説明

L−カルニチンデヒドロゲナーゼ、その誘導体および置換(S)アルカノールの製造方法

本発明は、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オンのような置換アルカノンを還元するための酵素活性を有するタンパク質に関する。本発明はまた、これらのタンパク質をコードする核酸、核酸構築物、ベクター、遺伝的に修飾された微生物、および例えば(S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールのような置換(S)-アルカノールの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オンのような置換アルカノンを還元するための酵素活性を有するタンパク質に関する。本発明は更に、該タンパク質をコードする核酸、核酸構築物、ベクター、遺伝的に修飾された微生物、および例えば(S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールのような置換(S)-アルカノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デヒドロゲナーゼは、アルデヒドまたはケトンのエナンチオ選択的還元により対応アルコールを与える汎用触媒である。(R)特異的デヒドロゲナーゼと(S)特異的デヒドロゲナーゼとの区別がなされる。これらの触媒は光学活性アルコールの工業的合成に益々頻繁に使用されるようになっている。光学活性は多数の医薬用および農薬用活性化合物の選択的作用の必須条件である。この場合、一方のエナンチオマーは所望の活性を有し、もう一方のエナンチオマーは遺伝子毒性作用を有することがある。このような理由により、医薬用および農薬用活性化合物の合成においては、要求される立体特異性を有する触媒を使用して、光学活性アルコールを合成する。
【0003】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノール(「デュロキセチン(Duloxetin)アルコール」)はデュロキセチン合成におけるビルディングブロックである。デュロキセチンは、承認手続きが現在進行中である医薬用活性化合物であり、鬱病および失禁の適応領域において使用されることが意図されているる。
【0004】
デュロキセチンアルコールおよびデュロキセチンへの合成経路は文献(EP-A-0 273 658を参照されたい)に記載されている。該合成はラセミアルコール混合物を与えるため、光学活性な対イオンとの塩形成を介して該ラセミ化合物をジアステレオマーの混合物に変換してラセミ化合物を分割することが後に必要になるという欠点を、これらの合成経路は有している。ついでジアステレオマーを物理的に分離する。これは、固体と液体との分離の繰返しによる高い製造コスト、および分離のための光学活性塩の添加による出発化合物の使用の増大を招く。
【0005】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパノンの立体特異的還元は、デュロキセチンアルコールへの、より経済的な経路を提供するであろう。
【発明の開示】
【0006】
発明の簡潔な説明
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-2-オンのような置換アルカノンの立体特異的還元のための経路を見出すことが、本発明の目的である。
【0007】
本発明者らは、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が前記反応を立体特異的に触媒しうるという驚くべき知見によりこの目的が達成されることを見出した。
【0008】
まず、本発明は、式I
【化1】

【0009】
[式中、
nは、0〜5の整数、特に0、1または2である;
Cycは、置換されていない又は置換された単環式または多環式の飽和または不飽和の炭素環または複素環、特に、置換されていない又は置換された不飽和単環式複素環である;
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-、特に、ハロゲンまたはNR2R3(ここで、R2、R3およびR4は、互いに独立して、Hまたは低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである)である]
の置換(S)-アルカノールの、微生物による、特にエナンチオ選択的な製造方法であって、式II
【化2】

【0010】
(式中、n、CycおよびR1は前記と同義である)のアルカノンを含有する培地中、
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を培養し、または
b)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をインキュベートし、
これにより式IIの化合物を酵素により還元して式Iの化合物を得、生じたエナンチオ的に実質的に純粋な生成物を単離することを含んでなる方法に関する。
【0011】
特に好ましい実施形態においては、該方法は式III
【化3】

【0012】
の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールの製造に有用であり、この場合、式IV
【化4】

【0013】
の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-2-オンを含有する培地中、該化合物を酵素により還元して式IIIの化合物を得、生じたエナンチオ的に実質的に純粋な生成物を単離する。
【0014】
これらの方法においては、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.108)および3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.35)から選ばれるL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を使用するのが好ましい。
【0015】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有するこの種の酵素は、特に、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属およびアーケオグロブス(Archaeglobus)属の微生物の酵素から選ばれる。
【0016】
本発明の特に好ましい実施形態においては、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされる酵素、およびL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、該酵素の機能的等価体から選ばれる。
【0017】
例えば、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素は配列番号1の核酸配列またはその機能的等価体によりコードされうる。
【0018】
還元等価体(NADHまたはNADPH)を添加することにより、または反応において消費された還元等価体が再生される(生化学的または電気化学的)条件下で、本発明の方法を実施することが好ましい。
【0019】
さらに、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科、シュードモナダセエ(Pseudomonadaceae)科、リゾビアセエ(Rhizobiaceae)科、ストレプトマイセタセエ(Streptomycetaceae)科およびノカルジアセエ(Nocardiaceae)科の細菌から選ばれる微生物の存在下で式II、例えば式IVの化合物を反応させるのが好ましい。該微生物は、特に、前記のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸構築物で形質転換された組換え微生物でありうる。
【0020】
特に、本発明は、
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を天然源から分離し、または組換え的に製造し、
b)該微生物を増殖させ、
c)適当な場合には、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を該微生物から単離し、または該酵素を含有するタンパク質画分を該微生物から製造し、
d)工程b)の微生物または工程c)の酵素を、式Iの化合物を含有する培地内に移す、前記の方法に関する。
【0021】
本発明は更に、式V
【化5】

【0022】
(式中、n、CycおよびR1は前記と同義であり、Arは単環式または多環式の置換されていない又は置換されたアリール基である)の化合物であって、
a)まず、式Iの化合物を前記のいずれかの方法により微生物により製造し、
b)式Iの化合物を式VI
Ar-Y (VI)
(式中、Arは前記と同義であり、Yは脱離基である)の芳香族化合物と反応させ、
c)式Vの化合物を単離し、適当な場合には、医薬上許容される酸付加塩、例えばシュウ酸塩に変換することにより製造される化合物に関する。
【0023】
この場合、Arが1-ナフチルであり、Cycが2-チエニルであり、R1がモノメチルアミノであり、nが1である式Vの化合物を製造するのが好ましい。
【0024】
本発明は更に、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされるポリペプチド、ならびにL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iおよび/またはIIIの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、これらの酵素の機能的等価体に関する。
【0025】
本発明は更に、少なくとも1つの調節核酸配列に機能しうる形で連結された前記のコード核酸配列を含んでなる発現カセットに関する。
【0026】
本発明は更に、少なくとも1つのそのような発現カセットを含んでなる組換えベクターに関する。
【0027】
本発明はまた、本発明の少なくとも1つのベクターで形質転換された原核性または真核性宿主に関する。
【0028】
最後に、本発明は、式IまたはIIIの化合物を製造するための、特に、式VII
【化6】

