説明

L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸凍結乾燥製剤及び化粧料

【課題】安定なL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の粉末製剤を提供する。
【解決手段】L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸とL−アラニル−L−グルタミンを含有する水溶液の凍結乾燥製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸を化粧料に安定に配合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸は過酸化脂質抑制、コラーゲン形成促進、メラニン形成遅延、免疫機能増強等の作用があり、従来から化粧料等の分野で使われている。しかしながら、アスコルビン酸は、経時安定性が悪く脂溶性も乏しいため、細胞膜を透過しにくく、細胞内への蓄積量が限られ、十分な生理作用が得られない。 L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸であるL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸及びその塩、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウリン酸及びその塩、あるいはL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアリン酸を正常ヒト成人乳房表皮角化細胞に適用した場合、L−アスコルビン酸あるいは前記以外のL−アスコルビン酸の誘導体(L−アスコルビン酸−2−リン酸塩、6−O−ピバロイル−L−アスコルビン酸−3−リン酸、L−アスコルビン酸−2−硫酸塩、2−O−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸−2,6−ジパルミチン酸)を適用した場合と比べて、細胞内へのアスコルビン酸の蓄積量が3.7倍〜20倍以上になることが知られている(特許文献1:特開平10−298174号公報)。しかしながら、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸は、低温時は水への溶解性が低く、また、処方中で徐々に加水分解され、変色、変臭がおきたり、沈殿物が析出したりするため、長期安定性を保つことが困難である。変色、変臭は高温保存において促進され、沈殿物は冷所および高温保存の両方において促成される。L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸の粉末そのものは、冷所保存が必要であり、冷所保存しない場合は、分解が徐々に進行し、特に高温保存で促進され、長期保存できないという欠点がある。
【0003】
凍結乾燥製剤に関しては、リン酸−L−アスコルビルマグネシウムの水溶液を凍結乾燥することにより、水易溶性リン酸−L−アスコルビルマグネシウムを製造する方法(特許文献2:特開平5−208983号公報)、アシル化アスコルビン酸類と界面活性剤の水分散液を凍結乾燥して得られる水易分散性粉末組成物(特許文献3:特開平7−196435号公報)、糖アルコール、親水性界面活性剤、脂肪酸及びそのエステル、高級アルコール、ビタミン類を含有する水中油エマルションを凍結乾燥して得られる水易分散性粉末組成物(特許文献4:特開平10−130124号公報)、リン酸−L−アスコルビルマグネシウムの水溶液を凍結乾燥して得られる水易溶性リン酸−L−アスコルビルマグネシウムを含有する粉体と化粧水からなる二剤タイプの化粧料(特許文献5:特開平10−279423号公報)、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩とサイクロデキストリンの混合溶液を凍結乾燥して得られる水に易溶性の粉末状化粧料添加剤(特許文献6:特開2004−315429号公報)が知られているが、何れも溶解性に主眼が置かれ、アスコルビン酸誘導体の安定性向上を意図したものではない。L−アスコルビン酸−2−リン酸塩と低吸湿性のオリゴ糖と糖アルコールと水溶性高分子の水溶液を凍結乾燥することにより、L−アスコルビン酸−2−リン酸塩を安定化する技術が知られているが(特許文献7:特開2004−149468号公報)、本願発明とはアスコルビン酸誘導体の種類が異なる。
本発明者らはL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸を化粧料に安定に配合する技術開発について鋭意研究を継続しており、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸と二糖類又はデキストリンを含有する凍結乾燥製剤の特許を取得した(特許文献8:特許第4495748号)。この技術により、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸を常温で安定に保存できるようになり、皮膚外用剤としての使用性に優れるものとなったが吸湿すると潮解する傾向にあり、水分透過性の低い容器、例えばガラス容器に保存する必要があった。ガラス容器は一般的に価格が高く、プラスチック容器と比べると細部の加工がしにくいためデザイン性が限られる場合がある。そのため、容器素材を選ばずに種々の容器に保存可能な、安定な製剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−298174号公報
【特許文献2】特開平5−208983号公報
【特許文献3】特開平7−196435号公報
【特許文献4】特開平10−130124号公報
【特許文献5】特開平10−279423号公報
【特許文献6】特開2004−315429号公報
【特許文献7】特開2004−149468号公報
【特許文献8】特許第4495748号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安定なL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の粉末製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸とアラニルグルタミンを含有する水溶液の凍結乾燥製剤。
(2)(1)に記載の凍結乾燥製剤と水性の製剤とからなる皮膚外用剤であって、該凍結乾燥製剤を使用時に該水性の製剤に溶解して使用することを特徴とする皮膚外用剤。
(3)化粧料であることを特徴とする(2)記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0007】
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の安定な凍結乾燥製剤を提供することができた。
本凍結乾燥製剤は粉末状態にて安定しており、溶解性が良好であるので使用時に化粧液などの溶液に溶解して使用することができる。剤型としては、例えば、1回使用量分の粉末を分封し、同様に1回使用量に相当する液状組成に溶解して使用する。
本凍結乾燥製剤は吸湿しても外観や性質が変化しないので、容器素材の水分透過性の許容範囲が広く、容器選択の自由度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩としては、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウリン酸、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ミリスチン酸、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアリン酸、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウリン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ミリスチン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアリン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ラウリン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ミリスチン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸はL−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩またはL−アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム塩を出発原料として合成することができる。例えば、L−アスコルビン酸マグネシウムを室温で濃酸に溶解し、脂肪酸を添加、攪拌後、24時間放置し、反応混合物を氷水に注入し、沈殿物をジエチルエーテルで抽出し、適宜精製して得ることができる。
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩は市販品を購入して使用することができる。市販品としては昭和電工(株)製のアプレシエ(R)(L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム)を購入して使用することができる。
【0009】
本発明に用いるアラニルグルタミンはアラニンのカルボキシル基とグルタミンのアミノ基がペプチド結合したジペプチドであり、次の式(I)の化学構造の化合物である。
【化1】

