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L−カルノシンの精製方法
説明

L−カルノシンの精製方法

【課題】 医薬品や健康食品などに有用なL−カルノシンを簡便に、しかも高効率、高収率、高純度で製造する方法を提供する。
【解決手段】 L−カルノシンが溶解した水溶液から水を濃縮することにより、L−カルノシンンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液とした後、得られたスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成し、次いで、該スラリー溶液とアルコールとを混合した後、L−カルノシンの結晶を取り出すことを特徴とするL−カルノシンの精製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−カルノシンの水溶液を水とアルコールにより精製する新規な精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−カルノシンは、β−アラニンとL−ヒスチジンから合成されるジペプチドであり、組織修復促進作用、免疫調整作用、抗炎症作用を有していることから、医薬品や健康食品などの需要が高まっている。また、容易に金属とキレート結合をつくることから、亜鉛と錯形成したポラプレジンクなどの抗潰瘍薬、味覚障害治療薬へ応用されている。これら医薬品に使用されるL−カルノシンは高純度のものでなければならず、一般的には99.5%以上の純度が要求される。
【0003】
前記の通り、L−カルノシンは、通常、β−アラニン又はその誘導体と、L−ヒスチジン又はその誘導体とを原料として合成されるが、この反応により得られる粗L−カルノシンは、水とアルコールの混合溶媒により再結晶する方法が知られている(例えば、非特許文献1、2、及び3)。
【0004】
しかしながら、L−カルノシンを合成した際に含まれる不純物は、極性などがL−カルノシンと非常に近いため、精製が困難であった。例えば、前記非特許文献3に記載の方法では、99.9%と非常に純度の高いL−カルノシンが得られるが、収率65%程度と低収率であった。
【0005】
本発明者は、上記の低収率の点を改善するため、粗L−カルノシンの水溶液とアルコールとの混合溶液に、種結晶を加えて特定の温度で熟成(ripening)させ、さらにアルコールを加えることにより、高純度のL−カルノシンを製造する方法を提案した(特許文献1参照)。この方法によれば、高収率で高純度のL−カルノシンを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−31328号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ケミカル アンド ファーマシューティカル ブレティン(Chemical and Pharmaceutical Bulletin) 38 (11) p3140−3146 (1990)
【非特許文献2】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry) 48 p393−395 (1983)
【非特許文献3】ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイアティ(Journal of the American Chemical Society)(75) p2511−2512 (1953)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アルコール、及び種結晶を加えてL−カルノシンの結晶を析出させているため、使用する全溶媒量が多くなること、および使用する溶媒量が多いため、特定の温度で熟成する際のエネルギーコストが高くなるといった点で改善の余地があった。そのため、工業的な生産を考慮すると、上記方法よりも更に効率よく、高収率で高純度のL−カルノシンを製造する方法の開発が望まれていた。
【0009】
したがって、本発明の目的は、比較的少ない溶媒の使用量であっても、高収率で高純度のL−カルノシンとすることができる精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、L−カルノシンが溶解している水溶液から直接、L−カルノシンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液を調製し、得られたスラリー溶液を熟成処理した後、アルコールを混合してL−カルノシンの結晶を分取することにより、使用する溶媒の量を低減することができ、効率よく、高収率で高純度のL−カルノシンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、L−カルノシンが溶解した水溶液から水を濃縮することにより、L−カルノシンンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液とした後、得られたスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成し、次いで、該スラリー溶液とアルコールとを混合した後、L−カルノシンの結晶を取り出すことを特徴とするL−カルノシンの精製方法である。
