JNKシグナル伝達経路の細胞透過性ペプチド阻害剤
【課題】新規のJNK阻害剤ペプチド(「JNKIペプチド」)、ならびにそれが存在しているペプチドを所望の細胞位置に向けるために用いることができる輸送ペプチドと結合したJNKペプチド阻害剤などのキメラペプチドを提供すること。
【解決手段】新規のJNK阻害剤ペプチド(「JNKIペプチド」)、ならびにそれが存在しているペプチドを所望の細胞位置に向けるために用いることができる輸送ペプチドと結合したJNKペプチド阻害剤などのキメラペプチド。
【解決手段】新規のJNK阻害剤ペプチド(「JNKIペプチド」)、ならびにそれが存在しているペプチドを所望の細胞位置に向けるために用いることができる輸送ペプチドと結合したJNKペプチド阻害剤などのキメラペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、蛋白キナーゼ阻害剤に関し、より具体的には、蛋白キナーゼc−Junアミノ末端キナーゼの阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)は、マイトジェン活性化蛋白(MAP)キナーゼ類のストレス活性化群の一員である。これらのキナーゼは、細胞増殖および分化の制御に、またより一般的には、環境刺激に対する細胞応答と関係付けられている。JNKシグナル伝達経路は、環境ストレスに応答して、また細胞表面受容体の幾つかのクラスとの関係によって活性化される。これらの受容体としては、サイトカイン受容体、蛇紋受容体、および受容体チロシンキナーゼ類を挙げることができる。哺乳動物細胞において、JNKは、癌化などの生物過程に、また、環境ストレスに対する適応反応媒介に関係付けられている。また、JNKは、免疫細胞の成熟および分化などの免疫応答の変調、および免疫系によって破壊されることが確認されている細胞におけるプログラム化された細胞死をもたらすことに関連してきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明はJNK蛋白質の効果的な阻害剤であるペプチドの発見に一部基づいている。本明細書においてJNKペプチド阻害剤と称されるペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の下流細胞増殖作用を減少させる。
【0004】
したがって、本発明は、新規のJNK阻害剤ペプチド(「JNKIペプチド」)、ならびにそれが存在しているペプチドを所望の細胞位置に向けるために用いることができる輸送ペプチドと結合したJNKペプチド阻害剤などのキメラペプチドを含む。輸送配列は、原形質膜を通過するペプチド輸送を指示するために用いることができる。替わりに、またはそれに加えて輸送ペプチドは、核などの所望の細胞内配置にペプチドを方向づけるために用いることができる。
【0005】
JNK阻害剤ペプチドは、L−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。あるいは、前記ペプチドは、D−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。
【0006】
JNK結合ペプチドならびにJNK結合ペプチドを特異的に認識する抗体を含む製薬組成物もまた本発明に含まれる。
【0007】
本発明はまた、細胞におけるJNKキナーゼの発現を阻害する方法も含む。
【0008】
他の態様において、本発明は、細胞におけるJNKの活性化に関連した病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。キメラペプチドを診断、予防または治療目的に用いるべき個人にキメラペプチドを投与することにより送達はインビボで実施できる。標的細胞は、インビボ細胞、すなわち生きている動物、またはヒトの器官または組織を構成している細胞、または生きている動物、またはヒトに見られる微生物であり得る。
【0009】
本発明はさらに、被験体における聴力低下の予防または治療の方法を提供する。前記方法は、有毛細胞不動毛への損傷、有毛細胞アポトーシスまたはニューロンアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含む。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えばJNK阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、または16であることが好ましい。
【0010】
聴力低下は、騒音外傷によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が騒音外傷に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が騒音外傷に曝露された後に投与される。騒音外傷は、例えば、少なくとも90dB SPLであり得る。あるいは、聴力低下は抗生物質治療によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が抗生物質に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が抗生物質に曝露された後に投与される。前記抗生物質は、例えばアミノグリコシドである。
【0011】
聴力低下は、化学療法剤によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が化学療法剤に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が化学療法剤に曝露された後に投与される。
【0012】
本発明は、被験体におけるニューロン死または脳の損傷を予防または治療する方法をさらに提供する。この方法は、ニューロンに対する損傷またはニューロンのアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含む。細胞透過性生物活性ペプチド、例えば、JNK阻害剤(「JNKI」)ペプチドである。前記細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。
【0013】
ニューロン死または脳の損傷は、大脳虚血によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が虚血事象を経験する前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が虚血事象を経験した後に投与される。虚血事象は、例えば、慢性または急性である。
【0014】
ニューロン死または脳の損傷は、他の興奮毒性機構によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が興奮毒性機構を経験する前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が興奮毒性機構を経験した後に投与される。興奮毒性機構は、例えば、低酸素性/虚血性脳損傷、外傷性脳損傷、てんかん性発作から生じるニューロン死およびアルツハイマーなどの幾つかの神経変性疾患であり得る。
【0015】
本発明はまた、膵臓の小島細胞を膵臓細胞死が抑制されるように細胞透過性生物活性ペプチドと接触させることを含む、膵臓の小島細胞死を抑制する方法も考慮している。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えば、JNK−阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。前記方法は、前記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含み得る。
【0016】
また、本発明は、膵臓細胞死が抑制されるように細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することにより、被験体における膵臓の小島細胞死を抑制する方法を考慮している。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えばJNK阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。前記方法は、前記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含み得る。一実施形態において、前記細胞透過性生物活性ペプチドは、被験体が炎症誘発性サイトカインに曝露される前に投与される。他の実施形態において、前記細胞透過性生物活性ペプチドは、被験体が炎症誘発性サイトカインに曝露された後に投与される。
【0017】
幾つかの態様において、本発明のペプチドの投与は、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達から選択されるいずれか1つの投与経路によってなされ得る。
【0018】
本発明によって提供される利点の中でも、JNK阻害剤ペプチドが小型であり、大量に、また高純度で容易に生産できるという利点がある。前記阻害剤ペプチドはまた、細胞内分解に抵抗性であり、免疫原生も弱い。したがって、前記ペプチドは、JNK発現の阻害が望まれているインビトロおよびインビボの適用に十分に好適である。
【0019】
他に定義しない限り、本明細書に用いられる専門用語および科学用語は、本発明が属する通常の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様な、または同等な方法および材料を、本発明の実践または試験に用いることができるが、下記に好適な方法および材料を記載する。本明細書に言及した全ての刊行物、特許出願、特許およに他の参考文献は、それらの全体を参考として援用している。矛盾する場合、定義を含む本明細書が制御する。なお、材料、方法および実施例は、例示的のみであって、限定する意図はない。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求項から明らかとなる。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1)
ニューロン細胞の損傷を確認する前に、配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物を、被験体に投与することを含んでなる、被験体におけるニューロン細胞の損傷を防ぐ方法。
・(項目2)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目1に記載の方法。
・(項目3)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目1に記載の方法。
・(項目4)
上記被験体が、異常な細胞損傷を特徴とする病態を発症する危険にある項目1に記載の方法。
・(項目5)
上記異常な細胞損傷が、興奮毒性細胞死である項目4に記載の方法。
・(項目6)
上記異常な細胞損傷が、アポトーシス細胞死である項目4に記載の方法。
・(項目7)
上記被験体が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、ヒト免疫不全ウィルス痴呆または自己免疫疾患を発現させる危険にある項目1に記載の方法。
・(項目8)
上記発作が、虚血性発作である項目7に記載の方法。
・(項目9)
発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、ヒト免疫不全ウィルス痴呆または自己免疫疾患を含む虚血または再灌流傷害の症状を確認する前に、被験体に投与することを含んでなる、被験体における虚血性または再灌流関連傷害を防ぐ方法。
・(項目10)
配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを、ニューロン障害を患って、またはニューロン障害発現の危険にある哺乳動物に投与することを含んでなる、上記哺乳動物におけるニューロン細胞死を防ぐ方法。
・(項目11)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目10に記載の方法。
・(項目12)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目10に記載の方法。
・(項目13)
上記ニューロン障害が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、およびヒト免疫不全ウィルス痴呆よりなる群から選択される項目10に記載の方法。
・(項目14)
配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物を、哺乳動物に投与することを含んでなるニューロン障害を治療する方法。
・(項目15)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目14に記載の方法。
・(項目16)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目14に記載の方法。
・(項目17)
上記ニューロン障害が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、およびヒト免疫不全ウィルス痴呆よりなる群から選択される項目14に記載の方法。
・(項目18)
ニューロン細胞を、配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物に接触させることを含んでなる、ニューロン細胞死を防ぐ方法。
・(項目19)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目18に記載の方法。
・(項目20)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目18に記載の方法。
・(項目21)
上記細胞が、興奮毒性細胞死である項目18に記載の方法。
・(項目22)
上記細胞が、アポトーシス細胞死である項目18に記載の方法。
・(項目23)
有毛不動毛、有毛アポトーシス、またはニューロンアポトーシスに対する損傷を防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含んでなる、被験体における聴力低下を予防または治療する方法。
・(項目24)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目23に記載の方法。
・(項目25)
上記被験体は、騒音障害に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目26)
上記被験体は、騒音障害に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目27)
上記被験体は、騒音障害に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目28)
上記騒音傷害が、少なくとも90dB SPLの騒音である項目27に記載の方法。
・(項目29)
上記被験体が、抗生物質に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目30)
上記被験体が、抗生物質に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目31)
上記被験体が、抗生物質に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目32)
上記抗生物質が、アミノグリコシドである項目30に記載の方法。
・(項目33)
上記被験体は、化学療法剤に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目34)
上記被験体は、化学療法剤に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目35)
上記被験体は、化学療法剤に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目36)
細胞透過性生物活性ペプチドに細胞を接触させて、膵臓細胞死を防ぐことを含んでなる膵臓小島細胞死を防ぐ方法。
・(項目37)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目36に記載の方法。
・(項目38)
上記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含んでなる項目36に記載の方法。
・(項目39)
細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与して膵臓細胞死を防ぐことを含んでなる、被験体における膵臓小島細胞死を防ぐ方法。
・(項目40)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目39に記載の方法。
・(項目41)
コラゲナーゼを投与することをさらに含んでなる項目39に記載の方法。
・(項目42)
上記被験体が、炎症誘発性サイトカインに曝露される前に上記ペプチドが投与される項目39に記載の方法。
・(項目43)
上記被験体が、炎症誘発性サイトカインに曝露された後に上記ペプチドが投与される項目39に記載の方法。
・(項目44)
上記投与が、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達よりなる群から選択されるいずれか1つの投与経路により送達される項目23に記載の方法。
・(項目45)
上記投与が、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達よりなる群から選択されるいずれか1つの投与経路により送達される項目39に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1A〜Cは、示された転写因子におけるJBDの保存ドメイン領域の配列を示す図である。
【図2】図2は、包括的なTAT−IB融合ペプチドの配列を示す図である。
【図3】図3は、完全な280個のアミノ酸のJBDドメインに比して、IB1の最少23個のアミノ酸長JBDドメインによるβ細胞死の抑制を示すヒストグラムである。
【図4a】図4は、組み換えJNK類のリン酸化に及ぼすTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの効果を示す図である。パネルAは、インビトロの組み換えJNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化の阻害を示している。パネルBは、パネルAと同様な用量応答実験を示している。
【図4b】図4は、組み換えJNK類のリン酸化に及ぼすTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの効果を示す図である。パネルBは、パネルAと同様な用量応答実験を示している。
【図5】図5は、組み換えJNK類によるリン酸化のL−TAT−IB阻害を示すヒストグラムである。パネルAは、MKK4の存在下、インビトロの組み換えJNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化の阻害のL−TAT−IB阻害を示している。パネルBは、MKK7による同様な用量応答実験を示している。
【図6】図6は、活性化TNK類によるc−Junリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、L−TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期抑制を示すヒストグラムである。
【図8】図8は、D−TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期抑制を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の長期抑制を示すヒストグラムである。
【図10】図10は、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類による照射誘導ヒト大腸癌WiDr細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図11】図11は、L−TAT、TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類によるJNKキナーゼ活性の変調を示す図である。
【図12】図12は、マウスにおけるTAT−IB1ペプチド類の予防効果を示すグラフである。パネルAは、体重に及ぼす照射の効果を示している。パネルBは、浮腫状態および発疹状態に及ぼす照射の効果を示している。
【図13】図13は、騒音誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。パネルAは、実験の概略図、パネルBは、聴力低下のグラフ、パネルCとDは反対側の耳(対照)およびD−JNK1を注入した耳、各々の組織学的実験を示している。
【図14a】図14aは、抗生物質誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。
【図14b】図14bは、抗生物質誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。
【図15】図15は、単離操作時、D−JNK1処理に供された膵臓小島の回復増加を示す棒グラフである。
【図16】図16Aは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Aは、キナーゼアッセイにおけるJNKの活性化および作用に及ぼす組み換えJNKIα1ならびにGST−JunおよびGST−Elk1基質、各々によるL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を示す。図16Bは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Bは、図16Aと同様な条件を用い、L−JBD20を増量させた用量応答実験におけるJIP−IB1(JBD20のL体)の20個のアミノ酸最少JNK阻害配列の阻害効果を示す。図16Cは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Cは、種々の組み換えキナーゼ類によるキナーゼアッセイを用いてJNK活性化防止における本発明のJNKIペプチド類の特異性を示す。
【図17】図17Aは、未処理ニューロン(0)における、また、100μMのNMDAに10分間(10’)または30分間(30’)曝露したニューロンにおけるJNKのN−メチル−D−アスパラギン酸エステル(「NMDA」)誘導活性化を示す図である。図17Bは、NMDAに対する曝露後、c−Junリン酸化のレベルおよびJNK量に及ぼす本発明のJNKペプチド類の効果を示す図である。図17Bにおいて、核抽出物(Nuc1)中には、細胞質抽出物(Cyt)中の4倍の蛋白質が入っていた。なお、使用された略号は、C:対照;N:NMDA;L:L−JNI1+NMDA;D:D−JNI1+NMDAである。図17Cは、抽出RNAを用いたリアルタイムPCRによるc−fos発現の定量化を示すヒストグラムである。図17Cは、アクチンに相対的なc−fos発現を示している。
【図18】図18は、L−JNKI1、D−JNKI1および2つの対照ペプチドの、TAT−空き(JBD20なしのTAT配列のみ)およびL−JNKI−変異体(6個のアミノ酸がアラニンに変異した)によるNMDA神経毒性および神経保護の経路を示す図とヒストグラムである。図18A〜18Eは、NMDA処理後24時間目のヘキスト染色ニューロンを示す一連の顕微鏡写真である。図18Fは、LDH活性として示されたNMDA曝露(100μM NMDA)後12時間目、24時間目、48時間目におけるニューロン死を示すヒストグラムである。
【図19】図19は、マウスにおける一時的虚血を示す図とヒストグラムである。図19Aは、閉鎖1時間前、被験体にD−JNKI1(2μLリン酸緩衝溶液(PBS)中、15.7ng)の大脳内−脳室(icv)注入を行った前処理の梗塞容積に及ぼす効果を示している。図19Bは、閉鎖1時間前、または閉鎖3時間後、6時間後および12時間後、被験者にD−JNKI1のicv注入を行った場合の梗塞容積に及ぼす効果を示している。
【図20】図20は、閉鎖後24時間、灌流を行った幼若ラット(P14)における永続的病巣虚血に対するD−JNKI1による予防を示す図とヒストグラムである。図20Aは、対照ラット(左パネル)および閉鎖6時間後、D−JNKI1によって処理されたラット(右パネル)の病巣例を示す一連の図である。図20Bは、閉鎖0.5時間前または閉鎖6時間後、または12時間後にD−JNKI1の腹腔内(i.p.)注入を行った後、半球容積の%として表された梗塞容積を示すヒストグラムである。図20Cは、梗塞周囲皮質の多数のニューロンにおいてc−Junがリン酸化された、P−c−Junに対する免疫組織化学の結果を示す一連の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は、活性化c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)シグナル伝達経路を阻害する細胞透過性ペプチド類の発見に一部基づいている。これらのペプチド類は、本明細書においてJNK阻害剤ペプチドと称される。さらに本発明は、JNKシグナル伝達に関連する病態生理学を処置するための方法および製薬組成物を提供する。
・JNK阻害剤ペプチド類は、種々のインスリン結合(IB)蛋白質におけるKJNK結合ドメイン間の配列を調べることによって確認された。この配列の結果は、図1A〜1Cに示されている。図1Aは、IB1、IB2、c−JunおよびATF2の間の最も高い相同性領域を示している。パネルBは、IB1およびIB2のJBD類のアミノ酸配列を示している。GFP−JBD23Mutベクターにおいて、完全に保持された残基は、星印で示され、一方、アラニンに変化した残基は白丸で示されている。図1Cは、JNK阻害剤ペプチドドメインおよび輸送ドメインを含むキメラ蛋白質のアミノ酸配列を示している。示された例において輸送ドメインは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)TATポリペプチドに由来し、JNK阻害剤ペプチドは、IB1ポリペプチドに由来する、パネルBおよびパネルCにおいて、ヒト、マウス、およびラットの配列は同一である。
【0023】
IB1[配列番号:17]、IB2[配列番号:18]、c−Jun[配列番号:19]およびATF2[配列番号:20]のJNK結合ドメイン間の配列比較により、部分的に保持されたアミノ酸8個の配列が明らかにされた(図1A)。IB1およびIB2のJBD類の比較により、2つの配列間で保持性の高いアミノ酸7個およびアミノ酸3個の2つのブロックがさらに明らかにされた。これらの2つのブロックは、IB1[配列番号:1]におけるアミノ酸23個およびIB2[配列番号:2]におけるアミノ酸21個のペプチド配列の中に含まれている。JIP−IB1(JBD20(配列番号:21)のL体)のアミノ酸20個の最少JNK阻害配列が図1Cに示されている。
【0024】
本発明のJNK阻害剤ペプチド類は、JNK活性阻害が望まれるいずれの状況においても用いることができる。これは、インビトロ適用、エクスビボおよびインビボ適用を含み得る。JNK類およびその全てのイソ体は病理学的状態の発現および確立、または経路に関係しているため、このような病理学的状態発生を予防または阻害するためにJNKペプチド類を用いることができる。これは、疾病の予防および治療ならびに治療行為に二次的な病態の予防および治療を含む。例えば、本発明のペプチド類は、例えば糖尿病、イオン化照射、免疫応答(自己免疫疾患を含めて)、虚血/再灌流損傷、心臓および心血管肥厚および幾つかの癌(例えば、Bcr−Abl形質転換)の治療または予防に用いることができる。
【0025】
前記ペプチド類はまた、活性JNKポリペプチドの存在下でその発現が増加する遺伝子発現を阻害するために用いることができる。これらの遺伝子および遺伝子産物としては、例えば、炎症誘発性サイトカイン類が挙げられる。このようなサイトカイン類は、炎症性、自己炎症性、免疫および自己免疫疾患、変性疾患、ミオパシー、心ミオパシーおよび移植片拒絶の全ての形態に見られる。
【0026】
本明細書に記載されたJNK阻害剤ペプチド類はまた、心臓肥大および動脈硬化傷害などの動脈高血圧により誘発された、また、血管二分枝などにおける病理学的状態;放射線療法およびUV光線で用いられるイオン化照射;フリーラジカル;化学療法剤などのDNA損傷薬剤;発癌性形質転換;ニューロンおよび膵臓の細胞損傷、聴力低下、虚血および再灌流;低酸素;および低体温および高体温などにおける細胞剪断ストレスに関連した効果の治療または予防にも用いることができる。
【0027】
本発明により提供されるポリヌクレオチド類は、対応するペプチドが優先的に発現する(構成的に、または組織分化または発生の特別な段階で、もしくは疾病状態において)組織のマーカーとして、分析、特性化または治療的使用のための組み換えペプチドを発現させるために用いることができる。核酸に関する他の利用法としては、例えば、核酸のゲル電気泳動法に基づいた分析における分子量マーカーが挙げられる。
【0028】
本明細書に開示されているJNK阻害剤ペプチド類は、表1に示されている。この表は、JNK阻害剤ペプチドの名称、ならびにその配列同定番号、長さおよびアミノ酸配列を示している。
【0029】
【表1】
(JNK阻害剤ペプチド)
一態様において、本発明はJNK阻害剤ペプチドを提供する。用語の「ペプチド」は特定の長さを意味しない。幾つかの実施形態において、JNK阻害剤ペプチドは、長さがアミノ酸280個未満、例えば長さがアミノ酸150個以下、100個以下、75個以下、50個以下、35個以下、または25個以下である。種々の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドは、配列番号:1〜6および21〜22の1つ以上のアミノ酸配列を含む。一実施形態において、JNK阻害剤ペプチドペプチド類はJNKに結合する。他の実施形態において、前記ペプチドは、少なくとも1つのJNK活性化転写因子、例えば、c−Jun、ATF2またはElk1の活性化を阻害する。
【0030】
JNK阻害剤ペプチドの例として、配列NH2−DTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT−COOH[配列番号:1]を含む(全体をまたは部分的に)ペプチドが挙げられる。他の実施形態において、前記ペプチドは、配列NH2−EEPHKHRPTTLRLTTLGAQDS−COOH[配列番号:2]を含む。あるいは、JNK阻害剤ペプチドの例として、配列、配列NH2−RPKRPTTLNL FPQVPRSQDT−COOH[配列番号:21]を含む(全体をまたは部分的に)ペプチドが挙げられる。
【0031】
JNK阻害剤ペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸または双方の組合わせのポリマーであり得る。例えば、種々の実施形態において、前記ペプチド類は、D−レトロ・インベルソペプチド類である。用語の「レトロ・インベルソ異性体」とは、配列方向が逆の線状ペプチドの異性体を言い、用語の「D−レトロ・インベルソ異性体」とは、配列方向が逆であり、各アミノ酸残基のキラリティーが逆の線状ペプチド異性体を言う。例えば、Jamesonら、Nature、368、p.744−746(1994);Bradyら、Nature、368、p.692−693(1994)を参照されたい。D−鏡像異性体と逆転合成を組合わせた最終結果として、各アミド結合におけるカルボニル基とアミノ基の位置が変換されるが、各アルファ炭素における側鎖基の位置は保持される。他に特に言及しない限り、本発明のいずれの所与のL−アミノ酸配列も、対応する天然L−アミノ酸配列に関する配列の逆転体を合成することによりD−レトロ・インベルソペプチドにすることができる。
【0032】
例えば、D−レトロ・インベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTD−COOH[配列番号:3]または配列NH2−SDQAGLTTLRLTTPRHKHPEE−COOH[配列番号:4]を有する。あるいは、D−レトロ・インベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPF LNLTTPRKPR−COOH[配列番号:22]を含む。予想外なことに、D−レトロ・インベルソペプチドは、種々の有用なペプチドを有することが判明した。例えば、D−TAT、D−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類は、L−TAT、L−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類と同様に、効率よく細胞に入り、またD−TAT、D−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類は、対応するL−ペプチド類よりも安定である。さらに、D−TAT−IB1は、JNKの阻害において、L−TAT−IBおよびL−TAT−JNKIよりも約10〜20倍効率が低いが、それらはインビボで約50倍安定である。さらに、D−レトロ・インベルソペプチド類は、プロテアーゼ耐性である。最後に、下記でさらに検討されているように、D−TAT−IBおよびD−TAT−JNKIペプチド類は、インターロイキン−1で処理された細胞およびイオン化照射された細胞をアポトーシスから保護し、TAT配列を神経系におけるペプチド処理に関与するニューロンプロテアーゼに極めて鋭敏にする6対のアミノ酸をTAT配列が含有するため、これらのペプチド類は、ニューロンの治療に有用である。例えば、各々が参照としてその全体が本明細書に組み込まれているSteinerら、J.Biol.Chem.267:p.23435−23438(1992);Brugidouら、Biochem.&Biophys.Res.Comm.214:p.685−693(1995)を参照されたい。
【0033】
本発明によるJNK阻害剤ペプチドは、配列NH2−Xn−RPTTLXLXXXXXXXQDS/T−Xn−COOH[配列番号:5,および図2に示されるようにL−TAT−IB、配列番号:13の残基17〜42]を含む。本明細書に用いられるXnは、長さがゼロ残基であり得るか、または配列番号:1および21由来の切れ目のない連なりであり得、好ましくは長さがアミノ酸1個と7個の間の連なりであり、または長さがアミノ酸10個、20個、30個またはそれ以上であり得る。S/Tで表示された単一残基は、総配列におけるSerまたはThrであり得る。さらなる実施形態において、本発明のJNK阻害剤ペプチドは、配列NH2−Xn−S/TDQXXXXXXXLXLTTPR−Xn−COOH[配列番号:6],および図2に示されるようにL−TAT−IB、配列番号:16の残基17〜42]を有するD−レトロ・インベルソペプチドあり得る。
【0034】
JNK阻害剤ペプチドは、当該分野でよく知られた方法、例えば、下記で検討される化学合成、遺伝子工学的な方法によって得られるか、または製造される。例えば、所望の領域またはドメインを含むか、またはインビトロで所望の活性を媒介するJNK阻害剤ペプチドの一部に相当するペプチドを、ペプチド合成機によって合成できる。
【0035】
ペプチドの疎水性領域および親水性領域を同定し、したがって、結合実験、抗体合成などの実験的操作のための基質のデザインを補助するために利用し得る親水性分析(例えば、HoppおよびWoods、1981年、Proc Natl Acad Sci米国78:p.3824−3828を参照)によって候補となるJNK阻害剤ペプチドが分析される。また、特定の構造的モチーフを推定する二次的構造分析が、JNK阻害剤ペプチドの領域を同定するために実施できる。例えば、ChouおよびFasman、1974年、Biochem 13:p.222〜223参照されたい。当該分野で利用できるコンピュータソフトウェアプログラムを用いて操作、翻訳、二次構造の予測、親水性プロフィルおよび疎水性プロフィル、オープンリーディングフレームの予測およびプロッティングおよび配列相同性の決定が達成できる。例えば、X線結晶学(例えば、Engstrom、1974年、Biochem Exp Biol 11:p.7−13を参照);質量分析およびガスクロマトグラフィ(例えば、METHODS IN PROTEIN SCIENCE、1997年、J.Wiley and Sons、ニューヨーク州ニューヨークを参照)およびコンピュータモデリング(例えば、FletterrickおよびZoller編集、1986年、Computer Graphics and Molecular Modeling、In:CURRENT COMMUNICATIONS IN MOLECULAR BIOLOGY、Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州コールドスプリングハーバーを参照)などの他の構造分析法もまた使用し得る。
