L−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンの製造法
【課題】簡便かつ効率的なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンの製造方法、並びにそのための手段を提供する。
【解決手段】バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを用いてDL−N−アシルホモセリンを選択的脱アシル化し、L−ホモセリンを得る。さらにL−ホモセリンを脱水環化してL−ホモセリンラクトンを得る。
【解決手段】バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを用いてDL−N−アシルホモセリンを選択的脱アシル化し、L−ホモセリンを得る。さらにL−ホモセリンを脱水環化してL−ホモセリンラクトンを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬・医薬品中間体として有用な光学活性なL−ホモセリン又はその等価体であるL−ホモセリンラクトンの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−ホモセリンは、ラジカルスカベンジャーである、L−O−カフェオイルホモセリンなどの薬剤の構成要素であり、これらの薬剤を量産する際の原料として使用される。また、L−ホモセリンはアミノ酸であるため、医薬・健康分野において大量かつ安価な供給が望まれている。
光学活性なL−ホモセリンの製造としては、発酵法が報告されているが(非特許文献1)、実用化には至っていない。また、L−ホモセリンラクトンの製造法として、優先晶出法(非特許文献2)等が知られているが、産物の鏡像体過剰率が明らかにされていない上に、操作が煩雑であり、工業的には適当ではない。
このように、現在、光学活性なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを簡便に、且つ、工業的に製造する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】鮫島広年、奈良高、藤田忠三、木下祝郎、農芸化学会誌、第34巻第750〜754頁、1960年
【非特許文献2】Shiraiwa,T.et al.,Chem.Pharm.Bull.,第44巻第2322〜2325頁,1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、簡便かつ効率的なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンの製造方法、並びにそのための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ラセミ体のホモセリンあるいはホモセリンラクトンは、安価に入手できる。このラセミ体のホモセリンあるいはホモセリンラクトンを簡便に光学分割できるならば、L−ホモセリンを簡便に得られる。
アミノ酸の光学分割法としては、一旦ラセミ体のアミノ酸をN−アシル化した後、立体選択的なアシラーゼでどちらかの鏡像体を脱アシルする方法が取られる。しかし、N−アシルホモセリンに作用するアシラーゼは知られていない。また、既知のアシラーゼについても、N−アシルホモセリンに対する活性は報告されていない。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明者は、前記課題を解決するため、L−N−アシルホモセリンを立体選択的に脱アシルするアシラーゼを生産する微生物を探索した結果、バルクホルデリア属、ペニシリウム属およびエルウニア属に属する微生物の中にそのようなアシラーゼを生産する微生物を見出し、それを用いることにより、ラセミ体DL−N−アシルホモセリン中のL−体だけを脱アシル化し、光学活性なL−ホモセリンを簡便に取得し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させることを特徴とする、L−ホモセリン又はその塩の製造方法。
(2)DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させて得られたL−ホモセリン又はその塩を脱水環化することを特徴とする、L−ホモセリンラクトンの製造方法。
(3)DL−N−アシルホモセリンがDL−N−ホルミルホモセリンであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)N−アシルホモセリン−L−アシラーゼがバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するL−N−アシルホモセリン−L−アシラーゼであることを特徴とする、 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造法。
(5)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物を培地に培養し、菌体若しくは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを採取することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼの製造方法。
(6)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、及びエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物のうちのいずれか一種以上の微生物から得られたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を含有することを特徴とする、N−アシル−L−ホモセリンの脱アシル化剤。
(7)以下の酵素学的性質を有することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、L−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【発明の効果】
【0008】
本発明におけるバルクホルデリア・テラ、ペニシリウム・シンプリシシマム、ペニシリウム・グラブラム、エルウニア・サイプリペディに由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、DL−N−アシルホモセリン中のL−体(L−N−アシルホモセリン)のみを立体選択的に脱アシル化する能力を有し、その酵素活性は極めて高い。したがって、このアシラーゼを利用して、安価なDL−N−アシルホモセリンから医薬品又は化学薬品の製造原料として有用なL−ホモセリンあるいはL−ホモセリンラクトンを簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、DL−N−アシルホモセリンからL−ホモセリンあるいはL−ホモセリンラクトンを製造するために使用するL−アシラーゼは、立体選択的なN−アシルホモセリン−L−アシラーゼであり、DL−N−アシルホモセリンのうちL−体(L−N−アシルホモセリン)のみを脱アシル化する酵素である。該N−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、バルクホルデリア属あるいはペニシリウム属又はエルウニア属に属する微生物由来のものであり、該微生物をより具体的に示すと、例えば、バルクホルデリア・テラ、ペニシリウム・シンプリシシマム、ペニシリウム・グラブラム、エルウニア・サイプリペディに属する微生物が挙げられる。
【0010】
これらの微生物のうち、代表的な菌株としては、バルクホルデリア・テラ308B、ペニシリウム・シンプリシシマム203F、ペニシリウム・グラブラム463F及びエルウニア・サイプリペディ314B(FERM P−19195)が挙げられる。
これらの菌株は、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ生産菌の探索の結果、土壌から新に分離されたり、保存菌株から見出されたものである。
これらのうち、エルウニア・サイプリペデイ314B(FERM P−19195)の菌学的性質は、特許公報(特許第3928046号)に記載の通りである。その他の微生物の菌学的性質は、実施例1に示すとおりである。
本発明に係る微生物は、後述する微生物の菌学的性質を指標として、土壌、河川水、湖沼水、汚泥などから、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ活性に基づき、平板分離法や集積培養法などのスクリーニングを行うことにより得ることができる。
【0011】
なお、上記バルクホルデリア・テラ308B、ペニシリウム・シンプリシシマム203F及び、ペニシリウム・グラブラム463Fは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2009年11月17日付で寄託され、それぞれ順に受託番号FERM P−21871、FERM P−21869、及びFERM P−21870が与えられている。
【0012】
本発明におけるN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの生産菌株としては、上記のバルクホルデリア・テラ308B(FERM P−21871)、ペニシリウム・シンプリシシマム203F(FERM P−21869)、ペニシリウム・グラブラム463F(FERM P−21870)及び、エルウニア・サイプリペディ314B(FERM P−19195)が好ましいが、これらの誘導株も同様に好ましい。「誘導株」とは、上記菌株から天然に又は化学的若しくは物理的処理によって誘導される菌株であって、依然としてN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力を保持あるいは向上した菌株を指す。微生物は、その培養条件(例えば培地組成、温度など)や、化学的若しくは物理的処理(例えばガンマ線照射など)によって変異が誘発されることが知られている。本発明においては、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力を保持する限り、そのような誘導株も好ましく用いることができる。
