LB法による成膜方法
【課題】 螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるLB法による成膜方法を提供する。
【解決手段】 螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜するLB法による成膜方法。P=(1/(dH/dS))×(1/S)・・(1[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【解決手段】 螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜するLB法による成膜方法。P=(1/(dH/dS))×(1/S)・・(1[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LB法を用いて螺旋型ポリアセチレンの均一な配向膜を成膜し得る成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配向膜は光学的異方性を有しており、偏光方向に対して異なった光学特性があり各種光学素子として利用価値が高い。また液晶ディスプレイにおいて液晶の初期配向を与えるためにも利用されている。また本発明で利用する高分子に関しては、電極間を橋渡しする方向に分子を配向させることにより移動度を向上させることができる。このように配向膜は産業上重要な技術となっている。
【0003】
有機高分子の配向体を作成する一般的な方法としては、ラビング基板法、グレーティング基板法などあらかじめ配向規制力を付与した基板を作成しその基板上に高分子の配向体を作成する方法がある。また、電場配向法、磁場配向法、流動配向法、エピタキシャル成長法など高分子の集合体を形成する際に外力を加えて配向体を作成する方法がある。また、延伸・圧延配向法、摩擦転写法、光配向法などあらかじめ高分子の無配向体を作成しこれに外力を加えて配向させる方法がある。
【0004】
これらの配向制御方法に加え、LB法による高分子配向膜の作製方法がある。LB法はラングミュア−ブロジェット法の略称である。またラングミュア−ブロジェット法により成膜された膜をLB膜という。LB法あるいはLB膜については非特許文献1に詳細に記載されている。
【0005】
液体表面に浮いている、気体と液体の界面にあるこの種の単層はラングミュア膜あるいはL膜と呼ばれる。気体としては空気、液体としては水が一般的である。この固液界面に形成される単層の典型としては、疎水部と親水部からなる両親媒性分子を通常の大気中に置いて水の表面に形成される。これらの分子は親水部が水面側に疎水部が空気側に向いて水面上に整列し単分子膜を形成する。代表的な分子としては疎水性のアルキル鎖と親水性のカルボン酸から形成されるステアリン酸がある。このような単分子膜を1層ずつ基板に写し取ることにより薄膜を形成することができる。この方法がLB法であり、形成された膜がLB膜である。
【0006】
図1にLB法により用いられる標準的なトラフを示す。液体を貯蔵する水槽100は、一般的には10cmから1m程度の幅と長さを有している。ここに通常は液体が満たされている。液体としては通常水101が用いられる。トラフに収容された液体の表面の形状は4辺形で、その3辺はトラフの側面からなり、1辺に可動バリアが設けられている。102は水面上に展開した分子を圧縮するための可動バリアで外部から動きが制御される。水面上に展開した分子の2次元圧力、すなわち表面圧が一定になるようにフィードバック制御される方法が一般的である。
【0007】
103は水面上に展開した分子を示す。従来のLB法においては、親水性の部分と疎水性の部分を有する両親媒性分子が用いられる。代表的な分子の例としてはステアリン酸分子が挙げられる。104は基板であり、この基板上にLB膜を成膜する。基板はLB膜を成膜する際の下地基板となるものであり、平坦なものが好ましい。典型的な材料としてはSi基板、ガラス等が挙げられる。数mm程度の大きさから数10cm程度の大きさが一般的であるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0008】
従来の一般的なLB法においては以下のように成膜する。
【0009】
まず可動バリア102を図示−X方向に十分に離しておく。この状態で成膜する分子を水101の表面にまく。この際、分子を、あらかじめ揮発性の溶媒か、水に可溶な溶媒に溶かしておいてこの溶液をシリンジなどを用いて水表面にまくのが一般的である。分子として両親媒性分子を用いると、気液界面、すなわち水101表面に単層の分子層が形成される。次に可動バリア102は図示x方向へ移動し、水面上の分子103を基板104の方向へ圧縮する。このとき、可動バリア102の位置から水面上に展開した分子103の広がりの面積がわかる。より具体的には105で示した長さと106で示した長さの積から水面上に展開した分子103の占める総面積が求められる。
【0010】
一方、水面の一部に水の表面圧を検出する圧力センサを設置することにより表面圧を求めることができる。両者をプロットすることにより、可動バリア102を移動させた際の、面積と表面圧の関係を求めることができる。これはLB法においてπ−A曲線と呼ばれているグラフであり、典型的なπ−A曲線を図2に示す。図2は横軸が105と106で示した長さの積であらわされる面積、すなわち水面上に展開した分子103の占める総面積、縦軸が表面圧を示している。分子をまくときは稼動バリア102が−X方向に十分はなれており、分子は水面上にまばらに展開している。したがって表面圧はほぼ0である。図2のπ−A曲線では201で示した領域である。この領域では、可動バリア102を図示x方向に移動させても分子は水面上にまばらに存在するだけで表面圧は0を維持する。さらに可動バリア102を図示x方向に近づけてゆくと、水面上で一分子あたりの占める面積が、ちょうど実際の分子の面積に一致するあたりで急に表面圧が上昇する。これはちょうど分子が1面に密につまった状態になったためであり、図2のπ−A曲線では202で示した屈曲点にあたる。
【0011】
この点からさらに可動バリア102をx方向に移動させると表面圧は図2に示したとおり急激に上昇する。これは水面上に一面に密につまった分子を可動バリア102が押している状態であり、分子は水面上に1層の状態を保ったまま圧縮される。この状態は図2において203で示された領域にあたる。さらに可動バリア102をx方向に移動させると、表面圧がさらに上昇し、ついには水面上に維持された単層膜構造が破壊する。この点が図2において204で示した屈曲点である。可動バリア102をさらにx方向に移動させると、圧力は大きな変化をせずに1分子あたりの面積が減少してゆくが、これは水面上に展開した分子が単層構造を維持できずに壊れた状態にある。図2では205の領域にあたる。さらに圧縮を続けると表面圧は再度上昇するが、これは分子が多層になったり塊状になったりするためである。
【0012】
LB法においては分子が水面上でちょうど単層分子膜を形成する圧力をかけながら基板104に成膜する。すなわち203で示される領域を用いて、以下に示すように基板104に成膜を行う。図2においてπ−A曲線が203を示す表面圧がかかるように可動バリアの位置を制御する。典型的な表面圧はおよそ数mN/mから数十mN/m程度が一般的である。
【0013】
その状態で基板104を上下方向、すなわち図示z方向に移動させることにより基板104に水面上の単層分子膜が転写されてゆく。水面上に展開した分子が親水部と疎水部からなる低分子の場合、親水部が水に接触するように、また疎水部が大気(気相)の方を向いて整列する。基板が疎水性の場合まず基板を大気中におき、そこから基板が垂直になるようにして基板を図1中、−z方向に移動して水中に入れてゆく。その際、疎水性の基板表面と分子の疎水部が接触するようにして水面上に展開した単分子層が基板104に転写されてゆく。
【0014】
次に図示z方向に移動させて第2層目を成膜する。このようにして、一層レベルで膜厚が制御された分子膜を成膜することができる。また基板が親水性の場合は、あらかじめ基板を水中に入れておき、水中からz方向に移動させて第1層を積層させる。この場合、第1層目は親水性の基板と分子の親水性部が接触するようにして成膜される。以下、第2層は基板を−z方向に移動させて積層させる。LB法においてはこのように鉛直に配した基板を上下させて成膜させる方法が一般的であるが、基板表面を水面に平行に配置し、水面上から水面に基板表面を接触させて、水面上の分子を基板に転写したり、あるいは水面に平行な方向を保ち、水面下に配した基板を上に持ち上げることにより水面上の分子をすくいとるように基板に転写する方法もある。
【0015】
もっとも一般的なLB法においては、アラキジン酸等の両親媒性の低分子を用いるが高分子を用いる方法もある。この場合、全ての高分子が水面上、あるいは液面上に単層膜を形成できるわけではなく、単層膜が形成できる高分子のみLB法を用いて成膜できる。
【0016】
通常のLB法あるいはLB膜においては一層一層積層するため、積層面に対して垂直方向に制御することが可能である。一方、通常は一層の中の構造制御は困難であるが、水面上に展開した単層膜の流動を利用してある程度制御することが可能である。図3はLB法において水面上に展開した単層膜が基板に転写されるときの水面上単層膜の動きをLBトラフの上から見たものである。図3に示すLBトラフは図1に示すものとほぼ同様であるが、可動バリア102に加え同様な可動バリア301が設けられている。可動バリア301は可動バリア102とx方向で反対の方向に動く。すなわち、可動バリア102がx方向に移動するとき、可動バリア301は−x方向に移動する。この場合、基板104は表側と裏側が対称になり基板104の両面に均等に成膜することも可能である。
