説明

IPV−DPTワクチン

【課題】本発明は、高力価のセービン株ポリオウイルスを製造する工程を含む、不活化セービン株ポリオウイルス、百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイドおよび破傷風トキソイドを含有する混合ワクチンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のセービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養する工程を含む混合ワクチンの製造方法は、不活化セービン株ポリオウイルスを含有する混合ワクチンの効率的な製造方法として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ワクチン、特に不活化セービン株ポリオウイルス(sIPV)を含有する混合ワクチン、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオは、ポリオウイルスによる感染症である。ポリオウイルスは、ヒトには経口的に感染し、腸管で増殖し、血液を介して中枢神経系に進入する。中枢神経系に進入したポリオウイルスが大型運動神経細胞で増殖することによって、運動神経細胞が変性・壊死を起こし、四肢に急性弛緩性麻痺を起こす。また、ポリオウイルスが延髄の呼吸中枢を侵した場合、呼吸麻痺から死に至る場合がある。このような重篤な症状を引き起こすポリオの発症を抑制するために、ポリオワクチンが広く使用されている。
ポリオワクチンとしては、経口生ポリオワクチンと不活化ポリオワクチンの2種類が用いられている。経口生ポリオワクチンは、ポリオウイルスの弱毒株(セービン株)を用いたワクチンである。経口投与された弱毒株ポリオウイルスは、通常の感染を起こす。経口生ポリオワクチン由来のポリオウイルスは、ヒトの腸管でよく増殖し、その結果腸管局所での免疫を形成する。さらに、経口生ポリオワクチン由来のポリオウイルスが血液中に進入してウイルス血症を起こすことによって、血中抗体の産生も促す。しかし、弱毒株ポリオウイルスの中枢神経系での増殖能は非常に弱いため、通常は麻痺を起こすことはない。また、被接種者の体内では、接種後約4〜6週間、経口生ポリオワクチン由来のポリオウイルスが増殖し、便より排出される。この排出ウイルスが、被接種者の周囲のポリオに対する免疫が弱いか又は免疫がないヒトに感染し、被接種者の場合と同様に免疫賦与または増強効果を示す。
ところが、経口生ポリオワクチン由来の弱毒株ポリオウイルスが、被接種者の体内で増殖を繰り返す間、または前記の排出ウイルスに感染したヒトの体内で増殖を繰り返す間に、強毒性方向への変異を起こすことがある。その変異株によって、極稀にワクチン関連麻痺を起こすことがある。
不活化ポリオワクチンは、ポリオウイルスをホルマリンにより不活化し、感染力を失わせたワクチンである。不活化ポリオワクチンは、被接種者の体内での増殖も、被接種者の周囲のヒトへの感染もしないので、ワクチン関連麻痺を起こすことはない。不活化ポリオワクチンの製造には、従来より強毒株が用いられているが、近年では弱毒株(セービン株)の開発もすすめられてきた(Biologicals 34 (2006) 151-154、Dev Bil. Basel. Karger, 2001, vol. 105, pp 163-169、臨床とウイルス Vol. 30 No. 5(2002.12) 336-343)。弱毒株(セービン株)の増殖性は強毒株の増殖性よりもやや悪いことが、デメリットと考えられていた。
百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドを含有するワクチンは、百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンとして広く用いられている。
無細胞性百日咳ワクチン、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドおよび不活性化ポリオウイルスからなる多価ワクチンが知られている(特表2000-504032号公報)。
Vero細胞は、ミドリザルの腎臓由来の継代細胞であり、各種ウイルスに対して幅広い感受性を有することから、ウイルス培養に広く使用されている。Vero細胞をマイクロキャリアー上で培養し、培養したVero細胞を用いてエンテロウイルス71を増殖させることを含むエンテロウイルス71ワクチンの製造方法が報告されている(Optimization of microcarrier cell culture process for the inactivated enterovirus type 71 vaccine development: Suh-Chin Wu, etc., Vaccine, 22, 3858-3864, 2004)。マイクロキャリアーを用いた一般的な細胞培養条件も報告されている(Microcarrier cell culture principles & methods: Pharmacia LKB, Biotechnology, 1988)。
【発明の開示】
【0003】
上記状況において、高力価のセービン株ポリオウイルスを製造する工程を含む、不活化セービン株ポリオウイルス(sIPV)、並びに百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイド(DPT)を含有する混合ワクチンの製造方法が望まれていた。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養することによって、高力価のセービン株ポリオウイルスを製造することができることを見出した。これらの知見に基づいて検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)(A)不活化セービン株ポリオウイルス、
(B)百日せき菌の防御抗原、
(C)ジフテリアトキソイド、および
(D)破傷風トキソイド、
を含有する混合ワクチンの製造方法であって、
(a)セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養する工程、
を含むことを特徴とする方法;
(2) さらに、
(b)前記Vero細胞にセービン株ポリオウイルスを感染させる工程、
(c)該ポリオウイルスを増殖させる工程、
(d)該ポリオウイルスを含有するウイルス液を回収する工程、および
(e)該ポリオウイルスを不活化させる工程、
を含む、上記(1)記載の方法;
(3) 前記マイクロキャリアーの濃度が、約5g/Lである、上記(1)記載の方法;
(4) 前記マイクロキャリアーが、デキストラン製マイクロキャリアーである、上記(1)記載の方法;
(5) Vero細胞を増殖させる工程(工程(a))が、約3L以上のスケールで行われることを特徴とする、上記(1)記載の方法;
(6) Vero細胞を増殖させる工程(工程(a))が、約30L以上のスケールで行われることを特徴とする、上記(1)記載の方法;
(7) さらに、
(d−2)前記ウイルス液を精製する工程、
を含む、上記(2)記載の方法;
(8) 前記精製工程(工程(d−2))が、
(i)前記工程(d)で回収したウイルス液の超遠心によるペレット化、
(ii)該ペレットの再浮遊液に対する超音波処理、
(iii)カラムクロマトグラフィーによる精製、
を含むことを特徴とする、上記(7)記載の方法;
(9) 前記(iii)カラムクロマトグラフィーによる精製が、1回だけ行われることを特徴とする、上記(8)記載の方法;
(10) 上記(1)記載の方法で製造されるワクチン
(11) Vero細胞を培養する工程(工程(a))が、約3L以上のスケールで行われることを特徴とする、上記(1)記載の方法;
(12) Vero細胞を培養する工程(工程(a))が、約30L以上のスケールで行われることを特徴とする、上記(1)記載の方法;

などを提供する。

セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養することによって、高力価のセービン株ポリオウイルスを得ることができる。高力価のセービン株ポリオウイルスを用いることによって、不活化セービン株ポリオウイルスを効率的に製造することができる。よって、セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養する工程を含む混合ワクチンの製造方法(本発明の製造方法)は、不活化セービン株ポリオウイルスを含有する混合ワクチンの効率的な製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】マイクロキャリアー法によるVero細胞の培養における、Vero細胞の増殖曲線を示すグラフである。3Lは、出発細胞数約2x105cells/mL(低濃度)でマイクロキャリアー3g/Lを示す。3Hは、出発細胞数約10x105cells/mL(高濃度)でマイクロキャリアー3g/Lを示す。5Lは、出発細胞数約2x105cells/mL(低濃度)でマイクロキャリアー5g/Lを示す。5Hは、出発細胞数約10x105cells/mL(高濃度)でマイクロキャリアー5g/Lを示す。
