説明

In−Ga−Zn系酸化物及びその製造方法

【課題】半導体材料等として有用な新規なIn−Ga−Zn系酸化物とその製造方法を提供する。
【解決手段】In、Ga、Znを含む酸化物であって、4つの層状構造を1ユニットとする繰り返し構造を含み、前記層状構造はそれぞれIn、Ga、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物からなる酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、In、Ga及びZnを含む酸化物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、又は酸化亜鉛及び酸化ガリウム(Ga)からなる非晶質の酸化物膜は、可視光透過性を有し、かつ、導電体又は半導体から絶縁体まで広い電気特性を有するため、透明導電膜や半導体膜(例えば、各種センサーや薄膜トランジスタ等に用いられる)として着目されている。
特に、細川等によって、InとZnOを含むn型半導体材料が見出されて以来(特許文献1)、InとZnOを含む種々の酸化物半導体が注目されてきた。
【0003】
近年、結晶状態における組成式がIn2−xGa(ZnO)(但し、0<x<2、mは自然数)で表される六方晶の層状化合物の結晶構造(ホモロガス結晶構造)を有した酸化物材料が注目を浴びている。
【0004】
層状化合物としては、上記のほかにIn(ZnO)(m=2〜20)、InGaZnO、InGaZnO等の公知の結晶型の組成、又はそれと近い組成のものを中心に検討されている。具体的には、InとZnを主成分とし、一般式In(ZnO)(m=2〜20)で表される六方晶層状化合物を含む酸化物や、この酸化物にさらに正三価以上の原子価を有する元素の少なくとも1種を20原子%以下でドープした酸化物が公開されている(特許文献2)。また、InGaZnOやInGaZnOのホモロガス結晶構造を示す酸化物が検討されている(特許文献3、4、5)。
【0005】
さらに、In(ZnO)(m=2〜20)の六方晶層状化合物とInとの混合物や、In(ZnO)(m=2〜20)のホモロガス結晶構造とZnOとの混合物からなる酸化物(特許文献2)、InGaZnOのホモロガス結晶構造とZnGaのスピネル構造の混合物からなる酸化物(特許文献6)等、混合物の特性を生かした酸化物の開発が検討されている。
特許文献7にはInGaO(ZnO)等、InGaO(ZnO)(m=1〜20)で表される酸化物及びその合成方法が公開されている。
【0006】
しかし、今まで検討がなされてきた上記の酸化物はいずれもIn、Ga、Znからなる、3つの層状構造を繰り返した構造をとり、In、Ga、Znからなる、4つの層状構造を繰り返した特徴的な構造を含む酸化物は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−114928号公報
【特許文献2】特開平6−234565号公報
【特許文献3】特開平8−245220号公報
【特許文献4】特開2007−73312号公報
【特許文献5】国際公開第2009/084537号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/072486号パンフレット
【特許文献7】特開昭63−239117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、半導体材料等として有用な新規なIn−Ga−Zn(IGZO)系酸化物とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の酸化物等が提供される。
1.In、Ga、Znを含む酸化物であって、4つの層状構造を1ユニットとする繰り返し構造を含み、前記層状構造はそれぞれIn、Ga、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物からなる酸化物。
2.前記繰り返し構造が、In2−xGa(ZnO)(式中、xは0.45≦x<1.0である)で表わされる、下記結晶構造A、B又は両方である1に記載の酸化物。
結晶構造A:
第1層 : InO1.5
第2層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
結晶構造B:
第1層 : InO1.5
第2層 : ZnIn1−x
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : ZnO
3.xが0.50≦x≦0.80である2に記載の酸化物。
4.前記酸化物の格子定数のうちa軸及びc軸がそれぞれ以下を満たす1〜3のいずれかに記載の酸化物。
3.29Å<a軸<3.34Å
22.50Å<c軸<22.90Å
5.亜鉛化合物とガリウム化合物の原料粉を混合して500℃〜1000℃、1〜100時間で第1の焼成をした後、インジウム化合物の原料粉を混合して800℃〜1600℃、30分〜360時間で第2の焼成をする1〜4のいずれかに記載の酸化物の製造方法。
6.第1の焼成、及び第2の焼成の最高焼成温度までの平均昇温速度が8℃/分以下であり、前記最高焼成温度からの平均降温速度が4℃/分以下である5に記載の酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体材料等として有用な新規なIGZO系酸化物とその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の酸化物の結晶構造、及び既知のIn(ZnO)及びInGaO(ZnO)の結晶構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の酸化物、及びその製造方法について、図面を用いて説明する。
