説明

IgA産生促進剤及び免疫賦活剤

【課題】優れた作用を有し、安全性、環境性、及び生産性に優れた、IgA産生促進剤、及び免疫賦活剤、並びにIgA抽出方法及び該抽出方法により得られたIgAの提供。
【解決手段】テンペを有効成分として含有するIgA産生促進剤、及びテンペを有効成分として含有する免疫賦活剤である。テンペを投与した対象から糞を採取し、該糞に溶媒及びタンパク質分解酵素阻害剤を添加して懸濁して懸濁液を調製し、該懸濁液を遠心分離して得られた上清からIgAを抽出するIgA抽出方法、及び該抽出方法により得られたIgAである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgA産生促進剤及び免疫賦活剤、並びにIgA抽出方法及び該抽出方法により得られたIgAに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の食生活は欧米化が進み、高脂肪・低食物繊維食の傾向が強くなっている。それに伴って肥満などの生活習慣病の増加が問題になっている。また、近年、このような食事の欧米化により、大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸疾病の発症率も年々増加しており、その原因の一つとして高脂肪食が指摘されている。
【0003】
大腸の腸内環境に影響を与える因子として、IgAが知られている。生体が外界と接する境面である皮膚及び粘膜、特に、腸管粘膜などの消化管粘膜は、ウィルス、細菌、寄生虫、病原性抗原、食物抗原などの多くの物質と接触している。IgAは、消化管のみならず気管粘膜にも分泌され、気道を守り、また乳汁にも分泌され、新生児の腸管を守るなど、一般に粘膜免疫の主体として働いている。消化管や呼吸器における免疫機構の最前線として、粘膜面に侵入する病原体の上皮細胞への付着、定着、及び侵入の阻止作用を持ち、粘膜面経由の毒素、細菌などに中和作用を発揮する。IgA分泌量が増加すると、腸管免疫機能を増強させ、感染症、炎症性腸疾患、アレルギー疾患など様々な疾患を予防する(非特許文献1参照)。さらに、IgAと大腸がんとの関連性も報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
そのような中で、最近、広島大学の岡崎らは、ポリフェノールの一種であるクルクミンを高脂肪食の条件下において摂取することにより糞中のIgAを増加させることを明らかにし、クルクミンの大腸がん予防の機構へのIgA増加の関与を指摘している(非特許文献3参照)。
【0005】
したがって、安全性、環境性及び生産性に優れ日常的に摂取可能であり、かつ安価でありながら、優れたIgA産生促進作用、及び免疫賦活作用の少なくともいずれかを有する天然系の各種製剤に対する需要は極めて強い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Huang MT,et al.,Cancer Research,vol.54,p.5841−5847,1994
【非特許文献2】Lambert JD,et al.,Am J Clin Nutr,vol.81,p.284−291,2005
【非特許文献3】Okazaki Y,et al.,J Nutr Sci Vitaminol,vol.56,p.68−71,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れたIgA産生促進作用を有し、安全性の高いIgA産生促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた免疫賦活作用を有し、安全性の高い免疫賦活剤を提供することを目的とする。また、本発明は、IgA抽出方法及び該抽出方法により得られたIgAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、テンペが、優れたIgA産生促進作用、及び優れた免疫賦活作用を有することを見出した。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> テンペを有効成分として含有することを特徴とするIgA産生促進剤である。
<2> テンペを有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活剤である。
<3> 前記<1>に記載のIgA産生促進剤、及び前記<2>に記載の免疫賦活剤の少なくともいずれかを含有することを特徴とする飲食品である。
<4> テンペを投与した対象から糞を採取し、該糞に溶媒及びタンパク質分解酵素阻害剤を添加して懸濁して懸濁液を調製し、該懸濁液を遠心分離して得られた上清からIgAを抽出することを特徴とするIgA抽出方法である。
<5> 前記<4>に記載のIgA抽出方法により得られたことを特徴とするIgAである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のIgA産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたIgA産生促進作用を有し、安全性の高いIgA産生促進剤を提供することができる。
本発明の免疫賦活剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れた免疫賦活作用を有し、安全性の高い免疫賦活剤を提供することができる。
本発明のIgA抽出方法及びIgAによると、従来における諸問題を解決することができ、優れたIgA抽出方法及び該抽出方法により得られたIgAを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(IgA産生促進剤、及び免疫賦活剤)
本発明のIgA産生促進剤は、テンペを有効成分として含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含む。
本発明の免疫賦活剤は、テンペを有効成分として含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0012】
<テンペ>
前記テンペは、大豆などの穀物をテンペ菌(Rhizopus oligosporus)により発酵させて得られた組成物である。
