Array ( [harmful] => 0 [next] => Array ( [id] => A1,2005021449 [meishou] => 透明シリカガラス発光材料およびその製造方法 ) [prev] => Array ( [id] => A1,2005021430 [meishou] => カーボンナノウォールの製造方法、カーボンナノウォールおよび製造装置 ) ) ITO薄膜およびその製造方法

ITO薄膜およびその製造方法

本発明は、新規なITO薄膜を提供することを目的とする。本発明のITO薄膜は、基板上に形成される。ここで、Sn濃度が0.6〜2.8at.%にあることが好ましい。このITO薄膜は透明導電膜として利用することができる。本発明のITO薄膜の製造方法は、大気中に開放した基板に、インジウム塩と錫塩の混合溶液を噴霧する工程を含む方法である。ここで、錫塩として塩化第1錫を用いることができる。また、溶液として、アルコール溶液を用いることができる。Sn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜の光吸収特性は、長波長城(λ≒500〜1000nm)での吸収係数の顕著な低減という、効果がある。さらに同ITO薄膜の電気特性は、低比抵抗値(〜1.7Ωcm)を実現したという、効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ITO薄膜に関する。
また、本発明は、ITO薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
透明導電膜(Transparent Conducting Films)は、可視光(波長380〜780nm)に透明で、かつ高導電性(体積比抵抗1x10−3Ωcm以下)を併せもつ薄膜で、その代表的なITO(Indium Tin Oxide、In:Sn)薄膜は、液晶ディスプレー(LCD)、太陽電池、タッチパネルなどの主要電子材料として、また冷蔵庫、自動車・航空機の窓ガラス防曇に活用されている。さらにITO薄膜の赤外線遮蔽効果を利用した建築窓ガラス(low−E window)や選択光透過膜への応用、および高導電性を利用した面発熱、帯電防止、静電・電磁遮蔽などへの応用が進みつつある。
近年、情報通信技術の進展に伴い、高速応答性・大面積を有するコストパフォーマンスの高いフルカラー液晶ディスプレーの開発が技術ニーズとなった。これに伴ない、可視域から近赤外域(凡そ380〜1000nmの波長、以後、長波長域と呼ぶ)において、高光透過率・低比抵抗の高性能ITO薄膜の製造が急務となった。この実現には、ITO薄膜中に存在する格子欠陥(中性イオン、酸素欠損、結晶粒界、転位など)に起因した、(1)長波長域での光吸収率の低減、(2)比抵抗増加を生じる電子散乱効果の低減が必須条件となる。
従来、長波長域でのITO薄膜の光吸収特性の研究は、本発明者によるDCスパッタリング法で作製されたITO薄膜に関する研究報告のみであり(Y.Fujita and K.Kitakizaki,J.Korean Inst.Surface Eng.29(1996)660.)、専ら、他の研究者は、紫外域から可視域(およそ250〜780nmの波長、以後、短波長域と呼ぶ)における光透過率と反射率を議論の対象とした。また、従来の研究・実用の両面で、最多対象となったのはDCスッパタリング法によるITO薄膜(400℃以上の高温に加熱された基板に成膜)であり、そのSn原子は高濃度(〜4at.%以上)で、これより低濃度SnのITO薄膜は、現在まで対象外であった。
従来のITO薄膜の製造技術は、物理的製法(PVD法)のDCスパッタリング法が主流であり、化学的製法(CVD法)のスプレー法やディップコーティング法は、その研究例がPVD法に比べて極めて少ない現状に加えて、膜厚、体積比抵抗、透過率などの物理特性の制御がPVD法より劣ると思われており、一部の利用に留まっている。
ここで、スプレー法とは、噴霧熱分解法(Spray Pyrolysis)あるいはスプレーCVD法とも呼ばれる。この製法は、ITO薄膜の原料となる塩化物(InCl、SnCl、SnClなど)をアルコールなどの溶媒で溶解希釈した溶液を、噴霧器を用いて加熱された基板(ガラスなど)に噴霧してITO薄膜を作製する。
従来、スプレー法は、十分に研究されなかったが、その製法の創意工夫や物理特性の解明・制御手法の確立によって、以下の長所を具現化した高性能で大面積のITO薄膜の製造が大いに期待される。
(イ)スプレー法による工業的製造装置は、DCスパッタリング装置(1〜2億円)に比べて、簡素(低設備費、〜0.3億円)で、大面積ITO薄膜を大気中で製造できる量産性に富む製法である。
(ロ)スプレー法で作製したITO薄膜は、DCスパッタリング膜より高純度であり、Sn低濃度ITO薄膜の製造に極めて有利である。
この理由は、スプレー溶液は高純度薬品から加工無しで調製できるので、不純物混入の少ない良質のITO薄膜が作製できる。DCスパッタリング法では、ITO薄膜の母材となるターゲット材料は、酸化インジウムと酸化錫粉末を熱焼結法で作製する。この熱焼結過程でターゲット中に重金属不純物(Fe、Cuなど)が混入し低純度のターゲットとなり、この結果、高性能ITO薄膜が得られない。
一般に、物質の電気伝導性はあらゆる物理量の中で、不純物などの格子欠陥の存在に最も敏感であり、例えば、純金属への微量不純物(0.1at.%以下)の添加によって、その比抵抗は顕著に増加する。
本発明に最も近い従来技術として、澤田らによるスプレー法で作製したITO薄膜に関する研究報告がある(Y.Sawada,C.Kobayashi,S.Seki,and H.Funakubo,Thin Solid Films 409(2002)46.)。彼らは、塩化インジウム(InCl)と塩化第一錫(SnCl)をエタノールで希釈した混合溶液を調製し、これを安価な香水噴霧器(プラスチック製)を用いて、ホットプレート上で350℃に加熱されたガラス基板に噴霧して、Sn濃度3.8〜11at.%のITO薄膜を作製した。
しかし、3.8at.%未満の低濃度SnのITO薄膜は作製されなかった。測定から、成膜したままの未熱処理試料(厚み215nm、5.8at.%Sn)に対して可視域の透過率85%、最小の比抵抗1.9x10−4Ωcmを得た。これらのデータは、DCスパッタリング法による実用的なITO薄膜が有する透過率や比抵抗の値に勝るとも劣らないものである。
従来のスプレー法で、塩化インジウム(InCl)に、澤田らとは異なる塩化第二錫(SnCl)を添加した混合溶液を用いて、基板温度〜500℃で作製したITO薄膜に関する三つの報告を付言する。
長友・大木は、SnCl濃度0、2、5、10、15wt.%の溶液で作製した厚み140nmのITO薄膜に対して、光の波長500nmにおいて透過率85〜90%、また2wt.%のSnCl濃度で比抵抗2x10−4Ωcmの値を得た(長友隆男、大木 修、応用物理 47(1978)618.)。しかし、用いている反応装置が閉鎖系であるとともに、機構が複雑である、また、反応に高温を必要とする欠点がある。
Kostlinら(H.Kostlin,R.Jost,and W.Lems,Phys.Stat.Sol.(a))、およびManifacierらは(J.C.Manifacier,L.Szepessy,J.F.Bresse,M.Perotin and R.Stuck,Mat.Res.Bull.14(1979)163.)、ITO薄膜の結晶構造、格子定数、キャリヤ濃度および光透過率・反射率などを調べた。ここで、前者は、6at.%Snと8at.%SnのITO薄膜に対して、可視域での透過率80〜85%を得た。後者は、10Ω/□より大きなシート抵抗を持つITO薄膜で透過率85〜90%を得た。また、光の波長範囲275〜354nm(紫外域)でのみ、0.7、2.3、4at.%SnのITO薄膜の吸収係数を示したが、その光吸収過程を解明するための解析は示されなかった。
【発明の開示】
前述の通り、長波長域(380〜1000nm)において高光透過率・低比抵抗の高性能ITO薄膜の製造という技術ニーズに応えるには、ITO薄膜中に存在する格子欠陥(中性イオン、酸素欠損、結晶粒界、転位など)に起因した次の課題がある。
(イ)長波長域での光吸収効果の低減。
(ロ)比抵抗増加を生じる電子散乱効果の低減。
