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Jet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法
説明

Jet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法

【課題】固体または液体中に含有または付着した高沸点物質を迅速に、かつ選択性、感度および時間応答性に優れた検出が可能となる高沸点物質の定量分析方法を提供する。
【解決手段】試料に含有または付着した高沸点物質を真空チャンバ内に導入し、該高沸点物質をレーザ光により選択的にイオン化した後、質量分析するJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法において、二酸化炭素の超臨界流体を用いて前記試料に含有または付着した高沸点の目的物質を抽出した後、該目的物質を含む超臨界流体をマイクロピンホールノズルを用いて前記真空チャンバ内に連続的に導入することを特徴とするJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料の表面に付着、または液体試料中の含有される高沸点物質を高感度分析する分析方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題として、ダイオキシン類や多環芳香族炭化水素(PAHs)、塩化ベンゼン、塩化フェノールといった有機物、或いは水銀や鉛、カドミウムなどの金属元素などの人体や環境に有害となる沸点が180℃以上の極微量成分が問題になっている。
【0003】
この様な極微量成分は、単体では存在せず、焼却灰やディーゼルエンジン排出粒子、土壌など固体の試料表面に付着した状態であったり、河川水や工業排水などの水中に懸濁したり、溶存した状態で存在するなど、夾雑物の成分が極めて複雑で、かつ単位時間に採取できる試料量が少ない場合が多い。
【0004】
従来から、主に微量の有機物を定量分析する方法として、ガスクロマトグラフ質量分析装置やイオントラップ型ガスクロマトグラフ質量分析装置などを用いる方法が知られている。例えば、ダイオキシン類の公定の測定・分析法については、厚生労働省のまとめた「ダイオキシン類の発生防止ガイドライン」の中で測定標準法が示され、ダイオキシン類を有機溶媒により抽出し、各種クロマトグラフィー法で濃縮・分離後、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)によって分析することが示されている。
【0005】
しかし、ガスクロマトグラフ質量分析やイオントラップ型ガスクロマトグラフ質量分析により、ダイオキシン類等の複雑な組成を有する夾雑物中の微量の有害物質を定量分析するためには、ソックスレー法等の有機溶媒による抽出法を用いて目的物質を抽出するための試料の前処理が必要となる。したがって試料の前処理を含めた分析工程は、8時間以上の多大な計測時間とそのためのコストを必要とする。また、有機溶媒にはベンゼンなどの有害物質を多量に使用する必要があり、環境保全上または有機溶媒による試料汚染の可能性などの問題があった。さらに、これらの分析手法では、試料中の目的物質のイオン化プロセスにおいてその化学構造を破壊し断片(フラグメント)化してしまうため、化学構造の違いによる選択性を維持した分析は困難であり、また、定量分析のために煩雑なフラグメントのスペクトル解析を行う必要がある。
【0006】
また、従来から主に微量の重金属元素の分析手段として、誘導結合プラズマ質量分析装置やフレームレス原子吸光装置を用いる方法が知られている。しかし、これらの分析手法では、微量の有害物質を測定するための分析感度が不足するため、微量の有害物質を直接測定することは困難である。したがって、この方法を用いて微量の有害物質を定量分析するためには、試料中の目的物質を抽出するための前処理を行う必要があり、このために数時間〜数十時間の長時間を必要とする。
【0007】
近年、上記のような極微量の目的物質を事前に抽出し濃縮するための前処理を行うことなく、試料中の極微量の目的物質を高感度で、かつ化学構造の違いを維持しつつ高い選択性をもって検出できる分析法として、共鳴多光子吸収イオン化法(以下、Jet−REMPI法という)が提案され、注目されつつある(例えば特許文献1、2、3、参照)。
【0008】