【0012】
本発明において、より高純度のL−カルノシンを得るためには、熟成処理後のスラリー溶液とアルコールとを混合した後、得られたスラリー混合溶液を50℃以上70℃以下の温度で0.1時間以上5時間以下熟成することが好ましい。また、より短時間で高純度のL−カルノシンを高収率で得るためには、30℃以上80℃以下の温度で前記水溶液を濃縮してスラリー溶液を調整することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明において、精製の対象となるL−カルノシンは、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドと、トリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンとを反応させて得られたフタロイル−L−カルノシンをヒドラジンにより脱保護して得られたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用する溶媒量を低減しても、高収率で高純度のL−カルノシンを得ることができる。そのため、特に大量のL−カルノシンを精製する場合において、容量を小さくすることができるため、工業的なL−カルノシンの精製に特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、L−カルノシンが溶解した水溶液から水を濃縮してL−カルノシンンの結晶を析出させて、L−カルノシンのスラリー溶液(スラリー調製工程)とした後、得られたスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成(第一熟成工程)し、次いで、該スラリー溶液とアルコールとを混合した後、L−カルノシンの結晶を取り出すことにより、L−カルノシンを精製(精製工程)する方法である。以下、順を追って説明する。先ず、精製の対象となるL−カルノシンについて説明する。
【0016】
(精製の対象となるL−カルノシン(粗L−カルノシン))
本発明において、精製の対象となるL−カルノシン(以下、粗L−カルノシンとする場合もある)は、特に制限されるものではなく、公知の方法、例えば、β−アラニン又はその誘導体と、L−ヒスチジン又はその誘導体とを原料として合成する方法により製造できる。中でも、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドと、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンによりトリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンとを反応させ、フタロイル−L−カルノシンを得、これをヒドラジンで還元、脱保護して得られる粗L−カルノシンが好適に使用できる。このような方法で得られる粗L−カルノシンは、ヒスチジンからの収率が90%と非常に高く、本発明の方法で精製する前の純度を97.0%以上と高くすることができる(なお、本発明において、L−カルノシンの純度は、高速液クロマトグラフィー(HPLC)で測定したピーク面積を基準とした純度である。)。この方法は、Dokladi na Bulgarskata Akademiya na Naukite 44 (8) p53−56 (1991)に記載されている。この方法の概要を以下に説明する。
【0017】
粗L−カルノシンの原料となるフタロイル−β−アラニンは、公知の方法で製造することができ、試薬、又は工業用原料を使用することができる。また、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドは、該フタロイル−β−アラニンと二塩化オキサリル、又は塩化チオニルとを反応させることにより製造できる。この反応は、芳香族炭化水素溶媒、またはハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒中、還流温度下、フタロイル−β−アラニンと、フタロイル−β−アラニンに対して1〜30当量の二塩化オキサリル、又は塩化チオニルを混合することにより実施できる。また、該反応は、無溶媒下、20〜100℃の温度で実施することもできる。反応後は、必要に応じて使用した溶媒、二塩化オキサリル、又は塩化チオニルを除去してやればよい。こうすることにより、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドを製造することができる。
【0018】
また、トリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンは、以下の方法で合成できる。具体的には、硫酸触媒下、L−ヒスチジンと、該L−ヒスチジンに対して3〜30当量の1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンとを還流温度で反応させ、pH調整をした後、芳香族炭化水素溶媒を加え、溶媒を留去し、ハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒で再結晶することにより、トリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンを合成することができる。