【0013】
ある菌株がN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力は、例えば実施例1に記載のように、DL−N−アシルホモセリンに菌体抽出物あるいはパーミアブル菌体を作用させ、反応液中のD−ホモセリン含量及びL−ホモセリン含量を測定することによって簡便に確認することができる。
本発明に係る微生物は、立体選択的なN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する。したがって、該酵素を用いて、DL−N−アシルホモセリン中のL−体のみを脱アシルし、L−ホモセリンを簡便かつ効率的に取得することができる。また、このようにして得たL−ホモセリン又はその塩をL−ホモセリンラクトンに脱水環化することによって、L−ホモセリンラクトンを効率的に製造することができる。
【0014】
本発明においては、DL−N−アシルホモセリン又はその塩を、上述したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を生産する微生物の菌体、あるいはその培養物等の該酵素含有物と接触させることで、DL−N−アシルホモセリン又はその塩中のL−N−アシルホモセリン又はその塩を選択的に脱アシル化されることにより、L−ホモセリン又はその塩を製造することができる。
このL−ホモセリン又はその塩の製造においては、前述した微生物のうちの1種を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができ、また、1種又は複数種の微生物から抽出されたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを混合使用してもよい。
【0015】
微生物を培養するには、通常の培養条件を用いて上記微生物を培養すればよく、例えば、培地として、炭素源、窒素源、無機塩類を含有する培地を用いて、各種培養条件を用いて培養を行うことができる。炭素源としては、澱粉又はその組成画分、焙焼デキストリン、加工澱粉、澱粉誘導体、物理処理澱粉及びアルファ澱粉等の炭水化物などを用いることができる。具体例としては、例えば、可溶性澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、デキストリン、アミロペクチン、アミロース等が挙げられる。窒素源としては、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー又は大豆若しくは大豆粕等の抽出物等の有機窒素源物質、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素化合物を用いることができる。そして、無機塩類としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の鉄イオン含有化合物、リン酸カリウム塩、リン酸ナトリウム塩等のリン酸塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カルシウム等のカルシウム塩、塩化ナトリウム等のナトリウム塩を用いることができる。また培地は、固体培地及び液体培地のいずれも使用することができる。
【0016】
培養方法も特に限定されるものではなく、振盪培養、通気撹拌培養、静置培養などの公知の培養方法を用いることができる。ここで、培養の最適条件に関しては、用いる微生物の種類により異なるため、上記培地及び培養方法は用いる微生物に適するものに適宜選択及び調整される。また、温度、pH、培養期間等のその他の培養条件も、微生物が生育し、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ活性を生産し得る条件であれば適宜選択されて培養が行われることが好ましい。例えば、培養は、振盪培養若しくは通気撹拌培養等の好気的条件下において、培地をpH3〜9の範囲、好ましくはpH5〜8に調整し、温度10〜50℃の範囲、好ましくは20〜30℃で実施し、通常1〜15日間培養するのが望ましい。
【0017】
本発明におけるDL−N−アシルホモセリン又はその塩の選択的脱アシル化においては、上記微生物由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを含有するものであれば使用でき、例えば、上記微生物菌体、菌体破砕物等の菌体処理物、あるいは培養物、培養処理物を使用することができるが、例えば微生物の菌体そのままの形態、これらの菌体あるいはその破砕物を適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁した形態、あるいは微生物の菌体を保存可能なように凍結又は乾燥した形態で用いてもよく、さらに培養物を濾過、遠心分離して若しくは脱水して得た菌体にパーミアブル化等の処理を行って使用してもよいし、培養物を水等で希釈して使用してもよい。また、微生物の菌体あるいは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを抽出して、粗酵素の形態で使用してもよいし、さらに精製したものを使用してもよい。微生物の菌体あるいはその培養物からのN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの抽出法や精製法等の形態にも、何ら限定されない。このような形態は、当技術分野で公知の方法に従って適宜調整することができる。
本発明のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの精製法それ自体公知の酵素精製法を用いることが可能であり、例えば、菌体破砕物から菌体を除去後、硫安分画法等を用いて酵素濃縮後、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を適宜組み合わせて行うことができるが、微生物の菌体あるいはその培養物からのN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの抽出法や精製法等の形態には、何ら限定されない。
酵素の精製例として、ペニシリウム・シンプリシシマム203F由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを精製し、その酵素学的性質を調べた結果、該酵素は少なくとも以下の性質を有していた。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、DL−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【0018】
使用する微生物の菌体又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの量は、使用する微生物の種類、DL−N−アシルホモセリンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。
さらに、DL−N−アシルホモセリンの選択的脱アシル化をさらに効率的に行うために、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはその含有物に他の追加成分を使用してもよく、そのような追加成分としては、限定するものではないが、硫酸コバルト、塩化亜鉛等の塩類が挙げられる。
本発明における上記選択的脱アシル化によるL−ホモセリンの製造においては、上記微生物の菌体、菌体処理物、培養物、培養処理物又はそれから抽出あるいはさらに精製したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを、DL−N−アシルホモセリンと接触させるが、ここで「接触」とは、例えば、上記N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を含有する菌体、その培養物等の酵素含有物を懸濁液あるいは溶液の形態でDL−N−アシルホモセリンと接触させること、あるいは上記N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を含有する菌体を不溶性の担体に固定化したものをDL−N−アシルホモセリンと接触させることなどを指す。
【0019】
好ましい方法の1つは、肉汁培地など適当な培地で前記微生物を培養し、得られた菌体を有機溶剤で処理してパーミアブル菌体とし、DL−N−アシルホモセリン溶液に懸濁し、震盪又は攪拌する方法である。DL−N−アシルホモセリン溶液の組成には何ら限定は無く、必要に応じ、無機塩類やビタミン等を加えてもよい。菌体懸濁液のpHや温度等の諸条件は、使用する微生物、DL−N−アシルホモセリン含有量、採用する培養方法などによって異なるが、L−N−アシルホモセリンが活発に脱アシルされる条件であれば何ら限定されるものではなく、当業者であれば適宜設定することができる。
【0020】
以上の操作によりL−ホモセリンとD−N−アシルホモセリンを含む懸濁液が得られるので、通常の単離・精製方法、例えば遠心分離や濾過、タンパク質又は核酸分解試薬を使用して、微生物菌体及びそれに由来する成分を取り除く。続いて、生成したL−ホモセリンとD−N−アシルホモセリンは、イオン交換クロマトグラフィー等により容易に分離できる。更に必要に応じて、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー等の当技術分野で公知の任意の方法を単独で又は組み合わせて用いることによりL−ホモセリンを精製することができる。
このようにして製造されるL−ホモセリンは、光学純度(鏡像体過剰率)が高い。例えば、L−ホモセリンの鏡像体過剰率は、約70%e.e.以上、好ましくは約80%e.e.以上、より好ましく約90%e.e.以上、最も好ましくは95%〜100%e.e.である。
【0021】
また、ホモセリンとホモセリンラクトンは平衡混合物として存在し、この平衡は、酸性条件下ではホモセリンラクトン方向に、そしてアルカリ性条件ではホモセリンの方向に傾くことが知られている。したがって、上述のようにして得られたL−ホモセリンを酸性条件下での還流などの公知の方法で脱水環化することによって、L−ホモセリンラクトンを製造することができる。例えば、2規定濃度の塩酸で、2時間の煮沸処理を行うことにより、ホモセリンはホモセリンラクトンに変換することができる。