一般にJet−REMPI法とは、共鳴多光子吸収イオン化(REMPI:Resonance Enhanced Multi−Photon Ionization)法と超音速分子ジェット(Jet)法を組み合わせたガス分析用質量分析法である。
【0009】
共鳴多光子吸収イオン化法とは、気体試料中の注目分子に特有の励起準位にレーザ波長を同調させたレーザ光を照射し、特定の注目分子種のみを選択的に励起、イオン化(共鳴多光子吸収イオン化)させた後、特定注目分子のイオンを質量分析計により検出する方法である。レーザ波長は、分子のレーザ光の吸収断面積(吸収効率)の観点から、吸収スペクトルで観測される特定分子の吸収ピーク付近の波長を選択するが、常温、常圧ではガス試料中の特定分子の吸収スペクトルにおける吸収ピーク幅が、振動・回転準位からの遷移と重なるために幅広くなり、化学構造が似通った分子の異性体の吸収ピークを分離することはできない。
【0010】
そこで、超音速分子ジェット(Jet)法により、ガス試料を絶対零度付近(数K)の極低温まで冷却し、特定分子を振動や回転していない真の基底状態に電子が位置する状態にし、遷移の選択率によって特定の準位にのみ励起される状態にする。この極低温状態のガス試料の吸収スペクトルでは数本の鋭いピークのみが観測されるようになり、特定分子の吸収ピーク幅は冷却された温度によって異なるものの、約0.01nm程度まで狭くなり、このエネルギー幅の波長に同調したレーザ光を特定分子に照射することにより、異なる構造異性体の特定分子を選択的に励起、イオン化し、質量分析により選択的に検出することができる。
【0011】
通常の超音速分子ジェット(Jet)法では、気体試料にヘリウムやアルゴンなどの希ガスを混合し、パルスノズルを用いて真空チャンバ内に噴出させ、この時の断熱膨張冷却および希ガスとの衝突により、試料分子を絶対零度付近の極低温まで瞬時に冷却させ、この時の分子速度が音速の数倍に達するため、超音速分子ジェット法と呼ばれている。
【0012】
Jet−REMPI法は、ガスクロマトグラフ質量分析、あるいはイオントラップ型ガスクロマトグラフ質量分析などに比べて飛躍的に感度が向上し、かつ有機物または無機物の化学構造の違いを利用した選択性の高い定量分析が可能となる。
【0013】
しかし、測定可能な試料が気体に限られるため、目的物質が容易に気化しうるものであれば加熱気化させて分析することが可能であるが、固体中に含有・付着するか、液体中に含有している沸点が180℃以上の微量物質をそのままの状態で直接測定することは困難であった。また、従来のJet−REMPI法では、超音速分子ジェット(Jet)法を利用して気体試料を断熱膨張冷却や希ガスとの衝突により絶対零度付近の極低温まで冷却するためには、パルスノズルを用いて気体試料を間欠的に真空チャンバ内に噴出するため、以下の課題があった。つまり、所定のパルス幅、繰り返し数でパルスバルブを開閉させて、ガス試料を真空チャンバ内に導入する際に、バルブ閉の間に試料中の沸点が180℃以上の注目分子種などがバルブ内壁に衝突し、吸着や分解する。バルブ内壁に衝突し、分解した高沸点注目分子種はその化学構造が変化するため、高沸点注目分子種の化学構造を維持した状態での分析は困難となる。また、バルブ内壁に吸着した分子はその後長時間かけてバルブ内壁から徐々に放出されるため、試料の分析過程で質量検出器で検出される(以下、これをメモリー作用という場合がある)ため、試料中の注目分子種の選択性及び時間応答性が低下し、分析精度を低下させるという問題があった。
【0014】
一方、試料中の微量の目的物質を抽出し濃縮するための前処理方法として、前述したようにガスクロマトグラフ質量分析などでは、ソックスレー抽出等の抽出法が広く用いられている。近年、このソックスレー抽出等の従来の抽出法に比べて、安全にかつ短時間で抽出が可能な物質の抽出方法として超臨界流体抽出法が提案されている。
【0015】
超臨界流体抽出法とは、たとえば二酸化炭素を臨界温度、臨界圧力(例えば圧力7.4MPa、温度31.0℃)以上に昇温・加圧し、気体と液体の特徴を兼ね備えた超臨界状態に変化させ、高い浸透力(粘性は液体と比べてきわめて低い)と高い溶媒強度(化合物を溶解する力)により、目的物質を抽出する方法である。二酸化炭素を超臨界流体として用いる場合は、従来の有機溶媒を用いる抽出法に比べて安全かつ高回収率で目的物質を抽出可能となる。
【0016】
従来、この超臨界流体抽出法とクロマトグラフィーを組み合わせて、液化ガスから生成した超臨界流体と溶媒とを含む移動相に試料を注入し、この移動相をカラムに通し、所望の物質を含む移動相を溶媒とガスとに分離して、溶媒から所望の物質を分離する方法が提案されている(例えば特許文献4、参照)。
