説明

III族窒化物結晶基板、エピ層付III族窒化物結晶基板、ならびに半導体デバイスおよびその製造方法

【課題】発光のブルーシフトが抑制された発光デバイスの製造に好適なIII族窒化物結晶基板、エピ層付III族窒化物結晶基板、ならびに半導体デバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本III族窒化物結晶基板1は、結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面1sからのX線侵入深さを変化させるX線回折測定により得られる結晶基板の表面層の均一歪みが1.9×10-3以下であり、結晶基板の表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、主表面の面方位が結晶基板の(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体基板、エピ層付III族窒化物結晶基板、ならびに半導体デバイスおよびその製造方法に関し、特に半導体デバイスを作製する際の半導体層のエピタキシャル結晶成長用の基板として好ましく用いられるIII族窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年では窒化物半導体結晶を利用した種々の半導体デバイスが作製されており、そのような半導体デバイスの典型例として窒化物半導体発光デバイスが作製されている。
【0003】
窒化物半導体デバイスの作製においては、一般に、基板上に複数の窒化物半導体層がエピタキシャルに結晶成長させられる。エピタキシャル成長した窒化物半導体層の結晶品質はそのエピタキシャル成長に用いられた基板の表面層の状態に影響され、その窒化物半導体層を含む半導体デバイスの性能に影響を及ぼす。したがって、そのような基板として窒化物半導体結晶を用いる場合、少なくともエピタキシャル成長の下地となる基板の主表面は歪みを含まずかつ平滑であることが望ましい。
【0004】
すなわち、エピタキシャル成長に用いられる窒化物半導体基板の主表面は、一般に、その平滑化処理がなされるとともに歪み除去処理がなされる。この場合に、化合物半導体のなかでも窒化ガリウム系半導体は比較的硬質であり、表面平滑化処理が容易ではなく、その平滑化処理後の歪み除去処理も容易ではない。
【0005】
米国特許第6596079号明細書(特許文献1、以下同じ)では、(AlGaIn)N種結晶上に気相エピタキシーによって育成された(AlGaIn)Nバルク結晶から基板を作製する場合において、機械的研磨された基板表面に対してCMP(化学機械的研磨)やエッチングなどを施すことによって、表面ダメージが除去されて1nm以下のRMS(2乗平均)表面粗さを有する基板面を形成する方法が開示されている。米国特許第6488767号明細書(特許文献2、以下同じ)では、CMP処理によって0.15nmのRMS表面粗さを有するAlxGayInzN(0<y≦1、x+y+z=1)基板が開示されており、そのCMPの処理剤にはAl23砥粒、SiO2砥粒、pH調整剤、および酸化剤が含められる。
【0006】
従来では、上述のように、GaN結晶を機械研磨した後にCMP処理またはドライエッチングすることによって、機械研磨時の加工変質層を除去して基板面を仕上げたGaN基板を得ている。しかし、CMP処理は処理速度が遅く、コストや生産性に問題がある。また、ドライエッチングでは、表面粗さの問題が生じる。
【0007】
すなわち、Si基板のCMPによる仕上げ方法やその方法における研磨剤は、硬質の窒化物半導体基板には不向きであって、表面層の除去速度を遅くする。特に、GaNは化学的に安定であり、ウェットエッチングされにくいのでCMP処理が容易でない。また、ドライエッチングによって窒化物半導体表面を除去することはできるが、その表面を水平方向に平坦化する効果がないので、表面平滑化が得られない。
【0008】
また、上述のように、基板の主表面上に良好な結晶質の化合物半導体層をエピタキシャル成長させるためには、加工ダメージが少なく歪みの少ない良好な結晶品質の表面層を有する基板面を用いることが必要である。しかし、基板の主表面において必要とされる表面層の結晶品質が明らかでない。
【0009】
そこで、特開2007−005526号公報(特許文献3、以下同じ)では、窒化物結晶基板およびその基板を用いた半導体デバイスに関して、GaN結晶またはAlN結晶を機械研磨した後所定の条件でCMPを行って、基板の結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定により評価された結晶の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび面方位ずれの少なくともいずれかが所定の範囲内である窒化物結晶基板が半導体デバイスの製造に好適であることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6596079号明細書
【特許文献2】米国特許第6488767号明細書
【特許文献3】特開2007−005526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、上記の米国特許第6596079号明細書(特許文献1)、米国特許第6488767号明細書(特許文献2)および特開2007−005526号公報(特許文献3)に例示されている基板は、いずれも六方晶系のウルツ鉱型のIII族窒化物結晶でありその主表面が(0001)面である。このため、かかる結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を形成した半導体デバイスである発光デバイスは、半導体層の主表面も(0001)面であり、かかる(0001)面はその面の法線方向に極性が変化する極性面であるため、かかる極性によるピエゾ分極によって生じる量子閉じ込めシュタルク効果により、電流注入量増加にともなう発光のブルーシフトが大きくなり、発光強度が低下する。
【0012】
一方、発光のブルーシフトが抑制された発光デバイスを製造するためには、発光デバイスの製造に用いる基板の主表面の極性を低減すること、すなわち、基板の主表面を(0001)面以外の面とする必要がある。
【0013】
しかし、発光のブルーシフトが抑制された発光デバイスの製造に好適な基板に関して、その主表面の面方位、その主表面の面粗さ、その表面層の結晶性などが全く不明である。
【0014】
そこで、本発明は、発光のブルーシフトが抑制された発光デバイスの製造に好適なIII族窒化物結晶基板、エピ層付III族窒化物結晶基板、ならびに半導体デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、III族窒化物結晶基板は、III族窒化物結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶基板の表面層の均一歪みが1.9×10-3以下であり、結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される結晶基板の表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、主表面の面方位が、結晶基板の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。
【0016】
上記のIII族窒化物結晶基板について、均一歪みを1.7×10-3以下とし、面方位ずれを260arcsec以下とすることができる。また、均一歪みを1.4×10-3以下とし、面方位ずれを190arcsec以下とすることができる。また、均一歪みを1.2×10-3以下とし、面方位ずれを120arcsec以下とすることができる。また、均一歪みを1.0×10-3以下とし、面方位ずれを80arcsec以下とすることができる。また、均一歪みを0.7×10-3以下とし、面方位ずれを50arcsec以下とすることができる。
【0017】
上記のIII族窒化物結晶基板について、III族窒化物結晶基板の主表面は3nm以下の表面粗さRaを有することができる。また、III族窒化物結晶基板の主表面の面方位は、結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面から±4°以内で傾斜することができる。ここで、主表面の面方位は、結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面に対して傾斜角の絶対値が0.1°未満と実質的に平行とすることができる。また、主表面の面方位は、結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面からの傾斜角の絶対値を0.1°以上4°以下とすることができる。また、III族窒化物結晶基板の主表面に存在する酸素の濃度を2原子%以上16原子%以下とすることができる。また、III族窒化物結晶基板の主表面における転位密度を1×107cm-2以下とすることができる。また、III族窒化物結晶基板の直径を40mm以上150mm以下とすることができる。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、エピ層付III族窒化物結晶基板は、上記のIII族窒化物結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長により形成されている少なくとも1層の半導体層を含む。
【0019】
本発明のさらに他の実施形態によれば、半導体デバイスは、上記のエピ層付III族窒化物結晶基板を含む。上記の半導体デバイスについて、上記のエピ層付III族窒化物結晶基板に含まれる半導体層は、ピーク波長が430nm以上550nm以下の光を発する発光層を含むことができる。
【0020】
本発明のさらに他の実施形態によれば、半導体デバイスの製造方法は、III族窒化物結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶基板の表面層の均一歪みが1.9×10-3以下であり、結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される結晶基板の表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、主表面の面方位が結晶基板の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している結晶基板を準備する工程と、結晶基板の主表面上に少なくとも1層の半導体層をエピタキシャル成長させることによりエピ層付III族窒化物結晶基板を形成する工程と、を含む。
【0021】
上記の半導体デバイスの製造方法におけるエピ層付III族窒化物結晶基板を形成する工程において、上記の半導体層は、発光層を含み、発光層がピーク波長430nm以上550nm以下の光を発するように形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光のブルーシフトが抑制され、発光強度が増大した発光デバイスの製造に好適なIII族窒化物結晶基板、エピ層付III族窒化物結晶基板、ならびに半導体デバイスおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】III族窒化物結晶基板の主表面から深さ方向の結晶の状態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に用いられるX線回折法における測定軸、測定角を示す概略図である。
