説明

KVM切替器、および切替時のUSB入力装置接続維持方法

【課題】複数のコンピュータと、これらのコンピュータに共用されるUSB入力装置との間に配置され、USB入力装置と一のコンピュータとを操作可能なように接続させるKVM切替器、及びその結果操作対象から外れたコンピュータとUSB入力装置との接続をなお維持し続ける方法を提供する。
【解決手段】KVM切替器1は、USB入力装置3,5をいずれか一のコンピュータ6に接続を切り替えるための切替スイッチ部10と、接続維持部11とから構成される。接続維持部11は、コンピュータ6とUSB入力装置3,5間のパケットを常時監視し、USBアドレスやコンフィグ情報などの初期化情報を記憶部12に保持する。切替操作が発生すると接続維持部11は、接続対象となったコンピュータ6の初期化情報を記憶部12から取り出してUSB入力装置3、5を再初期化させる一方、非接続となった別のコンピュータ6に対してNAKを自動応答する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
キーボードとマウスから成る一組のUSB対応の入力装置(以下、「USB入力装置」)と複数のコンピュータとの間に配置され、USB入力装置と一台のコンピュータとを操作可能なように接続させるKVM切替器、及びその結果操作対象から外れたコンピュータとUSB入力装置との接続を維持し続ける方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
KVM(Keyboard/Video/Mouse)切替器、すなわち、2台以上のコンピュータを接続し、これらのコンピュータで共用される一組のコンソールデバイス(ディスプレイ及びUSB入力装置であるキーボードとマウス)を2台以上のコンピュータのいずれかに切替えて用いる技術は公知である。ここで、USB(Universal Serial Bus)とは、通信アーキテクチャの一種であり、このアーキテクチャによりコンピュータは種々のデバイスを簡単なケーブルを使用して相互接続する機能を有することができる。USB入力装置を、電源が入った状態のコンピュータに接続(ホットプラグ)したり、コンピュータから外したり(ホットアンプラグ)することができる。
ところが、コンピュータの電源を入れたままUSB入力装置を切替えた際、次のような問題があった。
先ず、非接続状態から接続状態に変化したコンピュータの場合、このコンピュータではUSB入力装置の認識動作が行われ、当該装置の再度の初期化処理を始める。一方、接続状態から非接続状態に変化したコンピュータではUSBバスの切り離しが行われる。どちらも上記の認識・切り離しに伴う動作のために数秒から数十秒の時間を要し、この間コンピュータの操作ができなくなる、という問題である。特に、接続されたUSB入力装置が低速な応答をする場合、コンピュータ側はその都度待たなくてはならない。
以下に挙げる特許文献1に記載の発明は、このような切替時に発生する問題を解決することを目的としている。
【0003】
特許文献1に記載された発明「コンソールデバイス及び周辺デバイスの信号スイッチ」は、切替器内部のCPUにコンピュータのエミュレーション機能を持たせ、それによって複数のコンピュータに対するリクエストの制御と振り分けを行い、その結果スイッチ切替時の周辺機器へのデータフローをスムーズに進行させることを狙いとしている。
【0004】
念のため、この従来の信号スイッチの主な構成を図5に従い簡単に説明する。
図5の信号スイッチ100を利用して複数のコンピュータ101(101A,101B)を、キーボード102及びマウス103によって制御することができる。
信号スイッチ100はCPU104を備えている。USBハブスイッチモジュール105をCPU104に接続し、第1出力ポート106を通して複数のコンピュータ101と通信が可能となるように構成する。CPU104はメモリを備え、このメモリに管理プログラムを記憶して信号スイッチ100の動作を管理する。信号制御用のUSBデバイス制御モジュール107はCPU104及びUSBハブスイッチモジュール105に接続される。USBデバイス制御モジュール107はUSBデバイスチップを備え、これらのチップを使用してキーボード102及びマウス103のようなコンソールデバイスをエミュレートして第1出力ポート106に接続する。例えば、コンソールデバイスをコンピュータ101Aから異なるコンピュータ101Bへ切替える場合において、コンソールデバイス102,103をエミュレートさせる。その結果、コンピュータ101Aとそれに接続される周辺機器との間の全てのチャネルをそのまま維持し、そのようなチャネルのデータフローが妨害されず、そしてコンピュータ101Aは実際にはエミュレートされているコンソールデバイスが依然として実際に接続されているかのように処理を続行することができる。これらのデバイスチップはCPU104により制御される。
