説明

IPM型ベアリングレスモータ

【課題】IPM型ベアリングレスモータにおける軸支持力の脈動を抑制する。
【解決手段】2極の電動機巻線と4極の軸支持巻線とが倦回された一つの固定子5と、鉄心1に永久磁石3が埋め込まれた回転子7と、を備えたIPM型ベアリングレスモータにおいて、前記回転子7の鉄心1に、軸支持力Fβが最大となる回転角度時に軸支持磁束が界磁磁束に干渉することにより磁束が強弱する場所に対応する永久磁石3の周囲に空隙4を形成する。これにより、軸支持磁束が最大となる回転角度における軸支持力Fβが小さくなり、軸支持力が最小となる回転角度における軸支持力Fβとほぼ同一の大きさとなるため、軸支持力Fβの脈動が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPM型ベアリングレスモータに係り、特に、IPM型ベアリングレスモータにおける軸支持力の脈動の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機巻線と軸支持巻線を一つの固定子に巻くことで電動機と磁気軸受の機能を一体化したベアリングレスモータが研究開発されている。これまでに、小容量の高速モータ用として、2極電動機・4極軸支持構造のSPM型ベアリングレスモータ(表面磁石型同期電動機)が、非特許文献1において報告されている。
【0003】
2極電動機・4極軸支持構造のSPM型ベアリングレスモータの場合、永久磁石によって発生する界磁磁束によるギャップ磁束密度分布が正弦波分布でないと、回転子が回転した場合、軸支持力に脈動が発生し、高速回転時において安定した軸支持運転が困難となる。そのため、非特許文献1では、パラレル着磁したリング磁石を採用し、軸支持力の脈動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−120886号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Schneider,A.Binder”Design and Evaluation of a 60000rpm Permanent Magnet Bearingless High Speed Motor“,in proc.of 7th Int.Conf.on Power Electronics and Drive Systems(PEDS2007),8pages(CD−ROM),Nov.2007.
【非特許文献2】M.Takemoto,M. Uyama,A. Chiba,H.Akagi,and T.Fukao,“A Deeply−Buried Permanent Magnet Bearingless Motor with 2−pole Motor Windings and 4−pole Suspension Windings,”in Conf.Rec.of the 2003 IEEE−IAS Annual Meeting,pp.1413−1420,Oct.2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなSPM型ベアリングレスモータでは、以下の理由により大容量の高速モータに適用することができなかった。
【0007】
(1)大径のパラレル着磁されたリング磁石の製作が難しい。
【0008】
(2)SPM型ベアリングレスモータは大きな軸支持力を発生させることが難しい。
【0009】
また、SPM型ベアリングレスモータは回転子の鉄心の外周に永久磁石を配置した構造であるため、大きな軸支持力を得ることが困難である。すなわち、鉄心の透磁率は約μ=1000と高く、永久磁石の透磁率は約μ=1.05と低いため、軸支持磁束は真空とほぼ同じ透磁率の永久磁石を貫通しなければならない。このため、軸支持巻線の起磁力に対して有効に軸支持磁束を発生させることができず、大きな軸支持力を得ることができなかった。
【0010】
一方、IPM型ベアリングレスモータ(埋込磁石型同期電動機)は、透磁率の高い鉄心が永久磁石の外周側にあるため、わずかな電流で大きな軸支持力が得られる。
【0011】
IPM型ベアリングレスモータについては、永久磁石を回転子内の深い位置(軸側)に埋め込むことにより、軸支持磁束が永久磁石を通過しないようにし、大きな軸支持力を発生させる構成が特許文献1に開示されている。しかしながら、IPM型ベアリングレスモータは、軸支持力の脈動が発生する。
【0012】
非特許文献2には、駆動周波数に同期した周波数成分に加えて、駆動周波数の3倍の周波数成分を重畳した軸支持電流を通電すれば、この軸支持力の脈動を抑制できることが開示されている。