【0017】
図3は基板104に成膜をしたときの水面上の動きを示し、(a)(b)(c)の順に時間が経過した様子を示している。各図において網目と格子点は水面上の同一の点を示し、対応する点がどのように移動したかを示している。図3の(a)、(b)、(c)と時間が経過するにつれて、水面の流動により網目が変形していく様子がわかる。この流動により、基板104近傍では網目は長方形の形状から図示X方向に長くなるように変形している。
【0018】
水面上に高分子を単層並べておくと、この流動により時間が経過するにつれ、基板近傍では図示X方向に長くなるように配向する。基板へはこの配向を保ったまま転写されるので、基板上で高分子が配向した膜が形成される。基板上では図示z方向に高分子が伸びるように配向して転写/成膜される。このようにLB法において、流動を利用して配向膜を形成することが可能である。この流動配向については例えば、非特許文献2、非特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】G Roberts編集、Plenum Press,New York Langmuir−Blodgett Films(1990)
【非特許文献2】S.Schwiegk,et al.「ラングミュアーブロジェット・プロセスの間の剛性棒状高分子の主鎖配向の起源について」,Thin Solid Films、210(1992)6
【非特許文献3】O.Albrecht,et al.「単層における積層誘起流動を用いたラングミュアーブロジェット膜の均一性の制御」,Thin Solid Films、221(1992)276)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のように高分子を用いた配向膜の作製方法について、より均一性の高い膜が求められており、またより早い成膜速度が求められている。本発明はこの課題に対する解決策を提供するものである。
【0021】
本発明は、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるLB法による成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるLB法による成膜方法を提供することができる。また、本発明は、従来の成膜方法に比較して、速い速度で成膜することができる。
【0024】
また、本発明によれば光学薄膜や気体透過膜等として利用可能な螺旋型ポリアセチレン膜の自立膜を作製することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的なLB法に用いられるトラフを示す概略図である。
【図2】一般的なLB法におけるπ−A曲線を示す図である。
【図3】LB法による配向を説明する図である。
【図4】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図5】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図6】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図7】剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを用いたLB法による配向膜の作成方法を示す図である。
【図8】通常の高分子を用いたLB法を示す図である。
【図9】成膜時の圧力における圧縮率と成膜したLB膜の膜質の関係を示す図である。
【図10】優及び良と評価したLB膜の薄膜を示す写真である。
【図11】成膜時の圧力における圧縮率と成膜速度の関係を示すグラフである。
【図12】実施例1のπ−A曲線を示す図である。
【図13】実施例1における表面圧と圧縮率の関係を示すグラフである。
【図14】実施例2のπ−曲線を示す図である。
【図15】実施例2における表面圧と圧縮率の関係を示すグラフである。
【図16】実施例3で作製した自立膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【0028】
本発明に係るLB法による成膜方法は、従来の一般的なLB法とほぼ同様な方法で成膜するが、螺旋型ポリアセチレンを用いた配向膜を得る点と、成膜する表面圧Hにおける圧縮率Pが1×10−2m/mN以下である点に特徴を有する。
【0029】
本発明においては、配向膜を得るために剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを用いる。剛直線状高分子とは単一分子を取り出したとき、線状形状を維持する分子である。確認する具体的な方法としては、該高分子の十分に希薄な溶液を用い、スピンコート等により基板上に高分子を分散させる。その後に原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(SPM)により像をとることで分子の形状を確認するという方法が挙げられる。実際にこのような方法で直線状であることが確認された高分子の例としては、文献のO Albrecht、T Sone、A Kuriyama、K Eguchi、K Yano、Nanotechnology,vol19,p505201(2008)に記載された螺旋型ポリアセチレンが挙げられる。
【0030】
本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレンについて説明する。螺旋型置換ポリアセチレンは、下記の構造式(1)で表される一置換のポリアセチレンで、主鎖が螺旋構造を有している化合物が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
式中のX、Yは鎖状、環状の炭化水素の他、ヘテロ原子や金属原子を有する置換基を示す。螺旋型置換ポリアセチレンの構造としてはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキレンオキシド鎖または置換、無置換のシクロアルキル基、非共役へテロ環等の非共役官能基を側鎖のいずれかの位置に有していれば良い。
【0033】
Xは、例えば置換、無置換の芳香環、ヘテロ芳香環、カルボニル結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、イミノ結合、ウレタン結合、リン酸結合、チオエーテル結合、スルフィニル基、スルホニル基、アミノ基,シリル基や任意の長さのアルキレンオキシド鎖、その他の環状もしくは鎖状の炭化水素等が挙げられる。Xは単一のYに置換されても良く、同一又は異なるYにより複数置換されても良い。
【0034】
Yは、例えば上記Xで示した化学種の他にハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、ビニル基、エチニル基等が挙げられる。また、Yは同様の化学種により置換されても良い。
【0035】
非共役官能基はYに含まれていれば良く、Xが異なるYにより複数置換されている場合は、いずれかのYに非共役官能基が含まれていれば良い。非共役官能基としてはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン、メチレン鎖、アルキレンオキシド鎖または置換、無置換のシクロアルキル基、非共役へテロ環等が挙げられる。
【0036】
螺旋型置換ポリアセチレンの交互二重結合の主鎖は無螺旋型置換ポリアセチレンと同様の一次構造を有するが、水素原子よりも大きな置換基を有するため、主鎖は平面構造にならず、立体的に捻じれた構造を形成する。本発明で使用する螺旋型置換ポリアセチレンの構造を図4から図6に示す。図4から6には螺旋型ポリアセチレンの一つのフェニルアセチレンを例に示す。図4に示すとおり主鎖は交互二重結合が捻じれた螺旋構造を形成しており、その螺旋構造は二重結合400,二重結合401,二重結合402の3ユニットでほぼ一回転する3/1螺旋に近い構造である。
【0037】
この構造中では二重結合400から一巻きした二重結合403が0.5nm(5Å)以下、より典型的には0.2nmから0.4nm(2から4Å)程度の間隔でほぼ平行に並んでいる。同様に二重結合403と二重結合404、二重結合404と二重結合405も螺旋周期間隔で上下に並列している。図5にはわかりやすくするために二重結合400から405を含んだ主鎖308をらせん状に記載してある。また図4では煩雑さをさけるために主鎖が1回転するごとに2つの側鎖がついているように記載されているが、実際の構造は図4のとおり1回転につきほぼ3つの側鎖がついている。
【0038】
図5中において501と502は主鎖408に含まれる2つの炭素原子を示しており、この2つの炭素原子は主鎖の408の螺旋構造が1周回ったところに位置しており、図示z方向に積層しているような構造を形成している。406と407は側鎖中に存在するフェニル基で主鎖がほぼ1回転した後にスタックしているような構造となっている。さらに図6には本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレン分子をz方向から見た構造を示す。また本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレンは長い距離に渡って上記周期構造が形成されている。その距離は典型的には1nmから数μmにわたり、その領域では分子全体の形状は図示z方向に線状を呈する。
【0039】
