説明

K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ及びそれを用いてK−ras突然変異を検出する方法

K−ras突然変異を高感度、高速、及び高效率で検出することができるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを提供することを目的とする。固形マトリックスの表面上に固定された複数個のオリゴヌクレオチドを含むK−ras突然変異検出用K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイにおいて、前記オリゴヌクレオチドはK−ras遺伝子の突然変異多発部位(hot spot)でミスセンス変異(missense mutation)を検出するように考案され、コドン12に対しては配列番号1のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号2ないし10のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドと、コドン13に対しては配列番号11のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号12ないし20のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、K−ras遺伝子の突然変異多発部位(mutational hot spot region)での突然変異を検出するためのK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(K−ras oligonucleotide microarray)、それの製造方法、及びそれを用いてK−ras突然変異を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
K−ras遺伝子は、各種の癌で突然変異になるras遺伝子のうち一つである。K−ras遺伝子のコドン12及び13の突然変異は、K−ras遺伝子の産物であるp21−rasタンパク質の機能変化をもたらすことによって、結果的に細胞核に過度の成長信号を伝達して細胞の成長及び分裂を促進するようになる、腫瘍化(tumorigenesis)に関与する。K−ras突然変異は膵膓癌の約90%、大膓癌の約50%、また非小細胞肺癌(non−small cell lung cancers)の約30%で発生すると知られており、その突然変異のプロファイルでは、この突然変異の85%がコドン12及び13で発生することが明らかになった(Samowitz WS,et al.,Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev.9:1193−7,2000)。従って、K−ras遺伝子の突然変異の検査は、癌診断、例えば膵膓癌、大膓癌及び非小細胞肺癌などの診断において有用な道具として広範囲に用いられており、多くの研究でK−ras遺伝子が一部の腫瘍の表現型と関連されていることを提示している(Samowitz WS, et al.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.9:1193−7,2000;Andreyev HJ、et al.,Br.J.Cancer 85:692−6,2001;Brink M,et al.,Carcinogenesis 24:703−10,2003)。しかし、上記研究は一般的にK−ras突然変異と特異的な臨床的特徴との間の有意味な相関関係を明らかにするために多量の試料を必要とし(Andreyev HJ,et al.,Br.J.Cancer85:692−6,2001)、疾病疫学(epidemiology)分野でも高效率の技術、例えば、正確で迅速に多量の試料を処理することができるオリゴヌクレオチドマイクロアレイが求められている。
【0003】
突然変異多発部位(コドン12及び13)を有するK−ras遺伝子は、“DNAチップ”などの新規な突然変異検出技法を検証するための標的遺伝子として用いられてきている。しかし、既存の研究は特定化されたシリコン装置またはそのシステムを向上させるために複雑なプロトコルを用いるので(Lopez−Crapez E,et al.,Clin.Chem.47:186−94,2001;Prix L,et al.,Clin.Chem.48:428−35,2002)、大量の試料を正確でかつ費用効率で検査することは不適切であった。
【0004】
よって、本発明者らはK−ras遺伝子の突然変異多発部位で多様な突然変異を検出できるように考案されたオリゴヌクレオチドを、自動化されたマイクロアレイヤ(microarrayer)を用いて固形マトリックスの表面上に固定させて製造された、K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、及び競争的DNAハイブリダイゼーション(competitive DNA hybridization,CDH)法という、效率性及び収容力(capacity)が増大された新規したハイブリダイゼーション法を開発した。本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイはK−ras突然変異を検出し、K−ras遺伝子と関連された信号伝達機構(signal transduction mechanism)及び腫瘍化(tumorigenesis)を糾明する研究などに用いられることができる。
【0005】
【非特許文献1】Samowitz WS,et al.,Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 9:1193−7,2000
【非特許文献2】Samowitz WS,et al.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.9:1193−7,2000
【非特許文献3】Andreyev HJ,et al.,Br.J.Cancer 85:692−6,2001
【非特許文献4】Brink M,et al.,Carcinogenesis 24:703−10,2003
【非特許文献5】Andreyev HJ,et al.,Br.J.Cancer85:692−6,2001
【非特許文献6】Lopez−Crapez E,et al.,Clin.Chem.47:186−94,2001
