説明

ITQ−26、新規結晶性微孔質物質

ITQ−26(インスティチュート・デ・テクノロジア・キミカ番号26)は、四面体原子を橋架けすることができる原子によって連結された四面体原子の骨格を有する新規結晶性微孔質物質であって、四面体原子骨格がその骨格中で四面体的に配位した原子間の相互連結によって画定される物質である。ITQ−26は、有機構造指向剤入りのシリケート組成物で製造することができる。それは、それを新規物質と特定する、独自のX線回折パターンを有する。ITQ−26は空気中での焼成に安定であり、炭化水素を吸収し、そして炭化水素転化に対して触媒活性がある。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ゼオライトおよびシリコアルミノホスフェートをはじめとする、微孔質物質は、吸収剤、触媒および触媒担体として石油産業で広く使用されている。それらの結晶性構造は、ほとんどの炭化水素と類似した寸法(<20Å)の一様な孔開口部、チャネルおよび内部ケージを含有する3次元骨格からなる。骨格の組成は、それらがアニオン性であることが可能であり、負電荷とバランスをとるための非骨格カチオンの存在を必要とする。アルカリまたはアルカリ土類金属カチオンなどの、これらの非骨格カチオンは、従来法でのイオン交換技法を用いて別のタイプのカチオンと完全にかまたは部分的にかのどちらかで、交換可能である。これらの非骨格カチオンが、例えば、酸処理またはアンモニウムカチオンとの交換、引き続くアンモニアを除去するための焼成によってプロトン形に変換される場合、それは、触媒活性を有するブレンステッド(Bronsted)酸部位を有する物質を与える。酸性度と制限された孔開口部との組み合わせは、多くの反応で生成物、反応体、および/または遷移状態の幾つかを排除するかまたは制限するそれらの能力のために、他の物質では利用できない触媒特性をこれらの物質に与える。純シリカおよびアルミノホスフェート骨格などの、非反応性物質もまた有用であり、液体、ガス、およびアルケンなどの反応性分子の吸収および分離プロセスに使用することができる。
【0002】
ゼオライトのイオン交換および/または吸着特性を示す、分子篩として知られる結晶性微孔質組成物の群は、アクロニム(acronym)AIPOによって特定される、アルミノホスフェート、並びに特許文献1および特許文献2に開示されているような置換アルミノホスフェートである。特許文献2は、アクロニムSAPOによって特定され、そしてそれらのX線回折パターンによって特定されるように異なる構造を有する、シリカ・アルミノホスフェートのクラスを開示している。構造物は、AlPO、SAPO、MeAPO(Me=金属)などの後の数字によって特定され(非特許文献1)、B、Si、Be、Mg、Ge、Zn、Fe、Co、NiなどによるAlおよびP置換を含んでもよい。本発明は、独自の骨格構造を有する新規分子篩である。
【0003】
エクソンモービル(ExxonMobil)および他のものは、多くの商業用途でフォージャサイト、モルデナイトおよびASM−5などの、様々な微孔質物質を広範に使用している。かかる用途には、改質、分解、水素化分解、アルキル化、オリゴマー化、脱ロウおよび異性化が含まれる。任意の新規物質は、現在用いられているそれらの触媒より触媒性能を向上させる可能性を有する。
【0004】
国際ゼオライト協会(International Zeolite Association)によって表にまとめられているように、現在150を超える公知の微孔質骨格構造物がある。多くの炭化水素プロセスの性能を向上させるための、公知の物質のそれらとは異なる特性を有する、新規構造物が必要とされている。各構造物は独自の孔、チャネルおよびケージ寸法を有し、それは上記のようなその特定の特性を与える。ITQ−26は新規骨格物質である。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,310,440号明細書
【特許文献2】米国特許第4,440,871号明細書
【特許文献3】米国特許第3,354,078号明細書
【非特許文献1】フラニゲン(Flanigen)ら、Proc.7th Int.Zeolite Conf.(1986年)、103ページ
【非特許文献2】C.セール(C.Serre)、G.フェレー(G.Ferey)、J.Mater.Chem.12(2002年)、2367ページ
【非特許文献3】N.ゼング(N.Zheng)、X.ブー(X.Bu)、B.ワング(B.Wang)、P.フェング(P.Feng)、Science 298(2002年)、2366ページ
