説明

L−アスコルビン酸の産生方法

本発明は、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、もしくはL−タロースから、またはL−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)から、およびL−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)から、L−アスコルビン酸を産生する方法における、EP0832974A2に開示されたような、G.oxydansDSM4025の酵素Bの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−アスコルビン酸の産生方法における、EP0832974A2に開示されているようなGluconobacter oxydansDSM4025の酵素Bの使用に関する。
【0002】
1934年に「ライヒシュタイン法」が確立されて以来、長年、L−アスコルビン酸(ビタミンC)の生物工学的合成に関する実行可能性についての研究がなされてきた。Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans、およびSaccharomyces cerevisiaeのD−アラビノノ−1,4−ラクトンオキシダーゼ遺伝子を有する微生物Gluconobacter oxydansDMS4025またはEscherichia coliは、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンをビタミンCに酸化する。Saccharomyces cerevisiaeおよびCandida albicansは、D−アラビノースおよびL−ガラクトースからそれぞれD−アラビノノ−1,4−ラクトンおよびL−ガラクトノ−1,4−ラクトンの産生を触媒するD−アラビノースデヒドロゲナーゼを有する。しかし、中間体として別のL−ヘキソース、すなわち、ビタミンCの立体配置(C4位およびC5位)に対応する立体配置を有する、L−イドース、L−グロース、およびL−タロースからの、生物学的なビタミンCの産生の可能性を記載した報告は全くなかった。
【0003】
本発明は、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、もしくはL−タロースから、またはL−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)から、およびL−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)から、L−アスコルビン酸を産生する方法における、EP0832974A2に開示されたような、G.oxydansDSM4025の酵素Bの使用を提供する。
【0004】
本発明はまた、L−グロースまたはL−ガラクトースから、それぞれL−グロノ−1,4−ラクトンもしくはL−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはその酸性型のL−グロン酸もしくはL−ガラクトン酸を産生する方法における、EP0832974A2に開示されたような、G.oxydansDSM4025の酵素Bの使用も提供する。
【0005】
参照として取り込んだEP0832974A2は、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有するG.oxydansDSM4025の酵素Bを開示する。
【0006】
さらに、酵素Bのアミノ酸配列ならびにヌクレオチド配列がEP0832974A2に開示されており、本発明の配列表の配列番号2および配列番号1により示される。EP0832974A2から、酵素Bが、D−グルコース、D−ソルビトール、L−ソルボソン、D−マンニトール、L−イドース、グリセロール、D−グルコン酸、D−マンノン酸を、それぞれ、D−グルコネート、L−ソルボース、2−KGA、D−フルクトース、L−イドン酸、ジヒドロキシアセトン、5−ケト−D−グルコン酸、および5−ケト−D−マンノン酸に変換できることが知られている。
【0007】
本発明は、L−アスコルビン酸を、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、およびL−タロースからなる群より選択される基質から産生する、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−アスコルビン酸の産生方法に関する。
【0008】
L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、およびL−タロースのようなL−ヘキソースは希少な糖であり、基本的に化学的方法により製造され、商業的にはコストの高い化合物である。しかし、L−グロースおよびL−ガラクトースの生物学的調製が近年報告されている。G.oxydansDSM4025の酵素AによるD−ソルビトールからのL−グロースの産生が、EP0832974A2に報告された。L−リボースイソメラーゼによるL−ソルボースからのL−グロースの産生は、米国特許第6,037,153号に開示された。L−ソルボースからのL−ガラクトースの産生は、Izumoriら(日本生物工学会の2001年会)により報告されている。この方法では、彼らは、Pseudomonas cichoriiST−24株のL−タガトースエピメラーゼによる「L−ソルボースからL−タガトースへの」反応(米国特許第5,811,271号)と、Bacillus stearothermophilus14a株のD−アラビノースイソメラーゼによる「L−タガトースからL−ガラクトースへの」反応からなる2つの酵素的方法を組み合わせた。L−グロノ−1,4−ラクトンは、D−グルコースから調製してもよい。