【0013】
しかし、高速モータ(例えば、回転速度30000r/min)において、駆動周波数の3倍の周波数は、高周波(例えば、1.5kHz)になるため、軸支持電流の電流制御は困難となり、安定な軸支持運転を行うことができなかった。
【0014】
また、特許文献1の構成では、永久磁石が回転子の深い位置(軸側)に埋め込まれているため、永久磁石よりも外周側に位置する鉄心の遠心力による応力が、永久磁石間の細い鉄心部に集中し、高速回転に耐えることができなかった。
【0015】
以上示したようなことから、軸支持力の脈動を抑制したIPM型ベアリングレスモータの構造を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、2極の電動機巻線と4極の軸支持巻線とが倦回された一つの固定子と、鉄心に永久磁石が埋め込まれた回転子と、を備えたIPM型ベアリングレスモータであって、前記回転子の鉄心に、軸支持力が最大となる回転角度時に、軸支持磁束が界磁磁束に干渉することにより磁束が強弱する場所に対応する永久磁石の周囲に空隙を形成したことを特徴とする。
【0017】
また、他の態様として、前記永久磁石は複数に分割されて回転子の鉄心に埋め込まれたことを特徴とする。
【0018】
また、他の態様として、前記永久磁石は界磁磁束が永久磁石間を短絡しない程度に、鉄心内の外周側に埋め込まれたことを特徴とする。
【0019】
また、他の態様として、前記空隙は永久磁石の内周側に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、IPM型ベアリングレスモータにおいて、軸支持力の脈動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態におけるIPM型ベアリングレスモータの断面図である。
【図2】実施形態における永久磁石と空隙の拡大図である。
【図3】回転角度θ=0°時における軸支持力の発生原理を示す図である。
【図4】回転角度θ=90°時における軸支持力の発生原理を示す図である。
【図5】従来の高速用IPM型ベアリングレスモータにおける回転角度と軸支持力の関係を示すグラフである。
【図6】本実施形態におけるIPMベアリングレスモータの回転角度と軸支持力の関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態におけるIPMベアリングレスモータの空隙長と軸支持力脈動比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態は、高速ベアリングレスモータが大容量化に対応できるように、周方向に分割した永久磁石を回転子に埋め込んだ2極電動機・4極軸支持構造のIPM型ベアリングレスモータにおいて、回転子の適切な位置に空隙を形成することにより、軸支持力の脈動を抑制するものである。
【0023】
以下、図1〜図7に基づいて、本願発明の実施形態を説明する。
【0024】
[実施形態]
図1は、本実施形態におけるIPM型ベアリングレスモータの構造を示す簡略断面図である。図1に示すIPM型ベアリングレスモータは、高速運転(例えば、30000r/min)を想定して設計されたものであり、2極電動機・4極軸支持構造で構成されている。
【0025】
図1に示すように、本実施形態におけるIPM型ベアリングレスモータの回転子7は、積層ケイ素鋼板から成る鉄心1の中心に回転軸2が貫通しており、鉄心1には永久磁石3が埋め込まれている。なお、前記永久磁石3は、鉄心1の内周側(すなわち、回転軸2側)に埋め込むと、界磁磁束が永久磁石3間を短絡して閉磁路を形成し、トルクが得られない。そのため、本実施形態では、界磁磁束が永久磁石間を短絡しないように、永久磁石3を鉄心1の外周側表面近傍に埋め込むものとする。
【0026】
また、図1において、左側の永久磁石3は、外周側がS極,右側の永久磁石3は外周側がN極となるように配置されている。
【0027】
また、大容量化した際に鉄心1にかかる応力を低減するため、永久磁石3を周方向に12個に分割し、6個の永久磁石3で1極を構成する回転子構造とする。
【0028】
また、後述する永久磁石3a〜3dの周囲には、図2に示すような空隙長dを有する空隙(空気ギャップ)4が形成されている。
【0029】
一方、固定子5はリング状に形成され、その内周側にスロット6が形成されており、該スロット6には電動機巻線(図示省略),軸支持巻線(図示省略)が倦回されている。本実施形態では、電動機の駆動周波数を抑制するため、2極電動機とする。また、軸支持巻線は4極とする。
