説明

IgA腎症関連遺伝子

【課題】IgA腎症に関与する新規DNAおよびその取得方法を提供する。
【解決手段】IgA腎症患者白血球より、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いた、IgA腎症に関与する新規遺伝子のDNA、並びにその取得方法。および前記新規遺伝子DNAの塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドを含む、IgA腎症診断薬および治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健常人の白血球と比較して、IgA腎症患者の白血球において発現が変動するm
RNAに着目し、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いた新規遺伝子の取得およびそ
の方法に関する。また、新規蛋白質および該蛋白質に対する抗体、該蛋白質をコードする
DNA、該蛋白質および該DNAの検出方法、ならびにIgA腎症の診断および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
IgA腎症とは、腎臓の糸球体内に血液由来と考えられるIgA免疫複合体が沈着することを
特徴とする慢性糸球体腎炎である。日本では原発性腎疾患の30%以上を占め、単一の腎疾
患としては最も多く、そのうちの15〜30%は予後不良で腎不全へ移行する。しかしながら
、IgA腎症の疾患の原因はまだ不明であるため、根本的な治療法はない。また、IgA腎症の
確定診断は、腎臓の一部を生検し、メサンギウムにおけるIgA免疫複合体の沈着を免疫学
的染色により確認する方法であるため、患者への負担は大きい。
IgA腎症の患者は約50%の症例で血中IgAの値が高いことが報告されている(非特許文献
1、2)。血液中のIgAの産生はB細胞が、その産生の制御はT細胞が担っているといわ
れており、また、IgA患者の末梢T細胞において、サイトカインであるインターロイキン
4、インターロイキン5、インターロイキン6あるいはTGF-β(transforming growth fac
tor-β)の産生が健常人に比べて高いという報告(非特許文献3、4)、末梢リンパ球に
おいて、インテグリンであるVLA(very late activation)-4およびVLA-5がより強く活性化
しているという報告(非特許文献5)がなされている。これらのことから、IgA腎症は免
疫系の異常によりIgAの産生が過剰となり、血液中のIgA免疫複合体が糸球体に沈着し、沈
着したIgA免疫複合体に対する補体系の活性化等が糸球体に影響を及ぼし障害をおこして
いると考えられているが、IgA腎症の原因についてはまだわかっていない。
【0003】
【非特許文献1】ディジージズ・オブ・ザ・キドニー(Diseases of the Kidney)第5版(1993)
【非特許文献2】ネフロン(Nephron),29,170(1981)
【非特許文献3】クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clinical & Experimental Immuonlogy),103,125(1996)
【非特許文献4】キドニー・インターナショナル(Kidney International),46,862(1994)
【非特許文献5】ネフロロジー、ダイアリシス、トランスプランテーション(Nephrology,Dialysis,Transplantation),10,1342(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
IgA腎症の疾患原因の解明、治療あるいは患者の負担を軽減した診断が望まれている。
本発明は、IgA腎症に関与する新規DNAおよびその取得方法を提供すること、また、IgA腎
症に関与する新規蛋白質および該蛋白質に対する抗体、該蛋白質をコードするDNA、なら
びにそれらを用いた治療薬および診断薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、配列番号1から31に記載の塩基配列を有するIgA腎症関連遺伝子のDNA、該
DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAに関する。本発明のDNAおよび
該DNAと相補的な塩基配列の部分断片に基づくオリゴヌクレオチドを用いてIgΛ腎症関連
遺伝子のmRNAを検出する方法、それらのオリゴヌクレオチドを含む、IgA腎症診断薬に関
する。本発明のDNAおよび該DNAと相補的な塩基配列の部分断片に基づくオリゴヌクレオチ
ドを用いて、IgA腎症関連遺伝子の転写および該mRNAの翻訳を抑制する方法、それらのオ
リゴヌクレオチドを含む、IgA腎症治療薬に関する。また本発明は、IgA腎症患者白血球よ
り、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いたIgA腎症関連遺伝子の取得方法に関す
る。
【0006】
また、本発明は、配列番号32に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質、ならびに本発明
の蛋白質をコードするDNA、配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、またはこれらの塩基
配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAに関する。また本
発明は、該DNAとベクターとからなる組み換えベクター、該組み換えベクターを宿主細胞
に導入して得られる形質転換体、および該形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明
の蛋白質を生成蓄積させ、該培養物から蛋白質を採取することを特徴とする製造方法に関
する。また、本発明の蛋白質に特異的に反応する抗体、該抗体を用いて該蛋白質を免疫学
的に認識する方法、該抗体を含むIgA腎症診断薬ならびに該抗体を含むIgA腎症治療薬に関
する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、新規遺伝子を取得するために、IgA腎症患者および健常人の白血球におけ
るmRNAの発現量の差異に注目したディファレンシャル・ディスプレイ法[FEBSレター
ズ(FEBS Letters)351,231(1994)]を用いている。ディファレンシャル・ディスプレイ
法とは、発現様式を指標に新規遺伝子をクローニングする方法である。すなわち、細胞か
ら抽出した全RNAあるいはmRNAに対し、各種プライマーを用いてポリメラーゼ・チェイン
・リアクション(PCR)反応を行い、健常人の白血球に比べIgA腎症患者の白血球で、その
発現量が顕著に増加あるいは減少する新規な遺伝子のcDNA増幅断片を取得する方法である
。以下にその方法について述べる。
IgA腎症患者および健常人の白血球から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グ
アニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol.,154,3(1987)]、AGPC法
〔実験医学9,1937,(1991)〕またはRNA回収用キットRNAeasy(QIAGEN社)などがあげら
れる。
【0008】
また全RNAからポリ(A)+RNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロース
カラム法[モレキュラー・クロ−ニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(第2版)]な