本発明の酸化物は、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含む酸化物であって、4つの層状構造を1ユニットとする繰り返し構造を含む。上記層状構造はそれぞれ、In、Ga、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物からなる。例えばIn酸化物、In−Zn酸化物、Ga−Zn酸化物、Zn酸化物等である。4つの層状構造は全て互いに異なる必要は無い。
【0013】
本発明の酸化物は、従来から知られていたIn(ZnO)及びInGaO(ZnO)の結晶型とは異なる、新たな結晶構造を含む酸化物である。
【0014】
具体的には、本発明の酸化物は、例えば、In2−xGa(ZnO)で表わされる下記結晶構造A、B又は両方を繰り返し構造として含む。
結晶構造A
第1層 : InO1.5
第2層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
結晶構造B
第1層 : InO1.5
第2層 : ZnIn1−x
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : ZnO
【0015】
上記において、xは0.45≦x<1.0であり、好ましくは0.50≦x≦0.80である。
xの値は原料混合比を調整することによって調節できる。xが上記の値であると、本発明の結晶構造を得られやすいため好ましい。
図1に本発明の酸化物の結晶構造を模式的に示す。
【0016】
本発明の酸化物はJCPDS(Joint Commite of Power Diffraction Standards)カードにはなく、今まで確認されていない新規な結晶である。
酸化物を構成する結晶相は、単結晶であっても多結晶であってもよい。
【0017】
本発明の酸化物のXRDチャートに対してピークサーチを行ったところ、既知の化合物であるInGaO(ZnO)の構造に近いが、明らかにピーク位置、及びピーク強度比が異なるため、InGaO(ZnO)とは異なる新規な結晶構造を有していることが明らかとなった。
【0018】
本発明の酸化物の結晶構造は、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)の結晶構造、及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)の結晶構造に類似していると考えられるが、異なる結晶構造である。
【0019】
図1に参考としてIn(ZnO)の結晶構造と、InGaO(ZnO)の結晶構造を示す。
【0020】
In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造やInGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は「六方晶層状化合物」又は「ホモロガス相の結晶構造」と呼ばれ、異なる物質の結晶層を何層か重ね合わせた長周期を有する「自然超格子」構造からなる結晶である。結晶周期ないし各薄膜層の厚さが、ナノメーター程度の場合、これら各層の化学組成や層の厚さの組み合わせによって、単一の物質や各層を均一に混ぜ合わせた混晶の性質とは異なる固有の特性が得られる。
【0021】
ホモロガス相の結晶構造は、例えば、焼結体の粉砕物や切削片又は焼結体そのものから直接測定したX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDSカードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
【0022】
In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は、InO1.5層とInZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返された構造を有すると考えられている。
また、InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造は、InO1.5層とGaZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返されると考えられている。
このように、In(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造や、InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造のX線回折による測定結果は、ピーク位置が異なる(格子間距離は異なる)がパターンは似たものとなる。
【0023】
さらに、本発明の酸化物をEPMAにて形態観察をしたところ、単相であることが確認された。このことからも、本発明が新規な結晶であることが分かる。
【0024】
即ち、本発明の酸化物は、上記の結晶相の単相からなる(実質的に上記の結晶構造A,Bの繰り返しのみからなる)。尚、ここでいう「単相」とは、酸化物の粉末をX線回折装置で測定した場合に、測定結果から確認される全てのピークがIn、Ga、Znのいずれかからなる結晶構造(IGZO系の結晶構造)から起因するものであり、不純物に起因するピークが見られないことを意味する。従って、仮に酸化物の粉末がX線回折測定によって確認できない程度の微量の不純物を含んでいたとしても、当該酸化物は単相からなると言える。