【0030】
次に、2極電動機・4極軸支持構造のIPM型ベアリングレスモータの軸支持力の発生原理について説明する。図3,図4は、回転角度θ=0°,90°時におけるβ軸正方向の軸支持力Fβの発生原理を示す断面図である。なお、図3,図4において、α,β軸は固定子座標上に固定された直交座標であり、軸支持巻線Ns4d,Ns4qは、三相軸支持巻線に3相/2相変換とdq変換を施した回転子座標上の等価巻線を示す。なお、図3,図4では永久磁石3は12個に分割せずに、簡略して示す。
【0031】
まず、回転子7の回転角度θ=0°時における軸支持力Fβの発生原理について説明する。回転子7の鉄心1に埋め込んだ永久磁石3により界磁磁束ψmが発生している。そこに、軸支持巻線Ns4qに軸支持電流is4qを流すと軸支持磁束ψs4qが発生する。この2つの界磁磁束ψmと軸支持磁束ψs4qが干渉することにより、図3に示すようにギャップ磁束密度分布に強弱が生じ、β軸正方向に軸支持力Fβが発生する。
【0032】
次に、回転角度θ=90°時における軸支持力Fβの発生原理について説明する。回転角度θ=0°の時と異なり、軸支持巻線Ns4dに軸支持電流is4dを流すことで軸支持磁束ψs4dを発生させる。この2つの界磁磁束ψmと軸支持磁束ψs4dが干渉することにより、図4に示すように、ギャップ磁束密度分布に強弱が生じ、β軸正方向の軸支持力Fβが発生する。
【0033】
従って、4極軸支持巻線Ns4q,Ns4dには、駆動周波数に同期した周波数成分の電流を流すことでβ軸正方向に一定の軸支持力Fβを発生させることができる。
【0034】
次に、従来の高速用IPM型ベアリングレスモータ(すなわち、図1に示すIPM型ベアリングレスモータに空隙4を形成していないもの)における軸支持力Fβについて説明する。
【0035】
従来のIPM型ベアリングレスモータに対して、β軸正方向に一定の軸支持力Fβが発生するように、駆動周波数に同期した周波数成分の軸支持電流を入力して2D−FEM解析を行った。この時、軸支持電流is4qは、定格電流値10.1Arms一定とした。一方、電動機電流はゼロとし、無負荷状態とした。
【0036】
図5に、回転角度θに対する軸支持力Fβの解析結果を示す。定格電流値における平均の軸支持力Fβは194Nであり、想定される回転子7の重量4.5kgに対して十分な軸支持力である。しかし、回転角度θに対して、軸支持力Fβにはpeak−to−peakで26.3Nの脈動が発生している。これは、平均軸支持力の13.6%と大きい。
【0037】
図5に示す解析結果より、回転子7の回転角度θ=0°時に軸支持力Fβは最大となり、回転子7の回転角度θ=90°時に軸支持力Fβは最小となる。このような軸支持力Fβの脈動は、図3,図4で示した軸支持力Fβの発生原理からもわかるように、同じ方向の軸支持力Fβが発生する場合でも、回転角度θに応じて、軸支持磁束ψs4q,ψs4dが界磁磁束ψmに干渉することにより磁束が強弱する場所が異なることに起因して生じる。
【0038】
そこで、IPM型ベアリングレスモータは、十分に大きな平均軸支持力Fβを発生できることから、本実施形態においては、回転子7の回転角度θ=90°時の軸支持力Fβを維持して軸支持力Fβの脈動を抑制する。すなわち、軸支持力Fβが最大となる回転角度θ=0°時の軸支持力Fβを僅かに小さくして、軸支持力Fβが最小となる回転角度θ=90°時の軸支持力Fβに合わせることにより、軸支持力Fβの脈動を抑制する。
【0039】
具体的には、図1,図3に示すように、軸支持力Fβが最大となる回転角度θ=0°時において、軸支持磁束ψs4qが界磁磁束ψmに干渉することによって磁束が強弱する場所に配置された永久磁石3a〜3dの周囲に、図2に示すような空隙(空気ギャップ)4を設ける。これにより、回転角度θ=0°時の軸支持力Fβを僅かに小さくし、回転子7の回転角度θ=90°の時の軸支持力Fβと合わせる。
【0040】
図6は,前記空隙長dを変化させた際の軸支持力Fβの推移を示すグラフである。この図6から、図1に示す永久磁石3a〜3dの周囲に形成した空隙4の空隙長dを大きくするほど、回転角度θ=0°(および180°)時における軸支持力Fβが減少することが分かる。
【0041】
図7は,空隙長dと軸支持力Fβの脈動比の関係を示す。空隙長d=1.3mmの時に軸支持力脈動比は3.63%で最小となり,軸支持力脈動比を73.3%低減できる。この時の平均軸支持力は184Nであり,十分な軸支持力Fβが発生できている。
