説明

IL−8産生促進剤とその用途

安全な食品素材由来であるIL−8産生促進剤、及び、これを含有する免疫賦活剤、または感染症の予防又は処置剤を提供することを課題とする。ペパーミント、ドクダミ、カンゾウからなる少なくとも1種の植物抽出物を有効成分として含有する組成物がIL−8産生を促進すること、およびα−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する組成物がIL−8産生を促進することを見出した。それらIL−8産生促進剤は、免疫賦活剤、または感染症の予防又は処置剤を配合する飲食品に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、インターロイキン−8産生促進剤、及び、これを含有することを特徴とする免疫賦活剤、または感染症の予防又は処置剤に関する。
【背景技術】
腸管は口から入った多種類の食品等と直接接触するため、有害物質を排除する機能と有用な成分を吸収するという生命の維持にかかせない2つの機能を併せ持つ。食品の生理機能は、主に腸管での物質吸収および吸収した成分が細胞を介しておこすシグナル伝達やサイトカイン制御などによって発揮されるが、それら腸管機能の中でも、腸管免疫は体の免疫機構の最前線として重要な役割を持つ。腸管には経口摂取された抗原に対して免疫反応を惹起する免疫担当組織(GALT:gut associated lymphoreticular tissue)と、食品から栄養素などの有用成分を吸収する腸管上皮細胞がある。食品成分はそれら細胞に直接あるいは間接的に働きかけることで免疫調節、すなわち免疫促進や免疫抑制を行っている。
腸管上皮細胞はTGF−βやIL−1β、IL−10、TNF−αなどのサイトカイン類や、IL−8などのケモカイン類を産生しており、種々の病原性細菌感染によりケモカイン類が増加することが知られている。腸管上皮細胞と免疫担当細胞はサイトカインやケモカインで相互作用しており、中でもIL−8は生体防御や免疫機構、炎症反応に深く関係する。好中球遊走・活性化因子であるインターロイキン−8(以下、IL−8と略す)は、1987年にLPS刺激したヒト末梢血単核球より精製・クローニングされた(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,9233〜9237,1987)。
IL−8は、単球、マクロファージ、繊維芽細胞、血管内皮細胞、肥満細胞、表皮細胞などによって産生され、好中球、CD8+T細胞、ナチュラルキラー細胞、単球などを標的細胞としている。IL−8の機能としては、好中球走化性、好塩基球・T細胞の遊走活性、骨髄より末梢血への好中球の動員、好中球における細胞内リソゾーム酵素の放出・ロイコトリエンB(LTB)の産生誘導・活性酸素の産生誘導など好中球の活性化、好中球の血管内皮細胞への接着増強、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)に対する好中球の遊走活性、血管新生への関与などが知られている(細胞工学別冊・ケモカインハンドブック、第1版、32〜34頁、秀潤社、2000年)。
また、好中球は外から浸入してくる大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌などの細菌類やウイルス、真菌類を貪食する能力を保有する生体防御の中心となる白血球細胞であり、IL−8はその活性化を促進し、好中球の能力を高めることが知られている。
食品を摂取することにより積極的に免疫を増強する作用は、体の抵抗力をつけて感染症の予防あるいは処置につながり、また免疫増強に関与するサイトカイン類等により、アレルギーなどの免疫疾患の治療効果や抗腫瘍効果も可能である。これまでに、腸管での食品成分吸収や透過に関する報告はあるが、食品成分が腸管上皮細胞に与える影響を直接証明した例は、クルクミンのIL−8産生抑制(J.Immunol.,163,3474,1999)、乳酸菌などの微生物菌体を経口摂取することによるIL−8産生促進(特開2003−63991)などがあるが報告例は少ない。
また、バクテリアの腸管上皮細胞への浸入により、IL−8産生が増加することが報告されており(J.Clin.Invest.,95,55〜65,1995)、IL−8は生体防御や免疫、炎症反応に関連が深いことから、腸管上皮細胞でのIL−8産生促進は積極的に免疫賦活および感染症予防や処置に特に有用でり得る。
ペパーミント又はその抽出物、ドクダミ又はその抽出物、カンゾウ又はその抽出物がIL−8産生を促進すること、又はIL−8に起因する免疫賦活、あるいは感染症予防又は処置に有用であることは知られていない。
また、α−フムレン、ピネン、L−メントールがIL−8産生を促進すること、又はIL−8に起因する免疫賦活、あるいは感染症予防又は処置に有用であることは知られていない。
【発明の開示】
安全な食品素材由来であるIL−8産生促進剤であれば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいは医薬品又は医薬部外品などとして、免疫応答の賦活作用、感染症の予防又は処置に有用である。しかし、好中球を活性化し貪食能を高める目的によりIL−8などのケモカイン類を摂取し続けることは難しい。よって、本発明は、安全な食品素材由来であるIL−8産生促進剤、及び、これを含有することを特徴とする免疫賦活剤、または感染症の予防又は処置剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ペパーミント、ドクダミ、カンゾウからなる少なくとも1種の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする組成物がIL−8産生を促進すること、およびα−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する組成物がIL−8産生を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ペパーミント抽出物及び/又はドクダミ抽出物を有効成分として含有するIL−8産生促進剤に関する。
また、本発明は、カンゾウ抽出物を有効成分として含有するIL−8産生促進剤に関する。
また、
式(1)で表されるα−フムレン;

