説明

JNKシグナル伝達経路の細胞透過性のペプチド性阻害剤の、慢性または非慢性の炎症性消化器疾患の治療のための、使用

本発明は、大腸炎などの非慢性または慢性の炎症性消化器疾患を治療するための、プロテインキナーゼ阻害剤の使用に関し、より詳細には、プロテインキナーゼc−Junアミノ末端キナーゼの阻害剤の、JNK阻害剤配列の、キメラペプチドの、または、これをコードする核酸の、およびこれを含有する薬剤組成物の使用に関する。大腸炎には、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン大腸炎、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、および、非定型大腸炎などが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼ阻害剤の使用に関し、より詳細には、プロテインキナーゼc−Junアミノ末端キナーゼの阻害剤、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、または、これをコードする核酸、およびこれを含有する薬剤組成物の、大腸炎などの非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療のための使用に関する。大腸炎には、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン大腸炎(Crohn's colitis)、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、および、非定型大腸炎などが含まれる。
【0002】
消化器疾患、具体的には非慢性および慢性の消化器疾患の数は、過去10年間で、西洋文化圏において著しく増加し、これらの国々の国民医療保障制度にとって大きな課題となっている。消化器疾患は、胃腸管に関連する疾患である。消化器疾患には、食道、胃、十二指腸の第1の部分、第2の部分、第3の部分、および第4の部分、空腸、回腸、回盲部の複合体、大腸、(上行結腸、横行結腸、および下行結腸)S状結腸、および直腸の疾患が含まれる。
【0003】
慢性炎症性消化器疾患は、頻繁に生じ、大腸炎などの結腸の炎症を特徴とする。大腸炎には、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病(Crohn's disease)、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン形成大腸炎、潰瘍性大腸炎、および、非定型大腸炎などが含まれる。
【0004】
ここで、潰瘍性大腸炎およびクローン病は、2つの主要な慢性炎症性消化器疾患、および、2つの主要な種類の炎症性腸疾患を示す。クローン病および潰瘍性大腸炎はどちらも、発症が過去10年の間に急激に増加した疾患である。例えば、ドイツでは、人口の約0.01%〜約0.1%、すなわち約100,000人に約10〜100人が、クローン病または潰瘍性大腸炎を患っていると推定される。
【0005】
さらに、クローン病または潰瘍性大腸炎の発生率は、毎年、約1〜約8にて増加している。クローン病に冒される割合は、女性の方がわずかに高く、潰瘍性大腸炎の男性女性の比率は、約1:1である。潰瘍性大腸炎およびクローン病を発病する年齢のピークは、15歳と30歳との間である。次のピークは、60歳と80歳との間に生じる。
【0006】
潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患(IBD)の1つの形であり、大腸炎の1つのサブタイプである、腸、特に大腸または結腸の疾患である。潰瘍性大腸炎の症候は、典型的には、結腸における特徴的な潰瘍または宿弊を含む。潰瘍性大腸炎は、通常、直腸において始まり、大腸または結腸の近接部位に広がり続ける。この場合、通常、上部胃腸管は冒されない。
【0007】
進行中の疾患の主な症候は、血が混じった下痢が徐々に始まる場合が多い。この場合、患者は、典型的には、痙攣性の腹痛に苦しむ。潰瘍性大腸炎は、腸外の様々な発症(リウマチ性皮膚病(dermatologic rheumatology)、眼球など)に関連している。
【0008】
潰瘍性大腸炎は、症候が悪化した周期と比較的症候が無い周期とを有する、間欠性の疾患である。潰瘍性大腸炎の原因は、知られていないが、影響を受けやすい遺伝子成分が存在すると推測される。さらに、この疾患は、環境因子に影響されやすい人間において誘発されると推測される。しかし、潰瘍性大腸炎の症候が自然に軽減されることは稀であり、むしろ、特に疾患が慢性病状に変化した時には、沈静させるための治療が必要である。
【0009】
潰瘍性大腸炎の治療は、典型的には、疾患の程度および分布に応じて決定され、通常、抗炎症薬による治療、免疫抑制、および、免疫応答の特異成分に標的を当てた生物療法が含まれる。
【0010】
典型的には疾患が直腸に限られている場合の、軽度または中度の炎症活動(軽度または中度の遠位大腸炎)を伴う病状では、一般的な治療には、通常、Pentasa(登録商標)またはSalofalk(登録商標)などの5−アミノサルチル酸ナトリウムの投与が含まれる。あるいは、坐薬または浣腸剤を用いた局所的な投薬法を用いてもよい。また、特に救急治療において、例えばヒドロコルチゾン、ブデノシド、ベクロメタゾン(Betnesol(登録商標))またはプレドニゾン(Rectodelt(登録商標))を含むステロイド含有薬剤の投与を用いてもよい。
【0011】
典型的には潰瘍性大腸炎が大腸または結腸の近接部位の中に広がった場合の、重度の炎症活動を伴う病状では、ベクロメタゾン(Betnesol(登録商標))またはプレドニゾン(Rectodelt(登録商標))またはその誘導体などといったグルココルチコイドの、静脈注射若しくは静脈内投与(直腸投与または経口投与の形)による投与、または、例えば、アザチオプリン、メトトレキサート(MTX)またはサイクロスポリンAといった免疫抑制薬の投与を用いてよい。抗体、例えば、抗−TNF−アルファ(INFLIXIMAB)または抗−CD4を用いた抗体療法を適用してよい場合もある。
【0012】
薬物療法に応答しない重篤な慢性病状の場合、結腸切除、すなわち、大腸を手術により部分的または全体的に除去しなければならない場合もあり、この場合の疾患にとっての1つの治癒であると考えられている。これらの治療法は、典型的には、潰瘍性大腸炎による急性の発作の症候を減少させる。しかし、これらの治療法には、この疾患の効果的な且つ持続的な治癒を可能にすると思われるものはない。
【0013】
(限局性腸炎としても知られる)クローン病は、さらなる重要な慢性炎症性消化器疾患である。クローン病は、腸管および腸の壁全体を冒す、慢性の一過性炎症性腸疾患(IBD)の1つのサブタイプである。潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病は、全胃腸管のあらゆる部位を冒し得る。結果的に、クローン病の症候は、個々の患者によって異なる。疾患は、飛び越し病変として知られる、1つの症候において、間に通常の上皮の領域を有する炎症の領域によって特徴付けられる。主な胃腸症状は、腹痛、下痢、便秘、嘔吐、および、体重減少または体重増加である。クローン病は、また、胃腸管の外部において、吹き出物発疹、関節炎、および目の炎症などの合併症を引き起こす。
【0014】
北アメリカでは、400,000〜600,000人が、クローン病を患っている(Loftus, E. V.; P. Schoenfeld, W. J. Sandborn (2002年1月)。"The epidemiology and natural history of Crohn’s disease in population-based patient cohorts from North America a systematic review". Alimentary Pharmacology & Therapeutics 16 (1) 51-60.)。
【0015】
北ヨーロッパの推定患者数は、100,000人に27〜48人である(Bernstein, Charles N. (2006年7月)。"The Epidemiology of Inflammatory Bowel Disease in Canada A Population-Based Study". The American Journal of Gastroenterology 101 (7) 1559−1568)。さらに、クローン病は、10代および20代に最初に発現する傾向にあり、別のピーク罹患率は、50代から70代であるが、この疾患は、あらゆる年齢において生じ得る(Hanauer, Stephen B. (1996年3月)."Inflammatory bowel disease". New England Journal of Medicine 334 (13) 841-848; Gopal, Latha; Senthil Nachimuthu (2006-05-23). Chrohns Disease, eMedicine)。
【0016】
クローン病の原因は分かっていないが、遺伝的に連鎖している自己免疫疾患であると考えられている。最も高い相対リスクは、兄弟姉妹において発生し、女性においてわずかに高い。この場合、喫煙者がクローン病を発症する割合は3倍以上高い。
【0017】
多数の薬物療法が、疾患を沈静化し、沈静状態を維持するために用いられている。このような薬物療法には、特に、5−アミノサリチル酸(5−ASA)の処方(Pentasa(登録商標)カプセル、アサコール(Asacol)錠剤、リアルダ(Lialda)錠剤、Rowasa保持浣腸剤)、ステロイド系の薬、免疫調整剤(例えば、アザチオプリン、メルカプトプリン(6−MP)、およびメトトレキサート)の投与、および、抗−TNAアルファ抗体(例えば、INFLIXIMAB(登録商標)およびADALIMUMAB(登録商標))などの新規の生物学的薬剤が含まれる。
【0018】
潰瘍性大腸炎について説明したように、これら治療法は、典型的には、クローン病による急性の発作の症候を減少させるものである。しかし、これらの治療法には、クローン病の効果的な且つ持続的な治癒を可能にすると思われるものはない(例外は、抗−TNF−アルファ。しかし、抗−TNF−アルファは、副作用の危険が高い)。
【0019】
大腸炎の他の形には、例えば、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン形成大腸炎、潰瘍性大腸炎、および非定型大腸炎などが含まれる。しかし、これらのいずれの疾患にも、副作用の危険がない、効果的且つ持続的な治癒法はない。従って、当該技術では、上述の疾患の、新規且つ好ましくは改善された治療法を可能にする、別の薬剤、または改善された薬剤を提供することが、現在も急務である。
【0020】
従って、本発明の目的は、大腸炎などの非慢性または慢性の(炎症性)消化器疾患の新規且つ好ましくは改善された治療を可能にする、別の治療法、または改善された治療法を提供することにある。大腸炎には、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン大腸炎、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的疾患、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、および非定型大腸炎などが含まれる。
【0021】
この目的は、150個よりも短い長さのアミノ酸を含むJNK阻害剤配列を、被験体における非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療用の薬剤組成物を調製するために使用することによって解決される。
【0022】
本明細書において使用される、「非慢性または慢性の炎症性消化器疾患」という用語は、典型的には、胃腸管に関連する非慢性または慢性の炎症性疾患を指す。この疾患には、食道、胃、十二指腸の第1の部分、第2の部分、第3の部分、および第4の部分、空腸、回腸、回盲部の複合体、大腸、(上行結腸、横行結腸、および下行結腸)S状結腸、および直腸の疾患が含まれる。これに関して、好ましくは、結腸の炎症、例えば大腸炎を特徴とする慢性炎症性消化器疾患が含まれる。大腸炎には、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン形成大腸炎、潰瘍性大腸炎、および非定型大腸炎などが含まれる。
【0023】
本願発明者は、驚くべきことに、このようなJNK阻害剤配列が、被験体におけるこのような慢性または非慢性の炎症性消化器疾患の治療に適していることを発見した。JNK阻害剤配列は一般に当該技術において公知であったが、JNK阻害剤配列が慢性または非慢性の炎症性消化器疾患の治療に適していることは、明白でもなかったし、従来技術によって示唆されるものでもなかった。
【0024】
JNKは、「c−Junアミノ末端キナーゼ」の略語である。「c−Junアミノ末端キナーゼ」は、マイトジェン活性化蛋白質(MAP)キナーゼのストレス活性化されたグループの1つの成分である。このキナーゼは、細胞増殖および細胞分化の制御、より一般的にいうと細胞の環境刺激に対する応答に、関連している。JNKシグナル伝達経路は、環境ストレスに反応して、且つ、幾つかのクラスの、細胞の表面にあるレセプターの関与によって、活性化される。細胞の表面にあるこれらのレセプターには、サイトカインレセプター、セルペンチンレセプター、およびレセプターチロシンキナーゼが含まれ得る。
【0025】
哺乳類細胞では、JNKは、発癌性形質転換、および環境ストレスへの適応反応を媒介するといった生物過程に関連している。JNKは、また、免疫細胞の成熟および分化を含む免疫応答の調節に関連していると共に、免疫システムによる排除のために識別された細胞におけるプログラムされた細胞死を引き起こすことに関連している。この一意の特性は、薬理学的介入を発展させるための有力な標的をシグナル伝達するJNKを形成した。
【0026】
しかし、現在まで、JNK阻害剤配列の薬理効果は、虚血性脳卒中およびパーキンソン病などの幾つかの神経障害を含む、限られた数の疾患のみに現れていた。ここで、このようなJNK阻害剤配列は、上流側のキナーゼ阻害剤(例えば、CEP−1347)、例えばプロテインキナーゼのATP−結合部位と競合することによって、キナーゼ活性を直接引き起こすJNKの小さな化学的阻害剤(SP600125およびAS601245)、および、JNKとその基質(D−JNKIおよびI−JIP)との間の相互作用のペプチド性阻害剤を含み得る(例えば、Kuan et al., Current Drug Target s − CNS & Neurological Disorders, 2005年2月, vol. 4, no. 1, pp. 63-67(5)を参照)。ここで、上流側のキナーゼ阻害剤CEP−1347(KT7515)とは、混合系統キナーゼファミリーの半合成の阻害剤である。
【0027】
CEP−1347(KT7515)は、栄養の供与を停止した後の主要な胚培養および分化されたPC12細胞において、並びに、1−メチル−4−フェニルテトラヒドロピリジンで処理されたマウスにおいて、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の活性化を阻害する量のニューロンの生存を促進する。さらに、CEP−1347(KT7515)が、培養されたニワトリ胚後根神経節、交感神経、繊毛、および運動ニューロンの長期生存を促進することが観察されている(例えば、Borasio et al., Neuroreport. 9(7) 1435-1439(1998年5月11日)を参照)。
【0028】
この小さな化学的JNK阻害剤SP600125は、c−Junリン酸化の量を低減し、ドーパミン作動性ニューロンをアポトーシスから保護し、C57BL/6NマウスにおけるMPTP−誘発されたPDのドーパミンの量を部分的に回復させることが分かっている(Wang et al., Neurosci Res. 2004年2月; 48(2); 195-202)。
【0029】
これらの結果は、JNK経路が、インビボのMPTPの神経毒性作用の主な媒介体であることを示しており、JNK活性を阻害することは、PDを治療するための新規且つ効果的な方法を示し得る。
【0030】
小さな化学的JNK阻害剤のさらなる実施例は、上述のJNK−阻害剤AS601245である。AS601245は、JNKシグナル伝達経路を阻害し、脳虚血後の細胞生存を促進する。インビボでは、AS601245は、広範囲の一過性虚血のアレチネズミモデルにおいて、海馬CA1神経の遅延された損失に対する著しい保護を提供した。この作用は、JNK阻害によって、従ってc−Jun発現およびリン酸化によって、媒介される(例えば、Carboni et al., J Pharmacol Exp Ther. 2004 Jul; 310(1)25-32. Epub 2004年2月26日を参照)。
【0031】
しかし、これらを統合すると、これらのJNK阻害剤配列が示す薬理効果は、特に、幾つかの神経障害(例えば、虚血性脳卒中、およびパーキンソン病)といった限られた数の疾患にのみ有効であることが実証されただけである。
【0032】
従って、JNK阻害剤配列が、非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療にも使用可能であることは、驚くべき結果であった。
【0033】
本発明の意味において、上記で規定されたJNK阻害剤配列は、典型的に、ヒトまたはラットIB1配列に由来し、好ましくは、配列番号102(ラットからのIB1 cDNA配列およびその予測されるアミノ酸配列を示す)、配列番号103(rIB1遺伝子−スプライス供与体のエキソン−イントロン境界によってコードされたラットからのIB1蛋白質配列を示す)、配列番号104(ホモサピエンスからのIB1蛋白質配列を示す)、または、配列番号105(ホモサピエンスからのIB1 cDNA配列を示す)に記載の配列のうちのいずれかによって規定された、またはコードされたアミノ酸配列に由来し、より好ましくは、配列番号104(ホモサピエンスのIB1蛋白質配列を示す)、または、配列番号105(ホモサピエンスのIB1 cDNA配列を示す)に記載の配列のうちのいずれかによって規定された、またはコードされたアミノ酸配列、または、これらの任意の断片または改変体に由来していてよい。
【0034】
換言すると、JNK阻害剤配列は、ヒト若しくはラットIB1配列の断片、改変体、または、このような断片の改変体を含む。ヒトまたはラットIB配列は、それぞれ、配列番号102、配列番号103、配列番号104、または配列番号105に記載の配列によって規定またはコードされる。
好ましくは、本明細書において用いられるJNK阻害剤配列は、全部で、150個よりも短い長さのアミノ酸残基、好ましくは、5〜150個の範囲の長さのアミノ酸残基、より好ましくは10〜100個の範囲のアミノ酸残基、さらにより好ましくは10〜75個の範囲の長さのアミノ酸残基、および最も好ましくは10〜50個の範囲の長さのアミノ酸残基、例えば、10〜30、10〜20、または、10〜15個の長さのアミノ酸残基を含む。
【0035】
より好ましくは、このようなJNK阻害剤配列および上述の範囲は、上述の配列のうちのいずれかから、さらにより好ましくは、配列番号104に従って規定された、または配列番号105によってコードされたアミノ酸配列から選択され、さらにより好ましくは、配列番号105のヌクレオチド420と980の間の範囲において、または、配列番号104のアミノ酸105と291との間の範囲において、および最も好ましくは、配列番号105のヌクレオチド561と647との間の範囲において、または配列番号104のアミノ酸152と180との間の範囲において、選択され得る。
【0036】
具体的な一実施形態によれば、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、典型的には、JNKを結合し、および/または、少なくとも1つのJNK活性化された転写因子、例えば、c−JunまたはATF2(例えば、各配列番号15および16を参照)、またはElk1の活性化を阻害する。
【0037】
同様に、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、好ましくは、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100のいずれか1つに記載の少なくとも1つのアミノ酸配列、または、その断片、誘導体、若しくは改変体を含むか、または、これから構成される。より好ましくは、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のアミノ酸配列、またはそのその改変体、断片、または誘導体の、1、2、3、4、またはそれ以上のコピーを含んでいてよい。
【0038】
1つ以上のコピーが存在するならば、本明細書において使用される、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のこれらのアミノ酸配列、またはその改変体、断片、若しくは誘導体は、何らかのリンカー配列無しに、または1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸を含むリンカー配列を介さずに、直接互いに連鎖されている。リンカー配列を形成するアミノ酸は、好ましくは、アミノ酸残基としてのグリシンまたはプロリンから選択されている。より好ましくは、本明細書において使用される、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のこれらのアミノ酸配列、または、その断片、改変体、若しくは誘導体は、2つ、3つ、またはそれ以上のプロリン残基のヒンジによって互いに分離され得る。
【0039】
本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または、これらの組み合わせから構成されていてよい。好ましくは、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、少なくとも1または2個、好ましくは少なくとも3、4または5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9個、およびさらにより好ましくは、少なくとも10個またはそれ以上の、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸を含み、ここで、D−アミノ酸および/またはアミノ酸L−アミノ酸は、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列において、ブロック状、非ブロック状、またはこれらの形状が交互になった状態で配置されていてよい。
【0040】
好ましい一実施形態によれば、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、L−アミノ酸だけから構成されていてよい。本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、その後、配列番号1または3に記載の、少なくとも1つの「ネイティブJNK阻害剤配列」を含むか、またはこれから構成されていてよい。これに関して、「ネイティブ」または「ネイティブJNK阻害剤配列」という用語は、本明細書において使用されるように全体がL−アミノ酸から構成された、配列番号1または3のいずれかに記載の変換されていないJNK阻害剤配列を指す。
【0041】
従って、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、少なくとも1つの(ネイティブ)アミノ酸配列NH2−Xnb−Xna−RPTTLXLXXXXXXXQD−Xnb−COOH(L−IBジェネリック(s))[配列番号3]、および/または、IB1XRPTTLXLXXXXXXXQDS/TX(L−IB(ジェネリック))[配列番号19]のJNK結合ドメイン(JBD)を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0042】
これに関して、各Xは、典型的には、好ましくは任意の(ネイティブ)アミノ酸残基から選択されたアミノ酸残基を示す。Xnaは、典型的には、好ましくは、セリンまたはトレオニンを除く任意のアミノ酸残基から選択された1つのアミノ酸残基を示す。ここで、n(Xの繰り返しの数)は、0または1である。
【0043】
さらに、各Xnbは、任意のアミノ酸残基から選択されていてよく、ここでn(Xの繰り返しの数)は、0〜5、5〜10、10〜15、15〜20、20〜30、またはそれ以上であってよく、Xnaのn(Xの繰り返しの数)が0であると仮定すると、Xnbは、好ましくは、そのC末端においてセリンまたはトレオニンを含まず、この位置においてセリンまたはトレオニンを回避する。好ましくは、Xnbは、配列番号1または3に由来するペプチド残基の連続したストレッチを示す。XnaおよびXnbは、Dアミノ酸またはLアミノ酸を示す。
【0044】
さらに、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、IB1 DTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT(L−IB1)[配列番号17]のJNK結合ドメインを含む群から選択される少なくとも1つの(ネイティブ)アミノ酸配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。より好ましくは、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列はさらに、少なくとも1つの(ネイティブ)アミノ酸配列NH2−RPKRPTTLNLFPQVPRSQD−COOH(L−IB1(s))[配列番号1]を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0045】
