説明

IL−6アンタゴニストを有効成分とする炎症性筋疾患治療剤

【課題】筋線維における異常な炎症細胞浸潤等の炎症性筋疾患の症状を顕著に抑制することができ、かつ全般的な免疫力低下等の既存薬の欠点を有さない、優れた炎症性筋疾患治療剤を提供すること。
【解決手段】IL−6アンタゴニストを有効成分とすることを特徴とする炎症性筋疾患治療剤である。前記炎症性筋疾患治療剤においては、IL−6アンタゴニストがIL−6受容体に対する抗体である態様、IL−6アンタゴニストがモノクローナル抗体である態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−6アンタゴニストを有効成分とする炎症性筋疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
IL−6はB細胞刺激因子2(BSF2)或いはインターフェロンβ2とも呼称されたサイトカインである。IL−6は、Bリンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(非特許文献1)、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかになった(非特許文献2)。IL−6は、Tリンパ球系細胞の成熟化を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0003】
IL−6は、細胞上で二種の蛋白質を介してその生物学的活性を伝達する。一つは、IL−6が結合する分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質のIL−6受容体である(非特許文献4、5)。IL−6受容体は、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL−6受容体としても存在する。
もう一つは、非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kDの膜蛋白質gp130である。IL−6とIL−6受容体はIL−6/IL−6受容体複合体を形成し、次いでgp130と結合することにより、IL−6の生物学的活性が細胞内に伝達される(非特許文献6)。
【0004】
IL−6アンタゴニストは、IL−6の生物学的活性の伝達を阻害する物質である。これまでに、IL−6に対する抗体(抗IL−6抗体)、IL−6受容体に対する抗体(抗IL−6受容体抗体)、gp130に対する抗体(抗gp130抗体)、IL−6改変体、IL−6又はIL−6受容体部分ペプチド等が知られている。
抗IL−6受容体抗体に関しては、いくつかの報告がある(非特許文献7、8、特許文献1〜3)。その一つであるマウス抗体PM−1(非特許文献9)の相捕性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体へ移植することにより得られたヒト化PM−1抗体が知られている(特許文献4)。
【0005】
ところで多発性筋炎は、骨格筋の広範な炎症性変化が認められ、力が入らなくなる、疲れやすい、筋肉が痛くなる等を基本的な症状とする疾患であり、ヘリオトロープ疹等の特徴的な皮膚症状を伴う場合には、皮膚筋炎と呼ばれる。このような炎症性筋疾患とIL−6との関係についての詳細は明らかではないが、これまでに、炎症筋組織内にIL−6を発現する単核球が存在する多発性筋炎例があることが報告されている(非特許文献10)。しかしながら、この報告では、IL−1などの他の炎症性サイトカインと比べるとむしろ発現量は少ないとされている。また、筋芽細胞においてIL−6が発現することが報告されてはいるが、成熟した筋細胞からはその発現が確認されていない(非特許文献11)。その一方で、IL−6が、最近、自己反応性T細胞の主要な細胞群と考えられているTh17細胞を誘導するのに必要であることが明らかとなった(非特許文献12、13)。しかし、自己免疫性筋炎におけるTh17細胞の役割は、不明である。このように、炎症性筋疾患とIL−6との関連について示唆する報告はあるものの、IL−6の発現や機能の阻害が、炎症性筋疾患に対し、治療的効果を示すか否かについては、依然として不明であった。
【0006】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Hirano,T.et al.,Nature(1986)324,73−76
【非特許文献2】Akira,S.et al.,Adv.in Immunology(1993)54,1−78
【非特許文献3】Lotz,M.et al.,J.Exp.Med.(1988)167,1253−1258
【非特許文献4】Taga,T.et al.,J.Exp.Med.(1987)166,967−981
【非特許文献5】Yamasaki,K.et al.,Science(1988)241,825−828
【非特許文献6】Taga,T.et al.,Cell(1989)58,573−581
【非特許文献7】Novick,D.et al.,Hybridoma(1991)10,137−146
【非特許文献8】Huang,Y.W.et al.,Hybridoma(1993)12,621−630
【非特許文献9】Hirata,Y.et al.,J.Immunol.(1989)143,2900−2906
【非特許文献10】Lundberg,I.et al.,Arthritis Rheum(1997)40(5),865−874
【非特許文献11】De Rossi,M.et al.,Int Immunol(2000)12(9),1329−1335
【非特許文献12】Yoichiro,I.and Harumichi,I.,The Journal of Clinical Investigation(2006)116(5)1218−1222
【非特許文献13】Marc,V.et al.,Immunity(2006)24,179−189
【特許文献1】国際公開第95−09873号パンフレット
【特許文献2】フランス特許出願公開第2694767号明細書
【特許文献3】米国特許第5216128号明細書
【特許文献4】国際公開第92−19759号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでの多発性筋炎・皮膚筋炎等の炎症性筋疾患の治療には、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が使われてきたが、前者は、全般的な免疫力低下に加えて、精神症状、糖尿病、骨代謝異常、胃潰瘍、筋萎縮、白内障などさまざま副作用があり、また、後者も強力かつ全般的な免疫力低下による感染症が致命的副作用としておこりうる。本発明の目的は、単一分子を標的にすることにより、前期の欠点を有さない新たな炎症性筋疾患治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、多発性筋炎・皮膚筋炎のモデルマウスを利用して、その治療効果を有する分子の探索につき鋭意研究した結果、IL−6の機能を抑制する分子が、筋線維における異常な炎症細胞浸潤等の炎症性筋疾患の症状を顕著に抑制しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、IL−6を標的とした炎症性筋疾患の治療剤に関し、より詳しくは、
(1)IL−6アンタゴニストを有効成分とすることを特徴とする炎症性筋疾患治療剤、
(2)IL−6アンタゴニストがIL−6受容体に対する抗体又はIL−6に対する抗体である、(1)に記載の炎症性筋疾患治療剤、
(3)抗体がモノクローナル抗体である、(2)に記載の炎症性筋疾患治療剤、
(4)抗体が組換え型抗体である、(2)に記載の炎症性筋疾患治療剤、
(5)抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、(2)に記載の炎症性筋疾患治療剤、
(6)炎症性筋疾患が多発性筋炎又は皮膚筋炎である、(1)から(5)のいずれかに記載の炎症性筋疾患治療剤、
(7)筋線維における異常な炎症細胞浸潤を抑制する作用を有する、(1)から(6)のいずれかに記載の炎症性筋疾患治療剤、を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