【非特許文献4】M.R.アンダーソン(M.R.Anderson)、I.D.ブラウン(I.D.Brown)、S.ビルミノット(S.Vilminot)、Acta Cryst.B29(1973年)、2626ページ
【非特許文献5】W.M.マイアー(W.M.Meier)、H.J.モエック(H.J.Moeck)、Journal of Solid State Chemistry 27(1979年)、349ページ
【非特許文献6】G.サストレ(G.Sastre)、J.D.ゲイル(J.D.Gale)、 Microporous and mesoporous Materials 43(2001年)、27ページ
【非特許文献7】A.ツエル(A.Tuel)ら、J.Phys.Chem.B104(2000年)、5697ページ
【非特許文献8】H.コラー(H.Koller)、J.Am.Chem.Soc.121(1999年)、3368ページ
【非特許文献9】Journal of Catalysis 4(1965年)、527ページ
【非特許文献10】Journal of Catalysis 6(1966年)、278ページ
【非特許文献11】Journal of Catalysis 61(1980年)、395ページ
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ITQ−26(インスティチュート・デ・テクノロジア・キミカ(INSTITUTO DE TECNOLOGIA QUIMICA)番号26)は、原子を橋架けすることによって連結された四面体原子の骨格を有する新規結晶性微孔質物質であって、四面体原子骨格がその骨格で四面体的に配位した原子間の相互連結によって画定される物質である。ITQ−26は空気中での焼成に安定であり、炭化水素を吸収し、そして炭化水素転化に対して触媒活性がある。
【0007】
一実施形態では、本発明は、組成mR:aX:YO・nHO(ここで、Rは有機化合物であり、XはB、Ga、Al、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、Ti、およびZrの1種以上などの四面体配位できる任意の金属、より好ましくは四面体配位できる1種以上の3価金属、更により好ましくは元素B、Ga、Al、およびFeの1種以上であり、そしてYは、単独でのまたはGeおよびTiなどの四面体配位できる任意の他の4価金層と組み合わせたSiであり、かつ、ここで、m=0.01〜1、a=0.00〜0.2、そしてn=0〜10である)を有し、そして表2に挙げられるような独自の回折パターンを有するシリケート化合物である新規結晶性物質に関する。
【0008】
より具体的な実施形態では、本発明は、組成aX:YO・nHO(ここで、XはB、Ga、Al、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、Ti、およびZrの1種以上などの四面体配位できる任意の金属、より好ましくは四面体配位できる1種以上の3価金属、更により好ましくは元素B、Ga、Al、およびFeの1種以上であり、そしてYは、単独でのまたはGeおよびTiなどの四面体配位できる任意の他の4価金層と組み合わせたSiであり、かつ、ここで、a=0.00〜0.2、そしてn=0〜10である)を有し、そして表3に挙げられるような独自の回折パターンを有する焼成結晶性シリケート化合物に関する。
【0009】
本発明はまた、シリカ源、有機構造指向剤(SDA)、水、および任意の金属を混ぜ合わせる工程と、シリケートを結晶化させるに十分な温度で十分な時間加熱する工程とによる、表2と類似した回折パターンを有する結晶性シリケート化合物の合成方法を含む。
【0010】
本発明は、炭化水素含有流れから炭化水素を分離するためのITQ−26の使用を含む。
【0011】
本発明はまた、有機供給原料を転化生成物に転化するための炭化水素転化触媒としてのITQ−26の使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、新規構造の結晶性物質である。任意の多孔質結晶性物質と同様に、ITQ−26の構造は、その骨格で四面体的に配位した原子間の相互連結によって画定することができる。特に、ITQ−26は、橋架け原子によって連結された四面体(T)原子の骨格であって、表1に挙げられる方法で最も近い四面体(T)原子を連結することによって画定される四面体原子骨格を有する。
【0013】
【表1−1】

【0014】
【表1−2】

【0015】
【表1−3】

【0016】
四面体原子は、リチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、およびアンチモンの1種以上を含むが、それらに限定されない、四面体配位を有することができるものである。