さらに、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、IB1L−IB1(s1)(NH2−TLNLFPQVPRSQD−COOH,配列番号33);L−IB1(s2)(NH2−TTLNLFPQVPRSQ−COOH,配列番号34);L−IB1(s3)(NH2−PTTLNLFPQVPRS−COOH,配列番号35);L−IB1(s4)(NH2−RPTTLNLFPQVPR−COOH,配列番号36);L−IB1(s5)(NH2−KRPTTLNLFPQVP−COOH,配列番号37);L−IB1(s6)(NH2−PKRPTTLNLFPQV−COOH,配列番号38);L−IB1(s7)(NH2−RPKRPTTLNLFPQ−COOH,配列番号39);L−IB1(s8)(NH2−LNLFPQVPRSQD−COOH,配列番号40);L−IB1(s9)(NH2−TLNLFPQVPRSQ−COOH,配列番号41);L−IB1(s10)(NH2−TTLNLFPQVPRS−COOH,配列番号42);L−IB1(s11)(NH2−PTTLNLFPQVPR−COOH,配列番号43);L−IB1(s12)(NH2−RPTTLNLFPQVP−COOH,配列番号44);L−IB1(s13)(NH2−KRPTTLNLFPQV−COOH,配列番号45);L−IB1(s14)(NH2−PKRPTTLNLFPQ−COOH,配列番号46);L−IB1(s15)(NH2−RPKRPTTLNLFP−COOH,配列番号47);L−IB1(s16)(NH2−NLFPQVPRSQD−COOH,配列番号48);L−IB1(s17)(NH2−LNLFPQVPRSQ−COOH,配列番号49);L−IB1(s18)(NH2−TLNLFPQVPRS−COOH,配列番号50);L−IB1(s19)(NH2−TTLNLFPQVPR−COOH,配列番号51);L−IB1(s20)(NH2−PTTLNLFPQVP−COOH,配列番号52);L−IB1(s21)(NH2−RPTTLNLFPQV−COOH,配列番号53);L−IB1(s22)(NH2−KRPTTLNLFPQ−COOH,配列番号54);L−IB1(s23)(NH2−PKRPTTLNLFP−COOH,配列番号55);L−IB1(s24)(NH2−RPKRPTTLNLF−COOH,配列番号56);L−IB1(s25)(NH2−LFPQVPRSQD−COOH,配列番号57);L−IB1(s26)(NH2−NLFPQVPRSQ−COOH,配列番号58);L−IB1(s27)(NH2−LNLFPQVPRS−COOH,配列番号59);L−IB1(s28)(NH2−TLNLFPQVPR−COOH,配列番号60);L−IB1(s29)(NH2−TTLNLFPQVP−COOH,配列番号61);L−IB1(s30)(NH2−PTTLNLFPQV−COOH,配列番号62);L−IB1(s31)(NH2−RPTTLNLFPQ−COOH,配列番号63);L−IB1(s32)(NH2−KRPTTLNLFP−COOH,配列番号64);L−IB1(s33)(NH2−PKRPTTLNLF−COOH,配列番号65);およびL−IB1(s34)(NH2−RPKRPTTLNL−COOH,配列番号66)のJNK結合ドメインを含む群から選択される少なくとも1つの(ネイティブ)アミノ酸配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0046】
さらに、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、IB1 PGTGCGDTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT(IB1−ロング)[配列番号13]の(ロング)JNK結合ドメイン(JBD)と、IB2 IPSPSVEEPHKHRPTTLRLTTLGAQDS(IB2−ロング)[配列番号14]の(ロング)JNK結合ドメインと、c−JunGAYGYSNPKILKQSMTLNLADPVGNLKPH(c−Jun)[配列番号15]のJNK結合ドメインと、ATF2 TNEDHLAVHKHKHEMTLKFGPARNDSVIV(ATF2)[配列番号16]のJNK結合ドメインとを含む群から選択される少なくとも1つの(ネイティブ)アミノ酸配列を含むか、またはこれから構成されていてよい(例えば、図1A〜1Cを参照)。
【0047】
これに関して、部分的に保存された8つのアミノ酸配列(例えば図1Aを参照)が、アラインメントによって明らかにされ、IB1のJBDとIB2のJBDとをさらに比較することによって、これら2つの配列間で高度に保存された、2つのブロックの、7つおよび3つのアミノ酸が明らかにされる。
【0048】
他の好ましい一実施形態によれば、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、部分的に、上記で規定されたD−アミノ酸から構成される、または全くこれのみから構成されていてよい。より好ましくは、D−アミノ酸から構成されるこれらのJNK阻害剤配列は、上述の(ネイティブ)JNK阻害剤配列の非ネイティブDレトロ−インベルソ配列である。「レトロ−インベルソ配列」という用語は、配列の方向が逆であり各アミノ酸残基の対掌性が反転された、直線状のペプチド配列の異性体(例えば、Jameson et al., Nature, 368,744-746 (1994); Brady et al., Nature, 368,692-693 (1994)を参照)を指す。
【0049】
D−鏡像異性体と逆合成とを組み合わせることの利点は、各アミド結合内のカルボニル基の位置とアミノ基の位置とが交換され、各アルファ炭素内の側鎖基の位置が維持される点である。他に特別な記載がない限り、本発明に従って使用される所定の任意のL−アミノ酸配列またはペプチドは、対応するネイティブL−アミノ酸配列またはペプチドに、逆の配列またはペプチドを合成することによって、Dレトロ−インベルソ配列またはペプチドに変換可能であると推測される。
【0050】
本明細書において使用されると共に上記で規定されたDレトロ−インベルソ配列は、様々な有用な特性を有している。例えば、本明細書において使用されるDレトロ−インベルソ配列は、本明細書において使用されるL−アミノ酸配列と同じ程度、効率良く細胞の中に侵入する。その一方で、本明細書において使用されるDレトロ−インベルソ配列は、当該L−アミノ酸配列よりも安定している。
【0051】
従って、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、アミノ酸配列NH2−Xnb−DQXXXXXXXLXLTTPR−Xna−Xnb−COOH(D−IB1 ジェネリック(s))[配列番号4]および/またはXS/TDQXXXXXXXLXLTTPRX(D−IB(ジェネリック))[配列番号20]に記載の、少なくとも1つのDレトロ−インベルソ配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0052】
これに関して用いられるように、X、Xna、およびXnbは、上記で規定された通りであり(好ましくは、Dアミノ酸を示す)、Xnbは、好ましくは配列番号2または4に由来する残基の連続したストレッチを示す。
【0053】
さらに、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、IB1 TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTD(D−IB1)[配列番号18]のJNK結合ドメイン(JBD)を含むアミノ酸配列に記載の少なくとも1つのDレトロ−インベルソ配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0054】
より好ましくは、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、アミノ酸配列NH2−DQSRPVQPFLNLTTPRKPR−COOH(D−IB1(s))[配列番号2]に記載の少なくとも1つのDレトロ−インベルソ配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0055】
さらに、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、IB1 D−IB1(s1)(NH2−QPFLNLTTPRKPR−COOH,配列番号67);D−IB1(s2)(NH2−VQPFLNLTTPRKP−COOH,配列番号68);D−IB1(s3)(NH2−PVQPFLNLTTPRK−COOH,配列番号69);D−IB1(s4)(NH2−RPVQPFLNLTTPR−COOH,配列番号70);D−IB1(s5)(NH2−SRPVQPFLNLTTP−COOH,配列番号71);D−IB1(s6)(NH2−QSRPVQPFLNLTT−COOH,配列番号72);D−IB1(s7)(NH2−DQSRPVQPFLNLT−COOH,配列番号73);D−IB1(s8)(NH2−PFLNLTTPRKPR−COOH,配列番号74);D−IB1(s9)(NH2−QPFLNLTTPRKP−COOH,配列番号75);D−IB1(s10)(NH2−VQPFLNLTTPRK−COOH,配列番号76);D−IB1(s11)(NH2−PVQPFLNLTTPR−COOH,配列番号77);D−IB1(s12)(NH2−RPVQPFLNLTTP−COOH,配列番号78);D−IB1(s13)(NH2−SRPVQPFLNLTT−COOH,配列番号79);D−IB1(s14)(NH2−QSRPVQPFLNLT−COOH,配列番号80);D−IB1(s15)(NH2−DQSRPVQPFLNL−COOH,配列番号81);D−IB1(s16)(NH2−FLNLTTPRKPR−COOH,配列番号82);D−IB1(s17)(NH2−PFLNLTTPRKP−COOH,配列番号83);D−IB1(s18)(NH2−QPFLNLTTPRK−COOH,配列番号84);D−IB1(s19)(NH2−VQPFLNLTTPR−COOH,配列番号85);D−IB1(s20)(NH2−PVQPFLNLTTP−COOH,配列番号86);D−IB1(s21)(NH2−RPVQPFLNLTT−COOH,配列番号87);D−IB1(s22)(NH2−SRPVQPFLNLT−COOH,配列番号88);D−IB1(s23)(NH2−QSRPVQPFLNL−COOH,配列番号89);D−IB1(s24)(NH2−DQSRPVQPFLN−COOH,配列番号90);D−IB1(s25)(NH2−DQSRPVQPFL−COOH,配列番号91);D−IB1(s26)(NH2−QSRPVQPFLN−COOH,配列番号92);D−IB1(s27)(NH2−SRPVQPFLNL−COOH,配列番号93);D−IB1(s28)(NH2−RPVQPFLNLT−COOH,配列番号94);D−IB1(s29)(NH2−PVQPFLNLTT−COOH,配列番号95);D−IB1(s30)(NH2−VQPFLNLTTP−COOH,配列番号96);D−IB1(s31)(NH2−QPFLNLTTPR−COOH,配列番号97);D−IB1(s32)(NH2−PFLNLTTPRK−COOH,配列番号98);D−IB1(s33)(NH2−FLNLTTPRKP−COOH,配列番号99);および、D−IB1(s34)(NH2−LNLTTPRKPR−COOH,配列番号100)のJNK結合ドメイン(JBD)を含むアミノ酸配列に記載の少なくとも1つのDレトロ−インベルソ配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0056】
本明細書において使用される、上記で開示されたJNK阻害剤配列は、表1(配列番号1〜4、13〜20、および33〜100)に示されている。この表は、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列の名前およびその配列識別番号、その長さ、並びにアミノ酸配列を示している。さらに、表1は、例えば、配列番号1、2、5、6、9、および11、並びに、配列番号3、4、7、8、10、および12の、配列とその各一般式とを示す図である。表1はさらに、キメラ配列である配列番号9〜12および23〜32(以下を参照)、L−IB1配列である配列番号33〜66、並びに、D−IB1配列である配列番号67〜100を開示している。
【0057】
【表1】

【0058】

【0059】

【0060】

【0061】

【0062】
他の好ましい一実施形態によれば、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、上記で規定された、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のネイティブまたは非ネイティブアミノ酸配列の、少なくとも1つの改変体、断片、および/または、誘導体を含むか、またはこれから構成される。
【0063】
好ましくは、これらの改変体、断片、および/または、誘導体は、本明細書において使用される、上記で開示されたネイティブまたは非ネイティブのJNK阻害剤配列、特に、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のネイティブまたは非ネイティブアミノ酸配列の生物活性、すなわち、JNKに結合する、および/または、少なくとも1つのJNK活性化された転写因子(例えばc−Jun、ATF2、またはElk1)の活性化を阻害する生物活性を保持する。
【0064】
機能性は、様々な試験によって、例えば、ペプチドをその標的分子に結合させる試験、または、生物理学的方法(例えば、分光法、コンピュータモデリング法、構造解析法など)によって、試験され得る。特に、上記で規定された、JNK阻害剤配列、またはその改変体、断片、および/または、誘導体は、親水性分析(例えば、Hopp and Woods, 1981. Proc Natl Acad Sci USA 78 3824-3828を参照)によって分析され得る。
【0065】
この親水性分析を利用して、ペプチドの疎水性領域および親水性領域を特定し、これによって、例えば結合実験または抗体合成といった実験的操作のための、基板の構成をデザインすることが可能である。第2の構造解析法を行って、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列、または、その改変体、断片、および/または、誘導体の、特定の構造モチーフを示す領域を特定してもよい(例えば、Chou and Fasman, 1974, Biochem 13 222-223を参照)。
【0066】
操作、翻訳、二次構造予測、親水性プロファイルおよび疎水性プロファイル、オープンリーディングフレーム予測およびプロッティング、並びに、配列相同性の決定は、当該技術分野において入手可能なコンピュータソフトウェアプログラムを用いて行うことが可能である。
【0067】
他の、例えば、X線結晶学(例えば、Engstrom, 1974. Biochem Exp Biol 11 7-13を参照)、質量分析法、およびガスクロマトグラフィー法(例えば、METHODS IN PROTEIN SCIENCE, 1997, J. Wiley and Sons, New York, NY参照)、およびコンピュータモデリング法(例えば、Fletterick and Zoller, eds., 1986. Computer Graphics and Molecular Modeling, In CURRENT COMMUNICATIONS IN MOLECULAR BIOLOGY, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYを参照)を含む構造解析法を用いてもよい。
【0068】
従って、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の少なくとも1つの改変体を含むか、またはこれから構成されていてよい。本発明の意味するところによれば、「配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の改変体」とは、好ましくは、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の配列のいずれかに由来する配列である。ここで、改変体は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のアミノ酸配列のアミノ酸変換を含む。
【0069】
このような変換は、典型的には、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載のアミノ酸の1〜20個、好ましくは1〜10個、およびより好ましくは、1〜5個の置換、付加、および/または、削除を含む。この場合、この改変体は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の配列のいずれかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を示す。
【0070】
上記に規定されていると共に本明細書において使用されるような、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の改変体が、特定のアミノ酸を置換することによって得られるならば、このような置換は、好ましくは、保存的アミノ酸置換を含む。保存的アミノ酸置換には、基内の類似アミノ酸残基が含まれ得る。この類似アミノ酸残基は、十分に相似した物理化学的特性を有しているため、基内の成分間を置換しても分子の生物活性は保存される(例えば、Grantham, R. (1974), Science 185, 862-864参照)。
【0071】
上記で規定された配列において、アミノ酸を挿入および/または除去することが可能であり、この際に、特に、挿入および/または除去が、わずかな数の、例えば20個よりも少ない、および好ましくは10個よりも少ないアミノ酸だけを含むならば、その機能を変更せずに、挿入および/または除去することが可能であり、機能的活性に重要なアミノ酸は、除去または置換しないことは、当業者には明らかである。
【0072】
さらに、本明細書にて使用される改変体においては、ホスホリラーゼ、好ましくはキナーゼのための機能発現可能なアミノ酸の位置において、さらなるトレオニンの導入を回避して、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列の不活性化、または本明細書において使用されるキメラペプチドの不活性化を、インビボまたはインビトロにおいて回避する必要がある。
好ましくは、同じグループに分類され、典型的には、保存的アミノ酸置換によって交換可能である類似アミノ酸残基を、表2に規定する。
【0073】
【表2】

【0074】
本明細書において使用される配列番号1〜4、13〜20、および33〜100の改変体の特別な形態は、本明細書において使用される配列番号11〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の断片である。この断片は、典型的には、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100と比べて、少なくとも1つの削除によって変換されている。
【0075】
好ましくは、1つの断片は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100のいずれかの少なくとも4つの連続したアミノ酸を含み、その長さは、典型的には、これらの配列のいずれかからのエピトープを特異的に認識するために十分な長さである。さらにより好ましくは、この断片は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100のうちのいずれかのアミノ酸であって、4〜18個、4〜15個、または最も好ましくは4〜10個の連続したアミノ酸を含む。
【0076】
ここで、下限範囲は、4、または、5、6、7、8、9、または、10個である。アミノ酸の削除は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100の任意の位置において、好ましくはN−末端またはC−末端において、生じ得る。
【0077】
さらに、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の断片は、上述のように、本明細書において使用される配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の配列のいずれかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を共有する配列として規定され得る。
【0078】
本明細書において使用されるJNK阻害剤配列は、上記で規定された、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の少なくとも1つの誘導体をさらに含む、またはこれから構成され得る。
【0079】
これに関して、「配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の(ネイティブまたは非ネイティブ)アミノ酸配列の誘導体」とは、好ましくは、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の配列のいずれかに由来するアミノ酸配列であり、ここで、誘導体は、(非自然アミノ酸を形成する)少なくとも1つの修飾されたL−またはD−アミノ酸、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、およびさらにより好ましくは1〜5個の修飾されたL−またはD−アミノ酸を含む。改変体または断片の誘導体も、本発明の範囲である。
【0080】
これに関して、「修飾されたアミノ酸」とは、例えば、様々な生物において異なるグリコシル化によって、リン酸化によって、または特異的アミノ酸を標識化することによって変換された、任意のアミノ酸であってよい。このようなラベルは、典型的には、次の(i)〜(vi)から構成されるラベルの群から選択される。
(i)放射性ラベル、すなわち、放射性リン酸化、または硫黄、水素、炭素、窒素などによる放射性ラベル、
(ii)着色された色素(例えば、ジゴキシゲニン(digoxygenin)など)、
(iii)蛍光基(例えば、フルオレセインなど)、
(iv)化学発光基、
(v)固相上の固定化のための基(例えば、Hisタグ、ビオチン、strepタグ、flagタグ、抗体、抗原など)、および、
(vi)上記(i)〜(v)に記載したラベルのうちの2つ以上のラベルの組み合わせ。
【0081】
これに関して、本発明の照会アミノ酸配列と少なくとも、例えば95%の「配列同一性を共有する」配列を有するアミノ酸配列とは、対象となるアミノ酸配列が、照会アミノ酸配列の100アミノ酸当たり5つ未満のアミノ酸の変換を含むことを除いて、照会配列と等しいことを意味することを意図するものである。換言すると、照会アミノ酸配列と少なくとも95%同一である配列を有するアミノ酸配列を得るためには、対象となる配列のアミノ酸残基の5%(100のうちの5)未満に、別のアミノ酸が挿入若しくは置換されているか、または対象となる配列のアミノ酸残基の5%(100のうちの5)未満が削除されていてもよい。
【0082】
正確に対応してない配列では、第1の配列の「%同一性」は、第2の配列に対して決定され得る。概して、比較されるこれら2つの配列は、配列間の最大相関性を提供するために、位置合わせされている。これは、1つまたは両方の配列に、「間隔」を挿入して、アラインメントの程度を強化することを含む。その後、%同一性は、特に同一または類似の長さの配列に適した、比較される各配列の全長にわたって(いわゆるグローバルアラインメント)決定されるか、または、一意の長さにより適した、かなり短い、一定の長さにわたって(いわゆるローカルアラインメント)決定される。
【0083】
特に本明細書において使用される、2つ以上の配列の同一性および相同性を比較する方法は、当該技術において公知である。すなわち、例えば、ウィスコンシン配列分析パッケージ,バージョン9.1において入手可能なプログラム(Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Res. 12, 387-395)である、例えば、プログラムBESTFITおよびGAPを用いて、2つのポリヌクレオチド間の%同一性、および、2つのポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を決定することが可能である。BESTFITは、(Smith and Waterman (1981), J. Mol. Biol. 147, 195-197)の「局所的相同性」アルゴリズムを用い、2つの配列間の単一の最も類似した領域を発見するものである。
【0084】