しかし、これらの課題は、未だ当分野の多数の研究者が誰も着目しなかった酸化物半導体(ITO薄膜)の本質的な物性研究課題である。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規なITO薄膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規なITO薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のITO薄膜は、基板上に形成されたITO薄膜であって、Sn濃度が0.6〜2.8at.%であり、単色光波長800nmにおける吸収係数αが、2.0x10cm−1以下である。
本発明のITO薄膜の製造方法は、大気中に開放した基板を加熱し、かつインジウム塩と錫塩の混合溶液をこの基板に噴霧する工程を含み、ITO薄膜中のSn濃度が0.6〜2.8at.%である。
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明は、基板上に形成されたITO薄膜であって、Sn濃度が0.6〜2.8at.%であり、単色光波長800nmにおける吸収係数αが、2.0x10cm−1以下であるので、新規なITO薄膜を提供することができる。
本発明は、大気中に開放した基板を加熱し、かつインジウム塩と錫塩の混合溶液をこの基板に噴霧する工程を含み、ITO薄膜中のSn濃度が0.6〜2.8at.%であるので、新規なITO薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ホール素子の透明石英基板を示す図である。
図2は、ホール効果と比抵抗測定の概略図である。
図3は、光学吸収遷移過程を示す図である。
図4は、光学吸収スペクトル概略図である。
図5は、スプレー溶液中のSn濃度に対するITO薄膜中のSn濃度(分析値)の関係を示す図である。
図6は、ITO薄膜中Sn濃度に対する、その膜厚の関係を示す図である。
図7は、ITO薄膜のX線回折結果を、薄膜中Sn濃度をパラメータとして示す図である。
図8は、ITO薄膜中Sn濃度に対する、その格子定数の関係を示す図である。
図9は、ITO薄膜中Sn濃度に対する、その膜厚方向の結晶粒径の関係を示す図である。
図10は、ITO薄膜中Sn濃度に対する格子歪の関係を示す図である。
図11は、ITO薄膜中Sn濃度に対するキャリヤ濃度nの関係を示す図である。
図12は、ITO薄膜中Sn濃度に対する式(2)から算出した比抵抗ρの関係を示す図である。
図13は、ITO薄膜中Sn濃度に対するホール移動度μの関係を示す図である。
図14は、ITO薄膜(Sn=0,0.6,4.1at.%)の透過率Tと反射率Rを分光光度計の走査単色光の波長λ(nm)に対して得られた測定結果を示す図である。
図15は、Sn低濃度(0,0.6,1.3,2.8at.%)のITO薄膜試料に対する吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図16は、Sn高濃度(4.1,8.3,10.0,14.6at.%)のITO薄膜試料に対する吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図17は、吸収スペクトルの測定結果に示された波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対する吸収係数αの値を式(8)に代入し、その計算結果(αhυ)1/nを波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対して表した図である。
図18は、吸収スペクトルの測定結果に示された波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対する吸収係数αの値を式(8)に代入し、その計算結果(αhυ)1/nを波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対して表した図である。
図19は、吸収スペクトルの測定結果に示された波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対する吸収係数αの値を式(8)に代入し、その計算結果(αhυ)1/nを波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対して表した図である。
図20は、吸収スペクトルの測定結果に示された波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対する吸収係数αの値を式(8)に代入し、その計算結果(αhυ)1/nを波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対して表した図である。
図21は、Burstein−Moss効果による吸収端の短波長域へのシフトを分かり易くしたグラフである。
図22は、ITO薄膜中Sn濃度に対するバンドギャップEgと伝導帯底部の状態密度の乱れを表すUrbachエネルギーEuの値をプロットした図である。
図23は、式(9)を用いたLucovskyプロットのグラフである。
図24は、式(9)を用いたLucovskyプロットのグラフである。
図25は、バンドモデルを示す図である。
図26は、Sn低濃度ITO薄膜の結晶構造の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
最初にスプレー法によるITO薄膜の製造方法について説明する。
本実施の形態で使用したスプレー法において、InCl、SnClおよびエタノールの混合溶液を用いたSn濃度4at.%以下のSn低濃度ITO薄膜を製造した。また、従来の研究結果との比較検討を行うためにSn高濃度4〜14.6at.%のITO薄膜も製造し、これら併せて物理特性を測定・解析した。
本実施の形態におけるスプレー溶液としては、塩化インジウム(InCl・3.5HO、純度99.99%、和光純薬製)と塩化錫(SnCl・2HO、純度99.9%、和光純薬製)を、エタノール(純度99.5%、和光純薬製)に溶解・希釈し、磁気回転子で20〜40時間攪拌してスプレー溶液を調製した。この溶液中の金属イオンの総濃度は、0.1mol/lとし、錫(Sn)濃度、0,1,2,3,4,5,7,10,15at.%の混合溶液を用意した。ここで、Sn濃度at.%は、Sn/(In+Sn)の原子数比である。
本実施の形態におけるITO薄膜の成膜法は、室温・大気中において、香水用アトマイザーを用いて、約20mlの調製した溶液を、ホットプレート(面積14x14cm)上に置かれ、350℃に加熱保持された基板に、噴霧を300回繰返し、膜厚およそ250〜350nmのITO薄膜を堆積させた。ここで、基板は大気中に開放されている。
基板としては種々のものを採用することができる。基板の材質としては、金属、半導体、セラミックス、および耐熱性高分子などを採用することができる。
基板の温度は、100〜630℃の範囲にあることが好ましい。基板の温度が100℃以上であると、その基板温度の上昇とともに、薄膜材料分子の熱運動・化学反応が活発になり、膜成長・結晶化が促進し、この結果、結晶性の良い多結晶ITO薄膜が作製される。基板温度が630℃以下であると、従来に無い、アモルファス相と微結晶相が混ざった混合相をもつ新規なITO薄膜の創製や、アモルファスITO薄膜が作製できる、という利点がある。
基板の加熱方法としては、ホットプレートによる加熱方法を採用することができる。基板の加熱方法は、このホットプレートによる加熱方法に限定されない。このほか、すでにCVD法による半導体薄膜作製で使用されている赤外線ランプによる基板加熱法を、本ITO薄膜製造の場合にも採用できる。さらに、未だ実用化していないと思われるが、電気を通すが電気抵抗値の大きい金属系材料およびセラミックス系材料を基板とした場合、これらの材料基板に電流を流し、ジュール発熱による材料基板自身を高い温度に保持することができる。これを通電基板加熱法と呼ぶことにする。この通電基板加熱法を採用すれば、本スプレー法によって、上記材料基板上に、ITO薄膜を作製できる可能性がある。
基板に噴霧する溶液は、インジウム塩と錫塩の混合溶液である。
インジウム塩としては、可能性の検討を要するが二塩化インジウム(InCl)などを採用することができる。
錫塩としては、塩化第1錫、塩化第2錫(SnCl)、また、可能性の検討を要するが、ジn−ブチル錫ジクロライド((n−CSnCl)、ジメチル錫ジクロライド(SnCl(CH)などを採用することができる。
溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、また、これらアルコールと水の混合溶液、さらには純水(脱イオン水)などを採用することができる。これらの溶媒を選択する理由は、溶液中の金属イオンの総濃度をより薄くしたり、本スプレー法を工業化した場合の、万が一の火災発生防止を確実にし、安全性を確保するためである。