【0029】
のデュロキセチン(Duloxetine)を製造するための、前記のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素または該酵素を産生する微生物の使用に関する。
【0030】
発明の詳細な説明
A.一般的な用語および定義
特に示さない限り、以下の一般的用語が適用される。
【0031】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、特に、フッ素または塩素である。
【0032】
「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピルまたはn-プロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-またはtert-ブチル、n-ペンチルまたは2-メチルブチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-エチルブチルである。
【0033】
「低級アルケニル」は、2〜6個の炭素原子を有する前記アルキル基の、一不飽和または多不飽和、好ましくは一不飽和または二不飽和類似体であり、二重結合は炭素鎖の任意の位置に存在することが可能である。
【0034】
「低級アルコキシ」は、前記アルキル基の、末端に酸素を含有する類似体である。
【0035】
「アリール」は、任意の環位置を介して結合する、単環式または多環式、好ましくは単環式または二環式の置換されていない又は置換された芳香族基、特にフェニルまたはナフチル、例えば1-または2-ナフチルである。適当な場合には、これらのアリール基は、前記のとおりのハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはトリフルオロメチルから選ばれる1個または2個の同じ又は異なる置換基を含有しうる。
【0036】
B.置換アルカノン、(S)-アルカノールおよびそれらの誘導体
本発明による酵素触媒を受けうるアルカノールは、
nが0〜5の整数である;
Cycが、置換されていない又は置換された単環式または多環式の飽和または不飽和の炭素環または複素環である;
R1が、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-(ここで、R2、R3およびR4は、互いに独立して、Hまたは低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである)である式(I)のアルカノールである。
【0037】
酵素による合成に使用する前記式IIのアルカノールは、自体公知の化合物であり、よく知られた有機合成法(例えば、EP-A- 0 273 658を参照されたい)の適用により入手可能である。
【0038】
前記化合物においては、nは、好ましくは0、1または2、特に1である。
挙げられるべき炭素環式および複素環式基Cycの具体例は、特に、O、NおよびSから選ばれる4個以下、好ましくは1個または2個の同じ又は異なる環ヘテロ原子を有する単環式または二環式基、好ましくは単環式基である。
【0039】
該炭素環または複素環は、特に、3〜12個、好ましくは4個、5個または6個の環炭素原子を含む。具体例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、それらの一不飽和または多不飽和類似体、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル;また、O、NおよびSから選ばれる1〜4個のヘテロ原子を有する5〜7員の飽和または一不飽和もしくは多不飽和複素環式基(該複素環は、もう1つの複素環または炭素環と縮合することが可能である)が挙げられうる。ここで挙げられるべき基は、特に、ピロリジン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、モルホリン、ピロール、フラン、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、クマロン、インドールおよびキノリンから誘導される基である。
【0040】
この場合、基Cysは、任意の環位置を介して、好ましくは、環炭素原子を介して、該アルカノンまたは該アルカノールに結合しうる。
【0041】
適当なCys基の具体例としては、2-チエニル、3-チエニル; 2-フラニル、3-フラニル; 2-ピリジル、3-ピリジルまたは4-ピリジル; 2-チアゾリル、4-チアゾリルまたは5-チアゾリル; 4-メチル-2-チエニル、3-エチル-2-チエニル、2-メチル-3-チエニル、4-プロピル-3-チエニル、5-n-ブチル-2-チエニル、4-メチル-3-チエニル、3-メチル-2-チエニル; 3-クロロ-2-チエニル、4-ブロモ-3-チエニル、2-ヨード-3-チエニル、5-ヨード-3-チエニル、4-フルオロ-2-チエニル、2-ブロモ-3-チエニルおよび4-クロロ-2-チエニルが挙げられる。
【0042】
基Cysは更に、一置換体または多置換体、例えば一置換体または二置換体でありうる。置換基は、好ましくは、環炭素原子上に位置する。適当な置換基の具体例としては、ハロゲン、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、-OH、-SH、-NO2またはNR2R3(ここで、R2およびR3は前記と同義である)、好ましくは、ハロゲンまたは低級アルキルが挙げられる。
【0043】
R1は、特に、ハロゲン、NR2R3またはNR2R3R4+X-(ここで、R2、R3またはR2、R3およびR4は、互いに独立して、Hまたは低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンであり、基R2、R3およびR4のいずれかは、好ましくはHである)である。適当な対イオンの具体例としては、例えば酸付加塩の製造から得られる酸アニオンが挙げられる。その具体例は、例えば、参照により本明細書に組み入れるEP-A-0 273 658に記載されている。基R1の好ましい具体例としては、特に、フッ素または塩素、およびNR2R3(ここで、R2およびR3は、同じであるか又は異なり、Hまたはメチル、エチルまたはn-プロピルである)が挙げられ、特に好ましくは、R1は塩素または-NHメチルである。
【0044】
C.L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する本発明の酵素は、特に、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.108)および3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.35)(Kleber HP (1997) FEMS Microbiology Letters 147 1-9も参照されたい)選ばれる。
【0045】
該L-カルニチンデヒドロゲナーゼ/ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼは、生物、特に微生物、例えば細菌、酵母または真菌において見出されうる。該酵素は、式IIのアルカノンの還元、例えば3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オンから3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールへの還元の高い酵素活性を有する。該デヒドロゲナーゼは同様に、例えば該ケトンのジメチル誘導体およびモノメチル化合物のような他の基質を変換する。
【0046】
好ましくは(ただし、限定的なものではなく)、この種の酵素は、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属およびアーケオグロブス(Archaeglobus)属の微生物から入手されうる。
【0047】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する好ましい酵素は配列番号2、3、4、5、6、7、8、9または10のアミノ酸配列を含む。
【0048】
本発明は同様に、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する具体的に開示されている酵素の「機能的等価体」、および本発明の方法におけるこれらの使用を含む。
【0049】
具体的に開示されている酵素の「機能的等価体」または類似体は、本発明の目的においては、該酵素とは異なるが所望の生物活性(例えば、基質特異性)を尚も保有するポリペプチドである。したがって、例えば、「機能的等価体」は、配列番号2〜10に記載のアミノ酸配列のいずれかを含む酵素の活性の少なくとも20%、好ましくは50%、特に好ましくは75%、非常に好ましくは90%を有する、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オンを対応S-アルコールに還元する酵素を意味する。さらに、機能的等価体は、好ましくは、pH4〜10で安定であり、有利には、pH5〜8の最適pHおよび20℃〜80℃の範囲の最適温度を有する。
【0050】
「機能的等価体」は、本発明においては、特に、前記アミノ酸配列の少なくとも1つの位置に、具体的に記載されているアミノ酸とは異なるアミノ酸を有するが前記生物活性の1つを尚も有する突然変異体をも意味する。したがって、「機能的等価体」は、1以上のアミノ酸の付加、置換、欠失および/または逆位により入手可能な突然変異体を含み、本発明の特性プロフィールを有する突然変異体を該修飾が与える限り、該修飾は任意の配列位置に存在することが可能である。特に、機能的等価体は、突然変異体と未修飾ポリペプチドとの間で反応性パターンが定性的に一致する場合(すなわち、例えば、同一基質が、異なる速度で変換される場合)にも存在する。