しかしながら、本製造方法においては、ホモセリンからホモセリンラクトンを製造する公知の方法であれば特に限定されるものではない。
【0022】
以上のようにして、本発明に係る微生物又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを用いることにより、簡便かつ効率的にL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを製造できる。
また、本発明のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ及びその含有物は、L−N−アシルホモセリンの脱アシル化剤として有用である。
本分解剤は、前述した微生物の菌体のうちの1種を単独で、又は複数種を組み合わせて含有することができ、また1種又は複数種の菌体処理物、該微生物の培養物又はその処理物を含有してもよい。さらに、上記各微生物から得たN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを複数混合使用してもよい。
【0023】
本分解剤の形態は特に限定されず、微生物の菌体そのままの形態、菌体破砕物、これらを溶媒中に溶解若しくは懸濁した形態、あるいは微生物の菌体を保存可能なように凍結又は乾燥した形態、透過性を増すために微生物菌体を有機溶剤等で処理した形態、更にはこれらを不溶性担体に固定化した形態など、任意の形態をとることができる。また、該菌体を含む培養物、及び抽出あるいはさらに精製したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼについても、同様に任意の形態をとりうる。このような形態は、当技術分野で公知の方法に従って適宜調整することができる。
また、本分解剤は、他の成分を含んでもよい。他の成分は、微生物の菌体又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの立体選択的L−N−アシルホモセリン分解能を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、リン酸塩などのpH調整剤、酵母エキスやビオチンなどの賦活剤、カルボキシメチルセルロースや乳糖などの賦形剤等が挙げられる。
【0024】
また、L−N−アシルホモセリンを脱アシル化するための使用量は、使用する微生物又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの種類、L−N−アシルホモセリンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。
以下、本説明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1
下記の組成の液体培地を、集積培地とした。
培地:グルコース 20.0、KH2PO4 3.0、DL−N−ホルミルホモセリン 2.0、MgSO4・7H2O 0.3、CaCl2・2H2O 0.1、NaCl 0.1g/l,pH7.0
土壌試料0.5gを5mlの滅菌水に懸濁し、上澄み0.5mlを集積培地5mlに接種し、30℃で震盪培養した。菌が増殖し白濁が認められた場合は、集積培地を1.5%の寒天で固形化した平板培地に培養液を適宜希釈した後に塗布し、生じた微生物のコロニーを分離し、分離株を得た。次いで、同じ培地に分離株及び保存菌株を接種し、30℃で震盪培養した。菌体を集め、ガラスビーズ法で菌体を破砕し、無細胞抽出物を得、粗酵素液とした。粗酵素液のN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性を測定し、L−N−ホルミルホモセリンだけを脱ホルミルし、L−ホモセリンを生ぜしめる分離株を選択した。なお、N−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性の測定は、下記の方法に拠った。
【0026】
[活性測定法]25mMのDL−N−ホルミルホモセリンを含む125mM MOPS緩衝液
(pH7.0)200μlと5mM CoSO4 5μlを混じ、37℃で3分間加温した後、酵素液45μlを加え、反応を開始した。37℃で30分間反応後、沸騰水浴上に1分間置き、反応を停止した。遠心により不溶物を除いた後、生成したホモセリンのD−体とL−体それぞれを光学分割カラム[ダイセル化学工業社製、CrownPak CR (+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーで定量した。酵素1Uは、上記の反応条件下で、1分間に1μmoleのL−ホモセリンを遊離する酵素量とした。
【0027】
得られた分離株の中から最も高い活性と立体選択性を示した308B株、203F株、463F株を選択した。また、保存菌株では、エルウニア・サイプリペデイ314B(FERM P−19195)が、活性を示した。これらの菌株の無細胞抽出物のN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性および本酵素活性によりDL−N−ホルミルホモセリンより生成するL−ホモセリンの光学純度(鏡像体過剰率)を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
なお、これらの分離株は、以下の菌学的性質を有する。
(1)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)308B株の菌学的性質
1.形態:長さ2.0〜3.5μm、幅0.7〜0.8μmの桿菌
2.グラム染色:陰性
3.3%KOHによる溶菌:陽性
4.アミノペプチターゼ:陽性
5.アルコールデヒドロゲナーゼ:陰性
6.ウレアーゼ:陰性
7.オキシターゼ:陽性
8.カタラーゼ:陽性
9.硝酸塩還元能:陽性
10.脱窒反応:陰性
11.42℃における増殖:陰性
12.運動性:有り
13.鞭毛:複数の極鞭毛
14.ゼラチン加水分解能:陰性
15.エスクリン加水分解能:陰性
16.カゼイン加水分解能:陰性
17.グルコース資化性:陽性
18.フェニル酢酸資化性:陽性
19.クエン酸資化性:陰性
20.リンゴ酸資化性:陽性
21.マンノース資化性:陽性
22.マンニトール資化性:陽性
23.グルコン酸資化性:陽性
24.マルトース資化性:陰性
25.トレハロース資化性:陽性
26.シトラコン酸資化性:陽性
27.アドニトール資化性:陽性
28.m−ヒドロキシ安息香酸資化性:陽性
29.アラビノース資化性:陽性
30.メサコン酸資化性:陽性
31.リボース資化性:陽性
32.N−アセチルグルコサミン資化性:陽性
33.トリプタミン資化性:陽性
34.ラフィノース資化性:陰性
35.シュークロース資化性:陰性
36.L−ヒスチジン資化性:陽性
37.スベリン酸資化性:陽性
38.DL−乳酸資化性:陽性
39.5−ケトグルコン酸資化性:陽性
40.2−ヒドロキシ吉草酸資化性:陰性
【0030】
本菌の脂肪酸組成は、バルクホルデリア属の特徴と一致した。本菌の16SrDNAの部分塩基配列はバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)と100%の相同性を示した。本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)と同定された。本菌は、バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)308Bと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM P−21871として寄託されている。
【0031】
(2)ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)203F株の菌学的性質
1.生育状態
麦芽エキス寒天培地においてコロニーは、25℃、7日間で直径25mmに達する。深いビロード状で緑色。菌糸は、無色。コロニーの裏面は、パールイエローから茶色。滲出液は、認められない。37℃でも、生育する。
2.形態
分生子柄:直径3μm、薄壁、粗面。不規則に分枝し、ラミは部分的に存在。メトレの長さは不等長で、10〜16μm。フィアライドは長い首を持つフラスコ型で、長さ8〜10μm。
分生子:卵型から球形で、直径3.5μm。表面は、滑面から微細な粗面。
本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)と同定された。本菌は、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)203Fと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM AP−21869として寄託されている。
(3)ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)463F株の菌学的性質
1.生育状態
麦芽エキス寒天培地においてコロニーは、25℃で1日当たり約2.5mm成長する。ビロード状で、緑色。菌糸は、透明。コロニーの裏面は、パールイエローから茶色。ツァペック酵母エキス培地では、透明から黄色の滲出液を生じる。37℃で生育せず。
2.形態
分生子柄:直径2μm、薄壁。滑面であり、細粒を表面に伴わない。ラミ、メトレは、認められない。フィアライドは、短い首を持つフラスコ型で、最大長、10μm。
分生子:球形で直径3μm。滑面。
本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)と同定された。本菌は、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)463Fと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM AP−21870して寄託されている。
【0032】
実施例2
下記の培地でペニシリウム・シンプリシシマム203Fを30℃で2日間振盪培養した。