式(2)で表されるα−ピネン:

式(3)で表されるβ−ピネン:

、及び、式(4)で表されるL−メントール:

からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するインターロイキン−8産生促進剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
1側面では、本発明のIL−8産生促進剤は、ペパーミント、ドクダミ、およびカンゾウからなる少なくとも1種の植物抽出物を有効成分とする。本明細書にいうIL−8とは、繊維芽細胞や内皮細胞など種々の細胞から産生される分子量約8千の白血球遊走因子(leukocyte chemotactic factor)をいう。
本発明に使用するペパーミントは、シソ科ハッカ属(Mentha piperita L.;セイヨウハッカやMentha arvensis;ハッカ)の全草であり、また、本発明に使用するドクダミは、ドクダミ科ドクダミ属のHouttuynia cordata Thunb.の地上部(葉、茎、花など)であり、ジュウヤクともいう。カンゾウはマメ科カンゾウ属のGlycyrrhiza uralensis Fish.の根茎部であり、これらはいずれも食品又は食品素材であって、十分な食経験があり、副作用や安全性に問題がない。
本発明に使用するペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物は、上記植物から溶媒抽出などによって得ることができる。また、当該抽出物を得る方法は、溶媒抽出に限定されず、水蒸気蒸留や、超臨界抽出技術を用いた二酸化炭素による抽出などの抽出操作を用いてもよい。さらに、当該抽出物は、飲食品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。
製造方法は、常温・常圧下で抽出溶媒を用いて行えばよく、抽出後は濃縮乾固或いは油脂等により溶液状、ペースト状、ゲル状、粉状としてもよい。抽出温度は特に限定されず、一般に−20℃〜100℃、好ましくは1〜80℃、より好ましくは20〜60℃の条件下で、また抽出時間も特に限定されず、一般に0.1〜1ヶ月、好ましくは0.5時間から7日間、攪拌または放置する。また、二酸化炭素等による超臨界条件での抽出も可能である。必要であれば、さらに活性炭処理やイオン交換樹脂等により、任意の操作で精製することもできる。
溶媒抽出を行う場合には、例えば、上記各植物の原形、粉砕したもの又は粉末を、1〜20倍量の下記溶媒に浸し、撹拌又は放置し、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで、得られた抽出液を濃縮して、溶媒を除去することにより、当該抽出物を得ることができる。
抽出に用いる溶媒は、特に制限はなく、例えば親水性溶媒、疎水性溶媒を使用できる。ここにいう親水性溶媒は、極性の高い溶媒のことであり、水、エタノールやメタノールなどの低級アルコール、あるいはプロピレングリコールなどの多価アルコール、アセトンなどのケトン類などがある。ここにいう疎水性溶媒は、極性の低い非極性溶媒のことであり、酢酸エチルなどのエステル類、ナタネオイルやオリーブ油などの油脂類、ヘキサンなどの炭化水素類がある。上記溶媒は、食品、食品添加物、医薬品などの製造、加工に使用できる安全なものが好ましく、例えば、水、エタノール、アセトン、グリセリン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ヘキサン、食用油脂などが挙げられる。より好ましくは、水、エタノール、アセトン、グリセリン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ヘキサン、および食用油脂からなる群より選択される1種または2種以上の溶媒が使用される。抽出効率の観点からおよび抽出後の溶媒除去が容易な点から、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなど溶媒がより好ましい。更に、好ましくは、エタノール、アセトン、酢酸エチル、およびヘキサンからなる群より選択される1種または2種以上が使用される。残留溶媒の安全性の点からはエタノールがもっとも好ましい。なお、親水性溶媒の場合は含水溶媒として用いても良い。
このようにして得られる抽出物の中でも、ペパーミントの全草から水蒸気蒸留又は溶媒抽出して得られるペパーミント抽出物は、香辛料抽出物の一種であって、苦味料などの用途の既存添加物である。また、ドクダミの葉からエタノールで抽出し精製して得られるドクダミ抽出物は、酸化防止剤用途の既存添加物である。また、カンゾウの根からエタノールで抽出して得られるカンゾウ抽出物は酸化防止剤用途の既存添加物である。本発明においては、これらの食品添加物として認められているペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物を使用することもできる。
1側面では本発明は、ペパーミントの成分化合物である、下記式(1)で表されるα−フムレン、下記式(2)で表されるα−ピネン、下記式(3)で表されるβ−ピネンおよび下記式(4)で表されるL−メントールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するIL−8産生促進剤を提供する。ペパーミントに含まれる成分化合物のCaco−2細胞に対するIL−8分泌量を調べた結果、下記式(1)で表されるα−フムレン、下記式(2)で表されるα−ピネン、下記式(3)で表されるβ−ピネン及び下記式(4)で表されるL−メントールにIL−8産生促進効果があることが判明した。