【0051】
また、前記の意味での「機能的等価体」としては、記載されているポリペプチドの前駆体ならびに該ポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」も挙げられる。
【0052】
この場合、「前駆体」は、所望の生物活性を有する又は有さないポリペプチドの天然および合成前駆体である。
【0053】
「塩」なる語は、カルボキシル基の塩だけではなく、本発明のタンパク質分子のアミノ基の酸付加塩をも意味する。カルボキシル基の塩は、自体公知の方法で製造することが可能であり、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛塩のような無機塩、ならびに例えばトリエタノールアミン、アルギニン、リシン、ピペリジンなどのアミンのような有機塩基との塩を含みうる。本発明は同様に、酸付加塩、例えば、塩酸または硫酸のような無機酸との塩ならびに酢酸およびシュウ酸のような有機酸との塩に関する。
【0054】
また、本発明のポリペプチドの「機能的誘導体」は同様に、アミノ酸側鎖官能基またはそのNもしくはC末端における誘導体として、公知技術により製造することが可能である。この種の誘導体には、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第1級もしくは第2級アミンとの反応により入手可能なカルボキシル基のアミド、アシル基との反応により製造される遊離アミノ基のN-アシル誘導体、あるいはアシル基との反応により製造される遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体が含まれる。
【0055】
また、「機能的等価体」は、もちろん、他の生物から入手可能なポリペプチドおよび天然に存在する変異体を含む。例えば、配列比較により相同配列領域を決定することが可能であり、本発明の特定の要件に基づき、等価な酵素を確定することが可能である。
【0056】
「機能的等価体」は同様に、例えば所望の生物学的機能を有する、本発明のポリペプチドの断片、好ましくは、個々のドメインまたは配列モチーフを含む。
【0057】
さらに、「機能的等価体」としては、任意の前記ポリペプチド配列またはそれに由来する機能的等価体と、それとは機能的に異なる少なくとも1つの他の異種配列とを、機能的N末端またはC末端連結で(すなわち、該融合タンパク質部分の実質的な互いの機能が損なわれることなく)有する融合タンパク質が挙げられる。この種の異種配列の非限定的な具体例としては、例えば、シグナルペプチドまたは酵素が挙げられる。
【0058】
本発明はまた、具体的に開示されているタンパク質のホモログである「機能的等価体」に関する。これらは、PearsonおよびLipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムによる計算で、具体的に開示されているアミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、特に少なくとも85%、例えば90%、95%または99%の相同性を有する。本発明の相同ポリペプチドの相同性(%)は、特に、本明細書に具体的に記載されているアミノ酸配列の1つの全長に対するアミノ酸残基の同一性(%)を意味する。
【0059】
タンパク質のグリコシル化が可能である場合には、本発明の「機能的等価体」は、前記タイプのタンパク質の脱グリコシル化またはグリコシル化形態、およびグリコシル化パターンの改変により入手可能な修飾形態を含む。
【0060】
本発明のタンパク質またはポリペプチドのホモログは、該タンパク質の突然変異誘発、例えば点突然変異またはトランケート化(末端切断)により製造することができる。
【0061】
本発明のタンパク質のホモログは、突然変異体(例えば、末端切断型突然変異体)の組合せライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。例えば、核酸レベルでの組合せ突然変異誘発により、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物の酵素的連結により、タンパク質変異体の多様化(variegated)ライブラリーを作製することが可能である。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在的ホモログのライブラリーを作製するためには、多数の方法を用いることができる。縮重遺伝子配列の化学合成をDNA合成装置において行うことが可能であり、ついで該合成遺伝子を適当な発現ベクター内に連結することができる。遺伝子の縮重セットの使用は、所望のセットの潜在的タンパク質配列をコードする全配列を1つの混合物において得ることを可能にする。縮重オリゴヌクレオチドの合成方法は当業者に公知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakuraら (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakuraら, (1984) Science 198:1056; Ikeら (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0062】
点突然変異または末端切断により作製された組合せライブラリーから遺伝子産物をスクリーニングするための、および選択された特性を有する遺伝子産物に関してcDNAライブラリーをスクリーニングするための多数の技術が、先行技術において開示されている。これらの技術は、本発明のホモログの組合せ突然変異誘発により作製された遺伝子ライブラリーの高速スクリーニングに応用することができる。ハイスループット分析に付される大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために最も頻繁に用いられる技術は、複製可能な発現ベクター内への遺伝子ライブラリーのクローニング、得られたベクターライブラリーでの適当な細胞の形質転換、および該組合せ遺伝子の発現(これは、所望の活性の検出が、検出産物の遺伝子をコードするベクターの単離を促進する条件下で行われる)を含む。該ライブラリー中の機能的突然変異体の度数を増加させる技術である反復アンサンブル突然変異誘発(recursive ensemble mutagenesis)(REM)を、ホモログを同定するためのスクリーニングアッセイと組合せて用いることができる(ArkinおよびYourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgraveら (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0063】
D.コード核酸配列
本発明においては、「発現」または「過剰発現」なる語は、微生物における、対応DNAによりコードされる1以上の酵素の細胞内活性の産生または増加を意味する。この目的には、例えば、遺伝子を生物内に導入し、既存の遺伝子を別の遺伝子により置換し、遺伝子のコピー数を増加させ、強力なプロモーターを使用し、または高い活性を有する対応酵素をコードする遺伝子を使用することが可能であり、適当な場合には、これらの手段を組合せることが可能である。
【0064】
本発明は、特に、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸配列に関する。配列番号1の配列を含む核酸配列、または配列番号2〜10のアミノ酸配列から誘導される核酸配列が好ましい。
【0065】
本明細書に記載の核酸配列のすべて(一本鎖および二本鎖のDNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)は、化学合成による自体公知の方法で、例えば、二本鎖の個々の重複相補的核酸ビルディングブロックの断片縮合により、ヌクレオチドビルディングブロックから製造することが可能である。オリゴヌクレオチドは、例えば、公知方法により、ホスホルアミジット法(Voet, Voet, 2nd Edition, Wiley Press New York, pages 896-897)により、化学合成することが可能である。合成オリゴヌクレオチドのアニーリング、およびDNAポリメラーゼのクレノウフラグメントを使用するギャップフィリングおよび連結反応、そしてまた、一般的なクローニング方法は、Sambrookら (1989), Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0066】
本発明はまた、前記ポリペプチドおよびそれらの機能的等価体(例えば、人工ヌクレオチド類似体を使用して入手可能なもの)のいずれかをコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖のDNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)に関する。
【0067】
本発明は、本発明のポリペプチドもしくはタンパク質をコードする単離された核酸分子または生物学的に活性なその断片、および例えば、本発明のコード核酸を同定または増幅するためのハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして使用しうる核酸断片の両方に関する。
【0068】
本発明の核酸分子は更に、該遺伝子のコード領域の3'および/または5'末端の非翻訳配列を含有しうる。
【0069】