【0036】
さらに本発明は、L体アミノ酸、例えば表1に示されたL−ペプチド類ならびにこれらの配列の相補体を有するJNK阻害剤ペプチドをコードする核酸に関する。JNK阻害剤ペプチドをコードする好適な核酸源としては、それぞれジーンバンク受入れ番号AF074091およびAAD20443として入手できるヒトIB1核酸(およびそのコード化蛋白質配列)が挙げられる。他の供給源としては、ラットIB1核酸が挙げられ、蛋白質配列は、それぞれジーンバンク受入れ番号AF108959およびAAD22543に示されており、本明細書にその全体が参照として組み込まれている。ヒトIB2核酸および蛋白質配列は、ジーンバンク受入れ番号AF218778に示されており、また、本明細書にその全体が参照として組み込まれている。
【0037】
JNK阻害剤ペプチドをコードする核酸は、当該分野で公知のいずれの方法(例えば、前記配列の3’末端および5’未満にハイブリダイゼーションできる合成プライマーを用いたPCR増幅および/または所与の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチド配列を用いたcDNAまたはゲノムライブラリーからのクローニングによって)によっても得ることができる。
【0038】
1つ以上のJNK阻害剤ペプチドの組み換え発現のためには、前記ペプチドをコードする核酸配列の全てまたは一部を含有する核酸を適切な発現ベクター(すなわち、挿入されたペプチドをコードする配列の転写および翻訳のために必要な要素を含有するベクター)内へ挿入できる。幾つかの実施形態において、調節要素は、非相同である(すなわち、生来の遺伝子プロモーターではない)。あるいは、また、必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルが、遺伝子および/またはそれらのフランキング領域に関する生来のプロモーターによって供給され得る。
【0039】
ペプチドをコードする配列(単数または複数)を発現させるために、種々の宿主−ベクター系が利用できる。これらには、限定はしないが:(i)ワクシニアウィルス、アデノウィルスなどに感染している哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウィルスなどに感染している昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含有する酵母、または(iv)バクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNAによって形質転換した細菌が挙げられる。利用される宿主−ベクター系に依って、多数の転写要素および翻訳要素のうちのいずれか1つが使用できる。
【0040】
発現ベクター内のプロモーター/エンハンサー配列には、本発明で提供される植物、動物、昆虫または真菌の調節配列が利用できる。例えばプロモーター/エンハンサー要素は、酵母および他の真菌(例えば、GAL4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)から使用できる。代替としてまたは、それに加えて、それらには、動物転写制御領域、例えば、(i)膵臓のβ−細胞内で活性なインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahanら、1985年、Nature315:p.115−122を参照);(ii)リンパ球内で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedlら、1984年、Cell38:p.647−658を参照);(iii)肝臓内で活性なアルブミン(例えば、Pinckertら、1987年、Genes and Dev 1:p.268−276を参照);(iv)脳の乏突起膠細胞内で活性なミエリン塩基性蛋白質遺伝子制御領域;および(v)視床下部内で活性なゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Masonら、1986年、Science234:p.1372−1378を参照)などが挙げられる。
【0041】
発現ベクターまたはそれらの誘導体としては、例えばヒトウィルスまたは動物ウィルス(例えば、ワクシニアウィルスまたはアデノウィルス);昆虫ウィルス(例えば、バキュロウィルス);酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、ラムダファージ);プラスミドベクターおよびコスミドベクターが挙げられる。
【0042】
所望の特定の様式で目的の被験体の挿入配列の発現を変調させるか、または前記配列によってコードされる発現ペプチドを修飾、または処理する宿主細胞が選択できる。また、選択された宿主系において、ある一定の誘発物質の存在下で、ある一定のプロモーターの発現を増強でき、したがって、遺伝子工学ペプチドの発現制御を助けることができる。さらに、種々の宿主細胞が発現ペプチドの翻訳処理および翻訳後処理ならびに修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化など)に関する特徴および特定の機構を有している。したがって、外来ペプチドの所望の修飾および処理の達成を確実にするために、適切な細胞系または宿主系が選択できる。例えば、非グリコシル化コアペプチドを製造するために、細菌系内におけるペプチド発現が使用でき、一方、哺乳動物細胞内における発現によって、非相同ペプチドの「生来の」グリコシル化が確実になる。
【0043】
また、本発明には、JNK阻害剤ペプチドの誘導体、断片、相同体、アナログおよび変異体ならびにこれらのペプチドをコードする核酸が含まれる。本明細書に提供される核酸、誘導体、断片およびアナログは、少なくとも6つの(連続的な)核酸の配列であり、また、特異的なハイブリダイゼーションを可能にするのに十分な長さを有する配列として規定される。本明細書に提供される核酸、誘導体、断片およびアナログは、少なくとも4つの(連続的な)アミノ酸であり、エピトープの特異的な認識を可能にするのに十分な長さの配列として規定される。
【0044】
前記断片の長さは、JNK阻害剤ペプチドまたは同一物をコードする核酸が誘導される、対応する完全長核酸またはポリペプチドの長さ未満である。前記誘導体またはアナログが修飾された核酸またはアミノ酸を含有する場合、その誘導体またはアナログは、完全長であっても、完全長以外であってもよい。JNK阻害剤ペプチドの誘導体またはアナログとしては、例えば、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列上で、または当該分野に公知のコンピュータ相同性プログラムにより整列がなされた整列配列と比較した場合、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%またはさらに99%の同一性で前記ペプチドと実質的に相同である領域を含む分子が挙げられる。例えば、その中に省略時パラメータを使用した配列分析ソフトウェア(Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、53705ウィスコンシン州マジソン、大学大通り1710)を用いて配列同一性を測定できる。
【0045】
参照配列に対して同一性が100%未満であるポリペプチド配列の場合、非同一性の位置は、参照配列の保存的置換であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。保存的置換としては、典型的に、以下の基:グリシンとアラニン;バリン、イソロイシンとロイシン;アスパラギン酸とグルタミン酸;アスパラギンとグルタミン;セリンとトレオニン;リジンとアルギニン;およびフェニルアラニンとチロシン内の置換が挙げられる。したがって、本発明には、対応する親配列と、例えば配列において、機能において、および抗原性または他の機能において、相同性を残存させているような変異配列を有するペプチドが含まれる。このような変異は、例えば、保存的アミノ酸変化、例えば概して同様な分子の性質を有するアミノ酸との間の変化を伴う変異であり得る。例えば、脂肪族基、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン内の交換は、保存的の考えることができる。時には、これらのうちの1つとグリシンとの置換は、保存的と考えることができる。他の保存的交換としては、脂肪族基のアスパラギン酸塩とグルタミン酸塩内;アミド基のアスパラギンとグルタミン内;ヒドロキシル基のセリンとトレオニン内;芳香族基のフェニルアラニン、チロシンとトリプトファン内;塩基性基のリジン、アルギニンとヒスチジン内;および硫黄含有基のメチオニンとシステイン内での交換が挙げられる。時には、メチオニン基とロイシン基内の置換も保存的と考えることができる。好ましい保存的置換基は、アスパラギン酸塩−グルタミン酸塩;アスパラギン−グルタミン、バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン;およびリジン−アルギニンである。
【0046】
特定のポリペプチドが規定された長さの参照ポリペプチドに対して特定の同一性パーセントを有していると言われる場合、その同一性パーセントは、参照ペプチドに関連する。したがって、アミノ酸100個の長さの参照ポリペプチドに50%同一であるペプチドは、参照ポリペプチドのアミノ酸50個の長さの部分に完全に同一であるアミノ酸50個のポリペプチドであり得る。また、それは参照ポリペプチドの全体の長さの50%同一である、アミノ酸100個の長さのポリペプチドでもあり得る。もちろん、他のポリペプチドが同じ基準に合致するであろう。
【0047】
本発明はまた、開示されたポリヌクレオチドまたはペプチドの対立変異体、すなわち、前記ポリヌクレオチドによってコードされるものに同一の、相同の、または関連するペプチドをもコードする単離ポリヌクレオチドの天然の代替形態も包含する。あるいは、突然変異誘発法により、または直接的合成により非天然の変異体を製造し得る。
【0048】
開示されたポリヌクレオチドおよびペプチドの種相同体もまた、本発明によって提供される。「変異体」とは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、それの本質的な性質を保持しているポリヌクレオチドまたはポリペプチドを言う。一般に変異体は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと、全体的に非常に類似しており、また、多くの領域で同一である。変異体は、コード領域、非コード領域または双方における変更を含み得る。
【0049】
幾つかの実施形態において、変更配列は、全体のアミノ酸配列が長くなる一方で、蛋白質が輸送性を保持するような挿入を含む。さらに、変更配列は、全体のアミノ酸配列を短くする一方、蛋白質が輸送性を保持するランダムな、またはデザインされた内部欠失を含み得る。
【0050】
前記変更配列はさらに、または代替としてJNK阻害剤ペプチドが誘導されるポリペプチドまたはペプチドをコードする天然のポリヌクレオチドの適切な鎖により、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うポリヌクレオチドによってコードされ得る。前記変異ペプチドは、本明細書に記載したアッセイを用いて、JNK結合およびJNK媒介活性の変調に関して試験することができる。「ストリンジェントな条件」は、配列依存性であり、異なった状況においては異なってくる。一般に「ストリンジェントな条件」は、特定のイオン強度およびpHにおいて、特定の配列に関する熱融解点(TM)よりも約5℃低く選択できる。TMは、標的配列の50%が完全マッチプローブにハイブリダイゼーションを行う温度(特定のイオン強度およびpHにおいて)である。典型的には、ストリンジェントな条件は、pH7における塩濃度が少なくとも約0.02モルであり、温度が少なくとも約60℃である条件となる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーには他の要因(他にもあるが、中でも塩基組成および相補鎖のサイズなど)が影響し得るため、有機溶媒の存在および塩基ミスマッチの程度、パラメータの組合わせが、いずれか1つの絶対的基準よりも重要である。
【0051】
高ストリンジェンシーとしては、例えば、以下を挙げることができる:ステップ1:6XSSC、50mMトリス−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.02% BSAおよび500μg/mlの変性サケ精子DNAからなる緩衝液中、DNA含有フィルタを65℃で8時間から一晩、前処理する。ステップ2:上記の前ハイブリダイゼーション混合液中、65℃で48時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行い、それに、100mg/mlの変性サケ精子DNAおよび5〜20X106cpmの32P標識プローブを添加する。ステップ3:2X SSC、0.01%Ficollおよび0.01%BSAを含有する溶液中、37℃で1時間フィルタを洗浄する。この後、0.1X SSC中、50℃で45分間洗浄する。ステップ4:フィルタのオートラジオグラフィを行う。使用し得る他の高ストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0052】
中程度にストリンジェントな条件としては、以下を挙げることができる::ステップ1:6X SSC、5Xデンハート溶液、0.5%SDSおよび100mg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中、DNA含有フィルタを55℃で6時間前処理する。ステップ2:5〜20X 106cpmの32P標識プローブを添加した。同一溶液中、55℃で18〜20時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行う。ステップ3:2X SSC、0.1%SDSを含有する溶液中、37℃で1時間フィルタを洗浄し、次に1X SSCおよび0.1%SDSを含有する溶液中、60℃で30分間、2回洗浄する。ステップ4:フィルタをブロット乾燥し、オートラジオグラフィに曝露する。使用し得る他の中程度のストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0053】
低ストリンジェンシーとしては以下を挙げることができる:ステップ1:35%ホルムアミド、5X SSC、50mMトリス−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1% PVP、0.1% Ficoll、1% BSAおよび500μg/mlの変性サケ精子DNAからなる溶液中、DNA含有フィルタを40℃で6時間前処理する。ステップ2:0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.2% BSAおよび100μg/mlのサケ精子DNA、10%(重量/容量)硫酸デキストランおよび5〜20X 106cpmの32P標識プローブを添加した同一溶液中、40℃で18〜20時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行う。ステップ3:2X SSC、25mMトリス−HCl(pH7.4)、5mM EDTAおよび0.1%SDSを含有する溶液中、55℃で1.5時間フィルタを洗浄する。洗浄液を新鮮な溶液と取替え、60℃でさらに1.5時間温置する。ステップ4:フィルタをブロット乾燥し、オートラジオグラフィに曝露する。必要ならば、フィルタを3回目に65〜68℃で洗浄し、フィルムに再曝露する。使用し得る他の低ストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている(例えば、種交差ハイブリダイゼーションに使用されるような)。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0054】
(JNK阻害剤ドメインおよび輸送ドメインを含むキメラペプチド)
他の態様において、本発明は、第1および第2のドメインを含むキメラペプチドを提供する。第1のドメインは、輸送配列を含み、一方、第2のドメインは、共有結合、例えば、ペプチド結合により第1のドメインに結合しているJNK阻害剤配列を含む。第1および第2のドメインは、ペプチド内いずれの順序においても生じ得、前記ペプチドは、各ドメインの1個以上を含み得る。
【0055】
輸送配列は、それが存在するペプチドを所望の細胞目的へ方向づけるアミノ酸の何らかの配列である。したがって、輸送配列は、前記ペプチドを、原形質膜を越えて、例えば、細胞の外から、原形質膜を通って細胞質内へ方向づけることができる。あるいはまたは、それに加えて、輸送配列は、前記ペプチドを細胞内の所望の場所、例えば、核、リボソーム、ER、リソソーム、ペルオキシソームへ方向づけることができる。
【0056】
幾つかの実施形態において、輸送ペプチドは、公知の膜転座配列から誘導される。例えば、輸送ペプチドは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)1 TAT蛋白質の配列を含み得る。この蛋白質は、例えば、米国特許第5,804,604号および米国特許第5,674,980号に記載されており、各々参照として本明細書に組み込まれている。JNK阻害剤ペプチドは、TAT蛋白質を構成する全86個のアミノ酸の幾つか、または全てと結合している。例えば、細胞内への取り込み、場合によっては細胞の核内への取り込みを表す86個以下のアミノ酸を有するTAT蛋白質の機能的に有効な断片または部分を用いることができる。例えば、参照として本明細書にその全体が組み込まれているVivesら、J.Biol.Cem.、272(25):p.16010−17(1997)を参照されたい。一実施形態において、前記断片は、TAT残基48〜57、例えば、NH2−GRKKRRQRRR−COOH[配列番号:7]または包括的TAT配列NH2−Xn−RKKRRQRRR−Xn−COOH[配列番号:9]を含有するペプチドを含む。細胞内への進入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチドを公知の方法を用いてさらに規定できる。例えば、Frankedら、Proc.Natl.Acad.Sci.米国86:p.7397−7401(1989)を参照されたい。
【0057】
TAT配列は、JNK阻害剤配列のN末端またはC末端のいずれかに結合し得る。TATとJNK阻害剤ペプチドとの間に2つのプロリン残基のかなめが加わって完全融合ペプチドが創製される。例えば、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−IB1ペプチド[配列番号:11]、L−TAT−IB2ペプチド[配列番号:12]または包括的L−TAT−IBペプチド[配列番号:13]であり得る。あるいは、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−JNKI1ペプチド[配列番号:21]または包括的L−TAT−JNKIペプチド[配列番号:25]であり得る。Dレトロ逆ー融合ペプチドは、D−TAT−IB1ペプチド[配列番号:14]、D−TAT−IB2ペプチド[配列番号:15]または包括的D−TAT−IBペプチド[配列番号:16]であり得る。あるいは、Dレトロ・インベルソ融合ペプチドは、D−TAT−JNKI1ペプチド[配列番号:22]または包括的L−TAT−JNKIペプチド[配列番号:26]であり得る。TATペプチドは、配列、NH2−Xn−RRRQRRKKR−Xn−COOH[配列番号:10]を有するDレトロ−」逆融合ペプチドであり得る。配列番号:5〜6、9〜10、13、16および25〜26において、「X」残基の数は、示されたものに限定されず、アミノ酸残基のゼロを含む任意の数に等しいことがあり得、上記のように変化し得る。
【0058】
輸送配列は、TAT配列に存在する単独(すなわち連続的)アミノ酸配列であり得る。あるいは、輸送配列は、TAT蛋白質内に存在するが、天然の蛋白質においては、他のアミノ酸配列によって分離されている2つ以上のアミノ酸配列であり得る。本明細書に用いられるTAT蛋白質は、天然のTAT蛋白質またはその機能的に等価な蛋白質またはその機能的に等価な断片(ペプチド類)のアミノ酸配列と同じ天然のアミノ酸配列を含む。このような機能的に等価な蛋白質または機能的に等価な断片は、天然のTAT蛋白質の細胞内および細胞の核内への取り込み活性と実質的に同様な活性を有する。TAT蛋白質は、天然供給源から得ることができるか、または遺伝子工学法または化学合成を用いて製造できる。
【0059】
天然のHIVTAT蛋白質のアミノ酸配列は、例えば、天然のTAT蛋白質に存在する少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失および/または置換によって修飾でき、修飾TAT蛋白質(本明細書ではTAT蛋白質とも称される)を作製できる。安定性を増加または減少させた修飾TAT蛋白質またはTATペプチドアナログを、公知の方法を用いて製造できる。幾つかの実施形態において、TAT蛋白質またはTATペプチドは、その天然のTAT蛋白質またはTATペプチドのアミノ酸配列と同一ではないが、相当に類似したアミノ酸配列を含む。また、コレステロールまたは他の脂質誘導体をTAT蛋白質に付加することができ、膜溶解性の増加した修飾TATを製造することができる。
【0060】
TAT−JNK阻害剤ペプチドの分子内局在化を調整するためにTAT蛋白質の変異体をデザインすることができる。外因的に加えられる場合、このような変異体は、細胞に進入するTATの能力が保持される(すなわち変異TAT蛋白質またはTATペプチドの細胞内への取り込みが天然のHIV TATのそれと相当に類似している)ようにデザインされる。例えば、核の局在化に重要であると考えられる塩基性領域の変更(例えば、DangおよびLee、J.Biol.Chem.264:p.18019−18023(1989);Hauberら、J.Virol.63:p.1181−1187(1989);Rubenら、J.Virol.63:p.1−8(1989)を参照)は、TATの、したがってJNK阻害剤ペプチドの細胞質の位置づけまたは部分的な細胞質の位置づけをもたらし得る。あるいは、TATおよびJNK阻害剤ペプチドの細胞質またはいずれかの他の区画に保持してTATおよびJNK阻害剤ペプチドの取り込みを調節するために、細胞質の、または他のいずれかの成分または区画(例えば、小胞体、ミトコンドリア、グルーム器官、リソソーム小胞)結合に関する配列をTATに導入することができる。
【0061】
輸送ペプチドの他の供給源としては、例えばVP22(例えば、国際公開第97/05265号;ElliotおよびO’Hare、Cell 88:p.223−233(1997)に記載されている)または、非ウィルス蛋白質(Jacksonら、Natl.Acad.Sci.米国89:p.10691−10695(1992))が挙げられる。
【0062】
JNK阻害剤配列および輸送配列は、当該分野で公知の好適な様式で化学的カップリングによって結合させることができる。公知の多くの化学架橋法は、非特異的である。すなわち、それらは、輸送ポリペプチドまたはカーゴ高分子上の特定の部位にカップリング箇所を指定しない。その結果、非特異的架橋剤の使用によって、機能的部位が攻撃されるか、または活性部位がブロックされ得、共役蛋白質は、生物学的に不活性にされる。
【0063】
カップリング特異性を増大させる1つの方法は、1つ、または双方のポリペプチドにほんの1回または少数回見られる官能基に対する直接化学的カップリングを架橋させることである。例えば、多くの蛋白質において、チオール基を含有する唯一の蛋白質アミノ酸であるシステインは、ほんの少数回見出される。また、例えば、あるポリペプチドがリジン残基を含有しない場合、第一級アミンに特異的な架橋剤は、そのポリペプチドのアミノ末端に選択的となる。カップリング特異性を増加させるためのこの方法の利用に好結果をもたらすためには、分子の生物学的活性の損失なしで変化し得る分子の領域にポリペプチドが好適に希少で、反応性の残基を有することが必要である。
【0064】
システイン残基は、架橋反応におけるそれらの寄与が、それ以外では生物学的活性を妨げる可能性のあるポリペプチド配列の部分に見出される場合、置換できる。システイン残基が置換される場合、典型的には、ポリペプチドの折りたたみにおいて生じ得る変化を最小化することが望ましい。ポリペプチドの折りたたみにおける変化は、前記置換が化学的に、および立体的にシステインに類似している場合に最小化される。これらの理由で、システインの置換体としてはセリンが好ましい。下記の例に示されるように、システイン残基は、架橋目的でポリペプチドのアミノ酸配列内へ導入できる。システイン残基を導入する場合、アミノ末端またはカルボキシ末端における、またはその近くでの導入が好ましい。目的の被験体のポリペプチドが化学合成によって製造されようと、組み換えDNAの発現によって製造されようと、このようなアミノ酸配列の修飾のために、従来の方法が利用できる。
【0065】
2つの構成要素のカップリングは、カップリング剤または共役化剤によって達成できる。利用できる幾つかの分子間架橋試薬がある。例えば、MeansおよびFeeney、CHEMICAL MODIFICATION OF PROTEINS、Holden−Day、1974年、p.39−43を参照されたい。これらの試薬の中には、例えば、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸J−スクシンイミジル(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(双方とも、スルフヒドリル基に対して特異性が高く非可逆的結合を形成する);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または6個から11個の炭素メチレン架橋を有する他のこのような試薬(スルフヒドリル基に対して比較的特異性がある);および1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(アミノ基およびチロシン基と非可逆的結合を形成する)がある。この目的に有用な他の架橋試薬としては:P,P’−ジフルオロ−m、m’−ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基およびフェノール性基と非可逆的結合を形成する);ジメチルアジピミデート(アミノ基に特異的である);フェノール−1,4−ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネートまたはジイソチオシアネートまたはアゾフェノール−p−ジイソシアネート(主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(幾つかの異なった側鎖と反応する)およびジスジアゾベンジジン(主にチロシンおよびヒスチジンと反応する)が挙げられる。
【0066】
架橋試薬は、ホモ二官能性であり得る。すなわち、同じ反応を受ける2つの官能基を有し得る。好ましいホモ二官能性架橋試薬は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」)である。BMHは、2つのマレイミド官能基を含有し、緩和な条件下(pH6.5〜7.7)で、スルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖によって結合している。したがって、BMHは、システイン残基を含有するポリペプチドの非可逆的架橋に有用である。
【0067】
また架橋試薬は、ヘテロ二官能性であり得る。ヘテロ二官能性架橋剤は、2つの異なった官能基、例えば、アミン反応性基とチオール反応性基を有し、遊離アミンおよびチオールの各々を有する2つの蛋白質に架橋する。ヘテロ二官能性架橋剤の例は、4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸スクシンイミジル(「SMCC」)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」)およびMBSの延長鎖類縁体である4−(p−マレイミドフェニル)酪酸スクシンイミド(「SMPB」)である。これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、第一級アミンと反応し、チオール反応性のマレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0068】
架橋試薬は、水に低溶解性であることが多い。その水溶性を高めるために、架橋試薬に、スルホネート基などの親水性部分を付加できる。スルホ−MBSおよびスルホ−SMCCは、水溶性のために修飾された架橋試薬の例である。
【0069】
多くの架橋試薬は、細胞条件下では本質的に非開裂性の共役体を生成させる。しかしながら、幾つかの架橋試薬は、細胞条件下で開裂性であるジスルフィドなどの共有結合を含有する。例えば、トラウト試薬、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(「DSP」)および3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−スクシンイミジル(「SPDP」)は、周知の開裂性架橋剤である。開裂性架橋試薬の使用により、標的細胞内への送達後、カーゴ部分が輸送ポリペプチドから分離することが可能となる。直接的ジスルフィド結合もまた有用である。
【0070】
上記に検討したものも含めて多数の架橋試薬が商品として入手できる。それらの使用に関する詳しい説明書は商品の供給元から容易に入手できる。蛋白質架橋および共役体調製についての一般的な参考文献は、Wong、CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS−LINKING、CRC Press(1991)である。
【0071】
化学的架橋は、スペーサーアームの使用を含む。スペーサーアームは、分子内屈曲性を提供するか、または共役部分間の分子間距離を調節し、それによって、生物学的活性を保存する助けとなり得る。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸、例えば、プロリンを含むポリペプチド部分の形態であり得る。あるいは、スペーサーアームは、「長鎖SPDP」(Pierce Chem.社、イリノイ州ロックフォード、カタログ番号21651H)におけるような架橋試薬の部分であり得る。
【0072】
あるいは、公知の好適な宿主細胞に便宜よく発現できる輸送配列と、JNK阻害剤配列を含む融合ペプチドとしてキメラペプチドを製造できる。本明細書に記載される融合ペプチドは、上記の標準的な組み換えDNA法に類似した方法で、またはそれらから容易に改造できる方法で形成でき、また利用できる。
【0073】
(JNK阻害剤ペプチドに特異的な抗体の製造)
JNK阻害剤ペプチドを含むキメラペプチドなどのJNK阻害剤ペプチド(例えば、表1に示されたアミノ酸配列を含むペプチド)ならびにそれらのペプチドまたは誘導体、断片、アナログまたは相同体は、これらのペプチド成分に免疫特異的に結合する抗体を生成するために免疫原として利用し得る。このような抗体としては、例えば、ポリクローナル鎖、モノクローナル鎖、キメラ鎖、単独鎖、Fab断片およびFab発現ライブラリが挙げられる。特定の実施形態において、ヒトペプチドに対する抗体が開示されている。他の特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドの断片が抗体生産用の免疫原として使用される。JNK阻害剤ペプチド、またはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の生産のために、当該分野で公知の種々の操作を使用できる。
【0074】
ポリクローナル抗体生産のために、種々の宿主動物を、天然ペプチドまたはその合成変異体または前記のものの誘導体の注入により免疫化し得る。免疫学的応答を増大させるために、種々のアジュバントを使用でき、限定はしないが、フロイントのアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル類(例えば、水酸化アルミニウム)、界面活性化物質(例えば、レソレシチン、プルロニックポリオール類、ポリアニオン類、ペプチド類、油性エマルジョン、ジニトロフェノールなど)およびカルメット・ゲラン杆菌およびコリネバクテリウムパルブムなどのヒトアジュバントが挙げられる。
【0075】
JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に向けられたモノクローナル抗体の調製には、連続的な細胞系培養による抗体分子の製造を提供する任意の方法を利用し得る。このような方法として、限定はしないが、ハイブリドーマ法(KohlerおよびMilstein、1975年、Nature 256:p.495−497を参照);トリオーマ法;ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozborら、1983年、Immunol Today4:p.72を参照)およびヒトモノクローナル抗体を製造するためのEBVハイブリドーマ法(Coleら、1985年、in:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss社、p.77−96を参照)が挙げられる。ヒトモノクローナル抗体は、本発明の実施において利用でき、ヒトハイブリドーマの利用に(Coteら、1983年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国80:p.2026−2030を参照)により、またはインビトロでのエプスタイン−バーウイルスによるヒトB細胞の形質転換(Coleら、1985年、in:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss社、p.77−96を参照)により製造できる。
【0076】
本発明によれば、JNK阻害剤ペプチドに特異的な一本鎖抗体製造のための方法を改造できる(例えば、米国特許第4,946,778号を参照)。また、JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対する所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速で効率的な同定を可能にするためのFab発現ライブラリ構築(例えば、Huseら、1989年、Science246:p.1275−1281を参照)用に方法論を改造することができる。非ヒト抗体は、当該分野で周知の方法によって「ヒト化」することができる。例えば、米国特許第5,225,539号を参照されたい。JNK阻害剤ペプチドに対するイディオタイプを含有する抗体断片は、例えば、(i)抗体分子のペプシン消化により生産されたF(ab’)2断片;(ii)F(ab’)2断片のジスルフィド架橋還元により生成したFab断片;(iii)パパインおよび還元剤による抗体分子の処理により生成したFab断片および(iv)Fv断片などの当該分野に公知の方法により生産できる。
【0077】
一実施形態において、所望の特異性を有する抗体スクリーニングの方法論として、限定はしないが、酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)および当該分野で公知の他の免疫学的に媒介された方法が挙げられる。特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドの特定のドメインに特異的な抗体の選択は、そのようなドメインを有するJNK阻害剤ペプチドの断片に結合するハイブリドーマの生成によって促進される。JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体のうちのドメインに特異的な抗体もまた、本明細書に提供される。
【0078】
抗JNK阻害剤ペプチド抗体は、JNK阻害剤ペプチドの局在化および/または定量化に関する当該分野に公知の方法において使用できる(例えば、適当な生理学的サンプル内のペプチド濃度の測定における使用に、診断法における使用に、ペプチドの画像化における使用になど)。所与の実施形態において、抗体誘導結合ドメインを含有する、JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対する抗体は、製薬上有効化合物(以後、「治療薬」)として利用される。
【0079】
(障害の治療法または予防法)
(望ましくないJNK活性に関連した障害)
また、本発明には、被験者におけるJNK活性化剤に伴う細胞増殖性障害を、被験者に生物学的に活性な治療用化合物(以後、「治療薬」)を投与することにより治療する方法も含まれる。
