説明

KLRG1陽性免疫細胞親和性ペプチド、KLRG1陽性免疫細胞分離材及びKLRG1陽性免疫細胞分離方法

【課題】低分子量で安価な、KLRG1に親和性を有するリガンドとしての新規なペプチド、並びに上記ペプチドを担持した、末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するためのKLRG1陽性免疫細胞分離材を提供する。
【解決手段】Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asnのアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下のペプチドが固定されている水不溶性担体からなる、KLRG1陽性免疫細胞分離材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KLRG1陽性免疫細胞を認識するペプチドに関する。本発明はさらに、血液、体液、細胞培養液及びこれらの処理液などのKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液から、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するためのKLRG1陽性免疫細胞分離材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国における乳癌の罹患数および死亡数の増加は著しい。乳癌はこれまでエストロゲンレセプター(ER)とプロゲステロンレセプター(PgR)の発現状況により手術以外の治療法が決められる傾向にあった。ホルモン療法、抗がん剤療法などの薬物療法が有用であり、奏功率、生存率の改善がみられている。しかし、human epidermal growth factor receptor-related 2(HER2)陽性乳癌の約50%はホルモン受容体陰性でありホルモン療法の対象外であった。最近ではHER2陽性乳癌に対するトラスツズマブを中心とする抗体療法などの分子標的療法が行われ、その有用性が示されており、今後の有力な治療法として期待されている。
【0003】
乳癌細胞は種々の増殖因子とその受容体を発現して、増殖に関連するシグナル伝達系を形成している。1984年に同定された癌遺伝子HER2はその1つであり、ヒト上皮成長因子受容体human epidermal growth factor receptor(EGFR,HER)ファミリーの一員である。受容体は細胞膜貫通型の糖タンパクで、構造的な類似性からHER1、HER2、HER3、HER4が存在している(非特許文献1)。EGF受容体ファミリーは二量体形成を通じてシグナル伝達に寄与しており、リガンドが結合した受容体がもう1つの受容体と二量体を形成することによりシグナル伝達に寄与すると考えられている。
【0004】
HER2受容体を規定するHER2/neuはproto-oncogeneの1つと考えられ、17番染色体(17q21.1)に存在する(非特許文献2)。乳癌をはじめ卵巣癌、肺癌、胃癌など種々の癌においてHER2/neu遺伝子の増幅および過剰発現が認められている。HER2陽性乳癌は、乳癌全体の20%から30%を占める。成人の正常組織ではこの遺伝子の発現は非常に弱い。その自然経過は特異であり、全身療法を施行しない場合は再発が早く、1987年にHER2の増幅が乳癌の予後不良と相関することが報告されて以降、多くの研究においてHER2陽性転移乳癌では経過が不良であることが明らかにされている。
【0005】
1986年に抗HER2モノクローナル抗体がneu形質転換細胞の悪性形質を阻害することが示され、HER2を標的とするトラスツズマブが開発されるに到った。トラスツズマブの原型となったHER2受容体の細胞外ドメインに対するマウスモノクローナル抗体mu4D5は、in vitroにおいてHER2陽性の腫瘍細胞株に対して増殖抑制作用が認められている(非特許文献3)。また、HER2陽性ヒト乳癌細胞株であるSKBR3に対するマウス脾細胞の抗体依存性細胞傷害(antibody-dependent cell cytotoxicity, ADCC)は、マウスモノクローナル抗体で増強されており、in vivoにおいてはADCC活性も抗腫瘍効果に寄与しているとの報告もある(非特許文献4)。しかし臨床応用するにあたり、マウス抗体をそのまま用いてはhuman anti-mouse antibody(HAMA)の出現が問題となる。そこで、HER2受容体の細胞外ドメインに対するマウスモノクローナル抗体の抗原結合部位である可変部のみをヒトIgG1の定常部に移植したヒト化抗体として作製されたものがトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン(登録商標))である。
【0006】
HER2はPI3KやMAPKを含む様々なシグナル伝達経路ネットワークを惹起するが、トラスツズマブはHER2受容体に結合することにより、このシグナル伝達経路を抑制し、細胞周期の停止やアポトーシス、血管新生抑制などを誘導して、直接的に腫瘍細胞増殖抑制作用を示すと考えられる。また、Srcチロシンキナーゼの阻害とそれに伴うPTENの活性化、Aktの脱リン酸化も報告されている。さらに、腫瘍細胞と結合したトラスツズマブのFc部分に、NK細胞をはじめとする免疫細胞に発現するFc受容体が結合し腫瘍細胞殺傷効果を示す(ADCC活性)ことも示されている(非特許文献5から8)。これらの直接的腫瘍細胞増殖抑制作用と、ADCC活性の2つがトラスツズマブの主な作用機序と考えられている。
【0007】
トラスツズマブはHER2を標的としており、その治療効果はHER2タンパクの発現の程度により大きく異なる。測定法や材料などによりその陽性率は大きく異なることが知られているが、HER2蛋白の過剰発現、DNAの増幅を調べるため、免疫組織化学方法(immunohistochemical method:IHC法)とfluoresence in situ hybridization(FISH)が広く行われている。また、トラスツズマブは術後補助療法に利用すると高い効果が得られることがHERA試験をはじめとする複数の大規模臨床試験で明らかになっている。