【0019】
次に、粗L−カルノシンは、上記方法により得られたフタロイル−β−アラニンの酸クロライドとトリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンとを反応させた後、得られたフタロイル−L−カルノシンをヒドラジンで脱保護することにより合成できる。具体的には、先ず、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドとトリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンとをハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒中で反応させてフタロイル−L−カルノシン塩酸塩とする。次に、アルコール中、該フタロイル−L−カルノシン塩酸塩をアルカリ、例えば、水酸化リチウム1水和物などで中和して、フタロイル−L−カルノシンとする。さらに、得られたフタロイル−L−カルノシンを、水中、ヒドラジン(ヒドラジンの水和物であってもよい)で脱保護し、酢酸を混合することにより、反応液中にL−カルノシンを合成することができる。
【0020】
本発明においては、上記反応液をそのまま、下記に詳述する「L−カルノシンが溶解した水溶液」として使用することもできるが、より高純度のL−カルノシンとするためには、該反応液中から脱離した保護基由来の不純物(フタルヒドラジド)をなるべく低減しておくことが好ましい。フタルヒドラジドを低減するには、該反応溶液を冷却すると、先ずフタルヒドラジドが固体として析出するため、この析出したフタルヒドラジドを濾別してやればよい。該固体を濾別して得られた反応液は、そのまま「L−カルノシンが溶解した水溶液」として使用することもできるし、該反応液に、さらに水を混合してL−カルノシンの濃度を調節して、「L−カルノシンが溶解した水溶液」することもできる。このように反応液から粗L−カルノシンを単離しない場合には、上記「L−カルノシンが溶解した水溶液」が精製の対象となる。
【0021】
また、当然のことながら、フタルヒドラジドを低減した反応液を濃縮、冷却、または該反応液とアルコールとを混合することにより、粗L−カルノシンの結晶を析出させて、一旦、粗L−カルノシンを単離してもよい。この単離した粗L−カルノシンは、再度、水と混合することにより、「L−カルノシンが溶解した水溶液」とすることができる。中でも、最終的に得られるL−カルノシンの純度をより高めるには、該反応液とアルコール(例えば、下記に詳述する炭素数1〜4のアルコール)とを混合して粗L−カルノシンの結晶を析出させて、一旦、粗L−カルノシンを単離した後、単離した粗L−カルノシンを水と混合して、「L−カルノシンが溶解した水溶液」とすることが好ましい。
【0022】
なお、フタルヒドラジンを低減した反応液から得られる粗L−カルノシンは、通常、95〜98%程度の純度を有する。
【0023】
本発明においては、上記方法により得られた「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮することにより、L−カルノシンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液(スラリー調製工程)とすればよい。ただし、より純度の高いL−カルノシンとするために、「L−カルノシンが溶解した水溶液」を活性炭で精製処理することもできる。なお、本発明によれば、活性炭による精製処理を行わなくとも、十分に純度の高いL−カルノシンを製造できるが、該活性炭による精製処理を行う場合には、特開2007−31328号公報(特許文献1)の方法に準じて行えばよい。
【0024】
次に、「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮することにより、L−カルノシンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液とするスラリー調製工程について説明する。
【0025】
(スラリー調製工程)
本発明においては、上記「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮することにより、L−カルノシンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液とすることが重要である。L−カルノシンの水溶液としない場合、例えば、単離した粗L−カルノシンと混合する水の量が少なく、水溶液とはならずにスラリー溶液とする場合、下記に詳述する熟成処理、及びアルコールとの混合を行ったとしても、純度の高いL−カルノシンを得ることができない。
【0026】
また、「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮することなく、単に冷却することにより、L−カルノシンのスラリー溶液とした場合には、最終的に得られるL−カルノシンの収率が低下してしまうため好ましくない。