USB主制御モジュール108は、第2出力ポート109を通してコンソールデバイス102,103と通信するように構成され、CPU104に接続される。
つまりこの発明では、複数のコンピュータからの周辺機器に対するリクエストの制御と振り分けを、切替器内部のCPUにエミュレートさせている点に特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−509947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明は、エミュレーションによって切替時に発生する問題を解決しようとしている。しかしながらこの発明では、接続するUSB入力装置が、専用のドライバが必要な多機能マウスや多機能キーボードの場合、CPU104のプログラムが想定していない拡張された機能をコンピュータへ伝えることができないという問題がある。
この問題は、CPUを介さずにUSB入力装置からの入力は、直接コンピュータ側のUSBハブに送信されるように構成することで回避できる。
本発明は、かかる観点から、切替発生時に必要な処理を、迅速かつ円滑に実行するとともに、キーボードやマウスの拡張機能にも柔軟に対応できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
複数のコンピュータと、これらのコンピュータに共用されるUSB入力装置との間に配置され、前記複数のコンピュータのうち操作対象となる1台のコンピュータと前記入力装置との接続を切替えるKVM切替器であって、
該KVM切替器は切替スイッチ部と接続維持部と記憶部を備え、
前記切替スイッチ部は、
ユーザによって切替のために操作される切替操作ボタンと、共用されるUSB入力装置の信号線に接続する選択スイッチと、各コンピュータに1対1に対応するUSBハブと、各コンピュータに1対1に対応し前記USBハブの一のポートに接続するMPU(Micro Processing Unit)とを含み、
前記接続維持部は、
前記USB入力装置と接続されている一のコンピュータと前記USB入力装置との間で送受信されるパケットを常時監視するUSB監視モジュールと、
前記パケットに含まれる所定の初期化情報を前記記憶部に保持させたり、前記記憶部から初期化情報を取り出したりする記憶部制御モジュールと、
前記の各コンピュータからの問い合わせに応答する自動応答モジュールと、
切替操作の発生により前記USB入力装置との接続対象となったコンピュータの初期化情報を前記記憶部から取り出して前記USB入力装置を再初期化させる一方、非接続となったコンピュータに対して前記自動応答モジュールにNAK応答をさせる接続維持制御モジュールとを含み、
前記複数のコンピュータのいずれか一に対応するMPUは、前記切替操作ボタン及び前記選択スイッチと接続し、前記切替操作ボタンによる切替操作を検知すると前記接続維持部の動作を制御するとともに前記選択スイッチを切替えることを特徴とする。
【0008】
これにより、非接続から接続状態となった選択側コンピュータは実際のUSB入力装置との通信によって初期化情報を取得する代わりに、一時保存してあった過去の初期化情報を読み出してUSB入力装置を再初期化するだけでよいので短時間に再初期化が終了する。一方、接続から非接続状態となった非選択側コンピュータにはNAK応答が自動的に返され、切り離しの動作を要しない。このように、選択側コンピュータの操作性を損なうことなく、非選択側コンピュータの動作にも影響することなく、迅速かつ円滑に切替が行われる。
【0009】
「USB入力装置」は、下記の実施形態では、USB接続のキーボード(以下、「USBキーボード」)とUSB接続のマウス(以下、「USBマウス」)が該当する。
「記憶部」として、下記の実施形態では読み込み・書き込みが可能なスタティックRAM(Random Access Memory)が用いられている。
「切替操作ボタン」は、ユーザが手動で切替操作ができる手段であれば、ボタンでもスイッチでも何でもよい。MPUはこの切替操作ボタンが操作されたことを検出すると選択スイッチを切替える。
「信号線」とは、USBバスの信号線である。USBバスには、他に電源線も含まれる。
「選択スイッチ」は、MPUの制御によって切替わるソフトウェアスイッチであり、下記の実施形態では、USBキーボード用選択スイッチとUSBマウス用選択スイッチとがある。
「初期化情報」とは、コンピュータに接続されているUSB入力装置に割り付けられているUSBアドレスや設定項目(configuration、以下「コンフィグ情報」)であり、コンピュータの最初の認識時に設定され、切替時の再初期化の際に参照され使用される。