【図3】X線回折法におけるIII族窒化物結晶基板の結晶格子の均一歪みと回折プロファイルにおける特定結晶格子面の面間隔との関係を示す模式図である。ここで、(a)は結晶格子の均一歪みを示し、(b)は回折プロファイルにおける特定結晶格子面の面間隔を示す。
【図4】X線回折法におけるIII族窒化物結晶基板の結晶格子の不均一歪みと回折プロファイルにおける回折ピークの半値幅との関係を示す模式図である。ここで、(a)は結晶格子の不均一歪みを示し、(b)は回折プロファイルにおける回折ピークの半値幅を示す。
【図5】X線回折法におけるIII族窒化物結晶基板の特定結晶格子面の面方位ずれとロッキングカーブにおける半値幅との関係を示す模式図である。ここで、(a)は特定結晶格子面の面方位ずれを示し、(b)はロッキングカーブにおける半値幅を示す。
【図6】本発明にかかるIII族窒化物結晶基板の一例を示す概略図である。
【図7】本発明にかかるIII族窒化物結晶基板における主表面の面方位の(0001)面から<10−10>方向への傾斜の一例を示す概略図である。
【図8】本発明にかかるIII族窒化物結晶基板における主表面の面方位の(0001)面から<10−10>方向への傾斜の他の例を示す概略図である。
【図9】本発明にかかるIII族窒化物結晶基板における主表面の面方位の(000−1)面から<10−10>方向への傾斜の一例を示す概略図である。
【図10】本発明にかかるIII族窒化物結晶基板における主表面の面方位の(000−1)面から<10−10>方向への傾斜の他の例を示す概略図である。
【図11】本発明にかかるエピ層付III族窒化物結晶基板の一例を示す概略断面図である。
【図12】本発明にかかる半導体デバイスの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[III族窒化物結晶基板]
結晶幾何学においては、結晶面の面方位を表わすために(hkl)または(hkil)などの表示(ミラー表示)が用いられる。III族窒化物結晶基板を形成するIII族窒化物結晶などの六方晶系の結晶における結晶面の面方位は、(hkil)で表わされる。ここで、h、k、iおよびlはミラー指数と呼ばれる整数であり、i=−(h+k)の関係を有する。この面方位(hkil)の面を(hkil)面という。本明細書中においては、個別の面方位を(hkil)で表わし、(hkil)およびそれに結晶幾何学的に等価な面方位を含む総称的な面方位を{hkil}で表わす。また、個別の方向を[hkil]で表わし、[hkil]およびそれに結晶幾何学的に等価な方向を含む方向を<hkil>で表わす。また、負の指数については、結晶幾何学上は「−」(バー)を指数を表す数字の上に付けて表わすのが一般的であるが、本明細書中では指数を表す数字の前に負の符号(−)を付けて表わす。
【0025】
ここで、III族窒化物結晶は、<0001>方向にIII族元素原子面および窒素原子面が交互に配列するため、<0001>方向に極性を有する。本願においては、III族元素原子面が(0001)面となり、窒素原子面が(000−1)面となるように、結晶軸を設定する。
【0026】
本発明においては、X線回折法を用いることにより、III族窒化物結晶基板の表面層における結晶性を、結晶を破壊することなく直接評価することができる。ここで、結晶性の評価とは、結晶の歪みがどの程度あるかを評価することをいい、具体的には、結晶格子の歪み、結晶格子面の面方位ずれがどの程度あるかを評価することをいう。また、結晶格子の歪みには、結晶格子が均一に歪んでいる均一歪みと、結晶格子が不均一に歪んでいる不均一歪みとがある。結晶格子面の面方位ずれとは、結晶格子全体の格子面の面方位の平均方位から各々の結晶格子の格子面の面方位がずれているばらつきの大きさをいう。
【0027】
図1に示すように、III族窒化物結晶基板1は、III族窒化物結晶体からの切り出し、研削または研磨などによる加工によって、結晶基板の主表面1sから一定の深さ方向の表面層1pに結晶格子の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれが生じる。また、表面層1pに隣接する表面隣接層1qにも、結晶格子の均一歪み、不均一歪みまたは結晶格子の面方位ずれの少なくともいずれかが生じる場合もある(図1は、結晶格子の面方位ずれが生じている場合を示す)。さらに、表面隣接層1qよりも内側の内層1rでは、その結晶本来の結晶構造を有するものと考えられる。なお、表面加工における研削または研磨の方法、程度などにより、表面層1p、表面隣接層1qの状態、厚さが異なる。
【0028】
ここで、結晶基板の主表面からその深さ方向に、結晶格子の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれを評価することにより、表面層の結晶性を直接かつ確実に評価することができる。
【0029】
本発明においてIII族窒化物結晶基板の表面層の結晶性を評価するためのX線回折測定は、III族窒化物結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させるものである。
【0030】
ここで、任意の特定結晶格子面の回折条件とは、任意に特定されたその結晶格子面によってX線が回折される条件をいい、Bragg角をθ、X線の波長をλ、結晶格子面の面間隔をdとすると、Braggの条件式(2dsinθ=nλ、ここでnは整数)を満たす結晶格子面でX線が回折される。
【0031】
また、X線侵入深さとは、入射X線の強度が1/e(eは自然対数の底)になるときの結晶基板の主表面1sからの垂直深さ方向への距離をいう。このX線侵入深さTは、図2を参照して、III族窒化物結晶基板1におけるX線の線吸収係数μ、結晶基板の主表面1sの傾き角χ、結晶基板の主表面1sに対するX線入射角ω、Bragg角θによって、式(1)のように表わされる。なお、χ軸21は入射X線11と出射X線12とにより作られる面内にあり、ω軸22(2θ軸)は入射X線11と出射X線12とにより作られる面に垂直であり、φ軸23は結晶基板の主表面1sに垂直である。φは結晶基板の主表面1s内の回転角を示す。
【0032】
【数1】

【0033】
したがって、上記の特定結晶格子面に対する回折条件を満たすように、χ、ωおよびφの少なくともいずれかを調整することにより、連続的にX線侵入深さTを変えることができる。
【0034】
なお、特定結晶格子面1dにおける回折条件を満たすように、連続的にX線侵入深さTを変化させるためには、その特定結晶格子面1dと結晶基板の主表面1sとは平行でないことが必要である。特定結晶格子面と結晶基板の主表面とが平行であると、特定結晶格子面1dと入射X線11とのなす角度であるθと結晶基板の主表面1sと入射X線11とのなす角度であるωとが同じになり、特定結晶格子面1dにおいてX線侵入深さを変えることができなくなる。上記のように、特定結晶格子面には、結晶基板の主表面と平行でないこと以外には特に制限はないが、所望の進入深さでのX線回折による評価が容易な観点から、(10−10)面、(10−11)面、(10−13)面、(11−20)面、(11−22)面、(11−24)面、(10−1−1)面、(10−1−3)面、(11−2−2)面、(11−2−4)面などが好ましく用いられる。
【0035】
ここで、X線侵入深さを変えて結晶基板の任意の特定結晶格子面にX線を照射し、この特定結晶格子面についての回折プロファイルにおける面間隔の変化から結晶格子の均一歪みを、回折プロファイルにおける回折ピークの半値幅の変化から結晶格子の不均一歪みを、ロッキングカーブにおける半値幅の変化から結晶格子の面方位ずれを評価する。
【0036】
また、図6を参照して、本発明にかかるIII族窒化物結晶基板1は、その主表面1sの面方位が、結晶基板の(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。III族窒化物結晶基板の主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への傾斜角αが10°以上であることにより、結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を含む半導体デバイスである発光デバイスにおいて、半導体層中の発光層のピエゾ分極が抑制され量子閉じ込めシュタルク効果が低減されることにより、ホールと電子の再結合が容易になり発光遷移確率が高くなるため、発光デバイスのブルーシフトが低減されるとともに発光の積分強度が高くなる。III族窒化物結晶基板の主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への傾斜角αが80°以下であることにより、結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を含む半導体デバイスである発光デバイスにおいて、半導体層中の発光層の転位密度が低くなるため、発光の積分強度を高くすることができる。かかる観点から、III族窒化物結晶基板における(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への主表面の面方位が傾斜角αは、16°以上80°以下が好ましく、45°以上79°以下がより好ましく、63°以上79°以下がさらに好ましい。ここで、(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向への主表面の傾斜角αは、X線回折法などにより測定することができる。
【0037】
(実施形態1)
図1、図3および図6を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物結晶基板1は、III族窒化物結晶基板1の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面1sからのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶基板の表面層1pの均一歪みが1.9×10-3以下であり、主表面1sの面方位が、結晶基板の(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。
【0038】
本実施形態のIII族窒化物結晶基板1は、その表面層1pの均一歪みが1.9×10-3以下であり、かつ、その(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への主表面1sの面方位の傾斜角αが10°以上80°以下であることにより、その結晶基板の主表面1s上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を含む半導体デバイスである発光デバイスのブルーシフトを低減するとともに発光の積分強度を高くすることができる。かかる観点から、表面層1pの均一歪みは、1.7×10-3以下が好ましく、1.4×10-3以下がより好ましく、1.2×10-3以下がさらに好ましく、1.0×10-3以下が特に好ましく、0.7×10-3以下が最も好ましい。ここで、表面層1pの均一歪みは、小さいほど好ましく、本願においても、後述するように、結晶基板の主表面の加工条件を調整することにより、0.4×10-3程度までに低減されている。また、主表面1sの面方位の傾斜角αは、16°以上80°以下が好ましく、45°以上79°以下がより好ましく、63°以上79°以下がさらに好ましい。
【0039】
