説明

JNK3調節物質およびその使用法

【課題】MAPキナーゼのc-Jun NH2末端キナーゼ(JNK)グループの発現または活性を減少させる分子および化合物のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】JNK3蛋白質の発現細胞を、化合物の存在下でインキュベートした後JNK3発現を測定し、化合物非存在下の対照細胞と発現量を比較することによる、JNK3発現調節化合物の同定方法、前記化合物(又は分子)を用いる、急発作障害、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、および虚血のような興奮毒性を含む傷害の治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は蛋白質キナーゼ発現または活性の阻害物質を検出するためのスクリーニングアッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アポトーシスまたはプログラムされた細胞死は、正常な発達過程、および環境的ストレスに暴露された成人の脳における神経系の顕著な特徴である(クイダ(Kuida)ら、Nature、384:368〜372、1996(非特許文献1);ラタン(Ratan)ら、Neurochem.、62:376〜379、1994(非特許文献2);ラッフ(Raff)ら、Science、262:695〜700、1993(非特許文献3))。ストレス誘発性のアポトーシスは多様な神経疾患に関係しており(トンプソン(Thompson)、Science、267:1456〜1462、1995(非特許文献4))、これにはデノボ蛋白質合成およびRNA合成を必要とする(マーチン(Martin)ら、J. Cell. Biol.、106:829〜844、1988(非特許文献5);オッペンハイム(Oppenheim)ら、Dev. Biol.、138:104〜113、1990(非特許文献6))。c-Jun蛋白質発現の増加は、全体的な虚血後の神経損傷(ニューマン・ヘーフェリン(Neumann-Haefelin)ら、Cerebral Flow Matab. 14:206〜216、1994(非特許文献7))またはインビボでの神経軸索の離断(ニューマン・ヘーフェリン(Neumann-Haefelin)、上記)に関連している。c-Junの発現およびリン酸化の増加は、インビトロで神経生長因子(NGF)を枯渇させた交感神経ニューロンがアポトーシスによって死滅する前に認められている(ハム(Ham)ら、Neuron、14:927〜939、1995(非特許文献8))。その上、ドミナント・ネガティブ変異体c-Junの発現またはc-Jun抗体による処置によって、NGF枯渇交感神経ニューロンはアポトーシスから保護される(ハム(Ham)ら、上記;エスタス(Estus)ら、J. Cell. Biol.、127:1717〜1727、1994(非特許文献9))。しかし、c-Jun欠損マウスは妊娠中期に死亡するために、ストレス誘発性のニューロンのアポトーシスにc-Junが必要であるか否かはインビボで調べられていない(ヒルバーグ(Hilberg)ら、Nature、365:179〜181、1993(非特許文献10))。
【0003】
蛋白質のリン酸化は環境的なストレスシグナルに対して反応するc-Junの活性化に関与している一つの重要な作用機序である(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、J. Mol. Med.、74:589〜607、1996(非特許文献11))。c-JunのN-末端キナーゼ(JNK、SAPKとしても知られる)は、c-JunのNH2-末端活性化ドメイン上の2つの残基(63位のセリンおよび73位のセリン)をリン酸化するセリン/トレオニン蛋白質キナーゼである(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記;デリヤール(Derijard)ら、Cell、76:1025〜1037、1994(非特許文献12);キリアキス(Kyriakis)ら、Nature、369:156〜160、1994(非特許文献13))。マップキナーゼキナーゼ(MKK)4(SEK1としても知られる)は環境的ストレスおよびマイトゲン因子に反応するJNKの直接活性化物質である(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記;デリヤール(Derijard)ら、上記;ニシナ(Nishina)ら、Nature 385:350〜353、1997(非特許文献14);ヤン(Yang)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94:3004〜3009、1997(非特許文献15);サンチェス(Sanchez)ら、Nature、372:794〜798、1994(非特許文献16))。JNKはまた、AP-1転写因子複合体の成分として機能するATF2およびその他のJunファミリー蛋白質もリン酸化する(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記;グプタら(Gupta)、Science 267:389〜393、1995(非特許文献17);グプタら(Gupta)、EMBO J. 15:2760〜2770、1996(非特許文献18))。JNKによるこれらの転写因子のリン酸化によって、AP-1転写活性が増大する(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記)。逆に、AP-1転写活性の誘導はMKK4を欠損する細胞では選択的に遮断されている(ヤン(Yang)ら、上記)。
【0004】
JNKは、インビボでの神経細胞死の一つのモデル系であるNGF分化PC12褐色細胞腫(バティスタトウ(Batistatou)ら、J. Cell. Biol. 122:523〜532、1993(非特許文献19))のアポトーシスに関係している(サイア(Xia)ら、Science、270:1326〜1311、1995(非特許文献20))。分化したPC12細胞から神経生長因子(NGF)を枯渇すると、アポトーシス細胞死の前にJNK活性化が認められる(サイア(Xia)ら、上記)。JNKシグナル伝達経路の構成的に活性化された成分およびドミナントネガティブ変異体成分を用いたトランスフェクション研究から、JNKがPC12細胞のNGF除去によって誘発されたアポトーシスに関係していることが立証された(サイア(Xia)ら、上記)。
【0005】
異なる三つの遺伝子の選択的スプライシングによって生じたJNKイソ型10個が同定されている(デリヤール(Derijard)ら、上記;キリアキス(Kyriakis)ら、上記;グプタ(Gupta)ら、上記;マーチン(Martin)ら、Brain Res. Mol. Brain Res.、35:47〜57、1996(非特許文献21))。JNK1およびJNK2イソ型は脳を含むマウス組織に広く発現しているが、JNK3イソ型は主に脳に発現されており、心臓および精巣での発現の程度はこれより少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】クイダ(Kuida)ら、Nature、384:368〜372、1996
【非特許文献2】ラタン(Ratan)ら、Neurochem.、62:376〜379、1994
【非特許文献3】ラッフ(Raff)ら、Science、262:695〜700、1993
【非特許文献4】トンプソン(Thompson)、Science、267:1456〜1462、1995
【非特許文献5】マーチン(Martin)ら、J. Cell. Biol.、106:829〜844、1988
【非特許文献6】オッペンハイム(Oppenheim)ら、Dev. Biol.、138:104〜113、1990
【非特許文献7】ニューマン・ヘーフェリン(Neumann-Haefelin)ら、Cerebral Flow Matab. 14:206〜216、1994
【非特許文献8】ハム(Ham)ら、Neuron、14:927〜939、1995
【非特許文献9】エスタス(Estus)ら、J. Cell. Biol.、127:1717〜1727、1994
【非特許文献10】ヒルバーグ(Hilberg)ら、Nature、365:179〜181、1993
【非特許文献11】ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、J. Mol. Med.、74:589〜607、1996
【非特許文献12】デリヤール(Derijard)ら、Cell、76:1025〜1037、1994
【非特許文献13】キリアキス(Kyriakis)ら、Nature、369:156〜160、1994
【非特許文献14】ニシナ(Nishina)ら、Nature 385:350〜353、1997
【非特許文献15】ヤン(Yang)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94:3004〜3009、1997
【非特許文献16】サンチェス(Sanchez)ら、Nature、372:794〜798、1994
【非特許文献17】グプタら(Gupta)、Science 267:389〜393、1995
【非特許文献18】グプタら(Gupta)、EMBO J. 15:2760〜2770、1996
【非特許文献19】バティスタトウ(Batistatou)ら、J. Cell. Biol. 122:523〜532、1993
【非特許文献20】サイア(Xia)ら、Science、270:1326〜1311、1995
【非特許文献21】マーチン(Martin)ら、Brain Res. Mol. Brain Res.、35:47〜57、1996
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、JNK3遺伝子を欠損するマウス(JNK3(-/-))が正常に発達して、興奮毒性性の障害に対して抵抗性であること、ならびにJNK3がストレス誘発性の発作活性、AP-1転写活性化、および海馬ニューロンのカイネート誘発アポトーシスにおいて何らかの役割を果たしているという発見に基づいている。このように、JNK3はカイネート/グルタメート興奮毒性のメディエータであり、興奮毒性障害を制限または防止する標的である。
【0008】
本発明はまた、JNK3発現を調節する候補化合物を同定する方法を特徴とする。本方法は、JNK3蛋白質を発現することができる細胞を、候補化合物が存在しない場合に細胞がJNK3蛋白質を発現するために十分な条件および時間、化合物とインキュベートする段階を含む。次に、細胞におけるJNK3の発現を化合物の存在下で測定する。また、JNK3の発現を、同じ条件および同じ時間で対照細胞においても測定する。化合物の存在下でインキュベートした細胞と対照細胞とにおけるJNK3発現量を比較する。JNK3発現に差があれば化合物がJNK3発現を調節することを示している。本方法の一つの態様において、化合物はJNK3発現を減少させる。
【0009】
もう一つの態様において、本発明は、JNK3活性を調節する候補化合物を同定する方法を特徴とする。方法は、候補化合物が存在しない場合に細胞がJNK3活性を発現するために十分な条件および時間、JNK3活性を有する細胞と化合物とをインキュベートする段階を含む。次にJNK3の活性を化合物の存在下で細胞において測定する。また、JNK3の活性を、同じ条件および同じ期間で対照細胞においても測定する。化合物の存在下でインキュベートした細胞と対照細胞におけるJNK3活性の量を比較する。JNK3活性に差があれば化合物がJNK3活性を調節することを示している。本方法の一つの態様において、化合物はJNK3活性を減少させる。
【0010】
本発明はまた、JNK3ポリペプチドの基質への結合を調節する化合物を同定する方法を含む。本方法は選択した化合物の存在下および非存在下で基質に結合するJNK3ポリペプチドの量を比較することを含む。JNK3ポリペプチドの基質への結合量に差があれば、選択した化合物がJNK3ポリペプチドの結合を調節することを示している。この方法の一つの態様において、JNK3ポリペプチドの基質への結合は減少する。
【0011】
本発明のもう一つの特徴は、少なくとも一つの不活化JNK3遺伝子を含む全能性マウス細胞を製造する方法である。本方法は以下の段階を含む:a)複数の全能性マウス細胞を提供する段階;b)ある配列を遺伝子に挿入することによって破壊されたマウスJNK3遺伝子を含むDNA構築物を細胞に導入して、この破壊により機能的JNK3の発現を阻害する段階;c)JNK3をコードする染色体配列と導入されたDNA構築物との間に相同的組換えが起こるように細胞をインキュベートする段階;およびd)少なくとも一つの不活化JNK遺伝子を有する全能性マウス細胞を同定する段階。
【0012】
不活化JNK3遺伝子に関してホモ接合であるマウスを作製する方法も本発明の特徴である。本方法は以下の段階を含む:a)少なくとも一つの不活化JNK3遺伝子を含む全能性マウス細胞を提供する段階;b)細胞をマウスの胚に挿入し、その胚を雌性マウスに植え込む段階;c)胚を新生児マウスに生育させる段階;d)新生児マウスを性的成熟に達するまで飼育する段階;e)不活化JNK3遺伝子に関してホモ接合であるマウスを得るために性的に成熟したマウス二匹を交配させる段階。そのようなマウス(ホモ接合JNK3(-/-))は興奮毒性障害に対して抵抗性である。
【0013】
本発明はまた、興奮毒性を含む神経系の障害を有する、またはそのリスクを有する患者を治療する方法も特徴とする。本方法は、JNK3発現を阻害する化合物の治療的有効量、またはJNK3活性を阻害する化合物の治療的有効量を患者に投与することを含む。アンチセンス核酸分子またはリボザイムは阻害化合物として用いることができる。これらの方法によって治療することができる障害には、アルツハイマー病のような痴呆、ハンチントン病のような神経変性疾患、虚血のような脳血管障害、筋萎縮性側索硬化症、熱または低温によって引き起こされたものを含む外傷、運動神経疾患、パーキンソン病、またはてんかんを含む急発作疾患が含まれる。下垂体、副腎、精巣、または膵臓(例えばβ細胞)に影響を及ぼす障害のような神経内分泌障害は、JNK3調節物質によって治療することができる。
【0014】