【0009】
別の態様において、本発明は、
(a)
(i)反応混合物中において、L−グロースおよびL−ガラクトースからL−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列もしくはそれと90%同一であるアミノ酸配列またはその一部を有する酵素あるいはその機能的等価物に、L−グロースまたはL−ガラクトースを接触させることを含む、酵素によりL−グロースまたはL−ガラクトースからL−アスコルビン酸を産生するか、
(ii)反応混合物中において、L−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトンを、L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトンを産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列もしくはそれと90%同一であるアミノ酸配列またはその一部を有する酵素あるいはその機能的等価物に、L−グロースまたはL−ガラクトースを接触させることを含む、酵素によりL−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトンを、L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトンを産生するか、または
(iii)反応混合物中において、L−グロノ−1,4−ラクトンからL−アスコルビン酸を、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンからL−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列もしくはそれと90%同一であるアミノ酸配列またはその一部を有する酵素あるいはその機能的均等物に、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトノ−1,4−ラクトンを接触させることを含む、酵素によりL−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトノ−1,4−ラクトンからL−アスコルビン酸を産生し、
(b)その反応混合物から、L−アスコルビン酸、L−グロノ−1,4−ラクトン、またはL−ガラクトノ−1,4−ラクトンを単離する方法を提供する。
【0010】
本発明の1つの実施形態は、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−アスコルビン酸の産生方法を提供することであり、これによりL−アスコルビン酸を、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、L−ガラクトン酸、L−イドノ−1,4−ラクトン、L−イドン酸、L−タロノ−1,4−ラクトン、およびL−タロン酸からなる群より選択される基質から産生する。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸の産生方法を網羅し、これによりL−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を、L−グロースから産生する。
【0012】
さらに、本発明の1つの態様は、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸の産生方法を提供することであり、これによりL−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸を、L−ガラクトースから産生する。
【0013】
前記した本発明による方法は、(a)酵素を、それぞれの基質に接触させること、および(b)その反応混合物から、それぞれの産生物を単離することを含む。産生物がビタミンCである場合、その基質は、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、L−タロース、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、L−ガラクトン酸、L−イドノ−1,4−ラクトン、L−イドン酸、L−タロノ−1,4−ラクトン、およびL−タロン酸からなる群より選択される。産生物がL−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸である場合、その基質はL−グロースである。産生物がL−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸の場合、その基質はL−ガラクトースである。
【0014】
本発明において、酵素の機能的均等価物は、当該技術分野で既知の化学的ペプチド合成により、または、当該技術水準で既知の方法により本明細書に開示したようなDNA配列に基づき組換え手段により作製し得る。このような分子の活性を一般に変化させないタンパク質およびペプチドのアミノ酸交換は、当該技術水準で既知である。最も一般的に起こる交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly、ならびにこれらの逆である。
【0015】
さらに、酵素のこのような機能的均等価物は、例えば配列表に開示されている配列番号1のDNA配列およびその相補鎖、またはその配列を含むもの、そのような配列もしくはその断片と標準的な条件下でハイブリダイズするDNA配列、および遺伝子コードの変性のためにこのような配列と標準的な条件下でハイブリダイズしないが、まさに同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列、によりコードされているアミノ酸配列を含み、ここで、機能的等価物が、