【0027】
本発明において、「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮する方法は、特に制限されるものではないが、精製時間の短縮、分解物の低減等を考慮すると、該水溶液の温度を30℃以上80℃以下として水を濃縮することが好ましく、さらに40℃以上70以下として水を濃縮することが好ましい。また、この際、減圧濃縮することが好ましい。該温度範囲で水の濃縮を行うことにより、下記に詳述する熟成処理も同時に行われるものと考えられ、より一層、精製時間を短縮することができる。
【0028】
本発明において、「L−カルノシンが溶解した水溶液」から水を濃縮して得られるL−カルノシンのスラリー溶液は、下記に詳述する熟成処理において、L−カルノシンが水に完全に溶解しない状態の濃度とすればよい。L−カルノシンの結晶が析出しているかどうかは、目視により確認できる。中でも、得られるL−カルノシンを高純度化し、収率を高めるには、粗L−カルノシン1gに対して、水の量が1.50ml以上2.00ml以下となる濃度のスラリー溶液とすることが好ましい。
【0029】
次に、本発明においては、このような方法で得られたスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成する第一熟成工程を行う。この第一熟成工程について説明する。
【0030】
(第一熟成工程)
本発明においては、上記方法で得られたL−カルノシンのスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成する(第一熟成工程)ことが重要である。この熟成とは、0.1時間以上10時間以下の間、該スラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度範囲で保持してやればよい。この第一熟成工程を実施することにより、高純度のL−カルノシンを得ることができる。
【0031】
本発明において、第一熟成工程を実施する間、スラリー溶液は、静置しておくこともできるし、攪拌しておくこともできる。中でも、より純度を高めるには、第一熟成工程の間は、スラリー溶液を攪拌しておくことが好ましい。
【0032】
第一熟成工程において、スラリー溶液の温度(熟成温度)は、30℃以上80℃以下でなければならない。30℃未満の場合には、純度の高いL−カルノシンが得られないため好ましくない。一方、80℃を超える場合には、L−カルノシンの分解が生じるおそれがあるため好ましくない。より高収率で高純度のL−カルノシンを得るためには、該温度は、40℃以上70℃以下であることが好ましい。なお、熟成温度は、上記温度範囲を満足すれば特に制限されるものではなく、一定の温度であってもよいし、上記温度範囲内で変化させてもよい。
【0033】
また、第一熟成工程において、熟成の時間は、0.1時間以上10時間以下である。工業的な生産、および純度の高いL−カルノシンを得るためには、該熟成の時間は、0.5時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0034】
次に、本発明においては、このような第一熟成工程を行ったスラリー溶液とアルコールとを混合し、析出したL−カルノシンの結晶を取り出す精製工程を行う。この精製工程について説明する。
【0035】
(精製工程)
本発明においては、高純度のL−カルノシンを取り出すため、上記第一熟成工程で処理したスラリー溶液とアルコールとを混合し、さらにL−カルノシンの結晶を析出させる。
【0036】
上記アルコールは、高純度のL−カルノシンが得られるという理由から、炭素数1〜4のアルコールであることが好ましく、これらアルコールは、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用できる。具体的なアルコールを例示すると、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールが挙げられる。特に、高純度のL−カルノシンを得るためには、メタノールを使用することが好ましい。
【0037】
本発明において、混合するアルコールの量は、十分にL−カルノシンの結晶が析出する量であれば特に制限されるものではないが、高純度のL−カルノシンを高収率で得るためには、スラリーに含まれる水とアルコールの体積比率(水:アルコール)を1:0.2〜5とすることが好ましく、さらに1:0.25〜4とすることが好ましく、特に1:0.33〜0.50とすることが好ましい。
【0038】
また、アルコールを加えた後のスラリー溶液(スラリー混合溶液)の濃度は、使用するアルコールの種類、使用量、含まれる水の量によって適宜決定すればよい。ただし、L−カルノシンの濃度が低すぎると収率が低下する傾向にあり、一バッチあたりの収量が小さくなり経済的でない。一方、L−カルノシンの濃度が高すぎると、不純物を十分に低減できない傾向にあり、また結晶の取出しが困難になる場合がある。そのため、粗L−カルノシン1gに対して、水、及びアルコールの混合溶液の量を1.80ml以上12.00ml以下とすることが好ましく、さらに1.88ml以上10.00ml以下とすることが好ましく、特に2.00ml以上3.00ml以下とすることが好ましい。