【非特許文献7】Prix L,et al.,Clin.Chem.48:428−35,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、K−ras遺伝子の突然変異の検出のみならず、K−ras遺伝子に関する信号伝達機構及び腫瘍化の研究のために、迅速でかつ信頼性のある診断道具として使用できるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、固形マトリックスの表面上に固定された複数個のオリゴヌクレオチドを含むK−ras突然変異検出用K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイにおいて、前記オリゴヌクレオチドはK−ras遺伝子の突然変異多発部位(hot spot)でミスセンス変異(missense mutation)を検出するように考案され、コドン12に対しては配列番号1のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号2ないし10のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドと、コドン13に対しては配列番号11のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号12ないし20のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とするK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを提供する。
また、本発明では前記K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いてK−ras突然変異を検出する方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、既存の突然変異の検出方法とは異なり固形マトリックスの表面上に固定されたオリゴヌクレオチドに競争的DNAハイブリダイゼーション法を適用いて突然変異を検出することによって、時間、費用及び正確性の点で優れた效果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、自動化されたマイクロアレイヤ(microarrayer)を用いて固形マトリックスの表面上に固定させたオリゴヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドがK−ras遺伝子の突然変異多発部位での多様な突然変異を検出することができることを特徴とする、K−ras突然変異の検出用K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを提供する。
【0010】
まず、前記オリゴヌクレオチドは、K−ras遺伝子の突然変異多発部位であるコドン12及び13での全ての発生可能なミスセンス変異(missense mutation)を検出できるように考案された。
【0011】
具体的に、コドン12に対しては、GGT(グリシン)をTGT(システイン)、AGT(セリン)、CGT(アルギニン)、GAT(アスパラギン酸)、GCT(アラニン)、GTT(バリン)、GGA(グリシン)、GGG(グリシン)またはGGC(グリシン)にそれぞれ置換させて得られた9類型の置換されたオリゴヌクレオチドが用いられ、コドン13に対しては、GGC(グリシン)をCGC(アルギニン)、AGC(セリン)、TGC(システイン)、GCC(アラニン)、GAC(アスパラギン酸)、GTC(バリン)、GGT(グリシン)、GGA(グリシン)またはGGG(グリシン)に置換させて得られた9類型の置換されたオリゴヌクレオチドが用いられる。
【0012】
本発明の一実施様態によって、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは固形マトリックスの表面上にスポット(spotting)され、固定された18類型のオリゴヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドは、K−ras遺伝子の二つの突然変異多発部位コドンでの多様なミスセンス変異を検出することができる。9つのオリゴヌクレオチド(M)は各突然変異多発部位コドンでのあらゆる置換を検出できるように考案されており、一つのオリゴヌクレオチド(W)は野生型に対するものである。従って、総18個のオリゴヌクレオチドはコドン12及び13に対するミスセンス変異を検出するために考案されている。
【0013】
一つの野生型オリゴヌクレオチド(W)は、各コドンに対して突然変異類型と直接的に比較されることができ、ホモ接合変異(homozygous mutation)及び異型接合変異(heterozygous mutation)を両方とも検出できるように考案されている。例えば、コドン12に対して10個のオリゴヌクレオチドがスポットされるが、この場合、一つは正常塩基配列を、その残り(9個)は変異された塩基配列を有する。全体として、18個の変異オリゴヌクレオチドは、二つの突然変異多発部位コドンの18個のミスセンス変異類型を検出できるように考案され、2個のオリゴヌクレオチドは野生型及び陽性対照群として考案されている。各オリゴヌクレオチドは、測定された検査信号の正確性を増大させるために一直線上に4回スポットされ、これにより総80個のオリゴヌクレオチドがスポットされる。本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、このように固形マトリックスの表面上に個別的にスポットされた80個のオリゴヌクレオチドの三つのセットを含むことによって、三つの互いに異なる試料を同時にハイブリダイゼーション(hybridization)させることができる。
【0014】
本発明は、検査された全ての場合において85%以上の頻度を示した前記のK−ras遺伝子の突然変異多発部位であるコドン12及び13でのあらゆる突然変異の検出に用いられることができるオリゴヌクレオチドを提供する。また、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイに用いられる上記オリゴヌクレオチドは、前記二つのコドンドであらゆるミスセンス変異を検出するように考案されるので、いまだに発見されていないいかなるミスセンス変異も検出することができる。即ち、本発明のオリゴヌクレオチドは、K−ras遺伝子の突然変異多発部位における突然変異を検出するように特別に遺伝子の特性を考慮して考案されたので、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、K−ras遺伝子突然変異の検出に当って、向上した正確性及び效率性を提供する。
【0015】
本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、
1)オリゴヌクレオチドをそれぞれマイクロスポット溶液(micro spotting solution)と混合してウェルプレートに分配する段階;
2)マイクロアレイヤ(microarrayer)を用いて前記オリゴヌクレオチドを固形マトリックスの表面上にスポットする段階;
3)前記固形マトリックス上にオリゴヌクレオチドを固定させて洗浄する段階;