本発明は更に、具体的に記載されているヌクレオチド配列に相補的な核酸分子または該核酸分子の断片を含む。
【0070】
本発明のヌクレオチド配列は、他の細胞型または生物における相同配列を同定および/またはクローニングするために使用しうるプローブおよびプライマーの作製を可能にする。そのようなプローブおよびプライマーは、通常、本発明の核酸配列のセンス鎖または対応アンチセンス鎖の少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、例えば約40、50または75個の連続したヌクレオチドに対して「ストリンジェント」な条件(後記を参照されたい)下でハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0071】
「単離された」核酸分子は、該核酸の天然源に存在する他の核酸分子から取り出されたものであり、さらに、それが組換え技術により製造された場合には、他の細胞物質または培地を実質的に含有しないもの、あるいはそれが化学合成された場合には、化学前駆体または他の化学物質を含有しないものでありうる。
【0072】
本発明の核酸分子は、分子生物学の標準的な技術と本発明により提供される配列情報とを用いて単離することができる。例えば、具体的に開示されている完全配列のいずれか又はその断片をハイブリダイゼーションプローブとして使用し、標準的なハイブリダイゼーション技術(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F.およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されているもの)を用いて、適当なcDNAライブラリーからcDNAを単離することができる。また、開示されている配列のいずれか又はその断片を含む核酸分子は、この配列に基づいて構築されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応により単離することが可能である。このようにして増幅された核酸を適当なベクター内にクローニングし、DNA配列分析により特徴づけることができる。さらに、本発明のオリゴヌクレオチドは、例えばDNA合成装置を使用する標準的な合成方法によっても製造することができる。
【0073】
本発明の核酸は、原則として、すべての生物において同定し単離することが可能である。有利には、本発明の核酸配列、例えば配列番号1またはそのホモログは、真菌、酵母または細菌から単離することが可能である。この場合、細菌としては、グラム陰性およびグラム陽性細菌が挙げられうる。好ましくはグラム陰性細菌から、有利にはαプロテオバクテリア、βプロテオバクテリアまたはγプロテオバクテリアから、特に好ましくはエンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科、シュードモナダセエ(Pseudomonadaceae)科およびリゾビアセエ(Rhizobiaceae)科の細菌から、非常に好ましくはアグロバクテリウム(Agrobacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属またはブルクホルデリア属(Burkholderia)の細菌から、当業者に公知の方法により、本発明の核酸を単離する。
【0074】
本発明の核酸配列、例えば配列番号1またはその誘導体、それらの配列のホモログまたは一部は、例えば一般的なハイブリダイゼーション法またはPCR技術を用いて、例えばゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーにより、他の真菌または細菌から単離することが可能である。これらのDNA配列は、標準的な条件下で本発明の配列にハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションには、当業者に公知の方法によりL-カルニチンデヒドロゲナーゼとの比較により同定されうる保存された領域(例えば、活性部位)の短いオリゴヌクレオチドを使用するのが有利である。しかし、本発明の核酸の、より長い断片、または完全配列を、ハイブリダイゼーションに使用することも可能である。前記の標準的な条件は、使用する核酸に応じて(オリゴヌクレオチド、より長い断片または完全配列)、またはハイブリダイゼーションに使用する核酸、DNAもしくはRNAのタイプに応じて様々である。例えば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融解温度より約10℃低い。
【0075】
標準的な条件は、例えば、核酸に応じて、0.1〜5×SSC(1×SSC = 0.15 M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH 7.2)の濃度のバッファー水溶液中の42〜58℃の温度、または更には、50% ホルムアミドの存在を伴うもの、例えば、5×SSC、50% ホルムアミド中、42℃を意味する。DNA:DNAハイブリッドに関するハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1×SSCおよび約20℃〜45℃、好ましくは約30℃〜45℃である。DNA:RNAハイブリッドに関するハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1×SSCおよび約30℃〜55℃、好ましくは約45℃〜55℃である。示されているこれらのハイブリダイゼーション温度は、例えば、ホルムアミドの非存在下で50%のG+C含量を有する約100ヌクレオチド長の核酸に関して求められた融解温度である。DNAハイブリダイゼーションのための実験的条件は、関連する遺伝学の教科書、例えばSambrookら, “Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989に記載されており、当業者に公知の式を使用して、例えば、核酸の長さ、ハイブリッドのタイプまたはG+C含量の関数として算出することが可能である。ハイブリダイゼーションに関する更なる情報は以下の教科書中に当業者により見出されうる:Ausubelら (編), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; HamesおよびHiggins (編), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown (編), 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford。
【0076】
本発明はまた、具体的に開示されている又は誘導可能な核酸配列の誘導体に関する。
したがって、本発明の更なる核酸配列を、例えば配列番号1から誘導することが可能であり、所望の特性プロフィールを有するポリペプチドを尚もコードするよう、それを1以上のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失により改変することが可能である。
【0077】
本発明はまた、特定の起源生物または宿主生物のコドン使用頻度に従い、具体的に記載されている配列と比較して修飾された又は「サイレント突然変異」を含む核酸配列、および天然に存在するそれらの変異体、例えばスプライス変異体または対立遺伝子変異体を含む。
【0078】
本発明はまた、保存的ヌクレオチド置換(すなわち、関心のあるアミノ酸が、同じ電荷、サイズ、極性および/または溶解度を有するアミノ酸により置換される)により入手可能な配列に関する。
【0079】
本発明はまた、具体的に開示されている核酸から、配列多型を介して誘導された分子に関する。これらの遺伝的多型は、自然変異により集団内の個体間で生じうる。これらの自然変異は、通常、遺伝子のヌクレオチド配列における1〜5%の分散を与える。
【0080】
配列番号1の配列を有する本発明の核酸配列の誘導体は、例えば、全配列領域に対して、推定されるアミノ酸レベルで少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%の相同性、非常に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する対立遺伝子変異体を意味する(アミノ酸レベルでの相同性に関しては、ポリペプチドに関する前記説明が参照されうる)。有利には、相同性は、配列の部分間では、より高い。
【0081】
さらに、誘導体はまた、本発明の核酸配列、特に配列番号1のホモログ、例えば真菌または細菌ホモログ、コードまたは非コードDNA配列の末端切断型配列、一本鎖DNAまたはRNAを意味する。例えば、DNAレベルでの配列番号1のホモログは、配列番号1に示されている全DNA領域に対して少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、非常に好ましくは少なくとも80%相同である。
【0082】
さらに、誘導体は、例えば、プロモーターとの融合体を意味する。該ヌクレオチド配列の上流に位置するプロモーターは、該プロモーターの機能性または効力に悪影響を及ぼすことなく1以上のヌクレオチドの置換、挿入、逆位および/または欠失により修飾されていることが可能である。さらに、該プロモーターの効力を、その配列を修飾することにより増強することが可能であり、あるいは、該プロモーターを、より効率的なプロモーター(異なる種の生物のプロモーターを含む)で完全に置換することが可能である。
【0083】
誘導体はまた、遺伝子発現および/またはタンパク質発現を修飾(好ましくは増強)するために開始コドンの上流の-1〜-1000塩基の領域内または終止コドンの0〜1000塩基下流の領域内のヌクレオチド配列が改変されている変異体を意味する。