溶液中の金属イオンの総濃度は、0.05〜0.4mol/lの範囲にあることが好ましい。金属イオンの総濃度が0.05mol/l以上であると、そのイオン総濃度の増加とともに、ITO薄膜の成膜速度が速くなる、という利点がある。金属イオンの総濃度が0.4mol/l以下であると、極薄のITO薄膜作製が行える。極薄ITO薄膜は、従来に無いマイクロエレクトロニクスデバイス材料への応用を開く、という利点がある。
溶液を噴霧する装置として、香水用アトマイザーを使用することができる。溶液を噴霧する装置は、この香水用アトマイザーに限定されない。このほか、自動車の塗装などに利用されているカラーペイント塗装用噴霧器(少々加工して)などを使用することができる。
噴霧装置と基板との距離は、10〜70cmの範囲にあることが好ましい。距離が10cm以上であると、数mm未満の微小サイズ基板へのITO薄膜作製が可能に成る、という利点がある。距離が70cm以下であると、均一な膜厚を持つ大面積のITO薄膜作製が可能に成る、という利点がある。
基板上への溶液の噴霧は、断続的に行う。すなわち、噴霧、休止、噴霧、休止と断続的に行う。
1回の噴霧時間は、0.5〜2.0秒の範囲にあることが好ましい。噴霧時間が0.5秒以上であると、その噴霧時間の増加とともに、所望の膜厚をもつITO薄膜作製に対して、溶液の噴霧回数を減らすことができる、という利点がある。噴霧時間が2.0秒以下であると、その噴霧時間の減少につれて、1回の噴霧量が徐々に減少する。この結果、溶液中材料分子の基板への付着・堆積量が減少し、基板からの材料分子の吸熱による基板温度低下を軽減できる、という利点がある。
休止時間は、3〜10秒の範囲にあることが好ましい。休止時間が3秒以上であると、その休止時間の増加とともに、基板への溶液噴霧による基板温度低下から規定の基板温度への復帰が確実に行われる、という利点がある。休止時間が10秒以下であると、その休止時間の減少とともに、基板表面近傍に浮遊する微細塵などを薄膜内に取り込む確率が減少し、この結果、高純度ITO薄膜作製が実現する、という利点がある。
総噴霧回数は、50〜400回の範囲にあることが好ましい。総噴霧回数が50回以上であると、その噴霧回数の増加とともに、膜厚の大きいITO薄膜が基板上に形成されるので、膜厚方向の結晶子の成長が容易になり、この結果、結晶性の良い多結晶ITO薄膜の作製が確実に行われる、という利点がある。総噴霧回数が400回以下であると、従来に無いアモルファス相と微結晶相が混ざった混合相ITO薄膜の創製、あるいはアモルファスITO薄膜の作製が可能になる、という利点がある。
基板上に形成したITO薄膜は、アニールすることができる。アニールすると、ITO薄膜の結晶性が向上し、その電気特性と光学特性は、アニール無しの成膜したままの状態(as deposited 状態)に比べて改善されるという利点がある。
アニール温度は、250〜800℃の範囲にあることが好ましい。アニール温度が250℃以上であると、短いアニール時間の下で、確実にアニール効果が得られる、という利点がある。アニール温度が800℃以下であると、ITO薄膜内に取り込まれる加熱装置表面などからの不要な不純物混入を抑制できる、という利点がある。
上では、基板上にITO薄膜を形成するのに、スプレー法を採用した。基板上へのITO薄膜の形成方法は、このスプレー法に限定されない。このほか、本スプレー法の混合溶液を使用したディップコーティング法や、少し手を加えたゾルゲル法などを採用することができる。
つぎに、上述の方法により作製されたITO薄膜について説明する。
ITO薄膜のSn濃度は、0.6〜2.8at.%の範囲にあることが好ましい。この理由については、後に詳述する。
ITO薄膜の膜厚は、60〜400nmの範囲にあることが好ましい。膜厚が60nm以上であると、膜成長・結晶化が上首尾に行われ、本実施例のように結晶性の良い、光学特性・電気特性の優れた厚膜の多結晶ITO薄膜が作製できる、という利点がある。膜厚が400nm以下であると、微細加工が容易に行えるので、マイクロエンジニヤ分野およびマイクロエレクトロニクス分野へ、極薄ITO薄膜を供給できる、という利点がある。
ITO薄膜の用途としては、透明導電膜、Low−E window、冷蔵庫・自動車・航空機の窓ガラス防曇、面発熱・帯電防止・静電電磁遮蔽用のコーティング膜などを挙げることができる。
使用した基板は、光学特性測定用として、可視光から近赤外光に透明な表面研磨した高純度溶融石英板(0.4x17x60mm、甲子光学工業製)を使用し、測定用の試料を得るために、成膜後、この石英基板の裏面をダイヤモンドカッターで、〜17x17mmに切り出した。電気特性測定用の基板は、高精度なホール効果測定と比抵抗測定を遂行するために、同じ溶融石英板を、図1に示す形状寸法のホール素子に超音波カッターを用いて切り出し、これを基板とした。このホール素子基板および光学測定用の石英基板の表面を清浄にするために、中性洗剤とさらし布によるポリッシングを行い、次にアルコールとアセトンを用いた超音波洗浄を各20分程行った。この後、速やかに清浄温風で乾燥させ、直ちに両基板をホットプレート上に並べ、基板温度350℃に保ち、同時にITO薄膜を製造した。基板温度は、直径0.2mmφのクロメル・アルメル熱電対を基板表面に押し付けて±4%の精度で計測した。
なお、本実施の形態で測定に供したITO薄膜試料数は、Sn低濃度試料の数を多めに光学特性測定用として70個、電気特性用として50個用意し、これら全ての物理特性の測定から再現性ある測定データを得た。また、全てのITO薄膜試料は、その膜厚とSn濃度の決定を、エネルギー分散型蛍光X線装置(日本電子製JSX−3200)を用いて、薄膜FP定量法(ファンダメンタルパラメーター法)で行った。さらに本実施の形態では、ITO薄膜試料の結晶構造を評価するために、薄膜用X線回折装置(日本電子製JDX−8030)を用いて、Cu(kα)放射、入射角2度、波長ステップ幅0.02度で行った。結晶構造評価は、パウダーIn標準試料に基づき行った。
次に、本実施の形態における実験的研究手法とした、物理特性の測定法について、電気特性、光学特性の測定法の順に説明する。最初に電気特性の測定法について説明する。
一般に、ITO薄膜試料の電気特性の評価は、金属・半導体結晶やその薄膜の場合と同様に、電気の通し易さを表す比抵抗ρ(抵抗率ともいう)、試料中の伝導キャリヤ濃度、ITO薄膜の場合は電子濃度n、電子の動き易さを表す電子移動度μなどの物理量によって行う。なお、電子移動度μは、実際には、磁場を用いたホール効果の実験から求めた、ホール移動度μを使用する場合が多い(室温で、5T以下の低磁場では、近似的にμ≒μと見なせる)。実用化されているDCスパッタリング法によるITO薄膜(基板温度400℃位)の数値例を挙げる。ρ=1.5x10−4(Ωcm)、n=1.2x1021(cm−3)、μ=40(cm/(V/sec)、(および光透過率T=85%)などである。本発明のスプレー法によるSn低濃度ITO薄膜は、これらのデータに勝るとも劣らない。
本実施の形態における上記、電気特性の測定法および物理量の解析法を述べる。本実施の形態では、室温において、試料の四端子法による電圧・電流測定から電気抵抗Rを求め、ホール効果の実験からホール係数Rを求める。これらの測定結果から、比抵抗ρ、電子濃度n、ホール移動度μ=R/ρを決定する解析法を、図2を用いて説明する。同図のように、ホール素子基板上に成膜されたITO薄膜試料(断面積S=厚みδx幅d(m))を、真空排気・ガス導入できる透明石英管(内径50mm、長さ1m)の中にマウントし、これを電磁石のホールピース(直径150mmφ、ギャップ75mm)の中心に設置する。次に、試料に直流定電流Is(A)を流し、長さL(m)の試料端子間の電圧降下Vs(V)をデジタル電圧計で測定する。これは四端子法による抵抗測定と呼ばれ、高精度な抵抗測定が実現する。
次に、本実施の形態では、試料電流Is(A)を流した状態で、電磁石に直流励磁電流を流し、ホールピース間に磁場(正確には磁束密度B(Wb/m)=B(T)テスラという)を発生させ、これに伴なう、ホール電圧Vを磁束密度Bの関数として、最大B=1(T)まで測定する。ここで、ホール電圧Vは、この測定に悪影響を及ぼさないように、入力インピーダンスの極めて大きい(10Ω以上)、振動容量形電位計を使用した。さらに、高精度で信頼のおけるホール係数測定を実現するために、試料電流Isの向きと磁場Bの向きを正転、逆転させ、併せて4通りにわたって、ホール電圧Vと磁場密度Bの関係を測定し、これらの平均値からホール係数Rを算出した。
これらの測定より、まず、電気抵抗R、比抵抗ρおよびホール係数Rが次式から求まる。



