説明

IL−2に由来する免疫調節ポリペプチド並びに癌及び慢性感染症の治療におけるその使用

本発明は、全般に、天然型IL−2の配列中にいくつかの正確な変異を有するヒトインターロイキン−2(IL−2)の配列と相同性が高い一次配列を有するポリペプチドに関する。本発明のポリペプチドは、免疫系に対する免疫調節効果を有し、その効果は制御性T細胞に対して選択的/優先的である。本発明はまた、アミノ酸配列が本明細書で開示されている特定のポリペプチドにも関する。本発明は更に、活性成分として開示されているそのポリペプチドを含有する医薬組成物に関する。最後に本発明は、癌及び慢性感染症などの疾患に対するその免疫系調節効果に基づく、前記ポリペプチド及び医薬組成物の治療上の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物工学、特に免疫学の分野に関する。本発明は、ヒトの健康に対する治療適用関する技術的解決策に関する。特に本発明は、天然分子の類似体を使用する免疫系の治療的調節に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン2(IL−2)は、T細胞に関して報告された最初の増殖因子であった。その発見以来、IL−2は、in vitroにおいてT細胞の増殖及び生存を促進し、(Smith,KA(1988)Science.240、1169〜76)in vivoにおいてウイルス感染(Blattman,JNら(2003)Nat Med 9、540〜7)又はワクチン接種(Fishman,M.ら(2008)J Immunother.31、72〜80、Kudo−Saito,C.ら(2007)Cancer Immunol Immunother.56、1897〜910;Lin,CTら(2007)Immunol Lett.114、86〜93)に関連してT細胞の免疫応答を増強する強い能力を示した。しかし、このサイトカインが天然型制御性T細胞T CD4+CD25+FoxP3+(Treg)に対する恒常性増殖因子であることを示す数多くの実験的データ(Almeida,A.R.ら(2002)J Immunol.169、4850〜60;de la Rosa,M.ら(2004)Eur J Immunol.34、2480〜8;Malek,T.R.ら(2004)Nat Rev Immunol.4、665〜74)により、近年、T免疫応答の促進物質としてのIL−2の古典的役割が疑問視されている。
【0003】
制御性T細胞が、CD4ヘルパーT細胞、CD8細胞障害性T細胞及びNK細胞など他のエフェクター細胞の活性及び増殖を抑制する機序において、インターロイキン−2は重要な役割を果たす。特に、制御性T細胞は他のT細胞を抑制し、IL−2レベルの局所的減少を誘導することが近年提唱されている(Pandiyan,P.ら(2007)Nat Immunol.8、1353〜62)。この抑制効果は、a)制御性T細胞が抑制するエフェクターT細胞によるIL−2の産生を直接阻害する制御性T細胞の能力:(Almeida,A.R.ら(2002)J Immunol.169、485060;Takahashi,T.ら(1998)Int Immunol.10、1969〜80;Thornton,A.M.ら(1998)J Exp Med.188、287〜96;Wolf,M.ら(2001)Eur J Immunol.31、1637〜45)、b)その微環境において速く、効率的にIL−2を消費する能力(Pandiyan,P.ら(2007)Nat Immunol.8、1353〜62)、及びc)IL−2濃度が低い場合でも制御性T細胞がより効率的にIL−2を使用できるようになる、IL−2α鎖受容体を過剰発現させる制御性T細胞の能力(Kuniyasu,Y.ら(2000)Int Immunol.12、1145〜55)に基づいている。
【0004】
要約すると、IL−2は極めて多面的なサイトカインであり、このことは様々な細胞集団の生物活性に極めて重要である。この特性によりIL−2は免疫応答の制御において重要な分岐点となり、免疫調節療法にとって魅力的で複雑な標的となる。具体的には、このサイトカインの作用の多面的な性質により、サイトカインは、様々な細胞集団の中で選択的/優先的にこのサイトカインの活性を調節する治療戦略を設計することに極めて重要になる。
【0005】