前記テンペは、インドネシアの伝統食品として知られ、インドネシアの納豆とも呼ばれるが、納豆のような系を引く粘性物質や特有の臭いは生成されない。テンペは400年〜500年以上前からジャワ島で作られ、19世紀初め、インドネシア各地に広まったとされる。明確な記録として残っているのは、1895年オランダ学術調査団のジャワ島のテンペの成分分析と微生物の検索についての報告が始まりとなっている。
しかしながら、これまでテンペそのものを摂取した場合の健康への影響に関する研究は非常に少ない。
前記穀物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆、落花生、米、麦などが挙げられる。これらの中でも、大豆が好ましい。
前記テンペを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を選択することができ、例えば、大豆などの穀物を吸水させた後に、茹でて冷まし、酢などを加えて酸性とし、そこに、テンペ菌と呼ばれる接合菌に属するクモノスカビの一種であるRhizopus oligosporusを含む麹を混合し、薄くならして、発酵させることにより得られる。
前記発酵の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃〜40℃が好ましく、32℃〜35℃がより好ましい。前記温度が、30℃未満であると、発酵が進まないことがあり、40℃を超えると、酸敗することがある。
前記発酵の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20時間〜30時間が好ましく、22時間〜26時間がより好ましい。前記温度が、20時間未満であると、発酵が十分進まないことがあり、30時間を超えると、酸敗することがある。
前記テンペとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、テンペ(国延社製)などが挙げられる。
【0013】
前記テンペは、IgA産生促進作用、及び免疫賦活作用を有しているため、それらの作用を利用して、IgA産生促進剤、及び免疫賦活剤として用いることができる。
【0014】
本発明のIgA産生促進剤は、前記テンペのみからなるものであってもよいし、その他の成分を含むものであってもよい。前記IgA産生促進剤中の前記テンペの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
本発明の免疫賦活剤は、前記テンペのみからなるものであってもよいし、その他の成分を含むものであってもよい。前記免疫賦活剤中の前記テンペの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
<その他の成分>
前記テンペは、デキストリン、シクロデキストリンなどの薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状などの任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物(例えば、経口医薬品など)に配合して使用できる他、軟膏剤、外用液剤、貼付剤などとして使用することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤などを用いることができる。
【0017】
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。また、前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられ、前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられ、前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられ、前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられ、前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0018】
なお、本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤は、必要に応じてIgA産生促進作用、及び免疫賦活作用のいずれかを有する他の天然抽出物などを共に配合して用いることができる。
【0019】
前記IgA産生促進剤は、有効成分として含有されるテンペの作用により、IgA産生促進作用を発揮する。
前記免疫賦活剤は、有効成分として含有されるテンペの作用により、免疫賦活作用を発揮する。
【0020】
本発明のIgA産生促進剤によると、優れたIgA産生促進作用を通じて、例えば、腸管免疫機能を増強させ、感染症、炎症性腸疾患、アレルギー疾患、大腸がんなどの様々な疾患の予防乃至治療に好適に利用することが可能となる。ただし、本発明のIgA産生促進剤は、これらの用途以外にもIgA産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0021】
本発明の免疫賦活剤によると、優れた免疫賦活作用を通じて、例えば、腸管免疫機能を増強させ、感染症、炎症性腸疾患、アレルギー疾患、大腸がんなどの様々な疾患の予防乃至治療に好適に利用することが可能となる。ただし、本発明の免疫賦活剤は、これらの用途以外にも免疫賦活作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0022】
本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤は、優れた作用を有するとともに、食用とされるテンペを有効成分としており、安全性に優れているため、美容用飲食品、乃至経口用医薬に配合するのに好適である。
【0023】
また、本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤は、優れた作用を有するので、IgA、及び免疫賦活に関連する疾患の研究のための試薬として好適に利用できる。
【0024】
なお、本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0025】
(飲食品)
本発明の飲食品は、本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤の少なくともいずれかを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0026】