本発明はまた、導入遺伝子が哺乳動物の生殖細胞の染色体に組み入れられており、JNK3遺伝子の発現を破壊する導入遺伝子を有するヒト以外のトランスジェニック哺乳動物を含む。本発明の一つの態様において、哺乳動物はマウスである。哺乳動物の生殖細胞は、導入遺伝子に関してホモ接合となりえて、JNK3遺伝子発現の破壊により結果としてヌル変異が生じる。本発明のもう一つの態様には、JNK3遺伝子の発現を破壊する導入遺伝子を有する哺乳動物の細胞に由来する細胞株が含まれる。
【0015】
破壊されたマウスJNK3遺伝子を含むDNA構築物もまた、本発明の特徴である。この破壊は、破壊が機能的JNK3の発現を阻害または改変するように、ある配列を遺伝子に挿入することによって行われる。
【0016】
特に明記していない限り、「JNK3」は、図1A〜5Bに示す配列(配列番号1〜12;同様に、配列番号:1および配列番号:2に対応するゲンバンクアクセッション番号:U34819;配列番号:4および配列番号:5に対応するU34820;配列番号:7および配列番号:8に対応するU07620;配列番号:9および配列番号:10に対応するL27128;および配列番号:11および配列番号:12に対応するL35236も参照のこと)のような、核酸およびポリヌクレオチドの双方を指すことができる。配列番号:3および配列番号:6は、配列番号:7によって示される配列と共に、配列番号:1および4によって示される配列間で推定されるオーバーラップに基づく推定ヌクレオチド配列を表す。JNK3はまた、上記のアミノ酸配列と少なくとも85%同一であるポリペプチド、およびそれらのポリペプチドをコードする核酸を指す。これらの配列の例およびそれらを単離する方法はグプタ(Gupta)ら、上記、1996;キリアキス(Kyriakis)ら、上記;マーチン(Martin)ら、Brain Res.Mol. Brain Res. 35:45〜57、1996;およびモヒト(Mohit)ら、Neuron 14:67〜78、1995に見ることができる。
【0017】
「対照」細胞は、例えば遺伝子型および表現型から見て、比較される細胞と概して同じであるが(例えば細胞は姉妹細胞となりうる)、試験化合物に暴露されない細胞である。
【0018】
特に明記していない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験にあたっては、本明細書に記述のものと類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適した方法および材料を下に記述する。本明細書において言及した全ての出版物、特許出願、特許およびその他の引用文献はその全文が組み入れられる。矛盾が生じる場合、定義を含む本明細書が支配する。さらに、材料、方法および実施例は説明のためであって、制限すると解釈されない。
【0019】
本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および請求の範囲から明らかとなると思われる。
【0020】
詳細な説明
JNK蛋白質キナーゼは、特定のグループのストレスシグナルに反応してc-Junをリン酸化してその後AP-1転写活性を増加させる(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記;ヤン(Yang)ら、上記)。JNK3が神経特異的に発現されると、ニューロンは特に生理学的ストレスを受けやすくなる可能性がある。本明細書に記述の実験において、JNK3欠損マウスではカイニン酸(KA)誘発急発作およびアポトーシスに対する顕著な抵抗性が認められている。KA神経毒性に対する抵抗性は、JNK蛋白質キナーゼのJNK3イソ型によって媒介される特異的ストレス反応経路の消失による可能性がある。第一に、野生型マウスではKAの投与によって、c-JunのNH2-末端活性化ドメインのリン酸化が起こり、AP-1転写活性が著しく増加したが、JNK3-欠損マウスではこれらの作用は起こらなかった。第二に、海馬の最も易損性の領域内でリン酸化されたc-Junの持続的発現を認め、これはJNK活性がニューロンのアポトーシスに至る可能性があることをさらに示している。
【0021】
本明細書に報告した知見は、KA神経毒性が興奮性の回路に依存していることと一致する(ナドラー(Nadler)ら、Brain Res. 195:47〜56、1980)。JNK3は神経系に広く発現され、その活性は多くの異なるストレスシグナルによって増加するため(グプタ(Gupta)ら、上記)、JNK3は、多様な環境的傷害によって引き起こされたストレス誘発性のアポトーシスに関係する可能性がある。
【0022】
KA誘発性の興奮性神経毒性の重要なメディエータとしてJNK3を同定することは、臨床的に意味がある。マウス、ラット、およびヒトJNK3のアミノ酸配列は非常に保存されている(キリアキス(Kyriakis)ら、上記;グプタ(Gupta)ら、上記;マーチン(Martin)ら、上記;モヒト(Mohit)ら、Neuron. 14:67〜78、1995)。その上、ヒトJNK3遺伝子の発現はまた、神経系および内分泌系に限定され、脳の多くの小領域に広く発現されている(グプタ(Gupta)ら、上記;モヒト(Mohit)ら、上記)。したがって、ヒトおよび齧歯類のJNK3蛋白質キナーゼは関連するまたは同一の生理学的機能を有する可能性がある。興奮性アミノ酸の神経毒性は、急性虚血から慢性神経変性疾患に至る多くの神経学的障害に関係している(チョイ(Choi)、Neuron、1:623〜634、1988;リプトン(Lipton)ら、N. Engl. J. Med. 330:613〜622、1994;ロスマン(Rothman)ら、Annu. Neurol. 19:105〜111、1986)。これまでの治療戦略は、NMDAタイプのグルタメート受容体のような、細胞表面チャンネルを通じてのカルシウムの流入防止に重点が置かれていた。しかし今日まで、これらのアプローチからは多様な結果が得られているにすぎない(リプトン(Lipton)ら、上記)。したがってJNK3は、興奮性神経毒性がJNK3媒介アポトーシスを含む場合、治療的介入の標的となる。
【0023】
下記の実験において、相同的組換えを用いてJNK3-欠損マウスを作製し、侵害刺激に対するそれらの反応を調べた。強力な興奮毒性化学物質であるKAは、辺縁系の急発作および神経細胞死を誘発する。KAの神経毒性はシナプス後部位でのグルタメート受容体の直接刺激およびシナプス前部位からの興奮性アミノ酸の放出の間接的な増加に由来する。KAを全身的に投与すると、c-Junおよびc-Fosを含む様々な細胞性前初期遺伝子(cIEG)の発現を誘導することはよく知られている。このように、KAを適用するとインビボで脳におけるストレス反応経路を誘発する。下記に詳しく述べる実験は、KAが野生型マウスの脳においてc-Junのリン酸化、およびAP-1転写活性の増加を誘導することを証明している。しかし、KAのこれらの作用はJNK3-欠損マウスの脳では著しく抑制されている。その上、JNK3-欠損マウスはKA誘発急発作および海馬ニューロンのアポトーシスに対して著しい抵抗性を示す。KAで処置したこれらの正常なマウスは、興奮毒性を含むヒトの神経系障害の有用なモデルとなる。
【0024】
これらの実験結果に基づき、JNK3は興奮毒性障害を制限するために特に優れた標的であることが判明した。特に、JNK3は下記のように、JNK3遺伝子発現、JNK3の基質への結合、およびJNK3の活性を調節する分子をスクリーニングするためのプロトコールを含むスクリーニングプロトコールにおいて標的となる。これらのスクリーニングにおいて認められた、JNK3の発現または活性を有効に減少させる分子は、てんかんのような急発作障害、虚血を含む脳血管障害、代謝不均衡(例えば、低血糖症)、極度の熱または低温による損傷、外傷(例えば、放射線照射、脊髄損傷、圧力およびイオン不均衡)、アルツハイマー病のような痴呆、パーキンソン病、および神経変性疾患(例えば、ハンチントン病)、ならびに運動神経疾患(筋萎縮性側索硬化症を含む)などの興奮毒性を含む神経系の障害を治療するために用いられる薬剤候補である(トンプソン(Thompson)、Science、267:1456〜1462、1995;コイル(Coyle)ら、Science、262:689〜695、1993)。
【0025】
JNK3活性を阻害する分子のスクリーニング法
以下のアッセイ法およびスクリーニングはJNK3活性の有効な阻害剤である化合物を同定するために用いることができる。アッセイ法およびスクリーニングは、ライブラリからの分子の物理的選択および分子ライブラリにおける化合物のデジタルモデル、およびJNK3活性部位のデジタルモデルのコンピュータでの比較によって行うことができる。アッセイ法およびスクリーニングにおいて同定された阻害物質は、JNK3に結合することによって(例えばマウスまたはヒト)、JNK3に結合する細胞内蛋白質に結合することによって、JNK3とその基質との相互作用を妨害する化合物によって、JNK3遺伝子の活性を調節する化合物によって、またはJNK3遺伝子もしくはJNK3蛋白質の発現を調節する化合物によって作用する可能性があるが、これらに限定しない。
【0026】
アッセイ法はまた、JNK3調節配列に結合する分子(例えば、プロモーター配列)を同定し、それにより遺伝子発現を調節するために用いることができる。例えば、プラット(Platt)、J. Biol. Chem.、269:28558〜28562、1994を参照のこと。
【0027】
本明細書に記述の方法によってスクリーニングすることができる化合物は、JNK3蛋白質に結合する、またはその活性をいずれにせよ阻害するペプチドおよびその他の有機化合物(例えば、ペプチド模倣体)を含むが、これらに限定しない。そのような化合物は、ペプチド;例えばランダムペプチドライブラリ(例えば、ラム(Lam)ら、Nature、354:82〜84、1991;ホウテン(Houghten)ら、Nature 354:84〜86、1991を参照のこと)、ならびにD-および/またはL-アミノ酸、ホスホペプチド(ランダムまたは部分的に縮重した、方向性を有するホスホペプチドライブラリのメンバーを含むがこれらに限定しない;例えば、ソンギャング(Songyang)ら、Cell 72:767〜778、1993を参照のこと)、および有機または無機低分子を含む組合せ化学に由来する分子ライブラリのメンバーを含むがこれらに限定しない可溶性ペプチドを含んでもよいが、これらに限定しない。
【0028】
化合物および分子をスクリーニングして、JNK3遺伝子またはJNK3の発現の調節に関係している他の何らかの遺伝子の発現に影響を及ぼす(例えば、遺伝子の調節領域または転写因子と相互作用することによって)化合物を同定する。また、化合物を、そのような蛋白質の活性(例えば、JNK3活性を阻害することによって)、またはJNK3の調節に関係している分子の活性に影響を及ぼす化合物を同定するためにスクリーニングする。
【0029】
コンピューターによるモデリングまたは検索技術を用いて、JNK3蛋白質の発現もしくは活性を調節するために、調節する候補物質である化合物を同定する、または改変された化合物を同定することができる。例えば、JNK3蛋白質の活性部位と相互作用する可能性がある化合物を同定する。JNK3の活性部位は、例えば分子のアミノ酸配列の分析を含む当技術分野で既知の方法を用いて、JNK3と本来のリガンド(例えば、ATF2またはc-Jun)によって形成された複合体の研究から同定することができる。化学またはX線結晶学的方法を用いて、c-JunまたはATF2のような結合したリガンドの位置によってJNK3の活性部位を同定することができる。
【0030】
活性部位の三次元構造は決定することができる。これは、完全な分子構造を決定するために用いることが可能な、X線結晶学を含む既知の方法によって行うことができる。固相または液相NMRを用いて特定の分子内距離を測定することができる。構造分析のその他の方法を用いて部分的または完全な地理的構造を決定することができる。地理的構造は、天然(例えば、c-JunもしくはATF2)または人工的リガンドに結合したJNK3蛋白質について決定することができ、これによってより正確な活性部位構造決定が得られる可能性がある。
【0031】
コンピューターに基づく数値的モデリングを用いて、不完全または正確さが不十分な構造を完成させることができる。使用できるモデリング法は、例えば蛋白質または核酸のような特定のバイオポリマーに特異的なパラメータ化したモデル、分子運動の計算に基づく分子動態モデル、熱集合に基づく統計学的な力学モデル、または組み合わせたモデルである。ほとんどのタイプのモデルに関して、構成原子とグループの間の力を表す標準的な分子力の場が必要であるが、これらは物理化学において既知の力の場から選択することができる。上記のように決定した不完全またはより正確でない構造に関する情報は、これらのモデリング法によって計算した構造上の制約として組み込むことができる。
【0032】
JNK3蛋白質の活性部位の構造を、モデリングによって、または方法の組合せのいずれかによって実験的に決定した後、分子構造に関する情報と共に化合物を含むデータベースを検索することによって、候補となる調節化合物を同定することができる。そのような研究において同定された化合物は活性部位構造が一致し、活性部位に適合し、または活性部位を定義するグループと相互作用する構造を有する化合物である。検索によって同定された化合物はJNK3調節化合物の可能性がある。
【0033】
これらの方法はまた、既知の調節化合物またはリガンドから、改良された調節化合物を同定するために用いてもよい。既知の化合物の構造を改変して、本明細書に示すように実験的およびコンピューターモデリング法を用いてその作用を決定する。改変した構造をJNK3蛋白質の活性部位構造と比較して、リガンドもしくは調節化合物に対する特定の改変が蛋白質とのその相互作用にどのように影響を及ぼすかを決定する、または予想する。好ましい特異性または活性を有する改変した調節化合物またはリガンドを得るために、例えば側鎖を変化させることによる組成物の全体的な変化を評価することができる。
【0034】
本明細書の開示によって、JNK3蛋白質および関連する伝達および転写因子の活性部位の同定に基づいて調節化合物を同定するために有用なさらなる実験的およびコンピューターモデリング法は、当業者によって開発することができる。
【0035】