4)前記固形マトリックスを95℃の水に浸して固定されたオリゴヌクレオチドを変性(denaturation)させた後、固形マトリックスを水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohydride)溶液で処理する段階;
5)前記固形マトリックスを洗浄して乾燥させる段階
を含む工程によって、自動化されたマイクロアレイヤを用いて固形マトリックス上に80個のオリゴヌクレオチドを固定させて製造することができる。
【0016】
前記段階1)で用いられる各オリゴヌクレオチドは、固形マトリックス表面と安定した結合を形成することができる官能基を有することが好ましい。例えば、各オリゴヌクレオチドは5’アミノ変形(5’amino modification)とともに12個の炭素スペーサー(carbon spacer)と連結された、例えばHN−(CH12−オリゴヌクレオチドが挙げられる。前記アミン基は、固形マトリックス上のアルデヒド基とシッフ塩基反応(Schiff’s base reaction)を引き起こして両者間の堅固な結合を形成する。また、12個の炭素スペーサーは、オリゴヌクレオチドと蛍光染料で標識された標的DNAとの間の接触を容易にすることでハイブリダイゼーション反応の速度を向上させる。
【0017】
前記段階1)で用いられるマイクロスポット溶液は、固形マトリックス上のオリゴヌクレオチドの適用を容易にする適切な塩及びポリマーを含むことができる。
【0018】
前記段階2)で用いられる固形マトリックスは、ガラス、変形シリコン、プラスチックカセット、またはポリカーボネートまたはそのゲル(gel)のようなポリマーからなるものでもよい。前記固形マトリックスの表面は、オリゴヌクレオチドがマトリックスの基材に安定的に結合できるようにする化合物(chemical compound)でコーティングされることができる。このようなコーティングに用いられる化合物は、好ましくは、アルデヒド基(aldehyde group)またはエポキシ基(epoxy group)などの官能基を有する。好適な一実施態様に、本発明はアルデヒドでコーティングされたスライドガラス(slide glass)を用いる。
【0019】
前記段階1)及び段階2)の好適な一実施態様によると、総80個のオリゴヌクレオチドは自動化されたピン(pin)マイクロアレイヤを用いて固形マトリックス上に精密に配列される。各オリゴヌクレオチドスポット(spot)は、100ないし500μm範囲の直径を有する円形が好ましい。固形マトリックスとしては、チップ(chip)当たり約100ないし10,000個のスポットを収容することができる3.7cm×7.6cm寸法のスライドガラスが好ましい。それぞれ130μmの直径を有する総80個のオリゴヌクレオチドスポットが200ないし800μm、好ましくは300μmの間隔をおいた多数の行及び列で配列することができる。
【0020】
前記段階3)では、オリゴヌクレオチドのアミン基と固形マトリックスのアルデヒド基との間にシッフ塩基反応(Schiff’s base reaction)を通じて共有結合を形成する方法によってオリゴヌクレオチドを固形マトリックス表面上に固定させる。固形マトリックスをSDS(sodium dodecyl sulfate)、SSC(standard saline citrate)、SSPE(saline−sodium phosphate−EDTA)などで洗浄することにより、未反応の遊離オリゴヌクレオチドを取り除く。
【0021】
前記段階4)では、固定されたオリゴヌクレオチドを変性させた後、固形マトリックス上に残存する未反応のアルデヒド基を水素化ホウ素化ナトリウム処理によって、還元させて不活性化させる。
【0022】
前記工程により製造された本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、遺伝子突然変異の検出に有用に用いられることができ、本発明の方法は非常に簡単でかついかなる通常の遺伝子突然変異の検出方法に比べてもはるかに経済的である:SSCP(single strand conformational polymorphism)、PTT(protein truncation test)、RFLP(restriction fragment length polymorphism)、クローニング(cloning)、直接シーケンス法(direct sequencing)などの通常の方法を用いて遺伝子突然変異の存在の有無を検査する場合、平均的に数日ないし数ヶ月がかかる。しかし、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いる場合、K−ras遺伝子突然変異に対するDNA試料の分析の際に10ないし11時間未満がかかる。また、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは従来のチップ(chip)に比べてさらに簡単でかつ低コストで製造することができる。一応、目的とするオリゴヌクレオチドが合成されると、本発明のスライドを大量生産することができる。また、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイが用いられる場合、試薬の必要量が通常的なの方法におけるそれに比べてさらに少なく済む。
本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、ピンマイクロアレイヤを用いて容易に製造することができるが、これに対し既存のアフィメトリックス社(Affymatrix)製のオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、複雑で高価であるフォトリソグラフィ技術を用いて製造しなければならない。
【0023】
また、アフィメトリックス社(Affymatrix)製のオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、固形マトリックスの表面上で直接オリゴヌクレオチドを合成して製作するので、オリゴヌクレオチドを精製するか、または変形させることができなかったが、これに対し本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイでは、オリゴヌクレオチドを精製して変形させることができる。本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイでは、純度を高めるためにオリゴヌクレオチドを精製することにより、高品質のオリゴヌクレオチドをスポットすることができ、実験的誤差を減らすためにオリゴヌクレオチドを容易に変形させることができる。オリゴヌクレオチドマイクロアレイにおいて、スポットされるオリゴヌクレオチドの品質が全体としての反応の正確性を決定するという事実を考慮してみるとき、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは従前よりも高い実験の正確性を提供することができる。