配列間の同一性および/または類似性を算出するための他のプログラムも、当該技術では公知である。例えば、NCBIのホームページであるワールドワイド・ウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov)を介してアクセス可能なプログラム(Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215, 403-410)のBLASTファミリー、および、FASTA(Pearson (1990), Methods Enzymol. 183, 63-98; Pearson and Lipman (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 85, 2444-2448)である。
【0085】
本発明に従って用いられると共に上記で規定されたJNK−阻害剤配列は、当該技術分野において公知の方法、例えば、化学合成法によって、または以下に説明する遺伝子工学法によって、得られる、または生成され得る。例えば、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列の一部に相当する、該JNK阻害剤配列の所望の領域を含むペプチド、または、所望の活性をインビトロまたはインビボで媒介するペプチドは、ペプチドシンセサイザを使用することによって合成可能である。
【0086】
本発明に従って用いられると共に上記で規定されたJNK阻害剤配列は、また、本発明に従って用いられると共に上記で規定されたJNK阻害剤配列が、細胞の中に効率良く輸送されることを可能にするトラフィッキング配列によって修飾され得る。このような修飾されたJNK阻害剤配列は、好ましくは、キメラ配列として提供および使用される。
【0087】
従って、第2の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの第1のドメインおよび少なくとも1つの第2のドメインを含むキメラペプチドを、被験体における、非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療用の薬剤組成物を調製するために使用することを提供する。ここで、キメラペプチドの第1のドメインは、トラフィッキング配列を含むが、キメラペプチドの第2のドメインは、上記で規定されたJNK阻害剤配列、好ましくは配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の配列のいずれかのJNK阻害剤配列、またはその誘導体若しくは断片を含む。
【0088】
典型的には、本発明に従って用いられるキメラペプチドは、少なくとも25個の長さのアミノ酸残基、例えば、25〜250個の長さのアミノ酸残基、より好ましくは、25〜200個の長さのアミノ酸残基、さらにより好ましくは25〜150個の長さのアミノ酸残基、25〜100個の長さのアミノ酸残基、および最も好ましくは25〜50アミノ酸残基を有している。
【0089】
本明細書において使用されるキメラペプチドは、第1のドメインとして、好ましくは、トラフィッキング配列を含む。トラフィッキング配列は、典型的には、(該トラフィッキング配列が存在する)ペプチドを所望の細胞目的地に方向付けるアミノ酸の任意の配列から選択されている。従って、本明細書において使用されるようなトラフィッキング配列は、典型的には、ペプチドを、形質膜を横切って、例えば、細胞の外側から形質膜を通って、細胞質の中まで方向付ける。
【0090】
選択的または追加的に、トラフィッキング配列は、ペプチドを、細胞内の所望の位置、例えば、核、リボソーム、小胞体(ER)、リソソーム、またはペルオキシソームに方向付けることも可能である。これは、例えば、2つの成分(例えば細胞透過性のための成分と、核の位置のための成分と)を混合することによって、または、例えば、細胞膜を輸送する特性、および標的とされた、例えば核内輸送を行う特性を有する、単一の成分によって行うことが可能である。
【0091】
トラフィッキング配列は、さらに、細胞質成分または細胞の他の任意の成分若しくは区画(例えば、小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ装置(gloom apparatus)、リゾソーマル小胞)を結合することが可能な他の成分を有していてよい。従って、例えば、第1のドメインのトラフィッキング配列および第2のドメインのJNK阻害剤配列は、細胞質、または、細胞の他の任意の区画に局在化され得る。これによって、取り込み時に、細胞におけるメラペプチドの局在性を決定することが可能である。
【0092】
好ましくは、トラフィッキング配列(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)は、5〜150個の長さのアミノ酸の配列、より好ましくは、5〜100個、および最も好ましくは5〜50個、5〜30個、またはさらに5〜15個の長さのアミノ酸を有している。
【0093】
より好ましくは、(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)トラフィッキング配列は、第1のドメイン内に、連続したアミノ酸配列ストレッチとして生じることも可能である。あるいは、第1のドメイン内のトラフィッキング配列は、2つ以上の断片に分裂されていてもよい。この場合、これらの断片の全ては、トラフィッキング配列全体と類似しており、トラフィッキング配列自体が上記で開示されたような担体特性を保持しているならば、1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸によって互いに分離されていてよい。
【0094】
トラフィッキング配列の断片を分離させるこれらのアミノ酸は、例えば、トラフィッキング配列とは異なるアミノ酸配列から選択されていてよい。あるいは、第1のドメインは、1つ以上の成分から構成されるトラフィッキング配列を含んでいてよく、各成分は、それぞれ、第2のドメインのカーゴJNK阻害剤配列を、例えば、特定の細胞の区画に輸送する機能を有している。
【0095】
上記で規定されたトラフィッキング配列は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、またはこれらの組み合わせから構成されていてよい。好ましくは、(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)トラフィッキング配列は、少なくとも1または2個、好ましくは少なくとも3、4または5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9個、およびさらにより好ましくは少なくとも10個またはそれ以上の、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸を含んでいてよい。ここで、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸は、JNKトラフィッキング配列内に、ブロック状、非ブロック状、または、これらが交互になった状態で配置されていてよい。
【0096】
他の一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドのトラフィッキング配列は、L−アミノ酸のみから構成されていてよい。より好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドのトラフィッキング配列は、上述の、少なくとも1つの「ネイティブ」トラフィッキング配列を含むか、またはこれから構成されている。これに関して、「ネイティブ」という用語は、全体的にL−アミノ酸から構成された変換されていないトラフィッキング配列を指す。
【0097】
他の一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドのトラフィッキング配列は、D−アミノ酸のみから構成されていてよい。より好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドのトラフィッキング配列は、上記で示された配列のDレトロ−インベルソペプチドを含んでいてよい。
【0098】
本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメインのトラフィッキング配列は、自然発生的なソースから得られるか、または、遺伝子工学技術または化学合成法(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E. F., Maniatis, T. (1989) Molecular cloning A laboratory manual. 2nd edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照)を用いて生成可能である。
【0099】
第1のドメインのトラフィッキング配列には、例えば、天然蛋白質、例えばTAT蛋白質(例えば米国特許第5,804,604号および第5,674,980号に記載されている。これらの文献を、引用することによって本願に援用する)、VP22(WO第97/05265号;Elliott and O'Hare, Cell 88 223-233 (1997) に記載されている)、非−ウイルス蛋白質(Jackson et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 10691-10695 (1992))を含むソースを用いてもよい。
【0100】
トラフィッキング配列は、アンテナぺディア(例えば、アンテナぺディア担体配列)に由来するか、または基本ペプチド(例えば、5〜15個の長さのアミノ酸、好ましくは10〜12個の長さのアミノ酸を有すると共に、少なくとも80%、より好ましくは、85%、またはさらに90%の基本アミノ酸に由来する。上記基本アミノ酸は、例えばアルギニン、リジン、および/または、ヒスチジンを含むペプチドである。)。
【0101】
さらに、トラフィッキング配列として用いられる1つの天然蛋白質の改変体、改変体、断片、および誘導体を以下に開示する。改変体、断片、および誘導体に関しては、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列について記載した規定を参照されたい。これに応じて、改変体、断片、および誘導体は、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列について上記したように規定される。特に、トラフィッキング配列では、改変体または断片または誘導体は、上記で規定されたトラフィッキング配列として用いられる1つの天然蛋白質と、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を共有する配列として規定され得る。
【0102】
本明細書において使用されるキメラペプチドの好ましい一実施形態では、第1のドメインのトラフィッキング配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)1 TAT蛋白質に由来する配列、特に、TAT蛋白質を構成する86アミノ酸のうちの幾つかまたは全てを含むか、または、これから構成されている。
【0103】
(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)トラフィッキング配列では、TAT蛋白質の機能的に有効な断片を形成する、すなわち、細胞内への侵入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチドを形成する、TAT蛋白質の全長の部分配列が用いられ得る。このような配列がTAT蛋白質の機能的に効果的な断片であるかどうかについては、公知の技術(例えば、Franked et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA 86 7397-7401 (1989)を参照)を用いて決定可能である。
【0104】
従って、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメインにおけるトラフィッキング配列は、TAT蛋白質配列の機能的に有効な断片または一部に由来していてよい。この機能的に有効な断片または一部は、86よりも少ないアミノ酸を含み、細胞内への取り込み、および任意により、細胞核内への取り込みを示す。より好ましくは、担体として用いられ、キメラペプチドを、細胞膜を横切って浸透させることを媒介する、TATの部分配列(断片)は、TATの全長の基本領域(アミノ酸48〜57、または49〜57)を含むように意図されている。
【0105】
より好ましい一実施形態によれば、(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)トラフィッキング配列は、TAT残基48〜57または49〜57、および最も好ましくはジェネリックTAT配列NH2−Xnb−RKKRRQRRR−Xnb−COOH(L−ジェネリック−TAT(s))[配列番号7]、および/または、XXXXRKKRRQ RRRXXXX(L−ジェネリック−TAT)[配列番号21]を含むアミノ酸配列を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0106】
ここで、XまたはXnbは、上記で規定された通りである。さらに、配列番号8の残基「Xnb」の数は、示されている数に制限されず、上述のように変動し得る。あるいは、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれるトラフィッキング配列は、アミノ酸配列NH2−GRKKRRQRRR−COOH(L−TAT)[配列番号5]を含むペプチドを含むか、またはこれから構成され得る。
【0107】
他のより好ましい一実施形態によれば、(本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる)トラフィッキング配列は、上記に示された配列のDレトロ−インベルソペプチドを含むことが可能であり、すなわち、配列NH2−Xnb−RRRQRRKKR−Xnb−COOH(D−ジェネリック−TAT(s))[配列番号8]、および/または、XXXXRRRQRRKKRXXXX(D−ジェネリック−TAT)[配列番号22]を有するジェネリックTAT配列のDレトロ−インベルソ配列を含むことが可能である。
【0108】
ここでも、Xnbは上記で規定された通りである(好ましくはDアミノ酸を示す)。さらに、配列番号8内の残基「Xnb」の数は、示されている数に制限されず、上述のように変動し得る。最も好ましくは、本明細書において使用されるトラフィッキング配列は、Dレトロ−インベルソ配列NH2−RRRQRRKKRG−COOH(D−TAT)[配列番号6]を含んでいてよい。
【0109】
他の一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれるトラフィッキング配列は、上記で規定されたトラフィッキング配列の改変体を含むか、またはこれから構成されていてよい。
【0110】
「トラフィッキング配列の改変体」は、好ましくは、上記で規定されたトラフィッキング配列に由来する配列であり、ここで改変体は、上記で規定されたトラフィッキング配列内に存在する少なくとも1つのアミノ酸の修飾を含む。
【0111】
修飾の例には、付加、(断片を導く)(内部)削除、および/または、置換が含まれる。このような修飾は、アミノ酸の、典型的には1〜20個、好ましくは1〜10個、およびより好ましくは、1〜5個の、置換、付加、および/または、削除を含む。さらに、改変体は、好ましくは、上記で規定されたトラフィッキング配列、より好ましくは配列番号5〜8、または21〜22のいずれかと、少なくとも約30%、50%、70%、80%、90%、95%、98%、またはさらに99%の配列相同性を示す。
好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれる、このようなトラフィッキング配列の修飾は、安定性が増大された、または低減されたトラフィッキング配列を導く。
【0112】
あるいは、トラフィッキング配列の改変体は、本明細書において使用されるキメラペプチドの細胞内の局在化を調節するように設計されていてよい。外因的に付加される場合、上記で規定されたこのような改変体は、典型的には、トラフィッキング配列の細胞の中に侵入するという性能が保持されるように(すなわち、トラフィッキング配列の改変体の細胞内への取り込みは、トラフィッキング配列として用いられるネイティブ蛋白質の取り込みとほぼ類似するように)設計されている。
【0113】
例えば、核局在化にとって重要であると考えられていた基本領域の変換(例えば、Dang and Lee, J. Biol. Chem. 264 18019-18023 (1989); Hauber et al., J. Virol. 63 1181-1187 (1989) ; et al., J. Virol. 63 1-8 (1989)を参照)は、結果的に、トラフィッキング配列の、従って本明細書において使用されるキメラペプチドの成分としてのJNK阻害剤配列の、細胞質位置または部分的な細胞質位置を生じさせ得る。
【0114】
これに加えて、例えばコレステロールまたは他の脂質成分をトラフィッキング配列に連結させて、膜可溶性が高いトラフィッキング配列を生成することによって、さらなる修飾を改変体内に導入することも可能である。
【0115】
本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメイン内に含まれるトラフィッキング配列の、上記に開示した改変体のいずれかは、典型的には当業者に公知の技術を用いて生成可能である(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E. F., Maniatis, T. (1989) Molecular cloning A laboratory manual. 2nd edition. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照)。
【0116】
第2のドメインとして、本明細書において使用されるキメラペプチドは、典型的には、上記で規定されたJNK阻害剤配列のいずれかから選択されたJNK阻害剤配列(これらのJNK阻害剤配列の改変体、断片、および/または、誘導体を含む)を含む。
【0117】
両方のドメイン、すなわち、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメインおよび第2のドメインは、機能ユニットを形成するように連結され得る。第1のドメインと第2のドメインとを連結する、当該技術分野において公知の任意の方法を用いてもよい。
【0118】
一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメインおよび第2のドメインは、共有結合によって連結されていることが好ましい。本明細書において規定される共有結合は、例えば、上記で規定されたキメラペプチドを、融合蛋白質として発現することによって得られるペプチド結合であってよい。ここに記載される融合蛋白質は、以下に説明する標準的な組み換えDNA技術と同様の方法、または該技術から容易に適合可能な方法で、形成および使用可能である。しかしながら、両方のドメインは、側鎖を介して連結されていてもよいし、または、化学的リンカー成分によって連結されていてもよい。
【0119】
本明細書において使用されるキメラペプチドの第1のドメインおよび/または第2のドメインは、該キメラペプチド内の1つ以上のコピーにおいて生じ得る。両方のドメインが単一のコピーで存在するならば、第1のドメインは、第2のドメインのN−末端またはC−末端のいずれかに連結されていてよい。
【0120】
多数のコピーで存在するならば、第1のドメインおよび第2のドメインは、可能な任意の順番に配置されていてよい。例えば、第1のドメインは、本明細書において使用されるキメラペプチド内に、多数のコピーの数で、例えば、2、3、またはそれ以上のコピーで、存在していてよい。これらのコピーは、連続する数で配置されていることが好ましい。
【0121】
その後、第2のドメインは、第1のドメインを含む配列のN−末端またはC末端において生じる単一のコピーで存在していてよい。あるいは、第2のドメインが、多数のコピーの数で、例えば、2、3、またはそれ以上のコピーで存在しており、第1のドメインが、単一のコピーで存在していてもよい。
【0122】
これらの両方の選択肢によれば、第1のドメインおよび第2のドメインは、連続した配置における任意の位置をとることが可能である。典型的な構成を以下に示す。例えば、第1のドメイン‐第1のドメイン‐第1のドメイン‐第2のドメイン、第1のドメイン‐第1のドメイン‐第2のドメイン‐第1のドメイン、第1のドメイン‐第2のドメイン‐第1のドメイン‐第1のドメイン、または、例えば、第2のドメイン‐第1のドメイン‐第1のドメイン‐第1のドメイン。
【0123】
これらの例は説明のためであって、本発明の範囲がこれらの例に限定されるものではないことを、当業者は明確に理解できよう。従って、コピーおよび構成の数は、当初に規定したものとは変化し得る。
【0124】
好ましくは、第1のドメインおよび第2のドメインは、何らかのリンカー無しに互いに直接連結されていてもよい。あるいは、これらは、1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸を含むリンカー配列を介して互いに連結されていてもよい。リンカー配列を形成するアミノ酸は、アミノ酸残基としてのグリシンまたはプロリンから選択されていることが好ましい。より好ましくは、第1のドメインおよび第2のドメインは、第1のドメインと第2のドメインとの間の2つ、3つ、またはそれ以上のプロリン残基のヒンジによって互いに分離されていてよい。
【0125】
本明細書において使用される、上記で規定された少なくとも1つの第1のドメインおよび少なくとも1つの第2のドメインを含むキメラペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、またはこれら両方の組み合わせから構成されていてよい。ここでは、各ドメイン(および用いられるリンカー)は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、またはこれら両方の組み合わせ(例えば、D−TATとL−IB1との組み合わせ、または、L−TATとD−IB1との組み合わせなど)から構成されていてよい。
【0126】
好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドは、少なくとも1または2個、好ましくは少なくとも3、4、または5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9個、およびさらにより好ましくは少なくとも10個またはそれ以上の、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸を含んでいてよい。ここで、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸は、本明細書において使用されるキメラペプチド内に、ブロック状、非ブロック状、またはこれらの形状が交互になった状態で配置されていてよい。
具体的な一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドは、ジェネリックL−TAT−IBペプチドNH2−Xnb−RKKRRQRRR−Xnb−Xna−RPTTLXLXXXXXXXQD−Xnb−COOH(L−TAT−IB(ジェネリック)(s))[配列番号10]に記載のL−アミノ酸キメラペプチドを含むか、またはこれから構成されている。
【0127】
ここで、X、Xna、およびXnbは、好ましくは、上記で規定された通りである。より好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドは、L−アミノ酸キメラペプチドNH2−GRKKRRQRRRPPRPKRPTTLNLFPQVPRSQD−COOH(L−TAT−IB1(s))[配列番号9]を含むか、またはこれからから構成される。
【0128】
選択的または追加的に、本明細書において使用されるキメラペプチドは、L−アミノ酸キメラペプチド配列GRKKRRQRRR PPDTYRPKRP TTLNLFPQVP RSQDT(L−TAT−IB1)[配列番号23]、または、XXXXXXXRKK RRQRRRXXXX XXXXRPTTLX LXXXXXXXQD S/TX(L−TAT−IBジェネリック)[配列番号24]を含むか、またはこれからから構成されており、ここでも、Xは、好ましくは上記で規定された通りである。
【0129】
あるいは、本明細書において使用されるキメラペプチドは、L−アミノ酸キメラペプチド配列RKKRRQRRRPPRPKRPTTLNLFPQVPRSQD(L−TAT−IB1(s1))[配列番号27]、GRKKRRQRRRXncRPKRPTTLNLFPQVPRSQD(L−TAT−IB1(s2))[配列番号28]、または、RKKRRQRRRXncRPKRPTTLNLFPQVPRSQD(L−TAT−IB1(s3))[配列番号29]を含むか、またはこれから構成される。
【0130】
これに関して、各Xは、典型的には、上記で規定されたアミノ酸残基を示し、より好ましくは、Xncは、ペプチド残基の連続したストレッチを示し(各Xは、互いに無関係に、グリシンまたはプロリンから選択されている)、例えば、単調なグリシンストレッチ、または単調なプロリンストレッチを示す。ここで、n(Xncの繰り返しの数)は、典型的には、0〜5、5〜10、10〜15、15〜20、20〜30、またはそれ以上、好ましくは0〜5または5〜10である。Xncは、Dアミノ酸またはLアミノ酸を示す。