アラニルグルタミンは化学合成法(特開平6−234715号公報)、酵素法(WO2005/052177号)により製造することができる。
化学合成法としては例えば、L−グルタミンと2−D−クロロプロピオニルクロリドを反応させてN−(2−D−クロロ)プロピオニル−L−グルタミンを合成し、次いで、アンモニア水と反応させてL−アラニル−L−グルタミンを合成する方法が挙げられる。
酵素法としては例えば、ジケトピペラジンからジペプチドを生産する能力を有するミクロバクテリウムルテオラム株の凍結融解菌体懸濁液にアラニンとグルタミンが縮合したジケトピペラジンを混合し、アラニルグルタミンを製造する方法が挙げられる。
アラニルグルタミンは市販品を購入して使用することができる。市販品としては協和発酵バイオ(株)製を購入して使用することができる。
【0010】
本発明の凍結乾燥製剤はL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩とアラニルグルタミンを水に溶解し、凍結乾燥することにより得られる。水溶液中のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩とアラニルグルタミンの重量比は10:1〜1:5が好ましい。さらに好ましくは2:1〜1:2が好ましい。L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の重量がアラニルグルタミンの重量の10倍より大きいと、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の安定性が十分に得られない場合がある。L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の重量がアラニルグルタミンの重量の1/5に満たないと、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の安定性は確保できるが、必要量以上の配合はアラニルグルタミンの価格が高いことから経済的でない。凍結乾燥する水溶液の溶質(L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩とアラニルグルタミン)と水の重量比は1:3〜1:30が好ましい。溶質の重量に対して水の重量が3倍に満たないと、溶質が十分に溶解しない恐れがあり、30倍より大きいと凍結乾燥の効率が悪い。
また、凍結乾燥する水溶液に、本発明の効果を損なわない範囲で、pH調整剤や増粘剤等の溶質を添加することができる。スクロースなどの二糖類やデキストリンと混合して用いることもできる。
凍結乾燥の条件は凍結乾燥する水溶液をバイヤルに充填し、約−60℃〜−40℃で凍結後、真空度を約1〜10パスカル(Pa)にして、約−40℃〜25℃まで昇温しながら、真空乾燥する。
真空乾燥後、窒素充填すると、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸及びその塩の酸化を防ぐので望ましい。
【0011】
本発明の凍結乾燥製剤は、使用時に水性の製剤(水、あるいは化粧水、美容液、ジェル、乳液等の製剤)に溶解して使用する皮膚外用剤とすることができる。また、本発明の凍結乾燥製剤を水分含有量の低い他の化粧品基剤と混合したものを、使用時に水性の製剤(水、あるいは化粧水、美容液、ジェル、乳液等の製剤)に溶解して使用する皮膚外用剤とすることもできる。
本発明の凍結乾燥製剤を溶解する水性の製剤の粘度が低いほど凍結乾燥製剤の溶解性は良く、B型粘度計で1000mPa・s以下が望ましい。粘度の高い水性製剤と混合する場合は、粘度の低い製剤(水など)で溶解した後、粘度の高い製剤に混合して使用することが望ましい。
本発明の凍結乾燥製剤は、水性の製剤に溶解して使用するが、L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(以下APPSと呼ぶ)濃度は0.1%〜5%になるように溶解することが望ましい。APPS濃度が0.1%に満たないとAPPSの過酸化脂質抑制、コラーゲン形成促進、メラニン形成遅延、免疫機能増強等の効果が期待できず、APPS濃度が5%より大きいとべたつき感が強くなり、好ましくない。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とアラニルグルタミンの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとアラニルグルタミン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5をバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとアラニルグルタミンの凍結乾燥製剤を得た。アラニルグルタミンはL−アラニル−L−グルタミンを用いた。
【0013】
(比較例1)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とヒドロキシプロリンの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとヒドロキシプロリン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとヒドロキシプロリンの凍結乾燥製剤を得た。
【0014】
(比較例2)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とシトルリンの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとシトルリン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとシトルリンの凍結乾燥製剤を得た。
【0015】
(比較例3)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とグリシンの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとグリシン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとグリシンの凍結乾燥製剤を得た。
【0016】
(比較例4)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とスクロースの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとスクロース5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとスクロースの凍結乾燥製剤を得た。
【0017】
(比較例5)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とマルトースの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとマルトース5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとマルトースの凍結乾燥製剤を得た。
【0018】
(比較例6)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))とトレハロースの水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gとトレハロース5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.3gのAPPSとトレハロースの凍結乾燥製剤を得た。
【0019】
(比較例7)
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウム(アプレシエ(R))水溶液の凍結乾燥製剤。
APPS2.86gを水80gに溶解し、全量を水で100gにした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して約0.1gのAPPSの凍結乾燥製剤を得た。
【0020】
試験例1
[凍結乾燥製剤中のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウムの安定性]
実施例1及び比較例1〜7の凍結乾燥製剤をガラス容器に入れ密閉した状態で50℃に28日間保存し、APPS量を高速液体クロマトグラフィーにて測定し、保存開始時のAPPS含有量を100%として残存率を求めた。
【0021】
APPSの50℃保存28日後の残存率に応じて、以下の基準によりAPPSの安定性を評価した。結果を表1に示す。
◎:APPS残存率 95%以上 安定性が極めて良い
○:APPS残存率 90%以上 95%未満 安定性が良い
△:APPS残存率 85%以上 90%未満 安定性が悪い
×:APPS残存率 85%未満 安定性が極めて悪い
【0022】
液体クロマトグラフィー分析条件
分析カラム:イナートシル ODS−3 4.6mmΦ×250mm
カラム槽温度:40℃
溶離液:0.03M リン酸水素二カリウム:THF=65:35
溶離液流量:0.7mL/min 試料注入量:20μL
検出器:UV 265nm
【0023】
【表1】