【0039】
本発明において、スラリー溶液とアルコールとを混合する方法は、特に制限されるものではないが、高純度のL−カルノシンを得るためには、以下の方法により混合することが好ましい。つまり、多量のアルコールとスラリー溶液を混合したり、アルコール中にスラリー溶液を添加して混合すると、混合直後に、L−カルノシンの結晶が析出するおそれがあり、純度の高いL−カルノシンを得られない場合がある。そのため、スラリー溶液とアルコールとを混合するには、攪拌中のスラリー溶液にアルコールを添加することが好ましい。特に、攪拌中のスラリー溶液にアルコールを滴下して混合することが好ましい。
【0040】
スラリー溶液にアルコールを滴下する際のスラリー溶液の温度は、特に制限されるものではないが、あまり低いと結晶化が促進され、アルコール滴下時に結晶化が起こり、純度の低いL−カルノシンが得られる傾向にある。また、あまり高い温度であるとL−カルノシンの分解物が生じる恐れがある。そのため、該スラリー溶液の温度は、30℃以上80℃以下であることが好ましく、さらに40℃以上70℃以下であることが好ましい。
【0041】
また、アルコールを滴下する速度は、スラリー溶液の濃度、温度、使用するアルコールの種類、量、温度によって適宜決定すればよく、滴下時のスラリー溶液の温度が上記範囲を満足するように調整することが好ましい。ただし、急激に滴下するとL−カルノシンの純度が低下する傾向にあり、あまり遅すぎると生産性が低下する。そのため、特に制限されるものではないが、アルコールを滴下する速度は、1.0ml/分以上7.0ml/分以下とすることが好ましい。この範囲の滴下速度であれば、アルコールを連続して滴下してもよいし、断続的に滴下してもよい。より純度の高いL−カルノシンを得るためには、上記滴下速度の範囲で均一な量のアルコールを連続して滴下することが好ましい。
【0042】
本発明においては、上記の通り、第一熟成工程で得られたスラリー溶液とアルコールとを混合した後、析出した結晶を取り出すことにより、純度の高いL−カルノシンを得ることができる。ただし、より高純度のL−カルノシンを得るためには、アルコールを混合した後、L−カルノシンのスラリー溶液(スラリー混合溶液)を50℃以上70℃以下の温度で0.1時間以上5時間以下熟成する(第二熟成工程)ことが好ましい。次に、この第二熟成工程について説明する。
【0043】
(第二熟成工程)
本発明においては、上記方法により得られたスラリー混合溶液を50℃以上70℃以下の温度で0.1時間以上5時間以下熟成することが好ましい。なお、この熟成は、第一熟成工程と同じく、0.1時間以上5時間以下の間、該スラリー混合溶液を50℃以上70℃以下の温度範囲で保持してやればよい。この保持の間、スラリー混合溶液は、静置しておいてもよいし、攪拌しておいてもよい。純度の高いL−カルノシンとする場合には、攪拌しておくことが好ましい。
【0044】
本発明によれば、溶媒の使用量を低減しても、純度の高いL−カルノシンを製造することができる。特に、上記第二熟成工程を行うことにより、より高純度のL−カルノシンとすることができる。そのため、第二熟成工程において、よりその効果を発揮するためには、スラリー混合溶液の温度(熟成温度)は、55℃以上65℃以下の温度範囲とすることがより好ましく、熟成の時間は、さらに0.2時間以上4時間以下とすることが好ましく、特に0.5時間以上3時間以下とすることが好ましい。なお、この第二熟成工程においても、熟成温度は、上記温度範囲であれば特に制限されるものではなく、一定の温度であってもよいし、該温度範囲内で変化させてもよい。
【0045】
本発明においては、上記スラリー混合溶液、または必要に応じて第二熟成工程を行ったスラリー混合溶液から析出したL−カルノシンを取り出すことにより、高純度のL−カルノシンを得ることができる。中でも、より高純度のL−カルノシンをより高収率で得るためには、該スラリー混合溶液を冷却した後、L−カルノシンを取り出すことが好ましい。アルコールの滴下終了後、または第二熟成工程終了後、スラリー混合溶液を冷却する速度は、0.01℃/分以上5℃/分以下とすることが好ましく、さらに0.05℃/分以上2℃/分以下とすることが好ましい。また、冷却による最終到達温度は、高すぎると収率が低下する傾向にあり、低すぎると不純物が増加する傾向にあるため、−10℃以上30℃未満とすることが好ましく、さらに0℃以上25℃以下とすることが好ましい。また、最終到達温度で1時間以上2時間以下熟成する(第三熟成工程)ことにより、収率をより向上できる。なお、この熟成も、該スラリー混合溶液を1時間以上2時間以下の間、上記最終到達温度範囲で保持してやればよい。保持する間も、該スラリー混合溶液を静置しておいてもよいし、攪拌しておいてもよい。
【0046】
上記のような方法により得られたスラリー混合溶液からL−カルノシンを取り出す方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法で結晶を取り出してやればよい。具体的には、精製されたL−カルノシンは、ろ過や遠心分離などにより固液分離され、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などにより乾燥することにより単離できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0048】