【0010】
前記接続維持部は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)で構成されることが好ましい。FPGAは、製造後に構成の設定が可能な集積回路なので、開発時の改修が容易であり、出荷後にも更新が可能であるといった利点があるからである。
前記MPUは、所定の入力装置の操作、あるいは該MPUと1対1に対応しているコンピュータに実装されている専用プログラム及び所定の入力装置の操作の組合せによって、切替操作が発生したとみなしてもよい。これは、いわゆるホットキー機能であり、ユーザによって切替操作ボタンが操作されたのと同じ効果を生ずる。
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項4に係る方法の発明は、
請求項1に記載のKVM切替器を利用して、コンピュータとUSB入力装置との切替発生により操作対象から外れたコンピュータとUSB入力装置との接続を維持し続けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
切替時の動作が迅速かつ円滑に行われるので、選択側コンピュータの操作性は損なわれず、非選択側コンピュータの動作にも影響がでない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態のKVM切替器を含むシステムの構成図である。
【図2】本発明の実施形態のKVM切替器の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態のKVM切替器のUSB監視モジュールによるUSBパケットを常時監視する処理のフロー図である。
【図4】本発明の実施形態のKVM切替器による切替処理のフロー図である。
【図5】従来のKVM切替器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のKVM切替器の一実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示すようにKVM切替器1は、USBバス2を介して1個のUSBキーボード3と、USBバス4を介して1個のUSBマウス5と接続している。
KVM切替器1は、2台のコンピュータ6A,6B(以下、任意のいずれかのコンピュータを指すとき、代表する番号として「6」と表記する)とそれぞれUSBバス7A,7Bを介して接続している。
KVM切替器1は、切替操作ボタン8と2個のLED9も備える。
LED9Aは、切替操作ボタン8によってコンピュータ6Aが選択されたときに点灯し、LED9Bは、コンピュータ6Bが選択されたときに点灯する。
【0015】
KVM切替器1は、ユーザによる切替操作ボタン8の切替操作に応じて、USBキーボード3またはUSBマウス5に接続されるコンピュータを、コンピュータ6Aとコンピュータ6Bのいずれかから選択し、選択したコンピュータに接続を切り換えることによって各1個のUSBキーボード3とUSBマウス5を共用させる。
コンピュータ6AがKVM切替器1によって選択されているならば、USBキーボード3から入力されたデータ(a)や,USBマウス5から入力されたデータ(b)は、そのままコンピュータ6Aに入力される(矢印はデータの流れを表わす)。したがって、USBキーボード3やUSBマウス5が、選択されたコンピュータ6Aの入力装置としてコンピュータ6Aを操作することができる。
【0016】
図2を参照しながら、KVM切替器1の機能ブロックについて説明する。KVM切替器1は、切替スイッチ部10と接続維持部11と記憶部12を備えている。
切替スイッチ部10は、コンピュータ6とUSBキーボード3とUSBマウス5とに接続している。この切替スイッチ部10は、単独でKVM切替器1としての最小限の機能を果たすことができる。しかし、円滑で効率の良い切替を実現するために、本発明のKVM切替器1は接続維持部11を備えることとしたのであるが、このことについて以下に説明する。なお、接続維持部11は切替スイッチ部10及び記憶部12と接続している。
【0017】
切替スイッチ部10は、切替操作ボタン8およびLED9を含むとともに、コンピュータ6A,6Bのそれぞれに対応するUSBハブ13A,13BとUSBキーボード用選択スイッチ14と、USBマウス用選択スイッチ15を含む。
各USBハブ13の一のポートには1個のMPU16(16A,16B)が接続されている。本発明で使用するMPUは、USBポートに接続するだけで利用可能となるUSB対応マイコンであり、MPU16は、コンピュータ1台につき1個接続し、擬似キーボード・マウスとして動作する。つまり、コンピュータ6がUSBキーボード3やUSBマウス5と非選択の状態のとき、コンピュータ起動時におけるキーボードやマウスの接続確認動作でエラーを発生させないために、MPU16は擬似キーボード・マウスとして動作する。
