のHEMTの構造によれば、第1に、オーミック電極(ソース電極906およびドレイン電極907)とのコンタクトは、n半導体(n型不純物注入領域904)との間で形成されることになり、オーミック・コンタクト抵抗値が低減される効果を期待できる。第2には、さらに、トレンチ(メサ)101を、半導体へテロ界面(2DEG層903上面)より深く掘りこんだ場合には、図6の通電経路908(908’)に示したように、デバイス・アクセス時の通電経路908(908’)は、障壁層909を介さずに形成できる。これらのメカニズムにより、デバイス(HEMT)のアクセス抵抗の低減が期待できる。
【0050】
しかし、特許文献2のHEMTについて、本発明者らが実験により検証した結果、アクセス抵抗の低減は必ずしも十分ではなかった。具体的には、前記アクセス抵抗の実測値は、オーミック接触のコンタクト成分として、少なくとも0.8Ωmm以上、通常は1Ωmm以上あった。この原因は、以下のように推測される。すなわち、図6のHEMTの製造においては、メサ101をエッチングなどでヘテロ接合チャネル(2DEG層)903より深く形成し、そこにオーミック電極(906および907)を形成する。この場合、ヘテロ接合チャネル903のメサ側面部分は、エッチングによるダメージのため、界面格子の乱れが生じて2DEGキャリヤが減少し、その部分910の抵抗が増大する。図6のデバイス構造を有するHEMTのアクセス抵抗を低減するには、通電経路908(908’)として、このメサ形成によるダメージを受けた箇所を迂回する経路が形成されなければならない。ヘテロ接合部903においてダメージを受けた部分の距離(幅)は必ずしも明らかではないが、恐らく10nm以上におよび、50nm程度かそれ以上に達しているものと考えられる。
【0051】
特許文献2に記載されている製造方法によれば、図6のデバイス構造においてn型不純物注入領域(n層)904を形成する際には、熱拡散法によりn型不純物を注入する。しかし、拡散によって形成されるn層904の厚さTdifは、特許文献2にも記述されているように、せいぜい10nmまでである。したがって、エッチングによりダメージを受けた2DEG部910が、n層904の厚さTdifの範囲全体にわたってしまっており、n層904内部で、オーミック電極と2DEGとの低アクセス抵抗が実現できないと考えられる。また、n層904が10nmと浅いと、コンタクト抵抗が十分に低減できない。
【0052】
これに対し、本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記のとおり、前記n型導電層領域の深さが、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上である。なお、図1(a)〜(c)の断面図に、前記深さを、Timpで示す。これにより、例えば、図1(a)〜(c)の矢印に通電経路908および908’として示すとおり、ダメージを受けた2DEG部910を迂回して、半導体試料の奥の正常なヘテロ接合部分とn型導電層領域904を良好に接続することができる。このように十分な深さのn型導電層領域を形成するためには、例えば、前記本発明の製造方法において説明したように、「イオン注入法(加速器を用いたイオン打ち込み)」を用いることが好ましい。前述のように、熱拡散法では、十分な深さのn型導電層領域を形成することができない。したがって、前記n型導電層領域の深さが、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上であれば、前記n型導電層領域は、「イオン注入法(加速器を用いたイオン打ち込み)」により形成されたと推定できる。
【0053】
本発明者らの実験結果によれば、以下のことが見出された。すなわち、図1(a)のHEMT製造において、オーミック電極が形成される領域にヘテロ接合チャネルより深いメサを形成してメサ底面にチャネル層(GaN)が露出した構造とした(凹部形成工程)。次に、28Si不純物をイオン注入でヘビー・ドーピング(加速エネルギー:100keV,ドーズ量:1E16/cm)して活性化アニール(1200℃×5分)することでn導電層(n型導電層領域)を形成した(n型導電層領域形成工程)。さらに、金属を堆積してオーミック電極を形成した(オーミック電極形成工程)。この構造でオーミック電極のコンタクト抵抗Rを評価すると、例えば、ノンアロイにおいてもR≒0.03Ωmmと極めて低く、適切なアロイを施せば、R<0.03Ωmmとなることを見出した。ただし、これらの数値は全て例示であり、本発明を何ら限定しない。なお、これらの製造工程およびHEMTの性能評価については、後述の実施例でさらに具体的に述べる。
【0054】