どがあげられる。また、IgA腎症患者の白血球および健常人の白血球からmRNAを調製する
キットとしては、ファースト・トラック・mRNA・アイソレーション・キット(Fast Track
mRNA Isolation Kit;インビトロジェン社製)、クイック・プレップ・mRNA・ピュリフィ
ケーション・キット(Quick Prep mRNA Purification Kit;ファルマシア社製)などがあ
げられる。
続いて、IgA腎症患者の白血球および健常人の白血球から抽出したRNAから、アンカープ
ライマーを用いてcDNAを合成し、続いて、該cDNAに対して5'末端を蛍光標識したアンカー
プライマーと任意プライマーとを用いてPCR反応を行う。アンカープライマーとは、チミ
ジンを除く、アデニン、グアニンあるいはシトシンのオリゴヌクレオチドを、mRNAの3'末
端ポリA配列に会合するオリゴdT配列の3'末端に付加したプライマーである。任意プラ
イマーとは、多種類のcDNAの配列に対して増幅し、かつ一度の反応で多数のcDNA増幅断片
を得ることができるオリゴヌクレオチドのことであり、オリゴヌクレオチドの長さとして
は、10mer程度が好ましい。
【0009】
PCR反応後、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、フルオロイメージャーで蛍光を検
出する。そして、IgA腎症患者および健常人の白血球由来のcDNA増幅断片の泳動パターン
を比較し、発現増幅が変動しているcDNA断片をゲルから回収し、該cDNA増幅断片をベクタ
ーに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばSangerらのジデオキシ法[Proc
.Natl.Acad.Sci.,U.S.A., 74,5463(1977)]等によって分析することにより、該DNAの
塩基配列を決定することができる。
DNA断片を組み込むベクターとしては、pDIRECT 〔ヌクレイック・アシッド・リサーチ(
Nucleic Acids Research) 18, 6069(1990)〕、pCR-Script Amp SK(+)〔ストラタジーン社
製、ストラテジーズ(Strategies),5, 6264(1992)〕、pT7Blue(ノバジーン社製)、pCR
II〔インビトロジェン社製、バイオテクノロジー(Biotechnology), 9,657(1991)〕、pCR
-TRAP(ジーンハンター社製)およびpNoTAT7(5プライム→3プライム社製)などがあげ
られる。
塩基配列の分析は、塩基配列自動分析装置、例えば373A・DNAシークエンサー(ア
プライド・バイオシステムズ社製)等を用いて行うことができる。
【0010】
本発明のDNAとしては、配列番号1から31に示される塩基配列からなるDNAもしくは該
DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列などがあげられる。
配列番号1から31に示される塩基配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイ
ズするDNAとは、該蛋白質の本来有する活性を失わない範囲内で、置換、欠失、挿入ある
いは付加などの変異が一カ所以上導入されたDNAで、配列番号1から31に示される塩基
配列を有するDNAまたはその断片をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション
法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法[モレキュラー・クローニング:ア・ラ
ボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning,A laboratory manual)、第2版〔サンブル
ック(Sambrook)、フリッチ(Fritsch)、マニアチス(Maniatis)編集、コールド・スプリン
グ・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1989年
刊〕、以下、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル第2版と記す
]により得られるDNAを示す。
【0011】
本発明のDNAの塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドを用いてIgA腎症に関与するmRNAを
検出する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション法〔Molecular Cloning,A lab
oratory manual Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)〕、PCR
法〔PCR プロトコールズ(PCR Protocols),アカデミック・プレス(Academic Press)(1990
)〕などがあげられる。特に、RT(Room Tempreture)−PCR法は、簡便であり、IgA腎症
の診断に利用することができる。具体的には、ヒトから採血し、白血球を回収し、そこか
ら単離したRNAを、オリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用いてcDNAに変換した後、検
出したいmRNAに対応する一組のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR反応を行い、
増幅断片を検出する方法である。
【0012】
オリゴヌクレオチドプライマーとしては、検出したいmRNAの一部の塩基配列において、
5’末端側の塩基配列に相当するセンスプライマーおよび3’末端側の塩基配列に相当す
るアンチセンスプライマーがあげられる。ただし、mRNAにおいてウラシルに相当する塩基
は、オリゴヌクレオチドプライマーにおいてチミジンとなる。
センスプライマーおよびアンチセンスプライマーとしては、両者の融解温度(Tm)およ
び塩基数が極端に変わることのないオリゴヌクレオチドを用いるのが好ましい。塩基数と
しては、15〜40merが好ましい。
上述のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅させる塩基配列部分としては、mRNA
のいかなる塩基配列領域でもよいが、塩基配列の長さが50bpから2kbpであり、反復配列あ
るいはGC(グアニン・シトシン)塩基に富む配列を含まぬ塩基配列領域が好ましい。
【0013】
また、同様にアンチセンスRNA/DNA〔化学46,681(1991)、バイオテクノロジー(Biotec
hnology)9,358(1992)〕を用いて、DNAの転写もしくはmRNAの翻訳を抑制することによりI
gA腎症の治療に利用することもできる。
アンチセンスRNA/DNA技術を用いて該蛋白質の生産を抑制するには、本発明の該蛋白質
をコードするDNAの一部の塩基配列、好ましくは翻訳開始領域にある10〜50塩基の塩基配
列を基にしてオリゴヌクレオチドを設計・調製し、生体内に投与するにことにより可能で
ある。合成オリゴヌクレオチドの塩基配列としては、本発明の該蛋白質をコードするDNA
のアンチセンス鎖の塩基配列の一部と一致するもの、あるいは該蛋白質の活性発現を抑制
する活性を失わない範囲内で改変したものを利用できる。オリゴヌクレオチドとしてはDN
A、RNAまたはその誘導体たとえばメチル体やフォスフォロチオエート体を用いることがで
きる。
【0014】
前述した方法で得られたcDNA断片からDNA全長を得るには、前述したcDNA増幅断片をプ
ローブとして、各種cDNAライブラリーよりハイブリダイゼーションによりスクリーニング