培地:コハク酸 20.0、KH2PO4 3.0、硫酸アンモニウム 2.0、酵母エキス 1.0、MgSO4・7H2O 0.3、CaCl2・2H2O 0.1、NaCl 0.1g/l,pH5.0
菌体を濾過により集め、50mM MOPS緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、4%のイソアミルアルコールを含む50mM MOPS緩衝液(pH7.0)に懸濁し、10分間激しく振盪した。イソアミルアルコール処理した菌体を濾過により集め、MOPS緩衝液(pH7.0)で二回洗浄し、パーミアブル菌体とした。
【0033】
170UのN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性を有するパーミアブル菌体、160mMのDL−N−ホルミルホモセリン、0.1mMのCoSO4および100mM MES(pH6.5)を含む反応液300mlを30℃で穏やかに振盪した。反応液の一部を取り、光学分割カラム[ダイセル化学工業社製CrownPak CR(+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーでその上清を分析し、L−ホモセリンの増加がプラトー(78mM)に達したのを確認した後、反応液から濾過によりパーミアブル菌体を除いた。
【0034】
濾液を、イオン交換樹脂アンバーライトIR120B(ローム・アンド・ハース・ジャパン社)を充填したカラム(内径26mm、長さ200mm)に供し、水洗の後、0.2M濃度のアンモニア水で溶出を行った。ホモセリンを含む画分を集め、pHを7.0に調整した後、ロータリーエバポレーターを用いて約20mlに濃縮した。この濃縮液に対し250mlの熱エタノールを攪拌しつつ加え、引き続き攪拌しつつ、室温に一晩放置した。析出物を濾過により集め、エタノールで洗浄後、乾燥させ、1.4gのL−ホモセリンを得た。即ち、L−ホモセリンに対するモル収率は、51%であった。
【0035】
得られたL−ホモセリンを光学分割カラム[ダイセル化学工業社製CrownPakCR(+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、99.3%e.e.以上の光学純度を有していた。またイナートシルODS−3カラム(4.6×250mm、GLサイエンス社製)を用いて、7.5mMの1−ペンタンスルホン酸ナトリウムを含む20mMリン酸緩衝液(pH2.5)を移動層とする高速液体クロマトグラフィーで、本標品を分析したところ、97%以上の純度を有することが確認された。
【0036】
実施例3
実施例2と同様にペニシリウム・シンプリシシマム203Fを培養した。菌体を濾過により集め、50mM MES緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、Braun社製MSKセルホモゼェナイザーで破砕、遠心後の上清を粗酵素液とした。この粗酵素液に対し硫安を1.7Mとなるように加えた。沈殿した夾雑物を遠心により除いた後、1.7Mの硫安を含む50mM MES緩衝液(pH7.0)で平衡化したブチルトヨパールカラムに供した。吸着された活性画分を、移動相中の硫安濃度を直線的に低下させることにより溶離した。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したフラクトゲルEMD DEAEカラムに吸着させ、次いで移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したDEAE MemSep1000カラムに吸着させ、移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させ、部分精製酵素とした。この一連の精製操作によりN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼは、360倍に精製された。
【0037】
この部分精製酵素を用いて、DL−N−ホルミルホモセリンとDL−N−アセチルホモセリンに対する活性を比較したところ、DL−N−ホルミルホモセリンに対する活性を100%とすると、DL−N−アセチルホモセリンには29%の相対活性が検出された。
尚、活性の測定法は、実施例1に準じた。
【0038】
実施例4
実施例2と同様の培地でペニシリウム・シンプリシシマム203Fを培養した。菌体を濾過により集め、50mM MES緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、Braun社製MSKセルホモゼェナイザーで破砕、遠心後の上清を粗酵素液とした。この粗酵素液に対し硫安を1.7Mとなるように加えた。沈殿した夾雑物を遠心により除いた後、1.7Mの硫安を含む50mM MES緩衝液(pH7.0)で平衡化したブチルトヨパールカラムに供した。吸着された活性画分を、移動相中の硫安濃度を直線的に低下させることにより溶離した。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したフラクトゲルEMD DEAEカラムに吸着させ、次いで移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したDEAE MemSep1000カラムに吸着させ、移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mMリン酸緩衝液で平衡化したヒドロキシアパタイトカラムに吸着させ、移動相中のリン酸濃度を直線的に上げることにより、目的酵素を溶出させた。この一連の精製操作によりN−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、450倍に精製され、SDS−PAGEで単一バンドを与えた。本アシラーゼの性質を以下に示す。
【0039】
(a)N−ホルミルホモセリンに対するKm値は79.8mM、Vmax値は368U/mg。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン(29%)、L−N−アセチルアラニン(13%)、L−N−アセチルグルタミン酸(11%)にも弱く作用する。尚、()内の数字は、L−N−ホルミルホモセリンに対する活性を100%とした場合の相対活性である。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、L−N−アセチルフェニルアラニンやDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:pH7において50℃ までの温度に10分間保っても、95%以上の活性が残存。
(f)pH安定性:4℃においてpH6.5から8.5に24時間保っても95%以上の活性が残存。
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000。
(h)阻害剤・賦活剤など:NiSO4、2,2”−ビピリジルにより弱程度(<20%)、MnCl2、AgNO3、EDTA、N−ブロモスクシンイミドにより強程度(>90%)の阻害を受ける。PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)、ヒドロキシアミンで阻害・賦活されない。CoSO4、ZnCl2、MgCl2により、それぞれ、1.9、1.4、1.1倍に賦活される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、L−ホモセリンの簡便な製造法が提供される。この方法を利用して健康補助食品、医薬品又は化学薬品の製造原料として有用なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを簡便かつ効率的に製造することができる。
【受託番号】
【0041】
FERM P−21869
FERM P−21870
FERM P−21871
FERM P−19195
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬・医薬品中間体として有用な光学活性なL−ホモセリン又はその等価体であるL−ホモセリンラクトンの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−ホモセリンは、ラジカルスカベンジャーである、L−O−カフェオイルホモセリンなどの薬剤の構成要素であり、これらの薬剤を量産する際の原料として使用される。また、L−ホモセリンはアミノ酸であるため、医薬・健康分野において大量かつ安価な供給が望まれている。
光学活性なL−ホモセリンの製造としては、発酵法が報告されているが(非特許文献1)、実用化には至っていない。また、L−ホモセリンラクトンの製造法として、優先晶出法(非特許文献2)等が知られているが、産物の鏡像体過剰率が明らかにされていない上に、操作が煩雑であり、工業的には適当ではない。
このように、現在、光学活性なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを簡便に、且つ、工業的に製造する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】鮫島広年、奈良高、藤田忠三、木下祝郎、農芸化学会誌、第34巻第750〜754頁、1960年
【非特許文献2】Shiraiwa,T.et al.,Chem.Pharm.Bull.,第44巻第2322〜2325頁,1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、簡便かつ効率的なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンの製造方法、並びにそのための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ラセミ体のホモセリンあるいはホモセリンラクトンは、安価に入手できる。このラセミ体のホモセリンあるいはホモセリンラクトンを簡便に光学分割できるならば、L−ホモセリンを簡便に得られる。