【0008】
これまでの様々な検討から、トラスツズマブ投与によりHER2を阻害すると、乳癌の自然経過に大きな影響を与えることがわかっている。しかし、トラスツズマブはHER2過剰発現乳癌すべての自然経過を変更するものではないこともわかってきており、初回トラスツズマブ単剤投与に反応する症例は、HER2過剰発現乳癌の約1/3以下であるといわれている。これと同様に顕微鏡的転移癌の場合、かなりの割合の腫瘍がトラスツズマブに耐性であることが示唆される。しかし、トラスツズマブ耐性の機序については明確には解明されていない。現在のところ耐性機序として、(1)トラスツズマブの到達が不十分なため、HER2の細胞外領域の阻害が十分ではないこと、(2)HER2発現の減少、(3)下流にあるHER2機能調節因子が変化していること(p27kip1の低下、PTENの消失または不活性化など)、(4)代替経路によるシグナル伝達が生じること(insulin-like growth factor I receptor:IGF1Rの過剰発現)、(5)免疫能の低下、特にADCC活性の低下、などの可能性が示唆されている。
【0009】
上記(5)に掲げた免疫能と耐性機序に関する検討はあまり活発ではない。近年、トラスツズマブの主たる作用機序の1つであるADCC活性に関わる因子であるNK細胞について、その機能が明らかにされてきている。NK細胞には抑制性のレセプターが発現しており、その一つとして同定されたのがレクチン様レセプターkiller cell lectin-like receptor G1(KLRG1)である。これまでNK細胞に関して明らかにされた抑制性レセプターのリガンドのほとんどは、MHCクラスI分子にかかわるものであったが、2006年にM.Itoらにより、KLRG1のリガンドがMHCクラスI分子以外であることが報告された。
【0010】
KLRG1は、ラット好塩基球性白血病細胞株RBL-2H3に発現する機能分子MAFA(mast cell function-associated antigen)として発見された(非特許文献9)。このKLRG1は、RBL-2H3細胞では抗KLRG1抗体でKLRG1を架橋することにより、Fcレセプター刺激による脱顆粒反応が抑制される。ラットKLRG1のcDNAクローニングから、細胞外領域にC型レクチン様の構造を持ち、細胞内領域にITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)をもつII型膜貫通タンパク質のホモ二量体であることが、Pechtらにより報告されている(非特許文献10)。ヒトおよびマウスでは、KLRG1がNK細胞やT細胞の一部に発現するが(非特許文献11から13)、健常人では末梢血NK細胞の約50%に発現がみられることがわかっている。
【0011】
トラスツズマブ治療は、再発治療から再発予防目的の術後補助療法、術前治療へと適応が拡大されつつあり、さらなるHER2陽性癌の根治性向上への発展が期待される。適応が拡大されたことにより、トラスツズマブ投与対象例が大きく増加することが見込まれる。しかしながら、現状では、対象症例中には多数のトラスツズマブ投与無効群が存在している。
【0012】
一方、KLRG1は、脊椎動物に遍在して発現して細胞間接着を仲介している3つの古典的カドヘリン(E-、N-、R-)と結合することが報告されている。E-、N-、R-カドヘリンによるKLRG1の連結反応はキラー細胞の細胞障害活性を調節し、カドヘリンが発現した組織への損傷を妨げることが示唆されている(特許文献14)。また、これらカドヘリンとKLRG1との結合について検討されており、E-カドヘリンについて更に、SPR測定の結果、KLRG1はE-カドヘリンのN末端の免疫グロブリン様ドメインと結合していること、KLRG1-E-カドヘリンComplexの結晶構造解析の結果、E-カドヘリンの9つのアミノ酸(3、4、5、6、7、92、93、94、95残基目)がKLRG1と相互作用しており、かつそのうちの5つのアミノ酸(4、5、7、93、95残基目)は9個の水素結合をも含んでいることが報告されている(非特許文献15)。更に、E-カドヘリンのN末端側から2から6残基目のいずれか1個のアミノ酸をアラニンに置換したE-カドヘリン変異体を用いて、KLRG1との相互作用をSPR分析、フローサイトメトリー分析、KLRG1レポーターアッセイ、および細胞障害活性測定により評価した結果、KLRG1はE-カドヘリンの2から6残基目のN末端部分を認識していることが報告されている(非特許文献16)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Pinkas-Kramarski, R., I. Arloy and Y. Yarden (1997) ErbB receptors and EGF-like ligands: cell lineage determination and oncogenesis through combinatorial signaling. J Mammary Gland Biol Neoplasia, 2:97-107.
【非特許文献2】Schechter, A.L., D.F. Stern, L. Vaidyanathan, S.J. Decker, J.A. Drebin, M.I. Greene and R.A. Weinberg (1984) The neu oncogene: an erb-B-related gene encoding a 185,000-Mr tumour antigen. Nature, 312:513-516.
【非特許文献3】Hudziak RM, Lewis GD, Winget M, Fendly BM, Shepard HM, Ullrich A (1989) p185HER2 monoclonal antibody has antiproliferative effects in vitro and sensitizes human breast tumor cells to tumor necrosis factor. Mol Cell Biol, 9(3):1165-72.