分子モデリング系の例はQUANTAプログラム、例えばCHARMm、MCSS/HOOKおよびX-LIGAND(モレキュラー・シミュレーションズ、インク、サンジエゴ、カリフォルニア州)である。QUANTAは二次元および三次元モデリング、シミュレーション、ならびに巨大分子および低分子有機物の分析のためのモデリング環境を提供する。特に、CHARMmはエネルギーの最小化および分子の動態機能を分析する。MCSS/HOOKはCHARMmを通じて計算されたエネルギー論を用いて活性部位のリガンド結合能の特徴を調べる。X-LIGANDは蛋白質リガンド複合体の電子密度パターンに、リガンド分子を適合させる。このプログラムによって、分子の互いの挙動の相互構築、改変、可視化、および分析も可能となる。
【0036】
特定の蛋白質と相互作用する化合物のコンピューターモデリングを考察する論文をさらに手本にすることができる。例えば、ロチビネン(Rotivinen)ら、Acta Pharmaceutical Fennica 97:159〜166、1988;リプカ(Ripka)、New Scientist 54〜57(1988年6月16日);マッキナリー&ロスマン(McKinaly and Rossmann)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 29:111〜122、1989;ペリー&デービース(Perry and Davies)、OSAR:「ドラッグデザインにおける定量的構造活性相関(Quantitative Structure-Activity Relationships in Drug Design)」、189〜193頁(アランR.リス・インク、1989);ルイス&ディーン(Lewis and Dean)、Proc. R. Soc. Lond. 236:125〜140、141〜162、1989を参照のこと;および核酸成分に対するモデル受容体に関しては、アスキュー(Askew)ら、Am. J. Chem. Soc. 111:1082〜1090を参照のこと。化学物質をスクリーニングおよび描写するためにデザインされたコンピュータープログラムはMSI(上記)、アレリックス・インク(ミシソーガ、オンタリオ州、カナダ)、およびハイパーキューブ・インク(ゲインズビル、フロリダ州)のような企業から入手できる。これらのアプリケーションは主に特定の蛋白質に特異的な薬剤に関してデザインされている;しかし、それらはDNAまたはRNAの同定された領域に特異的な薬剤をデザインするために適合させてもよい。市販の化学ライブラリを候補化合物源として用いることができる。そのような化学ライブラリは例えば、アークル、インク(メッドフォード、マサチューセッツ州)から入手することができる。
【0037】
上記のように、結合を変化させる化合物をデザインおよび産生することに加えて、天然物、合成化学物質、およびペプチドを含む生物活性材料を含む既知の化合物のライブラリを、阻害剤または活性化剤である化合物に関してスクリーニングすることができる。
【0038】
上記の方法によって同定された化合物は、例えばJNK3遺伝子産物の生物学的機能を詳しく調べる際に、およびJNK3活性が有害である障害の治療に、有用となる可能性がある。本明細書に記述されるような化合物の有効性を試験するアッセイ法に関してはさらに下記で述べる。
【0039】
JNK3蛋白質および遺伝子に結合する化合物のインビトロスクリーニングアッセイ法
インビトロ系を用いて、JNK3蛋白質またはそれらの蛋白質をコードする遺伝子と相互作用することができる(例えば結合する)化合物を同定することができる。そのような化合物は例えば、JNK3ポリペプチドもしくは核酸の活性を調節するために、その生化学を詳しく調べるために、またはJNK3発現によって引き起こされたもしくは悪化した障害を治療するために有用となる可能性がある。これらの化合物はそれ自身が正常な機能を破壊する可能性があり、または正常な機能を破壊する化合物をスクリーニングするために用いることができる。
【0040】
JNK3蛋白質に結合する化合物を同定するためのアッセイ法は、蛋白質と試験化合物の反応混合物を、2つの成分が相互作用および結合するために十分な条件下で調製した後、このように検出および/または単離することができる複合体を形成することによって行われる。
【0041】
JNK3蛋白質または核酸に結合することができる分子のスクリーニングアッセイ法は、多くの方法を用いて実施することができる。例えば、JNK3蛋白質、ペプチド、または融合タンパク質を固相上に固定して、試験化合物と反応させ、および試験化合物の直接または間接標識によって複合体を検出するすることができる。または、試験化合物を固定してJNK3ポリペプチドと反応させ、複合体を検出することも可能である。マイクロタイタープレートを固相として用いて、固定した成分を共有結合または非共有結合相互作用によって結合することができる。非共有結合は分子を含む溶液で固相をコーティングし、乾燥させることによって得てもよい。または、JNK3に特異的な抗体を用いて分子を固相表面に結合させる。そのような表面は予め調製して保存しておいてもよい。JNK3抗体はコリガン(Coligan)ら、「免疫学の現行プロトコール(Current Protocols in Immunology)」、ジョン・ウィリー&サンズ、インク、1994、第1巻第2章を参照のこと)に記述の従来の方法を用いて産生することができる。
【0042】
このアッセイ法において、固定成分を含む被覆表面に、2つの成分の相互作用および結合が起こる条件下で非固定成分を加える。次に、形成された複合体が固相上に固定したままで残るような条件下で未反応成分を除去する(例えば洗浄によって)。複合体の検出は当技術分野で既知の多くの方法によって行うことができる。例えば、アッセイ法の非固定成分は、放射活性または酵素標識によって予め標識して、適当な手段によって検出してもよい。非固定部分を予め標識しない場合、間接法を用いる。例えば、非固定部分がJNK3ポリペプチドである場合、JNK3に対する抗体を用いて結合した分子を検出し、二次標識抗体を用いて複合体全体を検出する。
【0043】
または、反応は液相において実施し、反応産物を未反応成分から分離して、複合体を検出(例えば、JNK3蛋白質に特異的な固定化抗体を用いて)することができる。
【0044】
細胞に基づくアッセイ法を用いてJNK3蛋白質と相互作用する化合物を同定することができる。そのような蛋白質を本来発現している、またはそのような蛋白質を発現するように遺伝子操作されている(例えばJNK3 DNAによるトランスフェクションもしくは形質導入によって)細胞株を用いることができる。例えば、試験化合物を細胞培養に加えて、ATF2またはc-Junのリン酸化を下記のように測定することができる。試験化合物を含まない対照と比較して、試験化合物の存在下でJNK3基質のリン酸化量が減少すれば、試験化合物がJNK3活性の阻害剤であることを示している。
【0045】
JNK3プロモーターに作用するJNK3発現の阻害剤は、JNK3プロモーターを含むゲノム配列がリポーター、例えば、蛍のルシフェラーゼに融合しているキメラ遺伝子を用いて同定することができる。このDNAで形質転換した培養細胞(ニューロンを含む)をルシフェラーゼ活性の発現に関してスクリーニングする。この高処理アッセイ法においてルシフェラーゼ活性を阻害する化合物は、当技術分野で既知の方法(例えば、アウスユベール(Ausubel)の「分子生物学の現行プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー&サンズ、1994を参照のこと)を用いて、内因性JNK3蛋白質(例えばウェスタンブロッティングによって)およびJNK3 mRNA(ノザンブロッティングによって)の直接測定によって確認することができる。
【0046】
候補となる阻害化合物は動物モデルと同様に、細胞または組織培養においてもさらに調べることができる。例えば、JNK3を発現する細胞を試験化合物とインキュベートする。処置細胞および非処置細胞から溶解物を調製して、既知の方法に従ってウェスタンブロットを行う。ブロットをJNK3に特異的な抗体をプローブとして調べる。無処置対照と比較して、試験化合物で処置した培養細胞においてJNK3発現量が減少すれば、試験化合物がJNK3発現に関連した障害を治療する薬剤候補であることを示している。
【0047】
JNK3/JNK3基質相互作用を妨害する化合物のアッセイ法
JNK3とその基質との相互作用を妨害する分子は、蛋白質・蛋白質相互作用を検出するアッセイ法を用いて同定することができる。例えば、酵母の2ハイブリッド法は、インビボで蛋白質相互作用を検出する。しかし、候補分子が酵母細胞壁を透過しない可能性があることからインビトロアッセイ法が好ましい。JNKC3と基質との相互作用を破壊するそのような試験分子を調べるインビトロアッセイ法の例には、固定化したJNK3または固定した基質(例えば、c-Jun)を用いること、および固定した成分を細胞溶解物または精製蛋白質と共に試験分子の存在下および非存在下においてインキュベートすることが含まれる。一般に、試験分子は最も豊富に存在する成分(例えば固定したまたは溶液中の成分)の100倍モル過剰の範囲で調べる。試験分子がアッセイ法の固定成分と相互作用すると予想される場合には、細胞溶解物または精製蛋白質を加える前にその成分とプレインキュベートすることができる。非結合材料を洗浄して除去した後、結合した蛋白質を当技術分野で既知の方法を用いて、抗体によって(例えば、ELISAもしくはウェスタンブロット)または標識蛋白質(例えば、放射活性もしくは蛍光)を用いることによって検出する。このようにして、JNK3に結合した基質量を減少させる試験分子は、JNK3/JNK3基質相互作用を妨害する化合物として同定される。
【0048】
インビボにおけるJNK3の作用を改善する化合物のアッセイ法
上記のように同定された化合物、またはインビトロでJNK3活性を阻害するその他の候補化合物は、JNK3活性を含む障害の治療に有用となる可能性がある。これらの化合物はインビボアッセイ、例えばJNK3活性を含む障害の動物モデルにおいて試験することができる。例えば、ALSのトランスジェニックマウスモデル(ブルイジン&クリーブランド(Bruijn and Cleveland)ら、Neuropathol. Appl. Neurobiol. 22:373〜387、1996;ダル・カント&ガーネイ(Dal Canto and Gurney)、Brain Res. 676:25〜40、1995;クリーブランド(Cleveland)ら、Neurology 47:補則2、S54〜61)と同様に、PDAPPマウスのようなアルツハイマー病のトランスジェニックモデルおよびその他のモデル(例えばロリング(Loring)ら、Neurobiol. Aging 17:173〜182、1996)が記述されている。MPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)誘発ドーパミン作動神経毒性は、齧歯類およびヒト以外の霊長類のパーキンソン病のモデルとして用いられている(例えば、プルゼドボルスキ(Przedborski)ら、Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 93:4565〜4571、1996)。
【0049】
JNK3活性を阻害すると予想される試験化合物を、例えば上記のような様々な疾患の典型のモデルとなる動物に投与する。次に処置した動物をJNK3活性の阻害に関して解析する。そのような解析は間接的または推論的であってもよく、例えば動物の健康の改善または生存によって試験化合物の有効性を示してもよい。解析はまた、直接的であってもよく、JNK3またはc-Jun発現の減少は、試験化合物で処置した動物から摘出した神経組織のノザン分析によって測定することができる。無処置対照と比較して、処置動物からの試料中に存在するJNK3 mRNA量が減少すれば、試験化合物がJNK3発現を阻害することを示している。c-Jun量が減少すれば、試験化合物がJNK3発現または活性を阻害することを示している。
【0050】
アンチセンス構築物および治療
「アンチセンス」アプローチに基づく治療レジメは、JNK3 mRNAに相補的であるオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)のデザインを含む。これらのオリゴヌクレオチドは相補的mRNA転写物に結合して翻訳を防止できる。絶対的な相補性は、好ましいが必要ではない。本明細書において述べるRNAの一部と「相補的」である配列は、RNAとハイブリダイズして、安定な二本鎖を形成することができるように十分に相補的である配列である;二本鎖アンチセンス核酸の場合、二本鎖DNAの一本鎖を試験してもよく、または三本鎖形成を解析してもよい。ハイブリダイズ能はアンチセンス核酸の相補性の程度および長さの双方に依存するであろう。一般に、ハイブリダイズする核酸の長さが長ければ長いほど、RNAとの塩基ミスマッチはより多くなるがそれでも安定な二本鎖(または必要に応じて三本鎖)が形成される。当業者はハイブリダイズした複合体の融点を決定するために標準的な技法を用いることによって、ミスマッチの許容できる程度を確認することができる。
【0051】
メッセージの5'末端、例えばAUG開始コドンまでおよびそれを含む5'非翻訳配列と相補的であるオリゴヌクレオチドは、一般に翻訳を阻害するために最も効果的である。しかし、mRNAの3'非翻訳配列と相補的である配列もまた、翻訳を阻害するために有効であることが示されている(ワグナー(Wagner)、Nature 372:333、1984)。このように、JNK3の5'または3'非翻訳非コード領域は、JNK3 mRNAの内因性ヒト相同体の翻訳を阻害するためのアンチセンスアプローチにおいて用いることができる。mRNAの5'非翻訳領域と相補的なオリゴヌクレオチドはAUG開始コドンの相補物を含むはずである。5'および3'領域の候補となるアンチセンス配列の例はそれぞれ;5'-AAG AAA TGG AGG CTC ATA AAT ACC ACA GCT-3'(配列番号:17)および5'-ATT GGA AGA AGA CCA AAG CAA GAG CAA CTA-3'(配列番号:18)である。
【0052】