【0084】
さらに、本発明はまた、「ストリンジェントな条件」下で前記コード配列にハイブリダイズする核酸配列を含む。これらのポリヌクレオチドは、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーのスクリーニングの際に同定することが可能であり、適当な場合には、適当なプライマーを使用するPCRにより、それから増幅し、ついで、例えば適当なプローブを使用して単離することが可能である。また、本発明のポリヌクレオチドは化学的に合成することも可能である。この特性は、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが、実質的に相補的な配列にはストリンジェントな条件下で結合しうるが、これらの条件下、非相補的相手との非特異的結合は認められないことを意味する。この目的には、該配列は70〜100%、好ましくは90〜100%相補的であるべきである。互いに特異的に結合しうる相補的配列の特性は、例えば、ノーザンまたはサザンブロット技術に、あるいはPCRまたはRT-PCRではプライマー結合に利用される。この目的には、通常、30塩基対以上の長さのオリゴヌクレオチドが使用される。ストリンジェントな条件は、例えばノーザンブロット技術においては、非特異的にハイブリダイズしたcDNAプローブまたはオリゴヌクレオチドを溶出するための洗浄溶液、例えば、0.1% SDSを含有する0.1×SSCバッファー(20×SSC: 3M NaCl, 0.3M クエン酸ナトリウム, pH 7.0)を50〜70℃、好ましくは60〜65℃の温度で使用することを意味する。この場合、前記のとおり、高度の相補性を有する核酸だけが互いに結合したまま残る。ストリンジェントな条件の設定は当業者に公知であり、例えば、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0085】
E.本発明の構築物
本発明は更に、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列を調節核酸配列の遺伝的制御下に含む発現構築物、および該発現構築物の少なくとも1つを含むベクターに関する。
【0086】
本発明のそのような構築物は、好ましくは、特定のコード配列の5'上流のプロモーターおよび3'下流のターミネーター配列、ならびに適当な場合には他の通常の調節要素(各場合に、該コード配列に機能しうる形で連結されている)を含む。
【0087】
「機能しうる形で連結」は、プロモーター、コード配列、ターミネーター、および適当な場合には他の調節要素が連続的に配置されていて、該調節要素のそれぞれが、該コード配列の発現においてその機能を果たしうるようにされていることを意味する。機能しうる形で連結されうる配列の具体例としては、標的化配列およびエンハンサー、ポリアデニル化シグナルなどが挙げられる。他の調節要素は、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などを含む。適当な調節配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0088】
本発明の核酸構築物は特に、有利には遺伝子発現の制御(例えば増強)のための1以上のシグナルに機能しうる形で又は機能的に連結された、配列番号1の配列を有するL-カルニチンデヒドロゲナーゼ遺伝子ならびにその誘導体およびホモログ、ならびに配列番号2〜10から誘導可能な核酸配列を意味する。
【0089】
これらの調節配列に加えて、該配列の天然調節が尚も、実際の構造遺伝子の上流に存在することが可能であり、適当な場合には、天然調節配列が遺伝的に修飾されていて天然調節が不活化されており該遺伝子の発現が増強されていることが可能である。しかし、該核酸構築物の構造が、より単純であること、すなわち、該コード配列(例えば、配列番号1またはそのホモログ)の上流に追加的な調節シグナルが挿入されておらず、天然プロモーターがその調節と共には除去されていないことも可能である。そうではなく、該天然調節配列が突然変異していて、もはや調節が行われず、遺伝子発現が増強されることも可能である。
【0090】
また、好ましい核酸構築物は、有利には、該核酸配列の発現の増強を可能にする、プロモーターに機能的に連結された既に記載されているエンハンサー配列の1以上を含む。追加的な有利な配列、例えば、更なる調節要素またはターミネーターが、DNA配列の3'末端に挿入されていることも可能である。本発明の核酸のコピーの1以上が該構築物中に存在しうる。該構築物はまた、適当な場合には、該構築物の選択のための、抗生物質耐性または栄養要求性相補遺伝子のような他のマーカーを含有しうる。
【0091】
本発明の方法のための有利な調節配列は、例えば、cos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、ara、rhaP(rhaPBAD)SP6、λ-PRまたはλ-PLプロモーター(これらはグラム陰性菌において有利に使用される)のようなプロモーター中に存在する。他の有利な調節配列は、例えば、グラム陽性プロモーターamyおよびSPO2、酵母プロモーターADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADH中に存在する。この点においては、ピルビン酸デカルボキシラーゼおよびメタノールオキシダーゼのプロモーター(例えば、ハンセヌラ(Hansenula)由来のもの)も有利である。人工的プロモーターを調節に使用することも可能である。
【0092】
該核酸構築物は、有利には、例えば該遺伝子の宿主内での最適な発現を可能にするプラスミドまたはファージのようなベクター内にそれを挿入することにより、宿主生物内で発現される。ベクターは、プラスミドおよびファージに加えて、当業者に公知の任意の他のベクター、すなわち例えばウイルス、例えばSV40、CMV、バキュロウイルスおよびアデノウイルス、トランスポゾン、IS要素、ファスミド、コスミド、および直鎖状または環状DNAを意味する。これらのベクターは宿主生物内で自律的に、または染色体内で複製されうる。これらのベクターは本発明のもう1つの実施形態を構成する。適当なプラスミドとしては、例えば、大腸菌(E. coli)においてはpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11またはpBdCI、ストレプトマイセス(Streptomyces)においてはpIJ101、pIJ364、pIJ702またはpIJ361、バシラス(Bacillus)においてはpUB110、pC194またはpBD214、コリネバクテリウム(Corynebacterium)においてはpSA77またはpAJ667、真菌においてはpALS1、pIL2またはpBB116、酵母においては2alphaM、pAG-1、YEp6、YEp13またはpEMBLYe23、あるいは植物においてはpLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004またはpDH51が挙げられる。記載されているプラスミドは、可能なプラスミドの一例に過ぎない。他のプラスミドは当業者によく知られており、例えば、書籍Cloning Vectors(Pouwels P. H.ら編, Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018)に記載されている。
【0093】
存在する更なる遺伝子の発現のためには、該核酸構築物は、有利には更に、選択される宿主生物および遺伝子に応じた最適発現のために選択される、発現を増強するための3'および/または5'末端調節配列を含む。
【0094】
これらの調節配列は該遺伝子の特異的発現およびタンパク質発現を可能にすることが意図されている。宿主生物に応じて、このことは、例えば、該遺伝子が誘導後においてのみ発現または過剰発現されること、あるいはそれが直ちに発現および/または過剰発現されることを意味しうる。
【0095】
調節配列または因子は、好ましくは、正の影響を及ぼし、したがって、導入された遺伝子の遺伝子発現を増強しうる。したがって、プロモーターおよび/またはエンハンサーのような強力な転写シグナルを使用することにより、調節要素を転写レベルで有利に増強することが可能である。しかし、また、例えば、mRNAの安定性を向上させることにより、翻訳を増強することも可能である。
【0096】
該ベクターのもう1つの実施形態においては、本発明の核酸構築物または本発明の核酸を含むベクターを、有利には、直鎖状DNAの形態で微生物内に導入し、非相同または相同組換えにより宿主生物のゲノム内に組込むことが可能である。この直鎖状DNAは、線状化ベクター、例えばプラスミドよりなることが可能であり、あるいは本発明の核酸構築物または核酸のみからなることが可能である。
【0097】
生物内での異種遺伝子の最適発現のためには、該生物において用いられる特定のコドン使用頻度に従い核酸配列を修飾することが有利である。コドン使用頻度は、関心のある生物の他の公知遺伝子のコンピューター評価に基づいて、容易に決定することが可能である。
【0098】
本発明の発現カセットは、適当なプロモーターを適当なコード化ヌクレオチド配列および終結シグナルまたはポリアデニル化シグナルに融合させることにより製造される。この目的には、組換え及びクローニングの通常の技術、例えば、T. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)ならびにT.J. Silhavy, M.L. BermanおよびL.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)ならびにAusubel, F.M.ら, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)に記載されているものを用いる。