【0131】
他の具体的な一実施形態によれば、本明細書において使用されるキメラペプチドは、上記で開示されたL−アミノ酸キメラペプチドのD−アミノ酸キメラペプチドを含むか、またはこれから構成される。
【0132】
本発明に係る典型的なDレトロ−インベルソキメラペプチドは、例えば、ジェネリックD−TAT−IBペプチドNH2−Xnb−DQXXXXXXXLXLTTPR−Xna−Xnb−RRRQRRKKR−Xnb−COOH(D−TAT−IB(ジェネリック)(s))[配列番号12]である。
【0133】
ここで、X、Xna、およびXnbは、好ましくは、上記で規定された通りである(好ましくは、Dアミノ酸を示す)。より好ましくは、本明細書において使用されるキメラペプチドは、TAT−IB1ペプチドNH2−DQSRPVQPFLNLTTPRKPRPPRRRQRRKKRG−COOH(D−TAT−IB1(s))[配列番号11]に記載のD−アミノ酸キメラペプチドを含むか、またはこれから構成される。
【0134】
選択的または追加的に、本明細書において使用されるキメラペプチドは、D−アミノ酸キメラペプチド配列TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTDPPRRRQRRKKRG(D−TAT−IB1)[配列番号25]、または、XT/SDQXXXXXXXLXLTTPRXXXXXXXXRRRQRRKKRXXXXXXX(D−TAT−IBジェネリック)[配列番号26]を含むか、またはこれから構成されるか(ここでも、Xは、好ましくは、上記で規定された通りである)、または、本明細書において使用されるキメラペプチドは、D−アミノ酸キメラペプチド配列DQSRPVQPFLNLTTPRKPRPPRRRQRRKKR(D−TAT−IB1(s1))[配列番号30]、DQSRPVQPFLNLTTPRKPRXncRRRQRRKKRG(D−TAT−IB1(s2))[配列番号31]、または、DQSRPVQPFLNLTTPRKPRXncRRRQRRKKR(D−TAT−IB1(s3))[配列番号32]を含むか、またはこれから構成される。Xncは、上記で規定された通りであってよい。
【0135】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインおよび第2のドメインは、当該技術において公知の好適な方法で行われる化学的または生化学的結合によって、互いに連結され得る。この化学的または生化学的結合の例には、第1のドメインと第2のドメインとの間にペプチド結合を形成すること、例えば第1のドメインおよび第2のドメインを、融合蛋白質として発現すること、または、例えば上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを架橋させることが挙げられる。
【0136】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを化学的に架橋させるために適した公知の多くの方法は、非特異的であり、すなわち、これらの方法は、結合点を、輸送ポリペプチドまたはカーゴ高分子上の任意の特定の部位に方向付けない。結果として、非特異的な架橋剤は、機能的部位を攻撃する、または、活性部位を立体的に遮断して、複合蛋白質を生物学的に不活性にする。したがって、第1のドメインと第2のドメインとをさらに特異的に結合することが可能な架橋法を用いることが好ましい。
【0137】
これに関して、結合特異性を増大させる1つの方法は、架橋される第1のドメインおよび第2のドメインのいずれかまたは両方に、1回または数回だけ存在する官能基に、直接化学的に結合させることである。例えば、チオール基を含有する唯一の蛋白質アミノ酸であるシステインは、多くの蛋白質において数回だけ生じる。また、例えば、ポリペプチドが、リジン残基を含まない場合、第一級アミンに特異的な架橋剤は、このポリペプチドのアミノ末端にとって選択的であろう。
【0138】
結合特異性を増大させるために、この方法の使用を成功させるには、ポリペプチドが、分子の生物活性を損なうことなく変更させることが可能な分子の領域において、好適な程度の稀な且つ反応性残基を有していることが求められる。
【0139】
システイン残基は、システイン残基が架橋反応に関与すると生物活性を妨げる傾向があるポリペプチド配列の一部に生じた場合には、置き換えてもよい。システイン残基を置き換える場合、典型的には、ポリペプチドの折り畳みに結果として生じる変化を最小化することが望ましい。
【0140】
ポリペプチドの折り畳みにおける変化は、この置き換えがシステインに化学的且つ立体的に類似している場合に、最小化される。こういった理由のため、システインの代替としては、セリンが好ましい。
【0141】
以下の実施例において示すように、システイン残基を、架橋のために、ポリペプチドのアミノ酸配列の中に導入する。システイン残基の導入には、アミノ末端若しくはカルボキシ末端における導入、または、アミノ末端若しくはカルボキシ末端の近傍への導入が好ましい。従来の方法は、このようなアミノ酸配列修飾の場合に利用可能であり、ここで、対象となるポリペプチドは、組換えDNAの化学合成または発現によって、生成される。
【0142】
本明細書において使用される、上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとの結合は、カップリング剤または接合剤によって行うことも可能である。利用可能な分子間架橋剤が幾つか存在する(例えば、Means and Feeney, CHAMICAL MODIFICATION OF PROTEINS, Holden-Day, 1974, pp. 39-43を参照)。
【0143】
これらの分子間架橋剤には、例えば、N−サクシニミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸塩(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(これらは両方とも、スルフヒドリル基に特異的であり、不可逆リンケージを形成する)や、N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または他の、6〜11の(スルフヒドリル基に比較的特異的である)炭素メチレンブリッジを有する架橋剤、および、(アミノ基およびチロシン基を有する不可逆リンケージを形成する)1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンが挙げられる。
【0144】
このために利用可能な他の架橋剤には、アミノ基およびフェノール基を有する不可逆性のクロスリンケージを形成するp,p’−ジフルオロ−m,m’−ジニトロジフェニルスルホン、(アミノ基に特異的な)アジプイミド酸ジメチル、(主にアミノ基と反応する)フェノール−1,4ジスルホニル塩素、ヘキサメチレンジイソシアン酸塩若しくはジイソチオシアン酸塩、または、(主にアミノ基と反応する)アゾフェニル−p−ジイソシアン酸塩、(幾つかの様々な側鎖と反応する)グルタルアルデヒド、および(チロシンおよびヒスチジンと主に反応する)ジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)が含まれる。
【0145】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを架橋させるために用いられる架橋剤は、ホモ二機能性であってよく、すなわち、同じ反応をする2つの官能基を有している。
【0146】
好ましいホモ二機能性架橋剤は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」)である。BMHは、マイルドな条件(pH6.5〜7.7)下でスルフヒドリル−含有化合物と特異的に反応する2つのマレイミド官能基を含有する。これらの2つのマレイミド基は、炭化水素鎖によって接続されている。従って、BMHは、システイン残基を含むポリペプチドを不可逆架橋させるために有効である。
【0147】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを架橋させるために用いられる架橋剤はまた、ヘテロ二機能性であってもよい。ヘテロ二機能性架橋剤は、2つの異なる官能基、例えば、アミン−反応基およびチオール−反応基を有している。これらの官能基は、遊離アミンを有する蛋白質と、チオールを有する蛋白質とを架橋させる。
【0148】
ヘテロ二機能性架橋剤の例には、サクシニミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(「SMCC」)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシニミドエステル(「MBS」)、および、MBSに類似した拡大された鎖であるスクシニミド4−(p−マレイミドフェニル)酪酸塩(「SMPB」)が挙げられる。これらのクロスリンカーのサクシニミジル基は、第一級アミンと反応し、チオール−反応マレイミドは、システイン残基のチオールとの共有結合を形成する。
【0149】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを架橋させるために好適な架橋剤は、水溶性が低い場合が多い。従って、その水溶性を改善するために、スルフォン酸塩基といった親水性の成分が架橋剤に添加される。これに関して、水溶性を改善するために改変された架橋剤の例は、スルフォン基−MBSおよびスルフォン基−SMCCであり、これらを、本発明に従って用いてもよい。
【0150】
同様に、多くの架橋剤は、基本的には、細胞条件下では開裂不可能な接合を実現する。しかし、上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを架橋させることに特に適した幾つかの架橋剤は、細胞状態下で開裂させることが可能な、ジスルフィ供与体との共有結合を含む。
【0151】
例えば、トラウト試薬(Traut's reagent)、ジチオビス(サクシニミジルプロピオン酸塩)(「DSP」)、および、N−サクシニミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸塩(「SPDP」)が、公知の開裂可能なクロスリンカーである。開裂裂可能な架橋剤の使用は、カーゴ成分を標的細胞内に運搬した後に、輸送ポリペプチドから分離させることを可能にする。直接的なジスルフィドリンケージも利用可能である。
【0152】
上記で説明した架橋剤を含む多くの架橋剤が、市販されている。これらの使用のための詳細な取扱説明書は、これらの業者から容易に入手可能である。蛋白質架橋および接合調製に関して一般的に参照されるのは、「Wong, CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSSLINKING, CRC Press (1991)」である。
【0153】
上記で規定されたキメラペプチドの第1のドメインと第2のドメインとを化学的に架橋させることは、スペーサーアームの使用を含む。スペーサーアームは、分子内たわみ性を提供するか、または、接合された成分間の分子内距離を調節し、これによって、生物活性を保持することを促進し得る。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸、例えば、プロリンを含むポリペプチド成分の形をしていて良い。あるいは、スペーサーアームが、例えば「長鎖SPDP」内の、架橋剤の一部であってよい(Pierce Chem. Co., Rockford, IL., cat. No. 21651 H)。
【0154】
さらに、上記で開示された1つのキメラペプチドの改変体、断片、または誘導体をここで、用いてもよい。断片および改変体に関しては、一般に、JNK阻害剤配列に関して記載した規定が参照される。
【0155】
特に、本発明の意味するところでは、「キメラペプチドの改変体」とは、好ましくは、配列番号9〜12および23〜32に記載の配列のいずれかに由来する配列である。ここで、キメラ改変体は、本明細書において使用される、配列番号9〜12および23〜32に記載のキメラペプチドのアミノ酸変換を含む。このような変換は、典型的には、配列番号9〜12および23〜32に記載のアミノ酸の、1〜20個、好ましくは1〜10個、およびより好ましくは1〜5個の置換、付加、および/または、(断片を導く)削除を含む。
【0156】
ここで、本明細書において使用される、変換されたキメラペプチドは、配列番号9〜12および23〜32に記載の配列と、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を示す。好ましくは、これらの改変体は、本明細書において使用されるキメラペプチドに含まれる第1のドメインおよび第2のドメインの生物活性を保持する。すなわち、上記で開示された第1のドメインのトラフィッキング活性と、第2のドメインの、JNKに結合するため、および/または、少なくとも1つのJNK活性化された転写因子の活性化を阻害するための活性とを保持する。
【0157】
従って、本明細書において使用されるキメラペプチドは、また、上記で開示されたキメラペプチドの断片、特に、配列番号9〜12および23〜32のいずれかに記載のキメラペプチド配列の断片を含む。
【0158】
従って、本発明の意味するところにおいて、「キメラペプチドの断片」とは、好ましくは、配列番号9〜12および23〜32に記載の配列のいずれかに由来する配列である。ここで、断片は、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの少なくとも4つの連続したアミノ酸を含む。
【0159】
この断片は、好ましくは、これらの配列のいずれかからのエピトープを特異的に認識することを十分に可能にすると共に、当該配列を細胞、核、またはさらなる所望の位置の中まで十分に輸送する程度の長さを含む。
【0160】
さらにより好ましくは、断片は、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの、4〜18個、4〜15個、または最も好ましくは4〜10個の連続したアミノ酸を含む。本明細書において使用されるキメラペプチドの断片はさらに、配列番号99〜12および23〜32のいずれかに記載の任意の配列と、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%、またはさらに99%の配列同一性を共有する配列と規定され得る。
【0161】
最終的に、本明細書において使用されるキメラペプチドはまた、上記で開示されたキメラペプチドの誘導体、特に、配列番号9〜12および23〜32のいずれかに記載のキメラペプチド配列の誘導体を含む。
【0162】
本発明は、さらに、上記で規定されたJNK阻害剤配列、上記で規定されたキメラペプチド、またはそれらの断片、改変体、若しくは誘導体をコードする核酸配列の、本明細書において規定される被験体における、非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療用の薬剤組成物を調製するための使用に関する。
【0163】
本明細書において使用されるJNK阻害剤配列をコードする好ましい好適な核酸は、典型的には、ヒトIB1核酸(GenBankアクセッション番号(AF074091)、ラットIB1核酸(GenBankアクセッション番号AF108959)、若しくはヒトIB2(GenBankアクセッション番号AF218778)から、または、上記で規定された配列のうちのいずれかをコードする任意の核酸配列、すなわち、配列番号1〜26に記載の任意の配列から、選択される。
【0164】
本明細書において使用されるJNK阻害剤配列をコードする核酸、または本明細書において使用されるキメラペプチドをコードする核酸は、当該技術分野において公知の任意の方法によって(例えば、配列の3’−末端および5’−末端にハイブリダイゼーション可能な合成プライマーを用いたPCR増幅によって、および/または、所定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチド配列を用いて、cDNAまたはゲノムライブラリーからクローン作成することによって)、得られる。
【0165】
さらに、本明細書には、ストリンジェントな条件において、上記で規定された(ネイティブ)JNK阻害剤配列またはキメラペプチドのための適切なストランドコーディングとハイブリダイズする核酸配列も開示される。好ましくは、このような核酸配列は、特異的なハイブリダイゼーションを十分に可能にする長さを有する、少なくとも6つの(連続した)核酸を含む。より好ましくは、このような核酸配列は、6〜38、さらにより好ましくは6〜30、および最も好ましくは6〜20または6〜10の(連続した)核酸を含む。
【0166】
「ストリンジェントな条件」とは、配列に依存しており、異なる各環境下では互いに異なるものであろう。該して、ストリンジェントな条件は、所定のイオン強度およびpHにおける、特異的配列の熱融点(TM)よりも約5℃低く選択されていてよい。TMは、標的配列の50%が、完全に適合する試料にハイブリダイズする温度(所定のイオン強度およびpH下)である。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩の濃度がpH7において少なくとも約0.02モルであり、温度が少なくとも約60℃である条件である。他の因子が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー(特に、塩基組成、および相補鎖のサイズを含む)、有機溶媒の存在、および塩基の不適合の範囲に影響を与え得るので、任意のパラメータの絶対測定値よりも、パラメータの組み合わせがより重要である。
【0167】
「高ストリンジェンシー条件」とは、次のステップを含んでいてよい。例えば、ステップ1では、DNAを含むフィルターを、6×SSC、50mMのトリス−HCl(pH7.5)、1mMのEDTA、0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.02%のBSA、および500μg/mlの変性されたサケ精子DNAから構成されるバッファー中で、65℃で8時間から一晩にわたって前処理する。
【0168】
ステップ2では、上述の事前のハイブリダイゼーション混合物に、100mg/mlの変性されたサケの精子DNAおよび5〜20×106cpmの32P−標識プローブを加えたものにおいて、フィルターを65℃で48時間ハイブリダイズする。
【0169】
ステップ3では、2×SSC、0.01%のPVP、0.01%のフィコール、および0.01%のBSAを含む溶液において、フィルターを37℃で1時間洗浄する。
【0170】
この後、0.1×SSCにおける洗浄を、50℃で45分間行う。ステップ4では、フィルターを、オートラジオグラフィーに曝す。
【0171】
高ストリンジェンシーの、使用可能な他の条件は、当該技術分野において公知である(例えば、Ausubel et al., (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, NY; and Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, a Laboratory Manual, Stockton Press, NYを参照)。
【0172】
「中程度のストリンジェンシー条件」とは、次のステップを含んでいてよい。ステップ1では、DNAを含むフィルターを、6×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%のSDS、および100mg/mlの変性されたサケ精子DNAを含む溶液中で、55℃で6時間前処理する。
【0173】
ステップ2では、同じ溶液に、5〜20×106cpm32P−標識プローブを加えたものにおいて、フィルターを55℃で18〜20時間ハイブリダイズする。
【0174】
ステップ3では、2×SSC、0.1%のSDSを含む溶液において、フィルターを37℃で1時間洗浄し、その後、1×SSCおよび0.1%のSDSを含む溶液において60℃で30分間洗浄することを、2回行う。ステップ4では、フィルターをドライブロッティングして、オートラジオグラフィーに曝す。
【0175】
中程度のストリンジェンシーの、使用可能な他の条件は、当該技術分野において公知である(例えば、「Ausubel et al., (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, NY; and Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, a Laboratory Manual, Stockton Press, NY」を参照)。
【0176】
最後に、「低ストリンジェンシー条件」には、次のステップを含むことが可能である。ステップ1では、DNAを含むフィルターを、35%のホルムアミド、5×SSC、50mMのトリス−HCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%のPVP、0.1%のフィコール、1%のBSA、および500μg/mlの変性されたサケ精子DNAを含む溶液において、40℃で6時間前処理する。
【0177】
ステップ2では、同じ溶液に、0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.2%のBSA、100μg/mlのサケ精子DNA、10%(wt/vol)の硫酸デキストラン、および5〜20×106cpm32P−標識プローブを加えたものにおいて、フィルターを40℃で18〜20時間ハイブリダイズする。
【0178】
ステップ3では、フィルターを、2×SSC、25mMのトリス−HCl(pH7.4)、5mMのEDTA、および0.1%のSDSを含む溶液において、55℃で1.5時間洗浄する。この洗浄溶液を、新鮮な溶液と置き換え、60℃においてさらに1.5時間培養する。
【0179】
ステップ4では、フィルターをドライブロッティングして、オートラジオグラフィーに曝す。必要に応じて、フィルターを65〜68℃で3回洗浄して、フィルムに再び曝す。
【0180】
低ストリンジェンシーの、使用可能な他の条件は、当該技術分野において公知である(例えば、異種間ハイブリダイゼーションに用いられるような条件)。例えば「Ausubel et al., (eds.), 1993, CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley and Sons, NY; and Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A LABORATORY MANUAL, Stockton Press, NY」を参照されたい。
【0181】
上記で規定された本発明に係る核酸配列を用いて、ペプチドを発現させることが可能である。すなわち、上記で規定された本発明に係る核酸配列を用いて、分析、特徴づけ、または治療上の使用のために本明細書において使用されるJNK阻害剤配列または本明細書において使用されるキメラペプチドを、(本明細書において使用される)対応するペプチドが(組織分化若しくは発生の構成的または特別な段階、または疾患状態において)好ましくは発現される組織用のマーカーとして発現させることが可能である。これらの核酸の他の使用には、例えば、核酸のゲル電気泳動−ベースの分析における分子量マーカーとしての使用が含まれる。
【0182】
本発明のさらなる一実施形態によれば、上記で規定された、1つ以上のJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドの組み換え型に発現させるという上述の目的のために、発現ベクターを用いてもよい。
【0183】
「発現ベクター」という用語は、本明細書では、二本鎖または一本鎖である、環状または線形のDNAまたはRNAを示すために用いられる。発現ベクターはさらに、宿主細胞または単細胞または多細胞宿主生物内に移転される、上記で規定された少なくとも1つの核酸を含む。
【0184】
本明細書において使用される発現ベクターは、好ましくは、本明細書において使用されるJNK阻害剤配列またはその断片若しくは改変体、あるいは、本明細書において使用されるキメラペプチド、または、その断片若しくは改変体をコードする、上記で規定された核酸を含む。
【0185】
さらに、本発明に係る発現ベクターは、好ましくは、様々な調整要素を含む、発現を支援するための適切な要素を有している。これらの様々な調整要素の例には、ウイルス源、細菌源、植物源、哺乳類の源、および、他の真核細胞の源からのエンハンサー/プロモーターが挙げられる。上記エンハンサー/プロモーターは、ホスト細胞内に挿入されたポリヌクレオチドの発現を始動し、例としては、インスレータ、境界素子(boundary elements)、LCR(例えば、Blackwood and Kadonaga (1998), Science 281, 61−63によって記載されている)、または、マトリクス/スカッフフォールド結合領域(例えば、Li, Harju and Peterson, (1999), Trends Genet. 15, 403-408によって記載されている)などが挙げられる。
【0186】
幾つかの実施形態では、調整要素は、異種要素である(すなわち、ネイティブ遺伝子プロモーターではない)。あるいは、遺伝子および/または該遺伝子に挟まれた領域のネイティブプロモーターによって、必要な転写信号および翻訳信号が、供給されてもよい。