アミノ酸の光学分割法としては、一旦ラセミ体のアミノ酸をN−アシル化した後、立体選択的なアシラーゼでどちらかの鏡像体を脱アシルする方法が取られる。しかし、N−アシルホモセリンに作用するアシラーゼは知られていない。また、既知のアシラーゼについても、N−アシルホモセリンに対する活性は報告されていない。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明者は、前記課題を解決するため、L−N−アシルホモセリンを立体選択的に脱アシルするアシラーゼを生産する微生物を探索した結果、バルクホルデリア属、ペニシリウム属およびエルウニア属に属する微生物の中にそのようなアシラーゼを生産する微生物を見出し、それを用いることにより、ラセミ体DL−N−アシルホモセリン中のL−体だけを脱アシル化し、光学活性なL−ホモセリンを簡便に取得し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させることを特徴とする、L−ホモセリン又はその塩の製造方法。
(2)DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させて得られたL−ホモセリン又はその塩を脱水環化することを特徴とする、L−ホモセリンラクトンの製造方法。
(3)DL−N−アシルホモセリンがDL−N−ホルミルホモセリンであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)N−アシルホモセリン−L−アシラーゼがバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するL−N−アシルホモセリン−L−アシラーゼであることを特徴とする、 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造法。
(5)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物を培地に培養し、菌体若しくは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを採取することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼの製造方法。
(6)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、及びエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物のうちのいずれか一種以上の微生物から得られたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を含有することを特徴とする、N−アシル−L−ホモセリンの脱アシル化剤。
(7)以下の酵素学的性質を有することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、L−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【発明の効果】
【0008】
本発明におけるバルクホルデリア・テラ、ペニシリウム・シンプリシシマム、ペニシリウム・グラブラム、エルウニア・サイプリペディに由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、DL−N−アシルホモセリン中のL−体(L−N−アシルホモセリン)のみを立体選択的に脱アシル化する能力を有し、その酵素活性は極めて高い。したがって、このアシラーゼを利用して、安価なDL−N−アシルホモセリンから医薬品又は化学薬品の製造原料として有用なL−ホモセリンあるいはL−ホモセリンラクトンを簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、DL−N−アシルホモセリンからL−ホモセリンあるいはL−ホモセリンラクトンを製造するために使用するL−アシラーゼは、立体選択的なN−アシルホモセリン−L−アシラーゼであり、DL−N−アシルホモセリンのうちL−体(L−N−アシルホモセリン)のみを脱アシル化する酵素である。該N−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、バルクホルデリア属あるいはペニシリウム属又はエルウニア属に属する微生物由来のものであり、該微生物をより具体的に示すと、例えば、バルクホルデリア・テラ、ペニシリウム・シンプリシシマム、ペニシリウム・グラブラム、エルウニア・サイプリペディに属する微生物が挙げられる。
【0010】
これらの微生物のうち、代表的な菌株としては、バルクホルデリア・テラ308B、ペニシリウム・シンプリシシマム203F、ペニシリウム・グラブラム463F及びエルウニア・サイプリペディ314B(FERM P−19195)が挙げられる。
これらの菌株は、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ生産菌の探索の結果、土壌から新に分離されたり、保存菌株から見出されたものである。
これらのうち、エルウニア・サイプリペデイ314B(FERM P−19195)の菌学的性質は、特許公報(特許第3928046号)に記載の通りである。その他の微生物の菌学的性質は、実施例1に示すとおりである。
本発明に係る微生物は、後述する微生物の菌学的性質を指標として、土壌、河川水、湖沼水、汚泥などから、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ活性に基づき、平板分離法や集積培養法などのスクリーニングを行うことにより得ることができる。
【0011】
なお、上記バルクホルデリア・テラ308B、ペニシリウム・シンプリシシマム203F及び、ペニシリウム・グラブラム463Fは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2009年11月17日付で寄託され、それぞれ順に受託番号FERM P−21871、FERM P−21869、及びFERM P−21870が与えられている。
【0012】
本発明におけるN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの生産菌株としては、上記のバルクホルデリア・テラ308B(FERM P−21871)、ペニシリウム・シンプリシシマム203F(FERM P−21869)、ペニシリウム・グラブラム463F(FERM P−21870)及び、エルウニア・サイプリペディ314B(FERM P−19195)が好ましいが、これらの誘導株も同様に好ましい。「誘導株」とは、上記菌株から天然に又は化学的若しくは物理的処理によって誘導される菌株であって、依然としてN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力を保持あるいは向上した菌株を指す。微生物は、その培養条件(例えば培地組成、温度など)や、化学的若しくは物理的処理(例えばガンマ線照射など)によって変異が誘発されることが知られている。本発明においては、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力を保持する限り、そのような誘導株も好ましく用いることができる。
【0013】
ある菌株がN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する能力は、例えば実施例1に記載のように、DL−N−アシルホモセリンに菌体抽出物あるいはパーミアブル菌体を作用させ、反応液中のD−ホモセリン含量及びL−ホモセリン含量を測定することによって簡便に確認することができる。
本発明に係る微生物は、立体選択的なN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを生産する。したがって、該酵素を用いて、DL−N−アシルホモセリン中のL−体のみを脱アシルし、L−ホモセリンを簡便かつ効率的に取得することができる。また、このようにして得たL−ホモセリン又はその塩をL−ホモセリンラクトンに脱水環化することによって、L−ホモセリンラクトンを効率的に製造することができる。
【0014】
本発明においては、DL−N−アシルホモセリン又はその塩を、上述したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を生産する微生物の菌体、あるいはその培養物等の該酵素含有物と接触させることで、DL−N−アシルホモセリン又はその塩中のL−N−アシルホモセリン又はその塩を選択的に脱アシル化されることにより、L−ホモセリン又はその塩を製造することができる。
このL−ホモセリン又はその塩の製造においては、前述した微生物のうちの1種を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができ、また、1種又は複数種の微生物から抽出されたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを混合使用してもよい。
【0015】
微生物を培養するには、通常の培養条件を用いて上記微生物を培養すればよく、例えば、培地として、炭素源、窒素源、無機塩類を含有する培地を用いて、各種培養条件を用いて培養を行うことができる。炭素源としては、澱粉又はその組成画分、焙焼デキストリン、加工澱粉、澱粉誘導体、物理処理澱粉及びアルファ澱粉等の炭水化物などを用いることができる。具体例としては、例えば、可溶性澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、デキストリン、アミロペクチン、アミロース等が挙げられる。窒素源としては、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー又は大豆若しくは大豆粕等の抽出物等の有機窒素源物質、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素化合物を用いることができる。そして、無機塩類としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の鉄イオン含有化合物、リン酸カリウム塩、リン酸ナトリウム塩等のリン酸塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カルシウム等のカルシウム塩、塩化ナトリウム等のナトリウム塩を用いることができる。また培地は、固体培地及び液体培地のいずれも使用することができる。