【図2】種々の条件で培養したVero細胞で得られたI型ポリオウイルスの感染価(ウイルス力価)を示すグラフである。3Lは、出発細胞数約2x105cells/mL(低濃度)でマイクロキャリアー3g/Lで培養したVero細胞で得られたI型ポリオウイルスを示す。5Lは、出発細胞数約2x105cells/mL(低濃度)でマイクロキャリアー5g/Lで培養したVero細胞で得られたI型ポリオウイルスを示す。5Hは、出発細胞数約10x105cells/mL(高濃度)でマイクロキャリアー5g/Lで培養したVero細胞で得られたI型ポリオウイルスを示す。Ref.は、ミドリザル腎臓細胞を用いて増殖したI型ポリオウイルスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、高力価のセービン株ポリオウイルスを製造しうる工程を含む、不活化セービン株ポリオウイルス(sIPV)、並びに百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイド(DPT)を含有する混合ワクチンの製造方法を提供する。
以下、本発明について詳細に説明する。

1.不活化セービン株ポリオウイルス
(1)セービン株ポリオウイルス
本明細書において、セービン株ポリオウイルスとは、アルバート B.セービン博士(Dr. Albert B. Sabin)によって単離されたポリオウイルスの弱毒株に由来するポリオウイルス株を意味する(Sabin AB, Boulger LR. History of Sabin attenuated poliovirus oral live vaccine strains. J. Biol. Standard 1973, 1, 115-118など参照)。
セービン株ポリオウイルスには、セービンI型株ポリオウイルス、セービンII型株ポリオウイルスおよびセービンIII型株ポリオウイルスが含まれる。セービンI型株ポリオウイルスとしては、例えば、LSc,2ab株などが挙げられる。セービンII型株ポリオウイルスとしては、例えば、P712,Ch,2ab株などが挙げられる。セービンIII型株ポリオウイルスとしては、例えば、Leon,12ab株などが挙げられる。
(2)不活化
本明細書において、ウイルスの「不活化」とは、ウイルスの感染能力を失わせることを意味する。不活化方法としては、物理的方法(例えば、X線照射、熱、超音波などを用いた方法)、化学的方法(例えば、ホルマリン、水銀、アルコール、塩素などを用いた方法)などが挙げられるが、これらに限定されない。
ポリオウイルスの不活化は、公知の方法により行うことができる(例えば、Biologicals 34 (2006) 151-154など参照)。具体的には、例えば、ポリオウイルスをホルマリンで処理することによって不活化することができる。
(3)不活化セービン株ポリオウイルスの免疫原性
不活化されたセービン株ポリオウイルスには、通常、D抗原およびC抗原と呼ばれる2つのウイルス抗原が混在している。D抗原は完全ウイルス粒子である。D抗原に対する抗体は生きたウイルスの感染性を中和する能力があり、防御抗体として機能する。C抗原は欠損粒子と呼ばれ、完全ウイルス粒子から中心の核酸RNAとウイルスたん白の一部がかけた粒子であり、中空状粒子である。C抗原に対する抗体には生きたウイルスの感染性を中和する能力はないかあっても非常に低い。したがって、不活化セービン株ポリオウイルスをワクチンとして使用する場合には、D抗原が必要である。
ポリオウイルスには、I型、II型、III型の3つの型がある。ポリオウイルスの感染に対する免疫は、I型、II型、III型の3つのウイルス型に特異的で、型間で交差免疫があったとしてもわずかである。I型、II型およびIII型の不活化セービン株ポリオウイルスのD抗原は、それぞれI型、II型およびIII型の野生株(強毒株)ポリオウイルスに対する中和抗体を産生させうる免疫原性を有している。不活化セービン株ポリオウイルスのD抗原は、I型、II型およびIII型それぞれに免疫原性に差があり、I型、II型およびIII型の野生株(強毒株)ポリオウイルスを中和するのに十分な抗体を産生させるために必要なD抗原量はウイルス型によって異なる。
上述のように、ポリオウイルスにはI型、II型、III型の3つの型があり、どの型でも同じポリオを引き起こす。したがって、不活化セービン株ポリオウイルスをワクチン(不活化ポリオワクチン)として使用する場合には、I型、II型およびIII型それぞれの野生株(強毒株)のポリオウイルスを中和するのに十分な抗体を産生させうる免疫原性を有することが必要であり、また従来から用いられている強毒株由来の不活化ポリオワクチンの免疫原性に近い免疫原性であることが好ましい。このような免疫原性を示すためには、ワクチンは、I型、II型およびIII型の不活化セービン株ポリオウイルスを、D抗原量で、2〜4:80〜120:80〜120の割合で含有するのが好ましく、特に、約3:約100:約100の割合で含有するのが好ましい。本発明で用いられる不活化セービン株ポリオウイルスは、I型、II型およびIII型が上記のような特定の比率を有することによって、強毒株由来の不活化ポリオワクチン(例、ソークワクチン)と同様の免疫原性を示す。
【0006】
2.不活化セービン株ポリオウイルスの製造
本発明で用いられる不活化セービン株ポリオウイルスは、下記の方法によって製造することができる。
まず、Vero細胞を約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養し、ポリオウイルス培養用細胞を得る。得られたポリオウイルス培養用細胞に種ウイルス(セービン株ポリオウイルス)を接種し、ウイルスを培養することによって増殖させたセービン株ポリオウイルスを得る。得られたセービン株ポリオウイルスを不活化し、不活化セービン株ポリオウイルスを得る。用いられる種ウイルス(セービンI型株、セービンII型株またはセービンIII型株)によって、対応する不活化セービン株ポリオウイルスを得ることができる。ウイルスの不活化の前または後に、ウイルスを濃縮および/または精製してもよい。
上述のように、不活化ポリオワクチンにおいては、I型、II型およびIII型それぞれの野生株(強毒株)を中和するのに十分な抗体を産生させうる免疫原性を有することが必要である。しかしながら、不活化セービン株ポリオウイルスのD抗原は、I型、II型およびIII型それぞれで免疫原性に差がある。したがって、I型、II型およびIII型それぞれの野生株(強毒株)を中和するのに十分な抗体を産生させうる免疫原性を有する不活化ポリオワクチンは、含有するI型、II型およびIII型の不活化ポリオウイルス量を調節することによって得ることができる。
(Vero細胞)
Vero細胞は、ミドリザル(Cercopithecus aethiops)の腎臓由来の継代細胞であり、ATCC(American Type Culture Collection)に登録されている。Vero細胞は、線維芽細胞様の形態を示し、各種ウイルスに対して幅広い感受性を有し、継代培養と維持が容易であるため、ウイルス培養に広く使用されている。ATCCから入手可能なVero細胞としては、例えば、ATCC番号CCL-81、CRL-1587などが知られている。
【0007】
(マイクロキャリアー)
本明細書において、「マイクロキャリアー」とは、表面に細胞を付着させ、液体培地中で懸濁状態で細胞培養ができる担体を意味する。表面に細胞を付着させ、液体培地中で懸濁状態で細胞培養ができる担体であれば、材質、形状、大きさなどに特に制限はない。
マイクロキャリアーの材質としては、デキストラン、ゼラチン、コラーゲン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアクリルアミド、ガラス、セルロースなどが挙げられる。マイクロキャリアーの材質としては、デキストランが好ましい。
マイクロキャリアーの形状としては、球状(ビーズ)、円盤状などが挙げられる。マイクロキャリアーの形状としては、球状が好ましい。
球状のマイクロキャリアーの大きさは、例えば約0.01〜1mm、好ましくは約0.05〜0.5mm、より好ましくは約0.1〜0.3mmである。