以下、図2に基づき、本発明のIII族窒化物半導体素子において、コンタクト抵抗成分をさらに効果的に低減するための好ましい構成について説明する。ただし、抵抗低減の機構(メカニズム)については、前記のように、例示であって、本発明を何ら限定するものではない。まず、図2は、図1(a)の断面図において、オーミック電極906または907と、チャネル層901、障壁層909、および障壁層902とのコンタクト部分の一部を示す拡大断面図である。図2において、図1(a)と同一の符号で表している部分は、図1(a)と同一である。また、n型導電層領域904が形成されたHEMT端部(図2において左側、図1においては右側または左側)を、コンタクト部911とし、コンタクト部911以外の部分を、電極間部912とする。図2によれば、まず、メサ段に乗り上げた2DEG上方部分のオーミック電極(障壁層902および障壁層909に接触している部分)から2DEG層903への通電経路が考えられる。しかしながら、さらに、この通電経路と並列に、2DEG下方のメサ側面やメサ底面のオーミック電極(チャネル層901に接触している部分)から、n型導電層領域(n領域)904のうちチャネル層901を経由した2DEG層への通電経路があると考えられる。後者の通電経路が比較的抵抗が低いので、トータルのコンタクト抵抗成分R(total)として、下記数式(1)により、コンタクト抵抗が低減すると考えられる。後者の通電経路によれば、オーミック電極からヘテロ接合チャネル(2DEG層)までの距離が比較的短距離になる。さらに、この通電経路によれば、前記障壁層を介さずにオーミック電極からヘテロ接合チャネル(2DEG層)にアクセスできる。例えば、図4および5のIII族窒化物半導体素子には、このような通電経路がない。
【0055】
【数1】

【0056】
さらに、図6を用いて説明したように、メサをエッチングなどでヘテロ接合2DEGより深く形成し、そこにオーミック電極を形成した場合、ヘテロ接合部のメサ側面部分910は、エッチングによるダメージのため2DEGキャリヤが減少し、その部分の抵抗が増大している。実測によると、その値は、オーミック接触のコンタクト成分として、例えば0.8Ωmm以上、通常1Ωmm以上である。これに対し、本発明のIII族窒化物半導体素子における電極構造では、図1に示すように、イオン注入によって、ダメージを受けた2DEG部910の周りの比較的広範囲に低抵抗のn型導電層領域(n層)904が形成されている。これにより、通電経路908(908’)は、ダメージで抵抗が増大した部分を迂回するように形成される。この観点から、本発明のIII族窒化物半導体素子の前記n型導電層領域において、前述のとおり、前記へテロ接合界面の幅(図1のW)が、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に50nm以上であることが好ましい。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅は、好ましくは、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に100nm以上である。前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅の上限値は、特に制限されないが、アクセス抵抗低減の観点から、例えば、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に、3μm以下である。なお、ヘテロ接合チャネル(2DEG層)903において、エッチングによりダメージを受けた2DEG部910の幅は、素子の製造条件等により異なり、一定ではなく、また、必ずしも明確ではない。2DEG部(ヘテロ接合界面)910の幅は、前記のとおり、10nm以上、または50nm以上に達する場合があると考えられる。本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記n型導電層領域における前記ヘテロ接合界面の幅は、前記ダメージを受けた2DEG部(ヘテロ接合界面)の幅よりも大きいことが好ましい。
【0057】
図1の素子において、オーミック電極906または907の2DEG下方のメサ側面やメサ底面のn領域(n型導電層領域904のうち、チャネル層901部分)から2DEGへの通電経路のコンタクト抵抗成分は、下記(1)〜(3)に分けて考えることができる。

(1)オーミック電極とn領域(n型導電層領域904)のコンタクト抵抗Rc’
(2)オーミック電極の先端から、n−2DEG境界部(n型導電層領域904と、904以外の部分に形成された2DEG層903との境界)まで(距離ΔL)のシート抵抗Rsh・ΔL
(3)前記n−2DEG境界部の接続抵抗R
【0058】