【0024】
さらに、本発明は、
1)蛍光染料で標識されたDNA試料を準備する段階;
2)標識されたDNA試料とK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ上のオリゴヌクレオチドスポットとを反応させる段階;
3)前記反応されたマイクロアレイを洗浄して結合されないDNA試料を除去する段階;
4)蛍光リーダー(reader)を用いて特定オリゴヌクレオチドスポットのハイブリダイゼーション様相を検出する段階;及び
5)遺伝子突然変異の有無を確認する段階
を含む、前記K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いてK−ras突然変異を検出する方法を提供する。
【0025】
前記段階1)では、対象患者の腫瘍標本または血液から抽出したDNAを、PCRを用いて蛍光染料でDNA試料を標識させて準備することができる。蛍光染料で標識されたDNAとオリゴヌクレオチドマイクロアレイ上の特定オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションは、適切なソフトウェア(software)を用いる蛍光リーダー(reader)で分析することができる。蛍光染料としては、特別に制限されないが、Cy5、Cy3、アレクサフルオルTM594(AlexafluorTM 594)、テキサスレッド(Texas Red)、フルオレセイン(Fluorescein)及びリサミン(Lissamine)などが好ましい。
【0026】
前記段階2)では、前記段階1)で準備した蛍光染料で標識されたDNA試料をハイブリダイゼーション溶液と混合させた後、各オリゴヌクレオチドに伝達する。この時、ハイブリダイゼーション反応は、患者からそれぞれ増幅させた蛍光染料で標識されたDNAが制限された量のスポットされたオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション反応で互いに競争的に作用する原理に基づいた,競争的DNAハイブリダイゼーション(competitive DNA hybridization,CDH)法によって行うことができる。
【0027】
CDH法の場合、DNA試料は前記段階1)で用いられた蛍光染料に二つの追加の蛍光染料を添加してさらに追加で標識できる。この段階で用いられる追加の蛍光染料としては、前記段階1)で用いられた蛍光染料を除いて商業的に利用できる全ての蛍光染料を用いることができる。本発明の好適な実施態様では、三つの蛍光染料、即ちCy3−、Cy5−及びアレクサフルオルTM594で標識されたdNTPをそれぞれ用いて各DNA試料を増幅させることによって、Cy3、Cy5及びアレクサフルオルTM594をDNA内に導入させた。それぞれのCy5−、Cy3−及びアレクサフルオルTM594で標識されたDNAは、互いに混合してマイクロアレイの一つのスポットされた領域で一緒にハイブリダイゼーションされる。前記ハイブリダイゼーション反応は、水蒸気で飽和された45ないし60℃の培養器内で3時間行うことができる。
【0028】
その後、前記マイクロアレイを洗浄して結合されない試料DNAを取り除いた後、乾燥させ(段階3)、適切なソフトウェアを用いる蛍光リーダーで蛍光結果を分析する(段階4)。各蛍光染料の励起波長(excitation wavelength)によって、ハイブリダイゼーションされたマイクロアレイはCy3、Cy5及びアレクサフルオルに対するそれぞれ632.8nm、543.8nm及び594nm波長でスキャンされる(Lovmar L、et al.、Nucleic Acids Res.31:e129,2003)。
【0029】
前記段階5)では、99%信頼区間での最大値をしきい値(threshold)として設定し、しきい値より高い蛍光水準を示す任意の信号を突然変異の存在に対する陽性信号と見なす。
【0030】
本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは大膓癌、膵膓癌、非小細胞肺癌、腺癌、扁平上皮癌などのような癌の診断の際に效果的に用いることができる。また、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、K−ras遺伝子と関連した信号伝達機構及び腫瘍化の研究のための效果的な診断道具として用いることができる。
【0031】
CDH法が適用されたK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いてK−ras突然変異を検出する方法は、次のような長所を有する:
1)スポットされたオリゴヌクレオチドと相同性を有し、ハイブリダイゼーションにおいて競争する小さな断片化されたDNAによって引き起こされる非特異的結合からの信号を減少させることができる;
2)突然変異の分析は、突然変異の信号値を野生型の信号値で割った比率で計算されて行われる(Kim IJ,et al.,Hardiman G ed.Microarrays methods and applications−nuts & bolts.Eagleville,DNA press,249−72,2003;Prix L,et al.,Clin.Chem.48:428−35,2002)。本発明の方法は、しきい値以上の比率を有するものを突然変異と見なす。従って、この比率が大きいほどさらに正確な分析が可能である。
3)三つの互いに異なる蛍光染料で標識された三つの試料を混合することによって、本発明の方法は、検出にかかる所要費用及び時間を減らすことができる。また、K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは三つに分離されたオリゴヌクレオチドセットを有するように考案されたので、一つのマイクロアレイ当り総9個(3×3)の試料を検査することができる。
【0032】