【0099】
該組換え核酸構築物または遺伝子構築物を、該宿主内での該遺伝子の最適な発現を可能にする宿主特異的ベクター内にそれを有利に挿入することにより、適当な宿主生物において発現させる。ベクターは当業者によく知られており、例えば、“Cloning Vectors”(Pouwels P. H.ら編, Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)に記載されている。
【0100】
F.本発明において使用可能な宿主
本発明のベクターは、例えば本発明の少なくとも1つのベクターで形質転換された組換え微生物を製造するために使用することが可能であり、本発明のポリペプチドを製造するために使用することができる。前記の本発明の組換え構築物は、適当な宿主系内に有利に導入され発現される。この場合、記載されている核酸を個々の発現系において発現させるためには、当業者によく知られたクローニングおよびトランスフェクション法、例えば、共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどを用いることが好ましい。適当な系は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubelら編, Wiley Interscience, New York 1997またはSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0101】
また、本発明では、相同組換えにより微生物を製造することも可能である。この目的には、コード配列または本発明の遺伝子の断片の少なくとも1つを含有し、適当な場合には、本発明の配列を修飾するために(例えば機能的に破壊するために)少なくとも1つのアミノ酸の欠失、付加または置換が導入されているベクター(「ノックアウト」ベクター)を製造する。また、導入される配列は、例えば、関連微生物由来のホモログであることが可能であり、あるいは哺乳類、酵母または昆虫に由来するものでありうる。あるいは、内因性遺伝子が相同組換え中に突然変異したり修飾されるが尚も機能的タンパク質をコードするよう、相同組換えに使用するベクターを設計することが可能である(例えば、上流に位置する調節領域が修飾されていて、これが該内因性タンパク質の発現を修飾するようにすることが可能である)。本発明の遺伝子の修飾部分は相同組換えベクター内に存在する。相同組換えのための適当なベクターの構築は、例えば、Thomas, K.R.およびCapecchi, M.R. (1987) Cell 51:503に記載されている。
【0102】
本発明の核酸または核酸構築物のための適当な組換え宿主生物は、原則として、すべての原核または真核生物である。有利に使用される宿主生物としては、微生物、例えば細菌、真菌または酵母が挙げられる。有利に使用されるのはグラム陽性またはグラム陰性細菌、好ましくは、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科、シュードモナダセエ(Pseudomonadaceae)科、リゾビアセエ(Rhizobiaceae)科、ストレプトマイセタセエ(Streptomycetaceae)科およびノカルジアセエ(Nocardiaceae)科、特に好ましくは、エシェリキア(Escherichia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ノカルジア(Nocardia)属、ブルクホルデリア(Burkholderia)属、サルモネラ(Salmonella)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属およびロドコッカス(Rhodococcus)属の細菌である。大腸菌(Escherichia coli)属および種が非常に好ましい。また、さらなる有利な細菌は、αプロテオバクテリア、βプロテオバクテリアまたはγプロテオバクテリアの群において見出されうる。
【0103】
本発明の宿主生物は、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素(Kleber HP (1997) FEMS Microbiology, 147, 1-9)をコードし本明細書に記載されている核酸配列、核酸構築物またはベクターの少なくとも1つを含む。
【0104】
宿主生物に応じて、本発明の方法において使用する生物を、当業者に公知の方法により培養し又は成長させる。通常、微生物を、通常は糖の形態の炭素源、通常は有機窒素源(例えば、酵母エキス)または塩(例えば、硫酸アンモニウム)の形態の窒素源、微量元素、例えば鉄、マンガン、マグネシウムの塩、および適当な場合にはビタミンを含む液体培地中、酸素を通過させながら、0℃〜100℃、好ましくは10℃〜60℃の温度で増殖させる。その場合、培養中に該栄養液のpHを一定に維持してもよい(すなわち、調節しても調節しなくてもよい)。培養は、バッチ法、半バッチ法(semibatchwise)または連続的方法により行うことが可能である。栄養素は、発酵の開始時に導入し、または半連続的もしくは連続的に供給することが可能である。該ケトンは、該培養に直接的に加え、または有利には、培養後に加えることが可能である。該酵素は、実施例に記載されている方法により該生物から単離し、または粗抽出物として該反応に使用することが可能である。
【0105】
宿主生物は、有利には1U/l、好ましくは100U/l、特に好ましくは1000U/l以上の酵素活性、例えばL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を含有する。
【0106】
G.該ポリペプチドの組換え的製造
本発明は更に、本発明のポリペプチドまたはその機能的な生物学的に活性な断片の組換え的製造方法に関する。該製造方法においては、ポリペプチド産生微生物を培養し、適当な場合には該ポリペプチドの発現を誘導し、それを該培養から単離する。所望により、このような方法により、工業的規模でも該ポリペプチドを製造することが可能である。
【0107】
該組換え微生物は公知方法により培養し発酵することができる。例えば、TBまたはLB培地中、20〜40℃の温度および6〜9のpHで細菌を増殖させることができる。適当な培養条件は、例えば、T. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)に詳細に記載されている。
【0108】
該ポリペプチドが培地に分泌されない場合には、ついで細胞を破壊し、公知のタンパク質単離方法によりライセートから産物を得る。細胞は、高周波超音波により、高圧(例えば、フレンチプレスにおけるもの)により、浸透圧分解(osmolysis)により、界面活性剤、溶菌酵素もしくは有機溶媒の作用により、ホモジナイザーにより又は記載されている2以上の方法の組合せにより破壊することが可能である。
【0109】
該ポリペプチドは、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、例えばQ-セファロースクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーのような公知クロマトグラフィー法、ならびに限外濾過、結晶化、塩析、透析および自然ゲル電気泳動のような他の通常の方法により精製することができる。適当な方法は、例えばCooper, T. G., Biochemische Arbeitsmethoden [The Tools of Biochemistry], Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New YorkまたはScopes, R., Protein Purification, Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
【0110】
例えば、特定のヌクレオチド配列によりcDNAを伸長させて、精製の単純化のための修飾ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードするベクター系またはオリゴヌクレオチドを使用することにより、該組換えタンパク質を単離するのが有利かもしれない。この種の適当な修飾体としては、例えば、ヘキサヒスチジンアンカーとして公知の修飾体のようなアンカーとして作用する「タグ」、または抗体により抗原として認識されうるエピトープ(例えば、Harlow, E.およびLane, D., 1988, Antibodies: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor (N.Y.) Pressに記載されている)が挙げられる。これらのアンカーは、例えばクロマトグラフィーカラムに充填されうる高分子マトリックスのような固相支持体に該タンパク質を結合させるために使用することが可能であり、あるいはマイクロタイタープレートまたは別の支持体上で使用することができる。
【0111】
同時に、これらのアンカーは、該タンパク質を同定するためにも使用することができる。さらに、蛍光色素、検出可能な反応産物を基質との反応後に形成する酵素標識または放射能標識のような通常の標識を、単独で又は該アンカーと組合せて使用して、該タンパク質を同定し、該タンパク質を誘導体化することが可能である。
【0112】
H.(S)-アルカノールを製造するための本発明の方法の実施