本発明を実施するためには、図1に示したような一般的なLB法で使用するトラフを使用する。本発明を実施する形態としてはLB法でもっとも一般的な水面上に目的とする分子を展開する方法を説明するが、目的とする分子を溶かさない液体の範囲で、必要に応じて変更すればよい。また、周囲の雰囲気についてもLB法において最も一般的な大気中における場合を例に説明するが必要に応じて他の気体中で成膜してもよい。
【0040】
図7は図1に示すトラフを用いて本発明による成膜方法を説明する図である。まず可動バリア102を図示−x方向に移動させ基板104と十分距離を離しておく。この状態で高分子を水面上に展開させる。螺旋型ポリアセチレンは主鎖が螺旋構造をしており、分子全体を直線状に保持しやすいためにこのような剛直線状分子となっている。
【0041】
本発明ではこの剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを水101上にまく。実際には直接水面上にまくのは困難であるため、螺旋型ポリアセチレン分子をあらかじめ溶媒に溶かしておく。溶媒としては例えばメタノール、エタノール、アセトン、キシレン、クロロホルム等が挙げられる。高分子を溶解した溶液を水面上にたらすと、溶媒は蒸発するかあるいは水に溶けて、高分子が水面に広がる。この様子を図7(a)に示す。図7において剛直線状高分子601を模式的に線を用いて示しており、その長さが基板104等の大きさと同じ程度になっているが、あくまでも分子を模式的に書いたものであって、実際の分子の長さは典型的には数nmから数μm程度である。この状態では高分子601は水面上にまばらに存在している。
【0042】
本発明に基づくLB法においても、図2で示したπ−Aカーブと同様なカーブが得られ、このように分子が水面上でまばらに存在している状態は図2において201で示す領域にあたる。次に可動バリア102をx軸方向に移動させると水面上の分子の間隔が詰まってゆき、密に充填された単分子膜、すなわち螺旋型ポリアセチレン高分子単分子膜が形成される。その状態を図7(b)に示す。この高分子単分子膜の膜厚は高分子の直径になる。螺旋型ポリアセチレン分子は剛直線状高分子であるため、圧縮を受けた場合分子同士が平行に並びやすい傾向がある。このようにして配向ドメインが形成されやすい。このようにちょうど分子がパッキングされる状態は図2において202で示した状態にあたり、水面上で一分子あたりの占める面積は、ちょうど一分子の面積と同じである。一方、通常の高分子は剛直ではなく、配向ドメインはできにくい。その様子を図8に示す。
【0043】
次に可動バリア102を図示x方向に移動させると、水面上で分子が単分子層を維持しながらパッキングしながらその占める面積を減少させるため、表面圧が急激に上昇する。図2において203で示される領域である。さらに可動バリア102をx方向に移動させてゆくと単分子膜が破壊され始める。この点が図2において204で示される点である。さらに可動バリア102を図示x方向に移動させると水面上の分子膜が破壊されてゆく。この領域は205で示された領域である。本発明によるLB法では、図2において203で示される領域(面積の減少に対する表面圧の上昇の割合が急峻な領域)で成膜を実施する。これは通常のLB法と同様である。
【0044】
本発明のLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下を示す表面圧で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。またLは図1中、105に示した長さ、すなわち水面上に展開した分子膜のバリアの移動方向の長さを表す。
【0045】
圧縮率とは、単分子膜において外から膜に圧力を加えたときの分子の占める面積の減少を示すものであり、図2のπ−A曲線において203の領域での曲線の傾きの逆数を面積で割ることにより求められる。図2のπ−A曲線において、横軸である面積S(m2)、縦軸である表面圧H(mN/m)から、式(1)により圧縮率Pはm/mNとなる。この圧縮率は、水面に展開した分子膜の弾性的な性質を示す。すなわち膜の用いた剛直線状分子の種類、純度、温度等により変化する。圧縮率が低いということは、膜水平方向に圧力を加えたときの変形量が小さいことを意味している。すなわち圧縮率が小さいということは膜自体がより剛直な性質を有しているということであり、分子自体が剛直であったり、あるいは膜にしたときの空隙が少なく分子がより密に詰まっている状態であるということなどを意味している。
【0046】
本発明では、前記螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の圧縮率が1×10−2m/mN以下の値を示す表面圧で成膜を実施する。本発明者等は、この成膜を実施する表面圧における圧縮率が1×10−2m/mNを境に、成膜されたLB膜の膜質や均一性に大きな差があることを見出した。
【0047】
圧縮率を1×10−2m/mN以下とするためには、螺旋型ポリアセチレンの構造を制御したり、純度を高めたり、あるいは分子量の分散を抑えること等が有効である。
【0048】
構造を制御する観点からは、分子自体の剛直性が高い材料を採用することが望ましい。例えば、側鎖にプロピオレートを含む置換基を配した以下の構造式(2)で示される一置換の螺旋型ポリアセチレンは剛直性が高いため、1×10−2m/mNという低い圧縮率を得やすい。
【0049】
【化2】
(2)
【0050】
(ここで、m、nはそれぞれ整数を表わす)
【0051】
また、ポリマー重合直後では圧縮率が1×10−2m/mNであっても重合後、例えば3カ月程度の時間が経過すると圧縮率が上昇してしまうものもあるので、重合後速やかに成膜する方が望ましい。
また、分子量分散は低い方が圧縮率が低い傾向にある。ただし1×10−2m/mNを得るため分子量分散の上限は材料により異なる。
【0052】
例えば、分子量分散(Mw/Mn)が5以下のものが望ましいが、ポリエチルプロピオレートでは分子量分散が5を超えていても1×10−2m/mN以下の分子量分散を得ることが可能である。
【0053】
本発明の成膜方法は、背景技術で述べた高分子に対するLB法と同様である。規定の表面圧になるように可動バリア102を移動させる。その後、表面圧が規定値になるように維持をしながら可動バリア102を図示x方向に移動させながら、基板104をz方向に移動させる。その際水面上の剛直線状分子である螺旋型ポリアセチレンが基板104に転写される。このとき、水面は背景技術において図3で示した動きと同じ動きを示す。この水面の動きにより基板104近傍では分子が図示x軸方向に並び、これが基板104に転写される。したがって基板104上では分子はz方向に配向する。
【0054】
次に本発明の要件となる、圧縮率が1×10−2m/mN以下の値を示す圧力での成膜について述べる。
【0055】
図9は成膜時の圧力における圧縮率と成膜したLB膜の膜質の関係を示した図である。横軸は成膜を行った圧力での圧縮率(10を底にした対数表示、単位はm/mN)を示す。例えば、圧縮率(Log)−2.0=10−2.0=1.0×10−2m/mN、圧縮率(Log)−2.2=10−2.2=6.3×10−3m/mNである。
【0056】
縦軸は成膜したLB膜の膜質を、その表面を”優”、“良”、“不可/劣”の3つに分類したものである。優は全面に均一性よく成膜されている膜、良は一部に不均一があるもの半分以上の領域で均一性があるもの、“不可/劣”は全面が不均一な膜あるいは成膜ができなかったものを示す。図10は、優及び良と評価したLB膜の薄膜を示す写真である。図10の(a)に優と評価したLB膜、(b)に良と評価したLB膜の写真を示す。図10(b)において縞状に見える構造は膜厚の不均一性の違いに起因する干渉色の違いによるものである。
【0057】
さらに成膜時の圧力における圧縮率と成膜可能速度の関係を示したグラフを図11に示す。図11において横軸は図9の横軸と同じで、成膜を行った圧力での圧縮率(10を底にした対数表示、単位はm/mN)を示す。縦軸は成膜可能速度であり、以下のようにして算出した。LB膜を成膜する際、圧力を一定に保ったまま可動バリア102を図示x方向に移動しながらこの動きに連動させて基板104を上下させる。この可動バリア102と基板104の動きを早くすると水面上に展開した単分子膜の動きが追従できなくなり圧力を一定に保つフィードバック制御ができなくなる。この限界の速度を成膜可能速度と定義する。水面上の単分子膜がより均一のほうが可動バリア102で膜の端を押されたときの動きが単分子膜全体にすばやく伝わり、成膜可能速度が速くなる。基板104上に形成されたLB膜は水面上の単分子膜を転写した構造であるから、成膜可能速度が早いということは形成されたLB膜の均一性が高い。また成膜可能速度が高いとより高速に成膜することができるが、これにより基板104近傍の流動もより顕著にすることができ配向性が向上するというメリットがある。もちろん成膜可能速度が高い方が実際の成膜速度を上げることにより生産性が上がるというメリットもある。
【0058】
図9より圧縮率が1×10−2m/mN以下の領域で均一性がよい膜ができていることがわかる。また図11から圧縮率が1×10−2m/mN以下の領域で成膜速度が急に上昇するのがわかる。本発明は圧縮率が1×10−2m/mN以下を示す表面圧で成膜することにより、均一性がよく、また早い速度で配向膜を成膜することができる。さらに配向性が高い膜をえることができる。
【0059】
なお、全ての材料で圧縮率が1×10−2m/mNとなる圧力が存在するわけではない。本発明を実現するにはπ−A曲線を測定すること等により圧縮率が1×10−2m/mN以下となる圧力が存在することを確認する。なおあらかじめ圧縮率が1×10−2m/mN以下となる圧力が存在することを確認するか否かをチェックすることにより、実際にLB膜を成膜しなくてもスクリーニングすることが可能である。
【実施例1】
【0060】
