説明

L−乳酸の製造方法

【課題】 無菌培地は必要とするが、その後の発酵工程における滅菌操作を必要としない新規なL−乳酸の製造方法の提供。
【解決手段】 抗菌剤およびリン酸塩の存在下で、澱粉を乳酸菌により加水分解と発酵を行うことを特徴とするL−乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、乳酸菌を用いたL−乳酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックスは、それが容易に分解や変質をしないという特徴が買われて驚異的に普及したが、近年、プラスチックスが容易に分解や変質をしないことに伴い、その廃棄物の処理が重大な地球環境問題となってきた。
【0003】そんななかで、生分解性をもつプラスチックスとしてL−乳酸の重合物が注目を集めている。それに伴い光学純度の高いL−乳酸を如何に効率よく製造するかが重要視されている。
【0004】従来から、澱粉を、Streptococcus属たとえばS.lactis、S.thermophylus、S.faecium;Pediococcus属たとえばP.pentosaceus、P.halophilus;およびLeuconostoc属などの乳酸菌を用いてL−乳酸を製造する方法が知られているが、いずれの場合も乳酸菌を発酵させる系であるため、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの他の雑菌の存在は許されない。そのため、乳酸菌を添加する前の段階で、反応系は充分な滅菌処理を行うことが求められており、このことは装置的にも材料的にも、また作業上でも経費増大の大きな原因となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、無菌培地は必要とするが、その後の発酵工程における滅菌操作を必要としない新規なL−乳酸の製造方法を提供する点にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、有効量の抗菌剤を使用すれば、乳酸菌もその他の雑菌も死滅または静菌させてしまうが、不思議なことに、ここにリン酸塩が共存すると、乳酸菌のみが増殖し、その活性を失わないという驚くべき事実を発見したことに基因するものである。
【0007】本発明の第一は、抗菌剤およびリン酸塩の存在下で、澱粉を乳酸菌により加水分解と発酵を行うことを特徴とするL−乳酸の製造方法に関する.
【0008】本発明の第二は、リン酸塩の濃度が50〜200ミリモルである請求項1記載のL−乳酸の製造方法に関する。
【0009】本発明の第三は、乳酸菌がストレプトコッカスボービスである請求項1または2記載のL−乳酸の製造方法に関する。
【0010】本発明に用いる澱粉としては、生のさつまいもなどのような生澱粉、乾澱粉、加工澱粉など、いずれの澱粉でもよい。澱粉原料としては、米、麦、トウモロコシ、キャッサバ、甘藷、じゃがいも、蕎麦、豆など、いずれの原料でもよい。
【0011】本発明における抗菌剤としては、無機系抗菌剤、有機系抗菌剤のいずれもが使用できる。
【0012】無機系抗菌剤としては、無機系殺菌剤と無機系抗菌製品用抗菌剤があるが、いずれも使用できる。
【0013】前記無機系殺菌剤としては、塩化第二水銀、オキシシアン化水銀などの水銀化合物;硝酸銀などの銀化合物;次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素などの塩素化合物;ヨウ素、ヨードホルムなどのヨウ素化合物;ホウ酸などのホウ素化合物;過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどの過酸化物;生石灰などの石灰類などが挙げられる。
【0014】前記無機系抗菌製品用抗菌剤としては、金属イオン担持型と有機抗菌剤担持型がある。金属イオン担持型は、ゼオライト、シリカゲル、ケイ酸ガラス、ビロキシアパタイト、リン酸カルシウム、難溶性リン酸塩、リン酸ジルコニウム、ケイ酸塩、酸化チタンなどの無機担体に、Ag、Hg、Cu、Cd、Au、Co、Ni、Pb、Fe、Al、Zn、Mn、Ba、Mg、Ca、などの殺菌性金属イオンを担持させたものを挙げることができる。また、有機抗菌剤担持型は、前記担体に第4級アンモニウム塩、第2級アミンなどの抗菌性有機物を担持させたものを挙げることができる。
【0015】前記有機系抗菌剤としては、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメイト、トリクロロカルバニリド、ヘキサミン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、脂肪酸モノグリセリド、アルキルピリジニウムハライド、セチルトリメチルアンモニウムハライドのようなアルキルトリメチルアンモニウムハライドなどを挙げることができる。
【0016】これら抗菌剤は、乳酸菌以外の雑菌に対してリン酸塩の存在下においても有効に作用する量を使用するものであり、その使用量は抗菌剤独自の性能に依存する。
【0017】ちなみに、金属イオン担持型の場合には、その系における金属イオンの種類により細菌の最小発育阻止濃度は変化するが、チフス菌に対する最小発育阻止濃度(MICで示す)は、Ag:2×10−6、Hg:2×10−6、Cu:1.5×10−5、Cd:6.0×10−5、Au:1.2×10−4、Co:1.2×10−4、Ni:1.2×10−4、Pb:5.0×10−4である。
【0018】また、各種細菌に対する最小発育阻止濃度(μg/ml)は下記表のとおりである。
【表1】