前記抵抗(1)〜(3)のうち、(3)のRを低減するためには、前述のように、n型導電層領域904のチャネル層901部分において、障壁層902とのヘテロ接合界面におけるイオン化されたn型不純物の濃度が、1×1019cm−3以上であることが好ましい。(1)のR’は、ほとんどゼロに近い。Rsh・ΔLは、製造プロセス改良によって電極端のマージン部分ΔLを短縮することで低減できる。例えば、ΔLが0.5μm以下であることが好ましく、ΔLが0であることが特に好ましい。すなわち、本発明のIII族窒化物半導体素子において、前記オーミック電極は、前記n型導電層領域上面を全て覆うように形成されていることが、特に好ましい。前述のように、例えば、図4〜6のHEMT構造でオーミック・ノンアロイの場合には、コンタクト抵抗は1Ωmmを大幅に上回る大きさになり、本発明では、コンタクト抵抗はノン・アロイでも約0.03Ωmmとなるなど、大幅な抵抗値低減を得ることも可能である。ただし、前記のように、これらの数値は例示であって、本発明を限定しない。
【0059】
n型導電層領域904のチャネル層901部分において、障壁層902とのヘテロ接合界面におけるイオン化されたn型不純物の濃度が、1×1019cm−3以上であると、前記接続抵抗Rbが低減しやすい理由は、必ずしも明らかではない。前記理由として、例えば、前記ドナー(n型不純物)原子間の距離が短くなるために、電子分布が縮退し、電界放出トンネリング機構による伝導が支配的になることが考えられる。
【実施例1】
【0060】
図1(b)に示す構造のHEMT(実施例1)および図4に示す構造のHEMT(比較例1)を製造した。
【0061】
まず、3インチSiC基板上にMOCVDでエピ成長し、Al0.15Ga0.85N(45nm)/GaNへテロ接合エピを形成し、前記基板上にGaNチャネル層とAlGaN障壁層が前記順序で積層されたウェハを作製した(チャネル層形成工程、および障壁層形成工程)。このウエハは、同じものを2枚作製し、第1のウェハを用いて実施例1のIII族窒化物半導体素子を製造し、第2のウェハを用いて比較例1のIII族窒化物半導体素子を製造した。なお、「3インチ」は、前記SiC基板の幅を表し、1インチは、約2.54cmに等しい。
【0062】
次に、第1のウエハにはレジストで試料をパターニングした後、ドライエッチングすることによって、オーミック電極形成部にメサ101を形成した(凹部形成工程)。ドライエッチング装置としては、ICPドライエッチング装置を用いた。また、エッチングマスク材には窒化膜SiNを用い、エッチングガスにはBClのみを用いた。この場合、SiNのエッチングは等方的であり、GaN系材とエッチング速度が比較的近いために、傾斜面を有するエッチング形状を形成可能である。本実施例では、図1(b)のとおり、メサ101を素子両端に形成したため、前記エッチング形状は、テーパ付き(先細り形状)となった。エッチング時間450秒で、700Å(70nm)の段差を有するメサ101が形成された。メサ101の傾斜面におけるテーパ角(傾斜角度)は、チャネル層901の上面(ヘテロ接合界面)に対して57度であった。テーパ側面にはエッチング残渣物もなく、比較的きれいなテーパ側面が得られた。この後、レジスト除去を行った。一方、前記第2のウェハには、メサ形成(凹部形成工程)を行わなかった。なお、これ以降の工程では、前記第1のウェハおよび第2のウェハに対して同様の処理をした。
【0063】
次に、前記第1のウェハおよび第2のウェハに対し、それぞれの上面(図1(b)または図4において上側)に、イオン注入用スルー膜として窒化珪素膜(SiN)をCVDで80nm堆積した。このスルーSiN膜にレジストでパターニングした後、加速エネルギー100keVでドーズ量1×1016cm−3(実効ドーズ量9.2×1015cm−3)で28Siのイオン注入を行った。この後、前記レジストを有機溶媒で除去し、前記スルーSiN膜をフッ酸で除去した。
【0064】
さらに、ウエハ全面(おもて面、裏面および側面)に活性化アニール保護膜として窒化膜を200nm堆積した後、1200℃で5分の不純物活性化アニールを行った。この後、前記アニール保護膜をフッ酸で除去した。
【0065】
さらに、前記アニール保護膜除去後の前記ウェハをレジストでパターニングした後、金属(Ti/Mo/Au)をウエハ全面に蒸着し、リフトオフ処理をした。これにより、前記第1のウェハにおいては、図1(b)に示したとおり、メサ101の領域上をカバーするように、ソース電極906およびドレイン電極907を形成した。前記第2のウェハにおいては、図4に示したとおり、上面の両端にソース電極906およびドレイン電極907を形成した。さらに、それぞれのウェハに対し、500℃×5分のオーミック・アロイを行った。そして、オーミック電極(ソース電極906およびドレイン電極907)形成後のウェハをレジストでパターニングし、その後、Ni/Auを蒸着し、リフトオフすることによって、ゲート電極905を形成した。このようにして、実施例1および比較例1のHEMTを製造した。
【0066】