前記飲食品とは、人の健康に危害を加える恐れが少なく、通常の社会生活において、経口乃至消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、美容食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
また、本発明の飲食品は飲料、ハードカプセル、ソフトカプセル、顆粒などの形状に形態に加工することにより簡便に飲食でき、広範囲に利用することが可能である。
【0027】
前記飲食品としては、前記IgA産生促進剤、及び免疫賦活剤の少なくともいずれかを含有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これら飲料の濃縮液及び調整用粉末を含む。);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康・美容・栄養補助食品;錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等の医薬品、医薬部外品などが挙げられる。また、前記テンペを肉類の代用品として用いてもよい。なお、前記飲食品は上記例示に限定されるものではない。
【0028】
前記IgA産生促進剤、及び免疫賦活剤の前記飲食品における含有量としては、添加対象飲食品に応じて異なり一概には規定できないが、錠剤やカプセル剤などの場合は1質量%〜90質量%が好ましく、その他の飲食品では1質量%〜90質量%が好ましい。また、添加対象飲食品の一般的摂取量を考慮して、成人一日当たりIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤の少なくともいずれかの摂取量が5g〜15g程度になるように調製することが好ましい。
【0029】
前記その他の成分としては、前記飲食品を製造するに当り通常用いられる補助的原料乃至添加物などが挙げられる。
前記補助的原料乃至添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。
【0030】
本発明の飲食品は、日常的に経口摂取することが可能であり、有効成分であるテンペの働きによって、IgA産生促進作用、及び免疫賦活作用の少なくともいずれかを極めて効果的に達成することができる。
【0031】
なお、本発明の飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0032】
(IgA抽出方法及びIgA)
本発明のIgA抽出方法は、前記テンペを投与した対象から糞を採取し、該糞に溶媒及びタンパク質分解酵素阻害剤を添加して懸濁して懸濁液を調製し、該懸濁液を遠心分離して得られた上清からIgAを抽出することを必要とする。
本発明のIgAは、前記IgA抽出方法により得られたことを必要とする。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水などが挙げられる。
前記タンパク質分解酵素阻害剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリプシンインヒビター、フェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF)、アプロチニン等のセリンプロテアーゼ阻害剤;ロイペプチン等のセリン/システインプロテアーゼ阻害剤;E−64等のシステインプロテアーゼ阻害剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のメタロプロテアーゼ阻害剤;ラクタシスチン、MG−115、MG−132等のプロテアソーム阻害剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記IgA抽出方法としては、上記を満たす限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記テンペを投与した対象から採取した糞にトリプシンインヒビター、EDTA、PMSFなどのタンパク質分解酵素阻害剤を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)を加え、試験管ミキサーで1分間攪拌後、4℃で一晩静置し、その後、4℃、9,000×gで10分遠心分離して得られた上清から公知の方法によりIgAを抽出乃至精製する方法が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[動物飼育]
実験動物としてSD(Sprague−Dawley)系雄ラット(3週齢、初体重40−50g、Charles River Japan Inc.社製)を用いた。実験動物の飼育は、広島大学の実験動物取扱規程に準じて行った。具体的には、ステンレス製ケージに1匹ずつ入れ、12時間明暗交代(8:00〜20:00明、20:00〜翌朝8:00暗)の恒温環境(24℃±1℃)で飼育した。予備飼育期間は7日間とし、市販の固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社製)、及び水道水を自由に摂取させた。
予備飼育後、ラットを3群(8匹/1群)に分け、それぞれコントロール群、テンペ群、分離大豆タンパク質(SPI)群とし、下記表1に示す制限食(実験食)を一定量と、脱イオン水を自由に摂取させて、21日間を飼育した。なお、制限食は、30質量%牛脂の高脂肪食の条件下で、タンパク源として、コントロール群ではカゼイン20質量%、テンペ群では25質量%テンペ及びカゼイン7.1質量%、並びに、分離大豆タンパク質(SPI)群ではSPI 12.3質量%及びカゼイン7.1質量%を含む。テンペとSPIのアミノ酸組成を表2に示した。なお、テンペとして、大豆を原料とするテンペ(テンペ、国延社製)、SPIとして、ソルビー4000(日清オイリオグループ社製)を用いた。
実験食は、1日目に9g、2−4日目に10g、5−7日目に12g、8−13日目に14g、及び14−21日目に15gを毎日定刻(19:00)にラットに与えた。いずれも翌朝までに食べきる量を与えた。体重は毎朝定刻(10:00)に測った。飼育最後の3日間に糞を採取した。糞の湿重量を測定し、12時間凍結乾燥後、乳鉢を用いて磨り潰した。乾燥糞は、−30℃で冷凍保存し、糞中IgAの分析を行った。

【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
<分析方法>