【0042】
また、回転子7を回転した際、永久磁石3の重量による応力は、遠心力により永久磁石3の外周側に生じる。そのため、前記空隙4を永久磁石3の外周側に形成した場合、永久磁石3の重量による応力が永久磁石3の外周側に均一にかからず、空隙4が形成されていない箇所に偏ってかかってしまい、強度的に問題となる。さらに、高速モータの場合は、この問題が顕著となる。
【0043】
そこで、本実施形態では、空隙4を永久磁石3の内周側に形成する。これにより、永久磁石3の重量による応力が永久磁石3の外周側に均一にかかるため、前記の問題は解消される。
【0044】
以上示したように、本実施形態におけるIPM型ベアリングレスモータによれば、軸支持力Fβが最大となる回転角度θ=0°時において、軸支持磁束ψs4qが界磁磁束ψmに干渉することによって磁束が強弱する場所に配置された永久磁石3a〜3dの周囲に空隙4を形成することにより、軸支持力Fβが最大となる回転角度θ=0°時における軸支持力Fβが小さくなり、軸支持力Fβが最小となる回転角度θ=90°時における軸支持力Fβとほぼ同一の大きさとなるため、軸支持力Fβの脈動が抑制される。
【0045】
また、IPM型のベアリングレスモータは、透磁率の高い回転子の鉄心が永久磁石の外周側にあるため、SPM型のベアリングレスモータと比較して、大きな軸支持力Fβを発生させることが容易であり、十分な軸支持力Fβを確保することができる。
【0046】
さらに、SPM型のベアリングレスモータは、大容量化させる場合、大径のパラレル着磁されたリング磁石の製作が困難であったが、IPM型のベアリングレスモータはパラレル着磁されたリング磁石が不要であるため、製作が容易である。
【0047】
また、モータを大容量化すると、遠心力による応力が増加し、永久磁石3間の細い鉄心部(以下、ブリッジと称する)に遠心力による応力が集中し、高速回転に耐えることができなかった。しかし、本実施形態では、永久磁石3を複数に分割して鉄心1に埋め込むことにより前記ブリッジの数が増加し、遠心力による応力を複数のブリッジに分散させることができるため、遠心力による応力に耐えることが可能となり、高速回転用のモータにも適した構造となる。
【0048】
また、空隙4を永久磁石3の内周側に形成することにより、永久磁石3の重量による応力が永久磁石3の外周側に均一にかかるため、高速用のモータに適用しても強度上問題ない。
【0049】
また、本実施形態では、永久磁石3は鉄心1の外周側表面近傍に埋め込まれているため、永久磁石3よりも外周に位置する鉄心1の重量が少なく、遠心力によって前記ブリッジにかかる応力も少ないため、強度上無理が無く、高速モータに適用することも可能である。
【0050】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0051】
1…鉄心
2…回転軸
3…永久磁石
4…空隙
5…固定子
6…スロット
7…回転子
β…軸支持力
ψm…界磁磁束
ψs4q,ψs4d…軸支持磁束
s4q,Ns4d…軸支持巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2極の電動機巻線と4極の軸支持巻線とが倦回された一つの固定子と、
鉄心に永久磁石が埋め込まれた回転子と、を備えたIPM型ベアリングレスモータであって、
前記回転子の鉄心に、
軸支持力が最大となる回転角度時に、軸支持磁束が界磁磁束に干渉することにより磁束が強弱する場所に対応する永久磁石の周囲に空隙を形成したことを特徴とするIPM型ベアリングレスモータ。
【請求項2】
前記永久磁石は複数に分割されて回転子の鉄心に埋め込まれたことを特徴とする請求項1記載のIPM型ベアリングレスモータ。
【請求項3】
前記永久磁石は界磁磁束が永久磁石間を短絡しない程度に、鉄心内の外周側に埋め込まれたことを特徴とする請求項1または2記載のIPM型ベアリングレスモータ。
【請求項4】
前記空隙は永久磁石の内周側に形成したことを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載のIPM型ベアリングレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−90556(P2013−90556A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232261(P2011−232261)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】