【0017】
この抽出分離方法を用いれば短時間で試料中に含有する微量の目的物質を分離カラムで分離することが可能となる。しかし、この方法では目的物質や夾雑物に応じて適切な分離カラムを選択する必要があり、このためのコストがかかり、マトリクス効果により条件によっては目的物質のクロマトグラフィーのピーク面積や形状が変化し、分離精度が左右するなどの問題がある。
【0018】
【特許文献1】特開2003−022777号公報
【特許文献2】特開平成07−227524号公報
【特許文献3】特開2001−124739号公報
【特許文献4】特開2005−195398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記従来技術の現状を踏まえ、固体または液体中に含有または付着した高沸点物質を迅速に、かつ選択性、感度および時間応答性に優れた検出が可能となる高沸点物質の定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記課題を解決するものであり、その発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)試料に含有または付着した高沸点物質を真空チャンバ内に導入し、該高沸点物質をレーザ光により選択的にイオン化した後、質量分析するJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法において、二酸化炭素の超臨界流体を用いて前記試料に含有または付着した高沸点の目的物質を抽出した後、該目的物質を含む超臨界流体をマイクロピンホールノズルを用いて前記真空チャンバ内に連続的に導入することを特徴とするJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
(2)前記高沸点物質の沸点は180℃以上であることを特徴とする上記(1)記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
(3)前記超臨界流体の圧力を10〜30MPaとし、温度を室温〜180℃とすることを特徴とする上記(1)または(2)記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
(4)前記超臨界流体に水、酸類、アルコール類、ベンゼン類、エーテル類、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、および、アセトンの1種または2種以上からなるモディファイアを超臨界流体に対して25体積%以下の割合で混合することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
(5)前記マイクロピンホールノズルの内径を1〜20μmとすることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の分析法では困難であった、固体または液体中に含有または付着した高沸点物質を迅速に、かつ選択性、感度および時間応答性に優れた検出を可能とする。
【0022】
本発明の適用により、環境上および産業上、問題となるダイオキシン類に代表される人体及び環境に有害な極微量の高沸点物質を迅速かつ高感度で検出し、有害物質を低減する対策を講じることが可能となり、これによる社会的および産業上の貢献は多大なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
図1を用いて本発明の実施形態の一例を説明する。
【0025】
本発明は図1に示すような分析システムを用いて実施することができる。
【0026】
ここでは焼却灰中に含有または付着した沸点が180℃以上の高沸点目的物質を分析する方法を例に説明する。
【0027】
焼却灰から試料を所定量採取し、抽出容器5に装入し、密閉する。
【0028】
二酸化炭素ガスボンベ1から供給される二酸化炭素は、液化炭酸ガス用送液ポンプ3により所定圧力に加圧して二酸化炭素の超臨界流体とし、また、この超臨界流体の抽出能力を向上させるためにモディファイア2をモディファイア用送液ポンプ4により超臨界流体に対して所定量の割合で混合する。
【0029】