【0017】
一実施形態では、この新規結晶性シリケート化合物は、組成mR:aX:YO・nHO(ここで、Rは有機化合物であり、そしてXはB、Al、Ga、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、Ti、およびZrの1種以上などの四面体配位できる任意の金属、より好ましくは四面体配位できる1種以上の3価金属、更により好ましくは元素B、Ga、Al、およびFeの1種以上であり、そしてYは、単独でのまたはGeおよびTiなどの四面体配位できる任意の他の4価金層と組み合わせたSiであり、かつ、ここで、m=0.01〜1、a=0.00〜0.2、そしてn=0〜10である)を有する。この化合物は、表2に挙げられ、図3に示される独自の回折パターンを有する。
【0018】
【表2】

【0019】
新規構造の他の実施形態は、組成aX:YO・nHO(ここで、XはB、Ga、Al、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、Ti、およびZrの1種以上などの四面体配位できる任意の金属、より好ましくは四面体配位できる1種以上の3価金属、更により好ましくは元素B、Ga、Al、およびFeの1種以上であり、そしてYは、単独でのまたはGeおよびTiなどの四面体配位できる任意の他の4価金層と組み合わせたSiであり、かつ、ここで、a=0.00〜0.2、そしてn=0〜10である)の焼成化合物を含む。この化合物は、表3および図4に挙げられる独自の回折パターンを有する。
【0020】
【表3】

【0021】
この新規化合物は、シリカ源、有機構造指向剤(SDA)、水、および任意の金属源を混ぜ合わせ、シリケートを結晶化させるのに十分な温度で十分な時間加熱する方法によって製造される。本方法は以下に記載される。
【0022】
本発明の合成多孔質結晶性物質、ITQ−26は、四面体的に配位した原子の12員環と交差することを含む独自の3次元チャネル・システムを有する結晶相である。12員環チャネルは、一方向に沿って約7.8オングストローム×約6.8オングストロームおよび他の2方向に沿って約7.1オングストローム×約6.6オングストロームの橋架け酸素原子間断面寸法を有する。
【0023】
X線回折パターンのばらつきは、ITQ−26の異なる化学組成形態間で起こるかもしれず、その結果正確なITQ−26構造はその特定の組成並びにそれが焼成されたか再水和されたかどうかにより変わることができる。
【0024】
合成されたままの形態でITQ−26は、CuKα放射で測定されたその本質的な線が表2に挙げられる、特徴的なX線回折パターンを有する。ばらつきは、具体的な組成および構造物におけるその充填量(loading)に応じて起こる。このため、強度およびd−間隔は範囲として与えられる。
【0025】
本発明のITQ−26物質は、結晶性の損失なしに有機鋳型形成剤を除去するために焼成されてもよい。これは、炭化水素などの他のゲスト分子のその後の吸収のために本物質を活性化するのに有用である。シンクロトロン放射で測定された、焼成/脱水ITQ−26を独自に画定する、本質的な線は表3に示される。ばらつきは、具体的な組成、温度および構造における水和のレベルに応じて起こる。このため、強度およびd−間隔は範囲として与えられる。
【0026】
加えて、上の表1でのような四面体原子の相互連結によるITQ−26の構造を説明するために、それは、物質の構造要素を全て含有する最小の繰り返し単位である、その単位格子によって画定されてもよい。ITQ−26の孔構造は、12員環チャネルの方向下方へ図2(四面体原子のみを示す)に例示される。単一の単位格子単位が図2にあり、その限界はボックスによって画定される。表4は、オングストロームの単位で単位格子における各四面体原子の典型的な位置をリストする。各四面体原子は橋架け原子に結合し、それはまた隣接する四面体原子に結合する。四面体原子は、リチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、およびアンチモンの1種以上を含むが、それらに限定されない、四面体配位を有することができるものである。橋架け原子は、2つの四面体原子を連結することができるものであり、その例には、酸素、窒素、フッ素、硫黄、セレン、および炭素原子が挙げられるが、それらに限定されない。
【0027】