(i)L−グロースからL−アスコルビン酸を、L−ガラクトースからL−アスコルビン酸を
(ii)L−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)を、L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)を、または
(iii)L−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)からL−アスコルビン酸を、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)からL−アスコルビン酸を
産生する酵素活性を有する。
【0016】
ハイブリダイゼーションのための「標準的条件」は、この脈絡では、特異的なハイブリダイゼーションシグナルを検出するために当業者が一般に使用する条件、または好ましくは、いわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび非ストリンジェントな洗浄条件、またはより好ましくは当業者がよく知っているいわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよびストリンジェントな洗浄条件を意味する。さらに、当該技術分野で既知の方法により本明細書に開示したDNA配列に基づいて設計したプライマーを使用することによりポリメラーゼ連鎖反応により作製できるDNA配列もまた、本発明の目的である。本発明のDNA配列はまた、例えばEP747483A2に記載のようにも合成的に作製できる。
【0017】
遺伝子の変異体は、遺伝子もしくは遺伝子を有する微生物を紫外線照射、X線照射、γ線照射などの変異原で処理するか、または亜硝酸、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは他の適切な変異原と接触させるか、または自発的変異によりもしくは当分野で知られているインビトロでの標準的な変異誘発法により生じるコロニーもしくはクローンを単離することにより調製できる。これらの多くの方法が種々の刊行物に記載されている。
【0018】
本明細書に使用したように、「変異体」は、非天然ポリヌクレオチド配列またはその天然形から変化した(例えば、1〜100個、好ましくは20〜50個、より好ましくは10個未満のヌクレオチドの再配列または欠失または置換により)ポリヌクレオチド配列をコードする任意の遺伝子である。前記したように、このような非天然配列は、ランダム突然変異誘発、化学的突然変異誘発、自然的変異、UV照射、PCRによる変異導入、部位特異的突然変異誘発などにより得られ得る。好ましくは、実施例で示したアッセイ手順を使用して、変異していない親ポリペプチドと比べると、生成量の増加したまたは活性の向上したポリペプチドの発現が変異により生じる。このような変異細胞を作製し、スクリーニングし、同定する方法は、当該技術分野で公知である。
【0019】
ポリペプチドをコードするDNAS配列の供給体としての特に好ましいG.oxydans株は、DSM No.4025でゲッティンゲン(ドイツ)のドイツ微生物および培養細胞収集局〔Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)〕に寄託されたが、これは1987年3月17日にブダペスト条約の規約の下になされた。G.oxydansDSM4025の同定特徴を有する微生物の生物学的および/または分類学的に均一な培養物もまた、DNA配列の供給体となり得る。
【0020】
G.oxydansDSM4025の継代培養液は、寄託番号FERM BP−3812の下で、日本の通産省工業技術院微生物工業技術研究所に寄託されている。EP0278447B1は、この株の特徴を開示する。
【0021】
このようにして決定した(コドン出現頻度を考慮する)ヌクレオチド配列の情報を使用することにより、(i)L−グロースおよびL−ガラクトースからL−アスコルビン酸を、(ii)L−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)を、L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)を、または(iii)L−グロノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−グロン酸)からL−アスコルビン酸を、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン(およびその酸性型のL−ガラクトン酸)からL−アスコルビン酸を産生する活性を有し、L−グロースまたはL−ガラクトースからのビタミンC形成活性を有する、進化的に多岐にわたる酵素をコードする遺伝子を、前記ヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列に従って合成もしたプローブを用いてのコロニーもしくはサザンハイブリダイゼーションにより、または、必要であれば、前記の情報に従って合成もしたプライマーを用いてのポリメラーゼ連鎖反応により、異なる生物から単離することができる。
【0022】
さらに、G.oxydansDSM4025の酵素B遺伝子および前記に定義したその機能的均等物または変異体を有する組換え微生物を作製するための好ましい宿主微生物は、Escherichia coli、Pseudomonas putidaおよびG.oxydansDSM4025、ならびにそれらの生物学的および/または分類学的に均一な培養物または変異体であり得る。
【0023】