マイクロキャリアーは多孔性であってもよい。
本発明で用いられる球状のマイクロキャリアーとしては、例えば、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)、Cytopore(商品名)(以上、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などが挙げられる。円盤状のマイクロキャリアーとしては、例えば、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などが挙げられる。多孔性のマイクロキャリアーとしては、例えば、Cytopore(商品名)、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などが挙げられる。本発明で用いられるマイクロキャリアーとしては、特に球状のデキストラン製マイクロキャリアーが好ましい。球状のデキストラン製マイクロキャリアーとしては、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)およびCytopore(商品名)が好ましく、さらにCytodex 1(商品名)およびCytodex 3(商品名)が好ましく、特にCytodex 1(商品名)が好ましい。
(Vero細胞の培養)
本発明においては、Vero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養することによって増殖させる。マイクロキャリアー濃度は、好ましくは約4.5g/L〜約5.5g/Lであり、より好ましくは、約5g/Lである。
上記のVero細胞を増殖させる工程は、液量として、好ましくは3L以上、より好ましくは30L以上、特に好ましくは150L以上のスケールで行われる。また、Vero細胞を増殖させる工程は、通常1000L以下のスケールで行われる。
Vero細胞をマイクロキャリアー存在下で培養する場合、培地としては、例えば、約5〜20vol%の仔ウシ血清または胎児牛血清を含むME培地〔Science,122巻,501(1952)〕、DME培地〔Virology,8巻,396(1959)〕、RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association 199巻,519(1967)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などが用いられる。培地としては、DME培地が好ましく、さらに仔ウシ血清を含むDME培地が好ましく、特に約5vol%の仔ウシ血清を含むDME培地が好ましい。培地は、細胞培養期間中、必要に応じて交換する。pHは約6〜8であるのが好ましく、さらに約6.5〜7.5であるのが好ましく、特に約7であるのが好ましい。培養は通常約35℃〜40℃で約5〜9日間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。細胞培養時の溶存酸素濃度(DO)は、約60〜90%であるのが好ましく、さらに約70〜80%であるのが好ましく、特に約75%であるのが好ましい。
マイクロキャリアー存在下での培養開始時における培地中のVero細胞の細胞数(出発細胞数)は、培地やマイクロキャリアーの種類、培養スケール等に応じて適宜設定することができる。出発細胞数は2×10個/mL〜10×105個/mLであるのが好ましく、特に2×105個/mL〜10×105個/mLが好ましい。
【0008】
(ポリオウイルスの培養)
ポリオウイルスの培養は、Vero細胞の培養細胞にセービン株ポリオウイルス(種ウイルス)を接種して感染させ、ポリオウイルスを細胞内で培養することによって行うことができる。感染細胞の培養は、上述のVero細胞の培養と同様にして行うことができる。ポリオウイルスの培養に用いられる培地としては、199培地が好ましく、さらに炭酸水素ナトリウムを添加した199培地が好ましく、特に0.3w/v%炭酸ナトリウムを添加した199培地が好ましい。
ウイルス培養時の培養温度は、約30℃〜38℃であるのが好ましく、さらに約32℃〜36℃であるのが好ましく、特に約33℃〜35℃であるのが好ましい。ウイルス培養の期間は、好ましくは約1〜5日間、より好ましくは約2〜4日間、特に好ましくは約3日間である。なお、ウイルス培養は、ポリオウイルスによる細胞変性効果(ポリオウイルス感染細胞が、細胞の円形化をおこし、マイクロキャリアーから離脱すること)を指標として、終了させることができる。
種ウイルスとしては、予めミドリザル初代腎培養細胞を用いて培養したセービン株ポリオウイルスを用いてもよい。
【0009】
(ポリオウイルスを含有するウイルス液の回収)
ウイルス培養終了後、マイクロキャリアーを除き、ポリオウイルスを含有するウイルス液(ポリオウイルス液と称することがある。)を回収する。
マイクロキャリアーの除去は、例えば、テフロンメッシュ(例えば、孔径120μm)などを用いて行うことができる。メッシュに残ったマイクロキャリアーにはポリオウイルスが残存(付着)しているので、ウイルス培養液などで洗浄してポリオウイルスを回収してもよい。
得られたポリオウイルス液は、ろ過膜(例えば0.2μmのろ過膜)などでろ過し、細胞屑を除いてもよい。
ポリオウイルス液は、不活化の前または後に、濃縮および/または精製してもよい。
濃縮方法としては、限外ろ過法、超遠心法、透析法などが挙げられる。濃縮方法としては、限外ろ過法、超遠心法が好ましく、さらに限外ろ過法と超遠心法を行なうのが好ましく、さらに、限外ろ過法を行った後、超遠心法を行なうのが好ましい。
限外ろ過法に用いられる限外ろ過膜としては、ウイルスの濃縮に通常用いられる限外ろ過膜を使用することができる。限外ろ過膜の分画分子量としては、100kDa程度が好ましい。限外ろ過膜の材質としては、ポリエーテルスルホンなどが好ましい。
超遠心法によるポリオウイルスの濃縮は、例えば、ポリオウイルス液を、4℃で、100,000g、4時間の超遠心によりペレット化することにより行なうことができる。ペレットは、リン酸緩衝液などに再浮遊させてもよい。ペレットの再浮遊液を超音波処理することによって、凝集塊をほぐすこともできる。超音波処理は、市販されている装置、例えば、INSONATOR MODEL 200M(クボタ)などを使用して行うことができる。超音波処理の条件は、凝集塊がほぐれる程度であればよく、超音波処理に使用する容器、超音波出力、再浮遊液の濃度、などに応じて適宜設定することができる。超音波処理の条件としては、例えば、200Wで3〜10分間の超音波処理などが挙げられる。このような超音波処理を行なっても、セービン株ポリオウイルスの免疫原性は失われず、ポリオウイルスワクチンとして好適に使用することができる。
精製方法としては、例えば、精製対象物の大きさ、密度、沈降係数などの物理的性質を利用する方法、化学または物理化学的反応(吸脱着など)を利用する方法などが挙げられるが、特に限定されない。精製方法としては、より具体的には、例えば、密度勾配遠心法、ろ過(限外ろ過を含む)、イオン交換カラムクロマトグラフ法、アフィニティークロマトグラフ法、ゲルろ過クロマトグラフ法、塩析法などが挙げられる。精製方法としては、カラムクロマトグラフ法が好ましく、さらにイオン交換カラムクロマトグラフ法が好ましく、特にDEAE-イオン交換カラムクロマトグラフ法が好ましい。カラムクロマトグラフィーによる精製回数は、必要な純度になるまで行なえばよく、特に制限はないが、生産効率などの点で、最小限の工程で行うのが好ましい。
濃縮および精製としては、ポリオウイルス液の超遠心によるペレット化、該ペレットの再浮遊液に対する超音波処理、およびカラムクロマトグラフィーによる精製を行なうのが好ましい。さらに、カラムクロマトグラフィーによる精製は、1回だけ行われるのが、生産効率などの点で好ましい。ポリオウイルス液の超遠心によるペレット化、該ペレットの再浮遊液に対する超音波処理およびカラムクロマトグラフィーによる精製を1回だけ行うことによって、ポリオウイルス液を、効率的に、かつ十分に濃縮および精製することができる。
【0010】
(ポリオウイルスの不活化)
ポリオウイルスの不活化は、通常用いられている方法によって行うことができる。より具体的には、例えば、ポリオウイルス液に不活化剤を添加し、ポリオウイルスと不活化剤を反応させることによってポリオウイルスを不活化することができる。不活化剤としては、ホルマリンが好ましい。不活化条件は、ポリオウイルスが不活化されればよく、特に制限はない。不活化処理の期間は、不活化不十分なポリオウイルスの残存を避けるため、通常、ポリオウイルスの不活化が確認された期間の約2〜4倍、好ましくは約2.5〜3.5倍、より好ましくは約3倍とする。