多数の蛍光染料(fluorophore)が遺伝子型決定(genotyping)及びこれと並行するDNAプーリング(DNA pooling)に適用されたけれども(Lovmar L,etal.,Nucleic Acids Res.31:e129、2003;Hirschhorn JN,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:12164−9,2000;Lindroos K,et al.,Nucleic AcidsRes.30:e70、2002)、本発明は多数の蛍光染料で標識された複数個のDNA試料を用いるだけでなく、これらが互いに競争させる。また、本発明は一つの蛍光染料からの信号が一つ以上の波長で検出される現象である“クロース−トーク”(cross−talk)の問題が減少されるようにした(Hirschhorn JN, et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:12164−9, 2000)。一部蛍光物質の励起及び放出スペクトルは互いに重複され得るので、その信号が他の波長から励起されて放射することができる。このような現象を予防するために、本発明は三つの互いに異なる蛍光染料で標識されたdNTPs、即ち互いに区別される領域のスペクトルを有するCY5−dCTP,Cy3−dCTP及びアレクサフルオル−dUTPを用いてCDH法を行う。その結果、本発明のCDH法は非特異的なハイブリダイゼーションからの信号を減少させることによって、マイクロアレイより鮮明なイメージを得ることができる(図1aないし図1e参照)。また、野生型(コドン12及び13)の二つの信号は、少し減少することが検出される。これは各試料からの断片化された野生型DNAがハイブリダイゼーション時、互いに競争的に反応しなければならないからである。しかし、突然変異DNAの場合、三つの混合された試料内で同一の形態で発見される場合がほとんどないので、競争的に反応せず、その固有な信号を保つ。その結果、試料が突然変異を有する場合、突然変異と野生型間の信号比率が0.91から1.66(図1aないし図1e参照)に、また0.28から0.56(図1cないし図1d参照)に増大する。
【0033】
204名の大膓癌の患者が体内(somatic)K−ras突然変異の存在有無を確認するために調査された。その結果、総50種の突然変異がK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌で検出された(50/204、24.5%)。このうち、28個は近位大腸癌(proximal colon cancer)から発見され(28/103,27.2%)、22個の突然変異は遠位大腸癌(distal coloncancer)から発見された(22/101、21.8%)。前記で検出された突然変異は、コドン12または13でのアミノ酸変異による4タイプのミスセンス変異に分類された。最も頻繁な突然変異の形態はコドン13でのGGC(Gly)→GAC(Asp、21/50)変異であった。残りはGGT(Gly)がGAT(Asp,16/50)、GTT(Val,8/50)及びTGT(Cys,5/50)に変形されたものである。
【0034】
このような突然変異の結果は直接配列決定と100%一致することが確認され、偽陽性(false−positive)及び偽陰性(false−negative)は全く示していない。突然変異のプロファイル(mutation profile)と表現型(phenotype)と間のどのような有意的な差があるかを調査するために、SPSSソフトウェアを通じるカイ自乗検定(χtest)またはフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s exact test)を用いて統計分析を行った。α=0.05を有意水準(significance level)と設定した。GGT→GATの形態は、従来の報告(Sanowitz WS,et al.,Cancer Epidermiol.Biomarkers Prev.9:1193−1197,2000;Brink M,et al.,Carcinogenesis 24:703−710,2003)と同様に遠位大腸癌(3/22、p=0.014)より近位大腸癌(13/28)の方がもっと優勢であった。しかし、K−ras突然変異と性別、年齢、腫瘍の大きさ、分化程度及び癌の進行段階(TNM(tumor,node,metastasis)stage)間の有意的関係はまだ発見されていない。
【0035】
要約すると、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイの結果は、通常の自動配列決定と正確に一致し、本発明によってCDH法を適用したK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、多数の試料の分析時、效率を増大させることができることが確認された。本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、高感度、高速、及び高効率(high−throughput)システムであるので、個体群−基礎研究(population−based study)のような多量の試料分析を要求する研究にも適する。
【0036】
次に本発明を下記の実施例によりさらに詳細に例示する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を制限することはない。
【実施例】
【0037】
実施例
K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイの製造
K−ras遺伝子の二つの突然変異多発部位(コドン12及び13)でのあらゆる可能な置換を検出するように18個のオリゴヌクレオチドを製作し、野生型の対する2個のオリゴヌクレオチドを製作した。下記の表1に示すように、すべてのオリゴヌクレオチドは21bpの長さを有し、各ミスマッチ(mismatch)配列はオリゴヌクレオチドの中間に位置した。突然変異多発部位のコドン中一つに対するミスセンス変異の配列からなるオリゴヌクレオチドでは:コドン12では、配列番号2ないし10の配列からなるオリゴヌクレオチド;またコドン13では、配列番号12ないし20の配列からなるオリゴヌクレオチドが該当する。また、配列番号1及び11の配列からなるオリゴヌクレオチドは野生型(wild type)の配列に該当する。

【表1】

【0038】
すべての20個のオリゴヌクレオチドは、それぞれアルデヒド基とシッフ塩基反応(Schiff’s base reaction)を引き起こすことができる、アミン残基で変形された5’−末端とともに12個の炭素スペーサー(carbon spacer)を有するものであって、メタビオン(Metabion、ドイツ)から入手して、HPLCに精製された。
【0039】