実施例1としてポリプロピルプロピオレートを用いLB法によりSi基板に成膜した例を示す。
【0061】
LB法に用いたトラフは一般的なLBトラフであり、水を用いたLB法で成膜を行った。ポリプロピルプロピオレートは下記の構造式(3)で表され、一置換の螺旋型ポリアセチレンである。
【0062】
【化3】
(3)
【0063】
モノマーであるn−プロピルプロピオレートを重合することにより、ポリプロピルプロピオレートを得ることができる。具体的には次のように合成した。試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体47mg、メタノール2.6mlを入れ、プロピルプロピオレート0.5gとメタノール2.5mlの混合液をシリンジで注入することにより重合反応を開始させた。反応は40℃で24時間行った。沈澱したポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、真空乾燥し、目的物を得た。GPCにより評価したポリマーの数平均分子量(Mn)は2.4×104であり、分子量分散(Mw/Mn)は2.6であった。
【0064】
次に重合されたポリプロピルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製し、この溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下した。その後、バリアを移動しながらπ―A曲線を取得したところ図12に示すグラフを得た。図12において横軸は1分子あたりの占める面積(nm2)、縦軸は表面圧(mN/m)である。図2に示したπ−A曲線と同様な曲線が得られた。
【0065】
表面圧は、基板の近くに設置された表面圧センサーを用いて、成膜を実施した温度、すなわち室温(約20℃)で測定した。
【0066】
図2に202及び204で示した屈曲点が、図12において横軸が0.15nm2および0.13nm2に現れる。このπ−A曲線から前述の方法で圧縮率を求めることができる。図12に示すπ−A曲線から各点での圧縮率を求め、これを表面圧に対してプロットしたグラフを図13に示す。図13のグラフでは横軸が表面圧(mN/m)、縦軸が圧縮率(m/mN)で10を底とした対数表示にしてある。図13から、表面圧3から30mN/mの圧力で、圧縮率が1×10−2m/mNであることがわかった。
【0067】
そこで表面圧22mN/mでLB法で成膜を行った。この表面圧での圧縮率は0.003m/mNである。その成膜可能速度は0.8mm/sであったが、実際の成膜は0.3mm/sで実施した。また作製されたLB膜の写真は図10(a)に示すとおりであり、均一なLB配向膜が作製できた。
【実施例2】
【0068】
実施例2としてポリエチルプロピオレートを用いLB法により成膜した例を示す。ポリエチルプロピオレートは実施例1で用いたポリプロピルプロピオレートにおいて側鎖にあるアルキル基をプロピル基からエチル基に変えたもので、下記の構造式(4)で示される一置換の螺旋型ポリアセチレンである。
【0069】
【化4】
(4)
【0070】
ポリエチルプロピオレートは以下のように合成した。試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体47mg、メタノール2.6mlを入れ、エチルプロピオレート0.5gとメタノール2.5mlの混合液をシリンジで注入することにより重合反応を開始させた。反応は40℃で24時間行った。沈澱したポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、真空乾燥し、収率59%で目的物を得た。GPCにより評価したポリマーの数平均分子量(Mn)は4.2×104であり、分子量分散(Mw/Mn)は6.4であった。
【0071】
次にポリエチルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製した。次にこの溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下し、π―A曲線を得た。表面圧は、実施例1と同様に室温(約20℃)で測定した。その結果、図14に示すグラフを得た。図14の横軸と縦軸は図12と同様で、1分子あたりの占める面積(nm2)と表面圧(mN/m)である。図14においても図2の202及び204に対応する屈曲点が0.13nm2および0.12nm2に現れる。このπ−A曲線から前述の方法で圧縮率を求めることができ、図15に示す。
【0072】
図15から、5から30mN/mの表面圧で、圧縮率が1×10−2m/mN以下であることがわかった。そこで表面圧22mN/mでLB法で成膜を行った。この圧力での圧縮率は約0.003m/mNである。その結果,製膜速度が0.4mm/sで成膜を行うことが可能であった。また作製されたLB膜の写真ha図10(b)に示すとおりであり、成膜領域の半分以上で均一なLB配向膜が作製できた。
【実施例3】
【0073】
本実施例は螺旋型ポリアセチレンとして次式(5)に示すポリブチルプロピオレートを用い自立膜(Free Standing Film)を作製した例である。
【0074】
【化5】
(5)
【0075】
本発明の条件で成膜したLB膜は良質な膜ができているため自立膜を作製することができる。
【0076】
本実施例では基板としてオクタデシルアミンで疎水化処理したSi基板を用いている。
【0077】
ポリブチルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製した後、この溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下した。
【0078】
成膜は、23℃において23mN/mの表面圧で実施した。
【0079】
実施例1、実施例2と同様、この表面圧での圧縮率は1×10−2m/mN以下であり、成膜速度が0.3mm/sで成膜を行うことが可能であった。
【0080】
なお本発明によるLB膜は図1においてz方向に配向する。すなわち基板を上下させる方向に配向する。
【0081】
ポリブチルプロピオレートの場合、この条件で、400層以上積層したのち、基板からLB膜を剥離することができた。基板からの剥離は直径6mmの穴が開いたテープを成膜したLB膜の上から基板に貼り付け、それをはがすことによって行った。この際、剥離する方向は配向方向に沿った方向に剥離するとよい。
【0082】
図16に作製した自立膜の写真を示す。
【0083】
このように作製した自立膜は光学異方性があり、光学薄膜としても使用できる。
【0084】
また、LB成膜中に1層毎、あるいは複数層毎に基板を90度回転させることにより2つの配向方向が井桁状に並んだ構造の膜を形成することができる。この場合は剥離する際の方向を特に注意する必要がなくなるとともに、より薄い膜厚の自立膜を作製することが可能である。
【0085】
このような自立膜は光学薄膜の他にも気体を選択的に透過する気体透過膜へ応用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるので、光学薄膜や電子デバイス等に利用することができる。
【0087】
また本発明によれば光学薄膜や気体透過膜として利用できる有機薄膜の自立膜を作製することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
100 水槽
101 水
102 可動バリア
103 水面上に展開した分子
104 基板
105 水面上に展開した分子の占める面積を算出するのに用いる長さ
106 水面上に展開した分子の占める面積を算出するのに用いる長さ
201 分子がまばらな領域
202 ちょうど単分子膜が形成された点
203 単分子膜が圧縮される領域(LB法で成膜するのに用いられる領域)
204 単分子膜の破壊が始まる点
205 膜が破壊されながら圧縮される領域
301 可動バリア
【技術分野】
【0001】
本発明は、LB法を用いて螺旋型ポリアセチレンの均一な配向膜を成膜し得る成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配向膜は光学的異方性を有しており、偏光方向に対して異なった光学特性があり各種光学素子として利用価値が高い。また液晶ディスプレイにおいて液晶の初期配向を与えるためにも利用されている。また本発明で利用する高分子に関しては、電極間を橋渡しする方向に分子を配向させることにより移動度を向上させることができる。このように配向膜は産業上重要な技術となっている。
【0003】
有機高分子の配向体を作成する一般的な方法としては、ラビング基板法、グレーティング基板法などあらかじめ配向規制力を付与した基板を作成しその基板上に高分子の配向体を作成する方法がある。また、電場配向法、磁場配向法、流動配向法、エピタキシャル成長法など高分子の集合体を形成する際に外力を加えて配向体を作成する方法がある。また、延伸・圧延配向法、摩擦転写法、光配向法などあらかじめ高分子の無配向体を作成しこれに外力を加えて配向させる方法がある。
【0004】
これらの配向制御方法に加え、LB法による高分子配向膜の作製方法がある。LB法はラングミュア−ブロジェット法の略称である。またラングミュア−ブロジェット法により成膜された膜をLB膜という。LB法あるいはLB膜については非特許文献1に詳細に記載されている。
【0005】
