説明

III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法

【課題】p型半導体層のキャリヤー濃度を従来よりも高めて、p型半導体層のp型活性化を促進させること。
【解決手段】発光ダイオード100は、少なくとも上記のp型半導体層103の上面(コンタクト面103a)が電解液2に浸されている。対向電極3はカーボン又は白金から形成されており、配線4,5によって定電圧電源Eを介して上記の負電極104に接続されている。以上の構成により、コンタクト面103aの近傍及び対向電極3の近傍において、それぞれ以下の化学反応が促進されるため、これにより、p型半導体層103から多数の陽子(H+ )を離脱させることができる。
(コンタクト面103aの近傍): 2H+ + 2OH- → 2H2
(対向電極3の近傍): 2H2 O + 2e- → 2OH- + H2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型不純物が添加された III族窒化物系化合物半導体をp型活性化する方法に関する。
この方法は、p型半導体層のp型活性化の促進に基づく、p型半導体層の電気抵抗の低減に大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子のp型半導体層をp型活性化させる方法としては、従来より専らアニーリングを行う方法が採用されてきている。この様なアニーリングを行う従来技術としては、例えば下記の特許文献1に記載されているもの等が公知である。
【特許文献1】特許第2540791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の従来技術だけでは、p型半導体層のキャリヤー濃度を5×1018cm-3以上にすることは困難である。これは、上記の従来技術だけでは、p型半導体層のなかの例えばマグネシウムイオン(Mg- )等のp型の不純物に陽子(H+ )が拘束されたまま幾らか残留してしまうためだと考えられる。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、p型半導体層のキャリヤー濃度を従来よりも高めて、p型半導体層のp型活性化を促進させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、p型不純物が添加された III族窒化物系化合物半導体をp型活性化する方法において、 III族窒化物系化合物半導体を電解液の中に入れ、この III族窒化物系化合物半導体の表裏両面間に電圧を印加することによって、この III族窒化物系化合物半導体の中にある陽子(H+ )をこの III族窒化物系化合物半導体の表面に引き出して電解液中に放出させることである。
【0006】
ただし、上記の「 III族窒化物系化合物半導体の表裏両面間に電圧を印加すること」には、 III族窒化物系化合物半導体の表裏両面に直接的に電極などを設けて電圧を印加することの他にも、上記の III族窒化物系化合物半導体が挟まれる2つの電圧印加点間にその他の半導体や溶液などを介在させて、上記の III族窒化物系化合物半導体の表裏両面間に間接的に電圧を印加することなどをも含む。
【0007】
また、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、 III族窒化物系化合物半導体の裏面側に電位を与える第1の電極と、電解液を介して上記の表面に対向する対向電極とを設け、第1の電極が対向電極よりも高電位となる様に電圧を印加することである。
【0008】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1の手段において、 III族窒化物系化合物半導体の裏面側に電位を与える第1の電極を設け、上記の表面上に薄膜金属層を成膜し、第1の電極が薄膜金属層よりも高電位となる様に電圧を印加することである。
【0009】
また、本発明の第4の手段は、上記の第3の手段において、上記の薄膜金属層の材料を標準酸化還元電位が標準水素電極よりも貴な貴金属にすることである。
この様な貴金属としては、例えば、金(Au)や白金(Pt)やロジウム(Rh)などを用いることができる。
【0010】
更に、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、参照電極を用いる3電極法に基づいて、電解液の中に水素(H2 )ガスを発生させる面の電位を最適化することにより、 III族窒化物系化合物半導体から陽子(H+ )が脱離する反応を促進させることである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の手段によれば、p型の不純物などに拘束されて III族窒化物系化合物半導体の中に残留していた陽子(H+ )の少なくとも一部を III族窒化物系化合物半導体の中から電気力を用いて電解液中に強制的に取り出すことができるので、これにより、この III族窒化物系化合物半導体のp型活性化を従来よりも効果的に促進させることができる。
【0012】
また、本発明の第2の手段によれば、上記の対向電極を用いることによって、 III族窒化物系化合物半導体の表面上に薄膜金属層を形成しなくても III族窒化物系化合物半導体を効果的にp型活性化させることができるので、 III族窒化物系化合物半導体の表面上に薄膜金属層を形成する他の方法よりも、最終的に得られる所望の III族窒化物系化合物半導体の構造の任意性をより高く確保することができる。
【0013】
また、本発明の第3の手段によれば、薄膜金属層と第1の電極との間の電位差を、電解液を介さずに直接設定することができるので、 III族窒化物系化合物半導体の中の電界をより効果的に形成することができる。このため、本発明の第3の手段によれば、上記の電気力をより効果的に発生させることができる。