IL−2は、数年間癌治療に使用されてきた。具体的には、高用量でのその使用は、黒色腫及び腎細胞癌の治療のための、数カ国で認可されている治療法である。しかし患者でのIL−2の直接使用は、その毒作用により厳しく制限されている。そのため、適格患者の20%しか更なる治療を受けず、患者の17%しか妥当な目標の応答を示さないほどである。臨床段階におけるこの劇的な失敗について考えられる一つの解釈は、天然型IL−2を用いる治療は、その治療で求められる免疫刺激を妨げる制御性T細胞集団も刺激する(Ahmadzadeh,M.ら(2006)Blood.107、2409〜14)ことである。
【0006】
IL−2治療の毒作用を緩和するためにいくつかの戦略が開発された。これらの戦略のいくつかは、主に高親和性受容体(α、β及びγ鎖)を利用し、中程度の親和性受容体(β及びγ鎖)を利用せずにこの分子のシグナル伝達能力を増強するように設計されているIL−2の変異バリアントの使用に基づいている。基本的な着想は、観察された毒作用の原因と考えられる細胞であるNK細胞におけるシグナル伝達に比べて、T細胞に対する優先的シグナル伝達を促進することである。以下の発明は、同種の業績である:米国特許第7,186,804号、米国特許第7,105,653号、米国特許第6,955,807号、米国特許第5,229,109号、米国特許出願公開第20050142106号。重要なことには、いずれにせよこれらの発明のいずれも制御性T細胞の活性を差別的に調節する能力を有するIL−2変異体と関連付けられていないことに留意されたい。さらにこれらの発明における変異体は、IL−2の作動物質であり本出願に記述されるような拮抗物質/阻害物質ではない。
【0007】
薬理活性を増加させる目的で、IL−2の別の変異バリアントが作製された。例えば、IL−2の折りたたみを改善すること又は血中の変異バリアントの寿命を増加させること。とりわけ以下の発明はこの種の業績に関する:米国特許第4,959,314号、米国特許第5,116,943号、米国特許第4,853,332号。また、これらの変異体のいずれも、制御性T細胞の活性を差別的に調節する能力を示さない。
【0008】
その他の従来の発明は、主に自己免疫疾患の治療又は臓器移植拒否反応を予防するためのIL−2の活性の阻害物質に関する。これらの発明のうちには以下のものがある:米国特許第5,876,717号、米国特許第5,635,597号、米国特許第6,906,170号、米国特許第6,168,785号。
【0009】
最後に、文献には、in vivoで制御性T細胞の活性を調節又は減弱させることを提唱する治療薬の提案が多数あることに言及しなければならない(Kreitman,R.J.(2009)Curr Pham Des.15、2652〜64;Litzinger,M.T.、Fernando,R.、Curiel,T.J.、Grosenbach,D.W.、Schlom,J.及びPalena,C.(2007)Blood.110、3192〜201;Morse,M.A.、Hobeika,A.C.、Osada,T.、Serra,D.、Niedzwiecki,D.、Lyerly,H.K.及びClay,T.M.(2008)Blood.112、610〜8;Onizuka,S.、Tawara,I.、Shimizu,J.、Sakaguchi,S.、Fujita,T.及びNakayama,E.(1999)Cancer Res.59、312833;Quezada,S.A.、Peggs,K.S.、Curran,M.A.及びAllison,J.P.(2006)J Clin Invest.116、1935〜45)。これらの治療薬は、直接癌治療のため又はワクチンの効果を増強するために動物モデル及び患者においても試験されてきた。IL−2の活性を調節すること、具体的にはモノクローナル抗体を用いてより良好な又はより有効な免疫応答を促進することを提唱するいくつかの報告もある(Boyman,O.、Kovar,M.、Rubinstein,M.P.、Surh,C.D.及びSprent,J.(2006)Science.311、1924〜1927;Boyman,O.、ら(2006)Expert Opin Biol Ther.6、1323〜31;Kaminura,D.、ら(2006)J Immunol.177、306〜14;Murakami,M.、Sakamoto,A.、Bender,J.、Kappler,J.及びMarrack,P.(2002)Proc Natl Acad Sci USA.99、8832〜7;Tomala,J.、Chmelova,H.、Mrkvan,T.、Rihova,B.及びKovar,M.(2009)J Immunol.183、4904〜4912)。しかし、我々の知識の及ぶ限りではIL−2の変異バリアントに関しては文献に報告されておらず、それにより制御性T細胞活性の選択的又は優先的な調節にこの変異バリアントを使用する可能性が支持される。