JNK3遺伝子のコード領域と相補的であるアンチセンスヌクレオチドを用いることができるが、転写された非翻訳領域と相補的なヌクレオチドが最も好ましい。このタイプの候補配列の例は、5'-TAA GTA AGT AGT GCT GTA TGA ATA CAG ACA-3'(配列番号:19)および5'-TAC TGG CAA TAT ATT ACA GAT GGG TTT ATG-3'(配列番号:20)である。
【0053】
mRNAコード領域と相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、あまり効率的でない翻訳の阻害剤であるが、本発明に従って用いることができる。JNK3 mRNAの5'、3'またはコード領域とハイブリダイズするようにデザインされているか否かによらず、アンチセンス核酸は少なくとも長さがヌクレオチド6個でなければならず、好ましくは長さがヌクレオチド6〜約50個の範囲のオリゴヌクレオチドである。特定の局面において、オリゴヌクレオチドは長さが少なくとも10ヌクレオチド、または少なくとも50ヌクレオチドである。
【0054】
標的配列の選択によらず、まずアンチセンスオリゴヌクレオチドが遺伝子発現を阻害できるか否かを評価するために、通常インビトロ試験を実施する。一般に、これらの試験は、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的生物作用とを識別する対照を利用する。これらの試験において、標的RNAまたは蛋白質のレベルを通常、内部対照RNAまたは蛋白質のレベルと比較する。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて得られた結果を対照オリゴヌクレオチドを用いて得られた結果と比較することで考察を行う。対照オリゴヌクレオチドは試験オリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであること、およびオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列は、標的配列との特異的ハイブリダイゼーションを防止するために必要である以上にアンチセンス配列とは異ならないことが好ましい。
【0055】
オリゴヌクレオチドは、DNA、もしくはRNAまたはキメラ混合物もしくはその誘導体もしくは改変型、一本鎖もしくは二本鎖となりうる。オリゴヌクレオチドは、例えば分子の安定性またはハイブリダイゼーションを改善するために、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格で改変することができる。オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、インビボで宿主細胞受容体をターゲティングするために)または細胞膜(例えば、レッチンガー(Letsinger)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6553、1989;レマイター(Lemaitre)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:648、1987;PCT公開番号、国際公開公報第88/09810号に記述のように)もしくは血液脳関門(例えば、PCT公開番号、国際公開公報第89/10134号を参照のこと)を通過して輸送を促進する物質、またはハイブリダイゼーション誘発切断物質(例えば、クロール(Krol)ら、BioTechniques 6:958、1988を参照のこと)またはインターカレート物質(例えば、ツォン(Zon)、Pharm. Res. 5:539、1988を参照のこと)のようなその他の付加された群を含んでもよい。この目的のため、オリゴヌクレオチドは、もう一つの分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発クロスリンク物質、輸送物質、またはハイブリダイゼーション誘発切断物質に結合させることができる。
【0056】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下からなる群より選択される少なくとも一つの改変された塩基部分を含んでもよいがこれらに限定しない:5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルケオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ウィブトキソシン、シュードウラシル、ケオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-テオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、2-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6-ジアミノプリン。
【0057】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、以下からなる群より選択される少なくとも一つの改変した糖部分を含むことができるが、これらに限定しない:アラビノース、2-フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソース。
【0058】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、以下からなる群より選択される、少なくとの一つの改変したリン酸骨格を含むことができる:ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミドチオエート、ホスホロアミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタールまたはこれらの骨格の類似体。
【0059】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはα-アノマーオリゴヌクレオチドを含むことができる。α-アノマーオリゴヌクレオチドは、その中で通常のβサブユニットとは対照的に鎖が互いに平行に並んでいる、相補的RNAと特異的二本鎖ハイブリッドを形成する(ゴーティエ(Gautier)ら、Nucl. Acids. Res. 15:6625、1987)。オリゴヌクレオチドは2'-O-メチルリボヌクレオチド(イノウエ(Inoue)ら、Nucl. Acids. Res. 15:6131、1987)またはキメラRNA-DNA類似体(イノウエ(Inoue)ら、FEBS Lett. 215:327、1987)である。
【0060】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは当技術分野において既知の標準的な方法、例えば自動DNAシンセサイザー(例えばバイオサーチ社、アプライドバイオシステムズ社等から販売されている製品)を用いることによって合成することができる。一例として、ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドはスタイン(Stein)ら(Nucl. Acids. Res. 16:3209、1988)の方法によって合成することができ、メチルホスホネート・オリゴヌクレオチドは調整された孔を有するガラスポリマー支持体を用いることによって調製することができる(サリン(Sarin)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:7448、1988)。
【0061】
アンチセンス分子はインビボでJNK3蛋白質を発現する細胞に輸送されなければならない。アンチセンスDNAまたはRNAを細胞に輸送するために多くの方法が開発されている;例えば、アンチセンス分子は組織部位に直接注射することができる、または所望の細胞を標的とするようにデザインされた改変型のアンチセンス分子(例えば、標的細胞表面に発現された受容体または抗原に特異的に結合するペプチドまたは抗体に結合したアンチセンス)を全身投与することができる。
【0062】
しかし、内因性mRNAの翻訳を抑制するために十分なアンチセンス分子の細胞内濃度を得ることはしばしば難しい。したがって、強いpol IIIまたはpol IIプロモーターの制御下に置かれたアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組換えDNA構築物を用いたアプローチを用いてもよい。患者の標的細胞をトランスフェクトするためにそのような構築物を用いると、内因性JNK3転写物と相補的塩基対を形成する一本鎖RNAの十分量の転写が起こり、それによってそのmRNAの翻訳が妨げられる。例えば、それが細胞に取り込まれて、アンチセンスRNAの転写を指向するように、インビボでベクターを導入することができる。そのようなベクターは、それが転写されて所望のアンチセンスRNAを生じることができる限り、エピソームとして留まる、または染色体に取り込まれることが可能である。
【0063】
そのようなベクターは当技術分野で既知の組換えDNA技法によって構築することができる。ベクターはプラスミド、ウイルス、または哺乳動物細胞の複製および発現に用いられる当技術分野で既知の他のベクターとなりうる。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、当技術分野において哺乳動物、好ましくはヒト細胞において作用することが知られている如何なるプロモーターによっても行うことができる。このプロモーターは、誘導的もしくは構成的となりうる。適したプロモーターにはSV40初期プロモーター領域(ベルノイスト(Bernoist)ら、Nature 290:304、1981);ラウス肉腫ウイルスの3'長末端反復に含まれるプロモーター(ヤマモト(Yamamoto)ら、Cell 22:787〜797、1988);ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(ワグナー(Wagner)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:1441、1981);およびメタロチオネイン遺伝子の調節配列(ブリンスター(Brinster)ら、Nature 296:39、1988)が含まれるが、これらに限定しない。構築物はまた、人工染色体上に含まれてもよい(例えば、哺乳動物の人工染色体;MAC;ハリントン(Harrington)ら、Nature Genet. 15:345〜355、1997)。
【0064】
上記のいずれかの遺伝子治療アプローチによるJNK3アンチセンス核酸分子の産生によって、JNK3蛋白質の細胞内レベルは無処置の個体に存在する量より少なくなる。
【0065】
リボザイム
JNK3 mRNAの切断を触媒するようにデザインされるリボザイム分子もまた、これらのmRNAの翻訳およびJNK3 mRNAの発現を防止するために用いることができる(例えば、PCT公開番号、国際公開公報第90/11364号;サラバー(Saraver)ら、Science 247:1222、1990を参照のこと)。部位特異的認識配列でmRNAを切断する様々なリボザイムは、特異的mRNAを破壊するために用いることができるが、ハンマーヘッドリボザイムを使用することが好ましい。ハンマーヘッド・リボザイムは標的mRNAと相補的塩基対を形成する隣接領域によって指示される位置でmRNAを切断する。唯一の要件は標的mRNAが以下の2つの塩基配列、すなわち5'-UG-3'を有していることである。ハンマーヘッドリボザイムの構築および産生は当技術分野で周知である(ハセロフ(Haseloff)ら、Nature 334:585、1988)。好ましくは、リボザイムは切断認識部位がJNK3 mRNAの5'末端近傍に存在するように、すなわち有効性を増加させて非機能的mRNA転写物の細胞内蓄積を最小限にするように操作される。
【0066】
ヒトJNK3において可能性があるリボザイム部位の例には、例えばヒトJNK3ではヌクレオチド約224〜226位である開始メチオニンコドン、下流の開始部位と思われるコドン(ヌクレオチド338〜340位)、およびヌクレオチド698〜670位;740〜742位、および935〜937位を含むコード領域におけるさらなるコドンに対応する5'-UG-3'部位が含まれる。
【0067】
本発明のリボザイムはまた、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena Thermophila)に本来存在する酵素(IVSまたはL-19 IVS RNAとして知られる)のようなRNAエンドリボヌクレアーゼ(以降「セック」型リボザイムと呼ぶ)を含み、これはセック(Cech)と共同研究者(ゾウグ(Zaug)ら、Science 224:574、1984;ゾウグ(Zaug)ら、Science 231:470、1986;ツグ(Zug)ら、Nature 324:429、1986;PCT出願番号、国際公開公報第88/04300号;およびビーン(Been)ら、Cell 47:207、1986)によって詳しく記述されている。セック型リボザイムは標的RNA配列とハイブリダイズする8個の塩基対配列を有し、この後で標的RNAの切断が起こる。本発明はJNK3蛋白質に存在する8個の塩基対活性部位配列を標的とするそれらのセック型リボザイムを含む。
【0068】
アンチセンスアプローチのように、リボザイムは改変したオリゴヌクレオチドを含むことができ(例えば、安定性またはターゲティングを改善するため)、インビボでJNK3遺伝子を発現する細胞、例えば脳および脊髄に輸送されなければならない。好ましい輸送法は、トランスフェクトした細胞が内因性JNK3 mRNAを破壊して翻訳を阻害するためにリボザイムの十分量を産生するように、強い構成的pol IIIまたはpol IIプロモーターの制御下でリボザイムを「コードする」DNA構築物を用いることを含む。アンチセンス分子とは異なり、リボザイムは触媒であるため、有効性のために必要とされる細胞内濃度は低い。
【0069】
上記のアプローチのいずれに関しても、治療的JNK3アンチセンスまたはリボザイム核酸分子構築物は、標的領域(例えば、急発作障害における活性の局所部位、アルツハイマー病における海馬、パーキンソン病患者における黒質)に好ましくは直接適用されるが、標的領域の近傍組織に適用すること、または標的領域を流れる血管に適用することも可能である。
【0070】