本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイは通常的な方法(Kim IJ,et al.,Hardiman G ed.Microarrays methods and applications−nuts & bolts.Eagleville,DNA press,249−72,2003)によって製造した。具体的に、各オリゴヌクレオチドをマイクロスポット溶液(micro spotting solution,TeleChem International社、Sunnyvale、カナダ)と1:1の比率で混合した後、40μlずつ96ウェルプレートに移された。40pmol/μlのオリゴヌクレオチドがコドン12及び13に対してスポットされた。前記チャージされた96ウェルプレートをピンマイクロアレイヤ(pin microarrayer;Microsys 5100 Cartesian,Cartesian Technologies社、カナダ)内に装着した後、各オリゴヌクレオチドはアルデヒドコーティングされたスライドガラス(aldehyde−coated glass slide;26×76×1mm,CEL associates社)上にプリント(printing)された。スポットはそれぞれ130μm大きさの直径を有し、300μmで離隔された多数の行と列で配列させた。総80個(20×4)のオリゴヌクレオチドは、K−ras遺伝子のコドン12及び13に対する2個の野生型及び18個のミスセンス変異型で構成されたものであって、4回重複された形式で配列された。三つの互いに異なる試料が一つのマイクロオレとハイブリダイゼーションできるように、前記オリゴヌクレオチドセットを一つのスライド上に個別的にスポットした。
【0040】
オリゴヌクレオチドでスポットされたスライドガラスを0.2%SDSで2回洗浄した後、蒸留水で1回洗浄した。これを熱水(95℃)に浸してオリゴヌクレオチドを変性(denaturation)させた後、水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohydride)溶液に5分間浸して、未反応アルデヒド基を不活性化した。その後、前記スライドガラスを0.2%SDSで2回洗浄した後、蒸留水で1回洗浄し、遠心分離して乾燥させた。
【0041】
実施例2
K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いたK−ras突然変異の検査
(段階1)DNA試料の準備
韓国のソウル大学病院及び国立癌センターから総204名の大膓癌患者を対象として体内K−ras突然変異の存在有無を検査した。すべての患者から書面による同意書(written informed consents)を得た。この204種の大膓癌中、103種は大膓近位大腸(盲膓(cecum)から脾湾屈曲部(splenic flexure)まで)から、また101種は大膓遠位大腸(脾臓屈曲部から直腸(rectum)まで)から得られた。また、大膓癌患者の正常組職を陰性対照群として用いた。
【0042】
前記組職の冷凍標本からTRI試薬(TRI reagent,Molecular Research Center,Cincinnati,OH,USA)を用いて通常的な方法(Kim IJ,et al.,Clin.Cancer Res.9:2920−5,2003)によってゲノムDNAを抽出した。蛍光染料で標識されたDNA試料を得るために、抽出されたDNA鋳型(template)及びそれぞれ配列番号21及び22の配列からなる一対のプライマー(Metabion、Germany)を用いて通常的な方法(Kim IJ,et al.,Clin.Cancer Res.8:457−63,2002;Kim IJ,et al.,Clin.Cancer Res.9:2920−5,2003)によってPCR増幅を行った。
【0043】
前記PCR反応溶液(25μl)にはゲノムDNA100ng、プライマー各10pmol、dATP、dTTP及びdGTP(MBI Fermentas)各50μM、及び蛍光染料で標識されたCy5−dCTP(Amersham Biosciences)及びdCTP各10μMが含まれている。反応はプログラム可能サーマルサイクラー(Programmable thermal cycler;Perkin Elmer Cetus 9600;Roche Molecular Systems社)で94℃で5分間変性させることから始めた。PCRの条件は94℃で30秒、56℃で30秒、及び72℃で1分の35サイクル(cycle)の繰り返しと72℃で7分間の最終延長反応(final elongation)からなる。
【0044】
CDH反応のために、DNA試料は追加の蛍光染料で標識されたdNTPでCy3−dCTP(Amersharm Bioscience)またはクロマチドTM−dUTP−アレクサフルオル594(ChromatideTM−dUTP−Alexa fluor 594、Molecular Probes)と標識した。CDHのためのPCR反応において、各試料を前記蛍光染料で標識されたdNTPで増幅させて蛍光染料をDNAに結合させた。
【0045】
このようなPCR増幅後、Cy5、Cy3及びアレクサフルオルTM594で標識されたPCR産物をそれぞれDNA精製用キット(QIAquick PCR purification kit、Qiagen社)で精製し、0.05UのDNase I(株式会社タカラ製日本)で25℃で3分間処理して、分解した。これを80℃で10分間処理して残余酵素を不活性させ、それぞれCy5、Cy3及びアレクサTM594プルーアが標識されたDNA試料を回収した。
【0046】
(段階2)ハイブリダイゼーション反応及び分析
前記段階1で準備された各Cy5、Cy3及びアレクサTM594で標識されたDNA試料を混合し、5×ハイブリダイゼーション溶液(Hybit、TeleChem社)に2〜4μl体積で懸濁させた。混合されたDNA試料の2μlを実施例1で得られたスライドガラスに滴加した後カバースライド(cover slide)で覆った。飽和蒸気管(saturated vapor tube)の中に前記のスライドガラスを入れたまま56℃で2.5時間ハイブリダイゼーション反応を行った。このような工程は、患者からそれぞれ増幅されて特定の蛍光染料標識を有するDNA試料が制限された量のスポットされたオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション反応において互いに競争するようにした。
【0047】
ハイブリダイゼーション反応させたスライドガラスを0.2%SDS+0.5×SSC混合溶液で室温で15ないし30分間洗浄した後、蒸留水で5分間洗浄し、遠心分離して乾燥させた。得られたスライドガラスをスキャンしてイメージ分析スキャナであるスキャンアレイライト(Scan Array Lite,Packard Instrument社)と定量的な微細配列の分析ソフトウェアであるクアントアレイ(Quant Array;version2.0,Packard Instrument社)で腫瘍DNAとのハイブリダイゼーションされた程度を意味する各スポットの強度を計算した。各蛍光染料の励起波長(excitation wave length)によって、ハイブリダイゼーションされたマイクロアレイをCy5、Cy3及びアレクサTM594に対してそれぞれ632.8nm、543.8nm及び594nmでスキャンした(Lovmar L,et al.,Nucleic Acids Res.31:e129,2003)。
【0048】