【0014】
また、本発明の第4の手段によれば、陽子等(即ち、2H+ と2e- )と水素ガス(:H2 )との間の非平衡状態において、上記の薄膜金属層が効果的な触媒作用を奏するので、水素ガスの発生効率をより効果的に高めることができる。
【0015】
また、本発明の第5の手段によれば、水素ガスが発生する面の電解液に対する電位差、または、水素ガスが発生する面の絶対的な電位を所望の値に容易に調整することができるので、その最適化によって、陽子等(即ち、2H+ と2e- )と水素ガス(:H2 )との間の非平衡状態において、水素ガスの発生効率をより効果的に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は本実施例1のp型活性化処理方法を示す電気分解の模式的な回路図であり、結晶成長基板101と半導体層102とp型半導体層103などから成る発光ダイオード100は、ダブルヘテロ接合などの周知の構造を有するLEDを模式的に表している。この発光ダイオード100の結晶成長基板101の結晶成長面上(図面右側)には、n型半導体層と発光層等から構成される半導体層102が積層されており、更にその上(図面右側)には、p型不純物が添加された III族窒化物系化合物半導体から成るp型半導体層103が積層されている。このp型半導体層103は、単層構造のものでも複層構造のものでもよく、マグネシウム(Mg)を添加することと、従来と同様のアニーリング処理をすることによって、予めp型に従来程度に活性化されている。
ただし、このアニーリング処理は、必ずしも実施しなくても良い。
【0018】
半導体層102が有する上記のn型半導体層のエッチングされた露出面には、LEDの負電極104が形成されており、この負電極104が本発明の第1の電極に相当している。この負電極104は、シール材105によって局所的に封止されている。発光ダイオード100は、少なくとも上記のp型半導体層103の上面が電解液2に浸されている。以下、このp型半導体層103の上面のことを、後にここに電極が形成される理由からコンタクト面103aと言う。そして、このコンタクト面103aが本発明の III族窒化物系化合物半導体の表面に相当している。
【0019】
電解液2は、塩酸水溶液から成り、約pH2に希釈されている。ただし、電解液2は、硫酸などのその他の水溶液から構成しても良い。
対向電極3はカーボン又は白金から形成されており、配線4,5によって定電圧電源Eを介して上記の負電極104に接続されている。即ち、負電極104は、定電圧電源Eによって印加される電圧に基づいて対向電極3に対して相対的に正電位になっている。
なお、これらの回路は生産効率上、半導体素子単位ではなく、分離前の半導体ウェハの単位で構成することが望ましい。
【0020】
以上の構成により、コンタクト面103aの近傍及び対向電極3の近傍において、それぞれ以下の化学反応が促進される。
(コンタクト面103aの近傍における化学反応)
2H+ + 2OH- → 2H2 O …(1)
(対向電極3の近傍における化学反応)
2H2 O + 2e- → 2OH- + H2 ↑ …(2)
【0021】
そして、これらの化学反応により、p型半導体層103から多数の陽子(H+ )を離脱させることができる。したがって、上記の構成に従えば、p型半導体層103のp型活性化を従来よりも大幅に促進することができる。
このp型活性化処理の後は、当該半導体ウェハを洗浄し、乾燥させ、その後は従来と同様にして、正電極を形成したり、素子単位に分割したりすることなどによって、従来よりも電気抵抗の小さな発光ダイオードを得ることができる。
【実施例2】
【0022】
図2は本実施例2のp型活性化処理方法を示す電気分解の模式的な回路図である。発光ダイオード200の結晶成長基板201の結晶成長面上(図面右側)には、n型半導体層と発光層等から構成される半導体層202が積層されており、更にその上(図面右側)には、p型半導体層203が積層されている。このp型半導体層203は、マグネシウム(Mg)を添加することと、従来と同様のアニーリング処理をすることによって、予めp型に従来程度に活性化されている。
ただし、このアニーリング処理は、必ずしも実施しなくても良い。
【0023】
半導体層202が有する上記のn型半導体層のエッチングされた露出面には、負電極204が形成されており、この負電極204が本発明の第1の電極に相当している。この負電極204は、シール材205によって局所的に封止されている。また、p型半導体層203の上面(コンタクト面203a)には、原子単位で数層の金(Au)から成る薄膜金属層206が成膜されており、その上には正電極207が形成されている。この正電極207もまたシール材208によって局所的に封止されている。
【0024】
この発光ダイオード200は、少なくとも上記の薄膜金属層206の露出面が電解液2に浸されている。電解液2は、塩酸水溶液から成り、約pH2に希釈されている。ただし、電解液2は、硫酸などのその他の水溶液から構成しても良い。
正電極207は、配線4,5によって定電圧電源Eを介して上記の負電極104に接続されている。即ち、負電極204は、定電圧電源Eによって印加される電圧に基づいて正電極207に対して相対的に正電位になっている。
なお、これらの回路は生産効率上、半導体素子単位ではなく、分離前の半導体ウェハの単位で構成することが望ましい。
【0025】
以上の構成により、薄膜金属層206と電解液2との界面近傍において、以下の化学反応が促進される。
(薄膜金属層206の近傍における化学反応)
2H+ + 2e- → H2 ↑ …(3)
【0026】
そして、これらの化学反応により、p型半導体層203から多数の陽子(H+ )を離脱させることができる。したがって、上記の構成に従えば、p型半導体層203のp型活性化を従来よりも大幅に促進することができる。