【0025】
本発明の酸化物はIGZO系の結晶構造の単相からなるので、複数の結晶構造が混在している場合に比べ、粒界等で電子散乱が生じることを抑制し、キャリア(電子)の移動度を保持することができ、光センサーやガスセンサー、半導体用の素子、太陽電池の電極材料等に好適である。
【0026】
本発明の酸化物は、リートベルト解析により詳細にその構造を同定することができる。リートベルト解析に使用する諸条件は例えば以下の通りである。
使用プログラム TOPAS3.0(Bruker AXS社製)
プロファイル関数 Psude−Voigt関数(非対称)
選択配向関数 修正March−Dollase関数((001)配向:0.885(1))
【0027】
リートベルト解析の手順を以下に示す。
XRDチャートに対して多項式フィッティングによりバックグラウンドを精密化する。フィッティング関数は、例えばPseudo−Voigt関数、Fundamental Parameter関数が使用できる。これは、光学系(装置)によるピークの広がりを理論的にピーク関数に足し合わせてピークフィッティングする方法である。
【0028】
解析に使用できるプログラムは、TOPAS及びRietan−FPである。
具体的な解析手順としては、まず、格子定数、バックグラウンド、ピーク形状の関数をまず変数として、これらの変数を収束させ、続いて原子座標を動かして収束させる。これがおおよそ収束した後、温度因子、席占有率をパラメータとして動かせる。
基本的に、重い原子に対して収束を試みることが一般的であり、本発明では、陽イオンについてパラメータが収束するようにフィッティングの精度を上げていくことが好ましい。その後、酸素についても温度因子、席占有率を動かしてフィッティングが収束する条件を探す。
【0029】
本発明の酸化物は、その結晶構造がA、B又は両方である範囲において、上述したIn、Ga、Zn以外の他の金属元素、例えば、Sn、Ge、Si、Ti、Zr、Hf等を不純物として含有していてもよい。
【0030】
本発明の酸化物は、例えば、上記結晶構造A,Bの組成に対応する配合量で各金属元素を含有する原料粉末を焼結することにより製造できる。
具体的には、インジウム化合物と、ガリウム化合物を混合して仮焼をした後、亜鉛化合物を混合して焼成をする。
【0031】
原料としては、インジウム化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末等の粉末を用いる。
インジウムの化合物としては、例えばIn、水酸化インジウム(In(OH))等が挙げられる。ガリウムの化合物としては、例えばGa、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えばZnO、水酸化亜鉛(Zn(OH))等が挙げられる。
各々の化合物として、焼結のし易さ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
【0032】
原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2Nより低いと、本発明である酸化物を得ることができない可能性がある。原料の一部として金属亜鉛(亜鉛末)を用いることが好ましい。
【0033】
原料として酸化物を使用する場合、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛の比表面積(BET比表面積)は、通常各々3〜18m/g、3〜18m/g、3〜18m/gであり、好ましくは各々7〜16m/g、7〜16m/g、3〜10m/gであり、より好ましくは各々7〜15m/g、7〜15m/g、4〜10m/gであり、特に好ましくは各々11〜15m/g、11〜15m/g、4〜5m/gである。
比表面積が小さすぎると焼結体中に各々の元素の凝集体が成長する、原料粉末の結晶型が残存する、想定外の結晶型が生成し性状が変化する、等のおそれがある。比表面積が大きすぎると想定外の結晶型が生成し性状が変化し、本発明の酸化物の結晶構造が得られない等のおそれがある。
以下各工程について説明する。
【0034】
(1)配合工程
原料の配合工程は、本発明の酸化物に含有される金属元素の化合物のうち、亜鉛化合物、及びガリウム化合物を混合する工程である。
上記の原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。また上記原料を混合、粉砕した後、スプレードライによる乾燥を行うことが好ましい。
【0035】
(2)仮焼工程(第1の焼成)
仮焼工程では上記(1)で得られた混合・粉砕物を仮焼する。
【0036】
仮焼工程においては、500〜1000℃で、1〜100時間の条件で上記の混合物を熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理では、ガリウム化合物や亜鉛化合物の熱分解が不十分となる場合がある。一方、熱処理条件が、1100℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合がある。また亜鉛化合物が昇華する場合がある。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間、熱処理(仮焼)することである。
【0037】
仮焼工程は、InとGaを焼成し均一に反応させるため、大気雰囲気、窒素雰囲気、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下で行うことが好ましい。