組換え発現ベクター上または宿主微生物の染色体DNA上に、酵素Bおよびその機能的均等物の遺伝子または変異体を有する組換え微生物を作製するために、形質転換、形質導入、接合、および電気穿孔などの種々の遺伝子導入法を使用することができる。組換え微生物を作製する方法は、分子生物学の分野でよく知られている方法から選択してもよい。通常の形質転換システムを、Escherichia coli、およびPseudomonasに使用できる。形質導入システムもまた、Escherichia coliに使用できる。接合システムは、E.coli、Pseudomonas putidaおよびG.oxydansなどのグラム陽性およびグラム陰性細菌に広く使用することができる。抱合は液体培地または固体表面で起こり得る。好ましいレシピエントは、適切な組換え発現ベクターを用いて活性酵素Bを産生することができる、E.coli、Pseudomonas putidaおよびG.oxydansから選択される。接合ではレシピエントに、通常、選択マーカーを加え;例えば、ナリジクス酸またはリファンピシンに対する耐性を、通常、選択する。
【0024】
本発明で提供される微生物は、好気的条件下で適切な栄養分を補充した水性培地中で培養してもよい。培養は、約1.0〜約9.0、好ましくは約2.0〜約8.0のpHで実施してもよい。培養期間は、pH、温度、および使用する栄養培地に応じて変化するが、通常、2〜5日間が良好な結果をもたらす。培養を実施するに適切な温度範囲は、約13℃〜約45℃、好ましくは約18℃〜約42℃である。
【0025】
従って、前記したような本発明のビタミンCの産生方法は、1〜120時間、約1〜約9のpHにて、約13℃〜約45℃の温度で実施する。好ましくは、その方法は、約2〜約8のpHにて、約13℃〜約45℃の温度で実施する。これらの条件はまた、本発明のさらなる実施形態として、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、またはL−ガラクトン酸の製造方法にも適用される。
【0026】
培養培地は、同化可能な炭素源、消化可能な窒素源、および無機物質、ビタミン、微量元素、ならびに他の増殖促進因子などの栄養分を含むことが通常必要である。同化可能な炭素源の例には、グリセロール、D−グルコース、D−マンニトール、D−フルクトース、D−アラビトール、D−ソルビトール、およびL−ソルボースが挙げられる。
【0027】
酵母抽出液、肉抽出液、ペプトン、カゼイン、コーンスティープリカー(corn steep liquor)、尿素、アミノ酸、硝酸塩、アンモニウム塩などの種々の有機または無機物質もまた窒素源として使用してもよい。無機物質として、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、塩化第一鉄および塩化第二鉄、炭酸カルシウムなどを使用してもよい。
【0028】
本明細書に使用したL−アスコルビン酸は、その物質が、遊離酸の形態として、またはNa塩、K塩、もしくはヘミカルシウム塩、例えば、L−アスコルビン酸カルシウム二水和物などの塩の形態として存在することを意味する。さらに、L−アスコルビン酸の濃度は、特記しない限り、遊離酸の形態として記載される。
【0029】
本明細書に使用したL−グロノ−1,4−ラクトンおよびL−ガラクトノ−1,4−ラクトンは、その物質がそれらのラクトン形態および/またはその酸性型として存在することを意味し、その両方が種々の物理化学的条件下で平衡状態で存在する。
【0030】
本明細書に使用した「標準的なハイブリダイゼーション条件」という語句は、特異的なハイブリダイゼーションシグナルを検出するために当業者が一般に使用する条件、または好ましくはいわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび非ストリンジェントな洗浄条件、またはより好ましくはいわゆる中程度のストリンジェントな条件、またはさらにより好ましくは当業者がよく知っているいわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよびストリンジェントな洗浄条件を意味する。
【0031】
例えば、以下のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件の任意の組合せを、適宜、使用してもよい。
【0032】
高ストリンジェントハイブリダイゼーション:6×SSC、0.5%SDS、100μg/mlの変性サケ精子DNA、50%ホルムアミド、穏やかに振とうしながら42℃で一晩インキュベート。
【0033】
高ストリンジェント洗浄:2×SSC、0.5%SDS中、室温で15分間1回洗浄し、その後、0.1×SSC、0.5%SDS中、室温で15分間さらに洗浄。
【0034】
低ストリンジェントハイブリダイゼーション:6×SSC、0.5%SDS、100μg/mlの変性サケ精子DNA、50%ホルムアミド、穏やかに振とうしながら37℃で一晩インキュベート。
【0035】
低ストリンジェンシー洗浄:0.1×SSC、0.5%SDS中、室温で15分間1回洗浄。
【0036】
中程度のストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション反応が起こる温度および/または前記に示したような洗浄条件を変化させることにより得てもよい。
【0037】
反応混合物中のL−アルドースおよびL−アルドノラクトンなどの基質の濃度は、他の反応条件に応じて変更することができるが、一般に、約1g/lから約300g/l、好ましくは約10g/lから約200g/lであってもよい。
【0038】
反応は好気的に実施することができる。
【0039】
反応において、酵素は、限定されないが、酵素溶液、無処置細胞(intact cell)、固定酵素などの任意の形態で使用でき、また固定細胞を使用してもよい。
【0040】