このp型活性化処理の後は、当該半導体ウェハを洗浄し、乾燥させ、その後は従来と同様に素子単位に分割するなどの工程を経て、従来よりも電気抵抗の小さな発光ダイオードを得ることができる。
【0027】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
(変形例1)
例えば、上記の実施例2では、参照電極を用いなかったが、3電極法に従って更に参照電極を導入しても良い(本発明の第5の手段)。これにより、水素ガスが発生する面の絶対的な電位を所望の値に容易に調整することができるので、その最適化によって、水素ガスが発生する面の近傍における陽子等(即ち、2H+ と2e- )と水素ガス(H2 )との間の非平衡状態(例:式(3))において、水素ガスの発生効率をより効果的に高めることができる。したがって、この場合には、所望の III族窒化物系化合物半導体を更に効率よく効果的にp型活性化することができる。
【0028】
この場合、上記の水素ガスが発生する面の電位(例:薄膜金属層206の電位)は、次式(3)′の電気化学反応の熱力学的な平衡電位(:標準水素電極の電位V0)よりも卑な電位に設定し、かつ、次式(4)の電気化学反応(:水の電気分解)の熱力学的な平衡電位(V0+1.23V)より貴な電位に設定することが望ましい。また、溶液中の溶存酸素を乾燥窒素バブリング等により除去すれば、上記の電位をより卑にできるので、更に効率よく効果的に所望のp型活性化処理を実施することができる。
(電気化学反応の平衡状態を表す式)
2H+ + 2e- ⇔ H2 …(3)′
2 + H2 O + 2e- ⇔ HO2 - + OH- …(4)
【0029】
また、上記の各実施例では、発光ダイオード100,200における各p型半導体層(103,203)のp型活性化方法について例示したが、本発明は、p型の不純物が添加された単層又は複層構造の単体の III族窒化物系化合物半導体に対しても、勿論、略同様にして適用することができる。
【0030】
その時、例えば図1と略同様にして対向電極を用いる場合には、その対向電極に対峙させるp型 III族窒化物系化合物半導体の面を表面とし、その反対側(裏側)の面を裏面として、このp型 III族窒化物系化合物半導体の裏面に、前述の負電極104に対応する本発明の第1の電極を形成すれば良い。
また、図2と略同様にして薄膜金属層(206)を用いる場合には、その反対側(裏側)の面を裏面として、このp型 III族窒化物系化合物半導体の裏面に、前述の負電極204に対応する本発明の第1の電極を形成すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、p型不純物が添加された III族窒化物系化合物半導体をp型活性化する方法に関するものである。したがって、その利用分野は発光素子、受光素子に限定されるものではなく、本発明は、 III族窒化物系化合物半導体を有して成る任意の半導体素子に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1のp型活性化処理方法を示す電気分解の回路図
【図2】実施例2のp型活性化処理方法を示す電気分解の回路図
【符号の説明】
【0033】
100,200 : 発光ダイオード
101,201 : 結晶成長基板
102,202 : 半導体層(n型半導体層、及び発光層)
103,203 : p型半導体層
104,204 : 負電極
105,205 : シール材
206 : 薄膜金属層
207 : 正電極
2 : 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型不純物が添加された III族窒化物系化合物半導体をp型活性化する方法において、
前記 III族窒化物系化合物半導体を電解液の中に入れ、前記 III族窒化物系化合物半導体の表裏両面間に電圧を印加することによって、前記 III族窒化物系化合物半導体の中にある陽子(H+ )を前記 III族窒化物系化合物半導体の表面に引き出して前記電解液中に放出させる
ことを特徴とする III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法。
【請求項2】
前記 III族窒化物系化合物半導体の裏面側に電位を与える第1の電極と、
前記電解液を介して前記表面に対向する対向電極と
を設け、
前記第1の電極が前記対向電極よりも高電位となる様に電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法。
【請求項3】
前記 III族窒化物系化合物半導体の裏面側に電位を与える第1の電極を設け、
前記表面上に薄膜金属層を成膜し、
前記第1の電極が前記薄膜金属層よりも高電位となる様に電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法。
【請求項4】
前記薄膜金属層の材料は、
標準酸化還元電位が標準水素電極よりも貴な貴金属である
ことを特徴とする請求項3に記載の III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法。
【請求項5】
参照電極を用いる3電極法に基づいて、
前記電解液の中に水素(H2 )ガスを発生させる面の電位を最適化することにより、
前記 III族窒化物系化合物半導体から陽子(H+ )が脱離する反応を促進させる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体のp型活性化方法。

【図1】
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【図2】
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