電磁気学によれば、電気伝導度σの逆数として定義された比抵抗は、ρ=(1/σ)=(1/enμ)で与えられる。ここで、e=1.6x10−9(C:クーロン)は電子電荷の絶対値である。また、固体物理学のDrude−Lorentz古典電子論によれば、金属中の電子移動度μは、電界Eで加速された電子の速度をVとすると、μ=vE=eτ/mで表される。τは緩和時間と呼ばれ、電子が電界によって加速運動する際、母体原子や他の電子との衝突を繰り返しながら運動すると考えたときの、衝突から次の衝突まで自由に動ける時間(平均値)と定義される。この粒子像による衝突現象は、波動像を融合した量子力学では、電子散乱現象と呼ばれ、緩和時間は、電子波動関数の電子状態間での遷移確率に関係づけられる。
一方、ホール係数Rは、固体物理学での自由電子モデルによれば、金属中に存在する多数の伝導電子(1021〜1022cm−3程度)を、Fermi統計に従う、縮退した自由電子と見なし、これが従う電磁場中での運動方程式を解くことによって、次式のように与えられる。

金属に類似した多数の伝導電子(1019〜1021cm−3)を有するITO薄膜の場合にも、この式が適用される。電子の多いN形半導体の場合は、通常、自由電子モデルの式(4)を適用して、実験データ、を解析する。しかし、正孔の多いP形半導体では、式(4)の符号はプラスとなる。式(4)より、ホール係数Rがホール効果実験から得られれば、直ちに電子濃度n(m−3)が、1/eRから求まる。ただし、通常はcm−3(=10−3)の単位が使われる。さらに、上述のホール移動度μは、R/ρから求まることが次式から理解される。

以上、本実施の形態におけるITO薄膜の電気特性を特徴づける物理量が全て、電気抵抗測定とホール係数測定から求まる。nやρの相対誤差は、ITO薄膜の厚みδの測定精度(±10%以下、従来研究でも同様)で決まり、その他、電気的計測上の誤差は。±0.5%以下の高精度である。従来、多数のITO薄膜の研究では、ρは、薄膜表面に電圧電流の4探針を押さえつけた、薄膜の表面効果の影響に左右される精度的に劣る方法て求め、Rは、四角形の薄膜試料を用いたファン・デル・パウ法という本実施形態のホール素子によるホール効果実験より精度的に劣る方法を採用していた。本実施の形態で駆使した、四端子法による比抵抗ρ測定およびホール素子によるホール係数R測定は、伝統ある金属や半導体の物性物理研究で成功を収めてきた常套手段であり、現時点で最も信頼のおけるITO薄膜に関する物性実験手法である。
次に、本実施の形態における光学特性の測定法について説明する。
一般に、ITO薄膜試料の光学特性の評価は、金属・半導体結晶やその薄膜の場合と同様に、試料へ照射する単色光の波長λ(nm)に対する、透過率T(%)、反射率R(%)、吸収率A(%)などの物理量の測定に基づき行う。実用に供しているDCスパッタ法によるITO薄膜では、可視域(波長380〜780nm)おいて、T=80〜90(%)、R=5〜18(%)程度である。吸収率Aは従来、詳細に考察されなかったが、可視域においてA=2〜8(%)位である。本実施の形態では、従来、重要視されなかった吸収率(これに関連する吸収係数)に着目し、長波長域(380〜1000nm)における高性能ITO薄膜製造という技術ニーズに応えるために、吸収率の低減を実現したSn低濃度ITO薄膜を発明した。
通常、物理量T、R、Aの測定は、ダブルビーム分光光度計を使用して以下のように行う。ITO薄膜の透過率Tは、標準試料(ガラスや透明石英などの薄膜基板)に対して、また反射率Rは、アルミニウムの反射率に対して、走査(単色光)波長の関数として測定される。これらの測定値の間には次式の関係が成り立つ。

通常、試料の吸収特性を微視的な物性物理の観点から考察するには、量子力学の摂動論に基づくバンド構造、電子状態、キャリヤの有効質量、電子の遷移確率などで記述された光学吸収遷移過程に関連する吸収係数α(cm−1)を用いる。ここで、吸収係数αは、物質内での光の吸収量が光の浸透深さに比例するという仮定の下で、その比例定数として定義され、測定値T、Rおよび次式から求める。

本実施の形態では、ITO薄膜試料(Sn濃度:0、0.6、1.3、2.8、4.1、8.3、10.0、14.6at.%)に対して、分光光度計(島津製UV−3100)を用いて、波長範囲λ=400〜3000nmにおける透過率Tと反射率Rを測定し、この結果を式(7)に代入して、λ(nm)に対する吸収係数α(cm−1)の関係をグラフにした。このグラフは、吸収スペクトルと呼ばれる。一般に、光は、速度C、振動数ν、波長λ(=C/ν)をもつ電磁波の性質に加えて、エネルギーhν(hはプランク定数)をもつ粒子(フォトン)として扱われる。吸収スペクトルのグラフでは横軸の波長λにかえて、関係式hν(eV)=1.241λ(μm)を用いて、フォトンのエネルギーhν(eV)で表す場合が多い。酸化インジウム(In)の吸収現象を、図3のエネルギーバンド図で説明する。同図の横軸は、電子の運動量を