製造例1
攪拌羽、温度計、ガス吸収装置を備えた1L四つ口フラスコにフタロイル−β−アラニン107g(0.488mol)を加え、N,N’−ジメチルホルムアミド10ml存在下、二塩化オキサリル600mlを加え、室温で2時間攪拌後、二塩化オキサリルを真空留去し、黄色結晶を得た(1)。
【0049】
別の1L四つ口フラスコにL−ヒスチジン62.08g(0.40mol)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン256ml(1.2mol)、濃硫酸0.1ml加え、還流下30分間攪拌した。冷却後、キシレン150ml加え、75℃で溶媒留去し、残渣をクロロホルム80mlで再結晶した(2)。
【0050】
(1)をクロロホルム400mlに溶解し、(2)に滴下し、室温で8時間攪拌した。攪拌後エタノール400ml加え30分攪拌後、結晶をろ過し154gのフタロイル−L−カルノシン塩酸塩を得た。
【0051】
1L四つ口フラスコにメタノール800ml、水酸化リチウム1水和物17.1gとフタロイル−L−カルノシン塩酸塩154gを加え、室温で30分間攪拌し、還流下15分間攪拌した。冷後、結晶をろ過し、乾燥した結果、フタロイル−L−カルノシン138g得た。
【0052】
1L四つ口フラスコにフタロイル−L−カルノシン138g、ヒドラジン水和物23ml(0.46mol)、水460ml投入し、還流下1時間攪拌した。その後、酢酸31mlを滴下し10分間攪拌して冷却した。冷却時に析出した固体をろ過で除去し、pHを調整後、エタノールにより再沈殿することにより粗L−カルノシンを得た。得られた粗L−カルノシンをろ過して単離し、この粗L−カルノシンに水を加えて黄色味を帯びた粗L−カルノシン水溶液(L−カルノシン81.2g/水406g)とした。粗L−カルノシンのHPLC純度は97.9%であった。
【0053】
実施例1
攪拌羽と温度計を備えた500ml四つ口フラスコに製造例1と同様の方法で得た粗L−カルノシン水溶液(水の量 425ml、粗L−カルノシンの濃度0.306g/ml、粗L−カルノシン仕込み量130g、粗L−カルノシンのHPLC純度97.9%)を加え、60℃に昇温した。
【0054】
(スラリー調製工程)
その後、該水溶液の温度を50〜65℃として減圧濃縮することにより、水を185ml留去し、L−カルノシンのスラリー溶液とした。(粗L−カルノシン1gに対して、水の量を1.85mlとした。)
(第一熟成工程)
その後、スラリー溶液の温度を60℃とし、1時間熟成した。この熟成の間、スラリー溶液を攪拌した。
【0055】
(精製工程)
第一熟成工程で熟成した60℃の温度のスラリー溶液を攪拌しながら、該スラリー溶液中に、温度が55℃を下回らないようにメタノール100mlを30分で滴下した。その後、昇温し、得られたスラリー混合溶液を60℃で1時間熟成した(第二熟成工程)。この第二熟成工程の間、スラリー混合溶液を攪拌した。次いで、スラリー混合溶液を0.4℃/分のスピードで20℃まで冷却し、20℃で1時間熟成した(この間もスラリー混合溶液を攪拌した。)。その後、ろ過し、真空乾燥を行った結果、115.7g(精製収率89.0%)、HPLC純度99.84%の白色のL−カルノシンが得られた。
【0056】
この実施例1においては、精製したL−カルノシン1g当たり、スラリー混合溶液に使用した混合溶液量(水とメタノールの合計量)は、2.9mlであり、下記に詳述する参考例1の約1/7の量であった。なお、スラリー溶液とする前に使用した水の量で換算しても、精製したL−カルノシン1g当たり、使用した水とメタノールの合計量は、4.5mlであった。
【0057】
実施例2
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液を使用し、メタノールの代わりにエタノールを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、120g(精製収率92.3%)、HPLC純度99.80%の白色L−カルノシンが得られた。
【0058】
実施例3
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液使用し、メタノールの代わりにイソプロパノールを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、120.2g(精製収率92.5%)、HPLC純度99.80%の白色L−カルノシンが得られた。
【0059】
実施例4
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液を使用し、スラリー調整工程の濃縮温度、第一熟成温度、メタノールを滴下する際のスラリー溶液の温度をいずれも75℃とし、第二熟成温度を68℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、115.0g(精製収率88.5%)、HPLC純度99.80%の白色L−カルノシンが得られた。
【0060】
実施例5