【0024】
アラニルグルタミンを配合した凍結乾燥製剤である実施例1、スクロースを配合した凍結乾燥製剤である比較例4のAPPSの50℃28日間保存後の残存率は95%以上であり、安定性が極めて良かった。アラニルグルタミンはジペプチドであるが、アミノ酸単体であるヒドロキシプロリン(比較例1)、シトルリン(比較例2)、グリシン(比較例3)について試験したところ、いずれの凍結乾燥製剤のAPPSの50℃28日間保存後の残存率は90%未満であり、安定性が悪かった。スクロースと同様に二糖類であるマルトース(比較例5)、トレハロース(比較例6)について試験した結果、APPSの50℃28日間保存後の残存率は90%以上95%未満であり、スクロースと比べて安定性がやや劣る。
アラニルグルタミンを配合した凍結乾燥製剤である実施例1の凍結乾燥製剤は、従来技術であるスクロースを配合した凍結乾燥製剤である比較例4と同等以上に50℃28日間保存後のAPPS残存率が高く、安定性が極めて良好であることが確認できた。
【0025】
試験例2
[凍結乾燥製剤の溶解性]
凍結乾燥製剤の水への溶解性を評価し、使用時に水性の製剤に溶解して使用する皮膚外用剤として適しているか調べた。
50℃28日間保存した凍結乾燥製剤300mgに、水10gを加えてフタをして、上下に10回振り混ぜた。水への溶解性を以下の基準により評価した。
○:完全に溶解している
×:溶け残りがある
【0026】
結果を表1に示した。
アラニルグルタミンを配合した実施例1、シトルリンを配合した比較例2、二糖類を配合した比較例4〜6、賦形剤なしの比較例7はいずれも溶解性に優れていた。アミノ酸であるヒドロキシプロリン、グリシンを配合した比較例1,3は溶解性が悪かった。
本発明のアラニルグルタミンを配合した実施例1は、使用時に水性の製剤に溶解して使用する皮膚外用剤として優れている。
【0027】
試験例3
[凍結乾燥製剤の外観]
50℃28日間保存後の凍結乾燥製剤の外観を以下の基準により評価した。
○:開始時と変化が無い
△:わずかに褐変している
×:明らかに褐変している
結果を表1に示した。アラニルグルタミンを配合した実施例1は外観の色の変化がなかった。
【0028】
試験例1〜3から、本発明のアラニルグルタミンを配合した実施例1の凍結乾燥製剤、比較例4に示した凍結乾燥製剤は、密閉容器に保存した場合に非常に安定であることが確認できた。
【0029】
試験例4
[高温多湿度環境下での凍結乾燥製剤の外観の評価]
次に、高温多湿度環境下での影響を調べた。実施例1及び比較例1〜7の凍結乾燥製剤をガラス容器に入れ蓋を開けた状態で40℃75%RHの環境下に1日置き、潮解性を以下の基準により評価した。
○:変化なし
×:潮解している
【0030】
結果を表2に示す。
【表2】