【0080】
用語の「細胞増殖性障害」とは、周囲組織とは形態学的におよび機能的にしばしば異なっているように見える悪性ならびに非悪性の細胞集団を意味する。例えば、JNKの活性化がしばしば示されてきた種々の器官系、例えば、肺、乳房、リンパ球、胃腸管および尿生殖器管の悪性腫瘍ならびに多くの大腸癌、腎細胞上皮悪性腫瘍、前立腺癌、肺の非小細胞上皮悪性腫瘍、小腸癌および食道癌などの悪性腫瘍も含む腺癌の治療に、本法は有用であり得る。JNKの活性化を明らかに必要とするBcr−Ab1発癌性形質転換による癌もまた含まれる。
【0081】
本法はまた、乾癬、尋常天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、白血病、リウマチ様関節炎、後天性免疫不全症候群、血管炎、敗血症性ショックおよび他のタイプの急性炎症、および脂質性組織球増殖症などの非悪性または免疫学的に関連した細胞増殖性疾患の治療にも有用である。特に好ましいのは、免疫病理学的疾患である。本質的に、病因学的にJNKキナーゼ活性に関連しているいずれの疾患も治療に対して感受性があると考えられよう。
【0082】
(聴力低下)
また、本発明には有毛不動毛への損傷、有毛アポトーシス、またはニューロンアポトーシスを防ぐ治療薬、すなわち細胞透過性の生物活性ペプチドを被験者に投与することにより、聴力低下を予防または治療する方法も含まれる。前記治療薬は、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、21、22、23、24、25、26、27または28のペプチドであることが好ましい。
【0083】
大きな騒音への曝露は、コルチ器官損傷により、騒音誘導聴力低下(NIHL)を生じさせる。NIHL損傷は、騒音レベルと曝露時間の双方に依存する。修復機構がコルチ器官を回復させることができる場合、聴力低下は一時的(TTS)であり得る。しかし、有毛細胞またはニューロンが死滅すると、それは永続的(PTS)となる。騒音傷害に対し構造的に相関するものに2つのタイプがある。すなわち、(1)修復でき、TTSおよび回復の原因であるシナプス、および有毛細胞不動毛の軽度の損傷および(2)修復できず、PTSの原因である有毛細胞およびニューロンのアポトーシスを誘導する重篤な損傷。
【0084】
前記治療薬は、騒音傷害、抗生剤または化学療法剤に対する曝露前に被験者に投与される。あるいは、前記治療薬は、騒音傷害、抗生剤または化学療法剤に対する曝露後に被験者に投与される。
【0085】
騒音傷害は、コルチ器官に損傷を起こすのに十分な騒音である。例えば、騒音傷害は、少なくとも70dB SPL、少なくとも90dB SPL、または少なくとも100dB SPL、少なくとも120dB SPL、または少なくとも130dB SPLである。
【0086】
抗生物質としては、例えば、ペニシリンG、ペニシリンV、アンピシリン、アモキシシリン、ジクロキサシリンおよびオキサシリンなどのペニシリン類;セファレキシン(ケフレックス)、セファクロル(セクロール)およびセフィキシム(スプラックス)などのセファロスポリン類;トブラマイシンおよびストレプトマイシンなどのアミノグリコシド;エリスロマイシン、アジスロマイシン(ジスロマックス)およびクラリスロマイシンなどのマクロライド類;トリメトプリン−サルファメトキサゾールなどのスルホンアミド類、またはテトラサイクリンまたはドキシサイクリンなどのテトラサイクリン類が挙げられる。
【0087】
(ニューロン障害)
また、本発明には、ニューロンへの損傷またはニューロンのアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドの組成物を、細胞または被験者に投与することにより、ニューロン細胞死に関連した障害を治療または予防する方法も含まれる。前記組成物は、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜26のペプチドである。
【0088】
前記組成物は、ニューロン細胞の興奮毒性、または酸化的ストレス誘導の死滅を防ぐ働きをすることが好ましい。ニューロン細胞は、中枢または末梢の神経系由来の任意の細胞、例えば、ニューロン、神経突起、または樹状突起である。前記細胞は、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで接触させる。被験者は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタである。
【0089】
ニューロン死は、当該分野に公知の方法で測定される。例えば、細胞死は、顕微鏡で、または、カルセイン−am(分子プローブ)などの化学的指標を用いて測定される。
【0090】
興奮毒性は、発作における神経細胞死の基礎をなす主要機構であり、無酸素および外傷性脳損傷は、興奮毒性である。興奮毒性は、向イオン性グルタメート受容体、特にN−メチル−D−アスパルテートのサブタイプの受容体の過度の活性化が引き金となり、それによって、細胞死を引き起こすCa2+の急速な流入に至る。例えば、Dirnaglら、Trends in Neurosci.22:p.391−97(1999);Zipfelら、J.of Neurotrauma、17:p.857−69(2000)を参照されたい。
【0091】
前記方法は、種々のニューロン障害の症状を軽減するために有用である。ニューロン障害は、急性または慢性である。ニューロン障害としては、てんかん性発作から生じるシェミック発作、大脳虚血、低酸素/虚血脳損傷、外傷性脳損傷、ニューロン死などの興奮毒性事象に関連するもの、およびアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病などの幾つかの神経変性疾患に関連するニューロン死が挙げられる。
【0092】
大脳虚血におけるニューロン死は、興奮毒性機構に関連している。大脳虚血(例えば、全体的大脳虚血、および焦点大脳虚血)は、発作、頭部傷害、または心臓停止に依る。全体的大脳虚血は、心臓停止または両側頚動脈閉塞から生じる。
【0093】
焦点大脳虚血は、大脳動脈閉塞後の大脳の血流減少から生じる。焦点大脳虚血は、エネルギー消耗興奮毒性および梗塞周囲の脱分極などの事象の複雑な病因的カスケードならびにアポトーシスおよび炎症の双方を含むより遅延化した機構によるニューロンの壊死的死滅をもたらす。焦点大脳虚血はさらに、血栓性または塞栓性焦点虚血に分けられる。血栓性発作は、脳内に形成された血塊により大脳動脈が遮断される時に生じる。塞栓性発作もまた、血塊化動脈により生じるが、塞栓性発作では、血塊が脳自体以外のどこかで形成される。
【0094】
本明細書に記載された方法は、本明細書に記載されたものなどのニューロン障害の1つ以上の症状の重症度の低下または軽減をもたらす。ニューロン障害は、典型的には標準的な方法論を用いて医師により診断され、および、またはモニターされる。
【0095】
実施例に記載されているように、本発明のJNKIペプチドは、高レベルのニューロン保護を提供し、さらにJNKIペプチドが虚血発現の6〜12時間後に投与された場合でもその保護レベルは高いままであることが示された。虚血後9時間までに投与された種々の化合物で30〜50%のニューロン保護が証明されている(例えば、それぞれが本明細書に参照としてその全体が組み込まれているFinkら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、18:p.1071−76(1998);Williamsら、Neuroreport、13:p.821−24(2002)を参照されたい)が、本発明のJNKIペプチドは、下記の実施例に記載されているように、虚血事象12時間後に投与された場合に保護を提供することが示された。
【0096】
虚血性発作などの興奮毒性事象を経験しているか、または経験した多くの患者は、興奮毒性事象の3時間後から6時間後以内に医療援助を求める。細胞死機構の活性化には興奮毒性事象後、数時間かかり得るため、虚血性事象において生じる損傷などの興奮毒性損傷を治療、または予防するために利用できる時間の長さは重要である。したがって、治療薬は、興奮毒性事象を経験する前に、被験体に投与することができる。あるいは、治療薬は、興奮毒性事象を被験体が経験した後に投与することができる。
【0097】
(膵臓小島細胞死の抑制)
また、被験者に生物活性治療薬を投与すること、細胞、または被験者に細胞死または細胞損傷を防ぐ生物活性ペプチドを含有する組成物(治療薬)を投与することにより、細胞損傷または細胞死の防止または酸化的−ストレス誘導細胞死(例えば、アポトーシス細胞死)などの異常な細胞損傷を防ぐ方法も含まれる。前記細胞は、例えば、膵細胞である。前記治療薬は、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜26のペプチドであることが好ましい。場合によっては、前記細胞または被験者は、コラゲナーゼもまた投与される。
【0098】
前記ペプチドは、被験者が、インターロイキンなどの炎症誘発性サイトカインに曝露される前または後にも投与される。
【0099】
前記被験者は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタであり得る。
【0100】
(製薬組成物)
前記治療薬としては、例えば:(i)JNK阻害剤ペプチドおよびその誘導体、断片、アナログおよび相同体のいずれか1つ以上;(ii)JNK阻害剤ペプチドに向けられた抗体;(iii)JNK阻害剤ペプチドおよびその誘導体、断片、アナログおよび相同体をコードする核酸;(iv)JNK阻害剤ペプチドをコードする配列に対するアンチセンス核酸および(v)モジュレーター(すなわち、阻害剤、アゴニストおよびアンタゴニスト)が挙げられる。
【0101】
用語の「治療上有効な」とは、例えば、使用される阻害剤ペプチド量が、JNK関連疾患」を改善するために十分な量であることを意味する。
【0102】
治療としては、JNKキナーゼ活性を調整する試薬の投与が挙げられる。用語の「調整する」には、JNKが過剰発現する場合のJNK発現の抑制が挙げられる。また、それには、細胞内の天然のc−jun、ATF2結合部位およびNFAT4結合部位の競合的阻害剤として、例えば、配列番号:1〜6および21〜22ならびに配列番号:11〜16および23〜26のいずれか1つ以上のペプチドを用いることによるc−jun、ATF2またはNFAT4のリン酸化抑制も挙げられる。したがって、c−jun、ATF2またはNFAT4から構成される転写因子のヘテロおよびホモ複合体およびそれらの例えば、c−jun、ATF2およびc−fosから構成されるAP−1複合体などの関連パートナーの抑制も挙げられる。細胞増殖障害が、JNKの過剰発現に関連している場合、このような抑制的JNK阻害剤ペプチドが細胞に導入できる。幾つかの例では、「調整する」には、例えば、JNKに対するIBペプチドの結合を妨げるIBペプチド特異的抗体の使用によりJNK発現を増加させ、したがって、IB関連ペプチドによるJNK阻害の防止を挙げることができる。本発明のJNK阻害剤、ペプチド、融合ペプチドおよび核酸は製薬組成物中に製剤化することができる。これらの組成物は、上記物質の1つに加えて、製薬上許容できる賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または当業者に周知の他の物質を含み得る。このような物質は、非毒性でなければならず、また有効成分の有効性を妨害してはならない。担体または他の物質の精確な性質は、投与経路、例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、耳介内(intraurticular)、またはパッチ経路に依存し得る。
【0103】
経口投与用の製薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤または液剤の形態であり得る。錠剤はゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含み得る。液体の製薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩溶液、デキストロースまたは他の糖類溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなどのグリコール類を含み得る。
【0104】
静脈内、皮膚または皮下注射または疾患部位における注射では、前記有効成分は、発熱物質を含まず、好適なpH,等張性および安定性を有する非経口的に許容し得る水溶液の形態となる。関連の当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸化リンゲル注射などの等張媒体を用いて、好適な溶液を調製することができる。必要ならば、防腐剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤を含み得る。
【0105】
個人に投与すべきものが、本発明によるポリペプチドであろうと、ペプチドであろうと、または核酸分子、他の製薬上有用な化合物であろうと、個人に利益を示すのに十分な「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(場合によっては予防を治療と考えることができるが)の投与であることが好ましい。投与される実際の量、および投与の割合および経過は、治療されているものの性質および重症度に依る。治療処方、例えば、投与量などについての決定は、一般開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、治療すべき障害、個々の患者の病態、送達部位、投与方法および開業医に公知の他の因子を考慮に入れる。上記に挙げた方法およびプロトコルの例は、REMINGTON’S pHARMACEUTICAL SCIENCES、第16版、Osol,A.(編集)、1980年に見ることができる。
【0106】
あるいは、抗体または細胞に特異的なリガンドなどのターゲッティングシステムの使用により、ある一定のタイプの細胞に対して、より特異的に有効剤を送達するために、ターゲッティング療法が使用できる。種々の理由で、例えば、薬剤が許容できないような毒性である場合、または、そうでなければ、非常に高い投与量が必要となる場合、または、そうでなければ、標的細胞に進入できないと考えられる場合、ターゲッティングが望ましい。
【0107】
これらの薬剤を直接投与する替わりに、例えば、ウィルスベクターにおける細胞内に導入されたコード遺伝子の発現により、それらを、標的細胞内に産生し得る(VDEPT法の変法−下記を参照)。ベクターは、治療されるべき特定の細胞をターゲットにし得るか、またはベクターは、標的細胞によって多かれ少なかれ選択的にスイッチが入れられる調節要素を含有し得る。
【0108】
あるいは、前記薬剤は、治療されるべき細胞内で産生されるか、または治療されるべき細胞をターゲットにする活性化剤によって活性体へ変換するために、前駆体において投与され得る。このタイプの方法は、時にADEPTまたはVDEPTとして知られており、前者は、細胞特異的抗体に対する共役により、前記細胞への活性化剤のターゲッティングを伴い、後者は、ウィルスベクターにおけるコードDNAの発現により、ベクターにおける活性化剤、例えば、JNK阻害剤ペプチドの産生を伴う(例えば、欧州特許出願公開第415731号および国際公開第90/07936号を参照)。
【0109】
本発明のある特定の実施形態において、遺伝子療法により、活性化JNKシグナル伝達経路を調整するために、JNK阻害剤ペプチドまたはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸が投与される。より特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドまたはその機能的誘導体をコードする1つの核酸または複数の核酸が、遺伝子療法により投与される。遺伝子療法とは、特定の核酸を被験体に投与することにより実施される療法を言う。本発明のこの実施形態において、前記核酸はそのコードペプチド(単数または複数)を生産し、次にこれが、疾患または障害の調整機能により治療的効果を行使することに役立つ。当該分野内で利用できる遺伝子療法に関するいずれの方法論も、本発明の実施において使用できる。例えば、Goldspielら、1993年、Clin Pharm 12:p.488−505を参照されたい。
【0110】
好ましい実施形態において、前記治療薬は、IB−関連ペプチド、JBD20関連ペプチドまたはそれらの断片、誘導体またはアナログのいずれか1つ以上を、好適な宿主内に発現させる発現ベクターの部分である核酸を含む。ある特定の実施形態において、このような核酸は、JNK阻害剤ペプチドのコード領域(単数または複数)と操作可能に連結しているプロモーターを有する。前記プロモーターは、誘導的、または構成的および場合によっては、組織特異的であり得る。他の特定の実施形態において、ゲノム内の所望の部位で相同的組み換えを促す領域によってコード配列(および他の所望の配列)がフランキングされ、したがって、核酸の染色体内発現を提供している核酸分子が用いられる。KollerおよびSmithies、1989年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国80:p.8932−8935を参照されたい。
【0111】
患者内への治療的核酸の送達は、直接的(すなわち、患者は、核酸、または核酸含有ベクターに直接曝露される)、または間接的(すなわち、細胞が先ずインビトロで核酸により形質転換し、次に患者に移植される)のいずれかであり得る。これらの2つの方法は、各々、インビボ遺伝子療法またはエクスビボ遺伝子療法として知られている。本発明のある特定の実施形態において、核酸はインビボで直接投与され、発現してコード産物を生産する。これは、例えば、適切な核酸発現ベクターの一部として核酸を構築し、これを細胞内となるような様式で投与すること(例えば、不完全または弱毒化レトロウィルスベクターまたは他のウィルスベクターを用いた感染により、米国特許第4,980,286号を参照);裸のDNAの直接注射;微粒子銃(例えば,「Gene Gun(登録商標)」;Biolistic,DuPont);脂質による核酸のコーティング;関連した細胞表面受容体/移入物質を用いて;リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル内へカプセル化して;核に進入することが知られているペプチドにこれを結合させて投与することにより;または目的の被験体の受容体を特異的に発現する細胞タイプを「ターゲットにする」ために使用できる受容体媒介エンドサイトーシスに前配置したリガンドに結合させて投与することにより(例えば、WuおよびWu、1987年、J.Biol Chem 262:p.4429−4432を参照)など、当該分野に公知の多数の方法のいずれかにより達成できる。
【0112】
本発明の実施における遺伝子療法への追加のアプローチには、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウィルス感染などの方法による、インビトロ組織培養における細胞内への遺伝子伝達が含まれる。一般に、前記伝達法として、細胞への選択的マーカーの同時伝達が挙げられる。次に伝達された遺伝子を取り込み、発現しているそれらの細胞の単離を促進するような選択圧(例えば、抗生物質耐性)下にそれらの細胞を置く。次にそれらの細胞を患者に送達する。ある特定の実施形態において、生じた組み換え細胞のインビボ投与の前に、例えば、トランスフェクション、電気穿孔法、微量注入法、目的の被験体の核酸配列を含有するウィルスまたはバクテリオファージによる感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子伝達、微小細胞媒介遺伝子伝達、スフェロプラスト融合んどの当該分野で公知のいずれかの方法、およびレシピエント細胞の必要な発育上の、および生理的機能が前記伝達によって撹乱されないことが保証される同様な方法論によって、前記核酸を細胞内に導入する。例えば、LoefflerおよびBehr、1993年、Meth Enzymol 217:p.599−618を参照されたい。前記核酸が前記細胞によって発現可能であるように、選択された方法は、細胞への安定な核酸伝達を提供しなければならない。好ましくは、伝達された核酸は遺伝可能であり、後代細胞によって発現可能である。
【0113】
本発明の好ましい実施形態において、生じた組み換え細胞は、例えば、上皮細胞の注入(例えば、皮下に)、患者への皮膚移植片として組み換え皮膚細胞の適用、および組み換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または始原細胞)の静脈注入などの当該分野で公知の種々の方法により、患者に送達できる。使用のために想定される細胞の総量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、当業者により決定できる。
【0114】
遺伝子療法を目的として核酸を導入できる細胞としては、任意の利用できる所望の細胞タイプが含まれ、異種、異種遺伝子、同型遺伝子または自己遺伝子であり得る。細胞タイプとしては、限定はしないが、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞および血液細胞などの分化細胞または種々の幹細胞または始原細胞、特に胎芽心筋細胞、肝幹細胞(国際特許公開第94/08598号)、ニューロン幹細胞(StempleおよびAnderson、1992年、Cell 71:p.973−985)、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られる造血幹細胞または始原細胞が挙げられる。好ましい実施形態において、遺伝子療法に利用される細胞は、患者の自己由来のものである。
【0115】
(免疫アッセイ)
本発明のペプチドおよび抗体は、JNKまたはJNK阻害剤ペプチドの異常濃度を特徴とする種々の病態、疾患および障害を検出、予測、診断またはモニターするため、または、それらの治療をモニターするため、アッセイ(例えば、免疫アッセイ)に利用できる。「異常濃度」とは、身体の冒されていない部分からの、またはその疾患を有さない被験者からの類似サンプルに存在する濃度に対してあるサンプル中の増加した、または減少した濃度を意味する。免疫アッセイは、患者由来のサンプルを、免疫特異的結合から生じ得るような条件下で抗体と接触させ、引き続き抗体による何らかの免疫特異的結合量を検出または測定することを含む方法によって実施できる。ある特定の実施形態において、JNKまたはJNK阻害剤ペプチドの存在に関して、患者の組織サンプルまたは血清サンプルを分析するために、JNK阻害剤ペプチドに特異的な抗体が使用でき、ここでJNKまたはJNK阻害剤ペプチドの異常濃度は、疾病状態を示している。利用し得る免疫アッセイとしては、限定はしないが、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈澱アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集反応アッセイ、蛍光免疫アッセイ、補体固定アッセイ、免疫ラジオメータアッセイ、および蛋白−A免疫アッセイなどの方法を用いた競合的および非競合的アッセイ系が挙げられる。
【0116】
(キット)
本発明はさらに、抗JNK阻害剤ペプチド抗体および場合によっては、その抗体に対する標識結合パートナーを含有する1つ以上の容器を含む診断または治療に使用するキットを提供する。前記抗体に組み込まれる前記標識として、限定はしないが、化学発光部分、酵素部分、蛍光部分、比色部分または放射活性部分を挙げることができる。他の特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドをコードするか、もしくはJNK阻害剤ペプチドに相補的な修飾または未修飾核酸および場合によっては、前記核酸に対する標識結合パートナーを含有する1つ以上の容器からなる診断使用のためのキットもまた、提供される。ある特定の代替実施形態において、1つ以上の容器において、前記キットは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、Innisら、1990年、PCR PROTOCOLS、Academic Press社、カリフォルニア州サンディエゴを参照)、リガーゼ連鎖反応、環状プローブ反応など、または当該分野に公知の他の方法のための増幅プライマーとして作用することのできる1対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、各々、長さが6〜30ヌクレオチド)を含み得る。前記キットは、場合によっては、診断薬、標準品またはアッセイにおける対照として使用するために、予め決められた量の精製JNK阻害剤ペプチドまたはその核酸をさらに含み得る。
【0117】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態によって、範囲を限定されることはない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な修飾が、前述の説明およびそれに伴う図から、当業者に明らかとなろう。このような修飾は添付の請求項の範囲に入る。
【0118】
種々の刊行物が、本明細書に引用されているが、その開示は、その全体が本明細書中に参考として援用されている。
【実施例】
【0119】
(実施例1:JNK阻害剤ペプチドの同定)
JNKとの効率的な相互作用にとって重要なアミノ酸配列を、公知のJBD間の配列整列によって同定した。IB1[配列番号:17]、IB2[配列番号:18]、c−Jun[配列番号:19]およびATF2[配列番号:20]のJBD間の配列比較により、弱く保存された8個のアミノ酸配列が定められた(図1A)。IB1とIB2のJBDは、JNK結合においてc−JunまたはATF2の約100倍効率的であるために(Dickensら、Science 277:p.693(1997))、最大の結合を与える上で、IB1とIB2間の保存された残基が重要であるに違いないと推論された。IB1とIB2のJBD間の比較により、2つの配列間で保存性の高い7個のアミノ酸と3個のアミノ酸の2つのブロックが定められた。これらの2つのブロックは、IB1における23個のアミノ酸[配列番号:1]およびIB2における21個のアミノ酸[配列番号:2]のペプチド配列内に含まれている。これらの配列は図1Bに示されており、IB2配列におけるダッシュは、保存された残基を整列させるための配列における間隙を示している。
【0120】
本発明のJNK阻害剤(JNKI)ペプチドは、本明細書においてJBD20と称されるJIP−1/IB1の20個のアミノ酸のJNK結合モチーフを、例えば10個のアミノ酸のHIV−TAT48〜57輸送体配列などの輸送蛋白質と結合させることに得られた。
【0121】
(実施例2:JNK阻害剤融合蛋白質の調製)
JNK阻害剤融合蛋白質は、JBD23のC末端、またはIB2(JBD21)由来の21個のアミノ酸配列、または、JBD20のアミノ酸配列のC末端と、HIV−TAT48〜57由来のN末端の10個のアミノ酸長担体ペプチド(Viresら、J.Biol.Chem.272:p.16010(1997))とを、2つのプロリン残基からなるスペーサーによって共有結合させることによって合成した。このスペーサーは、最大の屈曲性を可能にするため、また、不必要な二次構造の変化を防ぐために用いられた。図1Cに示されるように、これらの調製物は、各々L−TAT[配列番号:7]、L−TAT−IB1[配列番号:11]、L−TAT−IB2[配列番号:12]およびL−TAT−JNKI1[配列番号:21]と称された。全てのD−レトロ・インベルソペプチドのTAT融合蛋白質もまた合成され、各々D−TAT[配列番号:8]、D−TAT−IB1[配列番号:14]およびD−TAT−JNKI1[配列番号:22]と称された。全てのDおよびLペプチド類は、古典的なF−モック合成によって製造され、さらに質量分析によって分析された。これらを最終的にHPLCによって精製した。プロリンスペーサーの効果を測定するために、2つのプロリンを有する、および有さない2つのタイプのTATペプチドを製造した。2つのプロリンの添加により、TATペプチドの細胞内への進入または局在化は変化しないようであった。
【0122】
保存アミノ酸残基を示す包括的ペプチドは、図2に示してある。Xは、任意のアミノ酸を示す。所与のペプチドのXの数は、示されたものに限定されず、変わり得る(すなわち、Xはアミノ酸残基のゼロを含む任意の数を示し得る)。包括的配列のより詳細については上記を参照されたい。
【0123】
(実施例3:JBD23によるβ細胞死の抑制)
次に、JNK生物学的活性に及ぼすIB1の23個のアミノ酸長JBD配列の効果を試験した。23個のアミノ酸配列を緑色蛍光蛋白質にN末端結合させ(GFP−JBD23構築体)、IL−1βによって誘導された膵臓β細胞のアポートシスに及ぼすこの構築体の効果を評価した。図3を参照されたい。このアポートシス様式は、JBD1〜280によるトランスフェクションによって妨げられることが以前示されていたが、一方、ERK1/2の特異的阻害剤またはp38によっては防止されなかった。上記のAmmendrupらを参照されたい。
【0124】
23個のアミノ酸配列(JBD23;図1B)および完全保存領域において変異した(JBD23mut)に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、EcoRIおよび緑色蛍光蛋白質(GFP)(Clontechより)をコードするpEGFP−N1ベクターのSalI部位内へ直接挿入した。10%ウシ胎仔血清、100μg/mLストレプトマイシン、100単位/mLペニシリンおよび2mMグルタミンを補足したRPMI 1640培地でインスリン産生βTC−3細胞を培養した。インスリン産生βTC−3細胞を表示されたベクター類によって移入し、細胞培養培地にIL−1β(10ng/mL)を添加した。IL−1βの添加48時間後に、倒立蛍光顕微鏡を用いてアポトーシス細胞数をカウントした。特徴的な細胞質の「ブレビングアウト」によって正常な細胞から識別されたアポトーシス細胞を2日後にカウントした。
【0125】
図3に示されているように、GFPは、対照として用いられた緑色蛍光蛋白質発現ベクターであり;JBD23は、IB1のJBD由来の23個のアミノ酸配列に結合したキメラGFPを発現するベクターであり;JBD23Mutは、GFP−JBD23と同じベクターであるが、図1Bに示されるように、4つの保存残基において変換したJBDを有しており;JBD280は、完全JBD(アミノ酸1〜280)に結合したGFPベクターである。GFP−JBD23発現構築体は、IL−1β誘導の膵臓β−細胞アポトーシスを完全JBD1〜280と同様に効率よく防いだ(図3、JBD280/IL−1と比較してのJBD23/IL−1)。追加対照として、完全に保存されたIB1残基において変異した配列は、アポトーシスを防ぐ能力が大きく低下した(図3、JBD23Mut/IL−1)。
【0126】
(実施例4:TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの細胞移入)
TAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチド類(「TAT−IBペプチド類」)のLおよびD鏡像異性体の細胞進入能力を評価した。
【0127】
L−TAT、D−TAT、L−TAT−IB1、L−TAT−IB2、およびD−TAT−IB1ペプチド類[配列番号:各々7、8、11、12および14]をフルオレセインに共役させたグリシン残基のN末端付加により標識化した。標識ペプチド類(1μM)を、βTC−3細胞培養液に加え、これを実施例3に記載したとおり維持した。予め決められた時点で細胞をPBSで洗浄し、氷冷メタノール−アセトン(1:1)中で5分間固定してから、蛍光顕微鏡下で検査した。蛍光標識BSA(1μM、12モル/モルBSA)を対照として用いた。上記の蛍光標識ペプチドは全て、一旦培地に加えられると効率よく迅速に(5分以内に)細胞に進入した結果が示された。逆に蛍光標識ウシ血清アルブミン(1μM BSA、12モルフルオレセイン/モルBSA)は、細胞に進入しなかった。
【0128】
経時的試験により、L−エナンチオペプチドに関する蛍光シグナル強度は、24時間後に70%減少したことが示された。48時間目には、シグナルは殆どから全く存在しなかった。これとは対照的に、D−TATおよびD−TAT−IB1は、細胞内で極めて安定であった。これら全てのD−レトロ・インベルソペプチド類からの蛍光シグナルは、1週間後でもまだ極めて強く、処理2週目でわずかに減少しただけであった。
【0129】
(実施例5: c−Jun、ATF2およびElk1リン酸化のインビトロ阻害)
JNKの標的転写因子のJNK媒介リン酸化に及ぼす前記ペプチドの効果をインビトロで調べた。転写および翻訳ウサギ網状赤血球ライゼートキット(Promega)を用いて、組換え非活性JNK1、JNK2およびJNK3を製造し、基質としてc−Jun、ATF2およびElk1を単独で、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)に融合させた固相キナーゼアッセイに用いた。L−TAT、L−TAT−IB1またはL−TAT−IB2ペプチド(0〜25μM)を、反応緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、10mM p−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中、組換えJNK1、JNK2またはJNK3キナーゼと20分間混合した。次に10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPおよび1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)か、GST−AFT2(アミノ酸1〜96)か、またはGST−ELK1(アミノ酸307〜428)の添加により、キナーゼ反応を開始した。GST融合蛋白質は、Stratagene(カリフォルニア州ラジョーラ)から購入した。また、10μLのグルタチオン−アガロースビーズも、前記混合物に加えた。次に反応産物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上SDS−PAGEにより分離した。ゲルを乾燥し、引き続きX線フィルム(Kodak)に曝露した。TAT−IBペプチドの2.5μMという低用量で、JNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化のほぼ完全な阻害が見られた。しかし、顕著な例外は、Elk1のJNK3リン酸化のTAT−IB阻害欠如であった。全体的に見て、TAT−IB1ペプチドは、それらの標的転写因子のJNKファミリーリン酸化の阻害において、TAT−IB2よりもわずかに優れているようであった(図4Aを参照)。
【0130】
組換えJNK1、JNK2またはJNK3により、GST−Jun(アミノ酸1〜73)リン酸化を阻害するD−TAT、D−TAT−IB1およびL−TAT−IB1ペプチドの能力(0〜250μM用量試験)を上記のとおり分析した。全体的に見て、D−TAT−IB1ペプチドは、c−JunのJNK媒介リン酸化を減少させたが、L−TAT−IB1より約10〜20倍低い効率のレベルであった(図4Bを参照)。
【0131】
(実施例6: 活性化JNK類によるc−JUNリン酸化の阻害)
ストレスの多い刺激により活性化したJNK類に及ぼすL−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチドの効果をUV光照射Hela細胞またはIL−1β処理βTC細胞のJNK類を減弱させるGST−Junを用いて評価した。βTC細胞は上記のとおり培養した。Hela細胞は、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLストレプトマイシン、100単位/mLペニシリンおよび2mMグルタミンを補足したDMEM培地中で培養した。細胞抽出調製物と用いる1時間前に、βTC細胞は上記のとおりIL−1βによって活性化し、一方、Hela細胞は、UV−光(20J/m2)によって活性化した。溶解緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、1%トリトンX−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中、細胞培養物をこすり取って、対照物、UV光照射HeLa細胞およびIL−1β処理βTC−3細胞から細胞抽出物を調製した。SS−34ベックマンローター中15,000で5分間の遠心分離により、砕片を除去した。100μgの抽出物を室温で1時間、1μgのGST−jun(アミノ酸1〜89)および10μLのグルタチオン−アガロースビーズ(Sigma)と共に温置した。こすりおとし、緩衝液で4回洗浄後、L−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチド(25μM)で補足した同一の緩衝液中に、前記ビーズを20分間再懸濁した。次に10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPの添加により、キナーゼ反応を開始し、30℃で30分間温置した。次に反応産物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上SDS−PAGEにより分離した。ゲルを乾燥し、引き続きX線フィルム(Kodak)に曝露した。これらの実験において、TAT−IBペプチド類は、活性化JNK類によるc−Junのリン酸化を効率よく防いだ(図6を参照)。