【0187】
「プロモーター」という用語は、本明細書における使用では、DNAの領域であって、上記で規定された1つ以上の核酸配列の転写を制御するように機能すると共に、DNA−依存性のRNA−ポリメラーゼの結合部位の存在、および、プロモーターの機能を調整するために相互作用する他のDNA配列の存在によって、構造的に特定される領域を指す。
【0188】
機能的な発現を促進するプロモーターの断片は、プロモーターとしての活性を保持する、短縮された、または、省略されたプロモーター配列である。プロモーター活性は、当該技術分野において公知の任意の試験法(例えば、Wood, de Wet, Dewji, and DeLuca, (1984), Biochem Biophys. Res. Commun. 124, 592-596; Seliger and McElroy, (1960), Arch. Biochem. Biophys. 88, 136-141)、または市販のPromega(登録商標))によって測定可能である。
【0189】
ここに規定された発現ベクターにおいて使用される「エンハンサー領域」とは、典型的には、1つ以上の遺伝子の転写を増加させるように機能する、DNAの領域を指す。より詳細に言うと、「エンハンサー」という用語は、本明細書における使用では、遺伝子の発現を、その位置および方向に無関係に、発現される遺伝子に対して、促進、増大、改善、または、向上させるDNA調整要素であり、1つ以上のプロモーターの発現を促進、増大、改善、または、向上させることであり得る。
【0190】
ここに規定される発現ベクターにおいて使用されるプロモーター/エンハンサー配列は、植物、動物、昆虫、または、菌類の調整配列を利用していてよい。例えば、酵母および他の菌類(例えば、GAL4プロモーター、アルコール脱水素酵素プロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)からの、プロモーター/エンハンサー要素を用いてもよい。選択的または追加的に、これらは、動物の転写調節領域を含んでいてよい。
【0191】
動物の転写調節領域の例には、(i)膵臓ベータ細胞の内部において活性のインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahan, et al., 1985. Nature 315 115-122を参照)、(ii)リンパ球様細胞の内部において活性の免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedl, et al., 1984, 細胞 38 647-658を参照)、(iii)肝臓の内部において活性のアルブミン遺伝子制御領域(例えば、Pinckert, et al., 1987. Genes and Dev 1 268-276を参照)、(iv)脳希突起膠細胞の内部において活性のミエリン塩基性蛋白質遺伝子制御領域(例えば、Readhead, et al., 1987, Cell 48 703-712を参照)、および、(v)視床下部の内部において活性の性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Mason, et al., 1986, Science 234 1372-1378を参照)が挙げられる。
さらに、本明細書において規定される発現ベクターは、増幅マーカーを含んでいてよい。この増幅マーカーは、例えば、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、多剤耐性遺伝子(MDR)、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)、およびN−(ホスホンアセチル)−L−アスパラギン酸塩耐性(CAD)から成る群から選択され得る。
【0192】
本発明に適した典型的な発現ベクターまたはその誘導体には、特に、例えば、ヒトまたは動物のウイルス(例えば、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルス)、昆虫ウイルス(例えばバキュロウイルス)、酵母ベクター、バクテリオファージベクター(例えば、ラムダファージ)、プラスミドベクター、およびコスミドベクターが含まれる。
【0193】
本発明はさらに、上記で規定された核酸の配列をコーディングするペプチドを発現することが可能な、様々な宿主(ホスト)ベクター系を利用してよい。これらの宿主ベクター系には、(i)ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどに感染した哺乳類細胞系、(ii)バキュロウイルスなどに感染した昆虫細胞系、(iii)酵母ベクターを含有する酵母、または(iv)バクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNAで形質転換されたバクテリアが含まれるが、これらに限定されない。利用される宿主ベクター系に応じて、多数の好適な転写要素および翻訳要素のうちの任意の1つを用いてよい。
【0194】
このような宿主ベクター系に適した宿主細胞株であって、対象となる挿入された配列の発現を調節する宿主細胞株、または、該配列が特定の所望の方法でコードした、発現されたペプチドを変更若しくは処理する宿主細胞株が、選択されることが好ましい。
【0195】
さらに、特定のプロモーターからの発現は、選択された宿主株において、特定の誘発因子の存在下で強化され、従って、遺伝子工学により生産されたペプチドの発現の制御を促進することが可能である。さらに、様々な宿主細胞は、発現されたペプチドの翻訳処理およびポスト翻訳処理、並びに修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化など)の特性および特別のメカニズムを有している。
【0196】
従って、外来ペプチドの所望の修飾および処理を確実に行うために、適切な細胞株または宿主系が選択され得る。例えば、バクテリア系内のペプチド発現を用いて、グリコシル化されていないコアペプチドを生成することが可能である。その一方で、哺乳類細胞の内部における発現は、異種のペプチドの「ネイティブ」グリコシル化を確実に行う。
【0197】
本発明は、さらに、上述のJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドに対する抗体を、本明細書において規定される非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療用の薬剤組成物を調製するために使用することを提供する。さらに、本発明に係るJNK阻害剤配列に特異的、またはこのような阻害剤配列を含むキメラペプチドに特異的な抗体を生成するために有効な手段が記載され、この目的のために用いられる。
【0198】
本発明によれば、本明細書において規定された、JNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド、並びに、その断片、改変体、または誘導体を、これらのペプチド成分を免疫特異的に結合させる抗体を生成するイムノゲンとして利用してもよい。このような抗体には、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fab断片、およびFab発現ライブラリーが含まれる。具体的な一実施形態では、本発明は、上記で規定された、キメラペプチドまたはJNK阻害剤配列に対する抗体を提供する。これらの抗体の製造には、当該技術分野で公知の様々な方法を用いてよい。
【0199】
一例として、上記で規定されたキメラペプチドまたはJNK阻害剤配列を注射することによって、様々な宿主動物に、ポリクローナル抗体を生成するための免疫性を与えることが可能である。この際に、免疫応答を向上させるために、様々な補佐剤を用いることが可能である。補佐剤には、フロインドアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性剤(例えば、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳濁液、ジニトロフェノールなど)、CpG、ポリマー、プルロニック、および、ヒト補佐剤(例えばカルメットゲラン杆菌およびコリネバクテリウムパルヴム)が含まれるが、これらに限定されない。
【0200】
上記で規定されたメラペプチドまたはJNK阻害剤配列に対するモノクローナル抗体の調製には、連続細胞株培養によって抗体分子の生成を提供する、任意の技術を利用してよい。
【0201】
このような技術には、ハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein, 1975. Nature 256 495-497を参照)、トリオーマ技術、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor, et al., 1983, Immunol Today 4 72を参照)、および、ヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole, et al., 1985. In Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96を参照)が含まれるが、これらに限定されない。
【0202】
ヒトモノクローナル抗体は、本発明の実施において利用可能であり、ヒトハイブリドーマの使用によって(Cote, et al., 1983. Proc Natl Acad Sci USA 80 2026-2030を参照)、または、ヒトB−細胞をエプスタイン−バーウイルスによってインビトロで形質転換することによって(Cole, et al.,1985. In Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy (Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96を参照))生成可能である。
【0203】
本発明によれば、本明細書において規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドに特異的な一本鎖抗体を生成するための技術を採用してもよい(例えば、米国特許第4,946,778号を参照)。
【0204】
さらに、Fab発現ライブラリーを構成するための方法(例えば、Huse et al., 1989. Science 246 1275-1281を参照)を採用して、これらのJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドにとって所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速且つ効率のよい識別を可能にすることもできる。非−ヒト抗体を当該技術分野において公知の技術によって、「ヒト化」してもよい(例えば、米国特許第5,225,539号を参照)。
【0205】
本明細書において規定されるJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドに対してイディオタイプを含有する抗体断片を、当該技術分野において公知の技術によって生成してもよい。この抗体断片の例には、(i)抗体分子をペプシン消化することによって生成されるF(ab’)2断片、(ii)F(ab’)2断片のジスルフィドブリッジを減少させることによって生成されるFab断片、(iii)抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することによって生成されるFab断片、および、(iv)Fv断片が挙げられる。
【0206】
本発明の一実施形態では、抗体をスクリーニングするために用いられる方法であって、所望の特異性を有する方法には、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、および他の、当該技術分野において公知の免疫媒介性技術が含まれるが、これらに限定されない。
【0207】
具体的な一実施形態では、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド(例えば、典型的には5〜20、好ましくは8〜18、および最も好ましくは8〜11の個の長さのアミノ酸を含むその断片)の特定のエピトープに対して特異的な抗体の選択は、このようなエピトープを有する、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドの断片に結合させるハイブリドーマの生成によって促進される。上記で規定されたエピトープに特異的なこれらの抗体も、本明細書において提供される。
【0208】
ここで規定される抗体を、JNK阻害剤配列(および/または、これに対応して、上記で規定されたキメラペプチド)の局在化および/または数量化に関する当該技術分野で公知の方法において、用いてもよい。これは、例えば、適切な生理学的試料内のペプチドの量を測定するため、診断方法における使用のため、または、ペプチドを造影するための使用のためである。
【0209】
本発明に従って規定される、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、核酸、ベクター、宿主細胞、および/または、抗体は、本明細書において規定される疾患のうちのいずれかの予防または治療のため、特に、本明細書において規定される非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の予防または治療のために適用され得る薬剤組成物に製剤可能である。
【0210】
典型的には、このような本発明に従って用いられる薬剤組成物は、次の有効成分を1つ含む。すなわち、(i)任意の1つ以上の、上記で規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド、および/または、その改変体、断片、若しくは誘導体、特に、配列番号1〜4および13〜20および33〜100の配列のうちのいずれかに記載のJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32の配列のいずれかに記載のキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100の配列のいずれかに記載のJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22のいずれかに記載のトラフィッキング配列、または上記の規定の範囲内のその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列、および/または、(ii)上記で規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド、および/または、その改変体若しくは断片をコードする核酸、および/または、(iii)上記で規定された、JNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド、および/または、その改変体、断片、若しくは誘導体を任意で1つ以上含む細胞、および/または、(iv)上記で規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチド、および/または、その改変体若しくは断片をコードする、ベクター、および/または、核酸でトランスフェクトされた細胞、を含む。
【0211】
好ましい一実施形態によれば、このような、本発明に従って使用される薬剤組成物は、典型的には、安全且つ有効な量の、上記で規定された成分を含む。この成分は、好ましくは、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100の配列のいずれかに記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32の配列のいずれかに記載の少なくとも1つのキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100の配列のいずれかに記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22のいずれかに記載のトラフィッキング配列、または上記の規定の範囲内のその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列、または、これをコードする少なくとも1つの核酸、または、上記で規定された、少なくとも1つのベクター、宿主細胞、若しくは抗体の成分である。
【0212】
本発明の発明者は、本明細書においてそれぞれ規定されるJNK−阻害剤配列およびキメラペプチドが、本発明の疾患に関連する細胞内への特に良好な取り込み率を示すことを、さらに発見した。従って、被験体に投与される薬剤組成物内の、各JNK−阻害剤配列およびキメラペプチドの量は、非常に低い投与量である(これに限定されない)。このため、投与量は、当該技術分野において公知のペプチド薬剤、例えばDTS−108(Florence Meyer-Losic et al., Clin Cancer Res., 2008, 2145-53)よりも大幅に低い。これは、例えば、潜在的な副作用の低減、および、費用の低減といった、幾つかの有利な面を有している。
【0213】
好ましくは、この投与量(kg体重当たり)は、10mmol/kg未満、好ましくは1mmol/kg未満、より好ましくは100μmol/kg未満、さらにより好ましくは10μmol/kg未満、さらにより好ましくは1μmol/kg未満、さらにより好ましくは100nmol/kg未満、最も好ましくは50nmol/kg未満の範囲内である。
従って、この投与量の範囲は、好ましくは、約1pmol/kg〜約1mmol/kg、約10pmol/kg〜約0.1mmol/kg、約10pmol/kg〜約0.01mmol/kg、約50pmol/kg〜約1μmol/kg、約100pmol/kg〜約500nmol/kg、約200pmol/kg〜約300nmol/kg、約300pmol/kg〜約100nmol/kg、約500pmol/kg〜約50nmol/kg、約750pmol/kg〜約30nmol/kg、約250pmol/kg〜約5nmol/kg、約1nmol/kg〜約10nmol/kg、またはこれらの値のうちの任意の2つの値の組み合わせであってよい。
【0214】
これに関して、上述の薬剤組成物を用いる場合の、治療の処方、例えば投薬量の決定などは、典型的には、一般開業医や他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、治療される疾患、個々の患者の状態、送達の部位、投与方法、および、開業医に公知の他の要因が考慮される。上述の技術および説明は、例えば、「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, 16th edition, Osol, A. (ed), 1980」に見出すことが可能である。
【0215】
従って、本発明に従って使用される、上記で規定された薬剤組成物の成分の「安全且つ有効な量」とは、これらの各または全ての成分の、本明細書において規定される非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の良好な緩和を誘発するのに十分な量を意味する。
【0216】
しかし、同時に、「安全且つ有効な量」は、深刻な副作用を回避するために十分に少ない量であり、すなわち、利点と危険との間の実用的な関係を許可する量である。これらの限度の決定は、典型的には、実用的な医学的判断の範囲内にある。
【0217】
このような成分の「安全且つ有効な量」は、治療される特定の病気、治療される患者の年齢および健康状態、病気の重篤度、治療の期間、用いられる特定の薬学的に許容され得る担体に伴う治療法の性質、および、担当する医師の知識および経験の範囲内である類似の要因に関連して変動する。本発明に係る薬剤組成物は、本発明に従って、ヒト医学およびまた獣医学の目的に用いることが可能である。
【0218】
本発明に従って用いられる薬剤組成物は、さらに、これらの成分のうちの1つに加えて、(適合性の)薬学的に許容され得る担体、賦形剤、緩衝剤、安定剤、または、当業者に公知の他の材料を含む。
【0219】
これに関して、「(適合性の)薬学的に許容され得る担体」という表現は、好ましくは、液体または非液体ベースの組成物を含む。「適合性の」という用語は、本明細書において使用される薬剤組成物の構成物質が、上記で規定された薬学的に有効な成分、および他の成分と混合されることが可能であり、この際に、通常の使用条件下で薬学的有効性を実質的に低減する相互作用が生じないことを意味している。薬学的に許容され得る担体は、治療されるヒトへの投与に適したようにするには、当然ながら、純度が十分に高く、且つ、毒性が十分に低くなければならない。
【0220】
本明細書において使用される薬剤組成物が、液体の形で提供されるならば、薬学的に許容され得る担体は典型的には、1つ以上の(適合性の)薬学的に許容され得る液体担体を含む。この組成物は、(適合性の)薬学的に許容され得る液体担体として、例えば、パイロジェンフリー水、等張食塩水またはバッファー(水)溶液(例えばリン酸塩、クエン酸塩など、バッファー溶液、植物油(例えば、ラッカセイ油、綿実油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびシオブローマからの油))、ポリオール(例えば、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール)、アルギン酸などを含んでいてよい。特に、本明細書において使用される薬剤組成物を注射する場合、バッファー、好ましくは水性バッファーを用いてもよい。
【0221】
本明細書において使用される薬剤組成物が固形に提供されるならば、薬学的に許容され得る担体は、典型的には、1つ以上の(適合性の)薬学的に許容され得る固形の担体を含む。この組成物は、(適合性の)薬学的に許容され得る固形の担体として、例えば、1つ以上の適合性の固形を含んでもよいし、または、液体の充填剤若しくは希釈剤若しくはカプセルに包まれた化合物を用いてもよい。このカプセルに包まれた化合物は、ヒトへの投与に適している。
【0222】
このような(適合性の)薬学的に許容され得る固形の担体の幾つかの例は、例えば、糖質(例えば、ラクトース、グルコース、およびサッカロース)、でんぷん(例えば、コーンスターチまたはジャガイモでんぷん)、セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース)、粉状のトラガカント、モルト、ゼラチン、獣脂、固形の滑沢剤(glidant)(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム)、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0223】
(適合性の)薬学的に許容され得る担体または他の材料の正確な特性は、投与経路に依存している。従って、(適合性の)薬学的に許容され得る担体の選択は、原則的に、本発明に従って用いられる薬剤組成物が投与される方法によって決定される。
【0224】
本発明に従って用いられる薬剤組成物は、例えば、全身的に投与され得る。投与経路には、例えば、(例えば注射を介した)非経口経路(例えば静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、皮内経路、または、経皮経路など)、経腸経路(例えば、経口または直腸経路など)、局所用経路(例えば経鼻、または鼻腔内経路など)、または他の経路(例えば表皮送達、またはパッチ送達)が含まれる。
【0225】
用いられる薬剤組成物の好適な量を、動物モデルを用いた一般的な実験によって決定することが可能である。このようなモデルには、うさぎ、ひつじ、マウス、ラット、イヌ、および非ヒトの霊長類モデルが含まれるが、これらに限定されることを意図するものではない。
【0226】
注射のための好ましい単位投与量の形態は、殺菌水溶液、生理食塩水、またはこれらの混合物が含まれる。このような溶液のpHは、約7.4に調節されている必要がある。注射のための好適な担体には、ヒドロゲル、制御された放出または遅延された放出のための装置、ポリ乳酸、およびコラーゲンマトリクスが含まれる。局所的に適用するために好適な薬学的に許容され得る担体には、ローション、クリーム、ゲルなどにおける使用に適した担体が含まれる。
【0227】
化合物が、経口的に投与されるならば、錠剤、カプセルなどが、好ましい単位剤形である。経口投与に使用可能な、単位投剤形の調製のための薬学的に許容され得る担体は、従来技術において公知である。この担体の選択は、味、費用、および貯蔵性などの二次的な検討条件によって決定される。この選択は、本発明の目的には重要ではなく、当業者が容易に選択することが可能である。
【0228】
経口投与用の薬剤組成物は、錠剤、カプセル、粉末、または液体状であってよい。錠剤は、上記で規定された固形の担体、例えばゼラチン、および、任意により補佐剤を含んでいてよい。経口投与用の液状薬剤組成物は、一般的には、上記で規定された液体担体、例えば水、石油、および、動物若しくは植物油、鉱物油、または、合成油を含んでいてよい。生理食塩水溶液、デキストロース若しくは他の糖類溶液、またはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコール)が含まれていてもよい。
【0229】