酸素の場合には、橋架け酸素がまた水素原子に連結されてヒドロキシル基(−OH−)を形成することもまた可能である。炭素の場合には、炭素がまた2つの水素原子に連結されてメチレン基(−CH−)を形成することもまた可能である。例えば、橋架けメチレン基は、ジルコニウムジホスホネート、MIL−57で見られた。非特許文献2を参照されたい。橋架け硫黄およびセレン原子は、微孔質物質のUCR−20−23群に見られた。非特許文献3を参照されたい。橋架けフッ素原子は、ABW構造タイプを有する、リチウムヒドラジニウムフルオロベリレートに見られた。非特許文献4を参照されたい。四面体原子は、他の結晶力(例えば、無機若しくは有機化学種の存在)のために、または四面体および橋架け原子の選択によって動き回るかもしれないので、±1.0オングストロームの範囲が、xおよびy座標位置について、そして±0.5オングストロームの範囲がz座標位置について暗示される。
【0028】
【表4−1】

【0029】
【表4−2】

【0030】
【表4−3】

【0031】
ITQ−26の完全な構造は、十分に連結された3次元骨格で上に定義されたような多数の単位格子を連結することによって構築される。1単位格子中の四面体原子は、その隣接単位格子の全てにおける幾つかの四面体原子に連結される。表1はITQ−26の所与の単位格子について四面体原子全ての連結をリストしているが、連結は、同じ単位格子中の特定の原子へではなくて、隣接単位格子へであってもよい。表1にリストされる連結の全ては、それらが同じ単位格子にあるか隣接単位格子にあるかどうかにかかわらず、最も近い四面体(T)原子に対する連結である。
【0032】
表4に挙げられたデカルト(Cartesian)座標は、理想的な構造における四面体原子の位置を正確に反映するかもしれないが、真の構造は、上の表1に示されるような骨格原子間の連結性によってより正確に記載することができる。
【0033】
この連結性を記載するための別の方法は、非特許文献5によって微孔質骨格に適用されているような配位シーケンスの使用による。微孔質骨格で、各四面体原子、N(T−原子)は、橋架け原子(典型的には酸素)によってN=4隣接T−原子に連結される。これらの隣接T−原子は次に、次のシェル中のNT−原子に連結される。第2シェル中のN原子は、第3シェル中のNT−原子に連結される、等々である。各T−原子は1回カウントされるのみであり、その結果、例えば、T−原子が4員環にある場合に、第4シェルでN原子は2回カウントされない、等々である。この方法論を用いて、配位シーケンスは、T−原子の4−連結ネットの各独自のT−原子について決定することができる。次の行では、各シェルについてT−原子の最大数をリストする。
=1 N≦4 N≦12 N≦36 N≦4×3k−1
【0034】
【表5】

【0035】
所与の構造についての配位シーケンスを決定するための一方法は、コンピュータープログラム・ゼオTサイト(zeoTsite)を用いて骨格原子の原子座標からである(非特許文献6を参照されたい)。
【0036】
ITQ−26構造についての配位シーケンスは表5に挙げられる。表1にリストされるようなT−原子連結性はT−原子についてのみである。酸素などの橋架け原子は通常T−原子を連結する。T−原子のほとんどは橋架け原子によって他のT−原子に連結されるが、骨格構造を有する物質のある特定の結晶では、多数のT−原子が互いに連結されなくてもよいことが可能であることは理解される。非連結性の理由には、結晶のエッジに置かれたT−原子および、例えば、結晶中の空きに起因する欠陥サイトが含まれるが、それらによって限定されない。表1および表5にリストされる骨格は、その組成、単位格子寸法または空間群対称によって決して制限されない。
【0037】
理想的な構造は4−配位T−原子のみを含有するが、ある種の条件下では骨格原子の幾つかが5−または6−配位であってもよいことは可能である。これは、例えば、物質の組成がリンおよびアルミニウムT−原子を主に含有するときに水和の条件下で起こる場合がある。これが起こるとき、T−原子はまた水分子(−OH)の、またはヒドロキシル基(−OH)の1つ若しくは2つの酸素原子に配位してもよいことが分かる。例えば、分子篩AlPO−34は非特許文献7によって記載されているように水和すると幾つかのアルミニウムT−原子の配位を4−配位から5−および6−配位に可逆的に変えることが知られている。幾つかの骨格T−原子が非特許文献8によって記載されているように物質がフッ素の存在下に製造されるときにフッ化物原子(−F)に配位して5−配位T−原子の物質を製造できることもまた可能である。
【0038】
本発明はまた、シリカ源、有機構造指向剤(SDA)、水、および場合により金属源、Xを混ぜ合わせることによる、モル比の点から見て、次の範囲内:
R/YO 0.01〜1
O/YO 2〜50
X/YO 0〜0.2
そして好ましくは次の範囲内:
R/YO 0.1〜0.5
O/YO 5〜20
X/YO 0〜0.1
の組成の、そして、XがB、Ga、Al、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、Ti、およびZrの1種以上などの四面体配位できる任意の金属、より好ましくは四面体配位できる1種以上の3価金属、更により好ましくは元素B、Ga、Al、およびFeの1種以上であり、そしてYは、単独でのまたはGeおよびTiなどの四面体配位できる任意の他の4価金層と組み合わせたSiである、表2と類似した回折パターンを有するITQ−26の結晶性シリケート組成物の合成方法を含む。
【0039】
前記有機構造指向剤(SDA)は好ましくは1,3−ビス−(トリエチルホスホニウムメチル)ベンゼンである。図1を参照されたい。シリカ源は、コロイド状、溶融若しくは沈澱シリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム若しくはカリウム、またはオルトケイ酸テトラエチルなどの有機ケイ素などであることができる。金属源は、ホウ酸、ゲルマニウム(IV)エトキシド、酸化ゲルマニウム、硝酸ゲルマニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム並びに硝酸鉄、塩化鉄、および硝酸ガリウムなどの金属Xの様々な塩などであることができる。混合物は次に、シリケートを結晶化させるのに十分な温度で十分な時間加熱される。
【0040】
所望の程度まで、そして物質のX/YOモル比に依存して、合成されたままのITQ−26中に存在するいかなるカチオンも、他のカチオンとのイオン交換によって当該技術で周知の技法に従って置き換えることができる。好ましい置換カチオンには、金属イオン、水素イオン、および水素前駆体、例えば、アンモニウムイオン並びにそれらの混合物が含まれる。特に好ましいカチオンは、ある種の炭化水素転化反応のために触媒活性を調整するものである。これらには、水素、希土類金属並びに元素の周期表の第IIA族、第IIIA族、第IVA族、第VA族、第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族および第VIII族の金属が含まれる。
【0041】
本発明の結晶性物質は、現在の商業的/工業的に重要な多くのものをはじめとする、多種多様な化学変換プロセス、特に有機化合物転化プロセスを触媒するために使用することができる。単独でまたは他の結晶性触媒をはじめとする1種以上の他の触媒活性がある物質と組み合わせて、本発明の結晶性物質によって効果的に触媒される化学変換プロセスの例には、酸活性の触媒を必要とするものが挙げられる。
【0042】
このように、その活性形態でITQ−26は、アルファ試験で測定することができる、高い酸活性を示すことができる。アルファ値は、標準触媒と比べた触媒の分解触媒活性のおおよその指標であり、それは相対的な速度定数(単位時間当たりの触媒の体積当たりの正ヘキサン転化の速度)を与える。それは、1のアルファ(速度定数=0.016秒−1)として取られるシリカ−アルミナ分解触媒の活性をベースとしている。アルファ試験(Alpha Test)は、それぞれが当該記載に関して参照により本明細書に援用される、特許文献3、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11に記載されている。本明細書で用いられる試験の実験条件には、538℃の一定温度、および非特許文献11に詳細に記載されているような可変流量が含まれる。
【0043】
触媒として使用されるとき、本発明の結晶性物質は、いかなる有機成分の一部または全てを除去するための処理にかけられてもよい。これは、合成されたままの物質が少なくとも約370℃の温度で少なくとも1分間、そして一般的には20時間以下加熱される熱処理によって都合よく達成される。大気圧より低い圧力を熱処理にために用いることができるが、大気圧が便利さのために望ましい。熱処理は、約927℃以下の温度で行うことができる。熱処理された生成物は、特にその金属、水素およびアンモニウム形態で、ある種の有機、例えば、炭化水素転化反応の触媒作用において特に有用である。
【0044】