【0018】
図2ではUSBキーボード用選択スイッチ14とUSBマウス用選択スイッチ15によってコンピュータ6Aが選択されている。そのため、USBキーボード3からデータが入力されると、USBバス2の信号線、USBキーボード用選択スイッチ14、USBハブ13AのポートP1、USBバス7Aの信号線を介して、USBキーボード3から入力されたのと同じデータがコンピュータ6Aに入力される。同様にUSBマウス5から入力されたのと同じデータがコンピュータ6Aに入力される。
このように、本発明のKVM切替器1を利用すると、USBキーボード3あるいはUSBマウス5から入力されたデータはコンピュータ6のUSBハブ13に直接送信され、コンピュータ6に入力される。この点で本発明のKVM切替器1は、図5に示す従来の切替器100において、内部のCPU104が、入力デバイスとコンピュータとの間に介在しているのと相違する。
【0019】
図2に示すようにUSBキーボード3とUSBマウス5の接続対象としてコンピュータ6Aが選択されている状態で、選択スイッチ14,15が切替わると、コンピュータ6Bが選択されてUSBキーボード3やUSBマウス5から入力されたデータがコンピュータ6Bに入力される。
もし、KVM切替器1が切替スイッチ部10のみから構成されるならば、選択スイッチ14,15の切替時に選択された側のコンピュータ6BではUSBのホットプラグが発生する。このときコンピュータ6BではUSBキーボード3やUSBマウス5の認識動作が行われ、非選択側のコンピュータ6AではUSBのホットアンプラグが発生しUSBバスの切離しが行われる。この認識動作及び切離し動作が行われている数秒から数十秒の間コンピュータの操作ができない状態となる。この状態を回避するのが、次に説明する接続維持部11の役割である。
切替操作ボタン8を含む切替スイッチ部10と、接続維持部11との連携動作を制御するのがMPU16である。接続維持部11はSPI(Serial Peripheral Interface)、すなわちコンピュータ内部の複数のデバイスを4本または3本の信号線で接続するシリアルバスの規格を採用している。SPIでは、一のデバイスをマスターとし他の1個以上のデバイスをスレーブとして、マスターからの要求に応じてスレーブが動作する。この実装形態ではMPU16がマスターデバイスに対応(この実施の形態ではMPU16が2個あるので、SPIは2系統有り)し、接続維持部11がスレーブデバイスに対応する。MPU16AとMPU16Bとの間で情報の授受が必要となるときは、接続維持部11を介して行う。
【0020】
接続維持部11は、USB監視モジュール17と、接続維持制御モジュール18と、記憶部制御モジュール19と、各コンピュータ6と1対1に対応する自動応答モジュール20A,20Bを備える。
【0021】
USB監視モジュール17は、コンピュータ6とUSBキーボード3やUSBマウス5間のパケットを常時監視し、それらのパケットを解釈して、そのパケットが設定(set)リクエストであれば初期化情報を抽出する。この初期化情報は、記憶部12に保存しておき、切替によって選択されたコンピュータによる再初期化の処理の際に記憶部12から読み出して用いられる。
【0022】
接続維持制御モジュール18はMPU16のスレーブとして、MPU16のリクエストに応じて、USB監視モジュール17、記憶部制御モジュール19、自動応答モジュール20を制御する機能を有する。
【0023】
記憶部制御モジュール19は、USB監視モジュール17によって抽出された初期化情報を記憶部12へ書き込む。また、記憶部制御モジュール19は、接続維持制御モジュール18がUSB監視モジュール17を通して再初期化を行う際、必要となる初期化情報を記憶部12から抽出する。
なお、記憶部12は書き込みと読み出し可能であり、高速なスタティックRAMで実装されることが適当である。
【0024】
自動応答モジュール20は、MPU16のリクエストを受けた接続維持制御モジュール18によって制御され、対応するコンピュータ6が切替によって非選択になったならばNAK(Negative AcKnowledge)応答を行う。NAKとは、情報通信における制御コードの一つで、一般には、“処理中で応答できない”等の要求が受け付けられなかったことを示すメッセージである。本発明では、コンピュータ6が接続されていないUSB入力装置にアクセスしようとしたとき、当該コンピュータ6に対応した自動応答モジュール20がNAKを返すことによって、当該コンピュータ6にUSB入力装置が切り離されたと認識動作をさせないようにする。