【非特許文献4】Piccart-Gebhart MJ, Procter M, Leyland-Jones B, Goldhirsch A, Untch M, Smith I, Gianni L, Baselga J, Bell R, Jackisch C, Cameron D, Dowsett M, Barrios CH, Steger G, Huang CS, Andersson M, Inbar M, Lichinitser M, Lang I, Nitz U, Iwata H, Thomssen C, Lohrisch C, Suter TM, Ruschoff J, Suto T, Greatorex V, Ward C, Straehle C, McFadden E, Dolci MS, Gelber RD; Herceptin Adjuvant (HERA) Trial Study Team (2005) Trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2-positive breast cancer. N Engl J Med, 353(16):1659-72
【非特許文献5】Clynes RA, Towers TL, Presta LG, Ravetch JV (2000) Inhibitory Fc receptors modulate in vivo cytoxicity against tumor targets. Nat Med, 6(4):443-6.
【非特許文献6】Izumi Y, Xu L, di Tomaso E, Fukumura D, Jain RK (2002) Tumour biology: herceptin acts as an anti-angiogenic cocktail. Nature, 416(6878):279-80
【非特許文献7】Gennari R, Menard S, Fagnoni F, Ponchio L, Scelsi M, Tagliabue E, Castiglioni F, Villani L, Magalotti C, Gibelli N, Oliviero B, Ballardini B, Da Prada G, Zambelli A, Costa A (2004) Pilot study of the mechanism of action of preoperative trastuzumab in patients with primary operable breast tumors overexpressing HER2. Clin Cancer Res., 10(17):5650-5
【非特許文献8】Barok, et al., (2007) Trastuzumab causes antibody-dependent cellular cytotoxicity-mediated growth inhibition of submacroscopic JIMT-1 breast cancer xenografts despite intrinsic drug resistance. Molecular Cancer Therapeutics, 6:2065-2072.
【非特許文献9】Ortega Soto E, Pecht I (1988) A monoclonal antibody that inhibits secretion from rat basophilic leukemia cells and binds to a novel membrane component. J Immunol, 141(12):4324-32.
【非特許文献10】Abramson J, Xu R, Pecht I (2002) An unusual inhibitory receptor--the mast cell function-associated antigen (MAFA). Mol Immunol, 38(16-18):1307-13.
【非特許文献11】Hanke T, Corral L, Vance RE, Raulet DH (1998) 2F1 antigen, the mouse homolog of the rat "mast cell function-associated antigen", is a lectin-like type II transmembrane receptor expressed by natural killer cells. Eur J Immunol., 28(12):4409-17
【非特許文献12】Butcher S, Arney KL, Cook GP (1998) MAFA-L, an ITIM-containing receptor encoded by the human NK cell gene complex and expressed by basophils and NK cells. Eur J Immunol., 28(11):3755-62
【非特許文献13】Blaser C, Kaufmann M, Pircher H (1998) Virus-activated CD8 T cells and lymphokine-activated NK cells express the mast cell function-associated antigen, an inhibitory C-type lectin. J Immunol., 161(12):6451-4
【非特許文献14】Masayuki Ito, Takuma Maruyama, Naotoshi Saito, Satoru Koganei, Kazuo Yamamoto, Naoki Matsumoto (2006) Killer Cell lectin-like receptor G1 bind three members of the classical cadherin family to inhibit NK cell cytotoxicity. J Exp Med., 203(2):289-95
【非特許文献15】Li Y, Hofmann M, Wang Q, Teng L, Chlewicki LK, Pircher H, Mariuzza RA. (2009)Structure of natural killer cell receptor KLRG1 bound to E-cadherin reveals basis for MHC-independent missing self recognition. Immunity.,17;31(1):35-46