多発性筋炎・皮膚筋炎のモデルマウスにおいて、IL−6の機能を抑制することにより、筋線維での炎症細胞浸潤が顕著に抑制された。従って、本発明に係る、抗IL−6受容体モノクローナル抗体をはじめとするIL−6アンタゴニストは、筋肉における異常な炎症細胞浸潤の抑制作用を有する新たな炎症性筋疾患治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(炎症性筋疾患治療剤)
本発明は、IL−6アンタゴニストを有効成分とする炎症性筋疾患治療剤を提供する。
【0011】
<IL−6アンタゴニスト>
本発明において「IL−6アンタゴニスト」とは、IL−6によるシグナル伝達を遮断し、IL−6の生物学的活性を阻害する物質である。IL−6アンタゴニストは、好ましくはIL−6、IL−6受容体、及びgp130のいずれかの結合に対する阻害作用を有する物質である。
本発明におけるIL−6アンタゴニストとしては、例えば、抗IL−6抗体、抗IL−6受容体抗体、抗gp130抗体、IL−6改変体、可溶性IL−6受容体改変体、或いはIL−6又はIL−6受容体の部分ペプチド、及び、これらと同様の活性を示す蛋白質(例えば、C326 Avimer;Nature Biotechnology Vol.23,Number 12,December 2005)や低分子物質が挙げられるが、特に限定されるものではない。中でも、本発明におけるIL−6アンタゴニストとしては、好ましくはIL−6受容体を認識する抗体(抗IL−6受容体抗体)を挙げることができる。
本発明における抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることができる。
【0012】
−抗IL−6抗体−
本発明で使用される抗IL−6抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL−6抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL−6と結合することにより、IL−6のIL−6受容体への結合を阻害してIL−6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MH166(Matsuda,T.et al.,Eur.J.Immunol.(1988)18,951−956)やSK2抗体(Sato,K.et al.,第21回 日本免疫学会総会、学術記録(1991)21,166)等が挙げられる。
【0013】
抗IL−6抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL−6を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL−6抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL−6は、Eur.J.Biochem(1987)168,543−550、J.Immunol.(1988)140,1534−1541、或いはAgr.Biol.Chem.(1990)54,2685−2688に開示されたIL−6遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
IL−6の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中、又は、培養上清中から目的のIL−6蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL−6蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL−6蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0014】
−抗IL−6受容体抗体−
本発明で使用される抗IL−6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL−6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL−6受容体と結合することにより、IL−6のIL−6受容体への結合を阻害してIL−6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MR16−1抗体(Tamura,T.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90,11924−11928)、PM−1抗体(Hirata,Y.et al.,J.Immunol.(1989)143,2900−2906)、AUK12−20抗体、AUK64−7抗体、或いはAUK146−15抗体(国際公開第92−19759号パンフレット)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL−6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM−1抗体が例示され、またマウスIL−6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16−1抗体が挙げられる。
【0015】
抗IL−6受容体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL−6受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL−6受容体抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL−6受容体は、欧州特許出願公開第325474号明細書に、マウスIL−6受容体は日本特許出願公開特開平3−155795号公報に開示されたIL−6受容体遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
IL−6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL−6受容体)(Yasukawa,K.et al.,J.Biochem.(1990)108,673−676)との二種類がある。可溶性IL−6受容体抗体は細胞膜に結合しているIL−6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域、或いは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL−6受容体と異なっている。IL−6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL−6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL−6受容体を使用してもよい。
IL−6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中、又は、培養上清中から目的のIL−6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL−6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL−6受容体を発現している細胞やIL−6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0016】
−抗gp130抗体−
本発明で使用される抗gp130抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗gp130抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はgp130と結合することにより、IL−6/IL−6受容体複合体のgp130への結合を阻害してIL−6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、AM64抗体(特開平3−219894号公報)、4B11抗体及び2H4抗体(米国特許第5571513号明細書)、B−S12抗体及びB−P8抗体(特開平8−291199号公報)などが挙げられる。