2個の野生型信号を互いに比較し、信号の標準化(signal normalization)によって同一に調整した。各コドンにおける残りの18個信号は野生型信号と同一の方法に調整された。信号標準化後、すべての信号を通常的な方法(Kim,I.J.et al.,Clin.Cancer Res.8:457−463,2002)によって再分析した。背景信号(background signals)の平均(BA)及び標準偏差(BSD)を計算した後、カットオフレベル(cutoff level)を(BA+2.58BSD)と決定した。(BA+2.58BSD)は99%信頼区間の上限線を意味し、このような値以上の信号は有意的な信号と見なした。すべての結果分析はシグマプロットTM(Sigma PlotTM、SPSS社)を用いて行われ、平均及び標準偏差はマイクロソフトアクセルプログラム(Microsoft Excel Program)を用いて算出した。
【0049】
その結果、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイによって総50種の突然変異(50/204、24.5%)が大腸癌試料で確認された。このうち、28個は近位大腸癌(28/103、27.2%)から、また22個は遠位大腸癌(22/101、21.8%)から得られた。コドン12または13におけるアミノ酸の変異によるミスセンス変異は総4種の形態で検出された。最も頻繁に検出された突然変異は、コドン13におけるGGC(Gly)→GAC(Asp,21/50)の変異であった。その残りは、GGT(Gly)がGAT(Asp,16/50)、GTT(Val,8/50)及びTGT(Cys、5/50)に変異されたものであった。しかし、癌患者の正常組職では検出されなかった。
【0050】
図1aないし図1eは、本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイにCDH法を適用するか(CDH群)または適用しない場合(対照群)のスキャンされたイメージ及びと各信号強度を示す。図1aはCy5で標識されたdCTP(D231−対照群)で増幅させたD231試料と通常的にハイブリダイゼーションさせた結果(D231−対照群)であり;図1bはCy5、Cy3及びアレクサTM594で標識されたdCTPで増幅させたD231試料と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果(D231−CDH)であり;図1cはCy3で標識されたdCTPで増幅させたD281試料と通常的にハイブリダイゼーションさせた結果(D281−対照群)であり;図1dはCy5、Cy3及びアレクサTM594で標識されたdCTPで増幅させたD281試料と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果(D281−CDH)である。コドン13でのミスセンス変異(GGC→GAC)はCy5−標識されたdCTPを利用してD231試料で検出され、コドン12でのミスセンス変異(GGT→GAT)はCy3で標識されたdCTPを用いてD281試料で検出した。図1eは癌患者の正常組職(陰性対照群)と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果を示し、K−ras突然変異は検出されなかった。突然変異は矢印で表示され、スポットされたオリゴヌクレオチドの信号の強度は、野生型信号に基づいて標準化(normalization)した後にプロットされた。一部の非特異的結合も検出された(*)。CDH群(図1b及び図1d)をその対照群(図1a及び図1c)と比較した結果、非特異的結合による信号が減少したことが、これに対し突然変異と野生型と間の信号の割合(R)は増加したこと(D231:0.91→1.66、D281:0.28→0.56)を発見した。また、二つの野生型信号(コドン12及び13)は少し減少した。これはそれぞれの試料から断片化された野生型DNAがハイブリダイゼーション時互いに競争したためである。しかし、突然変異DNAの場合、三つの混合試料内ではほとんど同一の配列を有しないので、互いに競争せずその固有の信号を保った。
【0051】
突然変異のプロファイルと表現型(phenotype)間に有意的な差があるか否かを調査するために、SPSSソフトウェアを通じたχまたはフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s exact test)を用いて統計学的な分析を行った。この時、α=0.05を有意的な水準に設定した。その結果、GGT→GAT形態は遠位大腸癌(3/22,p=0.014)より近位大腸癌(13/28)でもっと優勢であることを発見し、これは従前の報告と一致するものである(Samowitz WS,etal.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.9:1193−7,2000;BrinkM,et al.,Carcinogenesis 24:703−10,2003)。しかし、K−ras突然変異と性別、年齢、腫瘍の大きさ、分化程度及び癌の進行段階(TNM stage)と間には何らの有意的差異も検出されなかった。
【0052】
実施例3
K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイによって検出された突然変異の確認
本発明のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイによって検出されたK−ras突然変異を確認するために、204種の大膓癌試料を対象として通常的な方法(Park JH,et al.,Clin.Genet.64:48−53,2003)によって両方向の配列決定(bi−directional sequencing)を行った。配列決定のために、配列番号:23及び24の公知の配列を有するプライマー(Lagarda H,etal.,J.Pathol.193:193−9,2001)を用いた。PCRは、通常的なdNTP混合物を用いることを除いては、実施例2の段階1と同一に行った。
【0053】
両方向配列決定はTaqジデオキシターミネーターサイクルシーケンスキット(Taqdideoxy terminator cycle sequencing kit、Applied Biosystems)及びABI 3100 DNAシーケンサー(ABI 3100 DNA sequencer,Applied Biosystems)を用いて行った。
【0054】
その結果、前記突然変異の結果は直接配列決定とも100%一致することが確認され、偽陽性(false−positive)及び偽陰性(false−negative)は全く示していないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1a】CDH法を用いるか、または用いない、本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌でK−ras突然変異を検出した結果を示す図である。Cy5で標識されたdCTP(D231−対照群)で増幅させたD231試料と通常的にハイブリダイゼーションさせた結果(D231−対照群)である。