【0132】
(実施例7: TAT−IBペプチド類によるc−JUNリン酸化のインビボ阻害)
前記細胞透過性ペプチド類が、インビボでJNKシグナル伝達を妨害し得るかどうかを判定するために、非相同性GAL4系を用いた。上記のとおり培養したHeLa細胞にGAL4 DNA結合ドメインに結合させたc−Junの活性化ドメイン(アミノ酸1〜89)を含むGAL−Jun発現構築体(Strategene)と共に、5xGAL−LUCリポーターベクターの同時トランスフェクションを行った。JUNKの活性化は、直接上流のキナーゼ、MKK4およびMKK7を発現するベクター類の同時トランスフェクションにより達成した(Whitmarshら、Science 285:p.1573(1999)を参照)。簡略に述べると、DOTAP(Boehringer Mannheim)を製造元の説明書に従って用い、3.5cm皿に3x105の細胞にプラスミドのトランスフェクションを行った。GAL−Junに関する実験では、1μgのリポータープラスミドpFR−Luc(Strategene)および0.5μgのMKK4かまたはMKK7の発現プラスミドと共に、20ngのプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクション3時間後、細胞培地を交換し、L−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチド(1μM)を加えた。16時間後、蛋白質含量を標準化してから、Promegaの「二重リポーターシステム」を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。図5に示されるように、MKK4およびMKK7に媒介されたJNKの活性化後、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチド双方の添加により、c−Junの活性化が妨害された。HeLa細胞はJNK1異性体とJNK2異性体の双方を発現するが、JNK3異性体は、発現しないため、細胞にJNK3のトランスフェクションを行った。やはり2つのTAT−IBペプチド類は、c−JunのJNK2媒介活性化を阻害した。
【0133】
(実施例8: TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β細胞死の抑制)
IL−1βによって誘導された膵臓β細胞アポトーシス促進に及ぼすL−TAT−IBペプチド類の効果を調べた。βTC−3細胞培養液を1μMのL−TATIB1ペプチドか、またはL−TATIB2ペプチドのいずれかと共に30分間温置し、その後10ng/mLのIL−1βと共に温置した。ペプチド(1μM)の2回目の添加を24時間後に行った。IL−1βとの温置2日後、ヨウ化プロピジウム(赤い染色細胞と死滅細胞)およびヘキスト33342(青い染色細胞ともとのままの細胞膜を有する細胞)の核染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。図5に示されるように、IL−1β存在下、2日間培養したβTC−3細胞のIL−1β誘導アポトーシスは、TAT−IBペプチド類の添加によって阻害された。
【0134】
ペプチド類とIL−1βとの細胞の温置を12日間維持したことを除いては上記のとおり、βTC−3細胞処理によるIL−1β誘導細胞死の長期阻害を試験した。追加ペプチド類(1μM)は毎日加え、追加IL−1β(10ng/mL)は2日おきに加えた。これらの条件におけるアポトーシスに対してTAT−IB1ペプチドは、強力な保護を提供する。まとめると、これらの実験によりTAT−IB1ペプチド類は、細胞死に関するJNKシグナル伝達作用を防ぐことのできる生物学的活性分子であることが確証される。
【0135】
(実施例9:全D−レトロ・インベルソペプチド類の合成)
本発明のペプチド類は、自然的プロテオリシスを防ぐため、逆に合成された、全D−アミノ酸ペプチド(すなわち全D−レトロ・インベルソペプチド)であり得る。本発明の全D−レトロ・インベルソペプチドは、天然ペプチドと同様の官能性を有するペプチドを提供するが、このペプチドにおいて構成要素のアミノ酸の側鎖基は、天然ペプチド配列に相当するが、プロテアーゼ耐性骨格を保持すると考えられる。
【0136】
本発明のレトロ・インベルソペプチドは、レトロ・インベルソペプチドアナログにおけるアミノ酸配列が、モデルとして働く選択ペプチドのアミノ酸配列と全く逆であるように、ペプチド鎖内にアミノ酸を付加することにより、D−アミノ酸を用いて合成されたアナログである。例えば、天然のTAT蛋白質(L−アミノ酸から形成)が配列GRKKRRQRRR[配列番号:7]を有する場合、このペプチドのレトロ・インベルソペプチドアナログ(D−アミノ酸から形成)は配列RRRQRRKKRG[配列番号:8]を有すると考えられる。レトロ・インベルソペプチドを形成するためにD−アミノ酸の鎖を合成する操作は当該分野に公知である。例えば、Jamersonら、Nature、368、p.744−746(1994);Bradyら、Nature、368、p.692−693(1994);Guichardら、J.Med.Chem.39、p.2030−2039(1996)を参照されたい。具体的に言うとレトロペプチドは、古典的なF−モック合成により製造し、さらに、質量分析によって分析した。それらは最終的にHPLCによって精製した。
【0137】
天然ペプチドでの固有の問題は、天然のプロテアーゼおよび固有の免疫原生による分解であるため、本発明のヘテロ二価化合物またはヘテロ多価化合物は、所望のペプチドの「レトロ・インベルソ異性体」を含んで調製されることになる。したがって、自然的プロテオリシスからペプチドを保護することは、半減期の延長および活発に前記ペプチドを破壊することに向けられた免疫応答の程度を低下させることの双方により、特定のヘテロ二価化合物またはヘテロ多価化合物の有効性を増加させるはずである。
【0138】
(実施例10:全Dレトロ・インベルソIBペプチド類の長期生物学的活性)
実施例5に示されるように、天然プロテアーゼによる分解からのD−TAT−IBペプチド保護により、D−TAT−IBレトロ・インベルソ含有ペプチド共役体では、天然のL−アミノ酸アナログに較べた場合、長期の生物学的活性が予測される。
【0139】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の抑制を分析した。図10に示されるように、表示されたペプチド類(1μM)を1回添加したβTC−3細胞を上記のとおり30分間温置し、次にIL−1β(10ng/ml)を添加した。次にIL−1βと共に2日間温置後、ヨウ化プロピジウムおよびヘキスト33342染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。各実験につき、最低1000個の細胞をカウントした。平均値の標準誤差(SEM)が示されており、n=5である。D−TAT−IB1ペプチドは、L−TAT−IBペプチドと同様な程度までIL−1誘導アポトーシスを減少させた(図5と図10を比較されたい)。
【0140】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導細胞死の長期抑制もまた分析した。表示されたペプチド類(1μM)を1回添加したβTC−3細胞を上記のとおり30分間温置し、次にIL−1β(10ng/ml)を添加し、続いて2日おきにサイトカインを添加した。次にIL−1βと共に15日間温置後、ヨウ化プロピジウムおよびヘキスト33342核染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。L−TAT−IB1ペプチドの1回の添加によっては、長期保護が与えられないことに注意されたい。各実験につき、最低1000個の細胞をカウントした。平均値の標準誤差(SEM)が示されており、n=5である。結果は図9に示されている。L−TAT−IB1ではなく、D−TAT−IB1が長期(15日)保護を与えることができた。
【0141】
(実施例11:TAT−IBペプチド類による照射誘導膵臓β細胞死の抑制)
JNKは、イオン化照射によっても活性化される。照射誘導JNK損傷に対してTAT−IBペプチド類が保護を提供するかどうかを測定するために、図10に示されるように、D−TAT、L−TAT−IB1またはD−TAT−IB1ペプチド(照射30分前に1μMを添加)の存在下または不在下で、「WiDr」細胞を照射した(30Gy)。対照細胞(CTRL)は照射しなかった。48時間後、上記のとおりPIおよびヘキスト33342染色により細胞を分析した。n=3でSEMは示されている。このヒト大腸癌細胞系において、L−TAT−IB1ペプチド、およびD−TAT−IB1ペプチドの双方とも照射誘導アポトーシスを防ぐことができた。
【0142】
(実施例12:イオン化放射に対するTAT−IBペプチド類による放射線保護)
TAT−IBペプチド類の放射線保護効果を測定するために、フィリップス RT 250 R線により、0.74Gy/分の線量比でC57B1/6マウス(2〜3月齢)を照射した(17mA、0.5mm Cuフィルタ)。照射30分前に、マウスにTAT、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類(1mM溶液/30μl)を腹腔内注射した。簡略に述べると、マウスを以下のとおり照射した:マウスを小型のプラスチックボックスに入れ、頭部をボックスの外に出した。照射器の下に仰向けにマウスを置き、頭部を正しい位置に維持するために、マウスの頚部を小型プラスチックトンネル内に固定した。身体は鉛で保護した。照射前マウスは、標準的なマウスペレット食餌を給餌したが、照射後は、半流動食を毎日取り換えて与えた。
【0143】
次にParkinsら(Parkinsら、Radiotherapy & Oncology、1:p.165−173、1983年)によって開発された評点システムに従って、2人の独立した観察者により唇粘膜の反応を評点づけしたが、そこでは、紅斑の状態ならびに浮腫、剥離および滲出、の存在を評価した。なお、マウスの紅斑/浮腫状態の各記録前に、それらの体重を測った。
【0144】
図12A:照射後のマウスの体重を示した。値は、100に設定したマウスの最初の体重に対して報告されたもの。CTRL:30μlの生理食塩水を注射された対照マウス。各報告値に関してn=2であり、S,D,は示されている。X値は日数である。
【0145】
図12Bは、照射後の紅斑/浮腫評点を示している。図12Aと同じマウスの下方唇の浮腫および紅斑状態を定量化した。各報告値に関してn=2であり、X値は日数である。
【0146】
これらの実験結果は、TAT−IBペプチド類が、イオン化放射に伴う体重減少および紅斑/浮腫を防止し得ることを示している。
【0147】
(実施例13:L−TAT−IB1ペプチド類によるJNK転写因子の抑制)
示されるようにAP−1二重標識プローブ(5’−CGCTTGATGAGTCAGCCGGAA−3’、5ng/mlのTNF−αで1時間処理した、または未処理のHeLa細胞核抽出物を用いて、ゲル遅延化アッセイを実施した。TATペプチドおよびL−TAT−IB1ペプチドを、TNF−αの30分前に添加した。特異的AP−1DNA複合体を有するゲルの部分だけ(未標識の特異的および非特異的競合体による競合実験によって証明された)が示されている。L−TAT−IB1ペプチドは、TNF−αの存在下でAP−1DNA結合複合体の形成を減少させる(図11を参照)。
【0148】
(実施例14:騒音誘導聴力低下に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
図13、パネルAに示されるように、モルモットの右内耳内へD−JNKI(1μM、1μl/時間)の溶液を注入し、一方、左耳には、生理食塩水のみを注入した。次にモルモットを騒音傷害(120db、30分)に曝露し、3日後にに聴力感受性(図13、パネルB)ならびに内耳の組織学的検査(図13、パネルCおよびD)を実施した。図13に示されるように、組織学的検査から判断されるように線毛構造の多くが消失した未処理の耳とは対照的に、JNKIで処理した耳では、線毛構造が騒音誘導破壊から完全に保護されている。さらに、D−JNKIで処理した耳の騒音に対する感受性は、保存されているようである(図13、パネルB)。
【0149】
(実施例15:抗生物質誘導聴力低下に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
D JNKIの存在/不在下で、ニワトリの内耳をストレプトマイシンにより処理した。次にアポトーシスを検出(緑色核)するために、TUNEL実験を実施した。図14に示されるように、D−JNKIはストレプトマイシン誘導アポトーシスから内耳を完全に保護する。しがって、D−JNKIは抗生物質療法によって被る聴力低下状態の防止に有用である。
【0150】
(実施例16:炎症誘発性サイトカイン類に誘導された膵臓小島破壊に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
膵臓小島細胞を、インターロイキン1B(10ng/ml)に曝露する前にD−JNKI(1mMを1時間)で処理した。図15に示されるように、D−JNKIで処理された小島はIL−1B誘導破壊に抵抗する。このことは、D−JNKIによる処理が移植された小島の保存を助けることを示している。
【0151】
(実施例17:D−TAT−IBペプチド類による膵臓小島細胞の回復増加)
小島細胞単離時、コラゲナーゼと共にD−JNKIを添加した。これは乳酸デヒドロゲナーゼの増加を測定すると、3日後、培養液中の小島収量の増加をもたらした。図15を参照されたい。
【0152】
(実施例18:JNK活性化およびJNK関連作用に及ぼすJNKペプチド類の効果試験に用いられる一般的方法)
(一般的ニューロン培養)
2日齢のラットの脳から皮質小片を切開し、200単位のパパリンと共に、34℃で30分間温置した。次に、100μg/mLのポリ−D−リジンで予め被覆した皿上に約1x106細胞/皿の密度でニューロンを入れた。0.5mグルタミン、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンで補足したB27/ニューロベーサル(Neurobasal)(Life Technologies)培地を用いて前記細胞を培養した。
【0153】
(乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)細胞毒性アッセイ)
培地内に放出されたLDH量を、サイトトックス(Cytotox)96非放射性細胞毒性アッセイキット(Promega)を用いて測定した。
【0154】
(GST−c−Jun減弱およびキナーゼアッセイ)
:リシス緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、1%トリトン×−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中に細胞をこすりとって細胞抽出液を調製した。25μgのサンプルを、1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)および10μLのグルタチオン−アガロースビーズ(Sigma)と共に、室温で1時間温置した。前記ビーズを4回洗浄し、上記のリシス緩衝液に再懸濁した。次いで組み換えJNKIα1およびGST融合蛋白質類(例えば、GST−JunおよびGST−Elk1融合蛋白質)、カゼインおよびヒストン(Sigma)よりなる群から選択された0.5μgの基質を用いて、インビトロキナーゼアッセイを実施した。5μCi33P−ATPの存在下、10mM MgCl2およびおよび10μM ATPによって反応を開始させ、摂氏30度で30分間温置した。反応産物を、SDS−PAGEにより分離し、ゲルを乾燥してから、X線フィルム(Kodak)に曝露した。
【0155】
(ウェスタンブロット)
リシス緩衝液(上記)中に細胞をこすりとって、総蛋白抽出物を得、前記蛋白質を12%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離した。次に前記の分離蛋白質をフッ化ポリビニリデン(PVDF)膜上に移した。本明細書に記載したウェスタンブロットにおいて使用した抗体は、Alexisから入手した。
【0156】
(細胞質からの核の分離)
ウェスタンブロット分析用に核を単離するために(図17Bを参照)、ニューロンをリシス緩衝液中に15分間溶解してから、サンプルを4℃で10分間、300gで遠心分離した。核ペレットをリシス緩衝液中で再構成してから音波処理した。
【0157】
(リアルタイムRT−PCR)
ライトサイクラー器具(Roche)上で特異的プライマーを用いて、リアルタイムRT−PCRを実施した。Chomczynski法により抽出されたRNA類の量と品質を統一するために、ハウスキーピングアクチン転写物を用いた。本明細書に参照としてその全体が組み込まれているChomczynskiら、Anal.Biochem.、162:p.156−59(1987)を参照されたい。用いられたプライマー類の配列は以下のとおりである:
cFos 正:5’−GCTGACAGATACACTCCAAG−3’
逆:5’−CCTAGATGATGCCGGAAACA−3’
アクチン 正:5’−AACGGCTCCGGCATGTGCAA−3’
逆:5’−ATTGTAGAAGGTGTGGTGCCA−5’
(P−c−jun免疫組織化学)
本明細書に用いられるP−c−junは、c−junのリン酸化形態を言う。P−c−junは、ウサギポリクローナル抗体(PBS中500x)によってターゲットにされた。生じた抗体複合体を、3,3−ジアミノベンジジンを基質として用いて視覚化した。
【0158】
(成体マウスにおける一時的虚血)
オスICR−CD1マウス(約6週齢で体重は約18〜37gの範囲)(Harlan社)を用い、通常の頚動脈から1本のフィラメントを内部の頚動脈内へ導入し、前記フィラメントを動脈循環内へ進入させ、そのことにより、中央大脳動脈を閉塞させることによって、虚血を引き起こした。例えば、それぞれ参照として本明細書にその全体が組み込まれている、Huangら、Science、265:p.1883−85(1994);Haraら、Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)94:p.2007−12(1997)を参照されたい。虚血時を通し、また再灌流10分後まで頭蓋骨に固定したプローブを有するレーザー−ドップラー流量計によって、局所大脳血流を測定した。直腸温度を測定し、37℃に維持した。再灌流48時間後にマウスを殺処理した。連続低温槽切片20μM厚を、Neurolucidaプログラムを装備したコンピュータ顕微鏡システム(Microbrightfield)を用いて追跡し、Neuroexplorerプログラムによって、虚血領域および脳全体容積を算出した(盲検)3匹の追加マウスにおいて、動脈カテーテルによって、収縮期血圧と拡張期血圧を、D−JNKI注入10分前から30分後まで測定した。これらの血圧測定により、前記注入が血圧に影響を与えないことが示された(すなわち、10%未満の変化)。全ての実験は、Swiss Federal Veterinary Officeの指針に従った。
【0159】
(幼若(P14)ラットにおける永続的焦点虚血)
嗅覚枝との接合部における起点に対して閉じている位置で、中央大脳動脈を電気凝固することにより、中央大脳動脈閉塞を得た。体重が約27〜35gの範囲のラット(Wistarより)を中央大脳動脈閉塞24時間後に殺処理した。前記ラットは、抱水クロラールの過剰用量を用いて殺処理し、Zamboni固定剤によって左脳室を灌流した。前記脳を灌流に用いたものと同じ溶液中で2時間固定してから、前記脳を寒冷保護のため、30%スクロース中に一晩浸潤させた。各虚血領域の輪郭を、コンピュータ顕微鏡システムによって描いた(染色した)。虚血傷害および脳全体の面積を、クレシルバイオレットで染色した50μm連続低温槽切片から、Neurolucidaプログラムを用いて追跡し、各々の容積を上記のとおりNeuroexplorerプログラムを用いてを算出した。
【0160】
統計:双方の虚血モデル(すなわち、一時的および永続的)のデータは、Gaussian基準に合わせるために対数変換した。データは、概括ANOVA(双方のモデルでp<0.0001)に続いて片側不対t検定によって分析した。
【0161】
(実施例19: JNK作用に対するJNKIペプチド類の感受性および特異性)
これらの実験に用いられるJNKI1ペプチド類は、直接競合的機構により、c−Junおよび他の基質に対するJNKのアクセスを妨げることを目的としている。各々が参照としてその全体が本明細書に組み込まれているBonnyら、Diabetes、50:p.77−82(2001);Barrら、J.Biol.Chem.、277:p.10987−97(2002)を参照されたい。
【0162】
JNKの活性化と作用に及ぼすL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を、上記実施例18に記載したとおり、キナーゼアッセイを用いて試験した。これらの実験結果は、図16A〜16Cに示されている。JNKの活性化と作用に及ぼすL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果は、JNK1α1を用い、公知のJNK標的、c−JunおよびElk1のインビトロリン酸化を防ぐそれらの能力によって示される(図16を参照)。本明細書に用いられる用語の「P−Jun」および「P−Elk1」とは、それぞれGST−JunおよびGST−Elk1基質の放射標識(すなわち、33P−ATPによるリン酸化形態)を言う。L−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を試験するために用いられたものと同様な条件を用い、また減量したL−JBD20を用いた用量応答実験におけるJIP−IB1のアミノ酸20個の最少JNK阻害配列(JBD20のL体(配列番号:21))の阻害効果を、図16Bは証明している。L−JBD20ペプチド(配列番号:21)単独で(すなわち、TAT配列なしで)JNK作用を阻害し得ることを、図16Bは示している。またJBD20は、ATF2、IRS−1、MADD、bcl−x1などの他のJNK標的を阻害することも示された。これらの場合の各々で、IC50は、約1μMであった(データは示していない)。これらの実験において、TAT配列は、JBD20に結合されなかった。なぜならば、50μM超の濃度では、TAT配列は、抽出液中の蛋白質の非特異的沈殿を引き起こすからである。50μM以下の濃度では、TATは、JBD20ペプチド類の阻害特性に影響を与えない。
【0163】
JNK活性化の阻害におけるJNKIペプチド類の特異性を測定するために、インビトロ実験を実施した。特に、40種の異なるキナーゼ類の各々の基質に対する活性に及ぼすこれらのペプチド類(10μMペプチド、10μM ATP)の効果を試験した。これらの実験に使用された基質の完全リストは、http://www.upstate.com/img/pdf/KinaseProfiler.pdfで見ることができる。予想通り、JNKIペプチド類は、全てがJNK−結合ドメインを含んでいるJNK類ならびにMKK4およびMKK7キナーゼに影響を与えた。前記ペプチド類(L−JNKI1体およびD−JNKI1体の双方)は、他の全てのキナーゼ類の活性を妨害することは全くなかった。追加実験により、500μMのJBD20ペプチド類は6つの特定のキナーゼ類:ERK2、p38、pKC、p34、caK、およびpKAの活性を妨害しないことが示された(図16C)。これらのキナーゼ類に対する基質は、ERK2:ERK1;p38:ATF2;p34、pKC、pKA:ヒストン;およびcaK;カゼインである。この特異性レベルは、Jun−N−末端キナーゼの他の小型化学的阻害剤で達成されたものよりはるかに高く、このことから、本発明のJNKIペプチド類の極めて高い選択性が証明される。Jun−N−末端キナーゼ(JNK)の他の小型化学的阻害剤の検討に関しては、参照としてその全体が組み込まれているBennettら、Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)、98:p.13681−86(2001)を参照されたい。
【0164】
(実施例20:NMDA−処理皮質ニューロン内部のJNK標的に及ぼすJNKIペプチド類の効果)
ニューロン内部の種々のJNK標的に及ぼすJNKIペプチド類の効果を分析するために、一連の実験を実施した。培養液内のN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)で処理した皮質ニューロンにおけるJNK活性化は、上記の方法を用いて、GST−c−Junを用いる減弱JNKについてのキナーゼアッセイによって予測した(例えば、各々が参照として本明細書にその全体が組み込まれているKoら、J.Neurochem.71:p.1390−1395(1998);Coffeyら、J.Neurosci.20:p.7602−7613(2000)を参照)。これらの実験結果は、図17〜18に示されている。
【0165】
図17Aは、未処理ニューロン(「0」)、100μM NMDAへの曝露10分後(10’)、または100μM NMDAへの曝露30分後のJNK活性を示している。図17Cの右の2つのレーンは、JNK活性化がD−JNKI1によって本質的に変化しなかったことを証明している。JNK活性の増加は、NMDA処理の30分後に最大(すなわち2.2倍)となった(図17A)。JNK活性のこの増加は、c−Junリン酸化の増加という形となる(図17B)。細胞透過性ペプチド類のL−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、100μM NMDAへの曝露5時間後、JNK活性が、正常レベルであるにもかかわらず、P−c−Junの増加が完全に防止されることが示された。L−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、P−c−Junの濃度は、対照中のP−c−Junの濃度以下にさえなった。
【0166】
Elk1転写因子を介したJNKの影響下でのc−fos遺伝子のNMDA誘導転写もまた、L−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、完全に防止された(図17C)。c−fos発現は、上記実施例18に記載された方法を用いて抽出されたDNAを用いて、リアルタイムPCR(Lightcycler)によって定量化した。図17Cにおけるデータは、アクチンと相対的なc−fos発現として示されて(n=4)。JNKに媒介されたTCF/Elk−1リン酸化を介したc−fos発現誘導の説明に関しては、参照として本明細書にその全体が組み込まれているCavigelliら、EMBO J.、14:p.5957−5964(1995)を参照されたい。
【0167】
経時的なNMDA神経毒性およびL−JNKI1およびD−JNKI1による神経保護ならびに2つの対照ペプチド、TAT−空(すなわちTAT配列単独で、JBD20配列なし)およびL−JNKI1mut(Bonnyら、Diabetes 50:p.77−82(2001)に記載されているとおり、アラニンに変異した6個のアミノ酸を有する)を、参照としてその全体を本明細書に組み込んである。図18の顕微鏡写真は、処理24時間後におけるヘキスト染色ニューロンを示している。L−JNKI1およびD−JNKI1ペプチドの添加により、NMDAの興奮毒性作用に対して(図18)、またはカイニン酸の興奮毒性作用に対して(データは示していないが)ニューロンは、完全に保護されたが、対照ペプチドの添加に神経保護効果はなかった。処理12時間後、L−JNKI1およびD−JNKI1ペプチド双方とも、ニューロン死を防ぐことが示されたが、一方、TAT−空ペプチド類には効果がなかった(図18)。
【0168】
図18に見られるように、本発明の細胞透過性ペプチド類のD体、すなわちD−JNKI1は、100μM NMDAへの曝露後、長時間、すなわち、12時間、24時間および48時間の間のニューロンの保護において、より優れていた。これらの顕微鏡写真は、対照培養液と、D−JNKI1およびNMDAで処理している培養液とが同等であることから、処理24時間後においてD−JNKI1が依然として全体的な神経保護を提供したことを示している。JNKI1のL体は、処理24時間後において、もはやニューロンの保護をしなかったのは、ペプチドのL体が一般に分解をより受け易いためと思われる。TAT−空ペプチド類は、いかなる条件下でも、細胞死に影響を与えなかった。ペトリ皿培地中のLDH活性によって示されるように、図18のヒストグラムは、100μM NMDAへの曝露12時間後、24時間後および48時間後におけるニューロン死の程度を示している。吸光度値を総LDHに関する平均吸光度で割ることにより、LDH濃度を表す吸光度値は、%ニューロン死の値に変換されている。総LDHに関する平均吸光度は、培地プラス溶解ニューロンから得られた。
【0169】
(実施例21:細胞透過性JNKIペプチド類のインビボ送達)
インビボ適用における細胞透過性ペプチド類の使用可能性を試験するために、FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1を用いて、脳内へ浸透するそれらの能力を評価した。生物学的活性蛋白質のマウスへのインビボ送達についての検討に関しては、参照として本明細書にその全体が組み込まれているSchwarzeら、Science、285:p.1569〜72(1999)を参照されたい。これらの実験により、FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1の双方とも、成体マウスおよび種々の年齢のラットの血液−脳関門を通過でき、ニューロン内へ浸透できることが示された。FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1の双方とも、、腹腔内注射の1時間以内にニューロン内へ浸透することができた。(データは示していない)。
【0170】
(実施例22:一時的および永続的焦点大脳虚血に対するJNKIペプチド類による神経保護)
マウスにおける軽度虚血のモデルにおいて、左中央大脳動脈を30分間閉塞させ、続いて48時間の灌流を行った。対照媒体処理群は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみの注射を受けた。対照媒体処理群では、この閉塞は、重篤なピクノーゼ細胞を含有する顕著な梗塞を系統的に引き起こし、これらは主に全ての脳の皮質および層に見られ、脳のうち7つで、これらの細胞が海馬においても見られた。対照媒体処理群において、それらの被験体における平均梗塞容積は67.4mm3であった(n=12)。
【0171】
有効性および治療の「治療的ウィンドー」(すなわち、本発明のペプチド類による治療が有効性を保つ傷害後の時間枠)を評価するために、被験体を、D−JNKI1(2μLのPBS中15.7ng)の大脳内−脳室(icv)注射により処理した。図19Aは生じる梗塞の典型的な例を示すクレシルバイオレット染色切片を示している(棒線、1mm)。図19Bは、中央大脳動脈閉塞前(−1時間)または後(+3、6または12時間)の種々の時点におけるD−JNKI1のicv注射後の梗塞容積を示している。図19Bにおいて、星印は、結果が、統計的に対照と異なっている(t−検定で示された)ことを示している。
【0172】
中央大脳動脈閉塞1時間前のD−JNKI1のicv注射による前処理によって、灌流48時間前後に測定した梗塞容積は88%、7.8mm3の容積に著しく減少した(図19A〜19B)。閉塞3時間後に注射された被験体に関する平均梗塞容積は、5.8mm3に減少し(未処理マウスに較べて91%の減少)、閉塞6時間後に注射された被験体に関する平均梗塞容積は、4.8mm3に減少(未処理マウスに較べて93%の減少)したため、中央大脳動脈閉塞の3時間後または6時間後におけるD−JNKI1ペプチド投与は、依然として保護的効能があった。これとは対照的に中央大脳動脈閉塞12時間後におけるD−JNKI1ペプチド注射は、それほど目だって保護的ではなかった。再灌流後の完全虚血の達成は、全マウスにおいて、左中央大脳動脈領域における局所大脳血流のモニタリングにより確認した。
【0173】
また幼若(P14)ラットにおける永続的焦点虚血に対するD−JNKIの保護能力も評価した。中央大脳動脈の永続的閉塞実施によるP14ラットの大脳皮質における虚血区域により、頭頂側頭骨皮質に限定された広い変性区域が誘導された。P14ラットの脳容積は変化し得るため、傷害は、大脳半球容積のパーセンテージとして表された。D−JNKI1は、約340μgに相当する11mg/kgの濃度で腹腔内注射された。D−JNKI1は、中央大脳動脈閉塞の30分前、または閉塞6時間後または12時間後に投与された。ラットは閉塞24時間後に固定した。これらの各時点で(すなわち、−30分、+6時間または+12時間での投与)、D−JNKI1は、対照ラットに較べて統計的に大きな有意の梗塞容積の減少をもたらした(図20A〜20B)。閉塞30分前でのD−JNKI1投与により、68%の梗塞容積減少に至ったが、閉塞6時間後および閉塞12時間後のペプチド投与では、それぞれ、78%と49%の梗塞容積減少に至った。
【0174】
永続的虚血を有する仔ラットの脳における主要なJNK標的であるc−Jun転写因子の活性化を測定するために、免疫組織化学分析を実施した。梗塞周囲の皮質における多くのニューロン内で、c−Junのリン酸化は明白であった(図5C、bar=200μM)。これとは対照的にD−JNKI1ペプチドで処理した脳内では、梗塞周囲皮質は陰性であり、梗塞領域の境界における陽性ニューロンが少数検出されただけであった。
【0175】
(実施例22:JNKIペプチド類の副作用の可能性についての行動的評価)
一般に、他の神経保護的化合物の高い毒性により、それらの臨床的使用は厳しく制限されてきた(参照としてその全体が組み込まれているGladstoneら、Stroke、33:p.2123−36(2002)を参照)。種々の用量のD−JNKI1およびMK−801の治療用量(1mg/Kg、標準的治療用量)の可能的副作用の基準として、水平な回転棒上で自身を保持するマウスの能力を用いた。特にD−JNKI1のi.p.注射(11mg/kgおよび110mg/kg)およびicv注射(15.7ngまたは157ngのD−JNKI1を含有する2μl)双方の3時間後、24時間後、6日後および12日後に回転棒試験を用いて、マウスの運動機能を評価した。この評価操作時にMK−801(1mg/kg)のi.p.注射剤を対照化合物として用いた。
【0176】
対照間の変化性を減少させるために、実験日の前日と実験日の朝、マウスを訓練した。訓練および試験双方の時間は、対照マウスと注射マウスで同一であった。注射直前および注射1日後、6日後、および12日後に各マウスの運動機能を検査した。4rpmから40rpmまで一様に加速」するようにプログラムされた回転棒上にマウスを置いた。試験した各マウスに関して落下までの潜伏時間を記録した。回転棒法を用いたこの評価の結果は、落下までの潜伏時間(秒で測定)中央値として表2に示している。
【0177】
【表2】
表2に見られるように、i.p.とicv双方のD−JNKI1の用量(すなわち、90神経保護を提供した2.8μl/kg用量と10倍の高用量の双方)によって、運動整合は損なわれないことが判明した。これとは対照的に、MK−801では、マウスが回転輪の上に乗ることができず、運動整合の著しい減損に至り、(例えば、表2;Dawsonら、Brain Res.892:344:350(2001))(他の神経保護剤に関して同様の結果を記述している)、また、MK−801の10倍高用量により、全マウスが死亡した。低用量MK−801の副作用は、24時間後、本質的には消失することがわかった。D−JNKI1による処理6日後、および15日後、運動整合減損の徴候は見られず、回転棒評点は、対照マウスよりも良好で再現性があった。
【0178】
(同等物)