【0025】
次に、KVM切替器1を含むシステムの動作を次の2つのステップに分けて説明する。
〔1〕コンピュータ6Aに電源が投入された後、最初にUSBキーボード3とUSBマウス5が接続された場合の動作、
〔2〕切替操作ボタン8が切替わり、USBキーボード3とUSBマウス5の接続対象がコンピュータ6Aからコンピュータ6Bに変更された場合の動作、
【0026】
まず、「〔1〕コンピュータ6Aに電源が投入された後、最初にUSBキーボード3とUSBマウス5が接続された場合の動作」について説明する。
USB接続の周辺装置がコンピュータ6Aに接続されると、コンピュータ6AのBIOSは、USBハブ13Aのポートに接続されている装置の有無を調べ、接続された装置があれば、コンピュータ6Aは当該装置へ問い合わせ、それに対する応答により装置種別を識別する。
接続されている装置がUSBキーボード3またはUSBマウス5であると判断される場合、コンピュータ6Aは、初期化を行う。つまり、当該装置にUSBアドレスを割り付け、当該装置のコンフィグ情報を設定する。これにより、コンピュータ6Aにとって当該装置は使用可能な状態となる。これらのUSBアドレスやコンフィグ情報などの初期化情報はKVM切替器1の記憶部12にも保存されるが、この処理について図3を参照しながら説明する。
USB監視モジュール17は、USBバス2(4)の信号線を流れるコンピュータ6とUSBキーボード3(USBマウス5)間のパケットを常時監視している(ステップS1)。パケットが“Set Address”リクエストであれば(ステップS2で“Yes”),記憶部制御モジュール19が設定されたUSBアドレス(USBキーボード3のアドレス、あるいはUSBマウス5のアドレス)を記憶部12に書き込む(ステップS3)。
パケットが“Set Config”リクエストであれば(ステップS4で“Yes”),記憶部制御モジュール19が設定されたコンフィグ情報を記憶部12に書き込む(ステップS3)。コンフィグ情報には、USBキーボード3(USBマウス5)のスピード情報、すなわちロー・スピード(LS)かフル・スピード(FS)、も含まれる。
パケットが“Set Report”リクエストであれば(ステップS5で“Yes”),USBキーボード3のNumLock−LEDやCapsLock−LEDなどの点灯情報を記憶部制御モジュール19が記憶部12に書き込む(ステップS3)。
記憶部12には、コンピュータ6のそれぞれ毎にUSB監視モジュール17によって受信された順に情報が書き込まれる。なお、USB監視モジュール17による情報の受信と送信はいずれも先入先出で行われる。
もし、コンピュータ6Aが電源投入時にUSBキーボード3(USBマウス5)と接続していないときは、MPU16Aが擬似キーボード・マウスとして動作する。これはコンピュータ6AのBIOSがキーボードやマウスの接続確認時にエラーを発生させないためである。
【0027】
次に、「〔2〕切替操作ボタン8が切替わり、USBキーボード3とUSBマウス5の接続対象がコンピュータ6Aからコンピュータ6Bに変更された場合の動作」について図4を参照しながら説明する。
ここで、コンピュータ6Bについても〔1〕と同様の処理によって、すでにUSBキーボード3とUSBマウス5の初期化が済み、初期化情報が記憶部12に保存されているものとする。
【0028】
切替操作ボタン8の操作によって切替が発生した場合(ステップS11で“Yes”)、切替操作ボタン8と接続しているMPU16Aは切替発生を検知し、接続維持制御モジュール18にコンピュータ6Aから6Bに接続対象が変わったことを通知する。ここでMPU16Aは、LED9Aを消灯させ、LED9Bを点灯させる。
接続維持制御モジュール18は、選択されたコンピュータ6B用の自動応答モジュール20Bに対して、NAK自動応答の停止を指示する(ステップS12)。
接続維持制御モジュール18は、記憶部12に保持されているUSBスピードに合わせ、自動応答モジュール20A,20B経由で選択側コンピュータ6Bおよび非選択側コンピュータ6AのUSBバス7の信号線(D+/D−)をプルアップする。あわせて、接続維持制御モジュール18は、USB監視モジュール17経由で、USBキーボード3とUSBマウス5のUSBバス(2,4)の信号線(D+/D−)をプルダウンする(ステップS13)。
次にMPU16Aは、選択スイッチ14,15を切り離す(ステップS14)。これにより、コンピュータ6はUSBバス7の信号線(D+/D−)に一時的に何も接続されていないがUSBバス(7,2,4)は有効な状態となる。切替に伴う動作が完了していない間は、USBキーボード3およびUSBマウス5からの信号がコンピュータ6側へ送信されないようにするためである。