具体的には、IL2変異タンパク質は、制御性T細胞に対してIL2の活性と選択的/優先的に拮抗することができるので、その機能に影響を及ぼし、結果として免疫応答の治療的増強を促進することができる。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、IL−2の変異バリアントが制御性T細胞を優先的に阻害できるということを証明する科学的所見に基づいている。発明者らは、IL−2の変異バリアントは制御性T細胞(T CD4+CD25+FoxP3+)の活性を実質的に阻害できるが、エフェクター機能を有する他のリンパ球の活性化及び/又は増殖にはほとんど影響を及ぼさないことをin vitro実験で初めて発見した。この発見は、制御性T細胞が関連する癌又は慢性感染症などの疾患において、これらの細胞を免疫調節する新たな戦略の基礎を提供する。
【0011】
本発明は、異なる形のIL−2受容体を経由するシグナル伝達能力を除去又は実質的に減少させることによっていくつかのアミノ酸が変異を起こしているという事実を除いて、一次配列をヒトIL−2と共有するポリペプチドに関する。
【0012】
IL−2のこれらの変異バリアントは、IL−2受容体の1つ又は複数の構成要素に結合する能力を維持し、制御性T細胞集団に対して優先的に見られる阻害活性を有し、ここで、これらの変異バリアントは制御性T細胞集団の機能を負に調節する。制御性T細胞に対する優先的阻害特性を備えるIL−2変異体のいくつか特定のバリアントを保護する。本発明は、制御性T細胞(Treg)の活性と関連する癌又は慢性感染症などの疾患を治療するために、単独又はワクチンと組み合わせて使用されるこれらの変異バリアントの治療上の使用も含む。
【0013】
本発明は、制御性T細胞による抑制が、天然に又はワクチン接種により誘導される防御免疫応答を減弱させる疾患において、制御性T細胞の活性を調節するための新たな戦略を提唱する。Treg活性を調節するための他の諸案に比べて、この新たな治療戦略には数多くの利点がある。例えば、
・IL−2変異体は、(いくつかの変異を除いて)実質的に自己タンパク質である。この事実は、予想外の毒性の危険性(小型阻害剤に基づく戦略において一般的である)又は注射した薬物に対して免疫応答が上昇する危険性(IL−2がジフテリア毒素のような外来性且つ有毒性の分子と結合しているオンタックなどの戦略において起こりうるような)を減少させる。
・IL−2のこれらの変異バリアントは、少なくとも天然型IL−2の親和性の程度(高親和性受容体に対して10pM)であるIL−2の受容体に対する結合親和性を維持しうる。この親和性は、モノクローナル抗体又は他の薬物を用いて受容体又はリガンドを阻害する戦略では達成が困難である。
・これらの変異体は小さい(15kD)ため高い移動性を有し、容易に腫瘍微環境を透過できる可能性がある。抗体などのより大きな分子複合体になることが知られている何かである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
IL−2の類似体ポリペプチドの入手。
本発明は、100〜500アミノ酸のポリペプチド、好ましくはそのサイズが140アミノ酸でありその見かけの分子量が少なくとも15kDであるポリペプチドに関する。これらのポリペプチドは、天然型IL2との高レベルの配列同一性(90%以上の同一性)を維持し、この配列のある領域中にポリペプチドは、天然型IL−2に対して2〜6個の変異を含む。
【0015】
これらの位置には、天然型IL−2の同位置にあるアミノ酸とは異なるアミノ酸残基を挿入することによって、これらのポリペプチドを変異させる。元の残基と置き換える残基は、元のアミノ酸残基のものとは大きく異なる物理化学的特性、特に有極性から無極性へ、荷電性から無荷電性へ、大きいものから小さいものへ、酸から塩基へ変化する物理化学的特性を有するという理由で選択される。
【0016】
本発明のこれらのポリペプチドを、区別せずに、免疫調節ポリペプチド、IL−2の類似体又はIL−2の変異タンパク質と呼ぶこともできる。これらのポリペプチドは、IL−2の3次元構造(PDBデータベースに蓄積されている)から設計し、溶媒に著しく露出しているアミノ酸に相当するIL2の位置にのみ変異を導入する。これらの位置は、RASMOL、SwissPDBviewerなどのパブリックドメインの生物情報科学プログラムを使用して特定する。
【0017】