前記式(1)〜(4)で表されるα−フムレン、α−ピネン、β−ピネンおよびL−メントールを得る方法は特に限定されず、得られた化合物を単一化合物として、または2種以上の混合物として本発明のIL−8産生促進剤に使用することができる。これらの化合物をペパーミントから得る場合、抽出方法としては、上記と同様な方法で実施できる。抽出後、さらにろ過、溶媒による分配、濃縮、蒸留、水蒸気蒸留、クロマトグラフィー等の分離精製などによって得ることもできるが、その際に使用する抽出溶媒、精製用樹脂、器具、装置などは食品または食品添加物の製造に使用可能であるものが好ましい。α−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールを単離する際に用いる植物はほかにフトモモ科チョウジやホップなど、抽出する植物は特に限定されない。
上記化合物の塩もまた、本発明で好適に使用しうる。塩は上記化合物が塩基性部分を有する場合、その溶液を、薬学的に許容される酸、例えば塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、またはリン酸の溶液と混合することによって塩を形成しうる。さらに、上記化合物が酸性部分を有する場合、薬学的に許容されるその塩は、アルカリ金属塩、例えばナトリウムまたはカリウム塩;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムまたはマグネシウム塩;および好適な有機配位子、例えば第四級アンモニウム塩とで形成される塩を含む。
前記IL−8産生促進剤によって、哺乳動物の免疫賦活、または哺乳動物の感染症予防または処置が可能である。本明細書にいう免疫賦活とは、外からの異物(細菌やウイルスなど)やガン細胞など”非自己”を排除する免疫機能をつかさどる、白血球細胞など免疫細胞を活性化することをいう。本明細書にいう感染症とは飛沫などによる経気道感染、水や食物による媒介物感染、昆虫や動物による媒介動物感染、飲食物などによる経口感染免疫力が低下した時の無害な常在菌や弱毒菌による日和見感染などを原因とした疾病や食中毒、をいう。前記感染症の例は、呼吸器感染症、尿路感染症、敗血症などがあり、さらにウイルス性疾患、細菌性疾患、エイズなどを含む。
1側面では、本発明は、有効成分としての前記IL−8産生促進剤に公知の担体や助剤、飲食物材料、薬剤学的に許容される他の製剤素材などを添加した組成物を提供する。本発明のペパーミント、ドクダミ、カンゾウからなる少なくとも1種の植物抽出物は、ヒトを含むほ乳動物のIL−8産生を促進する。また、本発明のIL−8産生促進用の組成物は、IL−8産生を促進することから、IL−8に起因する免疫賦活剤促進用の組成物、または感染症の予防又は処置用の組成物として使用できる。
本発明による組成物は、有効成分として、ペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物及びカンゾウ抽出物並びに、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物および式(4)で表される化合物並びに薬学的に許容されるその塩からなる群より選択される少なくとも1種以上を0.1〜100重量%含有しているのが好ましく、1〜100重量%含有しているのがより好ましい。さらに好ましくは、該組成物は該有効成分を、10〜100重量%、なおさらに好ましくは20〜100重量%、および最も好ましくは30〜100重量%含有する。
本発明に使用するペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物、α−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールのIL−8産生促進作用の評価法については、IL−8が産生される実験系に、上記抽出物を添加あるいは投与することによって評価できる。例えば、in vitroの場合、ヒト大腸癌由来細胞株であるHT−29細胞やCaco−2細胞などは培地中にIL−8を分泌するが、そこに上記抽出物を添加して培養した後の培地中IL−8量を定量する実験系により評価でき、また、これらの細胞をTNF−αで刺激してIL−8産生量を高めた状態で用いる同様の実験系により評価できる(Chowers,Y.,et al.,Gastroenterology,120,449〜459,2001;Lahav,M.,et al.,Clin.Exp.Immunol.,127,226〜233,2002)。具体的には、本実施例のように試験し、有意水準:P<0.01で有意である成分を、IL−8産生促進作用を有するとして評価される。
本発明のIL−8産生促進剤、免疫賦活剤、および感染症の予防または改善剤並びに、それらを有効成分として含有する組成物(以下、本発明予防処置剤および組成物と称する)は、飲食用及び医薬用として利用することができ、その形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいは一般医薬品など容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
本発明予防処置剤および組成物にはペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物以外の成分を含ませてもよい。本発明の抽出物あるいは化合物は、従来から食用に供されているペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物あるいは抽出物に含まれる化合物を活性成分としているため、生体に対する安全性が高い。このため、本発明のIL−8産生促進剤は、医薬品、機能性食品、飲食品、医薬部外品などの広範な製品中に含有させることができる。
本発明予防処置剤および組成物において、その有効成分の配合量に関しては特に規定するものではないが、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。哺乳動物、例えば人体に投与する場合の投与量としては、好ましくは0.001〜1000mg/kg体重/日、より好ましくは0.01〜100mg/kg体重/日を1回ないし数回に分けて投与する。