ここで、図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから表面層1p内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから内層1r内までの距離に相当する。このとき、図3(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける面間隔d2はその窒化物結晶本来の特定結晶格子面の面間隔と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける面間隔d1は、結晶基板の表面加工の影響(たとえば、結晶格子面内方向への引張応力30など)による表面層1pの結晶格子の均一歪みを反映して、X線侵入深さ5μmにおける面間隔d2と異なる値をとる。
【0040】
上記の場合、図3(b)を参照して、結晶基板の任意の特定結晶格子面についての回折プロファイルにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける面間隔d1とX線侵入深さ5μmにおける面間隔d2とが現れる。したがって、d2に対するd1とd2の差の割合である|d1−d2|/d2の値によって、表面層の均一歪みを表わすことができる。
【0041】
(実施形態2)
図1、図4および図6を参照して、本発明の他の実施形態であるIII族窒化物結晶基板1は、III族窒化物結晶基板1の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶基板の主表面1sからのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される結晶基板の表面層1pの不均一歪みが130arcsec以下であり、主表面1sの面方位が、結晶基板の(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。
【0042】
本実施形態のIII族窒化物結晶基板1は、その表面層1pの不均一歪みが130arcsec以下であり、かつ、その(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への主表面1sの面方位の傾斜角αが10°以上80°以下であることにより、その結晶基板の主表面1s上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を含む半導体デバイスである発光デバイスのブルーシフトを低減するとともに発光の積分強度を高くすることができる。かかる観点から、表面層1pの不均一歪みは、110arcsec以下が好ましく、90arcsec以下がより好ましく、75arcsec以下がさらに好ましく、55arcsec以下が特に好ましく、30arcsec以下が最も好ましい。ここで、表面層1pの不均一歪みは、小さいほど好ましく、本願においても、後述するように、結晶基板の主表面の加工条件を調整することにより、0arcsecまでに低減されている。また、主表面1sの面方位の傾斜角αは、16°以上80°以下が好ましく、45°以上79°以下がより好ましく、63°以上79°以下がさらに好ましい。
【0043】
ここで、図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから表面層1p内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから内層1r内までの距離に相当する。このとき、図4(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半値幅v2はその窒化物結晶本来の半値幅と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける回折ピークの半値幅v1は、結晶基板の表面加工の影響による表面層1pの結晶格子の不均一歪み(たとえば、各結晶格子面の面間隔が、d3、d4〜d5、d6とそれぞれ異なる)を反映して、X線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半値幅v2と異なる値をとる。
【0044】
上記の場合、図4(b)を参照して、結晶基板の任意の特定結晶格子面についての回折プロファイルにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける回折ピークの半値幅v1とX線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半値幅v2とが現れる。したがって、v1とv2の差である|v1−v2|の値によって、表面層1pの不均一歪みを表わすことができる。
【0045】
(実施形態3)
図1、図5および図6を参照して、本発明の他の実施形態であるIII族窒化物結晶基板1は、III族窒化物結晶基板1の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶基板の主表面1sからのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される結晶基板の表面層1pの特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、主表面1sの面方位が、結晶基板の(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している。
【0046】
本実施形態のIII族窒化物結晶基板1は、その表面層1pの特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、かつ、その(0001)面または(000−1)面1cから<10−10>方向への主表面1sの面方位の傾斜角αが10°以上80°以下であることにより、その結晶基板の主表面1s上にエピタキシャル成長させた少なくとも1層の半導体層を含む半導体デバイスである発光デバイスのブルーシフトを低減するとともに発光の積分強度を高くすることができる。かかる観点から、表面層1pの特定結晶格子面の面方位ずれは、260arcsec以下が好ましく、190arcsec以下がより好ましく、120arcsec以下がさらに好ましく、80arcsec以下が特に好ましく、50arcsec以下が最も好ましい。ここで、表面層1pの特定結晶は、小さいほど好ましく、本願においても、後述するように、結晶基板の主表面の加工条件を調整することにより、0arcsecまでに低減されている。また、主表面1sの面方位の傾斜角αは、16°以上80°以下が好ましく、45°以上79°以下がより好ましく、63°以上79°以下がさらに好ましい。
【0047】
ここで、図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから表面層1p内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmはIII族窒化物結晶基板1の主表面1sから内層1r内までの距離に相当する。このとき、図5(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける半値幅w2はその結晶本来の半値幅と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける半値幅w1は、結晶基板の表面加工の影響による表面層1pの結晶格子の面方位ずれ(たとえば、各結晶格子の特定結晶格子面51d,52d,53dの面方位がそれぞれ異なる)を反映して、X線侵入深さ5μmにおける半値幅w2と異なる値をとる。
【0048】
上記の場合、図5(b)を参照して、結晶の任意の特定結晶格子面についてのロッキングカーブにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける半値幅w1とX線侵入深さ5μmにおける半値幅w2とが現れる。したがって、w1とw2との差である|w1−w2|の値によって、結晶表面層の特定結晶格子面の面方位ずれを表わすことができる。
【0049】
上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1において、主表面1sは、30nm以下の表面粗さRyを有することが好ましい。ここで、表面粗さRyとは、JIS B 0601−1994に規定される最大高さRyを意味し、具体的には、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積としてとして10μm角(10μm×10μm=100μm2、以下同じ)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から最も高い山頂までの高さと最も低い谷底までの深さとの和をいう。III族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さRyを30nm以下とすることにより、このIII族窒化物結晶基板の主表面上に転位密度が低く結晶性の良好な半導体層をエピタキシャル成長させることができ、発光の積分強度の高い発光デバイスなど特性のよい半導体デバイスが得られる。かかる観点から、III族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さRyは、10nm以下がより好ましい。表面粗さRyは、AFM(原子間力顕微鏡)、光干渉式粗さ計などにより測定することができる。
【0050】
また、上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1において、主表面1sは、3nm以下の表面粗さRaを有することが好ましい。ここで、表面粗さRaとは、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを意味し、具体的には、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値(すなわち、距離)を合計してそれを基準面積で平均した値をいう。III族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さRaを3nm以下とすることにより、このIII族窒化物結晶基板の主表面上に転位密度が低く結晶性の良好な半導体層をエピタキシャル成長させることができ、発光の積分強度が高い発光デバイスなど特性のよい半導体デバイスが得られる。かかる観点から、III族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さRaは、1nm以下がより好ましい。表面粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)、光干渉式粗さ計などにより測定することができる。
【0051】
また、図7〜図10を参照して、上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1において、主表面1sの面方位は、結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面からの傾斜角βが±4°以内で傾斜していることが好ましい。
【0052】
ここで、主表面1sの面方位が結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面に対して傾斜角βの絶対値が0.1°未満と実質的に平行であると、主表面1s上にエピタキシャル成長させる少なくとも1層の半導体層に含まれる発光層中の井戸層におけるIn(インジウム)の取り込み濃度を高くすることができるため、成長温度を低下させることなく所望の組成の成長ができ、井戸層の結晶性を向上することができる。半導体デバイスである発光デバイスにおいて、井戸層の結晶性の向上により発光スペクトルに現れる発光ピークの半値幅を低減することにより、良好な発光特性が得られる。上記の面方位のうち、特に{20−21}面で良好な特性が得られる。
【0053】