【0038】
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の焼成工程の前に粉砕し、インジウム化合物(例えば酸化インジウム)の原料粉と合わせて十分混合することが好ましい。粉砕は原料粉の粒径が体積平均粒径におけるメジアン径(D50)が好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下まで行うとよい。目的は、原料の均一分散化である。粒径の大きい原料粉が存在すると場所による組成むらが生じ、本酸化物の結晶構造が得られないおそれがある。
【0039】
(3)焼成工程(第2の焼成)
焼成工程は、仮焼物にインジウム化合物を混合して得られた混合物を焼成する工程である。
焼成は、熱間静水圧(HIP)焼成等によって行うことができる。
焼成条件としては、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下に、通常800〜1600℃、好ましくは1100〜1600℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜96時間焼成する。
焼成温度が800℃未満であると、酸化物の密度が上がり難くなったり、焼結に時間がかかり過ぎるおそれがある。一方、1600℃を超えると成分の気化により、組成がずれたり、炉を傷めたりするおそれがある。燃焼時間が30分未満であると、IGZO酸化物の密度が上がり難く、360時間より長いと、製造時間がかかり過ぎコストが高くなるため、実用上採用できない。
一方、酸素を含有しない雰囲気で焼成したり、1600℃超の温度において焼成したりすると、得られる酸化物の密度を十分に向上させることができない恐れがある。
【0040】
第1及び第2の焼成時の平均昇温速度は、通常8℃/分以下、好ましくは4℃/分以下、より好ましくは2℃/分以下である。8℃/分以下であると本発明の酸化物が得られやすい。
また、第1及び第2の焼成時の平均降温速度は、通常4℃/分以下、好ましくは2℃/分以下である。4℃/分以下であると本発明の酸化物が得られやすい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の酸化物及びその製造方法について実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(1)IGZO系酸化物の作製
IGZO系酸化物の原料として、In(純度4N、アジア物性材料社製)、Ga(純度4N、アジア物性材料社製)及びZnO(純度4N、高純度化学社製)を使用した。
これらの原料を得られる焼結体(ペレット)が表1の組成となるように秤量し、まず、ZnO及びGaの混合物を湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。尚、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして混合粉砕後、スプレードライヤーで乾燥させた。
【0043】
得られた粉末を一軸プレスにより成形した。圧力は400kgf/cmとし、ペレット状に成形した。ペレットを封管した状態で電気炉にて仮焼した。仮焼条件は以下の通りとした。この工程によりIn、Gaが十分に混合され、より本発明のIGZO系酸化物が得やすくなる。
昇温速度:2℃/分
焼結温度:1000℃
焼結時間:6時間
焼結雰囲気:酸素流入
降温時間:72時間
降温速度:8℃/分
【0044】
仮焼結体をメノウ乳鉢にて粉砕し、さらに先に計量したInを加え混合した。得られた粉末を一軸プレスによりペレット状に再度成形した。その時の圧力は仮焼工程前と同様に400kgf/cmで成形した。
上記ペレットを電気炉にて本焼成した。本焼成の条件は以下の通りとした。
昇温速度:2℃/分
焼結温度:1500℃
焼結時間:6時間
焼結雰囲気:酸素流入
降温時間:72時間
降温速度:4℃/分
得られた酸化物焼結体(ペレット)について、ICP発光分析装置により組成を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(2)IGZO系酸化物の構造解析
得られた酸化物焼結体(ペレット)についてX線回折(XRD)測定を行った。XRD測定は以下の条件により行った。試料は標準のガラスホルダーに詰め、広角X線回折法で測定した。
・X線回折装置 Bruker AXS社製 D8ADVANCE(封入管型)
X線源:Cu−Kα線
波長:1.5406Å(グラファイトモノクロメータにて単色化)
出力:40kV、40mA
スリット系:DS:0.6°、RS:0.2mm
検出器:シンチレーションカウンター
・スキャン方式 2θ−θステップスキャン
・測定範囲(2θ) 5〜155°
・ステップ幅(2θ) 0.02°
・計測時間 15秒/ステップ
【0046】
得られたIGZO系酸化物はJCPDSカードにはなく、今まで確認されていない新規な結晶であった。
【0047】
この新規な結晶の構造を同定するために上記XRDチャートに対してリートベルト解析を行った。リートベルト解析の条件は次の通りである。
・使用プログラム TOPAS3.0(Bruker AXS社製)
・プロファイル関数 Psude−Voigt関数(非対称)
・選択配向関数 修正March−Dollase関数((001)配向:0.885(1))
【0048】
まず既知の化合物であるInGaO(ZnO)についてリートベルト解析を実施した。