と表したときの電子波数kで、縦軸は電子エネルギー

である(mは電子の質量)。
一般に、光学吸収現象は、図3に示すように価電子帯の電子が、フォトンのエネルギーを獲得して、高いエネルギー状態に位置する伝導帯の空の状態密度(電子を受け入れる客席)に遷移する遷移過程(バンド間遷移とも呼ばれる)として考える。この遷移過程には、伝導帯の底(k=0)での直接許容遷移過程および価電子帯の頂上から伝導帯の底への間接遷移過程があり、これら伝導帯の底と価電子帯頂上のエネルギー幅を、光学バンドギャップ(EgO)という。光学バンドギャップは、金属や半導体の電子構造を反映した光学特性を支配する重要な物理量である。酸化インジウム(In)や、Sn原子を含むITO(In:Sn)では、直接許容遷移過程が多く報告されている。ITOでは、図3に示すように、Sn原子によって生成した電子が、伝導帯の底部を満たすので、これより高い空のエネルギー準位に電子が遷移することになる。ここで、電子が詰まった最高のエネルギー準位をFermi準位といい、この状態を縮退しているという。従って、ITO薄膜は、縮退半導体とも呼ばれる。この結果、バンドギャップは、見かけ上縮退していないEgOより大きくなり、Egとなる。このバンドギャップの広がりは、光吸収端を高エネルギー側にシフトする。これをBurstein−Moss効果という。
本実施の形態では、光学特性を支配するバンドギャップや吸収遷移過程を調べるために、測定から求めた吸収係数αを次の公式を用いて解析した。

ここで、Bは遷移確率に関する定数、nは遷移過程を特徴づける指数であり、n=2は間接遷移過程、n=1/2は直接許容遷移過程を表す。実際には、片対数グラフの横軸(平等目盛)hνをとり、縦軸に(αhν)および(αhν)1/2の値をプロットし、そのデータポイントが直線に良く乗るn値から遷移過程が決まる。また、その直線を縦軸の値がゼロの横軸に外挿した点からバンドギャップhν=Egが求まる。バンドギャップEgを与えるこの直線部分は、上述のバンド間遷移の吸収端を与える。
次に、本実施の形態において特色となる、長波長域での吸収特性の解析法をLucovskyモデルに基づき説明する({6、7})。
前述の技術ニーズから、可視域から近赤外域に至る長波長域(波長λ=380〜1000nm)において、高透過率(および低比抵抗)の高性能ITO薄膜の製造が急務となった。これに応えるために、本実施の形態では、長波長域でのITO薄膜の光吸収特性の解明と、その制御手法の確立を、Lucovskyモデルによる解析手法によって以下のように実現した。
従来、ITO薄膜の長波長域での吸収係数の物性研究は、本発明者によるDCスパッタリング法で作成したITO薄膜についての研究報告のみで({1})、スプレー法によるITO薄膜では全く行われなかった。つまり、従来の研究・技術両面では、透過率が実用上、支障のない値、T=85〜90%に収まっていることの確認のみであって、それ以上詳しい物性研究が行われなかった。
従来、知られているDCスパッタリング法による典型的なITO薄膜(電子濃度n=5x1020cm−3程度)の透過率T、反射率Rおよび吸収率Aの特徴をまず述べる。Tは、可視域(λ=380〜780nm)では T=80〜90%の値をとり、波長の増加とともに、およそλ=900nm位から単調に減少し、1800nmではT=10%以下になり、2000nmではゼロに近づく。反射率Rは、λ=380〜1200nmではR=5〜13%程度に収まり、およそ1400nmから急激に増加し、2000nm以上の赤外腺領域ではR=90%以上となり、光を反射する。この反射は、ITO薄膜中に存在する伝導電子のプラズマ振動に関係するとされている。一方、吸収率Aは、およそλ=550nm(A=1〜2%)から徐々に立ち上がり800nmではA=9%に達し、1600nmで最大値A=〜50%をとり、これよりλの増加とともに単調減少し2500nmではA=10%以下になる。このような吸収率Aの挙動は、伝導電子による吸収であろうと推測されているが、その一般的な理解は得られていない。
しかし、本発明の実施例(後述)では、スプレー法によるITO薄膜においては、長波長域(λ=500〜1000nm)での光吸収現象は、プラズマ振動の伝導電子による吸収ではなく、バンドギャップ中に存在する格子欠陥に由来することが、光学吸収係数のLucovskyモデルによる解析から発見された。Lucovskyモデルによる吸収係数の解析法は、すでに結晶シリコン中のInアクセプタの吸収や({6})、本発明者らによるアモルファスシリコン中に添加したAu不純物原子、不対電子などの格子欠陥に付随した吸収現象の解明({8})、さらには本発明者によるDCスパッタリングのITO薄膜の長波長域での酸素欠損(格子欠陥)に関連した光吸収現象の解明に成功を収めている({1})。
Lucovskyモデルによる解析法を、図4に示す典型的なITO薄膜の吸収スペクトルに基づき説明する({1、6、7、8})。同図で、低いフォトンエネルギー(hν)領域、すなわち長波長域での吸収係数αは、高いフォトンエネルギー領域におけるαの直線部分(バンド間遷移の吸収端に対応)から、その値が大きい上方に△αだけずれている。この△αは、光学吸収断面積の遷移行列要素はエネルギー依存性がなく、バンドギャップ中の格子欠陥に由来する電子捕獲準位とバンド(伝導帯・価電子帯)をデルタ関数型および放物型とした電子の遷移確率の解析から次式のように与えられる({6})。

ここで、Bは遷移を特徴づける定数である。Etは閾値エネルギーと呼ばれ、本発明で重要な役割をもつ、格子欠陥に付随したバンドギャップ中に存在するエネルギー準位(以後、局在準位と呼ぶ)を表す。指数fの値は、表1に示すように、f=0,1,1/2,3/2のいずれかの値をとり得るが、式(9)の関係が成り立つfの値を見出すことによって、局在準位を介した吸収遷移過程の詳細が決定される。
吸収遷移過程を詳述すれば、価電子帯の電子が光吸収によってフォトンエネルギーを獲得し、高いエネルギー状態の局在準位に遷移する過程と、さらに局在準位に存在する電子が、同じくフォトンエネルギーを得て、さらに高いエネルギー状態の伝導帯に遷移する過程、という二つの遷移過程が、共存するか、あるいはいずれか一つが単独に存在する。このような遷移過程を特徴づける局在準位(実体は、前述の格子欠陥)は、捕獲中心と呼ばれる。(本実験では、後述の通り、ITO薄膜中に存在する酸素欠損が捕獲中心として振舞い、二つの遷移過程が共存することが発見された)。
表1