液体表面に浮いている、気体と液体の界面にあるこの種の単層はラングミュア膜あるいはL膜と呼ばれる。気体としては空気、液体としては水が一般的である。この固液界面に形成される単層の典型としては、疎水部と親水部からなる両親媒性分子を通常の大気中に置いて水の表面に形成される。これらの分子は親水部が水面側に疎水部が空気側に向いて水面上に整列し単分子膜を形成する。代表的な分子としては疎水性のアルキル鎖と親水性のカルボン酸から形成されるステアリン酸がある。このような単分子膜を1層ずつ基板に写し取ることにより薄膜を形成することができる。この方法がLB法であり、形成された膜がLB膜である。
【0006】
図1にLB法により用いられる標準的なトラフを示す。液体を貯蔵する水槽100は、一般的には10cmから1m程度の幅と長さを有している。ここに通常は液体が満たされている。液体としては通常水101が用いられる。トラフに収容された液体の表面の形状は4辺形で、その3辺はトラフの側面からなり、1辺に可動バリアが設けられている。102は水面上に展開した分子を圧縮するための可動バリアで外部から動きが制御される。水面上に展開した分子の2次元圧力、すなわち表面圧が一定になるようにフィードバック制御される方法が一般的である。
【0007】
103は水面上に展開した分子を示す。従来のLB法においては、親水性の部分と疎水性の部分を有する両親媒性分子が用いられる。代表的な分子の例としてはステアリン酸分子が挙げられる。104は基板であり、この基板上にLB膜を成膜する。基板はLB膜を成膜する際の下地基板となるものであり、平坦なものが好ましい。典型的な材料としてはSi基板、ガラス等が挙げられる。数mm程度の大きさから数10cm程度の大きさが一般的であるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0008】
従来の一般的なLB法においては以下のように成膜する。
【0009】
まず可動バリア102を図示−X方向に十分に離しておく。この状態で成膜する分子を水101の表面にまく。この際、分子を、あらかじめ揮発性の溶媒か、水に可溶な溶媒に溶かしておいてこの溶液をシリンジなどを用いて水表面にまくのが一般的である。分子として両親媒性分子を用いると、気液界面、すなわち水101表面に単層の分子層が形成される。次に可動バリア102は図示x方向へ移動し、水面上の分子103を基板104の方向へ圧縮する。このとき、可動バリア102の位置から水面上に展開した分子103の広がりの面積がわかる。より具体的には105で示した長さと106で示した長さの積から水面上に展開した分子103の占める総面積が求められる。
【0010】
一方、水面の一部に水の表面圧を検出する圧力センサを設置することにより表面圧を求めることができる。両者をプロットすることにより、可動バリア102を移動させた際の、面積と表面圧の関係を求めることができる。これはLB法においてπ−A曲線と呼ばれているグラフであり、典型的なπ−A曲線を図2に示す。図2は横軸が105と106で示した長さの積であらわされる面積、すなわち水面上に展開した分子103の占める総面積、縦軸が表面圧を示している。分子をまくときは稼動バリア102が−X方向に十分はなれており、分子は水面上にまばらに展開している。したがって表面圧はほぼ0である。図2のπ−A曲線では201で示した領域である。この領域では、可動バリア102を図示x方向に移動させても分子は水面上にまばらに存在するだけで表面圧は0を維持する。さらに可動バリア102を図示x方向に近づけてゆくと、水面上で一分子あたりの占める面積が、ちょうど実際の分子の面積に一致するあたりで急に表面圧が上昇する。これはちょうど分子が1面に密につまった状態になったためであり、図2のπ−A曲線では202で示した屈曲点にあたる。
【0011】
この点からさらに可動バリア102をx方向に移動させると表面圧は図2に示したとおり急激に上昇する。これは水面上に一面に密につまった分子を可動バリア102が押している状態であり、分子は水面上に1層の状態を保ったまま圧縮される。この状態は図2において203で示された領域にあたる。さらに可動バリア102をx方向に移動させると、表面圧がさらに上昇し、ついには水面上に維持された単層膜構造が破壊する。この点が図2において204で示した屈曲点である。可動バリア102をさらにx方向に移動させると、圧力は大きな変化をせずに1分子あたりの面積が減少してゆくが、これは水面上に展開した分子が単層構造を維持できずに壊れた状態にある。図2では205の領域にあたる。さらに圧縮を続けると表面圧は再度上昇するが、これは分子が多層になったり塊状になったりするためである。
【0012】
LB法においては分子が水面上でちょうど単層分子膜を形成する圧力をかけながら基板104に成膜する。すなわち203で示される領域を用いて、以下に示すように基板104に成膜を行う。図2においてπ−A曲線が203を示す表面圧がかかるように可動バリアの位置を制御する。典型的な表面圧はおよそ数mN/mから数十mN/m程度が一般的である。
【0013】
その状態で基板104を上下方向、すなわち図示z方向に移動させることにより基板104に水面上の単層分子膜が転写されてゆく。水面上に展開した分子が親水部と疎水部からなる低分子の場合、親水部が水に接触するように、また疎水部が大気(気相)の方を向いて整列する。基板が疎水性の場合まず基板を大気中におき、そこから基板が垂直になるようにして基板を図1中、−z方向に移動して水中に入れてゆく。その際、疎水性の基板表面と分子の疎水部が接触するようにして水面上に展開した単分子層が基板104に転写されてゆく。
【0014】
次に図示z方向に移動させて第2層目を成膜する。このようにして、一層レベルで膜厚が制御された分子膜を成膜することができる。また基板が親水性の場合は、あらかじめ基板を水中に入れておき、水中からz方向に移動させて第1層を積層させる。この場合、第1層目は親水性の基板と分子の親水性部が接触するようにして成膜される。以下、第2層は基板を−z方向に移動させて積層させる。LB法においてはこのように鉛直に配した基板を上下させて成膜させる方法が一般的であるが、基板表面を水面に平行に配置し、水面上から水面に基板表面を接触させて、水面上の分子を基板に転写したり、あるいは水面に平行な方向を保ち、水面下に配した基板を上に持ち上げることにより水面上の分子をすくいとるように基板に転写する方法もある。
【0015】
もっとも一般的なLB法においては、アラキジン酸等の両親媒性の低分子を用いるが高分子を用いる方法もある。この場合、全ての高分子が水面上、あるいは液面上に単層膜を形成できるわけではなく、単層膜が形成できる高分子のみLB法を用いて成膜できる。
【0016】
通常のLB法あるいはLB膜においては一層一層積層するため、積層面に対して垂直方向に制御することが可能である。一方、通常は一層の中の構造制御は困難であるが、水面上に展開した単層膜の流動を利用してある程度制御することが可能である。図3はLB法において水面上に展開した単層膜が基板に転写されるときの水面上単層膜の動きをLBトラフの上から見たものである。図3に示すLBトラフは図1に示すものとほぼ同様であるが、可動バリア102に加え同様な可動バリア301が設けられている。可動バリア301は可動バリア102とx方向で反対の方向に動く。すなわち、可動バリア102がx方向に移動するとき、可動バリア301は−x方向に移動する。この場合、基板104は表側と裏側が対称になり基板104の両面に均等に成膜することも可能である。
【0017】
図3は基板104に成膜をしたときの水面上の動きを示し、(a)(b)(c)の順に時間が経過した様子を示している。各図において網目と格子点は水面上の同一の点を示し、対応する点がどのように移動したかを示している。図3の(a)、(b)、(c)と時間が経過するにつれて、水面の流動により網目が変形していく様子がわかる。この流動により、基板104近傍では網目は長方形の形状から図示X方向に長くなるように変形している。
【0018】
水面上に高分子を単層並べておくと、この流動により時間が経過するにつれ、基板近傍では図示X方向に長くなるように配向する。基板へはこの配向を保ったまま転写されるので、基板上で高分子が配向した膜が形成される。基板上では図示z方向に高分子が伸びるように配向して転写/成膜される。このようにLB法において、流動を利用して配向膜を形成することが可能である。この流動配向については例えば、非特許文献2、非特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】G Roberts編集、Plenum Press,New York Langmuir−Blodgett Films(1990)
【非特許文献2】S.Schwiegk,et al.「ラングミュアーブロジェット・プロセスの間の剛性棒状高分子の主鎖配向の起源について」,Thin Solid Films、210(1992)6
【非特許文献3】O.Albrecht,et al.「単層における積層誘起流動を用いたラングミュアーブロジェット膜の均一性の制御」,Thin Solid Films、221(1992)276)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のように高分子を用いた配向膜の作製方法について、より均一性の高い膜が求められており、またより早い成膜速度が求められている。本発明はこの課題に対する解決策を提供するものである。
【0021】
本発明は、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるLB法による成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるLB法による成膜方法を提供することができる。また、本発明は、従来の成膜方法に比較して、速い速度で成膜することができる。
【0024】