本発明の特定な実施形態の前述の詳細な説明から、独自の細胞透過性生物活性ペプチド類が説明されたことは明白である。特定の実施形態が、本明細書に詳細に開示されたが、これは例示のみを目的とした例としてなされたのであって、以下の添付請求項の範囲に関する限定を意図してはいない。特に本発明に対して種々の置換、変更および修飾が、請求項によって規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなくなされ得ることが、本発明者によって考慮されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、蛋白キナーゼ阻害剤に関し、より具体的には、蛋白キナーゼc−Junアミノ末端キナーゼの阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)は、マイトジェン活性化蛋白(MAP)キナーゼ類のストレス活性化群の一員である。これらのキナーゼは、細胞増殖および分化の制御に、またより一般的には、環境刺激に対する細胞応答と関係付けられている。JNKシグナル伝達経路は、環境ストレスに応答して、また細胞表面受容体の幾つかのクラスとの関係によって活性化される。これらの受容体としては、サイトカイン受容体、蛇紋受容体、および受容体チロシンキナーゼ類を挙げることができる。哺乳動物細胞において、JNKは、癌化などの生物過程に、また、環境ストレスに対する適応反応媒介に関係付けられている。また、JNKは、免疫細胞の成熟および分化などの免疫応答の変調、および免疫系によって破壊されることが確認されている細胞におけるプログラム化された細胞死をもたらすことに関連してきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明はJNK蛋白質の効果的な阻害剤であるペプチドの発見に一部基づいている。本明細書においてJNKペプチド阻害剤と称されるペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の下流細胞増殖作用を減少させる。
【0004】
したがって、本発明は、新規のJNK阻害剤ペプチド(「JNKIペプチド」)、ならびにそれが存在しているペプチドを所望の細胞位置に向けるために用いることができる輸送ペプチドと結合したJNKペプチド阻害剤などのキメラペプチドを含む。輸送配列は、原形質膜を通過するペプチド輸送を指示するために用いることができる。替わりに、またはそれに加えて輸送ペプチドは、核などの所望の細胞内配置にペプチドを方向づけるために用いることができる。
【0005】
JNK阻害剤ペプチドは、L−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。あるいは、前記ペプチドは、D−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。
【0006】
JNK結合ペプチドならびにJNK結合ペプチドを特異的に認識する抗体を含む製薬組成物もまた本発明に含まれる。
【0007】
本発明はまた、細胞におけるJNKキナーゼの発現を阻害する方法も含む。
【0008】
他の態様において、本発明は、細胞におけるJNKの活性化に関連した病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。キメラペプチドを診断、予防または治療目的に用いるべき個人にキメラペプチドを投与することにより送達はインビボで実施できる。標的細胞は、インビボ細胞、すなわち生きている動物、またはヒトの器官または組織を構成している細胞、または生きている動物、またはヒトに見られる微生物であり得る。
【0009】
本発明はさらに、被験体における聴力低下の予防または治療の方法を提供する。前記方法は、有毛細胞不動毛への損傷、有毛細胞アポトーシスまたはニューロンアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含む。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えばJNK阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、または16であることが好ましい。
【0010】
聴力低下は、騒音外傷によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が騒音外傷に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が騒音外傷に曝露された後に投与される。騒音外傷は、例えば、少なくとも90dB SPLであり得る。あるいは、聴力低下は抗生物質治療によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が抗生物質に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が抗生物質に曝露された後に投与される。前記抗生物質は、例えばアミノグリコシドである。
【0011】
聴力低下は、化学療法剤によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が化学療法剤に曝露される前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が化学療法剤に曝露された後に投与される。
【0012】
本発明は、被験体におけるニューロン死または脳の損傷を予防または治療する方法をさらに提供する。この方法は、ニューロンに対する損傷またはニューロンのアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含む。細胞透過性生物活性ペプチド、例えば、JNK阻害剤(「JNKI」)ペプチドである。前記細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。
【0013】
ニューロン死または脳の損傷は、大脳虚血によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が虚血事象を経験する前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が虚血事象を経験した後に投与される。虚血事象は、例えば、慢性または急性である。
【0014】
ニューロン死または脳の損傷は、他の興奮毒性機構によって生じる。したがって、一態様において、前記ペプチドは、被験体が興奮毒性機構を経験する前に投与される。他の態様において、前記ペプチドは、被験体が興奮毒性機構を経験した後に投与される。興奮毒性機構は、例えば、低酸素性/虚血性脳損傷、外傷性脳損傷、てんかん性発作から生じるニューロン死およびアルツハイマーなどの幾つかの神経変性疾患であり得る。
【0015】
本発明はまた、膵臓の小島細胞を膵臓細胞死が抑制されるように細胞透過性生物活性ペプチドと接触させることを含む、膵臓の小島細胞死を抑制する方法も考慮している。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えば、JNK−阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。前記方法は、前記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含み得る。
【0016】
また、本発明は、膵臓細胞死が抑制されるように細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することにより、被験体における膵臓の小島細胞死を抑制する方法を考慮している。細胞透過性生物活性ペプチドは、例えばJNK阻害剤ペプチドである。細胞透過性生物活性ペプチドは、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜28であることが好ましい。前記方法は、前記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含み得る。一実施形態において、前記細胞透過性生物活性ペプチドは、被験体が炎症誘発性サイトカインに曝露される前に投与される。他の実施形態において、前記細胞透過性生物活性ペプチドは、被験体が炎症誘発性サイトカインに曝露された後に投与される。
【0017】
幾つかの態様において、本発明のペプチドの投与は、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達から選択されるいずれか1つの投与経路によってなされ得る。
【0018】
本発明によって提供される利点の中でも、JNK阻害剤ペプチドが小型であり、大量に、また高純度で容易に生産できるという利点がある。前記阻害剤ペプチドはまた、細胞内分解に抵抗性であり、免疫原生も弱い。したがって、前記ペプチドは、JNK発現の阻害が望まれているインビトロおよびインビボの適用に十分に好適である。
【0019】
他に定義しない限り、本明細書に用いられる専門用語および科学用語は、本発明が属する通常の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様な、または同等な方法および材料を、本発明の実践または試験に用いることができるが、下記に好適な方法および材料を記載する。本明細書に言及した全ての刊行物、特許出願、特許およに他の参考文献は、それらの全体を参考として援用している。矛盾する場合、定義を含む本明細書が制御する。なお、材料、方法および実施例は、例示的のみであって、限定する意図はない。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求項から明らかとなる。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1)
ニューロン細胞の損傷を確認する前に、配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物を、被験体に投与することを含んでなる、被験体におけるニューロン細胞の損傷を防ぐ方法。
・(項目2)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目1に記載の方法。
・(項目3)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目1に記載の方法。
・(項目4)
上記被験体が、異常な細胞損傷を特徴とする病態を発症する危険にある項目1に記載の方法。
・(項目5)
上記異常な細胞損傷が、興奮毒性細胞死である項目4に記載の方法。
・(項目6)
上記異常な細胞損傷が、アポトーシス細胞死である項目4に記載の方法。
・(項目7)
上記被験体が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、ヒト免疫不全ウィルス痴呆または自己免疫疾患を発現させる危険にある項目1に記載の方法。
・(項目8)
上記発作が、虚血性発作である項目7に記載の方法。
・(項目9)
発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、ヒト免疫不全ウィルス痴呆または自己免疫疾患を含む虚血または再灌流傷害の症状を確認する前に、被験体に投与することを含んでなる、被験体における虚血性または再灌流関連傷害を防ぐ方法。
・(項目10)
配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを、ニューロン障害を患って、またはニューロン障害発現の危険にある哺乳動物に投与することを含んでなる、上記哺乳動物におけるニューロン細胞死を防ぐ方法。
・(項目11)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目10に記載の方法。
・(項目12)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目10に記載の方法。
・(項目13)
上記ニューロン障害が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、およびヒト免疫不全ウィルス痴呆よりなる群から選択される項目10に記載の方法。
・(項目14)
配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物を、哺乳動物に投与することを含んでなるニューロン障害を治療する方法。
・(項目15)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目14に記載の方法。
・(項目16)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目14に記載の方法。
・(項目17)
上記ニューロン障害が、発作、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、神経ラチリスム、およびヒト免疫不全ウィルス痴呆よりなる群から選択される項目14に記載の方法。
・(項目18)
ニューロン細胞を、配列番号:1〜6、11〜16および23〜26のアミノ酸配列よりなる群から選択されるペプチドを含む組成物に接触させることを含んでなる、ニューロン細胞死を防ぐ方法。
・(項目19)
上記ペプチドが、配列番号:23のアミノ酸配列を含む項目18に記載の方法。
・(項目20)
上記ペプチドが、配列番号:24のアミノ酸配列を含む項目18に記載の方法。
・(項目21)
上記細胞が、興奮毒性細胞死である項目18に記載の方法。
・(項目22)
上記細胞が、アポトーシス細胞死である項目18に記載の方法。
・(項目23)
有毛不動毛、有毛アポトーシス、またはニューロンアポトーシスに対する損傷を防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与することを含んでなる、被験体における聴力低下を予防または治療する方法。
・(項目24)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目23に記載の方法。
・(項目25)
上記被験体は、騒音障害に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目26)
上記被験体は、騒音障害に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目27)
上記被験体は、騒音障害に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目28)
上記騒音傷害が、少なくとも90dB SPLの騒音である項目27に記載の方法。
・(項目29)
上記被験体が、抗生物質に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目30)
上記被験体が、抗生物質に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目31)
上記被験体が、抗生物質に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目32)
上記抗生物質が、アミノグリコシドである項目30に記載の方法。
・(項目33)
上記被験体は、化学療法剤に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目34)
上記被験体は、化学療法剤に曝露される前に上記ペプチドが投与される項目24に記載の方法。
・(項目35)
上記被験体は、化学療法剤に曝露された後に上記ペプチドが投与される項目23に記載の方法。
・(項目36)
細胞透過性生物活性ペプチドに細胞を接触させて、膵臓細胞死を防ぐことを含んでなる膵臓小島細胞死を防ぐ方法。
・(項目37)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目36に記載の方法。
・(項目38)
上記細胞を、コラーゲナーゼと接触させることをさらに含んでなる項目36に記載の方法。
・(項目39)
細胞透過性生物活性ペプチドを被験体に投与して膵臓細胞死を防ぐことを含んでなる、被験体における膵臓小島細胞死を防ぐ方法。
・(項目40)
上記ペプチドが、配列番号:1、2、4、5、6、11、12、13、14、15、16および23〜26よりなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む項目39に記載の方法。
・(項目41)
コラゲナーゼを投与することをさらに含んでなる項目39に記載の方法。
・(項目42)
上記被験体が、炎症誘発性サイトカインに曝露される前に上記ペプチドが投与される項目39に記載の方法。
・(項目43)
上記被験体が、炎症誘発性サイトカインに曝露された後に上記ペプチドが投与される項目39に記載の方法。
・(項目44)
上記投与が、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達よりなる群から選択されるいずれか1つの投与経路により送達される項目23に記載の方法。
・(項目45)
上記投与が、耳介内(intraurticular)、腹腔内、鼻腔内、静脈内、経口およびパッチ送達よりなる群から選択されるいずれか1つの投与経路により送達される項目39に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1A〜Cは、示された転写因子におけるJBDの保存ドメイン領域の配列を示す図である。
【図2】図2は、包括的なTAT−IB融合ペプチドの配列を示す図である。
【図3】図3は、完全な280個のアミノ酸のJBDドメインに比して、IB1の最少23個のアミノ酸長JBDドメインによるβ細胞死の抑制を示すヒストグラムである。
【図4a】図4は、組み換えJNK類のリン酸化に及ぼすTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの効果を示す図である。パネルAは、インビトロの組み換えJNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化の阻害を示している。パネルBは、パネルAと同様な用量応答実験を示している。
【図4b】図4は、組み換えJNK類のリン酸化に及ぼすTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの効果を示す図である。パネルBは、パネルAと同様な用量応答実験を示している。
【図5】図5は、組み換えJNK類によるリン酸化のL−TAT−IB阻害を示すヒストグラムである。パネルAは、MKK4の存在下、インビトロの組み換えJNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化の阻害のL−TAT−IB阻害を示している。パネルBは、MKK7による同様な用量応答実験を示している。
【図6】図6は、活性化TNK類によるc−Junリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、L−TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期抑制を示すヒストグラムである。
【図8】図8は、D−TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期抑制を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の長期抑制を示すヒストグラムである。
【図10】図10は、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類による照射誘導ヒト大腸癌WiDr細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図11】図11は、L−TAT、TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類によるJNKキナーゼ活性の変調を示す図である。
【図12】図12は、マウスにおけるTAT−IB1ペプチド類の予防効果を示すグラフである。パネルAは、体重に及ぼす照射の効果を示している。パネルBは、浮腫状態および発疹状態に及ぼす照射の効果を示している。
【図13】図13は、騒音誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。パネルAは、実験の概略図、パネルBは、聴力低下のグラフ、パネルCとDは反対側の耳(対照)およびD−JNK1を注入した耳、各々の組織学的実験を示している。
【図14a】図14aは、抗生物質誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。
【図14b】図14bは、抗生物質誘導聴力低下に及ぼすD−JNK1の予防効果を示す図である。
【図15】図15は、単離操作時、D−JNK1処理に供された膵臓小島の回復増加を示す棒グラフである。
【図16】図16Aは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Aは、キナーゼアッセイにおけるJNKの活性化および作用に及ぼす組み換えJNKIα1ならびにGST−JunおよびGST−Elk1基質、各々によるL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を示す。図16Bは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Bは、図16Aと同様な条件を用い、L−JBD20を増量させた用量応答実験におけるJIP−IB1(JBD20のL体)の20個のアミノ酸最少JNK阻害配列の阻害効果を示す。図16Cは、JNKの活性化および作用に対する本発明のJNK阻害(JNKI)ペプチド類の感受性および特異性を示す図である。図16Cは、種々の組み換えキナーゼ類によるキナーゼアッセイを用いてJNK活性化防止における本発明のJNKIペプチド類の特異性を示す。
【図17】図17Aは、未処理ニューロン(0)における、また、100μMのNMDAに10分間(10’)または30分間(30’)曝露したニューロンにおけるJNKのN−メチル−D−アスパラギン酸エステル(「NMDA」)誘導活性化を示す図である。図17Bは、NMDAに対する曝露後、c−Junリン酸化のレベルおよびJNK量に及ぼす本発明のJNKペプチド類の効果を示す図である。図17Bにおいて、核抽出物(Nuc1)中には、細胞質抽出物(Cyt)中の4倍の蛋白質が入っていた。なお、使用された略号は、C:対照;N:NMDA;L:L−JNI1+NMDA;D:D−JNI1+NMDAである。図17Cは、抽出RNAを用いたリアルタイムPCRによるc−fos発現の定量化を示すヒストグラムである。図17Cは、アクチンに相対的なc−fos発現を示している。
【図18】図18は、L−JNKI1、D−JNKI1および2つの対照ペプチドの、TAT−空き(JBD20なしのTAT配列のみ)およびL−JNKI−変異体(6個のアミノ酸がアラニンに変異した)によるNMDA神経毒性および神経保護の経路を示す図とヒストグラムである。図18A〜18Eは、NMDA処理後24時間目のヘキスト染色ニューロンを示す一連の顕微鏡写真である。図18Fは、LDH活性として示されたNMDA曝露(100μM NMDA)後12時間目、24時間目、48時間目におけるニューロン死を示すヒストグラムである。
【図19】図19は、マウスにおける一時的虚血を示す図とヒストグラムである。図19Aは、閉鎖1時間前、被験体にD−JNKI1(2μLリン酸緩衝溶液(PBS)中、15.7ng)の大脳内−脳室(icv)注入を行った前処理の梗塞容積に及ぼす効果を示している。図19Bは、閉鎖1時間前、または閉鎖3時間後、6時間後および12時間後、被験者にD−JNKI1のicv注入を行った場合の梗塞容積に及ぼす効果を示している。
【図20】図20は、閉鎖後24時間、灌流を行った幼若ラット(P14)における永続的病巣虚血に対するD−JNKI1による予防を示す図とヒストグラムである。図20Aは、対照ラット(左パネル)および閉鎖6時間後、D−JNKI1によって処理されたラット(右パネル)の病巣例を示す一連の図である。図20Bは、閉鎖0.5時間前または閉鎖6時間後、または12時間後にD−JNKI1の腹腔内(i.p.)注入を行った後、半球容積の%として表された梗塞容積を示すヒストグラムである。図20Cは、梗塞周囲皮質の多数のニューロンにおいてc−Junがリン酸化された、P−c−Junに対する免疫組織化学の結果を示す一連の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は、活性化c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)シグナル伝達経路を阻害する細胞透過性ペプチド類の発見に一部基づいている。これらのペプチド類は、本明細書においてJNK阻害剤ペプチドと称される。さらに本発明は、JNKシグナル伝達に関連する病態生理学を処置するための方法および製薬組成物を提供する。
・JNK阻害剤ペプチド類は、種々のインスリン結合(IB)蛋白質におけるKJNK結合ドメイン間の配列を調べることによって確認された。この配列の結果は、図1A〜1Cに示されている。図1Aは、IB1、IB2、c−JunおよびATF2の間の最も高い相同性領域を示している。パネルBは、IB1およびIB2のJBD類のアミノ酸配列を示している。GFP−JBD23Mutベクターにおいて、完全に保持された残基は、星印で示され、一方、アラニンに変化した残基は白丸で示されている。図1Cは、JNK阻害剤ペプチドドメインおよび輸送ドメインを含むキメラ蛋白質のアミノ酸配列を示している。示された例において輸送ドメインは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)TATポリペプチドに由来し、JNK阻害剤ペプチドは、IB1ポリペプチドに由来する、パネルBおよびパネルCにおいて、ヒト、マウス、およびラットの配列は同一である。
【0023】
IB1[配列番号:17]、IB2[配列番号:18]、c−Jun[配列番号:19]およびATF2[配列番号:20]のJNK結合ドメイン間の配列比較により、部分的に保持されたアミノ酸8個の配列が明らかにされた(図1A)。IB1およびIB2のJBD類の比較により、2つの配列間で保持性の高いアミノ酸7個およびアミノ酸3個の2つのブロックがさらに明らかにされた。これらの2つのブロックは、IB1[配列番号:1]におけるアミノ酸23個およびIB2[配列番号:2]におけるアミノ酸21個のペプチド配列の中に含まれている。JIP−IB1(JBD20(配列番号:21)のL体)のアミノ酸20個の最少JNK阻害配列が図1Cに示されている。
【0024】
本発明のJNK阻害剤ペプチド類は、JNK活性阻害が望まれるいずれの状況においても用いることができる。これは、インビトロ適用、エクスビボおよびインビボ適用を含み得る。JNK類およびその全てのイソ体は病理学的状態の発現および確立、または経路に関係しているため、このような病理学的状態発生を予防または阻害するためにJNKペプチド類を用いることができる。これは、疾病の予防および治療ならびに治療行為に二次的な病態の予防および治療を含む。例えば、本発明のペプチド類は、例えば糖尿病、イオン化照射、免疫応答(自己免疫疾患を含めて)、虚血/再灌流損傷、心臓および心血管肥厚および幾つかの癌(例えば、Bcr−Abl形質転換)の治療または予防に用いることができる。
【0025】
前記ペプチド類はまた、活性JNKポリペプチドの存在下でその発現が増加する遺伝子発現を阻害するために用いることができる。これらの遺伝子および遺伝子産物としては、例えば、炎症誘発性サイトカイン類が挙げられる。このようなサイトカイン類は、炎症性、自己炎症性、免疫および自己免疫疾患、変性疾患、ミオパシー、心ミオパシーおよび移植片拒絶の全ての形態に見られる。
【0026】
本明細書に記載されたJNK阻害剤ペプチド類はまた、心臓肥大および動脈硬化傷害などの動脈高血圧により誘発された、また、血管二分枝などにおける病理学的状態;放射線療法およびUV光線で用いられるイオン化照射;フリーラジカル;化学療法剤などのDNA損傷薬剤;発癌性形質転換;ニューロンおよび膵臓の細胞損傷、聴力低下、虚血および再灌流;低酸素;および低体温および高体温などにおける細胞剪断ストレスに関連した効果の治療または予防にも用いることができる。
【0027】
本発明により提供されるポリヌクレオチド類は、対応するペプチドが優先的に発現する(構成的に、または組織分化または発生の特別な段階で、もしくは疾病状態において)組織のマーカーとして、分析、特性化または治療的使用のための組み換えペプチドを発現させるために用いることができる。核酸に関する他の利用法としては、例えば、核酸のゲル電気泳動法に基づいた分析における分子量マーカーが挙げられる。
【0028】
本明細書に開示されているJNK阻害剤ペプチド類は、表1に示されている。この表は、JNK阻害剤ペプチドの名称、ならびにその配列同定番号、長さおよびアミノ酸配列を示している。
【0029】
【表1】
(JNK阻害剤ペプチド)
一態様において、本発明はJNK阻害剤ペプチドを提供する。用語の「ペプチド」は特定の長さを意味しない。幾つかの実施形態において、JNK阻害剤ペプチドは、長さがアミノ酸280個未満、例えば長さがアミノ酸150個以下、100個以下、75個以下、50個以下、35個以下、または25個以下である。種々の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドは、配列番号:1〜6および21〜22の1つ以上のアミノ酸配列を含む。一実施形態において、JNK阻害剤ペプチドペプチド類はJNKに結合する。他の実施形態において、前記ペプチドは、少なくとも1つのJNK活性化転写因子、例えば、c−Jun、ATF2またはElk1の活性化を阻害する。
【0030】
JNK阻害剤ペプチドの例として、配列NH2−DTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT−COOH[配列番号:1]を含む(全体をまたは部分的に)ペプチドが挙げられる。他の実施形態において、前記ペプチドは、配列NH2−EEPHKHRPTTLRLTTLGAQDS−COOH[配列番号:2]を含む。あるいは、JNK阻害剤ペプチドの例として、配列、配列NH2−RPKRPTTLNL FPQVPRSQDT−COOH[配列番号:21]を含む(全体をまたは部分的に)ペプチドが挙げられる。
【0031】
JNK阻害剤ペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸または双方の組合わせのポリマーであり得る。例えば、種々の実施形態において、前記ペプチド類は、D−レトロ・インベルソペプチド類である。用語の「レトロ・インベルソ異性体」とは、配列方向が逆の線状ペプチドの異性体を言い、用語の「D−レトロ・インベルソ異性体」とは、配列方向が逆であり、各アミノ酸残基のキラリティーが逆の線状ペプチド異性体を言う。例えば、Jamesonら、Nature、368、p.744−746(1994);Bradyら、Nature、368、p.692−693(1994)を参照されたい。D−鏡像異性体と逆転合成を組合わせた最終結果として、各アミド結合におけるカルボニル基とアミノ基の位置が変換されるが、各アルファ炭素における側鎖基の位置は保持される。他に特に言及しない限り、本発明のいずれの所与のL−アミノ酸配列も、対応する天然L−アミノ酸配列に関する配列の逆転体を合成することによりD−レトロ・インベルソペプチドにすることができる。
【0032】
例えば、D−レトロ・インベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTD−COOH[配列番号:3]または配列NH2−SDQAGLTTLRLTTPRHKHPEE−COOH[配列番号:4]を有する。あるいは、D−レトロ・インベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPF LNLTTPRKPR−COOH[配列番号:22]を含む。予想外なことに、D−レトロ・インベルソペプチドは、種々の有用なペプチドを有することが判明した。例えば、D−TAT、D−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類は、L−TAT、L−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類と同様に、効率よく細胞に入り、またD−TAT、D−TAT−IB、およびD−TAT−JNKIペプチド類は、対応するL−ペプチド類よりも安定である。さらに、D−TAT−IB1は、JNKの阻害において、L−TAT−IBおよびL−TAT−JNKIよりも約10〜20倍効率が低いが、それらはインビボで約50倍安定である。さらに、D−レトロ・インベルソペプチド類は、プロテアーゼ耐性である。最後に、下記でさらに検討されているように、D−TAT−IBおよびD−TAT−JNKIペプチド類は、インターロイキン−1で処理された細胞およびイオン化照射された細胞をアポトーシスから保護し、TAT配列を神経系におけるペプチド処理に関与するニューロンプロテアーゼに極めて鋭敏にする6対のアミノ酸をTAT配列が含有するため、これらのペプチド類は、ニューロンの治療に有用である。例えば、各々が参照としてその全体が本明細書に組み込まれているSteinerら、J.Biol.Chem.267:p.23435−23438(1992);Brugidouら、Biochem.&Biophys.Res.Comm.214:p.685−693(1995)を参照されたい。
【0033】
本発明によるJNK阻害剤ペプチドは、配列NH2−Xn−RPTTLXLXXXXXXXQDS/T−Xn−COOH[配列番号:5,および図2に示されるようにL−TAT−IB、配列番号:13の残基17〜42]を含む。本明細書に用いられるXnは、長さがゼロ残基であり得るか、または配列番号:1および21由来の切れ目のない連なりであり得、好ましくは長さがアミノ酸1個と7個の間の連なりであり、または長さがアミノ酸10個、20個、30個またはそれ以上であり得る。S/Tで表示された単一残基は、総配列におけるSerまたはThrであり得る。さらなる実施形態において、本発明のJNK阻害剤ペプチドは、配列NH2−Xn−S/TDQXXXXXXXLXLTTPR−Xn−COOH[配列番号:6],および図2に示されるようにL−TAT−IB、配列番号:16の残基17〜42]を有するD−レトロ・インベルソペプチドあり得る。
【0034】
JNK阻害剤ペプチドは、当該分野でよく知られた方法、例えば、下記で検討される化学合成、遺伝子工学的な方法によって得られるか、または製造される。例えば、所望の領域またはドメインを含むか、またはインビトロで所望の活性を媒介するJNK阻害剤ペプチドの一部に相当するペプチドを、ペプチド合成機によって合成できる。
【0035】
ペプチドの疎水性領域および親水性領域を同定し、したがって、結合実験、抗体合成などの実験的操作のための基質のデザインを補助するために利用し得る親水性分析(例えば、HoppおよびWoods、1981年、Proc Natl Acad Sci米国78:p.3824−3828を参照)によって候補となるJNK阻害剤ペプチドが分析される。また、特定の構造的モチーフを推定する二次的構造分析が、JNK阻害剤ペプチドの領域を同定するために実施できる。例えば、ChouおよびFasman、1974年、Biochem 13:p.222〜223参照されたい。当該分野で利用できるコンピュータソフトウェアプログラムを用いて操作、翻訳、二次構造の予測、親水性プロフィルおよび疎水性プロフィル、オープンリーディングフレームの予測およびプロッティングおよび配列相同性の決定が達成できる。例えば、X線結晶学(例えば、Engstrom、1974年、Biochem Exp Biol 11:p.7−13を参照);質量分析およびガスクロマトグラフィ(例えば、METHODS IN PROTEIN SCIENCE、1997年、J.Wiley and Sons、ニューヨーク州ニューヨークを参照)およびコンピュータモデリング(例えば、FletterrickおよびZoller編集、1986年、Computer Graphics and Molecular Modeling、In:CURRENT COMMUNICATIONS IN MOLECULAR BIOLOGY、Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州コールドスプリングハーバーを参照)などの他の構造分析法もまた使用し得る。
【0036】
さらに本発明は、L体アミノ酸、例えば表1に示されたL−ペプチド類ならびにこれらの配列の相補体を有するJNK阻害剤ペプチドをコードする核酸に関する。JNK阻害剤ペプチドをコードする好適な核酸源としては、それぞれジーンバンク受入れ番号AF074091およびAAD20443として入手できるヒトIB1核酸(およびそのコード化蛋白質配列)が挙げられる。他の供給源としては、ラットIB1核酸が挙げられ、蛋白質配列は、それぞれジーンバンク受入れ番号AF108959およびAAD22543に示されており、本明細書にその全体が参照として組み込まれている。ヒトIB2核酸および蛋白質配列は、ジーンバンク受入れ番号AF218778に示されており、また、本明細書にその全体が参照として組み込まれている。