【0016】
培養方法も特に限定されるものではなく、振盪培養、通気撹拌培養、静置培養などの公知の培養方法を用いることができる。ここで、培養の最適条件に関しては、用いる微生物の種類により異なるため、上記培地及び培養方法は用いる微生物に適するものに適宜選択及び調整される。また、温度、pH、培養期間等のその他の培養条件も、微生物が生育し、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ活性を生産し得る条件であれば適宜選択されて培養が行われることが好ましい。例えば、培養は、振盪培養若しくは通気撹拌培養等の好気的条件下において、培地をpH3〜9の範囲、好ましくはpH5〜8に調整し、温度10〜50℃の範囲、好ましくは20〜30℃で実施し、通常1〜15日間培養するのが望ましい。
【0017】
本発明におけるDL−N−アシルホモセリン又はその塩の選択的脱アシル化においては、上記微生物由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを含有するものであれば使用でき、例えば、上記微生物菌体、菌体破砕物等の菌体処理物、あるいは培養物、培養処理物を使用することができるが、例えば微生物の菌体そのままの形態、これらの菌体あるいはその破砕物を適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁した形態、あるいは微生物の菌体を保存可能なように凍結又は乾燥した形態で用いてもよく、さらに培養物を濾過、遠心分離して若しくは脱水して得た菌体にパーミアブル化等の処理を行って使用してもよいし、培養物を水等で希釈して使用してもよい。また、微生物の菌体あるいは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを抽出して、粗酵素の形態で使用してもよいし、さらに精製したものを使用してもよい。微生物の菌体あるいはその培養物からのN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの抽出法や精製法等の形態にも、何ら限定されない。このような形態は、当技術分野で公知の方法に従って適宜調整することができる。
本発明のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの精製法それ自体公知の酵素精製法を用いることが可能であり、例えば、菌体破砕物から菌体を除去後、硫安分画法等を用いて酵素濃縮後、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を適宜組み合わせて行うことができるが、微生物の菌体あるいはその培養物からのN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの抽出法や精製法等の形態には、何ら限定されない。
酵素の精製例として、ペニシリウム・シンプリシシマム203F由来のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを精製し、その酵素学的性質を調べた結果、該酵素は少なくとも以下の性質を有していた。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、DL−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【0018】
使用する微生物の菌体又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの量は、使用する微生物の種類、DL−N−アシルホモセリンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。
さらに、DL−N−アシルホモセリンの選択的脱アシル化をさらに効率的に行うために、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはその含有物に他の追加成分を使用してもよく、そのような追加成分としては、限定するものではないが、硫酸コバルト、塩化亜鉛等の塩類が挙げられる。
本発明における上記選択的脱アシル化によるL−ホモセリンの製造においては、上記微生物の菌体、菌体処理物、培養物、培養処理物又はそれから抽出あるいはさらに精製したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを、DL−N−アシルホモセリンと接触させるが、ここで「接触」とは、例えば、上記N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を含有する菌体、その培養物等の酵素含有物を懸濁液あるいは溶液の形態でDL−N−アシルホモセリンと接触させること、あるいは上記N−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいは該酵素を含有する菌体を不溶性の担体に固定化したものをDL−N−アシルホモセリンと接触させることなどを指す。
【0019】
好ましい方法の1つは、肉汁培地など適当な培地で前記微生物を培養し、得られた菌体を有機溶剤で処理してパーミアブル菌体とし、DL−N−アシルホモセリン溶液に懸濁し、震盪又は攪拌する方法である。DL−N−アシルホモセリン溶液の組成には何ら限定は無く、必要に応じ、無機塩類やビタミン等を加えてもよい。菌体懸濁液のpHや温度等の諸条件は、使用する微生物、DL−N−アシルホモセリン含有量、採用する培養方法などによって異なるが、L−N−アシルホモセリンが活発に脱アシルされる条件であれば何ら限定されるものではなく、当業者であれば適宜設定することができる。
【0020】
以上の操作によりL−ホモセリンとD−N−アシルホモセリンを含む懸濁液が得られるので、通常の単離・精製方法、例えば遠心分離や濾過、タンパク質又は核酸分解試薬を使用して、微生物菌体及びそれに由来する成分を取り除く。続いて、生成したL−ホモセリンとD−N−アシルホモセリンは、イオン交換クロマトグラフィー等により容易に分離できる。更に必要に応じて、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー等の当技術分野で公知の任意の方法を単独で又は組み合わせて用いることによりL−ホモセリンを精製することができる。
このようにして製造されるL−ホモセリンは、光学純度(鏡像体過剰率)が高い。例えば、L−ホモセリンの鏡像体過剰率は、約70%e.e.以上、好ましくは約80%e.e.以上、より好ましく約90%e.e.以上、最も好ましくは95%〜100%e.e.である。
【0021】
また、ホモセリンとホモセリンラクトンは平衡混合物として存在し、この平衡は、酸性条件下ではホモセリンラクトン方向に、そしてアルカリ性条件ではホモセリンの方向に傾くことが知られている。したがって、上述のようにして得られたL−ホモセリンを酸性条件下での還流などの公知の方法で脱水環化することによって、L−ホモセリンラクトンを製造することができる。例えば、2規定濃度の塩酸で、2時間の煮沸処理を行うことにより、ホモセリンはホモセリンラクトンに変換することができる。
しかしながら、本製造方法においては、ホモセリンからホモセリンラクトンを製造する公知の方法であれば特に限定されるものではない。
【0022】
以上のようにして、本発明に係る微生物又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを用いることにより、簡便かつ効率的にL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを製造できる。
また、本発明のN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ及びその含有物は、L−N−アシルホモセリンの脱アシル化剤として有用である。
本分解剤は、前述した微生物の菌体のうちの1種を単独で、又は複数種を組み合わせて含有することができ、また1種又は複数種の菌体処理物、該微生物の培養物又はその処理物を含有してもよい。さらに、上記各微生物から得たN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを複数混合使用してもよい。
【0023】
本分解剤の形態は特に限定されず、微生物の菌体そのままの形態、菌体破砕物、これらを溶媒中に溶解若しくは懸濁した形態、あるいは微生物の菌体を保存可能なように凍結又は乾燥した形態、透過性を増すために微生物菌体を有機溶剤等で処理した形態、更にはこれらを不溶性担体に固定化した形態など、任意の形態をとることができる。また、該菌体を含む培養物、及び抽出あるいはさらに精製したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼについても、同様に任意の形態をとりうる。このような形態は、当技術分野で公知の方法に従って適宜調整することができる。
また、本分解剤は、他の成分を含んでもよい。他の成分は、微生物の菌体又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの立体選択的L−N−アシルホモセリン分解能を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、リン酸塩などのpH調整剤、酵母エキスやビオチンなどの賦活剤、カルボキシメチルセルロースや乳糖などの賦形剤等が挙げられる。
【0024】
また、L−N−アシルホモセリンを脱アシル化するための使用量は、使用する微生物又はそれから抽出したN−アシルホモセリン−L−アシラーゼの種類、L−N−アシルホモセリンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。
以下、本説明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1
下記の組成の液体培地を、集積培地とした。
培地:グルコース 20.0、KH2PO4 3.0、DL−N−ホルミルホモセリン 2.0、MgSO4・7H2O 0.3、CaCl2・2H2O 0.1、NaCl 0.1g/l,pH7.0