本発明の方法においては、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素、例えばカルニチンデヒドロゲナーゼまたはヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼを、遊離または固定化酵素として使用することが可能である。
【0113】
本発明の方法は、有利には、0℃〜95℃、好ましくは10℃〜85℃、特に好ましくは15℃〜75℃の温度で行う。
【0114】
本発明の方法におけるpHは、有利にはpH 4〜12、好ましくはpH 4.5〜9、特に好ましくはpH 5〜8に維持する。
【0115】
本発明の方法においては、エナンチオ的に純粋な又はキラルな生成物、例えば3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールは、一方のエナンチオマーの富化を示すエナンチオマーを意味する。好ましくは、該方法は、少なくとも70%ee、好ましくは少なくとも80%ee、特に好ましくは少なくとも90%ee、非常に好ましくは少なくとも98%eeの鏡像体純度を達成する。
【0116】
本発明の方法には、本発明の核酸、核酸構築物またはベクターを含む増殖中の細胞を使用することが可能である。静止中の細胞または破壊された細胞を使用することも可能である。破壊された細胞は、例えば溶媒での処理により透過性にされた細胞、または酵素処理、機械的処理(例えば、フレンチプレスまたは超音波)もしくはその他の方法により破裂した細胞を意味する。このようにして得られた粗抽出物は、有利には、本発明の方法に適している。該方法には、精製または部分精製された酵素を使用することも可能である。同様に、該反応において有利に使用されうる固定化された微生物または酵素も適している。
【0117】
遊離した生物または酵素を本発明の方法に使用する場合には、適切には、抽出の前に、これらを例えば濾過または遠心分離により除去する。
【0118】
本発明の方法において製造された生成物、例えば3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールは、有利には、水性反応溶液から、抽出または蒸留により、あるいは抽出および蒸留により単離することが可能である。該抽出を数回繰返して収量を増加させることが可能である。適当な抽出剤の具体例としては、トルエン、塩化メチレン、酢酸ブチル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、MTBEまたは酢酸エチルのような溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
有機相の濃縮後、通常、良好な化学純度、すなわち、80%を超える化学純度で生成物を得ることが可能である。しかし、抽出後、生成物を含有する有機相を単に部分的に濃縮し、生成物を晶出させることも可能である。この目的には、該溶液を、有利には、0℃〜10℃の温度に冷却する。また、有機溶液または水溶液からから直接的に晶出を行うことも可能である。晶出生成物を再び、晶出のために、同じ又は異なる溶媒に取り込ませ、再び晶出させることが可能である。さらに必要に応じて、生成物の鏡像体純度を増加させるために、後続の有利な晶出を少なくとも1回行うことが可能である。
【0120】
記載されている後処理の方法により、本発明の方法の生成物を、該反応に使用した基質(例えば、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オン)に対して60〜100%、好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%の収率で単離することが可能である。単離された生成物は、>90%、好ましくは>95%、特に好ましくは>98%の高い化学純度により特徴づけられる。さらに、該生成物は、高い鏡像体純度を有し、これは、有利には、必要に応じて、該晶出により更に増加させることが可能である。
【0121】
本発明の方法は、バッチ法、半バッチ法または連続的方法により行うことが可能である。
該方法は、有利には、例えばBiotechnology, Volume 3, 2nd Edition, Rehm etら編, (1993), 特にChapter IIに記載されているバイオリアクターにおいて行うことが可能である。
【0122】
前記の説明および後記の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎない。本発明は同様に、当業者に明らかな多数の可能な修飾を含む。
【実施例】
【0123】
実験セクション
実施例1:
PCR増幅によるカルニチンデヒドロゲナーゼまたはヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼのクローニング
アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、メソリゾビウム(Mesorhizobium)およびリゾビウム(Rhizobium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属ならびにアーケオグロブス(Archaeglobus)属から選ばれる細菌を25mlの複合培地(例えば、HFP = 1% ペプトン、1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、0.3% NaCl)内で1〜3日間培養し、回収し、バッファー中で洗浄し、再懸濁させ(5mlの50mM Tris pH 7.0)、QiagenのQIAGENゲノムチップシステムを使用してゲノムDNAを調製した。ついでカルニチンデヒドロゲナーゼおよび3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ遺伝子をPCRにより増幅した。この目的には、配列番号2〜10のデヒドロゲナーゼ配列に属する、当業者に入手可能なDNA配列を該N末端およびC末端(それぞれの場合において25〜30bp)から選択し、所望により、クローニングのための制限切断部位をそれに連結し、対応するオリゴヌクレオチドを合成した。Pfuポリメラーゼ(Stratagene)またはTaqポリメラーゼ(Roche)を使用して、PCR反応を行った。例えば、このPCR反応のために、以下の温度設定を行った:95℃で3分間;95℃で45秒間、55℃で45秒間および72℃で2分50秒間の30サイクル;最初の使用まで4℃で保存。すべてのPCR産物をアガロースゲル電気泳動(E-Gel, Invitrogen)およびカラムクロマトグラフィー(GFX-Kit, Pharmacia)により精製した。pBluescript KSII、pKK223-3およびpDHE19.2のようなベクター内へのクローニングを、Maniatis T, Fritsch EFおよびSambrook J (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (NY)に従い、適当な制限消化および連結により行った。Taq-PCR産物をpBADtopoベクター内に直接的にクローニングした。使用した適当な宿主生物は大腸菌(E. coli)XL1BおよびTG1(Stratagene)であった。
【0124】
実施例2:
増殖選択によるカルニチンデヒドロゲナーゼまたはヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼのクローニング
実施例1に記載の属の生物、ならびに他の細菌、酵母および真菌、ならびに土壌サンプルからの分離体、ならびに土壌サンプルからのDNAのクローニングにより調製した大腸菌(E. coli)遺伝子ライブラリーを、カルニチンまたはメチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールを含有する適当な最少培地(例えば、1% D,L-カルニチン、0.2% K2HPO4、0.05% MgSO4・7 H2O、0.05% 酵母エキス)上にストリッピングし、あるいは液体培地内でインキュベートし、1日後、3日後、1週間に1回、または1ヵ月後、接種により新鮮な培地に(反復的に)移した。このようにして増殖した生物を単コロニーの形態で又はセルソーター内での分取により分離した。それらは、唯一の炭素および/または窒素源としてのカルニチンまたはメチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノール上で増殖する能力を示した。PCR増幅(実施例1によるもの)により新規組換えデヒドロゲナーゼ株を作製するために得られた株を使用することが可能であった。
【0125】
実施例3:
メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールの変換
実施例1および2において得られた株のバイオマスを、適当な誘導物質(例えば、0.5mM IPTG、2g/L ラムノース、カルニチン)の存在下の培養後に回収し、バッファー(例えば、50mM Tris-HCl pH 7.0)中で洗浄し、再懸濁させ、静止細胞をNADHまたはNADPH(0.1〜5mM)、1.6mg〜50mgのメチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールおよびグルコースとイソプロパノールとのいずれか(1〜100mol当量)(反応混合物1ml当たり)と混合し、30℃で1〜24時間インキュベートした。該反応を340nmの吸光度の減少またはHPLC分析によりモニターした。該株は0〜100 U/lの活性を有していた。
【配列表】
