【0017】
抗gp130モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、gp130を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるgp130は、欧州特許出願公開第411946号明細書に開示されたgp130遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
gp130の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中、又は、培養上清中から目的のgp130蛋白質を公知の方法で精製し、この精製gp130蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、gp130を発現している細胞やgp130蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0018】
−抗体作製−
前記したような各感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内、又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、その抗血清をそのままポリクローナル抗体として使用してもよいし、また、モノクローナル抗体を作製する場合であれば、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0019】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney,J.F.et al.J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81,1−7)、NS−1(Kohler.G.and Milstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6,511−519)、MPC−11(Margulies.D.H.et al.,Cell(1976)8,405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276,269−270)、FO(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35,1−21)、S194(Trowbridge,I.S.J.Exp.Med.(1978)148,313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277,131−133)等が知られており、これらが適宜使用される。
【0020】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルシュタインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0021】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、更に、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0022】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1,000〜6,000程度のPEG溶液を、通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことにより、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0023】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及びクローニングが行われる。
【0024】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球を、in vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。更に、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第92/03918号パンフレット、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第96/34096号パンフレット、国際公開第96/33735号パンフレット参照)。
【0025】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0026】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、或いはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0027】
例えば、抗IL−6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3−139293号公報に開示された方法により行うことができる。PM−1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM−1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM−Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO−BRL製)、PFHM−II培地(GIBCO−BRL製)等で培養し、その培養上清からPM−1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0028】
また、本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K.and Larrick J.W.THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294−5299)、AGPC法(Chomczynski,P.et al.,Anal.Biochem.(1987)162,156−159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0029】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成及び増幅を行うには5’−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)及びPCRを用いた5’−RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85,8998−9002;Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。更に、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0030】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0031】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開第125023号明細書、国際公開第92−19759号パンフレット参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0032】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体又はヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開第125023号明細書、国際公開第92−19759号パンフレット参照)。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR;framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開第239400号明細書、国際公開第92−19759号パンフレット参照)。