また、主表面1sの面方位が結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面からの傾斜角βの絶対値が0.1°以上4°以下であると、主表面1sの面方位が{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面に対して傾斜角βの絶対値が0.1°未満と実質的に平行である場合とほぼ同様の良好な発光特性を有する半導体デバイスが得られる。また、主表面1sの面方位が結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面からの傾斜角βの絶対値が0.1°以上4°以下である場合は、成長させる半導体層(発光層が含まれる)のモフォロジーがよくなるため、得られる発光デバイス(半導体デバイス)は良好な発光特性を有する。上記の面方位のうち、特に{20−21}面で良好な特性が得られる。
【0054】
また、図1を参照して、上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1において、主表面1sに存在する酸素の濃度が2原子%以上16原子%以下であることが好ましい。ここで、主表面1sに存在する酸素とは、主表面1sが酸化することにより取り込まれている酸素および主表面1sに付着している酸素などを意味する。III族窒化物結晶基板1の主表面1sに存在する酸素の濃度が2原子%よりも低いと、形成された半導体デバイスにおける結晶基板とその結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された半導体層との間の界面の抵抗が大きくなり、発光の積分強度が低下する。結晶基板の主表面1sに存在する酸素の濃度が16原子%より高いと、結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長させる半導体層の結晶性が低下するため、発光の積分強度が低下する。かかる観点から、主表面1sに存在する酸素の濃度は3原子%以上10原子%以下がより好ましい。ここで、主表面に存在する酸素の濃度は、AES(オージェ原子分光法)、XPS(X線光電子分光法)などにより測定される。
【0055】
すなわち、上記のAESおよびXPSによって測定ができる観点から、本願発明における主表面1sに存在する酸素とは、主表面1sに付着している酸素および結晶基板の酸化などにより主表面1sに取り込まれている酸素、主表面から通常5nm程度まででたかだか10nm程度までの深さまでの領域に取り込まれている酸素をいう。
【0056】
また、図1を参照して、上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1について、主表面1sにおける転位密度が1×107cm-2以下であることが好ましい。結晶基板の主表面における転位密度が1×107cm-2より高くなると、結晶基板の主表面上にエピタキシャル成長させる半導体層の結晶性が低下するため、発光の積分強度が低下する。かかる観点から、主表面1sにおける転位密度が1×106cm-2以下がより好ましく、1×105cm-2以下がさらに好ましい。生産コストおよび生産性の観点から、主表面1sにおける転位密度は、1×102cm-2以上が好ましい。
【0057】
半導体デバイスの生産におけるコストおよび効率を高める観点から、III族窒化物結晶基板の直径は、40mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。基板の直径が大きい場合には、1枚の基板から作製できるデバイスの個数が増加する。大口径の基板を作製するためには、下地基板の直径を大きくし、厚みの厚い結晶を成長し、所望の角度で切り出して加工することができる。また、直径の小さいIII族窒化物結晶の複数枚の基板をそれらの側面が互いに隣接するように配置して、それらの複数枚の基板の主表面上に、それぞれIII族窒化物結晶を成長させる際にそれらのIII族窒化物結晶を互いに接合させて単一の結晶として成長させ、得られた単一のIII族窒化物結晶を大口径のIII族窒化物結晶基板に加工することができる。
【0058】
また、反りおよび厚み分布を小さくするなどの形状精度を向上させる観点から、III族窒化物結晶基板の直径は、150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。
【0059】
なお、III族窒化物結晶基板の主表面の形状は、デバイスを作製することができる大きさを有するものであれば、円形に限定されず、四角形などの多角形であってもよい。主表面の形状が多角形である場合は、半導体デバイスの生産におけるコストおよび効率を高める観点から、最短辺の長さは、5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。また、反りおよび厚み分布を小さくするなどの形状精度を向上させる観点から、最長辺の長さは、150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。主表面が長方形または正方形などのすべての角が直角である四角形のIII族窒化物結晶基板としては、主表面がたとえば、5mm×15mm、10mm×10mm、10mm×20mm、18mm×18mm、20mm×20mm、30mm×50mmなどが挙げられる。
【0060】
なお、III族窒化物結晶基板に添加される不純物(ドーパント)は、特に制限はないが、導電性基板、絶縁性基板を作製する観点から、以下のものが好ましく用いられる。比抵抗が5×10-5Ω・cm以上0.5Ω・cm以下(好ましくは5×10-4Ω・cm以上0.05Ω・cm以下)でキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下(好ましくは1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下)の範囲内のn型導電性基板では、結晶性を維持してかかる範囲内で所望の導電性が得られる観点から、基板に添加される不純物はO、Siが好ましい。比抵抗が1×104Ω・cm以上1×1011Ω・cm以下(好ましくは1×106Ω・cm以上1×1010Ω・cm以下)の範囲内の絶縁性基板では、結晶性を維持してかかる範囲内で所望の絶縁性が得られる観点から、基板に添加される不純物はC、Feが好ましい。ここで、基板の比抵抗は、四探針法、二探針法などにより測定することができる。また、基板のキャリア濃度は、ホール測定法、C−V測定法などにより測定することができる。
【0061】
[III族窒化物結晶基板の製造方法]
上記の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板の製造方法は、特に制限はないが、たとえば、III族窒化物結晶体を成長させる工程と、III族窒化物結晶体を、その結晶体の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向への傾斜角αが10°以上80°以下の面に平行な複数の面で切り出すことにより、0001)面または(000−1)面から<10−10>方向への傾斜角αが10°以上80°以下の主表面を有するIII族窒化物結晶基板を形成する工程と、III族窒化物結晶基板の主表面を加工する工程と、を備えることができる。
【0062】
(III族窒化物結晶体の製造工程)
III族窒化物結晶体の製造方法には、特に制限はなく、HVPE(ハイドライド気相成長)法、昇華法などの気相成長法、フラックス法、アモノサーマル法などの液相成長法などが好適に用いられる。たとえば、GaN結晶体の製造には、HVPE法、フラックス、アモノサーマル法などが好適に用いられ、AlN結晶体の製造には、HVPE法、昇華法などが好適に用いられ、InN結晶体、AlGaN結晶体およびInGaN結晶体の製造には、HVPE法などが好適に用いられる。
【0063】
上記のIII族窒化物結晶体の製造において、下地基板には、特に制限はないが、III族窒化物結晶体との結晶格子の不整合が小さく結晶性の高いIII族窒化物結晶体を成長させる観点から、GaAs基板、サファイア基板、SiC基板などが好適に用いられる。
【0064】
(III族窒化物結晶基板の形成工程)
上記のようにして製造されたIII族窒化物結晶体を、その結晶体の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向への傾斜角αが10°以上80°以下の面に平行な複数の面で切り出す方法には、特に制限はなく、ワイヤソー、内周刃、外周刃、レーザ加工、放電加工、ウォータージェットなどの各種切断方法を用いることができる。
【0065】
(III族窒化物結晶基板の主表面加工工程)
上記のようにして形成されたIII族窒化物結晶基板の主表面を平坦化し加工変質層を低減するための主表面加工方法は、特に制限はないが、表面粗さおよび加工変質層の両方を低減する観点から、研削および機械的研磨のいずれかの機械的加工の後、CMP(化学機械的研磨)を行うことが好ましい。なお、III族窒化物結晶基板の加工変質層は完全に除去する必要はなく、半導体層をエピタキシャル成長させる前にアニール処理により主表面の改質を行うこともできる。半導体層成長前のアニールにより結晶基板の表面層における結晶の再配列が行なわれ、結晶性のよい半導体層のエピタキシャル成長が可能となる。
【0066】
主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向へ10°以上80°以下で傾斜しているIII族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さおよび加工変質層の両方を効率的に低減するために好適なCMPについて以下に説明する。
【0067】
CMPに用いられるスラリーは、pHの値Xと酸化還元電位の値Y(mV)との関係が、以下の式(2)および(3)
Y≧−50X+1300 (2)
Y≦−50X+1900 (3)
を満たしていることが好ましい。Y<−50X+1300であると、研磨速度が低くなり、CMP時の機械的な負荷が増加するために、III族窒化物結晶基板の表面品質が低下する。Y>−50X+1900であると、研磨パッドおよび研磨装置への腐食作用が大きくなり、安定した研磨が困難となる。
【0068】
また、研磨速度をさらに向上させ、III族窒化物結晶基板の表面品質を向上させる観点から、さらに以下の式(4)
Y≧−50X+1400 (4)
の関係をも満たすことが好ましい。
【0069】
CMPのスラリーには、通常、塩酸、硫酸、硝酸などの酸、KOH、NaOHなどのアルカリが添加されているが、これらの酸および/またはアルカリのみでは化学的に安定な窒化ガリウムの表面を酸化する効果が小さい。そこで、さらに、酸化剤の添加により酸化還元電位を増加させて、上記式(2)および式(3)あるいは上記式(3)および式(4)の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0070】
CMPのスラリーに添加される酸化剤としては、特に制限はないが、研磨速度を高める観点から、次亜塩素酸、トリクロロイソシアヌル酸などの塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの塩素化イソシアヌル酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、ニクロム酸カリウムなどのニクロム酸塩、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩、硝酸、硫酸、塩酸、過酸化水素水、オゾンなどが好ましく用いられる。なお、これらの酸化剤は、単独で用いても、2以上を併用してもよい。