<<糞中IgA測定方法>>
糞中IgAの測定は、Sharmaらの方法(Sharma A.et al., Infection and Immunity.vol.69:p.2928−2934,2001)に従って以下のようにして行った。
【0038】
(IgAの抽出)
乾燥糞(0.1g)に40倍量のトリプシンインヒビター(0.1mg/ml、大豆由来、和光純薬社製)、EDTA(50mM)、フェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF、1mM)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)を加えた。試験管ミキサーで1分間攪拌後、4℃で一晩静置した。その後、4℃、9,000×gで10分遠心分離し、上清を回収し、IgA測定用サンプルとした。得られたサンプルは、測定まで−30℃で冷凍保存した。
【0039】
(IgA量の測定)
IgA量の測定は、Rat IgA ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製)を用いたELISA法によって行った。抗原としてヤギ抗ラットIgA抗体を使用し、0.05M 炭酸カルシウム緩衝液(pH9.6)で1μl抗原原液/0.1ml濃度となるように希釈した。この希釈溶液を96穴プレートの各ウェルに100μl入れ、4℃で一晩静置させて抗原処理を行った。翌日、各ウェルを洗浄液(0.05%Tween20、50mM Tris緩衝液、0.14M NaCl、pH8.0)で3回洗浄し、各ウェルに、1%BSAを含む50mM Tris緩衝液、0.14M NaCl溶液(pH8.0)200μlを加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20℃〜25℃)で30分間ブロッキングした。サンプルまたはラットIgA抗体の標準液を、希釈液(1%BSA、0.05%Tween20、50mM Tris緩衝液−0.14M NaCl、pH8.0)で希釈した。各ウェルを洗浄液で3回洗浄後、サンプル及びラットIgA抗体の標準品100μlを加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20℃〜25℃)で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄液で5回洗浄後、2次抗体として、希釈したHRP標識ヤギ抗ラットIgA抗体液を100μl加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20℃〜25℃)で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄液で5回洗浄後、0.4mg/ml濃度のOPD(和光純薬社製)と0.026%Hを含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)を加えアルミホイルで遮光しながら室温(20℃〜25℃)で15分間反応させた。反応後、2M HSOを100μl加えて反応を停止し、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
【0040】
<<統計処理方法>>
実験により得られた各群のデータは、平均±標準誤差で示し、一元配置の分散分析を行った後、各群の有意差の判定はFisher’s multiple−range testを用いて行った(p<0.05)。
【0041】
<結果>
各群の制限食の摂取による糞中のIgA量を測定した結果を表3に示した。テンペ群の乾燥糞当たりのIgA量は、コントロール群より大幅に増加していた(p<0.05)。なお、テンペ群で糞の乾燥重量が低下していたが、糞中の水分含有量が増加していた(データ示さず;p<0.05)。糞中IgAを3日間の総排泄量として表すと、テンペ群ではコントロール群と比較して3.87倍と著しく増加していた(p<0.05)。SPI群でも、乾燥糞当たりのIgA量及び糞中IgAの3日間総排泄量の増加が見られたが、テンペ群ほど顕著ではなかった(p<0.05)。
【0042】
【表3】

【0043】
表3の結果から、テンペが、優れたIgA産生促進作用を有することが認められた。SPI群でもIgA産生促進作用を有することが認められたが、テンペ群の方がその効果は、顕著であった。また、テンペが、優れたIgA産生促進作用を有することから、テンペが、優れた免疫賦活作用を有すると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のIgA産生促進剤、及び免疫賦活剤は、優れたIgA産生促進作用、及び免疫賦活作用を有するので、腸管免疫機能を増強させ、感染症、炎症性腸疾患、アレルギー疾患、大腸がんなどの様々な疾患の予防乃至治療に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンペを有効成分として含有することを特徴とするIgA産生促進剤。
【請求項2】
テンペを有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活剤。
【請求項3】
請求項1に記載のIgA産生促進剤、及び請求項2に記載の免疫賦活剤の少なくともいずれかを含有することを特徴とする飲食品。
【請求項4】
テンペを投与した対象から糞を採取し、該糞に溶媒及びタンパク質分解酵素阻害剤を添加して懸濁して懸濁液を調製し、該懸濁液を遠心分離して得られた上清からIgAを抽出することを特徴とするIgA抽出方法。
【請求項5】
請求項4に記載のIgA抽出方法により得られたことを特徴とするIgA。

【公開番号】特開2012−87102(P2012−87102A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236689(P2010−236689)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第64回 日本栄養・食糧学会大会 会頭 武田英二、「第64回 日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」、第180ページ、平成22年5月1日 読売新聞、第32面、平成22年5月23日付朝刊
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】