静脈内、皮膚若しくは皮下注射、または、苦痛を有する部位への注射の場合、有効成分は、非経口的に受容可能な水溶液の形をしており、この水溶液は、パイロジェンフリーであると共に、好適なpH、等張性、および安定度を有している。
【0230】
当業者は、好適な溶液を、例えば、等張性ビヒクル(例えば生食注射、リンガー液、乳酸加リンガー液)を用いて、調製可能である。必要に応じて、保存剤、安定剤、緩衝剤、酸化防止剤、および/または、他の添加物が含まれていてもよい。
【0231】
個体に供給されるものが、ポリペプチド、ペプチドであろうと、本発明に係る薬学的に有効な他の化合物である核酸分子であろうと、投与は、好ましくは「予防的に有効な量」、または、「治療的に有効な量」(場合によっては)である。この量は、個体に対する有効性を示すために十分な量である。投与される実際の量、および、投与の速度および時間的経過は、治療されるものの性質および重篤度によって決定される。
【0232】
本明細書において規定される疾患の予防および/または治療には、典型的には、上記で規定された薬剤組成物の投与が含まれる。「調節」という用語は、上述の疾患のいずれかが過剰に発現した時に、JNKの発現を抑制することを含む。
【0233】
「調節」という用語はまた、例えば、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100の配列のいずれかに記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32の配列のいずれかに記載の少なくとも1つのキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22のいずれかに記載のトラフィッキング配列、または上記の規定に範囲内におけるその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列を、自然なc−jun、ATF2、およびNFAT4結合部位の競合阻害剤として細胞内で用いることによって、上述の疾患のいずれかにおいて、c−jun、ATF2、またはNFAT4のリン酸化を抑制することを含むが、これに限定されない。
【0234】
「調節」という用語はまた、c−jun、ATF2、またはNFAT4、およびそれらの関連するパートナーから構成される(これらに限定されない)転写因子のヘテロ−複合体およびホモ−複合体の抑制を含む。関連するパートナーの例には、c−jun、AFT2、およびc−fosから構成されるAP−1複合体が挙げられる。非慢性または慢性の炎症性消化器疾患が、JNK過剰発現と関連付けられる場合、このような抑制力のあるJNK阻害剤配列を、細胞内に導入することが可能である。この場合、「調節」は、例えば、IBペプチド特異的抗体の使用により、IB−ペプチドがJNKに結合することを阻止して、これによって、IB−関連ペプチドによるJNK阻害を回避することによって、JNK発現を増加させることを含む。
【0235】
被験体を、上記で開示された薬剤組成物で予防および/または治療することは、典型的には、一定の(「治療的に有効な」)量の上記薬剤組成物を被験体に投与する(インビボ)ことによって実現され得る。ここで、被験体とは、例えば任意の、哺乳類、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、または豚であってよい。「治療的に有効な」という用語は、非慢性または慢性の炎症性消化器疾患を十分に改善する、薬剤組成物の有効成分の量を指す。
【0236】
従って、上記で規定されたようなペプチド、例えば、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの配列に記載の少なくとも1つのキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載の少なくとも1つのJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22に記載のトラフィッキング配列、または上述の規定の範囲内のその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列を、本発明の具体的な一実施形態において用いて、上記で規定されたような非慢性または慢性の炎症性消化器疾患を、活性化されたJNKシグナル経路を調節することにより、治療することが可能である。
【0237】
本発明に係る薬剤組成物内に含有される、上記で規定されたペプチドは、核酸によってコードされていてよい。これは、上記ペプチドが遺伝子療法の目的で投与される場合に、特に有利である。ここで、遺伝子療法とは、上記で規定された特異的な核酸を、例えば上記で規定された薬剤組成物を用いて、被験体に投与することによって行われる療法を指す。ここで、核酸は、L−アミノ酸だけを含む。
【0238】
本発明の本実施形態では、核酸は、コードされたペプチドを生成し、該コードされたペプチドは、その後、疾患または障害を調節する機能によって、治療効果を発揮するように機能する。本発明の実施においては、当該技術分野において利用可能な遺伝子療法に関する任意の方法(例えば、Goldspiel, et al., 1993. Clin Pharm 12 488-505を参照)を用いてよい。
【0239】
好ましい一実施形態では、遺伝子療法に用いられる、上記で規定された核酸は、好適な宿主内の、上記で規定された任意の1つ以上のIB−関連ペプチドをコードすると共に発現する発現ベクターの一部である。
【0240】
上記で規定された任意の1つ以上のIB−関連ペプチドとは、すなわち、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの配列に記載のキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22のいずれかに記載のトラフィッキング配列、または上述の規定の範囲内のその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列である。
【0241】
具体的な一実施形態では、このような発現ベクターは、JNK阻害剤配列のコーディング領域に動作可能に連結されたプロモーターを有している。このプロモーターは、上述のように、例えば、誘導的または構成的、および、任意により組織特異的であると規定され得る。
【0242】
具体的な一実施形態では、上記で規定されたような核酸分子が、遺伝子療法に用いられる。ここでは、上記で規定された核酸分子のコーディング配列(およびその、任意の他の所望の配列)が、ゲノム内の所望の部位において相同的組み換えを促進する領域によって挟まれているため、これらの核酸の染色体内発現を提供する(例えば、Koller and Smithies, 1989. Proc Natl Acad Sci USA 86 8932-8935を参照)。
【0243】
本発明によれば、上記で規定された核酸を、遺伝子療法のために、特にここでは、上述の、上記で規定された非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の遺伝子療法のために、患者の中に送達することは、直接的(すなわち、患者が核酸、または核酸−含有ベクターに直接曝される)であってもよいし、または、間接的(すなわち、最初に、核酸によって細胞をインビトロで形質転換させ、その後、患者に移植する)であってもよい。これら2つの方法は、それぞれ、インビボ遺伝子療法、または生体外遺伝子療法として公知である。
【0244】
本発明の具体的な一実施形態では、核酸を、直接インビボで投与する。ここで、核酸は、コードされた産生物を生成するために、発現する。これは、当該技術分野において公知の多数の方法のうちのいずれかによって実現され得る。
【0245】
これらの公知の方法には、例えば、核酸を適切な核酸発現ベクターの一部として構成して、投与し、細胞内にて上記核酸を発現する方法(例えば、欠損若しくは弱毒化レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いて感染させることによって;米国特許第4,980,286号を参照)、非修飾のDNAを直接注射する方法、微粒子の集中投与(bombardment)を用いる方法(例えば、「GeneGun」、Biolistic、DuPont)、核酸を脂質で被覆する方法、関連する細胞の表面にあるレセプター/トランスフェクション剤を用いた方法、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル内にカプセルで包む方法、上記核酸を、核の中に侵入することが知られているペプチドへリンケージした状態にて投与する方法、または、上記核酸を、レセプター媒介性のエンドサイトーシスに感染し易いリガンドへのリンケージにて投与する方法(例えば、Wu and Wu, 1987.J Biol Chem 262 4429-4432を参照)が挙げられる。
【0246】
このレセプター媒介性のエンドサイトーシスに感染し易いリガンドに対するリンケージ内に投与する方法は、対象となるレセプターを特異的に発現する種類の細胞を「標的」とするために用いられ得る。
【0247】
本発明の実施における遺伝子療法のさらなる方法は、エレクトロポレーション、リポフェクション、カルシウムリン酸塩−媒介性トランスフェクション、ウイルス感染などのような方法によって、上記で規定されたような核酸をインビトロ組織培養液内の細胞の中に移転させる方法を含む。
【0248】
概して、この転移の方法は、同時に、選択可能なマーカーを細胞に転移することを含む。細胞はその後、淘汰圧(例えば、抗生物質に対する抵抗)下に置かれ、このため、移転された遺伝子を取り上げて発現する細胞の分離を促進させる。これらの細胞は、その後、患者に送達される。
【0249】
具体的な一実施形態では、結果として生じる組み換え細胞をインビボで投与する前に、核酸を細胞内に導入する。当該技術分野において公知の方法(例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、対象となる核酸配列を含有するウイルスまたはバクテリオファージベクターに感染させること、細胞融合、染色体媒介性遺伝子導入、マイクロセル−媒介性遺伝子導入、スフェロプラスト融合、および、受容細胞の必要な発生および生理学的機能を確保する類似の方法)は、この転移によっては妨げられない。
【0250】
例えば、Loeffler and Behr, 1993. Meth Enzymol 217 599-618を参照。選択された技術は、核酸を細胞に安定して転移させ、細胞によって核酸を発現可能なことを提供する必要がある。好ましくは転移された核酸は、遺伝性であり、細胞後代によって発現可能である。
【0251】
本発明の好ましい実施形態では、結果として生じる組み換え細胞は、当該技術分野において公知の様々な方法によって、患者に送達され得る。当該技術分野において公知の方法には、例えば、上皮細胞への注射(例えば皮下注射)、植皮としての組み換え皮膚細胞を患者に付着させること、および、組み換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または前駆細胞)の静脈内注射が含まれる。
【0252】
使用が想定される細胞の合計数は、所望の作用、患者の状態などに依存し、当業者によって決定され得る。遺伝子療法のために核酸が導入され得る細胞は、任意の、所望の利用可能な細胞の種類を包含し、異種、異種遺伝子的、同質遺伝子的、または自己繁殖的であってよい。
【0253】
細胞の種類には、分化された細胞、例えば、上皮細胞、内皮細胞、ケラチン生成細胞、繊維芽細胞、筋細胞、肝細胞、および血液細胞、または、様々な幹細胞若しくは前駆細胞、特に、胎児心筋細胞、肝臓幹細胞(国際特許公開WO94/08598号)、神経幹細胞(Stemple and Anderson, 1992, Cell 71 973-985)、例えば、骨髄から得られる造血幹細胞若しくは前駆細胞、臍帯血液、末梢血、胎児の肝臓などが含まれるが、これらに限定されない。好ましい一実施形態では、遺伝子療法に利用されるこれらの細胞は、患者の自己細胞である。
【0254】
選択的および/または追加的に、本明細書に記載される疾患の治療のために、上記で規定された、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、および/または、核酸を送達するための標的療法、より詳細にいうと、(標的)抗体または細胞特異的リガンドのような標的システムを用いることによって、所定の種類の細胞に送達するための標的療法を用いてよい。標的とするために用いられる抗体は、典型的には、以下に規定する任意の疾患に関連する細胞の細胞表面蛋白質に特異的である。
【0255】
一例として、これらの抗体は、例えば、B−細胞に関連付けられた表面蛋白質といった細胞表面抗体に関連していてよい。B−細胞に関連付けられた表面蛋白質の例には、MHCクラスIIDR蛋白質、CD18(LFA−1ベータ鎖)、CD45RO、CD40若しくはBgp95、または、例えばCD2、CD2、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD10、CD13、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD38、CD39、CD4、CD43、CD45、CD52、CD56、CD68、CD71、CD138などから選択された細胞表面蛋白質が挙げられる。
【0256】
標的構成は、典型的には、本明細書において規定された、本発明に係るJNK阻害剤配列、キメラペプチド、および核酸を、細胞表面蛋白質に抗体特異的に共有結合させることによって、または、細胞特異的リガンドに結合させることによって、調製され得る。
【0257】
蛋白質は、例えば、ペプチド結合または化学的結合、化学的架橋などによって、このような抗体に結合され得る、または、このような抗体に付着され得る。その後、標的療法は、標的構成を、薬学的に有効な量で、以下に規定する投与経路のいずれかによって、患者に投与することによって行われ得る。
【0258】
例えば、投与経路は、腹膜内経路、経鼻経路、静脈内経路、経口経路、およびパッチ送達経路である。好ましくは、上記で規定された標的抗体または細胞特異的リガンドに付着される、本発明に係る、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列、キメラペプチド、または核酸は、例えば、共有結合の加水分解によって、ペプチダーゼによって、または、任意の他の好適な方法によって、インビトロまたはインビボにおいて放出され得る。
【0259】
あるいは、本発明に係る、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列、キメラペプチド、または核酸が、小細胞特異的リガンドに付着されるならば、リガンドの放出は、行われない。細胞表面に存在する場合、キメラペプチドは、そのトラフィッキング配列が活性化されると、細胞の中に侵入する。
【0260】
標的化は、様々な利用のため、例えば、本発明に係る、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列、キメラペプチド、および核酸が、許容できないような毒性である場合、または、極めて多い投薬量を必要とするような場合に望ましい。
【0261】
本発明に係る、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列、および/または、キメラペプチドを直接的に投与する代わりに、これらを、細胞内に導入されたエンコーディング遺伝子から、例えば、投与されるウイルスベクターから発現させることによって、標的細胞内に生成することも可能である。ウイルスベクターは、典型的には、本発明に係る、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドをコードする。
【0262】
このベクターは、治療される特異的細胞に標的化され得る。さらに、このベクターは、調整要素を含むことが可能である。この調整要素は、多かれ少なかれ、選択的に、所定の調節によって、標的細胞によって切替えられる。この技術は、成熟蛋白質をその前駆物質の代わりに利用するVDEPT技術の改変体(ウイルス−指向性酵素プロドラッグ療法)を示す。
【0263】
あるいは、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドを、抗体またはウイルスを用いることによって、前駆物質の形態にて投与してもよい。これらのJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドは、その後、治療される細胞内に生成された活性化剤、または治療される細胞に標的化された活性化剤によって、活性形に変換される。
【0264】
この種の方法は、ADEPT(抗体−指向性酵素プロドラッグ療法)またはVDEPT(ウイルス−指向性酵素プロドラッグ療法)としても知られている。ADEPTは、細胞−特異性抗体に接合することによって、活性化剤を細胞に標的化することを含み、VDEPTは、活性化剤、例えば、JNK阻害剤配列またはキメラペプチドを、ウイルスベクター内のエンコーディングDNAから発現させることによって、ベクター内に生成することを含む(例えば、EP−A−415731号およびWO90/07936号を参照)。
【0265】
さらなる一実施形態によれば、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、核酸配列、または、本明細書において規定されるJNK阻害剤配列若しくはキメラペプチド、例えば、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列、および/または、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの配列に記載のキメラペプチド、および/または、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22に記載のトラフィッキング配列、または上述の規定の範囲内のその改変体若しくは断片を含むJNK阻害剤配列、に対する抗体を、(インビトロ)アッセイ(例えば、免疫学的検定)において用いて、上記で規定された非慢性または慢性の炎症性消化器疾患から選択された様々な状態および病状を検出、予測、診断、または監視するか、または、その治療を監視することが可能である。
【0266】
この免疫学的検定は、患者に由来する試料を、免疫特異性−結合が生じる条件下で、上記で規定されたJNK阻害剤配列、キメラペプチド、または核酸配列に対する抗体に接触させ、その後、該抗体によって、免疫特異性−結合の量を検出または測定することを含む方法によって、行うことが可能である。
【0267】
具体的な一実施形態では、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、または核酸配列に特異的な抗体を用いて、患者からの組織または血清試料の、JNKまたはJNK阻害剤配列の存在を分析することが可能である。ここでは、異常な量のJNKが、疾患状態を示している。
【0268】
用いられ得る免疫学的検定には、ウエスタンブロット、放射線免疫学的検定(RIA)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、「サンドウィッチ」免疫学的検定、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル内沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫学的検定、補体結合アッセイ、免疫放射定量測定法、および、蛋白質−A免疫学的検定などといった技術を用いた、競合アッセイおよび非競合アッセイシステムが含まれるが、これらに限定されない。
【0269】
あるいは、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、核酸配列、または上記で規定されたJNK阻害剤配列またはキメラペプチドに対する抗体を、典型的には、例えば、培養された動物細胞、ヒト細胞、または微生物から選択された標的細胞に送達して、細胞応答を、典型的には当業者に知られた生物理学的方法によって監視することによって、(インビトロ)アッセイを行ってもよい。
【0270】
典型的には、本明細書において用いられる標的細胞は、培養された細胞(インビトロ)、またはインビボ細胞、すなわち、生きた動物若しくはヒトの臓器または組織、または生きた動物若しくはヒト内に存在する微生物を含む細胞であってよい。
【0271】
本発明はさらに、診断目的または治療目的のキットの使用、特に、上記で規定された非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療、予防、または監視のためのキットの使用を提供する。
【0272】
ここで、このキットは、1つ以上の容器を備えており、該容器は、JNK阻害剤配列、キメラペプチド、核酸配列、および/または、上記で規定されたこれらのJNK阻害剤配列またはキメラペプチドに対する抗体、例えば、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列に対する、配列番号9〜12および23〜32のいずれかの配列に記載のキメラペプチドに対する、配列番号1〜4、および13〜20、および33〜100のいずれかの配列に記載のJNK阻害剤配列であって、配列番号5〜8および21〜22に記載のトラフィッキング配列、または上述の規定の範囲内のその改変体または断片を含むJNK阻害剤配列に対する、抗−JNK阻害剤配列抗体、または、このような抗−JNK阻害剤配列抗体、および任意により、該抗体への、標識化された結合パートナーを含む。
【0273】
ここで抗体の中に組み込まれるラベルには、化学発光、酵素、蛍光、比色分析、または放射性成分が含まれるが、これらに限定されない。他の具体的な一実施形態では、上記で規定された非慢性または慢性の炎症性消化器疾患の治療、予防、または監視における診断のための使用のためのキットが、提供される。このキットは、上記で規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドをコードする核酸、あるいは、上記で規定されたJNK阻害剤配列および/またはキメラペプチドを補完する核酸を含む1つ以上の容器を備えており、任意により、これらの核酸に対して標識化された結合パートナーも提供されている。
【0274】
具体的な他の一実施形態では、このキットを、上述の目的のために、1つ以上の容器、および、一対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、6〜30ヌクレオチド長)を含むキットとして用いてもよい。一対のオリゴヌクレオチドプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、Innis, et al., 1990. PCR PROTOCOLS, Academic Press, Inc., San Diego, CAを参照)、リガーゼ連鎖反応、循環プローブ反応(cyclic probe reaction)などの方法、または、当該技術分野において公知の、ここでは上記で規定された核酸と共に用いられる方法のための、増幅プライマーとして機能することが可能である。
【0275】
このキットは、上述の目的のためのアッセイにおいて、診断、基準、または対照としての使用のために、任意により、所定の量の、上記で規定された精製されたJNK阻害剤配列、上記で規定されたキメラペプチド、またはこれらをコードする核酸をさらに含むことが可能である。
【0276】
本発明の範囲は、これらの具体的な実施形態によって限定されるものではない。むしろ、本明細書に記載されるこれらの実施形態に加えて、本発明の様々な変形が、当業者には、上述の明細書および添付の図面から明らかとなろう。このような変形例は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0277】
本明細書には、様々な文献を引用している。これらの文献の開示内容を、引用することによって、その全体を援用する。
【0278】
他に記載がない限り、本明細書において使用される全ての技術的且つ科学的用語は、本発明が属する当該技術分野の知識を有する当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有している。本明細書に記載された方法および材料に類似または等しい方法および材料を、本発明の実施または試験において用いてもよいが、好適な方法および材料については、後に記載する。
【0279】
本明細書に記載される、全ての文献、特許出願、特許、および他の引用文献は、引用によって、その全体を援用する。係争時には、規定を含む本明細書が、検査されることになる。さらに、材料、方法、および実施例は、単に、例示的なものであり、限定するものであることを意図するものではない。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0280】