【0071】
CMPのスラリーのpHは、6以下または8以上であることが好ましい。pHが6以下の酸性スラリーまたはpHが8以上の塩基性スラリーをIII族窒化物結晶に接触させて、III族窒化物結晶の加工変質層をエッチング除去することにより、研磨速度を高めることができる。かかる観点から、スラリーのpHは4以下または10以上であることがより好ましい。
【0072】
ここで、スラリーのpHの調整に用いられる酸および塩基には特に制限はなく、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸、KOH、NaOH、NH4OH、アミンなどの塩基の他、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの塩を用いることができる。また、上記酸化剤の添加により、pHを調整することもできる。
【0073】
CMPのスラリーには、砥粒が含まれることが好ましい。この砥粒により研磨速度をより高めることができる。スラリーに含められる砥粒には、特に制限はなく、III族窒化物結晶基板の硬度以下に硬度の低い低硬度砥粒を用いることができる。低硬度砥粒を用いることにより結晶基板の主表面の表面粗さおよび加工変質層を低減することができる。
【0074】
ここで、低硬度砥粒は、被研磨物であるIII族窒化物結晶の硬度以下に硬度の低い砥粒であれば特に制限はないが、SiO2、CeO2、TiO2、MgO、MnO2、Fe23、Fe34、NiO、ZnO、CoO、Co34、CuO、Cu2O、GeO2、CaO、Ga23、In23からなる群から選ばれる少なくとも1つの材質を含む砥粒であることが好ましい。
【0075】
なお、砥粒は、単一の金属元素を含む酸化物に限定されず、2種類以上の金属元素を含む酸化物(たとえば、フェライト、ペロブスカイト、スピネルまたはイルメナイトなどの構造を有するもの)であってもよい。また、AlN、GaN、InNなどの窒化物、CaCO3、BaCO3などの炭酸化物、Fe、Cu、Ti、Niなどの金属、炭素(具体的には、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、C60など)を用いることもできる。
【0076】
また、III族窒化物結晶基板の主表面をスクラッチを発生させずに短時間で表面粗さRa,Ryを低減する観点から、砥粒は、1次粒子が結合した2次粒子とすることが好ましい。1次粒子の平均粒径D1に対する2次粒子の平均粒径D2の比(D2/D1比)が1.6以上であることが好ましく、2次粒子の平均粒径D2が200nm以上であることが好ましく、2次粒子の形状が繭形、塊状形および鎖形の少なくともいずれかの形状であることが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカであって1次粒子が化学的に結合した2次粒子となっているSiO2砥粒であることが好ましい。1次粒子径はガス吸着法による吸着比表面積から評価することができ、2次粒子は動的光散乱法で評価することができる。
【0077】
また、III族窒化物結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれを低減する観点から、CMPにおける接触係数C(単位:10-6m)は、1.0×10-6m以上2.0×10-6m以下が好ましく、1.2×10-6m以上1.8×10-6m以下がより好ましい。ここで、接触係数Cは、スラリーの粘度をη(単位:mPa・s)、CMPにおける周速度V(単位:m/s)およびCMPにおける圧力P(単位:kPa)を用いて、次式(5)
C=η×V/P (5)
と表わされる。スラリーの接触係数Cが1.0×10-6mより小さい場合は、CMPにおいてIII族窒化物結晶基板への負荷が大きくなるため、III族窒化物結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれが大きくなる。スラリーの接触係数Cが2.0×10-6mより大きい場合は、研磨速度が低下するため、III族窒化物結晶基板の主表面の表面粗さ、表面層の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれが大きくなる。なお、スラリーの粘度は、B型粘度計、オストワルド型粘度計などにより測定できる。
【0078】
さらに、このようにして得られた、1つ以上の実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上に、さらにIII族窒化物結晶を成長させて、成長させたIII族窒化物結晶を結晶基板の主表面1s上に平行な面で切り出してIII族窒化物結晶基板を製造し、かかるIII族窒化物結晶基板の主表面を上記と同様にして表面加工することにより、さらに実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板を製造することができる。上記のIII族窒化物結晶のさらなる成長(繰り返し成長)の下地基板として用いるIII族窒化物結晶基板は、必ずしも1枚の結晶基板でなくてよく、小サイズの結晶基板を複数枚用いても良い。繰り返し成長時に接合して単一の結晶とすることができる。更に繰り返し成長で接合したIII族窒化物結晶から切り出した結晶基板を下地基板として用い、再度繰り返し成長することもできる。このように、III族窒化物結晶を繰り返し使用して成長することにより、生産コストを削減することができる。
【0079】
ここで、実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上に、さらにIII族窒化物結晶を成長させる方法には、とくに制限はなく、HVPE法、昇華法などの気相成長法、フラックス法、アモノサーマル法などの液相成長法などが好適に用いられる。たとえば、GaN結晶体の製造には、HVPE法、フラックス法、アモノサーマル法などが好適に用いられ、AlN結晶体の製造には、HVPE法、昇華法などが好適に用いられ、InN結晶体、AlGaN結晶体およびInGaN結晶体の製造には、HVPE法などが好適に用いられる。
【0080】
[エピ層付III族窒化物結晶基板]
(実施形態4)
図11を参照して、本発明にかかるエピ層付III族窒化物結晶基板の一実施形態は、実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上にエピタキシャル成長により形成されている少なくとも1層の半導体層2を含む。
【0081】
本実施形態のエピ層付III族窒化物結晶基板3において、半導体層2はIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上にエピタキシャル成長されていることから、半導体層2の主表面2sの面方位はIII族窒化物結晶基板1の主表面1sの面方位と同一である。実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1の主表面1sの面方位は(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αで傾斜しているため、半導体層2の主表面2sの面方位は(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αで傾斜している。このようにして、結晶性が高く主表面2sの面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αを有する半導体層2を含むエピ層付III族窒化物結晶基板が得られる。
【0082】
半導体層2の形成方法には、特に制限はないが、結晶性の高い半導体層をエピタキシャル成長させる観点から、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線エピタキシー)法などの気相成長法が好ましく用いられる。
【0083】
[半導体デバイス]
(実施形態5)
図12を参照して、本発明にかかる半導体デバイスの一実施形態は、実施形態4のエピ層付III族窒化物結晶基板3を含む。
【0084】
本実施形態の半導体デバイスに含まれる実施形態4のエピ層付III族窒化物結晶基板3は、主表面1sの面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αで傾斜している実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上にエピタキシャル成長により形成されている1層以上の半導体層2を含む。かかる半導体層2は、結晶性が高く、その主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αで傾斜しているため、ピエゾ分極が抑制されて量子閉じ込めシュタルク効果も抑制されることにより、本実施形態の半導体デバイスの特性が高くなる。たとえば、上記半導体層2中に発光層210が含まれる発光デバイスにおいては、ピエゾ分極が抑制されて量子閉じ込めシュタルク効果が抑制されるため、発光のブルーシフトが抑制され、発光強度が向上する。このため、半導体層2中にピーク波長が430nm以上550nm以下の光を高い効率で発する発光層210を形成することができる。特に、波長500nm〜550nmの緑色領域の光の発光強度が顕著に向上する。
【0085】
図12を参照して、本実施形態の半導体デバイスは、実施形態4のエピ層付III族窒化物結晶基板3を含む。エピ層付III族窒化物結晶基板3は、主表面1sの面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下の所定の傾斜角αで傾斜している実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1を含む。また、エピ層付III族窒化物結晶基板3は、上記III族窒化物結晶基板1の一方の主表面1s上に、少なくとも1層の半導体層2として、順次形成されている厚さ1000nmのn型GaN層202、厚さ1200nmのn型Inx1Aly1Ga1-x1-y1N(0<x1、0<y1、x1+y1<1)クラッド層204、厚さ200nmのn型GaNガイド層206、厚さ65nmのアンドープのInx2Ga1-x2N(0<x2<1)ガイド層208、厚さ15nmのGaN障壁層および厚さ3nmのInx3Ga1-x3N(0<x3<1)井戸層から構成される3周期のMQW(多重量子井戸)構造を有する発光層210、厚さ65nmのアンドープのInx4Ga1-x4N(0<x4<1)ガイド層222、厚さ20nmのp型Alx5Ga1-x5N(0<x5<1)ブロック層224、厚さ200nmのp型GaN層226、厚さ400nmのp型Inx6Aly6Ga1-x6-y6N(0<x6、0<y6、x6+y6<1)クラッド層228、および厚さ50nmのp型GaNコンタクト層230を含む。p型GaNコンタクト層230上に部分的に厚さ300nmのSiO2絶縁層300が形成され、露出しているp型GaNコンタクト層230上およびSiO2絶縁層300の一部上にp側電極400が形成されている。III族窒化物結晶基板1の他方の主表面上にn側電極500が形成されている。
【0086】
[半導体デバイスの製造方法]
図12を参照して、本発明にかかる半導体デバイスの製造方法の実施形態としては、実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板を準備する工程と、結晶の主表面1s上に少なくとも1層の半導体層2を成長させることによりエピ層付III族窒化物結晶基板を形成する工程とを含む。かかる製造方法により、半導体層のピエゾ分極による量子閉じ込めシュタルク効果が抑制された特性の高い半導体デバイスが得られる。たとえば、上記半導体層2中に発光層210を含めることにより、発光層210のピエゾ分極による量子閉じ込めシュタルク効果が抑制されることにより発光のブルーシフトが抑制され発効強度の積分強度が高い発光デバイスが得られる。