【非特許文献16】Nakamura S, Kuroki K, Ohki I, Sasaki K, Kajikawa M, Maruyama T, Ito M, Kameda Y, Ikura M, Yamamoto K, Matsumoto N, Maenaka K.(2009) Molecular basis for E-cadherin recognition by killer cell lectin-like receptor G1 (KLRG1). J Biol Chem., 2;284(40):27327-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、低分子量で安価な、KLRG1に親和性を有するリガンドとしての新規なペプチド、並びに上記ペプチドを担持した、末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するためのKLRG1陽性免疫細胞分離材を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、E−カドヘリンのN末端の2から7残基目のアミノ酸配列を含む、1から8残基目のアミノ酸配列からなるペプチドでは、KLRG1との結合能力は発現できないが、C末端側を更に12残基目まで伸ばしたペプチドは、KLRG1との結合能力を持ち、また、このペプチドを水不溶性担体の表面に固定することで、末梢血からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の態様は以下を含む。
(1) Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下のペプチドが固定されている水不溶性担体からなる、KLRG1陽性免疫細胞分離材。
(2) 配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドは、そのC末端側に水不溶性担体に固定するための活性アミノ酸残基が付加されている、(1)に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(3) 前記活性アミノ酸残基がLysである、(2)に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(4) 配列番号1のペプチドは、スペーサーを介して前記水不溶性担体に固定されている、(1)に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(5) 前記スペーサーは、前記水不溶性担体との結合末端側に活性アミノ酸残基が付加されている、(4)に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(6) 前記活性アミノ酸残基がLysである、(4)または(5)に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(7) 前記水不溶性担体が織布もしくは不織布である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(8) 前記構成アミノ酸残基の総数が50個以下である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(9) 前記構成アミノ酸残基の総数が40個以下である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(10) 前記構成アミノ酸残基の総数が30個以下である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
(11) Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドがスペーサーを介して前記水不溶性担体に固定されている、KLRG1陽性免疫細胞分離材。
(12) Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下である、KLRG1陽性免疫細胞親和性ペプチド。
(13) 配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にLysを有する、(12)に記載のKLRG1陽性免疫細胞親和性ペプチド。
(14) Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下であるペプチドを含む、KLRG1陽性免疫細胞分離剤。
(15) (1)〜(11)のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材にKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液を接触させることを含む、KLRG1陽性免疫細胞を分離する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の分離材を用いれば、例えば、血液、体液、細胞培養液、及びこれらの処理液中から、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。したがって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体を投与しても従来は抗癌効果が発揮されなかった患者においても、有効な抗癌効果を得ることが期待できる。
【0018】
また、本発明のペプチドを用いれば、KLRG1陽性免疫細胞中のKLRG1とKLRG1に対するリガンド(例えば、E−カドヘリン)との結合を阻害し、KLRG1を介した抑制性シグナルを遮断することができる。したがって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体と、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞と単核球を含む細胞集団とを接触させても、従来は上皮性癌細胞に対する細胞障害活性が発揮されなかった場合においても、十分な細胞障害活性を得ることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
本発明のKLRG1陽性免疫細胞分離材は、血液、体液、細胞培養液、及びこれらを処理して得られた液などのKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液から、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる分離材であって、Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下のペプチドが水不溶性担体に固定されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の分離材に用いるペプチドの配列番号1は、E−カドヘリンのN末端1から12残基目のアミノ酸配列である。KLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液から、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる分離材において、本発明者らは水不溶性担体表面上のKLRG1と結合するリガンドとして、E−カドヘリンに着目し、E−カドヘリンタンパクの一部をペプチドとして切り出して設計することを検討した。本発明者らは、先行文献(非特許文献15、16)からKLRG1との相互作用においてE−カドヘリンのN末端部分の2から7残基目、および92から95残基目のアミノ酸配列が重要であると推測し、検討を進めたところ、N末端部分の2から7残基目を含む、1から8残基目のアミノ酸配列からなるペプチドを水不溶性担体に固定した場合は、KLRG1陽性免疫細胞との結合能力はなく、KLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することはできないが、ペプチドのアミノ酸配列を更にC末端側に4アミノ酸伸ばした、E−カドヘリンN末端部分1から12残基目の配列番号1を含むペプチドを水不溶性担体に固定した場合は、N末端部分の92から95残基目のアミノ酸配列を含むペプチドがなくても、KLRG1陽性免疫細胞との結合能力を発現し、KLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができることを見出し、本発明に至った。