【図1】示される転写因子における、保存されたJBDドメイン領域のアラインメントを示す図である。ここで用いられるJNK阻害剤配列は、配列アラインメントを実施することによって特徴付けられる。このアラインメントの結果が、A〜Cに例示的に示されている。Aは、IB1、IB2、c−Jun、およびATF2のJBDの間で、最も相同性が高い領域を示す図である。Bは、L−IB1(s)のJBDおよびL−IB1のJBDのアミノ酸配列を、比較のために示す図である。完全に保存された残基は、星印で示されており、GFP−JBD23Mutベクター内のAlaに変換された残基は、白丸で示されている。Cは、JNK阻害剤配列およびトラフィッキング配列を含むキメラ蛋白質のアミノ酸配列を示す図である。図示された実施例では、トラフィッキング配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)TATポリペプチドに由来し、JNK阻害剤配列は、IB1(s)ポリペプチドに由来する。パネルBおよびCでは、ヒト、マウス、およびラットの配列は同一である。
【図2】ヒト、マウス、およびラットからのジェネリックTAT−IB融合ペプチドの配列を示す図である。
【図3】IBDの検査において、XG−102(配列番号11)による治療時の臨床的な数値を示す図であり、一日当たり、各濃度1および100μg/kgSCのXG−102を用いた治療による数値を示す図である。
【図4】IBDの検査において、XG−102(配列番号11)による治療時の用量反応曲線を示す図であり、一日当たり、各濃度0.01、0.1、1、10、100、および1000μg/kgSCのXG−102を用いた治療による用量反応曲線を示す図である。
【図5】IBDの検査において、XG−102(配列番号11)による治療時の臨床的な数値を示す図であり、各濃度1および100μg/kgSCのXG−102(単回投与SC)を、日0において単回投与として用いた治療による数値を示す図である。
【図6】IBDの検査において、XG−102(配列番号11)による治療時の臨床的な数値を示す図であり、濃度1および100μg/kgPOのXG−102(日用量、PO)を、反復投与として用いた治療による数値を示す図である。
【図7】IBDの検査において、XG−102(配列番号11)による治療時の臨床的な数値を示す図であり、濃度1および100μg/kgPOのXG−102(単回投与PO)を、日0において単回投与として用いた治療による数値を示す図である。
【図8】初代培養されたマクロファージを、XG−102(配列番号11)で培養し、その後、広範囲にわたって洗浄したものを示す図である。XG−102(配列番号11)の存在は、XG−102に対する特異的抗体を用いて顕示させた。XG−102は、初代マクロファージにしっかりと組み込まれている。
【図9】放射性同位体で標識化されたC14(1mg/kg)のペプチドを、3つの異なる経路(s.c.、i.v.、i.p.)を介して投与することによって、マウスを治療したものを示す図である。動物を、注射の72時間後に犠牲にし、免疫ラジオグラフィーを施した。矢状断面を露出させ、主に肝臓、脾臓、および骨髄内の蓄積XG−102ペプチドを顕示させた(XG−102:配列番号11)。
【図10】1mg/kgのXG−102をi.v.で注射したラットの肝臓内のXG−102(配列番号11)に対する免疫染色を示す図である。動物を、注射の24時間後に犠牲にした。DAB基質を用いて顕示させた。この図も、肝臓、および特にクッパー細胞(マクロファージ)内にXG−102が著しく蓄積していることを示している。
【図11】2つの細胞株における、サイトカインおよびケモカインの放出の阻害を示す図である。XG−102(配列番号11)が、骨髄性細胞株およびリンパ球様細胞株におけるサイトカインの放出を阻害して、THP−1細胞(パネルA〜C)における、LPS−誘発されたTNFa、IL−6、およびMCP−1の放出を低減し、ジャーカット細胞(パネルD−F)におけるPMAおよびイオノマイシン−誘発性IFNg、IL−6、およびIL−2の産生を低減する。対照(XG−101)は、安定度が悪いため、それほど効果的でない。
【図12】一次細胞におけるサイトカインの放出の阻害を示す図である。XG−102(配列番号11)はまた、一次リンパ球様細胞および骨髄性細胞におけるサイトカインの放出を阻害して、マウスのマクロファージ(パネルA〜C)におけるLPS−誘発性TNFa、IL−6、およびランテス放出を低減すると共に、マウスのT細胞(パネルD〜E)におけるPMAおよびイオノマイシン−誘発性TNFa、およびIFNgの産生を低減する。細胞に傷害を与えない濃度のXG−102において、効果が生じる(パネルF)。
【図13】TNBS−誘発性大腸炎における効果を示す図である。炎症性腸疾患を有する患者のマクロファージおよびリンパ球において、JNKが活性化される。これは、組織障害において、TNFa、IL−6、およびIFNgの産生が増大することに関連した応答である。50および100mg/kgのXG−102を皮下投与することにより、マウスをTNBS−誘発性大腸炎(パネルA〜C)から保護し、DAI、体重減少、および直腸出血を減少させる。
【図14】ラットからのIB1 cDNA配列、およびその予測されるアミノ酸配列(配列番号102)を示す図である。
【図15】rIB1遺伝子−スプライス供与体のエクソン−イントロン境界によってコードされた、ラットからのIB1蛋白質配列(配列番号103)を示す図である。
【図16】ホモサピエンスからのIB1蛋白質配列(配列番号104)を示す図である。
【図17】ホモサピエンスからのIB1 cDNA配列(配列番号105)を示す図である。
【0281】
[実施例]
実施例1:JNK阻害剤配列の同定
JNKとの効果的な相互作用のために重要なアミノ酸配列を、公知のJNK結合ドメインJBD間の配列アラインメントによって同定した。IB1[配列番号13]、IB2[配列番号14]、c−Jun[配列番号15]、およびATF2[配列番号16]のJBD間の配列を比較することにより、低度に保存された8つのアミノ酸配列(図1A)を規定した。JNKを結合させることにおいて、IB1およびIB2のJBDが、c−JunまたはATF2のJBDよりも約100倍効果的であるため(Dickens et al. Science 277: 693 (1997))、最大の結合を与えるためには、当然、IB1とIB2との間に保存された残基が重要であることは間違いない。IB1のJBDとIB2のJBDとの間の比較により、これら2つの配列間で高度に保存された、2つのブロックの、7つおよび3つのアミノ酸を規定した。
【0282】
これら2つのブロックは、L−IB1(s)[配列番号1]内の19のアミノ酸のペプチド配列内に含まれており、比較のために、IB1[配列番号17]に由来する23aaペプチド配列内に示されている。これらの配列は、図1Bに示されており、L−IB1配列内の破線は、保存された残基をL−IB1(s)と揃えるために、配列内の隙間を示すものである。
【0283】
実施例2:JNK阻害剤融合蛋白質の調製
配列番号9に記載のJNK阻害剤融合蛋白質を、配列番号1のC−末端に共有結合にて連結することによって、HIV−TAT4g57に由来する配列番号5に記載のN−末端10アミノ酸ロング担体ペプチドに対して、2つのプロリン残基から成るリンカーを介して合成した(Vives et al., J Biol. Chem. 272: 16010 (1997))。このリンカーは、最大のたわみ性を可能にして、望ましくない2次的構造変化を回避するために用いたものである。この基本構造を調製して、L−IB1(s)(配列番号1)およびL−TAT[配列番号5]をそれぞれ指定した。
【0284】
配列番号11に記載のDレトロ−インベルソペプチドの全てを、上記合成に応じて合成した。この基本構造を調製して、D−IB1(s)[配列番号2]およびD−TAT[配列番号6]をそれぞれ指定した。
【0285】
配列番号9、10、11、および12に記載のDおよびLの融合ペプチドの全てを、従来のFmoc合成法によって産生し、さらに、質量分析法によって分析した。最終的に、これらの融合ペプチドを、HPLCによって精製した。プロリンリンカーの効果を算定するために、2種類のTATペプチドを産生した。これら2種類のTATペプチドのうち、一方は2つのプロリンを有しており、他方は全く有していない。2つのプロリンを加えることは、TATペプチドを細胞の内部に侵入させること、またはTATペプチドを細胞の内部において局在化させることについて変更することはないと思われる。保存されたアミノ酸残基を示すジェネリックペプチドは、図2に示されている。
【0286】
実施例3:JBD19による細胞死の阻害
IB1(s)の19aaロングJBD配列が、JNK生物活性に与える影響を調査した。この19aa配列を、N−末端で、緑色蛍光蛋白質(GFP JBD19構成)に結合させ、この構成がIL1によって誘発された膵臓ベータ−細胞アポトーシスに与える効果を評価した。この形態のアポトーシスは、JBD1-280でトランスフェクションすることによって阻止されることが既に示されているが、ERK1/2またはp38の特異的阻害剤は、これを、保護しなかった(Ammendrup et al., supraを参照)。
【0287】
19アミノ酸の保存された配列、および、完全に保存された領域において突然変異した配列を有する、JBD19に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、(Clontech社からの)緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードするpEGFP−N1ベクターのEcoRIおよびSalI部位の中に、方向を定めて挿入した。
【0288】
10%のウシ胎仔血清、100μg/mLのストレプトマイシン、100単位/mLペニシリン、および2mMのグルタミンを補充したRPMI1640媒質において、インスリンを生成するTC−3細胞を培養した。インスリンを生成するTC−3細胞を、示されるベクターでトランスフェクトし、この細胞培養基に、IL−1(10ng/mL)を添加した。IL−1を添加して48時間後に、アポトーシス細胞の数を、インバータ蛍光顕微鏡を用いて計数した。アポトーシス細胞を、細胞質の「気泡発生」特性によって、通常の細胞から選別し、2日後に計数した。
【0289】
GFPは、対照として用いられる緑色蛍光蛋白質発現ベクターである。JBD19は、IB1のJBDに由来する19aa配列に結合されたキメラGFPを発現するベクターであり、JBD19Mutは、GFP−JBD19と同じベクターであるが、1つのJBDは、図1Bとして示される4つの保存された残基において、突然変異しており、JBD1-280は、全JBD(aa1−280)に結合されたGFPベクターである。GFP−JBD19を発現する構造は、全JBD1-280と同じ程度に効果的に、IL−1により誘発性の膵臓−細胞のアポトーシスを妨げた。
【0290】
さらなる対照である、完全に保存されたIB1(s)残基において突然変異した配列は、アポトーシスを妨げる能力を著しく低下させた。
【0291】
実施例4:TAT−IB1(s)ペプチドの細胞インポート
TATおよびTAT−IB1(s)ペプチド(「TAT−IBペプチド」)のL−およびD−鏡像異性体の、細胞の中に侵入する能力を評価した。フルオレセインに接合されたグリシン残基のN−末端を付加することによって、L−TAT、D−TAT、L−TAT−IB1(s)、およびD−TAT−IB1(s)ペプチド[それぞれ、配列番号5、6、9、および12]を標識化した。
【0292】
標識化されたペプチド(1μM)を、TC−3細胞培養に添加し、これを、実施例3に記載したように維持した。各細胞を、PBSで所定の回数にて洗浄し、冷却されたメタノール−アセトン(1:1)において、5分間固定した後に、蛍光顕微鏡下で検査した。
【0293】
対照として、フルオレセイン−標識化したBSA(1μM,12 moles/mol BSA)を用いた。フルオレセインで標識化した全ペプチドは、一旦、培養基に添加されると、細胞に、効果的且つ迅速(5分以内)に侵入するという結果が示された。逆に、フルオレセインで標識化したウシ血清アルブミン(1μM BSA,12 molesのフルオレセイン/mol BSA)は、細胞には侵入しなかった。
【0294】
時間経過検査では、L−鏡像異性体ペプチド用の蛍光信号の強度は、24時間の後に、70%減少したことが示された。48時間では、信号はほとんど存在しなかった。逆に、D−TATおよびD−TAT−IB1は、細胞の内部において、極めて安定していた。
【0295】
これら全てのDレトロ−インベルソペプチドからの蛍光信号は、1週間後でも、極めて強力であり、信号は、処理後2週間経って漸く、わずかに減少した。
【0296】
実施例5:c−JUN、ATF2、およびElk1リン酸化のインビトロ阻害
ペプチドが、これらの標的転写因子のJNK−媒介性リン酸化に与える影響を、インビトロで調査した。活性化されていない、組み換えJNK1、JNK2、およびJNK3を、転写および翻訳ウサギ網赤血球溶解物キット(TRANSCRIPTION AND TRANSLATION rabbit reticulocyte lysate kit)(Promega)を用いて産生し、c−Jun、ATF2、およびElk1の固相キナーゼアッセイにおいて、単独、または、グルタチオン−S−転移酵素(GST)に融合させて、基質として用いた。
【0297】
反応用のバッファー(20mMのトリス−アセテート、1mMのEGTA、10mMのp−ニトロフェニル−リン酸塩(pNPP)、5mMのピロリン酸ナトリウム、10mMのp−グリセロリン酸塩、1mMのジチオスレイトール)中で、組み換えJNK1、JNK2、またはJNK3キナーゼに、L−TATまたはL−TAT−IB1(s)ペプチド(0−25μM)を20分間混ぜ合わせて、投与量応答性検査を行った。
【0298】
その後、10mMのMgCl2および5pCi33P−dATP、並びに1μgの、GST−Jun(aa 1〜89)、GST−AFT2(aa 1〜96)、またはGST−ELK1(aa 307〜428)を添加することによって、キナーゼ反応を開始させた。GST−融合蛋白質は、Stratagene社(LaJolla, CA)から購入したものである。
【0299】
この混合物に、10μLのグルタチオン−アガロースビーズも添加した。その後、反応生成物を、10%のポリアクリルアミド変性ゲル上でSDS−PAGEによって分離した。ゲルを乾燥させて、次にX線フィルム(Kodak)に曝した。2.5μM程の少ない投与量のTAT−IB(s)ペプチドにおいて、JNKによるc−Jun、ATF2、およびElk1リン酸化のほぼ完全な阻害が、観察された。
【0300】
しかし、顕著な例外は、Elk1のJNK3リン酸化のTAT−IB(s)が阻害されなかったことであった。全体的に、TAT−IB1(s)ペプチドは、これらの標的転写因子のJNKファミリーのリン酸化を阻害することにおいて、著しい効果を示した。
【0301】
D−TAT、D−TAT−IB1、およびL−TAT−IB1(s)ペプチド(0−250μM用量検査)の、組み換えJNK1、JNK2、およびJNK3によって、GST−Jun(aa 1〜73)リン酸化を阻害する能力を上記のように分析した。全体的に、D−TAT−IB1(s)ペプチドは、c−JunのJNK−媒介性リン酸化を減少させるが、そのレベルは、L−TAT−IB1(s)よりも約10−20倍、効率が悪かった。
【0302】
実施例6:活性化されたJNKによるc−JUNリン酸化の阻害
本明細書において規定されたL−TATまたはL−TAT−IB1(s)ペプチドが、ストレス刺激によって活性化されたJNKに与える影響を、UV−光が照射されたHeLa細胞またはIL−1処理されたPTC細胞からJNKをプルダウンするGST−Junを用いて、評価した。
【0303】
PTC細胞を上述のように培養した。10%のウシ胎仔血清、100μg/mLのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および2mMのグルタミンが補充されたDMEM媒質中で、HeLa細胞を培養した。細胞抽出物の調製に用いる1時間前に、PTC細胞を上述されたようにIL−1で活性化し、その一方で、HeLa細胞をUV−光(20J/m2)によって活性化した。
【0304】
細胞培養物を、溶解用のバッファー(20mMのトリス−アセテート、1mMのEGTA、1%のトリトンX−100、10mMのp−ニトロフェニル−リン酸塩、5mMのピロリン酸ナトリウム、10mMのP−グリセロリン酸塩、1mMのジチオスレイトール)において掻爬することによって、対照である、UV−光を照射させたHeLa細胞、およびIL−1処理されたTC−3細胞から、細胞抽出物を調製した。SS−34ベックマンローターにおいて15,000rpmで5分間遠心分離を行うことによって破片(デブリ)を除去した。
【0305】
100μgの抽出物を、1μgのGST−jun(アミノ酸1〜89)および10μLのグルタチオン−アガロースビーズ(Sigma)により、室温で1時間培養した。次に、掻爬用のバッファー(scraping buffer)で4回洗浄し、L−TATまたはL−TAT−IB1(s)ペプチド(25μM)を補充した同じバッファー中で、上記ビーズを20分間再懸濁させた。その後、10mMのMgCl2および5pCi33P−ガンマ−dATPを添加することによって、キナーゼ反応を開始させ、30℃で30分間培養した。
【0306】
その後、反応生成物を、10%ポリアクリルアミド変性ゲル上で、SDS−PAGEによって分離させた。ゲルを乾燥させて、次に、X線フィルム(Kodak)に曝した。これらの実施例では、TAT−IB(s)ペプチドは、活性化されたJNKによって、c−Junのリン酸化を効果的に妨げた。
【0307】
実施例7:本明細書において規定されたTAT−IB(s)ペプチドによる、c−JUNリン酸化のインビボ阻害
本明細書において規定された細胞透過性ペプチドが、JNKシグナル伝達をインビボで阻止するかどうかを判定するために、我々は、異種のGAL4システムを用いた。上述の通りに培養されたHeLa細胞を、5xGAL−LUCレポーターベクターと、GAL−Jun発現構造(Stratagene)とで同時にトランスフェクトした。
【0308】
GAL−Jun発現構造は、GAL4DNA−結合ドメインに結合されたc−Jun(アミノ酸1〜89)の活性化ドメインを含む。JNKの活性化を、すぐ上流のキナーゼMKK4およびMKK7を発現するベクターを同時トランスフェクション(Whitmarsh et al., Science 285: 1573 (1999)を参照)することによって、実現した。
【0309】
つまり、3x105細胞に、3.5−cmの皿内のプラスミドを、DOTAP(Boehringer Mannheim)を製造者の取扱説明に従って用いて、トランスフェクトした。GAL−Junを含む実験のために、20ngのプラスミドに、1μgのレポータープラスミドpFR−Luc(Stratagene)と、プラスミドを発現する0.5μgのMKK4またはMKK7とをトランスフェクトした。
【0310】
トランスフェクションの3時間後、細胞媒体を変化させて、TATおよびTAT−IB1(s)ペプチド(1μM)を添加した。16時間後に、蛋白質含有量に標準化した後のPromegaの「Dual Reporter System」を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0311】
TAT−IB1(s)ペプチドの添加により、c−Junの活性化が阻止され、それに続く、MKK4およびMKK7−媒介性のJNKの活性化が阻止された。HeLa細胞は、JNK1およびJNK2アイソフォームを発現するが、JNK3を発現しないため、我々は、細胞にJNK3をトランスフェクトした。ここでも、TAT−IB(s)ペプチドは、c−JunのJNK2−媒介性活性化を阻害した。
【0312】
実施例8:全ての−Dレトロ−インベルソIB(s)ペプチドおよびその改変体の合成
本発明のペプチドは、逆合成され、自然な蛋白質分解を妨げる全てのDアミノ酸ペプチド(すなわち全てのDレトロ−インベルソペプチド)であってよい。本発明の全ての−Dレトロ−インベルソペプチドは、ネイティブペプチドに似た機能的特性を有するペプチドを提供することになる。ここで、アミノ酸成分の側鎖は、ネイティブペプチドアラインメントに対応しているが、プロテアーゼ耐性の基幹を保持している。
【0313】
本発明のレトロ−インベルソペプチドは、D−アミノ酸を用いて合成された類縁物質である。この合成は、アミノ酸をペプチド鎖の中に付着させて、レトロ−インベルソペプチド類縁物質におけるアミノ酸の配列が、モデルとして機能する選択されたペプチドにおける配列と正確に逆となるようにすることによって行われる。
【0314】
例えば、(L−アミノ酸から構成された)自然発生的TAT蛋白質が、配列GRKKRRQRRR[配列番号5]を有しているならば、この(D−アミノ酸から構成された)ペプチドのレトロ−インベルソペプチド類縁物質は、配列RRRQRRKKRG[配列番号6]を有していることになる。
【0315】
D−アミノ酸の鎖を合成して、レトロ−インベルソペプチドを形成するための手順は、当該技術分野において知られている(例えば、Jameson et al., Nature, 368,744-746 (1994); Brady et al., Nature, 368,692-693 (1994); Guichard et al., J. Med. Chem. 39,2030-2039 (1996)を参照)。特に、配列番号2、4、6、8、11〜12、18、20、22、および、25〜26に記載のレトロ−ペプチドを、従来のFmoc合成法によって生成し、さらに質量分析法によって分析した。最終的に、これらをHPLCによって精製した。
【0316】
自然なプロテアーゼおよび固有の免疫原性による劣化が、ネイティブペプチド特有の問題であるため、本発明のヘテロ二価またはヘテロ多価化合物は、所望のペプチドの「レトロ−インベルソ異性体」を含むように調製される。従って、ペプチドを自然な蛋白質分解から保護することは、半減期を延長し、免疫応答の範囲を減少させ、ペプチドをアクティブに破壊するため、特異的ヘテロ二価またはヘテロ多価化合物の効果を増大させるはずである。
【0317】
実施例9:全てのDレトロ−インベルソIB(s)ペプチドおよびその改変体の長期生物活性
ペプチドへテロ結合体(上述のキメラ配列を参照)を含むD−TAT−IB(s)レトロ−インベルソの、ネイティブL−アミノ酸類縁物質よりも長期の生物活性が示されている。これは、D−TAT−IB(s)ペプチドが、実施例5に示されるように、ネイティブプロテアーゼによる劣化から保護されているからである。
【0318】
D−TAT−IB1(s)ペプチドによる、IL−1−誘発性の膵臓ベータ細胞の死の阻害を分析した。TC−3細胞を、上述の通りに、示されるペプチド(1μM)を単回添加して30分間培養した後、IL−1(10ng/ml)を添加した。
【0319】
その後、IL−1を有する培養の2日後に、アポトーシス細胞を、プロピジウムヨウ化物およびHoechst社の33342核染色剤を用いて計数した。各実験につき、最小1,000細胞を計数した。D−TAT−IB1ペプチドは、IL−1−誘発性のアポトーシスを、L−TAT−IBペプチドと同様の範囲まで減少させた。
【0320】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1P−誘発性の細胞死の長期阻害も分析した。TC−3細胞を、上述の通りに、示されるペプチド(1μM)を単回添加して30分間培養した後、IL−1(10ng/ml)を添加し、その後、2日毎にサイトカインを添加した。IL−1を有する培養の15日後に、アポトーシス細胞を、プロピジウムヨウ化物およびHoechst社の33342核染色剤を用いて計数した。
【0321】
TAT−IB1ペプチドの単回添加が、長期の保護を与えるものではないことに留意されたい。各実験につき、最小1,000細胞を計数した。結果的に、D−TAT−IB1(s)は、長期(15日間)の保護を提供することが可能であったが、L−TAT−IB1(s)は不可能であった。
【0322】
実施例10:本発明に従って用いられるL−TAT−IB1(s)ペプチドによるJNK転写因子の抑制
AP−1ダブル標識プローブ(5’−CGC TTG ATG AGT CAG CCG GAA−3’(配列番号101)を用いて、ゲルリターデイションアッセイを行った。5ng/mlのTNF−で1時間処理された、または処理されていないHeLa細胞の核が、示されているように、抽出された。
【0323】
本発明に従って用いられるTATおよびL−TAT−IB1(s)ペプチドを、TNF−アルファの前に、30分添加した。特異的AP−1 DNA複合体を有するゲルの一部だけが示されている(標識化されていない特異的および非特異的競合物質との競合実験によって示される)。
【0324】
本発明に従って用いられるL−TAT−IB1(s)ペプチドは、TNF−アルファの存在において、AP−1 DNA結合複合体の形成を減少させる。
【0325】
実施例11:オールインワンウェルアプローチを用いたHepG2細胞における内因性JNK活性の阻害
実験の前に、HepG2細胞を、1日当たり3’000細胞/ウェルで播種した。その後、濃度が増大されたインターロイキン−1[IL−1ベータ)]または腫瘍壊死因子[TNFアルファ)](a)を添加して、JNKを30分間活性化させた。細胞を、20mMのヘペス(Hepes)、0.5%のトゥイーン(Tween)(pH7.4)において溶解させ、アルファスクリーン(AlphaScreen)JNKを処理した。(b)10ng/mlのIL−1によって誘発され、384ウェル/プレート(n=96)においてJNK活性のために測定されたZ’。(c)化学的JNK阻害剤[staurosporinおよびSP600125]による内因性IL−1ベータ−誘発性JNK活性の阻害。(d)配列番号9に記載のペプチド性阻害剤L−TAT−IB1(s)[ここでは、L−JNKiと略されている)および配列番号11に記載のD−TAT−IB1(s)(ここではD−JNKiと略されている)およびJBD(L−JNKIに対応しているが、TAT配列を有さない)]の、IL−1に依存する、JNK活性に与える影響。全てのパネルは、3つの独立した実験(n=3)を示すものである。