アラニルグルタミンを配合した実施例1、アミノ酸を配合した比較例1〜3及び賦形剤なしの比較例7については高温多湿度環境下において潮解しなかった。しかしながら、二糖類を配合した比較例4〜6については1日で潮解した。アラニルグルタミンを配合した実施例1は、耐湿性に優れると考え、プラスチック容器の適用性を評価することにした。
【0031】
本発明の実施例1の凍結乾燥製剤と比較例4の凍結乾燥製剤について、ポリエチレンナフタレート(PEN)容器に保存した場合の安定性を、以下に示す試験例5〜7で評価した。3検体ずつ評価し、平均した。尚、PEN容器は、ガラス容器よりも密閉性に劣り水分を透過しやすい材質ではあるが、成型しやすく安価なため、吸湿を問題としない化粧品や医薬品、食品については汎用容器として流通している。
【0032】
試験例5
[凍結乾燥製剤中のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウムの高温多湿度下での安定性]
実施例1と比較例4の凍結乾燥製剤をPEN容器に入れ、蓋をして40℃75%RHの環境下で1ヶ月間保存し、APPS量を高速液体クロマトグラフィーにて測定し、保存開始時の含有量を100%として残存率を求めた。
【0033】
APPSの40℃75%RHの環境下で14日保存後の残存率に応じて、試験例1と同様の基準によりAPPSの安定性を評価した。結果を表3に示す。
【表3】