TLM(Transmission Line Model : 伝送線路モデル)パターンを用いて、抵抗測定を行った。なお、実施例1のHEMTでは、図2におけるΔL(オーミック電極端からn型導電層領域904端までのマージン)が0.5μmであり、比較例1のHEMTも同様であった。その結果、実施例1のHEMTは、コンタクト抵抗成分R(total)は、0.23Ωmmと、実用レベルの低い値を示した。これに対し、比較例1のHEMTでは、コンタクト抵抗成分R(total)が0.50Ωmmと大きかった。また、実施例1のHEMTでは、TLM評価による抵抗成分の解析から、図2に示す抵抗成分として、2DEG−n接続抵抗R=0.15Ωmm、n層シート抵抗Rsh=100Ω/□、コンタクト抵抗R=0.3Ωmm、R’=0.03Ωmmが得られた。以上の評価結果から、本発明によれば、アクセス抵抗およびオン抵抗が低いIII族窒化物半導体素子を提供できることが確認された。
【0067】
なお、本実施例では、本発明を電界効果トランジスタに適用した場合を示したが、本発明は、オーミック・コンタクトを低抵抗にするために広く用いることが出来る。すなわち、本発明のIII族窒化物半導体素子は、電界効果トランジスタに限定されず、エピ抵抗配線、ダイオード等、どのような半導体素子であっても良い。
【0068】
以上、本発明の実施形態と好適な実施例について、図面等を用いて説明した。
【0069】
以上の説明どおり、本発明によれば、アクセス抵抗およびオン抵抗が低いIII族窒化物半導体素子、III族窒化物半導体素子の製造方法、および電子装置を提供することができる。
【0070】
前記各実施形態および実施例は本発明の例示である。本発明は前記各実施形態および実施例に限定されず、これら以外の様々な構成を採用することもできる。また、例えば、前記各実施形態のHEMT構造は、いずれも、単一のヘテロ接合界面を有するシングル・ヘテロ構造であったが、本発明のIII族窒化物半導体素子は、これに限定されない。例えば、本発明のIII族窒化物半導体素子は、2つのヘテロ接合界面を有するダブル・ヘテロ構造を有していても良い。前記ダブル・ヘテロ構造としては、例えば、AlGaN/GaN/AlGaN/GaN構造が挙げられる。
【0071】
また、前記各実施形態では、いずれも、ヘテロ接合界面およびその近傍に2次元電子ガス層が形成されるが、2次元電子ガス層の代わりに1次元電子ガス層が形成されるようにヘテロ接合構造を構成してもよい。
【0072】
前記各実施形態では、高濃度のイオン化ドナー不純物濃度を得るために、特に好適な例として、シリコン(原子量:28)をn型不純物として導入(ドーピング)することを説明した。前記n型不純物(ドナー不純物)はこれに限定されず、例えば、シリコン(原子量:28)の代わりにシリコン(原子量:29)を導入してもよい。あるいは、酸素、硫黄、セレン、テルルをn型不純物として導入して上記高濃度のイオン化ドナー不純物濃度を得てもよい。
【0073】
前記各実施形態において、ソース電極およびドレイン電極は、障壁層上面に直接オーミック接触させた形態を示したが、障壁層上に、他の半導体層等を介して配置してもよい。また、ゲート電極も、障壁層上面に直接配置した形態を示したが、例えば、障壁層上に、ゲート絶縁膜等を介して配置してもよい。さらに、前記のとおり、本発明のIII族窒化物半導体素子は、HEMTに限定されず、エピ抵抗配線、ダイオード等、どのような半導体素子であっても良い。したがって、本発明のIII族窒化物半導体素子は、ゲート電極を有していなくても良い。
【0074】
本発明のIII族窒化物半導体素子の用途は特に制限されず、例えば、電力制御用、通信用等の各種用途に広く用いることができる。また、前述の通り、本発明の電子装置は、本発明のヘテロ接合電界効果トランジスタを含むことが特徴である。本発明の電子装置の用途は特に限定されず、例えば、電力制御装置、モーター制御装置(例えば電気自動車用、エアコン用等)、電源装置(例えばコンピュータ用等)、インバータ照明、高周波電力発生装置(例えば電子レンジ用、電磁調理器用等)、画像表示装置、情報記録再生装置、通信装置、演算装置(例えば、本発明のIII族窒化物半導体素子を演算素子として含む)等に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
101 メサ部
901 チャネル層(GaNなど)、またはGaN層
902 障壁層(AlGaNなど)、またはAlGaN層
903 ヘテロ接合チャネル(2次元電子ガス層)
904 n+導電層
905 ゲート電極
906 ソース電極
907 ドレイン電極
908、908’ 通電経路
909 障壁層(AlNなど)
910 メサ形成の際に損傷を受けた2DEG部分
911 コンタクト部
912 電極間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル層と、障壁層と、オーミック電極とを含み、
前記チャネル層および前記障壁層は、III族窒化物半導体から形成され、
前記障壁層は、前記チャネル層上方にヘテロ接合され、
前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層が除去されて凹部が形成され、