【0326】
方法:アルファスクリーンキナーゼアッセイ
原理:アルファスクリーンとは、マイクロプレートフォーマットの生体分子相互作用を検査するために用いられる非−放射性ビーズ−ベースの技術である。頭文字ALPHAは、Amplified Luminescence Proximity Homogenous Assay(化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイ)を表す。
【0327】
これは、「供与体」ビーズおよび「受容体」ビーズを近接させ、その後、化学的反応のカスケードが、増幅された信号を生成するように機能する生物学的相互作用を含む。680nmにおけるレーザ励起によって、「供与体」ビーズ内の光線感作物質(フタロシアニン)が、周囲酸素を、励起一重項状態に変換する。
【0328】
その4μ秒の半減期内に、一重項酸素分子が、約200nm未満で溶液中に拡散することが可能であり、受容体ビーズがその近傍にある場合、一重項酸素は、「受容体」ビーズ内のチオキセン誘導体と反応して、370nmで化学発光を生成する。この化学発光は、さらに、同一の「受容体」ビーズ内に含まれる蛍光団を活性化する。励起した蛍光団は、次に、520〜620nmで発光する。受容体ビーズが存在しない場合、一重項酸素は、基底状態まで降下し、信号は生成されない。
【0329】
最初に、キナーゼ試薬(B−GST−cJun、抗P−cJun抗体およびアクティブJNK3)を、キナーゼ用のバッファー(20mMのトリス−HCl(pH7.6)、10mMのMgCl2、1mMのDTT、100μMのNa3VO4、0.01%のTween−20)において希釈して、ウェル(15μl)に添加した。その後、反応物を、10μMのATPの存在下で23℃において1時間培養した。
【0330】
検出用のバッファー(20mMのトリス−HCl(pH7.4)、20mMのNaCl、80mMのEDTA、0.3%のBSA)中で希釈された10μlのビーズ混合物(蛋白質A受容体20μg/mlおよびストレプトアビジン供与体20μg/ml)を添加することによって検出を行い、その後、暗がりにおいて、23℃でさらに1時間培養した。
【0331】
JNK内因性活性を測定するために、キナーゼアッセイを行った。このキナーゼアッセイは、上述のとおりに行ったが、アクティブなJNK3を、細胞溶解物と置き換え、細胞溶解後に、反応キナーゼ成分を添加した点が異なる。B−GST−cjunおよびP−cJun抗体は同じ濃度で用いたが、ATPは、10μMではなく、50μMにて用いられた。アルファスクリーン信号を、Fusion装置またはEnVision装置上で、直接分析した。
【0332】
実施例12:本発明に従って用いられるD−およびL−TAT−IB1(s)ペプチドの治療的活性の評価
a)試験システム
i)種/血統:マウス/BALB/c
ii)源:Harlan Israel社
iii)性:雌
iv)動物の総数:n=150
v)年齢:若い成人、検査開始時の年齢は7週間
vi)体重:治療開始時の動物の重量変動は、平均重量の±20%を超過しない。
【0333】
vii)動物の健康状態:本検査において用いた動物の健康状態は、到着次第検査した。良好な健康状態の動物だけを、実験室の環境に順応させ(少なくとも7日間)、検査で用いた。
【0334】
viii)無作為化:動物を、乱数表に従って、実験グループに無作為に割当てた。
【0335】
ix)終了:本検査の終了時に、生存している動物を、頸椎脱臼(cercical dislocation)によって、安楽死させた。
【0336】
b)試験グループの構成および投与量
以下の表は、検査をした実験のグループを列挙したものである。
【0337】
【表3】

【0338】
c)試験手順
50%のエタノール中に溶解されたTNBSを投与することによって、大腸炎を誘発させた。
【0339】
その後、全動物に、単回投与または反復投与の日用量として、投与量0.1〜1000μg/kgの範囲のXG−102を腹膜内または皮下投与して、これらの動物を処理した(上記を参照)。
【0340】
d)観察および検査
i)臨床的徴候
上述の実験の持続時間にわたって、注意深い臨床的実験を行い、記録した。観察には、例えば、皮膚の、毛の、目の、粘膜の外観変化、分泌物および排泄物(例えば下痢)の発生、並びに自律的活性を含む。歩行、姿勢、および処理への反応における変化、並びに、突飛な行動、震え、痙攣、睡眠状態、および昏睡状態の存在も、記録した。
【0341】
ii)体重
動物の個体の体重を毎日測定した。
【0342】
iii)大腸炎の臨床的評価
体重、便の粘度、および直腸ごとの出血を、全て、毎日記録し、疾患の重篤度数値のパラメータとした。
【0343】
【表4】

【0344】
iv)結腸の肉眼的病理検査
実験の最終日に、動物を安楽死させ、次の数値に従った肉眼的病理検査評価のために、結腸を取り除いた。
【0345】
【表5】

【0346】
e)結果
i)臨床的徴候
XG−102(配列番号11)による治療後の臨床的検査中には、異常は検出されなかった。
【0347】
ii)死亡率
死亡の記録無し。
【0348】
iii)体重
TNBSが、日1において、著しい体重減少を誘発した。XG−102(配列番号11)の投与は、体重減少を妨げるか、または症候を改善し、回復を支援した。
【0349】
iv)臨床的数値
TNBSを注入されたビヒクルで処理された動物は、検査1日目に、最大数値に達し、検査5日目またはその後にのみ完全に回復した。スルファサラジン治療を行った結果、臨床的数値が低減した。任意の投与量、投与経路、または上記で規定されたような投与回数スケジュール(単回投与または日用量)を用いて投与されたXG−102(配列番号11)は、結果的に、一般的に用いられる参照薬剤スルファサラジンの場合に観察されるものと同等またはこれよりも良好な効果を有していた。
【0350】
v)肉眼的病理検査数値
検査終了時の肉眼的分析により、TNBSを注入されたビヒクルで処理された動物が、結腸に沿って、浮腫および潰瘍を患っていたことが明らかになった。スルファサラジンは、肉眼的病理検査を完全に低減することにおいて有効であった。
【0351】
vi)結腸の長さ
結腸の長さに対する、疾患の誘発または治療の影響は、観察されなかった。
【0352】
vii)結腸の重量
結腸の重量に対する、疾患の誘発または治療の影響は、観察されなかった。
【0353】
f)結論
生存中のデータに限定される、上述の実験の状態下で得られた上述の検出事項に鑑み、SCまたはPOで投与された、配列番号11に記載の典型的な配列XG−102は、疾患の回復を強化することにおいて、アクティブであった。
【0354】
実施例13:好ましい各実施形態
以下に、本発明に係る幾つかの好ましい各実施形態を列挙する。
【0355】
1. 150個よりも短い長さのアミノ酸を含むJNK阻害剤配列の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【0356】
2. 実施形態1に係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、配列番号102、配列番号103、配列番号104、または配列番号105に記載の配列のいずれかによって規定された、またはコードされた、ヒトまたはラットIB1配列、または、その断片若しくは改変体に由来する、使用。
【0357】
3. 実施形態1または2に係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、5〜150個、より好ましくは10〜100個、さらにより好ましくは10〜75個、および最も好ましくは10〜50個のアミノ酸残基の範囲を含む、使用。
【0358】
4. 実施形態1〜3のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、c−junアミノ末端キナーゼ(JNK)に結合する、使用。
【0359】
5. 実施形態1〜4のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、上記JNK阻害剤配列が、JNKを発現する細胞内に存在するときに、JNKを標的とする、少なくとも1つの転写因子の活性化を阻害する、使用。
【0360】
6. 実施形態1〜5のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK標的転写因子は、c−Jun、ATF2、およびElklから構成される群から選択される、使用。
【0361】
7. 実施形態1〜6のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、ペプチドが、JNKを発現する細胞内に存在する時に、JNK効果を変更する、使用。
【0362】
8. 実施形態1〜7のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、またはこれらの組み合わせから構成されており、好ましくは、少なくとも1または2、好ましくは少なくとも3、4、または5、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9、およびさらにより好ましくは少なくとも10またはそれ以上の、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸を含み、上記D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸は、上記JNK阻害剤配列において、ブロック状、非ブロック状、またはこれらの形状が交互になった状態で配置されている、使用。
【0363】
9. 実施形態1〜8のいずれかに係るJNK阻害剤配列の使用であって、上記阻害剤配列は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の少なくとも1つのアミノ酸配列、または、上記アミノ酸配列の断片、誘導体、若しくは改変体を含むか、または、上記アミノ酸配列、または、上記アミノ酸配列の断片、誘導体、若しくは改変体から構成されている、使用。
【0364】
10. 共有結合によって連結された、少なくとも1つの第1のドメインおよび少なくとも1つの第2のドメインを含むキメラペプチドであって、上記第1のドメインは、トラフィッキング配列を含み、上記第2のドメインは、実施形態1〜9のいずれかにおいて規定されたJNK阻害剤配列を含む、キメラペプチドの、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための使用。
【0365】
11. 実施形態10に係るキメラペプチドの使用であって、上記キメラペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、またはこれらの組み合わせから構成され、好ましくは、少なくとも1または2、好ましくは少なくとも3、4または5、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9、およびさらにより好ましくは少なくとも10またはそれ以上の、D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸を含み、上記D−アミノ酸および/またはL−アミノ酸は、上記キメラペプチドにおいて、ブロック状、非ブロック状、またはこれらの形状が交互になった状態で配置されている、使用。
【0366】
12. 実施形態10または11に係るキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、ヒト免疫不全ウイルスTATポリペプチドのアミノ酸配列を含む、使用。
【0367】
13. 実施形態10〜12のいずれかに係るキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、配列番号5、6、7、8、21、または22のアミノ酸配列から構成されているか、またはこれを含む、使用。
【0368】
14. 実施形態10〜13のいずれかに係るキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、上記ペプチドの細胞への取り込みを増大させる、使用。
【0369】
15. 実施形態10〜14のいずれかに係るキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、上記ペプチドの核局在化を導く、使用。
【0370】
16. 実施形態10〜15のいずれかに係るキメラペプチドの使用であって、上記キメラペプチドは、配列番号9〜12および23〜32のいずれかに係るアミノ酸配列、または上記アミノ酸配列の断片、若しくは改変体から構成されているか、または、上記アミノ酸配列、または上記アミノ酸配列の断片、若しくは改変体を含む、使用。
【0371】
17. 実施形態1〜9のいずれかにおいて規定されたJNK阻害剤配列または実施形態10〜16のいずれかにおいて規定されたキメラペプチドをコードする、単離された核酸の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【0372】
18. 実施形態17において規定された核酸を含むベクターの、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【0373】
19. 実施形態18において規定されたベクターを含む細胞の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【0374】
20. 実施形態1〜9のいずれかに係るJNK阻害剤配列に免疫特異的に結合する抗体、または、実施形態10〜16のいずれかに係るキメラペプチドに免疫特異的に結合する抗体の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【0375】
21. 上述の実施形態のいずれかに係る使用であって、上記薬剤組成物は、非経口経路(静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、皮内経路、経皮経路を含む)、経腸経路(経口経路、直腸経路を含む)、局所経路(経鼻経路、鼻内経路を含む)、および、他の経路(表皮送達またはパッチ送達)から構成される群から選択された1つの投与経路によって投与される、使用。
【0376】
22. 上述の実施形態のいずれかに係る使用であって、上記非慢性または慢性の炎症性疾患は、食道、胃、十二指腸の第1の部分、第2の部分、および第3の部分、空腸、回腸、回盲部の複合体、大腸、の疾患、上行結腸、横行結腸、および下行結腸S状結腸、および直腸の疾患、慢性炎症性消化器疾患から選択された胃腸管の疾患であって、潰瘍性大腸炎、クローン病、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン形成大腸炎、潰瘍性大腸炎、および非定型大腸炎から選択される大腸炎を含む、結腸の炎症により特徴付けられる、使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150個よりも短い長さのアミノ酸を含むJNK阻害剤配列の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項2】
請求項1に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、5〜150個、より好ましくは10〜100個、さらにより好ましくは10〜75個、および最も好ましくは10〜50個のアミノ酸残基の範囲を含む、使用。
【請求項3】
請求項1または2に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、c−junアミノ末端キナーゼ(JNK)に結合する、使用。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、上記JNK阻害剤配列が、JNKを発現する細胞内に存在するときに、JNKを標的とする、少なくとも1つの転写因子の活性化を阻害する、使用。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNKを標的とする転写因子は、c−Jun、ATF2、およびElklからなる群から選択される、使用。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、JNKを発現する細胞内に存在するときに、JNK効果を変更する、使用。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または、上記L−アミノ酸と上記D−アミノ酸との組み合わせから構成されており、好ましくは、少なくとも1または2個、好ましくは少なくとも3、4、または5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9個、およびさらにより好ましくは少なくとも10個またはそれ以上の、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の少なくとも一方を含み、上記D−アミノ酸およびL−アミノ酸の少なくとも一方は、上記JNK阻害剤配列において、ブロック状、非ブロック状、または上記ブロック状と上記非ブロック状とが交互になった状態で、配置されている、使用。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用であって、上記JNK阻害剤配列は、配列番号102、配列番号103、配列番号104、または配列番号105に記載の配列のいずれかによって規定またはコードされた、ヒトまたはラットのIB1配列の断片、改変体、または、上記断片の改変体を含む、使用。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列の使用であって、上記阻害剤配列は、配列番号1〜4、13〜20、および33〜100に記載の少なくとも1つのアミノ酸配列、または、上記アミノ酸配列の断片、誘導体、若しくは改変体を含むか、またはこれから構成されている、使用。
【請求項10】
共有結合によって連結された、少なくとも1つの第1のドメインおよび少なくとも1つの第2のドメインを含むキメラペプチドであって、上記第1のドメインは、トラフィッキング配列を含み、上記第2のドメインは、請求項1〜9のいずれか1項において規定されたJNK阻害剤配列を含む、キメラペプチドの、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項11】
請求項10に記載のキメラペプチドの使用であって、上記キメラペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または、上記L−アミノ酸と上記D−アミノ酸との組み合わせから構成され、好ましくは、少なくとも1または2個、好ましくは少なくとも3、4または5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、または9個、およびさらにより好ましくは少なくとも10個またはそれ以上の、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の少なくとも一方を含み、上記D−アミノ酸およびL−アミノ酸の少なくとも一方は、上記キメラペプチドにおいて、ブロック状、非ブロック状、または上記ブロック状と上記非ブロック状とが交互になった状態で配置されている、使用。
【請求項12】
請求項10または11に記載のキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、ヒト免疫不全ウイルスTATポリペプチドのアミノ酸配列を含む、使用。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載のキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、配列番号5、6、7、8、21、または22のアミノ酸配列から構成されているか、または上記アミノ酸配列を含む、使用。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、上記ペプチドの細胞への取り込みを増大させる、使用。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載のキメラペプチドの使用であって、上記トラフィッキング配列は、上記ペプチドの核局在化を導く、使用。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか1項に記載のキメラペプチドの使用であって、上記キメラペプチドは、配列番号9〜12および配列番号23〜32のいずれかに記載のアミノ酸配列、または上記アミノ酸配列の断片、若しくは改変体から構成されているか、またはこれを含む、使用。
【請求項17】
請求項10〜15のいずれか1項に記載のキメラペプチドの使用であって、上記キメラペプチドは、配列番号9または配列番号11のアミノ酸配列から構成されるか、または上記アミノ酸配列を含む、使用。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか1項において規定されたJNK阻害剤配列、または請求項10〜17のいずれか1項において規定されたキメラペプチドをコードする、単離された核酸の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項19】
請求項18において規定された核酸を含むベクターの、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項20】
実施形態19において規定されたベクターを含む細胞の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項21】
実施形態1〜9のいずれか1項に記載のJNK阻害剤配列に免疫特異的に結合する抗体、または、実施形態10〜17のいずれか1項に記載のキメラペプチドに免疫特異的に結合する抗体の、被験体における慢性または非慢性の炎症性消化器疾患を治療するための薬剤組成物を調製するための、使用。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の使用であって、上記薬剤組成物は、非経口経路(静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、皮内経路、経皮経路を含む)、経腸経路(経口経路、直腸経路を含む)、局所経路(経鼻経路、鼻内経路を含む)、および、他の経路(表皮送達またはパッチ送達)から構成される群から選択された1つの投与経路によって投与される、使用。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の使用であって、上記非慢性または慢性の炎症性疾患は、食道、胃、十二指腸の第1の部分、第2の部分、および第3の部分、空腸、回腸、回盲部の複合体、上行結腸、横行結腸および下行結腸S状結腸および直腸の大腸、慢性炎症性消化器疾患から選択される胃腸管の疾患であって、潰瘍性大腸炎、クローン病、空置大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、激症大腸炎、化学的大腸炎、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン形成大腸炎、潰瘍性大腸炎、および非定型大腸炎から選択される大腸炎を含む、結腸の炎症によって特徴付けられる、使用。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用であって、上記JNK阻害剤配列および/または上記キメラペプチドの投与量(kg体重当たり)は、10mmol/kgまで、好ましくは1mmol/kgまで、より好ましくは100μmol/kgまで、さらにより好ましくは10μmol/kgまで、さらにより好ましくは1μmol/kgまで、さらにより好ましくは100nmol/kgまで、最も好ましくは50nmol/kgまでの範囲内である、使用。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか1項に記載の使用であって、上記JNK阻害剤配列および/または上記キメラペプチドの投与量は、約1pmol/kg〜約1mmol/kg、約10pmol/kg〜約0.1mmol/kg、約10pmol/kg〜約0.01mmol/kg、約50pmol/kg〜約1μmol/kg、約100pmol/kg〜約500nmol/kg、約200pmol/kg〜約300nmol/kg、約300pmol/kg〜約100nmol/kg、約500pmol/kg〜約50nmol/kg、約750pmol/kg〜約30nmol/kg、約250pmol/kg〜約5nmol/kg、約1nmol/kg〜約10nmol/kg、またはこれらの値のうちの任意の2つの値の組み合わせである、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【公表番号】特表2011−521919(P2011−521919A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510905(P2011−510905)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003936
【国際公開番号】WO2009/144038
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】