説明

III族窒化物半導体薄膜、III族窒化物半導体発光素子およびIII族窒化物半導体薄膜の製造方法

【課題】良質のIII族窒化物半導体薄膜およびそれを用いたIII族窒化物半導体発光素子を提供すること。
【解決手段】C3結晶軸に対して−0.1°〜0.9°のオフ角を有する(1−102)面(いわゆるr面)のサファイア基板110上に、サファイア基板110の温度を1100℃〜1400℃の範囲内に制御しつつ、トリメチルガリウムを200〜500μmol/minの流量で導入することにより、サファイア基板110上に(11−20)面(いわゆるa面)のGaN層120をエピタキシャル成長させる。これにより良質のIII族窒化物半導体薄膜(a面GaN層)を得る。また、そのIII族窒化物半導体薄膜を基板としてIII族窒化物半導体発光素子を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体薄膜、III族窒化物半導体発光素子、およびIII族窒化物半導体薄膜の製造方法に関し、特に、(11−20)面窒化ガリウム層(a面GaN層)を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体、特に窒化ガリウム系化合物は、混晶比の調整によってエネルギーギャップを広範囲に制御することができる。例えば、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x=y=0を含む)は、直接遷移型の半導体としてふるまい、そのエネルギーギャップは0.7〜0.8eVから6.2eVにわたる。これは、GaN系化合物を活性層として用いることにより、赤色から紫外までの可視領域のすべてを発光色として持つ発光素子を実現できることを意味する。
【0003】
窒化ガリウム系化合物をそのような発光素子に適用するには、製品形態や寿命の観点から、高品質かつ高発光効率の薄膜として提供することが求められる。ところが、窒化ガリウム系化合物は、六方晶系のウルツァイト(Wurtzite)構造を有しており、その格子定数は、他の主要な半導体(III−V族化合物半導体やII−VI族半導体など)と比べてかなり小さい値を示す。この極端に小さい格子定数は、基板結晶の格子定数との整合を困難にさせている。一般に、エピタキシャル成長させる結晶には、基板結晶との間における格子不整合や歪み(圧縮歪みや引っ張り歪み)などの原因によって転位が発生する。この転位は、転位欠陥となってエピタキシャル成長膜の品質を低下させる。よって、窒化ガリウム系化合物を成長するには、基板の選択が重要となる。
【0004】
そこで、GaN系化合物を成長させる基板として、c面のサファイア基板がもっぱら使用されている。このサファイア基板にしても、GaNと15%近く格子定数がずれているため、実際には、格子不整合を緩和するために、サファイア基板と成長層との間にバッファ層が設けられている。現在に至っては、このバッファ層の品質如何がその上の成長層の品質を決定する要因とされており、工夫を凝らした種々のバッファ層が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
ところが、バッファ層を設けたとしても、サファイア等のc面を結晶基板として用いた場合には、成長層であるGaN系化合物(以下、GaN系成長膜と称する)はそのc軸方向に成長し、膜厚方向においてc軸の特性が顕著に表れる。GaN系化合物は、c軸方向にて強い圧電性を有しており、格子定数が異なる組成同士の界面のストレスは、いわゆる分極電場を生じさせる。ストレスのない理想的な活性層のバンドにおいては、電子と正孔の波動関数が略対称に存在する。しかし、格子定数の差によって圧縮歪みや引っ張り歪みが作用する場合には、分極電場の存在によって電子と正孔の波動関数間の距離が遠ざかる。これは、基板のc軸方向に成長したGaN系化合物の活性層の再結合効率が低下することを意味する。一方、この分極電場の影響による波動関数間の距離の減少は、発光波長の長波長化を招き、電圧印加の程度によって発光素子の波長が変わってしまうという問題も引き起こす。
【0006】
特許文献3は、このような問題を解決するために、分極電場の影響を受けない非極性a面窒化ガリウムの成長方法を提案している。
【0007】
【特許文献1】特開平10−242586号公報
【特許文献2】特開平9−227298号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0198837号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非極性a面窒化ガリウムは、その平面異方性のために、良質な膜として成長させることは容易ではない。具体的には、窒化ガリウムの結晶成長において、Ga面(0001)は、N面(000−1)よりも成長が速く、この非対称の成長によって薄膜上には多くの転位欠陥が発生する。
【0009】
よって、非極性a面窒化ガリウムを用いた良質のGaN系成長膜の形成が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜は、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面のサファイア基板と、前記サファイア基板上に位置し、(11−20)面の窒化ガリウムからなるエピタキシャル成長層と、を含むことを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかるIII族窒化物半導体発光素子は、上記したIII族窒化物半導体薄膜を下地として形成されたIII族窒化物からなる活性層を含んで構成されたことを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜の製造方法は、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面のサファイア基板をアニールする基板アニールステップと、前記サファイア基板の温度を1100℃〜1400℃の範囲内に制御しつつ、トリメチルガリウムを200〜500μmol/minの流量で導入することにより、前記サファイア基板上に(11−20)面の窒化ガリウムを成長させる窒化ガリウム形成ステップと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
良質のa面窒化ガリウム薄膜を含むIII族窒化物半導体薄膜およびそれを下地として用いたIII族窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜、その製造方法、およびIII族窒化物半導体発光素子の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は模式的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは現実のものとは異なる。また、図面間において同じ部分を指していても、互いの寸法や比率が異なって示されている場合もある。
【0015】
実施の形態1.