【0037】
JNK阻害剤ペプチドをコードする核酸は、当該分野で公知のいずれの方法(例えば、前記配列の3’末端および5’未満にハイブリダイゼーションできる合成プライマーを用いたPCR増幅および/または所与の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチド配列を用いたcDNAまたはゲノムライブラリーからのクローニングによって)によっても得ることができる。
【0038】
1つ以上のJNK阻害剤ペプチドの組み換え発現のためには、前記ペプチドをコードする核酸配列の全てまたは一部を含有する核酸を適切な発現ベクター(すなわち、挿入されたペプチドをコードする配列の転写および翻訳のために必要な要素を含有するベクター)内へ挿入できる。幾つかの実施形態において、調節要素は、非相同である(すなわち、生来の遺伝子プロモーターではない)。あるいは、また、必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルが、遺伝子および/またはそれらのフランキング領域に関する生来のプロモーターによって供給され得る。
【0039】
ペプチドをコードする配列(単数または複数)を発現させるために、種々の宿主−ベクター系が利用できる。これらには、限定はしないが:(i)ワクシニアウィルス、アデノウィルスなどに感染している哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウィルスなどに感染している昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含有する酵母、または(iv)バクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNAによって形質転換した細菌が挙げられる。利用される宿主−ベクター系に依って、多数の転写要素および翻訳要素のうちのいずれか1つが使用できる。
【0040】
発現ベクター内のプロモーター/エンハンサー配列には、本発明で提供される植物、動物、昆虫または真菌の調節配列が利用できる。例えばプロモーター/エンハンサー要素は、酵母および他の真菌(例えば、GAL4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)から使用できる。代替としてまたは、それに加えて、それらには、動物転写制御領域、例えば、(i)膵臓のβ−細胞内で活性なインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahanら、1985年、Nature315:p.115−122を参照);(ii)リンパ球内で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedlら、1984年、Cell38:p.647−658を参照);(iii)肝臓内で活性なアルブミン(例えば、Pinckertら、1987年、Genes and Dev 1:p.268−276を参照);(iv)脳の乏突起膠細胞内で活性なミエリン塩基性蛋白質遺伝子制御領域;および(v)視床下部内で活性なゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Masonら、1986年、Science234:p.1372−1378を参照)などが挙げられる。
【0041】
発現ベクターまたはそれらの誘導体としては、例えばヒトウィルスまたは動物ウィルス(例えば、ワクシニアウィルスまたはアデノウィルス);昆虫ウィルス(例えば、バキュロウィルス);酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、ラムダファージ);プラスミドベクターおよびコスミドベクターが挙げられる。
【0042】
所望の特定の様式で目的の被験体の挿入配列の発現を変調させるか、または前記配列によってコードされる発現ペプチドを修飾、または処理する宿主細胞が選択できる。また、選択された宿主系において、ある一定の誘発物質の存在下で、ある一定のプロモーターの発現を増強でき、したがって、遺伝子工学ペプチドの発現制御を助けることができる。さらに、種々の宿主細胞が発現ペプチドの翻訳処理および翻訳後処理ならびに修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化など)に関する特徴および特定の機構を有している。したがって、外来ペプチドの所望の修飾および処理の達成を確実にするために、適切な細胞系または宿主系が選択できる。例えば、非グリコシル化コアペプチドを製造するために、細菌系内におけるペプチド発現が使用でき、一方、哺乳動物細胞内における発現によって、非相同ペプチドの「生来の」グリコシル化が確実になる。
【0043】
また、本発明には、JNK阻害剤ペプチドの誘導体、断片、相同体、アナログおよび変異体ならびにこれらのペプチドをコードする核酸が含まれる。本明細書に提供される核酸、誘導体、断片およびアナログは、少なくとも6つの(連続的な)核酸の配列であり、また、特異的なハイブリダイゼーションを可能にするのに十分な長さを有する配列として規定される。本明細書に提供される核酸、誘導体、断片およびアナログは、少なくとも4つの(連続的な)アミノ酸であり、エピトープの特異的な認識を可能にするのに十分な長さの配列として規定される。
【0044】
前記断片の長さは、JNK阻害剤ペプチドまたは同一物をコードする核酸が誘導される、対応する完全長核酸またはポリペプチドの長さ未満である。前記誘導体またはアナログが修飾された核酸またはアミノ酸を含有する場合、その誘導体またはアナログは、完全長であっても、完全長以外であってもよい。JNK阻害剤ペプチドの誘導体またはアナログとしては、例えば、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列上で、または当該分野に公知のコンピュータ相同性プログラムにより整列がなされた整列配列と比較した場合、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%またはさらに99%の同一性で前記ペプチドと実質的に相同である領域を含む分子が挙げられる。例えば、その中に省略時パラメータを使用した配列分析ソフトウェア(Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、53705ウィスコンシン州マジソン、大学大通り1710)を用いて配列同一性を測定できる。
【0045】
参照配列に対して同一性が100%未満であるポリペプチド配列の場合、非同一性の位置は、参照配列の保存的置換であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。保存的置換としては、典型的に、以下の基:グリシンとアラニン;バリン、イソロイシンとロイシン;アスパラギン酸とグルタミン酸;アスパラギンとグルタミン;セリンとトレオニン;リジンとアルギニン;およびフェニルアラニンとチロシン内の置換が挙げられる。したがって、本発明には、対応する親配列と、例えば配列において、機能において、および抗原性または他の機能において、相同性を残存させているような変異配列を有するペプチドが含まれる。このような変異は、例えば、保存的アミノ酸変化、例えば概して同様な分子の性質を有するアミノ酸との間の変化を伴う変異であり得る。例えば、脂肪族基、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン内の交換は、保存的の考えることができる。時には、これらのうちの1つとグリシンとの置換は、保存的と考えることができる。他の保存的交換としては、脂肪族基のアスパラギン酸塩とグルタミン酸塩内;アミド基のアスパラギンとグルタミン内;ヒドロキシル基のセリンとトレオニン内;芳香族基のフェニルアラニン、チロシンとトリプトファン内;塩基性基のリジン、アルギニンとヒスチジン内;および硫黄含有基のメチオニンとシステイン内での交換が挙げられる。時には、メチオニン基とロイシン基内の置換も保存的と考えることができる。好ましい保存的置換基は、アスパラギン酸塩−グルタミン酸塩;アスパラギン−グルタミン、バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン;およびリジン−アルギニンである。
【0046】
特定のポリペプチドが規定された長さの参照ポリペプチドに対して特定の同一性パーセントを有していると言われる場合、その同一性パーセントは、参照ペプチドに関連する。したがって、アミノ酸100個の長さの参照ポリペプチドに50%同一であるペプチドは、参照ポリペプチドのアミノ酸50個の長さの部分に完全に同一であるアミノ酸50個のポリペプチドであり得る。また、それは参照ポリペプチドの全体の長さの50%同一である、アミノ酸100個の長さのポリペプチドでもあり得る。もちろん、他のポリペプチドが同じ基準に合致するであろう。
【0047】
本発明はまた、開示されたポリヌクレオチドまたはペプチドの対立変異体、すなわち、前記ポリヌクレオチドによってコードされるものに同一の、相同の、または関連するペプチドをもコードする単離ポリヌクレオチドの天然の代替形態も包含する。あるいは、突然変異誘発法により、または直接的合成により非天然の変異体を製造し得る。
【0048】
開示されたポリヌクレオチドおよびペプチドの種相同体もまた、本発明によって提供される。「変異体」とは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、それの本質的な性質を保持しているポリヌクレオチドまたはポリペプチドを言う。一般に変異体は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと、全体的に非常に類似しており、また、多くの領域で同一である。変異体は、コード領域、非コード領域または双方における変更を含み得る。
【0049】
幾つかの実施形態において、変更配列は、全体のアミノ酸配列が長くなる一方で、蛋白質が輸送性を保持するような挿入を含む。さらに、変更配列は、全体のアミノ酸配列を短くする一方、蛋白質が輸送性を保持するランダムな、またはデザインされた内部欠失を含み得る。
【0050】
前記変更配列はさらに、または代替としてJNK阻害剤ペプチドが誘導されるポリペプチドまたはペプチドをコードする天然のポリヌクレオチドの適切な鎖により、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うポリヌクレオチドによってコードされ得る。前記変異ペプチドは、本明細書に記載したアッセイを用いて、JNK結合およびJNK媒介活性の変調に関して試験することができる。「ストリンジェントな条件」は、配列依存性であり、異なった状況においては異なってくる。一般に「ストリンジェントな条件」は、特定のイオン強度およびpHにおいて、特定の配列に関する熱融解点(TM)よりも約5℃低く選択できる。TMは、標的配列の50%が完全マッチプローブにハイブリダイゼーションを行う温度(特定のイオン強度およびpHにおいて)である。典型的には、ストリンジェントな条件は、pH7における塩濃度が少なくとも約0.02モルであり、温度が少なくとも約60℃である条件となる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーには他の要因(他にもあるが、中でも塩基組成および相補鎖のサイズなど)が影響し得るため、有機溶媒の存在および塩基ミスマッチの程度、パラメータの組合わせが、いずれか1つの絶対的基準よりも重要である。
【0051】
高ストリンジェンシーとしては、例えば、以下を挙げることができる:ステップ1:6XSSC、50mMトリス−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.02% BSAおよび500μg/mlの変性サケ精子DNAからなる緩衝液中、DNA含有フィルタを65℃で8時間から一晩、前処理する。ステップ2:上記の前ハイブリダイゼーション混合液中、65℃で48時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行い、それに、100mg/mlの変性サケ精子DNAおよび5〜20X106cpmの32P標識プローブを添加する。ステップ3:2X SSC、0.01%Ficollおよび0.01%BSAを含有する溶液中、37℃で1時間フィルタを洗浄する。この後、0.1X SSC中、50℃で45分間洗浄する。ステップ4:フィルタのオートラジオグラフィを行う。使用し得る他の高ストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0052】
中程度にストリンジェントな条件としては、以下を挙げることができる::ステップ1:6X SSC、5Xデンハート溶液、0.5%SDSおよび100mg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中、DNA含有フィルタを55℃で6時間前処理する。ステップ2:5〜20X 106cpmの32P標識プローブを添加した。同一溶液中、55℃で18〜20時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行う。ステップ3:2X SSC、0.1%SDSを含有する溶液中、37℃で1時間フィルタを洗浄し、次に1X SSCおよび0.1%SDSを含有する溶液中、60℃で30分間、2回洗浄する。ステップ4:フィルタをブロット乾燥し、オートラジオグラフィに曝露する。使用し得る他の中程度のストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0053】
低ストリンジェンシーとしては以下を挙げることができる:ステップ1:35%ホルムアミド、5X SSC、50mMトリス−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1% PVP、0.1% Ficoll、1% BSAおよび500μg/mlの変性サケ精子DNAからなる溶液中、DNA含有フィルタを40℃で6時間前処理する。ステップ2:0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.2% BSAおよび100μg/mlのサケ精子DNA、10%(重量/容量)硫酸デキストランおよび5〜20X 106cpmの32P標識プローブを添加した同一溶液中、40℃で18〜20時間、フィルタのハイブリダイゼーションを行う。ステップ3:2X SSC、25mMトリス−HCl(pH7.4)、5mM EDTAおよび0.1%SDSを含有する溶液中、55℃で1.5時間フィルタを洗浄する。洗浄液を新鮮な溶液と取替え、60℃でさらに1.5時間温置する。ステップ4:フィルタをブロット乾燥し、オートラジオグラフィに曝露する。必要ならば、フィルタを3回目に65〜68℃で洗浄し、フィルムに再曝露する。使用し得る他の低ストリンジェントな条件は、当該分野によく知られている(例えば、種交差ハイブリダイゼーションに使用されるような)。例えば、Ausubelら(編集)、1993年、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、ニューヨーク;Kriegler、1990年、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、ニューヨークを参照されたい。
【0054】
(JNK阻害剤ドメインおよび輸送ドメインを含むキメラペプチド)
他の態様において、本発明は、第1および第2のドメインを含むキメラペプチドを提供する。第1のドメインは、輸送配列を含み、一方、第2のドメインは、共有結合、例えば、ペプチド結合により第1のドメインに結合しているJNK阻害剤配列を含む。第1および第2のドメインは、ペプチド内いずれの順序においても生じ得、前記ペプチドは、各ドメインの1個以上を含み得る。
【0055】
輸送配列は、それが存在するペプチドを所望の細胞目的へ方向づけるアミノ酸の何らかの配列である。したがって、輸送配列は、前記ペプチドを、原形質膜を越えて、例えば、細胞の外から、原形質膜を通って細胞質内へ方向づけることができる。あるいはまたは、それに加えて、輸送配列は、前記ペプチドを細胞内の所望の場所、例えば、核、リボソーム、ER、リソソーム、ペルオキシソームへ方向づけることができる。
【0056】
幾つかの実施形態において、輸送ペプチドは、公知の膜転座配列から誘導される。例えば、輸送ペプチドは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)1 TAT蛋白質の配列を含み得る。この蛋白質は、例えば、米国特許第5,804,604号および米国特許第5,674,980号に記載されており、各々参照として本明細書に組み込まれている。JNK阻害剤ペプチドは、TAT蛋白質を構成する全86個のアミノ酸の幾つか、または全てと結合している。例えば、細胞内への取り込み、場合によっては細胞の核内への取り込みを表す86個以下のアミノ酸を有するTAT蛋白質の機能的に有効な断片または部分を用いることができる。例えば、参照として本明細書にその全体が組み込まれているVivesら、J.Biol.Cem.、272(25):p.16010−17(1997)を参照されたい。一実施形態において、前記断片は、TAT残基48〜57、例えば、NH2−GRKKRRQRRR−COOH[配列番号:7]または包括的TAT配列NH2−Xn−RKKRRQRRR−Xn−COOH[配列番号:9]を含有するペプチドを含む。細胞内への進入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチドを公知の方法を用いてさらに規定できる。例えば、Frankedら、Proc.Natl.Acad.Sci.米国86:p.7397−7401(1989)を参照されたい。
【0057】
TAT配列は、JNK阻害剤配列のN末端またはC末端のいずれかに結合し得る。TATとJNK阻害剤ペプチドとの間に2つのプロリン残基のかなめが加わって完全融合ペプチドが創製される。例えば、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−IB1ペプチド[配列番号:11]、L−TAT−IB2ペプチド[配列番号:12]または包括的L−TAT−IBペプチド[配列番号:13]であり得る。あるいは、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−JNKI1ペプチド[配列番号:21]または包括的L−TAT−JNKIペプチド[配列番号:25]であり得る。Dレトロ逆ー融合ペプチドは、D−TAT−IB1ペプチド[配列番号:14]、D−TAT−IB2ペプチド[配列番号:15]または包括的D−TAT−IBペプチド[配列番号:16]であり得る。あるいは、Dレトロ・インベルソ融合ペプチドは、D−TAT−JNKI1ペプチド[配列番号:22]または包括的L−TAT−JNKIペプチド[配列番号:26]であり得る。TATペプチドは、配列、NH2−Xn−RRRQRRKKR−Xn−COOH[配列番号:10]を有するDレトロ−」逆融合ペプチドであり得る。配列番号:5〜6、9〜10、13、16および25〜26において、「X」残基の数は、示されたものに限定されず、アミノ酸残基のゼロを含む任意の数に等しいことがあり得、上記のように変化し得る。
【0058】
輸送配列は、TAT配列に存在する単独(すなわち連続的)アミノ酸配列であり得る。あるいは、輸送配列は、TAT蛋白質内に存在するが、天然の蛋白質においては、他のアミノ酸配列によって分離されている2つ以上のアミノ酸配列であり得る。本明細書に用いられるTAT蛋白質は、天然のTAT蛋白質またはその機能的に等価な蛋白質またはその機能的に等価な断片(ペプチド類)のアミノ酸配列と同じ天然のアミノ酸配列を含む。このような機能的に等価な蛋白質または機能的に等価な断片は、天然のTAT蛋白質の細胞内および細胞の核内への取り込み活性と実質的に同様な活性を有する。TAT蛋白質は、天然供給源から得ることができるか、または遺伝子工学法または化学合成を用いて製造できる。
【0059】
天然のHIVTAT蛋白質のアミノ酸配列は、例えば、天然のTAT蛋白質に存在する少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失および/または置換によって修飾でき、修飾TAT蛋白質(本明細書ではTAT蛋白質とも称される)を作製できる。安定性を増加または減少させた修飾TAT蛋白質またはTATペプチドアナログを、公知の方法を用いて製造できる。幾つかの実施形態において、TAT蛋白質またはTATペプチドは、その天然のTAT蛋白質またはTATペプチドのアミノ酸配列と同一ではないが、相当に類似したアミノ酸配列を含む。また、コレステロールまたは他の脂質誘導体をTAT蛋白質に付加することができ、膜溶解性の増加した修飾TATを製造することができる。
【0060】
TAT−JNK阻害剤ペプチドの分子内局在化を調整するためにTAT蛋白質の変異体をデザインすることができる。外因的に加えられる場合、このような変異体は、細胞に進入するTATの能力が保持される(すなわち変異TAT蛋白質またはTATペプチドの細胞内への取り込みが天然のHIV TATのそれと相当に類似している)ようにデザインされる。例えば、核の局在化に重要であると考えられる塩基性領域の変更(例えば、DangおよびLee、J.Biol.Chem.264:p.18019−18023(1989);Hauberら、J.Virol.63:p.1181−1187(1989);Rubenら、J.Virol.63:p.1−8(1989)を参照)は、TATの、したがってJNK阻害剤ペプチドの細胞質の位置づけまたは部分的な細胞質の位置づけをもたらし得る。あるいは、TATおよびJNK阻害剤ペプチドの細胞質またはいずれかの他の区画に保持してTATおよびJNK阻害剤ペプチドの取り込みを調節するために、細胞質の、または他のいずれかの成分または区画(例えば、小胞体、ミトコンドリア、グルーム器官、リソソーム小胞)結合に関する配列をTATに導入することができる。
【0061】
輸送ペプチドの他の供給源としては、例えばVP22(例えば、国際公開第97/05265号;ElliotおよびO’Hare、Cell 88:p.223−233(1997)に記載されている)または、非ウィルス蛋白質(Jacksonら、Natl.Acad.Sci.米国89:p.10691−10695(1992))が挙げられる。
【0062】
JNK阻害剤配列および輸送配列は、当該分野で公知の好適な様式で化学的カップリングによって結合させることができる。公知の多くの化学架橋法は、非特異的である。すなわち、それらは、輸送ポリペプチドまたはカーゴ高分子上の特定の部位にカップリング箇所を指定しない。その結果、非特異的架橋剤の使用によって、機能的部位が攻撃されるか、または活性部位がブロックされ得、共役蛋白質は、生物学的に不活性にされる。
【0063】
カップリング特異性を増大させる1つの方法は、1つ、または双方のポリペプチドにほんの1回または少数回見られる官能基に対する直接化学的カップリングを架橋させることである。例えば、多くの蛋白質において、チオール基を含有する唯一の蛋白質アミノ酸であるシステインは、ほんの少数回見出される。また、例えば、あるポリペプチドがリジン残基を含有しない場合、第一級アミンに特異的な架橋剤は、そのポリペプチドのアミノ末端に選択的となる。カップリング特異性を増加させるためのこの方法の利用に好結果をもたらすためには、分子の生物学的活性の損失なしで変化し得る分子の領域にポリペプチドが好適に希少で、反応性の残基を有することが必要である。
【0064】
システイン残基は、架橋反応におけるそれらの寄与が、それ以外では生物学的活性を妨げる可能性のあるポリペプチド配列の部分に見出される場合、置換できる。システイン残基が置換される場合、典型的には、ポリペプチドの折りたたみにおいて生じ得る変化を最小化することが望ましい。ポリペプチドの折りたたみにおける変化は、前記置換が化学的に、および立体的にシステインに類似している場合に最小化される。これらの理由で、システインの置換体としてはセリンが好ましい。下記の例に示されるように、システイン残基は、架橋目的でポリペプチドのアミノ酸配列内へ導入できる。システイン残基を導入する場合、アミノ末端またはカルボキシ末端における、またはその近くでの導入が好ましい。目的の被験体のポリペプチドが化学合成によって製造されようと、組み換えDNAの発現によって製造されようと、このようなアミノ酸配列の修飾のために、従来の方法が利用できる。
【0065】
2つの構成要素のカップリングは、カップリング剤または共役化剤によって達成できる。利用できる幾つかの分子間架橋試薬がある。例えば、MeansおよびFeeney、CHEMICAL MODIFICATION OF PROTEINS、Holden−Day、1974年、p.39−43を参照されたい。これらの試薬の中には、例えば、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸J−スクシンイミジル(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(双方とも、スルフヒドリル基に対して特異性が高く非可逆的結合を形成する);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または6個から11個の炭素メチレン架橋を有する他のこのような試薬(スルフヒドリル基に対して比較的特異性がある);および1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(アミノ基およびチロシン基と非可逆的結合を形成する)がある。この目的に有用な他の架橋試薬としては:P,P’−ジフルオロ−m、m’−ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基およびフェノール性基と非可逆的結合を形成する);ジメチルアジピミデート(アミノ基に特異的である);フェノール−1,4−ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネートまたはジイソチオシアネートまたはアゾフェノール−p−ジイソシアネート(主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(幾つかの異なった側鎖と反応する)およびジスジアゾベンジジン(主にチロシンおよびヒスチジンと反応する)が挙げられる。
【0066】
架橋試薬は、ホモ二官能性であり得る。すなわち、同じ反応を受ける2つの官能基を有し得る。好ましいホモ二官能性架橋試薬は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」)である。BMHは、2つのマレイミド官能基を含有し、緩和な条件下(pH6.5〜7.7)で、スルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖によって結合している。したがって、BMHは、システイン残基を含有するポリペプチドの非可逆的架橋に有用である。
【0067】
また架橋試薬は、ヘテロ二官能性であり得る。ヘテロ二官能性架橋剤は、2つの異なった官能基、例えば、アミン反応性基とチオール反応性基を有し、遊離アミンおよびチオールの各々を有する2つの蛋白質に架橋する。ヘテロ二官能性架橋剤の例は、4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸スクシンイミジル(「SMCC」)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」)およびMBSの延長鎖類縁体である4−(p−マレイミドフェニル)酪酸スクシンイミド(「SMPB」)である。これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、第一級アミンと反応し、チオール反応性のマレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0068】
架橋試薬は、水に低溶解性であることが多い。その水溶性を高めるために、架橋試薬に、スルホネート基などの親水性部分を付加できる。スルホ−MBSおよびスルホ−SMCCは、水溶性のために修飾された架橋試薬の例である。
【0069】
多くの架橋試薬は、細胞条件下では本質的に非開裂性の共役体を生成させる。しかしながら、幾つかの架橋試薬は、細胞条件下で開裂性であるジスルフィドなどの共有結合を含有する。例えば、トラウト試薬、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(「DSP」)および3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−スクシンイミジル(「SPDP」)は、周知の開裂性架橋剤である。開裂性架橋試薬の使用により、標的細胞内への送達後、カーゴ部分が輸送ポリペプチドから分離することが可能となる。直接的ジスルフィド結合もまた有用である。
【0070】
上記に検討したものも含めて多数の架橋試薬が商品として入手できる。それらの使用に関する詳しい説明書は商品の供給元から容易に入手できる。蛋白質架橋および共役体調製についての一般的な参考文献は、Wong、CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS−LINKING、CRC Press(1991)である。
【0071】
化学的架橋は、スペーサーアームの使用を含む。スペーサーアームは、分子内屈曲性を提供するか、または共役部分間の分子間距離を調節し、それによって、生物学的活性を保存する助けとなり得る。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸、例えば、プロリンを含むポリペプチド部分の形態であり得る。あるいは、スペーサーアームは、「長鎖SPDP」(Pierce Chem.社、イリノイ州ロックフォード、カタログ番号21651H)におけるような架橋試薬の部分であり得る。
【0072】
あるいは、公知の好適な宿主細胞に便宜よく発現できる輸送配列と、JNK阻害剤配列を含む融合ペプチドとしてキメラペプチドを製造できる。本明細書に記載される融合ペプチドは、上記の標準的な組み換えDNA法に類似した方法で、またはそれらから容易に改造できる方法で形成でき、また利用できる。
【0073】
(JNK阻害剤ペプチドに特異的な抗体の製造)
JNK阻害剤ペプチドを含むキメラペプチドなどのJNK阻害剤ペプチド(例えば、表1に示されたアミノ酸配列を含むペプチド)ならびにそれらのペプチドまたは誘導体、断片、アナログまたは相同体は、これらのペプチド成分に免疫特異的に結合する抗体を生成するために免疫原として利用し得る。このような抗体としては、例えば、ポリクローナル鎖、モノクローナル鎖、キメラ鎖、単独鎖、Fab断片およびFab発現ライブラリが挙げられる。特定の実施形態において、ヒトペプチドに対する抗体が開示されている。他の特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドの断片が抗体生産用の免疫原として使用される。JNK阻害剤ペプチド、またはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の生産のために、当該分野で公知の種々の操作を使用できる。
【0074】
ポリクローナル抗体生産のために、種々の宿主動物を、天然ペプチドまたはその合成変異体または前記のものの誘導体の注入により免疫化し得る。免疫学的応答を増大させるために、種々のアジュバントを使用でき、限定はしないが、フロイントのアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル類(例えば、水酸化アルミニウム)、界面活性化物質(例えば、レソレシチン、プルロニックポリオール類、ポリアニオン類、ペプチド類、油性エマルジョン、ジニトロフェノールなど)およびカルメット・ゲラン杆菌およびコリネバクテリウムパルブムなどのヒトアジュバントが挙げられる。
【0075】
JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に向けられたモノクローナル抗体の調製には、連続的な細胞系培養による抗体分子の製造を提供する任意の方法を利用し得る。このような方法として、限定はしないが、ハイブリドーマ法(KohlerおよびMilstein、1975年、Nature 256:p.495−497を参照);トリオーマ法;ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozborら、1983年、Immunol Today4:p.72を参照)およびヒトモノクローナル抗体を製造するためのEBVハイブリドーマ法(Coleら、1985年、in:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss社、p.77−96を参照)が挙げられる。ヒトモノクローナル抗体は、本発明の実施において利用でき、ヒトハイブリドーマの利用に(Coteら、1983年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国80:p.2026−2030を参照)により、またはインビトロでのエプスタイン−バーウイルスによるヒトB細胞の形質転換(Coleら、1985年、in:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss社、p.77−96を参照)により製造できる。
【0076】
本発明によれば、JNK阻害剤ペプチドに特異的な一本鎖抗体製造のための方法を改造できる(例えば、米国特許第4,946,778号を参照)。また、JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対する所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速で効率的な同定を可能にするためのFab発現ライブラリ構築(例えば、Huseら、1989年、Science246:p.1275−1281を参照)用に方法論を改造することができる。非ヒト抗体は、当該分野で周知の方法によって「ヒト化」することができる。例えば、米国特許第5,225,539号を参照されたい。JNK阻害剤ペプチドに対するイディオタイプを含有する抗体断片は、例えば、(i)抗体分子のペプシン消化により生産されたF(ab’)2断片;(ii)F(ab’)2断片のジスルフィド架橋還元により生成したFab断片;(iii)パパインおよび還元剤による抗体分子の処理により生成したFab断片および(iv)Fv断片などの当該分野に公知の方法により生産できる。
【0077】
一実施形態において、所望の特異性を有する抗体スクリーニングの方法論として、限定はしないが、酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)および当該分野で公知の他の免疫学的に媒介された方法が挙げられる。特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドの特定のドメインに特異的な抗体の選択は、そのようなドメインを有するJNK阻害剤ペプチドの断片に結合するハイブリドーマの生成によって促進される。JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体のうちのドメインに特異的な抗体もまた、本明細書に提供される。
【0078】
抗JNK阻害剤ペプチド抗体は、JNK阻害剤ペプチドの局在化および/または定量化に関する当該分野に公知の方法において使用できる(例えば、適当な生理学的サンプル内のペプチド濃度の測定における使用に、診断法における使用に、ペプチドの画像化における使用になど)。所与の実施形態において、抗体誘導結合ドメインを含有する、JNK阻害剤ペプチドまたはその誘導体、断片、アナログまたは相同体に対する抗体は、製薬上有効化合物(以後、「治療薬」)として利用される。
【0079】
(障害の治療法または予防法)
(望ましくないJNK活性に関連した障害)
また、本発明には、被験者におけるJNK活性化剤に伴う細胞増殖性障害を、被験者に生物学的に活性な治療用化合物(以後、「治療薬」)を投与することにより治療する方法も含まれる。
【0080】
用語の「細胞増殖性障害」とは、周囲組織とは形態学的におよび機能的にしばしば異なっているように見える悪性ならびに非悪性の細胞集団を意味する。例えば、JNKの活性化がしばしば示されてきた種々の器官系、例えば、肺、乳房、リンパ球、胃腸管および尿生殖器管の悪性腫瘍ならびに多くの大腸癌、腎細胞上皮悪性腫瘍、前立腺癌、肺の非小細胞上皮悪性腫瘍、小腸癌および食道癌などの悪性腫瘍も含む腺癌の治療に、本法は有用であり得る。JNKの活性化を明らかに必要とするBcr−Ab1発癌性形質転換による癌もまた含まれる。
【0081】