【0019】前記リン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルミニウムおよびリン酸アンモニウムなどを挙げることができる。アルカリ金属やアルカリ土類金属に属するものはすべて使用できるが、そのなかでもNa塩、K塩、Ca塩、Mg塩などが好ましい。
【0020】前記リン酸塩の系中の濃度は、通常50〜200ミリモルとすることが乳酸菌の増殖にとって好ましい環境を与える。
【0021】乳酸菌としては、前述の乳酸菌がすべて使用できるが、とりわけストレプトコッカスボービスが本発明の条件下でL−乳酸を高い光学純度で、かつ効率よく生産する能力に優れているので、とくに好ましい乳酸菌である。
【0022】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0023】<接種用乳酸菌の調製>一方、予めグルコール1g、トリプトン1g、酵母エキス0.5g、塩化ナトリウム0.5gを含む液体培地100mlのうち、5mlを試験管にとり、適量のストレプトコッカスボービスを接種して嫌気性雰囲気下、37℃で1晩培養し、実施例で用いる接種用乳酸菌とした。
【0024】実施例1300mlの三角フラスコにトリプトン1.0g、酵母エキス0.5g、塩化ナトリウム0.5g、さつまいも澱粉粉末(乾燥粉末)1gおよび水100mlを加えて、オートクレーブで121℃、20分間煮沸殺菌し培地を調整した。この培地溶液3mlに、抗菌剤およびリン酸化合物を滅菌操作することなしに加え、抗菌剤の濃度を50ppm、リン酸化合物の濃度を100mMに調整した。これに前記接種用乳酸菌を滅菌操作することなしに接種し、インキュベーター内において37℃で静地培養を24時間行った。この乳酸発酵法により加工さつまいも粉末からの乳酸生産量は0.91gであり、D体の存在は確認できず、確認できたものはL体のみであった。
【0025】実施例2300mlの三角フラスコにトリプトン1.0g、酵母エキス0.5g、塩化ナトリウム0.5g、トウモロコシ糊化澱粉粉末(乾燥粉末)1gおよび水100mlを加えて、オートクレーブで121℃、20分間煮沸殺菌し培地を調整した。この培地溶液3mlに、抗菌剤およびリン酸化合物を滅菌操作することなしに加え、抗菌剤の濃度を50ppm、リン酸化合物の濃度を100mMに調整した。これに前記接種用乳酸菌を滅菌操作することなしに接種し、インキュベーター内において37℃で静地培養を5日間行った。この乳酸発酵法により加工トウモロコシ粉末からの乳酸生産量は0.8gであり、D体の存在は確認できず、確認できたものはL体のみであった。
【0026】実施例3300mlの三角フラスコにトリプトン1.0g、酵母エキス0.5g、塩化ナトリウム0.5g、生さつまいも(澱粉含有量約30重量%)3gおよび水100mlを加えて、オートクレーブで121℃、20分間煮沸殺菌し培地を調整した。この培地溶液3mlに、商品名ゼオミック(ゼオライトにAg担持した抗菌剤)およびリン酸ナトリウムを滅菌操作することなしに加え、抗菌剤の濃度を50ppm、リン酸化合物の濃度を100mMに調整した。これに前記接種用乳酸菌を滅菌操作することなしに接種し、インキュベーター内において37℃で静地培養を6日間行った。この乳酸発酵法により生さつまいもからの乳酸生産量は1.03gであり、D体の存在は確認できず、確認できたものはL体のみであった。
【0027】比較例1リン酸塩を用いない以外は、実施例1を繰り返した。その結果、乳酸生産量は0.31gであった。
【0028】比較例2抗菌剤もリン酸塩も加えない点を除き、実施例1を繰り返した。その結果、乳酸生産量は0.39gであった。
【0029】比較例3環境および装置を滅菌し、抗菌剤もリン酸塩も用いない以外は実施例1を繰り返した。この方法は典型的な従来法である。その結果、乳酸生産量は0.44gであった。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、発酵生産工程における滅菌操作が不要であるため、この工程における滅菌設備とそのための作業が必要でなく、これがコスト削除に大きく寄与するうえ、光学純度の高いL−乳酸が高収率で得られるという大きな効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 抗菌剤およびリン酸塩の存在下で、澱粉を乳酸菌により加水分解と発酵を行うことを特徴とするL−乳酸の製造方法。
【請求項2】 リン酸塩の濃度が50〜200ミリモルである請求項1記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項3】 乳酸菌がストレプトコッカスボービスである請求項1または2記載のL−乳酸の製造方法。

【公開番号】特開2002−51792(P2002−51792A)
【公開日】平成14年2月19日(2002.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−245337(P2000−245337)
【出願日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【出願人】(594017293)トーゼン産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】