本実施の形態では、図4の吸収スペクトル(α)の実験データから、hνの各値に対するΔαの値を求め、これを式(9)に代入する。この結果を、横軸hνに対して(△α)1/f(hν)3/fを縦軸にプロットしグラフを作成する。このグラフで、あるfの値のプロット点が直線に乗れば、吸収特性は Lucovskyモデル({6})に従っていることを示し、その直線を横軸へ外挿した点のhνの値がEtを与える。ここで、直線を与えたfの値と表1を考慮すれば、捕獲中心の荷電状態および捕獲中心と電子の遷移先のバンド(伝導帯)の状態密度(量子力学的な電子を受け入れることの出来る客席)の電子波数に対する形(放物型、線形型)が決定される。
この解析法によって、本発明の実施例では、長波長域でのSn低濃度ITO薄膜の吸収特性は、従来、推測されていたプラズマ振動の伝導電子による吸収ではなく、バンドギャップ中に存在する酸素欠損に付随する局在準位(捕獲中心)を介した、上記二つの遷移過程が共存する光吸収現象であることが発見された(後述)。この発見は、従来、未踏であった長波長域でのスプレー法によるITO薄膜の光吸収現象を解明した嚆矢研究であり、その研究手法はSn低濃度ITO薄膜の製造において重要な役割を果たした。
上記、本実施の形態の通り、ITO薄膜の製造を行い、次いで各種物理特性の測定を行った。以下、測定結果を説明する。
図5は、スプレー溶液中のSn濃度に対するITO薄膜中のSn濃度(分析値)の関係を示す。両者の関係は高濃度まで、ほぼ比例関係にあり、本実施の形態におけるスプレー法によるITO薄膜製造の有効性をあらわしている。
図6は、ITO薄膜中Sn濃度に対する、その膜厚の関係である。Sn高濃度側で、膜厚は、ばらつきを示すが、傾向としては、ほぼ一定値と見なしうる。
図7は、ITO薄膜のX線回折結果を、薄膜中Sn濃度をパラメータとして示す。測定されたITO薄膜の全ての回折ピーク位置は、薄膜中Sn濃度に無関係に、標準試料の酸化インジウム(In)粉末の回折ピーク(JCPDSカード、No06−0416)と、誤差内で一致していた。各回折ピークに対応する配向面は、(211)、(222)、(400)、(411)、(510)、(440)、(622)を示す、常圧で安定な立方晶系に属するビックスバイト結晶構造の多結晶ITO薄膜であった。これらの結果は、澤田らの結果と一致していた({2})。従来のDCスパッタリング法によるITO薄膜では、最大回折ピークをもつ配向面は、(200)であり、本スプレー法のITO薄膜と唯一異なる点である。しかし、本実験のITO薄膜は、配向面(400)のメインピーク強度は他のピーク強度より10倍程大きく、配向性のよい多結晶ITO薄膜であることが分かる。
図8は、ITO薄膜中Sn濃度に対する、その格子定数の関係である。格子定数は、最大回折角2θ=60.67の(622)配向面から算出した。同図より、Sn濃度がゼロでは格子定数a=10.110Åで、標準In粉末の格子定数の値(a=10.117Å)に近い値であった。Sn濃度の増加に伴ない、本スプレー法によるITO薄膜の格子定数は、澤田らの結果〔{2}とほぼ一致して、比例的に増加している。これは従来から指摘されているDCスッパッタITO薄膜中での、In3+サイトへのSn4+の置換によって発生した、Sn4+イオン周囲のIn3+イオンとのクーロン反発力による格子の広がりであると同様に考えられる。なお、図中丸印は、本発明者が以前測定したDCスパッタリング法で作成した高性能ITO薄膜の値であり、本スプレー法によるITO薄膜の格子定数より、大きな格子の広がりによる大きな値をとっている。
図9は、ITO薄膜中Sn濃度に対する,その膜厚方向の結晶粒径の関係を示す。また同様にSn濃度に対する格子歪の関係を図10に示す。結晶粒径(ε/Å)および格子歪(η)は、を図7に示された回折腺ピークの積分幅(β/rad)を求め、これを次式に適用して求めた(Θは回折角)。

図9によれば、Sn濃度の全域で、結晶粒径は500〜570Åの範囲に収まっている。これらの値は、本発明者が以前測定したDCスパッタリング膜の結晶粒径の値410〜480Åより大きく、本ITO薄膜は結晶性が優れている。図10では格子歪の値はばらつき傾向を示すが、本発明者が以前測定したDCスパッタリング膜(基板温度400℃)の値より小さい値を示している。これは本スプレー膜の基板温度が比較的低い350℃であるにも関わらず、格子歪の小さい良質のITO薄膜であることを明示している。
図11は、ITO薄膜中Sn濃度に対するキャリヤ濃度nの関係を示す。ITO薄膜のホール電圧の極性から、キャリヤは電子であり、その濃度nは式(4)から算出した。従来、Sn≒4at.%以下のSn低濃度ITO薄膜のキャリヤ濃度nは、報告されていなかったが、図11に示すように、Sn=0.6at.%では大きい値n=6.6x1020cm−3を示すことが見出された。これより高濃度側、Sn=1.3〜14.6at.%に至るまで、澤田らの値({2})にほぼ一致するn=5〜6x1020cm−3の範囲に収まる一定値を示した。この実験事実は、わずかなSn=0.6at.%の添加(ドーピング)によって、実用に供し得るキャリヤ濃度をもつITO薄膜の製造が実現することを明示していおり、実用面において極めて重要な知見を提供している。
図12は、ITO薄膜中Sn濃度に対する式(2)から算出した比抵抗ρの関係を示す。従来、キャリヤ濃度nと同様に、Sn≒4at.%以下のSn低濃度ITO薄膜の比抵抗ρは、報告されていなかったが、図12に示すように、わずかなSn=0.6at.%のドーピングによってρ≒1.7x10−4Ωcmという実用的にも高性能ITO薄膜の範疇に入る小さな値を見出した。Sn=1.3〜2.8at.%でも、ほぼ同じρ≒1.7x10−4Ωcmの値を示し、これより高濃度Sn=4〜14.6at.%の範囲ではρ≒1.7〜3.0x10−4Ωcmの値に収まった澤田らの値(ρ≒2〜5.5×10−4Ωcm)({2})よりも優れた小さなρ値を示した。
図13は、ITO薄膜中Sn濃度に対するホール移動度μの関係を示す。式(5)から算出した縦軸のホール移動度μは、電子に対するホール移動度である。従来、上記nやρと同様に、Sn≒4at.%以下のSn低濃度ITO薄膜のホール移動度は報告されていなかったが、図13のように、Sn=0.6at.%ではμ≒65cm/vsの値を見出した。Sn=1.3〜2.8at.%では、平均値としてμ≒65cm/vsの値を示し、これより高濃度Sn=4〜14.6at.%の範囲では、μ≒67cm/vsから50cm/vsに減少する結果を見出した。この高濃度域におけるμの値は、澤田らの値μ≒25〜42cm/vs({2})よりも大きく、電子が動きやすいことを示している。これは、本実施例のITO薄膜は、キャリヤ(電子)の散乱効果を低減した高性能なITO薄膜であることを実証している。