【0029】
続いて、接続維持制御モジュール18は記憶部制御モジュール19に記憶部12内のコンピュータ6B側の初期化情報を読み出させ、USB監視モジュール17を通してUSBキーボード3とUSBマウス5を再初期化する(ステップS15)。
これで実際にコンピュータ6BとUSBキーボード3及びUSBマウス5との円滑な接続が可能な状態となったので、MPU16Aは、選択スイッチ14,15をコンピュータ6B側に切替える(ステップS16)。コンピュータ6Bは、USBキーボード3およびUSBマウス5と接続状態になったので、自動応答モジュール20Bはコンピュータ6BのUSBバス7Bの信号線(D+/D−)のプルアップを解除する。あわせて接続維持制御モジュール18はUSB監視モジュール17経由で、USBキーボード3およびUSBマウス5のUSBバス2,4の信号線(D+/D−)のプルダウンを解除する(ステップS17)。
【0030】
接続維持制御モジュール18は非選択側のコンピュータ6Aの自動応答モジュール20AにNAK自動応答の開始を指示する(ステップS18)。
非選択によってUSBキーボード3・USBマウス5と非接続となったコンピュータ6AがUSB問い合わせをしてきた場合の処理は次のようになる。MPU16Aが接続維持制御モジュール18を介して自動応答モジュール20Aに対して、記憶制御モジュール19に記憶部12からのコンピュータ6Aの初期化情報を抽出させる。自動応答モジュール20Aは抽出された初期化情報に含まれるUSBアドレスがコンピュータ6Aから送信されたUSBアドレスと一致したときにコンピュータ6AにNAK応答をする。論理回路(自動応答モジュール)が実際のUSBキーボードやUSBマウスに代わって“代返”をするわけである。この自動応答モジュール20Aの機能により、非選択側のコンピュータ6A側ではUSBキーボード3やUSBマウス5との接続エラーが発生しない。したがって、コンピュータ6Aにおける処理に支障をきたさない。
【0031】
このように、KVM切替器による切替が発生しても、USBキーボード・USBマウスとの接続が選択されたコンピュータおよび非選択となったコンピュータのいずれにおいても、切替に伴う処理(図4のステップS12からS18)は短時間で終了し、ユーザによる操作に支障を与えず、円滑で効率的な切替が可能となる。
【0032】
以上の実施の形態は、あくまでも一例であって、種々の変形が考えられる。
これらの変形の一例として、切替操作ボタン8に代えてMPU16のいわゆるホットキー機能を用いて切替を行う方法がある。コンピュータ6に専用のプログラムを実装しておき、USBキーボード3の特定のキーが操作されたとき、この専用プログラムがMPU16に通知し、MPU16に切替操作ボタン8が操作されたと同様に、MPU16に切替が発生したと認識させるのである。もしUSBキーボード3がコンピュータ6Bと接続している場合、このホットキー機能によってMPU16Bが切替を認識したならば、接続維持制御モジュール18に通知し、接続維持制御モジュール18からMPU16Aに切替が発生したことを通知する。MPU16Aが接続維持部11に対するマスターデバイスとなって、図4に示したような切替に伴う処理が実行される。
また、コンピュータ6に専用のプログラムを実装することにより、特定キーの設定変更、マウス操作によるコンピュータ6の切替、ホットキー機能の有効化/無効化の切替などの機能拡張も可能である。
【0033】
上記の変形例以外にも、例えば、USB監視モジュール17はUSB入力装置毎に分けてもよい。
また、入力装置としてUSBキーボードとUSBマウスに限らず、USB接続のスキャナ、カメラ、タッチスクリーン等も考えられる。
さらに、MPUにプログラムの更新機能を持たせれば、KVM切替器1に追加機能を付与することが容易になる。
【0034】
上記の実施形態では、KVM切替器に接続されているコンピュータは2台であるが、3台以上のコンピュータで1個のUSBキーボード、1個のUSBマウスを共用することも可能である。3台以上のコンピュータで切替可能となるようにKVM切替器1の機能を拡張することは容易なことである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
USB入力装置の切替時にあってもコンピュータの操作に影響を与えず、効率的に切替動作ができるので、使い勝手のよいKVM切替器として、多くの需要が見込めると期待される。

【符号の説明】
【0036】
1:KVM切替器、3:USBキーボード、5:USBマウス、
6(6A,6B):コンピュータ、8:切替操作ボタン、
10:切替スイッチ部、11:接続維持部、12:記憶部、