モディファイア2を含んだ二酸化炭素の超臨界流体は、液化炭酸ガス用送液ポンプ3により調整された所定流速で抽出容器5に導入され、恒温オーブン7で所定温度に保持しつつ、回転攪拌機6によって前記試料と前記超臨界流体を攪拌することにより、試料中に含有または付着した高沸点目的物質を抽出する。この際、二酸化炭素の超臨界流体の圧力や温度を目的物質に応じて変化させることにより超臨界流体の浸透力と溶媒強度(目的物質の溶解能力)を高め、目的物質の抽出能力を向上することができる。また、二酸化炭素の超臨界流体に混合させるモディファイアの種類および添加割合を目的物質に応じて変化させることにより上記超臨界流体の浸透力と溶媒強度(目的物質の溶解能力)をさらに高め、目的物質の抽出能力をより向上することができる。
【0030】
目的物質を含む超臨界流体は、メッシュフィルタ9により試料中の固体状の異物や試料が除去される。なお、メッシュフィルタ9にノルマルヘキサンなどの洗浄用溶媒11を送液し、メッシュフィルタ9に付着した固体状の異物や試料を逆洗浄し、排出するための逆洗浄用ポンプ10を設けることが好ましい。また、上記二酸化炭素、モディファイア2、および、抽出された目的物質を含む超臨界流体は耐圧SUS管もしくは耐圧キャピラリチューブにより抽出容器5、さらに高真空チャンバ13まで搬送される。この際、目的物質を含む超臨界流体の温度低下による目的物質の析出を抑止するために、耐圧SUS管もしくは耐圧キャピラリチューブ、および、メッシュフィルタ9の温度を調整する保温機能を備えることが好ましい。
【0031】
目的物質を含む超臨界流体は、マイクロピンホールノズル12を用いて10-4torr程度の真空度に保たれた高真空チャンバ13内に導入され、断熱膨張冷却や希ガスとの衝突により絶対零度付近の極低温に冷却された、超音速ジェット流域が形成される。高真空チャンバ13内を10-4torr程度の真空度に保つためには、ノズル内径が約1〜20μmのマイクロピンホールノズル12と、真空排気速度が3000 L/秒程度のターボ分子ポンプ15が用いられる。
【0032】
レーザ光は、Nd-YAGレーザ21、色素レーザ22、自動位相整合角追尾装置及び非線形光学結晶23を用いて目的分子の励起波長及び出力に調整し、光学レンズ24通じて高真空チャンバ内に形成された前記超音速ジェット流域に照射する。これにより、超音速ジェット流域内の目的分子のみが選択的に励起、イオン化される。
【0033】
目的分子のイオンは、押出電極(対向電極)と引出電極とからなる平行平板電極14により加速され、イオンレンズ16の内径1mmのスキマーを通して収束、偏向されて飛行時間型質量分析計17内に設置されたイオン検出器19に到達し、イオン信号が検出される。なお、マイクロピンホールノズルの先端とイオン化領域(超音速ジェット流域内のレーザ照射領域)とを電場を乱すことなく近接させるともに、イオン検出器19に向かって飛行するイオンビームを収束させる作用により、検出感度を向上させるためには、平行平板電極14は、電極先端が出鼻形状を有する出鼻型電極を用いることが好ましい。
【0034】
なお、飛行時間型質量分析装置17内を10-7torr程度の真空度に保つためには、真空排気速度が800 L/秒程度のターボ分子ポンプ18が用いられる。
【0035】
イオン信号は、増幅器付きオシロスコープ20で増幅、計測され、装置制御用コンピュータ25で質量スペクトルとして解析される。例えば、質量スペクトルにおける目的分子の質量数とピーク高さ、或いはピーク面積を測定値から目的物質の同定と濃度の測定が可能となる。なお、目的物質の定量化には、一般の質量分析で適用される標準ガスを用いた検量線法、あるいは標準添加法が用いられる。
【0036】
以上説明した本発明の実施形態において、本発明の特徴点は、二酸化炭素の超臨界流体を用いて試料に含有または付着した高沸点の目的物質を抽出した後、マイクロピンホールノズルを用いてこの目的物質を含む超臨界流体を真空チャンバ内に連続的に導入することにある。
【0037】
二酸化炭素の超臨界流体を用いることにより、例えば、燃焼灰に含有するダイオキシン類(沸点:400〜500℃)などに代表される、粉状の固体、多孔質または複雑な形状の固体中に含有または付着した沸点が180℃以上の高沸点目的物質を効率的に抽出することができる。また、液体中に含有する沸点が180℃以上の高沸点目的物質についても、高沸点目的物質を含有する液体中に二酸化炭素の超臨界流体をバブリングすることによって目的物質の抽出が可能となる。
【0038】