本発明のポリペプチドはいくつかの方法、とりわけタンパク質合成法によって得ることができる。大腸菌(E.coli)など細菌の封入体中に発現させるなど遺伝子工学的技術によってこれらのポリペプチドを得ることも可能である。特定の位置における点変異は、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して定方向突然変異誘発技術によって得ることもできる。
【0018】
生物活性に基づくIL−2の類似体ポリペプチドの選抜:
in vitro又はin vivo実験を実施することにより、次の特性を同時に有するように本発明のポリペプチドを選抜する
1)IL−2のこれらの変異バリアントは、異なる形のIL−2受容体に対するシグナル伝達能力を緩める又は実質的に減少させる。CTLL2又はKitt225のようなIL−2依存的細胞系を用いる、或いはマウス及び/又はヒト由来のTリンパ球又はNK細胞を用いるin−vitro増殖アッセイで、この特性を直接評価することができる。このアッセイにおいて、これらの変異体は、天然型IL−2の刺激活性より少なくとも100倍低い刺激活性を有するべきである。
2)IL−2のこれらの変異バリアント(変異タンパク質)は、IL−2受容体の1つ又は複数の分子成分に結合する能力を維持する。この結合能力は、受容体のα鎖及びβ鎖など市販の受容体の鎖に対するELISA法で直接的に、又は受容体に陽性の細胞集団で間接的に評価することができる。このアッセイにおいて、IL−2変異タンパク質の認識率は、天然型IL−2の認識率と同等であるべきである。
3)IL−2の変異バリアントは、リンパ球に対する天然型IL−2活性の阻害活性を有し、その活性は制御性T細胞集団(少なくともT CD4+CD25+FoxP3+細胞において)に対して優先的である。本発明に含まれるIL−2の変異タンパク質は、或る濃度範囲内でヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞又はNK細胞などエフェクター機能を備える他のリンパ球の活性及び/又は増殖に影響を及ぼすことなく、或いはこれに対して最小限の影響のみで優先的に又は選択的に制御性T細胞の活性又は増殖を阻害することができる。いくつかのin vitro試験でこれらの変異タンパク質の優先的又は選択的阻害活性を証明することができ、この試験により増量させた変異タンパク質の存在下、エフェクター及び制御性集団の混合物の刺激に対する応答が分析される。適切な濃度範囲において、変異タンパク質は、この実験で使用したエフェクター集団、例えばヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞又はNK細胞などの活性又は増殖を阻害するよりも少なくとも3倍以上制御性T細胞の増殖又は活性を阻害することが可能であるべきである。
【0019】
本発明はまた、IL−2変異タンパク質のうちいくつか特定のバリアント(表1に開示されている特定の変異)を含み、それらは前述の特性を有するように選抜された。これらの変異タンパク質は、マウス及びヒトリンパ球を刺激する能力を著しく減弱させる複数のアミノ酸の置換を含む。しかし、変異タンパク質は、受容体のα鎖及びβ鎖に結合する能力を完全に維持したまま、天然型IL−2活性の阻害能力(拮抗物質)を獲得する。これらの変異タンパク質の最も重要な態様は、制御性T細胞及び他のエフェクターT細胞を含有するリンパ球の培養液中で、或る濃度範囲で、これらのタンパク質が制御性T細胞(CD4+CD25+FoxP3+)を優先的に阻害する著しい能力を発揮することである。
【表1】

【0020】
本発明はまた、上記IL−2変異体の種類の追加の修飾、具体的には表1に開示するそれも含む。IL−2の優先的阻害特性に影響を及ぼすことなく又はいっそう強化しながら、IL−2の特定の構成要素に対するその親和性を増加させるために、或いはそれらのin−vivo薬力学を改善する(寿命の増加)又はT細胞によるその内部移行を減少させるために。生物情報科学ツールを用いることによって又は異なる性格のコンビナトリアル分子ライブラリ(ファージディスプレイライブラリ、酵母又は細菌の遺伝子発現ライブラリ)を使用することによって、合理的な設計でこれらの追加の変異を得ることができる。
【0021】
IL−2類似体ポリペプチドの治療適用;
本発明は、活性成分として本発明に開示されているIL−2変異タンパク質及びその類似体を含む医薬組成物、並びに制御性T細胞に対するIL−2の活性を選択的に調節するための潜在的な治療への応用も含む。具体的に本発明は、制御性T細胞が特に関連する癌又は慢性感染症などの疾患において、自然に又はワクチンによって誘導される免疫応答を促進するためにこれらの変異タンパク質を使用することを保護する。
【0022】