前記チャネル層および前記障壁層の一部にn型導電層領域が形成され、
前記n型導電層領域は、前記凹部の表面を含み、
前記n型導電層領域の深さが、前記n型導電層領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上であり、
前記オーミック電極は、前記凹部の表面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触していることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記n型導電層領域において、前記へテロ接合界面の幅が、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に50nm以上であることを特徴とする請求項1記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、5℃以上35℃以下の温度条件下で1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下であることを特徴とする請求項1または2記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、前記III族窒化物半導体素子の動作温度条件下で1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記凹部表面が、側面および底面を有し、
前記凹部側面が、前記へテロ接合界面に対して45度±15度の範囲内の傾斜角度を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面における前記n型不純物の濃度が、1×1020cm−3以上1×1022cm−3以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記障壁層が、複数であり、
前記複数の障壁層が、前記チャネル層上方に積層され、
前記チャネル層に最も近接した前記障壁層が、他の障壁層よりもAl組成比が高いことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記チャネル層に最も近接した前記障壁層が、AlNから形成されていることを特徴とする請求項7記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記オーミック電極が、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)、それらの酸化物、およびそれらの窒化物からなる群から選択される少なくとも一つから形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記n型不純物が、28Siおよび29Siの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記チャネル層が、窒化ガリウム(GaN)、または窒化インジウムガリウム(InGaN)から形成され、前記障壁層が、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、または窒化インジウムアルミニウム(InAlN)から形成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記凹部および前記オーミック電極が、それぞれ複数形成され、
前記オーミック電極が、1以上のソース電極と1以上のドレイン電極とを含み、
さらに、ゲート電極を含み、
前記ゲート電極が、前記障壁層上方に形成されており、
ヘテロ接合電界効果トランジスタとして用いられることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項13】
III族窒化物半導体によりチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、
前記チャネル層上方に、III族窒化物半導体をヘテロ接合させて障壁層を形成する障壁層形成工程と、
前記チャネル層の上部の一部およびその上方の前記障壁層を除去して凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の表面を含む領域に、n型不純物イオンを、前記領域表面の各部から前記表面と垂直方向の測定値で15nm以上の深さに達するように、電位差により加速してドーピングし、アニール処理により活性化してn型導電層領域を形成するn型導電層領域形成工程と、
