説明

L−スレオニン−O−(1,1−ジメチルエチル)−1,1−ジメチルエチルエステルの製造方法

本発明は、式IのL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステル;[H-Thr-(tBu)-O-tBu]の新規かつ効果的な製造方法に関する。
【化1】


式(I)の化合物は、ブタインスリンまたはウシインスリンからヒトインスリンを製造するためのキープロダクトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、式IのL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステル;[H-Thr-(tBu)-O-tBu]の新規かつ効果的な製造方法に関する。
【化1】

式(I)の化合物は、ブタインスリンまたはウシインスリンからヒトインスリンを製造するためのキープロダクトである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景技術
糖尿病の治療においては、ブタインスリンまたはウシインスリンから誘導されたインスリン調製物が一般に利用されてきた。ヒト、ブタおよびウシのインスリンはそのアミノ酸配列にわずかな違いがある。ヒトインスリンとブタインスリンは、インスリンB鎖のB30-位におけるカルボキシル末端アミノ酸により異なる。ヒトインスリンの場合にはスレオニンがB29のリシル基に続くのに対して、ブタインスリンの場合にはアラニンがリシル基の後に続く。ヒトインスリンの製造について、必要量のヒト脾臓を入手することができない。合成ヒトインスリンがスモールスケールで調製されているが、非常に高価である(Helv. Chim. Acta 57, 2717および60, 27を参照されたい)。
ヒトインスリンの全合成のみならず、様々な半合成法によって、出発物質としてのブタインスリンにおけるアラニンをスレオニンに置き換えることが可能である。米国特許第3,903,068号は、トリプシンで消化し、ペプチド-化学法に従ってヒトインスリン配列B23-30の保護された合成オクタペプチドに連結させることによって得たデスオクタペプチド(desoctapeptide)-B23-30ブタインスリンを開示する。保護基が分離された後、単調なクロマトグラフィー精製を経て低収量のヒトインスリンが得られる。
【0003】
Proc. 2nd. Intern. Insulin Symposium 1979, pp.118-123 または K. Morihara et al., Nature 280, 412-13 (1979) および EP-A No. 0017938 では、Des-Ala-B30インスリン(ブタ)から出発し、トリプシンを使用して、2つの工程でスレオニン-メチルエステルまたはスレオニン-tert-ブチルエステルと連結して対応するヒトインスリンエステルを形成する。水酸化ナトリウム溶液またはトリフルオロ酢酸で処理することによってエステル基を脱保護した後、ヒトインスリンが良好な収率で得られる。反応操作が相当に簡素化されることに加え、この方法の利点は多種の不純物を含まないヒトインスリンが得られることにあり、従って免疫学的な問題の場合における投与にも適している。
米国特許第4,489,159号は、ヒトdes-B30-インスリンをヒトインスリンThr-30エステルに変換するための方法について記載し、前記方法は、水と水混和性溶媒の混合物中で、トリプシンおよび必要により酸の存在下で、L-スレオニンエステルでアミド化することにより行われ、その収率は少なくとも90%を超える。
米国特許第4,601,852号は、ブタインスリンからヒトインスリンを製造するためのL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルの使用を開示し、前記使用は、ブタインスリン出発物質を、その等電点より低いpHで、トリプシンまたはトリプシン様酵素の存在下に反応させることにより行われ、その収率は良好である。
【0004】
Journal of American Chemical Society 85, 201-207 (1963)は、L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルを製造するための2つの異なる方法について記載する。第一の方法では、N-カルボベンゾキシ-L-スレオニンをイソブチレンと結合させて、アミノ保護[H-Thr-(tBu)-O-tBu]を収率88%で得る。N-カルボベンゾキシ-L-Thr-(tBu)-O-tBuを単純に木炭上で10%パラジウムと反応させて、所望の生成物、即ちL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルを得る。この方法は、H-Thr-(tBu)-O-tBuを得るための3つの工程を含む。第二の方法は、アミノ官能基を保護せずにL-スレオニンをイソブチレンと反応させることを含むが、得られた収率は35%に過ぎず、かつ、いくつかの副生成物が生成され、これはクロマトグラフィー精製に関して問題のある状況である。
L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルは、ブタインスリンからのヒトインスリンの製造に非常に有用であるため、その経済的、高収率かつ少工程の製造方法を発見する必要がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明によれば、L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステル[H-Thr-(tBu)-O-tBu]を製造するための方法が提供される。H-Thr-(tBu)-O-tBuの製造方法は、ジメトキシエタン中で、濃H2SO4の存在下で、L-スレオニンをイソブチレンと反応させることを含む。反応混合物は0〜5℃で24時間撹拌される。クルードな反応混合物は水とアンモニア水の混合物で中和され、次いでイソプロピルエーテルで抽出される。有機層を濃縮し、得られたクルードなH-Thr-(tBu)-O-tBuを減圧下で蒸留して純粋な生成物(GC分析により99%)が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本研究は、COOHとOHの保護されたL-アラニンの、効果的かつ一工程の保護方法を対象とする。本発明によれば、式(I)のL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステル[H-Thr-(tBu)-O-tBu]を製造するための方法が提供される。
【化2】