して得ることができる。以下に、cDNAライブラリーの作製法について述べる。
cDNAライブラリー作製法としては、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・
マニュアル(第2版)やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー
、サプルメント1〜34等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばスーパース
クリプト・プラスミド・システム・フォー・cDNA・シンセシス・アンド・プラスミド・ク
ローニング(Super ScriptTMPlasmidSystem for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning、
ライフテクノロジーズ社製)やザップ-cDNA・シンセシス・キット[ZAP-cDNA Synthesis
Kit、ストラタジーン(Stratagene)社製]を用いる方法などがあげられる。さらに、cDN
Aライブラリーを市販している場合もあり、本発明における、ギブコBRL社製のヒト白
血球cDNAライブラリーなどcDNAライブラリーそのものの市販品もある。
【0015】
cDNAライブラリーの作製の際の、細胞から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組
み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることが
できる。例えば、ZAP Express〔ストラテジーズ(Strategies) 5,58(1992)〕、pBluescrip
t II SK(+)〔ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research) 17, 9494(19
89)〕、λ zap II(ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11〔DNAクローニング、ア・プ
ラクティカル・アプローチ(DNA Cloning,A Practical Approach),Vol.1,49(1985)〕、La
mbda BlueMid(クローンテック社製)、λExCell、pT7T3 18U(ファルマシア社製)、pcD
2〔モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)〕
およびpUC18〔ジーン(Gene),33,103(1985)〕等が用いられる。ベクターにより構築され
るcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては、該cDNAライブラリーを導入、発現および
維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。たとえばXL1-Blue MRF'
〔ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)
39,440(1954)〕、Y1088、Y1090〔サイエンス(Science),222,778(1983)〕、NM522
〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.), 166,1(1983)〕、K
802〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.), 16, 118(1966)
〕およびJM105〔ジーン(Gene),38,275(1985)〕等が用いられる。
【0016】
また、cDNAライブラリーを作製せずに、cDNAを合成後両端にアダプターを付加し、この
アダプターの塩基配列と増幅断片の塩基配列に基づいたプライマーでPCRを行う5'-RACE(r
apid amplification of cDNA ends)および3'-RACE[プロシーディングス・オブ・ザ・ナ
ショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・USA(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A),
85,8998(1988)]によっても得ることができる。また塩基配列に基づいたPCR法、あるいは
DNA合成機で化学合成する方法によって得ることもできる。cDNAライブラリーからのcDNA
クローンの選択としては、アイソトープあるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー
・ハイブリダイゼーション法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法[モレキュラ
ー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル 第2版]により選択することができ
る。また、プライマーを調製し、ポリ(A)+RNAあるいはmRNAから合成したcDNAあるいはcDN
Aライブラリーを鋳型として、ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)法[モレキュ
ラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(第2版)、カレント・プロトコー
ルズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、サプルメント1〜34]によりcDNAを調製す
ることもできる。
【0017】
上記方法により選択されたcDNAクローンを、適当な制限酵素などで切断後、pBluescrip
t KS(+)(ストラタジーン社製)等のプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基
配列解析方法、例えばSangerらのジデオキシ法[Proc.Natl.Acad.Scl.,U.S.A.,74, 546
3(1977)]等によって分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。塩
基配列の分析は、塩基配列自動分析装置、例えば373A・DNAシークエンサー(アプラ
イド・バイオシステムズ社製)等を用いて行うことができる。
得られた塩基配列の新規性の確認は、GenBank、EMBLおよびDDBJなどの塩基配列データ
ベースにより行う。
上記方法によって得られたDNAとしては、例えば配列番号1で示される塩基配列を有す
るDNAもしくは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがあげられる
。また、該塩基配列より推定されるアミノ酸配列を有する蛋白質としては、配列番号32
記載のアミノ酸を有する蛋白質が含まれる。
【0018】
新規蛋白質をコードするDNAの調製および発現は、モレキュラー・クローニング:ア・
ラボラトリー・マニュアル(第2版)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー
・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、サプルメント1〜34(S
upplement 1〜34)[アウスベル(Ausubel)、ブレント(Brent)、キングストン(Kingston)、
ムーア(Moore)、セイドマン(Seidman)、スミス(Smith)、スツール(Struhl)編集、グリー
ン・パブリシング・アソシエイツ・アンド・ウエイリーインターサイエンス(Green Publi
shing Associates and Wiley-Interscience)発行、1987-1996年版、以下、カレント・プ
ロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、サプルメント1〜34と記す]等に
記載された方法によって、行なうことができる。
すなわち、前述した方法により得られた全長DNAを適当なベクターのプロモーター下流
に挿入した組換え体ベクターを造成し、それを宿主細胞に導入することにより、本発明の
蛋白質を発現する形質転換体を得ることができる。
【0019】
宿主としては、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞など、目的とする遺伝子を発現できる
ものであれば、いずれでもよい。細菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli
)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリクエファシネス
Bacillus amyloliquefaciens )、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium fl
avum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum
)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum )、ミクロバク
テリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum )等のエシェリヒア属
、セラチア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、シュードモナス属、バチ
ルス属等の微生物が例示される。酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharo
myces cerevisae )、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリ
ュイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis )、トリコスポロン・プルランス(Tri
chosporon pullulans )、シュワニオミセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius
等が例示される。動物細胞としては、ヒトの細胞であるナマルバ細胞、サルの細胞である
COS細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞等が例示される。昆虫細
胞としては、Spodoptera frugiperda の卵母細胞であるSf9、Sf21[バキュロウイ
ルス・イクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル(Baculovirus E
xpression Vectors、A Laboratory Manual)、オレリー(Oreilly)、ミラー(Miller)、ルー
コウ(Luckow)著、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W.H.Freeman a
nd Company)、ニューヨーク(NewYork)、1992年版(以下、バキュロウイル・スイクスプレ
ッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアルと記す)]、Trichoplusia niの
卵細胞であり、ファーミンジェン(Pharmingen)社からHigh5として市販されているTn5等が
例示される。
【0020】
本発明のDNAを導入するベクターとしては、該DNAを組み込むことができ、宿主細胞で発
現できるものであればいかなるベクターでも用いることができる。
細菌、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli )を宿主細胞として用いる場合
には、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列、場合によって
はプロモーターの制御配列より構成されているのが好ましい。
発現ベクターとしては、例えば、pKYP10(特開昭 58-110600)、pLSA1〔アグリカルチ
ュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Chem.),53,277,(1989)〕、
pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci,USA,82,4306,(1985)〕等が用いられる。
プロモーターとしては、大腸菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいずれを用い
てもよい。例えば、trpプロモーター(P trp)、lacプロモーター(P lac)、T7 lac
プロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージ等に由来
するプロモーターが用いられる。P trpを2つ直列させたプロモーター(P trp×2)、
tacプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等を用いてもよい。
リボソーム結合配列としては、シャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列(以下、S
D配列と略記する)と開始コドンの間を適当な距離(例えば、6〜18塩基)に調節して
用いることが好ましい。
【0021】
本発明の組換えベクターにおいては、本発明のDNAの塩基配列が宿主細胞での発現に最
適なコドンとなるように、必要に応じて塩基を置換して用いることが好ましい。
本発明の組換えベクターにおいては、本発明のDNAの発現には転写終結配列は必ずしも
必要ではないが、好適には構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば、例
えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc.Natl.Acad.Scl.,USA,69, 2110-2114(19
72)]、プロトプラスト法(特開昭63-2483942)等、いずれの方法も用いられる。
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEp13(ATCC371
15)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)等が用いられる。
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよい
が、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、gal 1プロモータ
ー、gal 10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP
1プロモーター等があげられる。
【0022】
酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば、例
えば、エレクトロポレーション法[Methods.Enzymol., 194,182-187(1990)]、スフェロ
プラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA, 84,1929-1933(1978)]、酢酸リチウム法[J.