【0022】
E−カドヘリンのN末端部分1から8残基目のアミノ酸配列からなるペプチドの場合は、ペプチドは水不溶性担体上でKLRG1と結合し捕捉するための立体構造が保てないため、結合能力を得ることができないが、E−カドヘリンのN末端部分1から12残基目のアミノ酸配列である12個のアミノ酸(配列番号1)を含むペプチドの場合は、水不溶性担体上で、KLRG1と相互作用できる立体構造をとることができ、結合、捕捉能力を発現できると推定している。
【0023】
また本発明によれば、水不溶性担体表面上のペプチドのアミノ酸数は12個以上80個以下である。水不溶性担体表面上において、配列番号1はその配列のC末端側およびN末端側に更にアミノ酸を延長してもよく、アミノ酸数が増えても配列番号1の立体構造は維持されるが、アミノ酸数が増えるに従い、KLRG1陽性免疫細胞以外の細胞を非特異的に吸着しやすくなるため、アミノ酸数は12個以上80個以下が好ましい。また合成方法やコストから12個以上50個以下がより好ましく、12個以上40個以下がより好ましく、12個以上30個以下がさらに好ましく、12個以上20個以下が特に好ましく、12個以上15個以下が最も好ましい。配列番号1のアミノ酸配列のN末端側に延長されるアミノ酸の種類は特に限定されず、任意のアミノ酸を延長することができる。配列番号1のアミノ酸配列のC末端側に延長されるアミノ酸の種類も特に限定されず、任意のアミノ酸を延長してもよいし、あるいはE−カドヘリンのN末端側の13残基目以降のアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸配列のC末端側に延長してもよい。
【0024】
また、ペプチドの末端はフリーでもよいし、例えばN末端はアセチル化、C末端はアミド化によりブロッキングしてもよいし、また水不溶性担体への固定などを考慮して、N末端またはC末端に官能基を導入してもよい。
【0025】
本発明の分離材において、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドは、そのC末端側に水不溶性担体に固定するための活性アミノ酸残基を付加するとより好ましい。活性アミノ酸残基とは、側鎖に水不溶性担体と結合するための活性基を持つアミノ酸であり、例えば、リシン、アルギニン、システイン、トリプトファン、ヒスチジン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシンが挙げられ、水不溶性担体との固定のしやすさから、好ましくはリシン、システインであり、より好ましくはリシンである。
【0026】
本発明の分離材において、配列番号1のペプチドはスペーサーを介して水不溶性担体に固定されてもよい。本明細書中でいうスペーサーとは、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドと水不溶性担体との間に位置し、該ペプチドを水不溶性担体に間隔を空けて固定できる任意の長さの分子を意味する。スペーサーは、スペーサーの流動性や排除体積効果により、細胞と分離材との非特異的な相互作用を防げる。スペーサーの長さとしては、スペーサーのないものから、その中に含まれる原子数で2000までが好ましい結果を与える。あまり長すぎるスペーサーは熱安定性及び耐放射線性が悪く、溶出物の原因となる。より好ましくはスペーサーのないものから、その中に含まれる原子数で1000以下であり、さらに好ましくは500以下であり、特に好ましくは200以下である。スペーサーは、水不溶性担体の表面上に導入してもよいし、ペプチドに導入してもよい。その場合、スペーサーの導入位置は配列番号1のアミノ酸配列を中断しない位置とする。配列番号1よりもC末端側がより好ましい。スペーサーの具体的材料としては、これらに限定はされないが、ポリエチレングリコールやなどの高分子材料やポリペプチドなどが挙げられる。また、スペーサーにおいては、水不溶性担体との結合末端に、水不溶性担体への固定などを考慮して官能基を導入してもよいし、活性アミノ酸残基が付加されていることが好ましい。スペーサーに付加することができる活性アミノ酸残基としては、本明細書中上記したものが挙げられる。
【0027】
本発明の分離材において、配列番号1のペプチドがスペーサーを介して水不溶性担体に固定されている場合の具体的態様としては、スペーサーがペプチドに導入されている場合、スペーサーが水不溶性担体に導入されている場合、あるいはスペーサーがペプチドと水不溶性担体の両方に導入されている場合などが挙げられる。即ち、ペプチドとスペーサーとの結合体を水不溶性担体に固定化してもよいし、ペプチドを、スペーサーを有する水不溶性担体に固定化してもよいし、ペプチドとスペーサーとの結合体を、スペーサーを有する水不溶性担体に固定化してもよい。この際、ペプチドを水不溶性担体に固定するための官能基(活性アミノ酸残基など)は、ペプチド、スペーサー又は水不溶性担体の何れか1以上に適宜付加することができる。
【0028】
本発明で用いることのできる水不溶性担体の形状としては、液層でKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液との接触を良好に行うために、接触頻度の面より表面積が大きいことが好ましい。例を挙げると、不織布、繊維状、綿状、糸状、束状、簾状、織布等の繊維構造体、平膜、スポンジ等の高分子多孔質体、あるいは粒子(磁気粒子など)等の構造が挙げられる。特に血液細胞の吸着性、分離材としての取り扱い性からみて、織布、不織布が好ましく、中でも細胞との多点的な接触が可能である点で不織布が最も好ましい。
【0029】
水不溶性担体の形状が不織布等の繊維状担体を用いる場合、繊維径が細胞吸着能力に寄与するため、有効な平均繊維径のものを用いることが重要である。本発明の平均繊維径の測定は走査型電子顕微鏡で繊維状基材の表面を撮影し、目視により撮影面上に分散している糸の直径をランダムに100個以上測定して求める。繊維径が大きすぎる場合にはKLRG1陽性免疫細胞の吸着量及び吸着速度が低下するし、小さすぎる場合には、KLRG1陽性免疫細胞以外のリンパ球、単球、顆粒球、血小板等の非特異吸着をおこしやすい点から、平均繊維径0.5μm以上30μm以下が好ましい。更に好ましくは1μm以上20μm以下である。最も好ましくは2μm以上10μm以下である。また、フィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメントでも構わないし、多孔質フィラメントでも異型フィラメントでも構わない。
【0030】