本法はまた、乾癬、尋常天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、白血病、リウマチ様関節炎、後天性免疫不全症候群、血管炎、敗血症性ショックおよび他のタイプの急性炎症、および脂質性組織球増殖症などの非悪性または免疫学的に関連した細胞増殖性疾患の治療にも有用である。特に好ましいのは、免疫病理学的疾患である。本質的に、病因学的にJNKキナーゼ活性に関連しているいずれの疾患も治療に対して感受性があると考えられよう。
【0082】
(聴力低下)
また、本発明には有毛不動毛への損傷、有毛アポトーシス、またはニューロンアポトーシスを防ぐ治療薬、すなわち細胞透過性の生物活性ペプチドを被験者に投与することにより、聴力低下を予防または治療する方法も含まれる。前記治療薬は、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、21、22、23、24、25、26、27または28のペプチドであることが好ましい。
【0083】
大きな騒音への曝露は、コルチ器官損傷により、騒音誘導聴力低下(NIHL)を生じさせる。NIHL損傷は、騒音レベルと曝露時間の双方に依存する。修復機構がコルチ器官を回復させることができる場合、聴力低下は一時的(TTS)であり得る。しかし、有毛細胞またはニューロンが死滅すると、それは永続的(PTS)となる。騒音傷害に対し構造的に相関するものに2つのタイプがある。すなわち、(1)修復でき、TTSおよび回復の原因であるシナプス、および有毛細胞不動毛の軽度の損傷および(2)修復できず、PTSの原因である有毛細胞およびニューロンのアポトーシスを誘導する重篤な損傷。
【0084】
前記治療薬は、騒音傷害、抗生剤または化学療法剤に対する曝露前に被験者に投与される。あるいは、前記治療薬は、騒音傷害、抗生剤または化学療法剤に対する曝露後に被験者に投与される。
【0085】
騒音傷害は、コルチ器官に損傷を起こすのに十分な騒音である。例えば、騒音傷害は、少なくとも70dB SPL、少なくとも90dB SPL、または少なくとも100dB SPL、少なくとも120dB SPL、または少なくとも130dB SPLである。
【0086】
抗生物質としては、例えば、ペニシリンG、ペニシリンV、アンピシリン、アモキシシリン、ジクロキサシリンおよびオキサシリンなどのペニシリン類;セファレキシン(ケフレックス)、セファクロル(セクロール)およびセフィキシム(スプラックス)などのセファロスポリン類;トブラマイシンおよびストレプトマイシンなどのアミノグリコシド;エリスロマイシン、アジスロマイシン(ジスロマックス)およびクラリスロマイシンなどのマクロライド類;トリメトプリン−サルファメトキサゾールなどのスルホンアミド類、またはテトラサイクリンまたはドキシサイクリンなどのテトラサイクリン類が挙げられる。
【0087】
(ニューロン障害)
また、本発明には、ニューロンへの損傷またはニューロンのアポトーシスを防ぐ細胞透過性生物活性ペプチドの組成物を、細胞または被験者に投与することにより、ニューロン細胞死に関連した障害を治療または予防する方法も含まれる。前記組成物は、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜26のペプチドである。
【0088】
前記組成物は、ニューロン細胞の興奮毒性、または酸化的ストレス誘導の死滅を防ぐ働きをすることが好ましい。ニューロン細胞は、中枢または末梢の神経系由来の任意の細胞、例えば、ニューロン、神経突起、または樹状突起である。前記細胞は、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで接触させる。被験者は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタである。
【0089】
ニューロン死は、当該分野に公知の方法で測定される。例えば、細胞死は、顕微鏡で、または、カルセイン−am(分子プローブ)などの化学的指標を用いて測定される。
【0090】
興奮毒性は、発作における神経細胞死の基礎をなす主要機構であり、無酸素および外傷性脳損傷は、興奮毒性である。興奮毒性は、向イオン性グルタメート受容体、特にN−メチル−D−アスパルテートのサブタイプの受容体の過度の活性化が引き金となり、それによって、細胞死を引き起こすCa2+の急速な流入に至る。例えば、Dirnaglら、Trends in Neurosci.22:p.391−97(1999);Zipfelら、J.of Neurotrauma、17:p.857−69(2000)を参照されたい。
【0091】
前記方法は、種々のニューロン障害の症状を軽減するために有用である。ニューロン障害は、急性または慢性である。ニューロン障害としては、てんかん性発作から生じるシェミック発作、大脳虚血、低酸素/虚血脳損傷、外傷性脳損傷、ニューロン死などの興奮毒性事象に関連するもの、およびアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病などの幾つかの神経変性疾患に関連するニューロン死が挙げられる。
【0092】
大脳虚血におけるニューロン死は、興奮毒性機構に関連している。大脳虚血(例えば、全体的大脳虚血、および焦点大脳虚血)は、発作、頭部傷害、または心臓停止に依る。全体的大脳虚血は、心臓停止または両側頚動脈閉塞から生じる。
【0093】
焦点大脳虚血は、大脳動脈閉塞後の大脳の血流減少から生じる。焦点大脳虚血は、エネルギー消耗興奮毒性および梗塞周囲の脱分極などの事象の複雑な病因的カスケードならびにアポトーシスおよび炎症の双方を含むより遅延化した機構によるニューロンの壊死的死滅をもたらす。焦点大脳虚血はさらに、血栓性または塞栓性焦点虚血に分けられる。血栓性発作は、脳内に形成された血塊により大脳動脈が遮断される時に生じる。塞栓性発作もまた、血塊化動脈により生じるが、塞栓性発作では、血塊が脳自体以外のどこかで形成される。
【0094】
本明細書に記載された方法は、本明細書に記載されたものなどのニューロン障害の1つ以上の症状の重症度の低下または軽減をもたらす。ニューロン障害は、典型的には標準的な方法論を用いて医師により診断され、および、またはモニターされる。
【0095】
実施例に記載されているように、本発明のJNKIペプチドは、高レベルのニューロン保護を提供し、さらにJNKIペプチドが虚血発現の6〜12時間後に投与された場合でもその保護レベルは高いままであることが示された。虚血後9時間までに投与された種々の化合物で30〜50%のニューロン保護が証明されている(例えば、それぞれが本明細書に参照としてその全体が組み込まれているFinkら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、18:p.1071−76(1998);Williamsら、Neuroreport、13:p.821−24(2002)を参照されたい)が、本発明のJNKIペプチドは、下記の実施例に記載されているように、虚血事象12時間後に投与された場合に保護を提供することが示された。
【0096】
虚血性発作などの興奮毒性事象を経験しているか、または経験した多くの患者は、興奮毒性事象の3時間後から6時間後以内に医療援助を求める。細胞死機構の活性化には興奮毒性事象後、数時間かかり得るため、虚血性事象において生じる損傷などの興奮毒性損傷を治療、または予防するために利用できる時間の長さは重要である。したがって、治療薬は、興奮毒性事象を経験する前に、被験体に投与することができる。あるいは、治療薬は、興奮毒性事象を被験体が経験した後に投与することができる。
【0097】
(膵臓小島細胞死の抑制)
また、被験者に生物活性治療薬を投与すること、細胞、または被験者に細胞死または細胞損傷を防ぐ生物活性ペプチドを含有する組成物(治療薬)を投与することにより、細胞損傷または細胞死の防止または酸化的−ストレス誘導細胞死(例えば、アポトーシス細胞死)などの異常な細胞損傷を防ぐ方法も含まれる。前記細胞は、例えば、膵細胞である。前記治療薬は、配列番号:1、2、3、4、5、6、11、12、13、14、15、16、または21〜26のペプチドであることが好ましい。場合によっては、前記細胞または被験者は、コラゲナーゼもまた投与される。
【0098】
前記ペプチドは、被験者が、インターロイキンなどの炎症誘発性サイトカインに曝露される前または後にも投与される。
【0099】
前記被験者は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタであり得る。
【0100】
(製薬組成物)
前記治療薬としては、例えば:(i)JNK阻害剤ペプチドおよびその誘導体、断片、アナログおよび相同体のいずれか1つ以上;(ii)JNK阻害剤ペプチドに向けられた抗体;(iii)JNK阻害剤ペプチドおよびその誘導体、断片、アナログおよび相同体をコードする核酸;(iv)JNK阻害剤ペプチドをコードする配列に対するアンチセンス核酸および(v)モジュレーター(すなわち、阻害剤、アゴニストおよびアンタゴニスト)が挙げられる。
【0101】
用語の「治療上有効な」とは、例えば、使用される阻害剤ペプチド量が、JNK関連疾患」を改善するために十分な量であることを意味する。
【0102】
治療としては、JNKキナーゼ活性を調整する試薬の投与が挙げられる。用語の「調整する」には、JNKが過剰発現する場合のJNK発現の抑制が挙げられる。また、それには、細胞内の天然のc−jun、ATF2結合部位およびNFAT4結合部位の競合的阻害剤として、例えば、配列番号:1〜6および21〜22ならびに配列番号:11〜16および23〜26のいずれか1つ以上のペプチドを用いることによるc−jun、ATF2またはNFAT4のリン酸化抑制も挙げられる。したがって、c−jun、ATF2またはNFAT4から構成される転写因子のヘテロおよびホモ複合体およびそれらの例えば、c−jun、ATF2およびc−fosから構成されるAP−1複合体などの関連パートナーの抑制も挙げられる。細胞増殖障害が、JNKの過剰発現に関連している場合、このような抑制的JNK阻害剤ペプチドが細胞に導入できる。幾つかの例では、「調整する」には、例えば、JNKに対するIBペプチドの結合を妨げるIBペプチド特異的抗体の使用によりJNK発現を増加させ、したがって、IB関連ペプチドによるJNK阻害の防止を挙げることができる。本発明のJNK阻害剤、ペプチド、融合ペプチドおよび核酸は製薬組成物中に製剤化することができる。これらの組成物は、上記物質の1つに加えて、製薬上許容できる賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または当業者に周知の他の物質を含み得る。このような物質は、非毒性でなければならず、また有効成分の有効性を妨害してはならない。担体または他の物質の精確な性質は、投与経路、例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、耳介内(intraurticular)、またはパッチ経路に依存し得る。
【0103】
経口投与用の製薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤または液剤の形態であり得る。錠剤はゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含み得る。液体の製薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩溶液、デキストロースまたは他の糖類溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなどのグリコール類を含み得る。
【0104】
静脈内、皮膚または皮下注射または疾患部位における注射では、前記有効成分は、発熱物質を含まず、好適なpH,等張性および安定性を有する非経口的に許容し得る水溶液の形態となる。関連の当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸化リンゲル注射などの等張媒体を用いて、好適な溶液を調製することができる。必要ならば、防腐剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤を含み得る。
【0105】
個人に投与すべきものが、本発明によるポリペプチドであろうと、ペプチドであろうと、または核酸分子、他の製薬上有用な化合物であろうと、個人に利益を示すのに十分な「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(場合によっては予防を治療と考えることができるが)の投与であることが好ましい。投与される実際の量、および投与の割合および経過は、治療されているものの性質および重症度に依る。治療処方、例えば、投与量などについての決定は、一般開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、治療すべき障害、個々の患者の病態、送達部位、投与方法および開業医に公知の他の因子を考慮に入れる。上記に挙げた方法およびプロトコルの例は、REMINGTON’S pHARMACEUTICAL SCIENCES、第16版、Osol,A.(編集)、1980年に見ることができる。
【0106】
あるいは、抗体または細胞に特異的なリガンドなどのターゲッティングシステムの使用により、ある一定のタイプの細胞に対して、より特異的に有効剤を送達するために、ターゲッティング療法が使用できる。種々の理由で、例えば、薬剤が許容できないような毒性である場合、または、そうでなければ、非常に高い投与量が必要となる場合、または、そうでなければ、標的細胞に進入できないと考えられる場合、ターゲッティングが望ましい。
【0107】
これらの薬剤を直接投与する替わりに、例えば、ウィルスベクターにおける細胞内に導入されたコード遺伝子の発現により、それらを、標的細胞内に産生し得る(VDEPT法の変法−下記を参照)。ベクターは、治療されるべき特定の細胞をターゲットにし得るか、またはベクターは、標的細胞によって多かれ少なかれ選択的にスイッチが入れられる調節要素を含有し得る。
【0108】
あるいは、前記薬剤は、治療されるべき細胞内で産生されるか、または治療されるべき細胞をターゲットにする活性化剤によって活性体へ変換するために、前駆体において投与され得る。このタイプの方法は、時にADEPTまたはVDEPTとして知られており、前者は、細胞特異的抗体に対する共役により、前記細胞への活性化剤のターゲッティングを伴い、後者は、ウィルスベクターにおけるコードDNAの発現により、ベクターにおける活性化剤、例えば、JNK阻害剤ペプチドの産生を伴う(例えば、欧州特許出願公開第415731号および国際公開第90/07936号を参照)。
【0109】
本発明のある特定の実施形態において、遺伝子療法により、活性化JNKシグナル伝達経路を調整するために、JNK阻害剤ペプチドまたはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸が投与される。より特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドまたはその機能的誘導体をコードする1つの核酸または複数の核酸が、遺伝子療法により投与される。遺伝子療法とは、特定の核酸を被験体に投与することにより実施される療法を言う。本発明のこの実施形態において、前記核酸はそのコードペプチド(単数または複数)を生産し、次にこれが、疾患または障害の調整機能により治療的効果を行使することに役立つ。当該分野内で利用できる遺伝子療法に関するいずれの方法論も、本発明の実施において使用できる。例えば、Goldspielら、1993年、Clin Pharm 12:p.488−505を参照されたい。
【0110】
好ましい実施形態において、前記治療薬は、IB−関連ペプチド、JBD20関連ペプチドまたはそれらの断片、誘導体またはアナログのいずれか1つ以上を、好適な宿主内に発現させる発現ベクターの部分である核酸を含む。ある特定の実施形態において、このような核酸は、JNK阻害剤ペプチドのコード領域(単数または複数)と操作可能に連結しているプロモーターを有する。前記プロモーターは、誘導的、または構成的および場合によっては、組織特異的であり得る。他の特定の実施形態において、ゲノム内の所望の部位で相同的組み換えを促す領域によってコード配列(および他の所望の配列)がフランキングされ、したがって、核酸の染色体内発現を提供している核酸分子が用いられる。KollerおよびSmithies、1989年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国80:p.8932−8935を参照されたい。
【0111】
患者内への治療的核酸の送達は、直接的(すなわち、患者は、核酸、または核酸含有ベクターに直接曝露される)、または間接的(すなわち、細胞が先ずインビトロで核酸により形質転換し、次に患者に移植される)のいずれかであり得る。これらの2つの方法は、各々、インビボ遺伝子療法またはエクスビボ遺伝子療法として知られている。本発明のある特定の実施形態において、核酸はインビボで直接投与され、発現してコード産物を生産する。これは、例えば、適切な核酸発現ベクターの一部として核酸を構築し、これを細胞内となるような様式で投与すること(例えば、不完全または弱毒化レトロウィルスベクターまたは他のウィルスベクターを用いた感染により、米国特許第4,980,286号を参照);裸のDNAの直接注射;微粒子銃(例えば,「Gene Gun(登録商標)」;Biolistic,DuPont);脂質による核酸のコーティング;関連した細胞表面受容体/移入物質を用いて;リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル内へカプセル化して;核に進入することが知られているペプチドにこれを結合させて投与することにより;または目的の被験体の受容体を特異的に発現する細胞タイプを「ターゲットにする」ために使用できる受容体媒介エンドサイトーシスに前配置したリガンドに結合させて投与することにより(例えば、WuおよびWu、1987年、J.Biol Chem 262:p.4429−4432を参照)など、当該分野に公知の多数の方法のいずれかにより達成できる。
【0112】
本発明の実施における遺伝子療法への追加のアプローチには、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウィルス感染などの方法による、インビトロ組織培養における細胞内への遺伝子伝達が含まれる。一般に、前記伝達法として、細胞への選択的マーカーの同時伝達が挙げられる。次に伝達された遺伝子を取り込み、発現しているそれらの細胞の単離を促進するような選択圧(例えば、抗生物質耐性)下にそれらの細胞を置く。次にそれらの細胞を患者に送達する。ある特定の実施形態において、生じた組み換え細胞のインビボ投与の前に、例えば、トランスフェクション、電気穿孔法、微量注入法、目的の被験体の核酸配列を含有するウィルスまたはバクテリオファージによる感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子伝達、微小細胞媒介遺伝子伝達、スフェロプラスト融合んどの当該分野で公知のいずれかの方法、およびレシピエント細胞の必要な発育上の、および生理的機能が前記伝達によって撹乱されないことが保証される同様な方法論によって、前記核酸を細胞内に導入する。例えば、LoefflerおよびBehr、1993年、Meth Enzymol 217:p.599−618を参照されたい。前記核酸が前記細胞によって発現可能であるように、選択された方法は、細胞への安定な核酸伝達を提供しなければならない。好ましくは、伝達された核酸は遺伝可能であり、後代細胞によって発現可能である。
【0113】
本発明の好ましい実施形態において、生じた組み換え細胞は、例えば、上皮細胞の注入(例えば、皮下に)、患者への皮膚移植片として組み換え皮膚細胞の適用、および組み換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または始原細胞)の静脈注入などの当該分野で公知の種々の方法により、患者に送達できる。使用のために想定される細胞の総量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、当業者により決定できる。
【0114】
遺伝子療法を目的として核酸を導入できる細胞としては、任意の利用できる所望の細胞タイプが含まれ、異種、異種遺伝子、同型遺伝子または自己遺伝子であり得る。細胞タイプとしては、限定はしないが、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞および血液細胞などの分化細胞または種々の幹細胞または始原細胞、特に胎芽心筋細胞、肝幹細胞(国際特許公開第94/08598号)、ニューロン幹細胞(StempleおよびAnderson、1992年、Cell 71:p.973−985)、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られる造血幹細胞または始原細胞が挙げられる。好ましい実施形態において、遺伝子療法に利用される細胞は、患者の自己由来のものである。
【0115】
(免疫アッセイ)
本発明のペプチドおよび抗体は、JNKまたはJNK阻害剤ペプチドの異常濃度を特徴とする種々の病態、疾患および障害を検出、予測、診断またはモニターするため、または、それらの治療をモニターするため、アッセイ(例えば、免疫アッセイ)に利用できる。「異常濃度」とは、身体の冒されていない部分からの、またはその疾患を有さない被験者からの類似サンプルに存在する濃度に対してあるサンプル中の増加した、または減少した濃度を意味する。免疫アッセイは、患者由来のサンプルを、免疫特異的結合から生じ得るような条件下で抗体と接触させ、引き続き抗体による何らかの免疫特異的結合量を検出または測定することを含む方法によって実施できる。ある特定の実施形態において、JNKまたはJNK阻害剤ペプチドの存在に関して、患者の組織サンプルまたは血清サンプルを分析するために、JNK阻害剤ペプチドに特異的な抗体が使用でき、ここでJNKまたはJNK阻害剤ペプチドの異常濃度は、疾病状態を示している。利用し得る免疫アッセイとしては、限定はしないが、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈澱アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集反応アッセイ、蛍光免疫アッセイ、補体固定アッセイ、免疫ラジオメータアッセイ、および蛋白−A免疫アッセイなどの方法を用いた競合的および非競合的アッセイ系が挙げられる。
【0116】
(キット)
本発明はさらに、抗JNK阻害剤ペプチド抗体および場合によっては、その抗体に対する標識結合パートナーを含有する1つ以上の容器を含む診断または治療に使用するキットを提供する。前記抗体に組み込まれる前記標識として、限定はしないが、化学発光部分、酵素部分、蛍光部分、比色部分または放射活性部分を挙げることができる。他の特定の実施形態において、JNK阻害剤ペプチドをコードするか、もしくはJNK阻害剤ペプチドに相補的な修飾または未修飾核酸および場合によっては、前記核酸に対する標識結合パートナーを含有する1つ以上の容器からなる診断使用のためのキットもまた、提供される。ある特定の代替実施形態において、1つ以上の容器において、前記キットは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、Innisら、1990年、PCR PROTOCOLS、Academic Press社、カリフォルニア州サンディエゴを参照)、リガーゼ連鎖反応、環状プローブ反応など、または当該分野に公知の他の方法のための増幅プライマーとして作用することのできる1対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、各々、長さが6〜30ヌクレオチド)を含み得る。前記キットは、場合によっては、診断薬、標準品またはアッセイにおける対照として使用するために、予め決められた量の精製JNK阻害剤ペプチドまたはその核酸をさらに含み得る。
【0117】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態によって、範囲を限定されることはない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な修飾が、前述の説明およびそれに伴う図から、当業者に明らかとなろう。このような修飾は添付の請求項の範囲に入る。
【0118】
種々の刊行物が、本明細書に引用されているが、その開示は、その全体が本明細書中に参考として援用されている。
【実施例】
【0119】
(実施例1:JNK阻害剤ペプチドの同定)
JNKとの効率的な相互作用にとって重要なアミノ酸配列を、公知のJBD間の配列整列によって同定した。IB1[配列番号:17]、IB2[配列番号:18]、c−Jun[配列番号:19]およびATF2[配列番号:20]のJBD間の配列比較により、弱く保存された8個のアミノ酸配列が定められた(図1A)。IB1とIB2のJBDは、JNK結合においてc−JunまたはATF2の約100倍効率的であるために(Dickensら、Science 277:p.693(1997))、最大の結合を与える上で、IB1とIB2間の保存された残基が重要であるに違いないと推論された。IB1とIB2のJBD間の比較により、2つの配列間で保存性の高い7個のアミノ酸と3個のアミノ酸の2つのブロックが定められた。これらの2つのブロックは、IB1における23個のアミノ酸[配列番号:1]およびIB2における21個のアミノ酸[配列番号:2]のペプチド配列内に含まれている。これらの配列は図1Bに示されており、IB2配列におけるダッシュは、保存された残基を整列させるための配列における間隙を示している。
【0120】
本発明のJNK阻害剤(JNKI)ペプチドは、本明細書においてJBD20と称されるJIP−1/IB1の20個のアミノ酸のJNK結合モチーフを、例えば10個のアミノ酸のHIV−TAT48〜57輸送体配列などの輸送蛋白質と結合させることに得られた。
【0121】
(実施例2:JNK阻害剤融合蛋白質の調製)
JNK阻害剤融合蛋白質は、JBD23のC末端、またはIB2(JBD21)由来の21個のアミノ酸配列、または、JBD20のアミノ酸配列のC末端と、HIV−TAT48〜57由来のN末端の10個のアミノ酸長担体ペプチド(Viresら、J.Biol.Chem.272:p.16010(1997))とを、2つのプロリン残基からなるスペーサーによって共有結合させることによって合成した。このスペーサーは、最大の屈曲性を可能にするため、また、不必要な二次構造の変化を防ぐために用いられた。図1Cに示されるように、これらの調製物は、各々L−TAT[配列番号:7]、L−TAT−IB1[配列番号:11]、L−TAT−IB2[配列番号:12]およびL−TAT−JNKI1[配列番号:21]と称された。全てのD−レトロ・インベルソペプチドのTAT融合蛋白質もまた合成され、各々D−TAT[配列番号:8]、D−TAT−IB1[配列番号:14]およびD−TAT−JNKI1[配列番号:22]と称された。全てのDおよびLペプチド類は、古典的なF−モック合成によって製造され、さらに質量分析によって分析された。これらを最終的にHPLCによって精製した。プロリンスペーサーの効果を測定するために、2つのプロリンを有する、および有さない2つのタイプのTATペプチドを製造した。2つのプロリンの添加により、TATペプチドの細胞内への進入または局在化は変化しないようであった。
【0122】
保存アミノ酸残基を示す包括的ペプチドは、図2に示してある。Xは、任意のアミノ酸を示す。所与のペプチドのXの数は、示されたものに限定されず、変わり得る(すなわち、Xはアミノ酸残基のゼロを含む任意の数を示し得る)。包括的配列のより詳細については上記を参照されたい。
【0123】
(実施例3:JBD23によるβ細胞死の抑制)
次に、JNK生物学的活性に及ぼすIB1の23個のアミノ酸長JBD配列の効果を試験した。23個のアミノ酸配列を緑色蛍光蛋白質にN末端結合させ(GFP−JBD23構築体)、IL−1βによって誘導された膵臓β細胞のアポートシスに及ぼすこの構築体の効果を評価した。図3を参照されたい。このアポートシス様式は、JBD1〜280によるトランスフェクションによって妨げられることが以前示されていたが、一方、ERK1/2の特異的阻害剤またはp38によっては防止されなかった。上記のAmmendrupらを参照されたい。
【0124】
23個のアミノ酸配列(JBD23;図1B)および完全保存領域において変異した(JBD23mut)に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、EcoRIおよび緑色蛍光蛋白質(GFP)(Clontechより)をコードするpEGFP−N1ベクターのSalI部位内へ直接挿入した。10%ウシ胎仔血清、100μg/mLストレプトマイシン、100単位/mLペニシリンおよび2mMグルタミンを補足したRPMI 1640培地でインスリン産生βTC−3細胞を培養した。インスリン産生βTC−3細胞を表示されたベクター類によって移入し、細胞培養培地にIL−1β(10ng/mL)を添加した。IL−1βの添加48時間後に、倒立蛍光顕微鏡を用いてアポトーシス細胞数をカウントした。特徴的な細胞質の「ブレビングアウト」によって正常な細胞から識別されたアポトーシス細胞を2日後にカウントした。
【0125】
図3に示されているように、GFPは、対照として用いられた緑色蛍光蛋白質発現ベクターであり;JBD23は、IB1のJBD由来の23個のアミノ酸配列に結合したキメラGFPを発現するベクターであり;JBD23Mutは、GFP−JBD23と同じベクターであるが、図1Bに示されるように、4つの保存残基において変換したJBDを有しており;JBD280は、完全JBD(アミノ酸1〜280)に結合したGFPベクターである。GFP−JBD23発現構築体は、IL−1β誘導の膵臓β−細胞アポトーシスを完全JBD1〜280と同様に効率よく防いだ(図3、JBD280/IL−1と比較してのJBD23/IL−1)。追加対照として、完全に保存されたIB1残基において変異した配列は、アポトーシスを防ぐ能力が大きく低下した(図3、JBD23Mut/IL−1)。
【0126】
(実施例4:TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの細胞移入)
TAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチド類(「TAT−IBペプチド類」)のLおよびD鏡像異性体の細胞進入能力を評価した。
【0127】
L−TAT、D−TAT、L−TAT−IB1、L−TAT−IB2、およびD−TAT−IB1ペプチド類[配列番号:各々7、8、11、12および14]をフルオレセインに共役させたグリシン残基のN末端付加により標識化した。標識ペプチド類(1μM)を、βTC−3細胞培養液に加え、これを実施例3に記載したとおり維持した。予め決められた時点で細胞をPBSで洗浄し、氷冷メタノール−アセトン(1:1)中で5分間固定してから、蛍光顕微鏡下で検査した。蛍光標識BSA(1μM、12モル/モルBSA)を対照として用いた。上記の蛍光標識ペプチドは全て、一旦培地に加えられると効率よく迅速に(5分以内に)細胞に進入した結果が示された。逆に蛍光標識ウシ血清アルブミン(1μM BSA、12モルフルオレセイン/モルBSA)は、細胞に進入しなかった。
【0128】
経時的試験により、L−エナンチオペプチドに関する蛍光シグナル強度は、24時間後に70%減少したことが示された。48時間目には、シグナルは殆どから全く存在しなかった。これとは対照的に、D−TATおよびD−TAT−IB1は、細胞内で極めて安定であった。これら全てのD−レトロ・インベルソペプチド類からの蛍光シグナルは、1週間後でもまだ極めて強く、処理2週目でわずかに減少しただけであった。
【0129】
(実施例5: c−Jun、ATF2およびElk1リン酸化のインビトロ阻害)
JNKの標的転写因子のJNK媒介リン酸化に及ぼす前記ペプチドの効果をインビトロで調べた。転写および翻訳ウサギ網状赤血球ライゼートキット(Promega)を用いて、組換え非活性JNK1、JNK2およびJNK3を製造し、基質としてc−Jun、ATF2およびElk1を単独で、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)に融合させた固相キナーゼアッセイに用いた。L−TAT、L−TAT−IB1またはL−TAT−IB2ペプチド(0〜25μM)を、反応緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、10mM p−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中、組換えJNK1、JNK2またはJNK3キナーゼと20分間混合した。次に10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPおよび1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)か、GST−AFT2(アミノ酸1〜96)か、またはGST−ELK1(アミノ酸307〜428)の添加により、キナーゼ反応を開始した。GST融合蛋白質は、Stratagene(カリフォルニア州ラジョーラ)から購入した。また、10μLのグルタチオン−アガロースビーズも、前記混合物に加えた。次に反応産物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上SDS−PAGEにより分離した。ゲルを乾燥し、引き続きX線フィルム(Kodak)に曝露した。TAT−IBペプチドの2.5μMという低用量で、JNK類によるc−Jun、ATF2およびElk1リン酸化のほぼ完全な阻害が見られた。しかし、顕著な例外は、Elk1のJNK3リン酸化のTAT−IB阻害欠如であった。全体的に見て、TAT−IB1ペプチドは、それらの標的転写因子のJNKファミリーリン酸化の阻害において、TAT−IB2よりもわずかに優れているようであった(図4Aを参照)。
【0130】
組換えJNK1、JNK2またはJNK3により、GST−Jun(アミノ酸1〜73)リン酸化を阻害するD−TAT、D−TAT−IB1およびL−TAT−IB1ペプチドの能力(0〜250μM用量試験)を上記のとおり分析した。全体的に見て、D−TAT−IB1ペプチドは、c−JunのJNK媒介リン酸化を減少させたが、L−TAT−IB1より約10〜20倍低い効率のレベルであった(図4Bを参照)。
【0131】
(実施例6: 活性化JNK類によるc−JUNリン酸化の阻害)
ストレスの多い刺激により活性化したJNK類に及ぼすL−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチドの効果をUV光照射Hela細胞またはIL−1β処理βTC細胞のJNK類を減弱させるGST−Junを用いて評価した。βTC細胞は上記のとおり培養した。Hela細胞は、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLストレプトマイシン、100単位/mLペニシリンおよび2mMグルタミンを補足したDMEM培地中で培養した。細胞抽出調製物と用いる1時間前に、βTC細胞は上記のとおりIL−1βによって活性化し、一方、Hela細胞は、UV−光(20J/m2)によって活性化した。溶解緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、1%トリトンX−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中、細胞培養物をこすり取って、対照物、UV光照射HeLa細胞およびIL−1β処理βTC−3細胞から細胞抽出物を調製した。SS−34ベックマンローター中15,000で5分間の遠心分離により、砕片を除去した。100μgの抽出物を室温で1時間、1μgのGST−jun(アミノ酸1〜89)および10μLのグルタチオン−アガロースビーズ(Sigma)と共に温置した。こすりおとし、緩衝液で4回洗浄後、L−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチド(25μM)で補足した同一の緩衝液中に、前記ビーズを20分間再懸濁した。次に10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPの添加により、キナーゼ反応を開始し、30℃で30分間温置した。次に反応産物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上SDS−PAGEにより分離した。ゲルを乾燥し、引き続きX線フィルム(Kodak)に曝露した。これらの実験において、TAT−IBペプチド類は、活性化JNK類によるc−Junのリン酸化を効率よく防いだ(図6を参照)。
【0132】
(実施例7: TAT−IBペプチド類によるc−JUNリン酸化のインビボ阻害)