Bacteriol., 153,163-168(1983)]等、いずれの方法も用いられる。
動物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pAGE107〔
特開平3-22979;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133,(1990)〕
,pAS3-3(特開平2-227075),pAMoERC3Sc,pcDM8〔ネイチャー(Nature),329,840,(1987
)〕、pcDNA I/Amp、pcDNA I(いずれもフナコシ社製)等が用いられる。
プロモーターとしては、動物細胞中で発現できるものであればいかなるものを用いても
よいが、例えば、サイトメガロウィルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロ
モーター、SV40あるいはメタロチオネインのプロモーター等があげられる。また、ヒトC
MVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターとともに用いてもよい。
【0023】
動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であ
れば、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology,3,133(1990)]、リン酸カ
ルシウム法(特開平2-227075)、リポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,8
4,7413(1987)]等、いずれの方法も用いられる。
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・
モレキュラー・バイオロジー、サプルメント1-34、バキュロウイルス・イクスプレッシ
ョン・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル等に記載された方法によって、タンパ
ク質を発現することができる。すなわち、以下に述べる組換え遺伝子導入ベクターおよび
バキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得たの
ち、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質発現昆虫細胞を取得する。
遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにイン
ビトロジェン社製)等が用いられる。
バキュロウイルスとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグ
ラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californ
ica nuclear polyhedrosis virus)などが用いられる。
【0024】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への上記組換え遺伝子導入ベクターと上記
バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075
)、リポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Scl.,USA,84,7413(1987)]等が用いら
れる。
以上のようにして得られる形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明の蛋白質を生
成蓄積させ、該培養物から採取することにより、本発明の蛋白質を製造することができる

本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法
に従って行われる。
【0025】
大腸菌あるいは酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地と
しては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を
効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、糖蜜、デンプン、デンプン
加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールな
どのアルコール類が用いられる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウ
ム、りん酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒
素化合物の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水
分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体またはその消化物等が用いられる

無機物としては、りん酸第一カリウム、りん酸第二カリウム、りん酸マグネシウム、硫
酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム
等が用いられる。
【0026】
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下、15〜40℃で16〜96
時間行う。培養期間中、pHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機または有機の酸
、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。
培養中は必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加し
てもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物
を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、la
cプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロ
ピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発
現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)等
を培地に添加してもよい。
【0027】
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用さ
れているRPMI1640培地、EagleのMEM培地またはこれら培地に牛胎児血清
等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常5%CO2存在下、35〜37℃で3〜7日間行
い、培養中は必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加しても
よい。
昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用さ