例えば、不活化剤としてホルマリンを用いる場合、その添加量は、好ましくは約0.001w/v%〜0.1w/v%、さらに好ましくは約0.005w/v%〜0.05w/v%、特に好ましくは約0.01w/v%である。不活化温度は、特に好ましくは約37℃である。不活化期間は、不活化剤の種類、不活化剤の濃度、不活化温度などによっても異なる。例えば、不活化剤として約0.01 w/v%のホルマリンを使用し、不活化温度が約37℃の場合、不活化期間は、好ましくは約8日〜16日、より好ましくは約10日〜14日、特に好ましくは約12日である。約0.01 w/v%のホルマリンを使用し、不活化温度が約37℃である場合、セービン株ポリオウイルスは、通常4日までに不活化される。
【0011】
3.百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイド(DPT)
本発明で用いられる百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドは、特に限定されるものではない。
百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドは、百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンとして、市販品として入手することができる(例えば、武田薬品工業株式会社製、阪大微生物病研究会製、化学及血清療法研究所製など)。また、百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドは、公知の方法によって得ることができる。具体的には、百日せき菌の防御抗原は、例えば、百日せき菌I相菌(東浜株)の培養液を硫安分画法・蔗糖密度勾配遠心分画法などの物理化学的方法で感染防御抗原画分を抽出・分離・精製したのち、残存する毒性をホルマリンで減毒することによって得ることもできる。ジフテリアトキソイドは、例えば、ジフテリア菌(Park-Williams No.8株)の産生する毒素をカラムクロマトグラフ法などの物理化学的方法で精製濃縮した後、ホルマリンで無毒化することによって得ることもできる。破傷風トキソイドは、例えば、破傷風菌(Harvard株)の産生する毒素をカラムクロマトグラフ法などの物理化学的方法で精製濃縮した後、ホルマリンで無毒化することによって得ることもできる
百日せき菌の防御抗原には、百日せき毒素(PT抗原)、繊維状赤血球凝集素(FHA抗原)、外膜たん白(69KD抗原)、線毛(FB抗原、凝集原(FGG)とも呼ばれる)が含まれる。百日せき菌の防御抗原としては、必ずしも上記各抗原の全てを含んでいる必要はなく、これらの抗原のうち1種以上、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上を含んでいればよい。前記防御抗原に対する抗体は、百日せきから宿主を防御する。
【0012】
4.混合ワクチン
本発明の混合ワクチンは、不活化セービン株ポリオウイルス、百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドを含有する。百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドは、上述のように、百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンとして、市販品として入手することができる。したがって、本発明の混合ワクチンは、不活化セービン株ポリオウイルスと、百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンとを混合することによって製造することもできる。
不活化セービン株ポリオウイルスは、不活化セービンI型株ポリオウイルス、不活化セービンII型株ポリオウイルス、および不活化セービンIII型株ポリオウイルスを混合することによって製造することができる。上述のように、不活化セービン株ポリオウイルスは、I型、II型およびIII型の不活化セービン株ポリオウイルスを、D抗原量で、2〜4:80〜120:80〜120の割合で含有するのが好ましく、特に、約3:約100:約100の割合で含有するのが好ましい。
本発明の混合ワクチンにおける百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイドの含有量は、百日せき、ジフテリアおよび破傷風の予防に有効な量であればよい。より具体的には、上述した、市販品として入手可能な百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンにおける含有量と同様の含有量としてもよい。なお、不活化セービン株ポリオウイルスその他の成分によって百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイドまたは/および破傷風トキソイドの免疫原性が影響をうける場合には、適宜含有量を調節することにより、各疾患の予防に有効な混合ワクチンを製造することができる。
本発明の混合ワクチンは、常套手段に従って製造し、使用することができる。具体的には、以下に記載するようにして製造し、使用することができる。
本発明の混合ワクチンは、常套手段に従って、注射剤として製剤化することができる。注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記物質を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられる。調製された注射液は、通常、適当なアンプル、シリンジなどに充填される。
本発明の混合ワクチンは、必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、キレート剤などの製剤添加剤を含有していてもよい。保存剤としては、例えば、チメロサール、2−フェノキシエタノールなどが挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸などが挙げられる。
本発明の混合ワクチンは、さらにアジュバントを含有していてもよい。アジュバント化剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
本発明の混合ワクチンは、さらに不活化セービン株ポリオウイルス、百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイド、および破傷風トキソイド以外の免疫原性成分を含んでいてもよい。そのような免疫原性成分としては、例えば、ポリオウイルス、百日せき菌、ジフテリア菌および破傷風菌以外のウイルスまたは菌に対する免疫原性成分が挙げられる。免疫原性成分としては、例えば、トキソイド、弱毒化ウイルス、不活化ウイルス、タンパク質、ペプチド、ポリサッカライド、リポポリサッカライド、リポペプチド、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。ポリオウイルス、百日せき菌、ジフテリア菌および破傷風菌以外のウイルスまたは菌としては、例えば、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、ヘルペスウイルス、水疱瘡ウイルス、狂犬病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、肺炎双球菌、髄膜炎菌、チフス菌、インフルエンザb菌などが挙げられる。
本発明の混合ワクチンは、例えば、皮下注射もしくは筋肉注射によって、好ましくは皮下注射によって、非経口的に投与することができる。
本発明の混合ワクチンの1回投与量は、投与対象者の年齢、体重など種々の条件に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、百日せき菌の防御抗原を4国際単位以上、ジフテリアトキソイドを約15Lf、破傷風トキソイドを約2.5Lf、不活化セービンI型ポリオウイルスをD抗原として約2〜4単位(好ましくは約3単位)、不活化セービンII型ポリオウイルスをD抗原として約80〜120単位(好ましくは約100単位)、不活化セービンIII型ポリオウイルスをD抗原として約80〜120単位(好ましくは約100単位)含有していてもよい。
本発明の混合ワクチンの投与回数は、例えば、初回免疫として、3〜8週の間隔で、2〜3回投与してもよい。初回免疫として本発明の混合ワクチンを2回投与した場合には、さらに3〜8週の間隔で百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPTワクチン)を1回投与するのが好ましい。追加免疫として、初回免疫後6ヶ月以上の間隔をおいて(例えば、初回免疫終了後12ヶ月から18ヶ月までの間に)、さらに1回投与してもよい。