治療に使用する際は、本発明のポリペプチドは、独立に或いはその治療効果を促し、又は増強する他のポリペプチド又は他の物質と組み合わせて疾患保因者に投与されるべきである。投与経路は、薬物の非経口投与に関する先行技術に記載されているいずれかの投与経路であってよい。ポリペプチドは、好ましくは静脈内、筋肉内、皮下又は腫瘍内経路によって投与することができる。
【0023】
本発明に記載のポリペプチド又は融合タンパク質はまた、癌及び慢性感染症の治療に有用な医薬組成物の一部として投与されることもできる。
【0024】
所望の治療効果を得るためには、本発明のポリペプチドは、試験中の疾患に対してリンパ節又は関連する周辺部位において適切な濃度を確保するために十分高い用量で投与されるべきであり、変異タンパク質が制御性T細胞に対して優先的阻害効果を示すのに適切な濃度範囲にあるべきである。したがって、適用する用量は、試験において疾患型及び投与経路に照らして調整されなければならない。例えば腫瘍治療の場合、腫瘍及び/又は局所限局リンパ節内の変異体の濃度が制御性T細胞に対して優先的阻害効果を確保するのに適切になるまで用量を調整するべきである。検討すべき用量範囲は、1用量につき数十マイクログラム〜数ミリグラムの範囲にあることができる。
【0025】
適用される投与回数は、問題とする変異タンパク質の体内分布によっても調整されるべきである。一般に、上述した有効濃度は、2日間〜連続30日間の範囲の期間にわたって維持されるべきである。例えば、変異タンパク質が担体タンパク質に結合している場合、投与頻度はそれに応じて調整されるべきであることに留意されたい。治療効果は、病徴の完全又は部分的寛解を意味する。癌については、腫瘍体積の減少又は再発までの時間の増加がとりわけ寛解基準として検討されることになる。最後に、Tregの活性を調節するためのこの新たな治療戦略の利点は、他の諸案と比較すると複数ある点に留意されたい。例えば:
・IL−2変異体は、(いくつかの変異を除いて)実質的に自己タンパク質である。この事実は、予想外の毒性の危険性(小型阻害剤に基づく戦略において一般的である)又は注射した薬物に対して免疫応答が上昇する危険性(IL−2がジフテリア毒素のような外来性且つ有毒性の分子と結合しているオンタックなどの戦略において起こりうるような)を減少させる。
・IL−2のこれらの変異バリアントは、少なくとも天然型IL−2の親和性の程度(高親和性受容体に対して10pM)であるIL−2の受容体に対する結合親和性を維持しうる。この親和性は、モノクローナル抗体又は他の薬物を用いて受容体又はリガンドを阻害する戦略では達成が困難である。
・これらの変異体は小さい(15kD)ため高い移動性を有し、容易に腫瘍微環境を透過できる可能性がある。抗体などのより大きな分子複合体になることが知られている何かである。
【実施例】
【0026】
(例1)
Wang,X.、Rickert,M.及びGarcia,K.C.による報告書である「α、β、及びγ受容体とインターロイキン−2の四成分複合体構造(Structure of the quaternary complex of interleukin−2 with its alpha、beta、and gamma receptors.)」Science、2005、310(5751):1159〜63ページ中に報告されている受容体と結合したヒトIL−2の四成分複合体の構造を基準として使用し、パブリックドメインのタンパク質−リガンド相互作用用のエネルギー算出アルゴリズムを使用して、変異体を生物情報科学技術より計算機的に設計した。最初に、受容体のα鎖及びβ鎖の結合能力に影響を及ぼさないように変異タンパク質の様々な変異体を予測した。これらの変異タンパク質を、アミノ末端に6個のヒスチジンから成る識別配列を含むpET28aベクター中の遺伝的構築体から大腸菌で発現させた。逆相を使用してこれらの変異タンパク質を精製し(図1)、高純度(>95%)で得た。得られた変異タンパク質を、in vitro実験における特性に従って選抜した。表1の構築した変異タンパク質のうち、Tregの活性を優先的に阻害する特性を有する一組の特定の変異について記述する。
【0027】
(例2)
選抜した変異タンパク質は、IL2受容体の様々な構成要素、特に受容体のα鎖及びβ鎖へ結合する能力を保持する。図2は、表1に明記されている変異体のいくつかが、ヒトIL−2受容体のα鎖(図2)及びβ鎖(図2b)へ結合する能力を実質的に完全に維持することを、ELISA法を使用して示す。図3は、これらの変異体が細胞表面上で受容体に結合し(図3a)、天然型IL−2を添加することによってこの結合体が徐々に置き換えられ得ること(図3b)の追加的な確認を示す。