れているTNM-FH培地[ファーミンジェン(Pharmingen)社製]、Sf900IISFM[ライフテク
ノロジーズ(Life Technologles)社製]、ExCell400、ExCell405[いずれもJRHバイオサ
イエンシーズ(JRH Biosciences)社製]等が用いられる。培養は、25〜30℃で1〜4日間
行い、培養中は必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0028】
本発明の蛋白質が、細胞内に溶解状態で発現した場合または細胞内に不溶体を形成した
場合には、培養終了後、細胞を遠心分離し、水系緩衝液にけん濁後、超音波法、フレンチ
プレス法などにより細胞を破砕し、その遠心分離上清に該蛋白質を回収する。
さらに、細胞内に不溶体を形成した場合には、不溶体をタンパク質変性剤で可溶化後、
タンパク質変性剤を含まないあるいはタンパク質変性剤の濃度がタンパク質が変性しない
程度に希薄な溶液に希釈、或いは透析し、タンパク質の立体構造を形成せしめることがで
きる。
本発明の蛋白質あるいはその糖修飾体等の誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養
上清に該蛋白質あるいはその糖鎖付加体等の誘導体を回収することができる。単離精製に
ついては、溶媒抽出、有機溶媒による分別沈殿、塩析、透析、遠心分離、限外ろ過、イオ
ン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、
アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、結晶化、電気泳動などの
分離操作を単独あるいは組み合わせて行うことができる。
【0029】
また、本発明の蛋白質は配列番号32記載のアミノ酸配列に基づいた、化学合成法によ
っても製造することができる。
また、本発明の蛋白質、あるいは配列番号32記載のアミノ酸配列に基づいて化学合成
した本発明の蛋白質の一部であるペプチドを抗原として免疫することにより、抗体を製造
することができる。すなわち免疫した動物の脾細胞とマウスのミエローマ細胞とを融合さ
せてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物
を腹水癌化させ、該培養液または腹水を採取することにより本発明の蛋白質に対するモノ
クローナル抗体を製造することができる。また、免疫した動物の免疫血清を採取すること
により本発明の蛋白質に対するポリクローナル抗体を製造することができる。これらの抗
体はIgA腎症の診断や治療に利用することができる。

以下、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0030】
<IgA 腎症患者および健常人の白血球のディファレンシャル・ディスプレイ>
(1)IgA腎症患者および健常人の白血球からの全RNAの取得
IgA腎症の患者5名および健常人5名各々から20ml採血し、1000単位/mlヘパリンナト
リウム溶液(清水製薬社製)500μlを添加して凝固を抑制後、遠心チューブに移し、室温
で3,300rpm、15分間遠心後、白血球画分として中間層のバフィーコートを別の遠心チュー
ブに移した。AGPC法〔実験医学9,1937,(1991)〕により全RNAを取得した。
【0031】
(2)IgA腎症患者および健常人の白血球全RNAを用いた蛍光ディファレンシャル・ディス
プレイ
それぞれの全RNA2.5μgについて蒸留水を全体が9μlになるように添加し、5’末端を
フルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと称す)で蛍光標識したアンカープライ
マー(サワディー社製 50μM)1μlを加えて70℃で5分間加熱後、すぐ氷冷した。蛍
光標識アンカープライマーとしては以下に示す3種類の配列(FAH:5'-FITC-GT15A-3'、FGH
:5'-FITC-GT15G-3'、FCH:5'-FITC-GT15C-3')のうちの1種類ずつ反応に用いるので、1サ
ンプルの全RNAについて計3組の反応を行った。5×逆転写酵素反応用緩衝液〔250mMトリ
ス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)-HCl(pH8.3)、375mM KCl、15mM MgCl2〕4
μl、100mMジチオスレイトール(DTT)2μl、10mM dNTP(dATP、dGTP、dTTPおよびdC
TP)1μl、蒸留水1μl、逆転写酵素SUPERSCRIPT II RNase H Reverse Transcriptase(
BRL社製)1μl(200単位)を添加して混合し、室温で10分間静置後、42℃で50分間反
応させてcDNAを合成し、90℃5分間加熱して反応を停止させた。この反応液にTE緩衝液
〔10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)(pH8.0)〕40
μlを添加した。
【0032】
続いて、合成した各々のcDNA1μlに、蒸留水14.7μl、10×PCR用緩衝液〔100mM Tris-
HCl(pH8.8)、500mM KCl、15mM MgCl2、1%トライトンX-100〕2μl、2.5mM dNTP 0.8μ
l、50μM蛍光標識アンカープライマー(FAH、FGH、FGHのうちcDNA合成時に用いたのと同
じ種類のもの)0.3μl、10μM任意プライマー(オペロン社製)1μl、DNAポリメラーゼG
ene Taq(ニッポンジーン社製、5単位/μl)0.2μlを添加し、サーマルサイクラーにセ
ットした。94℃で3分間、40℃で5分間、72℃で5分間反応させた後、95℃で15秒間、40
℃で2分間、72℃で1分間からなる工程を1サイクルとして27サイクル反応を行い、最後
に72℃で5分間反応させてPCRを行った。蛍光標識アンカープライマーとしては前述した
3種類のうちから1種類、任意プライマーとしては、オペロン社製のOPD-1〜20、OPE-1〜
20およびOPV-1〜20の60種類のうちから1種類を組み合わせて反応を行うため、合計1
80組、さらに蛍光標識アンカープライマーFGHと任意プライマーOPB-2(オペロン社製)
の反応も行うため、1つの全RNAについて合計で181組の反応を行っている。
【0033】
各々のPCR反応液4μlに電気泳動サンプル用溶液(95%ホルムアミド、0.1%キシレンシ
アノール、0.1%ブロムフェノールブルー)3μlを添加し、95℃で2分間加熱後すぐ氷冷
し、6%アクリルアミドゲル、1500V、2.5時間で電気泳動を行った。電気泳動用緩衝液と
しては89mM Tris、89mMホウ酸、2mM EDTAを用いた。
フルオロイメージャー(モレキュラー・ダイナミックス社製)を用いて電気泳動後のゲ
ルの蛍光を測定することにより、PCRで増幅した断片を検出し、比較した。健常人5例に
比較して、IgA腎症患者の白血球5例で共通して顕著に増加あるいは減少したバンドを記
録した。
再度、別のIgA腎症患者3例と健常人3例から全く同様に全RNAを取得し、同様にディフ
ァレンシャル・ディスプレイを行い、2度のディファレンシャル・ディスプレイでともに
増加あるいは減少がみられた197バンドをゲルから切り出した。