【0033】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
【0034】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、ヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域及びC領域からなり、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM−1抗体が挙げられる(国際公開第92−19759号パンフレット参照)。
【0035】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、国際公開第92/01047号パンフレット、国際公開第92/20791号パンフレット、国際公開第93/06213号パンフレット、国際公開第93/11236号パンフレット、国際公開第93/19172号パンフレット、国際公開第95/01438号パンフレット、国際公開第95/15388号パンフレットを参考にすることができる。
【0036】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNA或いはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0037】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan,R.C.et al.,Nature(1979)277,108−114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima,S.and Nagata,S.Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)に従えば容易に実施することができる。
【0038】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward,E.S.et al.,Nature(1989)341,544−546;Ward,E.S.et al.FASEB J.(1992)6,2422−2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better,M.et al.Science(1988)240,1041−1043)に従えばよい。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379−4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、国際公開第96/30394号パンフレットを参照)。
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、更に、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0039】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitro及びin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、或いは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0040】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0041】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser,SPECTRUM Biotechnology Applications,1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
【0042】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda,S.et al.,Nature(1985)315,592−594)。更に、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian,K.−C.Ma et al.,Eur.J.Immunol.(1994)24,131−138)。
【0043】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、或いはH鎖及びL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際公開第94−11523号パンフレット参照)。
【0044】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってもよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し、抗体断片を生成させるか、又は、これらの抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976、Better,M.& Horwitz,A.H.Methods in Enzymology(1989)178,476−496、Plueckthun,A.& Skerra,A.Methods in Enzymology(1989)178,476−496、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,652−663、Rousseaux,J.et al.,Methods in Enzymology(1989)121,663−66、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。
【0045】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)。scFvにおけるH鎖V領域及びL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖、又はH鎖V領域をコードするDNA、及びL鎖、又はL鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、更にペプチドリンカー部分をコードするDNA及びその両端を、各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0046】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0047】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製は、例えばアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0048】
上記で得られた抗体の濃度測定は、吸光度の測定、又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(−)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、或いは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
洗浄後、5,000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio−Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0049】
−IL−6改変体、可溶性IL−6受容体改変体−
本発明で使用されるIL−6改変体は、IL−6受容体との結合活性を有し、且つIL−6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL−6改変体はIL−6受容体に対しIL−6と競合的に結合するが、IL−6の生物学的活性を伝達しないため、IL−6によるシグナル伝達を遮断する。
IL−6改変体は、IL−6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL−6改変体のもととなるIL−6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL−6である。