遺伝子療法のために、アンチセンスまたはリボザイムJNK3発現は、如何なる適したプロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、またはメタロチオネインプロモーター)によっても指向され、その産生は如何なる所望の哺乳動物調節エレメントによっても調節される。例えば、望ましければ、興奮毒性誘導下で細胞において選択的遺伝子発現を指向するエンハンサーを用いて、急発作疾患を有する患者においてアンチセンスJNK3発現を指向することができる。
【0071】
JNK3アンチセンスまたはリボザイム治療はまた、アンチセンスJNK3またはリボザイムRNAを標的領域に直接投与することによっても得られる。このmRNAは標準的な技法によって産生および単離することができるが、効率の高いプロモーター(例えば、T7プロモーター)の制御下でアンチセンスJNK3 DNAを用いてインビトロ転写によって産生することが最も容易である。アンチセンスJNK3 RNAの標的細胞への投与は、本明細書に記述の治療化合物の直接投与のための如何なる方法によっても行われる。
【0072】
JNK3発現または活性を含む障害を治療する方法
本発明はまた、JNK3が障害的役割を有する場合の、特にヒトのような哺乳動物における障害の治療を含む。急発作障害(例えば、てんかん)のような興奮毒性、神経変性障害のような痴呆(例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病)、虚血のような脳血管障害、運動神経疾患(ALSを含む)、極度の熱または低温によって引き起こされた損傷、外傷(例えば放射線照射、脊髄損傷、圧力、およびイオン不均衡)、代謝不均衡(例えば、低血糖症)、ならびにパーキンソン病を含む多くの神経系の障害は、本明細書に記述の方法によって治療することができる。特定のいかなる理論に委ねることによっても本発明を制限することなく、実質的な数の神経障害が少なくとも一部JNK3経路によって媒介される興奮毒性に起因する。したがって、上記のように同定されたこの経路の阻害剤は、興奮毒性を含む疾患の治療に有用である。
【0073】
治療は、内因性JNK3遺伝子発現レベルを減少させるように、例えばJNK3 mRNAの翻訳を阻害または防止するためのアンチセンスまたはリボザイムアプローチ;遺伝子の転写を阻害するための3重ヘリックスアプローチ;または遺伝子もしくはその内因性プロモーターを不活化または「ノックアウト」するために標的化した相同的組換えを用いてデザインすることができる。本明細書に記述のアンチセンス、リボザイムまたはDNA構築物は、標的細胞を含む部位;例えば脳または脊髄の特定の領域に直接投与することができる。JNK3またはJNK3基質を認識する、および発現されるように改変された、またはそうでなければ細胞に入る抗体または抗体の断片もまた、治療的に用いることができる。
【0074】
有効量
本発明の化合物、例えばJNK3発現または活性を調節する化合物の毒性および治療有効性は、標準的な薬学的技法によって、細胞培養または実験動物のいずれかを用いてLD50(集団の50%に対して致命的な用量)およびED50(集団の50%に対して治療的に有効である用量)を決定することができる。毒性と治療効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。大きい治療指数を示すポリペプチドまたはその他の化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を用いてもよいが、そのような化合物を罹患組織の部位に標的化する輸送系をデザインする場合には、非罹患組織に対して起こりうる損傷が最小限となり、それによって副作用を減少するように注意しなければならない。
【0075】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおいて用いられる用量範囲を決定するために用いることができる。そのような化合物の用量は好ましくは毒性をほとんどまたは全く示さないED50を含む循環中の濃度範囲内である。用量は用いる投与剤形および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法において用いられる化合物に関して、治療的有効量は細胞培養アッセイからまず推定することができる。細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の半最大阻害を得る試験化合物の濃度)を含む循環中の血漿濃度範囲が得られるように、動物モデルにおいて用量を決定してもよい。そのような情報はヒトでの有効な用量をより正確に決定するために用いることができる。血漿中濃度は例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0076】
製剤および使用
本発明に従って用いられる薬学的組成物は、一つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて従来の方法で製剤化することができる。
【0077】
したがって、化合物およびその生理学的に許容される塩および溶媒化合物は、吸入(inhalation)もしくは通気(insufflation)(口または鼻のいずれかによって)、または経口、経頬、非経口、もしくは直腸投与によって投与するために製剤化してもよい。
【0078】
経口投与に関しては、薬学的組成物は例えば、結合剤(例えば、予めゼラチン処理したトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);増量剤(例えば、乳糖、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン、またはグリコール酸ナトリウムデンプン);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のような薬学的に許容される賦形剤を用いた従来の手段によって調製された錠剤またはカプセル剤の形であってもよい。錠剤は当技術分野で周知の方法によってコーティングしてもよい。経口投与用の液体製剤は例えば、溶液、シロップ剤または懸濁液の剤形であってもよく、またはそれらは水もしくはその他の適した溶媒に使用前に溶解する乾燥製剤の形状であってもよい。そのような液体製剤は懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性溶媒(例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコールまたは分留植物油);および保存剤(例えば、メチルもしくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)のような薬学的に許容される添加剤によって従来の手段によって調製してもよい。調製物はまた緩衝塩、着香料、着色料、および甘味料を必要に応じて含んでもよい。経口投与用製剤は、活性化合物の放出が制御されるように適切に製剤化してもよい。
【0079】
バッカル剤投与に関しては、組成物は従来の方法で製剤化した錠剤またはトローチ剤の形であってもよい。
【0080】
本発明の組成物を投与する好ましい方法は、中枢神経系、好ましくは脳、特に障害部位の近傍または部位に直接、例えばアルツハイマー病では海馬、パーキンソン病では黒質、および急発作障害では局所部位に化合物を直接輸送することである。したがって、投与は室内、くも膜下腔、または脳室内であってもよい。例えば、直列フィルターを有するオマヤ・リザーバー・シャントは、脳槽空間に外科的に留置することができる。適当な賦形剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)を加えた治療化合物を処方に基づいて注射によってシャントに注入する。
【0081】
吸入投与に関しては、本発明に従って用いられる化合物は、適した噴霧剤例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の適した気体を用いて、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの剤形で輸送すると都合がよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は一定量を輸送するための弁を提供することによって決定してもよい。化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との混合粉末を含む、例えばインヘラーまたはインサフレーターにおいて用いられるゼラチンのカプセルおよびカートリッジを製剤化してもよい。
【0082】
化合物は注射、例えば単回注射または持続的点滴注入による非経口投与のために製剤化することができる。注射用製剤は単位投与剤形、例えばアンプルまたは保存剤を添加して複数回投与容器の形であってもよい。組成物は懸濁液、溶液または油性もしくは水性溶媒中での乳剤の剤形であってもよく、懸濁剤、安定剤および/または分散剤のような処方用物質を含んでもよい。または、活性成分は使用前に、適した溶媒、例えば滅菌発熱物質不含水に溶解する粉末剤形であってもよい。
【0083】
化合物はまた、例えばココアバターまたはその他のグリセリドのような従来の坐剤基剤を含む坐剤または貯留浣腸のような直腸製剤に製剤化することができる。
【0084】
これまでに記述した製剤のほかに、化合物はデポー製剤として製剤化してもよい。そのような長時間持続型の製剤は植え込み(例えば、皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与してもよい。このように、例えば化合物は適したポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂と共に、または水溶性の低い誘導体、例えば水溶性の低い塩として製剤化してもよい。
【0085】
組成物は、必要に応じて、活性成分を含む一つ以上の単位投与剤形を含んでもよいパックまたはディスペンサー装置の形であってもよい。パックは例えば、ブリスターパックのような金属またはプラスチックホイルを含んでもよい。パックまたはディスペンサー装置は投与説明書を添付してもよい。
【0086】
本発明の治療的組成物は担体または賦形剤も含むことができ、その多くは当業者に既知である。用いることができる賦形剤には、緩衝液(例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、蛋白質(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールが含まれる。本発明の核酸、ポリペプチド、抗体または調節化合物は標準的な投与経路によって投与することができる。例えば、投与は非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、被膜内、脊髄内、大槽内、腹腔内、経頬、または経口となりうる。調節化合物は、対応する投与経路に応じて様々な方法で製剤化することができる。例えば、液体溶液は摂取または注射するために調製することができ;ゲルまたは粉末は摂取、吸入、または局所投与のために調製することができる。そのような製剤を作製する方法は周知であり、例えば、「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に見ることができる。特に有用な投与経路は鼻または中枢神経系への直接注入であろうと予想される。
【0087】
実施例
実施例1.JNK3発現
マウスJNK3 cDNAの5'領域(ヌクレオチド62〜412位)に由来する351 bpの配列をランダムプライミングによって[32P]で標識し、これをプローブとして用いてJNK3遺伝子の組織発現パターンを決定した。ノザンブロット分析は、精巣、腎臓、骨格筋、肝臓、肺、脾臓、脳、および心臓から単離したポリ(A)+ mRNAの試料2 mgについて標準的な方法によって実施した。全てのノザンブロットは対照として[32P]標識βアクチンをプローブとして調べ、各レーンにRNAの同程度の量がローディングされていることを確認した。脳では、2.7 kbの転写物に対応する強いシグナルが、7.0 kb転写物に対応する弱いシグナルと共に検出された。2.7 kbの転写物に対応する弱いシグナルは心臓においても検出された。精巣では2.4 kbの転写物に対応するシグナルが検出された。JNK3発現は調べたその他の組織では検出されなかった。
【0088】
インサイチューハイブリダイゼーション分析から、JNK3が脳の多くの領域に発現されていることが示された(マーチン(Martin)ら、上記)。したがって、マウス脳の異なる領域(小脳、大脳皮質、海馬、中脳、視床、および脳幹)から、TRIゾール試薬(ギブコ-BRL社)を用いて全RNA(10 mg)を単離し、上記のJNK3プローブを用いてノザンブロットによって分析した。2.7 kbの転写物に対応するシグナルは調べた脳の全ての切片において検出され、海馬に最も豊富に存在した。
【0089】
実施例2.JNK3遺伝子の標的破壊
JNK3欠損マウスを作製するために、内部4 kb Mscl-Spel JNK3ゲノム断片をPGKneoカセットに置換するようにターゲティングベクターをデザインした。JNK3遺伝子地図、JNK3ターゲティングベクター、および変異JNK3遺伝子について予想される構造を図6に示す。制限酵素部位を示す(B、BamHI;Hp、HpaI;M、MscI;Nco、NcoI;R、EcoRI;Spe、SpeI)。10 kb NotI-EcoRI(NotI部位はベクターに由来する)JNK3断片を129/Svマウス株のλFixIIファージライブラリ(ストラタジーン、インク)からクローニングした。ターゲティングベクターは、JNK3ゲノム断片の5'末端からの4.0 kbのMscI断片、1.6 kb PGK-neoカセット(ネギシ(Negishi)ら、Nature 376:435〜438、1995)、およびJNK3断片の3'末端の1.8 kb SpeI-NcoI断片を、適当なリンカーを用いてpBluescript KSベクター(ストラタジーン、インク)に挿入することによって構築した。ターゲティングベクターは、変異ES細胞の負の選択用JNK3ゲノム配列の5'末端に隣接する2.6 kb PGK tkカセット(ネギシ(Negishi)ら、上記)を含む。JNK3遺伝子においてターゲティングベクターに置換された領域は、JNK3のアミノ酸211〜267位をコードする1と2分の1のエキソンを含む(図5Bに示すように)。この領域は、JNKグループの特徴であり、蛋白質キナーゼ活性にとって必要であるトリペプチド二重リン酸化モチーフThr-Pro-Tyr(TPY)を含む(デリヤール(Derijard)ら、上記)。JNK3座に示す2つの斜線の枠は、JNK3のサブドメインVIIIおよびIX(図5Bに示すJNK3蛋白質のアミノ酸残基189〜267位をコードする)に対応する。