【0028】
(例3)
選抜した変異タンパク質は、IL−2受容体によるシグナル伝達能力を著しく減少させる。図3は、CTLL2細胞系の増殖を刺激する能力(図4a)又は総脾臓リンパ球由来NK細胞の分化を刺激する能力(図4b)を測定することによって、この事実を例示する。これらの変異タンパク質は高濃度で、Tリンパ球(図5a)及びNK細胞(図5b)の両方に対する天然型IL−2の活性を阻害する。
【0029】
(例4)
選抜した変異タンパク質は、制御性T細胞(CD4+CD25+FoxP3+)のin vitroでの増殖を優先的に阻害する。図6は、表1の変異体のうちの1つに関するこの特性を例示し、具体的には抗CD3抗体を用いて刺激したエフェクター細胞及び制御性T細胞の混合物が存在するリンパ球細胞培養液中に中間用量の変異タンパク質を添加すると、CD4+FoxP3−エフェクター集団の増殖に著しい影響を及ぼすことなくCD4+FoxP3+の増殖は実質的に阻害されるということを示す。
【0030】
(例5)
選抜した変異タンパク質を、培養液中の制御性T細胞によって優先的に分離して、エフェクターT細胞の活性に影響を及ぼすその能力を減少させる。精製し抗CD3抗体を用いて刺激したCD4+CD25−FoxP3−ヘルパーT細胞集団によって内生的に産生させたIL−2に媒介されるシグナル伝達(刺激)を、これらの変異タンパク質は阻害する。しかし、これらの培養液にCD4+CD25+FoxP3+制御性T細胞の量を増加させて添加すると、変異体によって媒介される、Tエフェクター集団に対する阻害が逆に減少する(図7)。この効果は、T制御性集団に対するIL−2の活性を優先的に阻害することが報告されている変異タンパク質の能力で説明される。制御性T細胞は少量しか存在しなくても、変異体の活性をこの細胞に向かわせ、それによりエフェクター集団における変異タンパク質の抑制活性を減弱させる。
【0031】
(例6)
選抜した変異タンパク質は、移植性腫瘍マウスモデルで抗腫瘍活性を示す。図8は、表1の変異タンパク質の1つについて記述された特性を示す。右側腹の皮下に移植した黒色腫MB16F10細胞系を用いる原発腫瘍モデルで、変異タンパク質を評価した。図8は、変異タンパク質で処理したマウスの腫瘍体積の減少を、PBSで処理した対照群と比較して示す。さらに、抗CD25モノクローナル抗体(MAb)で処理した対照群が含まれたので、この実験系がTreg細胞の枯渇を感知できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ヒトIL−2変異バリアントの産生及び精製を示す図である。a:遺伝子操作構築体を用いて形質導入した大腸菌株における、いくつかの変異バリアント及び対照の天然型IL−2の発現を示すウェスタンブロットの図である;b:逆相精製を使用して得た典型的精製プロファイルの一例を示す図である。
【図2】表1に記載の変異タンパク質のいくつかによるIL−2受容体α鎖(a)及びβ鎖(b)の認識をELISA法で評価した図である。天然型IL−2を陽性対照として使用している。図に示すように、試験した全ての変異タンパク質が、天然型IL−2の認識率と同等の認識率を維持する。
【図3】表1に記載の変異タンパク質のいくつかの、細胞表面においてIL−2受容体に結合する能力をフローサイトメトリーによって評価した図である。特にマウスCTLL2細胞系に対する。これらの分子の遺伝的構築体に含まれるヒスチジンから成る頭部を認識する抗6−His−PE抗体を用いて、細胞表面上の変異タンパク質及び対照の天然型IL−2の両方を検出した。a):検出された直接結合レベルを示すヒストグラムである。b):天然型IL−2の量を増加させて添加することに起因する細胞に結合している変異タンパク質の減少を、検出される蛍光の平均強度の減少によって測定した図である(この分子のバリアントにはヒスチジン頭部が無いので染色を妨げない)。
【図4】表1に記載の変異タンパク質のいくつかのシグナル伝達能力を評価した図である。a):MTTを使用する比色分析アッセイによって測定するCTLL2細胞系の増殖アッセイにおける、変異タンパク質の活性を評価した図である。b):変異タンパク質を、マウス総脾細胞由来のNK1.1+細胞の分化試験でも評価した図である。いずれの場合においても、全く同じ実験系(同じ遺伝的構築体、大腸菌産生株、精製系)で産生される対照の天然型IL−2に対して、変異タンパク質の刺激能力を比較する。図3aで示した結果と同様の結果が、Kitt225細胞系で得られ、ただし受容体系はヒトである。