【実施例】
【0013】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。

参考例1(ポリオワクチンウイルス製造用保存細胞バンクの樹立)
ワクチンウイルス製造用の保存細胞バンクは、ATCCから入手したVero細胞から、下記の手順により作製した。
(i)種細胞バンク(MCB: Master Cell Bank)の調製
ATCCより受領したアンプル入り凍結細胞(CCL 81 Vero, F-6573、継代数:124代)を融解し、空の4オンス瓶(容量154mL、細胞増殖面積54cm2の培養瓶)に移した。細胞入り4オンス瓶に細胞増殖液(5vol%仔ウシ血清、0.075%炭酸水素ナトリウム、20μg/mLエリスロマイシン、100μg/mLカナマイシン(最終濃度)添加DME(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、シグマ、カタログNo. D5523))を滴下で、約5分位かけて15mL加えた。細胞と細胞増殖液を入れた瓶を36℃で静置培養した(4オンス瓶1本、125代)。翌朝細胞増殖液を新たな15mLと交換し、更に36℃で静置培養した。静置培養を開始してから6日目に継代を行った(4オンス瓶1本から4オンス瓶4本、126代)。継代方法は、以下の手順に従って行った。

継代方法
(1) 培養液を捨てる。
(2) 継代用0.25%トリプシン液5mLを4オンス瓶に入れる。
(3) 約1分間細胞面を浸して継代用0.25%トリプシン液を捨てる。
(4) 4オンス瓶を36℃に静置し、細胞のガラス面よりの剥離を待つ。
(5) 細胞が剥がれだしたら、細胞増殖液を5mL入れ、ピペッティングで全ての細胞を剥離させる。
(6) 更にピペッティングで細胞を均一に浮遊させ、細胞増殖液を遠心管に移す。
(7) 600rpm、5分間の遠心を行い、上清を捨て、沈渣となった細胞を新たな約8mLの細胞増殖液にピペッティングで均一に浮遊させる。
(8) 新たな4本の4オンス瓶(新たな細胞増殖液を13mLずつ分配してある)に1本当たり2mLの細胞浮遊液を加える。
(9) 4本の4オンス瓶を36℃に静置し細胞培養を行う。

継代用0.25%トリプシン液の組成は以下の通りであった。
5%トリプシン*1 50 mL/L
5%Polyvinyl pyrrolidone(90K) 20 mL/L
0.247 mol エデト酸ナトリウム*2 56 mL/L
EK*3 2 mL/L
トリプシン希釈液*4 872 mL/L

*1:トリプシンは、ブタ膵臓由来 1:300活性のものを使用した。
*2:0.247 mol エデト酸ナトリウムの組成は以下の通りであった。
エデト酸ナトリウム-2Na・2H2O 91.95 g/L
NaOH 9.88 g/L
*3:EKの組成は以下の通りであった。
Erythromycin Lactobionate 10,000μg/mL
Kanamycin Sulfate 50,000μg/mL
*4:トリプシン希釈液の組成は以下の通りであった。
NaCl 8,000 mg/L
KCl 400 mg/L
Na2HPO4・12H2O 150 mg/L
KH2PO4 60 mg/L

以降も同様の方法(培養面積比で1回の継代で約3〜4倍とするので、培養瓶と扱う液量は異なる)3〜6日間隔で継代を行い、129代の細胞を作製した(1回継代につき継代数は1つ多くなる)。SR瓶(Small Roux瓶:容量727mL、細胞増殖面積156cm2の培養瓶)33本に、培養した129代の細胞を継代時と同様にトリプシン処理、遠心を行い、沈渣を凍結保存培地(10%DMSO(Dimethyl Sulfoxide)、10vol%仔ウシ血清、0.075%炭酸水素ナトリウム、20μg/mLエリスロマイシン、100μg/mLカナマイシン(最終濃度)添加DME(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、シグマ、カタログNo. D5523))に約1.5×107個/mLとなるように再浮遊させた。アンプルに上記細胞浮遊液を1mL分注し、スローフリーザー(約1分で1℃低下する)で-32℃まで温度を下げた後、液体窒素中に移し保存した。上記のようにして得た129代の細胞を種細胞バンク(MCB)として使用した。

(ii)製造用保存細胞バンク(MWCB: Manufacture’s Working Cell Bank)の調製
上記(i)で調製し、保存した種細胞バンク(MCB)を使用して、上記(i)の種細胞バンク(MCB)の調製方法と基本的には全く同じ方法で、アンプル中の細胞の融解から細胞の継代による増殖を134代まで行った(出発細胞数が多いため、取扱い液量、培養瓶種と数は異なる)。前記の134代の細胞も、種細胞バンク(MCB)と同様に液体窒素中で保存した。上記のようにして得た134代の細胞を製造用保存細胞バンク(MWCB)として使用した。
【0014】
実施例1(ポリオワクチンウイルス製造用細胞の作製)
(i)静置培養工程
上記参考例1で調製し、保存した製造用保存細胞バンク(MWCB)の1アンプル(134代の細胞)を、上記参考例1の種細胞バンク(MCB)及び製造用保存細胞バンク(MWCB)の調製の場合と同様の方法で解凍し、細胞をLR瓶(Large Roux瓶、容量約1540mL、細胞増殖面積約274cm2の培養瓶)×3本にて7日間静置培養した(135代)。静置培養を開始してから7日目に継代を行い、LR瓶18本(136代)へと培養スケールを拡大して静置培養した。静置培養とその継代は、上記参考例1の種細胞バンク(MCB)の調製及び製造用保存細胞バンク(MWCB)の調製と同様の方法で行った。
次に、40段セルファクトリー(ヌンク、カタログNo. 139446)で7日間静置培養した(137代)。静置培養を開始してから7日目に継代し、更に40段セルファクトリー4台で7日間静置培養した(138代)。
(ii)マイクロキャリアー培養工程
次に、上記(i)の静置培養工程で得た138代の細胞を、上記(i)の継代時と同様にトリプシン処理、遠心し、沈渣となった細胞を1,000mLのマイクロキャリアー培養用細胞増殖液(5vol%仔ウシ血清(Thermo Trace社製)、0.11%炭酸水素ナトリウム、0.1%フルクトース、20μg/mLエリスロマイシン、100μg/mLカナマイシン(最終濃度)添加DME(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、シグマ、カタログNo. D5523))にピペッティングで均一に浮遊させた。細胞浮遊液を、予めPBS(Phosphate Buffered Saline)で膨潤させ、マイクロキャリアー培養用細胞増殖液で平衡化したマイクロキャリアー(Cytodex 1(商品名)、GEヘルスケア バイオサイエンス社)と混合(Cytodex 1(商品名)は、膨潤前の重量で5g/Lを使用した)し、50L容量培養器3台で、37℃、pH7.15で撹拌しながら培養した。培養2日目より1日につき細胞増殖液の半量を新たな細胞増殖液と継続的に交換した。7日間培養した細胞を、ポリオワクチンウイルス製造用細胞(139代)として使用した。
【0015】
実施例2(不活化ポリオワクチンI型の製造)
(i)ウイルス培養工程
実施例1で得たポリオワクチンウイルス製造用細胞(139代)は、種ウイルスを接種する直前に撹拌を止めて細胞を沈殿させ、0.075%炭酸水素ナトリウム、20μg/mLエリスロマイシン、100μg/mLカナマイシン(最終濃度)添加EBSS(Earl's Balanced Salt Solution)で1回洗浄した。マイクロキャリアーごと採取した細胞培養液5mLの上清を除いた後、0.25%トリプシン液を加え再び5mLとし、細胞をビーズから剥がし浮遊させ、細胞数を計測し、50L容量培養器全体の細胞数を推定した。細胞1個当たり、弱毒Sabin株のI型(LSc,2ab株)の種ウイルスを約10-3CCID50の濃度で接種した。種ウイルス接種後、直ちにウイルス培養液(0.3%炭酸水素ナトリウム、20μg/mLエリスロマイシン、100μg/mLカナマイシン(最終濃度)添加M199(Medium 199))50Lを培養器に注入した。なお、種ウイルスは、予めアフリカミドリザル初代腎培養細胞を用いて約33.3℃で培養した後、小分けして-70℃で凍結保存したものを用いた。