【0090】
ターゲティングベクターはNotIで直鎖状にして、W9.5胚性幹(ES)細胞に電気穿孔した。G418(200 mg/ml)(ギブコBRL社)およびガンシクロビル(2 mM)(シンテックス、パラアルト、カリフォルニア州)に抵抗性のトランスフェクタントからゲノムDNAを単離して、サザンブロット分析によってスクリーニングした。104個の独立したG418およびガンシクロビル抵抗性クローンのサザンブロット分析によって、所望の相同的組換え事象を含む3個のクローンが明らかに示された(ターゲティング効率2.9%)。キメラマウスはこれらのES細胞をC57BL/6(B6)マウス胚盤胞に注射することによって作製した。
【0091】
これらのキメラマウスの尾に由来するEcoRI制限酵素処理DNAのサザンブロットを放射性標識351 bp JNK3プローブを用いて調べた。EcoRI消化の結果、野生型に対応する12 kbバンド(内因性対立遺伝子)および変異体に対応する4.2 kbバンド(破壊された対立遺伝子)が得られた。
【0092】
2つのクローンは、破壊されたJNK3対立遺伝子の次世代マウスへの生殖系列伝達を媒介する。ヘテロ接合体(+/-)を異種交配させると、ホモ接合体変異体マウス(-/-)を生じ、これはゲノムDNAのサザンブロット分析によって同定された。マウス脳から単離した全RNAをノザンブロット分析によって調べた。ブロットをランダムプライミングした32P-標識マウスJNK3 cDNAプローブによって調べ、次にこのプローブをはがして、マウスJNK1およびβアクチンcDNAプローブによって連続的に再度プロービングした。脳における主なJNK3転写物は2.7 kbであり、マウス脳におけるJNK1転写物は2.3および4.4 kbである。JNK3 cDNAプローブとハイブリダイズしたブロットは野生型(+/+)マウスでは転写物を検出したが、ホモ接合ノックアウト(-/-)マウスでは検出しなかった。
【0093】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析を用いてJNK3転写物がホモ接合JNK3(-/-)脳には存在しないことを確認した。JNK1プローブ(447 bp)をマウス脳RNAからRT-PCR(Yangら、上記)によってアンプリマー5'-GTGTGCAGCTTATGATGCTATTCTTGAA-3'(配列番号:21)および5'-CGCGTCACCACATACGGAGTCATC-3'(配列番号:22)を用いて増幅した。マウス組織におけるJNK3 mRNAのRT-PCR検出(Yangら、上記)は、アンプリマー5'-CTGGAGGAGTTCCAAGATGTCTACT-3'(配列番号:23)および5'-TGGAAAGAGCTTGGGGAAGGTGAG-3'(配列番号:24)を用いたRT-PCRによって行い、特異的537 bp DNA産物を生じた。マウス脳から単離したRNAは対照としてHPRTに特異的なプライマーを用いて増幅した。これらの実験からJNK3転写物がホモ接合JNK3(-/-)脳には存在しないことが確認された。
【0094】
JNK3(-/-)マウス脳はJNK3活性を欠損することを示すために蛋白質キナーゼ解析を実施した。これらの実験では、基質GST-cJunを用いたゲル内蛋白質キナーゼ解析によってJNK1およびJNK2の免疫欠失後に、脳溶解物におけるJNK3キナーゼを測定した(デリヤール(Derijard)ら、上記)。野生型(+/+)およびホモ接合ノックアウト(-/-)脳からのマウス海馬溶解物(30 μg)を解析したところ、野生型では55 kDおよび46 kD JNK3イソ型を検出したが、JNK3(-/-)マウスでは認められず、JNK3(-/-)マウス脳がJNK3キナーゼ活性を欠損することが確認された。それと共に、これらのデータはJNK3遺伝子の標的破壊の結果、ヌル対立遺伝子を生じることを示した。
【0095】
JNK3(-/-)マウスは生殖能力を有し、大きさも正常であった。多様な組織の組織学的調査では、心臓、肺、胸腺、脾臓、リンパ節、肝臓、腎臓および骨格筋のヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色を用いて明らかな異常は認められなかった。JNK3(-/-)および野生型マウス脳は、錘体神経マーカー(MAP-2)、ニューロン間マーカーであるカルビンジンおよびパルブアルブミン、星状細胞マーカー(グリア筋原繊維酸性蛋白質;GFAP;ス(Hsu)ら、J. Histochem. Cytochem. 29:577〜580、1981)、およびニスル染色(ス(Hsu)ら、上記)の免疫細胞化学分析によって調べた。これらの試験はJNK3(-/-)マウスが脳の明らかに正常な発育および構造的オーガニゼーションを有することを明らかにした。かなりの数の運動神経ニューロンが野生型およびJNK3(-/-)マウスの顔面神経核に認められた(生後10日での核1個あたりニューロン2150〜2300個、n=4)。ニューロンを形態によって同定し、野生型およびJNK3(-/-)マウスの顔面神経核全体の連続切片の二重盲検アッセイ法によって計数した。このように、JNK3(-/-)マウスでは細胞死を含む明らかな発達異常を認めなかった。
【0096】
実施例3.JNK3欠損マウスはKA誘導急発作に対して抵抗性である
JNK(-/-)マウスおよびその野生型の同腹子にKA 30 mg/kgを腹腔内(i.p.)投与して、急発作を誘発した(ベン・アリ(Ben-Ari)、上記)。野生型マウスでは、KAの投与はまず、異常な姿勢を示す「狂ったような発作」を誘発し、その後頭を振る行動(「濡れたイヌのように体を振ること」)、前肢の振せん、後肢で立ち上がる、姿勢を保てない、および最終的に持続的な痙攣へと進行する。急発作活動は典型的に注射後1時間で鎮静する。野生型およびへテロ接合体マウスは、注射後30〜40分で後肢で立ち上がることを含む急発作の運動症状を発症する。対照的に、JNK3(-/-)マウスははるかに軽度の症状を発症し、主に「狂ったような発作」および時折のミオクローヌス痙攣を含んだ。この用量では、JNK3(-/-)マウスは大発作を発症せず、野生型およびヘテロ接合体マウスよりはるかに急速に回復した。JNK3(-/-)マウスは、KAのより高用量(45 mg/kg、i.p.)に限って野生型マウスと同等の重症度の急発作を発症した。しかし、KAのこの高用量では、野生型マウスの60%以上が持続性の持続性クローヌス性痙攣のために死亡したが、JNK3(-/-)マウスは全て生存した。これらの結果は、JNK3(-/-)マウスは興奮毒性KAの作用に対して抵抗性であったことを示している。さらに、JNK3(-/-)マウスは野生型マウスより速やかに薬物投与から回復した(図7)。図7および8に示す急発作の分類は:1、動きの停止;2、短い攣縮を伴う頭頸部のミオクローヌス攣縮;3、一側性のクローヌス活性;4、両側性の前肢持続性クローヌス性活性;および5、しばしば死亡に至る姿勢緊張の喪失を伴う全性持続性クローヌス活性である。
【0097】
実施例4.ペンテトラゾール(PTZ)誘発急発作に対する抵抗性
KA誘発急発作に対する抵抗性は同腹子の間で異なるため(+/+および+/-は-/-マウスより抵抗性が低い)、認められた感受性の差はマウス系統の差に帰することはできない(シャウエッカー&スチュワート(Schauwecker and Stewart)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:4103〜4108、1997)。しかし、JNK3欠損マウスのKA誘発急発作に対する抵抗性は、血液脳関門を通過する薬剤の減少またはGABA(ガンマアミノ絡酸)阻害性シナプス後電位(IPSP)の増加、またはJNK3蛋白質キナーゼによって媒介される特異的シグナル伝達経路の切断が原因となりうる。これらの可能性を識別するために、もう一つのてんかん誘発性薬剤であるペンテトラゾール(PTZ)(シグマ社)に対するJNK3(-/-)および野生型マウスの反応を調べた。PTZはGABA-IPSPsを遮断することによって急発作誘発能を有することから選択された(ベン・アリ(Ben-Ari)ら、Neurosci. 6:1361〜1391、1981)。
【0098】
JNK3(-/-)マウスおよび野生型の同腹子は、PTZの調べた全ての用量(30、40、50、60 mg/kg、i.p.;図8)において同等の重症度の急発作を発症した。その上、KA誘発急発作において認められる運動症状の遅い進行とは異なり、PTZは注射後5分以内に突然に全身性の持続性クローヌス性痙攣を誘発し、おそらくこれはそのてんかん誘発作用機序がGABA-IPSPの細胞外阻害を通じて単独で作用することを反映している。このように、JNK3(-/-)マウスにおけるKA毒性に対する感受性が異なることは、神経系への薬剤輸送が不良である結果としても、または神経回路における強力なGABA-IPSPsによっても説明できない。さらに、標準的な方法を用いた免疫細胞化学によって、カイネート型のグルタメート受容体サブユニットGluR5-7(ファーミンゲン社、カタログ番号60006E)の発現を調べた。
【0099】
海馬CA1亜分野における錘体ニューロンは、Glu5-7抗体によって最も顕著に標識された。野生型およびJNK3(-/-)マウスではいずれも、海馬のCA1亜分野において軽度に標識された細胞体から生じた先端樹状突起が顕著に標識されており、これは霊長類の海馬と類似のパターンであった(グッド(Good)ら、Brain Research 624:347〜353、1993)。カイネート型サブユニットGluR5-7のほかに、様々なグルタメート受容体サブタイプに必須であるGluR1サブユニットの発現パターン、および細胞外カルシウムの流入を緩衝する可能性がある細胞内カルシウム結合蛋白質パルブアルブミンおよびカルビンジンもまた、JNK3(-/-)と野生型マウスとの間で同程度であった。これらのことから、これらの結果からは、JNK3(-/-)マウスのKA誘発興奮毒性に対する抵抗性に関与している可能性がある明白な構造異常が示されていない。
【0100】
実施例5.c-JunのKA誘発リン酸化の減少
野生型マウスにおけるKAの全身投与は、JNK3蛋白質キナーゼによって媒介されるストレス反応経路を誘発する可能性がある。この可能性を調べるために、KAが野生型およびJNK3(-/-)マウスに対して同等レベルの侵害刺激となるか否かを決定するために、前初期遺伝子c-fosおよびc-junの発現を調べた(モーガン(Morgan)ら、Annu. Rev. Neurosci. 14:421〜451、1991;スメイネ(Smeyne)ら、Nature 363:166〜169、1993;カソフ(Kasof)ら、J. Neurosci. 15:4238〜4249、1995)。全RNAは、KA注射(30 mg/kg、i.p.)前および注射後0.5、2、4または8時間目に屠殺したマウスの海馬から抽出し、ノザンブロットをマウスc-fosおよびc-junプローブによって調べた。c-Junプローブはマウスc-Jun cDNAのヌクレオチド888〜1094位(図9)に対応する207 bp断片であった。c-Fosプローブはマウスc-Fos遺伝子の347 bp断片であった(エキソン4;塩基対2593〜2939)(図10)。JNK3(-/-)および野生型マウスはいずれも、c-fosおよびc-jun転写物の同等レベルの迅速な誘導を示し、これは注射後4時間では次第に減少した。
【0101】
この現象をさらに明確にするために、海馬のシナプス回路と共にKA誘発c-Fosおよびc-Jun免疫反応性の分布を調べた。これらの実験において、ホモ接合変異体および対照野生型マウスを屠殺して、KA(30 mg/kg、i.p.)注射の2または6時間後に4%パラホルムアルデヒドの経心臓還流によって固定した。双方の群の脳を切除して、1時間、前固定し、ビブラトームで切片(厚さ40 mm)にした。組織切片を、c-Jun(サンタクルズ、カタログ番号sc-45)、c-Fos(サンタクルズ、カタログ番号sc-52)およびホスホ特異的c-Jun(Ser-73)(ニューイングランド・バイオラブズ、#9164S)の発現を検出するために免疫細胞化学によって処理した。切片を一次抗体の溶液中で浮遊させ(PBSで200倍希釈)、室温で一晩インキュベートした。二次抗体インキュベーション、アビジン・ビオチン結合ペルオキシダーゼ(ベクタステイン、エリートABCキット、ベクターラボラトリーズ)およびDAB(3,3'-ジアミノベンジジン、シグマ社)反応は標準的な技法を用いて実施した(ス(Hsu)ら、上記)。KAの非存在下では、検出可能なc-Fos発現は認められず、歯状回内部にいくつかのc-Fos陽性細胞を認めたに過ぎなかった。KA(30 mg/kg、i.p.)注射の2時間後、海馬領域全体にc-Fos免疫反応性の大きな増加が認められ、これは野生型およびJNK3(-/-)マウスの双方で同じであった。同時に、野生型およびJNK3(-/-)マウスの双方において歯状回および海馬のCA3領域にc-Jun陽性細胞数の増加が認められた。KA注射の6時間後までに、c-Jun発現は野生型およびJNK3(-/-)マウスの双方においてCA1領域まで拡大した。c-Fosおよびc-Junの誘導は一般に、侵害刺激後のニューロン活性の指標として容認されている(モーガン(Morgan)ら、上記)。c-Junおよびc-Fos標識細胞の誘導レベル、時間経過、および分布が同等であったことから、JNK3(-/-)および野生型マウスがKAの全身投与によって同レベルの侵害ストレスを受けやすいことが示唆された。
【0102】
c-Junは、JNKによるNH2末端活性化ドメインのリン酸化によって活性化される。リン酸化されたc-Junの発現はJNK様活性がJNK3(-/-)マウスに存在するか否かを測定するもう一つの手段となる。リン酸化c-Junの発現はSer-73でリン酸化されたc-Junに対して作製した抗体を用いて調べた(ホィットマーシュ(Whitmarshら、上記;デリヤール(Derijard)ら、上記;キリアキス(Kyriakis)ら、上記)。KAをチャレンジする前では、野生型またはJNK3(-/-)マウスのいずれにおいても抗体によって標識された細胞はなかった。KA注射の2時間後までに、野生型マウスの歯状回および海馬のCA3/CA4領域に高レベルのリン酸化c-Junを認めた。対照的に、JNK3(-/-)マウスではリン酸化c-Junの検出量は痕跡が見られる程度の量であった。このように、JNK3(-/-)マウスではc-Junの持続的なリン酸化のレベルは減少しているかまたは少なかった。