土壌試料0.5gを5mlの滅菌水に懸濁し、上澄み0.5mlを集積培地5mlに接種し、30℃で震盪培養した。菌が増殖し白濁が認められた場合は、集積培地を1.5%の寒天で固形化した平板培地に培養液を適宜希釈した後に塗布し、生じた微生物のコロニーを分離し、分離株を得た。次いで、同じ培地に分離株及び保存菌株を接種し、30℃で震盪培養した。菌体を集め、ガラスビーズ法で菌体を破砕し、無細胞抽出物を得、粗酵素液とした。粗酵素液のN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性を測定し、L−N−ホルミルホモセリンだけを脱ホルミルし、L−ホモセリンを生ぜしめる分離株を選択した。なお、N−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性の測定は、下記の方法に拠った。
【0026】
[活性測定法]25mMのDL−N−ホルミルホモセリンを含む125mM MOPS緩衝液
(pH7.0)200μlと5mM CoSO4 5μlを混じ、37℃で3分間加温した後、酵素液45μlを加え、反応を開始した。37℃で30分間反応後、沸騰水浴上に1分間置き、反応を停止した。遠心により不溶物を除いた後、生成したホモセリンのD−体とL−体それぞれを光学分割カラム[ダイセル化学工業社製、CrownPak CR (+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーで定量した。酵素1Uは、上記の反応条件下で、1分間に1μmoleのL−ホモセリンを遊離する酵素量とした。
【0027】
得られた分離株の中から最も高い活性と立体選択性を示した308B株、203F株、463F株を選択した。また、保存菌株では、エルウニア・サイプリペデイ314B(FERM P−19195)が、活性を示した。これらの菌株の無細胞抽出物のN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性および本酵素活性によりDL−N−ホルミルホモセリンより生成するL−ホモセリンの光学純度(鏡像体過剰率)を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
なお、これらの分離株は、以下の菌学的性質を有する。
(1)バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)308B株の菌学的性質
1.形態:長さ2.0〜3.5μm、幅0.7〜0.8μmの桿菌
2.グラム染色:陰性
3.3%KOHによる溶菌:陽性
4.アミノペプチターゼ:陽性
5.アルコールデヒドロゲナーゼ:陰性
6.ウレアーゼ:陰性
7.オキシターゼ:陽性
8.カタラーゼ:陽性
9.硝酸塩還元能:陽性
10.脱窒反応:陰性
11.42℃における増殖:陰性
12.運動性:有り
13.鞭毛:複数の極鞭毛
14.ゼラチン加水分解能:陰性
15.エスクリン加水分解能:陰性
16.カゼイン加水分解能:陰性
17.グルコース資化性:陽性
18.フェニル酢酸資化性:陽性
19.クエン酸資化性:陰性
20.リンゴ酸資化性:陽性
21.マンノース資化性:陽性
22.マンニトール資化性:陽性
23.グルコン酸資化性:陽性
24.マルトース資化性:陰性
25.トレハロース資化性:陽性
26.シトラコン酸資化性:陽性
27.アドニトール資化性:陽性
28.m−ヒドロキシ安息香酸資化性:陽性
29.アラビノース資化性:陽性
30.メサコン酸資化性:陽性
31.リボース資化性:陽性
32.N−アセチルグルコサミン資化性:陽性
33.トリプタミン資化性:陽性
34.ラフィノース資化性:陰性
35.シュークロース資化性:陰性
36.L−ヒスチジン資化性:陽性
37.スベリン酸資化性:陽性
38.DL−乳酸資化性:陽性
39.5−ケトグルコン酸資化性:陽性
40.2−ヒドロキシ吉草酸資化性:陰性
【0030】
本菌の脂肪酸組成は、バルクホルデリア属の特徴と一致した。本菌の16SrDNAの部分塩基配列はバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)と100%の相同性を示した。本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)と同定された。本菌は、バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)308Bと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM P−21871として寄託されている。
【0031】
(2)ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)203F株の菌学的性質
1.生育状態
麦芽エキス寒天培地においてコロニーは、25℃、7日間で直径25mmに達する。深いビロード状で緑色。菌糸は、無色。コロニーの裏面は、パールイエローから茶色。滲出液は、認められない。37℃でも、生育する。
2.形態
分生子柄:直径3μm、薄壁、粗面。不規則に分枝し、ラミは部分的に存在。メトレの長さは不等長で、10〜16μm。フィアライドは長い首を持つフラスコ型で、長さ8〜10μm。
分生子:卵型から球形で、直径3.5μm。表面は、滑面から微細な粗面。
本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)と同定された。本菌は、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)203Fと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM AP−21869として寄託されている。
(3)ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)463F株の菌学的性質
1.生育状態
麦芽エキス寒天培地においてコロニーは、25℃で1日当たり約2.5mm成長する。ビロード状で、緑色。菌糸は、透明。コロニーの裏面は、パールイエローから茶色。ツァペック酵母エキス培地では、透明から黄色の滲出液を生じる。37℃で生育せず。
2.形態
分生子柄:直径2μm、薄壁。滑面であり、細粒を表面に伴わない。ラミ、メトレは、認められない。フィアライドは、短い首を持つフラスコ型で、最大長、10μm。
分生子:球形で直径3μm。滑面。
本菌は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)により、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)と同定された。本菌は、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)463Fと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターにFERM AP−21870して寄託されている。
【0032】
実施例2
下記の培地でペニシリウム・シンプリシシマム203Fを30℃で2日間振盪培養した。
培地:コハク酸 20.0、KH2PO4 3.0、硫酸アンモニウム 2.0、酵母エキス 1.0、MgSO4・7H2O 0.3、CaCl2・2H2O 0.1、NaCl 0.1g/l,pH5.0
菌体を濾過により集め、50mM MOPS緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、4%のイソアミルアルコールを含む50mM MOPS緩衝液(pH7.0)に懸濁し、10分間激しく振盪した。イソアミルアルコール処理した菌体を濾過により集め、MOPS緩衝液(pH7.0)で二回洗浄し、パーミアブル菌体とした。
【0033】
170UのN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼ活性を有するパーミアブル菌体、160mMのDL−N−ホルミルホモセリン、0.1mMのCoSO4および100mM MES(pH6.5)を含む反応液300mlを30℃で穏やかに振盪した。反応液の一部を取り、光学分割カラム[ダイセル化学工業社製CrownPak CR(+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーでその上清を分析し、L−ホモセリンの増加がプラトー(78mM)に達したのを確認した後、反応液から濾過によりパーミアブル菌体を除いた。
【0034】
濾液を、イオン交換樹脂アンバーライトIR120B(ローム・アンド・ハース・ジャパン社)を充填したカラム(内径26mm、長さ200mm)に供し、水洗の後、0.2M濃度のアンモニア水で溶出を行った。ホモセリンを含む画分を集め、pHを7.0に調整した後、ロータリーエバポレーターを用いて約20mlに濃縮した。この濃縮液に対し250mlの熱エタノールを攪拌しつつ加え、引き続き攪拌しつつ、室温に一晩放置した。析出物を濾過により集め、エタノールで洗浄後、乾燥させ、1.4gのL−ホモセリンを得た。即ち、L−ホモセリンに対するモル収率は、51%であった。
【0035】
得られたL−ホモセリンを光学分割カラム[ダイセル化学工業社製CrownPakCR(+)]を用いた高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、99.3%e.e.以上の光学純度を有していた。またイナートシルODS−3カラム(4.6×250mm、GLサイエンス社製)を用いて、7.5mMの1−ペンタンスルホン酸ナトリウムを含む20mMリン酸緩衝液(pH2.5)を移動層とする高速液体クロマトグラフィーで、本標品を分析したところ、97%以上の純度を有することが確認された。
【0036】
実施例3