ウイルス培養は、34℃±1℃で3日間行った。ポリオウイルスによる細胞変性効果(ポリオウイルス感染細胞は細胞の円形化をおこし、その後マイクロキャリアーから離脱する)を指標とし、細胞がマイクロキャリアーから95〜100%離脱した時点でウイルス培養を終了させた。ウイルス培養終了後、テフロンメッシュ(孔径120μm)を介してマイクロキャリアーを除き、ウイルス浮遊液を回収した。メッシュに残ったマイクロキャリアーは、50L容量培養器1台につき約3Lのウイルス培養液で1回洗浄した。回収したウイルス浮遊液にこの洗浄液を加えて「I型ポリオウイルス液」とした。
(ii)ウイルス濃縮・精製工程
上記(i)で得たI型ポリオウイルス液約150Lを、0.2μmのろ過膜(ポール、SLK7002NRP)でろ過し、細胞屑を除いた。ろ液を限外ろ過膜(ザルトリウス、PESU(Polyethersulfone) 100kDa、0.1m2、3051466801E--SG)で1.2Lまで濃縮した。濃縮されたウイルス液を6℃で100,000g、4時間の超遠心によりペレット化し、PB(Phosphate Buffer, 0.1mol/L)に再浮遊した(1本の遠心管(約100mL)のペレットを5mLのPBに再浮遊した)。ペレットの再浮遊液を4℃で一晩振とうした後、200Wで8分間超音波処理(クボタ、INSONATOR MODEL 200M)を行って凝集塊をほぐした。そして、15,000rpm、30分間の遠心後、上清を採取した。得られた上清をDEAE Sepharose CL-6B(商品名、GEヘルスケア バイオサイエンス社、GE 17-0710-05)により精製した。溶出液としてPB(Phosphate Buffer, 0.1mol/L)を用いた。280nmの吸光度でモニターして、初めのピークを回収し、「精製I型ポリオウイルス液」とした。採取したピークについては、吸光度の値で260/280nmを計算し、1.5以上であることを確認した(ポリオウイルス完全粒子の260/280nmは1.6〜1.7である)。
(iii)不活化工程
上記(ii)で得た精製I型ポリオウイルス液を不活化前希釈液(5%アミノ酢酸(最終濃度)を添加した、Ca、Mg、Phenol Red、炭酸水素ナトリウムを含まないM199)で約10倍希釈し、0.2μmのろ過膜(ポール、SLK7002NRP)でろ過し、ウイルス凝集塊を除いた。ろ液を調製後、再度ウイルスが凝集しないよう速やかに不活化を開始した。不活化開始1時間前に、ろ液と1:200に希釈されたホルマリンを別々に37℃で加温しておいた。ろ液を十分撹拌しながら、ホルマリンを最終濃度1:4,000になるように添加し、37℃に加温し不活化を開始した。ホルマリン処理中、液の撹拌を毎日午前及び午後の2回行うことによりウイルスの不活化を一様に進行させた。不活化不十分なウイルスが、容器の栓や容器のある特定の場所に付着する場合を想定して、不活化開始2、4日目には栓の交換を、6日目には容器の交換を行った。また、不活化工程中にウイルスが凝集する可能性を考慮して、不活化6日目に0.2μmのろ過膜(ポール、SLK7002NRP)でろ過を行った。ホルマリン処理工程は12日間で終了とした。12日目にホルマリン処理ウイルス液の遊離ホルマリンを亜硫酸ナトリウム(0.0264mol/Lとなるように添加)で中和後、安定剤としてエデト酸ナトリウムを添加(0.0009mol/L)し、「不活化ポリオワクチンI型」の原液とした。
(iv)D抗原量の測定は型及びD抗原に特異性の高い抗体を用いた間接ELISA法よって行う。間接ELISA法は、先ず、1次抗体として被検抗原と同型のD抗原特異的モノクロナール抗体(マウス由来)をマイクロプレートにコーティングする。次に、被検抗原を希釈して乗せる。次に、2次抗体として被検抗原と同型のウサギポリクロナール抗体を乗せ、更に、HRPO標識抗ウサギIgG抗体を乗せ反応させる。反応後、オルトフェニレンジアミン溶液を用いて発色させた後、492nmの吸光度を測定する。被検抗体の吸光度の測定値と対照抗原の測定値との平行線定量法による比較により、被検抗原のD抗原量を求める。
【0016】
実施例3(不活化ポリオワクチンII型の製造)
種ウイルスとして、弱毒Sabin株のI型(LSc,2ab株)に代えて弱毒Sabin株のII型(P712,Ch,2ab株)を使用した他は、実施例2と同様にして、「不活化ポリオワクチンII型」の原液を製造した。

実施例4(不活化ポリオワクチンIII型の製造)
種ウイルスとして、弱毒Sabin株のI型(LSc,2ab株)に代えて弱毒Sabin株のIII型(Leon,12a1b株)を使用した他は、実施例2と同様にして、「不活化ポリオワクチンIII型」の原液を製造した。
【0017】
実施例5(百日せき菌の防御抗原の製造)
(1)百日せき菌の培養
百日せき菌I相菌(東浜株)をコーエンウイラー培地で30〜34℃、20〜24時間撹拌培養した。コーエンウイラー培地で培養した百日せき菌を更に、ステイナーショルト培地で30〜34℃、48〜68時間培養した。
培養液を、限外ろ過法により1/10量まで濃縮を行い、遠心分離により上澄液と菌体に分離した。
(2)百日せき毒素の調製
上記(1)で得た上澄液に1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH8.0)を1/10量になるように添加し、25w/v%酢酸カルシウム溶液を0.1〜2.0w/v%になるよう加え、ろ過により百日せき毒素(感染防御抗原)を含むろ液を得た。ろ液をSPカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH6.0))によりカラムを通し、吸着した百日せき毒素を0.415mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0)で溶出し、百日せき毒素を含む液を分画した。次いで、百日せき毒素を含む液をゲルカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.25mol/L塩化ナトリウム添加0.025mol/Lリン酸ナトリウム液(pH8.7))によりカラムを通した後、ろ過(孔径0.2μm)したものを精製百日せき毒素(PT抗原)液とした。
(3)繊維状赤血球凝集素の調製
上記(1)で分離した菌体を1mol/L塩化ナトリウム添加0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(pH8.0)で溶解し、次いで遠心分離により上澄液と菌体に再分離した。再分離した上澄液に25w/v%酢酸カルシウム溶液を0.1〜2.0w/v%になるよう加え、ろ過により繊維状赤血球凝集素(感染防御抗原)を含む液を得た。ろ液を硫酸アンモニウム濃縮した後、密度勾配遠心法で精製し、精製繊維状赤血球凝集素(FHA抗原)を分画した。
(4)外膜たん白の調製
上記(3)で再分離した菌体を0.145mol/L塩化ナトリウム添加0.01mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0)で溶解し、60℃で90分間加熱し、次いで遠心分離により上澄液と菌体に再々分離した。再々分離した上澄液に1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH8.0)を1/10量になるように添加し、25w/v%酢酸カルシウム溶液を0.1〜2.0w/v%になるよう加え、ろ過し、外膜たん白(感染防御抗原)を含むろ液を得た。外膜たん白(感染防御抗原)を含む液をSPカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH6.0))により素通り液を回収した。次いで、ゲルカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.25mol/Lリン酸ナトリウム添加0.025mol/Lリン酸ナトリウム液(pH8.7))によりカラムを通した後、ろ過(孔径0.2μm)したものを精製外膜たん白(69K抗原)とした。
(5)線毛(凝集原(AGG))の調製
上記(4)で外膜たん白を含む液を採取した後の残渣に1mol/L塩化ナトリウム添加0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH8.0)を上澄液の1/10量加え、ろ過し、線毛(感染防御抗原)を含むろ液を得た。得られた線毛を含む液を硫酸アンモニム濃縮後、密度勾配遠心法で精製し、精製線毛(FB抗原)を分画した。
(6)防御抗原の調製(減毒)
上記(2)〜(5)で得たPT抗原、FHA抗原、69KD抗原およびFB抗原を、下記実施例8で調製するDPT混合ワクチン0.5mLあたりPT抗原1.89μg、FHA抗原3.00μg、69K抗原0.76μgおよびFB抗原0.36μgの抗原比率を目標品質に混合した液を精製感染防御抗原液とした。精製感染防御抗原液にホルマリンを0.2〜0.5vol%および必要に応じて塩酸リジンを1w/v%以下になるように加え、37〜41℃で7日間以上加温して減毒したものを百日せきの防御抗原液とした。限外ろ過法を用いて余分なホルマリンおよび塩酸リジンを取り除き、百日せきの防御抗原の原液とした。