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液を使用し、スラリー調整工程の濃縮温度、第一熟成温度、アルコール滴下温度を35℃、第二熟成温度を53℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、115.1g(精製収率88.5%)、HPLC純度99.79%の白色L−カルノシンが得られた。
【0061】
実施例6
実施例1と同じL−カルノシン水溶液を使用し、第二熟成工程を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、104.7g(精製収率80.5%)、HPLC純度99.60%の白色L−カルノシンが得られた。
【0062】
比較例1
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液を使用し、スラリー調整工程において水を濃縮することなく、該水溶液を5℃まで冷却し、L−カルノシンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液を得た。次いで、第一熟成工程を行わず、スラリー溶液の温度を5℃に保ちながら、100mlのメタノールを30分で滴下した。その後、第二熟成工程を行わず、得られたスラリー混合溶液から実施例1と同様の方法でL−カルノシンを取り出した。その結果、82.2g(精製収率63.2%)、HPLC純度99.78%の白色L−カルノシンが得られた。
【0063】
比較例2
(スラリー調整工程)
製造例1と同様の方法で得た粗L−カルノシン水溶液を濃縮乾固し、粗L−カルノシン150g(水分量14.5%、粗L−カルノシン131g、HPLC純度97.9%)を得た。この粗L−カルノシンに水240mlを加えて、粗L−カルノシンの全量を溶解させることなく、L−カルノシンのスラリー溶液とした。
【0064】
(第一熟成工程)
得られたスラリー溶液を60℃で1時間撹拌した。
【0065】
(精製工程)
次いで、攪拌中の該スラリー溶液中に、メタノール100mlを30分で滴下した。その後、得られたスラリー混合溶液を攪拌しながら60℃で1時間熟成した(第二熟成工程)。さらに、スラリー混合溶液を0.4℃/分のスピードで20℃まで冷却し、20℃で1時間熟成した(この間、スラリー混合溶液を攪拌した)。その後、析出した結晶をろ過し、真空乾燥を行った結果、得られたL−カルノシンは117.5g(精製収率89.7%)、HPLC純度99.31%であり、あまり純度の高いものではなかった。
【0066】
比較例3
実施例1と同じ粗L−カルノシン水溶液を使用し、精製工程でメタノールを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、57.5g(精製収率44.2%)、HPLC純度99.85%の白色L−カルノシンが得られたが、収率が極端に低かった。
【0067】
参考例1
攪拌羽と温度計を備えた1L四つ口フラスコに製造例1で得たL−カルノシン水溶液を、5℃に冷却後、日本エンバイロケミカル社製活性炭白鷺Aを8.1g加え、2時間攪拌した。攪拌後活性炭をろ過し、活性炭を20mlの水で洗浄し、無色澄明水溶液を得た。HPLC純度は99.0%であった。
【0068】
攪拌羽と温度計を備えた2L四つ口フラスコに活性炭処理後のL−カルノシン水溶液505gを加え、50℃に昇温し、メタノール730mlを30分間で滴下し、種結晶を1.4g添加し、50℃で2時間熟成した。結晶が充分成長している事を確認し、新たにメタノール406mlを30分で滴下し、0.4℃/分のスピードで5℃まで冷却し、5℃で1時間熟成した。その後、ろ過し、真空乾燥を行った結果、73.6g(精製収率90.7%)、HPLC純度99.87%の白色L−カルノシンが得られた。精製収率、純度は共に高いものが得られた。
【0069】
この参考例1においては、精製したL−カルノシン1g当たり、使用した水、およびメタノールの合計量は、21.2mlであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−カルノシンが溶解した水溶液から水を濃縮することにより、L−カルノシンンの結晶を析出させてL−カルノシンのスラリー溶液とした後、得られたスラリー溶液を30℃以上80℃以下の温度で0.1時間以上10時間以下熟成し、次いで、該スラリー溶液とアルコールとを混合した後、L−カルノシンの結晶を取り出すことを特徴とするL−カルノシンの精製方法。
【請求項2】
スラリー溶液とアルコールとを混合した後、得られたスラリー混合溶液を50℃以上70℃以下の温度で0.1時間以上5時間以下熟成し、次いで、L−カルノシンの結晶を取り出すことを特徴とする請求項1に記載のL−カルノシンの精製方法。
【請求項3】
スラリー溶液が、前記水溶液の温度を30℃以上80℃以下にして水を濃縮して得られたものである請求項1または2に記載のL−カルノシンの精製方法。
【請求項4】
前記水溶液に溶解したL−カルノシンが、フタロイル−β−アラニンの酸クロライドと、トリメチルシリル基で保護したL−ヒスチジンとを反応させて得られたフタロイル−L−カルノシンをヒドラジンにより脱保護して得られたものである請求項1〜3の何れかに記載のL−カルノシンの精製方法。