【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

[式中、
nは、0〜5の整数である;
Cycは、置換されていない又は置換された単環式または多環式の飽和または不飽和の炭素環または複素環である;
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-(ここで、R2、R3およびR4は、互いに独立して、Hまたは低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである)である]
の置換(S)-アルカノールの、微生物による製造方法であって、式II
【化2】

(式中、n、CycおよびR1は前記と同義である)のアルカノンを含有する培地中、
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を培養し、または
b)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をインキュベートし、
これにより式IIの化合物を酵素により還元して式Iの化合物を得、生じた生成物を単離することを含んでなる方法。
【請求項2】
式III
【化3】

の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールを製造するための方法であって、式IV
【化4】

の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-2-オンを含有する培地中、該化合物を酵素により還元して式IIIの化合物を得、生じた(エナンチオ的に実質的に純粋な)生成物を単離する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がL-カルニチンデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.108)および3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.35)から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属およびアーケオグロブス(Archaeglobus)属の微生物の酵素から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされる酵素、およびL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、該酵素の機能的等価体から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が配列番号1の核酸配列またはその機能的等価体によりコードされる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
還元等価体の添加を伴って、または消費された還元等価体が再生される条件下で反応を行う、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科、シュードモナダセエ(Pseudomonadaceae)科、リゾビアセエ(Rhizobiaceae)科、ストレプトマイセタセエ(Streptomycetaceae)科およびノカルジアセエ(Nocardiaceae)科の細菌から選ばれる微生物の存在下で式IIの化合物を反応させる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
微生物が、請求項3〜6のいずれか1項記載のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸構築物で形質転換された組換え微生物である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を天然源から分離し、または組換え的に製造し、
b)該微生物を増殖させ、
c)適当な場合には、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を該微生物から単離し、または該酵素を含有するタンパク質画分を該微生物から製造し、
d)工程b)の微生物または工程c)の酵素を、式Iの化合物を含有する培地内に移す、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
式V
【化5】

(式中、n、CycおよびR1は前記と同義であり、Arは単環式または多環式の置換されていない又は置換された芳香族基である)の化合物の製造方法であって、
a)まず、式Iの化合物を前記請求項のいずれか1項記載の方法により微生物により製造し、
b)式Iの化合物を式VI
Ar-Y (VI)
(式中、Arは前記と同義であり、Yは脱離基である)の芳香族化合物と反応させ、
c)式Vの化合物を単離することを含んでなる方法。
【請求項12】
Arが1-ナフチルであり、Cycが2-チエニルであり、R1がモノメチルアミノであり、nが1である式Vの化合物を製造する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされるポリペプチド、およびL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、これらの酵素の機能的等価体。
【請求項14】
請求項13記載のポリペプチドをコードする配列を含んでなる核酸配列。
【請求項15】
少なくとも1つの調節核酸配列に機能しうる形で連結された請求項14記載の核酸配列を含んでなる発現カセット。
【請求項16】
請求項15記載の少なくとも1つの発現カセットを含んでなる組換えベクター。
【請求項17】
請求項16記載の少なくとも1つのベクターで形質転換された原核性または真核性宿主。
【請求項18】
式IまたはIIIの化合物を製造するための、請求項3〜6のいずれか1項記載のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素または該酵素を産生する微生物の使用。
【請求項19】
デュロキセチン(Duloxetine)を製造するための、請求項18記載の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

[式中、
nは、0〜5の整数である;
Cycは、置換されていない又は置換された単環式または多環式の飽和または不飽和の炭素環または複素環である;
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-(ここで、R2、R3およびR4は、互いに独立して、Hまたは低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである)である]
の置換(S)-アルカノールの、微生物による製造方法であって、式II
【化2】

(式中、n、CycおよびR1は前記と同義である)のアルカノンを含有する培地中、
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を培養し、または
b)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をインキュベートし、
これにより式IIの化合物を酵素により還元して式Iの化合物を得、生じた生成物を単離することを含んでなる方法。
【請求項2】
式Iの化合物を製造するための方法であって、nおよびR1は前記と同義であり、Cycは適当な場合には置換された単環式の飽和または不飽和の炭素環または複素環である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式III
【化3】

の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールを製造するための方法であって、式IV
【化4】

の3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-2-オンを含有する培地中、該化合物を酵素により還元して式IIIの化合物を得、生じた(エナンチオ的に実質的に純粋な)生成物を単離する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がL-カルニチンデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.108)および3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.35)から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属およびアーケオグロブス(Archaeglobus)属の微生物の酵素から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされる酵素、およびL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、該酵素の機能的等価体から選ばれる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素が配列番号1の核酸配列またはその機能的等価体によりコードされる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
還元等価体の添加を伴って、または消費された還元等価体が再生される条件下で反応を行う、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科、シュードモナダセエ(Pseudomonadaceae)科、リゾビアセエ(Rhizobiaceae)科、ストレプトマイセタセエ(Streptomycetaceae)科およびノカルジアセエ(Nocardiaceae)科の細菌から選ばれる微生物の存在下で式IIの化合物を反応させる、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
微生物が、請求項4〜7のいずれか1項記載のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸構築物で形質転換された組換え微生物である、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
a)L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を産生する微生物を天然源から分離し、または組換え的に製造し、
b)該微生物を増殖させ、
c)適当な場合には、L-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を該微生物から単離し、または該酵素を含有するタンパク質画分を該微生物から製造し、
d)工程b)の微生物または工程c)の酵素を、式Iの化合物を含有する培地内に移す、前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
式V
【化5】

(式中、n、CycおよびR1は前記と同義であり、Arは単環式または多環式の置換されていない又は置換された芳香族基である)の化合物の製造方法であって、
a)まず、式Iの化合物を前記請求項のいずれか1項記載の方法により微生物により製造し、
b)式Iの化合物を式VI
Ar-Y (VI)
(式中、Arは前記と同義であり、Yは脱離基である)の芳香族化合物と反応させ、
c)式Vの化合物を単離することを含んでなる方法。
【請求項13】
Arが1-ナフチルであり、Cycが2-チエニルであり、R1がモノメチルアミノであり、nが1である式Vの化合物を製造する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
配列番号2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のアミノ酸配列を含むか又はそれらから誘導される核酸配列によりコードされるポリペプチド、またはL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有し式Iの化合物のエナンチオ選択的合成を触媒する、これらの酵素の機能的等価体の、式Iの置換(S)-アルカノールの微生物または酵素による合成のための使用。
【請求項15】
請求項14記載のポリペプチドをコードする核酸配列;または、少なくとも1つの調節核酸配列に機能しうる形で連結された該コーディング核酸配列を含んで成る発現カセット;または、少なくとも1つの該発現カセットを含んで成る、組換え原核性または真核性宿主を製造するための組換えベクターの、式IまたはIIIの置換(S)-アルカノールの微生物による合成のための使用。
【請求項16】
式IまたはIIIの化合物を製造するための、請求項4〜7のいずれか1項記載のL-カルニチンデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素または該酵素を産生する微生物の使用。
【請求項17】
デュロキセチン(Duloxetine)を製造するための、請求項16記載の使用。

【公表番号】特表2006−521800(P2006−521800A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505019(P2006−505019)
【出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003655
【国際公開番号】WO2004/090094
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】