反応後、L−アスコルビン酸またはL−アルドノラクトンを、反応液から、例えば薄層クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィーなどの種々の種類のクロマトグラフィーの組合せにより回収してもよい。反応生成物としてのL−アルドノラクトンはまた、本発明の反応混合物中に存在するので、精製せずにさらなる反応の基質として使用することもできる。
【0041】
以下の実施例を、本発明の方法をさらに説明するために提供する。これらの実施例は単なる実例であり、いずれにしても本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
実施例1:酵素B遺伝子を有するEscherichia coliJM109によるL−グロースからのL−グロノ−1,4−ラクトン/L−グロン酸の産生
酵素Bをコードする遺伝子をクローニングし、pSS103RからベクターpTrcMalEにサブクローニングし、EP0832974A2に記載のようなpTrcMalE−EnzBを作製した。pTrcMalE−EnzBを有するEscherichia coliJM109を、100μg/mlのアンピシリンを含む2mlのLB培地中で30℃で15時間増殖させ、100μlの得られたブロスを、100μg/mlのアンピシリンを含む新鮮なLB培地に移し、30℃で4時間インキュベートした。その後、IPTGを最終濃度0.2mMでその培養液に加え、その培養液をさらに30℃で2時間培養した。IPTGを添加していないpTrcMalE−EnzBを有するE.coliJM109の対照培養も実施した。Escherichia coliJM109を、前記したのと同じように対照株として使用し、IPTGを添加して培養または添加せずに培養した。8mlの培養液からの細胞を、遠心分離により収集し、1mlの蒸留水に懸濁した。得られた細胞懸濁液を、250μlの細胞懸濁液、1%の基質、0.3%のNaCl、1%のCaCO、1μg/mlのPQQ、および1mMのPMSからなる400μlの反応混合物を用いた反応に使用し、この混合物を室温で16時間インキュベートした。この実験で使用した基質はL−グロースであった。L−グロノ−1,4−ラクトン+L−グロン酸およびビタミンCの量を表1を要約した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2:酵素B遺伝子を有するEscherichia coliJM109によるL−グロノ−1,4−ラクトン/L−グロン酸からのビタミンCの産生
使用した基質が本実施例においてL−グロノ−1,4−ラクトンであったこと以外は、実施例1に記載のように実験を実施した。ビタミンCの量を表2に要約した。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例3:酵素B遺伝子を有するEscherichia coliJM109によるL−ガラクトースからのL−ガラクトノ−1,4−ラクトン/L−ガラクトン酸の産生
使用した基質が本実施例においてL−ガラクトースであったこと以外は、実施例1に記載のように実験を実施した。L−ガラクトノ−1,4−ラクトン+L−ガラクトン酸およびビタミンCの量を表3に要約した。
【0047】
【表3】

【0048】
実施例4:酵素B遺伝子を有するEscherichia coliJM109によるL−ガラクトノ−1,4−ラクトン/L−ガラクトン酸からのビタミンCの産生
使用した基質が本実施例においてL−ガラクトノ−1,4−ラクトンであったこと以外は、実施例1に記載のように実験を実施した。ビタミンCの量を表4に要約した。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アスコルビン酸を、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、およびL−タロースからなる群より選択される基質から産生する、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−アスコルビン酸の産生方法。
【請求項2】
L−アスコルビン酸を、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、L−ガラクトン酸、L−イドノ−1,4−ラクトン、L−イドン酸、L−タロノ−1,4−ラクトン、およびL−タロン酸からなる群より選択される基質から産生する、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−アスコルビン酸の産生方法。
【請求項3】
L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸をL−グロースから産生する、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸の産生方法。
【請求項4】
L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸をL−ガラクトースから産生する、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸の産生方法。
【請求項5】
(a)酵素をそれぞれの基質に接触させること、および(b)その反応混合物から、L−アスコルビン酸、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、およびL−ガラクトン酸からなる群より選択される産生物を単離することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1〜120時間、約1〜約9のpHにて、約13℃〜約45℃の温度で実施する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