また、マイクロピンホールノズルにより抽出された高沸点目的物質を含む二酸化炭素の超臨界流体を真空チャンバ内に連続的に導入することにより、パルスノズルを用いる場合に問題となる、高沸点目的物質のバルブ内壁への衝突による吸着や分解は抑制される。また、二酸化炭素の超臨界流体は、真空チャンバ内に超音速ジェット流域を形成する際に断熱膨張冷却や分子間衝突により目的物質を絶対零度付近の極低温に冷却する際の冷却媒体として作用する。これらの結果、高沸点注目分子種の化学構造を変化したり、バルブ内壁に吸着した分子のメモリー作用による目的分子イオン検出時の選択性、感度及び時間応答性の低下を防止しつつ、選択性、感度、時間応答性に優れた検出が可能となる連続的な高沸点目的物質の定量分析が可能となる。
【0039】
本発明の上記実施形態において好ましい条件の限定理由について以下に説明する。
(超臨界流体の圧力および温度)
本発明では、試料中の目的物質の抽出処理において二酸化炭素の超臨界流体を用いることにより、従来のソックスレー法等の有機溶媒による抽出法では抽出が困難または長時間の処置が必要とする固体または液体中に含有または付着した沸点が180℃以上の高沸点の目的物質を効率的に抽出することが可能となる。二酸化炭素の超臨界流体は、高い浸透力(粘性は液体と比べてきわめて低い)と高い溶媒強度(化合物を溶解する力)を有しているが、これらの浸透力および溶媒強度をより安定して高め、高沸点目的物質の抽出効率を安定して向上するためには、超臨界流体の圧力を10〜30MPaとし、温度を室温〜180℃とすることが好ましい。超臨界流体の温度および圧力は高いほど抽出効率は向上するが、沸点が180℃以上の高沸点の目的物質を対象とする場合には、温度が180℃を超え、または、圧力が30MPaを超えると、目的物質の化学構造が変化する場合が生じるため、超臨界流体の温度の上限を180℃とし、その圧力の上限を30MPaとするのが好ましい。なお、温度の下限は特に規定する必要がなく室温以上であれば良く、また、圧力の下限は上記二酸化炭素の超臨界流体の浸透力と溶媒強度より安定して高めるための効果を得るために10MPaとするのが好ましい。なお、超臨界流体の浸透力と溶媒強度をより安定して高めるためには、目的物質種類や沸点、目的物質が含有する固体または液体などのマトリックスの形態に応じて、超臨界流体の温度と圧力を調整することがより好ましい。
(モディファイアの種類および混合割合)
本発明では、上記目的物質の抽出処理において上記二酸化炭素の超臨界流体にモディファイアを混合させることにより、上記二酸化炭素の超臨界流体の浸透力と溶媒強度をさらに安定して高め、目的物質の抽出効率をより向上することができる。
【0040】
超臨界流体に混合させるモディファイアとしては、水、酸類、アルコール類、ベンゼン類、エーテル類、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、および、アセトンの1種または2種以上を組み合わせたものが好ましい。また、モディファイアの超臨界流体に対する混合割合は、25体積%を越えると、上記二酸化炭素の超臨界流体の超臨界流体の浸透力と溶媒強度などの特性に影響し、逆に目的物質の抽出効率を低下させる場合があるため、モディファイアの超臨界流体に対する混合割合の上限は、25体積%とするのが好ましい。
【0041】
なお、超臨界流体の浸透力と溶媒強度をより安定して高めるためには、目的物質種類や目的物質が含有する固体または液体などのマトリックスの形態に応じて、超臨界流体に混合するモディファイアの種類を選択することがより好ましい。例えば、アルコール類は超臨界流体に対し、抽出能力を保ったまま低温度、低圧力に制御する能力を有する。また酸類やその他のモディファイアは、金属や有機分子などの目的物質と会合体を形成することにより、超臨界流体による抽出をより容易にする。
(マイクロピンホールノズルの内径)
本発明では、上記抽出処理の抽出処理に使用される二酸化炭素は、マイクロピンホールノズルにより連続的に真空チャンバ内に噴射し、超音速ジェット流を形成する際に、断熱膨張冷却や分子間衝突により目的物質を絶対零度付近の極低温に冷却する際の冷却媒体として作用する。
【0042】
本発明では、マイクロピンホールノズルを用いることにより、パルスノズルを用いる場合に問題となる、高沸点目的物質のバルブ内壁への衝突による吸着及び分解を抑制することができる。これにより、高沸点注目分子種の化学構造を変化したり、バルブ内壁に吸着した分子のメモリー作用による目的分子イオン検出時の選択性、感度及び時間応答性の低下を防止しつつ、選択性、感度、時間応答性に優れた連続的な高沸点目的物質の定量分析が可能となる。しかし、目的物質を含有する超臨界流体(二酸化炭素)を連続的に真空チャンバ内に導入するため、パルスノズルを用いて間欠的に導入する場合に比べて、真空チャンバ内の真空度が低下する可能性が高くなる。