具体的には、IL−6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、例えば、WHATIF(Vriend et al.,J.Mol.Graphics(1990)8,52−56)を用いてその二次構造を予測し、更に置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL−6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL−6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL−6改変体を得ることができる。
IL−6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al.,J.Biol.Chem.(1994)269,86−93、及びSavino et al.,EMBO J.(1994)13,1357−1367、国際公開第96−18648号パンフレット、国際公開第96−17869号パンフレットに開示されている。
また、本発明で使用される可溶性IL−6受容体改変体は、IL−6との結合活性を有し、且つIL−6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、可溶性IL−6受容体改変体はIL−6に対しIL−6受容体と競合的に結合するが、IL−6の生物学的活性を伝達しないため、IL−6によるシグナル伝達を遮断する。
可溶性IL−6受容体改変体は、例えば、前記したIL−6改変体の作製方法に準じて、適宜作製することができる。
【0050】
−IL−6部分ペプチド、IL−6受容体部分ペプチド−
本発明で使用されるIL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドは、各々IL−6受容体或いはIL−6との結合活性を有し、且つIL−6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドは、IL−6受容体又はIL−6に結合し、これらを捕捉することによりIL−6のIL−6受容体への結合を特異的に阻害する。その結果、IL−6の生物学的活性を伝達しないため、IL−6によるシグナル伝達を遮断する。
IL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドは、IL−6又はIL−6受容体のアミノ酸配列においてIL−6とIL−6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
【0051】
IL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドは、IL−6又はIL−6受容体のアミノ酸配列において、IL−6とIL−6受容体との結合に係わる領域を特定し、その一部又は全部のアミノ酸配列を、通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
IL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
IL−6部分ペプチド又はIL−6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に、合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α−アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と、樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα−アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
【0052】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又、Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をし、ペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水−アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
【0053】
IL−6部分ペプチド及びIL−6受容体部分ペプチドの具体例は、特開平2−188600号公報、特開平7−324097号公報、特開平8−311098号公報及び米国特許第5210075号明細書に開示されている。
【0054】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0055】
本発明で使用されるIL−6アンタゴニストのIL−6シグナル伝達阻害活性は、通常用いられる方法により評価することができる。具体的には、IL−6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45,KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3、或いはIL−6依存性細胞MH60.BSF2を培養し、これにIL−6を添加し、同時にIL−6アンタゴニストを共存させることによりIL−6依存性細胞の3H−チミジン取込みを測定すればよい。また、IL−6受容体発現細胞であるU266を培養し、125I標識IL−6を添加し、同時にIL−6アンタゴニストを加えることにより、IL−6受容体発現細胞に結合した125I標識IL−6を測定する。上記アッセイ系において、IL−6アンタゴニストを存在させる群に加えIL−6アンタゴニストを含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL−6アンタゴニストのIL−6阻害活性を評価することができる。
【0056】
<治療剤>
本発明の炎症性筋疾患治療剤は、投与により、炎症性筋疾患を罹患した対象において、筋線維における異常な炎症細胞浸潤を抑制する作用を有する。炎症性筋疾患としては、好ましくは多発性筋炎又は皮膚筋炎である。投与される対象は哺乳動物であり、哺乳動物は、好ましくはヒトである。
本発明の炎症性筋疾患治療剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的又は非経口的に全身或いは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。或いは、患者あたり1〜1,000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、例えば抗IL−6受容体抗体の場合には、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり、1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを、1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで、点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、投与後状態の観察及び血液検査値の動向を観察しながら2回/週、或いは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
また、本発明の炎症性筋疾患治療剤は、治療的に投与されてもよいし、予防的に投与されてもよい。
【0057】
本発明において炎症性筋疾患治療剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の筋炎抑制効果を有する材料であってもよいし、当該抑制効果を有さない材料であってもよく、上記の抑制剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、筋炎抑制効果を有さない材料であっても、IL−6アンタゴニストと併用することによって相乗的若しくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0058】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0059】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0060】