水不溶性担体の形状が粒状の場合、球状、多角球状等いかなる形状であっても有用に用いられる。また表面は平滑であっても、凹凸があってもKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去できる表面であれば有用に用いられる。また、粒径は、50μm以上10mm以下が好ましい。粒径は50μm未満であると粒子の流出防止が困難になる傾向にあるので好ましくない。粒径が10mmより大きい場合十分な表面積が得られなくなる傾向にあるので好ましくない。粒径は、好ましくは、80μm以上8mm以下、最も好ましくは100μm以上6mm以下である。
【0031】
本発明で用いることのできる水不溶性担体の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリオキシエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリルニトリル、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスチレン及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル誘導体を重合して得られる高分子化合物、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアクリル酸エステル誘導体を重合して得られる高分子化合物、ポリトリフルオロクロルエチレン、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート等の合成高分子、セルロース及び/又はその誘導体等の再生繊維などが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、上記材質をブレンド、アロイ化して用いてもよい。好ましくは、繊維の成形性や活性基の導入しやすさの点より、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレンブタジエン共重合体等のポリスチレン等が挙げられる。特に、溶出物の少ない点でポリエチレン、ポリプロピレンが推奨される。また、これらに親水性を付与する目的で表面をコーティング、放射線グラフト等の方法により親水性高分子材料で修飾した材料も有用に用いられる。
【0032】
本発明のペプチドを水不溶性担体の表面に存在させる方法は、共有結合、イオン結合、物理的吸着、包埋あるいは担体表面への沈殿不溶化などあらゆる公知の方法を用いることができるが、リガンドの溶出性よりみて、共有結合により固定、不溶化して用いることが好ましい。そのため通常固定化酵素、アフィニティークロマトフラフィーで用いられる公知の担体への活性基導入法が良好に用いられる。例を挙げると、カルボキシル基を有する担体を用い、このカルボキシル基をN−ヒドロキシコハク酸イミドと反応させることによって、スクシンイミドオキシカルボニル基に変換し、これにペプチドをアミノ基の部分で反応させる方法(活性エステル法)、アミノ基またはカルボキシル基を有する担体を用い、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合試薬の存在下で、担体のアミノ基またはカルボキシル基とペプチドのカルボキシル基またはアミノ基を縮合反応させて結合させる方法(縮合法)、担体とペプチドとをグルタルアルデヒドなどの2個以上の官能基を有する化合物を用いて架橋させて結合させる方法(担体架橋法)、水酸基を有する担体を用い、臭化シアンなどのハロゲン化シアンを担体に作用させ、ペプチドやタンパク質のアミノ基の部分で反応させて結合させる方法、チオール基を有する担体を用い、ペプチドやタンパク質のチオール基の部分で反応させる方法、およびエピクロロヒドリンなどのエポキシドを担体に作用させ、ペプチドのアミノ基の部分や水酸基の部分で反応させて結合させる方法、N−ヒドロキシメチルハロアセトアミド等を用いて担体表面にα−アセトアミノハロゲン基を導入しペプチドやタンパクのチオール基の部分で反応させる方法、γ線や電子線を照射してラジカルを発生させた水不溶性担体にメタクリル酸グリシジルなどのビニル化合物をグラフト重合してエポキシ基を導入しペプチドやタンパクのアミノ基やチオール基の部分で反応させる方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また水不溶性担体上に直接ペプチドを合成する方法として、水不溶性担体上に保護基を外す条件においても切断されない結合性の基を付加し、上記水不溶性担体上でペプチドを下記のペプチドの固相合成法で合成し、保護基が付加されている全ての官能基から保護基を除去することにより得る方法が挙げられる。
【0033】
水不溶性担体へのペプチドの固定量は、特に限定されないが、ペプチドの機能を有効に発現するためには、水不溶性担体の表面積当たり0.01nmol/m2以上100μmol/m2以下が好ましく、より好ましくは0.1nmol/m2以上10μmol/m2以下であり、更に好ましくは1.0nmol/m2以上1.0μmol/m2以下である。
【0034】
本発明において、KLRG1陽性免疫細胞の種類は特に限定されないが、KLRG1陽性NK細胞、KLRG1陽性T細胞などが挙げられる。
【0035】
本発明において、KLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液が血液である場合、血液の抗凝固目的で抗凝固剤を血液中に加えることができる。抗凝固剤を例示すると、抗凝固活性を有する化合物であれば、特に限定されないが、ヘパリン、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキセート、アルガトロバン、クエン酸ナトリウム等が好適例として挙げられ、好ましくはヘパリンあるいはクエン酸ナトリウムが良好に用いられる。
【0036】
ペプチドの合成は、ペプチド合成において通常用いられる方法、例えば、固相法または液相法により行われるが、固相法により行う方が、操作が簡便であるため好ましい。合成したペプチドは、さらに精製することにより、純度の高いものを得ることができる。ペプチドの精製は有機化合物の精製に一般的に用いられている方法が使用できる。特にカラムクロマトグラフィーによる精製は、効率良く精製を行えるので好ましい。また、スペーサーの導入は公知の合成法で行うことができ、例えば固相法によるペプチド合成においてアミノ基とカルボキシル基を有するスペーサー分子をアミノ酸と同様に導入してもよいし、液相法で導入してもよい。
【0037】
本発明の分離材は、以上述べてきたように、血液、体液、細胞培養液、及びこれらの処理液などのKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液から、抗体やタンパクの様に高価なリガンドを必要としないにもかかわらず選択的にKLRG1陽性免疫細胞を分離することができることから、少なくとも入口と出口を有する容器に充填して細胞選択除去を目的とする体外循環用KLRG1陽性免疫細胞分離器として有効に用いることができる。
【0038】