【0043】
Jet−REMPI分析で感度および分子選択性を向上させるためには、真空槽内に形成する超音速分子ジェット内の分子温度を充分に低下し、かつガス導入量を充分確保する必要がある。
【0044】
真空チャンバ内に形成される超音速ジェット流域の分子温度は、一般にPoissonの式に基づく下記 (1)式で決まる。このため、超音速ジェット流による断熱膨張冷却を利用して分子温度を十分に低下させるためには、噴射初期の分子圧力P0が大気圧(1atom)であることを前提とすると、真空チャンバ内の圧力Pがより低くなるように真空チャンバ内の真空度を維持する必要がある。
【0045】
T/T0=(P/P0(γ-1)/γ (1)
なお、上記Tは超音速分子ジェット内の分子温度、T0は噴射初期の分子温度、Pは真空槽内の圧力、P0は噴射初期の分子圧力を示す。ここで、γは比熱比であり、単原子分子で5/3、2原子分子(直線分子)で7/5である。
【0046】
本発明では、目的物質を含む超臨界流体の噴射初期の分子圧力P0が10〜30MPaとするため、高真空チャンバ内の真空度を10-4torr程度に安定して保ち、超臨界流体の超音速ジェット流による目的分子温度を絶対零度付近(数K)の極低温まで低下させるためには、マイクロピンホールノズルの内径を1〜20μmとすることが好ましい。ノズルの内径が20μmを超えると、高真空チャンバ内の真空度を10-4torr程度に安定して保ち、超臨界流体の超音速ジェット流による目的分子温度を絶対零度付近(数K)の極低温まで低下させることは困難となる。本発明者らの検討によれば、ノズル内径が20μm以下の場合では、真空排気速度が3000 L/秒程度のターボ分子ポンプを用いて、高真空チャンバ内を10-4torr程度の真空度に保つことが可能性であることを確認している。ノズル内径が1μm未満になると高真空チャンバ内の真空度は高まるものの、高真空チャンバ内に導入される目的物質の量が減少し、これに伴い目的物質のイオンも減少し、検出されるイオン信号が小さくなるため好ましくない。
【0047】
なお、本発明ではマイクロピンホールノズルのノズル径を小さいため、パルスバルブノズルに比べて、導入される目的物質を含む超臨界流体の流速が遅くなる。このため、高真空チャンバ導入前にスプリッタ(分岐管)を設け、目的物質を含む超臨界流体の導入量を調節して流速を確保することがより好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の効果を実施を用いて説明する。
【0049】
図1に示す分析システムを用いて本発明のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析を実施した。
【0050】
試料として、人工的に焼却灰にオルトジクロロベンゼン付着させたものを用い、試料中のオルトジクロロベンゼンの濃度を測定した。
【0051】
オルトジクロロベンゼンの沸点は180.5℃であり、焼却灰の主成分はシリカとアルミナである。マイクロピペットを用いて焼却灰1gあたり約1ng及び約3ngのオルトジクロロベンゼンをそれぞれ添加し攪拌し試料を作成した後、分析に供した。なお、予備試験として、同試料をオルトジクロロベンゼンの沸点を超える300℃で1時間の熱処理を加えた後、従来の分析手法である、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて測定した。この結果、試料中のジクロロベンゼン類はこの分析装置の検出限界以下であることを確認した。
【0052】
試料は抽出容器5に0.1g装入し、密閉した後、二酸化炭酸ボンベ1から95体積%濃度の二酸化炭酸を、液化炭酸ガス用送液ポンプ3を用いて圧力15.0Mpaの超臨界流体とした。超臨界流体の流速を5ml/minに調整し、モディファイア2としてメタノールをモディファイア用送液ポンプ4によって超臨界流体に対して7体積%混合した。モディファイアを含んだ超臨界流体は1/16インチSUS管(スウェージロック社製)を用いて抽出容器5に導入され、恒温オーブン7により温度を50℃に保持しつつ回転攪拌機6によって試料と攪拌することにより、目的物質であるオルトジクロロベンゼンを抽出した。この時の抽出時間は10分間となるようにした。