【0087】
図12を参照して、本実施形態の半導体デバイス4の製造方法は、具体的には、まず、実施形態1〜実施形態3のIII族窒化物結晶基板1を準備する。かかるIII族窒化物結晶基板1の準備については、[III族窒化物結晶基板]および[III族窒化物結晶基板の製造方法]に記載したとおりであり、繰り返さない。
【0088】
次に、準備されたIII族窒化物結晶基板1の主表面1s上に少なくとも1層の半導体層2を成長させてエピ層付III族窒化物結晶基板3を形成する。半導体層2の成長方法には、特に制限はないが、結晶性の高い半導体層をエピタキシャル成長させる観点から、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線エピタキシー)法などの気相成長法が好ましく用いられる。
【0089】
たとえば、III族窒化物結晶基板1の一方の主表面1s上に、少なくとも1層の半導体層2として、たとえばMOCVD法により、厚さ1000nmのn型GaN層202、厚さ1200nmのn型Inx1Aly1Ga1-x1-y1Nクラッド層204、厚さ200nmのn型GaNガイド層206、厚さ65nmのアンドープのInx2Ga1-x2Nガイド層208、厚さ15nmのGaN障壁層および厚さ3nmのInx3Ga1-x3N井戸層から構成される3周期のMQW(多重量子井戸)構造を有する発光層210、厚さ65nmのアンドープのInx4Ga1-x4Nガイド層222、厚さ20nmのp型Alx5Ga1-x5Nブロック層224、厚さ200nmのp型GaN層226、厚さ400nmのp型Inx6Aly6Ga1-x6-y6Nクラッド層228、および厚さ50nmのp型GaNコンタクト層230を順次成長させる。
【0090】
次に、p型GaNコンタクト層230上に、蒸着法により、厚さ300nmのSiO2絶縁層300を形成する。次いで、フォトリソグラフィー法およびウェットエッチング法により、幅10μmのストライプ窓を形成する。<10−10>方向軸を半導体層の主表面に投影した方向に平行にレーザストライプを設ける。次いで、このストライプ窓上およびSiO2絶縁層300の一部上に、蒸着法により、p側電極400としてNi/Au電極を形成する。III族窒化物結晶基板の他方の主表面上に、蒸着法により、n側電極500としてTi/Al/Ti/Au電極を形成する。
【実施例】
【0091】
(実施例I)
1.III族窒化物結晶体の製造
下地基板として直径50mmのGaAs結晶基板を用いて、HVPE法により、厚さ50mmのGaN結晶体(III族窒化物結晶体)を成長させた。すなわち、大気圧のHVPE反応炉内で、金属Gaを収容したボートを800℃に加熱し、このボートにHClガスとキャリアガス(H2ガス)との混合ガスを導入することにより、金属GaとHClガスとを反応させて、GaClガスを生成させた。これとともに、HVPE反応炉内にNH3ガスとキャリアガス(H2ガス)との混合ガスを導入することにより、GaClガスとNH3ガスとを反応させて、HVPE反応炉内に設置されたGaAs結晶基板(下地基板)上にGaN結晶体を成長させた。ここで、GaN結晶体の成長温度は1050℃、HVPE反応炉内のHClガス分圧は2kPa、NH3ガス分圧は30kPaとした。
【0092】
2.III族窒化物結晶基板の製造
上記で得られたGaN結晶体(III族窒化物結晶体)を、(0001)面に対して[10−10]方向に0°〜90°の間の傾斜角αを有する面に平行な面でスライスすることにより、表1に示す面方位の主表面を有するGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を製造した。
【0093】
3.III族窒化物結晶基板の表面加工
上記で得られたGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)主表面を、ラッピング(機械的研磨)した後、CMP(化学機械的研磨)することにより、半導体デバイス用GaN結晶基板を得た。ここで、ラッピングは、砥粒径が2μm、3μmおよび9μmの3種類のダイヤモンド砥粒を準備して、銅定盤または錫定盤を用いて、ダイヤモンド砥粒の粒径を段階的に小さくさせて行った。ラッピング圧力は100gf/cm2〜500gf/cm2(9.8kPa〜49.0kPa)、GaN結晶基板および定盤の回転数は30回転/min〜60回転/minとした。また、CMPは、砥粒として1次粒子が化学的に結合して2次粒子となったコロイダルシリカ(1次粒子径が70nm、2次粒子径が190nm)を含み、pH調節剤として硝酸、酸化剤としてトリクロロイソシアヌル酸を含み、pHおよび酸化還元電位(ORP)を表1に示す値に調製したスラリーを用いて、接触係数Cを表1に示す値になるように調整して行った。
【0094】
こうして表面加工されたGaN結晶基板について、(10−13)面(本測定における特定結晶格子面)からの回折X線を、X線侵入深さを0.3μmから5μmまで変えて測定することにより、回折プロファイルにおける(10−13)面の面間隔および回折強度ピークの半値幅ならびにロッキングカーブにおける回折強度ピークの半値幅を求め、これらの値からGaN結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを評価した。X線回折測定には、平行光学系、CuKα1のX線波長を用いた。また、X線侵入深さは、結晶表面に対するX線入射角ω、結晶表面の傾き角χおよび結晶表面内の回転角φの少なくともいずれかを変えることにより制御した。なお、上記X線侵入深さでのX線回折による評価を容易にする観点から、例I−6、I−7、I−13およびI−14においては特定結晶格子面として(10−11)面を用い、例I−15およびI−16においては特定結晶格子面として(10−1−3)面を用いた。
【0095】
なお、本実施例と同様の製造方法および表面加工方法により得られた別のGaN結晶基板について、その比抵抗は四探針法により測定したところ1×10-2Ω・cmであり、そのキャリア濃度はホール測定法により測定したところ2×1018cm-3であった。
【0096】
4.半導体デバイスの製造
図12を参照して、上記で得られた半導体デバイス用のGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板1)の一方の主表面1s上に、MOCVD法により、少なくとも1層の半導体層2として、厚さ1000nmのn型GaN層202、厚さ1200nmのn型Inx1Aly1Ga1-x1-y1N(x1=0.03、y1=0.14)クラッド層204、厚さ200nmのn型GaNガイド層206、厚さ65nmのアンドープのInx2Ga1-x2N(x2=0.03)ガイド層208、厚さ15nmのGaN障壁層および厚さ3nmのInx3Ga1-x3N(x3=0.2〜0.3)井戸層から構成される3周期のMQW(多重量子井戸)構造を有する発光層210、厚さ65nmのアンドープのInx4Ga1-x4N(x4=0.03)ガイド層222、厚さ20nmのp型Alx5Ga1-x5N(x5=0.11)ブロック層224、厚さ200nmのp型GaN層226、厚さ400nmのp型Inx6Aly6Ga1-x6-y6N(x6=0.03、y6=0.14)クラッド層228、および厚さ50nmのp型GaNコンタクト層230を順次成長させた。
【0097】
次に、p型GaNコンタクト層230上に、蒸着法により、厚さ300nmのSiO2絶縁層300を形成した。次いで、フォトリソグラフィー法およびウェットエッチング法により、幅10μmのストライプ窓を形成した。<0001>方向軸を半導体層の主表面に投影した方向に平行にレーザストライプを設けた。次いで、このストライプ窓上およびSiO2絶縁層300の一部上に、蒸着法により、p側電極400としてNi/Au電極を形成した。次いで、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板1)の他方の主表面をラッピング(機械的研磨)により鏡面とした。このとき、接触式膜厚計を用いてまたは光学顕微鏡またはSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた基板を含むウエハ断面の観察により、上記ウエハの各層および全体の厚みを測定した。
【0098】
レーザストライプに対する共振器ミラーの作製には、ピーク波長355nmのYAGレーザを用いるレーザスクライバを用いた。レーザスクライバを用いてブレイクした場合には、ダイヤモンドスクライブを用いた場合と比較して、発振チップ歩留まりを向上させることが可能である。スクライブ溝の形成条件は、レーザ光出力100mW、走査速度5mm/sとした。形成されたスクライブ溝は、たとえば、長さ30μm、幅10μm、深さ40μmの溝であった。800μmピッチで基板の絶縁膜開口箇所を通して半導体層の主表面に直接レーザ光を照射することによって、スクライブ溝を形成した。共振器長は600μmとした。ブレードを用いて、共振ミラーを割断により作製した。基板裏側に押圧によりブレイクすることによって、レーザバーを作製した。
【0099】
次に、レーザバーの端面に真空蒸着法によって誘電体多層膜をコーティングした。誘電体多層膜は、SiO2とTiO2を交互に積層して構成した。膜厚はそれぞれ、50nm〜100nmの範囲で調整して、反射率のピーク波長が500nm〜530nmの範囲になるように設計した。一方の端面の反射面を10周期とし、反射率の設計値を約95%に設計し、他方の端面の反射面を6周期とし、反射率の設計値を約80%とした。
【0100】
上記のようにして得られた半導体デバイスの通電による評価を、室温(25℃)にて、以下のようにして行った。電源として、パルス幅500ns、デューティ比0.1%のパルス電源を用いて、表面電極に針を落として通電した。電流密度は100A/cm2とした。LEDモード光の観察は、光ファイバをレーザバーの主表面側に配置して、主表面から放出される発光スペクトルを測定することにより行った。LEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度を表1にまとめた。また、LEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの半値幅を表1にまとめた。レーザ光の観測は、光ファイバをレーザバー端面側に配置して、端面から放出される発光スペクトルを測定することにより行った。LEDモード光の発光ピーク波長は、500nm〜550nmであった。レーザ光の発振ピーク波長は500nm〜530nmであった。
【0101】
【表1】

【0102】
表1から明らかなように、III族窒化物結晶基板について、表面層の均一歪みが1.9×10-3以下、表面層の不均一歪みが130arcsec以下および表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下の少なくともいずれかであって、かつ、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合には、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度が大きくなった。さらに、主表面の面方位が{10−11}、{20−21}、{10−1−1}および{20−2−1}のいずれかである場合は、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの半値幅が低減した。
【0103】