また、本発明によれば光学薄膜や気体透過膜等として利用可能な螺旋型ポリアセチレン膜の自立膜を作製することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的なLB法に用いられるトラフを示す概略図である。
【図2】一般的なLB法におけるπ−A曲線を示す図である。
【図3】LB法による配向を説明する図である。
【図4】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図5】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図6】螺旋型ポリアセチレンの構造を説明する図である。
【図7】剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを用いたLB法による配向膜の作成方法を示す図である。
【図8】通常の高分子を用いたLB法を示す図である。
【図9】成膜時の圧力における圧縮率と成膜したLB膜の膜質の関係を示す図である。
【図10】優及び良と評価したLB膜の薄膜を示す写真である。
【図11】成膜時の圧力における圧縮率と成膜速度の関係を示すグラフである。
【図12】実施例1のπ−A曲線を示す図である。
【図13】実施例1における表面圧と圧縮率の関係を示すグラフである。
【図14】実施例2のπ−曲線を示す図である。
【図15】実施例2における表面圧と圧縮率の関係を示すグラフである。
【図16】実施例3で作製した自立膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するLB法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【0028】
本発明に係るLB法による成膜方法は、従来の一般的なLB法とほぼ同様な方法で成膜するが、螺旋型ポリアセチレンを用いた配向膜を得る点と、成膜する表面圧Hにおける圧縮率Pが1×10−2m/mN以下である点に特徴を有する。
【0029】
本発明においては、配向膜を得るために剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを用いる。剛直線状高分子とは単一分子を取り出したとき、線状形状を維持する分子である。確認する具体的な方法としては、該高分子の十分に希薄な溶液を用い、スピンコート等により基板上に高分子を分散させる。その後に原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(SPM)により像をとることで分子の形状を確認するという方法が挙げられる。実際にこのような方法で直線状であることが確認された高分子の例としては、文献のO Albrecht、T Sone、A Kuriyama、K Eguchi、K Yano、Nanotechnology,vol19,p505201(2008)に記載された螺旋型ポリアセチレンが挙げられる。
【0030】
本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレンについて説明する。螺旋型置換ポリアセチレンは、下記の構造式(1)で表される一置換のポリアセチレンで、主鎖が螺旋構造を有している化合物が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
式中のX、Yは鎖状、環状の炭化水素の他、ヘテロ原子や金属原子を有する置換基を示す。螺旋型置換ポリアセチレンの構造としてはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキレンオキシド鎖または置換、無置換のシクロアルキル基、非共役へテロ環等の非共役官能基を側鎖のいずれかの位置に有していれば良い。
【0033】
Xは、例えば置換、無置換の芳香環、ヘテロ芳香環、カルボニル結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、イミノ結合、ウレタン結合、リン酸結合、チオエーテル結合、スルフィニル基、スルホニル基、アミノ基,シリル基や任意の長さのアルキレンオキシド鎖、その他の環状もしくは鎖状の炭化水素等が挙げられる。Xは単一のYに置換されても良く、同一又は異なるYにより複数置換されても良い。
【0034】
Yは、例えば上記Xで示した化学種の他にハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、ビニル基、エチニル基等が挙げられる。また、Yは同様の化学種により置換されても良い。
【0035】
非共役官能基はYに含まれていれば良く、Xが異なるYにより複数置換されている場合は、いずれかのYに非共役官能基が含まれていれば良い。非共役官能基としてはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン、メチレン鎖、アルキレンオキシド鎖または置換、無置換のシクロアルキル基、非共役へテロ環等が挙げられる。
【0036】
螺旋型置換ポリアセチレンの交互二重結合の主鎖は無螺旋型置換ポリアセチレンと同様の一次構造を有するが、水素原子よりも大きな置換基を有するため、主鎖は平面構造にならず、立体的に捻じれた構造を形成する。本発明で使用する螺旋型置換ポリアセチレンの構造を図4から図6に示す。図4から6には螺旋型ポリアセチレンの一つのフェニルアセチレンを例に示す。図4に示すとおり主鎖は交互二重結合が捻じれた螺旋構造を形成しており、その螺旋構造は二重結合400,二重結合401,二重結合402の3ユニットでほぼ一回転する3/1螺旋に近い構造である。
【0037】
この構造中では二重結合400から一巻きした二重結合403が0.5nm(5Å)以下、より典型的には0.2nmから0.4nm(2から4Å)程度の間隔でほぼ平行に並んでいる。同様に二重結合403と二重結合404、二重結合404と二重結合405も螺旋周期間隔で上下に並列している。図5にはわかりやすくするために二重結合400から405を含んだ主鎖308をらせん状に記載してある。また図4では煩雑さをさけるために主鎖が1回転するごとに2つの側鎖がついているように記載されているが、実際の構造は図4のとおり1回転につきほぼ3つの側鎖がついている。
【0038】
図5中において501と502は主鎖408に含まれる2つの炭素原子を示しており、この2つの炭素原子は主鎖の408の螺旋構造が1周回ったところに位置しており、図示z方向に積層しているような構造を形成している。406と407は側鎖中に存在するフェニル基で主鎖がほぼ1回転した後にスタックしているような構造となっている。さらに図6には本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレン分子をz方向から見た構造を示す。また本発明で用いる螺旋型置換ポリアセチレンは長い距離に渡って上記周期構造が形成されている。その距離は典型的には1nmから数μmにわたり、その領域では分子全体の形状は図示z方向に線状を呈する。
【0039】
本発明を実施するためには、図1に示したような一般的なLB法で使用するトラフを使用する。本発明を実施する形態としてはLB法でもっとも一般的な水面上に目的とする分子を展開する方法を説明するが、目的とする分子を溶かさない液体の範囲で、必要に応じて変更すればよい。また、周囲の雰囲気についてもLB法において最も一般的な大気中における場合を例に説明するが必要に応じて他の気体中で成膜してもよい。
【0040】
図7は図1に示すトラフを用いて本発明による成膜方法を説明する図である。まず可動バリア102を図示−x方向に移動させ基板104と十分距離を離しておく。この状態で高分子を水面上に展開させる。螺旋型ポリアセチレンは主鎖が螺旋構造をしており、分子全体を直線状に保持しやすいためにこのような剛直線状分子となっている。
【0041】
本発明ではこの剛直線状高分子である螺旋型ポリアセチレンを水101上にまく。実際には直接水面上にまくのは困難であるため、螺旋型ポリアセチレン分子をあらかじめ溶媒に溶かしておく。溶媒としては例えばメタノール、エタノール、アセトン、キシレン、クロロホルム等が挙げられる。高分子を溶解した溶液を水面上にたらすと、溶媒は蒸発するかあるいは水に溶けて、高分子が水面に広がる。この様子を図7(a)に示す。図7において剛直線状高分子601を模式的に線を用いて示しており、その長さが基板104等の大きさと同じ程度になっているが、あくまでも分子を模式的に書いたものであって、実際の分子の長さは典型的には数nmから数μm程度である。この状態では高分子601は水面上にまばらに存在している。
【0042】
本発明に基づくLB法においても、図2で示したπ−Aカーブと同様なカーブが得られ、このように分子が水面上でまばらに存在している状態は図2において201で示す領域にあたる。次に可動バリア102をx軸方向に移動させると水面上の分子の間隔が詰まってゆき、密に充填された単分子膜、すなわち螺旋型ポリアセチレン高分子単分子膜が形成される。その状態を図7(b)に示す。この高分子単分子膜の膜厚は高分子の直径になる。螺旋型ポリアセチレン分子は剛直線状高分子であるため、圧縮を受けた場合分子同士が平行に並びやすい傾向がある。このようにして配向ドメインが形成されやすい。このようにちょうど分子がパッキングされる状態は図2において202で示した状態にあたり、水面上で一分子あたりの占める面積は、ちょうど一分子の面積と同じである。一方、通常の高分子は剛直ではなく、配向ドメインはできにくい。その様子を図8に示す。
【0043】