【0053】
オルトジクロロベンゼンを含む超臨界流体は内径5μmのマイクロピンホール12(トヤマ社及び化繊ノズル製作所製)を用いて高真空チャンバ13に導入した。高真空チャンバ13は、真空排気速度が3000 L/秒のターボ分子ポンプ15(島津製作所)により10-4torr程度の真空度に保持した。高真空チャンバ13内で形成される超音速ジェット流域に対して照射するレーザ光は、Nd-YAGレーザ21(スペクトラフィジックス社製)、色素レーザ22(ジラー社製)、自動位相整合角追尾装置及び非線形光学結晶23(インラッド社製)を用いてオルトジクロロベンゼンの励起波長275.99nm、出力10μJ/pulseに調整し、焦点距離220mmの光学レンズ24(シグマ光機社製)を用いて集光した後、照射した。このレーザ光の照射により選択的に励起、イオン化されたオルトジクロロベンゼンのイオンは、出鼻型押し出電極及び引き出し電極14により挿引され、イオンレンズ16により内径1mmのスキマーを通じて長さ1155mm、イオン化領域から距離が1409mmとなるように設置された飛行時間型質量分析装置17(トヤマ社製)に導入した。飛行時間型質量分析装置は、真空排気速度が800 L/秒のターボ分子ポンプ18(島津製作所製)を用いて10-7torr程度の真空度に保持した。
【0054】
オルトジクロロベンゼンのイオンはダリー型のイオン検出器19により検出された信号を増幅器付きオシロスコープ20にて信号処理し、装置制御用コンピュータ25で質量スペクトルとして解析した。
【0055】
また、抽出容器を空の状態で、及び、抽出容器内にオルトジクロロベンゼンが付着していない焼却灰のみを装入した状態で、それぞれ上記を同じ方法で、質量分析し、バックグラウンドが充分低いことを確認した。
【0056】
図2に上記の本発明法により、オルトジクロロベンゼンを1ng/g及び3ng/g付着させた焼却灰の試料を分析したときの質量スペクトルを示す。
【0057】
図2に示すように、オルトジクロロベンゼン約1ng/g添加試料の質量スペクトルに比し、約3ng/g添加試料のマススペクトルのピーク高さがほぼ3倍になっており、オルトジクロロベンゼンが超臨界流体によって定量的に焼却灰から抽出され、分析できていることが分かる。この質量スペクトルは、照射したレーザがオルトジクロロベンゼンの励起波長である275.99nmであるため、オルトジクロロベンゼンの異性体であるメタジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンは含んでいない。なお、質量スペクトルが3質量に分裂している理由は、ジクロロベンゼンのClの同位体(35Cl、37Cl)の存在によるものであり、使用した飛行時間型質量分析装置が良好な質量分解能を有していることを示すものである。
【0058】
また、比較のために、上記試料の一部を採取し、従来の溶媒抽出法によりノルマルヘキサンの溶媒を用いてオルトジクロロベンゼンを抽出し、クリーンアップ操作後、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いてオルトジクロロベンゼンを定量分析した。
【0059】
この溶媒抽出法によるオルトジクロロベンゼンの分析時間は、手順にもよるが同位体スパイクなどの試薬の添加や濃縮操作など、溶媒抽出操作のほかに必要な前処理操作を含めて120分かかり、本発明法における超臨界流体抽出時間(10分間)の約12倍の処理時間が必要であった。超臨界抽出は、試料を圧力容器に入れて液化炭酸ガス用送液ポンプを稼動させればフローで自動的に抽出されるため、同位体スパイクなどの試薬の添加や濃縮操作などを必要とせず、測定操作も簡便である。
【0060】
また、一般的にガスクロマトグラフ質量分析装置による定量分析は、イオン化の条件や夾雑物の組成に基づいて複雑なフラグメント解析を行う必要がある。フラグメントイオンの種類と生成割合を目的物質の化学構造に帰属させるが、重なり合う質量スペクトルの質量数とピーク高さから目的物質の濃度を計算する複雑な解析が必要となり、測定ミスや誤差を生じさせる原因となり得る。しかし、本発明で検出方法として用いているJet−REMPI法を用いているため、イオン化・検出するのは目的物質だけで、ソフトなイオン化方法であるためフラグメントも生じず、かつレーザ波長により異性体選別が可能であるため解析が容易である。
【0061】