【0018】
実施例6(ジフテリアトキソイドの製造)
(1)ジフテリア菌の培養
ジフテリア菌(Park Williams No.8)をレフレル培地で32.0〜34.0℃、5日間培養した。
(2)ジフテリア毒素の調製
上記(1)で得られた培養液に硫酸アンモニウムを加えた後の上澄液をろ過(孔径0.45μm)し、得られたろ液をフェニル疎水性カラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:1.25mol/L硫酸アンモニウム添加0.01mol/Lリン酸ナトリウム液(pH6.5))によりカラムを通し、得られた毒素液をDEAEイオン交換カラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.01mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0))によりカラムに通し、次いでゲルカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.145mol/L塩化ナトリウム添加0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0))によりカラムに通してジフテリア毒素を分画し、これを精製毒素液とした。
(3)ジフテリア毒素のトキソイド化
上記(2)で得られた精製毒素液に、塩酸リジンを1w/v%以下、ホルマリンを0.3vol%になるように加え38.0〜40.0℃で21日間加温してトキソイド化した。
(4)ジフテリアトキソイドの調製
上記(3)でトキソイド化した後、限外ろ過法を用いて余分なホルマリンおよび塩酸リジンを取り除き、ジフテリアトキソイド液とした。
【0019】
実施例7(破傷風トキソイドの製造)
(1)破傷風菌の培養
破傷風菌(Harvard47-A)を肝肝ブイヨンで34.5℃〜36.5℃、5日間培養した。
(2)破傷風毒素の調製
上記(1)で得られた培養液1Lあたり1.25mol/Lになるよう硫酸アンモニウムを加えた。次いで、フェニル疎水性カラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:1.25mol/L硫酸アンモニウム添加0.01mol/Lリン酸ナトリウム液(pH6.5))によりカラムに通し、得られた毒素液をDEAEイオン交換クロマトグラフ法(平衡化溶液:0.01mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.5))によりカラムに通し、次いでゲルカラムクロマトグラフ法(平衡化溶液:0.145mol/L塩化ナトリウム添加0.004mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0))によりカラムに通して破傷風毒素を分画し、これを精製毒素液とした。
(3)破傷風毒素のトキソイド化
上記(2)で得られた精製毒素液に、ホルマリンを0.3vol%になるように加え、pH7.0に修正し、39℃で15〜23日間加温してトキソイド化した。
(4)破傷風トキソイドの調製
上記(3)でトキソイド化した後、限外ろ過法を用いて余分なホルマリンおよび塩酸リジンを取り除き、破傷風トキソイド液とした。
【0020】
実施例8(混合ワクチンの製造)
(i)混合不活化ポリオワクチンの調製
上記実施例2、3および4で得た不活化ポリオワクチンI型、不活化ポリオワクチンII型および不活化ポリオワクチンIII型の原液を、D抗原量がそれぞれ3、100、100となるように、199培地(M199)、最終濃度0.5vol%の2-フェノキシエタノール、および最終濃度0.09w/v%の塩化アルミニウムを混合した。得られた混合液を、水酸化ナトリウム又は塩酸でpHを7に調整し、混合不活化ポリオワクチンとした。
(ii)DPT混合ワクチンの調製
上記実施例5、6および7で得た百日せき菌の防御抗原、ジフテリアトキソイドおよび破傷風トキソイドの原液を、199培地(M199)、最終濃度0.5vol%の2-フェノキシエタノール、および最終濃度0.24w/v%の塩化アルミニウムと混合した。得られた混合液を、水酸化ナトリウムおよび塩酸でpHを7に調整し、DPT混合ワクチンとした。
(iii)混合ワクチンの製造
上記(i)で得た混合不活化ポリオワクチンと、上記(ii)で得たDPT混合ワクチンとを等量混合し、混合ワクチンを製造した。
【0021】
実施例9(混合ワクチンの安定性)
実施例8で得た混合ワクチンにつき、25℃で加速試験を行ない、安定性を測定した。安定性は、各ウイルスに対する力価試験によって評価した。
(1)沈降精製百日せきワクチンの力価試験
検体、標準百日せきワクチン及び百日せき菌18323株を用いる。検体及び標準液をそれぞれ希釈し、これをもととしてそれぞれ4倍又は他の適当な対数的等間隔で合計3段階希釈以上の希釈を作る。4週齢のマウス16匹以上を1群とし、各希釈に1群ずつを用いる。1匹当たり希釈液0.5mLを1回腹腔内に注射する。免疫注射の21日後に、1匹当たり攻撃用菌浮遊液0.025mLを脳内に注射して、14日間観察し、死亡匹数を算出する。試験の成績を統計学的に処理して比較するとき、検体の力価は8単位/mL以上でなければならない。
(2)沈降ジフテリアトキソイドの力価試験
検体、参照沈降ジフテリアトキソイド及び適当な毒素液を用いる。検体及び参照品の希釈は、生理食塩液に、また、毒素液の希釈は、0.2w/v%ゼラチン加0.017mol/Lリン酸塩緩衝塩化ナトリウム溶液(pH7.0)による。検体及び参照品をそれぞれ希釈し、対数的等間隔の段階希釈を作る。5週齢のマウス10匹以上を1群とし、検体及び参照品の各希釈に1群ずつを用い、1匹当たり0.5mLを皮下に注射する。免疫注射の4〜6週間後にそれぞれの動物から採血し、血中抗毒素価を測定する。試験の成績を統計学的に処理して比較するとき、検体の力価は47単位/mL以上でなければならない。
(3)沈降破傷風トキソイドの力価試験
検体、参照沈降破傷風トキソイド及び適当な毒素液を用いる。検体及び参照品の希釈は、生理食塩液に、また、毒素液の希釈は、0.2w/v%ゼラチン加0.017mol/Lリン酸塩緩衝塩化ナトリウム(pH7.0)による。検体及び参照品をそれぞれ希釈し、対数的等間隔の段階希釈を作る。5週齢のマウス10匹以上を1群とする。検体及び参照品の各希釈に1群ずつを用い、1匹当たりマウスでは0.5mLを1回皮下に注射する。免疫注射の4〜6週後に、それぞれのマウスを約100LD50の毒素で攻撃して、4日間観察する。試験の成績を統計学的に処理して比較するとき、検体の力価は27単位/mL以上でなければならない。
(4)ラット免疫原性試験
検体、IPV力価試験用参照品、各型の標準血清及び中和試験攻撃用セービン株ポリオウイルス(I、II、III型)を用いる。検体及び参照品をそれぞれ希釈して、対数的等間隔の希釈を作る。Wister系8週齢、雌ラット10匹以上を1群とし、各希釈に1群ずつを用いる。1匹当たり0.5mLを後肢大腿部に筋肉内接種する。接種の21日後に、個体別に全ての動物から採血し、血清を採り56℃30分間加熱する。個体別血清及び標準血清を各血清につき2ウエル以上添加し、MEM培地で2倍段階希釈する。更に、各ウエルに各型の中和用ウイルス浮遊液を約100CCID50となるように接種する。その後、全てのプレートを36±1℃のCO2インキュベータに3時間置いた後、約4℃で一晩反応させる。翌日、各ウエルに1×104cellsとなるように細胞浮遊液を添加し、36±1℃のCO2インキュベータで7日間培養する。培養終了後、各ウエルのCPEを観察し、50%中和点の血清希釈倍数を算出し、その逆数を中和抗体価とする。試験の成績を統計学的に処理して比較するとき、検体の力価は参照品と同等以上でなければならない。
加速試験の結果を表1に示す。参照IPVとしては、ロット04C(日本ポリオ研究所製)を用いた。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例10(マイクロキャリアー法によるVero細胞の培養及びポリオウイルスの培養)
(i)Vero細胞の培養
Vero細胞のワーキングバンク(MWCB93)から出発し、静置培養で継代培養した細胞をトリプシン―EDTA溶液(0.25%トリプシン、0.014M EDTA)を用い剥離した後、600rpm、10分間の遠心後、細胞増殖用培地(5vol%仔ウシ血清、0.11%炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、0.1%フルクトース、20μg/mLエリスロマイシンおよび100μg/mL カナマイシン添加Dulbecco’s modified Eagle Medium (DME))に浮遊させた。