例I−2およびI−10について、それぞれ電流密度1A/cm2および100A/cm2におけるLEDモード光の発光波長の測定から、ブルーシフトを評価した。例I−2におけるブルーシフトは40nmであり、例I−10におけるブルーシフトは10nmであった。III族窒化物結晶基板について、表面層の均一歪みが1.9×10-3以下、表面層の不均一歪みが130arcsec以下および表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下の少なくともいずれかであって、かつ、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合には、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのブルーシフトは極めて小さかった。
【0104】
(実施例II)
CMPを、砥粒として1次粒子が化学的に結合して2次粒子となったコロイダルシリカ(1次粒子径が15nm、2次粒子径が40nm)を含み、pH調節剤としてクエン酸、酸化剤としてトリクロロイソシアヌル酸を含み、pHおよび酸化還元電位(ORP)を表2に示す値に調製したスラリーを用いて、接触係数Cを表2に示す値になるように調整して行ったこと以外は、実施例Iと同様にして、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)および半導体デバイスを製造して、表面加工されたGaN結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを評価するとともに、半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度および半値幅を測定した。結果を表2にまとめた。
【0105】
【表2】

【0106】
表2から明らかなように、III族窒化物結晶基板について、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合において、表面層の均一歪み、不均一歪みおよび特定結晶格子面の面方位ずれが小さくなるほど、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度が大きくなった。
【0107】
(実施例III)
GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)の主表面の面方位を(20−21)((0001)面からの傾斜角αは75°)とし、CMPを、砥粒として球状のコロイダルシリカ(表3に示す砥粒径)を含み、pH調節剤として炭酸ナトリウム、酸化剤としてジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含み、pHおよび酸化還元電位(ORP)を表3に示す値に調製したスラリーを用いて、接触係数Cを表3に示す値になるように調整して行ったこと以外は、実施例Iと同様にして、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)および半導体デバイスを製造して、表面加工されたGaN結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを評価するとともに、半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度および半値幅を測定した。結果を表3にまとめた。
【0108】
【表3】

【0109】
表3から明らかなように、III族窒化物結晶基板について、表面層の均一歪みが1.9×10-3以下、表面層の不均一歪みが130arcsec以下および表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下の少なくともいずれかであって、かつ、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合において、主表面の面粗さRa,Ryが小さくなるほど、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度が大きくなった。
【0110】
(実施例IV)
GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)の主表面の面方位を(10−11)((0001)面からの傾斜角αは62°)とし、CMPを、砥粒として球状のコロイダルシリカ(砥粒径が40nm)を含み、pH調節剤として硫酸、酸化剤として過酸化水素水およびトリクロロイソシアヌル酸を含み、pHおよび酸化還元電位(ORP)を表4に示す値に調製したスラリーを用いて、接触係数Cを表4に示す値になるように調整して行ったこと以外は、実施例Iと同様にして、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)および半導体デバイスを製造して、表面加工されたGaN結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを評価するとともに、半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度および半値幅を測定した。結果を表4にまとめた。
【0111】
【表4】

【0112】
表4から明らかなように、III族窒化物結晶基板について、表面層の均一歪みが1.9×10-3以下、表面層の不均一歪みが130arcsec以下および表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下の少なくともいずれかであって、かつ、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合において、主表面に存在する酸素の濃度について、AES(オージェ原子分光法)により測定したところ、2原子%以上16原子%以下のとき、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光ピークの積分強度が大きくなった。
【0113】
(実施例V)
1.III族窒化物結晶体およびIII族窒化物結晶基板の製造
例V−1およびV−2については、下地基板として実施例Iの例I−10で製造した主表面の面方位が(20−21)のGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を用いて、フラックス法によりGaN結晶体を成長させた。すなわち、GaN結晶基板(下地基板)と、Ga原料としての金属Gaと、フラックスとしての金属Naとを、モル比でGa:Naが1:1となるように坩堝に収容した。ついで、坩堝を加熱することにより、GaN結晶基板の(20−21)主表面に接触する800℃のGa−Na融液を得た。このGa−Na融液に、N原料として5MPaのN2ガスを溶解させて、GaN結晶基板の(20−21)主表面上に、厚さ2mmのGaN結晶を成長させた。結晶成長が進行するに従って、転位密度が減少した。GaN結晶からのGaN結晶基板の取り位置の違いにより、GaN結晶基板の主表面の転位密度を調整した(表5を参照)。
【0114】
例V−3〜V−6については、HVPE法での成長は、下地基板として実施例Iの例I−10で製造した主表面の面方位が(20−21)のGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を用いて、HVPE法により厚さ5mmのGaN結晶体を成長させた。HVPE法によるGaN結晶の成長条件は、実施例Iと同様とした。結晶成長が進行するに従って、転位密度が減少した。GaN結晶からのGaN結晶基板の取り位置の違いにより、GaN結晶基板の主表面の転位密度を調整した(表5を参照)。
【0115】
2.III族窒化物結晶基板の表面加工
CMPを、砥粒として1次粒子が鎖状に化学結合して2次粒子となったヒュームドシリカ(1次粒子径が20nm、2次粒子径が200nm)を含み、pH調節剤としてリンゴ酸、酸化剤として過マンガン酸カリウムを含み、pHおよび酸化還元電位(ORP)を表に示す値に調製したスラリーを用いて、接触係数Cを表2に示す値になるように調整して行ったこと以外は、実施例Iと同様にして、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を表面加工して、半導体デバイス用GaN結晶基板を得た。こうして得られた半導体デバイス用GaN結晶基板(表面加工されたGaN結晶基板)の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを、実施例Iと同様にして、評価した。
【0116】
3.半導体デバイスの製造
上記で得られた半導体デバイス用のGaN結晶基板を用いて、実施例Iと同様にして半導体デバイスを製造して、半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度および半値幅を測定した。結果を表5にまとめた。
【0117】
【表5】

【0118】
表5から明らかなように、III族窒化物結晶基板について、表面層の均一歪みが1.9×10-3以下、表面層の不均一歪みが130arcsec以下および表面層の特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下の少なくともいずれかであって、かつ、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している場合において、III族窒化物結晶基板の主表面の転位密度が小さくなるほど、たとえば、転位密度が1×107cm-2以下、1×106cm-2以下、さらに1×105cm-2以下と小さくなるにしたがって、かかる結晶基板を用いた半導体デバイスのLEDモード光の発光スペクトルの波長500nm〜550nmの範囲における発光ピークの積分強度が大きくなった。なお、下地基板に複数のGaN結晶基板を用い、フラックス法、HVPE法での成長で下地基板から接合した単一のGaN結晶体を成長させた場合においても、上記と同等の結果が得られた。
【0119】
(実施例VI)
CMPを、砥粒として粒子が集合していない球状のコロイダルシリカ(砥粒径が20nm)を含み、pH調節剤として塩酸、酸化剤として過酸化水素水およびトリクロロイソシアヌル酸を含み、pH、酸化還元電位(ORP)および粘度を表6に示す値に調製したスラリーを用いて、CMP周速度、CMP圧力および接触係数Cを表6に示す値になるように調整して行ったこと以外は、実施例Iと同様にして、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を表面加工した。こうして表面加工されたGaN結晶基板の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび結晶格子面の面方位ずれを、実施例Iと同様にして、評価した。結果を表6にまとめた。
【0120】
【表6】

【0121】
表6から明らかなように、pHの値Xと酸化還元電位の値Y(mV)とが、
−50X+1300≦Y≦−50X+1900
の関係を有するスラリーを用いて、接触係数Cが1.0×10-6m以上2.0×10-6m以下となるようにCMPを行うことにより、主表面の面方位が(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜しているIII族窒化物結晶基板においても、その表面層の均一歪みを1.9×10-3以下、その表面層の不均一歪みを130arcsec以下、および/またはその表面層の特定結晶格子面((10−13)面)の面方位ずれを350arcsec以下とすることができた。
【0122】
(実施例VII)