触媒として使用されるとき、本結晶性物質は、水素化−脱水素化機能が行われるべきである場合タングステン、バナジウム、モリブデン、レニウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、または白金若しくはパラジウムのような、しかしそれらに限定されない貴金属などの水素化成分と密に組み合わせることができる。かかる成分は、共結晶化を経て組成物中に存在することができ、第IIIA族元素、例えば、アルミニウムが構造においてその中に含浸されるまたはそれと密に物理的に混合される程度に組成物中へ交換することができる。かかる成分は、例えば、白金の場合には、ITQ−26を、白金金属含有イオンを含有する溶液で処理することによってなど、その中にまたはその上に含浸させることができる。このように、この目的のための好適な白金化合物には、塩化白金酸、塩化第1白金および白金アミン錯体を含有する様々な化合物が含まれる。
【0045】
本発明の結晶性物質は、吸着剤としてかまたは有機化合物転化プロセスにおける触媒としてかのどちらかで用いられるとき、少なくとも部分的に脱水されるべきである。これは、空気、窒素などのような雰囲気中で、そして大気圧、大気圧より低い圧力または大気圧より高い圧力で100℃〜約370℃の範囲の温度に30分〜48時間加熱することによって行うことができる。脱水はまた、単にITQ−26を真空中に置くことによって室温で行うこともできるが、より長い時間が十分な量の脱水を得るために必要とされる。
【0046】
多くの触媒の場合におけるように、本新規結晶を、有機転化プロセスに用いられる温度および他の条件に耐性がある別の物質と組み合わせることが望ましい場合がある。かかる物質には、粘土、シリカおよび/またはアルミナなどの金属酸化物などの無機物質だけでなく、活性および不活性物質並びに合成または天然ゼオライトが含まれる。後者は、天然のかまたはゼラチン状沈澱若しくはシリカと金属酸化物との混合物を含むゲルの形態でかのどちらかであってもよい。本新規結晶と併せての、即ち、それと組み合わせられたまたは、活性である、本新規結晶の合成中に存在する物質の使用は、ある種の有機転化プロセスにおいて触媒の転化率および/または選択性を変える傾向がある。不活性物質は、反応の速度をコントロールするための他の手段を用いることなく生成物を経済的におよび規則正しく得ることができるように、所与のプロセスにおける転化の量をコントロールするための希釈剤として適切に役立つ。これらの物質は、商業的運転条件下での触媒の圧潰強度を向上させるために、天然粘土、例えば、ベントナイトおよびカオリン中へ組み入れられてもよい。前記物質、即ち、粘土、酸化物などは、触媒のためのバインダーとして機能する。商業用途では触媒が粉末様物質に分解するのを防ぐことが望ましいので、良好な圧潰強度を有する触媒を提供することが望ましい。これらの粘土および/または酸化物バインダーは、触媒の圧潰強度を向上させるという目的のためのみに普通は用いられてきた。
【0047】
本新規結晶と複合化させることができる天然粘土には、モンモリロナイトおよびカオリン群が含まれ、それらの群には、サブベントナイト、およびディキシー(Dixie)、マックナメー(McNamee)、ジョージア(Georgia)およびフロリダ(Florida)粘土として一般に知られるカオリン、または主鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、若しくはアナウキサイトである他のものが含まれる。かかる粘土は、元々採掘されたような未加工の状態で使用する、または焼成、酸処理若しくは化学修飾に先ずかけることができる。本発明結晶と複合化させるために有用なバインダーにはまた、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、およびそれらの混合物などの、無機酸化物が含まれる。
【0048】
前述の物質に加えて、本新規結晶は、シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシアおよびシリカ−マグネシア−ジルコニアなどの三元組成物だけでなくシリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニアなどの多孔質マトリックス物質と複合化させることができる。
【0049】
細分された結晶性物質と無機酸化物マトリックスとの相対的な割合は、結晶含有率が約1から約90重量パーセントまで変動して、そしてより通常は、特に複合材料がビーズの形態で製造されるときには、複合材料の約2〜約80重量パーセントの範囲で、広範囲にわたって変わる。
【0050】
本発明の本質およびそれの実施方法を更に十分に例示するために、以下の実施例が提示される。
【実施例】
【0051】
実施例1:ITQ−26の合成