前記細胞透過性ペプチド類が、インビボでJNKシグナル伝達を妨害し得るかどうかを判定するために、非相同性GAL4系を用いた。上記のとおり培養したHeLa細胞にGAL4 DNA結合ドメインに結合させたc−Junの活性化ドメイン(アミノ酸1〜89)を含むGAL−Jun発現構築体(Strategene)と共に、5xGAL−LUCリポーターベクターの同時トランスフェクションを行った。JUNKの活性化は、直接上流のキナーゼ、MKK4およびMKK7を発現するベクター類の同時トランスフェクションにより達成した(Whitmarshら、Science 285:p.1573(1999)を参照)。簡略に述べると、DOTAP(Boehringer Mannheim)を製造元の説明書に従って用い、3.5cm皿に3x105の細胞にプラスミドのトランスフェクションを行った。GAL−Junに関する実験では、1μgのリポータープラスミドpFR−Luc(Strategene)および0.5μgのMKK4かまたはMKK7の発現プラスミドと共に、20ngのプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクション3時間後、細胞培地を交換し、L−TAT、L−TATIB1、またはL−TATIB2ペプチド(1μM)を加えた。16時間後、蛋白質含量を標準化してから、Promegaの「二重リポーターシステム」を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。図5に示されるように、MKK4およびMKK7に媒介されたJNKの活性化後、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチド双方の添加により、c−Junの活性化が妨害された。HeLa細胞はJNK1異性体とJNK2異性体の双方を発現するが、JNK3異性体は、発現しないため、細胞にJNK3のトランスフェクションを行った。やはり2つのTAT−IBペプチド類は、c−JunのJNK2媒介活性化を阻害した。
【0133】
(実施例8: TAT−IBペプチド類によるIL−1β誘導膵臓β細胞死の抑制)
IL−1βによって誘導された膵臓β細胞アポトーシス促進に及ぼすL−TAT−IBペプチド類の効果を調べた。βTC−3細胞培養液を1μMのL−TATIB1ペプチドか、またはL−TATIB2ペプチドのいずれかと共に30分間温置し、その後10ng/mLのIL−1βと共に温置した。ペプチド(1μM)の2回目の添加を24時間後に行った。IL−1βとの温置2日後、ヨウ化プロピジウム(赤い染色細胞と死滅細胞)およびヘキスト33342(青い染色細胞ともとのままの細胞膜を有する細胞)の核染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。図5に示されるように、IL−1β存在下、2日間培養したβTC−3細胞のIL−1β誘導アポトーシスは、TAT−IBペプチド類の添加によって阻害された。
【0134】
ペプチド類とIL−1βとの細胞の温置を12日間維持したことを除いては上記のとおり、βTC−3細胞処理によるIL−1β誘導細胞死の長期阻害を試験した。追加ペプチド類(1μM)は毎日加え、追加IL−1β(10ng/mL)は2日おきに加えた。これらの条件におけるアポトーシスに対してTAT−IB1ペプチドは、強力な保護を提供する。まとめると、これらの実験によりTAT−IB1ペプチド類は、細胞死に関するJNKシグナル伝達作用を防ぐことのできる生物学的活性分子であることが確証される。
【0135】
(実施例9:全D−レトロ・インベルソペプチド類の合成)
本発明のペプチド類は、自然的プロテオリシスを防ぐため、逆に合成された、全D−アミノ酸ペプチド(すなわち全D−レトロ・インベルソペプチド)であり得る。本発明の全D−レトロ・インベルソペプチドは、天然ペプチドと同様の官能性を有するペプチドを提供するが、このペプチドにおいて構成要素のアミノ酸の側鎖基は、天然ペプチド配列に相当するが、プロテアーゼ耐性骨格を保持すると考えられる。
【0136】
本発明のレトロ・インベルソペプチドは、レトロ・インベルソペプチドアナログにおけるアミノ酸配列が、モデルとして働く選択ペプチドのアミノ酸配列と全く逆であるように、ペプチド鎖内にアミノ酸を付加することにより、D−アミノ酸を用いて合成されたアナログである。例えば、天然のTAT蛋白質(L−アミノ酸から形成)が配列GRKKRRQRRR[配列番号:7]を有する場合、このペプチドのレトロ・インベルソペプチドアナログ(D−アミノ酸から形成)は配列RRRQRRKKRG[配列番号:8]を有すると考えられる。レトロ・インベルソペプチドを形成するためにD−アミノ酸の鎖を合成する操作は当該分野に公知である。例えば、Jamersonら、Nature、368、p.744−746(1994);Bradyら、Nature、368、p.692−693(1994);Guichardら、J.Med.Chem.39、p.2030−2039(1996)を参照されたい。具体的に言うとレトロペプチドは、古典的なF−モック合成により製造し、さらに、質量分析によって分析した。それらは最終的にHPLCによって精製した。
【0137】
天然ペプチドでの固有の問題は、天然のプロテアーゼおよび固有の免疫原生による分解であるため、本発明のヘテロ二価化合物またはヘテロ多価化合物は、所望のペプチドの「レトロ・インベルソ異性体」を含んで調製されることになる。したがって、自然的プロテオリシスからペプチドを保護することは、半減期の延長および活発に前記ペプチドを破壊することに向けられた免疫応答の程度を低下させることの双方により、特定のヘテロ二価化合物またはヘテロ多価化合物の有効性を増加させるはずである。
【0138】
(実施例10:全Dレトロ・インベルソIBペプチド類の長期生物学的活性)
実施例5に示されるように、天然プロテアーゼによる分解からのD−TAT−IBペプチド保護により、D−TAT−IBレトロ・インベルソ含有ペプチド共役体では、天然のL−アミノ酸アナログに較べた場合、長期の生物学的活性が予測される。
【0139】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の抑制を分析した。図10に示されるように、表示されたペプチド類(1μM)を1回添加したβTC−3細胞を上記のとおり30分間温置し、次にIL−1β(10ng/ml)を添加した。次にIL−1βと共に2日間温置後、ヨウ化プロピジウムおよびヘキスト33342染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。各実験につき、最低1000個の細胞をカウントした。平均値の標準誤差(SEM)が示されており、n=5である。D−TAT−IB1ペプチドは、L−TAT−IBペプチドと同様な程度までIL−1誘導アポトーシスを減少させた(図5と図10を比較されたい)。
【0140】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導細胞死の長期抑制もまた分析した。表示されたペプチド類(1μM)を1回添加したβTC−3細胞を上記のとおり30分間温置し、次にIL−1β(10ng/ml)を添加し、続いて2日おきにサイトカインを添加した。次にIL−1βと共に15日間温置後、ヨウ化プロピジウムおよびヘキスト33342核染色を用いて、アポトーシス細胞をカウントした。L−TAT−IB1ペプチドの1回の添加によっては、長期保護が与えられないことに注意されたい。各実験につき、最低1000個の細胞をカウントした。平均値の標準誤差(SEM)が示されており、n=5である。結果は図9に示されている。L−TAT−IB1ではなく、D−TAT−IB1が長期(15日)保護を与えることができた。
【0141】
(実施例11:TAT−IBペプチド類による照射誘導膵臓β細胞死の抑制)
JNKは、イオン化照射によっても活性化される。照射誘導JNK損傷に対してTAT−IBペプチド類が保護を提供するかどうかを測定するために、図10に示されるように、D−TAT、L−TAT−IB1またはD−TAT−IB1ペプチド(照射30分前に1μMを添加)の存在下または不在下で、「WiDr」細胞を照射した(30Gy)。対照細胞(CTRL)は照射しなかった。48時間後、上記のとおりPIおよびヘキスト33342染色により細胞を分析した。n=3でSEMは示されている。このヒト大腸癌細胞系において、L−TAT−IB1ペプチド、およびD−TAT−IB1ペプチドの双方とも照射誘導アポトーシスを防ぐことができた。
【0142】
(実施例12:イオン化放射に対するTAT−IBペプチド類による放射線保護)
TAT−IBペプチド類の放射線保護効果を測定するために、フィリップス RT 250 R線により、0.74Gy/分の線量比でC57B1/6マウス(2〜3月齢)を照射した(17mA、0.5mm Cuフィルタ)。照射30分前に、マウスにTAT、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチド類(1mM溶液/30μl)を腹腔内注射した。簡略に述べると、マウスを以下のとおり照射した:マウスを小型のプラスチックボックスに入れ、頭部をボックスの外に出した。照射器の下に仰向けにマウスを置き、頭部を正しい位置に維持するために、マウスの頚部を小型プラスチックトンネル内に固定した。身体は鉛で保護した。照射前マウスは、標準的なマウスペレット食餌を給餌したが、照射後は、半流動食を毎日取り換えて与えた。
【0143】
次にParkinsら(Parkinsら、Radiotherapy & Oncology、1:p.165−173、1983年)によって開発された評点システムに従って、2人の独立した観察者により唇粘膜の反応を評点づけしたが、そこでは、紅斑の状態ならびに浮腫、剥離および滲出、の存在を評価した。なお、マウスの紅斑/浮腫状態の各記録前に、それらの体重を測った。
【0144】
図12A:照射後のマウスの体重を示した。値は、100に設定したマウスの最初の体重に対して報告されたもの。CTRL:30μlの生理食塩水を注射された対照マウス。各報告値に関してn=2であり、S,D,は示されている。X値は日数である。
【0145】
図12Bは、照射後の紅斑/浮腫評点を示している。図12Aと同じマウスの下方唇の浮腫および紅斑状態を定量化した。各報告値に関してn=2であり、X値は日数である。
【0146】
これらの実験結果は、TAT−IBペプチド類が、イオン化放射に伴う体重減少および紅斑/浮腫を防止し得ることを示している。
【0147】
(実施例13:L−TAT−IB1ペプチド類によるJNK転写因子の抑制)
示されるようにAP−1二重標識プローブ(5’−CGCTTGATGAGTCAGCCGGAA−3’、5ng/mlのTNF−αで1時間処理した、または未処理のHeLa細胞核抽出物を用いて、ゲル遅延化アッセイを実施した。TATペプチドおよびL−TAT−IB1ペプチドを、TNF−αの30分前に添加した。特異的AP−1DNA複合体を有するゲルの部分だけ(未標識の特異的および非特異的競合体による競合実験によって証明された)が示されている。L−TAT−IB1ペプチドは、TNF−αの存在下でAP−1DNA結合複合体の形成を減少させる(図11を参照)。
【0148】
(実施例14:騒音誘導聴力低下に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
図13、パネルAに示されるように、モルモットの右内耳内へD−JNKI(1μM、1μl/時間)の溶液を注入し、一方、左耳には、生理食塩水のみを注入した。次にモルモットを騒音傷害(120db、30分)に曝露し、3日後にに聴力感受性(図13、パネルB)ならびに内耳の組織学的検査(図13、パネルCおよびD)を実施した。図13に示されるように、組織学的検査から判断されるように線毛構造の多くが消失した未処理の耳とは対照的に、JNKIで処理した耳では、線毛構造が騒音誘導破壊から完全に保護されている。さらに、D−JNKIで処理した耳の騒音に対する感受性は、保存されているようである(図13、パネルB)。
【0149】
(実施例15:抗生物質誘導聴力低下に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
D JNKIの存在/不在下で、ニワトリの内耳をストレプトマイシンにより処理した。次にアポトーシスを検出(緑色核)するために、TUNEL実験を実施した。図14に示されるように、D−JNKIはストレプトマイシン誘導アポトーシスから内耳を完全に保護する。しがって、D−JNKIは抗生物質療法によって被る聴力低下状態の防止に有用である。
【0150】
(実施例16:炎症誘発性サイトカイン類に誘導された膵臓小島破壊に対するD−TAT−IBペプチド類による保護)
膵臓小島細胞を、インターロイキン1B(10ng/ml)に曝露する前にD−JNKI(1mMを1時間)で処理した。図15に示されるように、D−JNKIで処理された小島はIL−1B誘導破壊に抵抗する。このことは、D−JNKIによる処理が移植された小島の保存を助けることを示している。
【0151】
(実施例17:D−TAT−IBペプチド類による膵臓小島細胞の回復増加)
小島細胞単離時、コラゲナーゼと共にD−JNKIを添加した。これは乳酸デヒドロゲナーゼの増加を測定すると、3日後、培養液中の小島収量の増加をもたらした。図15を参照されたい。
【0152】
(実施例18:JNK活性化およびJNK関連作用に及ぼすJNKペプチド類の効果試験に用いられる一般的方法)
(一般的ニューロン培養)
2日齢のラットの脳から皮質小片を切開し、200単位のパパリンと共に、34℃で30分間温置した。次に、100μg/mLのポリ−D−リジンで予め被覆した皿上に約1x106細胞/皿の密度でニューロンを入れた。0.5mグルタミン、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンで補足したB27/ニューロベーサル(Neurobasal)(Life Technologies)培地を用いて前記細胞を培養した。
【0153】
(乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)細胞毒性アッセイ)
培地内に放出されたLDH量を、サイトトックス(Cytotox)96非放射性細胞毒性アッセイキット(Promega)を用いて測定した。
【0154】
(GST−c−Jun減弱およびキナーゼアッセイ)
:リシス緩衝液(20mMトリスアセテート、1mM EGTA、1%トリトン×−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mMピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mMジチオトレイトール)中に細胞をこすりとって細胞抽出液を調製した。25μgのサンプルを、1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)および10μLのグルタチオン−アガロースビーズ(Sigma)と共に、室温で1時間温置した。前記ビーズを4回洗浄し、上記のリシス緩衝液に再懸濁した。次いで組み換えJNKIα1およびGST融合蛋白質類(例えば、GST−JunおよびGST−Elk1融合蛋白質)、カゼインおよびヒストン(Sigma)よりなる群から選択された0.5μgの基質を用いて、インビトロキナーゼアッセイを実施した。5μCi33P−ATPの存在下、10mM MgCl2およびおよび10μM ATPによって反応を開始させ、摂氏30度で30分間温置した。反応産物を、SDS−PAGEにより分離し、ゲルを乾燥してから、X線フィルム(Kodak)に曝露した。
【0155】
(ウェスタンブロット)
リシス緩衝液(上記)中に細胞をこすりとって、総蛋白抽出物を得、前記蛋白質を12%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離した。次に前記の分離蛋白質をフッ化ポリビニリデン(PVDF)膜上に移した。本明細書に記載したウェスタンブロットにおいて使用した抗体は、Alexisから入手した。
【0156】
(細胞質からの核の分離)
ウェスタンブロット分析用に核を単離するために(図17Bを参照)、ニューロンをリシス緩衝液中に15分間溶解してから、サンプルを4℃で10分間、300gで遠心分離した。核ペレットをリシス緩衝液中で再構成してから音波処理した。
【0157】
(リアルタイムRT−PCR)
ライトサイクラー器具(Roche)上で特異的プライマーを用いて、リアルタイムRT−PCRを実施した。Chomczynski法により抽出されたRNA類の量と品質を統一するために、ハウスキーピングアクチン転写物を用いた。本明細書に参照としてその全体が組み込まれているChomczynskiら、Anal.Biochem.、162:p.156−59(1987)を参照されたい。用いられたプライマー類の配列は以下のとおりである:
cFos 正:5’−GCTGACAGATACACTCCAAG−3’
逆:5’−CCTAGATGATGCCGGAAACA−3’
アクチン 正:5’−AACGGCTCCGGCATGTGCAA−3’
逆:5’−ATTGTAGAAGGTGTGGTGCCA−5’
(P−c−jun免疫組織化学)
本明細書に用いられるP−c−junは、c−junのリン酸化形態を言う。P−c−junは、ウサギポリクローナル抗体(PBS中500x)によってターゲットにされた。生じた抗体複合体を、3,3−ジアミノベンジジンを基質として用いて視覚化した。
【0158】
(成体マウスにおける一時的虚血)
オスICR−CD1マウス(約6週齢で体重は約18〜37gの範囲)(Harlan社)を用い、通常の頚動脈から1本のフィラメントを内部の頚動脈内へ導入し、前記フィラメントを動脈循環内へ進入させ、そのことにより、中央大脳動脈を閉塞させることによって、虚血を引き起こした。例えば、それぞれ参照として本明細書にその全体が組み込まれている、Huangら、Science、265:p.1883−85(1994);Haraら、Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)94:p.2007−12(1997)を参照されたい。虚血時を通し、また再灌流10分後まで頭蓋骨に固定したプローブを有するレーザー−ドップラー流量計によって、局所大脳血流を測定した。直腸温度を測定し、37℃に維持した。再灌流48時間後にマウスを殺処理した。連続低温槽切片20μM厚を、Neurolucidaプログラムを装備したコンピュータ顕微鏡システム(Microbrightfield)を用いて追跡し、Neuroexplorerプログラムによって、虚血領域および脳全体容積を算出した(盲検)3匹の追加マウスにおいて、動脈カテーテルによって、収縮期血圧と拡張期血圧を、D−JNKI注入10分前から30分後まで測定した。これらの血圧測定により、前記注入が血圧に影響を与えないことが示された(すなわち、10%未満の変化)。全ての実験は、Swiss Federal Veterinary Officeの指針に従った。
【0159】
(幼若(P14)ラットにおける永続的焦点虚血)
嗅覚枝との接合部における起点に対して閉じている位置で、中央大脳動脈を電気凝固することにより、中央大脳動脈閉塞を得た。体重が約27〜35gの範囲のラット(Wistarより)を中央大脳動脈閉塞24時間後に殺処理した。前記ラットは、抱水クロラールの過剰用量を用いて殺処理し、Zamboni固定剤によって左脳室を灌流した。前記脳を灌流に用いたものと同じ溶液中で2時間固定してから、前記脳を寒冷保護のため、30%スクロース中に一晩浸潤させた。各虚血領域の輪郭を、コンピュータ顕微鏡システムによって描いた(染色した)。虚血傷害および脳全体の面積を、クレシルバイオレットで染色した50μm連続低温槽切片から、Neurolucidaプログラムを用いて追跡し、各々の容積を上記のとおりNeuroexplorerプログラムを用いてを算出した。
【0160】
統計:双方の虚血モデル(すなわち、一時的および永続的)のデータは、Gaussian基準に合わせるために対数変換した。データは、概括ANOVA(双方のモデルでp<0.0001)に続いて片側不対t検定によって分析した。
【0161】
(実施例19: JNK作用に対するJNKIペプチド類の感受性および特異性)
これらの実験に用いられるJNKI1ペプチド類は、直接競合的機構により、c−Junおよび他の基質に対するJNKのアクセスを妨げることを目的としている。各々が参照としてその全体が本明細書に組み込まれているBonnyら、Diabetes、50:p.77−82(2001);Barrら、J.Biol.Chem.、277:p.10987−97(2002)を参照されたい。
【0162】
JNKの活性化と作用に及ぼすL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を、上記実施例18に記載したとおり、キナーゼアッセイを用いて試験した。これらの実験結果は、図16A〜16Cに示されている。JNKの活性化と作用に及ぼすL−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果は、JNK1α1を用い、公知のJNK標的、c−JunおよびElk1のインビトロリン酸化を防ぐそれらの能力によって示される(図16を参照)。本明細書に用いられる用語の「P−Jun」および「P−Elk1」とは、それぞれGST−JunおよびGST−Elk1基質の放射標識(すなわち、33P−ATPによるリン酸化形態)を言う。L−JNKI1およびD−JNKI1の阻害効果を試験するために用いられたものと同様な条件を用い、また減量したL−JBD20を用いた用量応答実験におけるJIP−IB1のアミノ酸20個の最少JNK阻害配列(JBD20のL体(配列番号:21))の阻害効果を、図16Bは証明している。L−JBD20ペプチド(配列番号:21)単独で(すなわち、TAT配列なしで)JNK作用を阻害し得ることを、図16Bは示している。またJBD20は、ATF2、IRS−1、MADD、bcl−x1などの他のJNK標的を阻害することも示された。これらの場合の各々で、IC50は、約1μMであった(データは示していない)。これらの実験において、TAT配列は、JBD20に結合されなかった。なぜならば、50μM超の濃度では、TAT配列は、抽出液中の蛋白質の非特異的沈殿を引き起こすからである。50μM以下の濃度では、TATは、JBD20ペプチド類の阻害特性に影響を与えない。
【0163】
JNK活性化の阻害におけるJNKIペプチド類の特異性を測定するために、インビトロ実験を実施した。特に、40種の異なるキナーゼ類の各々の基質に対する活性に及ぼすこれらのペプチド類(10μMペプチド、10μM ATP)の効果を試験した。これらの実験に使用された基質の完全リストは、http://www.upstate.com/img/pdf/KinaseProfiler.pdfで見ることができる。予想通り、JNKIペプチド類は、全てがJNK−結合ドメインを含んでいるJNK類ならびにMKK4およびMKK7キナーゼに影響を与えた。前記ペプチド類(L−JNKI1体およびD−JNKI1体の双方)は、他の全てのキナーゼ類の活性を妨害することは全くなかった。追加実験により、500μMのJBD20ペプチド類は6つの特定のキナーゼ類:ERK2、p38、pKC、p34、caK、およびpKAの活性を妨害しないことが示された(図16C)。これらのキナーゼ類に対する基質は、ERK2:ERK1;p38:ATF2;p34、pKC、pKA:ヒストン;およびcaK;カゼインである。この特異性レベルは、Jun−N−末端キナーゼの他の小型化学的阻害剤で達成されたものよりはるかに高く、このことから、本発明のJNKIペプチド類の極めて高い選択性が証明される。Jun−N−末端キナーゼ(JNK)の他の小型化学的阻害剤の検討に関しては、参照としてその全体が組み込まれているBennettら、Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)、98:p.13681−86(2001)を参照されたい。
【0164】
(実施例20:NMDA−処理皮質ニューロン内部のJNK標的に及ぼすJNKIペプチド類の効果)
ニューロン内部の種々のJNK標的に及ぼすJNKIペプチド類の効果を分析するために、一連の実験を実施した。培養液内のN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)で処理した皮質ニューロンにおけるJNK活性化は、上記の方法を用いて、GST−c−Junを用いる減弱JNKについてのキナーゼアッセイによって予測した(例えば、各々が参照として本明細書にその全体が組み込まれているKoら、J.Neurochem.71:p.1390−1395(1998);Coffeyら、J.Neurosci.20:p.7602−7613(2000)を参照)。これらの実験結果は、図17〜18に示されている。
【0165】
図17Aは、未処理ニューロン(「0」)、100μM NMDAへの曝露10分後(10’)、または100μM NMDAへの曝露30分後のJNK活性を示している。図17Cの右の2つのレーンは、JNK活性化がD−JNKI1によって本質的に変化しなかったことを証明している。JNK活性の増加は、NMDA処理の30分後に最大(すなわち2.2倍)となった(図17A)。JNK活性のこの増加は、c−Junリン酸化の増加という形となる(図17B)。細胞透過性ペプチド類のL−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、100μM NMDAへの曝露5時間後、JNK活性が、正常レベルであるにもかかわらず、P−c−Junの増加が完全に防止されることが示された。L−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、P−c−Junの濃度は、対照中のP−c−Junの濃度以下にさえなった。
【0166】
Elk1転写因子を介したJNKの影響下でのc−fos遺伝子のNMDA誘導転写もまた、L−JNKI1およびD−JNKI1の添加によって、完全に防止された(図17C)。c−fos発現は、上記実施例18に記載された方法を用いて抽出されたDNAを用いて、リアルタイムPCR(Lightcycler)によって定量化した。図17Cにおけるデータは、アクチンと相対的なc−fos発現として示されて(n=4)。JNKに媒介されたTCF/Elk−1リン酸化を介したc−fos発現誘導の説明に関しては、参照として本明細書にその全体が組み込まれているCavigelliら、EMBO J.、14:p.5957−5964(1995)を参照されたい。
【0167】
経時的なNMDA神経毒性およびL−JNKI1およびD−JNKI1による神経保護ならびに2つの対照ペプチド、TAT−空(すなわちTAT配列単独で、JBD20配列なし)およびL−JNKI1mut(Bonnyら、Diabetes 50:p.77−82(2001)に記載されているとおり、アラニンに変異した6個のアミノ酸を有する)を、参照としてその全体を本明細書に組み込んである。図18の顕微鏡写真は、処理24時間後におけるヘキスト染色ニューロンを示している。L−JNKI1およびD−JNKI1ペプチドの添加により、NMDAの興奮毒性作用に対して(図18)、またはカイニン酸の興奮毒性作用に対して(データは示していないが)ニューロンは、完全に保護されたが、対照ペプチドの添加に神経保護効果はなかった。処理12時間後、L−JNKI1およびD−JNKI1ペプチド双方とも、ニューロン死を防ぐことが示されたが、一方、TAT−空ペプチド類には効果がなかった(図18)。
【0168】
図18に見られるように、本発明の細胞透過性ペプチド類のD体、すなわちD−JNKI1は、100μM NMDAへの曝露後、長時間、すなわち、12時間、24時間および48時間の間のニューロンの保護において、より優れていた。これらの顕微鏡写真は、対照培養液と、D−JNKI1およびNMDAで処理している培養液とが同等であることから、処理24時間後においてD−JNKI1が依然として全体的な神経保護を提供したことを示している。JNKI1のL体は、処理24時間後において、もはやニューロンの保護をしなかったのは、ペプチドのL体が一般に分解をより受け易いためと思われる。TAT−空ペプチド類は、いかなる条件下でも、細胞死に影響を与えなかった。ペトリ皿培地中のLDH活性によって示されるように、図18のヒストグラムは、100μM NMDAへの曝露12時間後、24時間後および48時間後におけるニューロン死の程度を示している。吸光度値を総LDHに関する平均吸光度で割ることにより、LDH濃度を表す吸光度値は、%ニューロン死の値に変換されている。総LDHに関する平均吸光度は、培地プラス溶解ニューロンから得られた。
【0169】
(実施例21:細胞透過性JNKIペプチド類のインビボ送達)
インビボ適用における細胞透過性ペプチド類の使用可能性を試験するために、FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1を用いて、脳内へ浸透するそれらの能力を評価した。生物学的活性蛋白質のマウスへのインビボ送達についての検討に関しては、参照として本明細書にその全体が組み込まれているSchwarzeら、Science、285:p.1569〜72(1999)を参照されたい。これらの実験により、FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1の双方とも、成体マウスおよび種々の年齢のラットの血液−脳関門を通過でき、ニューロン内へ浸透できることが示された。FITCで標識したL−JNKI1およびD−JNKI1の双方とも、、腹腔内注射の1時間以内にニューロン内へ浸透することができた。(データは示していない)。
【0170】
(実施例22:一時的および永続的焦点大脳虚血に対するJNKIペプチド類による神経保護)
マウスにおける軽度虚血のモデルにおいて、左中央大脳動脈を30分間閉塞させ、続いて48時間の灌流を行った。対照媒体処理群は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみの注射を受けた。対照媒体処理群では、この閉塞は、重篤なピクノーゼ細胞を含有する顕著な梗塞を系統的に引き起こし、これらは主に全ての脳の皮質および層に見られ、脳のうち7つで、これらの細胞が海馬においても見られた。対照媒体処理群において、それらの被験体における平均梗塞容積は67.4mm3であった(n=12)。
【0171】
有効性および治療の「治療的ウィンドー」(すなわち、本発明のペプチド類による治療が有効性を保つ傷害後の時間枠)を評価するために、被験体を、D−JNKI1(2μLのPBS中15.7ng)の大脳内−脳室(icv)注射により処理した。図19Aは生じる梗塞の典型的な例を示すクレシルバイオレット染色切片を示している(棒線、1mm)。図19Bは、中央大脳動脈閉塞前(−1時間)または後(+3、6または12時間)の種々の時点におけるD−JNKI1のicv注射後の梗塞容積を示している。図19Bにおいて、星印は、結果が、統計的に対照と異なっている(t−検定で示された)ことを示している。
【0172】
中央大脳動脈閉塞1時間前のD−JNKI1のicv注射による前処理によって、灌流48時間前後に測定した梗塞容積は88%、7.8mm3の容積に著しく減少した(図19A〜19B)。閉塞3時間後に注射された被験体に関する平均梗塞容積は、5.8mm3に減少し(未処理マウスに較べて91%の減少)、閉塞6時間後に注射された被験体に関する平均梗塞容積は、4.8mm3に減少(未処理マウスに較べて93%の減少)したため、中央大脳動脈閉塞の3時間後または6時間後におけるD−JNKI1ペプチド投与は、依然として保護的効能があった。これとは対照的に中央大脳動脈閉塞12時間後におけるD−JNKI1ペプチド注射は、それほど目だって保護的ではなかった。再灌流後の完全虚血の達成は、全マウスにおいて、左中央大脳動脈領域における局所大脳血流のモニタリングにより確認した。
【0173】
また幼若(P14)ラットにおける永続的焦点虚血に対するD−JNKIの保護能力も評価した。中央大脳動脈の永続的閉塞実施によるP14ラットの大脳皮質における虚血区域により、頭頂側頭骨皮質に限定された広い変性区域が誘導された。P14ラットの脳容積は変化し得るため、傷害は、大脳半球容積のパーセンテージとして表された。D−JNKI1は、約340μgに相当する11mg/kgの濃度で腹腔内注射された。D−JNKI1は、中央大脳動脈閉塞の30分前、または閉塞6時間後または12時間後に投与された。ラットは閉塞24時間後に固定した。これらの各時点で(すなわち、−30分、+6時間または+12時間での投与)、D−JNKI1は、対照ラットに較べて統計的に大きな有意の梗塞容積の減少をもたらした(図20A〜20B)。閉塞30分前でのD−JNKI1投与により、68%の梗塞容積減少に至ったが、閉塞6時間後および閉塞12時間後のペプチド投与では、それぞれ、78%と49%の梗塞容積減少に至った。
【0174】
永続的虚血を有する仔ラットの脳における主要なJNK標的であるc−Jun転写因子の活性化を測定するために、免疫組織化学分析を実施した。梗塞周囲の皮質における多くのニューロン内で、c−Junのリン酸化は明白であった(図5C、bar=200μM)。これとは対照的にD−JNKI1ペプチドで処理した脳内では、梗塞周囲皮質は陰性であり、梗塞領域の境界における陽性ニューロンが少数検出されただけであった。
【0175】
(実施例22:JNKIペプチド類の副作用の可能性についての行動的評価)
一般に、他の神経保護的化合物の高い毒性により、それらの臨床的使用は厳しく制限されてきた(参照としてその全体が組み込まれているGladstoneら、Stroke、33:p.2123−36(2002)を参照)。種々の用量のD−JNKI1およびMK−801の治療用量(1mg/Kg、標準的治療用量)の可能的副作用の基準として、水平な回転棒上で自身を保持するマウスの能力を用いた。特にD−JNKI1のi.p.注射(11mg/kgおよび110mg/kg)およびicv注射(15.7ngまたは157ngのD−JNKI1を含有する2μl)双方の3時間後、24時間後、6日後および12日後に回転棒試験を用いて、マウスの運動機能を評価した。この評価操作時にMK−801(1mg/kg)のi.p.注射剤を対照化合物として用いた。
【0176】
対照間の変化性を減少させるために、実験日の前日と実験日の朝、マウスを訓練した。訓練および試験双方の時間は、対照マウスと注射マウスで同一であった。注射直前および注射1日後、6日後、および12日後に各マウスの運動機能を検査した。4rpmから40rpmまで一様に加速」するようにプログラムされた回転棒上にマウスを置いた。試験した各マウスに関して落下までの潜伏時間を記録した。回転棒法を用いたこの評価の結果は、落下までの潜伏時間(秒で測定)中央値として表2に示している。
【0177】
【表2】
表2に見られるように、i.p.とicv双方のD−JNKI1の用量(すなわち、90神経保護を提供した2.8μl/kg用量と10倍の高用量の双方)によって、運動整合は損なわれないことが判明した。これとは対照的に、MK−801では、マウスが回転輪の上に乗ることができず、運動整合の著しい減損に至り、(例えば、表2;Dawsonら、Brain Res.892:344:350(2001))(他の神経保護剤に関して同様の結果を記述している)、また、MK−801の10倍高用量により、全マウスが死亡した。低用量MK−801の副作用は、24時間後、本質的には消失することがわかった。D−JNKI1による処理6日後、および15日後、運動整合減損の徴候は見られず、回転棒評点は、対照マウスよりも良好で再現性があった。
【0178】
(同等物)
本発明の特定な実施形態の前述の詳細な説明から、独自の細胞透過性生物活性ペプチド類が説明されたことは明白である。特定の実施形態が、本明細書に詳細に開示されたが、これは例示のみを目的とした例としてなされたのであって、以下の添付請求項の範囲に関する限定を意図してはいない。特に本発明に対して種々の置換、変更および修飾が、請求項によって規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなくなされ得ることが、本発明者によって考慮されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されるペプチド。
【請求項1】
本明細書に記載されるペプチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−53136(P2010−53136A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272904(P2009−272904)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2004−510817(P2004−510817)の分割
【原出願日】平成15年6月9日(2003.6.9)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2004−510817(P2004−510817)の分割
【原出願日】平成15年6月9日(2003.6.9)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】
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