即ち、超臨界抽出した物質をマイクロピンホールノズルを用いてJet−REMPIの真空チャンバに導入して測定することにより、本実施例のように固体試料の、あるいは液体試料中の目的物質を迅速・簡便・高感度かつ測定ミスなく分析することが可能となる。
【0062】
焼却灰1gあたり1ngのオルトジクロロベンゼンを付着させた焼却灰の試料のオルトジクロロベンゼン濃度の測定値は1.2ng/gであり、3ngのオルトジクロロベンゼンを付着させた焼却灰の試料のオルトジクロロベンゼン濃度の測定値は3.5ng/gであった。
【0063】
従来法による分析結果を横軸に、本発明により得られた信号強度のうち、最大ピーク(35Cl -35Clオルトジクロロベンゼン)のピーク高さを縦軸にとったグラフを図3に示す。
【0064】
本発明の分析法により、従来の溶媒抽出法による煩雑で長時間を要する前処理抽出処理やフラグメント解析をすることなしに、迅速にかつ従来のガスクロマトグラフ質量分析法と比べても充分な定量性を有するオルトジクロロベンゼンの定量分析が可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態の一例を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施例で測定されたジクロロベンゼンの質量スペクトル。
【図3】従来法と本発明による分析結果の比較。
【符号の説明】
【0066】
1 二酸化炭素ボンベ
2 モディファイア
3 液化炭酸ガス用送液ポンプ
4 モディファイア用送液ポンプ
5 抽出容器
6 回転攪拌機
7 恒温オーブン
8 圧力調整バルブ
9 メッシュフィルタ
10 逆洗浄用ポンプ
11 洗浄用溶媒
12 マイクロピンホールノズル
13 高真空チャンバ
14 平行平板電極(出鼻型押出電極、出鼻型引出電極)
15 高真空チャンバ用ターボ分子ポンプ
16 イオンレンズ
17 飛行時間型質量分析装置
18 質量分析装置用ターボ分子ポンプ
19 イオン検出器
20 増幅器付きオシロスコープ
21 Nd-YAGレーザ
22 色素レーザ
23 自動位相整合角追尾装置及び非線形光学結晶
24 光学レンズ
25 装置制御用コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含有または付着した高沸点物質を真空チャンバ内に導入し、該高沸点物質をレーザ光により選択的にイオン化した後、質量分析するJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法において、二酸化炭素の超臨界流体を用いて前記試料に含有または付着した高沸点の目的物質を抽出した後、該目的物質を含む超臨界流体をマイクロピンホールノズルを用いて前記真空チャンバ内に連続的に導入することを特徴とするJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
【請求項2】
前記高沸点物質の沸点は180℃以上であることを特徴とする請求項1記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
【請求項3】
前記超臨界流体の圧力を10〜30MPaとし、温度を室温〜180℃とすることを特徴とする請求項1または2記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
【請求項4】
前記超臨界流体に水、酸類、アルコール類、ベンゼン類、エーテル類、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、および、アセトンの1種または2種以上からなるモディファイアを超臨界流体に対して25体積%以下の割合で混合することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。
【請求項5】
前記マイクロピンホールノズルの内径を1〜20μmとすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のJet−REMPI法を用いた高沸点物質の定量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−309793(P2007−309793A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139354(P2006−139354)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】