以上を要するに、電気特性を特徴づけるキャリヤ濃度、比抵抗、ホール移動度の実験結果を要約すると、本実施例のITO薄膜は、前述の「発明が解決しようとする課題」の(ロ)比抵抗増加を生じる電子散乱効果の低減を正に実現している。
図14は、本実施例のITO薄膜(Sn=0,0.6,4.1at.%)の透過率Tと反射率Rを分光光度計の走査単色光の波長λ(nm)に対して得られた実際の測定結果である。ITO薄膜の石英基板に対する透過率の測定データ(T=100%)も併せて図中に示してある。なお、反射率は、その曲線の重なりを防ぎ特徴を見易くするために、Sn=4.1at.%のITO薄膜試料の測定結果のみを記載した。同図で、TとRの値がλに対して振動しているが、これは薄膜表面と基板の間での光の干渉効果によるものであり、ITO薄膜試料に限らず、一般的に半導体薄膜試料の透過率・反射率測定において現れる現象である。図14よりSn濃度が高くなるにつれて透過率の減少と反射率の増加傾向は短波長側にシフトすることが分かる。
次に、これらTとRの振動曲線の平均値を式(7)に代入して、吸収係数αを求めた。図14において、可視から近赤外域の波長λ≒400〜1000nmにおいて、透過率Tの平均値は87%であり、澤田らの平均値T=83%より優れている({2})。Sn=4.1at.%のITO薄膜試料において、およそλ≒1400nmから長波長域に向かって、透過率の減少と、逆に反射率の急峻な増加が見られるが、これらは従来から一般的に指摘されているITO薄膜中の伝導電子のプラズマ振動による光の反射によるものと思われる。
図15は、Sn低濃度(0,0.6,1.3,2.8at.%)のITO薄膜試料に対する吸収スペクトルの測定結果である。従来研究ではITO薄膜の光吸収端(バンドギャップの大きさに関係する)を調べるため、単色光波長λ≒250〜400nmを持つ紫外から可視域の波長範囲での吸収スペクトルを主に対象としてきた。従って、図15は、従来に無い新規性のある吸収スペクトル測定結果である。
図15において、単色光波長の短波長側(λ≒310〜360nm)では、いずれの試料も吸収係数αのデータポイントは良く直線に乗っており、指数関数型のバンド端へのバンド間遷移を示している。この直線部分は、Sn濃度の増加とともに短波長側(フォトンエネルギーhυの値が大きい方)にシフトしている。これは吸収端(バンドギャップ)が大きくなることを示している(Burstein−Moss効果)。これより長波長側(λ≒340〜1000nm)では、波長の増加とともに、αのデータポイントは直線から外れ曲がるようになる。これは、格子欠陥を介した光吸収特性の特徴を示しており({6,8})、さらにλ≒500〜1000nmでは、Sn濃度が0から2.8at.%に増加すると、αは一定値に近づきながら比例的に減少することが初めて発見された。
このαの減少は従来に無い、前記、発明が解決しようとする課題(イ)項、長波長域での光吸収効果の低減をここに初めて実現したものであり、本実施例のSn低濃度ITO薄膜の製造法は高性能・低価格のITO薄膜の工業化に対して重要な技術手法を提供している。
図16は、Sn高濃度(4.1,8.3,10.0,14.6at.%)のITO薄膜試料に対する吸収スペクトルの測定結果である。比較のためにSn=0,2.8at.%の試料の測定データも載せてある。同図より、短波長域の吸収端を表すαの直線部分と長波長域でのαの曲がり部分と一定値の部分が図15の場合と同様に観測された。しかし、αの一定値部分は、Sn=2.8at.%から4.1,8.3,10.0,14.6at.%に増加すると、その値がα≒1.3x10cm−1から2.3x10cm−1に増加する。ここで、Sn=2.8at.%のα≒1.3x10cm−がαの一定値部分の最小値を与えており、これが前記、発明が解決しようとする課題(イ)項、長波長域での光吸収効果の低減を実現した具体的な「低減技法」として初めて発見された。本実施例のSn低濃度ITO薄膜の製造法は高性能・低価格のITO薄膜の工業化・実用化に対して重要な技術手法を提供している。
図17、図18、図19、図20は、吸収スペクトルの測定結果(図15、図16)に示された波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対する吸収係数αの値を式(8)に代入し、その計算結果(αhυ)1/nを波長λ(フォトンエネルギーhυ)に対して表したものである。ただし、図17と図18は、n=112の場合で、バンド間遷移の中で直接許容遷移過程(電子波数k=0における価電子帯から伝導帯底部への電子遷移)に対する計算結果を示す。両図において、n=1/2とした計算値(αhυ)が良く直線に乗っており、本実施例のITO薄膜は全て、直接許容遷移過程に従っていることが分かる。また、この直線を(αhυ)=0に外挿し、横軸を切る点のhυの値が、バンドギャップEgの値を与える。図19において、Sn=0のIn試料ではEg=3.6eV、Sn=2.8at.%の低濃度ITO薄膜試料ではEg=4.1eVを得る。図18のSn高濃度試料では、Eg=4.1eVであり、従来の報告値とほぼ一致している({3})。
図19と図20は、間接遷移過程(k=0からずれた価電子帯から伝導帯底部への電子遷移)に対するn=2とした計算値(αhυ)1/2を表す。両図において、計算値は直線から外れた曲線を示しており、本実施例のITO薄膜は全て間接遷移過程に従わないことが分かる。
以上を要するに、吸収スペクトルの解析から、本実施例のSn低濃度ITO薄膜試料を含む全ての試料の光学吸収過程は、バンド間直接許容遷移過程で説明された。これは、従来のDCスパッタリングによるITO薄膜の場合と同じである。
図21は、前述のBurstein−Moss効果による吸収端の短波長域へのシフトを分かり易くしたグラフである。同図の縦軸は、図17と図18で求めたバンドギャップEgであり横軸は図11に示された電子濃度nのn2/3である。Egとn2/3の関係は、金属の自由電子モデルの場合のフェルミエネルギーを表す次式で与えられる。(これは、ITO薄膜では、電子が伝導帯底部を満たし、フェルミエネルギーが伝導帯に入り込んだ、いわゆる縮退状態にある金属に類似した電子状態をとるからである。)