【図5】表1に記載の変異タンパク質のいくつかの、天然型IL−2のin vitro活性を阻害する能力を評価した図である。a:変異タンパク質の濃度増加による、抗CD3モノクローナル抗体(クローン2C11、10μg/mL)で刺激した総神経節リンパ球の増殖の阻害を示す図である。b:培養液に変異タンパク質の量を増加させて添加することによる、500IU/mLの天然型IL−2で刺激したマウス総脾細胞由来NK1.1+細胞の分化の阻害を示す図である。
【図6】CD4+Foxp3+リンパ球を優先的に阻害する変異タンパク質の能力を評価した図である。in vitroで、指示量のM1変異タンパク質(表1に参照される通り)の存在下にマウスリンパ節リンパ球を、抗CD3モノクローナル抗体(クローン2C11、10μg/mL)で刺激した。培養72時間後に、CD4+Foxp3+制御性リンパ球及びCD4+Foxp3エフェクターリンパ球の生存数を、参照ビーズを使用してフローサイトメトリーで定量した。aでのグラフは、制御性細胞集団及びエフェクター細胞集団を区別するために使用したフローサイトメトリーにおける塩基性染色を示す。bでのグラフは、様々な量の変異タンパク質を添加することによって誘導される、増殖阻害レベルを示す。変異タンパク質の非存在下で回復した生細胞数に基づいて、この阻害率を算出する。bに示すように、CD4+FoxP3+制御性集団の阻害率が、CD4+FoxP3−ヘルパーT細胞又はエフェクターT細胞の場合よりもさらに著しいM1変異タンパク質の中程度の濃度範囲がある。
【図7】設計したIL−2変異タンパク質を優先的に分離して、エフェクターT細胞に対する阻害効果によってエフェクターT細胞を解放する制御性T細胞の能力の評価を示す図である。エフェクターT細胞CD4+CD25−FoxP3−をCFSEで標識した磁気ビーズを使用して精製し、一部を変異タンパク質の存在下(M1変異タンパク質のグラフ、2種類の異なる濃度10μg/mL及び5μg/mL)で、及び一部を変異タンパク質の非存在下で培養液に入れ、抗CD3抗体(クローン2C11、10μg/mL)及び抗CD28(クローン37.51、10μg/mL)で刺激した。様々な量の精製した制御性T細胞(CD4+CD25+FoxP3+)を、これらの培養物に添加した。グラフ6aは、磁気ビーズ分離法で得た高レベルの純度を示す(Tregが92%及びエフェクターT細胞が97%)。図6bは、CFSE希釈法によって測定されるエフェクター細胞の増殖レベルを、培養液中の様々な量の制御性細胞に対して示す。Tregの非存在下で見られるように、変異タンパク質が存在するとエフェクター細胞の増殖に実質的な影響(阻害効果)があるが、Tregを添加するにつれてTregが変異タンパク質を優先的に分離してエフェクター細胞をその阻害効果から解放するので、エフェクターT細胞の増殖が回復する。
【図8】黒色腫MB16F10腫瘍細胞系による原発腫瘍モデルを使用するIL−2変異タンパク質の直接的な抗腫瘍効果を評価した図である。12匹のC57BL6マウスを使用し、マウスを各4匹の3群に分配した。−5日目〜0日目にすべての処理を皮下に行った。群1は200・LのPBSを受け、群2は100μgの抗CD25MAbを受け、群3は200μgのIL−2変異タンパク質を受けた。0日目に、全てのマウスは右側腹に250000個の細胞を受けた。30日目まで2日毎に腫瘍体積を測定した。分散分析検定及び多重比較ボンフェローニー検定を使用してデータを分析した。IL−2変異タンパク質は抗CD25MAbとして、腫瘍成長に著しい遅延をもたらした(p<0.001)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然型IL−2の配列に関していくつかの点変異を含み、in vitroで制御性T細胞に対するIL−2の活性を優先的に阻害する特性を有する、IL−2に由来する免疫調節ポリペプチド。
【請求項2】
天然型IL−2の配列内にいくつかの変異を含み、それにより天然型制御性T細胞(CD4+CD25+FoxP3+)に対するIL−2の活性を選択的及び優先的に阻害できる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
in vivoで制御性T細胞を優先的に阻害する能力を特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
変異Q22V、Q126A、及びS130G I129Dを含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
変異L18N、Q126Y及びS130Rを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