【0034】
切り出したゲルの約1/4に蒸留水38μl、10×PCR用緩衝液5μl、2.5mM dNTP4μl、ア
ンカープライマー(蛍光標識なし:サワディー社製 34μM)0.6μl、10μM任意プライマ
ー2μl、DNAポリメラーゼGene Taq 0.5μlを添加し、94℃で3分間加熱後、95℃で15秒
間、40℃で2分間、72℃で1分間からなる工程を1サイクルとして30サイクル反応を行い
、最後に72℃で5分間反応させてPCRを行った。アンカープライマーおよび任意プライマ
ーの組み合わせについては、最初に行ったディファレンシャル・ディスプレイ法と同様の
ものを用いた。反応後の液をフェノール−クロロホルム(1:1)抽出し、さらにクロロ
ホルム−イソアミルアルコール(24:1)抽出後、エタノール沈殿をした。これを精製
するため1.5%低融点アガロースゲル〔シープラークGTG(SEAPLAQUE GTG:FMCバイオプロ
ダクツ社製)〕で電気泳動してエチジウムブロマイド染色をし、増幅断片を切り出した。
これを65℃で15分間加熱してアガロースを融解させ、フェノール−クロロホルム抽出し、
さらにクロロホルム−イソアミルアルコール抽出後エタノール沈殿をし、10μlのTE緩
衝液に溶解させた。
【0035】
増幅断片1μlとPCR断片クローニング用ベクターpT7BlueT-Vector(ノバジェン社製)
1μlを混合し、DNAライゲーションキットver.1(宝酒造社製)を用いて、キットの指示
に従い、プラスミドに増幅断片を組み込んだ。大腸菌DH5α(ギブコBRL社製)を形質転換
し、アンピシリン耐性株を得た。該形質転換株コロニーを蒸留水20μlに懸濁し、10×PCR
用緩衝液2.5μl、2.5mM dNTP2μl、34μMアンカープライマー0.3μl、10μM任意プライ
マー1μl、DNAポリメラーゼGene Taq 0.5μlを添加し、増幅断片の再増幅と同じ条件でP
CRを行って電気泳動をし、最初のディファレンシャル・ディスプレイ時と同じ長さの断片
が増幅することから、該プラスミドに増幅断片が組み込まれたことを確認した。
【0036】
増幅断片の塩基配列はDNAシークエンサー(パーキンエルマー社製)を用いて決定した
。塩基配列決定に用いた試薬および方法についてはパーキンエルマー社のダイプライマー
サイクルシークエンンシング(Dye primer cycle sequencing)キットを使用し、キット
の指示に従った。ここで得られた塩基配列中にある制限酵素部位で、もとのディファレン
シャル・ディスプレイ時の反応物を切断して電気泳動し、切り出した増幅断片に相当する
バンドが確かに切断されて泳動位置が変化することを確認した。得られた塩基配列を塩基
配列データベースGenBankと比較し、一致する塩基配列がデータベース中の既存の塩基配
列にはないもの、データベースの塩基配列の中でexpressed sequence tagとのみ一致する
ものを66クローン選択した。

【実施例2】
【0037】
<RT-PCRによるmRNAの発現の特異性の検出>
実施例1で得られたIgA腎症患者5例および健常者5例の白血球からの全RNA2μgに対
して一本鎖cDNA合成キットSuperscript preamplification system(BRL社製)を用い
て、キットに付属のオリゴdTプライマーにより一本鎖cDNAを合成した。具体的試薬および
方法は、キットに付属のプロトコールに従った。反応後の溶液21μlに蒸留水399μlを添
加して全体を420μlにし、そのうちの10μlを用いて、RT-PCRにより各増幅断片に対応す
るmRNAの発現量を検出した。すなわち、白血球一本鎖cDNA 10μlに蒸留水15.8μl、10×P
CR用緩衝液4μl、2.5mM dNTP 3.2μl、DMSO 2μl、10μM遺伝子特異的5'末端側センス
プライマー2μl、10μM遺伝子特異的3'側アンチセンスプライマー2μl、1単位/μlに
希釈したDNAポリメラーゼGene Taq2μlを添加し、97℃5分間加熱し、氷中で5分間冷却
した後、94℃で30秒間、65℃で1分間、72℃で2分間からなる工程を1サイクルとして24
〜35サイクルのPCR反応を行った。2%アガロースゲル電気泳動後、0.01%サイバーグリー
ン(宝酒造社製)で染色し、増幅した断片の量をフルオロイメージャーで定量し、mRNAの
相対発現量とした。
【0038】
mRNAの量を校正するために、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3−リ
ン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)遺伝子について、下記の特異的プライマー:
5'-CCCATCACCATCTTCCAGGAGC-3' (配列番号95)
5'-TTCACCACCTTCTTGATGTCATCATA-3' (配列番号96)
を用いて同様の反応を行い、各遺伝子のmRNAの発現量をG3PDH mRNAの発現量に対する比で
校正した後、IgA腎症患者5例の平均値と健常者5例の平均値を比較し、その値に差のあ
る遺伝子31クローンについて IgA腎症患者で発現量が変化している遺伝子として選択し
た。表1−1および表1−2に、選択された遺伝子についてまとめた。
【0039】
【表1−1】

【0040】
【表1−2】

【0041】
これらの遺伝子についてのプライマーと、検体白血球のmRNA由来cDNAとを、RT-PCR法に
より反応させて、遺伝子増幅を観察することで、IgA腎症の診断が可能となる。

【実施例3】
【0042】
<INP377-A cDNAのクローン化>
(1)INP377-A cDNAクローンの単離
ベクターにpCMV-SPORT(ギブコBRL社)を用いたヒト白血球cDNAライブラリー(ギブコB
RL社製)から、ジーントラッパーcDNAポジティブセレクションシステム(GENE TRAPPER c
DNA Positive Selection Sysytem ギブコBRL社製)を用いて、INP377-A cDNA クローンを
取得した。すなわち、cDNAライブラリーをGene II蛋白とエクソヌクレアーゼIIIを用いて
、一本鎖にした後、INP377-A遺伝子と対応するビオチン化した相補的なオリゴヌクレオチ
ド(実施例2で用いた5'側センスプライマーを用いた)をプローブとしてハイブリダイズ
させ、さらにストレプトアビジン付加したマグネティックビーズでプローブを結合させて
単離させた。ハイブリダイズしていた一本鎖cDNAクローンをプローブからはずした後、DN
Aポリメラーゼによって二本鎖にして大腸菌を形質転換することにより、INP377-A cDNAク
ローンをアンピシリン耐性株として出現させた。具体的試薬および方法はキットに付加す
るプロトコールにしたがった。それぞれの形質転換株コロニーを蒸留水18μlに懸濁し、1
0×PCR用緩衝液2.5μl、2.5mMdNTP 2μl、10μM遺伝子特異的5'側センスプライマー1μ
l、10μM遺伝子特異的3'側アンチセンスプライマー1μl、DNAポリメラーゼGene Taq 0.5
μlを添加し、RT-PCRと同じ条件でPCRを行って電気泳動をし、プライマーの位置から推定
される約200bpのINP377-A cDNA断片が増幅する形質転換株をINP377-A cDNAクローンとし