ここで、Egoは縮退していない状態でのバンドギャップである。hはプランク定数、mは電子の換算質量で(1/m)=(1/m)+(1/m)として与えられる。mは伝導帯の有効質量、mは価電子帯の有効質量である。図21より、Ego=3.6eV,m=0.45m(mは電子の静止質量)の値を得た。前者の値は、従来、知られているスパッタリングITO薄膜の値より約3%程度小さく、後者は約10%程度小さい。
図22は、ITO薄膜中Sn濃度に対するバンドギャップEgと伝導帯底部近傍の状態密度の乱れを表すUrbachエネルギーEuの値をプロットしたものである。ここで、Egは図17と図18で求めた値である。Euの値は、半導体物理で良く使用される、指数関数型のバンド端を持つバンド間遷移に対する吸収係数の表式

(αは定数)および吸収スペクトルの測定データ(図15、図16)を用いて算出した。図22より、EgはSn=0から4.1at.%まで増加し最大値Eg=4.13eVを経て、それより濃度の増加とともに減少する。UrbachエネルギーEuは、Sn濃度にあまり依存せず、ほぼ一定値Eu=0.83eVを示す。一般的に、UrbachエネルギーEuは、半導体多結晶やアモルファスシリコンなどで、通常観測される物理量であって、転位、点欠陥、結晶粒界、不対電子(ダングリングボンド)などの格子欠陥や、不純物による格子歪などに起因する。スプレー法によるITO薄膜に対するEuの値は、本発明者の知る限り、本報告が初めてであるが、その実体は考究中である。しかし、Sn低濃度ITO薄膜に対する長波長域(λ≒500〜1000nm)での吸収特性(図15、図16)を一般的に理解する上でEuの値は重要な役割をもつ。
図23と図24は、式(9)を用いたLucovskyプロットのグラフである。横軸はフォトンエネルギーhυで、縦軸は表1のf=3/2および図15と図16のαの値を式(9)に代入し、これより(△α)2/3(hυ)を計算したものである。両図とも、hυ=2.8eV(λ=430nm)からhυ=1.24eV(λ=1000nm)に至る可視〜近赤外域において、計算値は二つの直線に良く乗っている。これは、本ITO薄膜の吸収特性が、Lucovskyモデルに従っていることを明示している。故に、両図の直線が横軸を切る点のhυの値が、吸収特性を特徴づける格子欠陥に付随した局在準位の位置、すなわち式(9)の閾値エネルギーEtの値を与える。図23と図24する吸収遷移過程は、局在中心を介した電子波数k=0におけるバンド間直接許容遷移過程であることを示す。詳述すれば、長波長の光照射によってフォトンエネルギーを獲得した価電子帯のUrbach裾にある電子は、Etだけ高いエネルギーに位置する局在準位に励起され、さらに短波長の光照射によって、より大きなフォトンエネルギーを獲得した局在準位の電子は、Etだけ高いエネルギーに位置する伝導帯のUrbach裾に励起されるという遷移過程である。これは、今まで得られた測定値から次のように実証される。
すなわち、バンドキャップEgは、Eg=Et+Et+2Eu=0.9+1.6+2x0.82=4.14(eV)となり、図22に示されたバンドギャップ最大値の測定結果Eg≒4.14(eV)に正に一致する。この事実は、本実施の形態で記述したように、スプレー法による高性能Sn低濃度ITO薄膜の製造に成功し、さらに光学特性・電気特性の測定が、高精度・高信頼性をもって再現性良く遂行されたことを明示している。最後に、今まで触れなかった閾値エネルギーEtとEtをもつ局在準位の実体を次に述べる。
図26は、本Sn低濃度ITO薄膜の結晶構造の模式図を示す。一般的に、DCスパッタリング法などで作製されたITO薄膜中には、結晶構造を形成する構成原子の他に、必ず酸素欠損、原子空孔、ボイド(空隙)、転位、などの格子欠陥に加えて、特にITO薄膜ではIn3+、Sn4+などのイオンや格子に浸入型に割り込んだSn原子およびがIn原子やSn原子が酸素原子と複雑に絡んだ酸素複合体などが存在する。ここでは、本発明者がすでに明らかにしたDCスッパッタITO薄膜中の酸素欠損が、その長波長域の光学吸収特性を支配しているという報告を踏まえて(〔1〕)、本Sn低濃度ITO薄膜の長波長域(λ≒500〜1000nm)での光吸収特性を支配する主要格子欠陥は、同様に、酸素欠損であると仮定する。
酸素欠損を仮定した妥当性が、Lucovskyモデルによる解析結果から以下のように示される、すなわち、図25の局在準位のエネルギー値(EtとEt)が、表1のf値をf=3/2とした測定結果の解析によって、発見された事実から、局在準位の実体が次のように明らかになる。表1によれば、f=3/2の場合の遷移過程は、(1)価電子帯の電子の遷移先となる荷電をもつ捕獲中心(局在準位のことで線形型のバンド状態密度をもつ)への電子遷移である。もう一つは、(2)中性の捕獲中心から遷移先のバンド(放物型の状態密度をもつ)への電子遷移である。ITO薄膜中の酸素欠損は、単色光を未照射の暗状態では+2eに帯電しており、単色光照射によって価電子帯の電子がエネルギーEtを得て動きやすくなり、これが+2eに帯電している酸素欠損に捕獲され、酸素欠損を中性化する。これが、図25のエネルギー差Etに対する(1)の電子遷移過程に対応する。電子を捕獲して中性状態になった酸素欠損においては、さらに短波長の単色光照射によって、より大きなフォトンエネルギーを獲得した中性状態の電子は、高いエネルギーに位置する伝導帯のUrbach裾に励起される。これが図25のエネルギー差Etに対する(2)の電子遷移過程に対応する。
以上要するに、局在準位の実体は酸素欠損である。この結果、本Sn低濃度ITO薄膜の長波長域(λ≒500〜1000nm)で発見された、図15と図16の吸収係数の低減に付随した光吸収特性は、酸素欠損に由来する局在準位を介した電子遷移過程であると結論される。
さらに、この酸素欠損の量を減らす制御技法が発明されれば、今以上に高性能なITO薄膜が製造可能となる。これは次の課題としたい。
本実施の形態で述べたように、従来に無いSn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜の製造を行い、その電気特性と光学特性の測定から得られた新規実験事実は、以下の発明の効果がある。
(イ)Sn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜の比抵抗値ρ≒1.7Ωcmは(図12)、Sn高濃度(4.1,8.3,10.0,14.6at.%)ITO薄膜の比抵抗値ρ≒1.9〜3.0Ωcmよりも小さく、ITO薄膜中のSn濃度の希薄化は、比抵抗の低減という本発明が解決しようとする課題に応える効果がある。この比抵抗の低減は、図13に示した大きなホール移動度の実験的観測に裏付けされた、ITO薄膜中での電子散乱効果の低減によって実証された。
(ロ)Sn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜の光吸収特性は(図15、図16)、長波長域(λ≒500〜1000nm)での吸収係数の顕著な低減という、「本発明が解決しようとする課題」に応える効果がある。一般に、ITO薄膜は、図15、図16に示されるように、波長約420nm以下の短波長域(色では青、紫に対応)における吸収係数の値が大きく光を良く吸収するので、膜厚が大きくなると黄色に着色するようになり可視域(λ=380〜780nm)での光透過性が悪化する。同様に、波長λ≒500〜1000nmの長波長域(色では青緑、緑、黄緑、黄、橙、赤に対応)の吸収係数が大きくなると、当然のことながら最も実用上重要な、ITO薄膜の可視域での光透過性が悪化する。従って、本発明者によって発見された長波長域での吸収係数の低減は、可視域で高光透過性を有する高性能なSn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜製造によって実現した。これは高性能ITO薄膜の製造という、冒頭で述べた技術ニーズに応える、工業的観点から極めて重要な利点を提供する。
(ハ)Sn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)であっても高性能なITO薄膜が製造されたことは、現在実用化されているITO薄膜製造で多用されているスパッタリングターゲット(Sn濃度4at.%が多い)中のSn添加量を少なくできるという金属材料の省資源化に通じる効果がある。
(ニ)本実施の形態で駆使した、InCl・3.5HOとSnCl・2HOをエタノールで希釈した溶液を用いたスプレー法によるITO薄膜の製造法は、従来の他の研究者によるスプレー法(管状電気炉によるスプレー霧の予備加熱と基板加熱の2段式加熱方式を採用したもの)に比べて、大気中・開放で薄膜製造できる利点に加えて、製法が簡素で設備費が低価格であり、大面積で高性能なSn低濃度(0.6,1.3,2.8at.%)ITO薄膜の工業化を可能にする波及効果がある。
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
[参考文献]
〔1〕 Y.Fujita and K.Kitakizaki,J.Korean Inst.surface Eng.29(1996)660.
〔2〕 Y.Sawada,C.Kobayashi,S.Seki,and H.Funakubo,Thin Solid Films 409(2002)46.
〔3〕 長友隆男、大木 修、応用物理 47(1978)618.
〔4〕 H.Kostlin,R.Jost,and W.Lems,Phys.Stat.sol.(a)
〔5〕 J.C.Manifacier,L.Szepessy,J.F.Bresse,M.Perotin and R.Stuck,Mat.Res.Bull.14(1979)163.
〔6〕 G.Lucovsky,Solid State Commun.3(1965)299.
〔7〕 平林 泉、固体物理 20(1985)255.
〔8〕 M.Yamaguchi,Y.Fujita,and K.Morigaki,J.Non−Cryst.Solids 114(1989)283.
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたITO薄膜であって、
Sn濃度が0.6〜2.8at.%であり、
単色光波長800nmにおける吸収係数αが、2.0x10cm−1以下である
ことを特徴とするITO薄膜。
【請求項2】
ITO薄膜は透明導電膜である
ことを特徴とする請求の範囲第1項記載のITO薄膜。
【請求項3】
大気中に開放した基板を加熱し、かつインジウム塩と錫塩の混合溶液をこの基板に噴霧する工程を含み、
ITO薄膜中のSn濃度が0.6〜2.8at.%である
ことを特徴とするITO薄膜の製造方法。
【請求項4】
錫塩は、塩化第1錫である
ことを特徴とする請求の範囲第3項記載のITO薄膜の製造方法。
【請求項5】
溶液は、アルコール溶液である
ことを特徴とする請求の範囲第3項記載のITO薄膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/021436
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513533(P2005−513533)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012710
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,732)
【Fターム(参考)】