実施例1、比較例4はいずれも14日目のAPPSの残存率が高かった。尚、実施例1については1ヶ月後も99%の残存率を維持した。
【0034】
試験例6
[凍結乾燥製剤の吸湿による重量変化、外観の評価]
実施例1と比較例4の凍結乾燥製剤を40℃75%RHの環境下、PEN容器に入れ、蓋をして14日後の凍結乾燥製剤の重量を測定し、開始時からの重量変化を百分率で表し吸湿増量(%)とした。
【0035】
さらに、潮解性について試験例4と同様の基準により評価し、外観(色)は試験例3と同様の基準により評価した。
【0036】
結果を表3に示す。実施例1の14日目の吸湿増量は0.0207%、比較例4の吸湿増量は0.0207%であり、40℃75%RHの環境下では、どちらもほぼ同じレベルで吸湿していることがわかる。
アラニルグルタミンを配合した実施例1については14日間、高温多湿の環境下に置いても固形の状態を保ち潮解しなかった。しかしながら、スクロースを配合した比較例4については高温多湿の環境下では、蓋を閉めた保存であっても14日目で潮解しており固形の状態を保つことができなかった。
色については、スクロースを配合した比較例4の凍結乾燥製剤は、高温多湿環境下の保存で褐色に変化したが、アラニルグルタミンを配合した実施例1は、14日間高温多湿環境下に保存しても色が変化しなかった。
試験期間14日経過後において、比較例4は潮解、外観変色、水溶性不良を示している。更に、1ヶ月経過後では、APPS残存率においても、比較例4は低下することが確認された。
これらのことから、スクロースを配合した比較例4の凍結乾燥製剤は、吸湿すると、潮解したり外観(色)が激しく変化したりするので、品質を維持するために密閉性の高い容器での保存が必須であるのに対し、アラニルグルタミンを配合した実施例1は、吸湿環境下でも品質が著しく低下しないので、ガラス製などの必ずしも密閉性の高い容器に保存しなくても良いことがわかった。
【0037】
試験例7
[吸湿した凍結乾燥製剤の溶解性]
吸湿した凍結乾燥製剤について、水への溶解性を評価し、吸湿した状態で使用時に水性の製剤に溶解して使用する皮膚外用剤と成りうるか調べた。
40℃75%RHの環境下、PEN容器に入れ、蓋をして14日間保存した凍結乾燥製剤150mgを10mL入り試料瓶に量り取り、水5gを加えてフタをして、上下に10回振り混ぜた。水への溶解性を以下の基準により評価した。
○:完全に溶解している
×:溶け残りがある
【0038】
結果を表3に示した。
アラニルグルタミンを配合した実施例1は溶解性に優れていた。しかしながら、スクロースを配合した比較例4は溶解性が悪かった。
スクロースを配合した比較例4は、吸湿前は水へ完全に溶解したが、吸湿し潮解して固形の状態を保つことができなくなったものは、溶解試験で溶け残りが生じた(評価は×)。試験例3において、50℃28日間保存したスクロース配合品の水への溶解性の評価は○であったから、スクロースを配合した凍結乾燥製剤(比較例4)は吸湿して潮解すると水への溶解が遅くなることがわかった。
凍結乾燥製剤はそのままか或いは水分含有量の低い製剤に含有させた皮膚外用剤にした場合でも、使用時に水または水性の製剤に溶解して使用する。このため、使用時の溶解性は重要である。
本発明品であるL−アラニル−L−グルタミンを配合した凍結乾燥製剤は、APPS残存率、溶解性、外観、及び「吸湿した状態でのAPPS残存率、溶解性、外観」の全てにおいて優れていた。吸湿しないように密封容器(ガラス容器)での保存が望まれるスクロース配合の凍結乾燥製剤に対し、本発明品であるL−アラニル−L−グルタミンを配合した凍結乾燥製剤は、吸湿しても安定性が高いので、ガラス容器のみならずプラスチック容器での保存性能も優れるものである。
【0039】
処方例1
第1剤
APPS2.86gとL−アラニル−L−グルタミン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gとした。この水溶液5.25gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して得られたAPPSとL−アラニル−L−グルタミンの凍結乾燥製剤0.45g

第2剤
下記組成の化粧水 4.55g

成分 質量%
グリセリン 2.0
1,2−ペンタンジオール 5.0
トリメチルグリシン 0.5
ヒアルロン酸ナトリウム 0.0001
クエン酸ナトリウム 適量
クエン酸 適量
精製水 残余

使用時に第1剤を第2剤に溶解する。溶解時のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウムの濃度は3質量%である。
【0040】
処方例2
第1剤
APPS2.86gとL−アラニル−L−グルタミン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gとした。この水溶液1.75gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して得られたAPPSとL−アラニル−L−グルタミンの凍結乾燥製剤0.15g

第2剤
下記組成の乳液 4.85g

成分 質量%
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.0001
キサンタンガム 0.1
スクワラン 5.0
ジメチコン 1.0
ホホバ油 1.0
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)1.0
ステアリン酸ソルビタン 0.2
ヤシ油脂肪酸スクロース 0.1
PEG−60水添ヒマシ油 0.5
カルボマーK 0.05
精製水 残余

使用時に第1剤を第2剤に溶解する。溶解時のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウムの濃度は1質量%である。
【0041】
処方例3
第1剤
APPS2.86gとL−アラニル−L−グルタミン5.72gを水80gに溶解し、全量を水で100gとした。この水溶液3.5gをバイヤルに充填し、凍結乾燥して得られたAPPSとL−アラニル−L−グルタミンの凍結乾燥製剤0.3g

第2剤
下記組成の美容液 4.97g

成分 質量%
グリセリン 8.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ジプロピレングリコール 5.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.001
スクレロチウムガム 0.01
ジメチコン 1.0
マカデミアナッツ油 0.5
マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 0.5
水添レシチン 0.5
ステアリン酸ポリグリセリル-10 0.5
エタノール 5.0
精製水 残余

使用時に第1剤を第2剤に溶解する。溶解時のL−アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミチン酸三ナトリウムの濃度は2質量%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アスコルビン酸−2−リン酸−6−脂肪酸とアラニルグルタミンを含有する水溶液の凍結乾燥製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の凍結乾燥製剤と水性の製剤とからなる皮膚外用剤であって、該凍結乾燥製剤を使用時に該水性の製剤に溶解して使用することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項3】
化粧料であることを特徴とする請求項2記載の皮膚外用剤。


【公開番号】特開2012−17304(P2012−17304A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156295(P2010−156295)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】