まず、実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜およびその製造方法について説明する。実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜は、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面(いわゆるr面)のサファイア基板の上に、(11−20)面(いわゆるa面)の窒化ガリウムが形成されていることを特徴としている。ここで、(1−102)中の「−1」は「1」上にバーが付されることを表す。本明細書中において、ミラー指数はこれと同様に表記される。
【0016】
図1は、実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜の断面模式図である。図1において、III族窒化物半導体薄膜100は、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有するr面を基板面としたサファイア基板110と、サファイア基板110の上に形成されたノンドープのa面GaN層120とから構成される。ここで、C3結晶軸は、図2に示すように、r面のサファイア基板110のa軸方向であって且つサファイア基板110の中心を通る軸として定義される。
【0017】
このIII族窒化物半導体薄膜100は、発明者らの鋭意研究により、以下の製造方法によって得られた。図3は、その方法、すなわちa面GaN成長層形成工程を示すフローチャートである。
【0018】
まず、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有するr面を基板面としたサファイア基板110を用意し、その表面を適当な溶液を用いて洗浄した後、MOCVD(有機金属化学的気相成長)装置の反応室内に投入した。反応室内の前工程として、基板温度を1150℃に制御し、適当な流量の水素雰囲気中で約10分間のアニールを行った(ステップS101)。なお、このr面のサファイア基板110は、実際には、C3結晶軸に対して−0.5°のオフ角を有した基板面であり、製造誤差上、±0.4°を見込んだものである。
【0019】
つぎに、そのサファイア基板110上にa面GaN層120を成長させるために、反応室内に、キャリアガスとして水素、窒素を導入し、原料ガスとしてNH3(アンモニア)とTMGa(トリメチルガリウム)を導入した。NH3は、基板温度を500℃まで加熱した後に導入を開始し、TMGaは、基板温度を1150℃まで加熱した後に導入を開始した。a面GaN層120の成長時間は50分とした。これにより、膜厚が9.5μmの良好なa面GaN薄膜が得られた(ステップS102)。TMGaの流量は約285μmol/minとした。
【0020】
上記したa面GaN層120の成膜条件は、発明者らの実験により得られた成膜速度(Growth rate)とTMGaの流量との関係を示すグラフに従っている。図4は、そのグラフであり、r面のサファイア基板の温度を1100℃と1150℃に制御した場合において、TMGaの流量を200〜500μmol/minに設定した際に得られるa面GaN層の膜厚を示している。このように、比較的高い制御温度ながらも、良い結果が得られるのは次の理由による。通常、基板温度の上昇とともに、成膜したGaN層がエッチングされてしまう。具体的には、約900℃でそのエッチングが始まる。しかしながら、発明者らは、約1050℃以上にあってはそのエッチングの程度は激しくないことを見いだした。具体的には、図4に示すように、r面のサファイア基板上では、約1100℃と1150℃の制御温度においては、ともに200〜500μmol/minのTMGaの流量でGaN層を成長させると、良好な結果が得られた。また、発明者らは、このTMGaの流量と成膜速度の関係が、1150℃以外にも、約1100℃以上の制御温度であれば同様な結果を示すということを見いだした。但し、制御温度が1400℃以上になると、サファイア基板のエッチングが始まるため、実質的には、1100℃〜1400℃が最適な制御温度となる。
【0021】
図5は、上記方法により得られたa面GaN層120のX線ωスキャンデータを示すグラフである。図5に示すように、このa面GaN層120は、φ角依存性を示すものの、バッファ層の上に形成された従来のa面GaN層と比較して、位相が90°ずれている。また、(10−12)面に対するωスキャンによってオフ軸をを測定したところ、その最小値は1200arcsecであった。これは、バッファ層の上に形成された従来のa面GaN層のオフ軸(2000arcsec)よりもかなり小さい値である。これら結果は、上述した成膜条件によって得られたa面GaN層120が、転位や欠陥の少ない良質な薄膜であることを示している。
【0022】
以上に説明したように、C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有するr面のサファイア基板を用意し、その基板の温度を1100℃〜1400℃の範囲内に制御しつつ、トリメチルガリウムを200〜500μmol/minの流量で導入することによって、r面のサファイア基板上に良質な窒化ガリウム薄膜を成長させることができる。
【0023】
特に、TMGaよりも先にNH3を導入した場合に特に良好なa面GaN薄膜が得られたことは、発明者らの鋭意研究によるものである。具体的には、TMGaよりも3秒以上先行してNH3を導入した場合に、a面GaN薄膜において鏡面が得られ、それよりも遅れると、表面ピットが現れるということがわかった。さらに、発明者らは、a面GaN薄膜の膜厚を3μm以下とした場合には、表面ピットが現れ、それ以上とした場合に、鏡面が現れることを見いだした。この知見に基づいて、上記成長時間が設定された。
【0024】
実施の形態2.