前記凹部の表面を介して前記n型導電層領域にオーミック接触するオーミック電極を形成するオーミック電極形成工程とを含むことを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記n型導電層領域における前記へテロ接合界面の幅が、前記n型導電層領域表面と前記へテロ接合界面とが交わる線と垂直方向に50nm以上となるよう前記n型導電層領域形成工程を行うことを特徴とする請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記凹部形成工程において、前記凹部が側面および底面を有するように前記凹部を形成し、かつ、前記凹部側面が、前記へテロ接合界面に対して45度±15度の範囲内の傾斜角度を有するように前記凹部側面を形成することを特徴とする請求項13または14記載の製造方法。
【請求項16】
前記n型導電層形成工程において、n型不純物イオンを、前記チャネル層上部における前記障壁層とのヘテロ接合界面で1×1020cm−3以上の濃度となるようにドーピングすることを特徴とする請求項13から15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記n型導電層領域形成工程において、前記ソース電極形成予定領域および前記ドレイン電極形成予定領域の少なくとも一部に、前記n型不純物イオンを5×1015cm−2以上の実効ドーズ量でドーピングすることにより、前記n型不純物イオン濃度を、前記チャネル層上部における前記障壁層とのヘテロ接合界面で1×1020cm−3以上とすることを特徴とする請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記n型導電層形成工程において、前記アニール処理を行う領域をあらかじめアニール保護膜で被覆し、前記アニール処理を、1,100℃以上1,300℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項13から17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、5℃以上35℃以下の温度条件下で1×1019cm−3以上となるように、前記n型導電層領域形成工程における前記アニール処理を行うことを特徴とする請求項13から18のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記n型導電層領域の前記チャネル層部分において、前記障壁層とのヘテロ接合界面におけるイオン化された前記n型不純物の濃度が、前記ヘテロ接合電界効果トランジスタの動作温度条件下で1×1019cm−3以上となるように、前記n型導電層領域形成工程における前記アニール処理を行うことを特徴とする請求項13から19のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記n型導電層領域形成工程において、28Siおよび29Siの少なくとも一方を前記n型不純物としてドーピングすることを特徴とする請求項13から20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記オーミック電極形成工程において、前記オーミック電極を、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)、それらの酸化物、およびそれらの窒化物からなる群から選択される少なくとも一つから形成されていることを特徴とする請求項13から21のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項23】
前記チャネル層形成工程において、前記チャネル層を形成する前記III族窒化物半導体が、窒化ガリウム(GaN)、または窒化インジウムガリウム(InGaN)であり、
前記障壁層形成工程において、前記障壁層を形成する前記III族窒化物半導体が、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、または窒化インジウムアルミニウム(InAlN)であることを特徴とする請求項13から22のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項24】
請求項13から23のいずれか一項に記載の製造方法により製造されることを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項25】
ヘテロ接合電界効果トランジスタとして用いられることを特徴とする請求項24記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項26】
請求項1から10、24および25のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子を含むことを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−210751(P2011−210751A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73891(P2010−73891)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】