飲食品として用いる場合は、本発明予防処置剤および組成物を、そのまま直接摂取することができ、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用し易い形態に製剤化して摂取することができる。これらの製剤における有効成分(抽出物)の含有量は、好ましくは0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜90重量%である。さらに、対象となる食品の種類は、抽出物のIL−8生産促進作用が阻害されないものであれば特に限定されない。
たとえば、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。
飲食用として本発明予防処置剤および組成物を、摂取する場合、その摂取量は当該有効成分として成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.01〜100mg/kg体重である。
医薬品として製剤化して用いる場合は、その剤形は特に限定されず、投与目的や投与経路等に応じて、錠剤、カプセル剤、注射剤、点滴剤、散剤、座剤、顆粒剤、軟膏剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、クリーム剤等にすることができる。また、この組成物中には、一般に製剤に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等の添加物を含有させることができる。結合剤の好適な例としてはデンプン、トレハロース、デキストリン、アラビアゴム末などが挙げられる。賦形剤の好適な例としては、白糖、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。滑沢剤の好適な例としてはステアリン酸、タルク、ロウ、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては油脂、プロピレングリコールなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としてはリン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.01〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
医薬部外品として製剤化して用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
1側面では本発明は、必要のある哺乳動物に、有効量のペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物並びに、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物および式(4)の化合物並びにその薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種以上を、投与することを含む、哺乳動物のインターロイキン産生を促進する方法、哺乳動物の免疫を賦活する方法、または哺乳動物の感染症を予防または処置する方法を提供する。投与は、経腸、例えば経口、および非経腸、例えば経皮投与を含む。経口投与が好ましい。哺乳動物はヒトを含む。
【図面の簡単な説明】
図1 抽出物によるCaco−2細胞培養上清中のIL−8濃度
図2 成分によるCaco−2細胞培養上清中のIL−8濃度
図3 抽出物の細胞毒性
図4 α−フムレンの細胞毒性
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
ペパーミント抽出物の調製
ガラス製容器にてペパーミント(Mentha piperita L.)全草粉末(株式会社カネカサンスパイス)20gをエタノール100mlに浸し、室温及び遮光状態で、時折撹拌しながら1週間放置した。濾紙(ADVANTEC No.2)を用いた濾過により粉末を除去し、得た抽出液を減圧濃縮して溶媒を除去し、ペパーミント抽出物1.30gを得た。
【実施例2】
ドクダミ抽出物の調製
ガラス製容器にてドクダミ(Houttuynia cordata Thunb.)地上部粉末(株式会社カネカサンスパイス)20gをエタノール100mlに浸し、室温及び遮光状態で、時折撹拌しながら1週間放置した。濾紙(ADVANTEC No.2)を用いた濾過により粉末を除去し、得た抽出液を減圧濃縮して溶媒を除去し、ドクダミ抽出物1.11gを得た。
【実施例3】
カンゾウ抽出物の調製
ガラス製容器にてカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fish.)根茎部粉末(株式会社カネカサンスパイス)20gをエタノール100mlに浸し、室温及び遮光状態で、時折撹拌しながら1週間放置した。濾紙(ADVANTEC No.2)を用いた濾過により粉末を除去し、得た抽出液を減圧濃縮して溶媒を除去し、カンゾウ抽出物1.88gを得た。
【実施例4】
IL−8産生促進作用(1)
小腸上皮細胞のモデルとしてCaco−2細胞(ヒト結腸癌由来株化細胞:American Type Culture Collection,Rockville,MD,U.S.A.)を用い、そのIL−8産生に対するペパーミント、ドクダミ、カンゾウ抽出物の影響を評価した。
Caco−2細胞を24穴プレートに継代し、37℃、5%CO条件下で14日間培養して小腸上皮様に分化させた。培地は10%牛胎児血清、1%非必須アミノ酸溶液、2%グルタミン、100U/mlペリニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM培地(SIGMA社)を用いた。実施例1で得たペパーミント抽出物、実施例2で得たドクダミ抽出物、実施例3で得たカンゾウ抽出物を終濃度100μg/mlとなるように培地中に添加し培養した。6時間培養した後、無添加培地に交換して12時間培養し、その培養上清をサンドイッチELISA法(Eckmann,L.,et al.,Gastroenterology,105,1689〜1697,1993)に供して、培養上清中IL−8量を定量した。コントロールに対するIL−8の相対濃度を図1に示す。
図1から明らかなように、ペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物は、Caco−2細胞のIL−8産生を有意差:P<0.01を持って顕著に促進した。