次に可動バリア102を図示x方向に移動させると、水面上で分子が単分子層を維持しながらパッキングしながらその占める面積を減少させるため、表面圧が急激に上昇する。図2において203で示される領域である。さらに可動バリア102をx方向に移動させてゆくと単分子膜が破壊され始める。この点が図2において204で示される点である。さらに可動バリア102を図示x方向に移動させると水面上の分子膜が破壊されてゆく。この領域は205で示された領域である。本発明によるLB法では、図2において203で示される領域(面積の減少に対する表面圧の上昇の割合が急峻な領域)で成膜を実施する。これは通常のLB法と同様である。
【0044】
本発明のLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下を示す表面圧で成膜すること特徴とする。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。またLは図1中、105に示した長さ、すなわち水面上に展開した分子膜のバリアの移動方向の長さを表す。
【0045】
圧縮率とは、単分子膜において外から膜に圧力を加えたときの分子の占める面積の減少を示すものであり、図2のπ−A曲線において203の領域での曲線の傾きの逆数を面積で割ることにより求められる。図2のπ−A曲線において、横軸である面積S(m2)、縦軸である表面圧H(mN/m)から、式(1)により圧縮率Pはm/mNとなる。この圧縮率は、水面に展開した分子膜の弾性的な性質を示す。すなわち膜の用いた剛直線状分子の種類、純度、温度等により変化する。圧縮率が低いということは、膜水平方向に圧力を加えたときの変形量が小さいことを意味している。すなわち圧縮率が小さいということは膜自体がより剛直な性質を有しているということであり、分子自体が剛直であったり、あるいは膜にしたときの空隙が少なく分子がより密に詰まっている状態であるということなどを意味している。
【0046】
本発明では、前記螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の圧縮率が1×10−2m/mN以下の値を示す表面圧で成膜を実施する。本発明者等は、この成膜を実施する表面圧における圧縮率が1×10−2m/mNを境に、成膜されたLB膜の膜質や均一性に大きな差があることを見出した。
【0047】
圧縮率を1×10−2m/mN以下とするためには、螺旋型ポリアセチレンの構造を制御したり、純度を高めたり、あるいは分子量の分散を抑えること等が有効である。
【0048】
構造を制御する観点からは、分子自体の剛直性が高い材料を採用することが望ましい。例えば、側鎖にプロピオレートを含む置換基を配した以下の構造式(2)で示される一置換の螺旋型ポリアセチレンは剛直性が高いため、1×10−2m/mNという低い圧縮率を得やすい。
【0049】
【化2】
(2)
【0050】
(ここで、m、nはそれぞれ整数を表わす)
【0051】
また、ポリマー重合直後では圧縮率が1×10−2m/mNであっても重合後、例えば3カ月程度の時間が経過すると圧縮率が上昇してしまうものもあるので、重合後速やかに成膜する方が望ましい。
また、分子量分散は低い方が圧縮率が低い傾向にある。ただし1×10−2m/mNを得るため分子量分散の上限は材料により異なる。
【0052】
例えば、分子量分散(Mw/Mn)が5以下のものが望ましいが、ポリエチルプロピオレートでは分子量分散が5を超えていても1×10−2m/mN以下の分子量分散を得ることが可能である。
【0053】
本発明の成膜方法は、背景技術で述べた高分子に対するLB法と同様である。規定の表面圧になるように可動バリア102を移動させる。その後、表面圧が規定値になるように維持をしながら可動バリア102を図示x方向に移動させながら、基板104をz方向に移動させる。その際水面上の剛直線状分子である螺旋型ポリアセチレンが基板104に転写される。このとき、水面は背景技術において図3で示した動きと同じ動きを示す。この水面の動きにより基板104近傍では分子が図示x軸方向に並び、これが基板104に転写される。したがって基板104上では分子はz方向に配向する。
【0054】
次に本発明の要件となる、圧縮率が1×10−2m/mN以下の値を示す圧力での成膜について述べる。
【0055】
図9は成膜時の圧力における圧縮率と成膜したLB膜の膜質の関係を示した図である。横軸は成膜を行った圧力での圧縮率(10を底にした対数表示、単位はm/mN)を示す。例えば、圧縮率(Log)−2.0=10−2.0=1.0×10−2m/mN、圧縮率(Log)−2.2=10−2.2=6.3×10−3m/mNである。
【0056】
縦軸は成膜したLB膜の膜質を、その表面を”優”、“良”、“不可/劣”の3つに分類したものである。優は全面に均一性よく成膜されている膜、良は一部に不均一があるもの半分以上の領域で均一性があるもの、“不可/劣”は全面が不均一な膜あるいは成膜ができなかったものを示す。図10は、優及び良と評価したLB膜の薄膜を示す写真である。図10の(a)に優と評価したLB膜、(b)に良と評価したLB膜の写真を示す。図10(b)において縞状に見える構造は膜厚の不均一性の違いに起因する干渉色の違いによるものである。
【0057】
さらに成膜時の圧力における圧縮率と成膜可能速度の関係を示したグラフを図11に示す。図11において横軸は図9の横軸と同じで、成膜を行った圧力での圧縮率(10を底にした対数表示、単位はm/mN)を示す。縦軸は成膜可能速度であり、以下のようにして算出した。LB膜を成膜する際、圧力を一定に保ったまま可動バリア102を図示x方向に移動しながらこの動きに連動させて基板104を上下させる。この可動バリア102と基板104の動きを早くすると水面上に展開した単分子膜の動きが追従できなくなり圧力を一定に保つフィードバック制御ができなくなる。この限界の速度を成膜可能速度と定義する。水面上の単分子膜がより均一のほうが可動バリア102で膜の端を押されたときの動きが単分子膜全体にすばやく伝わり、成膜可能速度が速くなる。基板104上に形成されたLB膜は水面上の単分子膜を転写した構造であるから、成膜可能速度が早いということは形成されたLB膜の均一性が高い。また成膜可能速度が高いとより高速に成膜することができるが、これにより基板104近傍の流動もより顕著にすることができ配向性が向上するというメリットがある。もちろん成膜可能速度が高い方が実際の成膜速度を上げることにより生産性が上がるというメリットもある。
【0058】
図9より圧縮率が1×10−2m/mN以下の領域で均一性がよい膜ができていることがわかる。また図11から圧縮率が1×10−2m/mN以下の領域で成膜速度が急に上昇するのがわかる。本発明は圧縮率が1×10−2m/mN以下を示す表面圧で成膜することにより、均一性がよく、また早い速度で配向膜を成膜することができる。さらに配向性が高い膜をえることができる。
【0059】
なお、全ての材料で圧縮率が1×10−2m/mNとなる圧力が存在するわけではない。本発明を実現するにはπ−A曲線を測定すること等により圧縮率が1×10−2m/mN以下となる圧力が存在することを確認する。なおあらかじめ圧縮率が1×10−2m/mN以下となる圧力が存在することを確認するか否かをチェックすることにより、実際にLB膜を成膜しなくてもスクリーニングすることが可能である。
【実施例1】
【0060】
実施例1としてポリプロピルプロピオレートを用いLB法によりSi基板に成膜した例を示す。
【0061】
LB法に用いたトラフは一般的なLBトラフであり、水を用いたLB法で成膜を行った。ポリプロピルプロピオレートは下記の構造式(3)で表され、一置換の螺旋型ポリアセチレンである。
【0062】
【化3】
(3)
【0063】
モノマーであるn−プロピルプロピオレートを重合することにより、ポリプロピルプロピオレートを得ることができる。具体的には次のように合成した。試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体47mg、メタノール2.6mlを入れ、プロピルプロピオレート0.5gとメタノール2.5mlの混合液をシリンジで注入することにより重合反応を開始させた。反応は40℃で24時間行った。沈澱したポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、真空乾燥し、目的物を得た。GPCにより評価したポリマーの数平均分子量(Mn)は2.4×104であり、分子量分散(Mw/Mn)は2.6であった。
【0064】
次に重合されたポリプロピルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製し、この溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下した。その後、バリアを移動しながらπ―A曲線を取得したところ図12に示すグラフを得た。図12において横軸は1分子あたりの占める面積(nm2)、縦軸は表面圧(mN/m)である。図2に示したπ−A曲線と同様な曲線が得られた。
【0065】
表面圧は、基板の近くに設置された表面圧センサーを用いて、成膜を実施した温度、すなわち室温(約20℃)で測定した。
【0066】
図2に202及び204で示した屈曲点が、図12において横軸が0.15nm2および0.13nm2に現れる。このπ−A曲線から前述の方法で圧縮率を求めることができる。図12に示すπ−A曲線から各点での圧縮率を求め、これを表面圧に対してプロットしたグラフを図13に示す。図13のグラフでは横軸が表面圧(mN/m)、縦軸が圧縮率(m/mN)で10を底とした対数表示にしてある。図13から、表面圧3から30mN/mの圧力で、圧縮率が1×10−2m/mNであることがわかった。
【0067】
そこで表面圧22mN/mでLB法で成膜を行った。この表面圧での圧縮率は0.003m/mNである。その成膜可能速度は0.8mm/sであったが、実際の成膜は0.3mm/sで実施した。また作製されたLB膜の写真は図10(a)に示すとおりであり、均一なLB配向膜が作製できた。