上述した実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜は、LEDや半導体レーザなどのIII族窒化物半導体発光素子を構成する下地層として用いることができる。実施の形態2では、実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜をLEDに適用した例を説明する。
【0025】
図6は、実施の形態2にかかるIII族窒化物半導体発光素子(LED)の模式断面図である。図6に示すIII族窒化物半導体発光素子200は、実施の形態1に示したサファイア基板110およびa面GaN層120にそれぞれ対応するサファイア基板201およびアンドープのa面GaN層202を下地とし、そのa面GaN層202の上に、n型コンタクト/クラッド層203、活性層204、p型クラッド層205、p型ブロック層206、p型コンタクト層207が順に積層された構造を有する。
【0026】
発明者らは、以下のような条件によって、III族窒化物半導体発光素子200のサンプルを得た。まず、実施の形態1に説明した方法に従って得たa面GaN層202の上に、n型コンタクト/クラッド層203を、GaNにSiをドープすることにより1150℃の制御温度で成長させた。つぎに、そのn型コンタクト/クラッド層203の上に、原料ガスであるGaとInを適当な流量で且つ730℃の制御温度で導入することにより、InGaNからなる活性層204を成長させた。つづいて、p型クラッド層205を、GaNにMgをドープすることにより1000℃の制御温度で成長させた。つぎに、p型ブロック層206をAlGaNにMgを注入することにより1150℃の制御温度で成長させた。そして、その上に、p型コンタクト層207を、GaNにMgをドープすることより1000℃の制御温度で成長させた。
【0027】
また、n型コンタクト/クラッド層203、活性層204、p型クラッド層205、p型ブロック層206、p型コンタクト層207は、n型コンタクト/クラッド層203の一部が露出するように、それぞれの一部がエッチングによって除去した。そして、露出したn型コンタクト/クラッド層203の表面にn型電極210を設けた。また、p型コンタクト層207上にはp型電極220を設けた。n型電極210はInを、p型電極220はNi(100Å)/Au(100Å)を、それぞれ電子ビームを用いて堆積させることにより形成される。このような構成によって、LEDを得た。
【0028】
得られたLEDについては、駆動電流20mAで発光波長420nmの出力2mWの発光が観測された。この比較的良好な発光特性は、下地のa面GaN層202が良好な薄膜であることの裏付けとなる。
【0029】
以上に説明したように、実施の形態2によれば、良質のa面GaN薄膜上にLEDを形成することによって、信頼性の高く、十分な発光強度の青色発光素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜は、GaN系化合物を形成する下地層として有用であり、特に、III族窒化物半導体発光素子の構成要素として適している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態1にかかるIII族窒化物半導体薄膜の側面図である。
【図2】C3結晶軸を定義する図である。
【図3】a面GaN成長層形成工程を示すフローチャートである。
【図4】a面GaN層の成膜速度とTMGaの流量との関係を示すグラフである。
【図5】a面GaN層120のX線ωスキャンデータを示すグラフである。
【図6】実施の形態2にかかるIII族窒化物半導体発光素子の模式断面図である。
【符号の説明】
【0032】
100 III族窒化物半導体薄膜
110,201 r面サファイア基板
120,202 a面GaN層
200 III族窒化物半導体発光素子
203 n型コンタクト/クラッド層
204 活性層
205 p型クラッド層
206 p型ブロック層
207 p型コンタクト層
210 n型電極
220 p型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面のサファイア基板と、
前記サファイア基板上に位置し、(11−20)面の窒化ガリウムからなるエピタキシャル成長層と、
を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体薄膜。
【請求項2】
前記エピタキシャル成長層の膜厚は3μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体薄膜。
【請求項3】
C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面のサファイア基板と、
前記サファイア基板上に位置し、(11−20)面の窒化ガリウムからなるエピタキシャル成長層と、
前記エピタキシャル成長層を下地として形成されたIII族窒化物からなる活性層と、
を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記エピタキシャル成長層の膜厚は3μm以上であることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
C3結晶軸に対して−0.9°〜−0.1°のオフ角を有する(1−102)面のサファイア基板をアニールする基板アニールステップと、
前記サファイア基板の温度を1100℃〜1400℃の範囲内に制御しつつ、トリメチルガリウムを200〜500μmol/minの流量で導入することにより、前記サファイア基板上に(11−20)面の窒化ガリウムを成長させる窒化ガリウム形成ステップと、
を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ガリウム形成ステップは、前記トリメチルガリウムの導入の前に、NH3を導入することによって、前記窒化ガリウムを成長させることを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物半導体薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記窒化ガリウム形成ステップは、前記窒化ガリウムの膜厚が3μm以上となる成長時間で前記トリメチルガリウムを導入することを特徴とする請求項5または6に記載のIII族窒化物半導体薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−214132(P2008−214132A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54313(P2007−54313)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】