例II−3で作製した主表面の面方位が(20−21)のGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を切断し、5mm×20mm〜5mm×45mmのサイズの複数の小片基板を得た。かかる複数の小片基板を、それらの主表面(かかる主表面は、いずれも、面方位が(20−21)であり、(0001)面に対して75°の傾斜角を有する)が互いに平行になるように、かつ、それらの[0001]方向が同一になるように、かつ、それらの側面が互いに隣接するように並べて所望のサイズの下地基板とし、それらの小片基板の主表面のそれぞれにHVPE法でGaN結晶(III族窒化物結晶)を成長させて、それらのIII族窒化物結晶を互いに接合し、外周部を加工することにより、所望のサイズのGaN結晶(III族窒化物結晶)を得た。
【0123】
得られたGaN結晶を下地基板の主表面に平行に切り出し、例II−3と同様にして、主表面の大きさがそれぞれ20mm×20mm、30mm×50mm、直径40mm、直径100mmおよび直径150mmのGaN結晶基板ならびに半導体デバイスを製造した。かかるGaN結晶基板および半導体デバイスは、いずれも例II−3の場合と同等の基板特性およびデバイス特性が得られた。
【0124】
さらに、これらのGaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を下地基板とし、HVPE法により繰り返し結晶成長して、主表面がそれぞれ20mm×20mm、30mm×50mm、直径40mm、直径100mmおよび直径150mmのGaN結晶(III族窒化物結晶)を得た。かかるGaN結晶を上記と同様に加工することにより、例II−3と同等の特性を有するGaN結晶基板および半導体デバイスが得られた。
【0125】
(実施例VIII)
下地基板として直径150mmのGaAs結晶基板を用いて、HVPE法により、厚さ120mmのGaN結晶体(III族窒化物結晶体)を成長させた。ここで、HVPE法によるGaN結晶体の成長は実施例1と同様にして行ない、かかる結晶成長を繰り返すことにより、厚さ120mmのGaN結晶体を得た。こうして得られたGaN結晶体を、(0001)面に対して[10−10]方向に75°の傾斜角を有する面でスライスし、外周部を加工することにより、主表面の面方位が(20−21)であり、直径が100mmのGaN結晶を得た。かかるGaN結晶に例II−3と同様の加工を施すことにより、GaN結晶基板(III族窒化物結晶基板)を得た。かかるGaN結晶基板を用いて例II−3と同様にして半導体デバイスを製造した。かかるGaN結晶基板および半導体デバイスは、いずれも例II−3の場合と同等の基板特性およびデバイス特性が得られた。
【0126】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
1 III族窒化物結晶基板、1c (0001)面または(000−1)面、1d,51d,52d,53d 特定結晶格子面、1p 表面層、1q 表面隣接層、1r 内層、1s,2s 主表面、2 半導体層、3 エピ層付III族窒化物結晶基板、4 半導体デバイス、11 入射X線、12 出射X線、21 χ軸、22 ω軸(2θ軸)、23 φ軸、30 引張応力、202 n型GaN層、204 n型Inx1Aly1Ga1-x1-y1Nクラッド層、206 n型GaNガイド層、208 Inx2Ga1-x2Nガイド層、210 発光層、222 Inx4Ga1-x4Nガイド層、224 p型Alx5Ga1-x5Nブロック層、226 p型GaN層、228 p型Inx6Aly6Ga1-x6-y6Nクラッド層、230 p型GaNコンタクト層、300 SiO2絶縁層、400 p側電極、500 n側電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmの前記X線侵入深さにおける面間隔d1と5μmの前記X線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される前記結晶基板の表面層の均一歪みが1.9×10-3以下であり、
前記結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して前記結晶基板の前記主表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される前記結晶基板の表面層の前記特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、
前記主表面の面方位が、前記結晶基板の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜しているIII族窒化物結晶基板。
【請求項2】
前記均一歪みが1.7×10-3以下であり、前記面方位ずれが260arcsec以下である請求項1に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項3】
前記均一歪みが1.4×10-3以下であり、前記面方位ずれが190arcsec以下である請求項1に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項4】
前記均一歪みが1.2×10-3以下であり、前記面方位ずれが120arcsec以下である請求項1に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項5】
前記均一歪みが1.0×10-3以下であり、前記面方位ずれが80arcsec以下である請求項1に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項6】
前記均一歪みが0.7×10-3以下であり、前記面方位ずれが50arcsec以下である請求項1に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項7】
前記主表面は3nm以下の表面粗さRaを有する請求項1から請求項6のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項8】
前記主表面の面方位は、前記結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面から±4°以内で傾斜している請求項1から請求項7のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項9】
前記主表面の面方位は、前記結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面に対して傾斜角の絶対値が0.1°未満と実質的に平行である請求項8に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項10】
前記主表面の面方位は、前記結晶基板の{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面および{10−1−1}面のいずれかの面からの傾斜角の絶対値が0.1°以上4°以下である請求項8に記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項11】
前記主表面に存在する酸素の濃度が2原子%以上16原子%以下である請求項1から請求項10のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項12】
前記主表面における転位密度が1×107cm-2以下である請求項1から請求項11のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項13】
直径が40mm以上150mm以下である請求項1から請求項12のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれかに記載のIII族窒化物結晶基板の前記主表面上にエピタキシャル成長により形成されている少なくとも1層の半導体層を含むエピ層付III族窒化物結晶基板。
【請求項15】
請求項14に記載のエピ層付III族窒化物結晶基板を含む半導体デバイス。
【請求項16】
前記エピ層付III族窒化物結晶基板に含まれる前記半導体層は、ピーク波長が430nm以上550nm以下の光を発する発光層を含む請求項15に記載の半導体デバイス。
【請求項17】
III族窒化物結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶基板の主表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmの前記X線侵入深さにおける面間隔d1と5μmの前記X線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される前記結晶基板の表面層の均一歪みが1.9×10-3以下であり、
前記結晶基板の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して前記結晶基板の前記主表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される前記結晶基板の表面層の前記特定結晶格子面の面方位ずれが350arcsec以下であり、
前記主表面の面方位が前記結晶基板の(0001)面または(000−1)面から<10−10>方向に10°以上80°以下で傾斜している前記結晶基板を準備する工程と、
前記結晶基板の前記主表面上に少なくとも1層の半導体層をエピタキシャル成長させることによりエピ層付III族窒化物結晶基板を形成する工程と、を含む半導体デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記エピ層付III族窒化物結晶基板を形成する工程において、前記半導体層は、発光層を含み、前記発光層がピーク波長430nm以上550nm以下の光を発するように形成される、請求項17に記載の半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−73958(P2011−73958A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117702(P2010−117702)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【分割の表示】特願2009−287970(P2009−287970)の分割
【原出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年 7月17日 社団法人応用物理学会 「Applid Physics Express 2(2009)082101」http://apex.ipap.jp/journal/APEX−2−8.html を通じて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月20日 日刊工業新聞社発行 「日刊工業新聞 平成21年8月20日付」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年 8月21日 社団法人応用物理学会 「Applied Physics Exprespap.jp/journal/APEX−2−9.htmlを通じて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年 8月24日 日経BP社発行 「日経エレクトロニクス 8月24日号」に発表
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】