【実施例2】
【0068】
実施例2としてポリエチルプロピオレートを用いLB法により成膜した例を示す。ポリエチルプロピオレートは実施例1で用いたポリプロピルプロピオレートにおいて側鎖にあるアルキル基をプロピル基からエチル基に変えたもので、下記の構造式(4)で示される一置換の螺旋型ポリアセチレンである。
【0069】
【化4】
(4)
【0070】
ポリエチルプロピオレートは以下のように合成した。試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体47mg、メタノール2.6mlを入れ、エチルプロピオレート0.5gとメタノール2.5mlの混合液をシリンジで注入することにより重合反応を開始させた。反応は40℃で24時間行った。沈澱したポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、真空乾燥し、収率59%で目的物を得た。GPCにより評価したポリマーの数平均分子量(Mn)は4.2×104であり、分子量分散(Mw/Mn)は6.4であった。
【0071】
次にポリエチルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製した。次にこの溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下し、π―A曲線を得た。表面圧は、実施例1と同様に室温(約20℃)で測定した。その結果、図14に示すグラフを得た。図14の横軸と縦軸は図12と同様で、1分子あたりの占める面積(nm2)と表面圧(mN/m)である。図14においても図2の202及び204に対応する屈曲点が0.13nm2および0.12nm2に現れる。このπ−A曲線から前述の方法で圧縮率を求めることができ、図15に示す。
【0072】
図15から、5から30mN/mの表面圧で、圧縮率が1×10−2m/mN以下であることがわかった。そこで表面圧22mN/mでLB法で成膜を行った。この圧力での圧縮率は約0.003m/mNである。その結果,製膜速度が0.4mm/sで成膜を行うことが可能であった。また作製されたLB膜の写真ha図10(b)に示すとおりであり、成膜領域の半分以上で均一なLB配向膜が作製できた。
【実施例3】
【0073】
本実施例は螺旋型ポリアセチレンとして次式(5)に示すポリブチルプロピオレートを用い自立膜(Free Standing Film)を作製した例である。
【0074】
【化5】
(5)
【0075】
本発明の条件で成膜したLB膜は良質な膜ができているため自立膜を作製することができる。
【0076】
本実施例では基板としてオクタデシルアミンで疎水化処理したSi基板を用いている。
【0077】
ポリブチルプロピオレートのクロロホルム溶液を作製した後、この溶液をLBトラフの水面にシリンジにより滴下した。
【0078】
成膜は、23℃において23mN/mの表面圧で実施した。
【0079】
実施例1、実施例2と同様、この表面圧での圧縮率は1×10−2m/mN以下であり、成膜速度が0.3mm/sで成膜を行うことが可能であった。
【0080】
なお本発明によるLB膜は図1においてz方向に配向する。すなわち基板を上下させる方向に配向する。
【0081】
ポリブチルプロピオレートの場合、この条件で、400層以上積層したのち、基板からLB膜を剥離することができた。基板からの剥離は直径6mmの穴が開いたテープを成膜したLB膜の上から基板に貼り付け、それをはがすことによって行った。この際、剥離する方向は配向方向に沿った方向に剥離するとよい。
【0082】
図16に作製した自立膜の写真を示す。
【0083】
このように作製した自立膜は光学異方性があり、光学薄膜としても使用できる。
【0084】
また、LB成膜中に1層毎、あるいは複数層毎に基板を90度回転させることにより2つの配向方向が井桁状に並んだ構造の膜を形成することができる。この場合は剥離する際の方向を特に注意する必要がなくなるとともに、より薄い膜厚の自立膜を作製することが可能である。
【0085】
このような自立膜は光学薄膜の他にも気体を選択的に透過する気体透過膜へ応用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のLB法による成膜方法は、螺旋型ポリアセチレンを用いた均一な配向膜を得ることができるので、光学薄膜や電子デバイス等に利用することができる。
【0087】
また本発明によれば光学薄膜や気体透過膜として利用できる有機薄膜の自立膜を作製することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
100 水槽
101 水
102 可動バリア
103 水面上に展開した分子
104 基板
105 水面上に展開した分子の占める面積を算出するのに用いる長さ
106 水面上に展開した分子の占める面積を算出するのに用いる長さ
201 分子がまばらな領域
202 ちょうど単分子膜が形成された点
203 単分子膜が圧縮される領域(LB法で成膜するのに用いられる領域)
204 単分子膜の破壊が始まる点
205 膜が破壊されながら圧縮される領域
301 可動バリア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するラングミュア‐ブロジェット法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とするLB法による成膜方法。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【請求項2】
前記螺旋型ポリアセチレンが下記の式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。ただし、式中、n、mは整数である。
【化1】
(2)
【請求項3】
前記螺旋型ポリアセチレンは、式(2)中におけるmを2、3、4のいずれかとしたものであることを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記螺旋型ポリアセチレンの前記液面上への展開は、溶媒に溶解した前記螺旋型アセチレンを前記液面に滴下することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜は、ラングミュア‐ブロジェット法による成膜に用いられる可動バリアを前記液面上を移動させて行うことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記成膜は、横軸を面積、縦軸を表面圧としてプロットしたπ−A曲線における面積の減少に対する表面圧の上昇の割合が急峻な領域でなされることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の何れかの方法で得られたラングミュア‐ブロジェット膜。
【請求項8】
基板上に成膜することで得られた請求項7に記載のラングミュア‐ブロジェット膜を、前記基板より剥離することにより得られた自立膜。
【請求項1】
螺旋型ポリアセチレンを液面上に展開し、前記液面上に形成された螺旋型ポリアセチレンの単分子膜を基板に転写して成膜するラングミュア‐ブロジェット法による成膜方法において、成膜時における、下記式(1)で表される圧縮率Pが1×10−2m/mN以下で成膜すること特徴とするLB法による成膜方法。
P=(1/(dH/dS))×(1/S) (1)
[式中、Hは螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の表面圧(mN/m)を表す。Sは水面上に展開した螺旋型ポリアセチレンの単分子膜の面積(m2)を表す。]
【請求項2】
前記螺旋型ポリアセチレンが下記の式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。ただし、式中、n、mは整数である。
【化1】
(2)
【請求項3】
前記螺旋型ポリアセチレンは、式(2)中におけるmを2、3、4のいずれかとしたものであることを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記螺旋型ポリアセチレンの前記液面上への展開は、溶媒に溶解した前記螺旋型アセチレンを前記液面に滴下することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜は、ラングミュア‐ブロジェット法による成膜に用いられる可動バリアを前記液面上を移動させて行うことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記成膜は、横軸を面積、縦軸を表面圧としてプロットしたπ−A曲線における面積の減少に対する表面圧の上昇の割合が急峻な領域でなされることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の何れかの方法で得られたラングミュア‐ブロジェット膜。
【請求項8】
基板上に成膜することで得られた請求項7に記載のラングミュア‐ブロジェット膜を、前記基板より剥離することにより得られた自立膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−12571(P2012−12571A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108565(P2011−108565)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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