【0103】
さらに、野生型マウス海馬においてリン酸化c-Junの分布の動的な変化を認めた。KA注射後6時間までに、リン酸化c-Junの発現は歯状回では沈静化し、海馬CA3領域の一部の領域へと移動した。より高倍率で見ると、細胞破壊の中心を取り囲むようにリン酸化c-Junが発現されたことが明白になった。対照的に同じ時点でJNK(-/-)マウスにはリン酸化c-Junによる標識は検出されなかった。海馬CA3領域は、おそらくKA結合親和性が高いこと(ベルガー(Berger)ら、上記)およびCA3錘体神経間の興奮性シナプス連絡が強力であること(ウェストブルック(Westbrook)ら、Brain Research 273:97〜109、1983)から、KA興奮毒性に対して最も易損性の構造であると明確に示されている。これらの結果はKAによって誘発されるc-Junのリン酸化にはJNK3が必要であることを示している。
【0104】
実施例6.KA誘発AP-1転写活性の低下
c-Junのリン酸化はAP-1転写活性の誘導の際の重要な初回事象であるため(ホィットマーシュ(Whitmarsh)ら、上記;ヤン(Yang)、上記)、JNK3(-/-)マウスにおいて観察されたc-Junリン酸化の減少によってAP-1転写活性の誘導が減少するか否かを調べた。JNK(-/-)マウスをトランスジェニックAP-1ルシフェラーゼ(AP1-luc)マウスと交配させて(リンコン(Rincon)ら、Embo J. 13:4370〜4381、1994)、子孫を戻し交配させた。JNK3(-/-)/API-Luc(-/+)マウスをJNK3(+/+)マウスと共に実験において用いて、JNK3の存在下または非存在下でのKA誘発AP-1転写活性レベルを比較した。AP1-lucマウスは、ラットプロラクチンプロモーターが最小である場合にコンセンサスAP-1結合部位の4つのコピーの制御下で蛍のルシフェラーゼ遺伝子を含む。これらのマウスにルシフェラーゼが発現されるのはAP-1調節エレメントの存在によることが確認されている。
【0105】
ルシフェラーゼ解析において、KA(30 mg/kg、i.p.)を注射後マウスを一定間隔で屠殺して、相対的ルシフェラーゼ活性を溶媒(生理食塩水)を注射したマウスから得た海馬溶解物において検出されたルシフェラーゼ活性と比較した。マウスを断頭して、脳を解剖して脳組織を25 mM Hepes、pH 7.4、1%トライトン(登録商標)X-100、1 mM EDTA、1mMフェニルメチルスルホニルフルオライドおよび10 μg/mlロイペプチン(プロメガ社、マディソン、ウィスコンシン州)を含む緩衝液に直ちに溶解させた。ルシフェラーゼ活性はリンコン&フラベル(Rincon and Flavell、Embo. J. 13:4370〜4381、1994)に記述のように測定した。KA(30 mg/kg、i.p.)の注射によって、ルシフェラーゼ活性の誘導によって証明されるように、野生型マウスの海馬にAP-1転写活性が大きく誘導された。野生型マウスにおけるルシフェラーゼ活性は6時間までに検出可能となり、その後徐々に増加して3日目に最大となり少なくとも7日間持続した(図11)。対照実験は、溶媒(生理食塩水)の注射によって、AP1-lucマウスにルシフェラーゼ活性が誘導されなかったことを示した。
【0106】
野生型(+/+)およびJNK3(-/-)マウスから調製した海馬および小脳における相対的ルシフェラーゼ活性をKA注射後に測定した。結果を図12に示す。それぞれの時点は個々の動物3〜5匹の平均値(+SEM)を表す。ルシフェラーゼ活性の誘導は海馬で最も顕著であり、ここでは小脳および大脳皮質と比較してc-Junリン酸化の著しく大きい誘導を認めた。AP-1活性の誘導は、野生型マウスの場合と比較してAp1-luc導入遺伝子を有するJNK3(-/-)マウスでは有意に減少した。KA注射の15時間後、JNK3(-/-)マウスと比較して野生型マウスの海馬におけるAP-1活性はほぼ4倍大きかった。注射3日後、AP-1活性は野生型マウスの海馬ではJNK3(-/-)マウスと比較して6倍以上高かった。これらのことから、これらのデータはJNK3遺伝子の破壊によって、インビボにおいて海馬におけるc-JunのKA誘発リン酸化およびAP-1転写活性が抑制されたことを証明している。
【0107】
実施例7.KA誘発アポトーシスに対する抵抗性
他のてんかん誘発物質の中でもKAの一つの独自の特徴は神経細胞死の誘導能である(ベン・アリ、上記;シュウォブ(Schwob)ら、上記)。細胞を破壊するというこのような特性はAP-1転写活性の持続的レベルと平行しているため、AP-1がKA誘発神経細胞死を媒介することが示唆されている(カソフ(Kasof)ら、上記;シュワルツチルド(Schwarzschild)ら、J. of Neurosci. 17:3455〜3466、1997)。したがって、野生型およびJNK3(-/-)マウスの脳をKAによる処置後に調べて、JNK3(-/-)マウスにおけるAP-1転写活性の低下によってニューロン障害の程度が変化したか否かを決定した(ベン・アリ、上記;シュウォブ(Schwob)ら、Neurosci. 5:991〜1014、1980)。
【0108】
これらの実験は以下のように実施した。野生型およびJNK3(-/-)マウスを屠殺して、KA(30 mg/kg、i.p.)の注射後3日間4%パラホルムアルデヒドおよび1.5%グルタルアルデヒドを経心臓還流することによって固定した。脳の半薄切片および薄切片をビブラトームを用いて調製してエポンに抱埋した。ダイヤモンド管を有するミクロトームを用いて組織ブロックから厚さ1μmの半薄切片を調製して、これをトルイジン・ブルー染色によって調べ、超薄切片に関しては電子顕微鏡によって調べた。海馬に対する損傷をまず調べるためにニシル染色を用いた(クルバー(Kluver)ら、J. Neuropath. Exp. Neuro. 12:400〜403、1953)。GFAP免疫細胞化学も用いて海馬における細胞破壊を評価した(ス(Hsu)ら、上記)。ニシル染色は上記のように実施した。アポトーシスを評価するために用いられるTUNELアッセイは、蔗糖によって凍結から保護されている脳半球の凍結切片(50 μm)を用いて実施した。TUNELアッセイは、ターミナルデオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTPニックエンド標識アッセイから改変した(ガブリエリ(Gavrieli)ら、J. Cell. Biol. 119:493〜501、1992)。簡単に説明すると、生理食塩水を添加したスライド上に直接載せた組織切片を2%トライトン(登録商標)X-100によって透過性にし(室温で20分)、0.32 U/μl TdT(ベーリンガー・マンハイム社、カタログ番号220582)および2μMジゴキシゲニン-11-dUDP(ベーリンガー・マンハイム社、カタログ番号1573152)を用いて最終容量40 μlとしてニックエンドを標識するために2時間インキュベートした。組織を、500倍に希釈した抗ジゴキシゲニン抗体(ベーリンガー・マンハイム社、カタログ番号1333062)と共にインキュベートして、標準的な技法を用いて免疫細胞化学のために処理した(ス(Hsu)ら、上記)。
【0109】
KAによって引き起こされた海馬に対する障害は、まずニスル染色液によって調べた。KAによる細胞の喪失によって、CA3領域における錐体ニューロン染色が脱色されるか、またはCA1亜分野全体での染色が散在性でまばらとなるかのいずれかが生じた。ニスル染色液によって明らかにされた細胞破壊を確認するために、TUNEL法を適用してアポトーシスを検出した。ニスル染色を示さない海馬CA3亜分野では、小さい濃縮した核および陽性TUNEL標識細胞の集団を認めた。同様に、濃縮核および破壊された先端樹状突起、ならびに強くTUNEL標識された無数の細胞を示す錐体ニューロンが高い割合で、ニスル染色の減少を示した海馬CA1亜分野に存在した。TUNEL法および核濃縮の形態は動的プロセスの一時点での細胞損傷の程度を示しているに過ぎないため、損傷によって誘発されたGFAPの免疫染色についても、海馬における細胞破壊程度の独立した評価として用いた。ニスル、トルイジン、およびTUNEL染色のパターンと一致して、海馬CA3またはCA1領域のいずれかにおいて、強くGFAP標識された星状細胞数が増加していることが認められた。このように、半薄切片のニスル染色、GFAP免疫細胞化学、TUNEL法、およびトルイジン染色を組合せて用いて、マウス海馬におけるKA誘発損傷を分類した。
【0110】
全体で野生型17例およびJNK3(-/-)マウス18例を調べた。結果を表1に示す(下記)。表は2組のデータから編集した。まず、野生型(n=11)およびJNK3(-/-)マウス(n=10)をKA(30 mg/kg、i.p.)の単回注射後5日目に屠殺した。次に、野生型(n=6)およびJNK3(-/-)マウス(n=8)にKA(30 mg/kg、i.p.)を5日間連続して注射し、最後の注射後2日間調べた。野生型マウスにおける海馬損傷の重症度は双方のプロトコールを用いた実験において同等であった。細胞喪失なし/CA3病変/CA3+CA1病変の比は1回注射実験では2/7/2、および複数回注射実験では2/2/2であった。
【表1】

【0111】
海馬CA3領域は野生型マウスにおいてKA誘発損傷を最も受けやすかった(9/17、53%)。細胞の喪失はCA3領域におけるクリスタルバイオレット染色の減少によって示された。死につつある細胞のDNA断片化を同定するTUNEL法を用いると(ガブリエリ(Gavrieli)ら、上記)、障害を有する領域に標識した細胞のグループを認めた。濃縮した核の集団は、トルイジンブルー染色を施した半薄切片のCA3領域に認められた。KA誘発損傷の結果として、GFAPの強い免疫染色によって示されるように、CA3領域に限定された選択的グリア増殖を認めた。野生型動物の中には、大量の細胞喪失が海馬CA1領域全体に認められた動物もあった(4/17;24%)。同様に、CA1領域に対する損傷はクリスタルバイオレット染色の減少、陽性TUNEL標識細胞、濃縮核、錐体ニューロンの破壊された先端樹状突起、ならびにGFAP陽性星状細胞の肥大および増殖から明らかであった。
【0112】
対照的に、調べたJNK3(-/-)マウス(n=18)のいずれにも明らかな海馬損傷を認めなかった。JNK3(-/-)マウスの半薄切片のニスル染色、TUNELアッセイ、トルイジン・ブルー染色および海馬領域のGFAP免疫染色は、無処置の野生型マウスのものと識別できなかった。その上、JNK2(-/-)マウスはKAの半致死用量45 mg/kgによって同程度の重症度の急発作を発症した(持続的痙攣により、野生型マウスの60%以上にとって致命的である用量)が、それにもかかわらず、細胞損傷を認めた動物ははるかに小さい割合であった(2/15、13%;カイ二乗分析によってp<0.005、d.f.=1)。
【0113】
アポトーシスを評価する方法(例えば、TUNELアッセイ)は、JNK3調節物質がアポトーシスに影響を及ぼすか否かを評価するために用いることができる。
【0114】
実施例8.KA誘発ニューロン損傷に関連した超構造的変化の電子顕微鏡分析
インビトロにおいて皮質ニューロンはグルタメート類似体であるN-メチル-D-アスパルテート(NMDA)の細胞外濃度に応じてアポトーシスまたは壊死のいずれかを起こす(ボンフォコ(Bonfoco)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7162〜7166、1995)。壊死は一般にデノボ蛋白質合成を含む能動的な細胞死プログラムとは適合しない急性の機械的傷害の結果を表すと考えられるため、KA誘発ニューロン損傷においてアポトーシスと壊死とを識別することは重要である。TUNEL結果(上記)はアポトーシスの関与を示している。KA誘導によるインビボでのニューロンの死がアポトーシスであるか壊死的であるか否かをさらに調べるために、電子顕微鏡を用いて変性した海馬ニューロンにおける超微細構造的変化を調べた。顕微鏡分析は、野生型マウスにおいて、アポトーシスの結果としてニューロン損傷を示す一連の形態学的変化を示唆した。KA(30 mg/kg、i.p.)注射後の初回事象は、錐体ニューロンにおける染色質が核膜の内表面上で隣接する電子的に密な塊へと圧縮および分離されることであるように思われた。対照的に、KA注射後のJNK3(-/-)マウスにおける海馬ニューロンの核は、均一な電子透過性の真正染色質を含んだ。野生型マウスでは後期において、核輪郭の回旋および細胞質の濃縮を認めた。野生型マウスの核膜の二重層構造は、これらの形態学的段階の全てにおいてほとんど無傷のままであった。最終的に、変性したニューロンが崩壊して、多くの膜結合アポトーシス小体を生じた。これらの形態学的特徴は全てアポトーシスの特徴と一致する(ケール(Kerr)ら、Br. J. Cancer 26:239〜257、1972)。このように、KAは、JNK3欠損ニューロンには存在しない、損傷したニューロン内でアポトーシスに至る遺伝子プログラムを誘発するように思われた。
【0115】
これらの結果は、c-JunのNH2-末端活性化ドメインのKA誘発リン酸化によってAP-1転写活性およびニューロンのアポトーシスが増加することを示唆している。特定の理論に拘束されることなく、KAによって引き起こされたニューロンのアポトーシスに至る一連の提案された分子事象を図13に示す。
【0116】