ゲルマニウム含有ゲルを次の記載に従って調製した:0.62gの酸化ゲルマニウムを、1000gの溶液中0.62モルのOH濃度の水酸化1,3−ビス−(トリエチルホスホニウムメチル)−ベンゼン(図1)の24.19gの溶液に溶解させた。次に、5.02gのオルトケイ酸テトラエチルを当該溶液中で加水分解し、混合物を、形成したエタノールの完全な蒸発が達成されるまで撹拌下に蒸発させた。重量が8.62gのゲルに達したとき、0.62gのHF(48.1%重量)を加え、混合物を均質にした。ゲルの最終組成は次の通りであった:
0.80 SiO:0.20 GeO:0.25 m−B(EtP)(OH):0.50 HF:7.50 H
【0052】
混合物をテフロン(登録商標)(Teflon)内張ステンレススチール・オートクレーブに移し、撹拌下に175℃で6日間加熱した。より長い結晶化時間は、少量のベータ・ゼオライトの多形体C入りの不純なITQ−26を与えた。
【0053】
製造したままのおよび焼成したサンプルの粉末X線回折図を、下の図3および図4に示す。サンプルを空気中で550℃に3時間焼成し、300℃に冷却し、次に2mm石英キャピラリー管中で真空下にシールして構造損傷を最小限にした。
【0054】
X線回折パターンを、それぞれ、表6および表7に挙げる。
【0055】
焼成物質の気孔率を、窒素およびアルゴンを吸着させることによって測定した。吸着測定は、サンプルを不活性雰囲気中で操作することによって実施した。得られた結果は次の通りである:
・BET表面積:257m/g
・微孔面積:243m/g
・微孔体積:0.12cm/g
・孔直径:7.1Å
【0056】
当該データは、ITQ−26が大きな孔(12環孔口径)ゼオライトであることを示唆する。これは、上で議論された構造によって裏付けられる。
【0057】
実施例2:IT−26の合成
ゲルマニウム含有ゲルを次の記載に従って調製した:0.75gの酸化ゲルマニウムを、15重量%の水酸化1,3−ビス−(トリエチルホスホニウムメチル)−ベンゼンの22.5gの溶液に溶解させた。次に、6.01gのオルトケイ酸テトラエチルを当該溶液中で加水分解し、混合物を、形成したエタノールの完全な蒸発が達成されるまで撹拌下に蒸発させた。重量が10.3gのゲルに達したとき、0.74gのHF(49%重量)を加え、混合物を均質にした。ゲルの最終組成は次の通りであった:
0.80 SiO:0.20 GeO:0.25 m−B(EtP)(OH):0.50 HF:7.50 H
【0058】
混合物をテフロン(登録商標)内張ステンレススチール・オートクレーブに移し、20rpmの混転速度で、175℃で6日間加熱した。サンプルを濾過によって回収し、脱イオン水で洗浄し、次に115℃オーブン中で乾燥させた。X線回折パターンは、CuKα放射で測定され、表6および図3に挙げられるものに似ている。X線回折パターンの解析は、サンプルが純ITQ−26であることを示した。
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】1,3−ビス−(トリエチルホスホニウムメチル)−ベンゼン有機構造指向剤(SDA)の図である。
【図2】四面体原子のみを示すITQ−26の骨格構造を示す。そのエッジが灰色ボックスで画定される1つの単位格子がある。
【図3】合成されたままのITQ−26のX線回折パターンを示す。
【図4】焼成/脱水ITQ−26のX線回折パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋架け原子によって連結された四面体(T)原子の骨格を有する合成結晶性物質であって、前記四面体原子の骨格は、本明細書の表1に示される方法で最も近い四面体(T)原子を連結することによって定義されることを特徴とする結晶性物質。
【請求項2】
前記四面体原子は、Li、Be、Al、P、Si、Ga、Ge、Zn、Cr、Mg、Fe、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、TiおよびZrからなる群から選択された1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の結晶性物質。
【請求項3】
前記橋架け原子は、O、N、F、S、SeおよびCからなる群から選択された1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の結晶性物質。
【請求項4】
本明細書の表2に記載されるピークを実質的に含むX線回折パターンによって特徴づけられることを特徴とする合成されたままの合成多孔質結晶性物質。
【請求項5】
式mR:aX:YO・nHO(式中、Rは有機化合物であり;XはB、Ga、AlおよびFeからなる群から選択された1種以上の金属であり;YはSi、GeおよびTiからなる群から選択された1種以上の金属であり;mは1以下の実数であり、aは0.2以下の実数であり;nは10以下の実数である)で表される組成を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶性物質。