13(13A,13B):USBハブ、14:USBキーボード用選択スイッチ、
15:USBマウス用選択スイッチ、16(16A,16B):MPU,
17:USB監視モジュール、18:接続維持制御モジュール、
19:記憶部制御モジュール、20(20A,20B):自動応答モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコンピュータと、これらのコンピュータに共用されるUSB入力装置との間に配置され、前記複数のコンピュータのうち操作対象となる1台のコンピュータと前記入力装置との接続を切替えるKVM切替器であって、
該KVM切替器は切替スイッチ部と接続維持部と記憶部を備え、
前記切替スイッチ部は、
ユーザによって切替のために操作される切替操作ボタンと、共用されるUSB入力装置の信号線に接続する選択スイッチと、各コンピュータに1対1に対応するUSBハブと、各コンピュータに1対1に対応しUSBハブの一のポートに接続するMPU(Micro Processing Unit)とを含み、
前記接続維持部は、
前記USB入力装置と接続されている一のコンピュータと前記USB入力装置との間で送受信されるパケットを常時監視するUSB監視モジュールと、
前記パケットに含まれる所定の初期化情報を前記記憶部に保持させたり、前記記憶部から初期化情報を取り出したりする記憶部制御モジュールと、
前記の各コンピュータからの問い合わせに応答する自動応答モジュールと、
切替操作の発生により前記USB入力装置との接続対象となったコンピュータの初期化情報を前記記憶部から取り出して前記USB監視モジュールを通して前記USB入力装置を再初期化させる一方、非接続となったコンピュータに対して前記自動応答モジュールにNAK応答をさせる接続維持制御モジュールとを含み、
前記複数のコンピュータのいずれか一に対応するMPUは、前記切替操作ボタン及び前記選択スイッチと接続し、前記切替操作ボタンによる切替操作を検知すると前記接続維持部の動作を制御するとともに前記選択スイッチを切替える
ことを特徴とするKVM切替器。
【請求項2】
前記接続維持部は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)で構成されることを特徴とする請求項1に記載のKVM切替器。
【請求項3】
前記MPUは、所定の入力装置の操作、あるいは該MPUと1対1に対応しているコンピュータに実装されている専用プログラム及び前記所定の入力装置の操作の組合せによって、切替操作が発生したとみなすことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のKVM切替器。
【請求項4】
複数のコンピュータと、これらのコンピュータに共用されるUSB入力装置との間に配置されたKVM切替器を用いて、前記複数のコンピュータのうち操作対象となる1台のコンピュータと前記USB入力装置との接続を切替える際に、切替の結果操作対象から外れたコンピュータとUSB入力装置との接続を維持し続ける方法であって、
前記KVM切替器は、ユーザによって切替のために操作される切替操作ボタンを含む切替スイッチ部とともに、論理回路から成る接続維持部と、読み込み・書き込みが可能な記憶部を備え、
前記接続維持部に
前記USB入力装置と現在接続されているコンピュータ間で送受信されるパケットを常時監視し、前記パケットを解釈して所定の初期化情報を前記記憶部に保持するステップと、
前記切替操作ボタンによる切替操作の発生時、前記切替スイッチ部から送信される切替発生検知信号により、切替によって前記USB入力装置との接続対象となったコンピュータの初期化情報を前記記憶部から取り出して前記USB入力装置を再初期化するステップと、
前記切替操作により非接続となったコンピュータからの前記USB入力装置に対する問い合わせに対して自動的にNAK応答するステップと、
を実行させることを特徴とする接続切替時のUSB入力装置接続維持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33314(P2013−33314A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167994(P2011−167994)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【特許番号】特許第4906158号(P4906158)
【特許公報発行日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(399105911)ラトックシステム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】