本発明のKLRG1陽性免疫細胞分離材は、例えば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減ずる工程(a)と、該生体に、前記上皮性癌細胞で発現する前記癌特異的膜抗原に対する抗体であって抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を投与する工程(b)とを含む、前記上皮性癌の生体を処置する方法において、上記工程(a)において用いることができる。上記工程(a)においては、好ましくは、生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞分離器である本発明のKLRG1陽性免疫細胞分離材に通し、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に減ずることができる。上記の上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原は、好ましくはHER2であり、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体は、好ましくはトラスツズマブである。
【0039】
その他、別の態様として、患者体内から取り出した免疫細胞を細胞培養処理により増殖させ、該免疫細胞を本発明の分離材と接触させ、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する。その後、KLRG1陽性免疫細胞が選択的に除去された被処理液を前記患者に再び戻すことができる。
【0040】
また本発明のペプチドはKLRG1陽性免疫細胞に親和性を有することから、例えば、FITCなどの蛍光物質を導入し、KLRG1陽性免疫細胞を標識して、フローサイトメーターを用いたKLRG1陽性免疫細胞の検出、分析用に用いたり、またはマイクロプレートに固定して、抗体やタンパクに代わるELISA法としてKLRG1またはKLRG1陽性免疫細胞の検出、分析用に有効に用いることができる。また、これらペプチドをKLRG1陽性免疫細胞が関与している疾患に対する医薬品及び医薬品のキャリヤー物質としても有効に用いることが期待できる。例えば、KLRG1陽性免疫細胞中のKLRG1とKLRG1に対するリガンド(例えば、E−カドヘリン)との結合を阻害し、KLRG1を介した抑制性シグナルを遮断することができる。したがって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体と、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞と単核球を含む細胞集団とを接触させても、従来は上皮性癌細胞に対する細胞障害活性が発揮されなかった場合においても、十分な細胞障害活性を得ることが期待できる。
【0041】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
<水不溶性担体の作製>
ポリプロピレン製不織布(以下PP不織布と略す、TAPYRUS社製 P080HW−00F、目付80g/m2、平均繊維径5.1μm)0.158m2(面積)を脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて100kGyのγ線を照射した。グリシジルメタクリレート(GMA)50mLを450mLのメタノールに溶解し、40℃にて60分間窒素を通気して脱酸素処理を行った。耐圧ガラス容器に上記の不織布をすばやく入れ、減圧後、上記の溶液を引き込み40℃にて15分反応させた。反応後、取り出した不織布をジメチルホルムアミド及びメタノールにより洗浄し、35℃にて1晩真空乾燥することで、GMAがグラフト重合されたPP不織布(以下、GMA不織布と略す)を得た。γ線照射前からの重量増加より算出されるグラフト率は99%であった。ここでグラフト率(%)は以下の式で示される値である。
グラフト率(%)=[(グラフト後不織布重量−グラフト前不織布重量)/(グラフト前不織布重量)]×100
【0043】
次に、上記GMA不織布の10gを、エタノールに浸漬し、続いて注射用水にて洗浄することで親水化処理した後、25wt%アンモニア水の200mlに浸漬し、25℃で4時間静置した。反応後、取り出した不織布を注射用水にて洗浄水が中性となるまで洗浄を行い、35℃にて1晩真空乾燥することで、アミノ化されたGMA不織布(以下、GMA(NH3)不織布と略す)を得た。
【0044】
次に、GMA(NH3)不織布1.0gを、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX−821、n=4、以下EX−821と略す)12mlに浸漬し、反応容器全体をゆるやかに振とうしながら25℃で22時間保った。その後、取り出した不織布を注射用水で10回洗浄を行い、40℃にて1晩真空乾燥することで、GMA(NH3)不織布にEX−821を導入した不織布(以下、EX−821不織布と略す)を得た。
【0045】
<ペプチドの作製>
表1に記載のペプチドをFmoc固相法により合成した。p-alkoxybenzyl alcohol樹脂を担体としてペプチド鎖を伸長した。N末端にビオチンを修飾したペプチド(ペプチド1、7)は、ペプチド鎖伸長後、N末端のFmocを脱保護した後、D(+)-ビオチンをペプチド鎖の伸長と同様にN末端に結合した。リシンの側鎖にビオチンを修飾したペプチド(ペプチド2、8)は、Fmoc-Lys(biotin)-OHを用いてペプチド伸長した。N末端をアセチル化したペプチド(ペプチド3、4,5、6、9、10)は、ペプチド鎖伸長後、N末端のFmocを脱保護した後、無水酢酸と反応させ、アセチル化した。N末端未修飾のペプチド(ペプチド2、8)はN末端のFmocを脱保護した。ペプチド6は、スペーサーとしてFmoc−(保護)アミノ酸の代わりに8-(Fmoc-amino)-3,6-dioxaoctanoic acid(Peptides International,Inc.社製、Fmoc−mini−PEG)を用い、繰り返し3回伸長し導入した。次に、脱樹脂、脱保護を行い粗ペプチドを得た後、逆相高速液体クロマトグラフィーで精製を行い、得られた精製ペプチドはMALDI TOF−MSにより分子量を確認し、同定した。
【0046】
【表1】

【0047】
<細胞分離材の作製>
上記で得られたEX−821不織布を直径0.68cmの円に切断したもの8枚を、エタノールに浸漬し、続いてカルシウム、マグネシウムを含まないリン酸緩衝液(以下、PBS(−)と略す)にて洗浄することで親水化処理した。また表1に記載のペプチドをPBS(−)に溶解し200nmol/mLのペプチド溶液を調製した。親水化処理した8枚のEX−821不織布をペプチド溶液0.8mlに浸漬し、37℃で40時間静置し、ペプチドを固定した不織布(以下、ペプチド固定不織布と略す)を得た。次にペプチド固定不織布をPBS(−)で洗浄後、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/PBS(−)溶液0.8mlに浸漬し、常温で2.5時間静置した後、PBS(−)で洗浄し、細胞分離材を得た。
【0048】
<細胞分離器の作製>
入口と出口を有する容積約1mlの容器に、上記細胞分離材4枚と充填液としてPBS(−)とを充填して、細胞分離器を得た。
【0049】
実施例1〜6、比較例1〜4
<KLRG1陽性NK細胞の選択的除去性能評価>
細胞分離器のカラム入口からシリンジポンプを用いて生理食塩液4mlを流速1.0ml/minで通液し、プライミングした。続いて、抗凝固剤としてACD−A(acid citrate dextrose solution−A)液を添加したヒト新鮮血液2.0ml(血液:ACD−A液=8:1)を、細胞分離器のカラム入口から流速0.2ml/minで通液し、カラム出口から処理後の血液を回収した。