【図1b】CDH法を用いるか、または用いない、本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌でK−ras突然変異を検出した結果を示す図である。Cy5、Cy3及びアレクサTM594で標識されたdCTPで増幅させたD231試料と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果(D231−CDH)である。
【図1c】CDH法を用いるか、または用いない、本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌でK−ras突然変異を検出した結果を示す図である。Cy3で標識されたdCTPで増幅させたD281試料と通常的にハイブリダイゼーションさせた結果(D281−対照群)である。
【図1d】CDH法を用いるか、または用いない、本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌でK−ras突然変異を検出した結果を示す図である(D281−CDH)。Cy5、Cy3及びアレクサTM594で標識されたdCTPで増幅させたD281試料と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果である。
【図1e】CDH法を用いるか、または用いない、本発明によるK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて大膓癌でK−ras突然変異を検出した結果を示す図である。癌患者の正常組職(陰性対照群)と競争的にハイブリダイゼーションさせた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形マトリックスの表面上に固定された複数個のオリゴヌクレオチドを含むK−ras突然変異検出用K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイにおいて、前記オリゴヌクレオチドはK−ras遺伝子の突然変異多発部位(hot spot)でミスセンス変異(missense mutation)を検出するように考案され、コドン12に対しては配列番号1のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号2ないし10のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドと、コドン13に対しては配列番号11のヌクレオチド配列からなる野生型オリゴヌクレオチド及び配列番号12ないし20のヌクレオチド配列からなるミスセンス変異型オリゴヌクレオチドとを含む、K−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ。
【請求項2】
前記オリゴヌクレオチドがそれぞれ5’アミノ変形(5’amino modification)とともに12個のカーボンスペーサー(carbon spacer)を有し、固形マトリックスがアルデヒドまたはアミンでコーティングされたことを特徴とする請求項1に記載のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドが、オリゴヌクレオチドのアミン基と固形マトリックスのアルデヒド基との間にシッフ塩基反応(Schiff’s base reaction)を通じて共有結合を形成する方法により固形マトリックス表面に固定されていることを特徴とする請求項2に記載のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ。
【請求項4】
下記段階を含む、請求項1記載のK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いてK−ras突然変異を検出する方法:
1)蛍光染料で標識されたDNA試料を準備する段階;
2)前記標識DNA試料とK−rasオリゴヌクレオチドマイクロアレイ上のオリゴヌクレオチドスポット(spot)とを反応させる段階;
3)前記反応したマイクロアレイを洗浄して結合されないDNA試料を除去する段階;
4)蛍光リーダー(reader)を用いて特定のオリゴヌクレオチドスポットのハイブリダイゼーションの様相を検出する段階;及び
5)遺伝子突然変異の存在有無を確認する段階。
【請求項5】
前記混成反応試料が、対象患者から得られた腫瘍の標本や血液であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記が、競争的DNAハイブリダイゼーション(competitive DNA hybridization、CDH)法によって行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記競争的DNAハイブリダイゼーション方法が、互いに異なる蛍光染料で標識されたdNTPで増幅させた少なくとも二つの試料を混合する段階;前記段階に得られた試料混合物をマイクロアレイ表面上の一つのスポットされた(spotted)オリゴヌクレオチドに滴下させる段階;及び前記試料らを制限された量のスポットされたオリゴヌクレオチド内でのハイブリダイゼーション反応における互いに競争的に反応させる段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記蛍光染料がCy5、Cy3、アレクサフルオル(Alexa fluor)、テキサスレッド(Texas Red)、フルオレセイン(Fluorescein)及びリサミン(Lissamine)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ハイブリダイゼーション反応が水蒸気で飽和された45ないし60℃のインキュベーター内で3ないし9時間行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【公表番号】特表2007−534331(P2007−534331A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510603(P2007−510603)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003023
【国際公開番号】WO2005/103293
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(506159219)ナショナル・キャンサー・センター (3)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CANCER CENTER
【Fターム(参考)】