本発明の炎症性筋疾患治療剤には、これらの界面活性剤の1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20、40、60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.003〜50mg/mLであり、更に好ましくは0.005〜2mg/mLである。
【0061】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸、他の有機酸等、或いは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることができる。
また、溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、更に好ましくは10〜20mMである。
【0062】
また、本発明の炎症性筋疾患治療剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0063】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、又はこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることができる。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合、或いは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、又はオルニチンである。更に、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)或いは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、又はアラニン、或いは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、又は誘導体のN−アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0064】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0065】
本発明の炎症性筋疾患治療剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
本発明の炎症性筋疾患治療剤は、所望により、更に希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0066】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0067】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることができる。
【0068】
また、本発明の炎症性筋疾患治療剤は、必要に応じ、有効成分をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(“Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition”,Oslo Ed.,1980等参照)。更に、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.1981,15:167−277;Langer,Chem.Tech.1982,12:98−105;米国特許第3,773,919号明細書;欧州特許出願公開第58,481号明細書;Sidman et al.,Biopolymers 1983,22:547−556;欧州特許第133,988号明細書)。使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜或いは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
<治療方法>
本発明は、IL−6アンタゴニストを、炎症性筋疾患を発症した対象に投与する工程を含む、対象において炎症性筋疾患を治療する方法にも関する。本発明において、「対象」とは、本発明の炎症性筋疾患治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。本発明において、「投与する」とは、経口的、或いは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、或いは懸濁剤等の剤型を選択することができる。非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、或いは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、炎症性筋疾患の公知の治療法、例えば、リハビリテーション、理学療法、副腎皮質ステロイドホルモン剤投与、アザチオプリン、メトキセレートなどの免疫抑制剤投与と同時に又は時間を隔てて本発明の薬剤が投与されてもよい。
【実施例】
【0070】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
[実施例1:プロテインC誘導性筋炎(CIM)の誘導及び臨床的評価]
本実施例に用いたC57BL/6Jマウス(8週齢、雌)は、チャールズリバージャパンから購入した。処理する前のマウスは、免疫・アレルギー科学総合研究センター(独立行政法人理化学研究所)のSPF(特定病原体不在)実験動物施設にて飼育した。
また、本実施例に用いたプロテインCは、次の通り調製した。マウス速筋線維由来プロテインCの相補的DNA(cDNA)をマウス骨格筋由来のcDNAライブラリーからPCRにて増幅した。用いたプライマーの配列は、5’−GGGAGGATCCGACCTTCCTCTCAAGTGG−3’(配列番号:1)、5’−ATTAAAGCTTAGCCAGGTAGCAGTGGG−3’(配列番号:2)である(下線部は、pQE30ベクター(キアゲン)へサブクローニングする際に用いた制限酵素認識部位)。プロテインC発現ベクターをTOP10F’大腸菌株(インビトロゲン)に導入し、取り扱い説明書に従い、組み換えプロテインCタンパク質断片を精製した。組み換えプロテインCタンパク質断片の可溶性画分はpH7.4、PBS緩衝液(0.5M アルギニン、2mM 還元グルタチオン、0.2mM 酸化グルタチオン含有)を用いて透析した。
上記マウス及びプロテインCを用いて、次の通り、マウスにおけるCIMの誘導を行った。上記マウスに、皮下投与にて200μgプロテインCタンパク質断片含有完全フロイントアジュバント(CFA)を導入し、免疫処理を行った(CFAは、100μgの熱処理したMycobacterium butyricum(デフコ)を含む)。抗原を背中と足踵部の複数箇所に導入すると同時に、PBSに溶かした2μg百日咳毒素(生化学工業)を腹腔内に注射した。免疫処理から21日後、マウスから採取した近位筋(膝屈曲筋と大腿四頭筋)をパラフィン切片(10μm)にし、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色を施したものについて、筋線維における単核細胞浸潤及び壊死の有無を組織学的に観察した。各筋肉ブロックにおける炎症の組織学的重症度(組織学的スコア)は、以下の4つのカテゴリーに分けて評価を行った。
<組織学的スコア>
グレード 1:1から5未満の筋線維で炎症細胞浸潤が観察される。
グレード 2:5から30の筋線維で炎症細胞浸潤が観察される。
グレード 3:筋束で炎症細胞浸潤が観察される。
グレード 4:びまん性の広範な炎症細胞浸潤が観察される。
(筋肉ブロックにおいて同程度の炎症細胞浸潤が複数箇所観察された場合は、グレードに0.5を追加する。)
【0072】