【0050】
細胞分離器で処理した前後の血液中のリンパ球数をミクロセルカウンター(シスメックス(株)社製、XT−1800i)を用いて測定した。またそれらの血液を各々PBS(−)で1:1に希釈したものをFicoll−Paque PLUS(GE Healthcare社製)の上に重層し、400×gで30分間遠心して単核球浮遊液を採取した。この単核球浮遊液を、直接または間接的に蛍光標識した抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD56抗体、抗ヒトKLRG1抗体を用いて染色し、フローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製、FACS CantoII)を用いてリンパ球中のNK細胞数、NK細胞のKLRG1陽性率を測定した。
【0051】
細胞分離器で処理した前後の血液中のNK細胞数、NK細胞のKLRG1陽性率から、KLRG1陽性NK細胞除去率とKLRG1陰性NK細胞除去率を算出し、その比(=KLRG1陽性NK細胞除去率/KLRG1陰性NK細胞除去率)からKLRG1陽性NK細胞の選択的除去性能を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
参考例1
水不溶性担体をEX−821不織布の代わりにGMA不織布を用い、またペプチドの代わりにリコンビナントヒトE−カドヘリン(R&D Systems Inc.社製、Recombinant Human E−Cadherin/Fc Chimera)を水不溶性担体に固定した以外は実施例1と同様に、細胞分離材のKLRG1陽性NK細胞の選択的除去性能を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例7及び8、比較例5及び6
<KLRG1陽性リンパ球およびKLRG1陰性リンパ球へのペプチド結合性能評価>
抗凝固剤としてACD−A液を添加したヒト新鮮血液から、上記方法を用いて単核球浮遊液を作製した。またFcレセプターブロッキング剤(MBL社製、ClearBack(Human Fc receptor blocking reagent))を用いて単核球浮遊液をFcレセプターのブロッキング処理をした。
【0055】
単核球浮遊液を1次抗体としてマウス抗ヒトKLRG1ポリクローナル抗体(Abnova Coporation社製、KLRG1 purified MaxPab mouse polyclonal antibody(B01P))と2次抗体としてFITC標識ヤギ抗マウスIgG(γ鎖)抗体(Southern Biotech社製)を用いて染色し、KLRG1陽性リンパ球とKLRG1陰性リンパ球を識別した。続いて表3のbiotin標識ペプチドと反応後、PE Streptavidin(BD Biosciences社製)で標識し、フローサイトメーターを用いてKLRG1陽性リンパ球へのペプチド陽性率およびKLRG1陰性リンパ球へのペプチド陽性率を評価した。結果を表3に示す。
【0056】
なお、本評価系を確認するために、biotin標識ペプチドの代わりにヒトKLRG1に対して交差反応するハムスター抗マウスKLRG1モノクローナル抗体(eBioscience社製、Biotin anti−mouse KLRG1/MAFA)を使用し、同様にKLRG1陽性リンパ球およびKLRG1陰性リンパ球へのKLRG1モノクローナル抗体結合性能を評価した。結果、KLRG1陽性リンパ球へのKLRG1モノクローナル抗体の陽性率は96.5%、KLRG1陰性リンパ球へのKLRG1モノクローナル抗体の陽性率は4.2%であり、本評価系を用いることでKLRG1陽性リンパ球およびKLRG1陰性リンパ球へのペプチド結合性能が評価できることを確認した。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下のペプチドが固定されている水不溶性担体からなる、KLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドは、そのC末端側に水不溶性担体に固定するための活性アミノ酸残基が付加されている、請求項1に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項3】
前記活性アミノ酸残基がLysである、請求項2に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項4】
配列番号1のペプチドは、スペーサーを介して前記水不溶性担体に固定されている、請求項1に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項5】
前記スペーサーは、前記水不溶性担体との結合末端側に活性アミノ酸残基が付加されている、請求項4に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項6】
前記活性アミノ酸残基がLysである、請求項4または5に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項7】
前記水不溶性担体が織布もしくは不織布である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項8】
前記構成アミノ酸残基の総数が50個以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項9】
前記構成アミノ酸残基の総数が40個以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項10】
前記構成アミノ酸残基の総数が30個以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項11】
Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドがスペーサーを介して前記水不溶性担体に固定されている、KLRG1陽性免疫細胞分離材。
【請求項12】
Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下である、KLRG1陽性免疫細胞親和性ペプチド。
【請求項13】
配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にLysを有する、請求項12に記載のKLRG1陽性免疫細胞親和性ペプチド。
【請求項14】
Asp−Trp−Val−Ile−Pro−Pro−Ile−Ser−Cys−Pro−Glu−Asn(配列番号1)のアミノ酸配列を含み、かつ構成アミノ酸残基の総数が80個以下であるペプチドを含む、KLRG1陽性免疫細胞分離剤。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のKLRG1陽性免疫細胞分離材にKLRG1陽性免疫細胞を含有する溶液を接触させることを含む、KLRG1陽性免疫細胞を分離する方法。

【公開番号】特開2012−77006(P2012−77006A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220872(P2010−220872)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】