フィッティングの際に使用した空間群はP6/mmcである。リートベルト解析によるフィッティング結果では23°及び32°付近のXRDチャート強度が大きくずれ、フィッティングの精度を示すGOFが2以上超の大きな値となった。GOFの値を表1に示す。
このことからも、本発明のIGZO系酸化物は、既知化合物であるInGaO(ZnO)とは異なることが分かる。
【0049】
尚、GOF(Goodness Of Fit)はフィッティング誤差であり、以下の式により求める。
GOF=Rw/Rexp
Rw:重み付け平均2乗誤差
Rexp:実験値に対する平均2乗誤差
GOFが2以下であればフィッティングによる精度が高く、構造を同定したといえる。
【0050】
In、Zn、Gaの配位数はそれぞれ主に6配位、4配位、5配位であるが、鋭意検討した結果、本発明のIGZO系酸化物においては、Znサイトに過剰なInが位置し、またGaサイトにZnが一部位置している新結晶モデルに至った。
そこで、上記モデルの下にリートベルト解析をさらに進め、XRDチャートのフィッティングを行ったところ、精度よくフィッティングすることができた。GOFの値を表1に示す。このIGZO系酸化物の1ユニットに含まれる層数は4層であった。尚、新結晶モデルでリートベルト解析によりフィッティングしGOFが2以下でる場合に層数が4層であると決定した。
この結果、本実施例1のIGZO系酸化物は結晶構造A、B又は両方で表わされる4つの層状構造を繰り返した構造である新結晶モデルであることが同定された。
【0051】
また、リートベルト解析により、IGZO系酸化物の格子定数を測定した結果、a軸長が3.32993Å、c軸長が22.8496Åであった。またその空間群はP6/mmcであると考えられる。
【0052】
実施例2〜5
原料混合比を変えた他は実施例1と同様にしてペレットを作製し、評価した。結果を表1に示す。実施例2〜5においても上記新結晶をモデルとしたGOFの値は2以下を示し、また1ユニットに含まれる層の数は4層であった。
【0053】
比較例1
原料混合比を変えた他は実施例1と同様にしてペレットを作製し、評価した。InGaO(ZnO)をモデルとした場合、リートベルト解析によるフィッティングが収束しなかった。また、上記新結晶をモデルとした場合、GOFは2超となった。そのため1ユニットに含まれる層数は決定できなかった。
【0054】
比較例2
原料混合比を変えた他は実施例1と同様にしてペレットを作製し、評価した。InGaO(ZnO)をモデルとしたリートベルト解析によるフィッティングは収束し、GOFの値も2以下であった。1ユニットに含まれる層数が3層の公知の結晶構造InGaO(ZnO)であるため、本発明の新結晶モデルによる解析ができなかった。
【0055】


【表1】

尚、実施例1〜5の酸化物は半導体特性に優れ、ガスセンサーや光センサー、太陽電池用の電極材料、ダイオード、液晶表示装置やEL表示装置等として使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により得られた酸化物は光機能材料、半導体材料、光触媒材料等として有用なものである。例えば蛍光体、半導体用の素子、塗布型半導体用インク、スパッタリングターゲット、太陽電池用の電極材料、ダイオード、光センサー、ガスセンサー、液晶表示装置やEL表示装置等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In、Ga、Znを含む酸化物であって、4つの層状構造を1ユニットとする繰り返し構造を含み、前記層状構造はそれぞれIn、Ga、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物からなる酸化物。
【請求項2】
前記繰り返し構造が、In2−xGa(ZnO)(式中、xは0.45≦x<1.0である)で表わされる、下記結晶構造A、B又は両方である請求項1に記載の酸化物。
結晶構造A:
第1層 : InO1.5
第2層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : Zn(1+x)/2In(1−x)/2
結晶構造B:
第1層 : InO1.5
第2層 : ZnIn1−x
第3層 : GaZn1−x1.5
第4層 : ZnO
【請求項3】
xが0.50≦x≦0.80である請求項2に記載の酸化物。
【請求項4】
前記酸化物の格子定数のうちa軸及びc軸がそれぞれ以下を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物。
3.29Å<a軸<3.34Å
22.50Å<c軸<22.90Å
【請求項5】
亜鉛化合物とガリウム化合物の原料粉を混合して500℃〜1000℃、1〜100時間で第1の焼成をした後、インジウム化合物の原料粉を混合して800℃〜1600℃、30分〜360時間で第2の焼成をする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物の製造方法。
【請求項6】
第1の焼成、及び第2の焼成の最高焼成温度までの平均昇温速度が8℃/分以下であり、前記最高焼成温度からの平均降温速度が4℃/分以下である請求項5に記載の酸化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236729(P2012−236729A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105719(P2011−105719)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】