【0007】
L-アラニンの保護に使用される方法を以下に示す:
【化3】

【0008】
H-Thr-(tBu)-O-tBuの製造方法は、ジメトキシエタン中で、鉱酸、より好ましくは濃硫酸の存在下で、L-スレオニンをイソブチレンと反応させることを含む。反応混合物は0〜5℃で24時間撹拌される。副生成物を少なくするためには低温が好ましいことが判明した。
L-スレオニンをエーテル系溶媒、特にジメトキシエタンに入れ、鉱酸、より特別には濃硫酸を加え、そして-5℃に冷却する。温度を5℃より十分に低く維持しながら、冷溶液にイソブチレンを加える。L-スレオニンに対するイソブチレンのモル比は約30〜50倍、好ましくは35〜45倍である。反応混合物を0〜5℃で約24時間撹拌する。L-スレオニンの-COOHと-OHの官能性を完全に保護した後、反応混合物を水とアンモニアの冷溶液(容積比5:1)内に加える。次いで、中和された反応混合物をエーテル、より好ましくはイソプロピルエーテルで抽出する。分液し、イソプロピルエーテル層を蒸発させた後に、クルードな H-Thr-(tBu)-O-tBu が純度92%の形体(GC分析による)で得られる。クルードな H-Thr-(tBu)-O-tBu を減圧下(1mmHg)で蒸留し、75〜95℃で蒸発する画分を回収する(4.2kg、GC純度99%)。
【0009】
本発明に使用される保護基は、よく知られたターシャリーブチル基である。本研究において、ターシャリーブチル基はL-アラニンのカルボキシル基とアルコール基の官能性の保護について非常に特異的であり、アミノ基は遊離した状態で残す。ジメトキシエタン溶媒の場合、保護された材料はクルードな形体の中で純度92%を超えて存在したため、L-アラニンの選択的な保護のためにはジメトキシエタン溶媒が最適であることが判明した。最後に、減圧蒸留の後に所望の生成物が純度約99%で得られる。
精製されたH-Thr-(tBu)-O-tBu はIR分析、プロトンNMR(CDCl3中)および質量分析により特徴付けられる。スペクトル値を表1に示す。
【0010】
表1:L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルのIR分析、プロトンNMRおよび質量分析のスペクトル値

【実施例】
【0011】
実施例1
L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステル;[H-Thr(tBu)-O-tBu](TBEE)の調製
L-スレオニン(5.0kg、42.01モル)とジメトキシエタン(100リットル)を容量250リットルのグラスライニング反応器に入れ、-5℃に冷却する。次いで、温度を5℃未満に維持しながら、濃硫酸(25kg、250.10モル)とイソブチレン(94kg、1678.57モル)を加える。反応混合物を0〜5℃で24時間撹拌し、水(150リットル)とアンモニア(30リットル)の冷たい(0℃)混合物に加える。次いで、それをイソプロピルエーテルを使用して抽出する。次いで、イソプロピルエーテル抽出物を減圧下で濃縮し、純度92%(GC分析)のクルードなTBEE(4.56kg)を得る。クルードなTBEEを減圧下(1mmHg)で蒸留し、75〜95℃で蒸発する画分を回収する(4.2kg、GC純度99%)。IR(無希釈液膜)は、-NH2 伸縮について3386.8と1732cm-1、-C=O 伸縮について1732cm-1である。プロトン核磁気共鳴ピーク(CDCl3中にδppm)は3.85(m,1H)、3.10(d,1H)、1.7(Br,2H)、1.45(s,9H)、1.2(d,3H)および1.15(s,9H)に観察される。質量 m/z = 232[M+.+1]。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C) エーテル溶媒中、鉱酸の存在下で、十分な時間、
B)
【化1】

に、
A) 下記式を有する化合物を接触させる工程、
【化2】

および、
D) L-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルを精製する工程、
を含む、式(I)のL-スレオニン-O-(1,1-ジメチルエチル)-1,1-ジメチルエチルエステルの調製方法。
【化3】

【請求項2】
L-スレオニンとイソブチレンとのモル比が約1:30〜1:50、より好ましくは約1:35〜1:45である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒がエーテル溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶媒がジメトキシエタンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
酸が鉱酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
鉱酸が硫酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
硫酸が濃硫酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
濃硫酸が約-10〜15℃で加えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応混合物が10時間より長く撹拌される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
反応混合物の温度が約-10〜15℃である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式(I)の生成物が形成された後の反応混合物が水とアンモニアの混合物の中に加えられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水とアンモニアの混合物が約1:1〜10:1で含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水とアンモニアの混合物が冷たい、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水とアンモニアの混合物の温度が約0〜15℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有機溶媒が、水とアンモニアの混合物内に既に加えられたクルードな生成物に加えられる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
添加した有機溶媒がエーテルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
エーテルがジメトキシエタンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
抽出の後に、ジメトキシエタン層を濃縮して、クルードな式(I)の化合物を純度90%を超える形体で得る、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
クルードな生成物が減圧蒸留により精製される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
蒸留の際に圧力が1mmHgに減圧される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
精製画分が約65〜105℃で回収される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
精製画分がより好ましくは約75〜95℃で回収される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
式(I)の化合物の純度が約99%である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2007−516153(P2007−516153A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508704(P2005−508704)
【出願日】平成15年9月8日(2003.9.8)
【国際出願番号】PCT/IB2003/003784
【国際公開番号】WO2005/023756
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(503070889)ウォックハート・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】Wockhardt Limited
【Fターム(参考)】