【実施例5】
IL−8産生促進作用(2)
小腸上皮細胞のモデルとしてCaco−2細胞(ヒト結腸癌由来株化細胞:American Type Culture Collection,Rockville,MD,U.S.A.)を用い、そのIL−8産生に対するα−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールの影響を評価した。
Caco−2細胞を24穴プレートに継代し、37℃、5%CO条件下で14日間培養して小腸上皮様に分化させた。培地は10%牛胎児血清、1%非必須アミノ酸溶液、2%グルタミン、100U/mlペリニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM培地(SIGMA社)を用いた。α−フムレン(SIGMA社)、α−ピネン(SIGMA社)、β−ピネン(SIGMA社)、L−メントール(SIGMA社)を終濃度100μg/mlとなるように培地中に添加し培養した。6時間培養した後、無添加培地に交換して12時間培養し、その培養上清をサンドイッチELISA法に供して、培養上清中IL−8量を定量した。コントロールに対するIL−8の相対濃度を図2に示す。
図2から明らかなように、α−フムレン、α−ピネン、β−ピネン、L−メントールは、Caco−2細胞のIL−8産生を顕著に促進した。有意差:P<0.01。
【実施例6】
LDH(乳酸脱水素酵素)アッセイによる細胞毒性の評価(1)
Caco−2細胞に対するペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物の細胞毒性を、評価した。実施例4と同様に、小腸上皮様に分化させたCaco−2細胞を、ペパーミント、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物を終濃度100μg/ml含んだ培地で24時間培養した。その後、培地を除去し、PBS(リン酸緩衝食塩水)(−)(ニッスイ)で細胞を2回洗浄し、さらにPBS(−)を700μl添加し、37℃で2時間静置した。その後、PBS(−)を回収し、細胞を0.1% Triton X−100(ナカライテスク)500μlに溶解した。LDH−細胞毒性テストワコー(和光純薬)を用いて、回収したPBS(−)及び細胞溶解液中のLDH濃度を測定した。該アッセイ法原理については、Decker,T.and Lohmann−Matthes,M.L.:J.Immunol.Methods,115,61−69(1988)に詳細に記載されている。簡単には、死細胞から遊離したLDH活性を、発色試薬のテトラゾリウム塩から変換されるホルマザンを比色定量することにより細胞毒性を定量化する方法である。回収したPBS(−)中のLDH濃度を遊離LDH量とし、細胞溶解液中のLDH濃度を細胞内LDH量として、下式により遊離LDH率(%)を算出した。
遊離LDH率(%)=(遊離LDH量)/(遊離LDH量+細胞内LDH量)×100
図3から明らかなように、ペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物は、コントロールと差がなく、細胞毒性はないことが示された。さらに、ペパーミント、ドクダミ、カンゾウの各抽出物によるIL−8産生促進作用は、細胞毒性によるものではないことが示された。
【実施例7】
LDH(乳酸脱水素酵素)アッセイによる細胞毒性の評価(2)
Caco−2細胞に対するα−フムレンの細胞毒性を評価した。実施例4と同様に、小腸上皮様に分化させたCaco−2細胞を、α−フムレンを100μg/ml含んだ培地で24時間培養した。その後、培地を除去し、PBS(−)(ニッスイ)で細胞を2回洗浄し、さらにPBS(−)を700μl添加し、37℃で2時間静置した。その後、PBS(−)を回収し、細胞を0.1% Triton X−100(ナカライテスク)500μlに溶解した。LDH−細胞毒性テストワコー(和光純薬)を用いて、回収したPBS(−)及び細胞溶解液中のLDH濃度を測定した。回収したPBS(−)中のLDH濃度を遊離LDH量とし、細胞溶解液中のLDH濃度を細胞内LDH量として、下式により遊離LDH率(%)を算出した。
遊離LDH率(%)=(遊離LDH量)/(遊離LDH量+細胞内LDH量)×100
図4から明らかなように、α−フムレンは、コントロールと差がなく、細胞毒性はないことが示された。さらに、α−フムレンによるIL−8産生促進作用は、細胞毒性によるものではないことが示された。
【実施例8】
カプセル剤の調製
実施例1の方法により得られたペパーミント抽出物を40重量部、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを30重量部、結晶セルロースを20重量部、ビタミンCを10重量部の組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセルに充填して、ペパーミント抽出物を含有する飲食用カプセル剤を調製した。
【実施例9】
カプセル剤の調製
ペパーミント抽出物の代わりに実施例2記載のドクダミ抽出物を用いる以外は、実施例8と同様にして、ドクダミ抽出物を含有する飲食用カプセル剤を調製した。
【実施例10】
カプセル剤の調製
ペパーミント抽出物の代わりに実施例3記載のカンゾウ抽出物を用いる以外は、実施例8と同様にして、カンゾウ抽出物を含有する飲食用カプセル剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、安全な食品素材由来であるIL−8産生促進剤、及び、これを含有する免疫賦活剤、または感染症の予防又は処置剤を得ることができる。これらは、免疫応答の賦活、感染症の予防又は処置に有用であり、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいは医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペパーミント抽出物及びドクダミ抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を有効成分として含有するインターロイキン−8産生促進剤。
【請求項2】
カンゾウ抽出物を有効成分として含有するインターロイキン−8産生促進剤。
【請求項3】
式(1)で表されるα−フムレン;