て単離した。
【0043】
このクローンから公知の方法(モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニ
ュアル 第2版)に従ってプラスミドDNAを単離し、このプラスミドをpGTINP377A-46Cと名
付けた。またプラスミドDNAを制限酵素SalIおよびNotI(ともに宝酒造社製)で消化後
、アガロースゲル電気泳動を行ったところ、cDNAのサイズは約3kbであった。
【0044】
(2)INP377-A cDNAの塩基配列の決定
pGTINP377A-46C中のINP377-A cDNAの塩基配列をパーキンエルマー社の377DNAシークエ
ンサーを用いて決定した。塩基配列決定のための具体的試薬および方法はパーキンエルマ
ー社のダイプライマーサイクルシークエンシングFSレディーリアクション(Dye primer cy
cle sequensing FS Ready Reaction)キットを使用し、キットの指示に従った。得られた
塩基配列を配列番号1に示した。この塩基配列には143アミノ酸からなるオープンリーデ
ィングフレーム(ORF)が存在した。377-AのcDNAの塩基配列をデータベースと比較したと
ころ、N末の137アミノ酸に相当する部分は、ショウジョウバエのガン抑制遺伝子Sxlと相
同性をもつヒトの遺伝子LUCA15のN末137アミノ酸に相当する部分と一致するが、その後に
、全く相同性のない塩基配列が続き、ディファレンシャル・ディスプレイで得られた配列
は、この全く相同性のない塩基配列中に存在することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により得られる新規遺伝子を用いることによりIgA腎症の治療や診断が可能であ
る。
【配列表フリーテキスト】
【0046】
配列番号1:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号2:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号3:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号3:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:53〜58)
配列番号4:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号4:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:29)
配列番号4:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:32)
配列番号4:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:35)
配列番号5〜8:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号9:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号9:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:72)
配列番号9:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:127)
配列番号9:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:150)
【0047】
配列番号10〜12:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号13:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号13:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:227)
配列番号13:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:237)
配列番号14:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号15:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号15:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:39〜41)
配列番号16〜28:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号29:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号29:nはa、c、g又はtを表す(存在位置:44)
配列番号30:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号31:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球
配列番号32:トポロジー:直鎖状;起源:白血球
配列番号33〜94:合成DNA
配列番号33〜94:一本鎖;トポロジー:直鎖状
配列番号95:合成DNA
配列番号96:合成DNA
配列番号97:二本鎖;トポロジー:直鎖状;cDNA;起源:白血球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2〜5、7〜12、14及び16〜30に示される塩基配列を有するIgA腎症関連遺伝子のDNA。
【請求項2】
請求項1記載の塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIgA腎症関連遺伝子のmRNAを検出することができる機能を有するDNA。
【請求項3】
請求項1または2記載のDNAの塩基配列および/または該DNAと相補的な塩基配列のうちの少なくとも21塩基を含むオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のオリゴヌクレオチドを用いてIgA腎症関連遺伝子のmRNAを検出する方法。
【請求項5】
請求項3記載のオリゴヌクレオチドを含む、IgA腎症診断薬。
【請求項6】
請求項3記載のオリゴヌクレオチドを用いて、IgA腎症関連遺伝子の転写および該mRNAの翻訳を抑制する方法。
【請求項7】
IgA腎症患者白血球より、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いた、請求項1記載のDNAを含むIgA腎症関連遺伝子の取得方法。

【公開番号】特開2013−63075(P2013−63075A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248396(P2012−248396)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2011−131360(P2011−131360)の分割
【原出願日】平成9年12月5日(1997.12.5)
【出願人】(595160617)
【Fターム(参考)】