マイクロキャリアー(Cytodex 1(商品名))は、PBS(-)で膨潤後、121℃、15分間オートクレーブ滅菌し、細胞増殖用培地に置換して使用した。
培養装置はNew Brunswick Scientific社製セリジェンプラス及びセリジェンを使用し、マイクロキャリアー、細胞浮遊液を加えた後、細胞増殖用培地で最終4.8L(セリジェンの場合は3.5L)とし、培養温度:37.0℃、溶存酸素濃度(DO):15%、PH:7.15、回転数:35〜50rpmで行った。培地交換は、交換用培地としてNaHCO3濃度を0.15%とした細胞増殖用培地を用い、培養2日目から約4L/dayの量を連続的に行った(セリジェンの場合は1日おきに全量)。また、細胞数の測定はコールターカウンター(商品名)を用いて行った。
細胞培養の結果を図1に示す(3Hの実験のみセリジェンを使用した)。キャリアー3g/Lでは低濃度の出発細胞数(3L、約2×105cells/mL)で7日目に、高濃度の出発細胞数(3H、約10×105cells/mL)で8日目に細胞数が最大となり、その後低下を示した。また、キャリアー5g/Lでは低濃度の出発細胞数(5L、約2×105cells/mL)では11日間細胞数の増加がみられたが、12日目で細胞数は低下した。低濃度の出発細胞数の場合、キャリアー5g/Lの総細胞数は3g/Lと比べると10日目で優位となったが、その差は大きくはなかった。キャリアー5g/Lでの高濃度の出発細胞数(5H、約10×105cells/mL)では9日目ではまだ細胞数の増加段階にあり、この時点で細胞数は約2.8x106 cells/mLとなり、出発細胞数の約2.7倍に増殖した。
(ii)ポリオウイルスの培養
シードウイルスは1型ポリオウイルス(IS-90C)を用いた。細胞数計測の最終日に、培養容量の4倍量の0.075% NaHCO3添加EBSSで細胞を洗浄後、0.3%NaHCO3 、20μg/mLエリスロマイシンおよび100μg/mLカナマイシン添加M-199(E)培地(ウイルス培養用培地)1Lにシードウイルスを希釈調製した。これを洗浄後の細胞に接種し、ウイルス培養用培地をそれぞれの培養装置の培養容量まで加えた。ウイルス培養は、培養温度:33.3℃、DO:15%、pH:7.40、回転数:35〜50rpmで行った。ウイルスのCPE(cytopathic effect:細胞変性効果)によって細胞が完全にマイクロキャリアーから離脱した時点でウイルス培養を中止し、ウイルス液をハーベストした。ハーベストしたウイルス液は、-80℃に凍結保存した。
本試験でウイルス培養は図1に示した細胞増殖曲線でのそれぞれの最終計測日に開始した。
ウイルス力価の測定は、次のようにして行なった。ローラーチューブに3日間培養したGMK-2細胞を0.075% NaHCO3、200u/mLペニシリン、200μg/mLストレプトマイシン添加 HBSS 1mLで2回洗浄後、細胞維持液(0.1%ウシ血清アルブミン、0.225% NaHCO3、200u/mL ペニシリン、200μg/mLストレプトマイシン添加M-199培地)を1mL加えた。試験ウイルス液は細胞維持液で0.5log10階段希釈し、10-7〜10-8.5のウイルス液を各チューブ当たり0.2mL、各希釈当たり5本のチューブに接種した。接種後、36℃フラン室で7日間培養し、7日目のCPE観察の判定をもとにReed&Muench法により感染価(CCID50/0.2mL)を算出した。
各条件で培養したVero細胞で得られたI型ポリオウイルスの感染価(ウイルス力価)を図2に示す。ウイルス培養の結果、9日目で約2.8x106 cells/mLの細胞密度であったキャリアー5g/Lの高濃度の出発細胞数の系(5H)で最も高い感染価が得られた。感染価は5H、5L、3Lの順であったが、これは総細胞数に一致する成績であった。また、対照においたミドリザル腎臓細胞で培養して得られたウイルス液と比べ、5Hの系では10倍以上の感染価が得られた。図2に示したウイルス力価(log10 CCID50/0.2mL)は、具体的には、3Lが8.18、5Lが8.51、5Hが8.59、Ref.(対照)が7.50である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養することによって、高力価のセービン株ポリオウイルスを得ることができる。高力価のセービン株ポリオウイルスを用いることによって、不活化セービン株ポリオウイルスを効率的に製造することができる。よって、セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養する工程を含む混合ワクチンの製造方法(本発明の製造方法)は、不活化セービン株ポリオウイルスを含有する混合ワクチンの効率的な製造方法として有用である。また、本発明の混合ワクチンは、ポリオ、百日せき、ジフテリアおよび破傷風の発症を効果的に抑制することができるので、ポリオ、百日せき、ジフテリアおよび破傷風に対するワクチンとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不活化セービン株ポリオウイルス、
(B)百日せき菌の防御抗原、
(C)ジフテリアトキソイド、および
(D)破傷風トキソイド、
を含有する混合ワクチンの製造方法であって、
(a)セービン株ポリオウイルスを接種するVero細胞を、約4g/L〜約6g/Lのマイクロキャリアー存在下で培養する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、
(b)前記Vero細胞にセービン株ポリオウイルスを感染させる工程、
(c)該ポリオウイルスを増殖させる工程、
(d)該ポリオウイルスを含有するウイルス液を回収する工程、および
(e)該ポリオウイルスを不活化させる工程、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロキャリアーの濃度が、約5g/Lである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロキャリアーが、デキストラン製マイクロキャリアーである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Vero細胞を培養する工程(工程(a))が、約3L以上のスケールで行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
Vero細胞を培養する工程(工程(a))が、約30L以上のスケールで行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
さらに、
(d−2)前記ウイルス液を精製する工程、
を含む、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記精製工程(工程(d−2))が、
(i)前記工程(d)で回収したウイルス液の超遠心によるペレット化、
(ii)該ペレットの再浮遊液に対する超音波処理、
(iii)カラムクロマトグラフィーによる精製、
を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記(iii)カラムクロマトグラフィーによる精製が、1回だけ行われることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法で製造されるワクチン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201913(P2011−201913A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126139(P2011−126139)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【分割の表示】特願2008−538693(P2008−538693)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月5日 「http://www.sciencedirect.com」を通じて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504170610)財団法人日本ポリオ研究所 (2)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】