約2〜約8のpHにて、約18℃〜約42℃の温度で実施する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、L−タロース、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、およびL−ガラクトン酸からなる群より選択される基質からL−アスコルビン酸を産生する方法におけるグルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。
【請求項9】
L−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を産生する方法における、グルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。
【請求項10】
L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはガラクトン酸を産生する方法における、グルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アスコルビン酸の産生方法であって、
(a)酵素を、L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、およびL−タロースからなる群より選択される基質に接触させること、および
(b)その反応混合物からL−アスコルビン酸を単離すること、
を含み、
ここで、該酵素が、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する方法。
【請求項2】
L−アスコルビン酸を、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、L−ガラクトン酸、L−イドノ−1,4−ラクトン、L−イドン酸、L−タロノ−1,4−ラクトン、およびL−タロン酸からなる群より選択される基質から産生する、L−アスコルビン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−アスコルビン酸の産生方法。
【請求項3】
L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸をL−グロースから産生する、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸の産生方法。
【請求項4】
L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸をL−ガラクトースから産生する、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸を産生する活性を有する、配列番号2のアミノ酸配列またはそれと90%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を用いる、L−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはL−ガラクトン酸の産生方法。
【請求項5】
(a)酵素をそれぞれの基質に接触させること、および(b)その反応混合物から、L−アスコルビン酸、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、およびL−ガラクトン酸からなる群より選択される産生物を単離することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1〜120時間、約1〜約9のpHにて、約13℃〜約45℃の温度で実施する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
約2〜約8のpHにて、約18℃〜約42℃の温度で実施する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
L−グロース、L−ガラクトース、L−イドース、L−タロース、L−グロノ−1,4−ラクトン、L−グロン酸、L−ガラクトノ−1,4−ラクトン、およびL−ガラクトン酸からなる群より選択される基質からL−アスコルビン酸を産生する方法におけるグルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。
【請求項9】
L−グロースからL−グロノ−1,4−ラクトンまたはL−グロン酸を産生する方法における、グルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。
【請求項10】
L−ガラクトースからL−ガラクトノ−1,4−ラクトンまたはガラクトン酸を産生する方法における、グルコノバクター オキシダンス(G.oxydans)DSM4025の酵素Bの使用であって、ここで、酵素Bが、以下の物理化学的特性:
(a)SDS−PAGEで約60,000Daの分子量;
(b)第一級および第二級アルコールならびにアルデヒドに対する基質特異性;
(c)約6〜約9のpHにおけるpH安定性;
(d)約8.0のpHにおいて最適pH;
(e)Cu2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、およびFe3+による阻害;
を有する、使用。

【公表番号】特表2006−500049(P2006−500049A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538964(P2004−538964)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010489
【国際公開番号】WO2004/029267
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】