式(2)で表されるα−ピネン:

式(3)で表されるβ−ピネン:

、及び、式(4)で表されるL−メントール:

からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するインターロイキン−8産生促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれかに記載のインターロイキン−8産生促進剤を有効成分として含有する、インターロイキン産生促進用の組成物。
【請求項5】
請求項1〜3記載のいずれかに記載のインターロイキン−8産生促進剤を有効成分として含有する免疫賦活用の組成物。
【請求項6】
請求項1〜3記載のいずれかに記載のインターロイキン−8産生促進剤を有効成分として含有する感染症予防又は処置用の組成物。
【請求項7】
飲食用である、請求項4〜6いずれか記載の組成物。
【請求項8】
必要のある哺乳動物に、有効量のペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物および式(4)の化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を、投与することを含む、哺乳動物のインターロイキン産生を促進する方法。
【請求項9】
必要のある哺乳動物に、有効量のペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物および式(4)の化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を、投与することを含む、哺乳動物の免疫を賦活する方法。
【請求項10】
必要のある哺乳動物に、有効量のペパーミント抽出物、ドクダミ抽出物、カンゾウ抽出物、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物および式(4)の化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を、投与することを含む、哺乳動物の感染症を予防または処置する方法。

【国際公開番号】WO2005/051405
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515779(P2005−515779)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017443
【国際出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】