[実施例2:筋炎モデルマウスの血清アミロイドA(SAA)濃度に対する抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体の効果]
本実施例で用いた抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体(ラットIgG1)はMR16−1ハイブリドーマ細胞株から精製した。抗ジニトロフェノールモノクローナル抗体(ラットIgG1)はKH−5ハイブリドーマ細胞株から精製した。両ハイブリドーマ細胞株は、中外製薬株式会社から提供を受けた。
プロテインC免疫を実施例1の通り行い、同日に4mg又は2mgの各モノクローナル抗体(抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体(IL−6R mAb)、又はそのコントロールとして抗ジニトロフェノールモノクローナル抗体(対照 mAb))をマウスの腹腔内に投与し、その5日後に顔面静脈からの採血を行い、SAA濃度の測定を行った。SAAの濃度測定は、マウスSAA ELISAキット(BioSourse)を用い、付属の取り扱い説明書に従って行った。
その結果、免疫処理と同時に抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体4mgを投与した群のSAA濃度は、コントロール抗体4mg投与群に対して、統計的に有意な減少が認められた。抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体2mg投与群のSAA濃度は、コントロール抗体2mg投与群に対して、有意差は認められなかったものの、減少傾向が認められた(図1)。
【0073】
[実施例3:CIMにおける抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体の治療効果(1)]
マウスに対し、プロテインC免疫を実施例1の通り行い、同日に4mg又は2mgの各モノクローナル抗体(抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体(IL−6R mAb)、又はそのコントロールとして抗ジニトロフェノールモノクローナル抗体(対照 mAb))の腹腔内投与を行い、続けて免疫処理後3週間の間、0.1mg各モノクローナル抗体を1週間に2回投与した。
その結果、無治療群、コントロール抗体投与群、及び抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体投与群の全てのマウスにおいて、免疫処理後21日目に組織学的な筋炎が確認された。組織学的スコアの平均は、無治療群が1.92±0.38(±SD)、コントロール抗体4mg投与群では2.1±0.22、2mg投与群では1.93±0.24であった。一方、抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体4mg投与群では1.13±0.32、2mg投与群では1.55±0.54であった。抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体の4mg投与群では、コントロール抗体の4mg投与群に比して、組織学的スコアが有意に減少していた(表1、図2)。
【0074】
【表1】

【0075】
[実施例4:CIMにおける抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体の治療効果(2)]
本発明者らは、CIMの繰り返しの観察により、免疫処理後7日目で既にCIMが発症することを確認していたため、次の通り、免疫処理後7日目に各モノクローナル抗体の投与を行い、その治療効果の検証を行った。
プロテインC免疫を実施例1の通り行い、免疫処理後7日目に4mg又は2mgの各モノクローナル抗体(抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体(IL−6R mAb)、又はそのコントロールとして抗ジニトロフェノールモノクローナル抗体(対照 mAb))の腹腔内投与を行い、続けて免疫処理後3週間目までの間、0.1mg各モノクローナル抗体を1週間に2回投与した。
その結果、無治療群、コントロール抗体投与群、及び抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体投与群の全てのマウスにおいて、免疫処理後21日目に組織学的な筋炎が確認された。抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体4mg投与群においてはCIMの発現は40%であった。組織学的スコアの平均は、無治療群が1.25±0.71、コントロール抗体4mg投与群では1.43±0.38、2mg投与群では1.65±0.29であった。一方、抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体4mg投与群では0.2±0.27、2mg投与群では0.75±0.43であった。抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体2mg又は4mg投与群では、コントロール抗体投与群に比して組織学的スコアが有意に減少していた(表2、図3)。
【0076】
【表2】

【0077】
以上の実施例の結果より、CIMにおける、抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体の治療効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、IL−6を標的とした、炎症性筋疾患を治療するための薬剤であり、筋線維における異常な炎症細胞浸潤を効果的に抑制しうる薬剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、ELISAの結果を示す図である。プロテインC免疫処理後5日目のマウスにおいて、抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体4mg又は2mgの投与によるSAA濃度の減少が認められた。全群n=3、*p<0.05である。
【図2】図2は、免疫処理と同時に抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体投与を行い、免疫処理後21日目のCIMの発症を組織学的に確認した結果を示す図である。表1をグラフに書き直したものであり、*p<0.05である。
【図3】図3は、免疫処理後7日目に抗マウスIL−6受容体モノクローナル抗体投与を行い、免疫処理後21日目のCIMの発症を組織学的に確認した結果を示す図である。表2をグラフに書き直したものであり、*p<0.05である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−6アンタゴニストを有効成分とすることを特徴とする炎症性筋疾患治療剤。
【請求項2】
IL−6アンタゴニストがIL−6受容体に対する抗体又はIL−6に対する抗体である、請求項1に記載の炎症性筋疾患治療剤。
【請求項3】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項2に記載の炎症性筋疾患治療剤。
【請求項4】
抗体が組換え型抗体である、請求項2に記載の炎症性筋疾患治療剤。
【請求項5】
抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、請求項2に記載の炎症性筋疾患治療剤。
【請求項6】
炎症性筋疾患が多発性筋炎又は皮膚筋炎である、請求項1から5のいずれかに記載の炎症性筋疾患治療剤。
【請求項7】
筋線維における異常な炎症細胞浸潤を抑制する作用を有する、請求項1から6のいずれかに記載の炎症性筋疾患治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−95445(P2010−95445A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351695(P2006−351695)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】