実施例2と同様にペニシリウム・シンプリシシマム203Fを培養した。菌体を濾過により集め、50mM MES緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、Braun社製MSKセルホモゼェナイザーで破砕、遠心後の上清を粗酵素液とした。この粗酵素液に対し硫安を1.7Mとなるように加えた。沈殿した夾雑物を遠心により除いた後、1.7Mの硫安を含む50mM MES緩衝液(pH7.0)で平衡化したブチルトヨパールカラムに供した。吸着された活性画分を、移動相中の硫安濃度を直線的に低下させることにより溶離した。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したフラクトゲルEMD DEAEカラムに吸着させ、次いで移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したDEAE MemSep1000カラムに吸着させ、移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させ、部分精製酵素とした。この一連の精製操作によりN−ホルミルホモセリン−L−アシラーゼは、360倍に精製された。
【0037】
この部分精製酵素を用いて、DL−N−ホルミルホモセリンとDL−N−アセチルホモセリンに対する活性を比較したところ、DL−N−ホルミルホモセリンに対する活性を100%とすると、DL−N−アセチルホモセリンには29%の相対活性が検出された。
尚、活性の測定法は、実施例1に準じた。
【0038】
実施例4
実施例2と同様の培地でペニシリウム・シンプリシシマム203Fを培養した。菌体を濾過により集め、50mM MES緩衝液(pH7.0)で二回洗浄した後、Braun社製MSKセルホモゼェナイザーで破砕、遠心後の上清を粗酵素液とした。この粗酵素液に対し硫安を1.7Mとなるように加えた。沈殿した夾雑物を遠心により除いた後、1.7Mの硫安を含む50mM MES緩衝液(pH7.0)で平衡化したブチルトヨパールカラムに供した。吸着された活性画分を、移動相中の硫安濃度を直線的に低下させることにより溶離した。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したフラクトゲルEMD DEAEカラムに吸着させ、次いで移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mM Tris緩衝液(pH7.0)で透析した後、同じ緩衝液で平衡化したDEAE MemSep1000カラムに吸着させ、移動相中にNaClを直線的に加えることにより溶出させた。得られた活性画分を10mMリン酸緩衝液で平衡化したヒドロキシアパタイトカラムに吸着させ、移動相中のリン酸濃度を直線的に上げることにより、目的酵素を溶出させた。この一連の精製操作によりN−アシルホモセリン−L−アシラーゼは、450倍に精製され、SDS−PAGEで単一バンドを与えた。本アシラーゼの性質を以下に示す。
【0039】
(a)N−ホルミルホモセリンに対するKm値は79.8mM、Vmax値は368U/mg。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン(29%)、L−N−アセチルアラニン(13%)、L−N−アセチルグルタミン酸(11%)にも弱く作用する。尚、()内の数字は、L−N−ホルミルホモセリンに対する活性を100%とした場合の相対活性である。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、L−N−アセチルフェニルアラニンやDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:pH7において50℃ までの温度に10分間保っても、95%以上の活性が残存。
(f)pH安定性:4℃においてpH6.5から8.5に24時間保っても95%以上の活性が残存。
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000。
(h)阻害剤・賦活剤など:NiSO4、2,2”−ビピリジルにより弱程度(<20%)、MnCl2、AgNO3、EDTA、N−ブロモスクシンイミドにより強程度(>90%)の阻害を受ける。PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)、ヒドロキシアミンで阻害・賦活されない。CoSO4、ZnCl2、MgCl2により、それぞれ、1.9、1.4、1.1倍に賦活される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、L−ホモセリンの簡便な製造法が提供される。この方法を利用して健康補助食品、医薬品又は化学薬品の製造原料として有用なL−ホモセリン及びL−ホモセリンラクトンを簡便かつ効率的に製造することができる。
【受託番号】
【0041】
FERM P−21869
FERM P−21870
FERM P−21871
FERM P−19195
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させることを特徴とする、L−ホモセリン又はその塩の製造方法。
【請求項2】
DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させて得られたL−ホモセリン又はその塩を脱水環化することを特徴とする、L−ホモセリンラクトンの製造方法。
【請求項3】
DL−N−アシルホモセリンがDL−N−ホルミルホモセリンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
N−アシルホモセリン−L−アシラーゼがバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するN−アシルホモセリン−L−アシラーゼであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物を培地に培養し、菌体若しくは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを採取することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼの製造方法。
【請求項6】
バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、及びエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物のうちのいずれか一種以上の微生物から得られたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を含有することを特徴とする、N-アシル−L−ホモセリンの脱アシル化剤。
【請求項7】
以下の酵素学的性質を有することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、DL−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【請求項1】
DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させることを特徴とする、L−ホモセリン又はその塩の製造方法。
【請求項2】
DL−N−アシルホモセリンにN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ又はN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を作用させて得られたL−ホモセリン又はその塩を脱水環化することを特徴とする、L−ホモセリンラクトンの製造方法。
【請求項3】
DL−N−アシルホモセリンがDL−N−ホルミルホモセリンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
N−アシルホモセリン−L−アシラーゼがバルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物に由来するN−アシルホモセリン−L−アシラーゼであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、又はエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物を培地に培養し、菌体若しくは培養物からN−アシルホモセリン−L−アシラーゼを採取することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼの製造方法。
【請求項6】
バルクホルデリア・テラ(Burkholderia terrae)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum)、及びエルウニア・サイプリペディ(Erwinia cypripedii)に属する微生物のうちのいずれか一種以上の微生物から得られたN−アシルホモセリン−L−アシラーゼあるいはN−アシルホモセリン−L−アシラーゼ含有物を含有することを特徴とする、N-アシル−L−ホモセリンの脱アシル化剤。
【請求項7】
以下の酵素学的性質を有することを特徴とする、N−アシルホモセリン−L−アシラーゼ。
(a)作用:L−N−ホルミルホモセリンをL−ホモセリンに加水分解する。
(b)基質特異性:L−N−アセチルホモセリン、L−N−アセチルアラニン、L−N−アセチルグルタミン酸にも弱く作用する。D−ホルミルホモセリン、D−アセチルホモセリン、DL−N−アセチルフェニルアラニンおよびDL−N−アセチルペニシラミンには作用しない。
(c)至適温度:55〜65℃
(d)至適pH:pH8〜9
(e)温度安定性:〜50℃
(f)pH安定性:pH6.5〜8.5
(g)分子量:ベックマン・ウルトラスフェロゲル SEC3000(7.5mm×30cm)カラムを用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィーにて約84,000、SDS−PAGEにて37,000
【公開番号】特開2011−182778(P2011−182778A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3555(P2011−3555)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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