変異Q13Y、Q126Y、I129D及びS130Rを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
変異L18N、Q22V、T123A、及びS130R I129Dを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
担体タンパク質と結合した請求項1〜7のいずれか一項に記載の免疫調節ポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項9】
担体タンパク質が、アルブミンであることを特徴とする、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
担体タンパク質が、ヒト免疫グロブリンのFc領域であることを特徴とする、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
慢性疾患の治療に有用な医薬の製造のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
癌治療に有用な医薬の製造のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
慢性感染症の治療に有用な医薬の製造のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
活性成分として請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、癌及び慢性感染症の治療に有用な医薬組成物。
【請求項15】
活性成分として請求項4に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
活性成分として請求項5に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
活性成分として請求項6に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
活性成分として請求項7に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項19】
活性成分として請求項8〜10のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする、癌及び慢性感染症の治療に有用な医薬組成物。
【請求項20】
慢性疾患の治療のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項21】
癌治療のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項22】
慢性感染症の治療のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項23】
慢性疾患の治療のための、請求項8〜10のいずれか一項に記載の融合タンパク質の使用。
【請求項24】
癌治療のための、請求項8〜10のいずれか一項に記載の融合タンパク質の使用。
【請求項25】
慢性疾患の治療のための、請求項8〜10のいずれか一項に記載の融合タンパク質の使用。
【請求項26】
免疫系を調節する医薬の製造のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項27】
IL−2受容体の様々な構成要素に対する結合親和性を増加させる新しい変異を導入する場合の、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド及びその適用。
【請求項28】
IL−2受容体の異なる構成要素に対する結合親和性を増加させる新しい変異を導入する場合の、請求項4、5、6、7に記載のポリペプチド及びその適用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−512200(P2013−512200A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540281(P2012−540281)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【国際出願番号】PCT/CU2010/000005
【国際公開番号】WO2011/063770
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(500185689)
【Fターム(参考)】