【請求項6】
本明細書の表3に記載される最も重要な線を実質的に含むX線回折パターンによって特徴づけられることを特徴とする焼成脱水物質。
【請求項7】
式aX:YO・nHO(式中、XはB、Ga、AlおよびFeからなる群から選択された1種以上の金属であり;YはSi、GeおよびTiからなる群から選択された1種以上の金属であり;aは0.2以下の実数であり;nは10以下の実数である)で表される組成を有することを特徴とする請求項6に記載の焼成脱水物質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の物質を使用することを特徴とする炭化水素含有流れからの炭化水素の分離方法。
【請求項9】
有機化合物を含む供給原料を少なくとも1種の転化生成物に転化する方法であって、前記供給原料を、活性形態にある請求項1〜7のいずれかに記載の物質を含む触媒と有機化合物転化条件で接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記触媒は、水素化金属と組み合わせられることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水素化金属は、タングステン、バナジウム、モリブデン、レニウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガンおよび貴金属からなる群から選択された1種以上の金属であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
表2と類似した回折パターンを有する結晶性シリケート組成物ITQ−26の合成方法であって、
少なくとも1種のシリカ源、少なくとも1種の有機構造指向剤(R)、水および場合により金属源(X)を混ぜ合わせて、モル比換算で下記の範囲の組成を有する混合物を形成することによることを特徴とする方法。
R/YO 0.01〜1
O/YO 2〜50
X/YO 0〜0.2
(式中、Xは、四面体配位できる任意の3価金属であり;Yは、ケイ素および場合により四面体配位できる任意の他の4価金属である。)
【請求項13】
Xは、B、Ga、AlおよびFeからなる群から選択された1種以上の金属であり、
Yは、ケイ素であり、かつGeおよびTiからなる群から選択された1種以上の金属を含むことができる
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
表2と類似した回折パターンを有する結晶性シリケート組成物ITQ−26の合成方法であって、
シリカ源、有機構造指向剤(R)、水および場合により金属源(X)を混ぜ合わせて、モル比換算で下記の範囲の組成を有する混合物を形成することによることを特徴とする方法。
R/YO 0.01〜1
O/YO 2〜50
X/YO 0〜0.2
(式中、Xは、B、Ga、Al、Fe、Li、Be、P、Zn、Cr、Mg、Co、Ni、Mn、As、In、Sn、Sb、TiおよびZrからなる群から選択された1種以上の金属であり;Yは、ケイ素であり、かつGeおよびTiからなる群から選択された1種以上の金属を含むことができる。)
【請求項15】
前記モル比範囲は、
R/YO 0.1〜0.5
O/YO 5〜20
X/YO 0〜0.1
であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記有機構造指向剤(SDA)は、1,3−ビス−(トリエチルホスホニウムメチル)ベンゼンであることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載の結晶性シリケート組成物の合成方法。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれかに記載の方法を用いて製造されることを特徴とする結晶性シリケート組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−523114(P2009−523114A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547341(P2008−547341)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/047849
【国際公開番号】WO2007/075382
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】