KAの全身投与は海馬CA3領域に特に局在する細胞の損傷を引き起こすが、ストレス誘発性のニューロンアポトーシスにおいてJNK3が重要であることは、この領域に限定したものではない。CA3海馬ニューロンがKAに対して特に易損性であるのは、その独自の細胞およびシナプス特徴によるためであることがいくつかの証拠から示されている。第一に、海馬CA3およびCA4領域はKA受容体の密度が最も高い(ベルガー(Berger)ら、Neurosci. Lett. 39:237〜242、1983)。第二に、反復性のシナプス興奮は海馬CA3領域において特に強力である(マイルス(Miles)ら、J. Physiol. (London)373:397〜418、1986)。CA3錐体ニューロンの反復性の興奮は、JNK3シグナル伝達を継続させ、したがってKA興奮毒性を急速に誘発する可能性がある。c-Junリン酸化が歯状回からCA3領域へと進行することが認められたことは海馬のシナプス回路を暗示している。海馬構造内のトリシナプス接続の図を図14に示す。最初のシナプスリレー(1)は、求心性穿孔経路(pp)から歯状回(DG)の顆粒細胞上に至る。第二のリレーは歯状回の苔状繊維からCA3海馬ニューロンに至る。第三のリレー(3)は、シェーファー側副枝(Sch)に沿って海馬CA3からCA1領域に至る。CA3領域では錐体ニューロンの反復性のシナプス相互作用がある。
【0117】
実施例9.JNK3蛋白質キナーゼ活性の阻害剤の検出のためのアッセイ法
JNK3の阻害剤は蛋白質キナーゼ解析において同定することができる。これらの解析は組織(例えば脳)から精製したJNK3、または組換え型酵素を用いたJNK3を用いて行うことができる。組換え型JNK3は、標準的な技法を用いて細菌、酵母、昆虫または哺乳動物細胞から単離することができる。内因性(天然の)JNK3の解析法は当技術分野で既知であり、組換え型JNK3の解析法は既に記述されている(グプタ(Gupta)ら、EMBO J. 15:2760〜2770、1996)。
【0118】
JNK3の蛋白質キナーゼ活性はインビトロアッセイにおいてATPおよびJNK3に対する蛋白質基質を用いて測定することができる。これらの基質には転写因子ATF2およびElk-1が含まれるが、これらに限定しない(グプタ(Gupta)ら、1996、上記)。基質へのリン酸の取り込みはいくつかの方法によって測定することができる。一例は放射活性リン酸塩(例えば32P)の基質への取り込みを測定することである。基質への取り込みは、トリクロロ酢酸による沈殿によって取り込まれていない放射活性を除去して、ホスホセルロース濾紙上で回収することによって、またはポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定することができる。放射活性はシンチレーション計数、リン画像化分析、またはオートラジオグラフィーによってモニターすることができる。一般に、自動高処理能スクリーニングのための方法は、放射活性材料を用いない。この目的のため、放射活性プローブを使用せずにリン酸化した基質を検出する方法が用いられる。一つのアプローチにおいて、基質の電気泳動移動度を調べる。例えば、ATF2は、Thr-69またはThr-71上でのJNKによるリン酸化後に電気泳動移動度が著しく減少することを示している(グプタ(Gupta)ら、Science 267:389〜393、1995)。
【0119】
第二のアプローチは免疫化学法を用いて基質のリン酸化を検出することである(例えば、ELISA)。リン酸化した基質に特異的に結合する抗体は、調製され(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体)、および市販されている(例えば、ニューイングランド・バイオラブズ、プロメガコーポレーション、およびアップステート・バイオテクノロジー・インク)。次に、基質のリン酸化の程度を、当技術分野で既知の方法を用いて、分光光度計または蛍光光度計による検出に適した第二抗体カップリング分子を用いた標準的なELISA解析によって測定する。
【0120】
JNK3を阻害する分子は高処理能スクリーニングにおいて同定することができる。興奮毒性障害を治療するために好ましい候補である分子はJNK3を阻害するが、関連するMAPキナーゼを含むその他の蛋白質キナーゼは阻害しない。ひとたび同定された候補分子は組合せ化学法または関連する分子の合成によって最適にすることができる。これらの分子はJNK3療法に関して調べることができる候補薬剤である。
【0121】
実施例10.JNK3活性化の阻害剤の検出アッセイ法
JNK蛋白質キナーゼは、蛋白質キナーゼサブドメインVIII内でのThrおよびTyr上での二重のリン酸化によって活性化される(デービス(Davis)、Trends Biochem. Sci. 19:470〜473、1994)。リン酸化を活性化するこれらの部位はJNK3において保存されている(グプタ(Gupta)ら、1996、上記)。JNK3のリン酸化を妨害することによってJNK3の活性化を阻害する分子は、候補分子の存在下および非存在下においてJNK3活性化を測定することによって同定することができる。JNK3を発現する細胞、例えば、ニューロン細胞、神経内分泌細胞、または組換え型JNK3を発現するように操作された細胞(グプタ(Gupta)ら、1996、上記)を、JNK3を活性化させるために、環境的ストレス(例えば、脱分極、興奮毒性物質、紫外線照射、熱、および無酸素に暴露する。JNK3活性化状態はいくつかの方法によって評価することができる。例えば、JNK3を単離して、候補阻害物質を含まなくなるまで洗浄し、蛋白質キナーゼ解析によってJNK3の活性化状態をモニターする(上記)。または、JNK3の活性化は、JNK3のThrおよびTyrリン酸化(活性化)型に結合する抗体を用いた免疫学的方法を用いてプロービングことができる。ThrおよびTyrリン酸化酵素に特異的に結合する抗体は、調製することができ(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体)、および市販されている(例えば、ニューイングランド・バイオラブズおよびプロメガ・コーポレーションから)。次に基質のリン酸化の程度は、分光光度測定または蛍光光度検出にカップリングした二次抗体を用いた標準的なELISA解析によって測定することができる。
【0122】
その他の態様
本発明はその詳細な説明と共に記述してきたが、前述の説明は本発明の範囲を説明することを目的としており、添付の請求の範囲によって定義される本発明の範囲を制限すると解釈してはならない。その他の局面、長所および改変は以下の請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1A】ゲンバンクアクセッション番号U34819の核酸配列(配列番号:1)を示す。
【図1B】ゲンバンクアクセッション番号U34819のアミノ酸配列(配列番号:2)を示す。
【図1C】配列番号:3の核酸配列を示す。
【図2A】ゲンバンクアクセッション番号U34820の核酸配列(配列番号:4)を示す。
【図2B】図2Aの続きを示す図である。
【図2C】ゲンバンクU34820のアミノ酸配列(配列番号:5)を示す。
【図2D】配列番号:6の核酸配列を示す。
【図3A】ゲンバンクアクセッション番号U07620の核酸配列(配列番号:7)を示す。
【図3B】図3Aの続きを示す図である。
【図3C】ゲンバンクアクセッション番号U07620のアミノ酸配列(配列番号:8)を示す。
【図4A】ゲンバンクアクセッション番号L27128の核酸配列(配列番号:9)を示す。
【図4B】ゲンバンクアクセッション番号L27128のアミノ酸配列(配列番号:10)を示す。
【図5A】ゲンバンクアクセッション番号L35236の核酸配列(配列番号:11)を示す。
【図5B】ゲンバンクアクセッション番号L35236のアミノ酸配列(配列番号:12)を示す。
【図6】野生型JNK3遺伝子座、ターゲティングベクター、および変異または破壊されたJNK3遺伝子座の図である。
【図7】野生型およびJNK3(-/-)マウスのカイニン酸(KA)注射に対する一時的な反応を示す棒グラフである。
【図8】野生型およびJNK3(-/-)マウスのペンテトラゾール(PTZ)注射に対する一時的な反応を示す棒グラフである。
【図9A】マウスc-Junの核酸配列(ゲンバンクアクセッション番号X12740;配列番号:13)を示す。
【図9B】マウスc-Junのアミノ酸配列(ゲンバンクアクセッション番号X12740;配列番号:14)を示す。
【図10A】マウスc-Fosの核酸配列(ゲンバンクアクセッション番号V00727;配列番号:15)を示す。
【図10B】図10Aの続きを示す図である。
【図10C】マウスc-Fosのアミノ酸配列(ゲンバンクアクセッション番号V00727;配列番号:16)を示す。
【図11】トランスジェニックAP-1ルシフェラーゼマウスと交配させたJNK3(-/-)マウスにおいて、ルシフェラーゼ活性によって反映される、KA誘導後の様々な時間でのKA誘導AP-1活性のレベルを示す棒グラフである。
【図12】JNK3(-/-)マウスおよび野生型(+/+)マウスの海馬(HP)および小脳(CB)におけるルシフェラーゼ活性の相対レベルによって反映される、KA-誘発AP-1活性のレベルを示す棒グラフである。
【図13】KAによって引き起こされ、ニューロンのアポトーシスに至る、提案される一連の分子的事象の図である。
【図14】海馬構造内の3シナプス接続の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、JNK3発現を調節する化合物を同定する方法:
JNK3蛋白質を発現することができる細胞を、化合物の非存在下で細胞がJNK3蛋白質を発現するために十分な条件および期間、該化合物と共にインキュベートする段階;
化合物の非存在下で同一条件および同一期間、対照細胞をインキュベートする段階;
化合物の存在下で細胞におけるJNK3発現を測定する段階;
対照細胞におけるJNK3発現を測定する段階;および
発現レベルに差があれば化合物がJNK3発現を調節することを示している、化合物の存在下および非存在下でJNK3発現量を比較する段階。
【請求項2】
化合物がJNK3の発現を減少させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下の段階を含む、JNK3活性を調節する化合物を同定する方法:
JNK3活性を有する細胞を、化合物の非存在下で細胞がJNK3活性を発現するために十分な条件および期間、該化合物と共にインキュベートする段階;
化合物の非存在下で同一条件および同一期間、対照細胞をインキュベートする段階;
化合物の存在下で細胞におけるJNK3活性を測定する段階;
対照細胞におけるJNK3活性を測定する段階;および
活性レベルに差があれば化合物がJNK3活性を調節することを示している、化合物の存在下および非存在下でJNK3活性量を比較する段階。
【請求項4】
化合物がJNK3活性を低下させる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
JNK3ポリペプチドと基質との結合を調節する化合物を同定する方法であって、選択した化合物の存在下および非存在下において基質に結合したJNK3ポリペプチドの量を比較する段階を含み、JNK3ポリペプチドの基質への結合量に差があれば、選択した該化合物がJNK3ポリペプチドの結合を調節することを示す方法。
【請求項6】
JNK3ポリペプチドの基質への結合が減少している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一つの不活化JNK3遺伝子を含む全能性マウス細胞を製造する方法であって、以下の段階を含む方法:
a.複数の全能性マウス細胞を提供する段階;
b.JNK3遺伝子が機能的JNK3の発現を阻害する遺伝子にヌクレオチド配列を挿入することによって破壊される、破壊されたマウスJNK3遺伝子を含むDNA構築物を細胞に導入する段階;
c.JNK3をコードする染色体配列と導入されたDNA構築物との間に相同的組換えが起こるように細胞をインキュベートする段階;および
d.少なくとも一つの不活化JNK遺伝子を含む全能性マウス細胞を同定する段階。
【請求項8】
以下の段階を含む不活化JNK3遺伝子のホモ接合マウスを製造する方法:
a.少なくとも一つの不活化JNK3遺伝子を含む全能性マウス細胞を提供する段階;
b.マウス胚に細胞を挿入し、雌性マウスに胚を植え込む段階;
c.胚を新生児マウスへと発生させる段階;
d.新生児マウスを性的成熟に達するまで飼育する段階;および
e.ホモ接合JNK3(-/-)マウスが興奮毒性障害に対して抵抗性である、不活化JNK3遺伝子に関してホモ接合(-/-)であるマウスを得るために、段階dの性的に成熟したマウス二匹を交配させる段階。
【請求項9】
興奮毒性を含む障害を有する、または興奮毒性を含む障害の危険性がある患者を治療する方法であって、JNK3発現を阻害する化合物の治療的有効量を患者に投与する段階を含む方法。
【請求項10】
化合物がアンチセンス核酸分子である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
障害がアルツハイマー病、ハンチントン病、虚血、筋萎縮性側索硬化症、外傷、運動神経疾患、パーキンソン病、またはてんかんからなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
導入遺伝子が哺乳動物の生殖細胞の染色体に組み込まれる、JNK3遺伝子の発現を破壊する導入遺伝子を有するヒト以外のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項13】
マウスである、請求項12記載の哺乳動物。
【請求項14】
生殖細胞が導入遺伝子に関してホモ接合である、請求項12記載の哺乳動物。
【請求項15】
破壊の結果ヌル変異が起こる、請求項12記載の哺乳動物。
【請求項16】
請求項12記載の哺乳動物の細胞に由来する細胞株。
【請求項17】
機能的JNK3の発現を阻害または調節する遺伝子にヌクレオチド配列を挿入することを含む、破壊されたマウスJNK3遺伝子を含むDNA構築物。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−233570(P2010−233570A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95769(P2010−95769)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【分割の表示】特願2000−514991(P2000−514991)の分割
【原出願日】平成10年10月5日(1998.10.5)
【出願人】(500143324)ユニバーシティー オブ マサチューセッツ (4)
【出願人】(503469393)イエール ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】